2013年7月7日

海外医薬ニュース2013年7月7日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • WHOがHIV感染者の早期治療を勧告
  • エリキュースはVTE治療にも有効
  • ネクサバールを甲状腺癌に適応拡大申請
  • パージェタを乳癌ネオアジュバント療法用薬として適応拡大申請
  • FDAがMSDのオレキシン受容体アンタゴニストの審査を完了
  • EUでアリアドのIclusigが承認
  • オニクスは誰のものに?
  • FDAがオルメテックの安全性情報


【今週の話題】


WHOがHIV感染者の早期治療を勧告

(2013年6月30日発表)

WHOはHIV陽性患者の抗ウイルス治療の開始時期を見直し、CD4カウントが500セル/mm3以下に下がった時点で開始するよう勧告した。2010年勧告では350セル/mm3を閾値としていた。早期治療・対象患者拡大によって2025年までに死亡者を300万人、新規感染者を350万人減らすことができるとのこと。CD4カウント500セル/mm3の患者はまだ免疫力を維持しているので、早期治療によって合併症のリスクを削減できるだろう。

抗ウイルス治療を受けている患者は2012年に160万人増加、970万人に達したが、今回の勧告で更に増加することになりそうだ。2012年の増加の8割はサブサハラ地域とのことなので、一番恩恵を受けるのはギリアッド等の高価な製品ではなく特別に許可された低所得国向けのGE薬になりそうだが、500セル基準がすでに導入されている欧米でも一段と普及するだろうから、市場が大きく膨らむことになる。

また、HIV陽性の5歳以上の子供と全ての妊婦・授乳婦、及びHIV陰性患者のパートナーである陽性患者に関しては、CD4カウントに関わらず、治療するよう勧告した。活性期結核とB型肝炎を合併するHIV感染者も、これまでと同様に、即治療する。

HIVの抗ウイルス療法は核酸系逆転写阻害剤二剤とそれ以外を一剤、合計三剤を併用するのが標準的で様々な薬が承認されているが、WHOは、初回治療薬としてtenofovir、lamivudineまたは emtricitabine、そしてefavirenzの合剤を勧告した。一日一回一錠服用するだけなのでピルバーデンが緩和され飲み忘れのリスクも小さいからだろう。

tenofovir、emtricitabine、efavirenzの合剤はギリアッドがAtripla名で販売しているほか、インドメーカーの製品が米国で仮承認を受けている。emtricitabineの代わりにlamivudineを配合した製品もインドメーカーが仮承認を受けた。ギリアッドの特許に触れるため仮承認に留まったのだが、米国が低所得国向けに行っている抗HIV薬支援プログラムの購買対象になり、また、米国で承認されている薬は改めて承認審査を行わずに承認する国が多いので、価値がある。

抗ウイルス治療を直ぐに始めないのは二つの理由がある。副作用と耐性ウイルス問題だ。Atriplaも様々な副作用があるが、tenofovir、lamivudine、efavirenzは比較的忍容性が良い(emtricitabineはlamivudineと殆ど同じ薬)。efavirenzよりインテグラーぜ阻害剤のほうが良好だが、トリプルコンビ薬が用意されていないことや特許がまだしばらく失効しない難点がある。

耐性ウイルス問題についても、efavirenz耐性ウイルスに活性を持つ非核酸系逆転写阻害剤や、プロテアーゼ阻害剤やインテグラーぜ阻害剤のような作用機序の異なる薬が複数実用化されたことによって、二の矢、三の矢を用意することが可能になった。今回の勧告で最もメリットを受けるのはギリアッドとGE薬メーカーだが、早期治療が可能になったのはHIV/AIDS治療薬の開発に積極的に取り組んだ製薬会社全体の功績だ。

リンク:WHOのプレスリリース

【新薬開発】


エリキュースはVTE治療にも有効

(2013年6月30日発表)

BMSがファイザーと共同開発・販売しているXa阻害剤、Eliquis(apixaban、和名エリキュース)の急性静脈血栓塞栓治療・再発予防試験の結果がNew England Journal of Medicineに刊行された。当初はenoxaparin、その後はワーファリンを用いる標準療法と再発予防効果を比較した第三相試験で、Eliquisは最初の7日間は10mgを一日二回、その後は5mgを一日二回服用した。

結果は、再発性症候性深静脈血栓の発生率が2.3%対2.7%となり、非劣性であることが確認された。深静脈血栓の患者でも、肺塞栓の患者でも、効果は大差なかった。一方、抗血栓薬のリスクである大出血の発生率は0.6%対1.8%で、有意に少なかった。

非劣性試験は活性対象薬の使用方法が適切であったかが問題になるが、もし問題ないようならば、大いに有望な結果だ。プレスリリースには適応拡大申請のスケジュールが記載されていないが、現在承認されている心房細動患者の脳梗塞予防に次ぐ大きな市場なので、早晩申請されるだろう。

リンク:BMS/ファイザーのプレスリリース

【承認申請】


ネクサバールを甲状腺癌に適応拡大申請

(2013年6月30日発表)

バイエルとオニクス(Nasdaq:ONXX)は、Nexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を末期・転移性の放射性ヨード抵抗性分化甲状腺癌用薬として米国で適応拡大申請した。現在は腎細胞腫と肝細胞腫に承認されている。

薬効のエビデンスとなるDECISION試験では、PFS(無増悪進行期間)が10.8ヶ月と偽薬群の5.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.587、pは0.0001未満だった。偽薬群の患者の7割が進行後にNexavarを使ったせいか、延命効果は確認できなかったが、Nexavar群の患者がスイッチできる適当な薬は存在しないので、已むを得ないだろう。延命効果が確認されずFDAに承認されなかったアヴェオのtivozanibとは事情が異なる。

リンク:バイエル/オニクスのプレスリリース

パージェタを乳癌ネオアジュバント療法用薬として適応拡大申請

(2013年7月2日発表)

ロシュはPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)の適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。早期乳癌のネオアジュバント療法に使う。

ネオアジュバントは切除術の前に抗癌剤を使って腫瘍を小さくするもので、乳房温存術を施行する場合や切除術を容易にする目的で行う。広く行われているが正式に承認されている薬はないとのことだ。薬の開発プログラムでは、アジュバント(早期癌の切除後に取り切れなかった癌の治療や再発防止のために行う)の第三相試験を行う前のリハーサルとしてネオアジュバント試験を行うことが多く、今回のPerjetaの承認申請も薬効のエビデンスは第二相試験二本だ。

その一つであるNEOSPHERE試験では、Perjeta、Herceptin、docetaxelの三剤の様々な組み合わせを比較したが、一番よかったのは三剤併用で、pCR奏効率(切除術時に癌細胞が見つからなかった患者の比率)が46%、次がPerjeta以外の二剤を併用した群の29%、三番目がPerjetaとdocetaxel併用群の24%、一番悪いのはPerjetaとHerceptinだけの17%だった。

(方程式が四つあるので三剤夫々のpCRを計算することが可能だが、答えを検算しても合わない。信頼区間があることや、シナジーと限界効用逓減則が複雑に絡み合うことが原因だろう。)

PerjetaはHer2のHerceptinと異なる部位に結合するモノクローナル抗体で、her2がそれ以外のerbファミリーの表面分子と二量体を形成し成長因子受容体として機能するのをブロックする。Herceptinやdocetaxelと併用で転移性乳癌の一次治療に用いることが日米欧で承認されている。

リンク:ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDAがMSDのオレキシン受容体アンタゴニストの審査を完了

(2013年7月1日発表)

MSDはMK-4305(suvorexant)を慢性不眠症治療薬として米国や日本で承認申請したが、米国に関してはFDAから審査完了通知を受領した。5月の諮問委員会で示されたように、FDAは30mg以上の安全性に懸念を持っており、10mgで開始してもし効果が不十分且つ忍容性に問題が無いようなら最大20mgまで増量可、という用法に変えるよう推奨した。また、3A4相互作用があるため5mgも用意するよう求めた。

MSDは高齢者15mg、それ以外は20mg以上で承認申請した模様であり、10mgや5mgの製剤のデータを用意する必要があるようだ。10mgに関しては製造試験を行う必要があると判断。5mgに関してはFDAと相談する考え。承認されるのは半年以上先になるのではないだろうか。日本の審査結果も注目される。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


EUでアリアドのIclusigが承認

(2013年7月2日発表)

アリアド(Nasdaq:ARIA)は、EUがIclusig(ponatinib)を承認したと発表した。米国では昨年12月に承認。第4のbcr-abl阻害剤だが、既存薬に抵抗性を持つT315I変異型にも効果があることが最大の特徴。

適応になるのは、慢性骨髄性白血病またはフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病で、BMSのSprycel(dasatinib)やノバルティスのTasigna(nilotinib)に抵抗性、または、不耐で且つノバルティスのGleevec(imatinib)に不適な患者、あるいはT315I変異の患者。

リンク:アリアドのプレスリリース

【製薬会社の動き】


オニクスは誰のものに?

(2013年6月30日発表)

オニクス(Nasdaq:ONXX)は、アムジェンから一株当たり120ドル(総額では約100億ドル)で買収打診を受けたが断ったことをやっと発表した。SECがインサイダー取引で国内外のオプション・トレーダーを告発しており、このようなことを防ぐためにも、重要な事項は直ぐに公表するのが鉄則である。

このような提案があった場合、上場企業の経営者は自分の野心やメンツだけで断らず、株主にとって有利かどうかをちゃんと検討しなければならない(判例による)。オニクスはファイナンシャルアドバイザー(Centerview Partners)にアムジェンなど買収に関心を持つ企業とコンタクトするよう求めた。120ドルでも市場価格の3割増しなのだが、同社の株価は金曜日の終値で136ドルまで高騰した。アムジェンまたは他の製薬会社からもっと高い価格で買収オファーが来ると考えているのだろう。

オニクスの2012年営業収益は3.6億ドル、うちネクサバールに係るバイエルからの利益シェアとロイヤルティが2.8億ドル、昨年承認された抗癌剤Stivarga(rogorafenib)に関するバイエルからのロイヤルティが830万ドル、同じく昨年承認された自社販売の多発骨髄腫用薬、Kyprolis(carfilzomib)の売上高が6400万ドルとなっている。GAAPベースの純利益は1.1億ドルの赤字だが、後発債務や従業員株式オプションなどに係る費用を除外したnon-GAAP EPSは1.6億ドルの黒字。

同社はバイエルと抗癌剤の共同研究を行っていたことがあり、その成果がネクサバールと類似薬のStivargaだ。バイエルと利益をシェアしなければならないのが難点だが、最近は、このような難点があっても第三者が買収するケースが増えている。おそらくオニクスのケースも、バイエルが買収できないように契約で縛っているのだろう。

リンク:オニクスのプレスリリース

リンク:ファイナンシャル・ポストのスクープ記事

【医薬品の安全性】


FDAがオルメテックの安全性情報

(2013年7月3日発表)

FDAは第一三共のARB、Benicar(olmesartan medoxomil、和名オルメテック)に関する安全性情報を発出、スプルー様腸疾患に注意するよう呼びかけた。

個人的な話で恐縮だが、私は数年前から降圧剤を服用しており、最初はolmesartan配合剤、その後、valsartan配合剤にスイッチしたが、ノバルティス製品購入中断キャンペーンのせいか、医師がcandesartanにスイッチした。私はどの薬にも特別な思い入れはないのだが、今回は少し気になる。クラス・イフェクトではないようなので、大規模アウトカム試験のエビデンスが少なくROADMAP試験やORIENT試験で心血管死が偽薬群より数値上多かったolmesartanから他のARBにスイッチする医師が増えそうだ。

私の漠然とした疑問は、武田のEdarbi(azilsartan medoxomil、和名アジルバ)は大丈夫なのだろうか?Benicarが米国で承認されたころ、medoxomilという塩に関心を持ちグーグルったがBenicarしかヒットしなかった。今日ではEdarbiという仲間ができたが、Edarbiは2011年にEUで初承認された薬でBenicar以上にアウトカム試験のエビデンスを欠いている。

大規模アウトカム試験で心血管疾患予防効果が確認されていないのにこれらの薬が用いられているのは、ARBは皆同じと考えられているからだ。もし違うのなら、薬効や安全性のエビデンスに劣る薬を使う必要はない。

今回の問題の発端は、メイヨークリニックの研究者の症例報告だ。olmesartanを服用して1年以上経つ患者にセルリック病(スプルーと呼ばれることもある)を疑わせる重度慢性下痢症と体重減が見られた。米国のセルリック病患者ならグルテンを含む食品の摂取を止めれば軽快するはずだが、効果がなかった。一方、olmesartanを止めたら体重が増加し、投与を再開したところ多くが再発した。このことは、olmesartanが原因であることを示唆している。

FDAが行った疫学試験でもolmesartan服用者はリスクが高く、一方、他のARBではリスクは見られなかった。

症例数は明らかではないが、FDAの自発的有害事象報告システムには23の重篤例が報告されている。メイヨークリニックの論文には22例が記されているが、その後の調査で60例以上に増えたようだ。この種の有害事象報告は氷山の一角に過ぎず、実際にはもっとあるだろうが、米国では2012年に190万人が処方を受けたとのことなので、発生頻度はそれほど高くなさそうだ。

発生原因は明らかではないが、セルリック病と共通点があるようだ。セルリック病はグルチンに対する自己免疫反応で大腸絨毛が損傷を受け、栄養物の吸収が妨げられる。今回のスプルー様腸疾患でもリンパ性やコラーゲン性の大腸炎が見られ、また、セルリック病の遺伝子的背景であるHLA-DQ2型、-DQ8型との関連性が高いとのことだ。

長期間服用後に発生していることや他のARBには見られないことから、活性代謝物であるolmesartanではなく、プロドラッグであるmedoxomil塩が局所的な遅延性過敏反応、または、細胞調停的免疫反応を誘発している可能性をFDAは疑っている模様だ。

セリアック病は日本では少ないと考えられているが、2006年の調査によると、日本の罹患率は0.7%で欧米の1%より若干少ない程度。HAL-DQ2/8のハプロタイプ頻度は分からなかったが、セリアック病の罹患率が大差ないなら、対岸の火事と懐手で傍観するわけにもいかないだろう。

発生頻度が低く服用を止めれば軽快するので、対処のやりようはある。olmesartan服用患者で体重低下を伴う重い慢性下痢が発生したら、服用開始が何年前だろうと関係なく、olmesartanを他のARBにスイッチする(無グルチン食事療法のほうが先かもしれないが)。新患には別の薬を使うのも手だろう。

尚、冒頭に書いた心血管死問題は、二型糖尿病患者の腎症予防効果を検討した二本の試験で何れも心血管死が偽薬群より多かったことだ。ROADMAP(約4400人をメジアン3.2年追跡)では全死亡が26人対15人、発生率で1.2%対0.7%、HR1.70、95%CI0.90~3.22だった。このうち心血管疾患による死亡は15例対3例だった。ORIENT(日本などアジアの約500人をメジアン3.2年追跡)でも心血管死が10例対3例と数値上多く、一方、全死亡は19例対20例で大差なかった。

この問題はFDAが検討し、リスクを確認できなかったと公表している。だが、ARBは心血管疾患を防ぐべき薬であり、増えるという証拠がないだけではもの足りない。

BenicarやAzorのような遅れて発売された薬は、今更、他の薬と同様なデザインの偽薬対照アウトカム試験を行うのは倫理的に許されないので、臨床的転帰を改善するエビデンスの欠如はやむを得ない面がある。しかし、ROADMAP試験やORIENT試験のような好ましくないデータが出た場合に、困ることになる。

リンク:FDAの安全性情報

リンク:Medpageの2012年10月22日付報道

今週は以上です。

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