2013年3月24日

海外医薬ニュース2013年3月24日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • FDAが9種類のブレークスルー・セラピーを認定
  • アムジェンの黒色腫ウイルス療法試験が成功
  • ビクトーザは高量で抗肥満作用が若干上昇
  • Lemtradaの延長試験中間解析
  • FDA諮問委員会がオピオイド依存症治療用インプラントの承認を支持
  • CHMPが新薬5品に肯定的意見
  • Bronchitolは米国では承認されず
  • FDAが初のボツリヌス解毒剤とTOBI新製剤を承認
  • 続報:インクレチン療法の膵臓新生物問題


【今週の話題】


FDAが9種類のブレークスルー・セラピーを認定

(2013年3月15日発表)

FDAのMargaret Hamburg長官が、マサチューセッツ・バイオテクノロジー評議会の講演で、これまでに9種類の開発品をブレークスルー・セラピー(BT)として認定したことを明らかにした。申請は31件で、このうち10件は却下、11件審査中、1件は申請撤回されたとのこと。

BT指定は2012年のFDA Safety and Innovation Act(FDASIA)によって導入された制度で、早期段階の臨床試験や非臨床試験で深刻な疾患・症状に対して既存の治療法より著しく優れる可能性が示唆された開発品に適用される。指定されると、新薬開発を効率的に進めるための様々な助言を得ることができる。

9品のうち、これまでに公表されているのは三品で、まず、バーテックス社(Nasdaq: VRTX)のKalydeco(ivacaftor)。G551D変異型の嚢胞性線維症の治療薬として2012年に承認されたCFTRポテンシエイターで、他のタイプの嚢胞性線維症の適応拡大と、VX-809併用療法がBT指定された。

その次に明らかになったのがファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発しているBTK阻害剤、PCI-32765(ibrutinib)で、予定適応症はマントルセル・リンパ腫とワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症。2013年に前者の適応症で承認申請される予定。

そして、ノバルティスのLDK378。ファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)と同じALK阻害剤で、Xalkoriに不応不耐のALK陽性転移性非小細胞性肺癌向けに2014年に承認申請される予定。

これら三品に違和感があるのは、何れも臨床開発が進んでいてBT指定されなくても1~2年内に承認申請されるであろうことだ。前臨床のエビデンスに基づいてBT指定を獲得することも可能、と立法時に喧伝され期待が盛り上がったので、やや肩透かしだ。LDK378はファースト・イン・クラスですらない。

それだけに、他に6品がBT指定されたというニュースは心強い。製薬会社が公表していないのは、おそらく、開発初期段階の開発品はフェールする確率が高く、また、早く公表すると競合他社の目を惹いてしまうので、目処が付くまで緘口令を敷く方が有利だからだろう。

この講演で長官が強調していたのは、第一に、FDAが希少疾患用薬の開発を後押ししていること。過去5年間に承認された新薬の3分の1は希少疾患用薬だった。米国では7000種類の希少疾患の総計で3000万人が罹患している。数の上では高脂血症などと変わらず、国民厚生政策において重要な課題である。勿論、7000種類の病気に一つ一つ対応するためには大変な努力とリソースが必要だ。FDAは、効率的な開発を支援するために相談に応じ、結果的に、小規模な臨床試験だけで承認される薬が増えている。

メーカーにとっても、患者が少なくても価格を年数千ドル、数万ドルに設定することによって、開発投資を回収し十分な利益を獲得することが可能になった。ビッグ・ファーマも積極的に参入するようになったが、開発資金に乏しく規制当局と折衝した経験も少ない新興企業には特に魅力的な分野だろう。

第二は、重複するが、開発の早い段階でFDAと相談することの重要性。上記のKalydecoを例に挙げて説明していた。

第三は、regulartory science(規制の科学)。優れた薬、安全な薬を実用化するためには、開発する側の科学の進歩と同時に、評価する側の科学も進歩しなければならない。画期的な作用機序を持つ薬の開発アドバイスを行い、承認審査するためには、FDA側がそのメカニズムに関する人類の知見を全て動員する必要がある。

規制の科学を怠ったまま迅速承認を繰り返すのは危険ですらある。安全性で私が連想するのは、薬物相互作用だ。21世紀に入って、米国のレーベルの記載内容が拡充の一途を辿っている。Plavix(clopidogrel、和名プラビックス)のように、薬物代謝酵素遺伝子多型に関する記述も増加している。

血圧や血糖、LDL-Cの治療は深刻な疾患を予防する重要な手段だが、リスクがそれほど高くない患者を治療する場合は便益も小さくなるので、リスクがそれほど高くない副作用を十分に検討することが必要になる。一般に、効果を検出するよりも深刻な副作用を検出する方が困難なので(副作用の方が目立つなら承認されないだろう)、スタチンにおける横紋筋融解症やPPAR作動剤における骨折、膀胱癌のような極稀だが深刻なリスクをどのようにして検出するかも重要なテーマになる。

耳新しいのは、Special Limited Use(特別用途指定)という承認方式を議員も交えて検討しているという話だ。例として挙げていたのは薬物耐性菌による深刻な感染症に用いる抗生物質や、肥満症のような慢性疾患。リスクが高く万人向けに承認することはできなくとも、その薬以外に治療法がないような患者に限定して用いるならば、リスクと便益のバランスを取ることができるかもしれない。

このような議論は以前からあるが、米国の場合は医師の判断で未承認用途に使うことが可能なので、適正使用が担保できず、実現しない、または、オフレーベル処方に目を瞑って承認するのが実態である。立法化するためには、厳しい処方制限の導入とバーターせざるを得ないのではないか。

リンク:FDA長官講演筆記録

【新薬開発】


アムジェンの黒色腫ウイルス療法試験が成功

(2013年3月19日発表)

アムジェンは、Oncovex GM-CSF(talimogene laherparepvec)の第三相黒色腫試験の成功を発表した。持続的反応率16%と対照群の2%を有意に上回った。肝心の延命効果に関しては未だイベント数が足りず、トレンドに留まっている模様。年内に予想される最終解析が成功するまで何とも言えないだろう。

この治療法は、単純ヘルペスウイルスにGM-CSFの遺伝子を組入れたもの。腫瘍に直接注射すると、腫瘍細胞選択的にウイルスが増殖して細胞膜を破壊、セルライシスを誘導する。更に、細胞の外に出たウイルスとGM-CSFが免疫機構を刺激し、癌細胞に対する免疫を強化する。アムジェンは2011年にバイオベックスを頭金4.25億ドル、承認・売上高達成報奨金最大5.75億ドルで買収して入手した。

今回の第三相では、切除不能IIIB/IIIC/IV期黒色腫400人をOncovex GM-CSF群とGM-CSF皮注群に2:1の割合で無作為化割付したもの。持続的反応率が主評価項目だが、二次的評価項目とされた全生存の解析の方が重要だろう。

今回の解析結果は、ASCOで発表される予定。ASCOは発表内容の事前公表を原則として認めていないが、SECのインサイダー取引規制に触れかねない重要事項については、ASCOの許可を得てトップライン・データだけ公表することを認めている。おそらく、学会前に抄録が公開されるだろう。

リンク:アムジェンのプレスリリース

ビクトーザは高量で抗肥満作用が若干上昇

(2013年3月18日発表)

ノボ ノルディスクは二型糖尿病薬Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)を体重管理薬としても開発している。前者の用途では1.2mgまたは1.8mg(日本は0.9mg)を一日一回、皮注するが、後者は3mgを中心に高量を試験していることが特徴だ。今回、二型糖尿病を併発する肥満症・オーバーウェート患者を組入れた1年間の第三相試験の結果が発表されたが、3mgの効果が1.8mgより若干高い程度だったため、ノボの株価が下落した。

Victozaは天然のGLP-1の遺伝子を組換えて、更に、パルミチン酸を結合することで作用を長期化したもの。他社製品を含めて、GLP-1作用剤は血糖治療薬では唯一、体重が低下する。このため、オフレーベルで肥満症の治療に用いられることもあるようだ。

欧米におけるGLP-1作用剤の第一号であるByetta(exenatide)を中心に様々な研究が行われてきた。体重低下は悪心・嘔吐の副作用のせい、という説もあるが、相関性は明確ではない。悪心・嘔吐を経験しない人でも体重が減ることがあり、経験する人でも減らないことがある。効果は個人差が大きく、一部の患者は10kg以上減るが、増える人もいるようだ。

VictozaはByettaより作用の持続性が高いので、体重低下作用が高く個人差も小さい可能性がある。また、肥満治療における至適用量は血糖治療と異なるかもしれない。ノボの試験結果が注目される所以である。

今回の第三相試験は846人を偽薬、1.8mg、3mgの3群に1:1:2の割合で無作為化割付して56週間治療したもの。ベースライン時点の平均値は体重106kg、BMIは37kg/m2、HbA1cは8%だった。各群の体重低下率は2%、5%、6%で、5%以上の減量に成功した患者の比率は13%、35%、50%となり、Victozaは偽薬より有意に優れていた。HbA1cが7%以下に低下した患者の比率も27%、67%、69%と有意に上回った。治験完了率は66%、78%、77%と、他剤の過去の同様な試験と同程度だった。

FDAの体重管理薬開発ガイドラインで要求されている治療効果と比べると、体重低下(偽薬群との差が3~4%)は不十分だが、5%レスポンダーはハードルをクリアしている。どちらかを満たせば十分であり、承認されている体重管理薬も後者しか満たしていないものが多いので、Victozaの効果は合格圏内と言えるが、既存の薬を大きく上回る訳ではなさそうだ。

第三相試験は他に三本あり、食事療法後の減量維持(メンテナンス)試験は既に成功。肥満・糖尿病予備群を組入れた試験は今年4~6月に、睡眠時無呼吸患者の試験は7~12月に、結果が出る見込み。二型糖尿病でない患者はVictozaによる治療を続けるモティベーションがそれほど高くないだろうから、治験完了率が低下し、その分、効果が低下するだろう。

ノボはこれら四本を前期第三相試験と呼んでいる。すべて完了した後に、血糖値に問題のない肥満症・高リスクオーバーウェート患者だけを組入れた試験を開始するのではないだろうか。

リンク:ノボ ノルディスクのプレスリリース(pdfファイル)

Lemtradaの延長試験中間解析

(2013年3月21日発表)

サノフィのジェンザイム部門は、再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として欧米で承認審査中のLemtrada(alemtuzumab)の1年延長試験の結果をANN米国神経学会やプレスリリースで発表した。

第三相試験二本に参加した患者を組入れて、長期的な転帰を観察したもの。Lemtradaの治療スケジュールは1年目は5日間の1コースだけ、2年目も3日間の1コースだけと元々少ないが、3年目に当たる延長試験では8割以上の患者が投与を受けなかった。通常の延長試験とは異なり、投与中止後の効果の持続性や安全性を観察した離脱試験と考えるべきだろう。

再発率は年率0.24~0.25回となり、効果が維持されたと考えられる。一方、自己免疫性甲状腺有害事象の発生率は3年間累計で30%とのことなので、3年目に更に高まったことになる。

他の薬にはないリスクを持つことを考えれば、Lemtradaは第三選択、第四選択として用いられることになりそうだ。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がオピオイド依存症治療用インプラントの承認を支持

(2013年3月21日発表)

サンフランシスコの新興医薬品開発会社タイタン・ファーマスーティカルズが昨年10月に米国で承認申請したProbuphine(buprenorphineインプラント)がFDA諮問委員会の支持を受けた。15人の諮問委員のうち10人が支持、4人が不支持、1人が棄権した。REMS(リスク評価・緩和戦略)に改善の余地がある模様なので予定通り4月末に承認されるかどうかは不透明だが、良い方向に向かっている。

Probuphineはbuprenorphineの新製剤で、上腕皮下に4~5本インプラントすると効果が4~6ヶ月持続する。適応症はオピオイド依存症で、米国の罹者数は130万人とのこと。既存の舌下錠よりコンプライアンスの向上が見込まれ、また、子供が誤飲するリスクがない。但し、治験では多くの患者が経口剤を併用せざるを得なかった模様なので、現実の社会での便益はあまり明確ではない。

販売はBraeburn Pharmaceuticalsが担当する。親会社はニューヨークの投資会社、Apple Tree Partnersで、セルジーンに買収されたGloucester Pharmaceuticalsと同じ。おそらく、Braeburnも事業が軌道に乗ったら他の製薬会社に売却されるのだろう。

リンク:タイタンのプレスリリース

CHMPが新薬5品に肯定的意見

(2013年3月22日発表)

EUの医薬品科学的評価機関であるCHMPが3月の会議で5種類の新薬の承認とバイエルのXa阻害剤等の適応拡大に肯定的意見、ISIS/サノフィの高脂血症治療薬に再び否定的意見、を出した。肯定的意見を受けたものは2~3ヶ月内に承認されるだろう。

リンク:CHMPのプレスリリース

肯定的意見を獲得した新薬は以下の5品。

名称:Iclusig(ponatinib)

会社:アリアド・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:ARIA)

適応症:既存薬に不応・不耐、またはT315I変異型の慢性骨髄性白血病及びフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病

ノバルティスのGleevec(imatinib、和名グリベック)等と同じabl阻害剤で、腫瘍関連遺伝子であるablが成長シグナルを送り続けるのを妨げる。BMSのSprycel(dasatinib、和名スプリセル)やノバルティスのTasigna(nilotinib、和名タシグナ)に反応しなかった、あるいは不耐で、Gleevecに適さない患者、またはこれら三剤に抵抗性を持つことで知られるT315I変異型の患者に用いる。急性リンパ芽球性白血病の場合はbcrと

ablの遺伝子の一部が結合してきわめて活性の高いbcr-abl蛋白を発現するフィラデルフィア染色体転座を持つタイプに限定され、また、Tasignaは未承認なのでSprycel不応・不耐だけで足りる。米国では昨年末に承認、問屋取得価格9580ドル/月で販売されている。マサチューセッツ州のアリアドの開発品。

リンク:アリアドのプレスリリース

名称:Tecfidera(dimethyl fumarate、開発コードBG-12)

会社:バイオジェン・アイデック

適応症:再発寛解型多発性硬化症

ドイツで乾癬治療などに20年近い市販歴を持つフマル酸の腸溶性新薬。多発性硬化症の再発予防薬としては数少ない経口剤だ。作用機序は不明だが、Nrf2転写パスウェイを活性化し、NFkappaB依存的な炎症促進的サイトカインの分泌を抑制する。臨床試験では既存の注射薬より高い効果を示し、また、ノバルティス/三菱田辺製薬のGilenya(fingolimod、和名ジレニア/イムセラ)と異なり感染症や癌が増加しなかったことが注目される。主な有害事象は紅潮、悪心嘔吐、肝機能検査値異常。

多発性硬化症は神経細胞の「導電線」の「被覆」に相当するミエリンが免疫細胞の攻撃を受けて損傷し、漏電する。症状はその神経細胞の機能により区々だが、歩行障害が代表的とされる。直ぐに命に係る訳ではないが、働き盛りの時期に発症することも多く、10年、20年後に自力歩行できなくなる可能性もあるので、QoLの面で深刻だ。特定のタイプのウイルスに感染して出来た免疫が類似した蛋白を持つミエリンを誤認する、という説もあるが、真偽は定かではない。患者は寒い地域に多い。日本でも新潟出身の人気落語家が発症、未だに復帰していない。

Tecfideraは効果や利便性が高く、第一選択薬として使われる可能性が高い。Gilenyaに代わって経口剤のベストセラーになりそうだ。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

名称:Aubagio(teriflunomide)

会社:サノフィ(ジェンザイム部門)

適応症:再発寛解型多発性硬化症

Tecfideraと同じ経口剤だが効果は既存の注射薬と同程度なので、比較的軽い患者に用いられることになりそうだ。米国では昨年9月に承認、問屋取得価格は年45000ドルとベータ・インターフェロンより数%、Gilenyaより3割近く安く販売されている。

活性成分は抗リウマチ薬Arava(leflunomide)の活性成分の代謝物。Aravaは肝毒性が枠付警告されており、Aubagioも米国で同様な警告が導入された。

大型薬の特許切れ対策として光学異性体や代謝物を新薬として発売する例は枚挙に暇がないが、EUは、明らかな長所が無い限り新規活性成分として認めない方針を取っている。teriflunomideは用途が異なるので大丈夫と考えていたが、意外なことに、認められなかった。10年間の新薬排他権を獲得できないので、知財戦略の見直しが必要になった。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

名称:HyQvia(ヒト免疫グロブリン、遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロニダーゼ)

会社:バクスター

適応症:一次性免疫不全症候群と二次性低ガンマグロブリン血症

皮注用ヒト免疫グロブリンと、その生物学的利用率を高める遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロニダーゼのセット商品。後者はハロザイム・セラピュティクス(Nasdaq:HALO)からライセンスしたもの。免疫グロブリン欠乏患者にヒト由来の抗体を補充し、感染症を予防する。

リンク:ハロザイムのプレスリリース

名称:Stribild(elvitegravir、cobicistat、emtricitabine、tenofovir disoproxil)

会社:ギリアッド(Nasdaq:GILD)

適応症:HIV/AIDS

四種類の医薬品の合剤。elvitegravirは日本たばこからライセンスして新開発したインテグラーゼ阻害剤で、他のクラスの抗HIV薬と比べて忍容性がよく、市販歴が短いので耐性ウイルスが少ない。cobicistatは新開発の3A4阻害剤で、elvitegravirの代謝を遅らせ抗HIV効果を長持ちさせる。emtricitabineとtenofovirは核酸系逆転写阻害剤で、前者はGSKのlamivudineの類薬であり画期性は小さいが後者は効果と忍容性が高く、この二つの活性成分を配合する合剤は、今や、世界の標準療法になった。

HIV/AIDSの多剤併用療法はピル・バーデンが問題だが、3A4を阻害する薬の薬物相互作用を逆用するritonavirブーストと呼ばれる手法や、コンビ薬の開発で随分解消された。Stribildは同社のAtriplaと同様に、一日一回、一錠服用で足りる。日本でも日本たばこが承認申請し、今月、スタリビルド配合錠名で第二部会を通過した。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

適応拡大で注目されるのは、Xarelto(rivaroxaban)を急性冠症候群の再発予防に用いることが肯定的意見を受けたことだ。米国では諮問委員会で反対が賛成を若干上回り、承認されなかった。アスピリンと二剤で、あるいはアスピリンとclopidogrelと三剤で併用するが、出血リスクも高まるのでリスクと便益のバランスを考えなければならない。第三相試験では2.5mgと5mg(何れも一日二回投与)をテストしたが、後者は出血リスクが特に高く、前者しか承認申請されなかったようだ。

Xa阻害剤と言えば、第一三共のedoxabanも今年、第三相心房細動試験や深静脈血栓塞栓治療試験の結果が明らかになる見込み。ベーリンガーのPradaxaと合わせて、新世代抗血栓薬の臨床データ出そろうことになる。

リンク:バイエルのプレスリリース

一方、ISISがサノフィのジェンザイム部門と共同開発したApoB-100アンチセンス薬、Kynamro(mipomersen)は、昨年12月に続いて、否定的意見となった。長期投与が必要なのに治験の離脱率が高いことと、肝臓脂肪蓄積の長期的な転帰が明らかではないことが理由だ。米国では1月にホモ接合型家族性高脂血症向けに承認されたので、Xareltoとは逆のパターンである。

ホモ接合型の患者数は米国と欧州主要5か国の合計で600人と超希少疾患だ。高力価スタチンを服用してもLDL-C値が数百mg/dLと極めて高く、心臓疾患のリスクが高い。

リンク:ISISの簡素なプレスリリース

Bronchitolは米国では承認されず

(2013年3月19日発表)

オーストラリアのPharmaxis(ASX:PXS)は、FDAがBronchitol(mannitol)の承認申請に関して審査完了通知を出したと発表した。1月の諮問委員会では誰一人として承認を支持しなかったので、順当な結果だ。FDAは追加的薬効確認試験と小児の喀血リスクの検討を求めたとのこと。

Bronchitolは嚢胞性線維症の治療に用いる吸入用ドライパウダー製剤。第三相試験の一本はフェールし、もう一本は成功したものの途中で治験を離脱した患者が多かった。

EUでは昨年、承認された。欧米共に、ケースバイケースで承認審査のハードルを緩和しているが、どのケースで緩和するか、食い違いが目立つ。

リンク:Pharmaxisのプレスリリース(pdfファイル)

【承認】


FDAが初のボツリヌス解毒剤とTOBI新製剤を承認

(2013年3月22日発表)

FDAは、既知の7種類のボツリヌス神経毒全てに有効な解毒剤を初めて承認した。ウマ由来の抗体の混合物で、テロ等に備える戦略的国家備蓄計画の中で備蓄される予定。炭疽菌治療薬と同様に、動物試験の薬効データと臨床試験の安全性データに基づいで承認された。カナダのCangene

(TSX:CNJ)の開発品。

リンク:FDAのプレスリリース

FDAは、TOBI Podhaler(tobramycin吸入用粉末)を承認したことも発表した。嚢胞性線維症患者の緑膿菌肺感染症を治療する。ネブライザ用の製剤が既に承認されている。

リンク:FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


続報:インクレチン療法の膵臓新生物問題

(2013年3月22日発表)

先週号で取り上げた、インクレチン療法(GLP-1作用剤とDPP-4阻害剤)の膵細胞異形成・膵癌リスクに関する論文がADA米国糖尿病学会の機関誌であるDiabetes誌に刊行された。同時に、薬害監視で著名なPublic Citizenが、FDAの自発的有害事象報告(AERS)の分析に基づいて、インクレチン療法を受けている患者はglipizide服用患者より膵癌発症報告が多いと警告した。どちらも決定的なエビデンスではないと感じられるが、看過することもできない。メーカーと世界の承認審査機関はこの問題を精査して結論を出す義務がある。

論文抄録によると、この研究はUCLA医科大学等の研究者が臓器提供者の膵臓を検査したもの。二型糖尿病でインクレチン療法を受けた8例とそれ以外の治療を受けた12例、そして二型糖尿病ではない対照例14例を検討したところ、インクレチン療法を受けた患者では外分泌細胞の増殖や異形成、アルファセルの肥大や神経内分泌癌が増加していた。

Public Citizenの調査は、2010年1月~2012年6月までのAERSデータとIMS処方箋データを用いて、代表的なSU剤であるglipizideと、Byetta(exenatide)、Victoza(liraglutide)、Januvia(sitagliptin)の三剤合計を比較したもの。

処方箋数は3500万枚と3300万枚で同程度だったが、膵癌を発症しこれらの薬が「主に疑われる」と評価された症例は1例対292例でインクレチン療法のほうが多かった。症例を精査したところ、膵癌の既知のリスク要因は持っていなかった。

前者の研究は症例数が少なく、何とも言えない。異形成がどの程度、生命の脅威なのかも良く分からない。今日の新薬はマウスやラットに長期間投与して良性・悪性腫瘍の発生状況を観察する癌原性試験が行われているが、これらの齧歯動物とヒトは同じではないので、インプリケーションを解明するのは容易ではない。

後者はリポーティング・バイアスがある可能性が高い。新薬の発売当初は有害事象報告が多く、年月を経るにつれ、減少していくのだ。glipizideのような古い薬と比較する時は他の副作用の報告数なども調べてリポーティング・バイアスの多寡について見当を付けておく必要がある。MSDが2004年9月にVioxx(rofecoxib)の販売を中止した直後に調べたところ、有害事象報告が飛躍的に増加して驚いたことがある。

また、額面通りに受け止めても発生頻度は10万枚に一例程度なので、それほど高くない(AERSに報告されるのは氷山の一角で本当はもっと多いと考えるべきだが)。

どちらも不確かな話だが、二種類の研究で類似した結果が出たことは看過できない。元々、インクレチン療法は膵炎のリスクを持ち、開発当初に考えられていたほど膵臓に優しい薬ではないことが明らかになっている。多くの患者が服用しているのだから、健康保険データベースを用いた疫学研究などを行って、脅威がリアルなのかフェイクなのか、目処を立てる必要がある。特に、二型糖尿病患者の死因として癌が最も多い日本人にとって重要な調査課題だ。

リンク:Diabetes論文

リンク:Public Citizenのプレスリリース

今週は以上です。

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