2016年9月25日

2016年9月25日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティス、ジカディアの一次治療試験が成功 
  • ルンドベック/大塚のアルツハイマー病試験がフェール 
  • JNJ、抗IL-6抗体を承認申請 
  • PharmaMar、Aplidinを承認申請 
  • ニューロン、safinamideを再承認申請 
  • オプジーボ、EUで膀胱癌に承認申請 
  • FDA首脳陣が筋ジストロフィー用薬を承認 



【新薬開発】


ノバルティス、ジカディアの一次治療試験が成功
(2016年9月23日発表)

ノバルティスは、Zykadia(ceritinib、和名ジカディア)の第三相ステージIIIB/IV変異ALK陽性非小細胞性肺癌の一次治療試験成功を発表した。Alimta(pemetrexed)とプラチナ薬を併用しAlimtaは維持療法も施行する標準療法群と比べて、第三者査読によるPFS(無進行生存期間)が有意に上回った。データは今後の学会で発表される見込み。

ALK阻害剤では第一号のXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)が変異ALK陽性非扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療試験でAlimta・プラチナ薬ダブレットを負かしている。第二号のZykadiaにはXalkoriに挑戦してほしいところであり、勝算はあるのではないかと思われるが、今回の試験はXalkoriの通った道を追随しただけだ。

中外が開発し海外ではロシュが販売するALK阻害剤、Alecensa(alectinib)は、日本の同様な一次治療試験でXalkoriを負かしている。海外の患者にも当てはまるか、不透明なところがあるが、今のところはAlecensaがややリードしていると言えるだろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ルンドベック/大塚のアルツハイマー病試験がフェール
(2016年9月22日発表)

ルンドベックは、アルツハイマー病向けに開発を進めているLu AE58054(idalopirdine)の最初の第三相試験がフェールしたと発表した。donepezil服用中の軽中度アルツハイマー病の患者に偽薬、30mg、または60mgを一日一回、24週間に亘って経口投与し、認知機能や生活機能などの変化を比較したが、主評価項目のADAS-cogでも、二次的評価項目のADCS-ADL23などでも、効果が見られなかった。

Lu AE58054は選択的5HT6アンタゴニスト。同じ作用を持つコンパウンドはメディベーション(Nasdaq:MDVN)のDimebon(latrepirdine)は第三相試験がフェール。ワイス(現ファイザー)やグラクソ・スミスクラインの5HT6アンタゴニストも開発中止になった。GSKのintepirdineはAxovant Sciences社が権利を取得して第三相を実施中なので終わったわけではないが、全体としてみれば、あまり有望とは言えない分野である。

idalopirdineは第二相で効果の兆しを示したが、大きな効果ではなかった。しかも、肝機能検査値異常が見られたせいか、第三相では、第二相の30mg一日3回投与と比べて1/3~2/3の量しか使っていない。

第三相は三本あるので来年第1四半期に結果が出る残りの二本が成功なら承認の可能性が生まれるが、期待しにくいだろう。

idalopirdineは06年に買収したSaegis Pharmaceuticalsのコンパウンド。欧米や日本などでは大塚製薬と共同開発している。

リンク: ルンドベックのプレスリリース

【承認申請】


JNJ、抗IL-6抗体を承認申請
(2016年9月23日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、CNTO 136(sirukumab)を軽中度活性期リウマチ性関節炎の治療薬として米国で承認申請したと発表した。MTXやTNF阻害剤に十分に反応しない患者にMTXと併用、または、MTX不耐患者に単独で使用する。第三相では50mgを4週間に一回、または100mgを2週間に一回、皮注した。

米州はグラクソ・スミスクラインが、それ以外はジョンソン・エンド・ジョンソンが販売し、利益は折半する。

リンク: JNJのプレスリリース

PharmaMar、Aplidinを承認申請
(2016年9月22日発表)

スペインのPharmaMar社は、Aplidin(plitidepsin)をEUに承認申請したと発表した。再発性難治性多発骨髄腫に用いる。第三相試験でdexamethasoneと併用したところ、PFS(無進行生存期間)がdexamethasoneだけの群より35%向上した。

海洋生物由来の物質で、eEF1A2に結合してアポトーシスを誘導するとのこと。欧州の主要8ヶ国では中外製薬が共同販促権を持っている。

リンク: PharmaMarのプレスリリース

ニューロン、safinamideを再承認申請
(2016年9月22日発表)

ニューロン・ファーマシューティカルズ(SIX:NWRN)は、米国でXadago(safinamide)を再承認申請したと発表した。この選択的可逆的MAO-B阻害剤は、パーキンソン病薬としてEUで15年に承認されたが、米国は申請不受理や審査期間延長などの紆余曲折を経て、今年3月に審査完了通知を受領した。脳血管関門を通過するためFDAは乱用薬物依存試験の実施を求めたのだが、その後、考えを変えた模様であり、今回の再申請につながった。

追加的な臨床試験データや分析を提出する必要はないとのことだが、その割にはクラスII提出、審査期間6ヶ月である由なので、単純な話ではなさそうだ。

イタリアのZambonと開発販売提携しており、米国市場はZambonとUS WorldMeds社が販売する。日本はMeiji Seikaファルマがライセンスした。

リンク: Zambonのプレスリリース

オプジーボ、EUで膀胱癌に承認申請
(2016年9月20日発表)

BMSは、EUに抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)の適応拡大申請を行い受理されたと発表した。局所進行性で切除不能または転移性の尿路上皮細胞腫の二次治療薬として、白金薬の次の手段として用いる。第二相試験のORR(客観的反応率)に基づくもので、データは10月7日から11日にコペンハーゲンで開催されるESMO2016会議で発表される予定。

この用途は今年5月に米国で承認されたロシュの抗PD-L1抗体、Tecentriq(atezolizumab)と同じだ。TecentriqはPD-L1陽性腫瘍のほうがORRが高いが、陰性でも使うことが承認されている。BMSの上記の第二相試験も治験登録を読む限りではスクリーニングしていないので、検査不要となるのだろう。

リンク: BMSのプレスリリース

【承認】


FDA首脳陣が筋ジストロフィー用薬を承認
(2016年9月16日発表)

FDAは、Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のExondys 51(eteplirsen)を承認した。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)でエクソン51スキッピングに応答する患者に用いる。臨床的な効用は未確立であるため、別途、2年間の臨床試験を行う必要があり、もしフェールしたら承認取消手続きに進むことになる。この臨床試験では承認用量より高量も検討する。

FDAの審査チームは承認に反対、Office of Drug Evaluation IのDirectorであるEllis Unger, MDも反対、4月に開催された末梢中枢神経系薬諮問委員会でも反対が賛成を上回ったので、承認はサプライズだ。CDER(小分子医薬品の審査組織)のヘッドであるJanet Woodcock, MDが鶴の一声で承認を決定。調停委員会は「現場」を支持したものの、今年FDA長官に就任したRobert Callif、MD、MACC、がWoodcockに軍配を上げた、という経緯のようだ。

eteplirsenはエクソン・スキッピングという新しいタイプの核酸医薬。筋ジストロフィーの多くはジストロフィン遺伝子に重複や欠損、置換があるが、ストップコドン形成のような変異ならば、eteplirsenをRNAの標的エクソンに結合させてスプライシングの過程で前後のイントロンとともに切り落とされるように仕向ければ、ある程度機能するジストロフィンが作れるようになるかもしれない。Exondys 51は51番目のエクソンを標的としており、DMD患者の13%程度に有効と推測されている。

審査チームや諮問委員が承認に反対した最大の理由は臨床的な効用が明確ではないことだ。他社と熾烈な開発競争を進めていたせいか、Sareptaはジストロフィン発現量検査アッセイの開発でも、臨床試験でも、稚拙・拙速だった。前者は新開発のアッセイを用いて試験をやり直したが、臨床試験は12人程度の小規模な試験で6分歩行テストが有意に改善しなかったにも関わらず、承認申請に向かった。同社の開発計画が適切でなかったことは現場、CDERヘッド、FDA長官の共通認識だ。

現場がCDERヘッドの指示に異議を唱えた理由は主に二点。第一は、ジストロフィン量と臨床効果の相関の仕方に関する見解の相違。現場は、ベッカー型筋ジストロフィー(短いがある程度機能するジストロフィンが産生され、症状がデュシェンヌ型より軽い)の所見から、ジストロフィン量が正常値の10%以上に改善すれば運動能力に好影響を与えることができるという閾値仮説を立てた。eteplirsenはそこまでの効果がないが、投与量を増やせば達成できると予測し、Sareptaに高量試験を行うよう提案した。

一方、CDERヘッドはeteplirsen程度の効果でも臨床的に意味のある効果をもたらすと予測した。FDA長官は、専門的な知識や判断を必要とする事例であることから、豊富な経験を持つCDERヘッドの判断に委ねる裁定を下した。

第二は、CDERヘッドの判断が科学やFDA法以外のノイズに左右されている可能性。患者団体のアピールや、Sareptaが新興企業で財務基盤が弱いために承認されなかったら開発中止になってしまうリスクなどである。CDERヘッドは審査チームが結論を出す前に承認書類を作成していた模様だ。FDA長官は、CDERヘッドが現場に口を出すのはいつものこと、通常は現場の判断が尊重されるが例外的な事例ではヘッドが覆すことが可能と判定した。

さて、希少疾患用薬は開発に金が掛かろうが必要最小限であろうが関係なく、高価である。Exondys 51は、体重25kgの患者で年間平均薬剤費が30万ドルとのこと。高量試験が成功すればもっと高くなるだろう。更に、Sareptaは今回の承認で希少小児疾患優先審査バウチャーを取得した。数億ドルで転売できるだろう。株価が示す通り、Sareptaの運命が大きく転換した。

リンク: FDAのリリース(9/19付け)
リンク: Sareptaのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年9月19日

2016年9月19日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 血糖治療薬のアウトカム試験がまた成功
  • GSK、坑IL-6抗体を欧州で承認申請
  • CHMPが三社の抗癌剤などに肯定的意見
  • スペクトラム、FDA諮問委員会が承認反対
  • EUが腎細胞腫用薬二製品を承認



【新薬開発】


血糖治療薬のアウトカム試験がまた成功
(2016年9月16日発表)

ノボ ノルディスクのNN9535(semaglutide)の心血管アウトカム試験が成功した。EASD(欧州糖尿病研究学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。

semaglutideはGLP-1作用剤で、最近増えてきた週一回皮注型。経口剤も開発中。このSUSTAIN 6試験はFDAのガイドラインに基づいて実施したもので、糖尿病薬を開発する会社は、承認前試験である程度の、承認後試験で万全な、心血管安全性を確認しなければならない。今回は承認前試験なのでリスクが1.8倍以上ではないことを確認する、精度の低い試験だが、ポストホック分析で優越性解析も成功した。

心血管疾患リスクの高い3297人をsemaglutide群(0.5mgまたは1.0mgを週一回皮注)と偽薬群に無作為化割付してメジアン2年間治療したところ、心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合評価項目の発生率が試験薬群6.6%、偽薬群8.9%、ハザードレシオ0.74、95%信頼区間0.58~0.95となった。

販促に使えるほど強固なエビデンスではなく、また、失明を含む網膜症性合併症が有意に増えたので、もろ手をあげて喜ぶほどではない。もっと大規模長期の試験で再確認する必要があるだろう。

リンク: ノボのプレスリリース
リンク: Marsoらの治験論文(NEJM)

【承認申請】


GSK、坑IL-6抗体を欧州で承認申請
(2016年9月12日発表)

グラクソ・スミスクラインは、sirukumabをEUで販売許可申請したと発表した。想定適応症と用法は、中重度活性期リウマチ性関節炎で既存薬(バイオ薬を含む)に十分反応しない患者にMTXと併用する。MTX不適には単剤治療も可。

第三相試験の一つでは、50mgを4週間に一回、または100mgを2週間に一回皮注する用法を検討したところ、共同主評価項目であるHeijde-Sharpスコア(関節損傷の指標)も、ACR20も、偽薬比有意に改善した。用量間の差は小さいそうだ。

ジョンソン・エンド・ジョンソンの抗IL-6完全ヒト化モノクローナル抗体、CNTO 136を共同開発しているもので、GSKは米州での独占商業化権を保有している。米国も年内に承認申請予定。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが三社の抗癌剤などに肯定的意見
(2016年9月16日発表)

EUの医薬品承認審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、9月の会議で、イーライリリーやファイザー、武田薬品の坑癌剤とアムジェンの二次性副甲状腺機能亢進治療薬に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月のうちにEU全域で承認されることになるだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

まず、イーライリリーのLY3012207(olaratumab)は抗PDGFRアルファ完全ヒト抗体。治癒的放射線療法・摘出術の対象にならない軟組織肉腫にdoxorubicinと併用する。129例の第二相試験ではメジアン生存期間が26.5ヶ月とdoxorubicinだけの群の14.7ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.463、統計的に有意だった。主なグレード3以上の有害事象は好中球減少症、感染症、点滴反応。

条件付き承認なので薬効確認試験を別途行う必要がある。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

ファイザーのIbrance(palbociclib)はCDK4/6阻害剤。ホルモン受容体陽性、her2陰性の転移性乳癌にアロマターゼ阻害剤などと併用する。米国では15年に第二相試験のデータに基づき加速承認されたが、EUは第三相試験の結果が出るまで遅れた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ファイザーのプレスリリース

武田薬品のNinlaro(ixazomib)は経口プロテアソーム阻害剤。CHMPは当初、薬効が不十分と見なして5月に否定的意見を出したが、武田の異議申し立てを受けて腫瘍学のエキスパート・グループの意見を求め、安全性プロファイルや経口剤の利便性を考慮し、条件付き承認を支持した。米国では承認申請から4ヶ月で15年11月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: EMAのQ&A集(pdfファイル)

最後に、アムジェンのParsabiv(etelcalcetide)。カルシウム感受受容体アゴニストで、慢性腎疾患透析期の患者の二次性副甲状腺機能亢進に用いる。透析後に静注する。症候性低カルシウム血症のリスクがある。米国は8月に審査完了通知を受領した。承認されなかった理由は公表されていない。

日本は1月にライセンシーの小野薬品が承認申請した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース

適応拡大では、ジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab、和名ステラーラ)を難治性の中重度活性期クローン病に用いることが支持された。臨床試験ではCDAI100奏効率が用量により52~56%と偽薬群の29%を有意に上回った。IL-12/IL-23のp40部位に結合する完全ヒト化抗体で、現在の承認用途は乾癬と乾癬性関節炎。

リンク: EMAのプレスリリース

スペクトラム、FDA諮問委員会が承認反対
(2016年9月14日発表)

Spectrum Pharmaceuticals(Nasdaq:SPPI)はQapzola(apaziquone)を非浸潤性膀胱癌向けに米国で承認申請したが、腫瘍学薬諮問委員会は薬効が偽薬並みと断じ、全員一致で承認に反対した。久々の完敗だが、第三相試験が二本ともフェールしたのだからやむを得ない。

リンク: Spectrumのプレスリリース

【承認】


EUが腎細胞腫用薬二製品を承認
(2016年9月14日発表)

EUは、エグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)とエーザイが承認申請した夫々の会社のVEGF受容体拮抗剤を末期腎細胞腫用薬として承認した。どちらも、ファイザーのSutent(sunitinib)など一次治療に承認されているVEGF受容体拮抗剤による前治療歴を持つ患者に用いる。

エグゼリキシスのCabometyx錠(cabozantinib)は単剤投与。臨床試験では、第三者査読に基づくPFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月と実薬(everolimus)群の3.8ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.58だった。メジアン生存期間は21.4ヶ月対16.5ヶ月、ハザードレシオ0.66だった。

活性成分は末期・転移性切除不能甲状腺髄様癌用薬Cometriqカプセルとして12年に初承認。今回のほうが対象患者も競合薬も多いせいか、欧米共に製剤と製品名を変更している。

リンク: エグゼリキシスのプレスリリース

エーザイのKisplyx(lenvatinib)はeverolimusと併用する。第二相試験ではPFSが14.6ヶ月とeverolimus群の5.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.40。メジアン生存期間は25.5ヶ月対15.4ヶ月でハザードレシオ0.59だった。この試験ではlenvatinib単剤投与群も設定されたが、PFSは7.4ヶ月でeverolimusを少し上回る程度だった。everolimusを基準に考えると、単剤ではCabometyxのほうが効果が高そうだが併用できるなら併用するのが一番良さそうだ。

活性成分は15年に進行性放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺癌用薬Lenvimaとして承認された。製品名を変えたのは、EUが希少疾患指定を受けている用途と他の用途で製品名を変えるよう求めていることが理由である由。

リンク: エーザイのプレスリリース(9/15付、和文)




今週は以上です。

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2016年9月11日

2016年9月11日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、卵巣癌スクリーニングテストに注意を呼びかけ 
  • GSK、retigabineの販売を中止へ 
  • SGLT阻害剤の一型糖尿病試験が成功 
  • 画期的作用機序の緑内障治療薬が承認申請 
  • Keytruda、非小細胞性肺癌一次治療が12月にも承認へ 


【今週の話題】


FDA、卵巣癌スクリーニングテストに注意を呼びかけ
(2016年9月7日発表)

FDAは卵巣癌スクリーニングテストに関する警告を発出した。臨床試験データや医学会あるいはU.S. Preventive Services Task Forceの勧奨を検討した結果、無症状の女性の早期卵巣癌をスクリーニングする手法として正確でも信頼できるものでもないと結論した。偽陽性だと無駄に侵襲的検査を受けることになり、偽陰性だと患者が油断して発見が却って遅れるかもしれない。

乳癌や結腸癌、子宮頸がんに関しては有効なスクリーニング法が存在するが、卵巣癌は確立したものがない。Abcodia社は、ROCA(Risk of Ovarian Cancer Algorithm)を用いれば発症前に発見し生存確率を高めることが可能と主張しているが、FDAは根拠がないと一蹴している。

ROCAは様々なリスク因子を総合的に評価する手法のようで、Abcodia社のホームページを読むと、確かに、有効性が喧伝されている。学会が否定的ならあまり普及していないのだろうが、単に無益なだけならともかく、裏目に出るリスクがあるなら規制する権限を持つ官庁がキチンと対処すべきだろう。

リンク: FDAの安全性通知

GSK、retigabineの販売を中止へ
(2016年9月8日発表)

英国のPrescribing Advice for GPsによると、グラクソ・スミスクラインは抗癲癇薬Trobalt(retigabine/INN、米国ではPotiga、ezogabine/USAN)の販売を17年6月をもって中止すると発表した。FDAのサイトにはまだ出ていないが、おそらく他の国でも止めるのだろう。

ヴァレアント社が企業買収を通じて入手したニューロン特定的カリウムチャネル・オープナーで、ライセンシーであるGSKが2010年に米国で、翌年にはEUでも承認取得した。ところが、市販後に網膜異常や唇や爪の退色が高頻度で発生することが判明、サルベージセラピーに格下げされた。販売中止は商業上の理由だが、背景は安全性だ。

リンク: GSKのプレスリリース

【新薬開発】


SGLT阻害剤の一型糖尿病試験が成功
(2016年9月9日発表)

Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)は、LX4211(sotagliflozin)の第三相一型糖尿病治療試験が成功したと発表した。他の一型糖尿病試験も進行中。更に、独占開発販売権を持つサノフィが年内に二型糖尿病の第三相を開始する予定。

SGLT阻害剤は血液から尿に移行した糖がSGLTによって血液中に戻るのを妨げる作用機序なので一型糖尿病にも有効であるはずだが、アストラゼネカもベーリンガー・インゲルハイムもジョンソン・エンド・ジョンソンも後回しにしてしまったような印象がある。ケトアシドーシスなど有害事象の増加を懸念しているのかもしれない。二型糖尿病と比べて少ない選択肢が増えるのか、増えないのか、当社および開発販売パートナーであるサノフィに真相解明を期待したい。

SGLT阻害剤の初期の開発品はLX4211のようにSGLT1も阻害するものだったが、胃腸副作用が目立った。承認されている製品は皆、SGLT2選択的である。LX4211の胃腸リスクはどの程度なのかも注目される。

リンク: Lexicon Pharmaceuticalsのプレスリリース

【承認申請】


画期的作用機序の緑内障治療薬が承認申請
(2016年9月6日発表)

カリフォルニア州のAerie Pharmaceuticals(Nasdaq:AERI)はRhopressa(netarsudil)を緑内障治療薬としてFDAに承認申請した。小柱網を標的とする画期的作用機序を持ち、上強膜静脈圧を緩和する。一日一回点眼する。

一本目の第三相試験はフェールし、timololに対する非劣性が確立しなかった。眼圧26mmHg以下のサブグループでは非劣性であったため、二本目の第三相の解析対象を25mmHg以下の患者だけに変更したところ、一日一回群も、一日二回点眼した群も、timolol比非劣性だった。一日一回でも二回でも効果は大差なく、有害事象が少ない一回のほうが良好だった。

第三相が一勝一敗なので、順調に承認されるかどうか、不透明だろう。尚、緑内障と診断される患者の75%が25mmHg以下である由。

リンク: Aerieのプレスリリース

Keytruda、非小細胞性肺癌一次治療が12月にも承認へ
(2016年9月7日発表)

MSDは、抗PD-1モノクローナル抗体Keytruda(pembrolizumab)を非小細胞性肺癌の一次治療薬として欧米で適応拡大申請したことを明らかにした。米国は優先審査で審査期限は12月24日。承認済みの二次治療と同様に、PD-L1強発現(同社独自の指標である tumor proportion scoreが50以上)が対象で単剤投与する。第三相試験のデータは未発表。

BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)は非小細胞性肺癌一次治療試験がフェールしたので、当面はKeytrudaがこの用途での優先使用薬になるのだろう。

抗癌剤は開発スピードを優先するあまり応答性予測因子の探求が後回しになる恨みがある。EGFRチロシン・キナーゼ阻害剤も抗EGFR抗体も承認された後で一部の患者にしか有効でないことが判明し、適応が縮小された。抗PD-1抗体では、対象を絞り込まずに大きな市場を獲得しようとしたBMSと、敢えて絞り込んだMSDのどちらが最後に笑うのだろうか。

リンク: MSDのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年9月4日

2016年9月4日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュのTecentriqはPD-L1発現を問わず肺癌に有効 
  • MSD、カテプシンK阻害剤の開発をついに断念 
  • VMAT2阻害剤が承認申請 
  • MEK阻害剤の承認申請が受理 
  • またまたALK阻害剤が承認申請 
  • アーゼラのFC併用が米国で承認 
  • ザーコリ、EUでもROS1再編成型に承認 
  • FDA:オピオイドとベンゾジアゼピンの併用は要注意



【新薬開発】


ロシュのTecentriqはPD-L1発現を問わず肺癌に有効
(2016年9月1日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab)の非小細胞性肺癌二次治療試験が成功したことを発表した。延命効果をdocetaxelと比較した実薬対照試験で、共同主評価項目であるintent-to-treatベースの解析とPD-L1陽性例だけを対象とした解析の両方とも有意に優れていた模様だ。データは学会で発表される予定。

TecentriqはPD-1のレガンドであるPD-L1を標的とするヒト化抗体で、PD-1標的抗体であるMSDのKeytruda(pembrolizumab)やBMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)と類似している。Keytrudaは今回と同じ非小細胞性肺癌の二次治療向けに承認されていて一次治療の第三相も成功したが、どちらも、対象はPD-L1高発現型だけ。

Opdivoも二次治療に承認されているが、Keytrudaとの違いは事前にPD-L1検査を行う必要がないこと。但し、陰性に対する有効性が確立しているわけではなく、無効性が確立していないので除外されていないだけである。PD-L1不問で実施された第三相一次治療試験がフェールしたことを考えれば、PD-L1陰性癌の第一選択にするのは無理がある。

このような流れであったため、今回の治験結果は驚きだ。ロシュが使っているPD-L1検査アッセイはMSDやBMSが使っているDAKO社製とは異なり、腫瘍細胞だけでなく腫瘍に浸透する免疫細胞も検査しているので、おそらく、陰性例はDAKOより減るだろう。それでも有効なのだとしたら、説得力が高い。

とは言え、抗癌剤の効く効かないは紙一重なのでグレーゾーンがあっても不思議はない。ハザードレシオや信頼区間、p値がどの程度なのか、データを見てから考えても遅くはないだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

MSD、カテプシンK阻害剤の開発をついに断念
(2016年9月2日発表)

MSDは、MK-822(odanacatib)の開発を打ち切ることを発表した。コラーゲンやゼラチンを分解する酵素、カテプシンKを阻害する経口剤で、閉経後骨粗鬆症の第三相試験が成功、承認申請に向かうはずだったが、脳卒中懸念が浮上、追加調査・第三者査読でも疑念が払しょくされず、開発中止に至った。

骨粗鬆症の治療目的は股関節などにおける骨粗鬆症性骨折のリスクを抑制することだ。治療を受ける人の多くは、今現在は深刻な状態ではないので、通常の薬より高い安全性が求められる。米国で一時期、ブームになったエストロゲン補充療法は、大規模な試験で稀だが深刻な有害事象のリスクが確認されたため、処方箋が激減した。

MK-822の第三相試験は2012年に中間解析で成功認定されたが、安全性懸念が浮上したため延長試験が行われた。MACE(主要有害心血管イベント)のハザードレシオが偽薬比1.12倍、卒中リスク1.28倍、死亡リスク1.13倍となっており、懸念するには十分だが、何れも統計的に有意ではないため、諦めるにも不十分だった。結局、中止決定まで4年を費やしたことになる。

臨床試験は患者の善意が頼りであるため、不必要な不利益を与えないように、失敗経験を共有する必要がある。MSDは今月のASBMR学会でデータを発表する予定。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


VMAT2阻害剤が承認申請
(2016年8.月29日発表)

ニューロクライン・バイオサイエンス(Nasdaq:NBIX)はNBI-98854(valbenazine)を遅発性ジスキネジアの治療薬として米国で承認申請したと発表した。神経終末のVMAT2(小胞モノアミントランスポータータイプ2)を阻害する薬で、不随意運動に関与するドパミン神経系の機能異常を緩和する。

第三相試験では、神経弛緩薬誘導性遅発性ジスキネジアを合併する統合失調症、統合失調性感情障害、気分障害の患者を偽薬、40mg、80mgの3群に割付けて6週間治療したところ、AIMS(異常不随意運動スケール、ベースライン値10.1)が各群0.1、1.9、3.2ポイント改善し、80mg群は偽薬比統計的に有意だった。

日本とアジアは田辺三菱製薬が独占開発販売権を持っている。

リンク: ニューロクラインのプレスリリース

MEK阻害剤の承認申請が受理
(2016年9月1日発表)

Array BioPharma(Nasdaq:ARRY)は、binimetinibの承認申請がFDAに受理されたことを公表した。審査期限は来年6月30日。MEK阻害剤で、黒色腫の15~20%を占めるNRAS変異陽性型に用いる。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン2.8ヶ月とdacarbazineの1.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。全生存の解析はトレンドに留まった。

ノバルティスが2010年にインライセンスしたがグラクソ・スミスクラインの腫瘍学事業を取得したことに伴い返還。代わりにPierre Fabreが欧州や南米、アジアの権利を取得した。漿液性卵巣癌の第三相が実施されたがフェールしている。

リンク: Arrayのプレスリリース

またまたALK阻害剤が承認申請
(2016年8月30日発表)

Ariad Pharmaceuticals(Nasdaq:ARIA)は米国でAP26113(brigatinib)のローリング承認申請を完了したと発表した。ALK活性化変異陽性の非小細胞性肺癌で、同じALK阻害剤であるXalkori(crizotinib)による治療を既に受けた患者に用いる。第二相試験では、cORR(確認客観的反応率)が54%だった。欧州は来年、承認申請予定。

リンク: Ariadのプレスリリース

【承認】


アーゼラのFC併用が米国で承認
(2016年8月31日発表)

デンマークのジェンマブ(Nasdaq Copenhagen:GEN)は、Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の用法追加が米国で承認されたと発表した。再発性慢性リンパ性白血病にfludarabine及びcyclophosphamideと併用するもので、第三相試験ではPFSがメジアン28.9ヶ月と、FC二剤だけを投与した群の18.8ヶ月を大きく上回りハザードレシオは0.67だった。全生存期間のハザードレシオも0.78。

ArzerraはRituxan(rituximab、和名リツキサン)と同様にCD20を標的とする抗体医薬だが、キメラではなくトランスジェニックマウス法による完全ヒト化抗体。ジェンマブが開発し、グラクソ・スミスクラインにライセンスしたが、GSKがアセットスワップを行い今日ではノバルティスが販売している。

リンク: ジェンマブのプレスリリース

ザーコリ、EUでもROS1再編成型に承認
(2016年8月31日発表)

ファイザーは、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)をROS1再編成陽性の非小細胞性肺癌に用いる適応拡大がEUで承認されたと発表した。症例50人の第一相試験で部分反応率66%、メジアン反応持続期間18.3ヶ月だった。米国では今年3月に承認。日本は先月、適応追加申請されたところ。

非小細胞性肺癌では、特定の遺伝子変異を持つタイプだけに有効な分子標的薬が多数承認されている。Xalkoriの最初の適応であるALK活性化転座、EGFR阻害剤が有効なEGFR活性化変異、抗EGFR抗体が有効な野生krasなどだが、これからはROS1再編成の有無も検査することになる。該当率はALK活性化転座が5~10%、ROS1再編成は1%程度とのことなので、一度に複数のバイオマーカーをチェックできれば効率的なのだが...

リンク: ファイザーのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA:オピオイドとベンゾジアゼピンの併用は要注意
(2016年8月31日発表)

FDAは、オピオイド系の鎮痛剤や鎮咳薬とベンゾジアゼピンの同時使用は深刻で致死的なリスクがあると警告した。添付文書を改定して枠付き警告する予定。先般、日本企業の米国人取締役の事例が大きく報道されたように、米国ではオピオイドが急速に普及(乱用?)しているため、併用リスクも高まっている。ベンゾジアゼピンは不眠症など様々な疾患に用いられるので、別の医師が知らないで処方するリスクもありそうだ。

患者に対しては、通常と異なるめまいや極度の眠気、呼吸困難、無反応などの症状が出たら医療従事者に報告するよう促している。

リンク: FDAの安全性警告



今週は以上です。

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