2018年3月25日

2018年3月25日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • テセントリクの肺癌一次治療試験成功 
  • CHMPがPARP阻害剤などの販売承認を支持 
  • FDAがアドセトリスの適応拡大を承認 
  • GSK、シングリックスが欧州でも承認 


【新薬開発】


テセントリクの肺癌一次治療試験成功
(2018年3月19日発表)

ロシュとジェネンテックは、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の第三相IMpower131試験のPFS(無進行生存期間)解析が成功したと発表した。末期扁平上皮性非小細胞性肺癌の一次治療としてcarboplatin及びAbraxane(アルブミン懸濁型paclitaxel、和名アブラキサン)と併用する群(B群)をcarboplatinとAbraxaneだけの群(C群)と比較した試験で、もう一つの主評価項目である全生存期間はまだ中間解析段階で有意差は出ていない。

欲張った試験で、carboplatin及びpaclitaxelと併用する群(A群)とC群のPFS、そして全生存期間の解析も主評価項目に設定されており、上記二項目の解析が成功したら、シーケンシャルに実施されることになる。

二次的評価項目としてPD-L1発現度に基づくサブグループ分析も行われる予定。

抗PD-1/PD-L1療法の肺癌試験は区々な結果になっており、それが薬のせいなのか、組入れ基準や試験デザイン、実施方法のせいなのか、判然としない状態が続いている。今回はまだ数値すら発表されていないので、主評価項目の解析が終了し詳細が公表されるまで、何とも言いようがない。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMPがPARP阻害剤などの販売承認を支持
(2018年3月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、3月の会合で、クロビス・オンコロジー(Nasdaq:CLVS)のPARP阻害剤などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。一方で、Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)のXa阻害剤などが否定的意見となった。また、EPA/DHAの心血管疾患再発予防効果の再検討を開始したことも明らかにされた。

リンク: EMAのプレスリリース

クロビスのPARP阻害剤、Rubraca(rucaparib)は卵巣癌の三次治療薬。BRCA遺伝子に生殖細胞系あるいは体細胞系有害変異を持ち、過去の治療でプラチナ薬に感受したがこれ以上繰り返すのは忍容できない患者に用いる。臨床試験では反応率が54%、メジアン反応持続期間は9.2ヶ月だった。生殖細胞系BRCA変異は卵巣癌の約18%、体細胞系BRCA変異は約7%とされる。

BRCAは遺伝子の複製ミスを修正するメカニズムに関与している。複製ミスは頻繁に発生するため、修正できないと癌のリスクが高まる。PARP(ポリ(ADP-リボーズ)ポリメラーゼ)も別の複製ミス修正メカニズムに関与している。癌細胞は細胞分裂に伴う遺伝子複製が活発に行われ、それだけミスも積み重なりやすいので、BRCA変異患者のPARPを阻害することによって、癌細胞の増殖を妨げることができる。

興味深いのはPARP阻害剤の効用は必ずしもBRCA変異に依存しないことだ。Rubracaはプラチナ感受性卵巣癌二次治療後維持療法試験が成功したが、BRCA変異のない患者でもPFSが長期化した。今後、Rubracaや他社のPARP阻害剤のエビデンスが積み重なれば、これがクラスイフェクトなのか、Rubracaだけなのか、はたまた偶然の悪戯なのか、明らかになるだろう。

クロビスは2011年にファイザーから世界開発販売権を取得した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: クロビスのプレスリリース

ヴィーヴヘルスケアのJulucaも肯定的意見を受けた。インテグラーゼ阻害剤のTivicay(dolutegravir)とジョンソンエンドジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤、Edurant(rilpivirine)の活性成分を配合しており、HIV/AIDSの維持療法に用いる。

HIV/AIDSはHAART(高度積極的抗レトロウイルス療法)と呼ばれる多剤併用療法が主流だが、Julucaは二種類だけで足りることが最大の特徴。ウイルスを6ヶ月以上抑制できていて、インテグラーゼ阻害剤や非核酸系逆転写阻害剤に抵抗性のない患者がスイッチできる。米国でも承認審査中。

ヴィーヴ社はグラクソ・スミスクラインとファイザーのHIV/AIDS事業を統合した合弁会社で、今では塩野義製薬も加わっているので、Julucaは4社相乗り製品ということになる。HAARTはプロテアーゼ阻害剤のように毎日たくさんのピルを服用しなければならないレジメンもあるため、患者支援団体や医師が相乗り合剤の開発を製薬会社に呼び掛けた。製薬会社にとっても、先進国や途上国における高薬価批判などにより事業としての魅力が低下したことなどを背景に、事業機会の最大化を求めて相乗りに応じる会社が増加した。

今日では、アルツハイマー病用薬では開発リスク・シェアリングを目的として、抗癌剤では多様な癌種や併用法における開発スピードアップのため、合従連衡が珍しくなくなった。日本の製薬会社も静観してはいられない。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ヴィーヴ社のプレスリリース

適応拡大では、Cabometyx(cabozantinib)を転移性腎細胞腫の一次治療に用いることが支持された。リスク評価が中等度以上の症例が対象になる。第二相のSutent(sunitinib)対照試験では、メジアンPFSが8.2ヶ月とSutent群の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69だった。

Exelixis(Nasdaq:EXEL)の開発品で、欧州はイプセンが開発販売権を持っている。腎細胞腫の再発治療薬として12年に米国で、14年には欧州でも承認された。日本は武田薬品が開発中。

リンク: EMAのプレスリリース

アムジェンの抗PCSK9完全ヒト化抗体、Repatha(evolocumab)の心血管リスク削減効果も支持された。確立したアテローム性心疾患で忍容最大量のスタチンを服用している患者が適応になる。エビデンスのFOURIER試験では主評価項目(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院、冠血行再建術)のリスクが偽薬比15%低下した。

リンク: EMAのプレスリリース

否定的意見を受けたPortola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)のXa阻害剤は、Dexxience(betrixaban)。米国では昨年6月にBevyxxa名で承認されている。一昨年来、FDAの承認のハードルが下がったような印象だが、EMAは厳しくなったのか、評価の食い違い例が増えている。

Xa阻害剤は先行品が多いせいか、Portolaは急性心不全や脳卒中、肺炎などにより入院した75歳以上で静脈血栓塞栓リスクが高い患者を組入れてAPEX試験を実施、35~47日間経口投与の予防効果をenoxaparinの6~14日間皮注コースと比較した。複数の主評価項目のうち一部のサブグループだけを対象とした最初の解析がフェールしたため、2番目のサブグループ分析のp値が0.029、3番目の全集団の解析がp=0.006となったのに、無為になってしまった。

薬ではなく治験がフェールした、典型的な事例と思われるが、統計学的にはフェールはフェールである。Xa阻害剤の血栓予防効果は出血リスクと裏腹なので、便益と危険のバランスを評価しなければならない。CHMPは統計学的な挙証が不十分であることや、出血リスクを重視した。Portolaは再審査を要求する考え。

Portolaは2002年にミレニアム・ファーマスーティカルズがCor Therapeuticsを買収した時にCorからスピンアウトした会社で、betrixabanはミレニアム時代はMLN-1021という開発コードで呼ばれていた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Portolaのプレスリリース

Radius Health(Nasdaq:RDUS)のEladynos(abaloparatide)も米国では昨年4月にTymlos名で承認されたがCHMPは否定的意見となった。ヒト副甲状腺ホルモン関連ペプチド(1-34)で、遺伝子組換え型ヒト副甲状腺ホルモン(1-34)であるイーライリリーや旭化成のteriparatide(テリパラチド)と同様に造骨細胞増強作用を持ち、閉経後骨粗鬆症の治療に用いる。

米国のレーベルでは骨肉腫のリスクが枠付き警告されていて、2年以上の投与は推奨しない旨が記されているが、これはteriparatideも同じであり、teriparatideをリコールしないのならabaloparatideを承認しないと不公平、と考えることもできる。

CHMPの問題意識は、臨床試験実施施設のうち2ヶ所でcGCP(臨床試験基準)違反が発覚し治験データの信憑性が損なわれたことや心毒性の懸念だった。日米欧の承認審査機関は情報提供協定を結んでいるので査察結果はFDAも理解しているはずであり、なぜ欧米で判断が分かれたのか、不思議だ。Radius社は再審査請求する考え。

リンク: EMAのプレスリリース(pdfファイル)
リンク: Radius社のプレスリリース

スペインのPharmaMar(マドリッド証券取引所:PHM)は16年にAplidin(plitidepsin)を多発骨髄腫四次治療薬として承認申請し、昨年12月に否定的意見を得た。再審請求が認められたものの、結局、評価を覆すことはできなかった。臨床試験でメジアンPFSが1ヶ月しか延びなかったことや延命効果が確立していないこと、そして、深刻な副作用が増加することが理由。

リンク: EMAのプレスリリース

アムジェンがAranesp(darbepoetin alfa)の適応拡大申請を撤回したことも公表された。骨髄異形成症候群による貧血の治療に用いるもので、CHMPは、二本の試験のうち一本はデザイン変更や除外症例の多さなどの問題がありもう一本は欧州の医療風土と異なった治療を受けていることから、薬効の挙証が不十分とみなしていた模様だ。

リンク: EMAのプレスリリース

さて、EMAはオメガ3脂肪酸(EPAやDHA)製剤を心臓発作の再発予防に使うことに関して再検討を開始したと発表した。今年、JAMA Cardiology誌に刊行されたAungらのメタアナリシスによると、心筋梗塞や脳卒中などの心臓循環器問題を防ぐ効果は確認されなかった。過去にも同様な研究結果が発表されている。このため、スエーデンの承認審査機関がEMAに危険と便益の再評価を求めたもの。

米国と比べると欧州はEPA/DHAの再発予防効果に肯定的だったが、いよいよ、再検討に踏み切ったことになる。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Aungらの論文(JAMA Cardiol 2018)


【承認】


FDAがアドセトリスの適応拡大を承認
(2018年3月20日発表)

FDAは、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を古典的ホジキン型リンパ腫の一次治療に用いる適応拡大を承認した。ステージIIIまたはIVの患者に化学療法と併用する。標準的療法であるABVD四剤併用レジメンとbleomycinに代えてAdcetrisを用いる四剤併用を比較した臨床試験では、2年無進行生存率が各77.2%と82.1%でABVDレジメンを上回った。

FDAのプレスリリース リンク:
リンク:
シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

GSK、シングリックスが欧州でも承認
(2018年3月23日発表)

グラクソ・スミスクラインは、帯状疱疹ワクチンのShingrixが欧州で承認されたと発表した。米国では昨年10月、日本でも今月、承認されている。既存製品であるMSDのZostavaxが弱毒化生ワクチンであるのに対して、ShingrixはVZV gE抗原とMPLアジュバントを用いた遺伝子組換え型ワクチンで、免疫力が低下していてワクチン効果が小さくなりがちな70代でも高い予防効果が得られることが長所。50歳から適応になる。

リンク: GSKのプレスリリース







今週は以上です。

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2018年3月18日

2018年3月18日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • アレクシオン、長期作用性C5阻害薬の第三相が成功 
  • MSD、キイトルーダを子宮頚癌に適応拡大申請 
  • ACC:フェブリクは死亡リスクを高める可能性 


【新薬開発】


アレクシオン、長期作用性C5阻害薬の第三相が成功
(2018年3月15日発表)

カナダのアレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、ALXN1210の第三相PNH(発作性夜間血色素尿症)治療試験が成功したと発表した。他の試験の結果を待って今年下期に日米欧で承認申請する考え。

ALXN1210は同社のSoliris(eculizumab、和名ソリリス)と同様にC5に結合する抗体医薬で、補体カスケードの後半過程をブロックし、赤血球が破壊されるのを防ぐ。終末半減期がSolirisの3~4倍と長いことが特徴。

今回の第三相はC5阻害薬による治療を受けていない患者に対する効果や安全性をSolirisと比較した。ALXN1210は8週毎、Solirisは最初の4回は毎週、その後は2週毎に、26週間に亘って点滴静注投与した。結果は、共同主評価項目(輸血回避とLDH正常化)と二次的評価項目(4項目)の全てで非劣性解析が成功。解析計画に則ってブレークスルー溶血の優越性解析に進み、数値上は各4.0%と10.7%で良好だったが、p値は0.074となり、フェールした。

C5阻害薬による治療を受けている患者を組入れたもう一本の第三相非劣性試験は第2四半期(4-6月)に、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の第三相は第4四半期に、それぞれ判明する見込み。

リンク: アレクシオンのプレスリリース


【承認申請】


MSD、キイトルーダを子宮頚癌に適応拡大申請
(2018年3月13日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を子宮頚癌の二次治療に用いる適応拡大をFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は6月28日。様々な癌種を組入れた第二相試験、KEYNOTE-158試験に基づく申請とのこと(データは未発表なのではないだろうか)。

抗PD-1抗体は様々な癌に有効性を示しており、Keytrudaは今回で14回目の承認申請受理となる。

リンク: MSDのプレスリリース


【医薬品の安全性】


ACC:フェブリクは死亡リスクを高める可能性
(2018年3月12日発表)

痛風患者の高尿酸血治療薬であるUloric(febuxostat、欧州名Adenuric、和名フェブリク)は米国で09年に、日本でも11年に承認された。臨床試験で心血管有害事象の発生頻度が既存薬であるallopurinol群より高かったため、武田薬品が痛風と心血管疾患を持つ約6190人を組入れてallopurinol対照心血管アウトカム試験、CARESを実施。結果をACC(米国心臓学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。

主評価項目(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定性狭心症による緊急血行再建術の複合評価項目)で非劣性だったのは良かったが、何故か、Uloric群は死亡者が多かった。全死亡のハザードレシオは1.22、p=0.04、うち心血管死は1.34、p=0.03。心血管死のNumber-needed-to-harmは91なので、100人に投与すると心血管疾患によって死亡する人が一人以上増加する計算になる。昨年11月にFDAが安全性情報を発出済みなのでサプライズではないが、残念な結果だ。

Uloricは帝人が創製、国内では帝人ファーマが、北米では武田が、欧州では帝人と包括提携しているIpsenやそのサブライセンシーであるMerariniが開発販売している。Allopurinolと異なり排出経路が腎だけではないため腎機能低下患者にも使いやすく、過敏反応リスクが小さいことが長所だが、価格はGE薬化したallopurinolのほうが安いため、専ら、allopurinol不適不耐患者に用いられている様子だ。

リンク: Whiteらの治験論文(DOI: 10.1056/NEJMoa1710895)
リンク: FDAが昨年11月に発出した安全性情報





今週は以上です。

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2018年3月11日

2018年3月11日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC:プラルエントもMACEを15%削減 
  • 新作用機序コレステロール治療薬の第三相が成功 
  • シャイアが便秘治療薬を米国でも承認申請 
  • 新作用機序の抗HIV薬が承認 
  • オプジーボの4週毎投与が承認 
  • EMA:ゾーフィゴをザイティガと併用するな 


【新薬開発】


ACC:プラルエントもMACEを15%削減
(2018年3月10日発表)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発販売している抗PCSK9フルヒト化抗体、Praluent(alirocumab、和名プラルエント)の心血管アウトカム試験の結果がACC米国心臓学会で発表された。同じメカニズムを持つアムジェンのRepatha(evolocumab、和名レパーサ)と同様に、MACE(主要有害心血管イベント)を偽薬比15%削減した。

事前に計画されていた、LDL-Cのベースライン値に基づくサブグループ分析では、100mg/dL以上のサブグループでは相対リスク削減24%とより良い結果が出たが、80~100mg/dLサブグループでは4%のみ、80mg/dL未満でも14%削減に留まり、効果は判然としなかった。

コレステロール治療の目標はコレステロール値を下げることではなくMACEを削減することなので、今回のODYSSEY OUTCOMES試験の成功によって、Praluentの臨床的な便益が初めて確立したと言えるだろう。尤も、この試験のNumber-needed-to-treatは60と決して高くない。薬剤費を掛けたDollar-needed-to-treatは200万ドル前後に達する。

そのせいか、両社は、値下げに応じる用意があることを表明した。LDL-C値が100mg/dL以上の患者について、医療の費用対効果評価機関であるICERの評価(高リスク患者で年4500~8000ドル)を念頭に置いて交渉する考えの模様だ。これは米国の話で、日本など海外での対応は不明。

ODYSSEY OUTCOMES試験は急性冠症候群を発症してから1~12ヶ月経った、スタチンの最大耐容量を服用してもLDL-Cが70mg/dL以上の患者18924人をPraluent群と偽薬群に無作為化割付けしてMACE発生リスクを比較した。MACEは冠状心疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、または不安定狭心症による入院。Praluent群は75mg(二週間に一回皮注)で開始、LDL-C値が50mg/dL以上に留まる場合は150mgに、25mg/dL未満に下がったら偽薬に、盲検を維持したままスイッチした。

LDL-C値のベースライン値は87mg/dL、一年後には群間で54mg/dLの差が生じた。スタチンの臨床試験ではLDL-C低下幅とMACE削減率の間に相関性が見られるが、PraluentのLDL-C低下幅とMACE削減率の関係はスタチンのデータがおおむね当てはまる。相対リスク削減15%というのは大方の予想通りの結果である。

Repathaの試験と比べて良かったのは全死亡のハザードレシオが0.85、nominal p=0.026と、統計学的には有意とは言えないが数値上はよい結果が出たこと。但し、冠状心疾患による死亡のハザードレシオは0.92と大したことないので、解釈が難しい。

リンク: サノフィのプレスリリース
リンク: 同(価格改定について)

新作用機序コレステロール治療薬の第三相が成功
(2018年3月7日発表)

エスペリオン(Nasdaq:ESPR)は、ETC-1002(bempedoic acid)の第三相試験成功を発表した。今回の試験はハードルが低いので、5月以降に結果が判明する二本や2021年頃と想定される心血管アウトカム試験のデータが注目される。

ETC-1002はコレステロール生合成パスウェイに関与するATPクエン酸リアーゼ(ACL)を阻害する小分子薬。LDL受容体をアップレギュレートする作用もある由。

今回の第三相試験の対象は、アテローム硬化性心血管疾患でLDL-C値が高く、ezetimibeによる治療を受けても十分に下がらない患者。スタチン併用者は最低用量以外は除外。269人をETC-1002(180mg、一日一回経口投与)または偽薬に2対1割付けして12週間のLDL-C値の変化を観察したところ、試験薬群の23%低下に対して偽薬群は5%上昇し、治療効果は28%だった。

hsCRPは各33%低下と2%上昇。面白いことに、LDL-C低下はrosuvastatinのほうが大きく、抗IL-1ベータ抗体のcanakinumabは殆ど下がらないのだが、hsCRP低下は三剤とも同程度になっている。

さて、今回の試験が今一つなのは、中高量スタチンを併用している患者が対象外であることだ。

コレステロール治療の新薬の出番は、中高量スタチンを服用してもLDL-C値が十分下がらない患者の需要だ。最近のコレステロール治療ガイドラインの中にはLDL-C値の目標値を定めていないものもある。スタチンのアウトカム試験では、「Treat-to-Target」的な治療方針ではなく特定のブランドの特定の用量を忍容する限り投与し続ける手法が採用されているからだろう。

「下がらぬなら下げて見せようLDL-C値」という考え方はコンセンサスではなくなったのである。同時に、重要なのは使用する薬でありLDL-C値が下がればどれでもよい訳ではない、という考え方も広がっている。

同社はezetimibe配合剤も並行して開発しているのでezetimibe併用試験が商業的に重要なのだが、患者にとっては中高量スタチンに追加する用途のほうが大事なのではないか?

この点で注目されるのは、ezetimibeと最大耐容量のスタチンを併用する患者に追加投与する二本の第三相だ。atorvastatinの最大用量(80mg)に追加した試験ではLDL-Cがあまり下がらなかったので、結果は今回より見劣りするかもしれない。

会社側は2019年に欧米で承認申請する計画。

リンク: エスペリオンのプレスリリース


【承認申請】


シャイアが便秘治療薬を米国でも承認申請
(2018年3月5日発表)

シャイアはSHP555(prucalopride)を米国で慢性便秘治療薬として承認申請し受理されたことを発表した。審査期限は来年2月21日。

欧州ではResolor名で09年に承認されている。8年遅れの理由は、2000年に販売中止になったPropulsid/Prepulsid(cisapride)の類薬だからだろう。ライセンス元はPropulsidの販売会社であったジョンソンエンドジョンソンで、Resolorは5HT3阻害作用は持たないが5HT4受容体作動は共通する。Propulsidは不整脈や突然死のリスクさえなければ貴重な選択肢だった。もしResolorが安全ならライセンスアウトされなかっただろう。

シャイアは欧州などでの市販後薬物監視データなども活用してFDAを説得する考え。

リンク: シャイアのプレスリリース


【承認】


新作用機序の抗HIV薬が承認
(2018年3月6日発表)

FDAは、TaiMed Biologics(TPEX:TaiMed)のTrogarzo(ibalizumab-uiyk)をHIV/AIDS治療薬として承認した。多剤抵抗性のウイルスに感染していて現在の治療がフェールし始めている患者に用いる。

HIVはCD4陽性T細胞に感染して増殖する。TrogarzoはCD4の細胞外第二ドメインに結合するIgG4型モノクローナル抗体で、ウイルスがCD4に結合した後のプロセスを妨げる、ポスト・アタッチメント・エントリー・インヒビターとされる。

Tanox社が臨床入りさせたが経営が悪化しジェネンテックに買収された。TaiMedはHIV研究の先駆者やTanox出身者などが台湾政府の助成を受けて設立した新興企業で、07年にジェネンテックから権利を取得、16~17年に欧米での販売流通権をTheratechnologies(TSX:TX)に供与した。生産は医薬品開発生産受託会社であるWuXi Biologics(2269.HK)が行う。中国産のバイオ薬が米国で承認されたのは初。

第三相試験(n=40、対照群なし)ではモノセラピーで2000mgを点滴静注したところ、7日後の奏効率(ウイルス量が0.5log10以上減少)が8割を超えた。最適バックグラウンドセラピーと併用で維持療法(800mgを二週間に一回投与)を行ったところ、24週間で1.6log10減少、43%の患者で検知不能(50コピー/mL未満)になった。主な深刻有害事象はラッシュや免疫再構築症候群。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: TaiMedのプレスリリース
リンク: Theratechnologiesのプレスリリース

オプジーボの4週毎投与が承認
(2018年3月6日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を四週間に一回投与する新用法がFDAに承認されたと発表した。240mgを二週間に一回点滴静注する用法の代替策で、一回に480mgを投与する。忍容性で問題がなければ、手間を省くことができるので都合がよいが、Opdivoの用量はがん種や併用薬によって異なり複雑なので、間違えないように注意しなければならない。

リンク: BMSのプレスリリース


【医薬品の安全性】


EMA:ゾーフィゴをザイティガと併用するな
(2018年3月9日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、バイエルの放射線核種薬Xofigo(radium-223 dichloride、和名ゾーフィゴ)をジョンソンエンドジョンソンのZytiga(abiraterone、和名ザイティガ)及びprednisoneと併用しないよう勧告した。

何れも前立腺癌治療薬として承認されているが、転移性去勢抵抗性キモナイーブの前立腺癌に対する併用効果を検討した第三相試験で骨損壊や全死亡がZytiga・prednisoneだけの群より多く発生した。発表によると、三剤併用群の死亡率は34.7%、偽薬群は28.2%、骨損壊発生率は各26%対8%。EMAはリスクと便益を再評価中で、今回の勧告は暫定的な措置とのこと。EMAはXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)との併用が確立していないことにも言及している。

この件は昨年11月にバイエルが公表しているが、他の試験ではこのようなリスクは観察されていない由であり、判然としない。EMAの結論だけでなく、FDAや日本がどう評価するかも注目だ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: バイエルの昨年のプレスリリース




今週は以上です。

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2018年3月4日

2018年3月4日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 塩野義、TPO受容体作動剤を欧米で承認申請 
  • シャイア、アスパラギン枯渇剤を承認申請 
  • Portola社、新薬二品の承認が遅延 
  • セルジーン、多発硬化症用薬の承認申請が受理されず 
  • アラガン、子宮筋腫治療薬の審査期限が延期 
  • リリーのCDK4/6阻害剤による一次治療が承認 
  • ロシュのヘムライブラがEUでも承認 
  • バイオジェン、Zinbrytaの販売を中止 


【承認申請】


塩野義、TPO受容体作動剤を欧米で承認申請
(2018年2月27日発表)

塩野義製薬は、Mulpleta(lusutrombopag、和名ムルプレタ)を欧米で承認申請し、受理された。米国は優先審査を受け、審査期限は8月26日。適応は、15年承認の日本と同じ、観血的手技を受ける慢性肝疾患患者における血小板減少症の改善。

トロンボポエチン受容体作動薬で、肝臓で生産されるトロンボポエチンに代わって巨核球の受容体を作動しJAK/STAシグナル伝達を刺激、巨核球が血小板に分化するのを促進する。類薬はノバルティスのPromacta(eltrombopag olamine、和名レボレード、欧州名Revolade)が特発性血小板減少性紫斑症などに承認されている。

リンク: 塩野義のプレスリリース(pdfファイル)

シャイア、アスパラギン枯渇剤を承認申請
(2018年2月28日発表)

シャイアは、SHP663(calaspargase pegol)を米国で承認申請し、受理された。審査期限は12月22日。急性リンパ性白血病の併用レジメンの一部として承認されているアスパラギン枯渇剤、Oncaspar(pegaspargase)の類薬で、薬効や安全性は同じだが、有効期間が長い。

リンク: シャイアのプレスリリース


【承認審査・委員会】


Portola社、新薬二品の承認が遅延
(2018年2月28日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、経口Xa阻害剤のBevyxxa(betrixaban)と遺伝子組換え型ヒトXa因子のAndexXa/IndexXa(andexanet alfa)を開発、欧米で承認申請し、前者は米国で昨年6月に承認されたが、残りは難航していることが決算報告書や決算電話会議で明らかにされた。

Bevyxxaは、急性疾患で入院中の患者の静脈血栓塞栓を予防する用途で承認申請したが、欧州薬品審査機関EMAの医薬品科学的評価委員会であるCHMPから、暫定的な採決が否定的な結果になった("negative trend vote")旨の連絡を受けた。3月の会議で正式決定の予定だが、否定的意見になりそうだ。

andexanet alfaはXa阻害剤の解毒剤で、出血事故などが発生し止血が必要な時に点滴静注する。米国では15年に承認申請されたが、生産体制や解毒対象となるXa阻害剤の範囲などボトルネックとなり、二巡目の審査も審査期限が2月2日から5月4日に3ヶ月延期された。一方、欧州は、CHMPの暫定的採決が肯定的な結果になった("positive trend vote")ものの、質問項目が追加されたため、正式採決は今年第4四半期に遅れる見込み。

どちらも理由は明言されていない。後者は薬効・安全性の裏付けであるANNEXA-4試験が単群試験であること、安全性面では血栓イベント発生率が18%と比較的高く、被験者の15%に当たる10人が死亡しこのうち6人が心血管疾患死であること、生産効率を改善するための新生産プロセスの承認申請が予定されていること、などが背景と推測される。

リンク: Portola社の2017年度決算報告(Form 10-K)

セルジーン、多発硬化症用薬の承認申請が受理されず
(2018年2月27日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は昨年12月にozanimodを再発型多発硬化症の維持療法薬として米国で承認申請したが、FDAから承認拒否通知(Refusal to File letter)を受領した。前臨床や薬理学に関するデータが不十分と判定された。どのような情報を追加提出すればよいのか、FDAと会合を持って相談する考え。

ノバルティス/田辺三菱製薬の多発硬化症薬Gilenya(fingolimod)と同様なスフィンゴシン 1-リン酸受容体調節剤で、受容体1型及び5型に対する選択性が高いため、心臓や血球に与える影響が小さい可能性がある。15年にReceptos社を72億ドルで買収して入手したコンパウンド。

セルジーンはサリドマイドやレナリドミドなどの多発骨髄腫用薬が大成功、新興製薬会社の代表格の一つとなったが、今やレナリドミドのパテント・クリフに直面。企業買収やインライセンスを積極化したが、二番煎じや三番煎じが多く、また、今回のように、失望的なニュースが連発している。かってのビッグファーマの轍に嵌ったかのようだ。

リンク: セルジーンのプレスリリース

アラガン、子宮筋腫治療薬の審査期限が延期
(2018年2月28日発表)

アラガン(NYSE:AGN)はulipristal acetateを子宮筋腫の不正出血治療薬として米国で承認申請中だが、FDAから審査期限を5月から8月に、3ヶ月間延期する旨の通知を受けたと発表した。内容は不明だが、欧州の薬物監視委員会であるPRACが安全性を再検討しているのと同じだろう。

フランスのLaboratorie HRA Pharmaからライセンスした選択的プロゲスチン受容体調節剤で、12年にEsmya名で摘出術までの繋ぎに使う薬として承認され、15年には間歇的ながら長期治療することも承認された。欧州ではGedeon Richterが開発販売する。

PRCAが検討しているのは肝毒性。これまでに深刻な肝臓障害が5例報告され、うち4例は肝移植を受けた。投与実績は約70万人なので発生頻度は低いが、類薬が存在する中、敢えて使用する価値があるのかが論点になる。EMAは暫定的な措置として新たな治療を開始しないよう勧告した。

リンク: アラガンのプレスリリース


【承認】


リリーのCDK4/6阻害剤による一次治療が承認
(2018年2月26日発表)

FDAは、イーライリリーのVerzenio(abemaciclib)を転移性乳癌の一次治療に用いる適応拡大を承認した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の閉経後乳癌に、アロマターゼ阻害剤と併用する。

細胞周期進行に関わる酵素であるCDK4/6を阻害する経口薬で一日二回服用する。17年に内分泌療法及び化学療法歴を持つ患者に承認され、今回、一次治療薬に昇格した。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン28.2ヶ月と、アロマターゼ阻害剤だけの群の14.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.54、統計学的に有意だった。

CDK4/6阻害剤は先行品が複数存在するので開発・販売競争は激しそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

ロシュのヘムライブラがEUでも承認
(2018年2月27日発表)

ロシュは、EUがHemlibra(emicizumab、和名ヘムライブラ)の販売を承認したと発表した。インヒビターを持つA型血友病の出血予防に用いる。中外製薬が創製した、血液凝固第IX因子と第X因子に結合する二重特異性ヒト化抗体で、A型血友病患者で欠乏する第VIII因子に代わって、第IX因子による第X因子の活性化を架橋する。

インヒビターは第VIII因子に対する抗体のことで、A型血友病の標準治療法である第VIII因子補充療法が効かない。治療手段が限られているので画期的新薬の登場は好材料。持たない患者を組入れた試験も成功しており、やがて対象患者拡大が承認されるだろう。歴史が浅い分、第VIII因子のシェアを大きく奪うのは難しそうだが、予防的ルーチン投与に関しては週一回皮注と簡便であることが長所になる。

リンク: ロシュのプレスリリース


【医薬品の安全性】


バイオジェン、Zinbrytaの販売を中止
(2018年3月2日発表)

バイオジェンは、多発硬化症維持療法薬Zinbryta(daclizumab)の販売ライセンスを自主的に返上し、全世界で販売中止すると発表した。

IL-2受容体のアルファチェーンであるCD25を標的とする抗体医薬で、ロシュが臓器移植後の拒絶反応抑制剤として開発、1997年にZenapaxとして承認されたが、2008~10年にかけて、商業上の理由で販売中止となった。

その後、創製者であるPDL BioPharmaが多発硬化症領域での臨床試験と皮注製剤の開発に成功、16年に欧米でZinbrytaとして承認されたが、その当時から懸念されていた自己免疫性肝障害に加えて、ドイツで7例、スペインで1例の深刻炎症性脳障害が報告され、。結局、Zenapaxと同じ命運になってしまった。

尚、バイオジェンはPDLからインライセンス、そのPDLは分社化された新薬開発部門がアッヴィに買収されたため、バイオジェンとアッヴィが共同販促していた。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: バイオジェンのプレスリリース






今週は以上です。

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