2013年8月4日

海外医薬ニュース2013年8月4日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • FDAは大塚製薬のサムスカの適応拡大に否定的
  • ノバルティスの髄膜炎菌ワクチンを2ヶ月児以上に用いることが米国で承認
  • EUでもAegerinのMTP阻害剤が承認
  • FDAがアセトアミノフェンの稀な皮膚毒性について注意喚起


【承認審査・委員会】


FDAは大塚製薬のサムスカの適応拡大に否定的

(2013年8月2日発表)

大塚製薬のSamsca(tolvaptan、和名サムスカ)はADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)の適応拡大試験が成功、承認申請され優先審査指定を受けたが、8月5日の諮問委員会を前に公表されたブリーフィング資料によると、FDAの審査担当者は肝毒性を懸念、承認しない考えだ。この副作用についてはFDAが4月に安全性情報を出しているので、十分に予想できた内容である。症状の重い患者に限定して、未承認のまま使われることになりそうだ。

ADPKDは遺伝性疾患で、腎臓に多くの嚢胞ができる。初期段階では無症状だが、腎臓が肥大していく。静かに少しずつ進行し、やがて機能障害に伴う症状が現れ、長期的には5割の患者が腎不全になる。米国の患者は45万人と推定されている。

Samscaはバソプレシン2受容体拮抗剤で、利尿剤の一種だが血液中のナトリウムなどを保持したまま水分だけの排出を促す。米国では体液貯留型または中立型の、日欧では抗利尿ホルモン不適合分泌症候群による、低ナトリウム血症の治療薬として承認されている。ADPKDでは約1500人を組入れたTEMPO3/4試験で総腎量の増加を有意に抑制し、二次的評価項目である複合評価項目(腎機能など)でも有意な効果を示した。

病気自体が緩徐であることや治験期間が長くドロップアウトが2割と多かったことから臨床的な効用は明確にならなかったが、FDAは、治験期間よりもっと長いタイムスパンで腎不全の発症を遅らせる可能性が示唆されたと肯定的に評価した。

問題は、Hyの法則に該当する症例が複数、発生したことだ。この法則は薬物誘導性肝障害の権威であるHyman Zimmermanの研究に基づいており、FDAのガイドラインによると、1)ALT/ASTが通常の上限値の3倍以上に増加、2)総ビリルビン値の通常上限値の2倍以上増加を伴う、3)肝炎などの病気や同時使用薬などで説明することができない、の三条件を満たす症例は十例に一例の割合で肝移植または肝不全に至る。慢性疾患の薬では臨床試験で一例発生するだけでも懸念材料になり、二例の場合は深刻な肝毒性を持つ可能性が高い。

Samscaの場合、上記の3条件に該当する症例の発生率は300人に一人なので、肝移植・肝不全の発生率は3000人に一人と予想される。過去には、治療開始前及び定期的に肝機能検査を行うことを条件に承認された薬もある(PPAR作動剤ノスカールなど)。しかし、深刻な肝障害を防ぐことはできず、ノスカールは日米ともに販売中止となった(欧州では初めから承認されなかった)。

このリスクは現在承認されている用途では容認されている。病気が深刻であること、長期治療の必要性が乏しく30日以内という制限が守られる可能性が高いこと、標準用量がADPKDの半分であることなどが理由と推測される(但し、薬物誘導性肝障害で無害量を判定することは極めて難しい)。

一方、ADPKDは、長期的な転帰を改善するための予防的投与であること、従って長期投与が必須であること、などがネックになる。息切れや疲労、食欲低下などの症状を改善することができれば副作用リスクを容認できるかもしれないが、TEMPO3/4試験の被験者は病気がそれほど進行していないので、効果が曖昧だった。

FDAの審査期限は9月1日。適応拡大が承認されなかった場合、もっと進行した患者を対象に再試験するオプションもあるが、実現は難しいだろう。長期延長試験が進行中なので、このデータが『治療開始後十数ヶ月投与して肝毒性が発生しない患者は長期間投与しても大丈夫』であることを示すならば、承認の可能性が出てくるだろう。

リンク:FDAのブリーフィング資料

【承認】


ノバルティスの髄膜炎菌ワクチンを2ヶ月児以上に用いることが米国で承認

(2013年8月1日発表)

ノバルティスは、FDAがMenveoを2ヶ月以上の幼少児に用いることを承認したと発表した。髄膜炎菌血清群A、C、W-135、Yのワクチンで、米国では既に2~55歳向けに承認されているが、リスクは1歳未満が高いので、重要な対象年齢拡大だ。

同様なワクチンは既に存在するが、同社は血清群Bのワクチンも実用化しており、将来的には5群ワクチンも投入されるだろう。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

EUでもAegerinのMTP阻害剤が承認

(2013年8月1日発表)

Aegerin Pharmaceuticals(Nasdaq:AEGR)は、Lojuxta(lomitapide)がEUでホモ接合型家族性高脂血症の治療薬として承認されたと発表した。米国でも昨年12月にJuxtapid名で承認されている。

この希少疾患はスタチンで治療しても血清LDL-C値が数百mg/dLと著しく高く、心臓疾患リスクが高い。Lojuxtaは、肝臓や小腸でトリグリセライドやコレステロール・エステルをVLDL-C合成箇所に移送するミクロソーム・トリグリセライド転移蛋白を阻害する経口剤で、4割程度の患者で血清VLDL-C/LDL-C値が大きく低下する。肝臓脂肪増加リスクがあり、米国では肝毒性が枠付警告されている。

BMSが開発したが脂肪肝リスクを懸念して開発中止、Aegerinが引き継いだもの。

リンク:Aegerinのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがアセトアミノフェンの稀な皮膚毒性について注意喚起

(2013年8月1日発表)

FDAは消炎鎮痛剤acetaminophen(アセトアミノフェン)を服用した患者で稀だが深刻な皮膚毒性が報告されていることを注意喚起した。医学誌の症例報告を受けて再検討したもので、1969年から2012年の43年間にスティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症が91例、急性汎発性発疹性膿疱症が16例、報告されており、このうち67例が入院、12例が死亡したとのこと。服用を続けるうちに突然発症したケースもあるようだ。

同様な皮膚毒性はibuprofenやnaproxenのレーベルでも警告されている。発生頻度の比較はできない模様だ。半世紀近い使用歴のある薬で未知の副作用が発見されたことは驚きだが、昔から使われている薬は今日の新薬のような厳格な臨床試験・承認審査を受けていないので、止むを得ないのだろう。

薬の開発は承認を取得して終了ではない。薬を開発する科学と同様に、薬を評価する科学も日進月歩なので、発売後も継続的に監視する必要がある。逆に、新薬で『多彩な効用』が発見されたとしても過大評価すべきではなく、古い(GE化した安価な)薬には同様な効能がないのか、きちんと検証する必要がある。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


0 件のコメント:

コメントを投稿