2021年10月9日

第1020回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • アストラゼネカ、抗体カクテルを感染予防薬として申請 
  • EMA、追加接種を緩く承認 
  • JNJもブースター接種を申請
  • その他の領域: 
  • 乳児神経軸索ジストロフィーの第2/3相試験が成功 
  • リンヴォックの体軸性脊椎関節炎試験が成功 
  • ロフルミラストの新製剤を乾癬に承認申請 
  • FDA諮問委員会、武田の抗CMV薬の承認を支持 
  • C5a受容体拮抗剤がANCA血管炎に承認 


【COVID-19関連】


アストラゼネカ、抗体カクテルを感染予防薬として申請
(2021年10月5日発表)

アストラゼネカはAZD7442(tixagevimab、cilgavimab)を症候性COVID-19感染症の予防薬としてEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請した。二種類の抗SARS-CoV-2抗体のカクテルで、効果が通常の4倍長く続くことと、自己注も可能な筋注用薬であることが特徴。

第3相試験は曝露後予防(過去8日間に感染者に暴露した人が対象)と曝露前予防(ワクチン接種や感染歴がなく接種しても応答が弱そうな人や感染リスクの高い人が対象)が行われ、前者はフェールしたが後者が成功。300mgを一回筋注した群の183日症候性感染は偽薬群より77%少なかった(95%信頼区間46-90)。重症感染症はゼロ(偽薬群は3人、うち2人は死亡)。

テネシー州のVanderbilt University Medical Centerが特定した抗体をベースに、アストラゼネカが半減期を延長し抗体依存的疾病増強リスクを抑制する改変を行った。in vitroでデルタ株にも活性を示した。米国政府の助成を受けており、EUA後に70万回分を7億ドル強で供給することに合意している。

感染予防の第一選択はワクチンだが、免疫低下疾患や免疫抑制療法を受けている患者は十分な免疫を獲得できないかもしれない。AZD7442はそのような人の選択肢の一つになり得る。今回の試験は半年しか追跡していないので、抗体の半減期だけでなく感染予防効果も一年続くかどうか未だ分からないが、ワクチンの効果の持続期間も想定より短そうなので、当面は大きな問題にはならないだろう。

問題は、費用対効果だ。BioNTech/ファイザーやModernaのワクチンの価格は、地域や開発補助金授受状況などにより異なるが、欧米では二回接種で32~50ドル程度である模様だ。抗体医薬のほうが20倍以上高い。

AZD7442も将来的に治療に適応拡大する可能性があるだろう。治療薬の相場と比べれば1000ドルは決して高くない。リジェネロン・ファーマシューティカルズの抗SARS-CoV-2抗体カクテルは治療薬として承認されているが、一人分が2000ドル強と報じられている。MSDは米国政府とポリメラーゼ阻害剤molnupiravirの供給で合意しているが、補助金を貰っているせいか、かつまた政府一括納入で販売管理費が少なくて済むせいか、調達価格は1コース700ドルと低くなっている。ギリアド・サイエンシズが米国政府を通さずに販売するremdesivirは一人3100ドル(5日コース)と報じられている。

しかし、最初の用途が予防となると、治療より投与しないリスクが小さいため、費用対効果が大きく変わってくる。上記試験で、偽薬群の感染率は1%程度、試験薬群は0.2%程度と推測されるので、number needed to treat(NNT)は125。曝露後予防試験は、フェールしたとはいえ、NNTは67だった。今回の試験で死亡リスクを100%抑制したのは立派だが、有意性は不明で、NNTは850と大きい。

リンク: 同社のプレスリリース



EMA、追加接種を緩く承認
(2021年10月4日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、重度免疫不全の人にBioNTech/ファイザーのComirnaty(tozinameran、和名コミナティ)やModerna(Nasdaq:MRNA)のSpikevaxを追加接種することを承認した。二回目から28日以上経ってから接種する。Comirnatyに関しては二回目から6ヶ月以上経った18歳以上の全人口にも承認した。但し、プレスリリースの表現は、重度免疫不全は『接種してもよい』(may be given)、18歳以上の全員は『考慮しても良い』(may be considered)と謙虚なものになっている。EMAやECDC(欧州疾病予防管理センター)は人口全体に追加接種する必要はないと考えているが、EU加盟国の一部は既にブースター・ショットを高齢者など向けに開始しているため、中道的な言い方にならざるを得なかったのだろう。

リンク: EMAのプレスリリース



JNJもブースター接種を申請
(2021年10月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、COVID-19のブースター接種をEUAするようFDAに申請した。56日後に筋注する。二回目の接種の14日後からメジアン36日間追跡したENSENBLE 2試験では、中等症以上の感染症が二回偽薬接種群より75%少なかった(米国は94%、米国外の施設では75%)。重症以上の感染症は100%少なかった。

リンク: JNJのプレスリリース


【新薬開発】


乳児神経軸索ジストロフィーの第2/3相試験が成功(?)
(2021年10月6日発表)

米国カリフォルニア州の新興企業、Retrotopeは、RT001の第2/3相INAD(乳児神経軸索ジストロフィー)試験の結果概要を公表した。症状改善効果などには有意な差はなかったが、副次的評価項目であるPFS(無進行生存期間)や全生存期間の解析でp値が0.05を下回った。今後の開発方針についてFDAと相談する考え。もし承認申請が認められるようならば眉のツバを拭き取るべきだろう。

INADはPLA2G6遺伝子の変異による深刻な常染色体劣性遺伝性疾患。多価不飽和脂肪酸が脂肪過酸化反応により分解されて生じる毒性副産物が除去されずに蓄積する。RT001は安定化リノール酸エチルエステルで、フリードライヒ運動失調症でも第2/3相、進行性核上麻痺、筋萎縮性側索硬化症などに第2相試験中。

INAD試験は19人の患者に960mgカプセルを一日4個、経口投与し、1年以上追跡した。深刻な超希少疾患であることから偽薬群は設けず、ベースライン時点の患者背景がマッチする自然歴36例を対照群とした。主評価項目のAshworth Spasticity Scaleは対照群比6.42ランク・ポイント改善したがp=0.14と、サンプルサイズが小さいせいか、フェール。他の副次的評価項目もフェールしたが、同じく副次的評価項目に設定された、PFSはハザードレシオ0.175、p=0.021、全生存期間は0.112、p=0.014、試験薬群の死亡率は11%、対照群は31%と、主評価項目がフェールなので統計的に有意とは言えないが、好ましい数値になった。

超希少疾患なので厳格な試験を望むのは難しく、この程度の試験で真贋を判定しなければならないが、生死は支持療法なども関係するので、個々の症例を精査して第三の因子が関与していないことを確かめる必要がある。自然歴データは過去の文献や特定の医療施設での症例に基づくことが多いが、今回は出所すら明記されていない。

リンク: 同社のプレスリリース



リンヴォックの体軸性脊椎関節炎試験が成功
(2021年10月7日発表)

アッヴィは、JAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)の二本の第3相体軸性脊椎関節炎試験が成功したと発表した。活性期強直性脊椎炎は第2/3相試験データに基づき欧州では既に承認、日米でも承認申請中だが、今回、小分子薬だけでなくバイオ薬にも十分応答しない患者(n=420)のエビデンスもできた。第14週におけるASAS(Assessment in SpondyloArthritis International Society)40達成率は45%と偽薬群の23%を有意に上回った。バイオ薬歴を持たない患者を組入れた第2/3相では52%対26%だったので、概ね似たような結果だ。

強直性脊椎炎はX線基準を満たす体軸性脊椎関節炎(r-axSpA)と呼ばれることが増えた。症状が類似しているがX線所見のない、非X線体軸性脊椎関節炎(nr-axSpA)と対照して分類するためだ。Rinvoqはこのnr-axSpAを組入れた第3相(n=313)でもASAS40が45%と偽薬群の23%を有意に上回った。

忍容性は、両試験とも、深刻有害事象が2.8%と偽薬群(r-axSpA試験は0.5%、nr-axSpA試験は1.3%)より多かった。COVID-19やブドウ膜炎、腎盂腎炎など感染症が増加した。一方、MACE(主要心臓有害事象)やVTE(静脈血栓塞栓)は見られなかった。用量が15mg一日一回と、米国でも承認されている低用量であることや、投与期間が14週と長くないことなども影響しているのではないか。

FDAは今年9月、炎症性疾患の治療に承認されているJAK阻害剤3製品(Xeljanz、Rinvoq、Olumiant)について、深刻な心臓関連事象や感染症、癌の警告を強化し、全適応症に関して、TNF阻害剤に不応不耐の患者に限定した。JAK阻害剤はアトピー性皮膚炎や円形脱毛症など様々な用途に承認申請されているが、FDAは酷く念入りに審査しており、多くの案件の審査期限が超過してしまっている。Rinvoqのr-axSpA適応拡大も遅れ遅れになっているが、治験対象はバイオ薬ナイーブだったので、FDAの新しい適応範囲と合致しない。もし承認されなかったら、今回のデータで修正承認申請することができるだろう。

リンク: アッヴィのプレスリリース(非X線所見体軸性脊椎関節炎)
リンク: 同(強直性関節炎)


【承認申請】


ロフルミラストの新製剤を乾癬に承認申請
(2021年10月4日発表)

米国カリフォルニア州の新興企業、Arcutis Biotherapeutics(Nasdaq:ARQT)は、ARQ-151(roflumilast)を成人の中重度尋常性乾癬治療薬としてFDAに承認申請した。0.3%クリームを患部に一日一回塗布した第3相試験二本では、IGA奏効率が一本は42%(偽薬群は6%)、もう一本は37%(同6%)だった。PASI-75は40%前後で、市販後に競合するであろう薬を比べても見栄えがする。有害事象は下痢が若干増える程度。

roflumilastはドイツのAltanaがCOPDの吸入用薬Daxasとして実用化したPDE4阻害剤。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、武田の抗CMV薬の承認を支持
(2021年10月8日発表)

FDAはAMDAC(抗微生物薬諮問委員会)を招集し、武田薬品が造血幹細胞や臓器の移植後に発症しがちな難治CMV(サイトメガロウイルス)感染症の治療薬として承認申請したTAK-620(maribavir)について意見を求めた。17人の委員全員が便益が危険を上回る(承認に値する)と判定した。年内に承認されるのではないか。

第3相試験では400mgを一日2回、8週間投与したところ、ウイルス消失奏効率が55.7%と、医師の選んだ実薬(ganciclovir、valganciclovir、foscarnetまたはcidofovir。併用も可)を用いた群の23.9%を有意に上回った。治療時発現有害事象による治験離脱率が13.2%と対照群の31.9%より低かった。治療時発現深刻有害事象により各群1名が死亡した(本試験は2:1割付)。

この試験では試験薬群の被験者の5割、対照群の6割が、実薬4剤に抵抗性を持つ遺伝子型のウイルスに感染していた。FDAは、抵抗型と非抵抗型の夫々について便益危険バランスを問うたが、どちらも全員一致で賛成だった。

CMV治療薬はポリメラーゼ阻害剤が多いがmarivirはCMVのUL97プロテインキナーゼを阻害する、新作用機序を持っている。ウイルス増殖の複数のプロセスに介入するため抵抗変異に強く、また、忍容性が比較的良い。

03年にViroPharmaがグラクソ・ウエルカムからライセンス、造血幹細胞移植後CMV感染を治療する第3相を行ったが、用量が100mg一日2回と少なかったせいか、6ヶ月再発率が4.4%と偽薬群の4.8%と大差なかった。13年にViroPharmaを買収したシャイアが改めて第3相を行い、遂に成功した。武田は19年にシャイアを買収した。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


【承認】


C5a受容体拮抗剤がANCA血管炎に承認
(2021年10月8日発表)

米国カリフォルニア州の新興企業、ChemoCentryx(Nasdaq:CCXI)は、FDAがTAVNEOS(avacopan)を重症活動期ANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎の治療薬として承認したと発表した。コルチコステロイドなどの標準療法を受けている、顕微鏡的多発血管炎(MPA)や多発血管炎性肉芽腫症(GPA)の患者に追加投与する。

ANCA関連血管炎は補体系の過剰亢進により好中球が異常活性化、血管に損傷を与え、腎障害などの臓器障害をもたらす。欧米の患者数は10万人と推測されている。Tavneosは補体系のC5aの受容体を阻害する経口剤。第3相試験ではrituximabまたはcyclophosphamideベースの治療レジメンをベースに、30mgを一日二回投与する群と、prednisoneを漸減法で加える群を比較したところ、26週寛解率が非劣性だった。シーケンシャルに行われた52週持続寛解率の解析も、まず非劣性解析が成功、次に優越性解析もp=0.0066と成功した。eGFRの改善やQOL指標も上回った。両群ともステロイドの使用が認められていたが、試験薬群のほうがステロイド関連有害事象が少なかった。

5月に開催された諮問委員会の見解は分かれた。薬効のエビデンスに関しては9人が支持、9人が不十分と判定。安全性は10人が支持、8人が不十分。便益が危険を上回るかどうかについても10人が支持、8人が反対した。バックグラウンド・レジメンや寛解判定尺度の選択に関して議論の余地があることや肝毒性などが影響したようだ。

レーベルには肝毒性、深刻な過敏反応(血管浮腫など)、B型肝炎ウイルスの再燃、深刻な感染症が警告・注意事項として記されている。

米国外の商業化権はFresenius SE(Xetra:FRE)とVifor Pharma(SIX:VIFN)の合弁会社が保有しており、日本ではサブライセンシーであるキッセイ薬品が9月にタブネオス名で製造販売承認を取得した。欧州でも承認審査中。

リンク: ChemoCentryxのプレスリリース





今週は以上です。

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