2013年4月21日

海外医薬ニュース2013年4月21日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • バーテックスの第三の嚢胞性線維症治療薬も有望
  • イーライリリーの週一回投与型GLP-1作用剤は効果が高い
  • カッパ・オピオイド受容体拮抗コンビ薬の鬱病POC試験が成功
  • ウサギが作る血管浮腫治療薬を承認申請
  • FDA諮問委員会がアドエア後継薬を支持
  • ISMPもGLP-1作用剤/DPP-4阻害剤は膵毒性のシグナルありと報告


【新薬開発】


バーテックスの第三の嚢胞性線維症治療薬も有望

(2013年4月18日発表)

バーテックス(Nasdaq:VRTX)はVX-661の第二相嚢胞性線維症試験が成功したと発表した。F508欠損型CFTRを両親から引き継いだ(ホモ接合型)患者を対象とした試験で、モノセラピーでは効果不足だが、Kalydeco(ivacaftor)併用群は高用量で呼吸能力が偽薬比有意に改善した。有害事象は偽薬群と大差なかった。

嚢胞性線維症は両親から引き継いだCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)遺伝子の両方に変異があり、塩や水が細胞を出入りする時に必要なCFTRチャネルが十分に開かなかったり、CFTRが細胞表面に移行できなかったりして、痰などの粘性が高まり肺炎を起こしやすくなる。

同社は1998年に米国の嚢胞性線維症財団と提携し治療法を研究してきたが、その成果が実を結んだのが2012年にG551D変異CFTRを持つ嚢胞性線維症患者向けに承認されたKalydecoだ。CFTRチャネルを開いた状態に保つ、CFTRポテンシエイターと呼ばれている。今年3月には、ホモ接合型F508欠損CFTRを持つ患者向けにVX-809(lumacaftor)の第三相Kalydeco併用試験を開始した。CFTRが細胞表面に移行するのを補助する、CFTRコレクター(矯正剤)と呼ばれている。

VX-661の作用機序はVX-809と同じなので自社競合になるが、同社はもう一つバックアップを臨床入りさせており、希少疾患用薬とは思えないほどの力の入れようだ。何としても患者にベスト・セラピーを届けるという熱意が感じられる。

今回の無作為化割付二重盲検偽薬対照試験は、VX-809の試験と同様に、ホモ接合型F506欠損CFTRを持つ患者128人を二つのグループ(モノセラピーとKalydeco併用)に分けて実施した。VX-661は10、30、100、150mgを一日一回、28日間投与する用法を検討。VX-809の試験ではKalydecoの用量が250mg一日二回と大きいが、VX-661の試験は承認用量と同じ150mg一日二回を採用した。

結果は、併用グループで各用量群の一秒量対予測値(FEV1 % predicted)が偽薬比相対変化で4.1%、5.4%、9.0%、7.5%となり、100mgと150mgの群は統計的に有意だった(p値は各0.01と0.02)。絶対差は各群偽薬比2.3%、3.4%、4.8%、4.5%だった。尚、偽薬群はKalydecoも服用していないので、治療効果は二剤合計のものである。28日の治療期間終了後に更に28日間観察したところ、一秒量対予測値は治験開始時点の数値に近づいた。このことも治療効果の裏付けになりうる。

VX-809の第二相では56週間のKalydeco併用投与で一秒量対予測値が絶対値で8.5%改善した。今回のデータはやや見劣りするが、どちらも群毎の解析対象は数十人であり、また、治験のデザインも異なるので、単純には比較できないだろう。

嚢胞性線維症の患者は世界で7万人。米国は3万人で、うちホモ接合型F506欠損は49%を占める。Kalydecoの承認用途であるG551D変異型は4%なので、開発に成功すれば遥かに多くの患者を治療することが可能になる。VX-809の第三相試験は2014年に開票の見込み。

リンク:バーテックスのプレスリリース

イーライリリーの週一回投与型GLP-1作用剤は効果が高い

(2013年4月16日発表)

イーライリリーはGLP-1作用剤LY2189265(dulaglutide)の第三相試験五本を実施、これまでにByetta(exenatide、和名バイエッタ)やJanuvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)、metformintとの直接比較試験で勝利したが、今回、Lantus(insulin glargine、和名ランタス)対照試験二本でも血糖治療効果が有意に上回ったことが発表された。年内に承認申請される予定だが、販促に有利な材料が揃ったことになる。

LY2189265はDPP-4によって代謝されにくいように改変したGLP-1と免疫グロブリンG4の固定領域をペプチド・リンカーで繋げて、GLP-1の半減期を長期化したもので、150mgを週一回皮注する。BMSの週一回型exenatide、Bydureonのように注射針が太くない。

GLP-1作用剤やJanuviaのようなDPP-4阻害剤は膵炎のリスクを持ち、最近では、膵癌の懸念も浮上している。長期作用性GLP-1作用剤は血糖降下作用が高い分、副作用のリスクも高い可能性があり、この点が承認審査での注目点になる。イーライリリーは膵炎リスクについて前臨床試験で検討すると共に臨床試験でも密接に監視しただろうから、第三相試験のデータが学会やFDA諮問委員会で公表されれば、リスクの多寡が明らかになるだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

カッパ・オピオイド受容体拮抗コンビ薬の鬱病POC試験が成功

(2013年4月17日発表)

アイルランドのAlkermes(Nasdaq:ALKS)は、ALKS 33(samidorphan)とbuprenorphineのコンビ薬であるALKS 5461が第二相鬱病試験で有望な結果を出したと発表した。前者はミュー・オピオイド受容体アンタゴニスト、後者はミュー・オピオイド受容体アゴニスト且つカッパ・オピオイド受容体アンタゴニストで、併用することによってカッパ・オピオイド受容体アンタゴニズムだけを発揮させるアイディアだ。

この第二相試験はSSRIやSNRIに反応しない鬱病患者142人を組入れて二種類の用量を検討したもの。薬効に関する主評価項目であるHAM-D17スコアが偽薬比有意(p=0.026)に改善し、MADRSやCGI-Sでも有意な差が見られた。同社は第三相試験に向けてFDAと相談する考え。

抗鬱剤の第三相試験は承認されている薬でも全てが成功したわけではなく、フェールするリスクが高い。第三相は二本行うのが通常だが、抗鬱剤は三本以上実施して一本がフェールしても承認を得られるようにするのが一般的である。第二相試験が一本成功しただけでは何とも言えないのだが、難しい病気だけに、新しい作用機序を持つ新薬候補の登場は歓迎だ。

Alkermesはドラッグ・デリバリー技術で有名な会社で、ジョンソン・エンド・ジョンソンの非定型向精神薬Risperdal(risperidone)の長期作用性製剤、Risperdal Constaは同社の技術を用いている。大塚製薬の非定型向精神薬Abilify(aripiprazole、和名エビリファイ)の活性成分を用いて独自に開発した長期作用性製剤も第三相段階にあり、年内に開票の予定だ。

リンク:Alkermesのプレスリリース

【承認申請】


ウサギが作る血管浮腫治療薬を承認申請

(2013年4月14日発表)

オランダのファーミング社(Euronext:PHARM)とパートナーである米国のSantarus社(Nasdaq:SNTS)は、Ruconestを遺伝性血管浮腫の急性発作の治療薬としてFDAに承認申請したと発表した。2011年に承認申請した時は症例不足などが理由で受理されなかったが、FDAと事前に相談した上で追加試験を実施したので、今回は受理されそうだ。

Ruconestは遺伝子組換え型ヒトC1エステラーゼ・インヒビターで、特徴的なのは、ファーミング社が持つトランスジェニック技術を用いてウサギの乳腺に分泌させ、ミルクから回収する方法を取っていること。通常の細胞培養より収率が高い有望な技術だが、何といっても画期的なので安全性や不純物の有無を十分に検討する必要がある。

EUでもCHMPが二回、否定的意見を出したが、三度目に肯定的意見に代わり、2010年に承認された。

リンク:両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がアドエア後継薬を支持

(2013年4月17日発表)

グラクソ・スミスクラインはFDAの肺アレルギー用薬諮問委員会がBreoをCOPD維持療法薬として承認することを支持したと発表した。吸入用ステロイドのfluticasone furoateと吸入用長期作用性ベータ2作用剤vilanterolのコンビ薬で、同社が1999年に発売してベストセラーに育てたAdvair(fluticasone propionateとsalmeterol xinafoateの合剤、和名アドエア)の後継薬に当たる。

同社は気道閉塞治療と増悪リスク削減の二つの効能を求めたが、どちらも過半の委員が支持した(賛成9人、反対4人)。吸入用ステロイドを高齢者の病気であるCOPDに用いると肺炎や骨損壊のリスクが高まるが、10人の委員が安全性を支持した。

後継薬として売り込むためにはAdvairと比べた長所をアピールすることが重要になるが、効果の点では大差ないようだ。一日二回ではなく一回の吸入で済むことや、吸入器の使いやすさ・外見の良さだけではAdvairに取り替わることは難しく、証券アナリストはピーク年商が十数億ドルに留まると予想しているようだ。

リンク:GSKのプレスリリース

【医薬品の安全性】


ISMPもGLP-1作用剤/DPP-4阻害剤は膵毒性のシグナルありと報告

(2013年4月18日発表)

米国のInstitute for Safe Medication Practices(ISMP)は、2013年4月18日付のISMP Quarter Watchで、GLP-1作用剤やDPP-4阻害剤の市販後有害事象報告を分析・検討したところ膵炎や膵癌のシグナルが見られたと報告した。

FDA有害事象報告(FAERS)の2011年7月から2012年6月までの一年間のデータを調べたところ、5種類のGLP-1作用剤・DPP-4阻害剤に関連して1723例の深刻な有害事象が報告されており、うち膵炎が831例、 膵癌105例、甲状腺癌32例、過敏反応101例だった。

膵炎リスクをmetforminなどの古い糖尿病薬と比較した修正オドレシオは、Byetta(exenatide)とVictoza(liraglutide)のGLP-1作用剤二剤が28.5倍、DPP-4阻害剤は20.8倍だった。GLP-1作用剤は甲状腺癌のリスクとも関連しており、Victozaは過敏反応のリスクが8倍近く、有意な差があった。

この種の疫学試験は様々な欠点を持っている。医師などが自発的に報告するので主観の入り込む余地が大きく、概していえば、新薬は古くからある薬と比べて報告数が多く、論文などで副作用懸念が報じられると更に増加する。また、治療を受けている患者の背景が異なるかどうか明確ではない。報告内容が不十分なことが多く、膵炎のリスク因子を持っているかどうかも分からないことが多い。ISMPも副作用と断定せずに、シグナルがあると指摘しているだけだ。

とは言え、様々な手法の研究が似たような方向を指し示していることは看過できない。管理医療組織の治療記録の分析や、メーカー各社が行っている長期大規模試験のデータが纏まるのを待望したい。

リンク:ISMP Quarter Watch(2013年4月18日付、pdfファイル)

リンク:Pharmalotの記事

今週は以上です。

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