2015年7月26日

2015年7月26日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • AAIC:aducanumabの新データは評価が分かれる
  • AAIC:solanezumabは疾病修飾的効果を持つ?
  • エグゼリキシス、VEGFR阻害剤の腎細胞腫試験成功
  • MSD、EUでもC型肝炎用合剤を承認申請
  • CHMPが初のマラリアワクチン等の承認を支持
  • FDAがリジェネロン/サノフィの抗PCSK9抗体を承認
  • EUがアムジェンの抗PCSK9抗体を承認
  • MSD、KeytrudaがEUで承認
  • BMS、Opdivoの適応拡大続く
  • FDA、ノバルティスのSMO阻害剤を承認
  • FDA、アッヴィの抗HCV合剤を承認
  • FDA、ダクルインザを3型C型肝炎に承認

【新薬開発】


AAIC:aducanumabの新データは評価が分かれる
(2015年7月22日発表)

バイオジェンはAAIC(国際アルツハイマー病会議)でBIIB037(aducanumab)の後期第一相試験に関する発表を行った。3月のAD/PD学会の続報で、6mg群の52週データが初公開された。10mgは忍容性が悪そう、3mgは効果がやや弱そうなので追加的に試験した模様だが、まあまあな内容。第三相では過去の抗アミロイドベータ抗体(以下、抗AB抗体)と同様にApoE4変異キャリアには3mgと6mg、ノンキャリアには6mgと10mgをテストする考えのようだ。

aducanumabはアミロイドベータのオリゴマーに結合する完全ヒト化抗体で、アルツハイマー病薬として開発されている。アミロイド仮説に基づく開発品はセクレターゼ阻害剤も抗AB抗体も第三相試験がフェールしたが、後述のsolanezumabの第三相試験の一本では軽度患者に効果の兆しが見られた。アミロイドが多量蓄積する前なら効くのかもしれない。また、作用機序的に、アミロイド蓄積が見られないタイプの患者には効かないのかもしれない。

このため、近年の試験では、軽度または前駆段階の、PET検査でアミロイド蓄積が確認された患者だけを組入れるケースが増えている。今回のaducanumabの後期第一相試験もこのパターンだ。160人の患者を偽薬、1mg、3mg、6mg、10mgの5群に割付けて、4週間に一回点滴静注し、54週間の忍容性やアミロイドプラクの変化、臨床症状の変化を検討した。

若年性アルツハイマー病と異なり、加齢性アルツハイマー病に関わる遺伝子変異はあまり見つかっておらず、リスク因子として広く認知されているのはApoE4位である。変異のキャリアはリスクが高まるが、どういう訳か、抗AB抗体を投与すると血管浮腫が発生しやすい。この副作用は今日ではアミロイド関連映像異常性(ARIA)浮腫と呼ばれている。

aducanumabの試験でもARIA浮腫のリスクが用量依存的に高まった。10mg群ではキャリアの55%、ノンキャリアでも17%で発生した。これを原因とする治験離脱も各35%と8%で頻発した。3mg群の発生率は0%と9%、それによる治験離脱はなかった。

一方、アミロイドプラクは用量依存的に減少し、3mg以上は偽薬比統計的に有意。CDR-SBという症状評価スコアの変化も用量依存的だが、有意差があったのは10mgだけだった。MMSEも用量依存的で3mgと10mgが有意だった。10mgは忍容性が劣り3mgは効果が弱いので今回の6mgのデータ発表が注目されたが、良いとも悪いともいえるものだった。

具体的には、ARIA浮腫の発生率はキャリアで43%、それによる治験離脱は10%と10mgよりは低いが良好とは言えない。ノンキャリアは各22%と11%で10mgと大差ない。アミロイドプラク除去効果は3mgより大きいが10mgより小さい。CDR-SB変化も3mgと10mgの中間だったが偽薬比有意な差は無かった。MMSEでは3mgより悪く、偽薬比有意差無し。

ARIA浮腫症例のうち2/3は症状を伴わず、残りも軽度で一時的であることが多いようだ。それでも、6mg以上は10%が離脱したのだから好ましいことではないだろう。臨床試験、特に初期段階の試験は患者を厳選して行うので、現実の医療では発生率が高まる可能性が高い。

薬効は良く分からない。一群30例程度の試験で検出力は低いだろうから、統計学的に有意であろうが何だろうが、偶然の可能性を疑わざるを得ない。統計学者も、これだけ沢山の検定を行っているのだから有意性を判定するp値のハードルをもっと高くすべきであり統計学的に有意と呼ぶべきではないと主張するだろう。試験期間中の推移をみると、最初の半年は群間差が小さいが、その後に偽薬群が急速に悪化した。効果が発揮されるまで時間が掛かると考えることもできるし、ドロップアウトが影響した可能性も考えられるだろう。

所詮、この段階の試験では答えは出ない。第三相試験の結果が数年後に判明するまで何とも言えないだろう。

aducanumabはスイスのNeurimmuneが創製、07年にバイオジェンがインライセンスしたもので、14年にバイオジェンとエーザイが結んだ共同開発提携の対象品目の一つ。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

AAIC:solanezumabは疾病修飾的効果を持つ?
(2015年7月22日発表)

イーライリリーはLY2062430(solanezumab)の第三相試験の延長試験の結果をAAICで発表した。抗可溶性アミロイドベータヒト化抗体で、二本の第三相試験が何れもフェールしたが、軽度患者には効果の兆しがあったため、軽度患者だけの第三相が開始された。今回の延長試験は第三相試験を終了した軽度患者を組入れて全員にsolanezumabを投与し、最初の試験で偽薬に割付けられた患者(遅延開始群)と試験薬に割付けられた患者(早期開始群)の症状判定スコアの差が維持されるかどうかを検証したもの。

症状変化は認知機能をADAS-cog14で、生活機能をADCS-iADLで評価したが、どちらも28週時点の群間差は延長試験開始時と比べて非劣性だった。その後も54週時点まで非劣性だった。優越性検定でも同様な結果が出た。

Aricept(donepezil)など既存のアルツハイマー病薬は、遅れて投与した群の症状スコアが最初から投与した群にキャッチアップする。このため、病気の進行を遅らせる効果は無く症状を改善するだけと考えられている。今回の試験結果は抗AB抗体が疾病修飾的であることを示唆しているが、二点、留意すべき点がある。第一は治験のデザイン。延長試験なので、おそらく、試験薬に忍容しなかったり別の病気になった人は参加しなかっただろう。

第二は、効果が大きいようには見えないこと。52週時点の群間差はADAS-cog14で1.91、ADCS-iADLで1.66に過ぎない。延長試験に参加した患者の偽薬対照試験中の差も同程度だった訳だから、偽薬比の治療効果も、早期治療の効果も、大したことはない。5年、10年続ければ大きくなるかもしれないが、高齢者なので投与を続けられるかどうか分からない。この試験でも元々の試験と通算して3年半の間に半数がドロップアウトした。長期間投与して臨床的に重要な便益を得る確率は半分以下ということになりかねない。

三本目の第三相試験の成否は16年末から17年初めにかけて明らかになる見込み。最初の二本は軽度患者が合計1300人だったが、今回は2100人なので検出力が上がるはずであり、治療効果がもっと小さくても有意差が出る可能性がある。尚、事前にPETまたは脳脊髄液検査でアミロイド兆候が見られた患者だけを組入れている。

もし成功するようならば、小さな一歩だが人類にとって大きな一歩と呼べるだろう。承認されるならば、価格が高いだろうから、人類にとって高価な一歩になる。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

エグゼリキシス、VEGFR阻害剤の腎細胞腫試験成功
(2015年7月20日発表)

エグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)はCometriq(cabozantinib)の第三相腎細胞腫試験が成功したと発表した。Sutent(sunitinib)などのVEGFR阻害剤を既に経験した患者を試験薬群とノバルティスのAfinitor(everolimus)を投与する群に無作為化割付してPFS(無進行生存期間)を比較したところ、有意に上回った(ハザードレシオ0.58)。

全生存期間の解析は未だ成熟していないがハザードレシオ0.67、p=0.005と良さそうな数値が出ている(中間解析に割り当てられたアルファは0.0019なのでこれを下回らないと有意とは言えない)。有害事象による治験離脱は各群10%とのことで、大差ない。16年に欧米で適応拡大申請する予定。

腎細胞腫ではBMSもOpdivo(nivolumab)のeverolimus対照試験の成功を発表している(後述)。

Cometriqは数あるVEGFR阻害剤の一つで、切除不能末期転移性甲状腺髄様腫用薬として米国で12年に、EUでも14年に承認された。適応拡大は結腸直腸癌試験がフェール。肝細胞腫試験は17年に開票する見込み。腎細胞腫はVEGFR阻害剤の代表的な用途なので競争は厳しいだろう。

リンク: エグゼリキシスのプレスリリース

【承認申請】


MSD、EUでもC型肝炎用合剤を承認申請
(2015年7月23日発表)

MSDは、grazoprevirとelbasvirの合剤をEUに承認申請し受理されたと発表した。汎遺伝子型NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤とNS5A複製複合体阻害剤を配合しており、慢性C型肝炎の治療に用いる。5月に米国でも承認申請したが対象が若干異なっており、EUでは遺伝子型1型、4型、6型に加えて3型も申請した。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが初のマラリアワクチン等の承認を支持
(2015年7月24日発表)

EUの薬品審査機関EMAの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、7月の会議で、マラリアワクチンやコレステロール治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内に承認される見込み。

リンク: CHMPのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのMosquirix(通称RTS, S)はマラリアとB型肝炎のワクチン。マラリアワクチンが承認されれば初。マラリアは世界で年60万人以上が死亡するが、その9割はアフリカ。CHMPの肯定的意見もEU域外での使用を想定したもので、承認審査能力を持たないアフリカ諸国のために代わりを務めた格好だ。今後、WHOが接種体制や費用などを検討した上で年内に接種勧奨を行い、グラクソ・スミスクラインが夫々の国の承認を取得する手筈になる。

対象年齢は生後6週間から17ヶ月まで。予防効果はそれほどでもなく、5~17ヶ月児ではリスクを56%、6~12週児では31%削減。1年経つと効果が減衰する。

GSKはワクチンの世界的大手の一つで、もう一つの大手とは異なり、アフリカやアジアの風土病用ワクチンの開発に積極的に取り組んでいる。MosquirixはPATHマラリアワクチン・イニシアティブやビル・ゲイツ夫妻の財団の支援を得て開発したもので、収入のうちコストを上回る部分については第2世代品や熱帯病ワクチンの研究開発に投じる旨を2010年に発表している。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

肯定的意見を得た新薬は、まず、リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発したPraluent(alirocumab)。新作用機序を持つコレステロール治療薬。米国で承認されたので、後記を参照されたい。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース

シャイアのIntuniv(guanfacine)はアルファ2Aアドレナセプター・アゴニストの徐放性剤で、6~17歳のADHD(注意欠陥多動性障害)患者のうち、医療用覚醒剤に不応不適不耐の患者に限定して用いる。米国では09年に承認された。日本では塩野義製薬と共同開発。

リンク: シャイアのプレスリリース

バジレア(SIX:BSLN)のCresemba(isavuconazole)はアゾール系の抗真菌薬で、腎毒性が比較的小さいことが特徴。侵襲性のアルペルギルス症やamphotericin B不適のムーコル症の治療に用いる。深刻な有害事象は肝臓障害や点滴反応、アレルギー反応など。

リンク: バジレアのプレスリリース

ケリックス(Nasdaq:KERX)のFexeric(ferric citrate、和名リオナ)は慢性腎疾患患者の高リン血症に用いる鉄の経口剤。米国では14年に承認、日本は14年に鳥居が発売。

リンク: ケリックスのプレスリリース

Baxalta(NYSE:BXLT)のObizur(susoctocog alfa)はブタ由来の遺伝子組換え型第VIII因子。A型血友病で第VIII因子のインヒビターを持つ患者の出血治療薬として、例外的環境条項に基づく承認が支持された。Baxaltaは今年7月にバクスターからスピンアウトした会社。Obizurは12年に破産法適用申請したInspiration社から買収したもの。

MSDのZerbaxaは静注用の複合セファロスポリンで、アステラスからライセンスしたceftolozaneと大鵬薬品が開発したベータラクタマーゼ阻害剤tazobactamの合剤。複雑腹腔内感染症、急性腎盂腎炎、複雑尿道感染症の治療に用いる。米国では昨年、承認された。MSDが今年1月に負債を含めて95億ドルで買収したキュビストが、09年にCalixa社を買収して入手した開発品。

適応拡大では、ノバルティスの転移性黒色腫治療薬、Tafinlar(dabrafenib)とMekinist(trametinib)を併用することが支持された。V600変異を持つタイプが適応になる。前者はbraf阻害剤、後者はMEK阻害剤でモノセラピーは既に承認されている。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ノバルティスはグラクソ・スミスクラインとアセット・スワップを行い、OTC薬事業を合弁会社化する一方で、ワクチン事業をGSKに譲渡し、GSKの抗癌剤事業を譲り受けた。上記二剤はGSK由来だが、もう一つ、特発性血小板減少性紫斑症の経口治療薬Revolade(eltrombopag、和名レボレード)も適応拡大が支持された。重度再生不良性貧血で免疫抑制剤による治療に十分反応しない患者に用いる。ライガンド社から開発販売権を取得したもの。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

最後に、アステラス製薬の末梢神経痛治療薬Qutenza(capsaicin)は、09年に承認された時点では糖尿病患者が対象外だったが、今回、限定解除が支持された。チリの辛み成分を合成したもので貼付薬。NeurogesX社の開発品だが、13年にAcorda社が権利を譲り受けた。

【承認】


FDAがリジェネロン/サノフィの抗PCSK9抗体を承認
(2015年7月24日発表)

FDAはリジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発したPraluent(alirocumab)を承認した。LDL-C受容体の零落に関わるPCSK9に結合・阻害する抗体医薬の承認は初。スタチン服用患者に追加投与するとLDL-Cが45~55%低下する。二週間に一回、75mgまたは150mgを皮注する。主な有害事象は注射箇所反応で、入院治療が必要になった症例もあるようだ。

WAC(問屋取得価格)は両用量とも4週間分が1120ドルで、スタチンの10倍以上。スタチンはジェネリックも多い。両社が指摘するように自己注用の抗体医薬の中では最も安価だが、症状を伴わない慢性疾患に用いる薬なので、コンプライアンス(患者が勝手に止めてしまう)が心配だ。

意外なのは対象患者が限定されたこと。第一に、ホモ接合型家族性高脂血症(両親から受け継いだLDL-C受容体などの遺伝子の両方に変異がありLDL-C値が著しく高い)が対象外。第二に、ヘテロ接合型(片方の遺伝子だけ変異)は適応になるが、それ以外は臨床的アテローム性心血管疾患を持つ患者に限定された。スタチンの最大耐用量を服用してもLDL-Cが十分に低下しない患者に追加投与する。モノセラピーは承認されていない。

スタチンは米国だけで数千万人が服用するが、その中にはLDL-C値が高いだけでまだ虚血性疾患を合併していない患者もいる。抗PCSK9抗体は心筋梗塞予防効果がまだ確立していないので対象患者が限定されることは予想していたが、思っていたより厳しかった。

アムジェンが承認申請しているRepatha(evolocumab)は後述のようにEUで承認、米国でも間もなく承認されるだろう。ホモ接合型は適応になると推測されるが、ホモでもヘテロでもない非家族性高脂血症に関してはPraluentと同様な限定を受けるのではないか。

Praluentは用量が二種類あるので低量を安価にして価格優位を狙うのではないかという観測もあったが、実現しなかった。ホモ接合型は患者が少なく米国はオフレーベル投与も可能なので適応の違いは大きな影響はないだろうが、Repathaは4週間に一回の投与も可能なので、若干有利だろう。

リンク: FDAのリリース
リンク: 両社のプレスリリース

EUがアムジェンの抗PCSK9抗体を承認
(2015年7月21日発表)

アムジェンはEUがRepatha(evolocumab)を承認したと発表した。Praluentと同様な抗PCSK9抗体で、EUでは初。LDL-C治療効果はPraluentの高用量と同程度。140mgを二週間に一回、または、420mg(140mgを三本)を月に一回、皮注する。ホモ接合型家族性高脂血症は420mg月一回で、2週間に一回に増やすことも可。

適応は広く、ホモ接合型家族性高脂血症(12歳以上)に加えて、原発性高脂血症又は混合異脂血症の患者でスタチンの最大耐用量を服用しても不十分な患者に追加することも可能。スタチン不耐患者には他のLDL-C治療薬と併用だけでなくモノセラピーも認められた。

日本ではアステラスと共同開発、今年3月に承認申請された。

リンク: アムジェンのプレスリリース

MSD、KeytrudaがEUで承認
(2015年7月22日発表)

MSDは抗PD-1ヒト化抗体のKeytruda(pembrolizumab)がEUで末期黒色腫用薬として承認されたと発表した。一次治療またはBMSのYervoy(ipilimumab)の後の二次治療に用いる。用量は昨年9月に承認された米国と同様に、2mg/kgを3週間に一回、30分点滴静注する。2mg/kgは第三相試験ではテストしなかったはずだが、第二相までのデータに基づいて、効果は両用量とも同程度で2mgの方が忍容性に優れると判定したのだろう。

小野薬品/BMSのOpdivo(nivolumab)は2週間に一回なので、Keytrudaの方が簡便。

リンク: MSDのプレスリリース

BMS、Opdivoの適応拡大続く
(2015年7月20日発表)

BMSと小野薬品は、Opdivo(nivolumab)がEUで扁平上皮非小細胞性肺癌のモノセラピーとして承認されたと発表した。米国でも3月に承認されている。白金薬などによる一次治療後の二次治療に用いる。

前後して、EUで二種類の適応拡大申請が受理されたことも発表した。一つは悪性黒色腫にYervoy(ipilimumab)を併用する用法。もう一つは扁平上皮以外の非小細胞性肺癌のモノセラピー。前者はモノセラピーより効果が高いが副作用や費用もかなり増加する。後者は治験でdocetacelより高い延命効果を示しており、対象患者が数倍に拡大するため商業的な意義が大きい。

更に、腎細胞腫の第三相試験が中間解析で成功認定されたことも公表された。VEGF阻害剤の次に使う薬としてのeverolimus対照試験で、全生存期間が有意に上回った。データは未発表。適応拡大申請に向かうことになりそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース(EU承認)
リンク: 同(腎細胞腫試験成功)
リンク: 同(EU適応拡大申請、7/23付)

FDA、ノバルティスのSMO阻害剤を承認
(2015年7月24日発表)

FDAはノバルティスのOdomzo(sonidegib)を切除術・放射線療法不応不適の局所進行性基底細胞腫用薬として承認した。200mgカプセルを一日一回、服用する。第二相試験で反応率58%、メジアン反応持続期間は6ヶ月以上だった。重大な副作用は催奇性と、グレード3/4の横紋筋融解症が9%の患者で発生した。前兆である血清クレアチンキナーゼの上昇も見られる。

哺乳類の発育形態形成に関わるヘッジホッグ・シグナリング・パスウェイに関わるSmoothened(SMO)を阻害する薬で、12年に承認されたロシュのErivedge(vismodegib)に次ぐ第二号。

リンク: FDAのリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

FDA、アッヴィの抗HCV合剤を承認
(2015年7月24日発表)

FDAはアッヴィ(NYSE:ABBV)のTechnivieを遺伝子型4型の慢性C型肝炎の治療薬として承認した。NS5A阻害剤ombitasvirとNS3/4A阻害剤paritaprevir、そして3A4阻害剤ritonavirを配合、一日一回経口投与する。ribavirin併用で12週間治療する。肝硬変を合併している患者は適応外。インターフェロンが不要な経口剤だけの治療法は4型に関しては初めて。

臨床試験では全員が持続的奏効を達成した。ribavirinを併用しなかった群は91%が達成。肝機能検査値異常が発生することがあり、エチニル・エストラジオール(避妊薬)は同時使用するとリスクが高まるので禁忌。

C型肝炎ウイルスは色々な遺伝子型があり地域によって分布が異なる。Technivieは日本では1型の治療薬として承認申請され、ribavirinを併用しなくても良い模様だ。何かが違うのか、それとも地域によって優先順位を付けているだけなのか、良くわからない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース

FDA、ダクルインザを3型C型肝炎に承認
(2015年7月24日発表)

BMSは、FDAがDaklinza(daclatasvir、和名ダクルインザ)を遺伝子型3型の慢性C型肝炎治療薬として承認したと発表した。NS5A複製複合体阻害剤で、ギリアド(Nasdaq:GILD)のsofosbuvir(Sovaldi、和名ソバルディ)と併用する。臨床試験では代謝性肝疾患を合併する患者に一次治療では90%、再発治療でも86%の持続的奏効率を示した。

日本では1型、EUでは1、2、3、4型に承認されている。米国の承認が限定的なのは、おそらく、併用開発されたNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤、asunaprevir(和名スンベプラ)の1a型に対する効果が見劣りするからだろう。未承認の開発品同士でも併用試験ができるようになったが、相手を厳選しないと共倒れになってしまう。

リンク: BMSのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年7月20日

2015年7月20日号

【ニュース・ヘッドライン】


  • ロシュの抗PD-L1抗体、膀胱癌で承認申請か
  • 武田、経口プロテアソーム阻害剤を米国で承認申請
  • イレッサが米国で再承認
  • EUがBMSのHIV/AIDSコンビ薬を承認
  • EMAがHPVワクチンの稀な有害事象を検討へ

【新薬開発】


ロシュの抗PD-L1抗体、膀胱癌で承認申請か
(2015年7月13日発表)

ロシュは、RG7446/MPDL3280A(atezolizumab)の膀胱癌第二相試験で腫瘍縮小効果が見られたことを発表した。データは未公表だが、承認審査機関と今後を相談すると書いているので、少なくとも米国では承認申請の可能性がありそうだ。FDAから膀胱癌とPD-L1陽性非小細胞性肺癌の二次治療でブレークスルー・セラピー指定を受けているからだ。

atezolizumabはPD-L1を標的とするヒト化抗体で、定常領域を修飾して最適化した由。Opdivo(nivolumab)やKeytruda(pembrolizumab)が細胞傷害性Tセルの表面分子であるPD-1を標的にするのに対して、腫瘍細胞が発現してTセルの活性を抑制するレガンド側をブロックする。臨床的な違いは良く分からず、現時点では大差ないと考えておいて良さそうだ。

第三相試験は膀胱癌に加えて非小細胞性肺癌、トリプルネガティブ乳癌、腎細胞腫などが進行中。リード・インディケーションは尿路上皮膀胱癌の二次治療で、化学療法対照試験の結果が17年初めにも判明しそうだ。

今回の第二相は局所進行性・転移性の尿路上皮膀胱癌の患者439人に1200mgを3週間に一回、静注し、一次治療と再発治療のコホートのORR(客観的反応率)を検討したうち、最初に結果が出た再発治療コホートに関するもの。ORRはPD-L1発現度合と関連していた由。第一相でもPD-L1強陽性群は33人中52%、陰性は36人中14%と大きな差があった。

OpdivoやKeytrudaとのもう一つの違いは、ロシュがPD-L1発現検査方法を独自開発していること。腫瘍細胞のPD-L1だけでなく腫瘍に浸透したTセルの発現状況も調べることで応答性予測精度を向上できる可能性がある。各社が第三相を実施している非小細胞性肺癌のデータが揃えば検査手法の優劣が明確になるかもしれない。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認申請】


武田、経口プロテアソーム阻害剤を米国で承認申請
(2015年7月15日発表)

武田薬品は、MLN9708(ixazomib cirate)を米国で承認申請したと発表した。同社のVelcade(bortezomib)と同じプロテアーゼ阻害剤だが経口剤であることが特徴。多発骨髄腫は薬の数が増え併用療法が活発に探索されるようになったが、MLN9708が加われば経口剤だけの三剤併用が可能になる。

承認申請の根拠となった第三相試験は、多発骨髄腫で2~4次治療を受ける患者を組入れて、セルジーンのRevlimid(lenalidomide)とdexamethasoneの低用量を併用するRdレジメンと更にMLN9708(4mgを週一回、3連続週投与して1週休む)を投与する三剤併用療法のPFS(無進行生存期間)を比較した。今年2月に独立データ監視委員会が中間解析で成功を認定。データは未公表。

この試験の制限は、第一に、前治療でRevlimidやプロテアソーム阻害剤に難治性を示した患者は対象外。全員がアスピリン(325mg、一日一回)を服用した。CYP1A2を強度阻害する薬やCYP3Aを強度阻害・誘導する薬の同時使用は不可。

MLN9708は新患や維持療法の第三相も進行中。また、全身性軽鎖アミロイドーシス(免疫グロブリン性アミロイドーシス)でも第三相中。VelcadeもRd併用で良い成績を上げており、将来的には自社競合も発生しそうだ。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)

【承認】


イレッサが米国で再承認
(2015年7月13日発表)

FDAはアストラゼネカのIressa(gefetinib、和名イレッサ)をEGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌の一次治療モノセラピーとして承認した。2001年に非小細胞性肺癌の三次治療薬として承認されているので厳密には適応拡大だが、薬効確認試験がフェールしメーカーが自主的に販売を止めていたため、リバイバルということになる。

EGFRにエクソン19欠損またはエクソン21のL858R置換を持つ場合に適応になる。臨床試験ではORR(客観的反応率)が50%、メジアン反応持続期間は6ヶ月だった。carboplatinとpaclitaxelの併用と比較した試験のサブグループ分析でもこのタイプにはPFS(無進行生存期間)が上回った。主な有害事象はラッシュ、下痢、悪心嘔吐など。二人(1.9%)が深刻な薬物関連有害事象を経験、四人が薬物関連有害事象で治験を離脱した。深刻な副作用は間質性肺疾患、肝障害、胃腸穿孔、重度下痢、視覚異常などがある。

Iressaが日米で承認された時の位置付けは効果は穏やかだが忍容性に優れ経口投与可能な抗癌剤というものだった。その後、EGFR活性化変異型にしか有効でないことが判明し潜在市場規模が縮小したが、代わりに得たものは高い有効率だ。三次治療のORR10%と今回の50%では大きな違いである。なぜもっと早く気付かなかったのか、残念なことだ。充足されないニーズに応えることを急ぐあまり、拙速になってしまったのではないだろうか。

製薬会社側にも、医療や患者側にも、開発を急ぐインセンティブがある。応答予測因子を研究するインセンティブを与えてバランスを取るためには、例えば、有効率の低い薬の薬価を低くする方法が考えられる。対象患者が1000人でORR10%の薬も、対象患者が100人でORR50%の薬も、便益を享受する人数、即ち生み出す価値はそれほど変わらない。副作用で苦しむ人や対策費が少なくて済む分、良い薬ということもできる。

ASCOが行っているような抗癌剤のコストパフォーマンスを定量化する試みは、薬価抑制だけでなく新薬開発戦略にも好影響を与えうるだろう。

リンク: FDAのリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

EUがBMSのHIV/AIDSコンビ薬を承認
(2015年7月16日発表)

BMSはEUがEvotazをHIV/AIDS治療薬として承認したと発表した。同社のプロテアーゼ阻害剤Reyataz(atazanavir、和名レイヤターズ)の活性成分とギリアド(Nasdaq:GILD)からライセンスした3A4阻害剤cobicistatの合剤で、後者が前者の代謝を阻害するため、投与頻度が一日一回一錠で足りる。米国では今年1月に承認された。

同様なコンビ薬ではアッヴィのKaletra(lopinavir、ritonavir)がある。atazanavirやlopinavirのようなプロテアーゼ阻害剤はバイオアベイラビリティが低いため多くのピルを一日に何度も服用しなければならなかったが、ritonavirの3A4阻害作用を利用することでピルバーデン軽減に成功した。ritonavirは抗HIV/AIDS薬Norvirとして製品化されているため、他の薬と組み合わせるritonavir-boostという手法も普及した。

3A4阻害剤はritonavirだけ、コンビ薬はKaletraしかなかったが、ギリアドがcobicistatを開発し自社製品だけでなく他社にもコンビ薬開発権を与えたことから、Evotazの上市が可能になった。

リンク: BMSのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMAがHPVワクチンの稀な有害事象を検討へ
(2015年7月13日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、GardasilやCervarixのような子宮頸癌予防ワクチンとCRPS(複合性局所疼痛症候群)やPOTS(体位性起立性頻脈症候群)の関連性を検討すると発表した。便益が危険を上回るかを検討するものではないと念を押しており、発生頻度や因果関係、もし副反応ならば転帰や対処方法を検討するものと推測される。

CRPSは手足の重度疼痛や腫脹、皮膚の温度や色の変化などを特徴とする疾患で、怪我や注射のトラウマで痛みに対する感受性が増す神経性疼痛と考えられている。POTSは体を起こした時に心拍数が増加するもので、交感神経の失調が原因と考えられている。後者はデンマークや米国などの症例が多い模様だが、報告数は世界で66例、接種は7200万人なので、発生頻度は低い。

これほど稀な有害事象を検討するためには、HPVワクチンを接種していない人たちにおける発生率をきちっと調べる必要がある。発生メカニズムについても探索が必要だ。このような基礎研究は次に同様な事態が発生した場合に応用できるのだから、手間を惜しんではならない。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Danish Health and Medicines Authorityのリリース
リンク: BrinthらのHPVワクチンとPOTSに関する論文抄録(Vaccine誌、リンクはPubMed)


今週は以上です。

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2015年7月12日

2015年7月12日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ノボ、ドイツでトレシーバの販売を中止へ
  • ノボ、週一回型GLP-1作用剤の第三相が成功
  • FDA諮問委員会、イーライリリーの抗癌剤に好意的な評価
  • ノバルティスの心不全治療薬が米国で承認
  • 大塚/ルンドベックの向精神薬が米国で承認
  • Imbruvica、EUでワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症に承認

  • 【今週の話題】


    ノボ、ドイツでトレシーバの販売を中止へ
    (2015年7月1日発表)

    ノボ ノルディスクはドイツでのTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)の販売を9月で中止すると発表した。ドイツの健康保険基金連合会、GKV-Spitzenverbandとの価格折衝が不調に終わり、希望する価格で販売できないため。Tresibaを使用している4万人の患者は他の製品にスイッチすることになる。トレシーバは日本でも薬価収載が3ヶ月遅れた。

    ドイツは医薬品の価格統制に熱心に取り組んでおり、既存の薬に対する臨床的な優位性が確立していない新薬にプレミアムを払うのを拒否することがある。インスリンではNovo Rapidのような速効性インスリンも、TresibaやLantusのような持効性インスリンも、洗礼を浴びた。エビデンスがあるはずだから論文でも社内文書でも提出すればよいのではないかと思われるが、未だにこのような事件が起きているところを見ると、難しいのだろう。

    欧州では英国が逸早く費用対効果を検討する組織、NICEを設立し、限られた公的医療予算を有効に配分する手段を探っている。印象的なのは、末期癌の余命を数ヶ月延ばすだけの薬に厳しい評価を行っていることだ。確かに、生活品質を数年に亘って改善する薬と比べれば優先順位は低いだろう。一方で、命という個人にとって一番重要なものを軽視するのもどうかと感じられる。NICEは軌道修正も行われているので、紆余曲折を経ながら落ち着くべきところに落ち着くのだろう。

    メーカー間の競争を上手く利用しているのはフランスだ。報道によると、ホスピーラ(NYSE:HSP)がRemicade(infliximab)のバイオシミラーをRemicadeより45%低い価格で供給することに同意した。バイオシミラーは小分子薬のジェネリックより参入障壁が高いため、価格差は20~30%程度が多く、日本でも33%に留まっている。おそらく、ホスピーラはシェアを確保して今後の他社の参入に備える意図なのだろう。

    TresibaはLantusのme-too drugなのだから、Lantusより安い程度の価格で双方が妥協する手もあったのではないかと感じられる。

    リンク: ノボのプレスリリース

    【新薬開発】


    ノボ、週一回型GLP-1作用剤の第三相が成功
    (2015年7月10日発表)

    ノボ ノルディスクは、NN9535(semaglutide)の最初の第三相試験が成功したと発表した。残りの5本の結果を待って16年に承認申請に向かうのではないか。semaglutideは週一回皮注型のGLP-1作用剤で二型糖尿病の治療に用いる。週一回型はアストラゼネカのBydureon(exenatide ER)、GSKのTanzeum(albiglutide)、イーライリリーのTrulicity(dulaglutide)に次ぐ4剤目となる。

    今回の試験は、二型糖尿病で薬物療法を受けていない患者を偽薬、0.5mg、1mgの三群に割付けて30週間治療したもの。HbA1c(ベースライン値8.1%)が各群0%、1.5%、1.8%低下し、二用量とも有意な差が見られた。体重は各群1.0kg、3.8kg、4.6kg減少した。

    心血管アウトカム試験も進行中。ここで問題が生じなければ17年には発売にたどり着くだろう。ノボはGLP-1作用剤のベストセラー、Victoza(liraglutide)を持っているが、semaglutideをラインアップすれば市場が週一回型にシフトしてもプレゼンスを維持できるだろう。liraglutideと同様に体重管理薬として開発することもできそうだ。

    リンク: ノボのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、イーライリリーの抗癌剤に好意的な評価
    (2015年7月9日発表)

    FDA腫瘍学薬諮問委員会がIMC-11F8(necitumumab)に好意的な評価を寄せた。票決は行われなかったので他に何か懸念材料があるのかもしれないが、順調なら、承認されることになりそうだ。効果は決して高くなく、適応である扁平上皮非小細胞性肺癌は抗PD-1抗体が有効であることが明らかになったので、承認されても出番は限られるだろう。

    necitumumabはイーライリリーがイムクローン社を買収して入手した抗EGFR抗体。Erbitux(cetuximab)がキメラ抗体であるのに対して、Dyax社のファージディスプレイ法を用いた完全ヒト化抗体であることが特徴。

    第三相試験は二本実施され、扁平上皮以外の非小細胞性肺癌を組入れたpemetrexed・cisplatin併用一次治療試験は血栓症のリスクが理由で中止されたが、扁平上皮型だけを組入れたgemcitabine・cisplatin併用一次治療試験でメジアン生存期間が11.5ヶ月と、この二剤だけを投与した対照群の9.9ヶ月を1.6ヶ月上回った。ハザードレシオは0.84、p値は0.012で、それほど良い数値ではない。

    安全性面では低マグネシウム血症やラッシュ、深刻な血栓塞栓症が増加。突然死の比率が2.2%と対照群の0.5%を上回っており、電解質異常との関連が疑われるところだ。薬物関連死亡率も3%対2%で増加した。

    イムクローン由来の抗癌剤ではCyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)も、肺癌の二次治療でメジアン生存期間10.5ヶ月、対照群比1.4ヶ月延びるだけ、ハザードレシオ0.857、p=0.0235というパッとしないデータに基づいて米国で昨年、承認された。2ヶ月足らずでは十分とは言えないが、肺癌は選択肢が限られるので贅沢を言っていられないのだろう。

    しかし、今回は一次治療である。安全性にも懸念がある。価格も抗PD-1ほどではないにしても安くはないだろう。ASCOが抗癌剤の費用対効果を判定するツールを開発するなど、新薬なら高くて当たり前という考え方は通用しなくなっている。これらを考えると、承認されても一部の患者にしか使われないだろう。

    リンク: イーライリリーのプレスリリース

    【承認】


    ノバルティスの心不全治療薬が米国で承認
    (2015年7月7日発表)

    FDAはノバルティスのEntresto(sacubitril/valsartan)を承認したと発表した。NYHAクラスII~IVの慢性心不全で駆出率低下を伴う患者に用いる。8,442人を組入れたPARADIGM-HF試験では、心不全による入院や心血管死がACE阻害剤のenalaprilを投与した群と比べて20%少なかった(ハザードレシオ0.80、p<0.001)。二次的評価項目である全死亡もハザードレシオ0.84、p<0.001だった。

    sacubitrilは新開発のネプリライシン阻害剤でBNPやANPなどのナトリウム利尿ホルモンの代謝を阻害する。valsartanは降圧剤Diovanの活性成分で、ARBを阻害する。Entrestoはこの二つの成分を結晶化したもので、新しいタイプの合剤と考えることができる。97/103mg(治療開始時は半量)を一日二回、経口投与する。主な副作用は低血圧、高カリウム血症、腎障害など。アフリカ系は血管浮腫のリスクが高まるので要注意。

    様々な領域で新薬開発競争が激化しているが心不全治療薬は新薬もパイプラインも少なく、Entrestoの独壇場になりそうだ。米国では200万人程度が適応になり、標準価格は12.5ドル/日とのことなので、値引き控除前の市場規模は90億ドルとなる。EUでも承認審査中。

    リンク: FDAのリリース
    リンク: ノバルティスのプレスリリース

    大塚/ルンドベックの向精神薬が米国で承認
    (2015年7月11日発表)

    大塚薬品とルンドベックは、FDAがRexulti(brexpiprazole)を承認したと発表した。統合失調症の治療や鬱病のアジャンクト療法に用いる。大塚がBMSと提携して販売している超大型薬で先般GE薬化したAbilify(aripoprazole、和名エビリファイ)の類縁体で、D2受容体部分作動活性と比べて5-HT1A部分作動・5-HT2A阻害活性が高い。

    6週間の統合失調症急性期治療試験の一本では2mgを一日一回経口投与した群のPANSSトータルスコアが20.73低下、4mg群も19.65低下し偽薬群の12.01低下を有意に上回った。もう一本でも2mg群と4mg群で有意な差が見られた。1mg群は有意差なし。1mgで開始し、最大4mgまで滴定する。

    6週間の鬱病アジャンクト試験では抗鬱剤だけでは十分に症状を管理できない患者に追加投与したところ、2mgをテストした試験ではMADRSトータルスコアが偽薬比3.21、3mgをテストした試験では同1.95低下した。0.25mgや1mgでは有意差なし。0.5mgまたは1mgで開始して2mgまで滴定する。

    主な有害事象は統合失調症では体重増加や傾眠、鬱病ではアカシジアや体重増。

    リンク: 両社のプレスリリース

    Imbruvica、EUでワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症に承認
    (2015年7月10日発表)

    アッヴィ(NYSE:ABBV)は、EUがImbruvica(ibrutinib)をワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症の治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。非ホジキン型リンパ腫の一種で異常なBセルや免疫グロブリンMが大量に生産され疲労や頭痛、易出血性、視覚・神経異常など様々な症状を齎す。新患年1000人程度の希少疾患で、60歳以上が多いとされる。二次治療にモノセラピーで用いるが、化学療法不適患者には一次治療も可。

    420mgを一日一回、経口投与した第二相試験では総合反応率が91%だった。主な有害事象は骨髄抑制、下痢、悪心、ラッシュ、筋痙攣、疲労など。米国でも1月に適応拡大が認められている。

    アッヴィが買収したファーマサイクリクスの開発品で、ジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発・販売している。

    リンク: アッヴィのプレスリリース



    今週は以上です。

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    2015年7月5日

    2015年7月5日号


    【ニュース・ヘッドライン】


    • ロシュ、抗CD20抗体の多発性硬化症試験が成功
    • インターセプト、OCAを承認申請
    • Sareptaも筋ジストロフィー用薬を承認申請
    • ギリアド、第三のTAF配合剤を承認申請
    • ヴァーテックスの嚢胞性線維症用合剤が米国で承認
    • Pandemrixとナルコレプシー


    【新薬開発】


    ロシュ、抗CD20抗体の多発性硬化症試験が成功
    (2015年6月30日発表)

    ロシュはRG1594(ocrelizumab)の第三相再発寛解型多発性硬化症実薬対照試験が二本とも成功したと発表した。懸念された感染症リスクは顕在化しなかった模様。2016年に承認申請の予定。

    RG1594は抗CD20ヒト化抗体で、抗CD20キメラ抗体であるRituxan(rituximab)、抗CD20フコース欠如ヒト化抗体であるGazyva(obinutuzumab)と類似している。元々はRituxanの後継薬と見做されていたパイプラインで、マウス由来のアミノ酸が少ないため免疫原性や点滴反応リスクの面で優れている可能性があり、用量が少なくて済み、点滴所要時間も短い長所を持つ。

    リウマチ性関節炎向けにフェーズIII入りしたが、アジアの医療施設で日和見感染症が増加したため、多発性硬化症以外は2010年に開発中止になった。Rituxanは元々、IDEC社がジェネンテックにライセンスしたもので、IDECと合併したバイオジェンが三剤の共同開発販売権を持っていたが、RG1594に関してはロシュの単独開発に変更された。

    再発寛解型多発性硬化症はRituxanも第二相試験が成功したが、ロシュは第三相試験をocrelizumabで行うことを決定。独メルクのRebif(インターフェロン・ベータ1a)対照試験を二本実施した。Rituxanのリウマチ性関節炎治療と同様に、半年に一回、点滴静注する用法。今回の発表ではデータは開示されなかったが、主評価項目の再発リスクや副次的項目の病状進行リスクやMRI病変でも有意に優れていたようだ。

    過去の経緯から感染症リスクが懸念されるが、深刻な症例数はRebif群と大差なかった由。感染症リスクが比較的小さいインターフェロン・ベータと同程度なら一安心だ。尤も、この試験は二年間だが患者はもっと長期に亘って治療を続けるので、今後も十分にフォローする必要があるだろう。

    多発性硬化症の免疫抑制療法はPML(進行性多病巣性白質脳症)のリスクが見られるものが多く、Rituxanもリンパ腫、リウマチ性関節炎、全身性エリテマトーデスで症例報告が出ているので、RG1594でも早晩、発生しよう。Tysabri(natalizumab)は2年以上の投与歴など、PMLのリスク因子が幾つか発見されており、RG1594でも早期に解明することが望まれる。

    リンク: ロシュのプレスリリース
    リンク: 同、リウマチ性関節炎などの開発を中止した時のプレスリリース(2010年5月19日付)

    【承認申請】


    インターセプト、OCAを承認申請
    (2015年6月29日発表)

    インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)は、OCA(obeticholic acid)を原発性胆汁性肝硬変の治療薬として欧米で承認申請したと発表した。EUでは受理された。米国はローリング承認申請が完了した段階で、FDAが2ヶ月内に諾否を通知するだろう。

    原発性胆汁性肝硬変は主として50~60代の女性が罹患する自己免疫疾患。胆管が損傷を受け胆汁が肝臓内に滞留、肝臓障害を合併する。治療はウルソデオキシコール酸(UDCA)が用いられるが、応答率は5割と言われている。OCAはUDCAの誘導体で、核内胆汁酸受容体であるFXRを作動する力価を向上した。適応は、UDCAに十分に応答しない患者に追加投与、または、UDCA不耐患者にモノセラピー。

    第三相試験では奏効率が40~50%と、偽薬群の10%を有意に上回った。奏功はアルカリフォスファターゼや総ビリルビンの値に基づいて判定しており、臨床的な効用はまだ確立していない。

    非アルコール性脂肪性肝炎でも第三相試験中。日本や中国の権利は大日本住友製薬が11年に取得している。

    リンク: インターセプトのプレスリリース

    Sareptaも筋ジストロフィー用薬を承認申請
    (2015年6月29日発表)

    Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、AVI-4658(eteplirsen)のローリング承認申請を米国で完了したと発表した。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの13%程度を占める患者が対象になるエクソン51スキッピング薬。バイオマリン(Nasdaq:BMRN)も同じ適応症で4月にdrisapersenのローリング申請を完了しており、開発競争がフィニッシュに向かっている。

    筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子に変異を持つ。様々な変異があるが、エクソン51に翻訳中止暗号(ストップコドン)が生じていてジストロフィンの産生が途中で終わってしまうタイプに適しているのがこの二剤で、翻訳複合体がストップコドンを読み過ごし、短いがある程度の機能を持つジストロフィンを作るようになる。

    臨床試験では大きな効果(6分歩行距離の改善)は見られず、また、ジストロフィン産生量の評価も検査方法が十分に確立していない様子で議論の余地があるようだ。おそらく、FDAは諮問委員会に意見を求めるのではないか。

    リンク: Sareptaのプレスリリース

    ギリアド、第三のTAF配合剤を承認申請
    (2015年7月1日発表)

    ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は2001年にヌクレオチド系逆転写阻害剤Viread(tenofovir disoproxil fumarate、略称TDF、和名ビリアッド)を発売して抗HIV/AIDS薬開発販売会社としてデビュー。ヌクレオシド系逆転写阻害剤emtricitabineを製品化しこの二剤の合剤であるTruvada(和名ツルバダ)をラインアップしたのを皮切りに、補完的な作用機序を持つ薬とこれらを配合する合剤を次々に投入し、抗HIV/AIDS薬のトップメーカーに育った。

    Vireadは米国で2018年に特許切れを控えている。後継薬として開発されたのが tenofovir alafenamide fumarate(TAF)だ。どちらもプロドラッグだが用量が数十分の一で足りるためコンビ薬を開発しやすい。腎毒性も比較的小さいようだ。

    TDFは様々な合剤に用いられているのでTAFもラインアップが豊富。昨年11月に米国で承認申請されたのがインテグラーゼ阻害剤など4剤を配合したStribild(和名スタリビルド配合錠)のTDFをTAFに置き換えたもの。一日一回、一錠服用する簡便なレジメンだ。次がTruvada後継で、今年4月に米国承認申請。

    今回米国で承認申請されたのはジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写酵素阻害剤Edurant(rilpivirine)の活性成分を配合するComplera(和名コムプレラ配合錠)の後継品。Knight Therapeuticsから1.25億ドルで購入した優先審査バウチャーを用いたので、優先審査されることになる。

    近年は、高い金を出してライセンスしたり企業買収したりして入手した薬は高い値段で売るのが一般的になった。BMSのErbitux(cetuximab)は、開発の早い段階で米国外の権利を取得した独メルクより技術料が高いせいか、抗癌剤の中でも高い価格が付けられた。ギリアドがファーマセットを110億ドルで買収して入手した抗HCV薬、sofosbuvir(和名ソバルディとハーボニー)も大変高額だ。しかし、今回はたった1.25億ドルなので、無体な価格にはならないのではないか。

    リンク: ギリアドのプレスリリース

    【承認】


    ヴァーテックスの嚢胞性線維症用合剤が米国で承認
    (2015年7月2日発表)

    FDAは、ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)のOrkambi(lumacaftorとivacaftorの合剤)を12歳以上のF508欠損ホモ接合型嚢胞性線維症患者の治療薬として承認した。臨床試験では%FEV1の悪化が偽薬比2~4%小さかった。肺症状の増悪リスクを削減する効果も見られた。主な有害事象は息切れ、上部気道感染症、悪心、下痢、ラッシュなど。女性は生理出血異常も見られたようだ。

    ヴァーテックスは98年に嚢胞性線維症財団と共同研究を開始、12年に最初の治療薬であるKalydeco(ivacaftor)を発売した。当初の対象はCFTR遺伝子にG551D変異を持つ患者だけだったが今日では合計10種類の変異に有効性が確認されている。それでも、適応になるのは嚢胞性線維症患者の1割足らずだ。Orkambiの適応であるF508欠損ホモ接合型は4割程度を占めるので受益者が多い。

    残念ながら、治療効果はG551D変異患者におけるKalydecoの数値より小さい。そのせいか、それとも市場性が大きいせいか、価格はKalydecoの8掛けの水準である模様だ。配合剤の方が安いというのは一見すると変な話だが、費用対効果という意味では妥当なのだろう。安いといっても年31万ドルと26万ドルなので著しく高いことには変わりはないし。

    リンク: FDAのリリース
    リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    Pandemrixとナルコレプシー
    (2015年7月1日発表)

    2009年に新型インフルエンザが流行した時に、EUはグラクソ・スミスクラインのPandemrixやノバルティスのFocetriaなどを新型ウイルス専用のワクチンとして承認した。ところが、北欧でPandemrixを接種した人の一部がナルコレプシーを発症。頻度は小さいもののリスク倍率は高く、関連性が疑われるようになった。

    13年にはスタンフォード大学の研究者が発症メカニズムに関する論文をScience Translational Medicine誌で発表し、疑いが強まったが、その後に論文が撤回され、真相は闇の中に戻った。

    今回、同誌に新たな研究論文が掲載された。ノバルティスの研究者らが行った研究で、Pandemrixはナルコレプシーに関連するハイポクレチン受容体に対する抗体を誘導する可能性があるというもの。この受容体とインフルエンザの核蛋白Aは共通のペプチド残渣を持っており、このペプチドに対する抗体がナルコレプシーを齎すのかもしれない。

    そこで、ナルコレプシーに関連するHLA-DQB1*0602ハロタイプを持ちPandemrix接種後にナルコレプシーになった人の血清を調べたところ、抗ハイポクレチン受容体抗体保有比率がFocetriaより高かった。また、Focetriaは当該ペプチドの含有率がPandemrixより72.7%低かった。今後、更なる検討が待望される。

    感心するのは6年前に一時的に用いられたワクチンの安全性を今でもキチンと検証していることだ。Pandemrix自体はもう広く使われることはないかもしれないが、本当にリスクがあるのか、もしあるなら何が原因かを解明しておかないと、将来、同じことが別のワクチンや薬で起きるかもしれない。

    新しいワクチンや薬には新しいリスクが付き物だが、使わない、あるいは接種勧奨を控えるだけでは問題の解決にはならない。何年かかっても原因を解明しリスクのないワクチンを開発する方法、リスクを抑制するための正しい使い方を確立することが重要だ。

    そのためには、副反応被害にあった人たちの協力も不可欠だ。稀な副作用は被害者側もリスク因子を持つ可能性がある。そう言うと被害者は責任転嫁と誤解するかもしれないが、例えば薬物代謝酵素の遺伝子多型のように、原因が明らかになればその人自身が将来、薬物療法を受ける時に役立つかもしれない。医学者と患者、製薬会社の協力は不可欠である。

    リンク: Syed Sohail Ahmedらのリサーチ・アーティクル抄録(Science Translational Medicine誌)



    今週は以上です。

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