2013年5月26日

海外医薬ニュース2013年5月26日




【ニュース・ヘッドライン】




  • EMAがRAS阻害剤併用のリスクを検討へ
  • ファイザーの抗体薬物複合体の試験がフェール
  • MSDがアデノシン2A受容体アンタゴニストの開発を中止
  • 長期作用性ベータ・インターフェロンが承認申請
  • FDA諮問委員会がオレキシン受容体拮抗剤の承認を支持したが...
  • アステラスはtivozanibをEUで承認申請しない
  • EUがイグザレルトを急性冠症候群に用いることを承認
  • 尿を出させる薬と出させない薬の合剤がオランダで承認
  • 武田の貧血治療薬がスイスでリコール


【今週の話題】


EMAがRAS阻害剤併用のリスクを検討へ

(2013年5月17日発表)

EMA(欧州薬品庁)がレニン・アンジオテンシン系(RAS)をブロックする降圧剤を併用するリスクについて再検討を開始した。BMJ誌に刊行されたMakaniらのメタアナリシス論文などで、高カリウム血症や低血圧、腎不全のリスクが高まる可能性が示唆されたため。

このメタアナリシスはレニン阻害剤Tekturna/Rasilez(aliskiren、和名ラジレス)の試験も含んでいるが、ラジレスは糖尿病性腎症のACE阻害剤/ARB併用アウトカム試験で上記の懸念が浮上し、既に併用禁忌となっているので、検討対象となるのはACE阻害剤とARBの併用だろう。Micardis(telmisartan、和名ミカルディス)のONTARGET試験などで上記の懸念が浮上している。心不全患者の入院リスク削減などポジティブな作用も考慮した上で結論を出すことになりそうだ。

ACE阻害剤とARBを併用してRASを強力に阻害する、というと思い出すのは2003年にLancet誌に掲載されたCOOPERATE試験だ。非糖尿病性の腎症の治療法として、ACE阻害剤とARBの併用が単剤より有益であることを立証した、日本発の世界的なエビデンスとなった。

この論文はLancetが6年後に撤回したのだが、患者同意書や治験記録の不備が理由であり、論文の結論が正しいかどうかは曖昧なままだ。記録不備だけなら治験結果には影響しないかもしれないが、手順に不正や不適切な点があったのなら、解析や結論にも虚偽があるかもしれない。かといって、虚偽を証明するのは容易ではないので、手順不適切を理由に論文を握りつぶすことで解決したのだろう。だが、その結果、デュアルRASブロックの無効性・危険性の確認が遅れ、不適当な医療が続けられた可能性がある。

もう一つ、思い出すのはDiovan(valsartan、和名ディオバン)のKYOTO HEART STUDYだ。この試験はACE阻害剤を服用している患者も組入れたが、特に問題があったとは報告されていない。この治験論文もケアレスミスが理由で撤回された。後に、著者の一人がノバルティスの社員であることが発覚し、京都府立医大病院などが取引停止を決めた。確かに重大な問題だが、この論文の結論が正しいかどうかの方が重要な問題だろう。

データのインプットミスならば、その症例を除外して解析すれば、論文の結論が正しいかどうか検証することができるはずだ。大学側の不正・不適切な行為を追求せず、メーカーの不正・不適切な行為を糾弾するのは問題のすり替えに過ぎないような印象を受ける。

リンク:EMAのプレスリリース

リンク:Harikrishna Makaniらの論文(BMJ、オープンアクセス)

【新薬開発】


ファイザーの抗体薬物複合体の試験がフェール

(2013年5月20日発表)

ファイザーは、CMC-544(inotuzumab ozogamicin)の第三相非ホジキン型リンパ腫(NHL)試験の中止を発表した。再発性・難治性アグレッシブNHLにRituxan(rituximab、和名リツキサン)と併用する効果を検討したが、中間解析で無益性が判定された。この試験の対照群はTreanda(bendamustine、和名トレアキシン)またはgemcitabineとRituxanを併用したが、前者の併用は効果が大変高く、CMC-544が勝てなかったとしても已むを得ないだろう。

CMC-544は抗CD22ヒト化抗体にcalicheamicinを結合した抗体薬品結合体で、UCBが買収したセルテックがファイザーが買収したワイスにライセンスしたもの。2007年に第三相入りしたが、直後に優れた治療法が発見され試験で採用された治療法が陳腐化してしまい、組入れが進まずに中止された。運のない薬だ。再発性・難治性のCD22陽性急性リンパ芽球性白血病でも第三相試験中。今度こそ運命の女神が微笑んでくれるだろうか。

リンク:ファイザーのプレスリリース

MSDがアデノシン2A受容体アンタゴニストの開発を中止

(2013年5月23日発表)

MSDは、MK-3814(preladenant)のパーキンソン病薬としての開発を中止すると発表した。MK-3814はアデノシン2A受容体アンタゴニストで、早期患者のモノセラピーと進行患者のアドオンで三本の第三相試験が実施されたが、何れもフェールした。

類薬では、協和発酵キリンがKW-6002(istradefylline、和名ノウリアスト)を承認申請したが、承認したのは日本だけで、FDAは有効性や前臨床試験での懸念を理由に承認しなかった。2010年にはバイオジェン・アイデックも前臨床試験で懸念が浮上したことを理由にヴァーナリス社からライセンスしたBIIB014/V2006(vipadenant)の開発を中止した。

パーキンソン病はモデルマウスの登場で開発に拍車がかかり、数多くの画期的新薬が臨床入りしたが、結局、殆どがフェールした。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認申請】


長期作用性ベータ・インターフェロンが承認申請

(2013年5月21日発表)

バイオジェン・アイデックは、Plegridyを再発寛解型多発性硬化症の再発予防薬として米国で承認申請した。同社のAvonexの活性成分であるインターフェロン・ベータ-1aにポリエチレン・グリコール(PEG)を結合して作用を長期化したもので、皮注頻度を週一回ではなく二週に一回、または四週に一回に減らすことができる。EUでも承認申請される見込み。

アルファ・インターフェロンではロシュもMSDもPEG化品にシフトした。ベータ・インターフェロンのPEG化は難しい模様で、時間が掛かったが、承認されればAvonexにバイオ・シミラーが登場しても打撃を最小限に抑えることができるだろう。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がオレキシン受容体拮抗剤の承認を支持したが...

(2013年5月22日発表)

FDA末梢・中枢神経系薬諮問委員会が招集され、MSDが慢性不眠症治療薬として承認申請したオレキシン受容体拮抗剤、MK-4305(suvorexant)を検討した。高用量の安全性を懸念する声が多かったが、低用量については肯定的な意見が多かった。尤も、FDA審査官はどちらの用量にも懸念を持っているようなので、順調に承認されるかどうかは分からない。昨年12月に承認申請された日本の方が先に承認されるのではないか。

オレキシンは筑波大の桜井武が98年に発見した、外側視床下部で分泌されるホルモンで、ナルコレプシーという突然眠ってしまう病気に関与している可能性がある。当然のことながら臨床試験ではナルコレプシーの発生状況が監視された。専門家パネルが疑い例45例を検討し何れもナルコレプシーではないと判定したが、FDAは少なくとも1例は可能例と判定した。更に、用量依存的なキャリー・オーバー・イフェクト(翌朝に眠気が残る)も見られた。自殺行動も8例と、偽薬群のゼロより多かった。

MSDは、第三相試験でテストされた30mgや40mgではなく、低用量(高齢者については15mg、非高齢者は20mg)で開始する用法を採用した。一方、FDAは、低用量でもリスクが見られるため第二相試験でテストされた10mgを用いて追加試験を行うことを望んでいる様子だ。

諮問委員会は、薬効に関しては概ね肯定的で、睡眠維持効果については17人中16人が、入眠促進効果については12人が、支持した。一方、安全性については、低用量は13人が支持したが、高用量を支持したのは7人と半分以下だった。

低用量だけが承認される可能性が出てきたが、FDAの末梢・中枢神経系薬の審査チームはタフなので、容易くは翻意しないだろう。睡眠薬のキャリー・オーバー・イフェクトは多くの交通事故の原因になっていると言われており、また、既存薬では夢遊病や転倒事故などに関する注意・警告も発出されている。効果は総睡眠時間が10~20分伸びる程度なので、リスクと便益が釣り合うか、微妙なところだ。

オレキシン受容体拮抗剤ではスイスのアクテリオン社もalmorexantを第三相入りさせたが、安全性確認試験の結果を受けて開発を中止した。何が問題だったのかは公表されていないが、薬品審査機関には報告しただろう。FDAが慎重なのは、almorexantの知見も影響しているのではないだろう。

リンク:MSDのプレスリリース

アステラスはtivozanibをEUで承認申請しない

(2013年5月23日発表)

アヴェオ・オンコロジー(Nasdaq:AVEO)は、SECに提出した臨時報告書(form 8-K)の中で、VEGF受容体拮抗剤Tivopath(tivozanib)の開発パートナーであるアステラス製薬がEUでは承認申請しないこと、及び、今後の腎細胞腫試験の費用は負担しないことを決めた旨、公表した。

Tivopathは切除不能腎細胞腫の第三相試験が成功、PFS(無増悪生存期間)が既承認の類薬であるNexavar(sorafenib)を有意に上回ったが、全生存期間は大差なく、むしろ、悪い可能性が浮上した。このため、FDAも諮問委員会も承認に後ろ向きなスタンスだ。アステラスがEUの承認申請を断念したのは事前相談で否定的な評価を受けたからだろう。アヴェオが単独で追加試験を行うのは困難だろうから、Tivopathの開発は暗礁に乗り上げた。

リンク:アヴェオが提出したform 8-K

【承認】


EUがイグザレルトを急性冠症候群に用いることを承認

(2013年5月24日発表)

EUがXarelto(ribaroxaban、和名イグザレルト)の適応拡大を承認した。バイエルのプレスリリースによると、急性冠症候群後の、心臓バイオマーカーが上昇している患者に標準療法と併用し、アテローム血栓性イベントを防止する用法が承認された由だが、意味不明だ。心臓バイオマーカーが上昇したままで再発リスクが高いと判定された患者だけに限定されたのだろうか?

承認申請の根拠となったATLAS ACS2-TIMI 51試験では用量依存的な出血リスクが見られたが、急性冠症候群再発予防効果は用量依存的ではなかった。バイエルは低用量の2.5mg一日二回経口投与だけを承認申請した模様だが、FDAはフォローアップ打切り例が多いことなどを理由に、承認しなかった。EUも、出血リスクを排除できないと考えて、用途を高リスク患者に限定したとしても不思議はない。

リンク:バイエルのプレスリリース

尿を出させる薬と出させない薬の合剤がオランダで承認

(2013年5月23日発表)

アステラス製薬は、Vesomni(tamsulosinとsolifenacinの合剤)がオランダで承認されたと発表した。今後、EUの他の国でも相互認証方式で承認される見込み。適応と効能は、良性前立腺肥大に伴う中重度の蓄尿症状(切迫や頻尿)や排尿症状の改善で、単剤だけでは不十分な場合に用いる。

tamsulosinはアルファ1ブロッカーで、専ら男性の病気である良性前立腺肥大に伴う排尿障害に用いると、尿の出が良くなる。solifenacinはM3受容体拮抗剤で、専ら高年女性の病気である過活動膀胱に用いると、尿切迫・失禁を減らすことができる。両剤の作用は一見すると正反対だが、良性前立腺肥大に第二選択としてM3受容体拮抗剤を用いることも、過活動膀胱にアルファ1ブロッカーを用いることもある。現実は理論より奇なり。患者は十人十色であり、効けばメカニズムはどうでも良いのである。

今後、同社のもう一つの過活動膀胱治療薬であるMybetriq(mirabegron、和名ベタニス)とのコンビ薬も登場するのではないだろうか。

リンク:アステラスのプレスリリース(pdfファイル)

【医薬品の安全性】


武田の貧血治療薬がスイスでリコール

(2013年5月22日発表)

スイスの薬品審査機関であるスイスメディクは、武田薬品がRienso(ferumoxytol)のリコールを開始したと発表した。市販後に過敏反応が致死例1例を含む4例、報告されたため。スイスでの投与例は1000例程度であることを考えれば、この発生率は比較的高い。

RiensoはAMAGファーマシューティカルズ(Nasdaq:AMAG)が開発した静注用鉄製剤で、鉄欠乏性貧血症の治療に用いる。武田は欧州などの権利を持っている。スイスで販売されていたのは特定のバッチだけで、このバッチはスイス以外では販売されていないとのことなので、米国を含む他の国には波及しない可能性もありそうだ。

リンク:スイスメディクのプレスリリース(Google Translateで英訳)

今週は以上です。

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2013年5月19日

海外医薬ニュース2013年5月19日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • ASCO:バイエルの放射線核種療法が米国で前立腺癌に承認抗PD-1、抗PD-L1抗体の本格披露と次世代リツキサンの治験成績
  • バイエルの放射線核種療法が米国で前立腺癌に承認


【新薬開発】


ASCO:抗PD-1、抗PD-L1抗体の本格披露とリツキサンの治験成績

(2013年5月15日発表)

5月31日から6月4日に開催されるASCO米国臨床腫瘍学会のマスコミ向け事前ブリーフィングが行われ、エンバーゴ(報道規制)が5月15日付で一部解禁されたことを受けて、様々な抗癌剤の治験結果が報道された。ここでは、免疫副刺激に介入する抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体、そして、ロシュ・グループが糖鎖修飾技術を用いて開発した新世代抗体医薬、RG7159(obinutuzumab)を取り上げよう。

リンク:ASCOのプレスブリーフィング用のプレスリリース(pdfファイル)

癌の免疫療法は、大きく分けて四種類ある。インターフェロンやインターロイキンのような、免疫機構に外敵の存在を伝え攻撃させるサイトカイン療法、癌が発現する特異的抗原を患者に投与して細胞傷害性T細胞に覚えこませるワクチン療法、Provenge(sipuleucel-T)のような患者自身から採取した腫瘍抗原や抗原提示細胞を体外で培養・増殖させて体内に戻す細胞療法、そして、免疫に関わる表面分子を作動・ブロックするモノクローナル抗体療法だ。

夫々の分野で活発な研究・臨床開発が進められているが、近年特に注目されているのは、T細胞の免疫副刺激に介入するモノクローナル抗体療法だ。先行したのは免疫強化療法ではなく免疫抑制薬だった。BMSが2006年に米国で発売した抗リウマチ薬、Orencia(abatacept)と、2011年に臓器移植後の拒絶療法防止薬として発売した類薬、Nulojix(belatacept)だ。

T細胞は表面分子のCD4/CD8を通じて他の細胞と情報を授受するが、同時に他の表面分子も結合し、副刺激を授受する。相手の細胞のどの表面分子と結合したかによって、T細胞が活性化したり活性化が抑制されたりする。この免疫副刺激のうち、T細胞のCTLA-4と抗原提示細胞のCD80/CD86の間のシグナル伝達を阻害するのがOrenciaやNulojixで、CD80/CD86に結合することによって抗原提示細胞が免疫刺激的副刺激を送り込むのを妨げ、活性化したT細胞を鎮める。

腫瘍学領域での第一号は同じくBMSのYervoy(ipilimumab)だ。米国で2011年に悪性黒色腫用薬として発売された。CD80/CD86ではなくCTLA-4に結合して腫瘍細胞が送り込む免疫抑制的副刺激をブロックする。Yervoyの開発成功は、免疫副刺激介入療法のプルーフ・オブ・コンセプトという側面もあり、腫瘍細胞のPD-L1とCD8陽性T細胞等のPD-1の間の免疫副刺激をブロックする手法に対する期待が高まった。尚、腫瘍学では免疫副刺激阻害ではなく、チェックポイント阻害と呼ぶようだ。

その期待が裏付けられたのが今回の抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体の治験結果発表だ。免疫強化療法の一般的な特徴は、一部の患者に高い効果を発揮すること、効果が発揮されるのは遅いこと、反応が長期間持続すること、そして、免疫刺激に伴う副作用が発生するがそれ以外の副作用は比較的小さいことである。

PD-1/PD-L1療法も同じだが、ORR(反応率)のデータは比較的よく、効果発揮も比較的早そうだ。また、免疫強化療法の弱点は効く人と効かない人を予測できないため長期間投与したのに無効に終わる患者が多いことだが、抗PD-L1抗体に関してはバイオマーカーを用いて事前にスクリーニングすることができるかもしれない。

開発が進んでいるのは、ここでも、BMSだ。Yervoyと同様に、2009年にメダレックスを24億ドルで買収して入手したBMS-936558/ONO-4538(nivolumab)が、小野薬品から権利を取得してから8年で第三相試験まで進んだ。Yervoy併用も開発されていることが強みで、ASCOでは第一相併用試験の結果が発表される。ステージIIIとIVの悪性黒色腫患者約50人を組入れて、二剤の様々な用量の組み合わせやシーケンシャル投与法を検討したもの。

全群合計でORRは40%に達し、31%の患者は12週時点で腫瘍が80%以上縮小した。免疫強化療法としては大変良い成績だ。群毎のデータは症例数が少ないためどれが良いとも言えないが、novolimabは1mg/kgを二週間に一回投与、Yervoyは承認されている用法である3mg/kgを三週間に一回投与する併用法が至適と判定された模様で、6月に第三相試験が開始される予定。結果判明は2016年から2017年初になりそうだ。

nivolumabはモノセラピー(3mg/kg、二週間に一回投与)でも様々な癌に第三相試験中。最初に結果が判明するのは扁平上皮非小細胞性肺癌のdocetaxel対照試験で2014年後半になりそうだ。2015年には非扁平上皮非小細胞性肺癌のdocetaxel対照試験、Yervoyによる前治療を受けた悪性黒色腫の偽薬対照試験、悪性黒色腫一次治療dacarbazine対照試験の結果が判明するだろう。

抗PD-1抗体はMSDもMK-3475(lambrolizumab)の悪性黒色腫試験を行っている。第二相だが、三群合計 で510人を組入れてORRだけでなくPFS(無増悪生存期間)やOS(全生存期間)も主評価項目とする、活性薬対照の本格的な試験なので、2015年のOSの解析が良好なら第三相試験を待たずに承認申請に向かう可能性もありそうだ。

後期第一相試験の中間解析で、85人中9%が完全反応。Yervoyによる前治療を受けた黒色腫患者27人のORRは41%で、これはnivolumabと同程度(第一相、第二相のORRを他の試験のデータと比べるのは好ましくないが)。FDAからブレークスルー・セラピー指定を受けている。

腫瘍細胞が発現するPD-L1をブロックするのがロシュ/ジェネンテックのRG7446/MPDL3280Aや、BMSのBMS-936559/MDX-1105だ。前者はヒト・モノクローナル抗体で、Fc領域を改変して効果や安全性を最適化したとのこと。4月のAACR米国癌研究学会で第一相試験の結果が発表され、一躍注目されるようになった。

ASCOでは更に多くの症例の解析結果が発表される。転移性固形癌の第一相試験では140人中21%でORRが見られた(反応が一定期間以上持続するか未確認の症例も含む)。PD-L1を高度発現する癌36例では36%、一方、陰性67例では13%だったので、事前にPD-L1検査を行えば無駄打ちを減らせそうだ。学会発表当日は、第一相悪性黒色腫試験のアップデートや、PD-L1ステータスに基づく解析データの発表が注目される。悪性黒色腫の何割位がPD-L1陽性だったのかも市場性を予測する上で重要なパラメーターになる。

プレス・ブリーフィングでは、肺炎のリスクを懸念していたようなコメントがあった。第一相固形癌試験では見られなかったようだが、懸念に根拠があるならば、今後も注視する必要があるだろう。ロシュ/ジェネンテックは年内に悪性黒色腫で第三相試験を開始する予定だ。

さて、MPDL3280AのFc領域がどのように改変されているのか私には知識がないが、最近流行っているのが糖鎖の改変だ。協和発酵キリンのポテリジェントが代表的で、抗CD20抗体の試験論文は中々インプレッシブだった。案の定、ジェネンテックがポテリジェント技術を導入したが、第三相に進んだのはロシュが買収したGlycArt社のGlycoMAb技術を用いた抗CD20ヒト化抗体、RG7159/GA101(obinutuzumab)だった。

この技術はフコースのない糖鎖を抗体に付与することによってマクロファージなどが持つFcガンマ受容体IIIaとの結合力を高め、ADCC活性を向上したもの。ポテリジェントはFUT8フコース転移酵素をノックアウトしたCHOセルラインを用いるが、GlycoMAbはglycosyltransferaseを過剰発現させるので、若干異なる。また、RG7159はCD20のRituxanとは異なったエピトープに結合するので殺細胞力が高い可能性がある。

第三相試験は慢性リンパ性白血病のchlorambucil併用一次治療試験で、chlorambucil単剤とRG7159併用の比較、chlorambucil単剤とRituxan(rituximab、和名リツキサン)併用の比較、そして、RG7159併用とRituxan併用の比較の三種類の分析が行われた。

抄録によると、第一の比較はメジアンPFSが23ヶ月対10.9ヶ月、ハザードレシオ0.14、pは0.0001未満でRG7159併用の勝ち。第二の比較は15.7ヶ月対10.8ヶ月、HR0.32で、当然のことながら標準療法であるRituxan併用の勝ち。第三の新旧直接対決の結果は、学会当日に発表される予定。(活性薬同士の比較は検出力を高めるために症例数を増やす必要があるが、おそらく倫理上の理由で、偽薬対照試験を優先し中間解析でRG7159の効果や安全性を確認してから直接比較のための追加組入れを行った模様。)

ロシュは欧米で承認申請した。非ホジキンリンパ腫でも直接比較試験が進行しており、おそらく、将来は、Rituxanに代わって第一選択薬になるだろう。

リンク:ロシュのプレスリリース(5月15日付)

【承認】


バイエルの放射線核種療法が米国で前立腺癌に承認

(2013年5月15日発表)

FDAは、Xofigo(旧称Alpharadin、radium-223 dichloride)を承認しした。適応になるのは外科的/薬物去勢に反応しなくなった去勢抵抗性前立腺癌で、骨転移による症状を患い、内臓転移が認められない患者。ノルウェーのAlgeta社の開発品で、米国ではバイエルと利益シェア方式で共同販売、米国外ではバイエルが販売する。

Xofigoはアルファ線を放出する放射性核種をカルシウムに似た特性を持つ化合物に結合することによって骨分布を向上したもの。第三相試験では骨関連の増悪や死亡リスクを偽薬と比較したところ、メジアンPFSが13.6ヶ月対8.4ヶ月、ハザードレシオ0.61と有意な改善効果が見られた。それどころか、全生存の解析でもメジアン14.0ヶ月対11.2ヶ月、HR0.695と延命効果が見られた。主な有害事象は悪心嘔吐、下痢、足のむくみ、赤血球や白血球、血小板の減少など。

承認申請は昨年12月で、審査期限は今年8月だったが、3ヶ月早く承認された。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:バイエルのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年5月12日

海外医薬ニュース2013年5月12日版



【ニュース・ヘッドライン】




  • FDAがUSAN一般名を採用しなかった理由
  • 免疫グロブリンのアルツハイマー治験がフェール
  • ベクティビックスの薬効確認試験が成功
  • イーライリリーのenzastaurinは開発中止に
  • エーザイがハラヴェンをEUで適応拡大申請
  • FDAがアドエア後継品を承認
  • 体重管理薬Belviqは6月発売へ
  • FDAがバルプロ酸の胎児知能発育リスクを通知


【今週の話題】


FDAがUSAN一般名を採用しなかった理由

(2013年5月6日発表)

FDAは、今年2月にher2陽性転移性乳癌向けに承認されたジェネンテックのKadcylaについて、処方する時はHerceptinと勘違いされないように製品名またはFDAが決定した一般名であるado-trastuzumab emtansineを用いるよう、注意を促す通知を行った。コンペンディア(医薬品情報集)や医療情報システムのデータも改定するよう呼びかけた。

KadcylaはHerceptinの抗体に細胞毒を結合したもので、体重1kg当り3.6mgを3週間に一回点滴静注する。Herceptinは初回が4mg/kg、二回目以降は2mg/kgを週一回点滴静注なので、初回に限れば間違えてもそれほど変わらないが、二回目以降は量が不足する。そもそも、Kadcylaの現在の承認用途はHerceptinによる前治療を受けた患者なので、Herceptinを投与しても効果は弱いかもしれない(これは明確ではない)。

Kadcylaが承認された時、一般名が米国の命名機関が定めたUSANであるtrastuzumab emtansineと異なるので奇異に感じたが、取り違え懸念が理由だったわけだ。確かに最初の一語はHerceptinと同じであり、早合点するリスクがある。手書きの処方箋だと二語目が読めずに薬剤師がHerceptinを用意するようなことも起こりうるかもしれない。

幸い、市販後には取り違え事故は報告されていないが、臨床試験で一例、発生したとのことだ。厳格かつ慎重に実施される臨床試験で起きた以上、油断はできない。それにしても、なぜこのタイミングで通知したのだろうか?

リンク:FDAのプレスリリース

【新薬開発】


免疫グロブリンのアルツハイマー治験がフェール

(2013年5月7日発表)

バクスター(NYSE:BAX)はGammagard(ヒト由来免疫グロブリン)の軽中度アルツハイマー病第三相試験がフェールしたと発表した。ADCS(米国のアルツハイマー病共同研究グループ)が米国立加齢研究所の支援を受けて実施したもので、390人を組入れて認知機能や生活機能を偽薬と比較したが、二種類の用量の何れも、どちらの薬効評価項目でも、偽薬並みだった。バクスターはGammagardの他のアルツハイマー病試験を中止する。

サブグループ分析で、中程度の患者やApoE4疾病関連遺伝子を持つ患者では高用量を投与した群でADAS-cog(認知機能に関する評価項目)の悪化が小さいトレンドが見られたが、差は1~3ポイントに過ぎない。軽度患者では逆に1ポイント悪く、また、ApoE4型ではない患者では調整MMSE(認知機能に関する副次的な評価項目)が偽薬より悪かった。後者は説明可能かもしれないが、前者は筋が通らないので中程度サブグループの数字も軽度サブグループのものも偶然と考えるのが適切だろう。

ヒト由来免疫グロブリンは複数の小規模な試験で効果の兆しが見られたため、供給不足や価格の高さの障害を乗り越えて第三相試験に進んだ。しかし、裏付けが弱く、組入れ数も少ないので私は懐疑的に見ていた。想定されるメカニズムもアミロイドプラク等の除去なので、数多くの試験がフェールした抗アミロイド療法と類似している。

リンク:バクスターのプレスリリース

リンク:同 治験データ(pdfファイル)

ベクティビックスの薬効確認試験が成功

(2013年5月7日発表)

アムジェンは、Vectibix(panitumumab、和名ベクティビックス)のASPECCT試験が成功したと発表した。野生型krasを発現する転移性結腸直腸癌の三次治療モノセラピー試験で、全生存期間がErbitux(cetuximab)と比べて非劣性だった(ハザードレシオ0.966、95%信頼区間0.839、1.113)。この試験はEUの規制に基づき薬効確認試験として実施された。成功したので、EUにおける承認が条件付き承認から通常の承認に切り替えられることになるだろう。

この二剤は何れもEGFRに結合する抗体で、違いはVectibixが完全ヒト抗体、Erbituxはキメラ抗体であること。開発当初はマウス由来のアミノ酸を含まない完全ヒト抗体のほうが効果や安全性が高いことが期待されたが、他のケースと同様に、大差なかった。

さて、条件付き承認制度は医薬品の開発をスピードアップするために、本来の薬効評価項目(例:延命効果)ではなく代理マーカー(例:反応率)で判定して承認する制度だ。同様な制度を最初に導入した米国では、承認後薬効確認試験が義務付けではなかったためネグレクトが多発した。このため、EUは導入に際して「条件付き承認」であることを明確にし、薬効確認試験を義務付けた。

制度には欠陥が付き物であり、失敗を恐れていたら制度改革はできない。重要なのは、導入後に厳格なモニタリングを行い問題点を把握した上で、必要な修正を行うことだ。迅速承認制度はEUモデルが最も優れている。

リンク:アムジェンのプレスリリース

イーライリリーのenzastaurinは開発中止に

(2013年5月10日発表)

イーライリリーはenzastaurinのびまん性巨大B細胞リンパ腫第三相試験がフェールしたと発表した。難治性神経膠芽腫の第三相も中間解析で打ち切られており、同社は開発を中止した。

enzastaurinはPKCベータ~AKTパスウェイを阻害する経口剤。今回の試験では化学療法とrituximabを併用する一次治療で寛解した患者のPFS(無増悪生存期間)を向上する効果を検討したが、増悪症例数が予想より少なかったため組入れ拡大・試験期間延長が行われ、結果判明が遅れた経緯がある。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


エーザイがハラヴェンをEUで適応拡大申請

(2013年5月7日発表)

エーザイはEUがHalaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)の適応拡大申請を受理したと発表した。転移性乳癌の三次治療薬として日米欧で承認されているが、二次治療薬としての承認を求めている。

延命効果がXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)より優れることを確認しようとした第三相試験はフェールしたが、数値上は大差なかったので、二次治療薬として承認されている薬と同程度の効果を持つと考えることもできる。しかし、非劣性仮説を検証するための試験ではないので、厳密に言えば、同程度かどうかは分からない。EMA欧州薬品庁は様々なエビデンスを総合的に検討した上で結論を出すことになりそうだ。EMAよりもFDAのほうが慎重に評価するのではないだろうか。

Halavenは非小細胞性肺癌などの適応拡大試験も実施されており、こちらの首尾も注目される。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

【承認】


FDAがアドエア後継品を承認

(2013年5月10日発表)

FDAは、GSKのBreo Ellipta(fluticasone furoateとvilanterolのコンビ薬;Elliptaは吸入器の製品名)をCOPDの維持療法薬として承認した。Advair(fluticasone propionateとsalmeterolのコンビ薬)の後継品に当たる。違いは、吸入頻度が一日二回ではなく一回で足りることと、喘息症用途は未承認であること。

オフレーベル使用される可能性があるので、Advairなどの他のステロイド・長期作用性ベータ2作用剤コンビ薬と同様に、喘息患者に用いると喘息関連死が増加するリスクがあることが枠付警告されている。COPDは高齢者の病気だが、18歳未満には推奨しないと念押ししたのも、オフレーベル使用を意識したのだろう。

増悪リスク削減効果に関するエビデンスが認められるかどうかが注目されたが、4月の諮問委員会同様に、FDAも効能として認めた。

GSKはAdvairとの直接比較試験も実施したが、効果が優れるわけではないようだ。一日一回の利便性と、新吸入器であるElliptaの使い易さ、格好良さをアピールすることになりそうだ。尤も、AdvairのGE品は未だ発売されていないので、今すぐ乗換をプッシュする必要はない。

Breo ElliptaはGSKとテラバンス(Nasdaq:THRX)の共同開発プロジェクトの成果。この提携が面白いのは、最終的に製品化された薬がどちらの会社の創製品であってもテラバンスが11~14%の売上ロイヤルティを得ることだ(年商が60億ドルを超えたら10%未満に引き下げ)。その代り、米国承認達成金としてGSKに3000万ドルを支払う。

将来、Breoが年商数十億ドルの超大型薬に育ったら、GSKがテラバンスを買収することになるだろう。テラバンスも意識しているのか、先日、GSKからのロイヤルティを受け取る会社と新薬開発を行う会社に企業分割する計画を明らかにした。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:GSKのプレスリリース

体重管理薬Belviqは6月発売へ

(2013年5月7日発表)

アリーナ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ARNA)と米州における販売権を持つエーザイは、米国麻薬取締局がBelviq(lorcaserin HCl)の麻薬指定を官報で公告したと発表した。30日後の発効を待って、いよいよ発売されることになる。

Belviqは5HT-2cアゴニストで食欲抑制・満腹感促進作用を持つ。一年間の試験で体重が偽薬比3~3.7%低下した。肥満症治療ガイドラインの考え方に即して、12週間治療して5%以上体重が減らなかったら服用中止する。治験では4割程度の患者がこの条件を満たした。

2009年に米国で承認申請され、ラットの癌原性試験や二型糖尿病試験のデータの追加提出を経て、2012年6月に承認された。薬物依存性が見られたため麻薬取締局が規制を検討、予想された通り、スケジュールIV指定となった。医薬品の麻薬規制の中では最も軽く、エーザイが日本で承認申請したこともあるsibutramineもスケジュールIVだ。

問屋取得価格は一ヶ月分が199.5ドルとのことなので、ヴィーヴァスが昨年9月に発売したQsymia(標準用量は月120ドル、部分反応者に使う高用量は183.9ドル)より高い。新興企業は大手と開発販売提携することが多いが、最近の共同開発品は両社が十分な利益を得るために価格を高く設定することが多い。

リンク:アリーナのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがバルプロ酸の胎児知能発育リスクを通知

(2013年5月6日発表)

FDAは、妊婦がバルプロ酸を服用すると子供の知能発育に影響する可能性があることを通知した。NEAD試験の結果に基づくもので、胎児が6歳に達した時のIQがcarbamazepineなど他の抗癲癇薬と比べて有意に低かった。他の疫学研究でも同様な結果が出ていることから、FDAは、妊婦が偏頭痛を予防する目的で服用することを禁忌とし、妊婦カテゴリーをXに変えた。癲癇や双極障害の妊婦については他の薬が無効または不耐の場合に限定するよう推奨しているが妊婦カテゴリーはDを維持した。

バルプロ酸や他の抗癲癇薬の多くは催奇性を持っており、かといって、妊娠中の癲癇発作も防がなければならないので、医師と患者は難しい判断を迫られることになる。判断にはエビデンスが必要なのでレジストリーを設けてデータを集めることが重要だ。今回の通知は直接的には偏頭痛予防用途が対象だが、他の用途でも重要な情報になるだろう。














 VALCARBALAMOPHENY
症例数629410055
IQ平均値97105108108
95% CI94-101102-108105-110104-112



注:VAL=Valproate、CARBA=Carbamazepine、LAMO=Lamotrigine、PHENY=Phenytoin。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年5月5日

海外医薬ニュース 2013年5月5日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • AUAがPSA検査に関するガイドラインをやや軟化
  • アクトスPL訴訟の第一幕は意外な幕切れに
  • バイエルの第VIIa因子の治験が中止に
  • GSKが米国でもumeclidiniumを承認申請
  • FDA諮問委員会:G-CSFは被爆事故の治療に有効
  • FDA諮問委員会:tivozanibは承認すべきではない
  • コンビ薬なら良いが単剤はダメ?
  • アリーナ社が体重管理薬の欧州における承認申請を撤回
  • 米国でリピトールとゼチーアの合剤が承認
  • 米国でシスチン蓄積症の徐放性新製剤が承認されたが...
  • FDAがサムスカの肝臓副作用に関する通知
  • 米国でプラザキサのレーベル改訂



【今週の話題】


AUAがPSA検査に関するガイドラインをやや軟化

(2013年5月3日発表)

PSA検査は前立腺癌を早期に発見する予備的スクリーニング手法として注目されているが、偽陰性のケースも多く、この場合、診断を確定するために行う生検に伴う感染症や神経障害のリスクを受診者に徒に負わせることになる。このため、評価は様々で同じ米国でもUSPSTF(予防医療に係る専門家タスクフォース)はPSA検査を推奨していない。

一方、AUA(米国泌尿器学会)は前向きに評価しているが、この度、診療ガイドラインを改定して推奨対象を55歳以上69歳以下に限定すると共に、検査の恩恵とリスクを受診者と十分に検討した上で判断するよう求めた。この推奨は前立腺癌に伴う症状(骨痛や下肢の神経学的症状等)がない男性に限られる。

40歳未満の男性は、前立腺癌と診断されるリスクが元々低いことに加えて、エビデンスの裏付けがないため、検査推奨を止めた。40~54歳の男性に関しても全ての男性に検査推奨するのは止め、但し、アフリカ系アメリカ人のようにリスクが高い人については個々に判断するよう求めた。70歳以上、あるいは余命が10~15年未満と判断される人の場合も推奨しない。

55歳~69歳の男性は検査の恩恵が最も大きく、1000人を検査すれば10年間で前立腺癌による死亡者を一人減らすことができる。このため、検査の長所・短所を受診者に十分伝えた上で決定するよう強く推奨した。他の年代に関するエビデンスの質はグレードCだが、この推奨はBと評価されている。

このガイドラインはAUAのウェブサイトに掲載されている。

リンク:AUAのリリース(ガイドラインのリンク有)

アクトスPL訴訟の第一幕は意外な幕切れに

(2013年5月1日発表)

米国では薬の副作用が発見される度に弁護士事務所が患者に呼びかけて何千、何万のPL訴訟を提起するのが習わしである。一人当たりの賠償金も大きく、ダイエット薬を巡るフェンフェン訴訟では、アメリカン・ホーム・プロダクト(当時)が200億ドルを超える和解金を引当てた。Cox-II阻害剤VioxxのPL訴訟では、MSDが40億ドル以上の和解金を引当てた。因みに、前者は問題の薬の売上高を遥かに上回ったが、後者はVioxxの累計売上高を下回っている。

武田薬品の二型糖尿病用薬Actos(pioglitazone、和名アクトス)も、膀胱癌の懸念が指摘されて以来、3000件以上のPL訴訟が提起された。米国は連邦政府と州政府のどちらの裁判所に提訴することもできるが、数多くの提訴を受理した裁判所は審理を効率的に行うべく統合的に審理前手続きを進めるため、審理開始が遅くなる。Actosの場合、最初に審理入りしたのはカリフォルニア州のロサンジェルス裁判所(Superoir Court)におけるCooper氏の事例だった。容体が悪いため先行審理が認められたようだ。

4月26日に陪審が武田薬品に650万ドルの損害賠償金を課する評決を行ったが、Kenneth Freeman判事は5月1日に提訴自体を棄却した。判事はActosと原告の膀胱癌発症の因果関係に関する専門家証言の証拠能力を疑い原告・被告に再検討を求めたが、陪審が先走って結論を出してしまった、という経緯のようだ。

カリフォルニア州の判例法では損害賠償訴訟を提起する要件として薬と原告の健康被害の因果関係に関する専門家の証言が必要だが、本件で証言を行ったDr. Smithの判定は専ら疫学研究に基づいており、被告の事例を詳細に検討した上での判定ではなかったため、証言として認められなかったのである。判事が要件不充足として一気に提訴却下まで進めたのは、自分のアドバイスを軽んじて陪審を進めた原告側に対するペナルティという意味もあったのではないか。

原告は棄却通知を受理してから10日以内なら異議申し立てを行うことができる。

さて、PL訴訟では最初の数例の結果が重視される。多くの訴訟を一つ一つ審理するのは非現実的であり、誰のためにもならないので、裁判所は代表的なケースだけ審理し、その評決・判決に基づいて、シロ・クロや賠償額を判定する標準的手法を構築し、当事者に和解を呼びかけるのである。複数の連立方程式を元にxやy、zの値を求めるのと似ている。

膀胱癌に関するPL訴訟が難しいのは、Cooper氏のように喫煙歴のある原告は、疫学研究が示唆するActosのリスクより喫煙のリスクの方が高く、確率だけで言えば喫煙が原因である可能性の方が高いことだ。フェンフェン訴訟の場合は心弁変形という動かぬ証拠があったが、Vioxxは心筋梗塞というありふれた疾患のリスクが高まるというバーチャルな副作用だったので、PL訴訟はMSD側が優勢だった。Actosも同じではないだろうか。喫煙歴というxがYESの原告は、方程式で算出される賠償額が僅少になりそうだ。

連邦裁判所における訴訟はルイジアナ西部地区裁判所に統合され、MDL(複数地域訴訟)Rebecca Doherty判事が担当する。3月5日時点で1349件の提訴があるようだ。審理は最初の事例が来年1月27日に開始、次は4月開始とのことなので、方程式が形成されるのは2015年以降になるだろう。このほかに、武田の米国子会社があるイリノイなどの州立裁判所でも提訴されているようだ。

【新薬開発】


バイエルの第VIIa因子の治験が中止に

(2013年5月3日発表)

バイエルは、インヒビターを持つA型、B型血友病患者を対象に実施していたBAY 86-6150の第2/3相試験の中止を発表した。中和抗体が見られたことが原因。Maxigenから買収した遺伝子組換え型第VIIa因子で、ノボ ノルディスクのNovoSevenの競合品となるはずだったが、中和抗体が発生するとBAY 86-6150が効かなくなるだけでなく体内で作られる第VIIa因子やNovoSevenも効かなくなり病状が悪化する可能性もある。開発中止はやむを得ないだろう。

リンク:
バイエルのプレスリリース


【承認申請】


GSKが米国でもumeclidiniumを承認申請

(2013年4月30日発表)

GSKは、GSK573719A(umeclidinium)をCOPD維持療法薬として米国で承認申請したと発表した。EUでも申請済み。一日一回吸入用の長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤で、ベストセラーとなったベーリンガー・インゲルハイム/ファイザーのSpiriva(tiotropium)の競合品。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会:G-CSFは被爆事故の治療に有効

(2013年5月3日発表)

FDAの医療用造影剤諮問委員会・腫瘍学用薬諮問委員会共同会議は、核事故被爆者の放射線誘導性骨髄抑制の治療にG-CSF/GM-CSFが有効と考えることができる、と結論した。サルの試験で、放射線照射の20~26時間後にアムジェンのNeupogen(filgrastim)を投与した群は60日生存率が79%と、対照群の41%を有意に上回ったことが理由。

通常は動物試験だけで承認を取ることはできないが、発生率が低い、深刻な疾患に関しては例外的に臨床試験を割愛できるアニマル・ルールが設けられている。前例としては、肺炭そ治療薬としてキノロン系合成抗菌剤が承認されている。

もし承認される場合は、試験で用いられた薬だけでなくアムジェンのNeulastaなど他のG-CSF、そしてバイエルのGM-CSFであるLeukine(sargramostim)についても承認される可能性がある。

G-CSFは福島の原子力発電所事故の時も注目されたが、これは、事故対策に携わる人たちが被爆し骨髄移植を受ける事態に備えて、予めG-CSFを用いて自分の骨髄を採取する用途だった。急性放射性症候群の治療に有効となると、一段と有用性が高まる。当局の承認がなくても非常事態に際して医師の判断で使うことは可能だろうし、そのような事態では当局が非常時対応策として特別に使用を許可することもできるだろう。しかし、平時に十分に検討した上で承認する方が良いに決まっている。米国の対応は他の国も学ぶべきだろう。

リンク:FDAの諮問委員会用ブリーフィング資料(pdfファイル)

FDA諮問委員会:tivozanibは承認すべきではない

(2013年5月2日発表)

アヴェオ・オンコロジー(Nasdaq:AVEO)と開発パートナーのアステラス製薬は、FDA腫瘍学薬諮問委員会がtivozanib(VEGF受容体拮抗剤)の承認に否定的な結論を出したと発表した。末期腎細胞腫用薬として便益がリスクを上回るかという質問に、13人が否と答え、是は一人だけだった。

承認申請の根拠となった第三相試験では、主評価項目であるメジアンPFS(無増悪生存期間)が11.9ヶ月とNexavar(sorafenib)を投与した群の9.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.8、ログランクp値は0.04だった。ところが、その後に行われた全生存の解析はフェールしてしまった(メジアン28.8ヶ月対29.3ヶ月、ハザードレシオ1.245、p=0.105)。

アヴェオ側は、Nexavar群の患者の多くは増悪後にtivozanibによる治療を受けたがtivozanib群の患者の多くは何の治療も受けなかったことが理由と主張したが、受け入れられなかった。

失望的な結果になった理由は幾つかあるだろう。第一に、PFSのp値があまり低くないこと。通常は薬効確認試験を二本実施する必要があり、一本だけで承認申請する場合は、p値が著しく低いことが望ましい。例えば、p=0.0025ならば、二本の試験の両方でp=0.05となる確率と同じであり、有意性が高いと考えられる。多くの新薬がPFS延長効果に基づいて末期腎細胞腫用薬として承認されたが、何れもp値が0.01を下回っている。

第二はこの試験のデザインが完璧ではないこと。まず、二重盲検試験ではない。増悪判定は第三者委員会が行うので客観性は担保されるが、医師がMRI/CT検査を行って増悪の有無を判定するタイミングは医師が決定するので、完全な二重盲検試験と同じではない。次に、この試験はNaxavarのようなVEGF受容体拮抗剤やmTOR阻害剤による治療を受けたことがない患者を対象とする、事実上の一次治療試験なので、本来なら標準的一次治療薬であるSutent(sunitinib)と比較すべきである。

更に、この試験は専ら中東欧の医療施設で実施され、米国の患者は3%しかいなかった。PFSと全生存のメジアン値が一年以上違うにも関わらず、tivozanib以外の薬で二次治療を受けた患者があまりいなかったことは、この試験が行われた国では承認されている薬が少ない、あるいは、被験者が抗癌剤の費用を負担できなかったことを示唆している。このため、外延性(治験結果が今日の米国の医療現場で再現される)が疑わしい。

結果が完璧ならデザインに多少の問題があっても許容できるが、曖昧である場合は出発点に遡って再検討する必要がある。用途がサルベージ(すべての薬を使い終わった患者向け)なら斟酌の余地があるが、既に承認されている薬が数多く存在する病気の一次治療なので、不十分なエビデンスのまま急いで承認する必要はない。

この要素は、全生存の解析にも当てはまる。アヴェオの主張はリーズナブルだが、他の要素で説明できるということだけでは足りない。末期腎細胞腫の薬で全生存のハザードレシオが1を上回っているものは一つもないのだ。

このようなことを考えると、FDAの否定的な評価を諮問委員会が支持したことはサプライズではないだろう。

リンク:アヴェオとアステラスのプレスリリース

コンビ薬なら良いが単剤はダメ?

(2013年4月29日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は、抗HIV薬elvitegravirと補助薬であるcobicistatのそれぞれの承認申請について、FDAから審査完了通知を受領したと発表した。米国が新薬承認審査の過程で行う工場の査察で、品質検査手続き・手法の検討(documentation)・妥当性検証(validation)に関する欠陥を発見したことが理由とのこと。

この二剤は、FDAが昨年承認した四剤配合コンビ薬、Stribildの配合成分だ。ギリアッドはStribildの承認には影響しないと言っているが、奇妙な話である。おそらく、既に承認され広く用いられている、代替品のない薬をFDAが患者から奪わなければならないほど深刻な問題ではない、という判断なのだろう。FDAは第一三共の子会社であるランバキシー社に薬品輸入差止処分を下したことがあるが、代替的GE品のない製品については例外扱いした前例がある。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

アリーナ社が体重管理薬の欧州における承認申請を撤回

(2013年5月2日発表)

アリーナ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ARNA)は、2013年第1四半期の決算発表リリースの中で、EUにおける体重管理薬Belviq(lorcaserin)の承認申請を撤回することを明らかにした。既に手続きを開始した模様だ。Belviqは2012年に米国で承認され、同年にEUでも承認申請されたが、CHMPにリスクの正当化を求められた。

Belviqは選択的5-HT2cアゴニストで、中枢神経の食欲制御システムに作用して食欲を抑制する。フェンフェンとは異なり5-HT2b受容体には作用しないため、心弁変形のリスクは小さいと考えられている。但し、米国でもラットの癌原性試験データなどが問題になり申請から承認まで3年近くかかった。

リンク:アリーナのプレスリリース

【承認】


米国でリピトールとゼチーアの合剤が承認

(2013年5月3日発表)

MSDは、FDAがLiptruzetを承認したと発表した。同社のZetia(ezetimibe、和名ゼチーア)の活性成分とファイザーのLipitor(atorvastatin、和名リピトール)の活性成分の合剤で、高脂血症の治療に用いる。MSDによると、心血管疾患・死亡のリスクを削減する効果がLipitorより高いかどうかは確立していない。

同社はezetimibeとsimvastatinのコンビ薬であるVytorinが大型製品に育ったが、アウトカム試験でezetimibeの心血管疾患予防効果が確認されなかったことから、近年はZetiaと共に伸び悩んでいる。atorvastatinはsimvastatinほど薬物相互作用が大きくなく、LDL-C低下作用も高いので、ezetimibeを開発したシェリング・プラウ(後にMSDが買収)はMSDではなくファイザーと提携してLiptruzetを先に発売すべきだったと私は思っている。

リンク:MSDのプレスリリース

米国でシスチン蓄積症の徐放性新製剤が承認されたが...

(2013年4月30日発表)

FDAは、Raptor Pharmaceutical(Nasdaq:RPTP)のProcysbi(cysteamine bitartrate)を小児・成人の腎性シスチン蓄積症の治療に用いることを承認したと発表した。活性成分自体は昔から存在するが、服用頻度が6時間おきではなく12時間おきであることが長所。シスチン蓄積症は遺伝子疾患で、患者は米国に500人、世界で3000人とのこと。体や骨の成長が遅れ、腎不全のリスクが高まる。三種類の中で最も重いのが腎性シスチン蓄積症で、腎臓に重い障害を与える。

残念なのは、価格が年25万ドルと、既存製品の30倍高いことだ。6時間に一回服用ということになるとおちおち寝てもいられないが、ぐっすり眠る代償が20万ドル以上というのは釈然としない。費用を負担する機関・団体にとって悩ましい問題だ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:Raptorのプレスリリース

リンク:NY Timesの関連記事

【医薬品の安全性】


FDAがサムスカの肝臓副作用に関する通知

(2013年4月30日発表)

FDAはSamsca(tolvaptan、和名サムスカ)の肝臓副作用に関する通知を発出した。大塚製薬は1月にドクターレターを送付しており、現在、FDAとレーベル改訂を検討中。Samscaは体液貯留型・中立型の低ナトリウム血症の治療に用いる、バソプレシン2受容体拮抗剤。日本でも4月13日付で添付文書が改定されたが、FDAは30日間という投与期間制限を設けた。

リスクが表面化したのは適応拡大試験が発端だ。ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)の治療効果を検討した3年間の第三相試験で、投与を受けた約1000人中3人で深刻な肝障害が発生した。肝臓酵素の異常上昇と総ビリルビン量の異常上昇が併発した模様であり、Hyの法則を当てはめると、3000人に一人の割合で腎移植または腎不全に至る。

通常の慢性病薬なら承認取消になりかねないが、低ナトリウム血症の治療なら長期投与しないだろう。元々、利尿剤に十分反応しない患者の代替的選択肢なので、広く使われてはいない。注意喚起に留めたのはこれらの理由だろう。

ADPKD試験では低ナトリウム血症の一日最大用量である60mgの2倍を投与した。承認されている用量ならリスクは小さいかもしれないが、1000人中3人という少ない頻度で発生する副作用について用量依存性を確認するのは容易ではない。FDAが承認用量でも安心できないと判断したのは現実的だ。

さて、問題は今年4月に行われたADPKDの適応拡大申請が承認されるかどうかだ。患者数が米国で45万人と多いことや、長期投与が必要であることを考えると、難しいのではないだろうか。

リンク:FDAのプレスリリース

米国でプラザキサのレーベル改訂

(2013年4月30日発表)

米国でPradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)の添付文書が改定された。服用を止めると脳卒中のリスクが高まるという内容の枠付警告が追加されたが、競合薬であるBMS/ファイザーのEliquis(apixaban)やバイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaban)も同じ枠付警告があるので、販売面では特に影響はないだろう。

一方、ポジティブな変更は、臨床試験で150mg(米国はこの用量しか承認しなかった;一日二回服用)を投与した群の血管死が年率2.3%とワーファリン群の2.7%より低かったことが記載されたこと。これも治験論文が刊行され周知の事実だが、レーベルに記載されたことでメーカー側が積極的に宣伝することが可能になった。

リンク:ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

今週は以上です。

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