2017年2月26日

2017年2月26日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、癌患者向け帯状疱疹ワクチンの第三相が成功 
  • sapacitabineの第三相はやっぱりフェール 
  • ロシュ、ACE910の第三相で死亡例 
  • ファイザー、抗CD22抗体を承認申請 
  • ノバルティス、ジカディアを一次治療にも申請 
  • CHMPが遺伝子組換え型副甲状腺ホルモンなどの承認を支持 
  • セルジーン、レブラミドの新患維持療法が欧米で承認 
  • ロシュ、アレセンサがEUで承認 
  • EMAがSGLT2阻害剤の下肢切断リスクを通知 



【新薬開発】


MSD、癌患者向け帯状疱疹ワクチンの第三相が成功
(2017年2月24日発表)

MSDは不活化水痘帯状疱疹ワクチンのV212の第三相試験が成功したことを発表した。自家造血幹細胞移植を受ける患者の帯状疱疹リスクを64%削減し、中重度帯状疱疹痛を69%、ヘルペス後神経痛を83%、抑制した。

癌の治療に伴い免疫力が低下した患者は帯状疱疹のリスクが高いが、同社の水痘帯状疱疹ワクチンであるZostavaxは生ワクチンなので使えない。V212に期待がかかるところだ。もう一本、血液癌や固形癌の患者を組入れた第三相も進行中。

リンク: MSDのプレスリリース

sapacitabineの第三相はやっぱりフェール
(2017年2月23日発表)

Cyclacel Pharmaceuticals(Nasdaq:CYCC)は、CYC682(sapacitabine)の第三相試験フェールを発表した。二次的評価項目やサブセグメント分析に基づいて当局と相談する考えだが、楽観できないだろう。

03年に第一三共からライセンスした細胞周期調節剤で、第三相は高齢で強化療法不適な急性骨髄性白血病患者を組入れて、しばしばオフレーベル使用されるDacogen(decitabine)と併用する効果をDacogen単剤と比較した。14年に行われた中間解析で独立データ監視委員会が無益性を認定したが、治験続行は容認した。

今回の解析でも主評価項目である全生存期間はフェールした。一方、完全反応率や、階層化要素の一つである末梢白血球数が少ないサブグループ(全集団の2/3を占めた)における全生存期間は改善した模様だ。

末梢白血球数が多いサブグループは併用群のほうが生存期間が短かった。反応率の高さが延命効果につながらなかったことと合わせて考えると、安全性は両群同様だったとプレスリリースに記されているが、忍容性がボトルネックになった可能性を想像せざるを得ない。

リンク: Cyclacelのプレスリリース

ロシュ、ACE910の第三相で死亡例
(2017年2月21日発表)

ロシュのRG6013/ACE910(emicizumab)の第三相試験で死亡例が発生したことが明らかになった。EHC(欧州血友病コンソーシアム)がロシュに照会し回答をホームページに掲載したもの。

中外製薬が創製した抗第IX因子/第X因子ヒト化二重特異性抗体で、第VIII因子に代わって第IX因子と第X因子をバイパスし、後者を活性化する。A型血友病のうち第VIII因子に対するインヒビターを持つ患者や、頻繁に出血するためルーチン予防的投与が必要な患者は週一回あるいは二週間に一回の投与で足りるため、適している可能性がある。第三相はインヒビターを持つ患者を対象とするHAVEN 1試験と持たない患者のHAVEN 3試験の二本で、日本の施設も参加している。

HAVEN 1試験は昨年12月に主目的達成が発表されたが、ルーチン予防的投与群で血栓塞栓イベントが2例、血栓性微小血管障害症(TMA)が2例、発生したことも明らかにされた。目標症例数120例程度の試験なので結構多い。今回のロシュのレターによると、死亡例は深刻な直腸出血を発症、aPCC(活性化プロトロンビン複合体)などによる治療を受けた後にTMAを発症、死亡した。

ACE910の副作用かどうかは不明。治験医はACE910の投与と関連なしと判定。また、この患者は輸血を拒否した経緯がある。治験プロトコルではaPCCの使用を回避し承認されているバイパス製剤を低量用いるよう推奨していたとのことなので、順守すればリスクを回避できるのかもしれない。

何れにせよ、インヒビターを持つ患者のルーチン予防的投与用途の薬は少ないが、出血時の治療やインヒビターを持たない患者のルーチン予防的投与なら他にも方法があり、一生使う薬なので新薬には既存薬並みの安全性が求められる。ACE910の副作用とは限らないがそうであっても不思議はなく、そもそも血栓カスケードの一部をバイパスする薬をルーチン投与すること自体が不適切である可能性もあるので、リスクの十分な検討が求められる。

リンク: EHCの発表内容

【承認申請】


ファイザー、抗CD22抗体を承認申請
(2017年2月21日発表)

ファイザーは、inotuzumab ozogamicinを欧米で承認申請し米国では優先審査指定されたと発表した。再発性難治性CD22陽性前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病に用いる。第三相試験では、共同主評価項目のうち血液学的完全寛解率が80.7%と標準療法群の9.4%を有意に上回った。一方、全生存期間はメジアン7.7ヶ月対6.7ヶ月、ハザードレシオ0.77となり有意差はなかった。

2年生存率は23%対10%、幹細胞移植に進むことができた患者の比率は41%対11%と、全体的に良さそうな数字が出ている。安全性では静脈閉塞性肝疾患の発生率が11%対1%と高かった。

抗CD22ヒト化抗体とカリケアミシンという抗生物質を結合した抗体薬物複合体で、元々はワイス(後にファイザーが買収)とセルテック(UCBが買収)が、抗CD33抗体とカリケアミシンを結合した急性骨髄性白血病用薬であるMylotarg(gemtuzumab ozogamicin)とともに、共同開発したもの。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ノバルティス、ジカディアを一次治療にも申請
(2017年2月23日発表)

ノバルティスは米国でALK阻害剤Zykadia(ceritinib、ジカディア)の一次治療適応拡大申請を行い優先審査指定を受けたと発表した。現在は、ALK活性化変異型非小細胞性肺癌でファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)による前治療歴を持つ患者の二次治療薬として承認されている。

ALK活性化変異型非扁平上皮性非小細胞性肺癌を組入れた第三相試験ではPFS(無進行生存期間)のメジアン値が16.6ヶ月と、白金薬とAlimta(pemetrexed)の標準療法及びAlimta単剤による維持療法を施行した群の8.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.55、統計的に有意だった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが遺伝子組換え型副甲状腺ホルモンなどの承認を支持
(2017年2月24日発表)

EUの薬品審査機関EMAの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、2月の会議で、Natpar(遺伝子組換え型ヒト全長副甲状腺ホルモン)の新薬承認などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域などで承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Natparはシャイアーが15年に52億ドルで買収したNPS Pharmaceuticalsの開発品。NPSは骨粗鬆症治療薬として欧米で承認申請したが、米国では承認されず、欧州では06年にPreotactという製品名で承認されたものの14年に商業上の理由で承認返上した。今回の申請は慢性副甲状腺機能低下症に伴う低カルシウム血症の治療用途で、CHMPは条件付き承認を勧告した。米国では15年に限定的な用途で承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: シャイアーのプレスリリース

次に、Lokelma(sodium zirconium cyclosilicate)はアストラゼネカが15年に27億ドルで買収したZS Pharma社の開発品で、高カリウム血症の治療に用いる。陽イオン交換剤で、胃腸のカリウムイオンに優先的に結合し、体内に吸収されずに排泄される。米国は審査完了通知に留まったが承認前検査の指摘事項に回答した模様なので、EUと前後して承認されるのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

次に、Tesaro(Nasdaq:TSRO)のVaruby(rolapitant)はNK-1受容体拮抗剤。中高度催吐性の抗癌剤による遅発性悪心嘔吐の抑制に、dexamethasoneや5-HT3受容体拮抗剤と併用する。米国では今年1月に審査完了通知を受領した。

NK-1受容体拮抗剤は、サブスタンスPが催吐中枢の神経を刺激するのを妨げる。VarubyはMSDのEmend(aprepitant、和名イメンド)と異なり3A4相互作用が小さいが、発売が10年以上遅れるので市場性は限定的だろう。

TesaroはMGI Pharmaで5-HT3受容体拮抗剤Aloxi(palonosetron)を開発したメンバーがエーザイに買収されたのを機に独立して設立した会社。MSDと合併したシェリング・プラウからrolapitantの権利を取得したOpko Health(NYSE:OPK)から独占開発生産販売権を取得したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、ノバルティスのBRAF阻害剤Tafinlar(dabrafenib)とMEK阻害剤Mekinist(trametinib)を併用でBRAF V600変異型の末期非小細胞性肺癌に用いる適応拡大が支持された。57人の小規模な試験でORR(全般奏効率)が63%、反応持続期間がメジアン9ヶ月だった。適応になるのは非小細胞性肺癌の1%未満とごく少ないので、変異検査が行われないリスクもありそうだ。この二剤併用はBRAF V600変異型悪性黒色腫に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンがデンマークのジェンマブからライセンスした抗CD38完全ヒト化抗体、Darzalex(daratumumab)を多発骨髄腫の二次治療に用いることも支持された。セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide )若しくはジョンソン・エンド・ジョンソン/武田薬品のVelcade(bortezomib)及びdexamethasoneと三剤併用する。現在は、Revlimidのような免疫調節薬及びVelcadeを既に使った患者に単剤投与するサルベージ用途で承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース

【承認】


セルジーン、レブラミドの新患維持療法が欧米で承認
(2017年2月24日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)の新患維持療法が欧米で承認されたと発表した。再発患者や自家造血幹細胞移植(ASCT)に不適な患者の一次治療は以前から承認されているが、今回、ASCTを受けた新患の再発抑制目的で単剤投与し地固めすることが可能になった。

米国中心に実施されたCALGB 100104試験ではメジアンPFS(無進行生存期間)が5.7年と維持療法を行わなかった群の1.9年を大きく上回り、欧州中心のIFM 2005-02試験では各3.9年と2年だった。

G3以上の主な有害事象は好中球減少症、血栓性血小板減少症、白血球減少症など。Revlimidの維持療法は異なった血液癌を誘導することがあるので注意が必要。治験では血液学的SPM(第二原発性腫瘍)の発生率が7.5%と偽薬群の3.3%より高かった。血液学的及び固形癌SPM(扁平上皮腫と基底細胞腫は除く)の発生率は14.9%対8.8%だった。

リンク: セルジーンのプレスリリース(米承認、2/22付け)
リンク: 同(EU承認、2/24付け)

ロシュ、アレセンサがEUで承認
(2017年2月21日発表)

ロシュはAlecensa(alectinib、和名アレセンサ)がEUで条件付き承認されたと発表した。ALS活性化変異を持つ末期非小細胞性肺癌でXalkori(crizotinib)による前治療歴を持つ患者に用いる。第二相試験ではORR(全般反応率)が52%だった。64%で中枢神経転移が縮小した。深刻な有害事象は間質性肺疾患/肺炎、肝障害、筋痛、CPK上昇、徐脈など。

中外製薬の開発品で日本では14年、米国でも15年に承認されている。

リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMAがSGLT2阻害剤の下肢切断リスクを通知
(2017年2月24日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、二型糖尿病治療薬の一種であるSGLT2阻害剤に関して、下肢(主として足趾部)切断リスクを持つ可能性があることを発表した。リスクが表面化したきっかけは、ジョンソン・エンド・ジョンソン/田辺三菱製薬のInvokana(canagliflozin、和名カナグル)の心血管アウトカム試験、CANVAS試験。昨年4月に、1000人年当りの発生数が偽薬群は3例であったのに対して、100mg群は7例、300mg群は5例だったことが公表された。

もう一本の大規模試験、CANVAS-R試験では偽薬群5例、canagliflozin群(100mgで開始して300mgに増量)7例とそれほど差がなかったが、今回発表された16年9月時点のデータでは4例対8例と差が拡大している。

他のSGLT2阻害剤の試験では観察されていないが、EMAはデータが限定的であることからクラスイフェクトと見なし、SGLT2阻害剤すべてのSPC(添付文書)に1000人中1~10人に発生する副作用として記載することを決めた。

SGLT2阻害剤は腎臓でグルコースを尿から血液中に戻すトランスポーターを阻害し、グルコースの排出を促す。ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのJardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の心血管アウトカム試験が成功し、ADA米国糖尿病協会が心血管リスクを持つ二型糖尿病患者に使用を検討するよう推奨するなど、期待を集めている。

リンク: EMAのプレスリリース






今週は以上です。

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