2017年2月26日

2017年2月26日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、癌患者向け帯状疱疹ワクチンの第三相が成功 
  • sapacitabineの第三相はやっぱりフェール 
  • ロシュ、ACE910の第三相で死亡例 
  • ファイザー、抗CD22抗体を承認申請 
  • ノバルティス、ジカディアを一次治療にも申請 
  • CHMPが遺伝子組換え型副甲状腺ホルモンなどの承認を支持 
  • セルジーン、レブラミドの新患維持療法が欧米で承認 
  • ロシュ、アレセンサがEUで承認 
  • EMAがSGLT2阻害剤の下肢切断リスクを通知 



【新薬開発】


MSD、癌患者向け帯状疱疹ワクチンの第三相が成功
(2017年2月24日発表)

MSDは不活化水痘帯状疱疹ワクチンのV212の第三相試験が成功したことを発表した。自家造血幹細胞移植を受ける患者の帯状疱疹リスクを64%削減し、中重度帯状疱疹痛を69%、ヘルペス後神経痛を83%、抑制した。

癌の治療に伴い免疫力が低下した患者は帯状疱疹のリスクが高いが、同社の水痘帯状疱疹ワクチンであるZostavaxは生ワクチンなので使えない。V212に期待がかかるところだ。もう一本、血液癌や固形癌の患者を組入れた第三相も進行中。

リンク: MSDのプレスリリース

sapacitabineの第三相はやっぱりフェール
(2017年2月23日発表)

Cyclacel Pharmaceuticals(Nasdaq:CYCC)は、CYC682(sapacitabine)の第三相試験フェールを発表した。二次的評価項目やサブセグメント分析に基づいて当局と相談する考えだが、楽観できないだろう。

03年に第一三共からライセンスした細胞周期調節剤で、第三相は高齢で強化療法不適な急性骨髄性白血病患者を組入れて、しばしばオフレーベル使用されるDacogen(decitabine)と併用する効果をDacogen単剤と比較した。14年に行われた中間解析で独立データ監視委員会が無益性を認定したが、治験続行は容認した。

今回の解析でも主評価項目である全生存期間はフェールした。一方、完全反応率や、階層化要素の一つである末梢白血球数が少ないサブグループ(全集団の2/3を占めた)における全生存期間は改善した模様だ。

末梢白血球数が多いサブグループは併用群のほうが生存期間が短かった。反応率の高さが延命効果につながらなかったことと合わせて考えると、安全性は両群同様だったとプレスリリースに記されているが、忍容性がボトルネックになった可能性を想像せざるを得ない。

リンク: Cyclacelのプレスリリース

ロシュ、ACE910の第三相で死亡例
(2017年2月21日発表)

ロシュのRG6013/ACE910(emicizumab)の第三相試験で死亡例が発生したことが明らかになった。EHC(欧州血友病コンソーシアム)がロシュに照会し回答をホームページに掲載したもの。

中外製薬が創製した抗第IX因子/第X因子ヒト化二重特異性抗体で、第VIII因子に代わって第IX因子と第X因子をバイパスし、後者を活性化する。A型血友病のうち第VIII因子に対するインヒビターを持つ患者や、頻繁に出血するためルーチン予防的投与が必要な患者は週一回あるいは二週間に一回の投与で足りるため、適している可能性がある。第三相はインヒビターを持つ患者を対象とするHAVEN 1試験と持たない患者のHAVEN 3試験の二本で、日本の施設も参加している。

HAVEN 1試験は昨年12月に主目的達成が発表されたが、ルーチン予防的投与群で血栓塞栓イベントが2例、血栓性微小血管障害症(TMA)が2例、発生したことも明らかにされた。目標症例数120例程度の試験なので結構多い。今回のロシュのレターによると、死亡例は深刻な直腸出血を発症、aPCC(活性化プロトロンビン複合体)などによる治療を受けた後にTMAを発症、死亡した。

ACE910の副作用かどうかは不明。治験医はACE910の投与と関連なしと判定。また、この患者は輸血を拒否した経緯がある。治験プロトコルではaPCCの使用を回避し承認されているバイパス製剤を低量用いるよう推奨していたとのことなので、順守すればリスクを回避できるのかもしれない。

何れにせよ、インヒビターを持つ患者のルーチン予防的投与用途の薬は少ないが、出血時の治療やインヒビターを持たない患者のルーチン予防的投与なら他にも方法があり、一生使う薬なので新薬には既存薬並みの安全性が求められる。ACE910の副作用とは限らないがそうであっても不思議はなく、そもそも血栓カスケードの一部をバイパスする薬をルーチン投与すること自体が不適切である可能性もあるので、リスクの十分な検討が求められる。

リンク: EHCの発表内容

【承認申請】


ファイザー、抗CD22抗体を承認申請
(2017年2月21日発表)

ファイザーは、inotuzumab ozogamicinを欧米で承認申請し米国では優先審査指定されたと発表した。再発性難治性CD22陽性前駆B細胞急性リンパ芽球性白血病に用いる。第三相試験では、共同主評価項目のうち血液学的完全寛解率が80.7%と標準療法群の9.4%を有意に上回った。一方、全生存期間はメジアン7.7ヶ月対6.7ヶ月、ハザードレシオ0.77となり有意差はなかった。

2年生存率は23%対10%、幹細胞移植に進むことができた患者の比率は41%対11%と、全体的に良さそうな数字が出ている。安全性では静脈閉塞性肝疾患の発生率が11%対1%と高かった。

抗CD22ヒト化抗体とカリケアミシンという抗生物質を結合した抗体薬物複合体で、元々はワイス(後にファイザーが買収)とセルテック(UCBが買収)が、抗CD33抗体とカリケアミシンを結合した急性骨髄性白血病用薬であるMylotarg(gemtuzumab ozogamicin)とともに、共同開発したもの。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ノバルティス、ジカディアを一次治療にも申請
(2017年2月23日発表)

ノバルティスは米国でALK阻害剤Zykadia(ceritinib、ジカディア)の一次治療適応拡大申請を行い優先審査指定を受けたと発表した。現在は、ALK活性化変異型非小細胞性肺癌でファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)による前治療歴を持つ患者の二次治療薬として承認されている。

ALK活性化変異型非扁平上皮性非小細胞性肺癌を組入れた第三相試験ではPFS(無進行生存期間)のメジアン値が16.6ヶ月と、白金薬とAlimta(pemetrexed)の標準療法及びAlimta単剤による維持療法を施行した群の8.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.55、統計的に有意だった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが遺伝子組換え型副甲状腺ホルモンなどの承認を支持
(2017年2月24日発表)

EUの薬品審査機関EMAの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、2月の会議で、Natpar(遺伝子組換え型ヒト全長副甲状腺ホルモン)の新薬承認などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域などで承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Natparはシャイアーが15年に52億ドルで買収したNPS Pharmaceuticalsの開発品。NPSは骨粗鬆症治療薬として欧米で承認申請したが、米国では承認されず、欧州では06年にPreotactという製品名で承認されたものの14年に商業上の理由で承認返上した。今回の申請は慢性副甲状腺機能低下症に伴う低カルシウム血症の治療用途で、CHMPは条件付き承認を勧告した。米国では15年に限定的な用途で承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: シャイアーのプレスリリース

次に、Lokelma(sodium zirconium cyclosilicate)はアストラゼネカが15年に27億ドルで買収したZS Pharma社の開発品で、高カリウム血症の治療に用いる。陽イオン交換剤で、胃腸のカリウムイオンに優先的に結合し、体内に吸収されずに排泄される。米国は審査完了通知に留まったが承認前検査の指摘事項に回答した模様なので、EUと前後して承認されるのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

次に、Tesaro(Nasdaq:TSRO)のVaruby(rolapitant)はNK-1受容体拮抗剤。中高度催吐性の抗癌剤による遅発性悪心嘔吐の抑制に、dexamethasoneや5-HT3受容体拮抗剤と併用する。米国では今年1月に審査完了通知を受領した。

NK-1受容体拮抗剤は、サブスタンスPが催吐中枢の神経を刺激するのを妨げる。VarubyはMSDのEmend(aprepitant、和名イメンド)と異なり3A4相互作用が小さいが、発売が10年以上遅れるので市場性は限定的だろう。

TesaroはMGI Pharmaで5-HT3受容体拮抗剤Aloxi(palonosetron)を開発したメンバーがエーザイに買収されたのを機に独立して設立した会社。MSDと合併したシェリング・プラウからrolapitantの権利を取得したOpko Health(NYSE:OPK)から独占開発生産販売権を取得したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、ノバルティスのBRAF阻害剤Tafinlar(dabrafenib)とMEK阻害剤Mekinist(trametinib)を併用でBRAF V600変異型の末期非小細胞性肺癌に用いる適応拡大が支持された。57人の小規模な試験でORR(全般奏効率)が63%、反応持続期間がメジアン9ヶ月だった。適応になるのは非小細胞性肺癌の1%未満とごく少ないので、変異検査が行われないリスクもありそうだ。この二剤併用はBRAF V600変異型悪性黒色腫に承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンがデンマークのジェンマブからライセンスした抗CD38完全ヒト化抗体、Darzalex(daratumumab)を多発骨髄腫の二次治療に用いることも支持された。セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide )若しくはジョンソン・エンド・ジョンソン/武田薬品のVelcade(bortezomib)及びdexamethasoneと三剤併用する。現在は、Revlimidのような免疫調節薬及びVelcadeを既に使った患者に単剤投与するサルベージ用途で承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: JNJのプレスリリース

【承認】


セルジーン、レブラミドの新患維持療法が欧米で承認
(2017年2月24日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)の新患維持療法が欧米で承認されたと発表した。再発患者や自家造血幹細胞移植(ASCT)に不適な患者の一次治療は以前から承認されているが、今回、ASCTを受けた新患の再発抑制目的で単剤投与し地固めすることが可能になった。

米国中心に実施されたCALGB 100104試験ではメジアンPFS(無進行生存期間)が5.7年と維持療法を行わなかった群の1.9年を大きく上回り、欧州中心のIFM 2005-02試験では各3.9年と2年だった。

G3以上の主な有害事象は好中球減少症、血栓性血小板減少症、白血球減少症など。Revlimidの維持療法は異なった血液癌を誘導することがあるので注意が必要。治験では血液学的SPM(第二原発性腫瘍)の発生率が7.5%と偽薬群の3.3%より高かった。血液学的及び固形癌SPM(扁平上皮腫と基底細胞腫は除く)の発生率は14.9%対8.8%だった。

リンク: セルジーンのプレスリリース(米承認、2/22付け)
リンク: 同(EU承認、2/24付け)

ロシュ、アレセンサがEUで承認
(2017年2月21日発表)

ロシュはAlecensa(alectinib、和名アレセンサ)がEUで条件付き承認されたと発表した。ALS活性化変異を持つ末期非小細胞性肺癌でXalkori(crizotinib)による前治療歴を持つ患者に用いる。第二相試験ではORR(全般反応率)が52%だった。64%で中枢神経転移が縮小した。深刻な有害事象は間質性肺疾患/肺炎、肝障害、筋痛、CPK上昇、徐脈など。

中外製薬の開発品で日本では14年、米国でも15年に承認されている。

リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMAがSGLT2阻害剤の下肢切断リスクを通知
(2017年2月24日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、二型糖尿病治療薬の一種であるSGLT2阻害剤に関して、下肢(主として足趾部)切断リスクを持つ可能性があることを発表した。リスクが表面化したきっかけは、ジョンソン・エンド・ジョンソン/田辺三菱製薬のInvokana(canagliflozin、和名カナグル)の心血管アウトカム試験、CANVAS試験。昨年4月に、1000人年当りの発生数が偽薬群は3例であったのに対して、100mg群は7例、300mg群は5例だったことが公表された。

もう一本の大規模試験、CANVAS-R試験では偽薬群5例、canagliflozin群(100mgで開始して300mgに増量)7例とそれほど差がなかったが、今回発表された16年9月時点のデータでは4例対8例と差が拡大している。

他のSGLT2阻害剤の試験では観察されていないが、EMAはデータが限定的であることからクラスイフェクトと見なし、SGLT2阻害剤すべてのSPC(添付文書)に1000人中1~10人に発生する副作用として記載することを決めた。

SGLT2阻害剤は腎臓でグルコースを尿から血液中に戻すトランスポーターを阻害し、グルコースの排出を促す。ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのJardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の心血管アウトカム試験が成功し、ADA米国糖尿病協会が心血管リスクを持つ二型糖尿病患者に使用を検討するよう推奨するなど、期待を集めている。

リンク: EMAのプレスリリース






今週は以上です。

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2017年2月19日

2017年2月19日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 筋ジストロフィーの「新薬」が販売中断に 
  • セルジーン、ozanimodの第三相多発性硬化症試験が成功 
  • MSD、抗HIV薬の第三相が成功 
  • MSD、アルツハイマー病用薬の第三相の一つを中止 
  • アストラゼネカ、PARP阻害剤の乳癌適応拡大試験成功 
  • tivantinib、肝細胞腫もフェール 
  • ルミセフが米国でも承認 
  • イーライリリーら、EUでJAK1/2阻害剤の承認を取得


【今週の話題】


筋ジストロフィーの「新薬」が販売中断に
(2017年2月13日発表)

米国イリノイ州の希少疾患用薬会社、Marathon Pharmaceuticalsは、先日FDAに承認されたばかりのデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)治療薬Emflaza(deflazacort)の販売を中断すると発表した。高薬価批判が原因のようだ。

DMDの治療にはステロイドがオフレーベル使用されている。代表的な製品であるprednisoneと比べてdeflazacortは副作用が少ないとされるが、米国では今月まで承認・販売されていなかった。発売は朗報だが年89000ドルという価格が反響を呼んだ。カナダなら1000~2000ドルで買える古い薬がなぜこんなに高価なのか、連邦議会議員が再考を促す書簡を送付する事態になった。

海外で安く入手できるといっても正式に承認されているわけではなく、厳格な審査で知られるFDAのお墨付きを得たことはエビデンス作りの観点から意義がある。しかし、価格を正当化するにはそれだけでは足りない。開発コストは画期的新薬より小さいだろう。投資リターンは、米国独自の制度である希少小児疾患用薬優先審査バウチャーを獲得できるので売却すればそれだけで数億ドル回収できるだろう。

前例を見ると、米国だけ未発売の薬を20年遅れ、30年遅れで発売したり、オフレーベル使用されている用途で少し異なった(知的所有権保護を受けることのできる)製剤を投入しても、失敗することが多い。お金をかけてエビデンスを構築すれば感謝されるが、既存のエビデンスのない薬や並行輸入品、調剤薬局品を使っている医師や患者は高価な「新薬」に中々乗り換えない。サリドマイドはFDAが厳格な処方制限を課したことが却って幸いしたが、日本はセルジーンとは異なる会社が生産販売、欧州は調剤薬局品を駆逐できていない。

結局、deflazacortの価格がカナダの数十倍というのは初めから高すぎた。値引きをオファーすることになるのではないか。

リンク: Marathonのプレスリリース

【新薬開発】


セルジーン、ozanimodの第三相多発性硬化症試験が成功
(2017年2月17日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、ozanimodの第三相試験成功を発表した。再発型多発性硬化症を対象に、0.5mgまたは1mgを一日一回、経口投与する群の年率再発率を実薬であるAvonex(interferon beta-1a、週一回筋注)と比較したところ、有意に優れていた。

ozanimodはsphingosine 1-phosphate(S1P)受容体の1と5を選択的に調整する小分子薬。ノバルティス/田辺三菱製薬のGilenya(fingolimod)のようなS1P1受容体だけを調整する薬より心肝安全性やリンパ球数回復の点で優れると考えられている。潰瘍性大腸炎でも第三相中。

リンク: セルジーンのプレスリリース

MSD、抗HIV薬の第三相が成功
(2017年2月14日発表)

MSDは、抗HIV薬MK-1439(doravirine)の第三相試験成功を発表した。初めて治療を受ける成人患者に、核酸系逆転写阻害剤二剤をバックボーンとしてMK-1439と実薬であるPrezista(darunavir)とritonavirの併用レジメンのウイルス抑制奏効率を比較したところ、各83.8%と79.9%となり、非劣性であることが確認された。CD4陽性細胞の回復も同程度だった。

一方、LDL-Cは若干低下し、Prezista群の上昇とは対称的だった。有害事象による治験離脱は2%対3%で大差なかった。

MK-1439は非核酸系の逆転写阻害剤で、efavirenzより安全性が高いとされる。また、耐性ウイルスのタイプが既存薬と異なるので補完的。

リンク: MSDのプレスリリース

MSD、アルツハイマー病用薬の第三相の一つを中止
(2017年2月14日発表)

MSDは、MK-8931(verubecestat)の第三相軽中度アルツハイマー病治療試験を中止すると発表した。独立データ監視委員会が中間解析で無益性を認定したため。安全性は特に問題なく、前駆アルツハイマー病の第三相は続行される。

MK-8931はBACE1阻害剤で、MSDが買収したシェリング・プラウとライガンド・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:LGND)の共同研究の成果。アミロイドベータの蓄積を予防したり除去したりする作用機序の薬は第三相が続々とフェールしている。

リンク: MSDのプレスリリース

アストラゼネカ、PARP阻害剤の乳癌適応拡大試験成功
(2017年2月17日発表)

アストラゼネカはLynparza(olaparib)の乳癌適応拡大試験が成功したと発表した。LynparzaはBRCA変異陽性などの卵巣癌を適応に14年に欧米で承認されたPARP阻害剤。今回の試験はBRCA1/2変異陽性のher2陰性転移性乳癌を組入れてPFS(無進行生存期間)を化学療法群(capecitabine、vinorelbine、eribulinの中から担当医が選ぶ)と比較したもの。アストラゼネカは承認申請に向けて当局と相談する予定。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

tivantinib、肝細胞腫もフェール
(2017年2月17日発表)

ArQule(Nasdaq:ARQL)と第一三共は、ARQ 197(tivantinib)の第三相試験がフェールしたことを公表した。末期肝細胞腫の二次治療偽薬対照試験で、好中球減少症が見られらことから途中で用量を引き下げている。

c-MET阻害剤で、過去には非小細胞性肺癌試験の第三相試験が日本(協和発酵キリンが実施)でも海外でもフェールしている。

リンク: ArQuleのプレスリリース

【承認】


ルミセフが米国でも承認
(2017年2月16日発表)

FDAは、カナダのValeant Pharmaceuticals(NYSE:VRX)のSiliq(brodalumab、和名ルミセフ)を中重度プラク乾癬の治療薬として承認した。他の全身的治療法や光学治療がフェールまたは反応しなくなった患者に用いる。自殺念慮・企図リスクが枠付き警告され、REMS(リスク評価低減戦略)が課せられた。クローン病治療試験で悪化が見られたためクローン病の患者は禁忌。17年下期に発売される予定。

アムジェンが開発したIL-17受容体Aを標的とする完全ヒト化抗体。臨床試験で自殺念慮・遂行が40例以上と多かったため、アムジェンは商業上の理由で開発から離脱、炎症用抗体領域でアムジェンと開発提携しているアストラゼネカも自社販売を断念し、米国などの権利はValeantに、欧州などはLEO Pharmaに、導出した。日本は協和発酵キリンが16年7月に承認を取得、9月に発売した。

リンク: FDAのリリース
リンク: Valeantのプレスリリース

イーライリリーら、EUでJAK1/2阻害剤の承認を取得
(2017年2月13日発表)

イーライリリーとインサイト(Nasdaq:INCY)は、Olumiant(baricitinib)がEUで抗リウマチ薬として承認されたと発表した。中重度活性期リウマチ性関節炎で、一つ以上のDMARDs(疾病装飾的抗リウマチ薬)に十分に反応しない、あるいは忍容しない患者に、単剤またはmethotexateと併用で、一日一回経口投与する。

MTX服用患者に追加投与した試験では、ACR20奏効率が偽薬を追加した群より高かっただけでなく、Humira(adalimumab)を追加した群と比べても有意に高かった(偽薬群40%、Olumiant群70%、Humira群61%でHumira群に対するp値は0.014)。

リンク: イーライリリーらのプレスリリース
リンク: Taylorらの治験論文(New England Journal of Medicine)





今週は以上です。

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2017年2月12日

2017年2月12日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • イグザレルトの冠動脈疾患予防試験が成功 
  • アコーダ、吸入レボドパの第三相が成功 
  • インターセプト、組入れ遅延の対応策を公表 
  • アムジェン、パーサビブが米国でも承認 
  • EMA、ウプトラビの安全性検討を開始 



【新薬開発】


イグザレルトの冠動脈疾患予防試験が成功
(2017年2月8日発表)

バイエルとジョンソン・エンド・ジョンソンは、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)の冠動脈疾患予防試験、COMPASSが成功したと発表した。独立データ監視委員会が中間解析で主目的達成を認定した。詳細は今後、発表される予定。

Xareltoは両社が共同開発した経口Xa阻害剤。08年に欧州などで静脈血栓塞栓予防向けに承認された後、心房細動患者の脳卒中予防などに適応を拡大してきた。冠動脈疾患では急性冠症候群を発症してから数日経った亜急性期の患者を組入れたATLAS ACS2-TIMI 51再発予防試験が成功。FDAは承認しなかったが、EUは心臓バイオマーカー上昇例に用いることを認めた。

COMPASSは冠動脈疾患又は末梢動脈疾患で、DAT(dual antiplatelet therapy:アスピリンとADP受容体拮抗剤を併用する)が適応にならない患者27402人を、アスピリン群(100mg一日一回)、Xarelto群(5mgを一日二回)、併用群(Xareltoは半量)の三群に無作為化割付して、主要有害心臓イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞または非致死的脳卒中)のリスクを比較した大規模アウトカム試験。

虚血性冠動脈・脳血管疾患の予防はアスピリンとPlavix(clopidogrel)のようなADP受容体拮抗剤が主役になる。何れも出血リスクを伴うので、患者毎に治療の便益とリスクを検討して、単剤か併用かを決める。リスクが特に高い患者、あるいは心房細動で脳卒中も予防する必要がある場合は、ワーファリンと三剤同時使用もオプションになるが、これまでに行われたアウトカム試験の結果は芳しくなく、二剤併用に留めたほうがよさそうだ。

ワーファリンと同じ抗血栓薬であるXa阻害剤を追加した試験も似たような結果になった。XareltoのATLAS試験は成功したものの、FDAや諮問委員会が指摘するように、効果が小さく、追跡不能例が比較的多く、2.5mg一日二回投与群は有意に優れていたが5mg一日二回群はフェールするなどデータの頑強性があまり高くない。

このような流れの中で、COMPASS試験は、三剤併用ではなく二剤併用あるいはXareltoのみをアスピリンと比較したことが最大の特徴だ。但し、もし二剤併用の便益がリスクを上回った場合に、本当はDATが適応になる患者だったのではないか、DATと比べても優れているのかという疑問が生まれるかもしれない。

また、ATLAS試験と同様に、Number Needed to Treatの多寡やNumber Neeeded to Harmとのバランス、治験の実施状況などによっては、いろいろな議論を呼ぶ可能性がある。

リンク: バイエルらのプレスリリース

アコーダ、吸入レボドパの第三相が成功
(2017年2月9日発表)

アコーダ・セラピュティクス(Nasdaq:ACOR)は、CVT-301の第三相パーキンソン病試験が成功したと発表した。レボドパの吸入用乾燥粉末で、14年の企業買収により入手したもの。第三相では進行パーキンソン病のオフタイム削減効果を検討したところ、主解析の対象である84mg群のUPDRS IIIスコアが12週間後に9.83低下と、偽薬群の5.91低下を有意に上回った。

主な有害事象は咳、下部気道感染症、悪心、痰変色。肺安全性は特に問題なかったとのこと。1年安全性試験の結果を見て6月までに米国で、年末までにEUでも、承認申請する予定。

リンク: アコーダのプレスリリース

インターセプト、組入れ遅延の対応策を公表
(2017年2月10日発表)

インターセプト・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:ICPT)はOcaliva(obeticholic acid)を原発性胆汁性肝硬変(PBC)の治療薬として販売しているが、並行して、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の適応拡大試験も実施中。組入れが遅い模様だが、報道によると、中間解析の症例数を減らすことでFDA側の承諾を取ったようだ。

当初の計画では主評価項目は肝線維症の改善奏効率とNASH解消奏効率の二つあったが、どちらかが奏功した患者の比率に変更した。また、中間解析の対象症例数を1400人ではなく750人に減らすことを決定、それに伴い実施見込み時期が今年後半から年央に若干前倒しになった。

主評価項目を二つから一つに変えれば目標症例数を減らすことができるが、データの頑強性は低下する。製薬会社や研究者、承認審査機関は詳細なデータを見ることができるが部外者はヘッドラインしか見れないので細部に潜む悪魔を見逃すリスクが高まる。このため、治験のデザインを途中で変更するのは好ましいことではない。にもかかわらず同社の株価が上昇したところを見ると、組入れ遅延は以前から心配されていたのだろう。

【承認】


アムジェン、パーサビブが米国でも承認
(2017年2月7日発表)

アムジェンは、FDAがParsabiv(etelcalcetide、和名パーサビブ)を承認したと発表した。カルシウム感受受容体アゴニストで、慢性腎疾患透析期の患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に用いる。同社のSensipar(cinacalcet、和名レグパラ)と異なり、透析終了後に透析回路経由で投与できることが特徴。EUは昨年11月、小野薬品が承認申請した日本は昨年12月に、承認。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMA、ウプトラビの安全性検討を開始
(2017年2月10日発表)

EMAは肺動脈高血圧症用薬Uptravi(selexipag、和名ウプトラビ)の安全性検討を行うと発表した。入手可能なデータの予備的検討に基づき、現時点ではUptraviの使用を認めている。

発端は、フランスで5名が治療開始後に死亡したこと。規制当局であるANSMは、EMAに検討を要請するとともに、当面の施策として、新規に投与を開始しないこと、服用中の患者については有効性や耐容性を確認すること、禁忌や警告を遵守することを1月に勧告している。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ANSMのリリース(フランス語)





今週は以上です。

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2017年2月5日

2017年2月5日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗PCSK9抗体の心血管アウトカム試験が成功 
  • HIF2-PH阻害剤の貧血治療試験が成功 
  • キイトルーダ、FDAが尿路上皮癌適応拡大申請を受理 
  • オプジーボ、FDAが尿路上皮癌適応拡大を承認 
  • キイトルーダ、EUも非小細胞性肺癌一次治療を承認 
  • エベロリムス、結節性硬化症の癲癇治療でEU承認 


【新薬開発】


抗PCSK9抗体の心血管アウトカム試験が成功
(2017年2月2日発表)

アムジェンは、Repatha(evolocumab、和名レパーサ)の心血管アウトカム試験、FOURIERが成功し、主目的が達成されたと発表した。データは3月のACC米国心臓学会で発表される予定。

Repathaはプロタンパク転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を標的とする完全ヒト化抗体で、LDL受容体が零落しリソソームで分解されるのを妨げる。LDL-C値を50~60%削減する。スタチンの心血管アウトカム試験ではLDL-Cを下げれば下げるほど心血管リスクが低下する傾向が見られたため、高力価スタチン並みのLDL-C低下作用を持つPCSK9の治験結果が待望されていた。

FOURIERは、心筋梗塞、虚血性脳卒中、または症候性末梢動脈疾患でスタチンによる至適治療を受けLDL-Cが70mg/dL以上の患者27500人を組入れた第三相無作為化偽薬対照二重盲検試験で、140mgを二週間に一回または420mgを月一回皮注する群と偽薬皮注群の転帰を比較したもの。主評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院、または冠血行再建術の複合評価項目。最初の三つのハード・エンドポイントだけをカウントする主要二次的評価項目の解析も成功した。

スタチンと同様にLDL-C低下と心血管リスク削減率が相関するとしたら、Repathaは40~50%のリスク削減率が期待できるのではないかと思われる。逆に、これくらいの効果がなかったら、価格を正当化できないだろう。

FOURIER試験の結果は3月17日のLate-Breaking Clinical Trialsセッションで発表される予定。抗PCSK9抗体は前臨床試験などで神経認知機能副作用の疑念が浮上したため、アムジェンは、FDAの要請に基づき、FOURIER試験のサブスタディとして1900人を組入れたEBBINGHAUS試験も実施した。この結果は翌18日のレイトブレイカーで発表される予定。

リンク: アムジェンのプレスリリース

HIF2-PH阻害剤の貧血治療試験が成功
(2017年1月30日発表)

FibroGen(Nasdaq:FGEN)は、中国で実施されたFG-4592(roxadustat)の第三相貧血治療試験二本が成功したと発表した。年内に承認申請を完了する予定。別途、アステラス製薬が欧州や日本で第三相試験中。

FG-4592はHIF2-PH(低酸素誘発因子2-プロリン水酸化酵素)阻害剤。高地などに行って低酸素状態になると発現し赤血球の新生を誘導する転写因子、HIF-2のスクラップに係る酵素を阻害してヘモグロビン値を引き上げる。一日三回、経口投与する。

今回の二本のうち、慢性腎疾患保存期の貧血患者を組入れた試験では、8週間でHb値が1.9 g/dL上昇し、偽薬群の-0.4 g/dLを有意に上回った。透析期貧血でEPOによる治療を受けている患者を組入れたスイッチ試験では、Hb値維持効果が協和発酵キリン製のEPOバイオシミラーと非劣性で、優越性解析も成功した。

FG-4592は日本や欧州などではアステラス製薬が共同開発独占販売権を持ち、米中などはアストラゼネカが共同開発販売権を持つ。

リンク: FibroGenのプレスリリース

【承認申請】


キイトルーダ、FDAが尿路上皮癌適応拡大申請を受理
(2017年2月3日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)の末期・転移性尿路上皮癌適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。二次治療とcisplatin不適患者の一次治療に用いるもの。優先審査指定され、審査期限は6月14日。

二次治療の第三相実薬対照試験では、PFS(無進行生存期間)では有意差がなかったがもう一つの主評価項目である全生存の中間解析がメジアン10.3ヶ月、ハザードレシオ0.73、p=0.002となり、独立データ監視委員会が成功認定した。効果はPD-L1陽性のほうが高かった。

cisplatin不適患者の第二相一次治療試験では、最初の100人の中間解析でORR(客観的反応率)24%、完全反応率6%。ORRはPD-L1発現スコアが10%以上の症例では37%、1~10%では15%、1%未満は18%だった。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認】


オプジーボ、FDAが尿路上皮癌適応拡大を承認
(2017年2月2日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)の局所進行性・転移性尿路上皮癌適応拡大がFDAに承認されたと発表した。白金薬による治療を既に受けた患者の二次治療に、3mg/kgではなく240mgを二週間に一回、60分点滴静注する。第二相試験ではORRが20%だった。

リンク: BMSのプレスリリース

キイトルーダ、EUも非小細胞性肺癌一次治療を承認
(2017年1月31日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab)の非小細胞性肺癌一次治療適応拡大がEUに承認されたと発表した。EGFR阻害剤が適応になるEGFR活性化変異型やALK阻害剤が適応になるALK再編成型ではない、PD-L1 tumor proportion scoreが50以上の腫瘍が適応になる。200mgを3週間に一回、静注点滴。第三相標準療法対照試験ではPFSのハザードレシオが0.50、全生存は0.60と、大変良い結果を出した。

米国では昨年10月に承認。扁平上皮腫以外を組入れた三剤併用一次治療試験も成功しており、非小細胞性肺癌ではOpdivoを追い抜いた。

リンク: MSDのプレスリリース

エベロリムス、結節性硬化症の癲癇治療でEU承認
(2017年1月31日発表)

ノバルティスは、Votubia(everolimus)が結節性硬化症患者の難治性癲癇治療薬としてEUで承認されたと発表した。抗癲癇薬だけでは発作を十分に抑制できない患者に追加投与する。2歳以上が適応。

everolimusはmTOR阻害剤で、臓器移植を受けた患者の拒絶反応予防や腎細胞腫など多彩な適応を持つ。結節性硬化症の合併症ではSEGA(上衣下巨細胞性星細胞腫)や腎血管筋脂肪腫の治療(非癌性腎臓癌)も承認されている。

リンク: ノバルティスのプレスリリース





今週は以上です。

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