2012年4月30日

海外医薬ニュース週末版 2012年4月30日号

(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります)



【ニュース・ヘッドライン】

  • GSKが二種類の黒色腫用薬を承認申請へ
  • 顎の脂肪を分解する薬の第三相試験が成功
  • FDAがVotrientの適応拡大を承認
  • FDAがヴィーヴァスのED治療薬を承認
  • 武田のDPP-4阻害剤は又も承認見送りに
  • デノスマブを前立腺癌の骨転移予防に使うのは時期尚早
  • アストラゼネカがArdeaと買収で合意


【新薬開発】


GSKが二種類の黒色腫用薬を承認申請へ



グラクソ・スミスクラインは4月25日の決算発表資料の中で、二種類の転移性黒色腫用薬を承認申請する考えであることを明らかにした。



一つはbraf阻害剤GSK2118436(dabrafenib)。BREAK-3試験の結果を検討し、承認申請できると判断した。承認されれば2011年8月に米国で承認されたロシュのZelboraf(vemurafenib)に次ぐbraf阻害剤の第二号となる。



もう一つはMEK阻害剤GSK1120212(trametinib)で、この試験も承認申請できる結果になったようだ。



注目されるのは、この二剤の作用が補完的で、共に経口剤であることからコンビ薬を開発する可能性もあることだ。



Zelborafは高い抗腫瘍作用を持つが癌が遺伝子変異を経て抵抗性を獲得してしまうことがある。MAP/ERKパスウェイだけでなくRAS/RAF/MEK/ERKパスウェイも同時にブロックすれば、作用の持続性を高めることができるかもしれない。



このような期待から、GSKはこの二剤の併用第三相試験を開始する予定。



リンク: 2012年第1四半期決算発表資料(pdfファイル)



顎の脂肪を分解する薬の第三相試験が成功



ロサンジェルスのバイオ企業Kythera Biopharmaceuticalsとバイエルが共同開発している頤(おとがい)下脂肪治療薬、ATX-101の欧州第三相試験が二本とも成功した。詳細は学会発表される予定。



ATX-101は体内に存在する食物脂肪分解物質であるデオキシコロール酸ナトリウムを化学合成したもの。臨床試験では頤の脂肪領域に月一回、最大四回に亘って注射したところ、脂肪スケールや患者満足度スケールが偽薬比有意に改善した。



主な有害事象は疼痛、腫脹、しびれ、挫傷、硬化など、注射部位の軽中度、一時的なものが多かった。実用化されれば頤下脂肪で初の美容治療薬となる。



リンク:両社のプレスリリース



【承認申請・承認】



FDAがVotrientの適応拡大を承認



FDAはGSKのVEGF受容体阻害剤、Votrient(pazopanib)の適応拡大を承認した。2009年の切除不能腎細胞腫に続いて、末期軟組織肉腫の化学療法後アジュバント療法に用いることも可能になった。消化管間質腫瘍と脂肪肉腫は適応外。



臨床試験では無増悪生存期間がメジアン4.6ヶ月と偽薬群の1.6ヶ月を有意に上回った。従来同様に致死例を含む肝毒性が枠付警告されている。



リンク:


FDAのプレスリリース


GSKのプレスリリース



FDAがヴィーヴァスのED治療薬を承認



FDAはヴィーヴァス(NASDAQ: VVUS)が田辺三菱製薬から導入して開発したED治療薬、Stendra(avanafil)錠を承認した。



ファイザーのViagra(sildenafil)、バイエルのLevitra(vardenafil)、イーライリリーのCialis(tadalafil)に次ぐ第4のPED-5阻害剤だ。30分前に服用すれば間に合うので、Viagraと同程度に作用のオンセットが早い。



ヴィーヴァスは導出を検討している模様。Viagraに14年遅れで発売される割には長所が明確ではなく、差別化が難しそうだ。Viagraは7年後、他の薬はその前にGE化しそうなので、Stendraに残された時間は限られている。



リンク:


FDAのプレスリリース 



ヴィーヴァスのプレスリリース 



武田のDPP-4阻害剤は又も承認見送りに



FDAは、武田薬品のDPP-4阻害剤alogliptin(和名ネシーナ)とpioglitazone配合剤の承認を又も見送った。



ネシーナは2010年に日本で承認され、翌年にはpioglitazone配合剤もリオベルとして承認されたが、他の国では未承認である。米国は2007年に承認申請されたが、rosiglitazoneの心筋梗塞リスク騒動の余波を浴びて遅延した。



alogliptin自体に心臓疾患リスクがあるようには見えない。2010年のADA米国糖尿病学会で臨床試験の心血管メタアナリシスが発表されたが、数値上は偽薬群よりリスクが小さかった。但し、該当症例数が少ないために信頼区間は広い。



武田は2011年7月にEXAMINE心血管アウトカム試験の中間解析結果等をFDAに提出した。当時のプレスリリースによるとFDAの安全性要件を満たす内容であったはずだった。



筆者が三年前に行ったシミュレーションでも、もしリスクがADAで発表されたデータ通りならば、EXAMINE試験中間解析とSU剤対照長期投与試験のデータで症例数が充足され、心血管疾患リスクが偽薬比非劣性であることを証明できるはずだった。



日本だけで承認される薬が再び増加し始めた今日では、海外の承認審査機関の評価を精査することが必要だが、残念なことに、情報は限られている。



リンク:


武田薬品のプレスリリース(日本語) 



2010年ADAの抄録(William Whiteら、抄録番号391-PP)



デノスマブを前立腺癌の骨転移予防に使うのは時期尚早



アムジェンは抗RANKL完全ヒト抗体denosumabを骨粗鬆症治療薬Prolia及び癌の骨転移治療薬あるいはホルモン療法誘導性骨粗鬆症治療薬Xgevaとして販売している。米国で骨転移予防の適応拡大申請を行ったが、承認されなかった。



諮問委員会で13人の委員中12人が反対したことを考えれば不思議は無い。去勢療法抵抗性前立腺癌でPSA値が高い患者を組み入れた臨床試験では、主評価項目である骨転移リスク削減効果は確認されたものの、延命効果や無増悪生存期間を延ばす効果は確認されなかった。



懸念されるのは、顎骨壊死が15人に一人という高い頻度で発生したことだ。同剤やビスフォスフォン酸のように骨の新陳代謝を抑制する薬は、抜歯の後のヒーリングも妨げてしまう。



腫瘍学用途では120mgを4週間に一回皮注と高量を投与するので、60mgを半年に一回の骨粗鬆症治療用途よりリスクが高まる。



既に骨転移した患者に対して使う場合は便益が大きいが、未転移は治療をしないリスクが比較的小さい分、便益も小さくなる。このため、諮問委員会は顎骨壊死のリスクを正当化できないと判定した。



Xgevaは日本では第一三共がランマーク名で2012年4月に発売した。



リンク:アムジェンのプレスリリース 



【製薬会社の動き】


アストラゼネカがArdeaと買収で合意



アストラゼネカはArdea Biosciences(Nasdaq: RDEA)と買収で合意した。株主には一株当り32ドル、総額12.6億ドルを現金で支払う。狙いは、第三相段階の尿酸治療薬、RDEA594(lesinurad)だろう。



痛風の原因である高尿酸血症は尿酸の生産過剰や分解・排泄不足によって引き起こされる。典型的な尿酸降下薬であるキサンチンオキシダーゼ(XO)阻害剤は尿酸合成を阻害するメカニズムなので、前者に適しているはずだが、後者にも用いられている。



後者に適した薬が無いからだ。RDEA594はURAT1という、腎臓のトランスポータを阻害することによって尿酸の排泄を促す新しいメカニズムを持っているので、分解・排泄不足型に適している可能性があり、また、併用もできそうだ。



2011年に開始された第三相試験では200mg又は400mgを一日一回、経口投与で、XO阻害剤を服用している患者に追加したり、不耐患者に単剤投与する用法を試験している。2013年から結果が出始める見込み。



アストラゼネカには馴染みの無い分野だろうが、CEOが退任しなければならないほど新薬開発に苦戦しているので、選り好みはできないのだろう。



リンク:両社ののプレスリリース



今週は以上です。



2012年4月22日

海外医薬ニュース週末版 2012年4月22日号

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       海外医薬ニュース(週末版) 2012年4月23日号    
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             http://medicineblog.blog32.fc2.com/

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ニュース・ヘッドライン

・C型肝炎治療薬の学会発表
・CHMPが三種類の新薬に肯定的意見
・HGSIがGSKの買収オファーを拒否
・EUとFDAがジレニア/イムセラの警告強化
・FDAがラジレスの警告強化

新薬開発


C型肝炎治療薬の学会発表

ILC(国際肝臓学会)で、複数のC型慢性肝炎用新薬の臨床第二相試験データが発表されている。テラビック(telaprevir、海外ではIncivek名で販売)やVictrelis(boceprevir)と同じプロテアーゼ阻害剤の新薬や、ポリメラーゼ阻害剤、NS5A阻害剤などだ。

C型肝炎の治療はテラビックやVictrelisを用いる三剤併用療法の登場で飛躍的な進歩を遂げた。今後の開発課題は、三剤併用に不応、不耐の患者向けだ。インターフェロン抜きの三剤、四剤併用療法が活発に探索されている。

一例が、BMSのBMS-790052(daclatasvir、NS5A阻害剤)とギリアッド(NASDAQ:GILD)のGS-7977(NS5Bポリメラーゼ阻害剤)の第二相試験だ。両剤を一日一回、24週間に亘って経口投与したところ、投与終了の4週後の奏効率(SVR4)がI型ウイルス感染者(44人)は100%、2型・3型感染者(同44人)は91%だった。この試験ではribavirinを併用する群も設定されたが、効果は大差なかった。

かっての標準療法であったインターフェロンもribavirinも使わずにこれだけの成果が挙がったのは意義がある。尤も、喜ぶのは未だ早い。症例数が少なく、また、追跡期間も短いからだ。治療が成功したと言うためには、投薬完了後24週間経った後でもウイルスが探知不能でなければならないが、インターフェロンを使わないレジメンは完了後の再燃が懸念される。

リンク:BMSのプレスリリース

但し、再燃に対する懸念は緩和しつつある。24週間後奏効率(SVR24)でも良いデータが出始めているからだ。例えば、アボットのABT-450(プロテアーゼ阻害剤)とABT-072(ポリメラーゼ阻害剤)をritonavirやribavirinと併用した小規模な試験では、11人中10人がSVR24を達成した。プロテアーゼ阻害剤は生物学的利用率が低いが、ABT-450はritonavirの3A4阻害作用を利用して一日一回経口投与を実現している。ABT-072も一日一回なので、高い抗ウイルス作用を持つプロテアーゼ阻害剤を簡便に用いることができる。

リンク:アボットのプレスリリース

海外の治験データを見る度に、日本でも開発されているのか心配になる。ILCでは虎ノ門病院などで実施された小規模な第二相試験の結果が発表された。インターフェロンとribavirinの併用に不応、又は不耐・不適なIb型ウイルス感染者に上記のBMS-790052とプロテアーゼ阻害剤BMS-650032(asunaprevir)の二剤併用療法を24週間施行した。その結果、不応患者は21人中19人、不耐不適患者は22人中14人がSVR24を達成した。

リンク:BMSのプレスリリース

第二相段階の新薬で考慮しなければならないのは安全性が十分には確認されていないことだ。今後、症例が増えるにつれて深刻な副作用が顕在化するかもしれない。ILCではノバルティスがスイスのDebio Pharmaからライセンスしたサイクロフィリン阻害剤、Debio 025(alisporivir)の第三相試験がクリニカル・ホールド(治験中断)になったことも公表された。急性膵炎が4例発生し、うち一人が死亡したため、FDAがストップを掛けた。薬との関連性は明確ではなく、この試験で併用されたインターフェロンも膵炎のリスクがあるのだが、前途は楽観できないだろう。

リンク:ビジネスウイークの記事

何れにせよ、これだけ多くの製薬会社がこれだけ多くの新薬を開発しているのだから、前途は明るい。3年後、5年後には様々な併用療法が実用化されるだろう。各社の競争が激化すれば、ウイルス型などに基づいて最適な併用レジメンを選択するテーラーメイド・メディスンも進むだろう。

承認申請・承認


CHMPが三種類の新薬に肯定的意見

EUの医薬品審査機関であるCHMPが4月の会議で三種類の新薬に肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月以内に承認されることになる。

Forxiga(dapagliflozin)はBMSがアストラゼネカと共同開発した糖尿病治療薬。SGLT2阻害という新しい作用機序を持つ。SGLT2は、腎臓で血液から濾し取られたグルコースを再び血液中に戻すトランスポーター蛋白で、大阪大学の研究者が同定した。阻害すると、尿と一緒に排泄されるグルコースが増加する。CHMPによると、metforminやSU剤のglipizideと同程度の血糖効果作用を持ち、2年間の試験で作用の持続性を示した。中度以上の腎障害を持つ患者には適さない。

気になるのは治験で一部の癌の発生に偏りがあったことだ。膀胱癌の発生率は0.16%(対照群は0.03%)、乳癌は0.40%(同0.22%)だった。短期間の試験中に癌が発生し発見されるとは考え難いが、FDAが承認しなかったのはこれが原因だろう。このため、BMSとアストラゼネカは市販後に疫学的試験を行い、進行中の心血管アウトカム試験でも癌の発生状況を監視する。

リンク:CHMPのリリース

BMSのリリース

Jakavi(ruxolitinib)は骨髄線維症の治療薬で、ノバルティスがインサイト(NASDAQ:INCY)から米国以外の開発販売権を取得したもの。JAK1とJAK2という骨髄線維症に関連する酵素を阻害する経口剤。治験では膵臓肥大の改善などの効果が見られた。骨髄線維症は命に係わる血液癌の一種で、EUの有病率は10万人に0.75人、希少疾患指定されている。米国ではインサイトがJakafi名で販売。

リンク:CHMPのプレスリリース

ノバルティスのプレスリリース
Rienso(ferumoxytol)は慢性腎疾患の鉄欠乏性貧血治療薬で、武田薬品がAMAG(NASDAQ:AMAG)から欧州などの権利を取得したもの。静注。米国では2009年にFeraheme名で承認され、2011年の売上高は5000万ドル余。

リンク:CHMPのリリース

AMAGのプレスリリース

一方、Allos Therapeutics(NASDAQ:ALTH)が末梢T細胞リンパ腫用薬として承認申請したFolotyn(pralatrexate)は1月に続いて今回の再評価でも否定的意見となった。CHMPの懸念は、臨床試験のデザインが不十分で薬効が十分に確認されていないこと。具体的には、対照群が設定されておらず、奏効率を調べただけで症状改善効果や延命効果が検討されなかった。尚、AllosはSpectrum社が2億ドルで買収することで合意している。

リンク:CHMPのリリース

Allos社のプレスリリース

製薬会社の動き


HGSIがGSKの買収オファーを拒否

ヒューマン・ジェノム・サイエンス(NASDAQ:HGSI)はグラクソ・スミスクラインの買収オファーを拒否した。一株当り13ドル、総額26億ドルでは過小評価と判断した。米国の上場企業が買収オファーを受けた場合は株主の利益を最優先に考える必要がある。スタンスは企業によって区々だが、HGSIは買収自体を拒否している訳ではなさそうだ。投資銀行などと戦略的選択肢を検討する考えであり、GSKがオファーを引き上げれば受諾する公算がある。

GSKはHGSIと長年の提携関係にあり、全身性エリトマトーデス治療薬Benlysta(belimumab)を共同販売、GLP-1作用剤albiglutideを共同開発している。Benlystaの2011年の売上高は5230万ドルと伸び悩んでおり、HGSIの株価はゲノムブームの2000年の108ドル、Benlystaが承認申請された2010年の32ドルから7ドルまで下落していた。

リンク:グラクソ・スミスクラインのプレスリリース

HGSIのプレスリリース

医薬品の安全性


EUとFDAがジレニア/イムセラの警告強化

EUと米国の医薬品審査機関が相次いでGilenya(fingolimod、和名ジレニア、イムセラ)の警告を強化した。内容は若干異なるものの、治療を開始する前に心電図、血圧、心拍数を検査し、初回投与後は6時間に亘って一時間毎に血圧・心拍数をモニターし、もし徐脈やAVブロックが発生した場合は一晩監視する。心血管疾患・脳血管疾患歴を持つ患者や不整脈治療薬、心拍数低下薬を服用している患者に用いる場合も、初回投与後は一晩監視する。

Gilenyaはノバルティスが田辺三菱製薬からライセンスして開発した再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬で、米国で2010年、日欧でも2011年に承認された。再発リスク削減効果が高く、また、経口投与できる唯一の薬である。臨床試験で血圧低下や心拍数低下が見られたため、初回投与後は6時間観察するという大変珍しい用法が課せられた。昨年12月に米国で治療開始後24時間以内の死亡例が報告されたため、EUの審査機関であるCHMPと米国のFDAが夫々に安全性を再検討した。

CHMPやノバルティスによると、Gilenyaによる治療を受けた患者は累計28,000人。死亡は15例で、死因は突然死、心臓発作、不整脈などだが原因不明もある。多くは心臓疾患歴や心拍影響を持つ薬の同時服用があった。FDAは特に何も発表していない模様だが、ノバルティスがFDAとレーベル変更で合意したと発表した。

リンク:CHMPのプレスリリース

CHMPの判定に関するノバルティスのプレスリリース

FDAとレーベル変更で合意したことに関するノバルティスのプレスリリース

FDAがラジレスの警告強化

FDAはTekturna(aliskiren、和名ラジレス)の警告を強化した。糖尿病又は中高度腎障害を持つ患者について、ACE阻害剤やARBを併用禁忌とする。ALTITUDE試験で腎障害や低血圧、高カリウム血症のリスクが見られたため。米国ではvalsartan配合剤が承認されているが、ノバルティスは自主的に販売中止を決めた。

FDAによるとaliskirenは2011年に45万人の患者に処方されたが、このうち22%がACE阻害剤又はARB、且つ二型糖尿病薬を同時服用していた。この分の需要が喪失することになる。ALTITUDE試験では心血管疾患による死亡や脳卒中ややや増加したが、FDAは、薬との関連性に関する結論はまだ出ていない、と述べている。

レニン・アンジオテンシン系をブロックする降圧剤の併用は、腎障害の悪化を強力に抑制することができると考えられていた。しかし、ACE阻害剤とARBの併用も、アウトカム試験で効果が見られず、副作用が増えるだけだった。

ノバルティスと言えば、日本で実施されたディオバン(valsartan)のアウトカム試験に疑義を唱える投稿がLancet誌に刊行された。私もKyoto Heart Studyの結果が発表された当時、よく分からない点を書いたことがある。今週は同社にネガティブな報道が続いた。

リンク:FDAのプレスリリース

ノバルティスのプレスリリース

Medicine-Blog valsartanは京都で誰を倒したのか?

今週は以上です。

2012年4月15日

海外医薬ニュース(週末版)2012年4月15日号



ニュース・ヘッドライン




  • イグザレルトがEUで肺塞栓の治療に適応拡大申請
  • Qnexaの承認審査期間が3ヶ月延長に
  • アルツハイマー病の検査薬が米国で承認
  • アムジェンがKAI Pharmaceuticalsを買収へ
  • イムセラ服用患者で初のPML症例
  • FDAとバイエルがヤーズの血栓リスクを警告
  • 5α還元酵素阻害剤と性機能障害


承認申請・承認



イグザレルトがEUで肺塞栓の治療に適応拡大申請

バイエルは経口Xa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を肺塞栓の治療に用いる適応拡大申請をEUで行なった。臨床試験では、当初は低分子量ヘパリン、その後はワーファリンを用いる現在の治療法と比べて、再発予防効果も出血リスクも非劣性だった。

経口抗血栓薬の代表格であるワーファリンは世界合計で100以上の適応症で承認されている由だ。新世代であるXa阻害剤や直接的トロンビン阻害剤も出番が多く、Xareltoはこれまでに関節置換術後の静脈血栓塞栓の予防、深静脈血栓の治療、非弁膜性心房細動患者の脳卒中予防の適応を欧米で獲得、急性冠症候群後の再発予防でも承認審査中だ。

リンク:バイエルのプレスリリース


Qnexaの承認審査期間が3ヶ月延長に

Qnexa(phentermineとtopiramateの固定用量合剤)を体重管理用薬として米国で承認申請しているヴィーヴァス社(Nasdaq: VVUS)は、FDAが審査期間を3ヶ月延長したと発表した。2月のFDA諮問委員会で22人の委員中20人の支持を受けたが、4月4日に同社がREMS(リスク評価・緩和戦略)を提出したため、承認申請内容の重大な変更と見なされ、審査期限が7月17日に延期された。

REMSは新薬の適正使用を担保するための方策を列記したもので、誤用による副作用被害を防ぐことが目的。Qnexaは二種類の中枢神経系疾患治療薬を異なったタイミングで放出する遅放性持続性放出製剤になっており、体重抑制作用のシナジーを利用することで配合量を抑え、夫々の薬剤の副作用を緩和している。それでも様々な副作用が懸念され、また、肥満が蔓延している米国では多くの患者が服用する可能性があるため、医師と患者がリスクを理解した上で密接に監視することが重要だ。

FDAは新薬の承認審査を10ヶ月(優先審査の場合は6ヶ月)以内に終える必要があるが、期限が迫った段階でネガティブな情報が提出され十分な審査ができないことがあったため、最後の3ヶ月間に申請内容の重大な変更が行われた場合は期間を延長する制度が導入された。REMSの提出・変更は重大な変更と見なされるので、今回の延長は当然だ。

リンク:ヴィーヴァスのプレスリリース


アルツハイマー病の検査薬が米国で承認

アルツハイマー病の病理学的特長は、脳にβアミロイドの蓄積による老人斑が観察されることだ。生検はできないのでPET造影による検査・診断法が活発に研究されているが、遂に、初の検査薬が米国で承認された。



イーライリリーが2010年に買収したAvid RadiopharmaceuticalsのAmyvid(florbetapir F 18)だ。βアミロイドに結合する物質を放射性核種と繋げたもの。FDAの発表文によると、病気の進行を予測する効能は未だ不明。画像評価は簡単ではなく、事前に研修を受けて判定能力を確認する必要がある。

症例研究を名目にすれば承認されていない検査薬を用いることができるのだが、正式に承認を取れば、普及が進み共同研究もやり易くなるだろう。βアミロイド蓄積量と病状はどの程度相関するのか?発症前に高リスク患者をスクリーニングすることは可能か?研究課題は多い。



そもそも、蓄積は病気の原因なのか、結果なのか?現在、複数のコンパウンドがアルツハイマー病治療第三相試験中で、今年はイーライリーのsolanezumab(抗アミロイドβ(11-20)ヒト化モノクローナル抗体)の、来年はファイザー/J&Jのbapineuzumab(抗アミロイドβ(1-5)ヒト化モノクローナル抗体)の成否が明らかになる予定だ。アミロイド仮説の有望性を占う上で重要なマイルストーンが続く。

リンク:FDAのプレスリリース


リンク:イーライリリーのプレスリリース


製薬会社の動き



アムジェンがKAI Pharmaceuticalsを買収へ
アムジェンはKAI Pharmaceuticalsを315百万ドルで買収することで合意した。



アムジェンはエポエチンなどバイオ薬で有名だが近年は小分子薬のR&D・企業買収にも注力している。例えば、日本で今年3月に承認されたアステラス製薬の高リン血症治療薬キックリンは、アムジェンが2007年に買収したイリプサ社から導入したものだ。



KAIは注射用カルシウム感受受容体ペプチド・アゴニストKAI-4169を、慢性腎疾患透析期の患者がしばしば合併する二次性副甲状腺機能亢進症の治療薬として臨床第二相試験中であり、アムジェンの透析患者向け製品群と販売シナジーがある。尤も、アムジェンはNPS Pharmaceuticalsからライセンスした経口カルシウム受容体作動剤Sensipar(cinacalcet、日本は協和発酵キリンがレグパラとして販売)もラインアップしており、重複する面もある。

エポエチンの売上高は、透析期患者のケアを充実させる世界中の流れに乗り大きく拡大したが、ヘモグロビン値を強力に矯正すると血栓性疾患のリスクが高まることが判明し、また、癌性貧血の治療に用いると寿命が短くなる懸念が浮上したため、近年は伸び悩んでいる。Affymaxが武田薬品と提携して今年3月に米国でOmontysを発売し、数年後にはエポエチンの後発品の発売も見込まれる中、開発パイプラインの強化が課題になっている。



尚、KAI-4169は昨年9月に小野薬品が日本の開発販売権を取得している。



リンク:両社のプレスリリース



医薬品の安全性



イムセラ服用患者で初のPML症例

ノバルティスが田辺三菱製薬から導入して開発・発売した再発寛解型多発性硬化症の維持療法用薬Gilenya(fingolimod、和名イムセラ)で、初のPML症例が報告された模様だ。ノバルティスがEメールで連絡してきたことを4月13日に海外の複数のメディアが報道した。原因は不明だが、Tysabri(natalizumab、日本では未だ臨床開発段階)による前治療歴が3年以上あるとのことなので、より疑わしいのはこちらだろう。

PMLは進行性多巣性白質脳症の略で、脳に炎症が発生して重篤な神経障害を齎す。HIV/AIDSや強力な免疫抑制剤を用いている患者で稀に観察される。JVウイルスという多くの人が感染しているウイルスが原因と推測されている。PMLリスクを持つことで有名なのが、アイルランドのバイオ企業エランが米国のバイオジェン・アイデックと共同販売している再発寛解型多発性硬化症維持療法用薬、Tysabriだ。治療を続けるにつれてリスクが高まっていくので、患者はやがて他の薬にスイッチせざるを得なくなる。



Tysabri治療を受ける患者はインターフェロンβ不応不耐例が多いので、スイッチするとしたら、2010年に米国で、2011年に欧州や日本で承認されたばかりの新薬であるGilenyaが有力な候補になる。しかし、Tysabriは作用が数ヶ月続くので、投与を止めても直ぐにはリスクが低下しないだろう。免疫抑制療法が原因なのだから、同じ免疫抑制剤であるGilenyaにスイッチしても、リスク低下しないかもしれない。このため、筆者はGilenyaでPML症例が報告されることを予想していた。一例だけでは終わらないだろう。



勿論、Gilenya自体が原因である可能性も残っている。今後、医学誌や学会で症例報告・検討が行なわれるだろう。尚、これまでに36000人がGilenyaによる治療を受けた由である。

バイオジェン・アイデックが米国で2月に承認申請したBG-12(dimethyl fumarate)は免疫抑制作用が小さいようなので、JCウイルス感染者やTysabriによる前治療を受けた患者には適しているかもしれない。Gilenyaと同様に経口剤なので注射嫌いな患者にも向いている。再発予防効果もGilenyaと遜色なさそうだ。Gilenyaは市販後に改めて心臓有害事象が報告され欧米の承認審査機関が検討している。Gilenyaに悪材料が出れば出るほど、BG-12に対する期待が高まる。

リンク:



ビジネスウイークの報道


Dow Jonesの報道(Wall Street Journalのサイト)


Pharmalot(16年のキャリアを持つ薬品業界ジャーナリストのブログ)


FDAとバイエルがヤーズの血栓リスクを警告

FDAとバイエルは、drospirenoneの血栓性疾患リスクを警告するレーベル変更を行った。このプロゲスチンは低用量ピルYAZ(drospirenoneとethinyl estradiolの合剤、和名ヤーズ)などに配合されている。低用量ピルには血栓性疾患リスクが付き物だが、drospirenoneは疫学的研究で他のプロゲスチン配合製品よりリスクが高い可能性が指摘されたため、FDAが検討してきた。バイエルによると、それでも妊娠に伴う血栓性疾患リスク上昇より小さいとのこと。

リンク:


FDAのプレスリリース

バイエルのプレスリリース


5α還元酵素阻害剤と性機能障害
米国で、MSD(メルク)の5α還元酵素阻害剤finasterideのレーベルに服用中止後の性機能障害に関する情報が記載される模様だ。Medpageなどが報じたもので、因果関係は確立していないが、精子障害、射精障害、不妊などの有害事象症例が報告されている由。

finasterideは低容量が男の脱毛症治療薬Propecia(和名プロペシア)、高容量が良性前立腺肥大治療薬Proscar(日本は未承認)として承認されている。性機能に影響するリスクは20年前の初承認当時から認識されており、2011年には米国でEDが追加された。

リンク:Medpageの報道(要登録)


今週は以上です。

2012年4月8日

海外医薬ニュース週末版 2012年4月8日号




ニュース・ヘッドライン

  • 塩野義製薬が創製した抗HIV薬の第三相試験が成功
  • バイエルのregorafenibはGIST試験も成功
  • ペリフォシンの第三相試験がフェール
  • apaziquoneの第三相試験はフェール
  • UCBとアムジェンが抗sclerostin抗体で第三相試験を開始
  • FDA諮問委員会がアステラス製薬のベタニスを支持
  • アムジェンとアストラゼネカが炎症疾患領域で提携


新薬開発



塩野義製薬が創製した抗HIV薬の第三相試験が成功

塩野義製薬とViiVヘルスケア社は、両社が共同開発しているインテグラーゼ阻害剤、S/GSK1349572(dolutegravir)の最初の第三相試験が成功したことを発表した。抗ウイルス療法を初めて受けるHIV/AIDS患者を組入れて奏効率をIsentress(raltegravir、和名アイセントレス)と比較したもので、両群とも核酸系逆転写阻害剤などを併用した。48週時点の奏効率は88%となり、Isentress群の85%と比較して非劣性だった(95%信頼区間の下限が-2.2%と、非劣性マージンとして設定された-10%を上回った)。

インテグラーゼ阻害剤はHIVウイルスのゲノムが宿主細胞のゲノムに組み入れられる過程を阻害する新しいタイプの抗HIV薬で、MSD(メルク)のIsentressが第一号。有害事象が発生して今回の治験を離脱した患者は両群とも2%に留まっており、忍容性は比較的良い。Dolutegravirはin vitro試験でIsentress抵抗性ウイルスの多くに活性を維持しており、また、服用回数が一日二回ではなく一回なのでピルバーデンが若干改善する。今回の試験の他にも複数の試験が進行中で、承認申請は2013年頃になりそうだ。

ViiVヘルスケアはグラクソ・スミスクラインとファイザーが抗HIV薬と開発品を持ち寄って設立した合弁会社。グラクソは塩野義製薬と広範な分野で開発提携を結んでおり、dolutegravirも元々は二社の共同開発プロジェクトだった。

リンク:塩野義製薬とViiVヘルスケアのプレスリリース



バイエルのregorafenibはGIST試験も成功


バイエルはBAY 73-4506(regorafenib)のGIST(消化管間質腫瘍)試験が成功したと発表した。既に結腸直腸癌試験も成功しており、バイエルは2012年上期中に承認申請する予定だ。



今回の試験は転移性/切除不能なGISTを罹患し、承認されている薬(グリベックやスーテント)による治療を既に受けた患者を組入れて、PFS(無増悪生存期間)をプラセボと比較したもの。どの程度の効果があったのかは明らかではない。学会発表を計画しているのだろう。



リンク:バイエルのプレスリリース


ペリフォシンの第三相試験がフェール

米国の新興製薬会社であるKeryx Biopharmaceuticals(ケリクス バイオファーマシューティカルズ、Nasdaq:KERX)はKRX-0401(perifosine)の第三相試験がフェールしたことを発表した。KRX-0401はAeterna Zentaris(エテルナゼンタリス、Nasdaq:AEZS)からライセンスした、PI3K/Akt阻害剤の中で開発が最も進んでいる化合物で、昨年11月にヤクルトが日本の独占開発販売権を取得したばかりだ。

この試験は難治性結腸直腸癌の患者を組入れて、Xeloda(capecitabine、和名ゼローダ)併用群とXelodaだけの群の全生存期間を比較したもの。多発骨髄腫でも第三相試験が進行中。

リンク:Keryx社ののプレスリリース



apaziquoneの第三相試験はフェール

米国の新興製薬会社であるSpectrum Pharmaceuticals社は、apaziquoneの膀胱癌第三相臨床試験がフェールしたと発表した。この試験は低グレード非浸潤膀胱癌のTUR-Bt(経尿道的膀胱腫瘍切除術)後のアジュバント療法としての効果を調べたもので、主評価項目は2年再発率。プレスリリースの書き振りから判断すると二本ともフェールした模様だ。二本のプール分析ではp値が0.0174とのことだが、個々の試験がフェールしたのなら意味は無い。共同開発しているアラガン社にとっても残念な結果になった。

Spectrum Pharmaceuticalsは、同じく米国の新興製薬会社であるAllos Therapeuticsと買収で合意したことも発表した。Allosは葉酸系代謝拮抗剤Folotyn(pralatrexate)を再発性難治性末梢T細胞リンパ腫用薬として2009年に発売。売上高は2010年3500万ドル、2011年は5000万ドルと着々と増加している。買収の条件は一株当り現金1.82ドルと、CVR(後発的価値権)。CVRは達成報奨金に類したもので、今回の場合、Folotynが2012年にEUで承認され、2013年末までにEU主要国のうち3ヶ国以上で保険対象薬として発売された場合、0.11ドルの現金が支払われる。

FDAとは異なり、EUは、血液癌に用いる薬を小規模な単群試験の反応率(奏効率)だけに基づいて承認することに後ろ向きだ。Folotynも今年1月にCHMPが否定的意見を出したので、年内の承認は難しいだろう。CVRの価値をゼロとすると、買収総額は2億600万ドル、Allosが2011年末時点で保有していた現金を差引くと、1億800万ドルとなる。

リンク:両社のプレスリリース


UCBとアムジェンが抗sclerostin抗体で第三相試験を開始

ベルギーのUCBとアメリカのアムジェンは、CDP7851/AMG 785(romosozumab)の閉経後骨粗鬆症第三相試験を開始した。5000人以上を組入れて、椎骨損壊リスクを偽薬と比較する。結果が出るのは2015年末の見込み。

CDP7851/AMG 785の標的であるsclerostinは骨形成を阻害する蛋白で、この蛋白に変異を持つ人は骨密度が異常に上昇する。両社は2002年に抗sclerostinヒト化抗体の共同開発提携を結んだ。

アムジェンは抗RANKL完全ヒト化抗体denosumab(デノスマブ)を同じ用途に販売しているが、当初期待されたほど売れていない。命に直ぐに係わる病気ではないことや、血球細胞に与える影響が不透明であることなどが影響しているのだろう。前者は抗sclerostin抗体にも当て嵌まるので、よほど効果が高くない限り、商業的な見通しは立てにくい。

リンク:両社のプレスリリース


承認申請・承認



FDA諮問委員会がアステラス製薬のベタニスを支持

アステラス製薬が過活動膀胱治療薬として承認申請したYM178(mirabegron、和名ベタニス)をFDAの再生産医療薬諮問委員会が検討し、12人の委員のうち7人が便益がリスクを上回ると判定した。下回ると評価した委員は4人、棄権が1人だった。FDAは6月29日までに承認の可否を決する予定。



YM178は自社開発のβ3作動剤。膀胱排尿筋のβ3アドレナセプターを刺激して不随意な膀胱収縮を抑制し、失禁を防ぐ。効果は穏やかだが、副作用も比較的小さい。治験では血圧や心拍数が偽薬比で若干上昇した。稀に重度肝障害やスティーブンス・ジョンソン症候群も発生したため、市販後に安全性確認研究・調査が行われることになりそうだ。


アステラスは尿が出難い患者向けのタムスロシンと尿が漏れてしまう患者向けのソリフェナシンという二つのベストセラーを持っている。一見すると効果が正反対だが、タムスロシンを過活動膀胱の治療に用いることもあるようだ。排尿時に膀胱が空になれば失禁も減るかもしれないからだ。YM178は日本では昨年、承認・発売されたところだが、既存の薬に十分に反応しない患者に対する選択肢の一つになりそうだ。何れも効果は穏やかなので、併用も開発課題になりうるだろう。



リンク:MedPageTodayの報道(要登録)


製薬会社の動き



アムジェンとアストラゼネカが炎症疾患領域で提携

アムジェンとアストラゼネカは、アムジェンの5種類の抗体医薬を炎症疾患向けに共同開発することで合意した。このうち、AMG 827(brodalumab)は年内に第三相試験が始まる予定。アストラゼネカは5000万ドルの頭金を払い、開発費や利益を折半する(2012~2014年の開発費は65%を負担)。開発費負担を緩和したいアムジェンと、バイオ薬パイプラインを強化したいアストラゼネカの利害が一致した。尚、協和発酵キリンが持つAMG 827のアジアの開発販売権や、武田薬品が保有するAMG 557の日本の権利は影響を受けない。

4月1日号で書いたように、AMG 827はIL-17受容体を標的とする完全ヒト抗体で、中重度乾癬の第二相試験論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行されたばかりだ。アストラゼネカは皮膚科と呼吸器疾患用途で北米以外の販売を主導する。

リンク:両社のプレスリリース


今週は以上です。

2012年4月1日

海外医薬ニュース週末版 2012年4月1日号



ニュース・ヘッドライン

  • 細胞毒搭載型トラスツズマブのフェーズIII試験が成功
  • IL-17標的薬がフェーズIIbで好成績
  • Affymax・武田薬品の貧血症治療薬が米国で承認
  • Chelsea社の起立性低血圧症治療薬は承認されず
  • ヴィーヴァス(田辺三菱製薬)の性的不全治療薬の承認申請が欧州でも受理
  • FDA諮問委員会:肥満症治療薬は全て、心血管安全性を確認すべき
  • アミリン社が買収のターゲットになっている?


新薬開発



細胞毒搭載型トラスツズマブのフェーズIII試験が成功



ロシュは、T-DM1(trastuzumab emtansine)の乳癌フェーズIII試験が成功したと発表した。年内に欧米で承認申請する見込み。

T-DM1はher2陽性乳癌治療薬Herceptinに用いられている抗her2ヒト化抗体に微小管重合阻害剤DM1を結合したもの。DM1は健康な細胞にも障害を与えてしまうリスクがあるので、抗体と組み合わせることで癌細胞だけに作用させるアイディアだ。

今回のEMILIA試験では、タクサン系の抗癌剤とHerceptinによる治療を既に受けた患者を組入れて、capecitabine(ロシュ/中外のゼローダ)とlapatinib(GSKのタイケルブ)の併用療法とPFS(無増悪生存期間)や全生存期間を比較したところ、PFSが有意に優れていた。データは未公表。ASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表されるのではないか。延命効果は未だ解析に必要なイベント数に到達していないので、分からない。

T-DM1は将来的にはHerceptinとタクサン系抗癌剤の併用療法に取り代わるだろう。程度の差はあれタクサン系抗癌剤も正常な細胞に副作用を与えるリスクがあるからだ。フェーズII試験では、T-DM1群の方が忍容性が良かった。

リンク:ロシュのプレスリリース






IL-17標的薬がフェーズIIbで好成績


IL-17や受容体を標的とする抗体医薬のフェーズIIb試験の論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。二剤とも、中重度の乾癬症の治療で高い奏効率を示した。


一つはイーライリリーの抗IL-17ヒト化抗体、LY2439821(ixekizumab)。四用量のうち、25mg以上を投与した群のPASI75奏効率(12週時点)が77-82%となり、偽薬群の8%を有意に上回った。免疫抑制剤は感染症のリスクが高まるが、この試験の発生率は試験薬群も偽薬群も同じ26%だった。用法は最初の3回は2週間おき、その後は4週間おきに皮下注射する。イーライリリーは2011年11月に80mgでフェーズIII試験を開始した。


もう一つはアムジェンの抗IL-17受容体完全ヒト抗体、AMG 827(brodalumab)。四種類の用量用法のうち、140mgと210mgを投与した群でPASI75奏効率(12週時点)が各77%と82%となり、偽薬群の0%を上回った。この二用量の群は最初の二回は週一回、その後は二週間に一回、皮下注射した。280mg月一回投与も試験された。アムジェンはフェーズIII試験を開始する予定。尚、日本などアジアの権利は協和発酵キリンが保有している。


リンク:イーライリリーのプレスリリース

治験論文抄録(PubMed)

アムジェンのプレスリリース

治験論文抄録(PubMed)



承認申請・承認



Affymax・武田薬品の貧血症治療薬が米国で承認

Affymax(Nasdaq: AFFY)が武田薬品と共同で開発している新種の貧血治療薬、Omontys (peginesatide)が米国で承認された。エリスロポイエチン受容体を作動して赤血球の生成を刺激する。透析治療を受けている腎臓疾患患者の貧血症に用いる。保存期の患者や、癌患者の貧血治療に用いることは承認されていない。



このペプチド薬は、Affymaxがアミノ酸配列をランダムに生成、試験して力価の高かった二種類の配列をリンカーで繋げることによって創製したもの。半減期を長期化するためにPEG化してある。既存薬であるエポエチンとの違いは、アミノ酸が21個と少なく(エポエチンは165個)、分子量は4900ダルトンとPEGの40000ダルトンで合計約45000ダルトンであること(30400ダルトン)、化学合成で作られること(エポエチンは遺伝子組換え)、など。1%程度の患者で中和抗体ができるが、エポエチンで稀に発生する中和抗体とは異なり、天然のエリスロポイエチンには影響しない。用法は月一回の皮注/静注なのでエポエチンより回数が少なくて済むが、アムジェンのAranesp(和名ネスプ、darbepoetin α)と同程度だ。常温保存可能と考えられていたが、エポエチンと同様にレーベルには冷蔵保存(摂氏2-8度)と記されている。



米国のエポエチン市場は寡占されていて、透析患者向けはアムジェンがエポエチンを販売しているだけ、慢性腎疾患保存期患者の貧血や抗癌剤誘導性貧血症向けもエポエチン(アムジェンのライセンスでJ&Jが製造販売)とAranespがあるだけだ。Affymax・武田は10年の遅れを巻き返すために割安な価格で競争することになるだろう。


武田薬品は米国で共同販売して費用や利益を折半する。海外は武田薬品が単独販売する。EUで承認審査中。日本では開発しない模様だ。


リンク:FDAのプレスリリース

Affymaxのプレスリリース

武田薬品の日本語プレスリリース



Chelsea社の起立性低血圧症治療薬は承認されず



Chelsea Therapeutics(Nasdaq:CHTP)が起立性低血圧症の治療薬として米国で承認申請したNorthera(droxidopa)は、審査完了(complete response)となった。FDAが承認しなかったのは、臨床試験二本のうち一本しか成功しなかったことや、試験が4週間しか実施されず作用の持続性が明確でないことが原因のようだ。同社は、現在実施中の306試験の解析データをFDAに提出する考えだ。


リンク:Chelsea社のプレスリリース



ヴィーヴァス(田辺三菱製薬)の性的不全治療薬の承認申請が欧州でも受理


ヴィーヴァス(Nasdaq:VVUS)は田辺三菱製薬のPDE-5阻害剤、TA-1790(avanafil)を導入して欧米で開発、男性の性的不全治療薬として承認申請したが、米国に続いてEUでも受理された。承認・上市されれば、ファイザーのViagra(sildenafil)などに続く第4のPDE-5阻害剤になる。



リンク:ヴィーヴァスのプレスリリース



FDA諮問委員会:肥満症治療薬は全て、心血管安全性を確認すべき


FDAは内分泌学代謝学薬諮問委員会を召集し、肥満症治療薬の開発に際して心血管安全性を確認することは必須であるかどうか、意見を聞いた。懸念のある薬については身の潔白を証明しなければならないのは当然である。今回の諮問委員会のテーマは、理論的な懸念の無い薬であっても心血管安全性を証明するために大規模な臨床試験を行わなければならないのか、であった。結果は、是が17人、非が6人と多数が心血管安全性確認を求めた。


肥満は心血管疾患のリスクを高めるので、食事療法や運動療法を行う必要がある。問題は十分な効果が得られなかった場合で、手術や薬物療法が適応になるが、それで心血管疾患のリスクが下がるかどうかは明確ではない。過去に承認された医薬品の中には、心弁変形や肺動脈高血圧症の副作用が発覚したり、大規模な市販後安全性確認試験で心血管疾患のリスクが却って高まることが判明し、販売中止になったり適応が縮小されたりしたものもある。医師や患者が良かれと思って使った薬がむしろ有害だった、というのでは酷い話だ。後者のsibutramineは、日本で第一部会を通過した。薬事分科会が承認を先送りしたおかげで、承認・発売直後に欧州の大規模試験の結果が出て日本国内で大騒ぎになる事態を回避できたが、危ないところだった。


FDAの諮問委員会は特定のテーマについて専門家の意見を聞くもので、FDAは票決には拘束されない。ましてや、治験デザインの細かいところに関してはどの程度重視するか、ケースバイケースだろう。それでも、心血管安全性を確認する方法については、血糖治療薬の前例があるので見当が付く。おそらく、フェーズIIb試験とフェーズIII試験で心血管イベント(心筋梗塞、経皮的冠動脈介入術施行、狭心症発作など)を密接に観察し、メタアナリシスを行ってリスクを分析することになるだろう。FDAは、リスクが高そうならば長期大規模な試験の実施を求め、それほどでなければ市販後に長期大規模試験を行う条件で承認するだろう。


日本の学者の中には心血管リスクだけを殊更に重視する必要はないと主張する人もいるかもしれないが、心血管安全性を確認するにはキチンとした試験が必要であり、キチンとした試験を行えば他の副作用リスクについても知見を得ることができるのだから、結局のところ、ここで問題にしているのは副作用全般なのである。グリタゾン系の血糖治療薬に膀胱癌のリスクがある(程度は小さい)ことが初めて判明したのは心筋梗塞治療試験だったことを思い出して頂きたい。日本の糖尿病患者の死因として一番多いのは心血管疾患ではなく癌だが、心血管安全性試験を行えば、癌を誘導するリスクについてもある程度の知見を得ることができるのである。
リンク:MedPageTodayの報道(要登録)



製薬会社の動き


アミリン社が買収のターゲットになっている?


Bloomberg報道によると、BMSがアミリン(Nasdaq: AMLN)に買収オファーを行ったが、断られた。オファーは一株当り22ドル、総額35億ドルで、これは報道の前日である3月28日の引値を46%上回る。報道を受けてアミリンの株価が高騰し、証券会社のアナリストが様々なコメントを出した。アストラゼネカなども買収に乗り出すのではないか、Bydureon(週一回皮注型のGLP-1作用剤)の米国以外の権利をライセンスすべく詳細調査を行ったと推測される武田薬品やサノフィ、MSD(メルク)も買収に動くのではないか、情報がリークされたのはこのライセンス契約をブロックすることが目的なのではないか、等などである。何れも真偽は明らかではない。


米国の場合、上場企業の取締役会が買収オファーに応じるかどうか決定する時には、株主を利益を最大限に考慮しなければならない。つまり、価格が低すぎるという反論なら可能だが、例えば一株当り100ドルとか、1000ドルとか、ありえないほど高いオファーは断れないのである。オファーがリークされたことによって、経営陣に対する株主の圧力が高まり、最終的には最も高い価格を提示した会社に買収されることになりそうだ


アミリンという社名は、膵臓ベータ細胞が分泌する血糖降下性ホルモンであるアミリンに由来している。05年にアミリン誘導体のpramlintideをSymlinとして発売、同年にはGLP-1作用剤のexenatideをByettaとして発売と、血糖治療の画期的新薬を二剤、実用化した。更に、今年1月に米国でexenatideの長期作用性製剤、Bydureonが米国で承認された。皮注用薬なので、投与頻度が一日二回ではなく週一回で済むことは大きな価値がある。この三剤は何れも体重を減らす作用も持つ。


Byettaの開発販売ではイーライリリーと提携していたが、イーライリリーがベーリンガー・インゲルハイムと広範な血糖治療薬提携を行ったのを機に、解消した。同社を買収すれば、これら三剤と肥満症パイプラインを入手することができる。



リンク:Bloombergの観測記事





今週は以上です。