2013年11月24日

海外医薬ニュース2013年11月24日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • GSKがアミカスに開発販売権を返還
  • ASH:ギリアッドのCLL新薬は効果が凄く高い
  • AHA:第一三共のedoxaban、低用量は承認されないリスク
  • アッヴィの5剤併用第三相C型慢性肝炎試験が成功
  • リジェネロンとサノフィの抗IL-6受容体抗体の第三相リウマチ試験が成功
  • サノフィがJAK2阻害剤の承認申請断念、開発中止
  • FDA諮問委員会がバイオマリンのモルキオ症候群A型治療薬を支持
  • CHMPがギリアッドやGSKの抗ウイルス剤などに肯定的意見
  • フォレストの向精神薬は承認されず
  • 第三のプロテアーゼ阻害剤が米国で承認
  • ネクサバールが甲状腺癌に適応拡大
  • 欧州でInvokana、レルベア、カドサイラなどが承認
  • FDAがアステラスの心機能検査補助剤の警告を強化


【今週の話題】


GSKがアミカスに開発販売権を返還

(2013年11月20日)

グラクソ・スミスクラインはAmigal(migalastat)、及び、同剤と日本ケミカルリサーチからライセンスしたJR-051の合剤の世界開発販売権をアミカス(Nasdaq:FOLD)に返還することを発表した。今後はアミカスが独力で開発することになる。

Amigalは07年にシャイアがライセンスしたが返還、2010年にGSKがライセンスしたが返還と3年毎に権利が移動している。アミカスの会長兼CEO、John Crowleyは映画『小さな声が呼ぶ時』の主人公のモデルだが、今回は苦労している。

Amigalはファーマシューティカル・シャペロンという新しいタイプの経口剤で、ファブリー病の治療薬として第三相試験が行われたがフェールした。もう一本の酵素補充療法対照試験の結果が2014年に開票するのを待って今後の開発方針を当局と相談する予定。JR-051は日本ケミカルリサーチが開発した遺伝子組換え型アルファ-グルコシダーゼAで、ファブリー病患者で不足している酵素を補充する。

GSKはインライセンス時にアミカスの株式を20%弱取得したが、返還に際して300万ドル追加出資する。将来、発売された時は米国以外の主要8市場におけるAmigalや合剤の売上高の一定割合をロイヤルティーとして得る。

リンク:GSKのプレスリリース

【新薬開発】


ASH:ギリアッドのCLL新薬は効果が凄く高い

(2013年11月18日発表)

ギリアッド・サイエンス(Nasdaq:GILD)は、GS-1101(idelalisib)の第三相慢性リンパ性白血病(CLL)試験の結果が12月10日にASH米国血液学会で発表されることを明らかにした。一般公開された抄録を読む限りではかなり良さそうだ。

この第三相試験は、再発性・難治性のCLLで化学療法には適さない患者を、Rituxan(rituximab)と偽薬を併用する群とidelalisib(150mgを一日二回服用)を併用する群に割付けてPFS(無増悪生存期間)を比較したもの。中間解析で主目的を達成し、偽薬群の患者もidelalisibを使えるよう、盲検解除された。

ハザードレシオは0.15、95%信頼区間0.008~0.28、メジアンは偽薬群5.5ヶ月、併用群は未達。客観的反応率は各13%と81%。全生存期間のハザードレシオは0.28、p=0.018となかなか良い。グレード3以上の重度有害事象は下痢や肝機能検査値異常、好中球・白血球減少症が若干増加した。

idelalisibはBセルの活性化や増殖、生存に不可欠な酵素であるPI3Kデルタを阻害する経口剤で、9月に米国で非ホジキン型リンパ腫に承認申請されたが、CLLの追加申請に向けてFDAと相談する考え。欧州では10月に両方の適応症で承認申請済み。2011年に買収したCalistoga Pharmaceuticalsの開発品で、買収費用3.75億ドル、達成報奨金が最大で2.25億ドル、合計6億ドルの大きな投資だが、十分にペイしそうだ。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

リンク:ASH抄録(LBA-6)

AHA:第一三共のedoxaban、低用量は承認されないリスク

(2013年11月20日発表)

第一三共が開発したXa阻害剤、Lixiana(edoxaban、和名リクシアナ)の心原性脳卒中試験の結果がAHA米国心臓協会科学部会で発表され、New England Journal of Medicine誌のホームページで論文刊行された。心房細動で脳卒中のリスクが高い患者に対する予防効果がワーファリンと非劣性、副作用である大出血のリスクは高用量群、低用量群共に有意に小さかった。

同じXa阻害剤であるバイエル/JNJのXarelto(rivaroxaban)やBMS/ファーザーのEliquis(apixaban)、そしてベーリンガー・インゲルハイムの直接的トロンビン阻害剤Pradaxa(dabigatran)と概ね同じ内容であり、今後は、後発の不利をどのように巻き返すか、販売戦略が注目される。米国はメーカーが価格決定権を持つので、割安な価格を設定しても良いのではないか。日本側では低用量の安全性に着目する意見が多いが、少なくとも米国では高用量しか承認されない可能性がある。

このENGAGE AF-TIMI 48試験は、米国の血栓学共同治験グループであるTIMIが主導して日本を含む46ヶ国で実施した無作為化割付二重盲検試験で、21,105人の患者をワーファリン群、低用量群(30mgを一日一回、経口投与)、高用量群(60mg一日一回)の何れかに割付け、メジアン2.8年間追跡して脳卒中や全身性血栓性疾患のリスクを比較した。

Lixianaは、体重60kg以下、あるいは、腎機能の代理マーカーであるクレアチニン・クリアランスが低い患者や、P糖蛋白を阻害する薬を同時使用する患者では用量を半減した。治験開始時だけでなく、その後に該当するようになった場合も半減。Lixianaは殆ど代謝されずに尿と一緒に排泄され、また、吸収・排泄に関わるP糖蛋白の基質なので、腎機能低下やquinidine、verapamil、dronedaroneの同時使用は効果が高くなりすぎる可能性がある。

結果は、脳卒中・全身性血栓の年率発生率が各群1.50%、1.61%、1.18%となり、両用量ともワーファリン群に対して非劣性だった。ハザードレシオの97.25%上限は低用量が1.31、高用量は0.99で、低用量は本当に非劣性といえるのか微妙だろう。尚、この試験は二種類の用量を一度にテストしたので、多重性を回避するために信頼区間が通常の95%より広く設定されている。

抗血栓薬は効果が高すぎると出血リスクが高まる。大出血の発生率は各群3.43%、1.61%、2.75%となり、両用量ともワーファリンより低かった。二次的評価項目だがハザードレシオの95%上限が何れも1を下回り、p値も0.001未満なので、統計的に有意といっても良いだろう。低用量のハザードレシオは0.47、95%信頼区間0.41-0.55なので、安全性に関してはかなり良い。

しかし、低用量は効果の点で見劣りする。脳卒中を主評価項目とする試験では脳梗塞だけでなく出血性脳卒中もカウントする。判別しにくいケースもあるので主観バイアスを排除する意図だが、効果の指標と副作用リスクの指標がごっちゃになっているので実態が覆い隠される危険がある。そこで、虚血性脳卒中だけの数値に注目すると、年率で各群1.25%、1.77%、1.25%となり、低用量のハザードレシオは1.41、95%信頼区間1.19-1.67、p<0.001と有意に劣っている。

脳卒中のような発生率があまり高くないイベントを評価する試験は大規模、長期になるため費用がかさむ。このため、二種類の用量をテストすることを嫌う会社もあるが、第一三共・TIMIは良心的に対応した。ベーリンガーも同様で、多くの国で両方の用量が承認され、出血リスクの高そうな患者には低用量、といった使い分けがなされている。例外は米国で、FDAは高用量しか承認しなかった。

審査文書によると、脳卒中は深刻な合併症であり十分に予防できる量を投与する必要があるからだ。もし低用量を必要とする患者がいるならば、臨床試験で該当者を明確にし、そのような患者でも投与量を変えれば十分な効果を享受できることを確認すべきである。ENGAGE試験は、正にこのことを確認した試験といえるだろう。

それだけに、予防効果の点で明らかに見劣りする低用量が米国で承認される可能性は低いだろう。標準用量は60mg、但し上記の条件に該当する患者は30mgに減量し、それ以外の患者も定期的に検査を行ってモニターする用法になりそうだ。

米国の既存三剤は一つ用量しか承認されていないため、二種類の用量から選択できるLixianaは有利という意見が日本で出ているが、FDAを知らない人の意見である。

リンク:第一三共のプレスリリース(和文)

リンク:NEJM論文(オープンアクセス)

アッヴィの5剤併用第三相C型慢性肝炎試験が成功

(2013年11月18日)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、5種類の経口剤を併用する第三相C型慢性肝炎試験が成功したと発表した。遺伝子型I型のウイルスに感染し初めて多剤併用療法を受ける、肝硬変を合併していない患者を対象とした試験で、SVR12(治療終了後12週間経ってもウイルスが検出されない、持続的ウイルス学的奏功率)が96%という大変良い結果になった。効果はIa型(95%)でもIb型(98%)でも大差なかった。

併用したのはABT-450(プロテアーゼ阻害剤)、ritonavir(3A4阻害剤・・・ABT-450の効果を長期化する)、ABT-267(NS5A複製複合体阻害剤)の一日一回服用型合剤と、ABT-333(非核酸系ポリメラーゼ阻害剤)及びribavirinを各一日二回。C型肝炎の標準薬であるアルファ・インターフェロンを使わないのが最大の特徴だ。治療期間は12週間と短い。有害事象による治験離脱の発生率は0.6%とのことなので、忍容性も良好のようだ。

素朴な疑問は、本当に5剤も必要なのかということだが、ribavirin以外の4剤と5剤併用の比較試験も進行しているので、やがて結論が出るだろう。次の問題は、この4剤または5剤を併用したら治療費はどれだけ高くなるのか?

リンク:アッヴィのプレスリリース

リジェネロンとサノフィの抗IL-6受容体抗体の第三相リウマチ試験が成功

(2013年11月22日)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、REGN88/SAR153191(sarilumab)の第三相リウマチ性関節炎試験の成功を発表した。methotrexateに十分反応しない中重度活性期リウマチの患者にsarilumabを追加投与したところ、偽薬、150mg、200mgの各群のACR20奏功率が24週間で各33%、58%、66%となり、両用量とも統計的に有意に上回った。身体機能の指標(16週間)や関節損傷の指標(52週間)でも有意に上回った。

sarilumabはIL-6受容体のアルファ・サブユニットに結合する完全ヒト化抗体で、中外/ロシュのActemra(tocilizumab)に類似している。週二回、皮注であることが特徴だったが、Actemraも週二回皮注用製剤が日米で承認された。

リンク:両社のプレスリリース(pdfファイル)

サノフィがJAK2阻害剤の承認申請断念、開発中止

(2013年11月18日)

サノフィはSAR302503(fedratinib)の開発中止を発表した。競合的JAK2阻害剤で、今年5月に骨髄線維症の第三相試験が成功、承認申請が期待されていた。しかし、複数の患者でウェルニッケ脳症が発生、FDAが全ての臨床試験の中断を命じた。この疾患はビタミンB1の欠乏が原因なのでサプルメントを併用する方法もあったのではないかと思われるが、よほど大きな影響が出たのだろう。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がバイオマリンのモルキオ症候群A型治療薬を支持

(2013年11月19日発表)

米国の希少疾患用薬会社バイオマリン(Nasdaq:BMRN)は、FDAの内分泌学代謝学薬諮問委員会がVimizim(elosulface alfa)をムコ多糖症IVA(モルキオ症候群A型)の治療薬として承認することを支持したと発表した。21人の委員のうち19人が賛成、一人は一部のサブグループだけに承認することに賛成、反対は一人だけだった。

VimizimはNアセチルガラクトサミン-6-スルファターゼで、欠乏している酵素を補充する。臨床試験では週一回投与した群で6分歩行テストが偽薬比23メートルほど改善した。3分階段上昇試験や呼吸能力は改善しなかった。欧州でも承認審査中。

モルキオ症候群A型は上記酵素の欠乏が原因でグリコサミノグルカンが蓄積、骨の異形成や低身長、関節異常などを合併する。患者は世界で2500~3000人、うち日米欧で1000~1500人と推測されているが、診断されているのは400人のみ。

リンク:バイオマリンのプレスリリース

CHMPがギリアッドやGSKの抗ウイルス剤などに肯定的意見

(2013年11月21日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会議でギリアッドのC型慢性肝炎治療薬、グラクソ・スミスクラインが塩野義からライセンスした抗HIV薬、大塚製薬やLucane Pharmaの結核治療薬などに肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月で承認されるだろう。また、バイオジェン・アイデックの多発性硬化症薬に関して、前言を翻し新規活性成分と認めて10年間のデータ排他権を与えることを推奨した。

リンク:CHMPのプレスリリース

ギリアッド(Nasdaq:GILD)のSovaldi(sofosbuvir)はC型肝炎治療で初の核酸系ポリメラーゼ阻害剤。I型だけでなく様々な遺伝子型のウイルスに有効で、II型やIII型の場合、ribavirin併用でインターフェロンとribavirinを併用する既存療法と同程度の効果を発揮し、治療期間は12週間と半減できる。I型ではribavirin、インターフェロンと三剤併用で治療期間を12週間に短縮。一日一回経口投与なので利便性も高い。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

CHMPは、BMSのdaclatasvirをsofosbuvirと併用、またはribavirinと三剤併用する用法でコンパッショネート・ユースすることも推奨した。コンパッショネート・ユース・プログラムは命に関わる難病の治療薬を正式に承認される前に使うことができるプログラムで、今回の場合、I型ウイルスに感染し、非代償性肝疾患や死亡のリスクが高い成人患者が対象になる。

リンク:CHMPのプレスリリース

Tivicay (dolutegravir) はHIV/AIDSの多剤併用療法に用いるインテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤。既存のインテグラーゼ阻害剤に抵抗性を持つ株の多くにも有効。私見ではdolutegravirとlamivudine及びギリアッドの核酸系逆転写阻害剤tenofovirの三剤併用が一次治療のベストだが、残念ながらメーカーが異なるためトリプルコンビ薬が存在しない。

塩野義製薬が創製、GSKやファイザーとのHIV/AIDS薬合弁会社であるViiVヘルスケアが開発している。米国ではTivacay名で今年8月に承認された。

リンク:GSKのプレスリリース

大塚製薬のDeltyba(delamanid)は7月に否定的意見を受けたが、大塚の要請で再審査となり、肯定的意見を勝ち取った。それにしても、6ヶ月投与する薬なのに効果の裏付けが2ヶ月時点のデータだけというのは奇妙な話だ。私の推測は、最初は2ヶ月で成功する筈だったがフェールし、同意した患者に対して更に4ヶ月投与したら奏功率が向上したので、6ヶ月投与する薬として承認申請したのではないか?

CHMPは専門家などの意見を踏まえて、2ヶ月時点の評価が6ヶ月時点の評価と相関すると判定、別の臨床試験が成功することを条件に、条件付承認することを推奨した。適応になるのはMDR-TB(多剤耐性結核菌)による肺結核で既存薬に抵抗性・不耐の成人患者。欧米では希少疾患だが、症例の多い国の多くでは欧州や米国で承認を取れば簡単な手続きで承認されるので、今回の肯定的意見は意義がある。

フランスのLucane PharmaのPara-aminosalicyclic acid Lucaneは新製剤。活性成分は1946年から70年代にかけて標準療法として使われた古い薬だが、90年代のMDR-TB増加で再び使用されるようになった。こちらは条件付ではなく本承認が支持され、適応は既存薬抵抗性・不耐のMDR-TB感染症の成人・小児。

リンク:CHMPの二剤に関するプレスリリース

CHMPはBMS/アストラゼネカのSGLT2阻害剤dapagliflozinとmetforminの合剤、Xigduoにも肯定的評価を出した。二型糖尿病の治療に用いる。

リンク:両社のプレスリリース

バイオジェン・アイデックの再発寛解型多発性硬化症維持療法薬Tecfidera(dimethyl fumarate)は今年3月にCHMPの肯定的意見を受けた。その段階では新規活性成分とは認められなかったが、今回、CHMPが認めたので、3ヶ月以内に承認され10年間のデータ排他権を獲得することになるだろう。

EUは承認されている活性成分の光学異性体や代謝物については、何か長所がない限り新規活性成分として認めないスタンスを取っている。近年、この種の新薬が米国でしか承認申請されなくなったのは、これが原因だ。dimethyl fumarateはドイツで中重度乾癬の治療薬として20年の販売歴を持つので、新規活性成分と言えるかどうか微妙なところがあった。

私見では、適応症が大きく異なり、今日のスタンダードに適合した大規模な臨床試験を行う必要があったのだから、それなりの報酬があってしかるべきである。もし新薬と認められなかったら、EUの患者はこの優れた薬を使うことができなかったかもしれないので、好ましい結果になった。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

一方、ABサイエンス社が消化管間質腫瘍用薬として承認申請したMasican(masitinib)は否定的意見となった。薬効のエビデンスが第二相試験のみで、デザインが不適切であるために効果や安全性が確立していないと判定した。masitinibはc-KIT阻害剤で犬のマスト細胞腫瘍の治療薬として欧米で販売されている。

適応拡大ではセルジーン(Nasdaq:CELG)のAbraxane(アルブミン結合paclitaxel、和名アブラキサン)を膵癌に用いることを支持した。gemcitabineと併用する。臨床試験ではメジアン生存期間が8.5ヶ月と、gemcitabineだけを投与した群の6.7ヶ月を上回った。

また、ドイツのメルクがイーライリリーからライセンスして販売しているErbitux(cetuximab、和名エルビタックス)について、転移性結腸直腸癌に用いる時はkrasが変異していないだけでは足りず、rasが変異していない癌を適応とすることを推奨した。kras野生型の2割程度を占めるnrasに変異のある癌は適応外となる。FOLFOXという一次治療レジメンと併用する場合は、kras変異だけでなくnras変異も禁忌になる。

先にアムジェンのVectibix(panitumumab)も同様な適応変更を受けており、クラス・イフェクトなのだろう。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

フォレストの向精神薬は承認されず

(2013年11月21日発表)

フォレスト(NYSE:FRX)とハンガリーのGedeon RichterはRGH-188(cariprazine)を統合失調症と双極障害I型の治療薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。プレスリリースからは明らかではないが、報道によると、薬物動態に関する追加情報を求められた模様だ。会社側はすぐにも回答可能と見ているようだが、承認が大きく遅れるという観測も出ているようだ。日本では田辺三菱製薬がMP-214として開発している。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


第三のプロテアーゼ阻害剤が米国で承認

(2013年11月22日発表)

FDAは、Olysio(simeprevir、和名ソブリアード)をC型肝炎で代償性肝疾患を合併する患者の一次、二次治療薬として承認したと発表した。スエーデンのメディビアが創製しジョンソン・エンド・ジョンソンが日欧米で承認申請したプロテアーゼ阻害剤で、日本は今年9月に承認された。先に発売された二剤と異なり、一日一回経口投与で足りる。

弱点は、米国のIa型ウイルスに多い、NS3プロテアーゼにQ80K置換のある株に対する効果が弱いこと。インターフェロンとribavirinと三剤併用するが、このタイプに対する奏功率は二剤併用とそれほど変わらなかった。このため、事前に検査をして該当する場合は他の治療法を考慮するという文言がレーベルに導入された。また、光毒性があり、入院例もあったようだ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:JNJのプレスリリース

ネクサバールが甲状腺癌に適応拡大

(2013年11月22日発表)

FDAは、アムジェンの子会社になったオニクスがバイエルと共同販売しているNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を分化甲状腺癌の治療に用いることを承認した。局所再発性または転移性で進行性の分化甲状腺癌で放射性ヨードに反応しなくなった場合に適応になる。Nexavarのこれまでの適応症は、腎細胞腫、肝細胞腫。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:アムジェンのプレスリリース

欧州でInvokana、レルベア、カドサイラなどが承認

(2013年11月18~21日発表)

CHMPが9月の会議で肯定的意見を出した薬が続々と承認された。

ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発したSGLT2阻害剤、Invokana(canagliflozin)は、二型糖尿病薬。腎臓で濾し取られたグルコースがSGLT2というトランスポータによって血液中に戻るのを阻害、尿と一緒に排泄させる。性器の感染症に注意する。

リンク:JNJのプレスリリース(11月18日付)

グラクソ・スミスクラインのRelvar(fluticasone furoateとvilanterolの合剤、和名レルベア)は、COPDや喘息症の増悪・発作予防に用いる吸入用コンビ薬。米国ではCOPDのみ、日本では喘息症のみに承認された。

リンク:GSKのプレスリリース(11月18日付)

ロシュのKadcyla(trastuzumab emtansine、和名カドサイラ)はher2陽性転移性乳癌の二次治療薬。今後、ドイツなど一部の市場を除いて薬価審査が行われ、ドイツでも一年後に審査を受けることになる。欧州は日本と同様に価格に辛いので、どのような評価を受けるか注目される。米国では今年2月に承認され、月9800ドルの価格で発売された。

Herceptin(trastuzumab)に細胞毒を結合し効果を強化したもので、一般名で処方する場合は、薬剤師がHerceptinと間違えないように正確に書かなければならない。

リンク:ロシュのプレスリリース(11月20日付)

大塚製薬がルンドベックと提携して開発したAbilify Maintena(aripiprazole)は、異型向精神薬Abilifyの月一回筋注用新製剤。経口剤を飲みたがらない患者に適している。

リンク:ルンドベックのプレスリリース(11月21日付)

【医薬品の安全性】


FDAがアステラスの心機能検査補助剤の警告を強化

(2013年11月20日発表)

FDAは安全性情報を発出し、米国でアステラス製薬が販売しているLexiscan(regadenoson)とAdenoscan(adenosine)の心臓発作・死亡リスクを改めて警告すると共に、レーベルの記載を変更したと発表した。労作性狭心症の心筋血流シンチグラフィを行う時は事前に運動負荷を与えるが、運動に適さない場合患者はこれらの動脈弛緩剤で血流を増強する。ところが、血流が強くなると狭窄していない血管に優先的に流れるようになり、狭窄部位の虚血が酷くなるリスクがあるようだ。

FDAが自発的有害事象報告を分析したところ、Adenoscanは95年の発売以降、心筋梗塞が6例、死亡が27例あった。Lexiscanも08年の発売以降、各26例と29例、あった。発症時期が明らかな症例では、投与後6時間以内に発症する傾向があった。市販歴の短いLexiscanのほうが多いが、一般に新薬のほうが副作用報告が多い傾向があるので、単純に比較することはできない。

FDAは、高リスク患者には用いないことと、心蘇生に必要な機器やスタッフを用意した上で投与することを推奨している。

リンク:FDAの安全性情報

今週は以上です。

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2013年11月17日

海外医薬ニュース2013年11月17日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • さようなら、コレステロール治療目標
  • 英国の薬品局が抗癲癇薬の交換可能性を評価
  • アルニラムが家族性ポリニューロパシーの第三相に着手
  • GSK、Lp-PLA2阻害剤の大規模試験がフェール
  • Sareptaの核酸医薬は承認申請遅延
  • FDA諮問委員会はサノフィの多発性硬化症薬を支持したが...
  • FDAがJNJの抗がん剤をスピード承認
  • EUがバイエルの前立腺癌用薬を承認


【今週の話題】


さようなら、コレステロール治療目標

(2013年11月12日発表)

ACC/AHAの新しいコレステロール治療ガイドラインがCirculation誌などで公開された。ATP IIIと呼ばれるこれまでのガイドラインと比べてかなり大きな方針変更がある。

まず、LDL-C値治療目標(100mg/dL以下、など)が廃止された。治療がうまくいっているか、定期的に確かめる必要はなくなった。次に、標準的治療薬はスタチンでそれ以外の薬は不耐患者のみに用いることが明記された。更に、患者の心疾患疾患リスクを評価する新しい手法が導入され、治療対象が拡大した。

これまでと同様に患者の特性に応じて治療法を選択するが、選択肢は二種類のみで、強度治療はLDL-Cを50%以上低下させる用量のスタチンを、中度治療は30~49%低下させる用量を、投与する。治療対象は、アテローム性心血管疾患、LDL-Cが190mg/dL超、そして、LDL-Cが70~190mg/dLの場合は40~75歳で、且つ、糖尿病又は向こう10年間にアテローム性心血管疾患を発症するリスクが7.5%を超えると推測される患者。最初の二類型は強度治療。最後の二類型は他の因子も考慮して強度または中度の治療を行う。

報道によると、目標値が廃止されたのは十分なエビデンスがないため。血圧と異なり検査が簡単安価ではないためか、プライマリーケア医はこれまでも特別な検査は行っていなかったようなので、現状追認と言えるだろう。スタチンに限定したのはナイアシンやフィブレートの心血管アウトカム試験がフェールし、Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)も今のところ否定的なデータしかないため。

ZetiaはIMPROVE-ITという大規模心血管アウトカム試験が2004年にロンチされたが、遅延に次ぐ遅延で結果が出るのは2014年の見込み。発売は2002年、米国のGE化は2017年なので、もし効果がなく処方が激減したとしても、12年間収益を上げ、失うのは3年分だけだ。

初発予防は、これまではリスクが20%以上が対象だったが、7.5%に引き下げられた。また、今回のリスク評価法は人種の違いなどを軽視しているという声もあり、医師の判断でもっと多くの患者が治療を受ける可能性もある。スタチンはコレステロール治療薬の中でシェアが上昇し、市場のパイも拡大することになる。殆どの製品がGE化したので、追加的なコストはそれほど大きくないだろう。

尤も、これまでの方針と大きく変わったため、今回のガイドラインに抵抗を示す医師も多いだろう。患者に口をすっぱくして言っていた事を翻さなければならないからだ。

スタチン以外の薬はシェア低下トレンドが続くだろう。十分なエビデンスもないのに多用されていた、今までが間違っていたのだ。問題は、第三相試験段階にある抗PCSK9抗体だ。FDAが心血管アウトカム試験のデータが出るまで承認しないか、それともLDL-C治療効果や安全性が確認されれば承認するのかによって発売時期が大きく変わってくる。

注目されているのは上記のIMPROVE-IT試験だ。スタチンと異なるメカニズムでLDL-Cを引き下げる薬がもし心血管疾患を減らすことができないとしたら、重要なのはLDL-C低下ではなくスタチンということになる。

尤も、私は、もしこの試験がフェールしてもメカニズムの問題と断定することはできないと考えている。スタチンの心血管疾患削減率はLDL-C低下率と相関しており、低力価スタチンを少量投与する試験を行ってもフェールするだろう。ZetiaのLDL-C低下作用は決して大きくなく、だから、小さな差でも統計的に有意になるように18000人という巨大な試験を何年も行うのだ。

私は、IMPROVE-IT試験の成否に関わらず、抗PCSK9抗体も心血管アウトカム試験が成功するまで承認されないと予想している。

リンク:ACC/AHAコレステロール治療ガイドライン(pdfファイル)

英国の薬品局が抗癲癇薬の交換可能性を評価

(2013年月日発表)

英国の薬品医療機器規制機関であるMHRAは、抗癲癇薬とそのGE品の交換可能性に関する推奨を発表した。

抗癲癇薬の中には生物学的利用率に大きな個人差があり、しかも、安全域があまり広くないものがある。GE薬はオリジナルの薬と完全に同じである必要はなく、誤差範囲が一定内に収まっていれば承認されるため、昔から、本当に大丈夫なのかという声が日本でも、米国でもある。GE薬を異なったメーカーの製品とスイッチする場合の交換可能性はもっと曖昧だ。

承認審査機関の建前では、承認された薬は全て問題ない。もし新たに問題が発生したら適切な措置を取るので、安心して使ってよい。勿論、患者の様子を注意深く見守る必要があるのは他の薬と同じである---FDAはこのようなスタンスと思われる。しかし、医師や患者が納得しているかどうかは不明である。

それだけに、MHRAが懸念に応えて推奨を出したことは、当局のあるべき姿を示唆したものとして注目できる。私の知識の範囲内ではあまり意外感はないので、英国の医療に大きな変化をもたらすものではないだろうが...

MHRAの推奨は抗癲癇薬を三種類のカテゴリーに分けている。現在服用している製品を続けるよう推奨するのがカテゴリー1の薬で、phenytoin、carbamazepine、phenobarbital、primidoneが該当する。

逆に、特別な問題がない限り特定の製品に拘る必要はない(スイッチしても良い)のがカテゴリー3の薬で、levetiracetam、lacosamide、tiagabine、gabapentin、pregabalin、ethosuximide、vigabatrinなど比較的新しいくするが該当する。

この中間がカテゴリー2の薬で、癲癇発作の頻度や治療歴などを考慮し、患者や保護者と相談した上で、医師がスイッチの妥当性を判断する。該当するのはvalproate、lamotrigine、perampanel、retigabine、rufinamide、clobazam、clonazepam、oxcarbazepine、eslicarbazepine、zonisamide、topiramate。

リンク:MHRAのプレスリリース

【新薬開発】


アルニラムが家族性ポリニューロパシーの第三相に着手

(2013年11月10日発表)

アルニラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)はALN-TTR02(patisiran)の第三相試験に着手した。異型トランスサイレチンによる家族性ポリニューロパシー(FAP)のステージI、IIの患者200人をALN-TTR02群と偽薬群に2対1割付けして18ヶ月間治療し、mNIS+7というニューロパシー・インペアメント・スコアを用いて治療効果を測定する。試験薬は三週間に一回、70分点滴静注する。

ALN-TTR02はRNA介入薬で、肝臓でトランスサイレチンの遺伝子が翻訳されるのを妨げる。第二相試験では血清トランスサイレチンが9割減少した。欧州などでFAPの治療に用いられているtafamidisなどのトランスサイレチン安定化剤を併用している患者にも効果があった模様。

FAPはトランスサイレチン遺伝子の点変異により発症する疾患で、日本はこの変異を持つ家系が比較的多いようだ。アルニラムは日本やアジアの権利をサノフィの子会社であるジェンザイムにライセンスしているが、残念ながら、clinicaltrials.govの記述を見る限りでは、日本の施設は今回の第三相試験には参加しないようだ。

リンク:アルニラムのプレスリリース

GSK、Lp-PLA2阻害剤の大規模試験がフェール

(2013年11月12日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK480848(darapladib)の第三相心血管アウトカム試験がフェールしたことを発表した。安定期冠状心疾患を対象とした試験で、もう一本の急性冠症候群試験は来年、開票する見込み。残念だが、Lp-PLA2阻害剤がアテローム性心疾患を防ぐというエビデンスは存在しないので、意外感はない。

Lp-PLA2(別名PAFアセチルハイドラーゼ)は脂肪酸の加水分解にかかわる酵素で、LDL-Cの酸化に関係しているようだ。高Lp-PLA2かつ高CRPの人は低い人と比べて心血管疾患のリスクが4倍、卒中リスクは8倍と高い。IVUS(血管内超音波検査)を用いた第二/三相試験では、プラク変形能、hsCRP量、プラク量の何れも有意な改善効果は見られなかったが、壊死性コアの増大を抑制効果は見られた模様。

作用機序が斬新なせいか既存の確立したバイオマーカーでは評価できなかったわけだが、今回の試験では主要有害心臓イベント(MACE:心筋梗塞など)が6%減っただけであり、pは0.199だったので、臨床的な効果はなく、もしあったとしても小さいことになる。

尚、Anthera Pharmaceuticalsが塩野義製薬らからライセンスしたPLA2阻害剤、varespladibも急性冠症候群の第三相が無益性により中止となり、AHA米国心臓協会科学部会で11月18日にデータ発表される見込み。

リンク:GSKのプレスリリース

Sareptaの核酸医薬は承認申請遅延

(2013年11月12日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)はAVI-4658(eteplirsen)をデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として承認申請することをFDAと相談していたが、結局、第二相試験に基づく申請は認められず、キチンとした第三相試験を行うことになりそうだ。9月22日号で書いたように、競合品の第三相試験がフェールしたことは朗報ではなかった。

第二相試験では12週間治療してジストロフィン量の変化を偽薬群と比較した。有意な差は出なかったが、偽薬群を試験薬に再無作為化割付して実施した延長試験では、試験薬を投与し続けた群も含めて全群、48週時点でベースライン比有意に増加した。しかし、同様な効果を示したProsensa(Nasdaq:RNA)・グラクソ・スミスクラインのPRO051/GSK2402968(drisapersen)の第三相試験はフェール、6分歩行テストの成績が改善しなかった。

FDAは、drisapersenの試験結果を踏まえて、ジストロフィンが一定以上増えないと運動機能を改善できない可能性があると判定。従来から指摘していた、Sareptaのジストロフィン量計測手法の妥当性に関する懸念を強めた。

また、上記の第二相試験の評価についても疑義を表明。被験者は全て、ベースライン時点の6分歩行テスト成績が350mを超えていたが、患者の自然経過に関する研究では、このような患者はその後の悪化が小さく、本当に悪化を防いだのか分からないと結論した。延長試験は偽薬対照試験でなかったことが裏目に出た格好だ。

幸か不幸かProsensa・GSKの試験がフェールしたので、Sareptaは急ぐ必要はなくなった。じっくりと第三相試験に取り組んで患者が納得するデータを作るべきだろう。

リンク:Sareptaのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はサノフィの多発性硬化症薬を支持したが...

(2013年11月13日発表)

FDA末梢中枢神経系薬諮問委員会はサノフィが再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として承認申請したLemtrada(alemtuzumab)を検討し、過半の委員が二次治療薬としてなら承認に値すると判定した。FDA審査官の評価は厳しいので、すんなり承認されるかどうかは不透明だ。

Lemtradaは抗CD52ヒト化抗体で、慢性リンパ性白血病用薬MabCampathとして2001年に欧米で承認された。多発性硬化症では3~5日間連続で点滴静注するコースを年一回施行する用法で開発され、高い再発予防効果を示したが、深刻な甲状腺疾患や免疫性血小板減少性紫斑症のリスクも見られた。このため、諮問委員会の前に公開されたFDAブリーフィング資料では、安全性に関する重大な懸念が表明されていた。また、これらの試験は皮注用インターフェロンを対照薬とした為、盲検ではなくオープンレーベルで行われた。

諮問委員は、18人中11人が臨床試験のデザインが不適当と判定したが、効果については12人が支持した。とは言え、障害進行抑制効果については14人が支持しなかった。安全性については、効果を評価せずに安全性だけに基づいて承認しないほど酷くはない点で全員が一致。但し、一次治療は適応外にして既存薬に不耐、不応の患者に限定することを16人が支持した。

FDAの末梢中枢神経系薬審査部門は審査が厳しく、ブリーフィング資料の内容を多少割り引いて受け止める必要がある。専門医が使う薬なので、多少リスクがあっても密接に監視することで早期に発見、対処できる可能性があり、副作用が中枢神経に関わるものなら自分で対処できるし、他の病気なら専門医の治療を受けるよう患者に指示することができる。専門医が担当する患者は難治性であることが多く、治療の選択肢は一つでも多いほうが良い。

それでも、上記のように諮問委員の評価は区々であり、全員が承認に賛成したわけではない。適切な使用、監視を担保するためのプログラム(REMS)を作成することも重要な課題だ。このため、Lemtradaが順調に年内承認となる可能性は低いだろう。尚、EUでは今年9月に承認された。

リンク:Medpage(要登録)の記事・・・サノフィはプレスリリースを出していない

【承認】


FDAがJNJの抗がん剤をスピード承認

(2013年11月13日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、FDAがImbruvica(ibrutinib)をマントルセルリンパ腫の二次治療薬として承認したと発表した。7月に承認申請されたばかりなので、4ヶ月のスピード承認だ。ブレークスルー・セラピー指定を受けており、今月承認されたロシュのGazyva (obinutuzumab)に次ぐ承認第二号となった。慢性リンパ性白血病でも審査中で、来年3月までに承認されるだろう。

ImbruvicaはBrutonチロシン・キナーゼ(Btk)阻害剤で、Bセルの生存に関わるBtkを阻害し細胞死を誘導する。再発性・難治性患者を組入れた第二相試験では、rIWG基準による反応率が65%、完全反応率17%、反応持続期間がメジアン17.5ヶ月と良い成績を上げた。血液癌は反応率と延命効果が相関することが多く、FDAはこれらの代理マーカーによる評価を認め加速承認した。

主な有害事象は出血、感染症、骨髄抑制、腎毒性、二次性原発性腫瘍、胚胎児毒性など。この試験では10%が有害事象により治験を離脱、14%が薬を減量した。

JNJはカリフォルニアのファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)から共同開発販売権を取得、開発費の6割を負担し、利益は折半する。報道によると一日薬価は360ドル、臨床試験のメジアン投与期間は8ヶ月強だったので、患者一人当たり約8万ドル掛かることになる。結構な値段だが、慢性リンパ性白血病では服用量が一日三カプセルと3/4で済むので若干安くなる。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:JNJのプレスリリース

EUがバイエルの前立腺癌用薬を承認

(2013年11月15日発表)

バイエルは、Xofigo(radium-223 dichloride)を去勢抵抗性前立腺癌用薬として承認したと発表した。症候性骨転移を合併し、腹部転移はない場合に適応になる。

Xofigoは放射線核種をカルシウムに類似した化学物質と結合し骨に分布するよう工夫した放射線核種薬。化学療法不耐、不適、不応の患者を組入れた第三相偽薬対照試験では、メジアン生存期間が14.9ヶ月と偽薬群の11.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.695、pは0.00007だった。米国では5月に承認されている。ノルウェーのAlgetaから開発販売権を取得したもの。

リンク:バイエルのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年11月10日

海外医薬ニュース2013年11月10日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • Gazyvaはリツキサンより効果が高い
  • アイリーアを糖尿病性黄斑浮腫で承認申請
  • 大日本住友製薬の抗癲癇薬が米国で承認
  • FDAがクレキサン等を麻酔と併用する時のリスクを再警告


【新薬開発】


Gazyvaはリツキサンより効果が高い

(2013年11月7日発表)

ロシュは、今月米国で承認されたCLL(慢性リンパ性白血病)用薬、Gazyva(obinutuzumab)の直接比較試験の結果を公表した。メジアンPFS(無増悪生存期間)がRituxan(rituximab、和名リツキサン)より1年程度長いという大変良い内容。Gazyvaはフコース除去という新しい技術を用いている。これまでに様々な抗体医薬改良技術が登場したが、第二、第三世代品が第一世代品を凌駕したのは今回が初めてであり、同様な技術を持つ協和発酵キリンなどの企業も喜んでいるだろう。

このCLL11試験は、初めて治療を受ける患者を組入れて、第1ステージではchlorambucilを単剤投与する群とGazyvaを併用する群を比較。中間無益性分析で良好な結果が出たため、chlorambucilとRituxanを併用する群と、chlorambucil・Gazyva併用群を比較する第2ステージを開始した。

米国承認は第1ステージの成績に基づくものだが、CLLの一次治療はRituxanもfludarabine及びcyclophosphamide併用で承認されており、患者や医師が治療法を選択する上で必要な情報がなかった。ロシュにとっても、Rituxanはやがてバイオシミラーが登場されるだろうから、雌雄を決するインセンティブがある。

第2ステージの成功は7月に公表されているが、ASH(米国血液学会)での発表が決まり、ヘッドライン・データが公表された。Gazyva群のメジアンPFSは26.7ヶ月、Rituxan群は15.2ヶ月、ハザードレシオ0.39、pは0.0001未満。完全反応率21%対7%。全生存期間のハザードレシオは0.66、pは0.09とまだ有意水準に達していないがデータが未成熟なのだろう(メジアン未到達)。

効果が高い一方で有害事象のリスクも高く、グレード3~5の有害事象発生率は各66%と47%。漸増投与法が採用されており、米国のレーベルによると、初回は100mg、一週間後の二回目は900mgに抑え、更に一週間後の三回目から1000mgを静注点滴する。28日サイクルで最初は4回投与するが、第2サイクル以降は1回、全部で6サイクル施行する。

点滴量は30分毎に漸増、1000mgを投与するのに3時間位かかる。Rituxanの用量は患者の体表面積によって変動するが、2平方メートルとすると点滴時間がやや長い。Rituxanと同様に過敏反応を抑制するためにステロイドなどを用いてプリメディケーションを行う。

報道によると米国のWAC(問屋に販売する時の基準となる価格)は24週間のコースで41300ドルで、Rituxanより2割高い模様だが、効果が高いことを考えればリーズナブルだ。

リンク:ロシュのプレスリリース

【承認申請】


アイリーアを糖尿病性黄斑浮腫で承認申請

(2013年11月5日、7日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とバイエルは、Eylea(aflibercept硝子体注射用、和名アイリーア)を糖尿病性黄斑浮腫の治療に用いる適応拡大申請を欧米で行ったと発表した。Eyleaはロシュ/ノバルティスのLucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)の類薬で、異常な血管新生による黄斑障害を抑制する。Lucentisはこの用途でも既に承認されている。バイエルは米国外での開発販売権を持つ。

リンク:リジェネロンの決算発表リリース(11/5付)

リンク:バイエルのプレスリリース(11/7付)

【承認】


大日本住友製薬の抗癲癇薬が米国で承認

(2013年11月8日発表)

FDAは、大日本住友製薬の米国子会社であるスノビオンが承認申請していたAptiom(eslicarbazepine acetate、欧州名Zebinix)を部分癲癇の治療薬として承認したと発表した。薬物療法を受けても発作が起きる患者に追加投与する。麻薬指定はされなかった。2014年の第2四半期(4~6月)に発売される予定。

癲癇の新薬は、単剤投与偽薬対照試験のエビデンスを欠いていることが多いため、追加投与(アジャンクト)に限定して承認されるのが一般的だ。癲癇は有効な薬が多数存在し、また、癲癇発作を起こすと事故の危険だけでなく寿命にも影響するので、偽薬だけを投与して発作を予防しない群を設けることは臨床試験の倫理に反すると考えられている。最近では文献に基づく仮想偽薬群のデータと比較する単群試験も行われるようになったが、Aptiomは承認申請が4年前なので、間に合わなかったのだろう。

この問題の解決は難しく、活性薬対照試験を行えば倫理上の問題は発生しないが、差が小さいため多くの患者を組入れる必要があり、また、新薬の主用途は追加投与なのだから単剤投与時の効果が既存薬と同等である必要はない。薬の反応は人によって異なり、中枢神経系の薬は特にそうなので、代替的な選択肢はそれだけで価値がある。

米国は新薬承認審査と保険適用審査が異なった組織によって行われるため、医師は、追加投与しか承認されていない薬でも裁量に基づき単剤投与することが可能だ。一方、日本のように同じ組織が行う場合、保険適用されず実質的に使えない。工夫が必要だ。

さて、Aptiomはノバルティスが開発した抗癲癇薬、carbamazepine(Tegretol)の誘導体であるoxcarbazepine(Trileptal)の活性代謝物であるlicarbazepine(ノバルティスの開発コードLIC477)のS異性体。ノバルティスはLIC477を双極障害治療薬として開発したが2007年に中止。S異性体はポルトガルのBial-Portelaが開発、欧州はエーザイが共同販促している。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:スノビオンのプレスリリース(pdf)

【医薬品の安全性】


FDAがクレキサン等を麻酔と併用する時のリスクを再警告

(2013年11月6日発表)

FDAは、Lovenox(enoxaparin、和名クレキサン)などの低分子量ヘパリンを脊椎・硬膜外麻酔や腰椎穿刺と併用する時の血腫・麻痺リスクを改めて警告する安全性情報を発出した。米国や日本のレーベルの冒頭に警告されている既知のリスクだが、過去21年間に170件の有害事象報告が寄せられているため、改めて注意を呼び掛けた。

具体的には、麻酔用のカテーテルを留置するのは低分子量ヘパリンを投与してから12時間以上、経ってからにする。高量を投与した場合は更に長時間(24時間)、間を置く。措置後の投与はカテーテルを除去してから4時間以上経ってからとする。

FDAが上記170件のうち診断が確定できた100件についてリスク要因を分析したところ、女性あるいは高齢者が7割を占め、他の抗凝固・抗血栓薬を服用している患者も5割近くを占めた。従って、出血リスクを高める薬を服用していないかチェックすることも重要だ。

尚、米国では深静脈血栓予防用途では30mgを一日二回、または、40mgを一日一回、投与する。日本は2000IU(20mgに相当)を一日二回なので、投与量はそれほど変わらない。従って、対岸の火事ではないだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年11月3日

海外医薬ニュース2013年11月3日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • WCLC:PD-1阻害薬はやっぱり凄い
  • ファーザーの抗PCSK9抗体も第三相入り
  • ポテリジェント抗体が第三相入り
  • JNJがibrutinibをEUでも承認申請
  • BMSが日本で経口剤だけのC型肝炎治療法を承認申請
  • FDA諮問委員会が武田のvedolizumabを検討へ
  • FDAはEPAの心血管疾患予防効果に懐疑的
  • ロシュのフコース除去抗体が米国で承認
  • アリアドが抗癌剤の販売を一時中止


【新薬開発】


WCLC:PD-1阻害薬はやっぱり凄い

(2013年10月25日、29日発表)

WCLC(世界肺癌会議)でBMSとMSDの抗PD-1抗体の非小細胞性肺癌後期第一相試験のデータがアップデートされた。二次治療でメジアン生存期間が各10ヶ月と1年となっており、中々良さそうだ。また、ロシュのRG7446/MPDL3280Aと同様に、PD-L1の発現状況を検査して最適な患者をスクリーニングできる可能性も示唆された。

抗PD-1抗体は、活性化したTセルが発現する抑制刺激受容体であるPD-1に結合して、腫瘍細胞などが発現するレガンドであるPD-L1やPD-L2がTセルを抑制して免疫力を弱体化するのを妨げる。BMS-936558(nivolumab)はトランスジェニック・マウス抗体で小野薬品との共同開発品。MK-3475(lambrolizumab)はヒト化抗体。抗体医薬の固定領域は抗体依存的細胞傷害(NK細胞などを刺激して標的を攻撃させる)を惹起するためにIgG1型を用いることが多いが、両剤はTセルという重要な細胞を標的としているためIgG4型だ。

BMS-936558は2012年に非小細胞性肺癌で第三相入り、2014年後半から2015年にかけて結果が判明するのではないか。腎細胞腫と悪性黒色腫でも承認申請用試験が進行している。MK-3475は今年8月に悪性黒色腫でYervoy(ipilimumab)対照第三相試験がスタート。非小細胞性肺癌でも先月、第二/三相試験が始まったところで、結果はどちらも2015年頃だろう。RG7446/MPDL3280Aはまだ第三相はロンチされていないようだ。

WCLCでは、まず、BMS-936558の後期第一相試験のうち非小細胞性肺癌の途中経過が発表された。二次治療以降の患者を組入れて三種類の量の何れかを二週間に一回、静注投与したところ、129名の患者のメジアン生存期間は9.9ヶ月、1年生存率42%、2年生存率24%となった。前回の発表値と比べて、2年生存率がかなり上昇している。カプラン・マイヤー曲線の右側のデータは症例数が少なく誤差範囲が大きいので過大評価はできないが、何れにせよ、過半の患者が既に三次治療まで受けていたことを考えれば、立派な成果だ。

テストした3用量のうち最も小さい1mg/kgは効果が弱いように見える。第三相では中間の3mg/kgを採用したので、数値の向上が期待できそうだ。

MK-3475の後期第一相試験の途中経過も再発性非小細胞性肺癌が対象。10mg/kgを三週間に一回、静注した。第三者による検証を受けたRECIST反応率は33例中21%、メジアン生存期間は51週間だった。BMS-936558をやや上回るが、症例数が少なく、患者背景が異なる可能性もあるので、比較はできない。

サブグループ分析では、扁平上皮腫は反応率が33%、メジアン生存期間は未達(解析時点で過半の患者が生存)、扁平上皮腫以外は各16%と35週間。扁平上皮肺癌に有効な薬は少ないので注目できる。また、PD-L1発現状況に基づくサブグループ分析では、高発現度(7例)は反応率が57%と大変高く、一方、低発現度(22例)は9%だった。

忍容性面では、BMS-936558は過去の試験で薬物との関連が疑われる間質性肺炎が3%程度の患者で発生、非小細胞性肺癌2例を含む3例が死亡している。MK-3475の試験でもグレード3(重度)の肺浮腫が38例中1例で発生した。応答性がPD-L1発現状況に依存する可能性があることや、重度・重篤な有害事象が見られることを考えれば、事前にスクリーニングしてPD-L1陽性の患者だけに用いることも視野に入れるべきだろう。

リンク:BMSのプレスリリース(10/25付)

リンク:MSDのプレスリリース(10/29付)

ファーザーの抗PCSK9抗体も第三相入り

(2013年10月29日発表)

ファイザーは2013年第3四半期の決算発表に合わせてパイプライン・アップデートを行った。注目されるのはPF-04950615/RN316(bococizumab)が第三相入りしたこと。リジェネロン/サノフィのREGN727/SAR236553やアムジェンのAMG145と同様な抗PCSK9抗体で、LDL受容体の零落を誘導するproprotein convertase subtilisin/kexin type 9をブロックし、血清LDL-C値を引き下げる。

高脂血症・異脂血症で心血管疾患のリスクが高い患者やヘテロ接合型家族性高脂血症を対象に、LDL-C値引き下げ効果を検討する。心血管アウトカム試験も計画されている。開発コードから推測すると、2001年にジェネンテックの中枢神経系領域部門がスピンアウトし2006年にファイザーが買収されたRinat Neuroscienceのパイプラインなのだろう。

リンク:ファイザーの決算リリース

ポテリジェント抗体が第三相入り

(2013年10月30日発表)

アストラゼネカのメディミューン部門は、MEDI-563(benralizumab)の第三相試験開始を公表した。協和発酵キリングループのBioWaからBIW-8405をライセンスしたもので、抗IL-5受容体アルファ抗体の糖鎖をBioWaのポテリジェント技術で修飾し、抗体依存的細胞傷害活性を高めたもの。適応は管理不良の重度喘息症。第二相試験のデータはまだ発表されていない模様だが、好酸球の多い患者で有意な増悪抑制作用と肺機能改善作用を示したようだ。但し、第三相では好酸球数が増多していない患者も組入れる模様。

好酸球性気道炎症は世界で1000万人程度、重度喘息症患者の4~6割が該当するとのことなので、これだけでも市場性は大きい。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


JNJがibrutinibをEUでも承認申請

(2013年10月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはPCI-32765(ibrutinib)をEUで承認申請したと発表した。適応症は7月に行った米国と同様で、再発性/難治性のマントルセル・リンパ腫、慢性リンパ性白血病、糜爛性大B細胞リンパ腫の三疾患。第一/二相試験の反応率データに基づく申請と推測される。

リンク:JNJのプレスリリース

BMSが日本で経口剤だけのC型肝炎治療法を承認申請

(2013年11月1日発表)

BMSはBMS-790052(daclatasvir:NS5A複製複合体阻害剤)とBMS-650032(asunaprevir:NS3プロテアーゼ阻害剤)を日本で遺伝子型Ib型の慢性C型肝炎の治療薬として承認申請したと発表した。インターフェロンもribavirinも併用せずに、この二剤だけを併用する。

日本は高齢患者が比較的多く、インターフェロンだけでなくribavirinに不耐な患者が少なくないため、DAA(直接作用抗ウイルス薬)だけのレジメンが求められている。遺伝子型I型のうち、日本に多いIb型はプロテアーゼ阻害剤によく感受するため、二剤だけでも高い奏効率が期待できる。NS5A阻害剤は様々な遺伝子型に有効で、注目すべき新薬。BMS-790052が最も開発が進んでいる。

日本で行われた第三相試験では、Ib型のウイルスに感染しているインターフェロンまたはribavirinに不適/不耐(135人)、またはインターフェロン・ベースの治療に反応しなかった患者(87人)を組入れて、BMS-790052は60mgを一日一回、BMS-650032は100mgを一日二回、24週間に亘って経口投与したところ、SVR24(治療完了の24週間後になってもウイルスが検出されなかった患者の比率)が84.7%に達した。不適/不耐患者では87.4%、不応では80.5%だった。

治療成果は65歳以上の患者でも未満の患者でも大差なく、65歳以上の不適/不耐患者のSVR24は91.9%、同じく不応患者は85.2%だった。

発生頻度の高い有害事象は鼻咽頭炎(30%)、ALT上昇(16%)、AST上昇(13%)、頭痛(16%)など。深刻な有害事象の発生率は5.9%。有害事象による治験離脱の発生率は5%で、11例中10例はALT/AST上昇によるもの。これらの患者の8割は治療を早期に止めたにもかかわらずSVR24を達成し、ALT/ASTは正常値に戻った。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が武田のvedolizumabを検討へ

FDAは12月9日に胃腸薬諮問委員会(GIDAC)と薬品安全性リスク管理諮問委員会(DSRMAC)の共同会議を開催して、武田薬品が6月に承認申請したMLN0002(vedolizumab)について検討することを発表した。この抗アルファ4ベータ7インテグリン・ヒト化抗体は中重度潰瘍性大腸炎と中重度クローン病の二次、三次治療薬として申請され、前者は優先審査指定を受けている。クローン病試験は成績が満点ではなかったせいか、標準審査。

不思議なのはDSRMACと共催であることだ。考えられるのは、バイオジェン・アイデックのTysabri(natalizumab;主用途は多発性硬化症だがクローン病でも承認されている)と比べて進行性多病巣性白質脳症(PML)のリスクが小さいという長所を認めるかどうか検討すること。MLN0002はアルファ4ベータ1サブユニットには結合しないため、PMLが発生し難いと考えられており、実際に、第三相では一例も発生しなかった模様だ。

クローン病は様々なバイオ薬が発売されているが、それらの薬に反応しない患者はTysabriのような第三の作用機序の薬が必要になる。PMLリスクが小さいならMLN0002のほうが好ましいが、もし隠れたリスクがあった場合、安易に用いるのは危険だ。Tysabriの場合、長期間使えば使うほどリスクが高まるようなので、MLN0002も長期追跡データが必要だ。かといって、Tysabriのように厳重な規制の下でしか使えないようにすると、患者の治療を受ける権利が損なわれる。

医療現場の実態も踏まえた判断が必要なのでDSRMACも招集することを決めたのではないだろうか。

リンク:FDAの開催通知

FDAはEPAの心血管疾患予防効果に懐疑的

(2013年10月29日発表)

アマリン(Nasdaq:AMRN)は、SEC提出資料の中で、FDAがVascepa(icosapent ethyl)のANCHOR試験に関するSPA(特別プロトコル評価)を取り消したことを明らかにした。試験が終了し承認申請した後になって取り消されても困るが、それだけ、FDAの内部も揺れているのだろう。

Vascepaは2012年に高トリグリセライド血症(500mg/dL以上)の治療薬として承認された。ANCHORはトリグリセライド値が200~500mg/dLで心血管リスクの高いスタチン服用者を組入れた試験で、主評価項目はトリグリセライド値だった。当然のことながら成功、適応拡大申請されたが、10月の諮問委員会ではFDAも諮問委員も否定的だった。

今回のSPA取消も理由は同じで、フィブレートをテストしたACCORD-Lipid試験やナイアシンをテストしたAIM-HIGH試験とHPS2-THRIVE試験が何れもフェール、心血管疾患を防ぐ効果が確認されなかったこと。FDAは、トリグリセリドを代理マーカーと見做してトリグリセリドを低下させる薬は心血管疾患も防ぐと考えることは最早できない、と判定した。

尤もな意見で、EPAを用いた心血管アウトカム試験の結果は区々だ。日本のJELIS試験(トリグリセライドが高くない患者も対象)が成功したが、90年代に実施されたせいか併用したスタチンの用量が少なく、今日の標準療法に対する上乗せ効果は明らかではない。

Vascepaは心血管アウトカム試験が進行中だが、アマリンの財務力は決して高くなく、Vascepaの売上も低調となると、無事完遂できるかどうか心配だ。高血圧症における血圧や高脂血症におけるLDL-Cのように、代理マーカーが確立している分野は短期小規模な試験で足りるので新薬の開発が容易だが、トリグリセライドは駄目、HDL-Cは前から駄目となると、これらの領域の新薬開発は大手の独壇場になりそうだ。

リンク:アマリンのフォーム8-K

【承認】


ロシュのフコース除去抗体が米国で承認

(2013年11月1日発表)

FDAは、抗CD20フコース除去ヒト化抗体Gazyva(obinutuzumab)を慢性リンパ性白血病用薬として承認したと発表した。初めて治療を受ける患者にchlorambucilと併用する。主な有害事象は点滴関連反応、骨髄抑制(好中球減少症、血小板減少症、貧血)や筋骨格痛、発熱など。Rituxan(rituximab)など既存の抗CD20抗体と同様に、B型肝炎ウイルスの再活性化と進行性多病巣性白質脳症のリスクが枠付警告された。審査期限は12月20日だったが、1ヶ月以上前倒しで承認。

フコース除去抗体は翻訳後装飾でフコースが付与されないように工夫したもので、抗体依存的細胞傷害活性が高い。Gazyvaも第三相試験でRituxanより高い進行・死亡抑制効果を示した。日本では2012年に協和発酵キリンのポテリジオが承認されたが、米国ではGazyvaが初めて。ポテリジェントではなくロシュが05年に買収したGlycArt社の技術を用いて、CHOセルにグリコシルトランスフェラーゼを過剰発現させることによってフコースをできなくする。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


アリアドが抗癌剤の販売を一時中止

(2013年10月31日発表)

アリアド・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ARIA)は、2012年12月に米国で慢性骨髄性白血病に承認されたIclusig(ponatinib)の販売を一時的に中止すると発表した。FDAの要請に基づくもので、投与期間相関的な血栓性疾患リスクが原因だ。現在治療を受けて良好に応答している患者は、その患者だけを対象とした治験申請や早期アクセスプログラムを通じて続行することができる。

既報のように、このbcr-abl阻害剤は臨床試験の延長試験で心筋梗塞などの血栓性疾患の懸念が浮上した。今回のFDAのリリースでは発生率が更に高まり、第二相試験の追跡データではメジアン1.3年の追跡で24%、第一相は2.7年で48%。2週間で発生した例もあり、また、用量との関連性も見られなかったようで、無害量も安全に使用できる期間も不明、とのこと。有害事象は心臓発作、卒中、血行不良による末梢組織壊死、末梢・心臓・脳血管の重度狭窄と多岐に亘り致死例を含む。目で発生して失明した症例もあるようだ。

副作用リスクの評価でしばしば問題になるのが、分類方法だ。今回のケースでも心筋梗塞だけなら発生率はもっと低いはずだが、患者にとって重要なのは全体像で、個々の有害事象ではない。当然の話なのだが、学会・論文発表や企業のプレスリリースでは小分類のデータしか記されないことが少なくなく、全体像を把握するのが困難になっている。今回もアリアドが発表した段階ではそれほど重大ではないと感じたが、後にFDAが発表した数値の大きさに驚かされた。

リンク:FDAの安全性情報

リンク:アリアドのプレスリリース

今週は以上です。

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