2016年4月17日

2016年4月17日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、マリゼブの欧米開発を断念
  • MSD、ダニアレルギー舌下錠を承認申請
  • MSD、Keytrudaの適応拡大申請
  • BMS、オプジーボの適応拡大申請
  • ロシュ、抗PD-L1で第二の承認申請
  • bcl-2阻害剤が遂に承認
  • EU、カナグルや抗C型肝炎ウイルス薬の安全性を検討へ



【新薬開発】


MSD、マリゼブの欧米開発を断念
(2016年4月8日発表)

MSDはマリゼブ(オマリグリプチン)の欧米での開発を断念すると発表した。安全性問題ではなくビジネス上の理由とのことだが、ついこの前まで承認申請の意向を示していただけに、不透明感が残る。

マリゼブは二型糖尿病の治療に用いるDPP-4阻害剤。日本で昨年9月に承認、米国でも15~16年に承認申請される見込みだった。同社のベストセラーDPP-4阻害剤、Januvia(sitagliptin、和名ジュニュビア/グラクティブ)との違いは、一日一回ではなく週一回の服用で足りることで、ほかには日本で昨年3月に承認された武田薬品のザファテック(トレラグリプチンコハク酸塩)だけである。経口剤なので決定的なアドバンテージではないが、重要な差別化要因になりうるはずだ。

日本でしか販売されないガラパゴス型医薬品の難点は、慢性疾患用薬に求められる長期大規模試験のエビデンスが望めないことだ。グローバル開発品と異なり大きな売上高が見込めないため、数百億円の費用を正当化できないからだ。日本は糖尿病薬の安全性に関心が薄く、欧米で心血管リスクが議論になった時は日本の患者の死因で一番多いのは心血管リスクではなく癌という理由で多寡を括り、癌のリスクが議論になるやシカトに一転した。このため、日本限定品は安全性監視も疎かになる懸念がある。

他に無いなら兎も角、DPP-4阻害剤もそれ以外の血糖治療薬もたくさんあるので、あえてガラヤクを使う必然性はないだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


MSD、ダニアレルギー舌下錠を承認申請
(2016年4月12日発表)

MSDは、Mitizaxを米国で承認申請し受理されたと発表した。ダニ由来の抗原を含有する舌下錠で、家ダニアレルギーの減感作療法。低量の抗原に毎日曝露することで免疫寛容を目指す。

減感作療法も、注射ではなく経口液や舌下錠の開発も、フランスなど欧州大陸が先行している。MitizaxはデンマークのAlk AbelloのAcarizaxをライセンスしたもので、日本では鳥居薬品がミティキュアとして昨年9月に製造販売承認を取得した。

Alk AbelloとMSDは芝やブタクサのアレルギーの減感作療法も商品化している。スギ花粉は欧米の患者が少ないので、日本が開発を主導している。

リンク: MSDのプレスリリース

MSD、Keytrudaの適応拡大申請
(2016年4月13日発表)

PD-1/PD-L1を標的とする抗体療法は、BMS/小野薬品とMSDの先陣争いにロシュなど第二グループが加わり、毎週のようにニュースが出ている。今週も勢ぞろいで、まず、MSDが米国で行ったKeytruda(pembrolizumab)の適応拡大申請が受理された。再発性転移性の頭頸部扁平上皮腫に、白金薬の次の二次治療薬として用いる。用量は黒色腫や非小細胞性肺癌の2mg/kgではなく200mgに固定。三週間に一回点滴静注は同じ。優先審査を受け、審査期限は8月9日。

リンク: MSDのプレスリリース

BMS、オプジーボの適応拡大申請
(2016年4月14日発表)

次に、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)は、再発性古典的ホジキンリンパ腫の適応拡大申請が3月のEUに続いて米国でも受理された。優先審査を受ける。審査期限は、まだ連絡が来ていないのか、プレスリリースに記されていない。

リンク: BMSのプレスリリース

ロシュ、抗PD-L1で第二の承認申請
(2016年4月11日発表)

最後に、ロシュは抗PD-L1抗体のRG7446/MPDL3280A(atezolizumab)の承認申請が米国で受理されたと発表した。用途はPD-L1陽性の局所進行性・転移性非小細胞性肺癌で、白金薬による一次治療後の二次治療。EGFR変異型ならEGFR阻害剤、ALK融合蛋白陽性ならALK阻害剤も既に使用済みであることが条件になる。大規模な第I/II相試験に基づく承認申請で、反応率は20%前後。

ロシュは3月にも尿路上皮癌の承認申請が受理されたことを発表しており、二つの適応症で並行して審査されることになる。どちらも優先審査で、審査期限はそれぞれ9月12日と10月19日。

尿路上皮癌の開発は三社の中でロシュが最も先行しているが、非小細胞性肺癌の二次治療はKeytrudaもOpdivoも承認済み。違いが出るとしたらPD-L1検査の有効性に関する医師の評価次第だろう。KeytrudaはPD-L1陽性だけが適応、Opdivoは限定されていないが、現状では、検査を割愛できるためOpdivoの方が好まれている模様だ。

ロシュは腫瘍だけでなく腫瘍に入り込んだ免疫細胞のPD-L1も検査することによって応答予測性を向上する手法を取っており、ヘッドライン数値を見る限りでは、強陽性に絞り込んだほうが良さそうだ。費用や副作用を考えれば絞り込むのがベストであり、医療従事者や患者にデータをアピールすることができれば優先使用薬の座を獲得できるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認】


bcl-2阻害剤が遂に承認
(2016年4月11日発表)

FDAは、Venclexta(venetoclax)を17p欠損型慢性リンパ性白血病(CLL)の二次治療薬として承認した。bcl-2阻害剤の承認は初。アッヴィ(NYSE:ABBV)とジェネンテックが07年に開始したbcl-2阻害剤の共同研究開発の成果で、米国は両社が共同販売、海外はアッヴィが販売する。17p欠損の判定もアボットのVysis CLL FISH Probe Kitを用いており、ロシュ色が薄い。

17p欠損は、癌の抑制に係る遺伝子がある17番染色体単腕が欠落しており、予後が悪い。初治療を受けるCLL患者では1割程度だが、再発患者は2~5割で見られる。bcl-2は白血球などのアポトーシス抵抗性に係る蛋白で、CLLではしばしば過剰発現が見られる。

VenclextaのORR(客観的反応率)は80%と高い。深刻な副作用は、熱性好中球減少症、溶血性貧血、肺炎、腫瘍壊死症候群。リスクを抑制するために20mg(一日一回、経口)で開始して400mgまで漸増する。また、抗尿酸薬でプリメディケーションする。効果は高いが副作用も強いので注意が必要。

bcl-2阻害剤というと思い出すのはジェンタがアベンティスと共同開発したGenasense(oblimersen)だ。臨床試験であと一歩のところまで進んだのだが、成就しなかった。薬が今一つだったのか、併用薬として開発したせいか、17p欠損という切り口がまだ無かったせいか?今となっては分からないが、何れにせよ、アッヴィとジェネンテックは、画期的新薬の開発に失敗し12年に破産したジェンタの轍を踏まないですんだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EU、カナグルや抗C型肝炎ウイルス薬の安全性を検討へ
(2016年4月15日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発した二型糖尿病のSGLT2阻害剤、Invokana(canagliflozin、和名カナグル)の安全性検討を開始した。長期大規模試験で下肢切断が増加する懸念が浮上したため。市販後医薬品安全性監視とリスク評価を担う委員会、PRACが他のSGLT2阻害剤メーカーも含めてデータ提出を求めている。

欧米の承認審査機関は高血糖治療薬を開発する企業に長期大規模試験の実施を求めている。心筋梗塞や心不全、骨疾患、癌、肝腎疾患などが増えないか、長期的な安全性を確認することが目的だ。糖尿病や高血圧、高脂血症の治療目的は深刻な合併症を回避することであり、多くの患者は症状がないため治療効果を体感できない。リスクの低い患者も治療を受けるので、それだけ、高い安全性が求められる。癌のような命に係る病気の治療薬との違いである。

長期大規模試験のメリットは、発生頻度の低い副作用についてもある程度信用できるデータが集まることだ。canagliflozinの場合は、進行中の大規模アウトカム試験、CANVASで、足指などの下肢切断の増加が見られた。具体的には、開始用量である100mgを投与した群では1000人年当り発生数が7例、最大用量の300mg群では5例と、偽薬群の3例を上回った。

もう一本、CANVAS-R試験でも1000人年当り7例と、偽薬群の5例よりやや多かった。有意ではなかったが、追跡期間がCANVAS試験の4.5年に対して0.75年と短いため、説得力は十分ではない。他の試験ではリスクが見られなかった由だが、これも、期間が短いせいかもしれない。

数値を見る限りではリスクはそれほど高くなく、この程度なら、何かの過ちである可能性も否定できないだろう。大規模試験は検出力が高いので、多くの項目で群間比較を行うと偶然に有意差が出てしまうリスクがある。それでも、効能に関する解析なら否定的に考えるべきだが、安全性に関しては警戒的に受け止めるべきだ。下肢切断を防ぐことは糖尿病治療の目的の一つなのだから、もし増えるとしたら話が違う。

リンク: EMAのリリース(canaglifozin)

EMAは3月にC型肝炎の治療に用いられるDAA(直接作用抗ウイルス薬)の安全性検討を開始したが、今回、範囲を広げることを発表した。B型肝炎の再活性化に加えて、肝臓腫瘍の再発リスクも調査する。ReigらがJournal of Hepatology誌で発表した調査が切っ掛け。

DAAはウイルスの複製増殖を直接的に阻害する一連の新薬のこと。登場する前の代表的な治療薬であるアルファ・インターフェロンは免疫賦活、ribavirinは作用機序が不明瞭で、米国では、単剤では無効と考えられているようだ。一方、DAAはC型肝炎ウイルスのゲノム研究で発見されたプロテアーゼ、ポリメラーゼ、複製複合体の構成蛋白などに結合阻害する。

この調査はDAA治療を受けている肝細胞腫歴を持つ患者58人を対象とした分析。メジアン追跡期間5.7ヶ月の間に、3人が死亡、16人が放射線学的再発となり、再発率27%と高かった。通常はどの程度なのか、抄録には記されていない。

DAAは標的が明確だが免疫賦活などの効果は期待できない。従って、副作用である可能性も、単に効能がないだけの可能性もありそうだ。対照試験ではなさそうなので、解釈も難しい。

SGLT2阻害剤の話も、DAAの話も、今の段階ではリスクがあるともないとも言えそうにない。検討結果を待ちたい。

リンク: Reigらの論文(Journal of Hepatology)
リンク: EMAのリリース(DAA)




今週は以上です。

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