2015年4月26日

海外医薬ニュース2015年4月26日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • AACR:オプジーボ、併用で効果も副作用も増強
  • AACR:Keytrudaのデータも続々と発表
  • MSD、Keytrudaを非小細胞性肺癌に適応拡大申請
  • アッヴィ、4型C型肝炎治療薬を米国で承認申請
  • CHMP、オプジーボなどの承認を支持
  • サイラムザが結腸直腸癌に適応拡大
  • CHMPもsofosbuvirとamiodaroneの相互作用を警告


【新薬開発】


AACR:オプジーボ、併用で効果も副作用も増強

(2015年4月20日発表)

BMSの末期黒色腫用薬、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)のYervoy(ipilimumab)併用一次治療第二相試験の結果がAACR(米国癌研究学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表された。標準療法であるYervoyに追加すると反応率やPFS(無進行生存期間)が有意に向上するという大変良い内容だが、過去の併用試験と同様に、重篤な副作用も増加した。別途第三相試験が進行中。

このCheckMate-069試験は、初めて治療を受ける切除不能のステージ3と4の黒色腫患者142人をYervoy・偽薬併用群と両剤併用群に無作為化割付して反応率を比較した二重盲検試験。Yervoyは承認用法である3mg/kgを三週間に一回、合計4回点滴静注。OpdivoはYervoy併用期間中は1mg/kgを三週間に一回、その後は二次治療で承認されている用法である3mg/kgを二週間に一回、点滴静注。

末期黒色腫の半分を占めるbraf変異型はbraf阻害剤が有効なので、野生型と分けて考える必要がある。最初に野生型に対する効果を見ると、反応率は偽薬群が11%、併用群は61%と大きく向上した。過去の試験ではYervoyが10%台、Opdivoは30~40%なので、相乗効果がありそうだ。特に注目されるのは、完全反応がゼロ対22%と大きく改善したこと。PFSのハザードレシオも0.4と顕著に向上した。

次に、braf変異型では反応率52%、完全反応22%となり、どちらのタイプにも有効であることが判明した。また、Opdivoのような抗PD-1抗体はPD-L1陽性腫瘍に特に有効な可能性があるが、この試験では陽性陰性どちらにも効果が見られた。

一方で、グレード3/4の薬物関連有害事象の発生率は24%対54%、それによる治験離脱は17%対47%と大きく上昇した。また、併用群では3人が薬物関連死した。うち2例は肺炎、1例は心室不整脈で、肺炎はこの二剤を使う時に特に注意すべき副作用の一つである。尤も、有害事象例の80%はステロイドの使用などによって改善/解消し、投与中止例でも薬効が見られたようである。

この試験の商業的なインプリケーションは、両剤を同じスケジュールで投与する有効性が示されたこと。Opdivoの承認用法・他の試験の用法は二週間に一回投与なので、もし今回の用法で十分な効果が見られなかった場合、元々三週間に一回投与する薬として開発されたMSDのKeytruda(pembrolizumab)に見劣りしてしまう。第三相試験の成功に期待が高まった。

効果の点では素晴らしいのだが、忍容性を改善できないものだろうか。元々、YervoyもOpdivoも至適用量が明確ではなく、OpdivoをメインにしてYervoyの用量を調整するとか、工夫の余地があるのではないか。Yervoyのコストは4回投与で12万ドル、Opdivoは最初の4回分が8000ドル程度、その後は月1.2万ドルなので、減量できれば財布の負担も軽くなる。

尚、OpdivoはEUでCHMPの肯定的意見を獲得した(後述)。

リンク:BMSのプレスリリース

リンク:NEJMの治験論文(オープンアクセス)

AACR:Keytrudaのデータも続々と発表

(2015年4月19日発表)

最近の癌学会は抗PD-1抗体の一色に染まった感があるが、AACRではMSDのKeytruda(pembrolizumab)の様々な治験データも発表された。末期黒色腫の第三相Yervoy対照試験、非小細胞性肺癌の後期第一相試験、胸膜中皮腫の後期第一相試験などである。

まず、Yervoy対照試験。切除不能/転移性の黒色腫の一次/二次治療試験で、一次治療が65%を占めた。Keytrudaの承認用法は二次治療(braf変異型の場合は三次治療)として2mg/kgを三週間に一回、30分点滴静注だが、この試験では10mg/kgを二週間に一回投与する群と、同じく三週間に一回投与する群を設定し、Yervoy群と比較した。主評価項目はPFSと全生存期間。前者は一回目の中間解析で目的を達成、後者も二回目の中間解析で達成した。

PFSのメジアン値は各群、5.5ヶ月、4.1ヶ月、2.8ヶ月となり、Yervoy比ハザードレシオは二群とも0.58、統計的に有意だった。全生存期間の解析もハザードレシオが各0.63、0.69となり統計的に有意。各群の1年生存率は74.1%、68.4%、58.2%だった。反応率は各33.7%、32.9%、11.9%。投与頻度は二週に一回でも三週に一回でも効果は大差なさそうだ。サブグループ分析では、braf変異型にも有効性が見られたが、PD-L1陰性癌では、症例数が少ないせいか、有意な差は見られなかった。

グレード3以上の治療時発現有害事象の発生率は各13.3%、10.1%、19.9%。Yervoy群は結腸炎や下垂体炎などの発生率が高かった。

BMSは自社製品であるYervoyと比較するよりは併用法を探る方が有利であり、抗PD-1のモノセラピーの開発はMSDに期待せざるを得ない。直接比較試験が成功したのは朗報だが、効果はOpdivoの併用データの方が良さそうに見える。現状では、併用をチャレンジして忍容性面で問題があれば抗PD-1のモノセラピーに切り替えるのがベスト、ということになりそうだ。

最近の画期的新薬は異常に高価なので話題が学会発表だろうが何だろうが費用の話をせざるを得ない。Keytrudaは2mg/kgを三週間に一回という用法でOpdivoと同程度の価格が付けられた。10mg/kgだと月8万ドルになってしまうので、もしこれが至適用量ならば、価格体系の見直しは必至だろう。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:NEJMの治験論文(オープンアクセス)

MSDはKeytrudaを非小細胞性肺癌の二次治療薬として米国で適応拡大申請したと発表した。この根拠となったのがAACR/NEJMで発表された500人規模(!)の後期第一相試験だ。用法は10mg/kgを二週間に一回と三週間に一回などをテストしたが、効果は同程度であった模様で、用法毎のデータは公表されていない。

反応率は19.4%だったが、薬効に関する主評価項目であるPD-L1陽性細胞の比率が50%以上の患者では45%、メジアン反応持続期間12.5ヶ月だった。一方、1~49%の患者では16.5%、1%未満では10.7%だった。各サブグループのメジアンPFSは6.3ヶ月(うち一次治療患者は12.5ヶ月、二次治療は6.1ヶ月)、3.3ヶ月、2.3ヶ月、メジアン生存期間は未到達、8.8ヶ月、8.8ヶ月となっている。グレード3以上の有害事象の発生率は9.5%、うち9例(1.8%)が肺炎で、一人は死亡した。

MSDが検査した患者のうち、癌細胞の50%以上でPD-L1が発現していたのは23%だった。肺癌二次治療で反応率が45%というのは高く、このサブグループにとっては特に有効と言えそうだ。1~49%の患者(38%)の反応率も悪くないが、PFSや全生存期間は1%未満とそれほど違わないので、臨床的な意義は良く分からない。1%未満の反応率も悪くはないが、実薬対照試験のデータも見てみたいものだ。

判定はDAKOのIHC法検査を用いており、MSDの適応拡大申請に合わせてPMA(医療機器の承認申請)が行われた。非小細胞性肺癌はEGFRやALKなどの遺伝子変異を調べて最適な治療法を選択する手法が普及しているが、PD-L1検査が加わることになる。

MSDのプレスリリースは承認申請の範囲について言及していないが、DAKOのPMAには言及しているので、おそらく、50%以上のサブグループだけなのだろう。それでもEGFR変異やALK変異より頻度が高いので、一次治療における治療効果が他の治療法より高いことが将来、立証されたならば、最初にPD-L1を検査し、陰性なら他の検査を行うプロトコルになりそうだ。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:NEJMの治験論文(オープンアクセス)

抗PD-1はIL-2やインターフェロン、Yervoyなどの既存の免疫強化療法と比べて効果が高く、また、様々な癌に効果がありそうなことが魅力だ。AACRではPD-L1陽性の末期胸膜中皮腫に反応率が28%、疾病安定化率48%であったことが発表された。数十人の小規模な試験だが、有効な薬が少ないので注目できる。

リンク:MSDのプレスリリース

抗PD-1抗体はBMS/小野薬品連合とMSDが開発競争を繰り広げているが、受容体ではなくレガンドをブロックする抗PD-L1抗体でも、ロシュ、アストラゼネカ、独メルク/ファイザー連合などが鎬を削っている。三番手、四番手の会社は先行会社の開発が進んでいない疾病に重点を置くことになるが、それにしても、第三相試験の対象は膀胱癌やトリプルネガティブ乳癌など多彩だ。臨床初期試験では頭頸部癌や胃癌、腎細胞腫、結腸癌などでも効果のシグナルが出ている。

併用薬の候補も多彩で、開発担当者に掛かる負荷や必要資金は大きいだろう。そのせいか、併用候補のメーカーとの開発提携が活発化している。更に、セルジーンはアストラゼネカのMEDI4736を血液学領域で開発する権利を取得した。同社の医薬品・開発品との併用試験が狙いだ。ファイザーが、決して先行しているとは言えない独メルクと開発提携したように、抗PD-1/PD-L1は製薬会社にとって無視できない分野になった。

【承認申請】


MSD、Keytrudaを非小細胞性肺癌に適応拡大申請

(2015年4月19日発表)

上記のように、MSDは抗PD-1抗体のKeytruda(pembrolizumab)を非小細胞性肺癌の二次治療薬として米国で適応拡大申請した。

リンク:MSDのプレスリリース

アッヴィ、4型C型肝炎治療薬を米国で承認申請

(2015年4月23日発表)

アッヴィは、ombitasvirとparitaprevir、ritonavirの合剤を遺伝子型4型の慢性C型肝炎の治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。日米欧は1型が多く、4型は米国の場合、6%を占めるだけ。後期第二相試験ではribavirin併用で12週間治療したところ、全員が持続的ウイルス学的奏効(SVR12)を達成した。

この合剤はEUでも4型向けに承認されている(製品名はViekirax)。日本では1型慢性C型肝炎に承認申請され、迅速審査指定された。また、米国ではこの合剤とdasabuvir錠をセットにしたものがViekiraパックとして1型向けに販売されている。

ombitasvirはNS5A阻害剤、paritaprevirはNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤、ritonavirはCYP3A4阻害剤、dasabuvirはNS5Bポリメラーゼ阻害剤。ritonavir以外の三剤はウイルスのゲノムに含まれる複製に必要な酵素を阻害し、ritonavirはparitaprevirの代謝を遅らせて作用を長期化する。

リンク:アッヴィのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、オプジーボなどの承認を支持

(2015年4月24日発表)

欧州医薬庁EMAの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは4月の会議でBMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU加盟国などで承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

Opdivoは、Tセルの抑制刺激受容体であるPD-1に結合して、腫瘍細胞のPD-L1が結合して抑制するのを妨げる。適応は末期黒色腫。一次治療試験では1年生存率が73%とdacarbazineを投与した群の42%を上回った。二次治療試験では反応率が31%と化学療法群の10%を上回った。米国ではMSDのKeytrudaが先に承認されたが、EUはBMSが先になりそうだ。

小野薬品とメダレックスが共同開発、BMSは後者を買収してこの超大型薬候補を入手した。BMSはTセルの副刺激受容体や抑制刺激受容体の研究に基づいてYervoyや抗リウマチ薬Orencia(abatacept)の開発に成功しており、この分野では抜群の存在感を持っている。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:BMSのプレスリリース

第一三共のXa阻害剤、Lixiana(edoxaban)も肯定的意見を受けた。適応・効能は非弁性心房細動で脳卒中や全身性塞栓イベントのリスクが高い患者のリスク削減と、急性症候性深静脈血栓や肺塞栓の治療と再発予防。日米では販売されているがEUで承認されるのは初になる。先行品が多いので競争は激しいだろう。

リンク:CHMPのプレスリリース

Vanda(Nasdaq:VNDA)のHetlioz(tasimelteon)も非24時間睡眠覚醒障害の治療薬として肯定的意見を受けた。一日は24時間だが人間の体は25時間サイクルである模様。日の光を浴びることにより時間を調整するが、全盲の人は調整ができずにこの疾患になりやすい。Heltliozはメラトニン作用剤で、夜間の睡眠時間を長期化し昼間は減らす。04年にBMSからライセンスしたもの。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:Vandaのプレスリリース

一方、BiovestのLympreva(dasiprotimut-T)は否定的意見となった。患者のリンパ腫細胞から作製した自家細胞療法で、BiovaxID名で知られている。濾胞性非ホジキン型リンパ腫の導入療法後の地固め療法として申請されたが、CHMPは臨床試験のデザインや内容が適切ではなく、(治験が実施されたのは一昔前なので)今日の標準療法である抗CD20抗体を用いておらず、品質や生産体制にも懸念があると判定した。

Biovestも親会社のAccentiaも数年前に会社更生法の適用を申請したが、その後どうしているのだろうか?

リンク:CHMPのプレスリリース

【承認】


サイラムザが結腸直腸癌に適応拡大

(2015年4月24日発表)

イーライリリーは、抗VEGFR-2抗体のCyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)が末期結腸直腸癌の二次治療薬として米国で承認されたと発表した。胃癌二次治療にモノセラピーとpaclitaxel併用、そして非小細胞性肺癌の二次治療にdocetaxel併用が既に承認されており、四番目の適応・用法となった。

Avastinやoxaliplatin、5-FUなどによる一次治療を受けた患者の二次治療として、irinotecanなどのFOLFIRIレジメンと併用する。臨床試験ではメジアン生存期間が13.3ヶ月とFOLFIRIだけの11.7ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.85、p=0.023だった。レーベルでは出血、胃腸穿孔、創傷治癒の阻害などが枠付警告されている。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【医薬品の安全性】


CHMPもsofosbuvirとamiodaroneの相互作用を警告

(2015年4月24日発表)

EUの薬品監督機関であるEMAの医薬品専門家委員会、CHMPは、ギリアド(Nasdaq:GILD)の慢性C型肝炎治療薬であるSovaldi(sofosbuvir、和名ソバルディ)とledipasvir配合剤Harvoniに関する警告を発した。Harvoni、またはSovaldiとBMSの慢性C型肝炎治療薬Daklinza(daclatasvir、和名ダクルインザ)の両剤を抗不整脈薬amiodarone(和名アンカロン)と同時使用すると、重度の徐脈や心ブロックが発生することがある。

これまでに8例が報告され、一例は死亡、二例はペースメーカーが必要になった。リスクを回避するために、両剤の同時使用はamiodarone以外の抗不整脈薬が不適な患者に限定し、もし使わなければならない場合はモニタリングを強化する。

内容的には3月29日号で書いたFDAの警告と概ね同じ。FDAとEMA、そして日本は医薬品に関する情報交換を密に行っており、今回のように、欧米の監督機関が相次いで警告を発することが珍しくない。

リンク:CHMPのプレスリリース

今週は以上です。

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2015年4月19日

海外医薬ニュース2015年4月19日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • オプジーボ、二本目の肺癌試験も成功
  • ファーザー、Ibranceの二次治療試験が成功
  • FDA諮問委員会が短期作用性P2Y12阻害剤の承認を支持
  • FDA諮問委員会、DPP-4阻害剤の心不全データなどのレーベル収載を勧告
  • FDAがアムジェンの慢性心不全用薬を承認


【新薬開発】


オプジーボ、二本目の肺癌試験も成功

(2015年4月17日発表)

BMSは、小野薬品と共同開発しているOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の二本目の非小細胞性肺癌二次治療試験が成功したと発表した。適応拡大申請に向かうだろう。

米国では昨年12月に転移性黒色腫の二次治療薬として初承認され、今年3月には扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療薬としても承認された。今回のCheckMate-057試験は扁平上皮腫以外の非小細胞性肺癌の二次治療薬としての効果をdocetaxelと比較したもの。用法用量は既存用途と同じ3mg/kgを二週間に一回、点滴静注。独立データ監視委員会が主評価項目である全生存期間で有意に優れると認定、予定より早く完了することになった。

この試験ではPD-L1の発現状況と薬効の相関性も検討している筈だ。これまでのエビデンスは区々で、閾値をどこに置くで変わるように感じられる。ポストホックでも良いので十分な検討を行ってもらいたいものだ。

Opdivoと同じ抗PD-1完全ヒト化抗体であるMSDのKeytruda(pembrolizumab)も第三相非小細胞性肺癌二次試験の結果が年央に出る見込み。転移性黒色腫ではKeytrudaが先に承認されたが非小細胞性肺癌二次治療ではOpdivoのエビデンスの方が先んじた。

リンク:BMSのプレスリリース

ファーザー、Ibranceの二次治療試験が成功

(2015年4月15日発表)

ファイザーは、Ibrance(palbociclib)の第三相転移性乳癌二次治療試験が成功したと発表した。米国では今年2月に一次治療で承認されているが、二次治療で別のホルモン療法薬と併用しても有効であることは重要な情報なので、データをレーベルに収載すべく申請することになるのではないか。未承認の欧州などでは今回のデータで承認申請できるかもしれない。

Ibranceは細胞周期進行を調停する酵素であるCDK4とCDK6を阻害し、G1期からS期に進むのを妨げる。in vitroでエストロゲン受容体を妨げる薬とシナジーが見られた。閉経後女性のエストロゲン受容体陽性、her2陰性転移性・局所進行性乳癌にFemara(letrozole)と併用した第1/2相一次治療試験でPFS(無進行生存期間)がFemaraだけの群を有意に上回り、米国で加速承認された。

今回のPALOMA-3試験はホルモン受容体陽性、her2陰性乳癌が対象で、併用薬はfulvestrant(アストラゼネカが開発したエストロゲン受容体零落剤Faslodex、和名フェソロデックス)。独立データ監視委員会がfulvestrantだけの群より薬効が優れると判定、繰上終了することとなった。

リンク:ファイザーのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が短期作用性P2Y12阻害剤の承認を支持

(2015年4月15日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は、FDA心血管腎臓薬諮問委員会の12人の委員のうち9人がcangrelorの承認を支持したと発表した。苦節6年を経て、3月の欧州承認に続いて米国でも審査期限の6月に承認される可能性が出てきた。

cangrelorはアストラゼネカからライセンスした注射用のP2Y12阻害剤で、抗血小板作用のオンセットが15分、オフセットは60分と作用が早く短いことが特徴。PCI(経皮的冠介入術)による周術期心筋梗塞を防ぐ薬として06年に第三相入りしたが、09年に無益性が認定され中止、もう一本の第三相も打ち切られた。開発中止かと思われたがPHOENIX試験で再チャレンジ、名前の通り復活に成功し、13年に米国で承認申請された。

フェールした試験の方が多いのだから狐につままれたような感じだ。FDAも14年2月に開催された諮問委員会もエビデンスに懐疑的で、結局、審査完了となった。ところが、今回は審査官も諮問委員の多数も承認に前向きなスタンスに変わった。MDCO社が追加分析データを提出したとは言え、今回も狐につままれた感がある。

適応は、PCIの数時間前にPlavix(clopidogrel)のようなP2Y12阻害剤をプリロードすることができず、また、術中にReoPro(abcximab)のようなGPIIb/IIIa阻害剤を使う予定の無い患者に限定される。Plavixは作用のオンセットが遅いため事前に投与しておく必要があるが、もし検査の結果、PCIではなく開胸手術が決定した場合、薬が抜けるまで数日間、待つ必要がある。このため、医療施設や患者によってはプリロードを行わないことがあり、cangrelorの出番が来る。

PCIの対象の半分以上を占める安定期の患者では、事前の準備に時間を掛けられるので、出番は無いだろう。

cangrelorはEUでは3月にKengrexal名で承認。米国名はKengrealとなる模様。

リンク:MDCO社のプレスリリース

FDA諮問委員会、DPP-4阻害剤の心不全データなどのレーベル収載を勧告

(2015年4月14日発表)

FDA心血管腎臓薬諮問委員会は、アストラゼネカと武田薬品のDPP-4阻害剤の心血管アウトカム試験の結果を検討し、大多数の委員が、処方規制を強化する必要はないが心不全など安全性に関するデータをレーベルに記載すべきと回答した。MSDのDPP-4阻害剤の治験結果が明らかになった段階で必要があれば改めて検討することになるのではないか。

Onglyza(saxagliptin、和名オングリザ)はBMSが開発したDPP-4阻害剤で、14年2月にアストラゼネカが他の代謝学薬資産と共に買収した。FDAの要求に基づき実施した心血管アウトカム試験、SAVORで、心筋梗塞などのリスクが高まらないことが確認されたが、奇妙なことに、心不全による入院の発生率が3.5%と、Onglyzaを用いない対照群の2.8%より有意に高かった。ハザードレシオは1.27。また、全死亡のハザードレシオが1.11と、有意ではないが数値上は多かった。

一方、武田のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)は第三相試験などで心血管安全性の要件を満たせなかったため米国では承認が遅延。心血管アウトカム試験EXAMINEの中間解析結果などを追加提出して13年に承認取得した。このEXAMINE試験では心筋梗塞などのリスクが高まらないことが確認された。Onglyzaとの関連で注目された心不全による入院は、2.6%と対照群の2.2%より若干多くハザードレシオは1.19だったが、95%信頼区間は1を跨いでおり有意ではなかった。

二型糖尿病は患者が多いので、1000人に一人、1万人に一人の副作用でも多くの被害を生む。大規模、長期間の試験を行ってリスクを精査する必要があるが、症例数や評価項目が多ければ多いほど、偶然に有意な差が出るリスクが高まる。回避策は、薬効に関しては評価項目を限定すること。実薬対照試験で時々見られる、主評価項目は非劣性、多数の二次的評価項目のうち一つ、二つで有意に優れていたという宣伝的研究発表は無視すればよい。一方、安全性については回避策は無い。薬効は一つで十分だが副作用が全てが重要だからだ。

もう一度安全性試験を行うのがベストだが、現実的ではない。幸い、DPP-4阻害剤についてはベストセラーであるMSDのJanuvia(sitagliptin)を始め、複数のコンパウンドの心血管アウトカム試験が実施されている。不確実なデータに基づいて議論しても結論は出ないので、これらのデータが発表されるのを待つのが賢明・・・これが今回の諮問委員会の判断のようである。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

リンク:武田のプレスリリース(和文)

【承認】


FDAがアムジェンの慢性心不全用薬を承認

(2015年4月15日発表)

FDAはアムジェンのCorlanor(ivabradine)を承認した。適応は、症候性安定性慢性心不全で安静時の心拍数が70bpm以上、且つ、耐容できる最大用量のベータブロッカーを服用している患者。効能は心不全の悪化による入院リスクの削減。

フランスのセルビエが開発したIfチャネル阻害剤で、ペースメーカーの電流を阻害して心拍数を抑制する。欧州では05年に慢性安定性狭心症の治療薬として初承認、ProcoralanまたはCorlentor名で販売されている。11年には慢性心不全に適応拡大が認められた。ところが、承認用量の1.3倍まで投与した慢性心疾患の試験で症候性狭心症を伴うサブグループの心血管疾患死・非致死的心筋梗塞が有意に増加、警告強化となった。

アムジェンは米国の権利を取得、SHIFT試験のデータに基づいて承認申請した。上記の条件に加えて、左心室機能が低下し、心房細動ではない患者を組入れて転帰を偽薬と比較したところ、心不全悪化による入院または心血管疾患による死亡のハザードレシオが0.82と有意に低かった(発生率24%対29%)。主な有害事象は徐脈、高血圧、一時的な視覚異常。妊婦は禁忌。

日本では小野薬品が11年にライセンス、ONO-1162として第二相試験中。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:アムジェン

今週は以上です。

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2015年4月11日

海外医薬ニュース2015年4月12日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • シャイア、ドライアイ治療薬の承認申請をFDAが受理
  • ギリアド、もう一つのTAF合剤を米国で承認申請
  • ロシュ、アバスチンがEUで子宮頸癌に承認
  • アムジェン、Vectibixの新用法がEUで承認
  • FDA諮問委員会がDPP-4阻害剤の安全性を検討へ


【承認申請】


シャイア、ドライアイ治療薬の承認申請をFDAが受理

(2015年4月9日発表)

英国のシャイアは、FDAがlifitegrastの承認申請を受理したと発表した。ドライアイの治療に用いる。優先審査指定されたが、審査期限は10月25日と通常より遅いのが奇異。第三相試験の結果が明快ではないので承認されるかどうかは微妙だろう。

経口インテグリン阻害剤で、白血球の表面分子であるLFA-1に結合、ドライアイの角膜結膜組織で過剰発現しているICAM-1の結合を妨げて、Tセルが活性化して組織に移行するのを抑制する。第三相試験は二本実施され、夫々光学的評価と症状・機能評価を共主評価項目としたが、一本は光学的評価、一本は症状改善効果だけしか有意な効果が見られなかった。事前にFDAと相談した上での申請なので勝算が無い訳ではないのだろう。

13年に1.6億ドルで買収したSARcode Bioscienceの開発品。

リンク:シャイアのプレスリリース

ギリアド、もう一つのTAF合剤を米国で承認申請

(2015年4月7日発表)

HIV/AIDS治療薬の最大手であるギリアド(Nasdaq:GILD)は、F/TAF(emtricitabine<F>とtenofovir alafenamide fumarate<TAF>の合剤)を米国で承認申請したと発表した。12歳以上のHIV/AIDS患者に用いる。

TAFはViread(tenofovir disoproxil fumarate<TDF>、和名ビリアード)の類縁体でどちらも体内で同じ活性成分に変わるプロドラッグ。用量が10分の1と小さく、また、腎機能に対する副作用が小さそうだ。Vireadは米国で17年にジェネリック化するため特許切れ対策という側面もありそうだ。昨年11月には4種類の薬剤を配合したコンビ薬も米国で承認申請されている。

抗HIV薬にはアルファベットの略称が付けられる。emtricitabineがFなのは奇妙な感じだが、EはJTから導入して開発したVitekta(elvitegravir)に譲ったようだ。

リンク:ギリアドのプレスリリース

【承認】


ロシュ、アバスチンがEUで子宮頸癌に承認

(2015年4月8日発表)

ロシュは、Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)の適応拡大がEUで承認されたと発表した。持続性難治性転移性子宮頸癌に、cisplatin(白金薬不耐の場合はtopotecan)及びpaclitaxelと併用する。米国でも昨年8月に承認されている。

承認の根拠となったGOG-024試験ではメジアン生存期間が16.8ヶ月とAvastin以外の二剤だけを用いた群の12.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.74、p値は0.013だった。副作用面ではグレード3以上の胃腸、泌尿器、生殖器の瘻の発生率が6%(対照群は0%)、同じくG3以上の血栓塞栓が8%(1%)だった。

リンク:ロシュのプレスリリース

アムジェン、Vectibixの新用法がEUで承認

(2015年4月6日発表)

アムジェンは、Vectibix(panitumumab)の用法追加がEUで承認されたと発表した。野生kras型の転移性結腸直腸癌の一次治療薬として、FOLFIRIというirinotecanベースのレジメンと併用する。この組み合わせは初期の第三相試験で深刻な有害事象が多く見られたため開発が遅れていたが、その後、抗EGFR抗体は変異kras型には無効・有害だが野生型なら大丈夫ということが判明した。

リンク:アムジェンのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA諮問委員会がDPP-4阻害剤の安全性を検討へ

(2015年4月10日発表)

FDAは4月14日に内分泌学代謝学薬諮問委員会を招集してアストラゼネカのOnglyza(saxagliptin、和名オングライザ)と武田薬品のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)の心血管アウトカム試験のデータを検討する。4月10日にブリーフィング資料が公開されたが、心不全リスクとOnglyzaの試験で見られた死亡リスクのシグナルが主な議題である模様だ。

FDAは血糖治療薬を開発している企業に心血管アウトカム試験の実施を求めている。承認申請前の第三相試験などで大きな懸念が見られなかった場合は承認・発売後に、見られた場合は申請前に実施して、心筋梗塞などのリスクが高まらないことを確認しなければならない。二型糖尿病は患者が多く、薬物療法を何十年も続ける可能性があるため、心血管疾患リスクだけでなく様々な副作用を評価する価値がある。

OnglyzaのSAVOR試験も、NesinaのEXAMINE試験も、心筋梗塞や脳梗塞などのMACE(主要有害心血管イベント)が増えも減りもしなかったが、意外なことに、SAVOR試験では心不全による入院が有意に増加した。発生率は3.5%、他の薬で治療した対照群は2.8%、ハザードレシオ1.27、p値は0.007だった。また、更に意外なことに、二次的評価項目である全死亡のハザードレシオは1.11だった。有意ではないが、死亡のような発生数の少ないイベントは有意差が出難いので、慎重に受け止めることが必要だ。

EXAMINE試験では心不全入院に有意差は無かったが、発生率2.6%対2.2%、ハザードレシオ1.19、95%信頼区間0.9~1.6なので、これもイベント数が少ないために有意差が出なかった可能性を考えざるを得ない。

もしリスクが現実のものであった場合、メカニズムは何なのか?ブリーフィング資料によると、二種類のDPP-4作用剤の試験で、二型糖尿病患者の心血管疾患リスク因子の一つである内皮機能障害を誘導する可能性が浮上したとのこと。

となると、心不全入院リスクはDPP-4阻害剤のクラス・イフェクトかもしれない。MSDのJanuvia(sitagliptin、和名ジャヌビア/グラクティブ)の心血管アウトカム試験の結果が6月のADAで発表されるので、注目したい。諮問委員会当日にFDAが公表する可能性もありそうだ(ブリーフィング資料は1ヶ月前までに委員に配布することになっているため、情報は最新ではない)。

EXAMINE試験ではMACEに群間差が無かったが、北米の施設だけのサブグループ分析はハザードレシオが1.28と、有意ではないがあまり良くなかった。この点も討議される予定。

長期大規模試験は検出力が高いので、偶然にノイズを拾ってしまうことがある。今回もその可能性はあるが、もし現実のリスクであった場合は危険にさらされる潜在人口が多いので、軽々には結論を出せないだろう。血糖治療薬の選択肢は多いので尚更だ。諮問委員の判断が注目される。

リンク:FDA諮問委員会用ブリーフィング資料

今週は以上です。

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2015年4月5日

海外医薬ニュース2015年4月5日



【ニュース・ヘッドライン】

  • メディベーション/アステラス、イクスタンジがbicalutamideに勝つ
  • ノバルティスの鉄キレート剤第三弾、米国で承認


【新薬開発】


メディベーション/アステラス、イクスタンジがbicalutamideに勝つ

(2015年4月2日発表)

メディベーション(Nasdaq:MDVN)とアステラス製薬は、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)が第二相試験でbicalutamide(和名カソデックス、ジェネリックもある)より優れた進行遅延効果を示したと発表した。先に結果が出た別の第二相でも上回っており、第二相とはいえ説得力がある。実際の医療でbicalutamideとバッティングする非転移性・無症候性のCRPC(去勢抵抗性前立腺癌)は第三相偽薬対照試験が進行中で、年内に結果が出そうだ。

前立腺癌は高齢者に多く、進行が緩徐であることや切除や放射線療法、leuprolideのようなLH-RH作用剤が有効であるため寿命にはあまり影響しないことが多い。しかし、一部はやがてPSA値が上昇し、CRPCと診断されるようになる。

介入のタイミングや方法は国や患者特性により異なるが、PSAが上昇し続けるならbicalutamideのようなアンドロゲン受容体拮抗剤を単剤投与・追加するかもしれない。更に、転移したり症状が重くなったらXtandiやジョンソン・エンド・ジョンソンのZytiga(abiraterone、和名ザイティガ)、Taxotere(docetaxel)などを用いるかもしれない。

Xtandiは転移性症候性CRPCの患者にTaxotereのような化学療法の次に施行する薬として12年に米国で承認され、14年には転移性CRPCだが未だ症状が出ていない、あるいは軽症状の患者に用いることも承認された。前者はキモセラピーの後なのでポスト・キモ、後者は、症状が顕著になるまでは化学療法の適応にならないため、プリ・キモと通称されている。

今回の第二相STRIVE試験は、転移性のCRPC257人と非転移性CRPC139人を組入れた無作為化割付二重盲検試験。Xtandi群はメジアンPFS(無進行生存期間)が19.4ヶ月、bicalutamide群は5.7ヶ月、ハザードレシオ0.24、95%信頼区間は0.18~0.32となった。p値は0.0001未満。

1月に結果が発表されたTERRAIN試験(転移性CRPCのみ)では15.7ヶ月対5.8ヶ月、ハザードレシオ0.44、95%信頼区間0.34~0.57だった。対象疾患が一部異なることや小規模な試験であるせいか数値に多少の違いはあるものの、概ね同じような結果だ。

深刻な有害事象や心臓有害事象はXtandiの方が若干多く発生している。また、今回の試験でも癲癇が一例、発生したようだ。これらのリスクは注意しなければならないが、Xtandiの方が優れた選択肢であるように感じられる。

Xtandiはbicalutamideと同じアンドロゲン受容体拮抗剤で、力価が高く、bicalutamideが持たない作用も持っている模様だ。前立腺癌の臨床試験は観察期間が長く、また、使うタイミングも色々あるので複数の試験を実施して適応を一歩一歩拡大していかなければならないが、将来的には、LH-RH作用剤と同様に更に早い段階で使われるようになるのではないか。

リンク:両社のプレスリリース

リンク:同(和文)

【承認】


ノバルティスの鉄キレート剤第三弾、米国で承認

(2015年3月30日発表)

ノバルティスは、FDAがJadenu(deferasirox)を慢性鉄過剰症の治療薬として承認したと発表した。Desferal(deferoxamine)、Exjade(deferasirox、和名エクジェイド)に次ぐ鉄キレート剤の第三弾。

地中海貧血や鎌状赤血球貧血などを罹患し頻繁に赤血球輸血を必要とする患者は、鉄が過剰になり臓器に蓄積、障害を与えるリスクがある。Desferalは鉄に結合して排泄を促す重要な治療手段だが、携帯ポンプを使って8時間連続点滴を週5日間施行する必要があった。05年に米国で承認されたExjadeは錠剤を液体に溶かして空腹時に一日一回飲むだけで足りるので、日常生活の自由度が高まる。但し、残念ながらDesferalとの生物学的同等性が完全ではないため、用途が制限されている。

Jadenuは錠剤をそのままで一日一回、服用する。Exjadeが発売された時ほどは感動しないが、錠剤の方が良い場合もあるのだろう。空腹時以外にも服用することができる。適応はExjadeと同じで、頻回輸血患者、または、輸血依存ではない地中海貧血患者の慢性鉄過剰症の治療。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

今週は以上です。

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