【ニュース・ヘッドライン】
- 薬も塩分控え目が良い
- ケネディ長官、ACIPの委員全員を入れ替え
- ファビハルタはHb≧10g/dLにも有効
- ソーティクツの乾癬性関節炎適応拡大試験が成功
- MSD、経口PCSK9阻害剤の第3相が成功
- GSK、iBAT阻害剤をPBCに承認申請
- Jazz、ポリメラーゼII阻害剤を承認申請
- esreboxetineは承認申請が受理されず
- ブーレンレップは諮問委員会上程へ
- DMD細胞療法の諮問委員会はキャンセル
- 経口カリクレイン阻害剤の承認審査が遅延
- エムレスビアの適応年齢が拡大
- キイトルーダを頭頚部癌の周術期療法として承認
- 膀胱内注入用マイトマイシンが膀胱癌に承認
- Nuvation社のROS1阻害剤が承認
- MSD、RSV予防薬が承認
- FDA、胃癌や食道癌における抗PD-1抗体の適応範囲を見直し
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【今週の話題】
薬も塩分控え目が良い
(2025年6月9日発表)
Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は特許切れするナルコレプシー治療薬Xyrem(sodium oxybate)の後継として20年に米国でXywav(calcium、magnesium、potassium、sodium oxybates)を発売した。カッコ内が賑やかだが最大の特徴はナトリウムが92%少なく、AHA(米国心臓協会)が推奨するナトリウム摂取目標の2.3g/日(食塩なら5.8g)、心血管疾患高リスクでは1.5g/日(同3.8g)という目標を達成するのに大きな妨げにならないこと。推奨用量である6~9gを服用する場合、Xyremはナトリウムを1.1~1.6g/日摂取することになり、Xywavより1.0~1.5g/日多くなる。
このカタログ・スペックの差が血圧にどう影響するか、調べたXYLO試験の結果がSLEEP学会で発表された。sodium oxybate服用中のナルコレプシー患者43人をXyrem群とXywav群に無作為化割付けして6週間後の血圧を比較したところ、24時間携帯血圧計では4.1mmHgの差(132.3mmHg対128.2mmHg)、オフィス測定では9.2mmHgの差があった。薬も塩分控えめのほうが健康に良いという分かりやすいデータだ。
リンク: 同社のプレスリリース
ケネディ長官、ACIPの委員全員を入れ替え
(2025年6月9日発表)
米HHS(保健福祉省)は、Robert F. Kennedy長官のイニシアティブで、傘下のCDC(疾病管理予防センター)におけるACIP(ワクチン接種諮問委員会)の常任委員17人を解任したと発表した。後任を選定中で、長官は6月11日にX(SNS)で8人の概要を明らかにした。6月25~27日に開催される次回のACIPまでにどれだけ集まるか、注目される。アジェンダの一つと報じられている、MSDのRSV下部気道疾患予防薬(後記)も注目だ。
解任の理由は必ずしも明らかではない。長官は傘下組織における利益相反懸念をしばしば指摘しているが、具体的に何が問題なのか、今回のリリースには記されていない。17人中13人はバイデン大統領時代の2024年に選任され任期が長く残っていることに言及しており、政権交代以降に様々な政府組織で断行された、残滓除去行動の一環に過ぎないようにも感じられる。
AMA(米国医師会)など多くの医療関連団体が解任に抗議の意を表明している。CDCの過去そして現在の役職員からもKennedy長官の退任を求める声が上がっている模様。上記8人には反ワクチンで知られる人もいる模様で、更なる物議を呼んでいる。
リンク: HHSのプレスリリース
【新薬開発】
ファビハルタはHb≧10g/dLにも有効
(2025年6月12日発表)
ノバルティスは昨年12月にPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)治療薬Fabhalta(iptacopan)の後期第3相APPULSE-PNH試験がポジティブな結果になったと発表したが、データがEHA(欧州血液学会)会議で発表された。抗C5抗体による治療に応答しヘモグロビン値が10g/dL以上のPNH患者52人を組入れて、全員Fabhaltaにスイッチし24週投与したところ、ヘモグロビン値が平均2.01g/dL上昇し、輸血は発生しなかった。
この可逆的B因子阻害剤はヘモグロビン値が10g/dL未満で抗C5抗体に応答不十分、または未治療の、患者を組入れた臨床試験に基づき、23~24年に米欧日で承認された。経口投与(一日二回)できる初のPNH用薬だ。米欧では適応が10g/dL未満に限定されていないが、エビデンスができたのは意義がある。日本では抗C5抗体に十分応答しない患者に使用するよう添付文書に注記されているが、限定解除の道が開けるのだろうか?
リンク: 同社のプレスリリース
ソーティクツの乾癬性関節炎適応拡大試験が成功
(2025年6月11日発表)
ブリストル マイヤーズ スクイブは、アロステリックTYK2阻害剤Sotyktu(deucravacitinib)の第3相乾癬性関節炎、POETYK PsA-1の成績をEULAR(欧州リウマチ学会)で発表した。バイオ薬未経験の患者を偽薬群と6mg一日一回経口投与群に無作為化割付けして16週のACR20を比較したところ、各群34.1%と54.2%となり、奏効率に有意な差があった。3月に発表された、TNF阻害剤歴のある患者も組み入れたPOETYK PsA-2試験(39.4%と54.2%)と似たような結果だ。副次的評価項目のうちPASI75は、夫々、7.1%対51.9%と15.4%対40.9%で、今回の方が差が大きい。今回の試験の深刻有害事象発生率は2.4%対1.8%、有害事象治験離脱率は1.8%と2.4%で両群大差なかった。
22~23年に米日欧で中重度尋常性乾癬治療薬として承認されている。日本法人は6月に乾癬性関節炎の一変申請したと発表しているが、欧米でも申請されたのではないか。
リンク: BMSのプレスリリース
MSD、経口PCSK9阻害剤の第3相が成功
(2025年6月9日発表)
MSDはMK-0616(enlicitide decanoate)の第3相試験二本で主目的を達成したと発表した。LDL-C受容体を零落させるPCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)を標的とするコレステロール治療薬で、アムジェンのRepatha(evolocumab)などの抗体医薬とは異なり、大環状ペプチド薬で経口投与できる。承認申請に向かうのだろうか?
一本はCORALreef HeFH。アテローム硬化性心血管疾患を合併またはそのリスクがありスタチン治療を受けているHeFH(ヘテロ接合性家族性高脂血症)の患者に20mg錠または偽薬を一日一回投与し、24週LDL-Cを比較した。統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があったとのこと。もう一本はCORALreef AddOn。類似した内容だが、HeFH以外の高脂血症患者を、20mg錠群、ezetimibe群、ATPクエン酸リアーゼ阻害剤bempedoic acid群、ezetimibe・bempedoic acid併用群に無作為化割付けした。対照3群の何れと比べても統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった。有害事象や深刻有害事象は大差なかった。数値は学会などで発表する。
デカン酸ではなく塩化物を用いた後期第2相では、6、12、18、30mg各群のLDL-Cが偽薬調整後で41~61%低下した。この試験はスタチンを服用していない患者も組入れており、LDL-Cのベースライン平均値が119.5mg/dLと第3相の組入れ基準上限より高かった。第3相では効果がもう少し低く出ているかもしれない。
米国の製薬会社は、IRA(インフレ抑制法)に基づき、売上高上位の医薬品を値下げしなければならない。製薬業界は新薬開発の妨げになると反対しているが、MSDも、場合によってはアウトカム試験の結果が出るまでMK-0616を発売しないかもしれないと報じられたことがある。その第3相0CORALreef Outcomes試験の結果は29年11月頃に判明する見込みなので、承認申請が遅くなる可能性もありそうだ。尚、ClinicalTrials.govによると日本は上記2試験には参加していないがアウトカム試験には参加している。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
GSK、iBAT阻害剤をPBCに承認申請
(2025年6月2日発表)
GSKはGSK2330672(linerixibat)を原発性胆汁性胆管炎(PBC)における胆汁鬱滞性掻痒症の治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は26年3月24日。欧中日でも年内には承認申請されるのではないか。
iBAT(回腸胆汁酸輸送体)やナトリウム胆汁酸共輸送体の阻害薬。欧米中日の施設で中重度胆汁鬱滞性掻痒症を伴う238人を組入れた第3相標準療法アドオン試験、GLISTENで、第24週の月間掻痒尺度(WI-NRS、レンジは0~10)が2.86点低下し、偽薬群の2.13点低下と有意な差があった。胃腸有害事象による治験離脱率は各群4%と1%未満で、それほど増えなかった。
iBAT阻害剤はAlbireo Pharma(Nasdaq:ALBO)のBylvay(odevixibat)やMirum PharmaceuticalsのLivmarli(maralixibat)が米国などで承認されているが、適応はアラジール症候群などで異なる。
リンク: GSKのプレスリリース
Jazz、ポリメラーゼII阻害剤を承認申請
(2025年6月10日発表)
Jazz Pharmaceuticalsは米国でZepzelca(lurbinectedin)の適応拡大を申請し受理されたと発表した。優先審査を受け審査期限は25年10月7日。
海洋生物から抗癌活性を持つ物質を発掘しているスペインのPharmaMarから米国の権利を得た、ポリメラーゼII阻害剤で、2020年に米国で治療歴のある転移小細胞性肺癌向けに加速承認された。今回の申請は、ロシュがメイン・スポンサーとなりJazzも資金拠出した第3相IMforte試験に基づくもの。進展型小細胞性肺癌でロシュの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)と化学療法の併用一次治療を受け進行しなくなった患者の維持療法としてTecentriqと併用したところ、メジアン生存期間が13.2ヶ月とTecentriqだけの群の10.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73だった。G3/4治療関連有害事象の発生率は25.6%対5.8%で上回った。
加速承認時のフェーズIVコミットメントであった第3相化学療法併用試験がフェールし前途が危ぶまれたが、代替策として選ばれた二本の一つであるIMforte試験が成功したことで、本承認切替の道も開けただろう。
リンク: Jazzのプレスリリース
esreboxetineは承認申請が受理されず
(2025年6月9日発表)
米国ニュー・ヨーク州のAxsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、esreboxetineを線維筋痛症治療薬として承認申請したが受理されなかったと発表した。エビデンスとして12週間の固定用量試験と8週間の用量変動試験を一本ずつ提出したが、不十分と見做されたため、年内にもう一本、12週固定用量試験を開始する考え。
ファルマシアが開発したノルエピネフィリン再取込阻害剤reboxetineのS異性体。reboxetineは97年に欧州で抗鬱剤として承認されたが、米国ではフェールした試験もあったため承認されなかった(英語版Wikipediaにはprovisionally approved by FDAと記されているが、FDAから受領したのはapprovable letter、つまり、承認不可より承認のほうに近いが未だ承認しないという通知である。紛らわしい名称であり、私は、承認可能なら承認すれば良いでしょうと皮肉を書いたことがある)。
ファルマシアを買収したファイザーはesreboxetineの線維筋痛症試験を成功させたが承認申請はせず、2020年にreboxetineと共に権利をAxsomeにライセンスアウトした。Axsomeは22年に承認申請する考えだったが、23年に遅れ、更に24年に遅れ、結局、3年遅れになった。ClnicalTrials.govには一本しか試験登録されておらず、おそらく、Axsome自身は第3相試験を実施していなかったのだろう。
リンク: Axsome社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
ブーレンレップは諮問委員会上程へ、
(2025年6月13日公表)
GSKが承認申請したBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)が7月17日の腫瘍学薬諮問委員会に上程されることが明らかになった。米国連邦政府官報の6月13日付事前縦覧版に掲載されている。PDUFA(処方薬ユーザー・フィー法)に基づく審査期限は7月23日だが、遅延する可能性が高そうだ。
多発骨髄腫などで高発現するBCMA(B細胞成熟抗原)を標的とするポテリジェント抗体薬物複合体。20年に難治・再発多発骨髄腫のサルベージ療法として米国で加速承認、EUで条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため、米国は23年に、EUは24年に、承認取消/失効となった。皮肉なことに、前後して第3相試験が二本成功し、今年5月に日本で初承認、EUでCHMP(医薬品科学的評価委員会)が肯定的意見を纏めたところ。米国でも順調に承認されると思っていただけに、このタイミングで諮問委員会が発表されたのは意外だ。
治験成績を概観すると、加速/条件付き承認のエビデンスは5次治療における単剤投与試験、DREAMM-2。ORRが31%、その73%は6ヶ月以上持続した。フェールした第3相DREAMM-3試験は、3次治療を受ける患者を組入れて、2.5mg/kgを3週毎投与する便益をpomalidomide・低量dexamethasone群と比較した。PFS(無進行生存期間)のメジアン値は各群11.2ヶ月と7ヶ月と上回ったが、ハザードレシオは1.03で有意差なし。22年当時の発表によると、全生存期間の解析は未成熟だが、メジアン値は21.2ヶ月と21.1ヶ月、ハザードレシオ1.14だった。
成功したのは一次以上の治療歴を持つ多発骨髄腫を組入れた二本の併用試験。第3相DREAMM-7試験はbortezomib及び低量dexamethasoneと併用する第3の薬としての便益をdaratumumabと比較、同DREAMM-8試験はpomalidomide及び低量dexamethasoneと併用する第3の薬としての便益をbortezomibと比較した。前者は中間解析でPFSを達成、メジアン値は36.6ヶ月と13.4ヶ月、ハザードレシオ0.41、全生存期間は後に目標達成、メジアン値は両群未到達だがハザードレシオは0.58、3年生存率は74%と60%だった。後者も中間解析でPFSを達成、メジアン値は未到達、対照群は12.7ヶ月、ハザードレシオは0.52。24年3月の成功発表時点では全生存期間の解析は未成熟だったが、ハザードレシオ0.77(95%信頼区間0.53-1.14)、1年生存率は83%と76%だった。
リンク: 米国連邦政府官報(6/13事前縦覧版、日本時間6/14アクセス)
DMD細胞療法の諮問委員会はキャンセル
(2025年6月11日発表)
米国の医薬品開発企業、Capricor Therapeutics(Nasdaq:CAPR)は24年12月に他家cardiosphere由来細胞療法のCAP-1002(deramiocel)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬としてFDAに承認申請し、優先審査を受けている。5月にFDAから諮問委員会上程の可能性を通知され、6月11日に7月30日に開催されることを発表したが、直後にキャンセルされた。上記の、米国連邦政府官報の6月13日付事前縦覧版に掲載された。理由は不明だが、前例では、FDAの見解に納得できず申請内容を見直したり追加エビデンスを取得したりといった、好ましくない出来事が起きていることが多いように感じられる。
申請のエビデンスは10歳以上の上腕機能の中程度以上の低下を伴う患者20人を組入れた第2相偽薬対照試験。3か月毎に4回点滴静注したところ、上腕機能が偽薬比有意に改善した。このデータと自然歴の対照試験も提出した。第3相は同社のロサンジェルス工場製造品を用いるコフォートが24年第4四半期に盲検解除となったが、サン・ディエゴ工場品のコフォートBが未だだったため結果は公表されていない。タイミング的にはデータが出揃っていても不思議はないので、何か影響しているのかもしれない。但し、6月11日付のプレス・リリースを読む限りでは何か問題が生じたようには思われないが。
CAP-1002は心筋を含む他家心細胞塊由来の細胞医療製品。エクソソーム(細胞外小胞)が分泌され、炎症・線維化の低減や筋細胞生成を通じて、運動機能や心機能を改善するとされる。日本新薬が欧米における独占販売権を保有している。
リンク: Capricorのプレスリリース(6/11付)
経口カリクレイン阻害剤の承認審査が遅延
(2025年6月13日発表)
カルビスタ ファーマシューティカルズ(Nasdaq:KALV)はKVD900(sebetralstat)を遺伝性血管浮腫の治療薬として開発し、24年6月に米国で12歳以上の患者向けに承認申請、8月にはEUで申請受理され、今年1月には日本(科研製薬が販売予定)でも承認申請した。米国の審査期限は6月17日だが、4日前にFDAから結果連絡が4週ほど遅延する旨の連絡を受けた。FDA側の仕事量が多く、リソース不足で間に合わない由。効果や安全性に関する懸念は指摘されていない模様。
経口血漿カリクレイン阻害剤。増悪治療試験で症状改善までの時間が300mg群は1.61時間、600mg群は1.79時間となり偽薬群の6.72時間を大きく下回った。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
エムレスビアの適応年齢が拡大
(2025年6月12日発表)
モデルナは、FDAがRSVワクチンmResviaの適応範囲拡大を承認したと発表した。24年に60歳以上向けに承認されたが、18~59歳でRSウイルスに感染すると重症化するリスクが高い患者にも用いることができるようになった。ACIP(疾病管理予防センターのワクチン接種諮問委員会)は、委員全員が解任される前の4月に、50~59歳の高リスクに接種勧奨するよう勧告済み。
A型RSVやB型RSVに対する中和抗体価算術平均比が60歳以上を対象とした試験のデータと非劣性だった。同社は優先審査バウチャを用いて、シーズン入り前の承認を獲得した。
リンク: 同社のプレスリリース
キイトルーダを頭頚部癌の周術期療法として承認
(2025年6月12日発表)
FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)を成人のPD-L1陽性(CPS≧1)切除可能局所進行(ステージIII-IVA)の頭頚部扁平上皮腫(HNSCC)に適応拡大した。エビデンスとなる第3相KeyNote-689試験でCPS≧1のサブグループはEFS(無イベント生存期間、盲検独立中央評価)のメジアン値が59.7ヶ月とKeytrudaを用いなかった群の29.6ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.7だった。全生存期間は未成熟だが、悪い傾向は見られていない。
この試験はPD-L1を発現していない患者も組み入れて、CPS≧10サブグループ、CPS≧1サブグループ、全集団の3カテゴリーにおける便益を検討した。EFSのハザードレシオは、夫々、0.66、0.70、0.73だった。解析順位はCPS≧10が一番のように思えるが、FDAは1を閾値とした。
治験では200mgを3週サイクルで、切除術前は2サイクル、術後は放射線療法(高リスク患者はcisplatin併用可)とともに3サイクル、その後は単剤を12サイクル、施行した。FDAは400mg6週毎投与も認めた。
この適応拡大は日本でも3月に申請された。
リンク: FDAのプレスリリース
膀胱内注入用マイトマイシンが膀胱癌に承認
(2025年6月12日発表)
FDAはUroGen Pharma(Nasdaq:URGN)のZusduri(mitomycin)を成人の再発性LG-IR-NMIBC(低グレード中等度リスク筋層非浸潤膀胱癌)に承認した。75mg/56mLを週次で6回、膀胱内に点滴注入する。注入後15分でゲル化し、数時間に亘り薬剤を放出する。TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)後に再発した患者240人を組入れた単群試験で、第3月完全反応率が78%、その79%は反応が12ヶ月以上持続した。深刻有害事象の発生率は12%だった。
5月の諮問委員会では、既存のエビデンスだけでは便益が危険を上回るとは言えないと判定した委員が9人中5人と意見が分かれた。TURBT併用試験が資金不足により途中中止され、上記単群試験だけが主エビデンスであることが響いたようだ。
同社は類薬であるJelmyto(mitomycin)も20年に成人の低グレード上部尿路上皮癌に承認された。腎盂造影で薬剤が満たされるのを確認するまで注入を続ける用法なので、膀胱癌に関しては今回のほうが簡便だ。
リンク: FDAのプレスリリース
Nuvation社のROS1阻害剤が承認
(2025年6月11日発表)
FDAはNuvation Bio(NYSE:NUVB)のIbtrozi(taletrectinib)を局所進行/転移ROS1陽性非小細胞性肺癌用薬として承認した。空腹時に600mgを一日一回、経口服用する。中国で行われたTRUST-I試験と日韓中米のTRUST-II試験でROS1チロシン・キナーゼ阻害剤未治療の患者におけるORR(客観的反応率、独立中央評価)が各90%と85%となり、夫々、反応者の72%と63%は12ヶ月以上持続した。一剤だけ治療歴のある患者では各52%と62%となり、夫々74%と83%は6ヶ月以上持続した。警告注意事項は肝毒性、間質性肺疾患/肺臓炎、QTc延長など。
24年に合併したAnHeart Therapeuticsが18年に第一三共からライセンスたもの。中国ではライセンシーのInnovent Biologicsが24年12月に承認を取得した。
リンク: FDAのプレスリリース
MSD、RSV予防薬が承認
(2025年6月9日発表)
MSDはFDAがEnflonsia(clesrovimab-cfor、開発コードMK-1654)をRSウイルス(RSV)による下部気道感染症の予防薬として承認したと発表した。アストラゼネカが開発しサノフィが販売しているBeyfortus(nirsevimab)と同様な抗RSV-F蛋白抗体だが、結合部位が異なるようだ。適応になるのは最初のRSVシーズンを迎える新生児と乳幼児。105mgを一回、筋注する。第3相試験で投与後150日間の発症リスクが偽薬比60%小さく、RSV関連入院リスクは84%小さかった。
Beyfortusは2回目のRSVシーズンを迎える幼児でも、早産児や心臓や肺の慢性疾患などを持ちRSV感染時に重症化するリスクがあれば用いることができる。MSDが初年度に絞ったのは、2年目の需要は小さいと考えたのだろうか?
Enflonsiaは6月25~27日のACIP(米疾病管理予防センターのワクチン接種諮問委員会)に上程される模様。委員が総入れ替えになり、ワクチンに必ずしも前向きでない現政権下で、どのような人選、どのような議論が行われるのか、心配だ。
リンク: MSDのプレスリリース
FDA、胃癌や食道癌における抗PD-1抗体の適応範囲を見直し
(2025年5月22-23日)
FDAは、ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)とMSDのKeytruda(pembrolizumab)の胃癌や食道癌における一部の適応範囲を見直し、PD-L1陽性のみに限定した。大盤振る舞い感があったが合理的な線に落ち着いた。
Opdivoは、まず、21年4月に加速承認された、進行/転移性の胃癌、胃食道接合部癌、食道腺腫における化学療法併用一次治療。エビデンスであるCheckMate-649試験の後顧的解析でPD-L1発現検査の指標の一つであるCPSが1未満のサブグループにおける全生存期間のハザードレシオが0.85となり、統計的に有意ではなかった。1以上のサブグループでは0.77で有意だった。
この試験は元々、サブグループ分析の閾値を1ではなく5としている。EUは21年10月に適応拡大を認めたが、対象はCPS≧5に限定された。日本はPD-L1限定していないが、添付文書記載のサブグループデータを見ると5未満の患者に有効であるようには感じられない(但し、FDAが用いたデータは若干異なっている)。
次に、切除不能進行/難治/転移性の食道扁平上皮腫における化学療法またはYervoy(ipilimumab)併用一次治療。PD-L1陽性に限定された。CheckMate-648試験の後顧的解析で化学療法併用群の全生存期間のハザードレシオがCPSが1未満のサブグループでは0.98、1以上では0.69となり、Yervoy併用群対化学療法群の比較でも、各1.0と0.76で対照的だったため。
EUは22年にPD-L1陽性に限定して承認している。日本は限定していないが添付文書に載っているデータを見れば陰性に有効とは感じられない。
Keytrudaも概ね同様な適応縮小が行われた。her2陰性の局所進行切除不能/転移性胃・胃食道接合部腺腫における化学療法併用一次治療はPD-L1陽性(CPS≧1)のみに限定。EUは23年にCPS≧1限定で承認。日本は限定していないがサブグループ・データを見れば有望とは思わないだろう。
転移/局所進行・化学放射線療法不適な食道・胃食道接合部腫瘍における化学療法併用一次治療も陽性(CPS≧1)に限定。EUは21年にCPS≧10に限定して承認、日本は限定しておらず、サブグループ・データが記されていないのでCPS10未満における有効性を知ることができない。エビデンスであるKeyNote-590試験における全被験者の全生存期間ハザードレシオは0.73だが、米国のレーベルによると、CPS≧10のサブグループでは0.62(95%信頼区間0.49-0.78)、10未満の後顧的解析では0.86(同0.68-1.10)と明暗が分かれた。FDAが独自解析したCPS≧1サブグループでは0.71(0.59-0.84)だった。1未満の数値は掲載されていないが、昨年9月の腫瘍学薬諮問委員会でFDAが示したデータは1.00だった。
FDAがなぜ閾値を1にしたのか明らかではないが、おそらく、Opdivoや、上記諮問委員会で議論され今年3月に承認されたBeone(百済神州)の抗PD-1抗体Tevimbra(tislelizumab-jsgr)と平仄を合わせたのだろう。
リンク: FDAのBMS宛て変更承認通知(5/23付)
リンク: 同、MSD宛て変更承認通知(5/22付)
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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25/6推 | UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症) |
25/6/17 | KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫) |
25/6/19 | ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防) |
25/6/20 | GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版) |
25/6/20 | Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加) |
25/6/27 | SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群) |
25/6/30 | Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病) |
25/7推 | JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫) |
25/7推 | Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC) |
25/7/10 | Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫) |
25/7/12 | 第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC) |
25/7/20 | ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療) |
25/7/22 | ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫) |
25/7/23 | GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫) |
25/7/29 | PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症) |
25/7/30 | Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫) |
諮問委員会 | |
25/7/17 | ODAC:GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫) |
今週は以上です。