2013年2月24日

海外医薬ニュース2013年2月24日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • 週末のニュース:アフィマックスと武田が腎性貧血治療薬を自主回収
  • GS-7977のC型慢性肝炎試験が全て完了
  • FDAはRepros社の治験計画変更案を部分的にしか認めず
  • Stallergenesも芝花粉アレルギー用薬を米国で承認申請していた
  • ジョンソン・エンド・ジョンソンが日本でTMC435を承認申請
  • CHMP:ヴィ-ヴァスの体重管理薬を再度却下
  • ロシュのバイオコンビ薬が米国で承認


【レイト・ブレイカー】


アフィマックスと武田が腎性貧血治療薬を自主回収

(2013年2月23日発表)

アフィマックス(Nasdaq:AFFY)と武田薬品は、米国で昨年発売したばかりの腎性貧血治療薬、Omontys(peginesatide)を全量自主回収すると発表した。市販後に致死例を含む過敏反応症例が報告されたため。発生率は低いが、エリスロポイエチン作用剤は他にも存在するため、敢えて使う必要はないと判断したのだろう。発生率が低いだけに原因究明は困難と思われ、このまま販売中止の公算がある。

Omontysはエリスロポイエチン受容体に結合する2つのペプチドをリンカーで繋げて更にポリエチレン・グリコールを結合して半減期を長期化したもの。既存薬であるEpogen(epoetin alpha)が165個のアミノ酸からできているのに対してOmontysは21個と少ない。アフィマクスは2006年に武田薬品と共同開発販売契約を結び、米国はフィフティ・フィフティで共同開発販売、海外は武田の単独販売で欧州で承認審査中。米国ではフレゼニアス等の透析センターがテスト中で、全施設採用を決めるケースも出始めたところだった。

昨年4月の発売以来、累計25000人に投与されたが、アナフィラキシー等の過敏反応が報告された。発生率は0.2%、うち3分の1は深刻で、致死例の発生率は0.02%だった。このため、昨年11月にドクターレターを発出、警告したが、遂に全ロット自主回収に至った。既に治療を受けている患者についても再投与しないよう呼びかけている。Omontysのウェブサイトも変更され、今回のドクターレターしか見れなくなった。

Omontysはアミノ酸配列が異なるため、抗エポエチン抗体が天然のエリスロポイエチンも破壊して深刻な貧血症が起きるPRCA患者に使える可能性があり、残念な結果になった。

リンク:アフィマックス/武田のプレスリリース

リンク:2012年12月のドクターレター(pdfファイル)

リンク:2013年2月のドクターレター

【新薬開発】


GS-7977のC型慢性肝炎試験が全て完了

(2013年2月19日発表)

ギリアッド(Nasdaq: GILD)はNS5Bプロテアーゼ阻害剤GS-7977(sofosbuvir)のFUSION試験の成功を発表した。遺伝子型(GT)1型など各種のC型慢性肝炎の第三相試験四本が全て成功し、年央に承認申請に向かう予定。

FUSION試験はインターフェロン・ベースの一次治療が奏功しなかったGT2型と3型の患者を対象に、GS-7977(400mgを一日一回経口投与)とribavirinの併用療法を12週間または16週間、施行したところ、SVR12(持続的ウイルス学的奏効率12週:治療完了の12週後になってもウイルスが探知不能であった患者の比率)が12週間コース群は50%、16週間コース群は73%となり、ヒストリカル・コントロール(文献などに示された過去の治験データを対照群とする)の25%を上回った。

被験者の37%を占めるGT2型は各86%と94%、63%を占めるGT3型は30%と62%だった。GT3型は16週間治療する必要がありそうだ。有害事象で投与を中止した例はなかった。

ギリアッドは忍容性の高い抗HIV薬tenofovirを礎に、様々な薬とのコンビ薬をラインアップすることで治療成績と利便性の向上を実現、グラクソ・スミスクラインを抜いてHIV/AIDS治療薬でナンバー・ワン企業になった。シェアの面では天井が見え始め、また、tenofovirは米国で2017年末にテバがジェネリック薬を発売することになったが、日本たばこからライセンスしたインテグラーぜ阻害剤elvitegravirに続いて、ファーマセット社買収で入手したGS-7977も承認申請に向けて順調に歩んでいる。

一発当てた後に二の矢が用意できず身売りする新興企業が多い中で、特定の領域におけるドミナンスを生かして次々と新薬を入手・製品化してきた同社の商品開発戦略は、大いに参考にすべきだろう。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

FDAはRepros社の治験計画変更案を部分的にしか認めず

(2013年2月21日発表)

テキサスの新興企業であるRepros Therapeutics(Nasdaq:RPRX)は、先月、Androxal(enclomiphene citrate)の二次性性腺機能低下症治療第三相試験二本のうち一本目に関して、治験計画変更の可能性を示唆した。ある医療施設の患者背景データに異常が見つかったため、この施設のデータを除外してもう一本の試験の患者を移すことで補うというのだ。

Androxalは抗エストロゲンで、代表的な既存薬であるAbbVie(アボットからスピンアウトした会社)のAndroGelがゲル状の塗り薬であるのに対して、経口カプセルであることが特徴。50年の臨床歴を持つclomiphene citrateのトランス異性体だ。第三相試験では、偽薬、12.5mg/日(25mgまで増量可)、25mg/日の各群の奏効率(テストステロン値が正常化した患者の比率)と性機能安全性(精子量が大きく変化しない)を主評価項目としている。

ところが、151人を組入れた一本目の試験で、某医療施設が組入れた40人の精子量データが他の医療施設と大きく異なることが判明した。Reprosは、典型的な患者と異なるのでこの施設の成績は一般化できず、除外すべきと判断した。承認申請用の試験は、その試験成績が全米の患者に当てはまるものであるべき、と考えた。

同社はFDAと相談したが、部分的にしか受け入れられなかったことが2月21日に明らかにされた。一本目の試験は予定通り年央に解析を行い、その代り、当該医療施設を除外した解析も行うことが決まった。二本目の試験は組入れを拡大することができる。これらの試験は事前にFDAの特別プロトコル評価(SPA)を受けているが、この程度の変更ならSPAは撤回されないとのことだ。

FDAの意見は尤もだ。当該医療施設が組入れ条件、除外条件に違反しているなら除外が適切だが、そうでないなら、除外するほうが不適切だ。精子量が他の患者と大きく異なる患者が存在するなら、そのような患者に関する治療効果や安全性を確認することは重要な課題だからだ。治験成績の一般化を可能にするためには、特定のタイプだけを組入れるのも、除外するのも、どちらも好ましくない。

同社がFDAの意見を受け入れたのは適切だろう。治験開始後にプロトコルを変更するとSPAが撤回される可能性があり、承認審査時に改めてプロトコルの妥当性が俎板に乗せられる公算があるからだ。解析後に当該施設のデータの不当性が判明し、症例除外によって検出力が不足しフェールしたとしても、斟酌されるだろう。

リンク:Reprosのプレスリリース

【承認申請】


Stallergenesも芝花粉アレルギー用薬を米国で承認申請していた

(2013年2月18日発表)

Stallergenes S.A.(Euronext Paris CAC small:GENP)は、FDAがOralairのBLA(生物学的製剤の承認申請)を受理したと発表した。芝・牧草アレルギーの患者がシーズン前とシーズン中に服用してアレルゲンに慣れる、免疫寛容療法用の舌下錠。

MSDもデンマークのAlk AbelloのGrazaxをライセンス、チモシー芝アレルギー用をMK-7243、ブタクサ・アレルギー用をMK-3641として第三相試験を行い今年1月に米国で承認申請したところだが、Stallergenesのほうが一足早かったことになる。

Oralairは欧州の一部国で2008年に発売、昨年はフランスやカナダでも承認された。チモシーに加えて、ライ芝やケンタッキー・ブルーグラスなど計5種類の芝・牧草のアレルゲンを含有していることが特徴。同社は免疫寛容療法用薬を主力製品とするフランス企業。経口免疫寛容療法が比較的普及している欧州でも剤型は経口液が中心で、同社の2012年の免疫療法用薬売上高2.1億ユーロのうち、Oralairは1600万ユーロのみだ。

リンク:Stallergenesのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンが日本でTMC435を承認申請

(2013年2月22日発表)

スエーデンの新興医薬品会社であるメディビア(OMX: MVIR)が開発したNS3/NS4Aプロテアーゼ阻害剤、TMC435(simeprevir)が、ライセンシーであるジョンソン・エンド・ジョンソンによって日本で承認申請された。遺伝子型1型のC型慢性肝炎の一次治療、二次治療にPEG化インターフェロン及びribavirinと併用する。服用頻度が1日一回であることと、先行品と比べて忍容性が比較的良いことが長所。日本では一次治療、二次治療などの第三相試験が実施された。

リンク:メディビアのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP:ヴィ-ヴァスの体重管理薬を再度却下

(2013年2月22日発表)

EUの薬品監督機関であるEMAは、医薬品科学的評価機関であるCHMPの月例会議を開催、サノフィの6種混合ワクチン等に肯定的意見を出した。一方、ヴィーヴァス(Nasdaq:VVUS)の体重管理薬Qsiva(phentermineとtopiramateの合剤)は再び否定的評価となった。

リンク:CHMPのプレスリリース

肯定的評価を受けたのは、まず、サノフィとMSDの欧州合弁が開発した6種混合ワクチン、Hexacima/Hexyon。ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、インフルエンザ菌B型感染症、B型肝炎を予防する。同社は同様なワクチンであるHexavacを販売していたが、B型肝炎抗原の免疫原性が低下していることが発覚、2005年に販売中止となった。この余波でグラクソ・スミスクラインのInfanrix Hexaの需要が増加、年商12億ドルの大型製品になった。サノフィ・パスツールMSDは巻き返しを図る。

リンク:サノフィ・パスツールMSDのプレスリリース(pdfファイル)

次に、Lucane Pharmaが承認申請した尿回路異常症治療薬、Pheburane(sodium phenylbutyrate)も肯定的意見。この窒素結合剤は米国でもハイペリオン社(Nasdaq:HPTX)が承認申請し、今月初めに承認された。

EUで医薬品の販売許可を得るには、EMAに申請する方法と、加盟国のどれかに申請し、承認された後に他の加盟国に相互認証を求める方法がある。EMAが承認した薬はジェネリック品もEMAが承認審査する。今月は、アルツハイマー病薬Namenda(memantine、和名メマリー)のGE品が肯定的意見を得た。一つは米国のマイラン、もう一つは同じく米国のアクタビスの製品。アクタビスは、Glivec(imatinib、和名グリベック)のGE品も肯定的意見。

一方、ヴィーヴァスは昨年10月にCHMPが否定的意見を出したため再審請求を行ったが、今回もダメだった。心血管アウトカム試験を行って心安全性を確認することを求められた。FDAも市販後の実施を求めているので、数年後に結果が出た後で欧州再申請となりそうだ。

欧州は米国に負けず劣らず、肥満症治療薬に関するネガティブな経験を持っている。まず、Qsivaの活性成分の一つであるphentermineは、米国のfenfluramine/dexfenfluramine併用例で心弁変形や肺高血圧症のリスクが高まることが判明、欧州の多くの国で販売中止となった。

クノール(後にアボットが買収)のReductil(sibutramine)は2002年にイタリアで承認停止となったが、CHMPがリスクより便益の方が大きいと判定し沈静化、日本でも承認申請され2009年に部会を通過、承認の一歩手前まで行った。ところが、同年に心血管アウトカム試験の結果が判明し、予防効果がないだけでなくむしろリスクを高める可能性が示唆されたため2010年に販売中止、日本も申請取下げとなった。

更に、fenfluramineと同様にセルビエが開発し1976年に糖尿病用薬として発売したMediator(benfluorex)が2009年に心毒性を理由に販売中止になった。33年も放置されたのが不思議だが、フランスでは政治家を巻き込むスキャンダルになっているようだ。

これらの歴史を考えると、米国で昨年、Qsymiaとして承認された薬が欧州で承認されなかったのも無理はないだろう。

リンク:ヴィーヴァスのプレスリリース(2月21日付)

【承認】


ロシュのバイオコンビ薬が米国で承認

(2013年2月22日発表)

FDAは、ロシュのジェネンテック子会社のKadcyla(ado-trastuzumab emtansine、開発名T-DM1)を、her2陽性転移性乳癌でHerceptin(trastuzumab)及びタクサン系抗癌剤の前治療歴を持つ患者向けに承認した。転移性乳癌の二次治療だけでなく、早期乳癌の切除術付随療法として両剤を用いたが半年以内に再発した患者の一次治療も適応。

第三相試験では、her2陽性転移性乳癌の代表的な二次治療レジメンであるXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)とTykerb(lapatinib、和名タイケルブ)の併用療法と比較したところ、PFS(無増悪生存期間)がメジアン9.6ヶ月と対照群の6.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.65だった。メジアン生存期間も30.9ヶ月対25.1ヶ月、ハザードレシオ0.68だった。実薬対照試験でこれだけ大きな差が出たことに驚かされる。副作用は、肝毒性、左室駆出率低下、催奇性が枠付警告された。

KadcylaはHerceptinの活性成分である抗her2モノクローナル抗体に、DM1と呼ばれる強力な微小管重合阻害剤を結合したもの。癌細胞の成長因子受容体であるher2に結合し、細胞の中に入るとリンカーが外れ、DM1が細胞毒性を発揮する。癌細胞選択的に作用する抗体に細胞毒を搭載する『ミサイル療法』はアイディアとしては昔からあったが、血液中でリンカーが外れてしまうことがボトルネックだった。

しかし、イミュノジェン(Nasdaq:IMGN)がHerceptinにDM1を結合する技術を開発。2000年にジェネンテックがライセンスし、2006年に臨床入りさせた。シアトル・ジェネティクス(Nasdaq;SGEN)も同様なドラッグ・アンティバディ・コンジュゲート技術を用いた抗リンパ腫薬Adcetris(brentuximab vedotin)を一足早く2011年に発売している。潰しの効く、有望な技術である。

価格は高く、1ヶ月分が$9800/月、患者一人当たりメジアン$94000と推定されている。現在は二次治療薬だが、Herceptinと同様に、一次治療、切除術付随と用途を広げ、将来はHerceptinに取り替わっていくだろう。タクサン系とHerceptinの併用療法と比べて副作用が小さいことが長所だ。日本でも中外が1月に承認申請した。

リンク:ジェネンテックのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年2月17日

海外医薬ニュース2013年2月17日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • 米国で人工網膜が承認
  • ファーマサイクリクスの開発品もFDAのブレークスルー・セラピー指定を獲得
  • 優先審査は実質8ヶ月、標準審査は同12ヶ月
  • バイエルがriociguatを欧米で承認申請
  • tivozanibは全生存期間ではネクサバールとの差を示せず
  • トレシーバは米国では承認されず
  • ジクロフェナクはエッセンシャル・メディスンから外すべき?


【今週の話題】


米国で人工網膜が承認

(2013年2月14日発表)

FDAは進行した網膜色素変性症の患者が使う人工網膜システムを承認した。話に聞いたことはあるが、医療機器として承認されるほど開発が進んでいたとは驚いた。現時点では能力に限りがあるようだが、将来に期待が持てそうだ。

このシステムは、カリフォルニア州のセカンド・サイト・メディカル・プロダクツ社のArgus II Retinal Prosthesis System。仕組みは、眼鏡に取り付けられたミニチュア・ビデオ・カメラが撮影した画像を、ショルダーバッグに入れた映像処理コンピュータで電気信号に変えて、眼球にインプラントされた人工網膜に無線で伝送。人工網膜の電極が電気シグナルを発し視神経が認識、脳に情報を送る。

この電気的シグナルは本来の網膜が発するシグナルとは異なり、脳に結ばれる映像が何を意味するか判断できるように練習する必要があるようだ。安全性の面では、被験者30人中11人が23件の深刻な有害事象を経験した。結膜びらん、インプラント後の縫合糸の裂開、網膜剥離等である。

適応になるのは網膜内層の機能に問題がない患者だけだ。更に、今回の承認は人道的配慮による特例承認なので、光は認識できても光が来る方向は分からないような重度の患者が対象になる。

それでも、周りの人や物の動き、明暗等を認知できるようになるので、生活機能が向上する。大きな字が読めるようになる可能性もあるようだ。

網膜が画像をどのように変換しているのか解明が進めば、もっと良い製品が開発できるかもしれない。今回のような正式承認の道筋が用意されていれば、民間企業や投資家が集まり、競争の中で開発がスピードアップするかもしれない。色々な意味で感慨深いニュースだ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:セカンド・サイト社のウェブサイト(このシステムを簡単に説明したビデオあり)

ファーマサイクリクスの開発品もFDAのブレークスルー・セラピー指定を獲得

(2013年2月12日発表)

2012年に導入されたブレークスルー・セラピー(BT)指定制度の第二号が明らかになった。ファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発しているBTK阻害剤、PCI-32765(ibrutinib)で、予定適応症はマントルセル・リンパ腫とワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症。

マントルセル・リンパ腫で第三相段階だが、第二相試験(再発性・難治性患者に客観的反応率68%)のデータに基づいて年末までに承認申請される予定。2012年12月9日号で書いたように、再発性・難治性慢性リンパ性白血病の第一相/二相試験でも客観的反応率68%という良い成績を上げ、第三相に進んだ。BTKはBセルのサバイバルや増殖に関わるチロシン・キナーゼで、PCI-32765は様々なBセル腫瘍に適応拡大が進みそうだ。

BT指定制度は2012年7月発効のFood and Drug Administration Safety and Innovation Actに基づくもので、深刻な、または命に係わる病気や症状に対して、既存の薬より顕著に優れる効果を示した開発品に与えられる。臨床的に重要な評価項目に関するエビデンスがあれば開発初期段階のデータしかなくても適用される。IND(治験許可申請)時またはその後に開発者が適用申請する。

第一号はバーテックス社(Nasdaq: VRTX)のKalydeco(ivacaftor)で、適応拡大とVX-809併用療法でBT指定されたことが1月6日にJPモルガンのヘルスケア・カンファレンスで発表された。Kalydecoは2012年に欧米で承認されたCFTRポテンシエイターで、G551D変異型嚢胞性線維症(対象患者は世界で約2000人)の治療に用いる。複数の適応症でBT指定された模様で、R117H変異型と非G551Dゲーティング変異型の嚢胞性線維症に関する第三相段階のプロジェクトも対象と推測される。

VX-809はCFTR矯正剤(corrector)と呼ばれる、Kalydecoとは異なるメカニズムを持つ小分子薬。VX-809はCFTRを増やすことによって、KalydecoはCFTRチャネルをポテンシエートすることによって、クロライド・チャネルの機能を向上し、嚢胞性線維症に伴う粘液の蓄積を改善する模様だ。米国の嚢胞性線維症患者の5割弱を占めるF508欠損ホモ接合型の第三相併用試験が間もなく始まる予定。

米国には新薬開発をスピードアップ・支援するための様々な制度がある。ファースト・トラック指定や加速承認、優先審査などでだ。これらの制度とBT指定制度の違いは明確ではなく、バーテックスも、BT指定されるとどのような恩恵(インプリケーション)があるのか現時点では不明と述べている。第一号、第二号は開発がかなり進展しており、後期第一相試験の反応率データで承認取得を狙うという野心的なプロジェクトではない。どちらかと言えば、取れるものなら取っておいた方が有利という判断だったのではないだろうか。

リンク:ファーマサイクリクスのプレスリリース(2013年2月12日付)

リンク:FDAの開発・承認審査推進策に関する一般向け説明ページ

優先審査は実質8ヶ月、標準審査は同12ヶ月

先週はバイエルの去勢抵抗性前立腺癌骨転移治療薬とGSK/塩野義の抗HIV薬がFDAに優先審査指定されたことが発表された。GSKのインテグラーぜ阻害剤dolutegravirは承認申請が昨年12月17日で審査期限(PDUFA date)は今年8月17日、バイエルのradium-223 dichlorideもプレスリリースも8ヶ月審査と記されている。これは、PDUFA改正で審査期間が実質的に延長されたからだ。

Prescription Drug User Fee Actは医薬品業界から承認申請時及び毎年、フィーを徴収して承認審査体制の拡充に充てるもの。見返りに、承認審査期間の目標を課した(但し、未達でもペナルティはない)。FDAに対する医薬品業界の影響力が強まるという懸念があったため5年間の時限立法とされたが、承認審査のスピードアップなどの成果が上がったため、これまでのところ毎回延長され、更には、GE薬や医療機器にも同様な制度が導入された。

但し、前回のPDUFA IV辺りから審査期間短縮が最大目標ではなくなり、昨年10月1日発効のPDUFA Vでは実質的に延長された。審査期間の起算が承認申請(submission)から受理(filing)された時点に変わったのである。承認申請から受理まで約2ヶ月かかるので、優先審査は2+6ヶ月で8ヶ月、標準審査は2+10ヶ月で12ヶ月となったのだ。

PDUFAは開発者がFDAと臨床開発に関する相談をできるようにするなど広範な成果を上げたが、その分、FDAの仕事量も増えている。FDAの科学者の中には審査官としてキャリアを積んだ後にコンサルタントのような職業に就くことを希望している人もいるので、毎年の退職者も少なくはなく、体制強化が必要なほどには進んでいない。今回の審査期間延長は、最優先すべき薬とそうでない薬のメリハリを付けることを意味しているのではないだろうか。

【承認申請】


バイエルがriociguatを欧米で承認申請

(2013年2月11日発表)

バイエルはriociguatを手術不能CTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)とPAH(肺動脈高血圧症)の治療薬として欧米で承認申請した。可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤で、酸化窒素合成酵素がcGMPを増やして血管平滑筋を弛緩するパスウェイを強化する。酸化窒素に依存せずにsGCを活性化することが特徴。肺高血圧症には四種類の代表的なサブタイプがあるが、CTEPHに効果を示した薬はriociguatが初。一日三回服用する経口剤なので使いやすい。

CTEPHの第三相試験では16週間の治療後、6分歩行テストの成績が偽薬比46m改善した。PAH試験でも12週間で偽薬比36m改善。WHO機能クラスも改善した。主な治療時発現有害事象は頭痛、消化不良、末梢浮腫、悪心、眩暈、下痢など、バイエルはピーク年商を2.5~5億ユーロと予想している。

リンク:バイエルのプレスリリース

【承認審査・委員会】


tivozanibは全生存期間ではネクサバールとの差を示せず

(2013年2月12日発表)

アヴェオ・オンコロジー(Nasdaq: AVEO)とアステラス製薬はVEGF受容体阻害剤tivozanibを末期腎細胞腫の一次治療薬として米国で2012年9月に承認申請した。第三相実薬対照試験でPFS(無増悪生存期間)がバイエルのNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)より有意に優れていたことを薬効のエビデンスとしたが、二次的評価項目である全生存期間の解析では有意差がなかったことがプレスリリースで公表された。

16日にGU ASCO(米国臨床腫瘍学会泌尿生殖器癌シンポジウム)でも学会発表されたとのことだが、私は内容を把握していない。プレスリリースによると二次治療を受けた患者の比率に群間の偏りがあったとのことなので、それが原因だろう。tivozanibの不可逆的副作用が原因で二次治療を受けられなかったとか、今後の解析でハザードレシオが悪化するとかいうようなことが起きない限り、承認の妨げにはならないのではないだろうか。

発表によるとtivozanib群のメジアン生存期間は28.8ヶ月、Nexavar群は29.3ヶ月、ハザードレシオは1.245、p=0.105だった。この試験のNexavar群の患者は癌が進行し治験を離脱した後にtivozanibの長期投与単群試験に参加することができたが、tivozanib群の患者には特別なプロトコルは用意されなかった。そのせいか、Nexavar群の患者は74%(tivozanib等の抗VEGF療法だけでも70%)が二次治療を受けたが、tivozanib群は36%(10%)に留まった。

メジアンPFSでは3ヶ月の差があったが二次治療を受けた患者が少なかったため全生存期間の差が縮小した、というシナリオは十分に考えられる。但し、代替的シナリオも想定できる。例えば、各剤の副作用の影響。Nexavar群は副作用が原因で十分な治療を行えず進行した患者が多かったが、これらの副作用は可逆的であったため投与中止後に改善し、二次治療の妨げにならなかったとか、逆に、tivozanib群の副作用は中々軽快せず二次治療を断念せざるを得なかった、というようなことがあったかもしれない。

あるいは、Nexavar群は医師が警戒して早めにCT/MRI検査を行ったためにPFSが早く判定された、というシナリオも考えられる。抗癌剤は特徴的な副作用を持つことが多いため二重盲検試験でも試験薬の割付を推測できる可能性がある。腎細胞腫の一次治療はSutent(sunitinib、和名スーテント)を用いるのが通常であり、Nexavar群に割付けられた患者の担当医が効果に不安を持ったとしても不思議ではない。

承認されている薬が複数存在する中でわざわざこの試験に参加したのはtivozanibに期待したからだとすれば、治験をさっさと終わらせて確実にtivozanibを使うことができる長期投与単群試験に移ることを望んだかもしれない。

数字面で気になるのは、ハザードレシオの数値が悪いことだ。統計学的には有意ではないが、p=0.105なので無意味とも言えない。今後、死亡者が増えるにつれて治験の検出力が高まることになるが、有意な差が出ないことを期待したい。

リンク:アステラス製薬のプレスリリース(和文)

トレシーバは米国では承認されず

(2013年2月10日発表)

ノボ ノルディスクは持効性インスリンのTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)と、その活性成分とNovoLog(insulin aspart)をプリミックスしたRyzodegを米国でも承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領した。心血管アウトカム試験のデータの提出と、デンマークの工場の品質管理体制改善を求められた。

Tresibaは臨床試験で心血管疾患を発症した患者が対照群より多かったが、ハザードレシオは1.1とそれほど高くなく、症例数が少ないこともあり統計的な有意性はなかった。昨年11月の諮問委員会では12人の委員全てが心血管アウトカム試験の実施を求めたが、結果が出るまで承認を見送るべきと判定したのは4人だけで、残りの8人は承認後に行って安全性を確認すれば十分とした。

アウトカム試験はまだ開始されていないはずなので、中間解析のデータで足りるとしても、提出は2015~16年になってしまうのではないか。

品質管理問題は昨年12月にFDAが警告状を出している。例によって細かい違反内容が列記された後に、問題が矯正されるまで新薬・適応拡大承認を見送るかもしれないと記されている。この種のcurrent Good Manufacturing Practice違反問題は解決まで数年かかるケースも散見されるので、要注意だ。

Tresibaは欧州でロールアウトが始まった。ロイター報道によると、英国の価格はLantus(insulin glardine、和名ランタス)の60~70%増しで決まったとのことだ。日本でも遅れていた薬価収載が決まったので間もなく発売される見込み。一方、米国は、GLP-1作用剤Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)の時と同様に、大幅遅延になりそうだ。偶々運が悪かったのか、何か特別な理由があるのか、再検討した方が良いのではないだろうか。

リンク:ノボのプレスリリース

リンク:
FDAのcGMP違反警告状


リンク:英国の価格に関するロイターの記事

【医薬品の安全性】


ジクロフェナクはエッセンシャル・メディスンから外すべき?

(2013年2月12日発表)

PLOS Medicine誌に、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDs)diclofenacをエッセンシャル・メディスン・リスト(EML)から外すべきと主張する論文が掲載された。EMLは医療に不可欠な医薬品のリストで、選定はWHOがイニシアティブを取っている

NSAIDsの中でも、rofecoxib(Vioxx)、diclofenac(VoltarenとGE品)、etoricoxib(Arcoxia)の三剤は心血管疾患リスクを高めることが様々な疫学的試験や前向き無作為化割付試験のメタアナリシスで確認されている。VioxxはMSDが販売を中止、Arcoxiaも売上高は小さいが、diclofenacは74ヶ国のEMLに収載されていて市場シェアは平均30%弱と、NSAIDsの中で最も高い。

一方、心血管リスクが最も小さいnaproxenは27ヶ国、10%足らずに留まっている。このため、論文著者はEMLから除外するよう主張している。

NSAIDsの副作用と言えば真っ先に連想するのは胃腸副作用だ。Vioxxは胃腸粘膜のヒーリングに寄与するCox-Iを阻害せず炎症に関わるCox-IIだけを阻害することで胃腸安全性を高めたが、意外なことに、心血管リスクが高まることが判明した。これを契機に他のNSAIDsも含めた心血管安全性が検討されたが、私の印象では、胃腸に安全な薬は心血管に安全ではない。逆に、心血管安全性が最も高いと考えられているnaproxenは胃腸安全性があまり高くない。

また、diclofenacやアセトアミノフェンは高用量で肝毒性を持つことが海外で報じられている。アセトアミノフェンは日本では低量しか承認されておらず海外でも承認用量を守れば肝毒性は小さいと考えられているが、diclofenacは関節炎の場合は日本でも一日75~100mgと、海外とそれほど変わらない用量が採用されている。

鎮痛剤は反応や副作用に個人差があるので様々な治療オプションが必要であり、結局、どの薬を第一選択にすべきかが検討課題になる。コンセンサスはまだないようだが、著者は、少なくともdiclofenacではないはずだ、と言いたいのだろう。

リンク:McGettiganらの論文(PROS Medicine、オープン・アクセス)

今週は以上です。

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2013年2月10日

海外医薬ニュース2013年2月10日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • EHJ誌がKYOTO HEART STUDYのメインの論文を掲載撤回
  • GS-7977のHCV第三相試験は二本目、三本目も成功
  • アイデニクスはIDX184の開発を中止
  • イーライリリーは抗BAFF抗体のリウマチ向けを中止、SLEは続行
  • GSKがEUでMEK1/2阻害剤を単剤・併用で承認申請
  • Ampligenはやはり承認されず
  • 第三のIMiDsが米国で承認
  • FDAがドキシルのGE品を優先審査で承認
  • EUでサノフィのGLP-1作動剤が承認
  • ZaltrapがEUでも承認
  • エランがTysabriの権利をバイオジェンに売却


【今週の話題】


EHJ誌がKYOTO HEART STUDYのメインの論文を掲載撤回

欧州心臓学会のEuropean Heart Journalが、日本で実施されたDiovan(valsartan、和名ディオバン)の心血管アウトカム試験、KYOTO HEART STUDYの治験論文を撤回した。幾つかの予兆があったのでこのような事態を懸念していたのだが、いざ実現してみると、拍子抜けした。

第一の理由は、EHJ誌の発表が簡素であること。一部のデータに重要な問題があったため、としか説明していない。2009年のESCで学会発表され、同時にウェブサイトに論文が先行公開された時には大々的に発表したのに、大きな違いだ。

第二は、発表が簡素であったせいか、医療メディアが殆ど報道していないこと。私は2月3日号を書いた後にForbesのウェブサイトで初めて知ったのだが、今日に至っても少数のメディアしか報じていない。日本は全く見当たらず、2月10日時点で「京都 KYOTO Heart Study」で検索したところ、流石にノバルティスがスポンサーのウェブ広告、ディオバン座談会はヒットしなくなった(削除された?)が、論文撤回のニュースは見当たらず、私が2009年に書いた記事がトップである。

新規に論文を読む人はおらず、過去に読んだ人もやがて忘れるだろうから、撤回を喧伝してもしなくても長い目で見れば変わらないのかもしれないが、医学論文とはこんなに軽いものなのだろうか?

さて、改めてPubMedで調べてみると、KYOTO HEART STUDYの治験論文は7本刊行/ウェブサイトで先行公開されたが、うち3本が掲載撤回、2本は投稿撤回となった。残りの2本はどうなるのだろうか?

もう一つ、ディオバン三部作のうち、降圧作用を超える心血管保護効果を示したもう一本のJIKEI HEART STUDYはどうなのだろうか?

KYOTO HEART STUDYで印象的だったのは、valsartan群と対照群の血圧平均値の推移を示すグラフがほとんど重なっていたことだ。降圧を超える保護効果を検証するためには両群の血圧が同じであることが望ましいのだが、実現するのは難しく、3mm Hgという比較的大きな差が出てしまった試験もあった。JIKEI HEART STUDYでも両群の平均血圧と標準偏差が同じであるのはおかしいという指摘がある。二重盲検ではなくPROVE法であることも同じだ。

リンク:EHJ誌の掲載撤回文

リンク:Forbes誌の関連記事

リンク:KYOTO HEART STUDY(循環器トライアルデータベース)

リンク:JIKEI HEART STUDYに関する投稿(Lancet誌)

【新薬開発】


GS-7977のHCV第三相試験は二本目、三本目も成功

(2013年2月4日発表)

ギリアッド(Nasdaq: GILD)はHCVポリメラーゼ阻害剤GS-7977(sofosbuvir)の慢性C型肝炎第三相試験を行っているが、遺伝子型2型(GT2型)と3型(GT3型)を対象にした二次治療試験に続いて、初めて治療を受ける患者を対象に実施した試験二本も成功したことを公表した。

一本はGT2型と3型を組入れてribavirinと経口剤二剤併用で12週間治療し、PEG化インターフェロン・アルファとribavirinの24週間コースとSVR12(12週持続的ウイルス学的奏効率:治療完了後12週間経ってもウイルスが検出されなかった患者の比率)を比較したもの。どちらも67%で非劣性解析が成功した。有害事象による治験離脱が1%対11%と少なかったことも寄与したのだろう。被験者の72%を占めたGT3型に関しては56%対63%で効果がやや見劣りする(統計学的な有意性は不明)。

もう一本は、欧米日で最も多いGT1型を中心に、4、5、6型の患者を組入れてribavirin、PEG化インターフェロン・アルファと三剤併用で12週間治療したところSVR12が90%となり、過去の同様な試験のSVRが60%であったことと比べて優れていた。89%を占めたGT1型では89%だった。

ギリアッドは、残りの試験の結果を待って年央に承認申請する予定。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

アイデニクスはIDX184の開発を中止

(2013年2月4日発表)

アイデニクス(Nasdaq: IDNX)のHCVポリメラーゼ阻害剤IDX184は、結局、開発中止となった。

これまでの臨床開発は紆余曲折を経た。2010年にIDX320(プロテアーゼ阻害剤)併用試験で重度の肝機能検査値異常が複数の患者で発生しFDAがクリニカル・ホールド(治験中断)を命じた。IDX320が原因だった模様で2011年に解除となったが、2012年に類薬のBMS-986094の第二相で複数の呼吸困難症例が発生したことからIDX320も部分的治験中断(新規組入れ停止)になった。アイデニクスは心臓安全性試験を実施しFDAに提出。特に問題はなかったようだがFDAは解除せず、今回の開発中止に至った。

リンク:アイデニクスのプレスリリース

イーライリリーは抗BAFF抗体のリウマチ向けを中止、SLEは続行

(2013年2月7日発表)

イーライリリーは抗BAFF完全ヒト化抗体LY2127399(tabalumab)をリウマチ性関節炎と全身性エリスマトーデス(SLE)の二用途で第三相入りさせたが、前者は開発中止となった。一本目が薬効不十分で中止となり、他の二本も中間解析を実施、おそらく良くなかったのだろう、中止に至った。SLEの試験は続行している。

BAFFはGSKのBenlysta(belimumab)の標的であるBLySと同じものだ。Benlystaのリウマチ第二相試験も有望であるようには見えなかったので、今回の発表に意外感はない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


GSKがEUでMEK1/2阻害剤を単剤・併用で承認申請

(2013年2月7日発表)

グラクソ・スミスクラインはbrafV600変異型悪性黒色腫向けにGSK2118436(dabrafenib、braf阻害剤)とGSK1120212(trametinib、MEK1/2阻害剤)を開発、前者は2012年8月に欧米で承認申請した。米国では同月に後者もモノセラピーで申請したが、EUは今回、モノと両剤併用で承認申請となった。併用は第1/2相試験のデータを裏付けとしたようだ。

braf阻害剤はロシュが2011年に発売したZelboraf(vemurafenib)が第一号で、悪性黒色腫の6割を占めるbrafV600変異型に顕著な効果があるが、耐性変異が生じることもある。MEK1/2阻害剤は単剤では効果がbraf阻害剤より見劣りするが、二剤併用によって効果を高めるだけでなく耐性変異も抑えられる可能性があり、併用第三相試験の結果が待望される。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Ampligenはやはり承認されず

(2013年2月4日発表)

Hemispherx Biopharma(NYSE MKR: HEB)はAmpligen(rintatolimod)を慢性疲労症候群の治療薬として承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領した。追加臨床試験と様々な前臨床試験、データ解析を求められたとのことで、同社は、審査後会議を行ったうえで、不服申立手続きを取る考え。

Ampligenは二重連鎖DNA薬で、トール・ライク・レセプター(TLR)3を作動して免疫を刺激する。2007年に承認申請したがFDAに受理されず、08年にやっと受理されたが審査完了となった。2012年に追加データを申請、諮問委員会にかけられたが、14人の委員のうち8人が承認に反対、5人は支持、一人は抗議して退場した。

ボトルネックとなったのは薬効が明確でないこと。薬効確認試験は二本実施され、一本では有意な治療効果が見られたが、一本は不明瞭で同社の解析では有意だがFDAの厳格な解析では有意ではなかった。慢性疲労症候群はウイルス感染との関連が指摘されているが、関係なさそうな症例もある。Ampligenの作用機序を考えれば前者に適している可能性があるが、ウイルス性か否かを事前に判定するのは難しい。結局、奏効率が低下するのを覚悟して闇雲に投与するしかない。

トリートメントINDという制度を利用して10年以上Ampligenによる治療を受けている患者が、先月30日から承認を求めてハンガー・ストライキを行っているとのことだ。このようなケースでいつも思うのだが、有効な薬と信じるならば、そして患者にとって必要な薬と思うのならば、FDAとの交渉に徒に時間を費やすのではなく、もう一度キチンとした試験を行うのが一番の早道ではないだろうか。

リンク:Hemispherxののプレスリリース

【承認】


第三のIMiDsが米国で承認

(2013年2月8日発表)

セルジーン(Nasdaq: CELG)のPomalyst(pomalidomide)がFDAに難治性多発骨髄腫用薬として承認された。同社のThalomid(thalidomide)、Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)に次ぐ第三のIMiDS(免疫調整薬)で、免疫力を強化して腫瘍化した血球細胞を破壊・成長阻害する。RevlimidとVelcade(bortezomib、武田薬品/JNJ)による治療を既に受けた、最後の治療に反応しなかった患者に用いる。催奇性の疑いがあり、妊婦は禁忌。

セルジーンは月10500ドルと、昨年オニクスが発売したプロテアソーム阻害剤Kyprolis(carfilzomib)の月9950ドルより高い価格で発売する模様だが、経口剤なので特に割高感はない。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:セルジーンのプレスリリース

FDAがドキシルのGE品を優先審査で承認

(2013年2月4日発表)

FDAはDoxil(doxorubicin HCl liposome injection、和名ドキシル)のGE品を優先審査で承認した。Doxilは2011年から品不足になっている。受託生産しているBen Venue社の工場で品質管理問題が発生したことが原因だ。緊急措置としてFDAはサン・ファーマ社のGE品の輸入を認めたが、今回、正式に承認した。Caraco社が販売する。

GE品も優先審査の対象になるとは知らなかった。今回のように、FDAの供給不足品リストに載っている薬に適用されるとのことだ。

リンク:FDAのプレスリリース

EUでサノフィのGLP-1作動剤が承認

(2013年月日発表)

サノフィは、デンマークのZealand Pharma社から導入して開発したexendinアナログ、Lyxumia(lixisenatide)がEUで二型糖尿病治療薬として承認されたと発表した。BMSのByetta(exenatide)と同様に、アメリカ毒トカゲの唾液から発見されたexendinの類縁体で、GLP-1受容体を作動して、血糖値上昇時にインスリンの分泌を刺激し、グルカゴンの過剰生産を抑制し、食物が胃から移動するのを遅らせ、食欲を抑制する。米国では昨年12月に申請された。

一日一回、皮注。サノフィは一日一回投与型インスリンのLantus(insulin glargine)というベストセラーを持っているので、Lyxumiaとのプリミックスの開発に期待がかかる。ところが、Fix-Flexコンビ薬(Lantusの用量は調節可、Lyxumiaは固定)の第三相入りが当初予定の2013年から遅れる見込みになった。量産プロセスの開発が順調に進んでいない模様だ。

Fixed-Ratioコンビ薬(Lantusの用量だけを調節することができない)は後期第二相試験が完了、データは今年発表される予定。こちらが先に第三相入りするかもしれない。

リンク:EU承認に関するZealandのプレスリリース

リンク:コンビ薬開発遅延に関するZealandのプレスリリース

ZaltrapがEUでも承認

(2013年2月5日発表)

リジェネロン(Nasdaq: REGN)と開発パートナーであるサノフィは、Zaltrap(ziv-aflibercept)がEUで結腸直腸がんの二次治療薬として承認されたと発表した。ロシュのAvastin(bevacizumab)と類似した薬だが抗体医薬ではなくVEGFの二種類の受容体の可変領域を免疫グロブリンG1の固定領域と細胞融合したもの。

米国では昨年8月に発売されたが、価格が月1.1万ドルであるためMSKCCが採用しないことを決定、結局、値下げを余儀なくされたようだ。ZaltrapはFOLFIRIというirinotecanベースの併用療法と一緒に使うが、AvastinのFOLFIRI併用時の用量が確立していないことが混乱の原因となったようだ。高量との比較ではZaltrapは割高ではないが、低量を使う医療施設では価格が倍になってしまう。

リンク:リジェネロンとサノフィのプレスリリース

【製薬会社の動き】


エランがTysabriの権利をバイオジェンに売却

(2013年2月6日発表)

アイルランドのバイオ企業、エラン(NYSE: ELN)はバイオジェン・アイデックと合弁会社方式で多発性硬化症維持療法用薬Tysabri(natalizumab)を販売してきたが、権利売却を決めた。一時金の32.5億ドルに加えて、売上ロイヤルティを受け取る(初年度は売上高の12%、その後は年商20億ドル以下の部分は18%、超える部分は25%)。Tysabriの2012年の売上高は16億ドル。

リンク:エランのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年2月3日

海外医薬ニュース2013年2月3日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • Feuerstein・Ratainの法則~セルシオンの第三相がフェール
  • リツキサン後継薬の第三相試験が成功
  • 鉄系高リン血症治療薬の長期投与試験が成功
  • MSDの骨粗鬆症治療薬の承認申請が遅延
  • MSDが経口減感作療法用薬を米国で、不眠症薬を日本で、承認申請
  • FDA諮問委員会がベーリンガーのLABAを支持
  • FDA諮問委員会が嚢胞性線維症用薬を支持せず
  • FDAがApoB-100アンチセンス薬を承認
  • FDAが尿回路異常症の治療薬を承認
  • EUがコレバインを承認


【今週の話題】


Feuerstein・Ratainの法則~セルシオンの第三相がフェール

(2013年1月31日発表)

セルシオン(Nasdaq: CLSN)は、ThemoDoxの切除不能肝癌試験がフェールしたと発表した。ThermoDoxはdoxorubicinを熱感受性リポソームに入れた抗癌剤で、今回の試験では、高周波アブレーションの付随療法としてPFS(無増悪生存期間)を向上する効果を高周波アブレーションだけの群と比較したが、有意差が出なかった。

日本ではヤクルトが導入、今回のHEAT試験にも参加していたが、残念な結果になった。

リンク:セルシオンのプレスリリース

さて、セルシオンの第三相試験がフェールしたことで再び脚光を浴びたのがFeuerstein・Ratainの法則だ。

TheStreet.comという株式投資サイトのコラムニストであるAdam Feuersteinと、シカゴ大学の腫瘍学者であるMark Ratain博士は、2011年に米国立癌研究所の機関誌JNCIに"Oncology Micro-Cap Stocks: Caveat Emptor"という論評を刊行した。

それによると、過去10年間の抗癌剤59品の第三相試験を分析したところ、時価総額3億ドル未満の企業の開発品21品は全てフェールだった。一方、10億ドル以上の企業の開発品は27品中21品、78%が成功した。大変な違いである。この法則は、昨年4月にperifosineの試験がフェールしたケリックス・バイオファーマシューティカルズにも当てはまる。

抗癌剤は第二相試験の結果に基づいて承認されるケースもあり、比較的開発投資が小さいため資金力に劣る新興企業に適した領域のように思われがちだが、実際は違うのだ。セルシオンは第二相試験を行わず第一相から一足飛びに第三相へ進んだが、大手製薬会社なら第一相がよほど良くない限り、順番を守るだろう。

米国の新興企業は一年分の資金しか持っていないことが多く、開発に時間を掛ける余裕はない。それどころか、有望新薬の開発を中止すると株価が暴落し資金調達できなくなるので、最後の審判の日が来るまではフェールしない方法、つまり、白黒付かないような中途半端なプルーフ・オブ・コンセプト試験を行って第三相に全てを賭ける戦略を取らざるを得ないのである。

まあ、有望な新薬なら株式投資家が注目して時価総額が増えるだろうし、それ以前に、大手製薬会社がライセンスするだろう。また、私は普段、事後的分析はアテにならないと言っているのだから、両氏の事後分析にも同じ注意書きを付けるべきである。だがそれにしても、頭の片隅には入れておいた方がよいかもしれない。

リンク:FeuersteinとRatainの論評(JNCI、フリーアクセス)

【新薬開発】


リツキサン後継薬の第三相試験が成功

(2013年1月31日発表)

ロシュは、GA101(obinutuzumab)のCD20陽性慢性リンパ性白血病一次治療chlorambucil併用試験の成功を発表した。欧米で承認申請される予定。

GA101はRituxan(rituximab、和名リツキサン)と同じリンパ球表面のCD20を標的とする抗体医薬だが、キメラではなくマウス由来のアミノ酸が少ないヒト化抗体であり、また、糖鎖を改変することによってADCC(抗体依存的細胞障害)活性を向上したもの。Rituxanの主用途である非ホジキン型リンパ腫などでも第三相直接比較試験が進行中で、将来はRituxanに取り替わることが期待されている。

今回の第三相試験は二つのステージがあり、第一ステージではchlorambucil単剤投与群とPFS(無増悪生存期間)を比較、成功した。第二ステージではRituxan・chlorambucil併用と比較しているが、futulity(無益性)分析の結果、第二ステージ続行が認められた。Rituxanより優れていることが確認されたわけではないが、期待は裏切られていないことになる。

GA101の糖鎖改変はロシュが2005年に2億スイスフランで買収したGlycArt社のGlycoMAb技術を用いている。グリコシルトランスフェラーゼの遺伝子を過剰発現するCHOセルに抗体を生産させることによって、翻訳後装飾でフコースが付加されるのを防ぎ、NKセルやマクロファージのFcガンマ受容体IIIaに結合する力を高めた。協和発酵キリンのポテリジェント技術はFUT8を発現しないCHOセルを用いることによってフコース欠如抗体を生成しており、セルラインは違うが結果は類似している。

抗CD20ポテリジェント抗体のin vitro試験論文は中々インプレッシブだった。ロシュのジェネンテック部門がポテリジェント技術をライセンスしたので私はポテリジェント・リツキサンの登場を想定していたのだが、ジェネンテックを完全子会社化したロシュはパイプラインを整理、ロシュが別途開発していたGlycoMAbベースのGA101を選択した。

リンク:ロシュのプレスリリース

鉄系高リン血症治療薬の長期投与試験が成功

(2013年1月28日発表)

米国のケリックス・バイオファーマシューティカルズ(Nasdaq:KERX)は、Zerenex(ferric citrate)の長期投与試験が成功したと発表した。1年間投与後の離脱試験の結果も発表されたが、今回の試験の主目的は安全性や効果の持続性を確認することと推測されるので、ここでは取り上げない。2013年第2四半期に欧米で承認申請される予定。

Zerenexは鉄系の経口リン吸着剤で、末期腎疾患の患者の高リン血症の治療に用いる。日本ではJT/鳥医薬品が導入してJTT-751として開発、一足早く今年1月に承認申請した。

バイオ系の企業は挫折と復活の繰り返しである。ケリックスはperifosineの結腸直腸癌第三相試験がフェールし株価が暴落するなど挫折が続いたが、今回の発表の翌日に公募増資を発表しており、息をついた。

リンク:ケリックスのプレスリリース

MSDの骨粗鬆症治療薬の承認申請が遅延

(2013年2月1日発表)

MSD(NYSE: MRK)は2012年第4四半期決算発表に合わせて開発パイプラインのアップデートを行った。意外だったのは、MK-822(odanacatib)の承認申請が2014年に先送りされたことだ。経口骨粗鬆症治療薬として2013年上期に承認申請されるはずだった。

決算発表会では複数の証券アナリストが入れ代わり立ち代わり質問したが、会社側は、承認申請用試験の結果が先日まとまった、二重盲検延長試験の結果は未だであり、その結果が出るまで待つことを決めた、と繰り返すだけだった。

同社の昨年7月の発表によると、骨損壊予防試験の第一回中間解析でデータ監視委員会が主目的達成と認定、治験の繰上完了を勧告した。同時に、特定の分野の安全性問題が残っていることから、8000人以上を組入れた延長試験は予定通り続行するよう勧告した。承認申請遅延はこの安全性問題が原因と推測されるが、具体的な内容は分からない。

MK-822はカテプシンK阻害剤。破骨細胞のコラーゲン/ゼラチン分解酵素を阻害することによって骨吸収を阻害する。他の骨粗鬆症治療薬と異なり破骨細胞に影響しないため、間接的に造骨細胞を阻害することもない。

臨床試験ではラッシュ(皮疹や結節)が見られた。カテプシンKは皮膚にも分布しているので、その影響かもしれない。カテプシンKは心臓、肺、脾臓、肝臓、膵臓、マクロファージなどにも分布している。また、日本の試験では副甲状腺ホルモンの大幅な増加が見られた。承認遅延はこれらの懸念が顕在化したのかもしれない。

勿論、治験でノイズが発生しただけである可能性も考えられる。骨損壊予防試験は大規模なので、滅多に発生しない有害事象で偶々、群間の偏りが発生することがある。滅多に発生しないので偶然であることを証明するのは難しく、少しでも症例を多く集めて偏りが縮小するのを期待する以外に方法がない。

MK-822は骨塩密度改善作用がビスフォスフォン酸並みで、週一回服用だがビスフォスフォン酸は月一回の製品があり、競争力は決して高くないだろう。それだけに、安全性で見劣りしないことが重要だ。

リンク:MSDの2012年第4四半期決算発表リリース

【承認申請】


MSDが経口減感作療法用薬を米国で、不眠症薬を日本で、承認申請

(2013年2月1日発表)

MSDはMK-7243を米国で、MK-4305を日本で、それぞれ承認申請したことも明らかにした。

MK-7243はコペンハーゲンのAlk Abello社が欧州でGrazaxとして販売している製品を米国市場などで導入したもの。草アレルゲンを含有する舌下錠で、シーズン前の3~4ケ月間、一日一回服用することによって、体をアレルゲンに慣れさせ、アレルギー性鼻結膜炎の発症を予防する。米国ではブタクサ・アレルギー向けとチモシー芝アレルギー向けの二種類で第三相試験が実施された。

治験成績を見ると効果は穏やかだが、効く人には効きそうだ。欧州は米国より普及しており、フランスでは過半の患者が経口減感作療法を受けているとのことだ。日本で多いスギ花粉アレルギー向けは未だ存在しない模様。

MK-4305(suvorexant)はオレキシン受容体アンタゴニスト。オレキシンは視床下部で分泌されるホルモンで、日中でもふとした拍子に眠ってしまうナルコレプシーという疾患に関連している。それだけに、治験では脱力発作の類が発生しないか密接に監視した模様だ。2012年11月に米国で承認申請が受理された。

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がベーリンガーのLABAを支持

(2013年1月29日発表)

FDA肺・アレルギー薬諮問委員会がベーリンガー・インゲルハイムのBI 1744(olodaterol)をCOPD用薬として承認することを支持した。薬効、安全性、両者のバランスの何れについても、17人の委員のうち15人が支持、1人が不支持、1人が棄権だった。

同社はCOPD用のムスカリン阻害剤、Spiriva(tiotropium bromide、和名スピリーバ)が大成功している。BI 1744は長期作用性ベータ2作用剤(LABA)で、Spirivaだけでは十分に増悪を防げない患者に追加するのが標準的な用途になりそうだ。同社はコンビ薬も開発中。

リンク:ベーリンガーののプレスリリース

FDA諮問委員会が嚢胞性線維症用薬を支持せず

(2013年1月30日発表)

その翌日、FDA肺・アレルギー薬諮問委員会はオーストラリアのファーマキシス社(ASX: PXS)が承認申請したBronchitol(mannitol)を検討したが、14人の委員全員が支持しなかった。効果については3人、安全性についても3人が支持しただけだった。

Bronchitolはmannitolの吸入用粉末製剤。嚢胞性線維症の肺機能改善作用を調べた第三相試験では、一本で穏やかな、偽薬比有意なFEV1改善作用が見られたが、ドロップアウトが多かったので、intent-to-treatベースの治療効果は希薄化される。二本目はドロップアウトが少なかったが有意差がなかった。有害事象では喀血が見られた。

欧州ではCHMPが一度は否定的評価を下したものの、その後、承認した。米国もFDAが諮問委員会と異なった判断をする可能性があるが、楽観はできないだろう。

リンク:ファーマキシスのプレスリリース(1/31付、pdfファイル)

【承認】


FDAがApoB-100アンチセンス薬を承認

(2013年1月29日発表)

アイシス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ISIS)とサノフィがホモ接合型高脂血症治療薬として承認申請していたKynamro(mipomersen sodium)がFDAに承認された。諮問委員会で賛成9人、反対6人と票が分かれたため私は楽観していなかったが、意外な結果になった。ホモ接合型高脂血症はスタチンを服用してもLDL-C値が数百mg/dLと著しく高く、心血管疾患のリスクが高いため、肝安全性に懸念のある薬でも便益がリスクを上回ると判断したのだろう。

Kynamroは皮注用薬で200mgを週一回、投与する。作用機序は、VLDL-Cの一部であるApoB-100のメッセンジャーRNAの塩基配列と入れ替わり、正常なApoB-100の生成を妨げる。スタチンなどによる治療を受けている患者を組入れた治験では血清LDL-C値が偽薬比25%、113mg/dL減少した。それでも正常値より高いので効果がもっと高ければよかったのだが、高量を投与すると肝毒性のリスクが高まる。

ホモ接合型高脂血症は両親から受け継いだ両方のLDL-C受容体遺伝子に異常があり、LDL-C値が著しく高い。患者数は米国とEU5ヶ国の合計で600人と推測されているが、LDL-C受容体遺伝子が正常な亜型も多い模様であり、今後、対象患者数が増加する可能性もある。希少疾患用薬なので価格が高く、一回分が3380ドル、年17.6万ドル。先日承認されたAegerionのJuxtapid(lomitapide、経口剤)の年23.5-29.5万ドルよりは安い。

アイシスはApoB-100のように通常の薬では阻害できない標的のRNAを標的とする「アンチセンス」薬の開発に特化した米国の新興企業だ。アンチセンスは近年注目されているRNA介入の一種と考えることもできる。アンチセンス薬の第一号はHIV/AIDS患者のCMV網膜炎治療薬として米国で1998年に承認された同社のVitravene(fomivirsen)で、15年を経て第二号が実用化された。

同社は希少疾患用薬大手のジェンザイムと世界共同開発販売提携を締結、そのジェンザイムをサノフィが買収した。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

FDAが尿回路異常症の治療薬を承認

(2013年2月1日発表)

FDAはハイペリオン・セラピュティクス(Nasdaq: HPTX)のRavicti(glycerol phenylbutyrate)を2歳以上の尿回路異常症の慢性管理薬として承認した。蛋白制限食だけでは足りない患者に用いる。4月末に発売される予定。

尿回路異常症は遺伝子疾患で、蛋白吸収・分解過程で発生する窒素を尿素に変換するサイクルが機能せず、窒素がアンモニアとして蓄積して脳に障害を与える。有病率は新生児1万人に一人とのこと。Ravictiは1日三回服用の経口液で窒素に結合し尿排泄を促す。既存の治療薬であるBuphenylと比較したクロスオーバー試験では、効果が同程度だった。副作用は下痢、鼓腸、頭痛など。効果が同程度では競争力が弱そうだ。

リンク:ハイぺリオンのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

EUがコレバインを承認

(2013年1月29日発表)

田辺三菱製薬は、BindRen(colestilan/INN、コレスチミド/JAN、和名コレバイン)が透析期慢性腎不全患者の高リン血症治療薬としてEUで承認されたと発表した。日本で1999年に高脂血症治療薬として承認されてから14年、遂にグローバル・デビューすることになる。

日本では1.5~2gを一日二回、経口投与するが、海外では2~3g一日三回と高量を使う。作用機序の異なる既存薬に対抗するために必要だったのだろう。高リン血症治療薬は様々な製品があるので、競争は激しい。

リンク:田辺三菱製薬のプレスリリース(和文)

今週は以上です。

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