2013年3月10日

海外医薬ニュース2013年3月10日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC:ナイアシンの前途に暗雲
  • 画期的抗インフルエンザ薬のPOC試験が成功
  • GSK/塩野義の抗HIV薬は先行品より効果が高い可能性
  • 武田薬品がvedolizumabを欧州で承認申請
  • GSKがalbiglutideをEUでも承認申請
  • イグザレルトの適応拡大は二巡目の審査でも認められず
  • PerjetaがEUでも承認


【今週の話題】


ACC:ナイアシンの前途に暗雲

(2013年3月9日発表)

ACC米国心臓学会で、MSDのTredaptive(ナイアシン徐放製剤とDP1阻害剤laropiprantの合剤)の心血管アウトカム改善作用を検討したHPS2-THRIVE試験の詳細が発表された。心筋梗塞などのリスクを削減することはできず、一方、深刻な胃腸出血や感染症が増加し糖尿病の発生・合併症増加も見られた。そもそも、治験開始前に全員に投与したラン・イン期間中も、無作為化割付試験期間中も、有害事象を理由にドロップアウトする人が少なくなかった。

2012年12月23日号で書いたように、この試験だけではナイアシンが悪いのか、laropiprantが悪いのか、相乗効果なのか分からない。しかし、学会発表者はナイアシン犯人説に傾いているようだ。AIM-HIGHなど過去の試験でも心血管予防効果は見られず、また、上記の有害事象はナイアシンの既知のリスクだからだ。

一方で、この試験の対象患者はナイアシンの典型的な適応と異なる、という指摘も一理ある。サブポピュレーション分析で、LDL-Cが比較的高い患者には心血管リスク削減効果の兆候が見られるからだ。超大型薬の特許切れを控える製薬会社が万人に有益な次の超大型薬を狙ったことが裏目に出た可能性も大いにあるだろう(この試験はオックスフォード大学の臨床試験ユニットが主導したが、製薬会社側の意図が完全に無視された訳ではないだろう)。

何れにせよ、CETP阻害剤に続いてナイアシンの心血管アウトカム試験がフェールし、Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)やフィブレートの心血管リスク削減効果も明確には確認できていないことを考えると、『LDL-C低下=心血管リスク低下』とか、『HDL-C上昇=心血管リスク低下』といった単純な考え方は拒否せざるを得ない。コレステロールを治療するのは目的ではなく手段に過ぎないことを肝に銘じるべきだろう。

この試験は、中国、英国、スカンジナビア諸国の医療施設で、心筋梗塞や脳梗塞・TIA、末梢動脈疾患、あるいは糖尿病と冠状心疾患を併発する約25000人を組入れて、Tredaptiveと偽薬の心筋梗塞・脳卒中・血管再生術施行リスクを比較したもの。

約5万人をスクリーニングし、ランイン期間中にsimvastatin(必要によりezetimibeを追加)を用いて総コレステロール量を135mg/dL以下に治療すると共に、全員にTredaptiveを一ヶ月投与して忍容性を確認した上で、無作為化割付を行った。組入れ目標は当初は2万人だったが、治験開始の1年後に引き上げられた。

患者背景をみると男性が83%、平均年齢65歳、冠動脈疾患既往が78%、糖尿病が32%となっており、近年の心血管アウトカム試験としては女性が少ない。ベースライン時点(コレステロール治療後)の平均値はLDL-C(直接法)が63mg/dL、HDL-Cが44mg/dLで、前者は治療目標到達、後者も男なら低HDL-C症ではない。

ナイアシンは紅潮や胃腸副作用に耐えられない人が少なくないが、紅潮はlaropiprantを併用することで改善するはずだ。それでも、ランイン期間中に1/3の参加者がドロップアウトし、無作為割付期間中(メジアン3.9年)にも25%が離脱した。偽薬群は16%で、差の殆どは有害事象因によるものだ。深刻な有害事象も多く、糖尿病性合併症(発生率群間差3.7ポイント)、糖尿病発症(1.8ポイント)、感染症(1.4ポイント)、胃腸系(1.0ポイント)、筋骨格系(0.7ポイント)、出血(0.7ポイント)等が有意に多かった。

肝心の心血管アウトカムは、リスク・レシオ0.96、95%信頼区間0.90-1.03、ログランク・テストのp値は0.29と、有意差は無かった。約4年間の累計リスク(カプラン・メイヤー推定)は14.5%で偽薬群の15.0%と大差ない。

副作用に苦しむだけで便益なしという惨憺たる結果だが、ベースライン時点のLDL-C値に基づくサブポピュレーション分析に注目したい。58mg/dL未満と比べて58~77mg/dLのグループ、77mg/dL超のグループは数字が比較的よく、不均一性の解析はp=0.02となった。この解析は多重性の補正をしておらず(通常、補正しない)、また、各グループの群間差は有意ではないが、例えば、複数のコレステロール治療薬を服用しても120mg/dLの患者にナイアシンを追加投与する場合の便益はこの試験では分からないのである。

それ以上に分からないのは、ナイアシンの単独犯なのか、共犯、またはlaropiprantだけの犯行なのかということだ。EUはナイアシン単剤の便益・安全性の再検討を開始する模様であり、年商10億ドル超のナイアシン徐放製剤市場にどのような影響が出るか、注目される。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:オックスフォード大学のHPS2-THRIVE試験のウェブサイト(プレスリリースやスライドのリンク有)

【新薬開発】


画期的抗インフルエンザ薬のPOC試験が成功

(2013年3月4日発表)

バーテックス・ファーマスーティカルズ(Nasdaq: VRTX)は、VX-787のPOC試験成功を発表した。VX-787は新しい作用機序を持つA型インフルエンザ治療薬。ウイルスの複製を阻害するとのことだが、詳しいことは分からない。Tamiflu(oseltamivir、和名タミフル)のようなノイラミニダーゼ阻害剤に耐性を持つウイルスも散見されるようになったので、A型専用とは言え代替的な治療薬が実用化されれば有益だ。

POC(プルーフ・オブ・コンセプト)試験は画期的なメカニズムを持つ薬が本当に効くのか、見当を付けるために行う試験で、通常は前期第二相に相当する。抗ウイルス剤ならin vitroで活性を確認できるので、患部に必要な量を安全に届けることができるかどうかが鍵になる。今回の『インフルエンザ・チャレンジ試験』は104人のボランティアにH3N2ウイルスを与え、24時間経った段階で、4種類の用量または偽薬を一日一回、5日間に亘って経口投与し、インフルエンザ発症例のウイルス発芽状況や罹患期間を観察した。

結果は、ウイルス発芽(AUCで評価)が用量依存的に減少し、最大量(負荷用量1200mg、維持用量600mg)を投与した群は偽薬群より94%少なかった(統計的に有意)。更に、メジアン罹患期間は1.9日と偽薬群の3.7日を下回った(同)。

バーテックスは慢性C型肝炎や嚢胞性線維症の治療薬を開発・販売しているが、これらの専門薬とは異なり、抗インフルエンザ薬はプライマリーケア医向けの巨大販売部隊が必要だ。そのせいか、同社は、開発販売パートナーを探す考え。

リンク:バーテックスのプレスリリース

GSK/塩野義の抗HIV薬は先行品より効果が高い可能性

(2013年3月6日発表)

グラクソ・スミスクライン、ファイザー、塩野義製薬のHIV/AIDS治療薬合弁であるViiVヘルスケア社は、昨年12月に欧米で承認申請したインテグラーぜ阻害剤、S/GSK1349572(dolutegravir)の第三相直接比較試験の中間解析結果を公表した。24週時点のウイルス抑制がraltegravir(MSDのインテグラーぜ阻害剤、和名アイセントレス)より有意に優れていたが、他の時点ではそれほど差がなく、最終解析でも優越性が示されるかどうかは不透明だろう。一次治療試験では有意差はなかった。

このSAILING試験は多剤併用療法がフェールしつつある患者約710人を、dolutegravir群とraltegravir(MSDのインテグラーぜ阻害剤、和名アイセントレス)群に無作為化割付して、48週間の治療成果が非劣性であることを確認するもの。両群とも他に二種類の抗HIV薬を併用した。dolutegravirは50mgを一日一回、raltegravirは400mgを一日二回、経口投与。

24週経過時点の中間解析ではウイルス抑制成功率が79%とraltegravir群の70%を有意に上回った(p=0.003)。dolutegravir群は耐性ウイルスがraltegravirより少なく、この試験でもノンレスポンダーがraltegravir群より少なかったことが奏功したのだろう。

尤も、時系列的にみると、第8週までは差が広がったが、第12週と第16週は縮まり、その後第24週にかけてdolutegravir群の成功率が上昇、raltegravir群はあまり上昇しなかったため有意差が生じた恰好で、コンスタントに上回った訳ではない。一次治療直接比較試験では非劣性に留まっており、SAILING試験も主評価項目である非劣性検定は成功、事前に設定された二次的評価項目である優越性検定はフェール、となる公算があるだろう。

リンク:ViiVのプレスリリース

【承認申請】


武田薬品がvedolizumabを欧州で承認申請

(2013年3月8日発表)

武田薬品の子会社のミレニアム・ファーマスーティカルは、MLN0002(vedolizumab)を中重度活性期の潰瘍性大腸炎とクローン病の治療薬としてEUに承認申請した。米国でも申請に向かうのではないだろうか。

vedolizumabはアルファ4ベータ7インテグリンに結合するヒト化抗体で、リンパ球などが血管から組織に移行するのを阻害する。バイオジェン・アイデックの多発性硬化症・クローン病治療薬Tysabri(natalizumab)と似ているが、アルファ4ベータ1とVCAM-1の接着は阻害しないため、進行性多病巣性白質脳症(PML)のリスクが小さい可能性がある。

ミレニアム社が1999年に買収したLeukoSiteの開発品で、1997年にインライセンスしたジェネンテックがPOC試験を実施、そこそこの成績だったが、権利返還となった。ミレニアムにとって優先プロジェクトではなかったが、武田薬品による買収やTysabriのPML禍などを経て、2008年に第三相入りしたもの。

リンク:武田薬品のプレスリリース(和文)

GSKがalbiglutideをEUでも承認申請

(2013年3月7日発表)

グラクソ・スミスクラインはGSK716155(albiglutide)をEUでも承認申請したと発表した。週一回皮注用の二型糖尿病薬で、遺伝子組換え型ヒトGLP-1にアルブミンを融合したもの。2012年に買収したHGS社が、企業買収を通じて入手したアルブミン融合技術を応用して開発した。競合品の多くは一日一回、または二回皮注なので週一回で済むことは便利だが、ノボ ノルディスクのVictoza(liraglutide、和名ビクトーザ)と直接比較した試験で効果が非劣性ではなかった。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認審査・委員会】


イグザレルトの適応拡大は二巡目の審査でも認められず

(2013年3月4日発表)

バイエルとジョンソン・エンド・ジョンソンは、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)の急性冠症候群適応拡大がFDAに承認されなかったことを明らかにした。一巡目の審査で打切り例の多さが指摘されたため、追跡調査を行って提出したが、審査完了通知を受領した。

XareltoはXa阻害剤で非弁性心房細動患者の脳卒中リスク削減や、関節置換術後の深静脈血栓塞栓予防、深静脈血栓塞栓の治療等に承認されている。今回の用途では亜急性期の患者約16000人を組入れて偽薬、2.5mg、5mgを一日二回服用する3群の心血管アウトカムを比較したところ、2用量合計で偽薬比ハザードレシオ0.84、p=0.008と有意なリスク削減効果が示された。一方、大出血や頭蓋内出血が有意に増加した。特に5mg群のリスクと便益のバランスが悪かったため、2.5mgを承認申請した。

この試験はTIMIが主導した。血栓学で数々の成果を上げている米国の研究者共同試験グループで、信頼性は高い。だが、意外なことに、承認審査ではデータの信頼性が俎上に上がった。追跡打切り例が多く、その分、誤差が大きい。治療効果(心血管イベント発生率の差)は小さいため、許容できないというのである。

このような批判は初めてではなく、FDAの心臓腎臓薬審査チーム・リーダーが繰り返し主張してきたものだ。アストラゼネカのBrilinta(ticagrelor)、イーライリリーのEfient(prasugrel)、BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)等々、同様な問題がボトルネックとなり承認が遅延した薬は枚挙に暇がない。

心筋梗塞の再発予防などの分野は既に複数の薬が存在するので、新薬の上乗せ効果は自ずから小さくなる。例えば、治療しない時のリスクを100として、Aという薬を服用すれば50に減り、更にPを追加すれば30に減るとする。更にXを追加することで相対リスクを15%削減できたとしても、30が25に減るだけだ。このような小さな差を検出するためには大規模な長期試験が必要で、大規模長期試験を行うためには、医師や被験者の負担を軽くするために、治験の厳格性をある程度犠牲にせざるを得ない。

だが、統計的に有意でも元データに誤りがあったら意味がない。100が50に減るなら、実際は80に減るだけである可能性が残っていても許容できるが、30が25に減るだけなら許容できる誤差も小さくなる。新薬の承認の遅れは好ましくないが、問題点の所在が周知されるに従い、治験実施委員会や製薬会社の考え方も変わり、もっとキチンとした試験が行われるようになるだろう。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【承認】


PerjetaがEUでも承認

(2013年3月5日発表)

ロシュは、抗2C4ヒト化抗体Perjeta(pertuzumab)がher2陽性転移性乳癌の一次治療薬としてEUで承認されたと発表した。乳がんの代表的な腫瘍関連受容体の一つであるher2がher3などと二量体化し成長因子受容体として機能するのを阻害する。her2標的薬であるHerceptin(trastuzumab)やTaxotere(docetaxel)と併用する。米国では昨年承認され、Herceptinの3割増しの価格で発売された。併用するので薬剤費が倍以上に上昇することになる。

リンク:ロシュのプレスリリース

今週は以上です。

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