2020年10月31日

第971回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:リジェネロンも抗体医薬の入院患者試験組入れを部分停止 
  • COVID-19:リジェネロンの抗体医薬の外来治療試験が成功 
  • アッヴィ、老眼治療薬を承認申請へ 
  • ファイザー、JAK1阻害剤をアトピー性皮膚炎に承認申請 
  • リジェネロン/サノフィ、抗PD-1抗体をNSCLC1Lに承認申請 
  • 第一三共/アストラゼネカ、米国でもエンハーツを胃癌に効能追加申請 
  • JNJ、Xareltoを下肢血行再建術後血栓予防に適応拡大申請 
  • ドライアイのステロイド治療薬が承認 


【今週の話題】


COVID-19:リジェネロンも抗体医薬の入院患者試験組入れを部分停止
(2020年10月30日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は二種類の抗SARS-CoV-2抗体のカクテルであるREGN-COV2を軽中等症外来患者や中等症重症入院患者の治療、そして濃厚接触者などの暴露後予防に第2/3相や第3相試験を実施中。外来治療試験は仮説検証的コフォートの解析が良好な結果になったことが発表された(次項参照)が、中等重症入院患者試験は独立データ監視委員会がハイフロー酸素投与や人工呼吸器装着コフォートの新規組み入れを一時停止するよう勧告した。安全性に係るシグナルが見られたため。ローフロー酸素投与や酸素投与不要患者のコフォートの組入れは継続する。また、外来治療試験については組入れ停止勧告していない。

イーライリリーの抗SARS-CoV-2抗体医薬、LY-CoV555(bamlanivimab)も、NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)主導の入院患者試験、ACTIV-3の新規組入れが中止になった。元々はREGN-COV2と同様に安全性懸念が生じて組入れ停止になったのだが、精査の結果、安全性面での顕著な群間差は見られなかったものの、便益も見られなかった。NIAIDやイーライリリーの外来治療試験や予防試験は続行。

リジェネロンの入院患者試験は、ハイフロー酸素/人工呼吸器患者の追加分析で暗雲が晴れて再開される可能性が未だ残っているが、別々に行われた類似した薬の試験が似たような結果になってきたことを考えると、抗体医薬は肺炎を合併し呼吸窮迫が重症化した患者には無効、あるいは有害、である可能性が高まったと考えざるを得ないだろう。

なぜ効かないのか不明だが、感染初期の患者はウイルスの増殖が症状を牽引するが、肺炎や臓器障害などの合併症は免疫・血栓反応の異常亢進が原因である可能性があり、受動的免疫療法である抗体医薬はピント外れなのかもしれない。

両社は軽中等症で重症化リスク因子を持つ患者の治療薬としてFDAにEUA(非常時使用認可)を申請している。尤も、感染早期の軽中度患者全部に有効なわけではなさそうだ。リジェネロンの抗体医薬の軽中度外来患者試験では、自分で作った抗体を多く保有する患者に対する効果が小さかったからだ。無意味な費用や副作用リスクを回避するためには事前に中和抗体またはウイルスの量的検査を行ってスクリーニングすることが望ましいが、費用や時間が増えるデメリットもあるので、判断が難しい。

ACTIV-3試験がフェールした原因として考えられるのは、もしかしたらVekluryと併用したのが良くなかったのかもしれない。REGN-COV2の試験でもVekluryあるいはdexamethasoneを併用した症例が多かったのではないだろうか。

米国のトランプ大統領がCOVID-19に感染し酸素投与が必要になって入院した時、医師団が最初に投与したのがREGN-COV2で、大統領は回復したのはこの未承認薬のお陰と考えているようだ。しかし、実際には、運が良かったと形容する方が適切のようだ。

リンク: リジェネロンのプレスリリース
リンク: ACTIV-3試験の新規組入れ中止に関するNIAIDのプレスリリース(10月26日付)
リンク: イーライリリーのプレスリリース(同上)

COVID-19:リジェネロンの抗体医薬の外来治療試験が成功
(2020年10月28日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN-COV2の第2/3相軽中等症患者外来治療試験が成功したと発表した。8gと2.4gのウイルス抑制作用とCOVID-19関連受診リスクを偽薬と比較したところ、有意な差があった。

REGN-COV2は三種類の抗SARS-CoV-2抗体のカクテル。今回の試験のほかに入院患者治療試験や予防試験が進行中で、米国では軽中等症外来患者の治療薬としてEUA(非常時使用認可)申請中。

この外来試験については9月に最初の275人の記述的分析結果が発表されている。今回は、仮説検証的コフォート524人のウイルス学的評価と再受診リスクの分析が行われた。結果は、両用量群合計で、元々のウイルス量が多かった(≧1000万コピー/mL)サブグループは第7日までのウイルス量低下が偽薬比有意に大きかった(群間差は0.68log10コピー/mL/日)。全集団の解析でも有意に大きかった(同0.36 log10 コピー/mL/日)。

合計799人のCOVID-19関連受診発生率は2.8%で、偽薬群(6.5%)より57%小さかった(p=0.024)。リスク因子(年齢50歳以上、BMI30kg/m2以上、心血管や肺、肝臓、心臓の疾患や代謝性疾患)を一つ以上持つ患者では72%小さかった(p=0.0065)。尤も、『受診』の中には電話による問診から救急治療まで様々なイベントが含まれているので、主観や裁量の余地が小さく、臨床的に重要なイベントだけの数値を確認する必要があるだろう。

尚、8g群も2.4g群も効果は同程度だった。

今回は症状持続期間などの厳格な分析は行われなかったようだが、ウイルス量と症状の相関などは見られなかった由だ。

忍容性は高用量群で点滴反応が若干増えた程度で、低用量なら大きな問題はなさそうだ。

罹患期間短縮化効果が確認されなかった点を除けば、概ね期待通りの結果と言えそうだ。外来治療で足りるなら症状はそれほど重要ではないだろうから、求められる便益は、罹患期間の短縮やウイルス量低下の促進というよりは重症化リスクの緩和だろう。だからこそ、リジェネロンはEUAの適応として、本試験の対象のうち、転帰が悪い可能性のある高リスク患者だけを想定しているのだろう。

REGN-COV2は感染者自身の抗体の代替・補充なので、自分で十分な量を作れた患者にはあまり効かない可能性がある。今回は元々のウイルス量が多くはなかったサブグループ(≒自分で多くの抗体を作れたであろうサブグループ)のデータが公表されていないが、もし十分な効果がないなら、事前に検査をしてスクリーニングすべきかどうか、検討する必要があるだろう。忍容性は低用量なら大きな問題はなさそうだし、米国は患者負担ゼロの方針なので医療費の問題も発生しないが、当面の年産規模がロシュと合わせて1000万人分程度なので、無駄打ちは減らしたいところだ。

リンク: 同社のプレスリリース


【新薬開発】


アッヴィ、老眼治療薬を承認申請へ
(2020年10月28日発表)

アッヴィは、AGN-190584(pilocarpine)の第三相老眼治療試験が二本とも成功したと発表した。21年上期に承認申請の予定。効果はどの程度なのか、安全性のハードルが高そうだがクリアできているのか、データ発表が注目される。

19年に買収したアラガンの開発品で、緑内障やドライ・アイの治療薬として用いられているムスカリン受容体アゴニスト、pilocarpineを老眼に転用する。作用機序は瞳孔括約筋の収縮の補助と推測されている。第三相試験では両目に一日一回、1ヶ月に亘って点眼し、奏効率を偽薬と比較した。奏効の定義は、一本では1ヶ月の治療でDCNVA(距離矯正近見視力)が3行以上改善、もう一本ではDCNVA3行以上改善かつCDVA(矯正遠見視力)が5字以上悪化しないこと。

試験薬群の治療時発現深刻有害事象はゼロ。治療時発現有害事象は頭痛や結膜充血、霞目、目の痛みなど。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


ファイザー、JAK1阻害剤をアトピー性皮膚炎に承認申請
(2020年10月27日発表)

ファイザーは、JAK1阻害剤PF-04965842(abrocitinib)を12歳以上の中重度アトピー性皮膚炎の経口治療薬として欧米で承認申請したことを発表した。EUでは受理された。第3相は偽薬対照試験二本とDupixent(dupilumab)群も設定された局所治療併用試験で100mgと200mgを一日一回投与する効果と安全性を検討。後者の試験では副次的評価項目の一つである第2週時点の掻痒で200mg群がDupixent群を有意に上回り、100mg群も数値上上回った。深刻有害事象の発現率は各群大きな差はなかったが、全ての臨床試験のデータをプールして評価する必要があろう。

JAK1阻害剤ではアッヴィのRinvoq(upadacitinib)も徐放製剤のアトピー性皮膚炎試験が三本とも成功した。

JAK1阻害剤は免疫抑制剤なのでウイルス性疾患や癌のリスクが高まらないか、大規模長期のデータベースで検証する必要があるだろう。アトピー性皮膚炎の免疫抑制剤ではアステラスのProtopic(tacrolimus)やノバルティスのElidel(pimecrolimus)のリンパ腫リスクが市販後に顕在化し大きな波紋を呼んだ前例がある。JAK阻害剤は血栓性疾患のリスクも散見されるので要注意だ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

リジェネロン/サノフィ、抗PD-1抗体をNSCLC1Lに承認申請
(2020年10月29日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とサノフィは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)をPD-L1高度陽性(≧50%)の局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の一次治療として欧米で承認申請し、受理されたと発表した。米国では優先審査を受け、審査期限は来年2月28日。

第3相試験では350mgを3週毎に点滴静注したところ、主評価項目であるPD-L1高度陽性サブグループの全生存期間が化学療法群と比べてハザードレシオ0.67、p=0.002と、有意に上回った。有害事象による治験離脱率は6%対4%で大差なかった。

Libtayoは18年に米国で、19年にはEUでも、転移/根治不能局所進行性扁平上皮癌に用いることが承認された。

リンク: 同社のプレスリリース

第一三共/アストラゼネカ、米国でもエンハーツを胃癌に効能追加申請
(2020年10月28日発表)

第一三共とアストラゼネカは、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki、和名エンハーツ)をher2陽性の切除不能転移胃・胃食道接合部腺腫の三次治療薬として米国で効能追加申請し、受理された。優先審査で、審査期限は来年1-3月期。抗her2抗体trastuzumabによる治療歴を持つ患者が適応になる。米国ではブレークスルー・セラピー指定と希少疾患用薬指定を受けている。

日本と韓国の施設で実施した第2相DESTINY-Gastric01試験のデータに基づくもので、6.4mg/kgを3週毎に点滴静注してcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)を医師が選んだ薬(irinotecanまたはpaclitaxel)と比較したところ、42.9%対12.5%、メジアン反応持続期間は11.3ヶ月対3.9ヶ月で上回った。副次的評価項目の全生存期間は中間解析で12.5ヶ月対8.4ヶ月、ハザードレシオは0.59でp=0.0097だった。

G3以上の治療時発現有害事象は好中球減少症などの骨髄抑制とその合併症など。治療関連間質性肺疾患/肺臓炎(第三者が査読)は12例で発現率9.6%、うちG3は2例、G4は1例でG5(致死的)はゼロだった。

リンク: 両社のプレスリリース

JNJ、Xareltoを下肢血行再建術後血栓予防に適応拡大申請
(2020年10月26日発表)

バイエルのXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を米国で開発販売しているジョンソン・エンド・ジョンソンは、症候性PAD(末梢動脈疾患)の下肢血行再建術付随療法として米国で適応拡大申請した。VOYAGER PAD試験で術後10日以内の患者に2.5mgを一日二回、低量アスピリン(一日一回)と併用したところ、主要有害下肢・心血管イベントが3年間(カプラン・メイヤー推定)で17.3%と偽薬併用群の19.9%を下回り、ハザードレシオ0.85、p=0.009だった。

抗血栓薬は血栓予防効果と出血リスクのバランスを取るのが難しいが、本試験では大出血(TIMI定義)が3年間で2.65%と偽薬群の1.87%を上回ったものの、p=0.07でぎりぎり有意ではなかった。極めて重要なリスクである頭蓋内出血や致死的出血も有意な増加は見られなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


ドライアイのステロイド治療薬が承認
(2020年10月27日発表)

Kala Pharmaceuticals(Nasdaq:KALA)は、Eysuvis(loteprednol etabonate)がFDAにドライアイ治療薬として承認されたと発表した。コルチコステロイドの粘膜浸透性点眼液で兆候症状発現時に最大2週間、点眼する。ウイルス性角膜炎・結膜炎は禁忌。

米国ではドライアイの診断を受けた患者が1700万人以上いて、その8-9割は症状が慢性的ではなく、間歇的と推測されている。既存の治療薬は常用するが、症状が一時的なら治療も頓服的で足りるのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース







今週は以上です。

2020年10月24日

第970回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:FDA諮問委員会の論点 
  • COVID-19:レムデシビルが本承認に 
  • バイエル、新薬が第3相で糖尿病性腎症の悪化を抑制 
  • ダラザレックスの幹細胞移植後地固め試験が成功 
  • MSDの肺炎球菌ワクチン、複数の第3相が成功 
  • ユニバーサル・インフルエンザ・ワクチンの第3相がフェール 
  • アストラゼネカ、タグリッソのアジュバント療法を承認申請 
  • ファイザー、20価肺炎球菌結合型ワクチンを承認申請 


【今週の話題】


COVID-19:FDA諮問委員会の論点
(2020年10月22日発表)

FDAは10月22日にワクチン等生物学的製品諮問委員会を招集し、COVID-19ワクチンの承認審査基準などについて意見を聞いた。論点は多岐にわたり、多数決やコンセンサス形成を目的とする会議でもないため報道者泣かせだが、諮問委員から異論が出た主要な点について、各種報道等に基づき、まとめたい。

現在、欧米の企業では独BioNTech/ファイザーや米Moderna社、アストラゼネカ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどがリピッド・ナノパーティクル法やアデノウイルス法によるmRNAワクチンの大規模な第3相試験を実施している。BioNTech/ファイザーとModernaは年内にもEUA(非常時使用認可)を申請する計画だ。

FDAはガイダンス草案を公表すると共に、今回、主要な論点について意見を求めた。尚、個々のワクチンの当否については承認申請後に改めて諮問委員会が招集される見込み。

まず、安全性に関しては、追跡期間が議論になった。FDAは第3相試験の被験者の過半について最終接種(上記のうちJNJ以外は2回接種を採用)後に2ヶ月以上追跡するよう求めた。ワクチンの有害事象は接種後1~2ヶ月の間に表面化することが多いからだ。反対意見は、期間というよりは、重症化リスクの高いサブグループ(高齢者、特定の疾患、マイノリティ)の症例数が不足することを懸念する声や、ワクチン開発者からは、割合ではなく実数で判断すべきという声もあった(JNJは6万人規模なのでその5割となると先行3社の第3相の全員に匹敵する)。

ワクチンの有効率(感染者を何割減らせるか)に関しては、FDAは点推定値50%、95%信頼区間下限30%以上であることを求めている。インフルエンザ・ワクチンの数値などを参考にして決めた模様だが、感染者の急増を防ぐためには集団の60%以上が免疫を獲得する必要があるという集団免疫論者から見ると、不十分だ。また、軽症はカウントせず重症・致死的な感染症を防ぐ効果を検討すべきという意見もあった。この場合、組入れ数や追跡期間などを増やす必要が生まれるかもしれないので、スピードが犠牲になる。

開発者や治験に参加する医療従事者、被験者にとって切実な問題は、もしEUAが認められた場合、二重盲検を解除して偽薬群の患者にワクチン接種を認める倫理的な責務が生じる可能性があることだ。FDAのガイダンスは承認審査機関と相談するよう勧奨しているが、もしクロスオーバーを認めると、おそらくワクチン効率以上に重要なポイントである、感染予防効果の持続性を検証できなくなってしまう。逆に、もし認めないと、新規組入れが困難になるだろう。

データの頑強性を重視するか、開発スピードを重視するかという我が国にも当てはまる問題に加えて、米国では、大統領選も影を落として複雑性を増している。英国にはBriton has never been asked, but told(英国人は政府に尋ねられることはない、告げられるだけだ)という揶揄がある。日本人もCOVID-19治療薬やワクチンに関しては議論に殆ど参加させてもらえず、結果(治験の成功、あるいはFDAやEUのEUA/承認)を受け入れるだけの立場だが、それでも、背景を理解しておくことくらいはできるだろう。

リンク: FiercePharmaの記事
リンク: Endpoints Newsの記事

COVID-19:レムデシビルが本承認に
(2020年10月22日発表)

FDAは5月にギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir、ベクルリー)をCOVID-19治療薬としてEUA(非常時使用認可)したが、今回、正式に承認した。これまでギリアドは米国でプレスリリースを出す度にVekluryは承認されていないと注記していたが、必要なくなったわけだ。同社は重大な脅威に対応する薬を開発し承認取得した企業に交付される、Material Threat Medical Countermeasure Priority Review Voucherを取得した。他社に譲渡すれば1億ドル規模の収入を得られるだろう。

適応になるのは成人と12歳以上且つ体重40kg以上の小児の、入院を必要とするCOVID-19感染者。EUAの対象のうち体重3.5kg以上40kg未満はエビデンスが十分でないためEUAに留められた。病院に入院しなくても、医療的ケアを行うことができる施設に入っている患者なら点滴静注できる。ホワイトハウスで投与しても良いという意味だろう。

FDAが薬効と安全性のエビデンスとして採用したのはNIAID(米国アレルギー・感染症研究所)が主導したACTT-1試験と、ギリアドが実施した重症試験と中等症試験の三本。

ACTT-1は10日コースをテストして罹患期間短縮効果を確認、重症試験は5日コースと10日コースを比べたが偽薬群が設定されなかったので、薬効のエビデンスとしては弱い。効果は両群同程度だったが、非劣性解析ではないので、頑強性に欠ける。中等症試験は5日コース群の罹患期間が偽薬比有意に短かったが、10日コース群はトレンドに留まった。10日コース群のメジアン投与期間は6日間と、5日コースと大差なかったことを考えると不思議だ。

承認審査の対象にはならなかったが、WHOが主導したSOLIDARITY試験(10日コース)では主評価項目である死亡リスク抑制効果も、罹患期間短縮効果や危機的悪化抑制効果も見られなかった。

偽薬対照試験の成績をまとめると、10日コースは1勝2敗、5日コースは1勝、総計で2勝2敗となり、効くと結論すべきか、効かないと断じるべきか、コインを投げて表裏で決めるのと同じ状態である。承認審査機関にとっては2勝することが最重要で、もう一本がフェールでも容認するというのがFDAが抗鬱剤などで示している判断だが、2勝2敗となると悩ましく、諮問委員会の意見を仰いだ前例もある。今回は間に合わなかったとしても、WHOにSOLIDARITY試験のデータの提供を求め精査することになるのではないだろうか。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース


【新薬開発】


バイエル、新薬が第3相で糖尿病性腎症の悪化を抑制
(2020年10月23日発表)

バイエルは7月にBAY 94-8862(finerenone)の第3相試験成功を発表したが、今回、データをASN(米国腎臓学会)のRenal Week 2020でバーチャル発表した。大規模なアウトカム試験で糖尿病性腎症の悪化を抑制する効果が確認された。年内に承認申請する予定。

finerenoneは非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤(MRA)。類薬ではspironolactoneやeplerenoneが慢性心不全などの治療薬として長年、用いられ既にGE化しているが、腎機能低下や高カリウム血症のリスクなどが見られる。今回の試験の対象疾患が腎症で、高カリウム血症がそれほど増えなかったことと対照的だ。

この、FIDELIO-DKD試験は、二型糖尿病と慢性腎疾患を患う5734人を欧米日中の施設で組入れて、finerenone(一日一回経口投与)群と偽薬群の転帰をメジアン2.6年間追跡した。主評価項目は腎不全、eGFR低下(ベースライン比で40%以上の低下が4週間以上持続)、または腎疾患死亡の複合評価項目。結果は、ハザードレシオ0.82(95%信頼区間0.73-0.93)、p=0.0014だった。個々のイベントのハザードレシオは夫々0.87、0.81、無意味(各群2例のみ)で有意水準なのはeGFR低下だけだが、腎不全も好ましい方向を向いている。

副次的評価項目のうち心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全入院の複合評価項目はハザードレシオ0.86(95%信頼区間0.75-0.99)、p=0.0339で有意だがボーダーライン近辺。個々のイベントのハザードレシオは夫々0.86、0.80、1.03、0.86で何れも有意水準ではなく、全体的に、迫力が弱い。

深刻有害事象の発現率は32%(偽薬群は34%)。高カリウム血症の発現率は18%(同9%)で深刻なものの発現率は1.6%(0.4%)だった。

finerenoneは症候性心不全の第3相アウトカム試験も日米欧などで進行中。

リンク: バイエルのプレスリリース
リンク: Bakrisらの治験論文抄録(NEJM)

ダラザレックスの幹細胞移植後地固め試験が成功
(2020年10月21日発表)

デンマークの新薬開発会社ジェンマブ(Nasdaq:GMAB)は、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)の多発骨髄腫ASCT(自家造血幹細胞移植)付随療法試験のパート2が中間解析で成功したと発表した。導出先であるジョンソン・エンド・ジョンソンが効能追加に向けて当局と相談する予定。

Darzalexはジェンマブが創製した抗CD38抗体。15年に米国で多発骨髄腫の四次治療薬として承認された後、様々な薬との併用で適応や用法を広げてきた。

今回のCASSIOPEIA試験は仏蘭白の共同治験グループが多発骨髄腫の新患でASCTが適応になる患者を組入れて、パート1では移植前にVTdレジメンにDarzalexを追加する効用を検討したところ、完全反応率の向上に成功した。今回発表されたパート2では、移植後の地固め療法として16mg/kgを8週毎に最大2年間投与するレジメンのPFS(無進行生存期間)を観察だけの群と比較したところ、ハザードレシオが0.53、p<0.0001だった。

リンク: ジェンマブのプレスリリース

MSDの肺炎球菌ワクチン、複数の第3相が成功
(2020年10月20日発表)

MSDは15価肺炎球菌ワクチンのV114(PCV-15)を年内に米国で承認申請する計画で今年6月と9月に50歳以上の健常者を組入れた第3相Prevnar 13(和名プレベナー13)対照試験の成功を発表したが、今回、更に二本の成功を発表した。

一本は50歳以上の健常者、もう一本は18~49歳で肺炎球菌感染時のリスクが高い慢性肺疾患などの有病者を組入れて、前者は1年後、後者は6ヶ月後に23価莢膜ポリサッカライド肺炎球菌ワクチンPneumovax(和名ニューモバックスNP)を接種するスケジュールの効果をPrevnar 13、そして1年/6ヶ月後にPneumovaxを接種した群と比較した。

前者の試験の主評価項目である、Pneumovax接種30日後のOPA-GMT(オプソニン化貪食活性による幾何平均抗体価)は、V114がカバーする15血清型全てについて、同程度だった。Prevnar 13は22F株と33F株をカバーしていないが、Pneumovaxでブーストするつもりなら大きな違いはないということなのかもしれない。

副次的評価項目であるV114またはPrevnar 13接種30日後のOPA-GMTは22F株と33F株についてはV114が上回り、その他の13血清型は同程度だった。18~49歳高リスク患者試験はこの指標が主評価項目で、同様な結果になった。

下記のように、Prevanar 13を販売しているファイザーは20価肺炎球菌結合ワクチンPF-06482077(20vPnC)を米国で承認申請した。来年にはこの二剤がACIPなどのワクチン接種勧奨組織の支持を獲得すべく争うことになる。

リンク: MSDのプレスリリース

ユニバーサル・インフルエンザ・ワクチンの第3相がフェール
(2020年10月23日発表)

BiondVax Pharmaceuticals(Nasdaq:BVXV)は、M-001の第三相試験がフェールしたと発表した。感染や重症化を予防する効果が偽薬を有意に上回らなかった。

季節性インフルエンザ・ワクチンはそのシーズンに流行しそうな株をA(H1)型とA(H3)型から一つずつ、そしてB型から二つを選んで、そのヘマグルチニンを抗原として配合する。予想が外れるとワクチン効率が低下することになり、米国の調査では、平均40%程度(感染者が4割減り)だが外れたシーズンは10%程度に低下するという。解決策として模索されているのがM-001のようなユニバーサル・インフルエンザ・ワクチンだ。イスラエルのWeizmann研究所が開発した技術を用いて、インフルエンザ・ウイルスの良く保存された(変異が見られない)エピトープ9種類を一つに融合したものを抗原にした。

NIH(米国衛生研究所)が実施した後期第2相試験では安全性や細胞性免疫誘導能が示されたが、今回の、東欧7ヶ国で50歳以上の健常者12463人を組入れて21日置いて二回筋注する効果を検討した試験はフェールした。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


アストラゼネカ、タグリッソのアジュバント療法を承認申請
(2020年10月20日発表)

アストラゼネカは、Tagrisso(osimertinib、和名タグリッソ)をEGFR変異陽性非小細胞性肺癌の術後アジュバント療法に用いる適応拡大を米国で申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年第1四半期。

TagrissoはT790MなどのEGFR阻害剤抵抗性変異にも活性を持つEGFR阻害剤。EGFR活性化変異陽性非小細胞性肺癌の一次治療などに日米欧などで承認されている。今回の申請は、EGFR変異陽性の早期非小細胞性肺癌で治癒的完全切除に成功した患者に最大3年間に亘って80mgを一日一回経口投与するというもの。ADAURA試験では2年無病生存率が89%と偽薬群の53%を大きく上回った。G3以上の有害事象発現率は各10%と3%だった。

リンク: 同社のプレスリリース

ファイザー、20価肺炎球菌結合型ワクチンを承認申請
(2020年10月21日発表)

ファイザーは、20価肺炎球菌結合型ワクチンのPF-06482077(通称20vPnC)を米国で承認申請したことを明らかにした。欧州でも来年第1四半期中に申請する考え。

同社のベストセラー・ワクチンであるPrevnarは20年前に米国で承認された時は7血清型をカバーするだけだったが、9年前に欧米で承認されたPrevnar 13は13血清型、そして、今回、23血清型をカバーする大先輩のPneumovaxまであと一歩のところまで来た。第3相では20血清型のうち19でOPA-GMTがPrevnar 13/Pneumovaxと非劣性、残りの1型についてもあと一歩だった。

リンク: ファイザーのプレスリリース






今週は以上です。

2020年10月17日

第969回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:remdesivir、WHOの試験はフェール! 
  • COVID-19:remdesivir、WHOの試験はフェール 
  • COVID-19:JNJもワクチンの投与を一時停止 
  • バイエル、PI3K阻害剤の第3相が成功 
  • BMS、S1PR1/5調節剤の潰瘍性大腸炎試験が成功 
  • 大塚製薬、8億ドルで買収した会社の開発品がフェール 
  • 経口抗真菌薬を承認申請 
  • Agios社、IDH1阻害剤の欧州承認申請を撤回 
  • CHMP、KiteのCAR-Tなどの承認を支持 
  • FDA、キイトルーダをホジキンリンパ腫の二次治療薬として承認 
  • FDA、リジェネロンのエボラ治療用抗体カクテルを承認 
  • アレクシオン、高濃度ユルトミリスが承認 
  • FDA、妊娠20週以降はNSAIDsを服用しないよう勧告 


【今週の話題】


COVID-19:remdesivir、WHOの試験はフェール!
(2020年10月15日公開)

WHOが主導したCOVID-19入院患者の大規模治療試験、SOLIDARITYの治験論文の原稿が査読前論文サーバーであるmedRxivのウェブサイトで公開された。ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesivir)はNIH(米国立衛生研究所)が主導したACTT-1試験で入院期間短縮効果を示し、死亡リスク抑制作用は有意ではなかったが点推定値自体は良かった。主としてこの試験のデータに基づき米国でEUA(非常時使用認可)、EUで条件付き承認、日本でも特例承認されたが、今回の試験では死亡リスクも入院期間も対照群(各地域の標準的医療のみ)と大差なかった。

用量や投与期間(10日間)はACTT-1試験と同じ。死亡リスクの検出力はSOLIDARITY試験のほうがはるかに高いので信頼性も高い。入院期間に関しても症例数が多いSOLIDARITY試験のほうが信頼できるはずだが情報量が少ないので、良く分からない。

査読の過程で判断材料に使われた指標や記述が変わることもあるので、論文と第三者による論評が刊行された段階で、改めて、ACTT-1試験などとの整合性が論じられることになりそうだ。

SOLIDARITYの特徴:無作為化割付対照試験。オープン・レーベル。アダプティブ・デザインで、当初は四剤をテストしたが、remdesivir以外の群は成績不振により途中で組入れ中止。
患者:30ヶ国405病院に入院しているCOVID-19感染患者。3/22-10/4に11,330人を組入れ。四剤の何れかに禁忌は除外。
患者背景:過半はエントリー時点で酸素投与、人工呼吸器装着は1割足らず。過半が入院2日以内。過半はアジア・アフリカの施設で組入れ。
介入方法:remdesivir10日コース(2750人)、hydroxychloroquine(954人)、lopinavir(1411人)、interferon-beta 1aとlopinavirの併用(651人)、interferon-beta 1aのみ(1412人)
対照群:各施設の標準医療(総計4088人)
主評価項目:入院中死亡率。レート比は年齢とエントリー時点の人工呼吸器装着の有無で階層化。
結果(死亡率は当方が計算):remdesivir群は2743人中301人が死亡(死亡率11.0%)、対照群は2708人中303人(同11.2%)、レート比は0.95(95%信頼区間0.81-1.11、p=0.50)。hydroxychloroquine群は死亡率11.0%、対照群は9.3%。lopinavir群は10.6%、対照群10.6%。interferon-beta 1a群は11.8%、対照群10.5%。

リンク: WHO SOLIDARITYコンソーシアムの治験論文原稿(medRxivのウェブサイト、pdf)

COVID-19:イーライリリーの抗体医薬の治験が一時停止
(2020年10月13日発表)

抗SARS-CoV-2抗体はトランプ大統領が入院した時に最初に使った薬で、このおかげで治癒したと当人は考えているようだ。リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のほかにイーライリリーやグラクソ・スミスクライン、アストラゼネカも感染者の血漿などからスクリーニングした抗体を単剤あるいはカクテルで臨床開発を進めているが、このうち、LY-CoV555(bamlanivimab、別名LY3819253)の第3相試験の一つが一時停止されたことが判明した。

LY-CoV555はイーライリリーがカナダのAbCellera Biologicsと共同開発したモノクローナル抗体で、リジェネロンのREGN-COV2とは異なり、カクテルではなく単剤の開発が先行している。イーライリリー主導試験に加えて、NIH(米国衛生研究所)も第2/3相のACTIV-2外来治療試験とACTIV-3入院治療試験で効果を検証しているところだが、brief19.comというCOVID-19ニュースサイトが参加医師に対するEメール付きで報じたところによると、潜在的な安全性懸念が現れたたため、ACTIVE-3試験のDSMB(データ安全性監視委員会)が新規組入れの停止を勧告した。

イーライリリーのプレスリリースによると、DSMBはACTIVE-2試験(軽中度患者の外来治療試験)についても検討したが、治験デザインの変更や組入れの停止などは勧告しなかった。同社が主導する第2相も外来治療試験、第3相は介護施設入居者・介護者の予防試験で、重症患者を対象にしているのはACTIVE-3だけである。ACTIVE-3はギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir)と併用する効果を検証する試験だが、他の試験は病状が悪化しない限りVekluryやdexamethasoneは併用しないだろう。もし重症患者には適さない、あるいは、これらの薬との併用が良くないならば、類似した併用を行ったトランプ大統領は例外的な症例ということになる。

さて、治験の一時停止は珍しいことではなく、鳴動してネズミ一匹も出ないことがあるので通常は一々公表しない模様だが、関係者には通知されるので、今回のように世間の関心が高い臨床試験は自然と外部に漏れる。治験医や被験者にバイアスを与えるといけないので詳細は開示されないが、風評被害が広がると被験者募集や承認取得・発売後の普及に差し障るし、上場企業は株価やインサイダー取引規制にも係るので、ハンドリングが難しい。

リンク: brief19.comの報道
リンク: ACTIV-3試験の治験登録(ClinicalTrials.gov)
リンク: イーライリリーのプレスリリース(10/14付)

COVID-19:JNJもワクチンの投与を一時停止
(2020年10月12日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、開発中のCOVID-19ワクチンの全臨床試験(第3相のENSEMBLE試験も含む)で投与を一時停止したことを明らかにした。想定外の有害事象が観察されたため、独立データ安全性監視委員会の検討・評価を待つ。詳細は不明。同社は、プロトコルに基づく自発的な停止で通常は第三者には公表しないこと、承認審査機関が治験認可を一時的に停止するクリニカルホールドとは違うことを強調している。

開発コードは記されていないが、ENSEMBLE試験でテストされているのはJNJ-78436735。アデノウイルス26型をベクターとしてSARS-CoV-2抗原の遺伝子を人体に導入し発現させる。今年7月に臨床試験を開始、9月に米国、南米、南アフリカで第3相入りした。開発が先行する他社のワクチンと異なり、一回接種で足りる可能性があるのが注目点。効果がフルに発揮されるまで数週間待つ必要がなく、接種の手間暇や、抗原の生産能力が同じでも2倍多い患者に供給できるなどのメリットが期待される。

また、同社とアストラゼネカは、パンデミックが続いている間はCOVID-19ワクチンを利益ゼロで供給するとコミットしている。米英などの政府に供給することで合意している。

7月と9月に臨床試験が一時停止になったアストラゼネカのAZD1222もチンパンジーのアデノウイルスをベクターとするワクチン。他ではロシアが8月に接種開始したSputnik Vは、最初にアデノウイルス26型ベースのワクチン、21日後にアデノウイルス5型ベースのワクチンを投与するプライム・ブースト方式を採用している。また、中国のCanSino Biologicsの開発品はアデノウイルス5型ベース。5型は自然感染による抗体を持っている人が少なくなく、第1相試験では抗体誘導性が低下した。

リンク: JNJのプレスリリース


【新薬開発】


バイエル、PI3K阻害剤の第3相が成功
(2020年10月14日発表)

バイエルは、Aliqopa(copanlisib)の第3相CHRONOS-3試験が成功したと発表した。データは未発表。フェーズIVコミットメント試験と推測されるので、適応追加申請を兼ねてFDAに提出するとともに、海外で承認申請に向かうのではないか。

Aliqopaは PI3Kアルファ/デルタ阻害剤。濾胞性リンパ腫の三次治療薬として米国で17年に加速承認された。第2相試験でORR(客観的反応率)が58.7%、完全反応率は12%だった。

今回の試験は抗CD20抗体による治療歴を持つ低悪性度リンパ腫にrituximabと併用してPFS(無進行生存期間)を延長する効果を検討したところ、偽薬・rituximab併用群を有意に上回った。

リンク: バイエルのプレスリリース

BMS、S1PR1/5調節剤の潰瘍性大腸炎試験が成功
(2020年10月10日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはZeposia(ozanimod)の第3相潰瘍性大腸炎試験のデータをUEG Week(欧州消化器病週間)で発表した。臨床的寛解率と寛解維持率が偽薬群を有意に上回った。承認申請に向けて当局と相談することになりそうだ。

Zeposiaは19年に買収したセルジーンが15年にReceptosを72億ドルで買収して入手したコンパウンド。今年、再発型多発硬化症の治療薬として欧米で承認された。

今回のTrueNorth試験は中重度潰瘍性大腸炎で前治療に十分応答しなかった患者を組入れて、コフォート1は645人を試験薬群(1mgを一日一回経口投与)と偽薬群に2:1割付し、第10週寛解率を比較したところ、各群18.4%と6.0%となり、p値は0.0001を下回った。サブグループ分析ではTNF阻害剤経験者では数値上上回ったものの有意差はなかった。副次的評価項目の臨床的応答率は各群47.8%と25.9%でこれもp<0.0001だった。

寛解維持効果を検討したフェーズでは、全員に試験薬を10週間投与したコフォート2の被験者も含めて、臨床的応答した457人を試験薬継続群と偽薬群(導入フェーズで偽薬に割付けられた患者は引き続き偽薬群)に再無作為化割付して第52週の寛解維持率を比較したところ、各群37.0%と18.5%、p値は0.0001を下回った。

安全性は過去の試験と同様だった。

リンク: BMSのプレスリリース

大塚製薬、8億ドルで買収した会社の開発品がフェール
(2020年10月14日発表)

Astex Pharmaceuticalsは、SGI-110(guadecitabine)の第三相AML(急性骨髄性白血病)試験とMDS(骨髄異形成症候群)/CMML(慢性骨髄単球性白血病)試験がフェールしたと発表した。難治・再発患者の全生存期間を医師が選んだ薬と比較したが、有意に上回らなかった。2年前に第三相AML一次治療実薬対照試験もフェールしており、開発中止になっても不思議はない。

guadecitabineはDNAメチルトランスフェラーゼ1阻害剤。Dacogen(decitabine)と異なり、DNAに組み込まれなくても直接阻害することができる。

Astexは11年にSupergenを買収して両剤を入手した。Dacogenは04年にMGI(後にエーザイが買収)がSupergenからライセンス、06年に米国でMDS用薬として承認を取得した。当時はSGI-110はDacogenの特許切れスケジュールに合わせて開発すればよいという方針だったように記憶しているが、13年に大塚製薬がAstexを8億ドル超で買収した時には、Astexの主要開発品の一つに祭り上げられていた。

リンク: Astexのプレスリリース


【承認申請】


経口抗真菌薬を承認申請
(2020年10月14日発表)

Scynexis(Nasdaq:SCYX)は、SCY-078(ibrexafungerp)を外陰膣カンジダ症治療薬としてFDAに承認申請した。グルカン合成酵素阻害剤で、作用機序が新しく経口投与が可能なのでアゾール系の代替手段になり得る。第三相偽薬対照試験では、初日に300mgを12時間おいて二回経口投与しただけだった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


Agios社、IDH1阻害剤の欧州承認申請を撤回
(2020年10月16日発表)

米国のAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はIDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)阻害剤Tibsovo(ivosidenib)をIDH1変異陽性のAML(急性骨髄性白血病)用薬として開発し、第1相試験の反応率データに基づいて米国で再発難治患者と強化化学療法不適な新患に承認を取得したが、EUは申請撤回となった。

客観的反応率のような代理マーカーに基づいて、延命効果が確立していない薬を承認するかどうかは難しい判断で、特に血液癌では欧米の承認審査機関で判定が分かれることが珍しくない。Agiosは第三相の新患化学療法併用試験が二本進行中で、再チャレンジを狙う。

リンク: 同社のプレスリリース

CHMP、KiteのCAR-Tなどの承認を支持
(2020年月日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会合で、KiteのCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)療法などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Kite PharmaのTecartus(brexucabtagene autoleucel)はBTK阻害剤を含む二次以上の全身的治療歴を持つ難治・再発マントル細胞腫に用いる。17~18年に欧米で難治・再発大細胞型B細胞リンパ腫用薬として承認された同社のYescarta(axicabtagene ciloleucel)と同様に、患者から採取したT細胞に抗CD19抗体・CD3ゼータ・CD28などの融合遺伝子を導入し、増殖させたうえで患者に戻す。Yescartaとの違いは生産工程でリンパ球の増強を行ったり、採取時に混ざる循環腫瘍細胞を除去したりしていることのようだ。

74人を組入れた第2相試験では生産成功率が96%、ORR(総合反応率、独立放射線学的評価委員会方式、EMAが今回発表したデータに基づく)は84%、完全反応は59%だった。CAR-T療法に付き物のG3以上サイトカイン放出症候群の発現率は15%、G3以上神経学的イベントは31%で、どちらもG5(致死)はなかった。

米国では今年7月に承認。Kite PharmaはBMSが17年に119億ドルで買収した。

リンク: EMAのプレスリリース

Orchard Therapeutics(Nasdaq:ORTX)のLibmeldyはMLD(異染性白質ジストロフィー)の遺伝子療法。無症状の遅発乳児型と無症状または症状が出始めたが独立歩行可能で認知低下が始まっていない早期若年型が適応になる。MLDはアリルスルファターゼAの欠損により脳や末梢神経、腎臓などにスルファチドが蓄積、障害を与える深刻な常染色体劣性遺伝病。Libmeldyは患者から採取したCD34陽性造血幹細胞と前駆細胞にスルファチドを分解するヒト・アリールスルフォターゼAの遺伝子をレンチウイルス・ベクターを用いて導入し、患者に戻す。

主な有害事象は、コンディショニングに用いる化学療法の副作用と、造血幹細胞移植に起こりがちな白血病やリンパ腫。

イタリアのSan Raffaele-Telethon Institute for Gene Therapyと共同開発した。18年にGSKからアデノシンデアミナーゼ欠損症による重症複合免疫不全症(ADA-SCID)の遺伝子療法であるStrimvelisなどの希少疾患用薬事業を譲受けて入手したパイプライン。

リンク: EMAのプレスリリース

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ALNY)のOxlumo(lumasiran)は原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)用薬。肝臓のアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼが欠乏する、超希少な常染色体劣性遺伝性疾患で、シュウ酸の過剰によりカルシウムが蓄積、腎臓疾患や尿路結石を合併する。lumasiranはグリコール酸酸化酵素の遺伝子 hydroxyacid oxidase 1(HAO1)を標的とするsiRNA薬で、臨床試験では尿や血漿のシュウ酸塩が大きく減少した。主な有害事象は注射箇所反応と腹痛。米国でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

ノバルティスのLeqvio(inclisiran)はヘテロ接合型家族性/非家族性原発性高コレステロール血症と混合異脂血症の治療薬。LDL受容体の零落・分解に係るPCSK9を標的としている点ではアムジェンの抗PCSK9抗体、Repatha(evolocumab、和名レパーサ)に似ているが、RISC(RNA-induced silencing complex)に結合してPCSK9のmRNAを切断するRNA介入薬である点が画期的。LDL-C低下作用はRepathaと概ね同程度に見える。投与頻度は第2回は3ヶ月後、その後は6ヶ月毎に皮注する。米国でもそろそろ承認審査結果が出るのではないか。

アルナイラム・ファーマシューティカルズが創製、開発販売権を取得したメディスンズ・カンパニーをノバルティスが今年1月に97億ドルで買収して入手した。

リンク: EMAのプレスリリース

10月14日にネスレ・グループ入りした米国のAimmune TherapeuticsのPalforziaはピーナツアレルギーの脱感作療法用粉末剤。4-17歳の患者に食物と混ぜて摂取させる。特に治療初期はアナフィラキシーを起こしても対応できるよう注意する必要があるが、1g程度なら軽いアレルギー症状程度で済みようになるようだ。米国では今年1月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Aimmuneのプレスリリース(10/16付)

アストラゼネカのTrixeo Aerosphereは長期作用性ベータ2作用剤のformoterol fumarate dihydrateと長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤のglycopyrronium bromide、及び吸入コルチコイドのbudesonideの固定用量合剤で、COPDの維持療法に用いる。日本で19年にビレーズトリエアロスフィアとして、米国でも今年7月にBreztri Aerosphereとして、承認された。

GSKと塩野義製薬、ファイザーのHIV合弁であるヴィーブ・ヘルスケアのインテグラーゼ阻害剤、Vocabria (cabotegravir)、とジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンの非核酸系逆転写阻害剤、Rekambys (rilpivirine)は併用でHIV-1治療が奏功している患者の維持療法に用いる。長期作用性製剤で月一回の注射で足りる。

リンク: EMAのプレスリリース

Zogenix(Nasdaq:ZGNX)のFintepla(fenfluramine)はドラベ症候群の治療に用いる経口液。既存薬に十分応答しない患者に追加投与する。fenfluramineは体重管理薬として流行したことがあるが心弁異常や肺動脈高血圧が報告され、バブルが弾けた。Finteplaはその時より低量だが、CHMPは、心電図検査を義務付ける。米国では今年6月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、アムジェンのBlincyto(blinatumomab、和名ビーリンサイト)をフィラデルフィア染色体陰性だけでなく陽性のCD19陽性再発難治前駆B細胞急性リンパ性白血病に用いることも支持された。但し、2種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤による治療歴を持ち、代替的治療オプションが存在しない場合に限定される。

アストラゼネカのSGLTs阻害剤、Forxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)は駆出率低下を伴う症候性慢性心不全の治療に用いることが支持された。DAPA-HF試験で心血管死や心不全入院・緊急受診のリスクが偽薬比26%低かった。米国では今年5月に適応拡大承認。日本でも10月29日に第一部会に上程される予定。

BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)は切除不能進行、難治、または転移性の食道扁平上皮腫でfluoropyrimidineおよび白金薬ベースの化学療法レジメンによる治療歴を持つ患者に単剤投与することが支持された。米国では今年6月に承認。

MSDのRecarbrio(imipenem、cilastatin、relebactam)を院内感染肺炎に用いることも支持された。人工呼吸器関連肺炎や、これらに伴う菌血症も適応になる。米国では6月に承認。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのTremfya(guselkumab、和名トレムフィア)を活性期乾癬性関節炎でDMARDに不耐または応答不十分だった患者に用いることも支持された。米国は7月に承認。

最後に、UCBの抗てんかん薬Vimpat(lacosamide)は4歳以上の特発性全身性癲癇患者の原発性全身性強直性間代性発作の抑制に用いることが支持された。


【承認】


FDA、キイトルーダをホジキンリンパ腫の二次治療薬として承認
(2020年10月15日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を難治・再発古典的ホジキンリンパ腫(cHD)の二次治療薬として承認した。小児のcHDで難治性または二次医療の治療歴を持つ再発性患者に用いることも承認された。第三相のKeyNote-204試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン13.2ヶ月とSeagen(Nasdaq: SGEN:先日、シアトル・ジェネティクスから社名変更)のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)の8.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.65、p=0.0027だった。

Keytruda群の深刻有害事象発生率は30%、有害事象により全身性ステロイド治療を受けた患者の比率は38%でうち肺臓炎によるものが11%だった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

FDA、リジェネロンのエボラ治療用抗体カクテルを承認
(2020年10月14日発表)

FDAはリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のINMAZEBをザイール種エボラウイルス疾患の治療薬として承認した。サハラアフリカで数年毎に流行する致死率が高い難病の治療薬が遂に承認された。米国では流行していないが、現地で治療や取材に当たった人たちが感染した事例があり、将来的に伝播したりバイオテロに用いられる可能性にも備えなければならないため、6年かけて国家備蓄する予定。

INMAZEBはザイール種エボラウイルスの糖タンパクに結合する遺伝子組換えモノクローナル抗体のカクテル。ウイルスが細胞に侵入するのを妨げる中和抗体であるmaftivimabと、FcガンマRIIIaを通じてエフェクター機能を誘導するatoltivimabおよびodesivimabを配合している。用量は体重に応じて決定、用量に応じて2~4時間かけて、一回だけ、点滴静注する。

18年に流行が始まったコンゴ民主共和国で実施された開発品同士の臨床試験では、INMAZEB群の28日死亡率が34%と対照群(Mapp Biopharmaceuticalの三種類のモノクローナル抗体のカクテルであるZMappを投与)の51%を大きく下回った。尚、Ridgeback Biotherapeuticsのモノクローナル抗体医薬、mAb114(ansuvimab)は35%、ギリアド・サイエンシズのremdesivirは50%だった。

有害事象は発熱や嘔吐、頻脈頻呼吸などだが、エボラウイルス疾患の症状と類似していることや偽薬群が設定されなかったことから、薬との因果関係は曖昧。過敏反応発現率は1%足らず。クレアチニンやALT/ASTの上昇が見られた。生ワクチンの効果を低下させる可能性があるため、FDAは同時接種を避けるよう勧告した。

INMAZEBが注目されるもう一つの理由は、トランプ米大統領がCOVID-19に感染した時に最初に使った、同社のREGN-COV2と同じプラットフォームで創製されたことだ。深刻な難病であるエボラの死亡率をある程度引き下げることができるなら、死亡率がもっと低いCOVID-19に効く抗体を同定できても不思議はない。今回、INMAZEBには中和抗体ではない抗体も含まれていることを初めて知って、スクリーニングの周到さを思い知らされた。

トランプ大統領はremdesivirを併用したが、もしINMAZEB同様にREGN-COV2も肝機能検査値異常リスクがあるのだとしたら、重複することになるので、併用注意となるかもしれない。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: リジェネロンのプレスリリース

アレクシオン、高濃度ユルトミリスが承認
(2020年10月12日発表)

アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、FDAが長期作用性抗C5抗体Ultomiris(ravulizumab-cwvz、和名ユルトミリス)の高濃度製剤を非典型溶血性尿毒症症候群と発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として承認したと発表した。100mg/mLと従来の10倍で点滴時間が2時間から45分以下に短縮化する。従来の製剤は来年央に販売を中止する予定。日欧でも承認審査中。来年には皮注用製剤も欧米で承認申請する予定。

リンク: 同社のプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、妊娠20週以降はNSAIDsを服用しないよう勧告
(2020年10月15日発表)

FDAは、妊娠20週以降はNSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)を服用しないよう改めて勧告した。リスクがあることは既知だが、広く医療従事者や妊婦に周知徹底すべく、安全性通達を発した。

NSAIDsはaspirin、ibuprofen、naproxen、diclofenac、celecoxi等が含まれ、一方、アセトアミノフェンは含まれないので今回の勧告の対象外。NSAIDsは経口剤のほかに貼付薬や処方箋なしで買えるOTC薬もあり、関節炎などの疼痛や、風邪、不眠症等の治療に用いられている。

現行の添付文書では妊娠30週以降は胎児の心臓障害などの懸念があるため服用しないよう警告しているが、今回、20~30週も制限することを決めた。20週以降は胎児が羊水を作るが、NSAIDsが腎臓に悪影響を与えて羊水過少症を起こすことがあるため。2017年までにFDAに35例の羊水過少症あるいは胎児/新生児腎疾患の有害事象報告があり、その全てが深刻だった。腎疾患を合併し新生児が死亡した症例はFDAの有害事象報告システムに5例、医学誌の症例報告でも8例、あった。

医療従事者が必要と判断した場合は、できるだけ低量をできるだけ短期間、投与する。48時間以上投与する場合は羊水の超音波診断を検討する。

但し、医療従事者が妊娠関連症状を治療する目的でアスピリンを低量(85mg)処方するのは可。

リンク: FDAの安全性通達






今週は以上です。

2020年10月11日

第968回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:オルミエントの便益は限定的 
  • COVID-19:リジェネロンも抗体医薬をEUA申請 
  • COVID-19:アストラゼネカの抗体医薬も第3相入り 
  • 心筋ミオシン活性化薬のアウトカム試験が成功 
  • ジャズ、Xywavの過眠症試験が成功 
  • ファイザー、イブランスのアジュバント試験がまたフェール 
  • SOBI、化学療法誘導性血小板減少症の予防試験がフェール 


【今週の話題】


COVID-19:オルミエントの便益は限定的
(2020年10月8日発表)

既報のように、インサイト(Nasdaq:INCY)がイーライリリーと共同開発販売しているJAK1/2阻害剤Olumiant(baricitinib、和名オルミエント)は、NIAID(米国アレルギー・感染症研究所)主導のACTT-2試験が成功。COVID-19感染入院患者にVeklury(remdesivir)と併用するとVeklury・偽薬併用より退院が1日早まることが明らかになった。今回、学会発表に合わせてもう少し詳しいデータが発表されたが、今一つ感は払拭されなかった。

この試験は、肺CT所見または呼吸機能低下のある患者1000人超を組入れて偽薬併用群とOlumiant併用群の回復(退院又は医療ケア不要化)までの期間を比較したところ、メジアン値は各8日と7日、発生率比は1.16、p=0.04だった。特に、ベースライン時点で酸素投与を受けていたサブグループやハイ・フロー酸素/非侵襲的換気を受けていたサブグループの便益が大きかったようだ。副次的評価項目に関しては、症状改善オッズ比は1.3、p=0.04、29日死亡率は各7.8%と5.1%でp=0.09だった。

このように、p値は何れも0.01以上で統計学的に高度に有意とは言えない。死亡率の数値は良好だが有意ではない。罹患期間は1日短縮するがインフルエンザ治療薬の治療効果が5日から4日に2割短縮と比べると短縮率が小さい。上記サブグループにおける効果がどの程度だったのか、知りたいものだ。

p値が0.01を上回ったので本来ならもう一本、試験を成功させることが望ましい。イーライリリー自身も入院患者600人の第3相を行っているが、remdesivirやdexamethasoneの便益が明確になったことや、今回の併用試験が統計学上は成功したことから、早く完遂しないと患者組入れが難しくなるかもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース

COVID-19:リジェネロンも抗体医薬をEUA申請
(2020年10月7日発表)

イーライリリーが抗SARS-CoV-2スパイク蛋白抗体LY-CoV555(bamlanivimab)のEUA(非常時使用認可)をFDAに申請したと発表したのと同日に、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)も二種類の抗SARS-CoV-2スパイク蛋白抗体のカクテルであるREGN-COV2をEUAしたと発表した。

トランプ大統領はこの薬のおかげで症状が改善したと受け止めている模様で、早期承認や患者に無償提供することをコミットした。米国連邦政府は『ワープ・スピード作戦』の一環でREGN-COV2を治療用に7-30万回分(用量がまだ決まっていないため幅がある)、予防用に42-130万回分の調達契約を結んでおり、大統領が言うまでもなく、政府が患者に無償提供することが以前から決まっている。

供給能力は、現時点では5万人分のストックがあり、数ヶ月内に30万人分に増加する見込み。8月にロシュと開発生産提携を結んでおり、米国外はロシュが生産・供給する。

思ったより早く実用化しそうだ。私は抗体医薬が本命と期待しているが、少なくとも現時点では、臨床試験のエビデンスは希薄だ。第966回で書いたように、外来治療試験ではベースライン時点で抗体を持っていた患者に対する効果は明確でなかった。入院治療が必要な患者の罹患期間を短縮し重症化・死亡リスクを削減する効果が確認されたとの発表はまだない。

リンク: リジェネロンのプレスリリース(pdfファイル)

COVID-19:アストラゼネカの抗体医薬も第3相入り
(2020年10月9日発表)

アストラゼネカはAZD7422の第3相試験を来週、開始すると発表した。一本は5000人規模の予防試験、もう一本は1100人規模の暴露後予防試験。4000人規模の治療試験も開始する予定。

AZD7422は、米国テネシー州のVanderbilt University Medical Centerが回復期血漿から同定した二種類の抗SARS-CoV-2抗体のカクテル。アストラゼネカの技術で改変し、持続期間を6-12ヶ月に延長したり、ADE(抗体依存性感染増強)リスクに配慮してFc受容体親和性を弱めたりしてある。

米国政府の補助金を受けており、20年末に最大10万回分、21年に更に100万回分を供給する計画。プレスリリースは他の国については言及していない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【新薬開発】


心筋ミオシン活性化薬のアウトカム試験が成功
(2020年10月8日発表)

Cytokinetics(Nasdaq:CYTK)及び共同開発パートナーのアムジェン、セルビエの三社は、心筋ミオシン活性化薬CK-1827452(omecamtiv mecarbil)の第3相心血管アウトカム試験の成功を発表した。心不全の悪化を抑制したが、心血管疾患による死亡を防ぐ効果が見られなかったのが残念だ。

このGALACTIC-HF試験は、クラスII-IVの慢性心不全で左心室機能が低下(LVEF≦35%)、ナトリウム利尿ペプチドが上昇、かつ心不全で現在または過去1年間に入院またはER歴を持つ8256人を偽薬群とCK-1827452群に無作為化割付して、心不全による入院・救急医療または心血管死のリスクを比較した。CK-1827452は一日二回経口投与、25mgで開始して血漿濃度に応じて最大50mgまで増量した。

結果は、ハザードレシオ0.92(95%信頼区間0.86-0.99)、p=0.0252だった。副次的評価項目のうち、心血管死は減少しなかった。主要虚血性心臓イベントの発生率は両群同程度だった。詳細はAHA(米国心臓協会)科学部会で11月13日に発表する予定。

慢性心不全患者は既に多くの薬を併用しており、新薬が出ても中々普及しない憾みがあるので、効果は高ければ高いほど良い。CK-1827452の場合はハザードレシオがそれほどでもなく、信頼区間を見ると殆ど効果が無い可能性が残っている。p値で見ても大きな試験である割には十分に低くはない。アストラゼネカのSGLT-2阻害剤、Farxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)はDAPA-HF試験で心不全入院・救急医療/死亡のハザードレシオが0.74、心血管死のハザードレシオは0.82だった。組入れ条件が若干異なるとはいえ、これだけ違うと無視できないだろう。

リンク: 三社のプレスリリース

ジャズ、Xywavの過眠症試験が成功
(2020年10月8日発表)

ジャズ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:JAZZ)は、Xywav(calcium、magnesium、potassium、sodium oxybates)経口液の第3相特発性過眠症試験が成功したと発表した。来年第1四半期にFDAに適応拡大申請する考え。この用途でファースト・トラック指定を受けている。

Xywavは同社のナルコレプシー治療薬Xyremの活性成分であるsodium oxybatesの改良製剤で、ナトリウム摂取量を92%削減した。今年7月に7歳以上のナルコレプシー患者の傾眠や脱力発作を抑制する用途で承認された。

今回の試験は、Xywavを一定期間投与した後に、115人の患者を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付して、主評価項目であるEpworth Sleepiness Scaleなどを比較した離脱試験。有意な差があった。プリトリート期間には臨床的に意味のある改善が見られた由。データは離脱試験のp値しか公表されていない。

リンク: 同社のプレスリリース

ファイザー、イブランスのアジュバント試験がまたフェール
(2020年10月9日発表)

ファイザーは、CDK4/6阻害剤Ibrance(palbociclib、和名イブランス)の第3相PENELOPE-B試験がフェールしたと発表した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の早期乳癌の術後アジュバント療法として内分泌療法薬と併用する効果を検討したが、iDFS(無浸潤疾患生存期間)が内分泌療法と偽薬の併用と大差なかった。

Ibranceは同様な内容のPALLAS試験が5月に中間解析で無益認定されたので二戦全敗。一方、同じCDK4/6阻害剤であるイーライリリーのVerzenio(abemaciclib、和名ベージニオ)はmonarchE試験が成功しており、明暗が分かれた。

敗因は何か?デザインを見比べると、PENELOPE-B試験は二重盲検(monarchEはオープン・レーベル)で、組入れが1250人(同5637人)と少なく、CDK4/6阻害剤の投与期間が1年(同2年)という違いがある。しかし、無益認定されたPALLAS試験はオープン・レーベルで5760人を組入れ、投与期間は2年とmonarchE試験と類似しているので、これらが影響したとは考えにくい。

忍容性が影響した可能性はあるのではないか。PALLAS試験は最大2年投与するプロトコルだったが、主として有害事象が理由で、被験者の42%が、途中で中止した。アジュバント療法は転移癌の場合より忍容性が重視されることを改めて思い知らされる。monarchE試験やPENELOPE-B試験の数値が明らかになれば比較できるだろう。

尤も、結果が食い違うとは必ずしも言えないかもしれない。monarchEの無浸潤疾患生存期間のハザードレシオは0.747(95%信頼区間0.596-0.932)、PALLAS試験のそれは0.93(0.76-1.15)で、信頼区間は重なっている。両試験とも、真のハザードレシオは0.76-0.93の間のどこかだったのかもしれない。

しかし、ファイザーは再挑戦しないだろうから、この用途におけるIbranceの便益が立証される機会はもうないだろう。

リンク: ファイザーのプレスリリース

SOBI、化学療法誘導性血小板減少症の予防試験がフェール
(2020年10月9日発表)

Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)は、スロンボポイエチン受容体アゴニストDoptelet(avatrombopag)の第3相化学療法誘導性血小板減少症予防試験がフェールしたと発表した。偽薬群の成績が良すぎたことが影響したと会社側は考えているようだ。

Dopteletは山之内製薬が藤沢薬品と合併した時にスピンアウトしたAkaRxに承継され、07年にライセンスした先のMGI Pharmaceuticalsが10年にエーザイの子会社に、16年にはDova Pharmaceuticalsの子会社になり、19年にSOBIがDovaを買収、と開発主体が変遷した。18-19年に欧米で手術を受ける慢性肝臓疾患患者の重度血小板減少症の治療などに承認された。

今回の試験は卵巣癌や肺癌、膀胱癌の化学療法を受けてG3/4の血小板減少症を発現した患者122人を組入れて、奏効率(次のサイクルで血小板輸血や化学療法の減量/遅延が起きない)を偽薬と比較したが、intent-to-treatでは69.5%と偽薬群の72.5%と大差なく、per-protocolでは85.0%対84.4%でほぼ同じだった。

リンク: SOBIのプレスリリース






今週は以上です。

2020年10月8日

第967号(臨時発行)

 

今週はCOVID-19抗体医薬などトピックスが多いので臨時的に発行しました

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:トランプ大統領の入院(備忘録) 
  • COVID-19:イーライリリー、抗体医薬のEUAを申請 
  • COVID-19:EMA、BioNTech/ファイザーのワクチンのローリング審査を開始 
  • 早産予防用のプロゲスチンの承認が終焉へ 
  • アムジェン、G12C変異KRAS阻害剤の第2相が良績に 
  • オプジーボの非小細胞性肺癌ネオアジュバント試験が成功 
  • BMS、メラノーマ術後アジュバント試験でオプジーボ・ヤーボイ併用がフェール 
  • イデベノンのデュシェンヌ筋ジストロフィー試験がフェール 
  • Y-mAbs、FDAがomburtamabの承認申請を受理せず 


【今週の話題】


COVID-19:トランプ大統領の入院(備忘録)
(2020年10月6日時点)

トランプ大統領が感染したのは、ブラジルや英国の首脳の前例があるので、驚きではないが、治療内容と退院の速さには驚かされる。日本でも色々な報道があるが推測だけで根拠のない言説も見られるので、最低限ではあるもののファクト・ファインディングを行って備忘録としたい。以下、日付は現地時間。

COVID-19陽性確認時期:トランプ大統領がツイッターで公表したのは10月2日(金)午前1時ごろ。検査を受けたのは10月1日にヒックス大統領顧問の感染が確認されたことがきっかけ。一部報道によると、10月1日に迅速検査で陽性判定が出たため精度の高い検査を受け、夜分に陽性であることが確認された。

感染時期:不明。疑われているのは9月26日にホワイトハウスの園庭で行われた連邦最高裁判事を指名する式典だ。出席者がマスクは付けずに抱擁したりしていた。8人が後に陽性となった。

入院治療:
10月2日、米軍のWalter Reed National Military Medical Centerに入院。症状は発熱、酸素飽和度が低下し酸素投与を1時間程度実施(複数の報道によると入院前にも投与した)。薬物療法は、主治医の発表によると、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)の抗体医薬カクテル、REGN-COV2を8mg投与。他に亜鉛、famotidine(ガスターの活性成分)、メラトニン、アスピリンも投与した。同日夕にギリアド・サイエンシズのポリメラーゼ阻害剤、Veklury(remdesivir)の5日コースを開始。
10月3日、再び一時的に酸素飽和度が低下したが、その後は安定的に推移。dexamethasoneの投与を開始。
10月4日、医師団が5日ごろの退院の可能性を指摘。体温は36.7度C、酸素飽和度(室温)は97%と症状が軽快しており、解熱から72時間経過する5日になれば主治医が採用している退院基準を充足する。米国疾病予防管理センターの退院ガイドラインは満たせないが、独自基準と推測される。記者の質問を受け、主治医は、感染診断後少なくとも5~7日間はウイルス放出リスクが高いことは認識していると回答。ウイルス検査陰転の時期(有無)やレントゲン所見については守秘義務などを理由に回答せず。
同日、車で外出し病院の前に集まった支持者に応えて、手を振る。毒ガステロに備えて車外の空気が入らないようにはなっているだろうが、出ないようになっているかは不明。運転席との間の空気循環の有無も不明。運転者や警備員は細菌対策を取っていた由だが、どの程度の強度なのかは不明。
10月5日夕、remdesivir投与の後に退院。病院前の階段を降りる時に手すりに触れたので、おそらく、記者が去った後で消毒しただろう。

退院後:ホワイトハウスはかなりの医療設備を備えている模様で、再び悪化しない限り、対応できる模様。remdesivirの点滴静注は10月6日まで続ける。dexamethasoneはその後も続ける。キリストの復活を模したのかもしれないが、治療が終わったわけではなく、転院と同じようなものか。

remdesivirはEUA(非常時使用認可)されており、dexamethasoneと併用することもNIH(米国立衛生研究所)のガイドラインで選択肢に挙げられている。REGN-COV2も小規模な試験で好ましい結果が出ている。しかし、三剤併用、しかも免疫療法やウイルス増殖抑制療法と免疫抑制剤を組み合わせる便益は明確ではないだろう。

リジェネロンによると、臨床試験以外でREGN-COV2の投与を受けたのは大統領も含めて10人足らず。FDAにEUA(非常時使用認可)を申請中という報道もあるので、近い将来に、米国の一般人も治療を受けられるようになるかもしれない。

COVID-19:イーライリリー、抗体医薬のEUAを申請
(2020年10月7日発表)

イーライリリーは抗COVID-19抗体を二種類開発しているが、LY-CoV555(bamlanivimab、以下、555)をモノセラピーでEUA(非常時使用認可)申請したこと、及び、555とLY-CoV016(etesevimab、以下、016)の併用データを、プレスリリース及びメディア/アナリスト・テレコンファレンスで発表した。効果の高い併用療法は11月にEUA申請の計画で、21年第1四半期には正式な承認申請に必要なデータも揃うとともに生産体制も拡充する見込み。

この二剤はどちらもSARS-COV-2のスパイク蛋白の受容体結合領域に結合するIgG1抗体医薬だが、結合部位が異なり、016はイフェクター機能を緩和する修飾が施されている。

555はカナダのAbCellera Biologicsが米国政府の支援を受けて構築したパンデミック予防プラットフォームを活用してスクリーニングした。イーライリリーは同社と複数の標的に対する抗体医薬の研究開発について提携交渉を進めてきたが、偶々COVID-2が流行したため、555が第一号になった。

016は中国のJunshi Biosciencesが中国科学院微生物研究所とともに創製、中国以外の権利をイーライリリーにライセンスした。

今回公表されたのは、軽中度COVID-19患者を外来治療した第2相試験、BLAZE-1の併用コフォートのデータ。112人に各剤を2800mgずつ投与した。対照群は偽薬を156人に投与。以下、先に発表された555モノセラピー群(三種類の用量を合計309人に投与)のデータと合わせて記述する(モノセラピーの効果はどの用量も大差ないため、プールしても大きな問題はないだろう。尚、モノセラピーと併用を直接比較することはできない)。

主評価項目の第11日ウイルス量は偽薬比で平均0.56 log10減少し統計的に有意。モノセラピーは0.03 log10で有意ではなかった。モノセラピーは第3日や第7日のデータはもうちょっと良いが、両時点とも有意だったのは併用群だけだった。また、併用群は抵抗性変異が偽薬群と比べてそれほど多くなかった。効果の点でも、抵抗性変異誘導リスクの点でも、併用のほうが良さそうに見える。

小規模な試験だが、症状スコアも併用、モノともに偽薬比有意に改善した。COVID-19関連入院/救急治療のリスクは併用群は1人(0.9%)、偽薬群9人(5.8%)、モノは5人(1.6%)。p値は各0.049と0.02だがサンプル数が少ないのであまり重視しないほうが良さそうだ。

治療時発現有害事象は各群、大きな差はなかった。

555モノセラピーのEUA申請は、軽中度で高リスクの患者を想定している。用量は併用試験で採用された2800mgではなく、モノセラピー試験で効果が大差なかった700mgを考えている模様だ。生産体制は一人700mgを前提に10月は10万回分、今四半期中に100万回分を供給できる能力を目指す。

併用は今四半期中に5万回分とのことで、増設が遅れているが、先日発表されたアムジェンとの生産提携などにより、来年第1四半期にはかなり多くを供給できる見込み。併用でも投与量を減らすことができれば、これだけでも4倍に増やせる計算になる。

モノセラピーを承認申請するとは思わなかったが、併用の増産体制が整うまで2~3ヶ月間の繋ぎと考えているのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:EMA、BioNTech/ファイザーのワクチンのローリング審査を開始
(2020年10月6日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、CHMP(医薬品科学的評価委員会)がBioNTechがファイザーと共同開発しているCOVID-19ワクチンBNT162b2のローリング審査を開始したと発表した。先に開始した、オックスフォード大学が創製しアストラゼネカが共同開発しているAZD1222と同様に、前臨床と初期臨床試験で予防効果が見られたため、第三相試験の結果が提出される前に非臨床データの承認審査を開始するもの。

BNT162b2はウイルスのスパイク蛋白の全長RNAを、宿主細胞の受容体に融合する前の構造を再現できるように一部改変したものを、リピッド・ナノパーティクルに封入した。承認取得を前提に、EUは2億回分(さらにオプションで1億回分)、米国は1億回分(+オプション5億回分)、日本も1.2億回分を調達することで合意している。欧米で開発されているワクチンの中では最も早く、今月後半にも第3相試験の早期データが判明すると予想されている。

リンク: EMAのプレスリリース

早産予防用のプロゲスチンの承認が終焉へ
(2020年10月5日発表)

FDAで小分子薬などを担当するCDERは、AMAG Pharmaceuticals(Nasdaq:AMAG)に対してMakena(hydroxyprogesterone caproate)の承認返上を求めた。2011年に早産予防薬として加速承認したが、市販後確認試験で便益が確認されなかったため。Makenaの承認が返上されるとGE薬の承認も消滅する。調剤薬局も早産予防目的で調剤処方することができなくなる。既にGE化しているためAMAGに与える影響は小さそうだが、医師や患者にとっては悩ましい事態になった。知人が昨年、頸管縫縮術後に毎週3時間かけて(!)通院治療したが、日本など他国でも対応が迫られている。

hydroxyprogesterone caproateは1956年にスクイブ(当時)が米国で早産予防とは異なる用途で米国の販売承認を取得したが、2000年に生産問題を理由に承認返上した。ところが、2013年になって、NIH(米国医療研究所)主導試験の結果がNew England Journal of Medicine誌で論文発表され、一躍注目を集めるようになった。単胎自然早産歴を持つ妊婦の早産(37週未満の出産)率が37%と偽薬群の55%を大きく引き下げることに成功したのである。一般メディアでも取り上げられたこともあり、調剤薬局品がオフレーベルの早産予防目的で広く使われるようになった。

一方で、流産や死産の懸念も浮上したことから、FDAが改めて臨床試験を実施して承認申請することを呼びかけたところ、KV Pharmaceuticalsが応じ、06年に承認申請した。しかし、臨床試験の主評価項目の妥当性などが議論になり諮問委員会の意見も分かれたことから、承認まで5年かかった。早産予防は目的ではなく、新生児の健康を担保するための手段に過ぎないが、KVの臨床試験では便益が確立していないため、FDAは臨床的便益を示唆する代理マーカーに基づく加速承認として扱い、改めて臨床試験で新生児の便益を確認するよう求めた。

この市販後薬効確認試験であるPROLONG試験は、意外なことに、フェールした。主評価項目の新生児疾病罹患・死亡率が5.4%で偽薬群の5.2%と大差なく、副次的評価項目の37週未満の出産率も23%対22%と同程度で米国の施設だけの分析に至っては33%対28%とむしろ高かった。結果が食い違う理由として人種や国籍などが挙げられたが、FDAのファクター分析では便益を享受できそうなサブグループは見つからなかった。

19年10月に開催された諮問委員会では9人の委員が承認取消を支持、7人は再試験を要求すべきと結論した。委員のうち産婦人科の医師は6人中5人が再試験要求を支持した。17年間に及ぶ標準的療法であることや、他に適切な薬物療法がないことから、是非を決するのは困難な状況だった。

それだけに、FDAが承認返上を要求したのはサプライズであると同時に、やむを得ないことでもある。尚、承認取消ではなくメーカー側の自主返上なのは、そのほうが簡便だからで、一般的なやり方である。AMAGは聴聞会を要求することができる。この場合、FDAは開催することもしないこともできる。開催した場合、FDAは承認返上要求を撤回することもしないこともできる。要求してAMAGが応じなかった場合、FDAは承認取消に動くだろう。この場合、AMAGが不服申立て、そして裁判所に提訴する可能性もある。したがって、MakenaやGE薬がいつまで流通するかは不透明である。

さて、Makenaと同様にMakenaの販売会社も紆余曲折した。古くから使われている薬を新薬として高い値段で売るビジネスモデルは米国で流行しているが、やりすぎると反発を買う。KVは1回分が1500ドルと調剤薬局品の100倍の値段で発売したが、政治家の介入を招き、調剤薬局品の流通を止めさせることができなかったため売り上げが伸びず、12年に破産法を申請する顛末になった。

AMAGは14年にKVの事業の一部を取得、16年に新製剤の承認を取得して遂に調剤薬局品の駆逐に成功したが、やがてオリジナルの製剤がGE化し、19/12期の売上高は1.2億ドル、前期比62%とじり貧になった。AMAGは他の事業も伸び悩み、今月、Covisが5億ドルで買収することで合意した。薬品業界では国破れて山河在り、ならぬ、企業敗れて薬品在りという事例が珍しくないが、Makenaは両方倒れてしまった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 同(質疑集)
リンク: AMAGのプレスリリース


【新薬開発】


アムジェン、G12C変異KRAS阻害剤の第2相が良績に
(2020年10月5日発表)

アムジェンは、AMG 510(sotorasib)の第1/2相試験の第2相ポーションがポジティブな結果になったと発表した。FDAなどの承認審査機関と承認申請の道筋に関して相談する予定。データは21年1月のIASLC(国際肺癌会議)で発表する考え。

AMG 510はG12C変異のあるKRASに特異的不可逆的に結合、阻害する経口剤。この変異は非小細胞性肺癌(NSCLC)の13%、結腸直腸癌の3-5%、その他の癌の1-2%程度で見られる。KRAS-G12C変異がドライバー・ミューテーションである癌は米国で年3万人が罹患と推定されている。

今回のCodeBreak 100試験はKRAS-G12C変異陽性癌を組入れた用量漸増試験。第2相ポーションでは二次までの治療歴を持つ進行NSCLC126人に960mg/日を投与してORR(客観的反応率)を検討した。結果は第1相ポーションの同用量を投与したコフォートのORRと同程度だった由。New England Journal of Medicine誌で刊行された第1相ポーションの論文によると、ORRは35.3%で、G3以上の治療関連有害事象発現率は18%だった。

リンク: アムジェンのプレスリリース

オプジーボの非小細胞性肺癌ネオアジュバント試験が成功
(2020年10月7日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)の第3相CheckMate-816試験が成功したと発表した。切除可能な非小細胞性肺癌の患者358人を組入れて、白金薬などによるネオアジュバント(術前補助)療法にOpdivo(360mgを3週毎に最大3サイクル投与)を追加する効果を化学療法だけと比較した試験で、主評価項目の一つであるpCR(病理学的完全反応)を達成した。

もう一つのEFS(イベント・フリー生存期間)の解析が残っているため、試験は続行する。BMSによると、非小細胞性肺癌の6割は診断時には転移がなく手術で治癒するが、30-55%が再発するとのこと。

免疫チェックポイント阻害剤の非小細胞性肺癌ネオアジュバント試験が成功したのは初めて。MSDなどライバルも治験中で、早晩結果が出るだろう。

尤も、EFS延長効果が確認されるまで予断は許されないのではないか?本試験はオープンレーベルなので、pCRとEFSが相関するのならば、pCRの結果を公表してEFSの判定にバイアスを与えるようなことはしないはずだ。

リンク: BMSのプレスリリース

BMS、メラノーマ術後アジュバント試験でオプジーボ・ヤーボイ併用がフェール
(2020年10月2日発表)

BMSはCheckMate-915試験のintent-to-treatベースの解析がフェールしたと発表した。昨年結果が出た、PD-L1陰性サブグループだけの解析もフェールだったので、意外感は小さい。オプジーボだけで十分ということになる。

この試験は、IIIb期からIV期までの悪性黒色腫を完全切除した患者を組入れたアジュバント(術後補助療法)試験で、併用群はOpdivo(nivolumab;240mg)を2週毎に、Yervoy(ipilimumab;1mg/kg)は6週毎に投与し、実薬対照群はOpdivo(480mg)を4週毎に投与して、無再発生存期間を比較した。

OpdivoはPD-L1の受容体であるPD-1をブロックする作用機序なので、幾つかの癌ではPD-L1陽性癌のほうがよく反応する。併用レジメンの長所はPD-L1陰性のほうが発揮されやすい、または陰性も陽性も同じであろうから、陰性サブグループの解析がフェールした以上、陽性も含めた解析に期待するのは難しかった。。

リンク: BMSのプレスリリース

イデベノンのデュシェンヌ筋ジストロフィー試験がフェール
(2020年10月6日発表)

Santhera Pharmaceuticals(SIX: SANN)は武田薬品が90年代に認知症治療薬アバンとして販売していたことがあるコエンザイムQ10類縁体、idebenoneをライセンスして様々な用途に開発し、遂に15年に欧州でレーバー遺伝性視神経萎縮症治療薬Raxoneとして販売承認を得た。16年にはデュシェンヌ筋ジストロフィー(DMD)治療薬Puldysaとして承認申請を行ったが、効能が呼吸機能限定的で筋力や運動機能、QOLなどは改善しないことや、治験のデザインや実施内容にも懸念があることから、承認されなかった。

欧州では追加データを基に再承認申請したが、米国はFDAの求めに応じてSIDEROS試験を開始。呼吸機能が低下しステロイド治療を受けている患者に追加投与して%努力肺活量の改善を試みたが、中間薬効解析で無益性が認定された。

同社は欧州での申請撤回とDMD用途の開発中止を決めた。リストラを断行し、経営資源を同じくDMD治療薬として開発しているvamoroloneなどに集中する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


Y-mAbs、FDAがomburtamabの承認申請を受理せず
(2020年10月5日発表)

Y-mAbs Therapeutics(Nasdaq:YMAB)は8月に8H9(omburtamab)を小児神経芽腫の中枢神経系/軟髄膜転移の治療薬としてFDAに承認申請したが、受理されなかった。CMC(化学、製造、管理)や臨床試験に関する情報が不十分と指摘されたようだ。FDAとタイプAミーティングを持ち、年内に第2相試験の追加症例データなどを提出して再申請する考え。

8H9はMemorial Sloan Kettering Cancer Centerからライセンスしたチェックポイント阻害剤で、腫瘍細胞が発現するB7-H3に結合する抗体にヨウ素131を結合したもの。外来治療が可能。ピボタル第2相試験では、4週サイクルで第1週に50ミリキュリーを脳室内投与し、必要かつ忍容なら2サイクル施行した(但し日本の施設では5週サイクルで第1週に2ミリキュリー、第2週に50ミリキュリーを投与し、必要かつ忍容なら2サイクル施行)。データは未発表。

Y-mAbsの創業者で会長兼社長のThomas Gadは娘が2歳の時に高リスク神経芽腫と診断され、同社が4月に米国で承認申請し6月に受理されたnaxitamabのひな型となったマウス抗体で治療を受けた。4歳ごろに再発したがomburtamabによる治療が奏功し、15歳の今日まで無病で来ているとのこと。Amicus Therapeutics(Nasdaq:FOLD)のJohn F. Crowley会長兼CEOも難病の娘を助けるためBMSを辞めて有望な開発品や研究者、そして資金提供者を探し、承認まで漕ぎつけたことで著名だ。誰にでもできることではなく、苦戦している経営者兼患者家族もいるが、Y-mAbsはあと一歩だ、Crowley、Gadの後に続く人たちが勇気づくよう頑張ってほしい。

リンク: 同社のプレスリリース





今回は以上です。

2020年10月3日

第966回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:トランプ大統領はリジェネロンの抗体カクテルを使用! 
  • COVID-19:EMAがアストラゼネカのワクチンのローリング審査を開始 
  • アルナイラム、高シュウ酸尿症I型用薬の幼児試験が成功 
  • レルゴリクスの前立腺癌進行抑制効果はリュープロリドと大差ない 
  • アイアンウッド社、コレセベラムの逆流性食道炎適応を断念 
  • サノフィ、ポンペ病の酵素補充療法をEUで承認申請 
  • JNJ、ウプトラビの静注用を米国で承認申請 
  • テムセルは米国では審査完了に 
  • FDA、オプジーボとヤーボイの併用を悪性胸膜中皮腫に適応拡大 
  • 塩野義、米国でcefiderocolが適応拡大 


【今週の話題】


COVID-19:トランプ大統領はリジェネロンの抗体カクテルを使用!
(2020年9月29日発表)

トランプ大統領はリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のREGN-COV2(8g)による治療を受けたようだ。主治医が公表したと米国の複数のメディアが報道している。米国はギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesivir)やGE薬であるdexamethasoneが承認されている。トランプ大統領は、かって、hydroxychloroquineが有効と発言したこともある。それにもかかわらず自分が感染すると誰にも言わなかった薬を使うのだから、流石、セレブは違う。ちょうど初期臨床データが発表されたところなので、概観してみよう。

REGN-COV2は、SARS-CoV-2ウイルスが細胞に侵入する時に用いるスパイク蛋白の異なった受容体結合ドメインに結合する二種類の抗体、REGN10933とREGN10987のカクテル療法。イーライリリーが先日発表したLY-CoV555のデータからも明らかなように、一種類の抗体だけでは耐性が生じてしまう可能性があり、リリー自身も含めて多くの会社がカクテル化している。リジェネロンは深刻な感染症であるエボラ・ウイルス疾患の治療に用いる三種類の抗体のカクテル、REGN-EB3の開発に成功した、大きな実績を持っている。

入院治療、外来治療、そして家庭内感染予防に用いる第1/2/3相試験が進行中。リジェネロンは外来治療試験の初期データをプレスリリースやテレカンファレンスで公表した。予想された通り、ベースライン時点で抗体を持たない血清陰性患者では高いウイルス抑制作用や症状改善作用を示したが、血清陽性患者における効用は小さそうだ。入院の必要がない患者に普及させるためには、スパイク蛋白などに対する抗体の有無、あるいは、代替策として、ウイルス量を測定するアッセイの実用化が必要だろう。偽薬群のデータは、陰性患者は陽性患者より症状改善が遅く、受診・救急治療リスクも高いことも示しており、検査アッセイが普及すれば高リスク患者のスクリーニングにも転用できるかもしれない。

外来治療試験(NCT04425629)は米国の医療施設で2000人以上を組入れる無作為化割付二重盲検試験。偽薬、低用量(2.4g)、高用量(8g)を一回静注する三群が設定された。今回発表されたデータは症状のある患者を組入れるコフォートの最初の275人の記述的解析。COVID-19の治療試験は、通常、入院患者を対象としており、入院の必要がないほど軽症あるいは無症状の患者の自然歴に関するデータは限定的であるため、探索的分析を行った。

患者背景は平均年齢44歳と比較的若く、人種構成は米国の臨床試験としてはかなり異例でヒスパニック/ラテン系が55%を占めた。65%の患者がCOVID-19重症化リスク因子を持っていた。

軽症/無症状の患者は自家製の抗体でウイルスを抑制できていて補充療法であるREGN-COV2の便益が小さい可能性がある。このため、本試験では事前にスパイク蛋白に対する免疫グロブリンGまたはA、あるいはヌクレオカプシドに対する免疫グロブリンGを検査したところ、被験者の41%が陰性、45%が陽性、そして14%が不明だった。

全被験者の解析結果は、7日間の鼻咽頭ウイルス量減少(単位:log10コピー/mL、以下同じ)が各群1.41、1.64、1.92となり、偽薬比p値は低用量群が0.20、高用量群は0.0049だった。血清陰性サブグループでは各1.38、1.89、1.98減少し、p値は各0.06、0.03だった。陽性サブグループのデータは開示されていない。

ベースライン値を見ると、抗体の有無とウイルス量(鼻咽頭ぬぐい液ベース)に関連性が見られた。臨床転帰とも関連性が見られ、偽薬群の血清陰性サブグループは症状軽度化所要日数がメジアン13日であったのに対して陽性サブグループは7日と短く、第29日までに受診/救急医療を受けた患者の比率は各15%と6%だった。

REGN-COV2の臨床効果も血清陰性サブグループのほうが大きく、メジアン症状軽度化所要日数は偽薬群が13日であったのに対して低用量群は6日(p=0.09)、高用量群は8日(p=0.22)だった。一方、血清陽性サブグループは各群7日、7日、9日で大差なかった。また、陰性サブグループの受診/救急率は各群15%、5%、8%だった。

こうして見ると用量反応関係が見られないが、抗体医薬にはありがちなことで、市販後に用量や決定方法(体重依存から固定に、など)が変更された前例もある。

公表された安全性の指標(G2以上の点滴反応や過敏反応、深刻有害事象、治療発現有害事象による点滴中断)は発生数が各群0~2人と少数すぎて、まだ何とも言えないだろう。

今回の解析はプルーフ・オブ・コンセプトとして重要だが、この薬を一番必要としている重症入院患者の罹患期間短縮効果や死亡リスク削減効果が判明するのはまだこれからだ。症状の重い患者は血清陽性が少ない可能性が高いが、もし陽性患者に対する臨床的効果が弱かったら、重症患者に対しても抗体/ウイルス量検査が必要になるのではないか。

COVID-19ワクチンや抗体医薬の開発で先行している会社は、以前から米国政府などの支援を受けて適切な予防・治療法のない感染症に関する研究開発を進めてきた。リジェネロンも17年に米国保健福祉省と最大10病原体に対する抗体開発でパートナーシップを締結、新規ウイルスに対する抗体医薬を短期間で実用化するプラットフォーム(VelociSuite rapid response technologie)をブラッシュアップしてきた。米国政府の『ワープ・スピード作戦』の一環で数万回分の抗体医薬を生産・供給すべく4.5億ドル相当の契約を結んでいる。米国はREGN-COV2についても国民に無償で提供する考えだ。

8月にはロシュと生産開発販売提携し、生産能力を月産25万回分程度に増強する目途を立てた。ロシュは第3相試験の費用を分担し、米国以外の地域を担当する。

リンク: リジェネロンのプレスリリース
リンク: NCT04425629試験登録(ClinicalTrials.gov)

COVID-19:EMAがアストラゼネカのワクチンのローリング審査を開始
(2020年10月1日発表)

EMA(欧州薬品庁)は、CHMP(医薬品科学的評価委員会)がCOVID-19ワクチンのローリング審査を開始したと発表した。対象はアストラゼネカがオックスフォード大学と共同開発しているAZD1222。

ローリング審査は公衆衛生の非常時に有望な医薬品やワクチンの承認審査を前倒しで開始してスピードアップするもの。前例としては4月にギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesivir)のローリング審査を開始し、6月の正式な承認申請受理を経て、7月に条件付き承認した。

今回は、前臨床試験や早期臨床試験の予備的データで抗体/T細胞免疫の誘導能を示したため、ローリング審査を決定、まず前臨床データの審査を開始した。

AZD1222はオックスフォード大学が創製した遺伝子ワクチン。ヒトが抗体を持たない、チンパンジーに感染するアデノウイルスの遺伝子を組換えて増殖不能にしたものをベクターとして、SARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白の遺伝子を体内に導入する。細胞内で発現すると抗原となり免疫を誘導する。

第3相試験まで進んでいるが、7月と9月に神経学的有害事象例が発生、中断した。前者はワクチンの副作用ではなく多発性硬化症の発現と判定され、再開された。後者はAZD1222との関係があるともないとも言えないまま、英国やブラジル、日本などで治験が再開。米国は警戒的で、報道によると、FDAがチンパンジー・アデノウイルスを使った他のワクチンの臨床データの提出を求めた模様。COVID-19の臨床試験は数万人規模だが、他のワクチンの接種実績は総計300例程度なので、たいして役に立たないのではないか。

EMAのローリング審査も現時点の対象は前臨床データなので、上記神経学的有害事象に関する洞察は得られないだろう。

稀だが深刻な副作用は、薬やワクチンが原因であったとしても、被害者の側にも何らかの素因があるかもしれない。解明することは被害者が増えるのを防ぐだけでなく、他の人が有益な治療を享受できるようにするためにも重要だ。だが、残念ながら、症例数が少ないことや副作用被害者との関係が悪化しがちであることなどから、解明は困難である。結局、できるだけ多くの人に投与して、有害事象症例を蓄積するしか解決策はない。

リンク: EMAのプレスリリース


【新薬開発】


アルナイラム、高シュウ酸尿症I型用薬の幼児試験が成功
(2020年9月30日発表)

RNA介入薬開発販売会社のアルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)はALN-GO1(lumasiran)を成人の原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)の治療薬として欧米で承認申請しているが、3ヶ月児から6歳までの患者39人を組入れて6ヶ月間投与した第三相単群試験が成功したと発表した。尿硝酸塩:クレアチニン比率が臨床的に意味のある低下を示したとのこと。重度有害事象や深刻有害事象は見られなかった。データはASN(米国腎臓学会)が10月に開催するKidney Week 2020で発表する計画。

原発性高シュウ酸尿症 I 型は肝臓のペルオキシソームに存在するアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼの欠乏により、グリオキシル酸が蓄積、シュウ酸過剰により腎臓などにカルシウムが蓄積する。罹患率は5~6万人に一人と推定されている。lumasiranはグリコール酸酸化酵素の遺伝子、HA01を標的とするRNA介入薬で、シュウ酸の生産を抑制する。欧米で希少疾患用薬指定やブレークスルー・セラピー指定/PRIME指定を受けている。

リンク: 同社のプレスリリース

レルゴリクスの前立腺癌進行抑制効果はリュープロリドと大差ない
(2020年9月29日発表)

武田薬品の経口GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)受容体拮抗剤、relugolixは、昨年1月に日本で子宮筋腫治療薬レルミナ(レルゴリクス)として承認され、あすか製薬が販売している。前立腺癌用途は欧米での導出先であるMyovant Sciences(NYSE:MYOV)が米国で今年4月に承認申請、審査期限は今年12月20日となっている。エビデンスとなる臨床試験では、アンドロゲン感受性進行前立腺癌に120mg(初回は360mg)を一日一回、経口投与して効果をleuprolideの3ヶ月デポ製剤と比較したところ、テストステロン抑制奏効率が各群96.7%と88.8%となり、非劣性であることが確認された。

今回、転移癌サブグループの48週無去勢抵抗生存率の解析結果が発表されたが、各群74%と75%となり、優越性解析がフェールした。承認審査には影響しないだろうが、ジェネリック化した薬と臨床効果が大差ないなら大きなシェアは取れないだろう。

Myovantは婦人科向けに作用の異なるホルモン製剤を併用することでGnRH受容体拮抗剤の副作用を緩和するアドバック療法用の合剤(relugolix 40 mg、estradiol 1.0 mg、norethindrone acetate 0.5 mgを配合)を開発、欧米で子宮筋腫による過剰出血の治療薬として承認審査中だ。利便性という長所があるので、前立腺癌用途より有望だろう。

Myovant Sciences(NYSE:MYOV)はヘッジファンドマネージャーのVivek Ramaswamyが創設しソフトバンクのファンドが巨額投資を行ったことでも有名なRoivant Sciencesグループの一員。Roivantは19年に大日本住友製薬が資本業務提携を結び、Roivantに出資するとともに、Myovantなどを子会社化した。

リンク: Myovantのプレスリリース

アイアンウッド社、コレセベラムの逆流性食道炎適応を断念
(2020年9月29日発表)

アイアンウッド(Nasdaq:IRWD)は胆汁酸吸着剤colesevelamの新製剤であるIW-3718を難治性GERD(逆流性食道炎)の治療薬として開発、プロトンポンプ阻害剤に追加する用法で第3相試験を二本実施していたが、302試験の中間解析が不満足な結果になったことから開発中止を決めた。赤字抑制のため人員削減を行う予定。

colesevelamは三共(当時)が米国でジェルテックス社(当時)からライセンス、2000年にLDL-C治療薬として承認を取得し、08年には二型糖尿病の血糖治療に適応拡大した。IW-3718はDepomed(18年にAssertio Therapeuticsに社名変更)のAcuformドラッグデリバリー技術を用いて薬剤が胃に数時間留まり活性成分を徐放するようにしたもの。後期第2相試験で胸やけ症状スコアの改善に成功、18年に第3相に進んだ。

しかし、COVID-19の影響などから組入れが予定を遅延したため、続行の当否を判断するために独立データ監視委員会に302試験のアドホック中間薬効評価を行うよう要請した。事前に設定された基準がすべて満たされるようなら続行し、すべて駄目なら次のアクションを検討する考えだったが、後者のシナリオが実現してしまった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


サノフィ、ポンペ病の酵素補充療法をEUで承認申請
(2020年10月2日発表)

サノフィは、avalglucosidase alfa(通称NeoGAA)をポンペ病の治療薬としてEUに承認申請し、受理されたと発表した。2000年代央に欧米でポンペ病薬として承認されたMyozyme/Lumizyme(alglucosidase alfa)を改変し、筋細胞におけるM6P受容体親和性を高めた酵素補充療法。3歳以上の患者を組入れた第3相遅発型ポンペ病試験で呼吸機能改善作用がalglucosidase alfaと非劣性だった。統計学的に有効な検定ではないが、6分歩行テストで32メートル改善と対照群の2メートル改善よりかなり良い数値が出ていることが注目される。乳児発症型を組入れた第2相も実施されている。

リンク: サノフィのプレスリリース

JNJ、ウプトラビの静注用を米国で承認申請
(2020年9月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、肺動脈高血圧症治療薬Uptravi(selexipag、和名ウプトラビ)の静注用新製剤をFDAに承認申請したと発表した。selexipagは日本新薬からライセンスしたPGI2受容体作動剤で錠剤が15~16年に日米欧で承認されている。

持効製剤ではなく、錠剤を服用している患者が何らかの理由で一時的に服用できなくなった時の代替策のようだ。臨床試験では初日は朝夕に経口剤、2日目は朝夕に静注、3日目は朝は静注、夕は錠剤、4~9日目は朝夕に錠剤を投与しており、ごく短期間の使用を想定しているのではないか。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認審査・委員会】


テムセルは米国では審査完了に
(2020年10月2日発表)

オーストラリアのMesoblast(ASX:MSB、Nasdaq:MESO)はremestemcel-Lを小児急性移植片宿主病(GvHD)治療薬として米国で承認申請し、8月の腫瘍学諮問委員会で10人中9人の支持を獲得したが、結局、審査完了通知を受領した。FDAは対照試験で効果を確認することを推奨している由。

remestemcel-Lは健常者から採取したヒト間葉系幹細胞を培養した、細胞性医薬品。日本でJCRファーマが急性GvHD治療薬テムセルとして販売するなど、幾つかの国で承認されているが、米国では中々承認されず、元々の開発会社であるオサイリス・セラピューティクス(Nasdaq: OSIR)は13年にMesoblastに事業売却した。

FDAの諮問委員会ブリーフィング資料によると、懸念は主に二点。第一は生産ロットごとの同一性評価が困難であること。間葉系幹細胞はドナー毎の個人差が大きく、培養によって更に差が広がる可能性がある。remestemcelは作用機序が明確でなく、力価評価方法が確立していないため、どの程度ムラがあり、どの程度までなら許容できるのか分からない。手元にある医薬品が本当に効くかどうか、曖昧だ。

第二は、臨床成績が区々であること。日本で実施された臨床試験については言及されていないが、欧米で行われた試験は成人、小児を組入れた無作為化割付対照試験は何れもフェールしたため、薬効の裏付けになりうるのは単群試験の反応率データだけである。数値を見ると試験によりかなり大きな差があり、患者の状態など第三の因子の影響が大きいことが疑われる。このため、無作為化割付対照試験を行う以外の方法で評価することは困難とFDAは考えている。

remestemcel-LはCOVID-19による急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の第3相試験が4月に米国で開始された。人工呼吸器を必要とする18歳以上の患者300人を組入れて、GvHDと同じ2x10^6個/kgを3日置いて二回、点滴静注する手法の30日全死亡率を偽薬と比較する。この試験が成功すれば新たな市場が開けるとともに、広い意味ではARDSもGvHDも似たような病気なので、FDAが求める無作為化割付対照試験のエビデンスになりうるかもしれない。

リンク: Mesoblastのプレスリリース


【承認】


FDA、オプジーボとヤーボイの併用を悪性胸膜中皮腫に適応拡大
(2020年10月2日発表)

FDAは、BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用で切除不能な悪性胸膜中皮腫の一次治療に用いることを承認した。審査期限より5ヶ月早いとのことなので、適応拡大申請の受理から何日も経たないうちに承認した計算になる。プレスリリースにはRTOR(リアル・タイム・オンコロジー・リビュー)パイロット・プログラムの対象とは記されていないので、RTORが試験段階から実用段階に近づいてきたことを示唆しているのだろう。

承認の根拠となったCheckMate-743試験では、Opdivo(3mg/kg、2週毎)とYervoy(1mg/kgを6週毎)を併用した群のメジアン生存期間は18.1ヶ月と化学療法群の14.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.74(95%信頼区間0.61-0.89)だった。胸膜中皮腫は上皮型か否かで化学療法の第一選択が変わるが、Opdivo・Yervoy併用は不問のようだ。非上皮型におけるメジアン生存期間が16.9ヶ月と化学療法の8.8ヶ月を上回りハザードレシオは0.46(0.31-0.70)。一方、上皮型におけるメジアン生存期間は18.7ヶ月、化学療法群は16.2ヶ月でハザードレシオが0.85(同0.68-1.06)となっている。

リンク: FDAのプレスリリース

塩野義、米国でcefiderocolが適応拡大
(2020年9月29日発表)

塩野義製薬はカルバペネム耐性菌にも活性を持つ新規作用機序の点滴静注用セファロスポリン、cefiderocolを開発し、19年に米国でFetroja名で、今年4月にはEUでFetcroja名で、承認を取得した。18歳以上のグラム陰性菌による複雑性尿路感染症・腎盂腎炎の治療に用いる。危機的多剤耐性グラム陰性菌感染症の臨床試験で死亡リスクが活性対照薬より高かったことから、他に適切な治療薬がない、または限定的な場合に用いるデモシカ・ドラッグになっている。

今回、18歳以上のグラム陰性菌による院内細菌性肺炎や人工呼吸器関連肺炎の治療に用いる適応拡大がFDAに承認された。2000mgを8時間毎に3時間点滴静注したところ、28日死亡率が22.1%とmeropenemを投与した群の21.1%と比べて非劣性だった。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)




今週は以上です。