2013年1月20日

海外医薬ニュース2013年1月20日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • ベーリンガーもインターフェロン抜きで第三相C型慢性肝炎治療試験を開始
  • GSKが週一回投与型GLP-1作用剤を米国で承認申請
  • FDAがベーリンガーのEGFR阻害剤の承認申請を受理
  • CHMPが硝子体黄斑癒着治療薬等の承認を勧告
  • 昆虫細胞培養型インフルエンザ・ワクチンが米国で承認
  • アミロイド・ベータ検査薬が欧州でも承認
  • 赤血球生成刺激剤の心不全治療試験がフェール


【新薬開発】


ベーリンガーもインターフェロン抜きで第三相C型慢性肝炎治療試験を開始

(2013年1月17日発表)

ギリアッド(Nasdaq: GILD)等に続き、ベーリンガー・インゲルハイムもインターフェロン・アルファを使わない経口剤だけの併用でC型慢性肝炎を治療する第三相試験を開始した。

この併用レジメンは、BI 201335(faldaprevir;NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤)とBI 207127(非ヌクレオシド系NS5Bポリメラーゼ阻害剤)、そしてribavirinの三剤を併用する。BI 201335は一日一回服用だが、BI 207127は二回。第三相は1b型ウイルスに感染し初めて治療を受ける患者を対象に二本実施し、どちらも、24週間コースと16週間コースのSVR12(持続的ウイルス学的奏効率:治療完了後12週間経ってもウイルスが検出されなかった患者の比率)を検討する。

特徴的なのは、組入れ対象をインターフェロン不適患者に限定していないこと。そして、その割には、インターフェロンを用いる標準療法群が設定されていないこと。もし成功したとしてもインターフェロン・アルファ、ribavirin、プロテアーゼ阻害剤を併用する標準療法との優劣は分からないままだ。

第三相試験では肝硬変を合併する患者だけの群も設定されている。これも対照群はない。

BI 201335はインターフェロン・アルファ、ribavirinと三剤併用するオーソドックスな第三相試験が進行中で、今年上期に結果が出る見込み。今回の三剤併用レジメンは補完的な意味合いなのかもしれない。

リンク:ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

【承認申請】


GSKが週一回投与型GLP-1作用剤を米国で承認申請

(2013年1月14日発表)

グラクソ・スミスクラインはGSK716155(albiglutide)を二型糖尿病の血糖治療薬として米国で承認申請した。EUでも承認申請する見込み。遺伝子組換え型GLP-1とアルブミンを細胞融合したバイオ薬で、承認されれば、BMSのBydureon(exenatide)に次ぐ第二の週一回投与型GLP-1作用剤となる。

GLP-1は小腸のホルモンで、食欲を抑制し、インスリンの分泌を刺激し、グルカゴンの異常分泌を抑制するなどの作用を持つ。天然のGLP-1はDPP-4によって直ぐに分解されてしまうが、遺伝子組換え型はDPP-4結合箇所のアミノ酸を置換することによって持続性を高めている。GSK716155はアルブミンと結合することで半減期を4~6日と更に伸ばしている。

残念なのはノボ ノルディスクの一日一回皮注用GLP-1作用剤、Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)と直接比較した試験で、血糖降下作用が非劣性でなかったことだ。効果が同じなら注射回数が7分の1で済むことが大きなセールスポイントになっただろう。

リンク:GSKのプレスリリース

FDAがベーリンガーのEGFR阻害剤の承認申請を受理

(2013年1月16日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、FDAがafatinibの承認申請を受理して優先審査指定したことを明らかにした。afatinibはIressa(gefitinib、和名イレッサ)、Tarceva(erlotinib、和名タルシバ)と同様なEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤。

先行二剤は非小細胞性肺癌の二次治療、三次治療薬として承認された後に、本当に適しているのはEGFR活性化変異型だけであることが判明。このタイプなら一次治療で化学療法併用よりも高い効果を発揮するが、他のタイプにはあまり効かないことが分かった。afatinibも同じで、EGFR活性化変異型非小細胞性肺癌の第三相一次治療試験で無増悪生存期間(PFS)がメジアン11.1ヶ月と白金薬・タクサン系抗癌剤併用群の6.9ヶ月を上回った。

Tarcevaは同じ適応でEUでは2011年に承認、米国でも2012年11月に承認申請されafatinibと同様に優先審査指定された。おそらくafatinibより先に適応拡大が承認されるだろう。先行二剤は3~5年後にGE化するだろうから、afatinibの競争環境は厳しい。

今回の発表で奇妙なのは、審査期限が2013年第3四半期とされていることだ。優先審査は申請から審査期限まで6ヶ月、申請から受理までは通常1ヶ月なので、1月受理ならば申請は昨年12月、審査期限は6月であるはずだ。何か特別な事情があるのだろう。

リンク:ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが硝子体黄斑癒着治療薬等の承認を勧告

(2013年1月18日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPが、1月の会合で、硝子体黄斑癒着治療薬と慢性骨髄性白血病治療薬の承認及びノバルティスの抗体医薬の適応拡大承認を勧告した。一方、idebenone(コエンザイムQ10、和名アバン)は今回の適応症でも支持を得られなかった。

リンク:CHMPのプレスリリース

肯定的評価を受けたのは、まず、スロンボジェニクス(Euronextブラッセル: THR)の症候性硝子体黄斑癒着治療薬、Jetrea(ocriplasmin)。硝子体黄斑癒着は硝子体ゲルが黄斑と癒着し視力が低下する。癒着が進むと穴が開く(黄斑円孔)こともある。Jetreaは遺伝子組換え型ヒト・プラスミンで、癒着箇所の蛋白マトリクスを溶解する。臨床試験では一回の硝子体注射で消散成功率が26.5%と、偽薬群の10.1%を上回った。

米国では昨年10月に承認。米国外の権利はノバルティスのアルコン部門が持っている。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:CHMPのプレスリリース

次に、ファイザーのbosutinibの条件付き承認が勧告された。ノバルティスのGleevec(imatinib、和名グリベック)と同じbcr-abl阻害剤で、用途もフィラデルフィア染色体陽性の慢性骨髄性白血病で同じだが、適応は既存のbcr-abl阻害剤に不応・不耐で他のbcr-abl阻害剤二剤に不適な患者に限られる。

条件付き承認は米国の加速承認、日本の迅速審査による承認と同様だが、市販後に改めて薬効確認試験を行う義務がある。米国の加速承認にも同様な義務はあるが、果たさなかった場合のペナルティが明確でないため、「加速承認の食い逃げ」が問題になっている。

フィラデルフィア染色体は殆どの慢性骨髄性白血病と一部の急性リンパ性白血病で観察される遺伝子変異で、第9染色体の一部と第22染色体の一部が転座(入替)した結果、bcrとablの夫々の遺伝子の一部が結合して高活性abl遺伝子が形成される。病理に大きく関与している模様であり、Gleevecのようなabl阻害剤によく反応する。

リンク:ファイザーのプレスリリース

ノバルティスの抗IL-1ベータ抗体、Ilaris(canakinumab、和名イラリス)の適応拡大も支持された。現在の適応症はクリオピリン関連周期性症候群という患者数が欧米で3000人、日本で30人程度の超希少疾患だが、新用途は重度難治性痛風性関節炎なので、市場がかなり大きくなる。FDAは安全性に懸念が残ることから承認しなかった。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

一方、サンセラ・ファーマスーティカルズ(SIX: SANN)がレーバー遺伝性視神経萎縮症(LHON;ミトコンドリア疾患の一つ)の治療薬として承認申請したRaxone(idebenone)は、否定的評価を受けた。サンセラは再審査を請求する予定。5年前にもフリードライヒ失調症治療薬としての

承認申請が否定的評価を受けている。

この合成コエンザイムQ10は1986年に日本で脳梗塞治療薬アバンとして承認されたが、薬効再審査の対象となり、1998年に承認取消となった。コエンザイムQ10はミトコンドリアの機能低下を補うと言われており、今回のLHONを含め様々なミトコンドリア疾患の治療試験が行われたが、成果はいま一つだった。LHONの試験では視力が偽薬群より3文字分、上回っただけで、CHMPは臨床的に意味のある治療効果ではないと断じた。

(視力改善効果を計測する試験ではETDRSという特殊な視力検査表が用いられる。加齢性黄斑変性治療薬Lucentis(ranibizumab)の試験では偽薬比で17文字優れていた。一方、同じ加齢性黄斑変性治療薬であるVisudyne(verteporfin)は6文字だった。)

サンセラは、治療効果が比較的大きかった発症1年以内の患者に限定して承認を得ようとしたが、85人の試験のサブポピュレーション分析に過ぎず信頼性が低いと判定された。

リンク:サンセラのプレスリリース

【承認】


昆虫細胞培養型インフルエンザ・ワクチンが米国で承認

(2013年1月16日発表)

インフルエンザ・ワクチンはウイルス株を鶏卵で培養して作るが、時間がかかり、また、鳥由来の新型ウイルスが流行した場合ヒトより先に鳥で大流行して十分な量の鶏卵が調達できなくなる可能性もある。危機対策として注目されるのが細胞培養型ワクチンだ。欧州では2007年にイヌのMDCK細胞で培養したノバルティスのOptafluが承認されたが、米国でも、昆虫細胞培養型インフルエンザ・ワクチン、Flublokが承認された。今回の承認は18~49歳だけが対象だが、50歳以上も年内に承認される見込み。

コネチカット州の新興企業、プロテイン・サイエンス社の開発品で、日本ではUMNファーマがアステラス製薬と共同開発している。バキュロウイルスという昆虫に感染するウイルスの遺伝子にインフルエンザ・ウイルス抗原(ヘマグルチニン)を導入し、ベクターとして昆虫細胞に送り込むもので、鶏卵法と比べて短期間に大量の生産が可能とのことだ。

危機管理の点では重要なワクチンだが、売れるかどうかは別問題だ。インフルエンザ・ワクチンで最も重要なのは安価であることであり、もし割高な価格で発売された場合は、アストラゼネカの点鼻スプレー型インフルエンザ・ワクチン、FluMistの二の舞になろう。

Flublokの試験はWHOやFDAの予測が外れた07/08年シーズンに実施されたため、感染例の96%がワクチン抗原不適合だった。勿論、不適合でも株によっては有効で、Flublokの試験は感染リスクを45%削減した。効果が小さいと感じる人もいるだろうが、インフルエンザ・ワクチンの臨床試験は古いものが多く、どの程度の効果があるのかは分からない。そもそも、07/08年シーズンのように流行株の予測が外れた時は、雨の日もあるさと諦めるしかない。

短期間で生産できるワクチンが主流になれば、南半球で流行する株を見てから北半球用のワクチンを生産することも可能になるので、的中率を上げる上で一歩前進する。もう一つの方法は四価ワクチンの実用化だ。現在の三価ワクチンはA型から二種類、B型から一種類選んで配合するが、近年は二種類のB型が流行することが多いため、B型も二種類配合したワクチンが欧米で開発されている。

リンク:プロテイン・サイエンスのプレスリリース(pdfファイル)

アミロイド・ベータ検査薬が欧州でも承認

(2013年1月15日発表)

イーライリリーはAmyvid(florbetapir F 18)がEUで承認されたと発表した。アミロイド・ベータの蓄積状況を調べるPET検査用の放射性造影剤で、アルツハイマー病の診断に用いる。蓄積がなければ他の病気が疑われるが、何れにせよ、この検査だけに頼らず総合的な診断が必要とのこと。米国では昨年4月、承認された。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【大規模試験】


赤血球生成刺激剤の心不全治療試験がフェール

(2013年1月16日発表)

アムジェンは、長期作用性赤血球生成刺激剤Aranesp(darbepoetin alfa、和名ネスプ)のRED-HF試験がフェールしたと発表した。症候性心不全でヘモグロビン値が9~12g/dLの患者を組入れて、ヘモグロビン値を13g/dL以上に矯正する群と偽薬群の臨床的転帰を比較したが、心不全の悪化や死亡を防ぐ効果は全く無かった(ハザードレシオ1.01、95%信頼区間0.90、1.13)。

末期腎臓疾患透析期の治療では、脳梗塞等のリスクが高まるため11g/dLを超えたら減量・中止する必要がある。RED-HF試験は赤血球生成刺激剤のリスクが明確になる前に開始されたためか矯正目標が高く設定されており、フェールしたことを悲しむのではなく有害でなかったことを喜ぶべきだろう。

リンク:アムジェンのプレスリリース

今週は以上です。

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