2013年1月6日

海外医薬ニュース2013年1月6日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • ネクサバールも難治性分化甲状腺癌に有効
  • 筋萎縮性側索硬化症の第三相試験がフェール
  • バイオジェン・アイデックが持効性IX因子をB型血友病治療薬として承認申請
  • 多剤耐性肺結核の画期的治療薬が米国で承認
  • HIV/AIDS患者の非感染性下痢症の治療薬が米国で承認
  • 短腸症候群治療薬Gattexの価格は年29.5万ドル
  • 米国糖尿病学会が二型糖尿病高血圧症の血圧管理目標を緩和


【臨床試験】


ネクサバールも難治性分化甲状腺癌に有効

(2013年1月3日発表)

バイエルとオニクス(Nasdaq: ONXX)は、腎臓癌や肝癌に承認されているNexavar(sorafenib)の甲状腺癌試験の成功を発表した。末期/転移性分化型甲状腺癌で放射性ヨウ素による治療が奏功しなかった患者を組入れてPFS(無増悪生存期間)を偽薬と比較したもので、有意に優れていた。適応拡大申請に向かう予定。

甲状腺癌は世界で年16万人が診断され、2.5万人が死亡する。乳頭癌や濾胞性など、進行があまり早くない分化型が多く、放射性ヨウ素や切除が有効だが、奏効しなかった場合の治療オプションは少ない。VEGF受容体やRETを阻害する薬が有効で、米国では2011年にアストラゼネカのCaprelsa(vandetanib)が、2012年11月にはイグゼリキシス(Nasdaq: EXEL)のCometriq(cabozantinib)が、末期・転移性切除不能甲状腺髄様癌(甲状腺癌の1割弱を占める)に承認された。

今回は対象となる癌種が多いため市場性が大きいが、他の癌とは異なり増悪したからといって直ぐにどうこうということはない。延命効果があるとしても、今回の治験のデータがまとまるのは何年も後になるだろう。それだけに、患者のQOLがどの程度改善したのかが重要なポイントになりそうだ。Caprelsaも諮問委員会でこれらの点が議論になった。

甲状腺癌ではエーザイもE7080(lenvatinib)で放射性ヨウ素難治性分化甲状腺癌の第三相試験を実施中で、今年辺り成否が判明するのではないか。

リンク:バイエル/オニクスのプレスリリース

筋萎縮性側索硬化症の第三相試験がフェール

(2013年1月3日発表)

バイオジェン・アイデックはマサチューセッツ州のKnopp Biosciences社からライセンスしたKNS-760704(dexpramipexole・・・ パーキンソン病治療薬ビ・シフロールの光学異性体)で筋萎縮性側索硬化症(ALS)の第三相試験を実施していたが、フェールした。機能低下を遅らせる効果は見られず、副次的評価項目やサブポピュレーション分析でも効果の兆しはなかった。

第二相試験では用量依存性の兆しが見られ第三相試験の用量では生存率が偽薬比3倍高かったのだが、一群20~30人、12週間の試験なのでインプリケーションは曖昧だった。第三相では943人を偽薬と試験薬に無作為割付して1年間投与したのでエビデンスレベルが高い。バイオジェンは開発中止を決めた。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

【承認申請・審査】


バイオジェン・アイデックが持効性IX因子をB型血友病治療薬として承認申請

(2013年1月4日発表)

バイオジェン・アイデックは遺伝子組換え型第IX因子・抗体固定領域融合蛋白(rFIXFc)を米国でB型血友病の治療薬として承認申請したことを明らかにした。出血時の治療だけなら作用が長続きする必要はないが、頻繁に出血する患者に予防目的で使う場合は投与頻度が既存薬の2~4分の1で足りる。予防用途が拡大すると医療費が更に嵩むことになるが、血友病は元々、高額医療の代表なので問題にはならないだろう。

ファルマシアからスピンアウトした会社の開発品で、この会社はSwedish Orphan Biovitrum(OMX: SOBI)に買収された。バイオジェン・アイデックは共同開発権を保有している会社を買収して入手した。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

【承認】


多剤耐性肺結核の画期的治療薬が米国で承認

(2012年12月31日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンが米国で承認申請していた多剤耐性肺結核の治療薬、Sirturo(bedaquiline)が予定通り12月28日に承認されていたことが大晦日の同社とFDAのプレスリリースによって判明した。今年第2四半期に上市される予定。

Sirturoは結核菌のATP合成を阻害する新作用機序を持つ、40年ぶりの画期的新薬だ。第二相偽薬対照アドオン試験では、24週間の治療後の陰転率が78%と、標準療法と偽薬を投与した群の58%を有意に上回った。尚、この薬は当初は一日一回、第三週以降は週三回、24週間に亘って経口投与するが、標準療法はその後も続行するので全体の治療期間は1.5~2年かかる。第三相試験で全9ヶ月間の短縮コースをテストする予定。

この第二相試験では死亡率が11.4%と偽薬群の2.5%を大きく上回った。肺結核によるものが多く、それ以外の症例では共通点が見当たらなかったようだが、何れにせよ、もし死亡リスクがあるなら深刻だ。米国の消費者団体であるPublic CitizenがFDAに承認しないよう請願したのも肯ける。一方、FDAの諮問委員会は18人中11人が安全性を認めた。FDAは、適応を他に適当な治療法がない患者に限定するとともに、レーベルの中で死亡率に偏りがあったこととQT延長リスクがあることを枠付警告することで対処した。

多剤耐性肺結核は、多剤併用療法のコアとなるべき二剤(isonazidとrifampin)に感受しない。年間発症数は世界で50万人前後だが米国は100人程度である模様。Sirturoも主として米国以外の地域で使われることになるだろう。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

HIV/AIDS患者の非感染性下痢症の治療薬が米国で承認

(2012年12月31日)

サリックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: SLXP)は、FDAがFulyzaq(crofelemer)をHIV/AIDS患者の下痢(感染症によるものを除く)の治療薬として12月31日に承認したと発表した。クロトン・レクレリ(南米原産の植物)の赤い樹液から抽出された成分で、FDAが植物由来の医薬品を承認したのは2006年のVeregenに次ぐ二剤目。市場は小さそうだ。

作用機序はCFTRや活性化塩素イオンチャネルの部分アンタゴニズムとのこと。2008年にNapo Pharmaceuticalsから日米欧主要国での権利を取得したが、Napo社はサリックスの開発努力に不満を持っている模様で、2011年に提携解消を申し入れ、両社で係争中。

リンク:FDAのプレスリリース(2012/12/31付)

リンク:サリックスのプレスリリース(2013/1/2付)

【製薬会社の動き】


短腸症候群治療薬Gattexの価格は年29.5万ドル

NPSファーマシューティカルズ(Nasdaq: NPSP)が米国で今四半期中に発売予定の短腸症候群治療薬Gattex(teduglutide)は、価格が年29.5万ドルと一般に予想されていたよりもはるかに高いことが判明したようだ。複数のメディアが報じている。米国の対象患者は約1000人とのことなので、年商3億ドルとかなり大きくなる。武田薬品が販売する欧州などでも普及するようならば、5億ドル級に達するのではないだろうか。

製薬会社が希少疾患用薬の開発に熱心に取り組むようになったのは、類似薬の承認を一定期間見送るという希少疾患用薬排他権制度の導入と、患者数が少なければ薬が高くても医療費全体に与える影響は小さく現実に多くの国で年間数千万円、数億円の薬が医療保険でカバーされているからだ。新薬が高価なのはやむを得ない面もあり、医療費を節約するなら高血圧症などの治療で似たようなGE薬があるのにわざわざ高価な新薬を使うようなことを止めるほうがよっぽど効果があるが、それにしても、効果と費用が釣り合わないように感じられる。

【医療の話題】


米国糖尿病学会が二型糖尿病高血圧症の血圧管理目標を緩和

(2012年12月20日)

ADA(米国糖尿病学会)が糖尿病治療ガイドラインのアップデートを行い、Diabetes Care誌の2013年1月号で公開した。目立つのは、二型糖尿病患者の高血圧の治療目標を従来の130/80 mmHg未満から140/80 mmHg未満に緩和したことだ。ACCORDなど複数の試験で、血圧を積極的に下げても得るものは小さく、副作用が増えるだけという結果が出ているので、やむを得ないところだろう。

単純高血圧症でもLower is Betterではない、下げすぎると心血管疾患リスクがむしろ上昇するJカーブ効果がアウトカム試験で見られると主張する学者がいる。

ADAは130 mmHg未満に下げるなとは言っていない。むしろ、余命の長い患者や脳梗塞を警戒すべき患者には、無理のない範囲で積極的な降圧を認めている。尤も、エビデンスが引用されていないので、根拠があいまいだ。

二型糖尿病は必要に応じて血圧、コレステロールなど様々な治療が必要になる。多面的治療は多剤併用が必要なので、副作用も増えがちだ。単純な目標を立てて突進するのではなく、患者の年齢や忍容性を考慮してさじ加減することが必要、ということなのだろう。

リンク:Diabetes Care誌糖尿病治療ガイドライン(目次)

今週は以上です。

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