2012年10月7日

海外医薬品ニュース週末版 2012年10月7日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • 筋ジストロフィー用薬のP2b試験が成功
  • 経口I型ゴーシェ病薬の第三相試験が成功
  • 塩野義・GSKのインテグラーゼ阻害剤の第三相試験が成功
  • MSDの週一回服用型DPP4阻害剤の後期第二相試験が成功
  • ESMO:T-DM1は延命効果も確認
  • ESMO:Herceptinのアジュバント治療は1年で十分
  • ESMO:Votrientの効果はスーテントと同程度
  • アーキュールと第一三共がc-MET阻害剤の第三相試験を打ち切り
  • ルンドベックと武田が抗うつ剤を米国でも承認申請
  • ジョンソン・エンド・ジョンソンがアステラスからJAK阻害剤をインライセンス
  • 武田薬品がノロウイルスワクチン開発会社を買収



【新薬開発】


筋ジストロフィー用薬のP2b試験が成功

(2012年10月3日)

Sarepta Therapeutics(NASDAQ: SRPT)は、AVI-4658(eteplirsen)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)後期第二相試験が成功したと発表した。Sareptaは承認申請に向けて当局と相談する構えだが、症例数が少ないので難しいだろう。GSKも類薬で第三相試験を実施しており、2014年頃には実用化されるのではないか。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーはXp21染色体上のジストロフィン遺伝子が欠損・変異していて機能せず、細胞膜の構造を維持できずに筋細胞が壊死・変性、筋力が低下する。罹患率は男の新生児の3500人に一人とのことなので、少なくない。

eteplirsenはエクソン・スキッピングという現象を誘導するオリゴマー薬。欠損・変異部位の塩基配列の翻訳が妨げられ、通常よりも短いが、ある程度は機能するジストロフィンが作られるようになる。治癒する訳ではないが、進行を遅らせることができそうだ。スキップされるのはエクソン51だが、他のエクソンに変異を持つタイプを含めて、DMD患者の13%程度に有効である模様。

このP2b試験は7歳から13歳の患者12人を偽薬、30mg/kg、50mg/kgを週一回点滴静注する3群に割付けて12週間又は24週間治療した。今回発表されたデータは、偽薬群の患者を試験薬にクロスオーバー(以下、遅延開始群)、他の群は同じ用量で合計48週間投与した試験の結果だ。ジストロフィン陽性繊維が正常値の何%に改善したか、という指標が遅延開始群38%、低用量群52%、高用量群42%と何れもベースライン値比統計的に有意に改善した。24週時点では低用量群が22%に改善しただけだった。

6MWT(6分間歩行テスト、ベースライン値は400m弱)は夫々-60m、-31m、+27mの改善となり、高用量群だけが改善した。深刻な有害事象や治療関連有害事象は発生しなかった。

効果はありそうだが、ジストロフィン量改善作用が用量相関せず、6MWT改善作用と整合的ではない。結局、症例数が少なすぎるのだろう。GSKがオランダのProsensaから世界開発販売権を取得したエクソン51スキッピング薬、PRO051/GSK2402968(drisapersen)の小規模な試験でも有効性が示唆されており、第三相試験では効果の有無ではなく程度が注目点になりそうだ。GSKの第三相試験は2013年に結果が出る見込み。

尚、Sarepta社はAVI BioPharmaが社名変更した。

リンク:Sarepta社のプレスリリース

リンク:PRO051の治験論文(Goemansら、NEJM 2011年)

経口I型ゴーシェ病薬の第三相試験が成功

(2012年10月2日)

サノフィ・グループのジェンザイムは、GENZ-112638(eliglustat tartrate)の最初の第三相試験が成功したと発表した。I型ゴーシェ病で初めて治療を受ける患者を組入れた9ヶ月間の試験で、脾臓量が平均28%減少、偽薬群(2%増加)比有意に優れていた。二次的評価項目も全て達成。深刻な有害事象は偽薬群と大差なかった由。

I型ゴーシェは同社のCerezyme(imiglucerase、和名セレザイム)のような、欠乏しているグルコセレブロシダーゼを供給してグルコシルセラミドの分解促進・蓄積防止する酵素補充療法が普及しているが、2週間に一回点滴静注する必要がある。eliglustatはグルコシルセラミドの合成に関わる酵素を阻害する新しい作用機序を持つ薬で、一日二回経口投与なので便利だ。

Cerezymeといえば米国工場で品質管理問題が発生し、世界中で供給不足になったことが記憶に新しい。eliglustatは小分子薬なので作りやすいだろう。

もう一本、酵素補充療法を受けている患者がスイッチする時の有効性を調べる1年間の試験も2013年初めに結果が判明する見込み。その後に承認申請されることになるだろう。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

塩野義・GSKのインテグラーゼ阻害剤の第三相試験が成功

(2012年10月4日)

塩野義製薬が創製しGSKとファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるViiVと共同開発しているインテグラーゼ阻害剤、S/GSK1349572(dolutegravir)の治療経験者を対象とした第三相試験が二本とも成功した。初めて治療を受ける患者の試験は既に成功しており、予定通り、年内に承認申請される見込み。

インテグラーゼ阻害剤はHIVのゲノムが宿主細胞のゲノムに取り込まれるのを防ぐ。歴史が浅いので抵抗性ウイルスが少なく、抗HIV薬の中では忍容性が良好なことが特徴だ。MSDが2007年に発売したIsentress(raltegravir、和名アイセントレス)が第一号で、ギリアッド(NASDAQ: GILD)も、日本たばこからライセンスしたelvitegravirを今年2月に米国で承認申請した。

dolutegravirは第三号になりそうだが、in vitroでIsentress抵抗性ウイルスの多くに活性を示したので、二次治療に適していそうだ。

リンク:塩野義・ViiVのプレスリリース

MSDの週一回服用型DPP4阻害剤の後期第二相試験が成功

(2012年10月3日)

MSD(米国メルク)は二型糖尿病用のDPP4阻害剤、Januvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)を他社に先駆けて発売した実績を持つ。一日二回服用なのが弱点だが、何と、週一回経口投与で済むMK-3102の後期第二相試験の成功が欧州で開催された糖尿病学会で発表された。同社のプレスリリースによると、0.25mg、1mg、3mg、10mg、25mgを週一回、12週間に亘って投与したところ、HbA1cが偽薬比平均で夫々0.28、0.50、0.49、0.67、0.71%低下、何れも統計的に有意だった。

血糖治療薬の効果は後期第二相試験でも十分確認することができるので、第三相試験の注目点は安全性だ。作用が長期間持続する薬は、服用直後の薬剤の血中濃度が高くなりがちなので、作用機序に基づく副作用がどの程度増強されるかがポイントになる。

リンク:MSDのプレスリリース

ESMO:T-DM1は延命効果も確認

(2012年10月1日)

先週はESMO(欧州の臨床腫瘍学学会)が開催され、抗癌剤絡みのニュースが多かった。新薬の白眉はロシュのT-DM1(trastuzumab emtansine)だろう。Herceptin(trastuzumab、和名ハーセプチン)治療経験を持つher2陽性転移性乳癌の患者を組入れて、PFS(無増悪生存期間)をXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)とTykerb(lapatinib、和名タイケルブ)の併用療法と比較した第三相試験のデータが発表された。

PFSはメジアン9.6ヶ月対6.4ヶ月、ハザードレシオ0.65となったことが既に発表されていた。今回発表された全生存期間の解析結果は、メジアン30.9ヶ月対25.1ヶ月、ハザードレシオ0.68。G3(重度)以上の有害事象発生率は41%対57%で、忍容性の面でも優れていた。米国で今年6月に承認申請されており、早ければ年内にも発売されそうだ。

T-DM1はHerceptinに用いられている抗体医薬にDM1という細胞毒を結合したもので、腫瘍細胞のher2に結合して細胞内に入り込むと、細胞毒が切り離されて毒性を発揮する。他の組織には作用し難いので、通常の化学療法より副作用が発生しにくい。

リンク:ロシュのプレスリリース

ESMO:Herceptinのアジュバント治療は1年で十分

(2012年10月1日)

そのHerceptinは、her2陽性早期乳癌切除後の再発予防(アジュバント)における効果が数年前に確認され、売上高が倍増した。乳癌は早期に発見・切除されるケースが増えたので転移性・再発性乳癌より患者数が多く、また、治療期間も長くなりがちだからだ。そこで問題になったのが最適な治療期間だ。高価な薬なので、医療保険機関は必要最低限に済ませたいのである。

ESMOでは、1年コースと2年コースと比較したHERA試験の結果と、半年コースと1年コースを比較した試験の結果が発表された。2年も1年も効果は同じ、半年では足りないという意外性の無い結果だった。

薬の開発は、いつ、どのような患者に、どのようにして投与するかの探索が中心で、いつ止めるかは発売後数十年経った薬でも不明なことが多い。今回の二本の試験は大変意義があり、今後も、同様な試験が活発に行われるのではないだろうか。

リンク:ロシュのプレスリリース

ESMO:Votrientの効果はスーテントと同程度

(2012年10月1日)

欧米では様々なVEGF受容体阻害剤が腎細胞腫向けに承認されているので、どれが一番よいのか気にかかる。有力なのはGSKのVorient(pazopanib、和名ヴォトリエント)とファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)と目されていたが、ESMOで発表された直接比較試験の結果はそれを裏付ける内容だった。

PFSのハザードレシオは1.047で、95%上限が非劣性マージンの1.25を下回ったため非劣性と判定された。全生存期間のハザードレシオも0.908なので大差ない。意外だったのは有害事象で、深刻例発生率はVotrientが42%、Sutentは41%と大差なく、致死例も2%対3%で大きくは変わらなかった。Votrientの肝毒性が足を引っ張ったことに加えて、Sutentが発売後6年経ち副作用を監視して必要な措置を取ることが可能になったことも差を縮めたのだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

アーキュールと第一三共がc-MET阻害剤の第三相試験を打ち切り

(2012年10月2日)

第一三共はアーキュール(NASDAQ: ARQL)からc-MET阻害剤ARQ 197(tivatinib)の欧米における開発販売権を取得、非扁平上皮性非小細胞性肺癌の二次・三次治療第三相試験を実施していたが、主評価項目である全生存期間の中間解析で無益性が判定され、中止となった。PFS(無増悪生存期間)は有意に優れていたとのことなので、やはり、PFSはアテにならないのだろう。

この試験はTarceva(erlotinib、和名タルセバ)と併用する効果をTarcevaモノセラピーと比較したもの。日本や中国などの権利を持つ協和発酵キリンの第三相試験も中断されたが、これは間質性肺疾患の発生率が増加したことが理由なので、やや意味が異なる。

TarcevaやIressaはEGFR変異型の非小細胞性肺癌に有効だが、第一三共の試験は変異の有無は不問、協和発酵キリンの試験は変異の無いEGFR野生型を対象とした。つまり、Tarcevaだけを投与した対照群の治療は今日のスタンダードから見れば劣っており、もし併用群が優れていたとしても、意義はあいまいだっただろう。

ARQ 197は第二相Tarceva併用試験で効果の兆しが見られ、注目されたが、サブセグメント分析の内容がロシュのMetMAbの同様な試験と食い違っていた。小規模な試験のサブセグメント分析はアテにならないという好例だろう。

リンク:アーキュールのプレスリリース

リンク:第一三共の10月2日付和文リリース

【承認申請】


ルンドベックと武田が抗うつ剤を米国でも承認申請

(2012年10月1日)

ルンドベックと武田薬品は2007年に新規抗うつ剤の共同開発販売で合意、Lu AA21004(vortioxetine)の第三相試験を開始したが、用量が不足したのかフェールし、2010年に増量して改めて第三相試験を開始した。今度は良い結果になった模様で、欧州に続いて、米国で承認申請された。

vortioxetineは様々な作用を持っている様子で、in vitroでは5-HT3と5-HT7を拮抗、5-HT1Aを作動、5-HT1Bを部分作動し、セロトニン輸送体を阻害した。当初は1mgから10mgを一日一回経口投与する用法でフェーズIII入りしたが、5mgまでしか投与しなかった米国試験が二本ともフェールし、承認申請を断念した。

追加試験では主として10mgから20mgをテストして偽薬比有意な効果を確認、5mgから20mgの用量で承認申請に至った。忍容性が気になるが、有害事象による治験離脱率は6.5%と偽薬群の3.8%をやや上回る程度だった。

抗うつ剤に限らず中枢神経系の新薬開発は苦戦しており、投資を抑制する会社も出る中で、vortioxetineの成功は意義がある。

リンク:ルンドベックと武田のプレスリリース

【製薬会社の動き】


ジョンソン・エンド・ジョンソンがアステラスからJAK阻害剤をインライセンス

(2012年10月1日)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、アステラス製薬からASP015Kの日本以外での開発販売権を取得した。一日一回経口投与のJAK阻害剤で、プラク乾癬のプルーフ・オブ・コンセプト試験でPASIスコアが用量依存的に改善したとのこと。現在は中重度リウマチ性関節炎でP2b試験中。その後はジョンソン・エンド・ジョンソンが開発費を負担する。契約頭金6500万ドル、達成報奨金が売上達成報奨金も含めて8.8億ドルなので、おそらく、ピーク年商5-9億ドルを見込んでいるのだろう。

JAKはインターロイキン受容体の川下で機能する酵素で、阻害すると炎症・免疫を抑制することができる。ファイザーが昨年、tofacitinibを抗リウマチ薬として承認申請した。強力な免疫抑制作用を持つため、ファイザーは当初、臓器移植後の拒絶反応防止薬として開発していた。Prografを持つアステラスも同じだったかもしれない。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

武田薬品がノロウイルスワクチン開発会社を買収

(2012年10月4日)

武田薬品は、米国のLigoCyte Pharmaceuticalsと買収で合意した。ノロウイルスワクチンなどを開発しており、注目される。

ノロウイルスは様々な経路で感染し少量でも胃腸炎などを引き起こす。米国では年7万人が入院。発展途上国では5歳以下の子供が年20万人死亡するという。

LigoCyteが第1/2相試験を行っているワクチンは、ウイルス表面の感染性の無いパーティクル(VLP)を抗原として、GSKからライセンスしたMPLアジュバントを添加したもの。筋注用液と点鼻用ドライパウダーの二種類の製剤があるようだ。

2011年に77人の小規模なウイルス暴露試験の論文が刊行された。Norwalk型ウイルスのワクチンを3週間おいて二回、点鼻投与し、3週後に生ウイルスに暴露したところ、Norwalk型ウイルス誘導性胃腸炎の発症率が37%と、偽薬群の69%の半分に留まった。

リンク:LigoCyteのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:Atmarらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

今週は以上です。

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