2013年5月5日

海外医薬ニュース 2013年5月5日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • AUAがPSA検査に関するガイドラインをやや軟化
  • アクトスPL訴訟の第一幕は意外な幕切れに
  • バイエルの第VIIa因子の治験が中止に
  • GSKが米国でもumeclidiniumを承認申請
  • FDA諮問委員会:G-CSFは被爆事故の治療に有効
  • FDA諮問委員会:tivozanibは承認すべきではない
  • コンビ薬なら良いが単剤はダメ?
  • アリーナ社が体重管理薬の欧州における承認申請を撤回
  • 米国でリピトールとゼチーアの合剤が承認
  • 米国でシスチン蓄積症の徐放性新製剤が承認されたが...
  • FDAがサムスカの肝臓副作用に関する通知
  • 米国でプラザキサのレーベル改訂



【今週の話題】


AUAがPSA検査に関するガイドラインをやや軟化

(2013年5月3日発表)

PSA検査は前立腺癌を早期に発見する予備的スクリーニング手法として注目されているが、偽陰性のケースも多く、この場合、診断を確定するために行う生検に伴う感染症や神経障害のリスクを受診者に徒に負わせることになる。このため、評価は様々で同じ米国でもUSPSTF(予防医療に係る専門家タスクフォース)はPSA検査を推奨していない。

一方、AUA(米国泌尿器学会)は前向きに評価しているが、この度、診療ガイドラインを改定して推奨対象を55歳以上69歳以下に限定すると共に、検査の恩恵とリスクを受診者と十分に検討した上で判断するよう求めた。この推奨は前立腺癌に伴う症状(骨痛や下肢の神経学的症状等)がない男性に限られる。

40歳未満の男性は、前立腺癌と診断されるリスクが元々低いことに加えて、エビデンスの裏付けがないため、検査推奨を止めた。40~54歳の男性に関しても全ての男性に検査推奨するのは止め、但し、アフリカ系アメリカ人のようにリスクが高い人については個々に判断するよう求めた。70歳以上、あるいは余命が10~15年未満と判断される人の場合も推奨しない。

55歳~69歳の男性は検査の恩恵が最も大きく、1000人を検査すれば10年間で前立腺癌による死亡者を一人減らすことができる。このため、検査の長所・短所を受診者に十分伝えた上で決定するよう強く推奨した。他の年代に関するエビデンスの質はグレードCだが、この推奨はBと評価されている。

このガイドラインはAUAのウェブサイトに掲載されている。

リンク:AUAのリリース(ガイドラインのリンク有)

アクトスPL訴訟の第一幕は意外な幕切れに

(2013年5月1日発表)

米国では薬の副作用が発見される度に弁護士事務所が患者に呼びかけて何千、何万のPL訴訟を提起するのが習わしである。一人当たりの賠償金も大きく、ダイエット薬を巡るフェンフェン訴訟では、アメリカン・ホーム・プロダクト(当時)が200億ドルを超える和解金を引当てた。Cox-II阻害剤VioxxのPL訴訟では、MSDが40億ドル以上の和解金を引当てた。因みに、前者は問題の薬の売上高を遥かに上回ったが、後者はVioxxの累計売上高を下回っている。

武田薬品の二型糖尿病用薬Actos(pioglitazone、和名アクトス)も、膀胱癌の懸念が指摘されて以来、3000件以上のPL訴訟が提起された。米国は連邦政府と州政府のどちらの裁判所に提訴することもできるが、数多くの提訴を受理した裁判所は審理を効率的に行うべく統合的に審理前手続きを進めるため、審理開始が遅くなる。Actosの場合、最初に審理入りしたのはカリフォルニア州のロサンジェルス裁判所(Superoir Court)におけるCooper氏の事例だった。容体が悪いため先行審理が認められたようだ。

4月26日に陪審が武田薬品に650万ドルの損害賠償金を課する評決を行ったが、Kenneth Freeman判事は5月1日に提訴自体を棄却した。判事はActosと原告の膀胱癌発症の因果関係に関する専門家証言の証拠能力を疑い原告・被告に再検討を求めたが、陪審が先走って結論を出してしまった、という経緯のようだ。

カリフォルニア州の判例法では損害賠償訴訟を提起する要件として薬と原告の健康被害の因果関係に関する専門家の証言が必要だが、本件で証言を行ったDr. Smithの判定は専ら疫学研究に基づいており、被告の事例を詳細に検討した上での判定ではなかったため、証言として認められなかったのである。判事が要件不充足として一気に提訴却下まで進めたのは、自分のアドバイスを軽んじて陪審を進めた原告側に対するペナルティという意味もあったのではないか。

原告は棄却通知を受理してから10日以内なら異議申し立てを行うことができる。

さて、PL訴訟では最初の数例の結果が重視される。多くの訴訟を一つ一つ審理するのは非現実的であり、誰のためにもならないので、裁判所は代表的なケースだけ審理し、その評決・判決に基づいて、シロ・クロや賠償額を判定する標準的手法を構築し、当事者に和解を呼びかけるのである。複数の連立方程式を元にxやy、zの値を求めるのと似ている。

膀胱癌に関するPL訴訟が難しいのは、Cooper氏のように喫煙歴のある原告は、疫学研究が示唆するActosのリスクより喫煙のリスクの方が高く、確率だけで言えば喫煙が原因である可能性の方が高いことだ。フェンフェン訴訟の場合は心弁変形という動かぬ証拠があったが、Vioxxは心筋梗塞というありふれた疾患のリスクが高まるというバーチャルな副作用だったので、PL訴訟はMSD側が優勢だった。Actosも同じではないだろうか。喫煙歴というxがYESの原告は、方程式で算出される賠償額が僅少になりそうだ。

連邦裁判所における訴訟はルイジアナ西部地区裁判所に統合され、MDL(複数地域訴訟)Rebecca Doherty判事が担当する。3月5日時点で1349件の提訴があるようだ。審理は最初の事例が来年1月27日に開始、次は4月開始とのことなので、方程式が形成されるのは2015年以降になるだろう。このほかに、武田の米国子会社があるイリノイなどの州立裁判所でも提訴されているようだ。

【新薬開発】


バイエルの第VIIa因子の治験が中止に

(2013年5月3日発表)

バイエルは、インヒビターを持つA型、B型血友病患者を対象に実施していたBAY 86-6150の第2/3相試験の中止を発表した。中和抗体が見られたことが原因。Maxigenから買収した遺伝子組換え型第VIIa因子で、ノボ ノルディスクのNovoSevenの競合品となるはずだったが、中和抗体が発生するとBAY 86-6150が効かなくなるだけでなく体内で作られる第VIIa因子やNovoSevenも効かなくなり病状が悪化する可能性もある。開発中止はやむを得ないだろう。

リンク:
バイエルのプレスリリース


【承認申請】


GSKが米国でもumeclidiniumを承認申請

(2013年4月30日発表)

GSKは、GSK573719A(umeclidinium)をCOPD維持療法薬として米国で承認申請したと発表した。EUでも申請済み。一日一回吸入用の長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤で、ベストセラーとなったベーリンガー・インゲルハイム/ファイザーのSpiriva(tiotropium)の競合品。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会:G-CSFは被爆事故の治療に有効

(2013年5月3日発表)

FDAの医療用造影剤諮問委員会・腫瘍学用薬諮問委員会共同会議は、核事故被爆者の放射線誘導性骨髄抑制の治療にG-CSF/GM-CSFが有効と考えることができる、と結論した。サルの試験で、放射線照射の20~26時間後にアムジェンのNeupogen(filgrastim)を投与した群は60日生存率が79%と、対照群の41%を有意に上回ったことが理由。

通常は動物試験だけで承認を取ることはできないが、発生率が低い、深刻な疾患に関しては例外的に臨床試験を割愛できるアニマル・ルールが設けられている。前例としては、肺炭そ治療薬としてキノロン系合成抗菌剤が承認されている。

もし承認される場合は、試験で用いられた薬だけでなくアムジェンのNeulastaなど他のG-CSF、そしてバイエルのGM-CSFであるLeukine(sargramostim)についても承認される可能性がある。

G-CSFは福島の原子力発電所事故の時も注目されたが、これは、事故対策に携わる人たちが被爆し骨髄移植を受ける事態に備えて、予めG-CSFを用いて自分の骨髄を採取する用途だった。急性放射性症候群の治療に有効となると、一段と有用性が高まる。当局の承認がなくても非常事態に際して医師の判断で使うことは可能だろうし、そのような事態では当局が非常時対応策として特別に使用を許可することもできるだろう。しかし、平時に十分に検討した上で承認する方が良いに決まっている。米国の対応は他の国も学ぶべきだろう。

リンク:FDAの諮問委員会用ブリーフィング資料(pdfファイル)

FDA諮問委員会:tivozanibは承認すべきではない

(2013年5月2日発表)

アヴェオ・オンコロジー(Nasdaq:AVEO)と開発パートナーのアステラス製薬は、FDA腫瘍学薬諮問委員会がtivozanib(VEGF受容体拮抗剤)の承認に否定的な結論を出したと発表した。末期腎細胞腫用薬として便益がリスクを上回るかという質問に、13人が否と答え、是は一人だけだった。

承認申請の根拠となった第三相試験では、主評価項目であるメジアンPFS(無増悪生存期間)が11.9ヶ月とNexavar(sorafenib)を投与した群の9.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.8、ログランクp値は0.04だった。ところが、その後に行われた全生存の解析はフェールしてしまった(メジアン28.8ヶ月対29.3ヶ月、ハザードレシオ1.245、p=0.105)。

アヴェオ側は、Nexavar群の患者の多くは増悪後にtivozanibによる治療を受けたがtivozanib群の患者の多くは何の治療も受けなかったことが理由と主張したが、受け入れられなかった。

失望的な結果になった理由は幾つかあるだろう。第一に、PFSのp値があまり低くないこと。通常は薬効確認試験を二本実施する必要があり、一本だけで承認申請する場合は、p値が著しく低いことが望ましい。例えば、p=0.0025ならば、二本の試験の両方でp=0.05となる確率と同じであり、有意性が高いと考えられる。多くの新薬がPFS延長効果に基づいて末期腎細胞腫用薬として承認されたが、何れもp値が0.01を下回っている。

第二はこの試験のデザインが完璧ではないこと。まず、二重盲検試験ではない。増悪判定は第三者委員会が行うので客観性は担保されるが、医師がMRI/CT検査を行って増悪の有無を判定するタイミングは医師が決定するので、完全な二重盲検試験と同じではない。次に、この試験はNaxavarのようなVEGF受容体拮抗剤やmTOR阻害剤による治療を受けたことがない患者を対象とする、事実上の一次治療試験なので、本来なら標準的一次治療薬であるSutent(sunitinib)と比較すべきである。

更に、この試験は専ら中東欧の医療施設で実施され、米国の患者は3%しかいなかった。PFSと全生存のメジアン値が一年以上違うにも関わらず、tivozanib以外の薬で二次治療を受けた患者があまりいなかったことは、この試験が行われた国では承認されている薬が少ない、あるいは、被験者が抗癌剤の費用を負担できなかったことを示唆している。このため、外延性(治験結果が今日の米国の医療現場で再現される)が疑わしい。

結果が完璧ならデザインに多少の問題があっても許容できるが、曖昧である場合は出発点に遡って再検討する必要がある。用途がサルベージ(すべての薬を使い終わった患者向け)なら斟酌の余地があるが、既に承認されている薬が数多く存在する病気の一次治療なので、不十分なエビデンスのまま急いで承認する必要はない。

この要素は、全生存の解析にも当てはまる。アヴェオの主張はリーズナブルだが、他の要素で説明できるということだけでは足りない。末期腎細胞腫の薬で全生存のハザードレシオが1を上回っているものは一つもないのだ。

このようなことを考えると、FDAの否定的な評価を諮問委員会が支持したことはサプライズではないだろう。

リンク:アヴェオとアステラスのプレスリリース

コンビ薬なら良いが単剤はダメ?

(2013年4月29日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は、抗HIV薬elvitegravirと補助薬であるcobicistatのそれぞれの承認申請について、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。米国が新薬承認審査の過程で行う工場の査察で、品質検査手続き・手法の検討(documentation)・妥当性検証(validation)に関する欠陥を発見したことが理由とのこと。

この二剤は、FDAが昨年承認した四剤配合コンビ薬、Stribildの配合成分だ。ギリアッドはStribildの承認には影響しないと言っているが、奇妙な話である。おそらく、既に承認され広く用いられている、代替品のない薬をFDAが患者から奪わなければならないほど深刻な問題ではない、という判断なのだろう。FDAは第一三共の子会社であるランバキシー社に薬品輸入差止処分を下したことがあるが、代替的GE品のない製品については例外扱いした前例がある。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

アリーナ社が体重管理薬の欧州における承認申請を撤回

(2013年5月2日発表)

アリーナ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ARNA)は、2013年第1四半期の決算発表リリースの中で、EUにおける体重管理薬Belviq(lorcaserin)の承認申請を撤回することを明らかにした。既に手続きを開始した模様だ。Belviqは2012年に米国で承認され、同年にEUでも承認申請されたが、CHMPにリスクの正当化を求められた。

Belviqは選択的5-HT2cアゴニストで、中枢神経の食欲制御システムに作用して食欲を抑制する。フェンフェンとは異なり5-HT2b受容体には作用しないため、心弁変形のリスクは小さいと考えられている。但し、米国でもラットの癌原性試験データなどが問題になり申請から承認まで3年近くかかった。

リンク:アリーナのプレスリリース

【承認】


米国でリピトールとゼチーアの合剤が承認

(2013年5月3日発表)

MSDは、FDAがLiptruzetを承認したと発表した。同社のZetia(ezetimibe、和名ゼチーア)の活性成分とファイザーのLipitor(atorvastatin、和名リピトール)の活性成分の合剤で、高脂血症の治療に用いる。MSDによると、心血管疾患・死亡のリスクを削減する効果がLipitorより高いかどうかは確立していない。

同社はezetimibeとsimvastatinのコンビ薬であるVytorinが大型製品に育ったが、アウトカム試験でezetimibeの心血管疾患予防効果が確認されなかったことから、近年はZetiaと共に伸び悩んでいる。atorvastatinはsimvastatinほど薬物相互作用が大きくなく、LDL-C低下作用も高いので、ezetimibeを開発したシェリング・プラウ(後にMSDが買収)はMSDではなくファイザーと提携してLiptruzetを先に発売すべきだったと私は思っている。

リンク:MSDのプレスリリース

米国でシスチン蓄積症の徐放性新製剤が承認されたが...

(2013年4月30日発表)

FDAは、Raptor Pharmaceutical(Nasdaq:RPTP)のProcysbi(cysteamine bitartrate)を小児・成人の腎性シスチン蓄積症の治療に用いることを承認したと発表した。活性成分自体は昔から存在するが、服用頻度が6時間おきではなく12時間おきであることが長所。シスチン蓄積症は遺伝子疾患で、患者は米国に500人、世界で3000人とのこと。体や骨の成長が遅れ、腎不全のリスクが高まる。三種類の中で最も重いのが腎性シスチン蓄積症で、腎臓に重い障害を与える。

残念なのは、価格が年25万ドルと、既存製品の30倍高いことだ。6時間に一回服用ということになるとおちおち寝てもいられないが、ぐっすり眠る代償が20万ドル以上というのは釈然としない。費用を負担する機関・団体にとって悩ましい問題だ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:Raptorのプレスリリース

リンク:NY Timesの関連記事

【医薬品の安全性】


FDAがサムスカの肝臓副作用に関する通知

(2013年4月30日発表)

FDAはSamsca(tolvaptan、和名サムスカ)の肝臓副作用に関する通知を発出した。大塚製薬は1月にドクターレターを送付しており、現在、FDAとレーベル改訂を検討中。Samscaは体液貯留型・中立型の低ナトリウム血症の治療に用いる、バソプレシン2受容体拮抗剤。日本でも4月13日付で添付文書が改定されたが、FDAは30日間という投与期間制限を設けた。

リスクが表面化したのは適応拡大試験が発端だ。ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)の治療効果を検討した3年間の第三相試験で、投与を受けた約1000人中3人で深刻な肝障害が発生した。肝臓酵素の異常上昇と総ビリルビン量の異常上昇が併発した模様であり、Hyの法則を当てはめると、3000人に一人の割合で腎移植または腎不全に至る。

通常の慢性病薬なら承認取消になりかねないが、低ナトリウム血症の治療なら長期投与しないだろう。元々、利尿剤に十分反応しない患者の代替的選択肢なので、広く使われてはいない。注意喚起に留めたのはこれらの理由だろう。

ADPKD試験では低ナトリウム血症の一日最大用量である60mgの2倍を投与した。承認されている用量ならリスクは小さいかもしれないが、1000人中3人という少ない頻度で発生する副作用について用量依存性を確認するのは容易ではない。FDAが承認用量でも安心できないと判断したのは現実的だ。

さて、問題は今年4月に行われたADPKDの適応拡大申請が承認されるかどうかだ。患者数が米国で45万人と多いことや、長期投与が必要であることを考えると、難しいのではないだろうか。

リンク:FDAのプレスリリース

米国でプラザキサのレーベル改訂

(2013年4月30日発表)

米国でPradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)の添付文書が改定された。服用を止めると脳卒中のリスクが高まるという内容の枠付警告が追加されたが、競合薬であるBMS/ファイザーのEliquis(apixaban)やバイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaban)も同じ枠付警告があるので、販売面では特に影響はないだろう。

一方、ポジティブな変更は、臨床試験で150mg(米国はこの用量しか承認しなかった;一日二回服用)を投与した群の血管死が年率2.3%とワーファリン群の2.7%より低かったことが記載されたこと。これも治験論文が刊行され周知の事実だが、レーベルに記載されたことでメーカー側が積極的に宣伝することが可能になった。

リンク:ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

今週は以上です。

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