2013年3月31日

海外医薬ニュース2013年3月31日




【ニュース・ヘッドライン】




  • ロンザがテバとのバイオシミラー合弁を再検討
  • KYOTO HEART STUDY治験論文の筆頭著者が退職
  • 第二世代オキサゾリジノンの第三相試験は二本目も成功
  • palifosfamideの第三相軟組織肉腫試験はフェール
  • ベーリンガーとリリーがempagliflozinを承認申請
  • JNJがTMC435を米国でも承認申請
  • 経口多発性硬化症薬の本命が米国で承認
  • 米国でジョンソン・エンド・ジョンソンのSGLT2阻害剤が承認
  • ファイザーのBosulifがEUでも承認
  • EUもインクレチン・ミメティクスの膵新生物問題の検討を開始


【今週の話題】


ロンザがテバとのバイオシミラー合弁を再検討

(2013年3月31日発表)

ロイター報道によると、バイオ薬受託生産大手のロンザ社は、2009年にテバと設立した合弁事業を再検討している。バイオ薬のGE品であるバイオシミラーはエポエチンやG-CSFでは既に実現。次の焦点はRituxan(rituximab、和名リツキサン)やRemicade(infliximab、和名レミケード)といった抗体医薬だが、一筋縄では行かないようだ。

テバはRituxanのバイオシミラーで第三相試験を行っていたが、昨年10月、中止した。理由は明らかではないが、当局の承認審査基準が確立されていないことが一因のようだ。FDAがガイドラインを作るのを待てばよいのだが、それでは競争に勝てない。道なき道を手探りで進んでこそ、パイオニアとしての名誉と利益を享受できるのである。

FDAが要求しそうな全ての試験を行っておく、というオプションも非現実的だ。開発コストは製品価格に上乗せしなければならないので先発品に対する価格競争力が低下してしまう。もしFDAが要求しなかった場合、他のバイオシミラーとの価格競争も不利になる。

記事によると、ロンザが2009年に合弁を結んだ頃はバイオシミラーの開発コストを1億ドル程度と見込んでいたが、規制が厳しくなり見通しを立て難くなっているという。合弁見直しはこれが原因のようだ。

規制強化でバイオシミラーの開発中止・遅延したケースは他にも出ている。MSDはPEG化エリスロポイチンMK-2578の開発を中止した。先発品の心血管リスクが表面化しMSDも心血管安全性試験を実施しなければならなくなったので、ペイしないと判断した。

韓国のサムソンとバイオジェン・アイデックの合弁にも奇妙な動きがある。2012年に設立されたばかりだが、Rituxanのバイオシミラーの臨床試験を中止したと報じられている。今年に入ってこの合弁会社は、MSDに複数の開発品の公表されていない地域での販売権を供与した。どちらにとっても、開発費用やリスクを分散することが狙いではないだろうか?博打を打たなければならない時は、二股、三股を掛けるのが得策だ。

これらの動きと異なり、ノバルティスのGE薬部門はRituxanバイオシミラー等の第三相試験を続けている。韓国のCelltrion社は昨年、韓国でRemicadeバイオシミラーの承認を取得し、EUでもEU初の抗体医薬バイオシミラーとして承認審査中とのことだ。とは言え、「道なき道を進みパイオニアとしての名誉と利益を獲得する」戦略の中には、取り敢えず承認申請してみて当局の意見を聞く戦術も含まれるだろうから、勝算があるとは限らない。

インドではRituxanのバイオシミラーが販売されているが、ロシュによると、先発品とは特性が異なるという。エポエチンや半化学合成品である低分子量ヘパリンでも特性はメーカーや国によって異なることが様々な学会や論文で報告されている。シミラー(類似品)なのだから多少異なっていても構わないのだが、違いを発見する技術(検査技術)は日進月歩なので、新たな違いが発見され臨床的意義が議論になるリスクは高い。バイオシミラー・ビジネスは未だまだ茨の道のようだ。

リンク:ロイターのニュース

リンク:Korea Joongang Dailyのニュース(韓国でRemicadeバイオシミラー承認)

KYOTO HEART STUDY治験論文の筆頭著者が退職

(2013年3月2日発表)

先週の話ではないが、Diovan(valsartan、和名ディオバン)の「降圧を超えた心血管保護作用」を立証した日本初の画期的エビデンスであるKYOTO HEART STUDYを主導した研究者が退職した。京都府立医大循環器内科学・腎臓内科学教室のホームページには、「松原弘明教授は2013年2月末日で退職されました。」とだけ記されている。報道によると、論文が撤回されたことに責任を感じて辞職を申し出たようだ。

辞任で幕引きというのはよくあるパターンだ。所属する組織は守られ、追及者は溜飲を下げて鉾を収める。しかし、医学では責任を取ったことにはならない。もしvalsartanが他のARBと比べて特別に良い薬だとしたら、医療にとって重要な発見を見過ごしてしまうことになる。その意味で、もう一つのエビデンスであるJIKEI HEART STUDYを再検討して、問題がないことを確認する必要がある。

逆に、もしKYOTO HEART STUDYがまやかしだとしたら、二度と騙されないために、手口を精査して対策を練る必要がある。

リンク:京都府立医大循環器内科学・腎臓内科学教室教授室の記載

リンク:毎日新聞の報道

【新薬開発】


第二世代オキサゾリジノンの第三相試験は二本目も成功

(2013年3月25日発表)

米国のTrius Therapeutics(Nasdaq:TSRX)は、TR-701(tedizolid phosphate)の急性細菌性皮膚皮膚構造感染症(ABSSSI)第三相試験が成功したと発表した。治療後の病変部位の縮小や臨床的奏効率がZyvox(linizolid、和名ザイボックス)と非劣性だった。今回の試験は両剤とも点滴用製剤で治療を開始して医師の判断で経口剤にスイッチする用法をテストした。経口剤だけを比較した試験も既に成功。同社は年内に米国で、来年上期には欧州でも、承認申請する予定。

TR-701は第2世代oxazolidinone、Zyvoxは第一世代で、経口剤のコースが一日一回、6日間服用とZyvoxの一日二回、10日コースより簡便。二本の第三相では、医薬品関連治療時発現有害事象もやや少なかった。in vitroではZyvox耐性菌にも活性があったようだが、治療効果が非劣性なのだから、臨床的な意義は明確ではない。Zyvoxは2015年に特許が切れるので、価格競争力は劣ることになる。

リンク:Triusのプレスリリース

palifosfamideの第三相軟組織肉腫試験はフェール

(2013年3月26日発表)

米国のZiopharm Oncology(Nasdaq:ZIOP)は、ZIO-201(palifosfamide)の第三相転移性軟組織肉腫試験がフェールしたことを発表した。一次治療を受ける患者にdoxorubicinと併用する効果を検討したが、PFS(無増悪生存期間)はdoxorubicin単剤群と大差なかった。独立データ監視委員会は被験者を追跡して二次的評価項目である延命効果を確認することを勧告したが、同社は打ち切りを決定した。

発表を受けて26日の同社の株価は65%下落、時価総額は1.5億ドルとなった。発表前は5億ドル程度だったので、2月3日号で紹介したFeuerstein・Ratainの法則(時価総額3億ドル未満の会社の抗癌剤第三相試験は成功しない)は当てはまらないが、大きく異なるわけでもない。

リンク:Ziopharmのプレスリリース

【承認申請】


ベーリンガーとリリーがempagliflozinを承認申請

(2013年3月25-26日発表)

二型糖尿病薬で複数の開発品の開発販売提携を結んでいるベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、SGLT2阻害剤BI 10773(empagliflozin)を欧米で承認申請した。BMS/アストラゼネカのForxiga(dapagliflozin、EUで昨年11月に承認)、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発したInvokana(canagliflozin、後述のように米国で先週、承認)に次ぐ第三号で、力価と選択性が高い。25日に米国で承認申請したこと、26日にEUで申請受理されたことがそれぞれ発表された。

リンク:ベーリンガーとイーライリリーのプレスリリース(米国申請)

リンク:同(EU申請受理)

JNJがTMC435を米国でも承認申請

(2013年3月28日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはMedivirからライセンスしたNS3/NS4Aプロテアーゼ阻害剤、TMC435(simeprevir)をC型慢性肝炎の治療薬として承認申請した。同社が欧州などの開発販売権を持つIncivek(telaprevir、和名テラビック)と異なり一日一回の経口投与で足りることが特徴。忍容性も比較的良さそうだ。

TMC435は日本でも海外と並行して開発が進められ、今年2月に承認申請された。日本は高齢になって初めて診断され治療を受ける人が欧米より多く、そのせいか、標準療法不耐例も少なくない。インターフェロン抜きやribavirin抜きでも有効なレジメンの開発や、同じプロテアーゼ阻害剤でも副作用プロファイルの異なる薬の登場が望まれている。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【承認】


経口多発性硬化症薬の本命が米国で承認

(2013年3月27日発表)

バイオジェン・アイデックは、Tecfidera(dimethyl fumarate、開発コードBG-12)が再発寛解型多発性硬化症向けに米国で承認されたと発表した。経口剤では米国で三剤目だが、深刻な副作用のリスクが小さいので、年商30億ドル超のトップセラーになるだろう。

この薬はドイツで中重度乾癬治療薬として20年近い市販歴を持つfumarateの腸溶性新製剤。作用機序は不明だが、Nrf2転写パスウェイを活性化し、NFカッパBのパスウェイを抑制して炎症促進的サイトカインの分泌を減らしたり、細胞の酸化ストレス耐久性を高めたりするようだ。臨床試験では再発を偽薬比40~50%削減したので、インターフェロン・ベータやテバのCopaxone(glatiramer acetate)より効果が高そうだ。

効果は同社のTysabri(natalizumab)が一番だが深刻な副作用があるので、Tecfideraのほうがバランスが良い。ノバルティスが田辺三菱製薬から導入して開発したGilenya(finglimod、和名ジレニア/イムセラ)も経口剤で再発リスク削減率がTecfideraより高いが、10%程度の違いは誤差の範囲内である。この指標は誤差範囲が大きいのでよほど大きな直接比較試験を行わない限り、有意差は出ないだろう。副作用面ではGilenyaは感染症や初回投与時の不整脈のリスクを持つ。

経口剤の第二号であるサノフィのAubagio(teriflunomide)は効果が見劣りし、肝毒性が枠付警告されている。

一方、Tecfideraの試験では日和見感染症や腫瘍は見られず、白血球減少程度である(治療開始前と一年毎に全血球検査を行うことが推奨されている)。4割程度の患者が紅潮を経験し、嘔吐を含む胃腸性有害事象のリスクもあるので嫌がる患者もいるだろうが、服用を続けるうちに緩和するようなので、事前によく説明しておけばアドヒランス面の妨げにはならないだろう。最初の7日間は120mgを一日二回、その後は240mgを一日二回服用する。

米国の問屋取得価格(WAC)は54900ドル。高いが、Gilenyaの約60000ドルよりは安い。Aubagioは約45000ドルと安いので、再発リスクがそれほど高くない患者やTecfidera不耐患者にはリーズナブルかもしれない。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

米国でジョンソン・エンド・ジョンソンのSGLT2阻害剤が承認

(2013年3月29日発表)

FDAとジョンソン・エンド・ジョンソンは、夫々、二型糖尿病薬INVOKANA(canagliflozin)が二型糖尿病薬として承認されたと発表した。SGLT2という主として腎細管に分布するトランスポータを阻害して、腎臓で濾し取られたグルコースが再び血液中に戻されるのを妨げる。結果、余分なグルコースが尿と一緒に排出され、血糖値が低下する。

特徴的なのは体重が穏やかに減少すること。一日20分程度の中程度の運動と同じくらいのカロリーが排出されることや利尿作用が寄与しているようだ。降圧作用も持つ。この裏返しで、減塩食療法を取っている人や降圧剤服用者、高齢者は脱水リスクに気を付ける。最初の3ヶ月間は起立性低血圧によるめまいや失神が起きることがある。

副作用面でもう一つ特徴的なのは、性器真菌感染や尿道感染のリスクがあること。尿道のグルコースが細菌の栄養になってしまうようだ。患者が自分でよく観察して感染症の有無を確かめる。

このように、これまでの血糖降下剤と異なる副作用があるので患者教育が重要だが、臨床試験の有害事象離脱率は偽薬より若干高い程度なので、忍容性は比較的良いと考えられる。100mg一日一回経口投与、初回は朝食前に服用する。作用機序的に腎機能が重要なので、腎濾過率に基づいて適否や用量(300mgまで増量可)を決定する。

ジョンソン・エンド・ジョンソンは田辺三菱製薬からライセンスした。両社はSGLT阻害剤の開発で先行しT-1095/RWJ-394718をPOC段階まで進めたが2003年に断念。腸でガラクトースの吸収に寄与するSGLT1を阻害しない、SGLT2選択的阻害剤にスイッチし、遂に、結果を出した。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

ファイザーのBosulifがEUでも承認

(2013年3月28日発表)

ファイザーはBosulif(bosutinib)がEUで承認されたと発表した。フィラデルフィア染色体陽性慢性骨髄性白血病で慢性期(CP)、加速期(AP)、ブラスト危機期(BP)の各段階の成人患者が再発し、既存のbcr-bal阻害剤が不適である場合に用いる。

リンク:ファイザーのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EUもインクレチン・ミメティクスの膵新生物問題の検討を開始

(2013年3月26日発表)

FDAに続いて、EUの承認審査機関であるEMAもインクレチン・ミメティクスの膵新生物問題の検討を開始した。ADA米国糖尿病学会の機関誌であるDiabetes誌に掲載されたUCLA医科大学のButlerらの論文が契機(先週号を参照)。EMAは二型糖尿病薬の医薬品監視プログラム、SAFEGUARDを実施中で、このデータを利用することも検討しているようだ。

疫学的試験には色々な問題点があるので、複数の国や地域で、信頼できるデータベースに基づいて行うことが望ましい。癌原性物質でも何年も服用しなければ癌が発生しないので、長期的な追跡が必要だ。その意味で、米国とEUの承認審査機関が別々に疫学的研究を行うのは大歓迎だ。日本もできないのだろうか?

リンク:EMAのプレスリリース

今週は以上です。

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