2012年10月14日

海外医薬品ニュース週末版 2012年10月14日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗アミロイド・ベータ抗体はアルツハイマー病に効くのか、効かないのか
  • クレメジンの保存期慢性腎不全試験が又々フェール
  • バイエルの新用法低用量ピルがEUで承認
  • アブラキサンが米国で非小細胞性肺癌に適応拡大



【新薬開発】


抗アミロイド・ベータ抗体はアルツハイマー病に効くのか、効かないのか

(2012年10月8日)

イーライリリーは、抗ヒト可溶性アミロイド・ベータ・ヒト化モノクローナル抗体LY2062430(solanezumab)の第三相試験のハイライトを発表した。ANA(米国神経学会議)でも研究者がデータ発表したのだが、解析方法がメーカー側と研究者側で異なる模様であり分かり難い。それはそれとして、どちらの解析でも抗アミロイド療法は無効ではないことが示唆された。今後は、正しい使い方やもっと効果の高い薬の探索が課題になりそうだ。

学会発表の詳細は把握していないので、ここではイーライリリーの発表に即して説明する。第三相試験は一本は米国中心に、もう一本は欧州・豪州中心に、軽中度アルツハイマー病患者を約1000人ずつを組入れ、18ヶ月実施した。日本の医療施設は両方に参加した模様だ。偽薬またはsolanezumab 400mgを4週間に一回静注点滴して、認知機能や生活機能の改善効果を検討した。

一本目はどちらの解析もフェールしたが、軽度(ベースライン時点でMMSEスコアが20-26)の患者には有意(p=0.008)な認知機能改善作用が見られた。18ヶ月経過時点におけるADAS-cog(認知機能に係わる11項目の病状診断スコア)の悪化が42%少なかったのである。そこで、まだデータベースをロックしていなかった二本目の試験の主評価項目を変更し、軽度患者のADAS-cog14(同じく14項目の病状診断スコア)だけとした。

二本目の結果は、悪化が20%少なかったものの有意ではなかった(p=0.120)。生活改善機能の指標であるADCS-ADLは悪化が19%少なかったが、これも有意ではなかった(p=0.076)。一方、今回のリリースで初めて公表された、事前に計画されていた軽度患者のプール分析の結果は、ADAS-Cog14の悪化が34%少なく(p=0.001)、ADCS-ADLも17%少ない傾向があった(p=0.057)。

有害事象については、発生率が1%以上で偽薬比有意に多かったのは狭心症だけだった(1.1%対0.2%)。同じ抗アミロイド・ベータ抗体であるbapineuzumabの試験では血管原性浮腫(ARIA-E)のリスクが見られたが、solanezumabは11人(発生率1%)対5人で有意な差は無かった。

イーライリリーは医薬品承認審査機関と相談する考えだが、承認申請が認められる可能性は低いだろう。第三相試験を二本以上実施するのは、一本だけだと、その結果が治験に参加した特定の医療施設、患者以外にも当てはまるかどうか、分からないからである。solanezumabは一本目の試験で浮上した仮説が、二本目の試験で再現されなかったのだから、外挿性が疑わしい。

プール分析は仮説を立証する上では意味がない。単純にいえば、二本の試験の平均値を計算しているだけなのだから、一本が成功すればそれなりに良い数値が出る。データ数が増加すれば検出力が高まり小さな差でも有意差が出やすくなる。今回のプール分析でも、一本目の試験だけの解析と比べて差が小さいのにp値は低くなっている。軽度の患者には効果がある、という仮説を構築する上では有益だが、仮説が証明されたとは言えない。従って、改めて軽度患者だけを組入れた試験を改めて行う必要があるだろう。

もう一つ、今回の試験で考えなければならないのは、統計的に有意であることと治療する価値があるということは同じではない、ということだ。Alzheimer Research Forumの記事によると、ANAでデータ発表を行ったバイエル医科大学のR. Doody自身が治療効果は小さいことを指摘した。18ヶ月間にADAS-Cog14が約8ポイント低下する中で、solanezumab群と偽薬群の差は1.41ポイントに過ぎなかった由である。

因みに、代表的なアルツハイマー病薬であるAriceptの試験では、24週間でADAS-Cog(11項目)に3ポイントの差があった。solanezumabの試験では多くの患者がAriceptなどの既存薬を服用していたので、両剤の効果を比較することはできないが、3倍の期間治療して効果は半分なのだから、効果が高いとは言えないだろう。バイオ薬なのでもし発売されたら極めて高い価格が付けられるだろうから、コストパフォーマンスも考えなければならない。

効果をブーストするにはどうしたら良いのか?アミロイド・ベータが蓄積し神経細胞に障害を与えた後に治療しても手遅れなのだとしたら、発症前に予防に用いることが考えられる。この点で注目されるのが、2013年にも開始される遺伝性・若年性アルツハイマー病予防試験、DIAN TU試験だ。solanezumabやロシュの抗アミロイド・ベータ抗体gantenerumab、そしてベータ・セクレターゼ阻害剤をテストする模様。尤も、治験の規模は小さいようだ。

もう一つは、新たな抗アミロイド・ベータ抗体やベータ/ガンマ・セクレターゼ阻害剤の探索だ。solanezumabはアミロイド・ベータの結合部位がbapineuzumabと異なり、蓄積したアミロイド・ベータには結合しないので血管原性浮腫のリスクが小さいが、アミロイド・ベータを減らす効果については良く分からないところがある。第三の箇所に結合する抗体や、結合力の高い抗体なら違った結果になるかもしれない。尤も、三剤の第三相試験全てがフェールしたことを考えれば巨額の費用を投じて挑戦する製薬会社が現れるかどうか心許ない。

子供の頃、「希望という名の あなたをたずねて遠い国へと また汽車に乗る」という歌を聞いたことがある。物悲しいメロディーを聞きながら、希望が残っていることが如何に残酷であるか、考えさせられた。アミロイド仮説はまだ希望が残っている。だが、ここからの旅は容易ではないだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

リンク:Alzheimer Research Forumの関連記事

クレメジンの保存期慢性腎不全試験が又々フェール

(2012年10月10日)

田辺三菱製薬とクレハは、海外で実施されたAST-120/MP-146(和名クレメジン)の第三相試験がフェールしたことを公表した。日本で実施された同様なアウトカム試験もフェールしており、結局、臨床的な転帰を改善するほどのパワーはそれ程大きくないのだろう。

これらの試験は用途が日本で承認されているものと若干異なるが、すごく異なる訳ではない。また、日本で承認されている用途で臨床的転帰改善作用が確認されている訳でもない。日本では21年の市販歴を持つ薬だが、このような経験を繰り返すうちに、きちんとした試験を行って効能を明確にすることの重要性が日本でも認知されるようになるのだろう。

両社のプレスリリースには明記されていないが、このEPPIC試験は1と2の二本が実施された。保存期慢性腎不全の患者を約1000人ずつ組入れて、透析導入、腎移植、血清クレアチニン値倍化の何れかが発生するリスクを偽薬と比較した。日本では6gを一日三回服用する用法だが、EPPIC試験は9g一日三回が採用された。結果は、統計学的な有意差は認められなかった。

階層別解析で進行性患者には有意差があったとのことだが、このような解析は効果の証明とは言えない。詳細はASN(米国腎臓学会)で11月3日に発表される予定。

海外試験に先立って、日本でも保存期慢性腎不全のアウトカム試験、CAP-KDが実施されたが、主評価項目(EPPIC試験と同じ)の解析はフェールした。イベント発生数が予想より少なかった模様だが、ハザードレシオを見ても、カプラン・マイヤー・カーブを見ても、私には効果が全く感じられなかった。eGFRの悪化を抑制する効果はあったようだが、海外試験ではどうだったのだろうか?

クレメジンは第三相試験の後顧的解析で24週間の透析導入・血清クレアチニン倍化発生率が38%と、偽薬群の49%より32%少なかったため、透析導入を遅らせる効能があると考えられている。CAP-KD試験の発生率ははるかに低いので、透析が必要になるリスクが高い進行性の患者でないと効果が表面化しない、と考えることもできる。一方で、後顧的解析はエビデンス・レベルが低いのだから、三本の大規模前向き試験が全てフェールしたことの方を重視して、進行性患者に対する効能にも疑問が生じたと考える余地もありそうだ。

リンク:田辺三菱製薬のプレスリリース(和文)

リンク:ClinicalTrials.govの治験登録(EPPIC-1)

リンク:ClinicalTrials.govの治験登録(EPPIC-2)

【承認】


バイエルの新用法低用量ピルがEUで承認

(2012年10月9日)

バイエルは、低用量ピルFlexyess(drospirenone、ethinylestradiol)がEUで承認されたと発表した。2013年下期からロールアウトする予定。同社のYasminなどと同じ配合だが、特徴的なのは用法だ。24日から120日の服用期間中の任意の時期に4日間の休薬日を設けることによって生理のタイミングや頻度を調整できる。120日毎ならば年3回に減らすことができる。

リンク:バイエルのプレスリリース

アブラキサンが米国で非小細胞性肺癌に適応拡大

(2012年10月12日)

セルジーン(NASDAQ: CELG)は、Abraxane(paclitaxelアルブミン結合ナノ粒子製剤、和名アブラキサン)を非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。治癒を目的とした摘出術や放射線療法の候補にはならない患者に、carboplatin併用で用いる。Abraxaneは2005年に転移性乳癌の二次治療薬として初承認された。

非小細胞性肺癌の臨床試験では、ORR(奏功率)が33%と通常のpaclitaxel製剤を用いた群の25%を有意に上回った。扁平上皮腫や大細胞カルシノーマで上回ったが、カルシノーマ/腺腫には大差なかった。同社は日本(大鵬薬品が開発販売)やオーストラリアなどでも適応拡大申請中で、2013年の承認を見込んでいる。

paclitaxelはBMSが開発した抗癌剤のベストセラー。疎水性なので溶剤を用いているが、この溶剤(cremophore)がアレルギー反応を誘発するリスクを持つため、予めステロイドなどを投与してプリトリートしたり、時間をかけて少しずつ点滴したりする必要がある。Abraxaneはヒトのアルブミンの中に入れて更にナノ粒子化した新製剤で、大きさが赤血球の100分の1と小さい。点滴時間は30分と6分の1以下に短縮されている。

副作用がやや小さいため高量投与が可能。上記の試験では、Abraxaneは100mg/m2を週一回、通常のpaclitaxel製剤は200mg/m2を3週間に1回投与したので、実質的に1.5倍の量を投与した計算になり、これがORRの向上につながったと考えられる。

リンク:セルジーンのプレスリリース

今週は以上です。

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