2023年3月31日

第1096回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • BioNTech、23年のCOVID-19ワクチン収入は7割減を予想 
  • 抗PD-1抗体は子宮内膜腫全般に有効 
  • BrainStorm、FDAが諮問委員会招集へ 
  • CHMPがHIPRAのCOVID-19ワクチンに肯定的意見 
  • キイトルーダがMSI-H/dMMRに本承認 


【今週の話題】


BioNTech、23年のCOVID-19ワクチン収入は7割減を予想
(2023年3月27日発表)

ドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)は、2022年12月期決算発表に際して、23年のCOVID-19ワクチンに係わる営業収入がアナリスト予想を下回る50億ユーロに留まるとの見込みを明らかにした。22年比7割減に相当する。ブースター接種の需要が低調であることや一部の国で政府一括購入が終了することなどを考慮した。

同社が開発したComirnatyはファイザーなどもライセンス販売しており、ファイザーは22年の営業収入(アライアンス収入を含み)として378億ドルを計上したが、23年は65%減の135億ドルを予想している。BioNTechは自社直販分と提携先への売上高、そして、ファイザーとFusan Pharmaの売上高に係わる利益分配金を営業収入として計上しており、22年実績は、夫々、32億ユーロ、12億ユーロ、127億ユーロ、合計173億ユーロだった。

長い目で見ればmRNA薬が急速に普及し莫大な投与実績ができたことは同社にプラス。他の感染症や腫瘍学などに展開していく考えだ。

リンク: BioNTechのプレスリリース

【新薬開発】


抗PD-1抗体は子宮内膜腫全般に有効
(2023年3月27日発表)

GSKとMSDは、夫々の抗PD-1抗体のステージIII/IV/難治子宮内膜腫の第3相一次治療試験の結果をSGO婦人科腫瘍学会とNew England Journal of Medicine誌で発表した。標準療法であるpaclitaxelとcarboplatinのレジメンに追加すると進行/死亡リスクを抑制できることを示した。何れもミスマッチ修復不全(dMMR)/マイクロサテライト不安定性高度(MSI-H)の子宮内膜腫の再発治療に単剤投与することが承認されているが、今回の試験では7~8割を占めるdMMR/MSI-Hではない患者にも有効だった。

約500人を組入れてGSKのJemperli(dostarlimab-gxly)をテストしたRUBY試験ではPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.64、24ヶ月無進行生存率は36.1%で偽薬併用群の18.1%を上回った。dMMR/MSI-Hサブグループでは各0.28、61.4%、15.7%、非dMMR/MSI-Hサブグループでは0.76、28.4%、18.8%だった。全生存期間の解析は未成熟だが、全集団のハザードレシオが0.64と好ましい方向を向いている。

約800人を組入れてMSDのKeytruda(pembrolizumab)をテストしたNRG-GY018試験ではdMMRコフォートのPFSハザードレシオが0.30で、メジアン値は未達(95%下限30.6ヶ月)、偽薬併用群は7.6ヶ月(95%上限9.9ヶ月)だった。dMMR以外を組入れたコフォートでは各0.54、13.1ヶ月(10.5ヶ月)、8.7ヶ月(10.7ヶ月)だった。

リンク: GSKのプレスリリース
リンク: Mirzaらの治験論文抄録(NEJM)
リンク: MSDのプレスリリース
リンク: Eskanderらの治験論文抄録(NEJM)


ノバルティス、CDK4/6阻害剤の早期乳癌術後薬物療法試験が成功
(2023年3月27日発表)

ノバルティスはKisqali(ribociclib)の第3相NATALEE試験の成功を発表した。ステージIIとIIIのホルモン受容体陽性、her2陰性乳癌で切除術を受けたが再発リスクの高い患者約5100人を組入れて、内分泌療法薬と併用する効果を検討した試験で、独立データ監視委員会が第2回中間解析で目的達成を認定、中止勧告したもの。主評価項目はiDFS(侵襲性疾患無再発生存期間)。データは未発表。全生存期間は継続追跡する。

同じCDK4/6阻害剤ではイーライリリーのVerzenio(abemaciclib)もmonarchE試験が成功、21年に一部の患者に限定して米国で適応拡大が認められ、今年3月には限定解除された。今回のNATALEE試験はmonarchE試験よりも幅広い患者層を組み入れており、ステージやリンパ節転移の有無を問わず効果が見られた由。データ次第だが、一歩前進するかもしれない。

KisqaliはAstex Pharmaceuticalsとのセル・サイクル制御に係わる共同研究の成果。Astexが大塚製薬に買収されたせいかどうかは分からないが、日本での開発は19年に中止されたようだ。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認申請】


BrainStorm、FDAが諮問委員会招集へ
(2023年3月27日発表)

BrainStorm Cell Therapeutics(Nasdaq:BCLI)はFDAがNurOwnに関する諮問委員会を招集すると発表した。日時は不明。第3相がフェールしたことなどを考えると支持されるかどうかは不透明だ。

NurOwnは骨髄由来の間葉系幹細胞をex vivoで増殖・分化させたもの。神経栄養因子を多く分泌するように装飾されている。第3相試験で急速進行型のALS(筋萎縮性側索硬化症)189人に偽薬または試験薬を8週毎に3回、髄腔内投与したところ、奏効率(ALSFRS-Rスコアが1.25ポイント/月以上改善)が各27.7%、34.7%となった。治験の前提は各15%と35%で、p=0.453とフェールした。ALSFRS-R総スコアの悪化も5.88対5.52で大差なかった。

同社は承認申請を強行したが受理されず、File over Protestという手続きに基づき再申請した。FDAの疑問の殆どに回答したとのことだが、フェールした事実を覆せるものなのかは不明だ。諮問委員会はFDAが独りよがりな判定を行わないよう牽制する役割も担っており、FDAは招集するよう努めなければならない。従って、招集が決まっただけでは朗報とは言えない。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)

【承認審査・委員会】


CHMPがHIPRAのCOVID-19ワクチンに肯定的意見
(2023年3月30日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、スペインのHIPRA HUMAN HEALTHが申請したCOVID-19ワクチン、Bimervaxに肯定的意見をまとめた。mRNAワクチン接種歴のある16歳以上に追加接種する。

アルファ株とベータ株のスパイク蛋白を合成した抗原にアジュバントを添加したもの。765人の成人を組入れて免疫原性をComirnaty(武漢株対応型)と比較した試験で、武漢株には見劣りしたがデルタ株には同程度、ベータ株やオミクロン株には上回った。EU加盟国は昨年8月に同社と共同調達契約を締結している。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


キイトルーダがMSI-H/dMMRに本承認
(2023年3月29日発表)

MSDはFDAがKeytruda(pembrolizumab)のMSI-H(高度マイクロサテライト不安定性)/dMMR(ミスマッチ修復欠損)腫瘍における仮承認を本承認に変更したと発表した。原発部位に係わらず遺伝子特性に基づき適応を取得した抗癌剤は初めて。

MSI-HやdMMRは遺伝子複製時の誤りを修復する機能が適切に働いていないことを示す。本来とは異なる蛋白が出来るので免疫機構の注目を集めやすく、抗PD-1抗体のような免疫強化療法に適した患者をスクリーニングする手法になりうる。Keytrudaは17年に米国でサルベージ用途の加速承認を取得し、うち、結腸直腸癌に関しては一次治療化学療法対照試験のエビデンスに基づき20年に本承認された。

今回は結腸直腸癌とそれ以外のMSI-HまたはdMMRを持つ切除不能/転移固形腫瘍に用いることが本承認された。前治療後に進行した、代替的治療法のない癌という限定は解除された。延命またはそれに準じる効果を示す対照試験のエビデンスはなく、仮承認時にコミットした、症例数の積み増しだけで切り替えが認められたようだ。

症例数が少ないと点推定値の信頼性が低くなる。積み増しでデータがどの程度変動したか、良い例になりうるので下表に示す。

MSI-H/dMMR腫瘍のORR

新レーベル旧レーベル
患者数504149
ORR33.3%39.6%
(完全反応率)10.3%7.4%
メジアン反応持続期間63.2ヶ月未達
腫瘍別ORR*:
結腸直腸癌24%36%
内膜腫50%36%
胃・胃食道接合部腫瘍39%56%
小腸癌59%38%
脳腫瘍4%-
卵巣癌32%-
胆道癌41%36%
膵癌18%83%
肉腫21%-
乳癌21%-
子宮頸癌9%-
神経内分泌腫瘍9%-
前立腺癌13%-
*症例数が7人以下の癌は割愛。
出所:米国のレーベルから抜粋

リンク: 同社のプレスリリース

【主なFDA審査期限、諮問委員会(23年4月)】


PDUFA:
  • 23年4月 Emergent BioSolutionsのAV7909(炭疽ワクチン)
  • 23/4/2 ロシュのPolivy(polatuzumab vedotin-piiq、未治療のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫に適応拡大)
  • 23/4/21 SeagenのPadcev(enfortumab vedotin-ejfv、尿路上皮腫Keytruda併用に適応拡大)
  • 23/4/24 第一三共のVanflyta(quizartinib、FLT3-ITD陽性AML1L導入・地固めに適応拡大)
  • 23/4/25 バイオジェンのBIIB067(tofersen、SOD1変異のある筋萎縮性側索硬化症)
  • 23/4/26 Seres TherapeuticsのSER-109(クロストリディオイデス・ディフィシル再燃の抑制)

  • 諮問委員会:
  • 23/4/14 PCNSDAC・PDAC(大塚製薬のbrexpiprazole、アルツハイマー病のアジテーション用途)
  • 23/4/17 AMDAC(Entasis Therapeuticsのsulbactam-durlobactam、アシネトバクター感染症)
  • 23/4/28 ODAC(アストラゼネカのLynparza(olaparib)、転移CRPCにabiraterone併用用途)



  • 今週は以上です。

    2023年3月26日

    第1095回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 高量リベルサスを承認申請へ 
    • デュピクセントはCOPDにも有効 
    • 難治痛風用新薬の第3相が成功スキリージの潰瘍性大腸炎試験が成功 
    • 抗CLDN18.2抗体の二本目の第3相も成功 
    • AAD:デルゴシチニブ クリームの手湿疹試験が成功 
    • AAD:ビンゼレックスの化膿性汗腺炎試験が成功 
    • Karuna、二本目の統合失調症試験も成功 
    • 骨化性線維異形成症用薬を再承認申請 
    • ジャカビの徐放性製剤は審査完了に 
    • ヴィアレブは米国では承認お預け 
    • FDA諮問委員会、ある種のALS用の新薬を支持 
    • 初のAPDS治療薬が承認 
    • 新規エキノカンジンが承認 
    • インサイトの抗PD-1抗体もメルケル細胞腫に承認 


    【新薬開発】


    高量リベルサスを承認申請へ
    (2023年3月24日発表)

    ノボ ノルディスクは経口二型糖尿病薬Rybelsus(semaglutide)の高量投与試験の成績を発表した。過去の用量変動試験と同様に血糖降下作用も体重削減作用も承認用量を上回った。年内に欧米で承認申請する予定。GLP-1作用剤semaglutideは肥満症用途の需要が旺盛でついこの間まで供給不足状態にあった。そのせいか、ノボは製品ポートフォリオにおける優先順位や生産能力を踏まえてロールアウトの時期を決定する考えだ。

    この後期第3相PIONEER PLUS試験は、1~3種類の経口糖尿病薬を服用しても血糖値を十分に管理できない二型糖尿病患者を組入れて、承認最大用量である14mg、25mg、または50mgを一日一回追加投与して52週間のHbA1c低下を比較した。GLP-1作用剤は催吐性があるため用量漸増方式を採用した(4週間おきに3mg→7mg→14mg→25mg→50mg)。

    血糖降下剤の治験成績はTrial Product EstimandベースとTreatment Policy Estimandの両方が開示されるケースが増えたが、従来方式である前者の解析結果は、HbA1c(ベースラインは9.0%)が各群1.5%、1.9%、2.2%低下し、高用量二群は夫々承認用量群を有意に上回った。体重(同96.4kg)は各4.5kg、7.0kg、9.2kg低下し、有意差があった。

    投与中止例や他剤スイッチ/追加後も追跡計測する後者のベースでは、HbA1cは各群1.5/1.8/2.0%低下、体重は4.4/6.7/8.0kg低下で、何れも有意差があった。

    有害事象や、50mgに増量できた患者の比率、薬効解析症例数などは不明。

    リンク: 同社のプレスリリース


    デュピクセントはCOPDにも有効
    (2023年3月23日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィは抗IL-4受容体アルファ・サブユニット抗体、Dupixent(dupilumab)の最初の第3相難治COPD試験、BOREASで主目的を達成したと発表した。バイオ薬では初。二本目のNOTUS試験は24年に開票の見込み。

    この試験はトリプル・セラピーでも管理不良の中重度COPDで血中好酸球数が300セル/mcL以上の、喫煙者または喫煙歴を持つ40~80歳の患者939人を偽薬群と試験薬群に無作為化割付けして2週毎投与を52週間実施し、急性中重度COPD増悪の年率頻度を比較した。試験薬群のほうが30%低く、p値は0.0005と増悪予防試験としてはかなり低い値が出た。第12週と52週のFEV1肺活量やSGRQ総合スコアで評価したQOL、呼吸器症状などの副次的評価も達成した。

    両社のプレスリリースにはdirect to phase threeと記されているので後期第2相なりPOC試験なりをスキップして第3相を開始したのだろう。喘息症に有効ならCOPDにも効きそうな気がするが、例えば抗IL-5抗体の第3相はフェールしたことを考えると、不振の三冠王を使い続けるような勇気が奏功した。

    リンク: 両社のプレスリリース


    スキリージの潰瘍性大腸炎試験が成功
    (2023年3月23日発表)

    アッヴィは抗IL-23p19抗体Skyrizi(risankizumab-rzaa)の第3相潰瘍性大腸炎試験、INSPIREで寛解導入評価項目を達成したと発表した。寛解維持期の効果を確認したうえで適応拡大申請に向かうと推測される。

    バイオ薬やJAK阻害剤、S1P受容体調節剤を含む既存薬に不耐または応答不十分な中重度活性期潰瘍性大腸炎の患者を組入れて、偽薬または1200mgを第0、4、8週に静注したところ、各群の12週時点の寛解率が6.2%と20.3%となり、有意な差があった。尚、寛解の判定はAdapted Mayo Scoreに基づいて排便頻度、直腸出血、内視鏡的などを評価した。副次的評価項目もすべて有意差が見られ、内視鏡的改善率は各群12.1%と36.5%だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    難治痛風用新薬の第3相が成功
    (2023年3月21日発表)

    米国のSelecta Biosciences(Nasdaq:SELB)と開発販売パートナーのSwedish Orphan Biovitrum(SOBI)は、SEL-212の第3相慢性痛風試験が二本とも良好な結果になったと発表した。24年上期に米国で承認申請する予定。

    SEL-212はSEL-037(pegadricase/USAN、pegsiticase/INN)とSEL-110.36(ナノパーティクル化rapamycin)の併用法。尿酸分解酵素を点滴静注する前に後者を点滴静注することで免疫応答を抑制し、前者に対する抗体が生じて治療の妨げにならないようにする。

    第3相はキサンチン酸化酵素阻害剤に十分応答しない、または不耐の症候性患者を一群40~50人ずつ組入れて、奏効率(第6月に血清尿酸値を6回検査し、その80%以上で6mg/dL未満であった患者の比率)を偽薬と比較した。SEL-037の用量は0.2mg/kg、SEL-110.36は0.1mg/kg(低用量群)または0.15mg/kg(高用量群)を28日毎に投与した。尿酸値のベースライン平均値は8mg/dL強だった。

    結果は、DISSOLVE I試験では偽薬群4%、低用量群48%、高用量群56%となり二用量とも有意に上回った。DISSOLVE II試験も各群12%、41%、47%となり有意に上回った。有害事象は口内炎や点滴反応、感染症がやや増加した。深刻有害事象発生率は各群2.2%、18.2%、6.9%だった。尿酸溶解剤で散見される痛風フレアは発生しなかった。

    リンク: 両社のプレスリリース(GlobeNewswire)


    抗CLDN18.2抗体の二本目の第3相も成功
    (2023年3月22日発表)

    アステラス製薬はzolbetuximabの第3相GLOW試験が良好な結果になったことを昨年12月に公表したが、詳細を発表した。SPOTLIGHT試験とは異なる併用レジメンに追加する便益を検討したもので、メジアン生存期間が2ヶ月程度増加した。承認申請の予定。

    今を時めくBioNTechの共同創設者であるCEOのUgur SahinとCFOのOzlem Tureciの夫妻が設立したGanymed Pharmaceuticalsを16年に買収して入手した抗体医薬で、胃・食道胃接合部腺癌の38%程度で高発現しているCLDN18.2を標的とする。第3相はCLDN18.2陽性、her2陰性の切除不能局所進行性または転移性胃・食道胃接合部腺癌の一次治療を受ける患者を組み入れて、先に成功したSPOTLIGHT試験ではmFOLFOX6レジメンに、今回のGLOW試験ではCAPOXレジメンに、追加した。

    主評価項目のPFS(無進行生存期間)のハザードレシオはSPOTLIGHT試験が0.75、GLOW試験は0.69で、メジアン値の差は1~2ヶ月だった。副次的評価項目である全生存期間のハザードレシオは0.75と0.77でメジアン値の群間差は2~3ヶ月と、まあまあ似たような結果になった。

    リンク: 同社のプレスリリース(和文)


    AAD:デルゴシチニブ クリームの手湿疹試験が成功
    (2023年3月18日発表)

    デンマークのLEO PharmaはJTからライセンスしたJAK阻害剤、delgocitinibの第3相中重度手湿疹試験、DELTA 1の成績をAAD(米国皮膚科学会)で発表した。二本目も成功発表されており、延長試験で長期忍容性を確認し次第、承認申請に向かうのではないか。

    日本では20年1月にJT/鳥居薬品がコレクチム軟膏0.25%としてアトピー性皮膚炎に承認取得している。LEOの英文プレスリリースはcreamと記されているので製剤が異なるのかもしれない。今回の試験では450人を試験薬群(2mg/g)と偽クリーム群に2対1割付けして一日二回、16週間治療し、奏効率(IGA-CHEが0または1に改善し、かつ、ベースライン比2段階以上改善した患者の比率)を比較したところ、各群19.7%と9.9%となり、有意な差があった。有害事象や深刻有害事象は両群大差なかった。

    リンク: LEOのプレスリリース


    AAD:ビンゼレックスの化膿性汗腺炎試験が成功
    (2023年3月18日発表)

    UCBはBimzelx(bimekizumab)の第3相中重度化膿性汗腺炎試験二本の結果をAADで発表した。寛解導入期の第16週奏効率(膿瘍や炎症性結節を評価するHiSCRスコアが半減した患者の比率)の解析で、偽薬群、320mg4週毎皮下注群、同2週毎皮下注群が一本では各28.7%、45.3%、47.8%、もう一本では32.2%、53.8%、52.0%となり、二用法とも偽薬を有意に上回った。第3四半期に適応拡大申請する予定。

    BimzelxはIL-17AとIL-17Fの二重特異性抗体で、欧日で中重度プラク乾癬などに承認されている。

    リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)


    Karuna、二本目の統合失調症試験も成功
    (2023年3月20日発表)

    Karuna Therapeutics(Nasdaq:KRTX)はKarXTの第3相統合失調症急性期治療試験、EMERGENT-3がポジティブな結果になったと発表した。本年央に米国で承認申請する計画。

    KarXTはムスカリンM1・M4受容体アゴニストのxanomelineと過活動膀胱治療薬として用いられている末梢性ムスカリン受容体アンタゴニストのtrospiumの併用法。一日二回、漸増法で5週間、経口投与する。一本目ではPANSSの低下が21.2ポイント、偽薬群は11.6ポイントで、コーエン法によるイフェクト・サイズは0.61と非定型向精神薬並みだった。陽性症状、陰性症状の両方に有効だった。

    今回の試験もPANSS低下が20.6ポイント対12.2ポイント、コーエンのイフェクト・サイズは0.60と似たような結果になった。陽性症状には有効、陰性症状は有意水準には達しなかったが第4週時点は有意な差があったとのことなので、有効と無効の境界線上なのだろう。

    治療時発現深刻有害事象やそれによる治験離脱率は両群大差なかったようだ。血圧上昇や失神リスクは見られなかったが心拍数上昇は見られた。

    イーライリリーがLY 246708としてアルツハイマー病向けなどに開発したコンパウンドを、担当者が退社して設立したKarunaがライセンスしたもの。リリーの試験では失神などが発生し、過半が有害事象で治験離脱したことを考えれば、だいぶ改善している。延長試験で忍容性等を検討しているので、承認申請される頃には長期投与時の安全性も明らかになるだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)

    【承認申請】


    骨化性線維異形成症用薬を再承認申請
    (2023年3月16日発表)

    イプセンはpalovaroteneを米国で進行性骨化性線維異形成症(FOP)用薬として承認申請し受理されたと発表した。審査期限は8月16日。

    ロシュ由来のレチノイン酸受容体で19年にカナダのClementia Pharmaceuticalsを買収して入手、21年5月に米国で承認申請したが撤回、翌年6月に再び申請したが12月に審査完了通知を受領した。理由は不明だが、14歳未満の患者で成長板早期閉鎖リスクが見られ治験の対象外となった経緯や、臨床試験のエビデンスが強固でないことなどが思い当たる。EUでも申請されたが、CHMPは、成長板早期閉鎖はレチノイドの既知の副作用と指摘し、薬効のエビデンスも事前に設定された解析はフェールし事後的分析に基づくものであるため、否定的意見を表した。一方で、CHMPは再審査請求を受諾し、カナダは女性は8歳以上、男性は10歳以上に承認した。

    リンク: イプセンのプレスリリース(GlobeNewswire)

    【承認審査・委員会】


    ジャカビの徐放性製剤は審査完了に
    (2023年3月23日発表)

    インサイト(Nasdaq:INCY)はruxolitinibの徐放性製剤を米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。原因は明確ではない。

    一日一回服用する錠剤で、一日二回服用する承認製品と生物学的同等性試験で曝露のAUC(曲線化面積)が同等だったとのことだが、報道によると、CMax(最大曝露量)は同等ではなかったようだ。FDAは他のJAK阻害剤に関して感染症や癌、血栓性疾患のリスクを警告している。本剤は用途や審査担当部署が異なることもあり警告していないが、クラス・イフェクトの可能性もあるだろうから、AUCだけでは足りないと考えたのかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ヴィアレブは米国では承認お預け
    (2023年3月22日発表)

    アッヴィはABBV-951(foslevodopa、foscarbidopa)を進行パーキンソン病用薬として開発し、日本では昨年12月にヴィアレブとして承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。ポンプに関する追加情報を求められた。可能な限り早く追加申請する予定。

    レボドパとカルビドパのプロドラッグを24時間持続皮下注する製品。経口剤を服用しても症状管理が不十分な患者を組入れて12週間治療した第3相試験で、良質オンタイム(パーキンソン症状が現れず副作用であるジスキネジアも煩わしくなかった時間)が2.7時間と経口剤群の1.0時間を上回った。

    同社は経皮内視鏡的胃瘻増設術で設置したチューブを通じて経口液製剤を16時間連続投与するDuopaをラインアップしているが、今回の製品のほうが非侵襲的。

    リンク: 同社のプレスリリース


    FDA諮問委員会、ある種のALS用の新薬を支持
    (2023年3月22日発表)

    FDAは末梢中枢神経系用薬諮問委員会を招集し、バイオジェンがSOD1変異のある筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬として承認申請したBIIB067(tofersen)について意見を聞いた。9人の委員全員が血漿ニューロフィラメント軽鎖(NFL)量を削減する効果に基づいて加速承認することを支持した。一方、加速承認ではなく本承認する当否は、賛成3人、反対5人、棄権1人と意見が分かれた。FDAは本承認に傾いている様子だが、どうだろうか。審査期限は23年4月25日。

    SOD1(スーパーオキシドディスムターゼ1)の機能獲得型変異はALS患者の2%、米国では300人程度で見られる。tofersenはSOD1のmRNAに結合し分解を誘導するアンチセンス・オリゴヌクレオチド。18年にIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスした。第3相試験では108人を試験薬群と偽薬群に2対1割付けして病状進行を遅らせる効果を検討した。症状はALSFRS-R(0~48点で評価、数値が小さいほうが重い)で評価。主評価項目は早い進行が予想されるサブグループが対象。被験者の6割が承認薬であるriluzoleを、5%が同じくedaravoneを、並行して用いていた。

    28週間のALSFRS-R低下は7.0対8.1で群間差は1.2、p=0.97だった。パーセントで言えば低下が2%少ない程度だった。副次的評価項目もフェールした。しかし、FDAはNFLが大きく低下したことや、延長試験期間も含めた試験薬群(継続投与)と偽薬群(28週後に試験薬にスイッチ)のintent-to-treatベースALSFRS-R低下が6.0と9.5、群間差3.5と28週時点の2.1から拡大したことを重視し、加速承認または本承認に前向きだ。

    正確に言うと、前向きなのは承認審査を主導する臨床的薬理学部門で、生物統計学部門は、薬効のエビデンスが後顧的解析で事前に設定された解析はすべてフェールしたことや、NFL量と病状の関連性も後付けに過ぎないことから、後ろ向き。サロゲート・マーカーに基づく加速承認審査においてしばしば見られる意見の対立だ。

    アルツハイマー病薬とは異なり余命の短い超希少疾患なのできちんとした薬効のエビデンスを構築するのは実務的にも、倫理的にも、ハードルが高い。FDAは日本のエビデンスに基づいてedaravoneを承認した実績もあり、加速承認か本承認かは兎も角、承認されるのではないか。

    リンク: バイオジェンのプレスリリース

    【承認】


    初のAPDS治療薬が承認
    (2023年3月24日発表)

    FDAはPharming(Euronext Amsterdam:PHARM)のJoenja(leniolisib)を初めてのAPDS(活性化PI3Kデルタ症候群)治療薬として承認した。12歳以上の患者が適応になる。体重45kg以上の患者には70mgカプセルを一日二回、経口投与する。45kg未満の患者に対する推奨用量は存在しない(!?)

    APDSは100万人に1~2人の希少原発性免疫不全。白血球の成熟に係わるPI3Kデルタの遺伝子変異により免疫細胞の成熟が妨げられる。感染症やリンパ増殖、リンパ腫などを合併するリスクがある。

    Joenjaはノバルティスから導入したPI3Kデルタ阻害剤。31人を2対1割付けして12週間投与した第3相偽薬対照試験でリンパ節腫脹や全B細胞に占めるナイーブB細胞の比率が有意に改善した。被験者の6~7割はステロイド且つ又IgGを同時使用していた。

    リンク: FDAのプレスリリース


    新規エキノカンジンが承認
    (2023年3月24日発表)

    Cidara Therapeutics(Nasdaq:CDTX)と米国における商業化権を持つMelinta Therapeuticsは、FDAがRezzayo(rezafungin)を成人のカンジダ血症と侵襲性カンジダ症の治療薬として承認したと発表した。他に適切な治療法がない、または限られている場合だけに投与することができる。

    週一回静注した第3相試験で、30日前死亡率が23.7%とcaspofunginベースの標準療法群を施行した群の21.3%を数値上上回ったが、差の95%上限が14.4ポイントと非劣性マージンの20%を下回ったため、非劣性が認定された。EMAが好む評価方法である14日総合的治癒率は各群59.1%と60.6%で数値上下回ったが、差の95%下限は-14.9ポイントで非劣性マージンを上回り、非劣性認定された。

    FDAは抗生剤の非劣性マージンを10%に置くよう求めることが多いが、他に治療方法がない、または限られている場合だけの限定使用適応ならば20%に緩めても可と考えているようだ。1月の微生物薬諮問委員会では15人の委員のうち14人が承認を支持した。caspofunginベースの標準療法では14~28週間の治療期間中に改善したら退院して経口剤による治療を続けるケースもある模様だが、耐性や薬物相互作用によりスイッチできなかったり、医療保険でカバーされなかったりすることもあるらしく、週一回、4週間入院治療する薬のほうが簡便という面もあるようだ。

    rezafunginはEUでも昨年8月に承認申請が受理された。米日以外はMundipharmaが販売する予定。日本はまだCidaraが権利を留保している。

    リンク: 両社のプレスリリース(Business Wire)


    インサイトの抗PD-1抗体もメルケル細胞腫に承認
    (2023年3月22日発表)

    FDAはインサイト(Nasdaq:INCY)のZynyz(retifanlimab-dlwr)をメルケル細胞腫用薬として加速承認した。転移性または難治局所進行性で初めて全身性治療を受ける患者に、500mgを4週毎に30分点滴静注する。65人の患者を組入れた単群試験でORR(客観的反応率、独立中央評価)が52%、完全反応率は18%だった。反応した患者の62%は1年以上持続した。深刻有害事象発生率は22%で、疲労、不整脈、間質性肺炎など。

    メルケル細胞腫は皮膚がんの一種で、無痛性の赤/紫色の結節が頭頚部や腕の日射に曝露する部位で発生する。転移すると余命はあまり長くない。Zynyzと同じ抗PD-1抗体であるMSDのKeytruda(pembrolizumab)が18年に適応拡大している。治験でORR56%、完全反応率24%、54%が1年以上反応持続と同じような結果になっている。

    インサイトは17年にMacroGenics(Nasdaq:MGNX)からライセンスした。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: インサイトのプレスリリース





    今週は以上です。

    2023年3月17日

    第1094回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 二件の大型企業買収 
    • イクスタンジの前倒し投与試験が成功 
    • AhR調節剤のアトピー試験が成功 
    • IDH阻害剤の神経膠腫試験が成功 
    • 5価髄膜炎菌ワクチンの第3相が成功 
    • IgA腎症治療薬の市販後薬効確認試験が成功 
    • FDA諮問委員会、パキロビッドの本承認を支持 
    • レット症候群用薬が承認 


    【今週の話題】


    二件の大型企業買収
    (2023年3月13日発表)

    ファイザーとサノフィが大型企業買収を発表した。米国は金融緩和が終了し新興企業の資金調達が容易ではなくなった。バイオ/IT企業の二社に一社に資金提供していたSilicon Valley Bankが破綻したことも影響し、今後も、大手企業の傘下に入るベンチャーが増加しそうだ。

    ファイザーはSeagen(Nasdaq:SGEN)の株式を一株当たり229ドルで買収することで合意した。企業価値ベースで総額430億ドルの超大型合併だ。Seagenは抗体医薬複合体技術における代表的な企業でホジキン型リンパ腫用薬Adcetris(brentuximab vedotin)など3製品の開発に成功した。共同創業者で社長とCEOと会長を兼任していたClay Siegallが家庭内暴力の疑いで逮捕されたことを契機に、MSDが買収交渉中との噂が浮上したが、価格が折り合わなかった模様で、結局、ファイザー・グループ入りとなる見込みになった。

    抗体薬物複合体の第一号は2000年に米国で加速承認されたWyethのMylotarg(gemtuzumab ozogamicin)だが、同社を09年に680億ドルで買収したファイザーは小分子薬中心で抗体医薬の実績は乏しく、今年2月に二重特異的抗体PF-06863135(elranatamab)の承認申請が受理された程度なので、要素技術の補完性が高そうだ。

    買収を実現するためには各国の反トラスト規制をクリアする必要がある。発表当日の株価はオファー価格を下回っており、投資家は100%実現するとは思っていないのだろう。

    リンク: ファイザーとSeagenのプレスリリース

    サノフィはProvention Bio(Nasdaq:PRVB)を一株当たり25ドル、企業価値ベースで総額29億ドルで買収することで合意した。昨年11月に米国で承認されたばかりの一型糖尿病用薬Tzield(teplizumab-mzwv)を入手することになる。サノフィは一型糖尿病治療の根底をなすインスリンの大手だが、ライバルであるノボ ノルディスクやイーライリリーと異なり、二型糖尿病や肥満症の治療薬として注目されているGLP-1作用剤におけるプレゼンスが乏しい。Tzieldは膵島細胞自己抗体を持ち血糖値がある程度高い患者を対象とするファースト・イン・クラスの抗体医薬だが、将来性の面では小粒な印象だ。

    リンク: サノフィとProvention Bioのプレスリリース

    【新薬開発】


    イクスタンジの前倒し投与試験が成功
    (2023年3月17日発表)

    アステラス製薬は、アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide)の第3相EMBARK試験で主目的を達成した。適応拡大が承認されれば今までより早い段階で用いられるようになる。

    EMBARKは根治的前立腺全摘かつまた放射線療法後にPSA倍増期間が9ヶ月以内になった、高リスク未転移ホルモン感受前立腺癌1000人超を組み入れて、単剤投与群やleuprolide併用群のMFS(無転移生存期間)をleuprolide・偽薬併用群と比較した。同社は18年に本試験とARCHES試験の結果が早く出るようデザインを変更し、ARCHESは同年に開票した。本試験は1年前倒しで20年央に開票するはずだったが、なぜか、今頃になった。

    データは未発表だが、主目的である二剤併用も副次的評価項目である単剤投与もleuprolide・偽薬併用群を有意に上回った。二剤併用群は全生存期間も良い傾向が見られたが未だ有意水準には達していない模様だ。

    リンク: 同社のプレスリリース(和文)
    リンク: EMBARK試験の概要(ClinicalTrials.gov)


    AhR調節剤のアトピー試験が成功
    (2023年3月15日発表)

    Roivant Sciences(Nasdaq:ROIV)グループのDermavant Sciencesは、Vtama(tapinarof)の第3相アトピー性皮膚炎試験が成功したと発表した。もう一本の結果が5月にも判明する見込みで、適応拡大申請に向かうことになろう。

    コールタール療法の標的であるアリル炭化水素受容体(AhR)を調整し表皮細胞の分化や皮膚バリア関連遺伝子の発現を促進するクリーム製剤。昨年5月に米国で乾癬治療薬として承認された。日本ではJT/鳥居薬品が開発中。

    今回のADORING 2試験は2歳以上の青少年と成人の患者406人を試験薬と偽クリームに2対1割付けして8週間治療し、vIGA-AD奏効率を比較した。vIGA-AD(Validated Investigator Global Assessment for Atopic)は紅斑や硬化などを4段階で評価するもので、3(中程度)以上の患者を組入れて、0(クリア)または1(ほぼクリア)となった患者を奏効とした。試験薬群は46.4%となり偽薬群の18.0%を有意に上回った。副次的評価項目のEASI75奏効率も各群59.1%と21.2%で有意な差があった。後者における治療効果はアトピー性皮膚炎で承認されているJAK阻害剤や抗IL-4Rアルファ抗体と同じくらいだ。

    有害事象では接触皮膚炎の発生率は各群1.1%と1.5%で大差なく、毛包イベントは8.9%と1.5%で上回ったが乾癬試験の毛包炎発現率20%よりは低かった。

    リンク: Roivantのプレスリリース


    IDH阻害剤の神経膠腫試験が成功
    (2023年3月14日発表)

    セルビエはvorasidenibの第3相試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。IDH(イソクエン酸デヒドロゲナーゼ)変異のあるグレード2神経膠腫を切除した後に残余病変がある、または再発した、患者を組入れてPFS(無進行生存期間)を偽薬と比較したもので、副次的評価項目のtime to next interventionも有意に上回った。データは未発表。

    グレード2神経膠腫の7割超でIDH1の変異が見られる。vorasidenibは血管脳関門通過性を持つIDH1/2阻害剤で、20年にAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)の腫瘍学ポートフォリオを買収して入手した。

    リンク: 同社のプレスリリース


    5価髄膜炎菌ワクチンの第3相が成功
    (2023年3月14日発表)

    GSKはMenABCWYの第3相試験が成功したと発表した。10~25歳の3650人を組入れて免疫原性をMenveoとBexseroを接種する群と比較した非劣性試験で、データは未公表。

    MenABCWYはA、B、C、W-135、Y群の髄膜炎菌を抗原とするワクチン。米国では11~12歳になったらMenveoなどのA/C/W-135/Y群髄膜炎菌ワクチンを、16歳になったら追加接種とBexseroなどのB群髄膜炎菌ワクチンを、接種することが推奨されているが、ブースターの実施率は5割以下に留まっている。5価ワクチンなら16歳時の接種回数を4~5回から2回に減らせるので、普及が進むかもしれない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    IgA腎症治療薬の市販後薬効確認試験が成功
    (2023年3月12日発表)

    スウェーデンのCalliditas Therapeutics(Nasdaq:CALT)は、IgA腎症治療薬Tarpeyo(budesonide)の市販後薬効確認試験が成功したと発表した。21~22年に米欧で加速/条件付き承認された時にコミットメントした試験で、本承認切替を申請する考え。

    コルチコステロイドの腸溶性徐放性カプセルで、欧州ではKinpeygoやNefecon名で販売されている。第3相のNefIgArd試験で16mgを一日一回、9ヶ月間投与したところ、UPCR(尿蛋白クレアチニン比)が34%低下した。偽薬群は5%低下のみだった。今回の解析は、同じ試験について、テーパリング期間を含めて15ヶ月間追跡し、2年間のeGFR(推算糸球体濾過量)の変化を調べたもの。mL/分/m2当りの低下が2.47に留まり、偽薬群の7.52を有意に下回った。尚、9ヶ月時点の低下は各0.17と4.04となっており、止めると効果が多少低下するようだ。再治療が可能なのか、知りたいところだ。

    欧州ではSTADAと販売提携。日本市場はヴァイアトリスがライセンスした。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、パキロビッドの本承認を支持
    (2023年3月16日発表)

    FDAは微生物薬諮問委員会を招集し、Paxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)を重症化リスクのある軽中等症COVID-19感染症の成人向けに正式に承認する当否について意見を聞いた。患者代表を除く17人中16人の委員が便益が危険を上回ると判定し、FDAも肯定的のようなので、審査期限である5月までに承認されるだろう。

    Paxlovidは21年12月にEUA(非常時使用認可)を受けた。EUAは公衆衛生上の緊急事態宣言を受けて取り急ぎ承認するもの。当該宣言は5月11日に終了が決定しており、FDAは当面、EUAを維持する考えだが、いつ白紙化されても文句は言えない状態だ。EUAは12歳以上かつ体重40kg以上が対象だが、今回のアジェンダは成人だけ。

    Paxlovidの第3相試験のサブグループ分析では、ワクチン未接種で感染歴もない患者の入院・全死亡率が1.68%と偽薬群の11.27%を大きく下回った。ワクチン未接種だが感染による自然免疫を持つ患者では各0.20%と1.67%で、相対リスク削減率は高いが絶対リスク削減率は1.5%程度だった(68人に投与すると一人を入院・全死亡から救える)。別途実施された試験では、重症化リスクのあるワクチン接種済みの患者における数値も0.95%、2.2%、1.3%で似たような結果だった。

    今日ではワクチン接種済みの人のほうが多いので最初にEUAされた頃ほど使わない不利益が大きくなくなったが、喉元過ぎればワクチン追加接種も減るだろうから、過小評価は避けたいものだ。

    諮問委員会では治療後のリバウンド(感染症再燃)リスクも討議されたが、FDAの分析では、自然治癒例におけるリバウンド・リスクと大差なかった。

    日本などで案外普及していない原因の一つと目される薬物相互作用については、FDAの有害事象報告システムに薬物相互作用が原因と考え得るまたは疑われる深刻有害事象例が271件報告され、うち147人は入院、6人は死亡したことが明らかにされた。全世界の処方件数は1000万件を超えるので率は低いが、この種のデータは報告されていない症例も多いはずであることに留意したい。

    死亡例で服用していた薬は免疫抑制剤tacrolimusが4人と一番多かった。併用禁忌となる薬の多くは一時的に服用を止めても大きな問題はなさそうなものだが、臓器移植を受けていたり、心房細動で特定の薬しか忍容しなかったりする患者ではそうも言っていられないだろう。承認に反対した患者代表の委員も、このような人たちにおける便益や安全性をもっと検討すべきという意見のようだ。

    この件に関連して改めて疑問を覚えるのは、他に幾らでも似たような薬があるのにわざわざ競合にはない3A4相互作用を持つ製品を発売する製薬会社、処方する医師だ。急病で相互作用リスクのある薬を使わなければならなくなることもあるのだから、好き好んでこのような、例えばARBを、出す人たちの誠意が疑われる。

    リンク: ファイザーのプレスリリース
    リンク: FDAの諮問委員会情報ページ

    【承認】


    レット症候群用薬が承認
    (2023年3月10日発表)

    米国のACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)はFDAがDaybue(trofinetide)を2歳以上のRett症候群用薬として承認したと発表した。この希少疾患の薬は初。4月に発売する予定。価格は建値で年57.5~59.5万ドル、正味で37.5万ドル程度になる見込みだ。

    Rett症候群は神経系の発達不全。MECP2の遺伝子変異などが関与している。米国の患者数は6000~9000人と推定されており、同社は小児希少疾患優先審査バウチャを取得した。DaybueはIGF-1のアミノ末端トリペプチドのアナログ体で神経炎症を抑制しシナプス機能を支える作用が見られる。Rett症候群における作用機序は明確ではない。

    第3相試験でRett症候群の5~20歳の女性187人に体重に応じて30-60mLを一日二回、12週に亘って投与したところ、共同主評価項目のRSBQ(Rett Syndrome Behaviour Questionnaire:介護者による症状評価)が5.1ポイント改善し、偽薬群の1.7ポイント改善を有意に上回った。もう一つのCGI-I(医師の全般評価)も3.5対3.8で有意に下回った。有害事象による治験離脱率は19%で、原因は専ら下痢。

    18年にACADIAに北米の権利をライセンスしたNeuren Pharmaceuticals(ASX:NEU)は、他の地域で開発販売するパートナーを探索中。

    リンク: ACADIAのプレスリリース
    リンク: FDAのリリース





    今週は以上です。

    2023年3月11日

    第1093回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 早産予防薬の承認を返上へ;日本はどうする? 
    • ACC:sotaterceptのPAH試験が成功 
    • ACC:経口PCSK9阻害剤が第2相で良好な成績 
    • ACC:bempedoic acidの心血管リスク抑制効果はそれほどでもない 
    • インサイト、PI3K阻害剤の骨髄線維症試験が無益認定 
    • ゾスタバのHCT後維持療法試験がフェール 
    • 可溶性Aβ標的薬はアルツハイマー予防試験もフェール 
    • IonisもATTRv-PN用薬を承認申請 
    • デュピクセントを蕁麻疹に適応拡大申請 
    • FDA諮問委員会、ポライビーを一次治療薬としても支持 
    • 点鼻用CGRP受容体アンタゴニストが承認 


    【今週の話題】


    早産予防薬の承認を返上へ;日本はどうする?
    (2023年3月7日発表)

    ルクセンブルグ籍の製薬会社、Covis Pharmaは、早産予防薬Makena(hydroxyprogesterone caproate)の米国における販売承認を自主返上する意向を固めた。市販後薬効確認試験がフェールし、FDAに自主返上を促され、諮問委員会が二度とも承認継続を支持せず、4年粘ったがとうとう諦めた。FDAは承認取消を検討しているので最終的にどのような形になるかは不明。このプロゲスチン17αは日本でも早産歴のある妊婦に用いられているが、当否を再検討しないのだろうか?患者同意書を取る場合、臨床試験がフェールしたことを伝えなくても医療過誤訴訟の心配はないのだろうか?

    この活性成分は1956年にスクイブ(当時)がDelalutin名で販売承認を取得したが、1962年のFDA法改正の前だったので、根拠は安全性だけだった。2000年に生産関連の理由で承認返上されたが、NIH(米国立衛生研究所)が主導した試験で早産リスクを抑制する効果が確認され、調剤薬局品がオフレーベル使用されるようになった。FDAは流産や死産が増える懸念からキチンとした臨床試験を行うよう呼びかけ、応じたのが、KV Pharmaceuticalsだった。NIH主導試験に基づき11年に加速承認されたが、市販後薬効確認試験で35週未満出生率も新生児の疾病死亡リスクも、偽薬と大差なかった。FDAは20年に承認自主返上を要請したがメーカー側が応じず、手間も時間もかかる承認取消手続きに進んだ。

    この間、メーカーも変遷した。KVは価格を高く設定し、邪魔になる調剤薬局の調剤を不可能にする計画だったが、政治介入などにより果たせず、会社更生法申請に至った。Makena関連事業を承継したAMAG Pharmaceuticalsも経営が悪化し、承認返上要請を受けるや、Covis Pharmaに身売りした。

    Covisは現在治療を受けている患者向けと流通在庫分が終了した段階で承認返上する考え。承認返上/取消しになればGE品の販売も不可能になり、調剤薬局も調剤できなくなる模様だ。特許の切れた薬を今更臨床開発する会社は現れないだろうから、米国ではヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステルは使われなくなる。

    Makena問題の推移

    • 1956年、スクイブ社が米国で販売承認を取得
    • 2003年、New England Journal of Medicine誌がNIH主導試験の論文を刊行。自然単体早産歴のある妊婦の37週未満出産リスクを抑制したことが各種メディアで報道され、普及
    • 2006年、FDAの開発要請に応じたKV Phamaceuticalsが承認申請
    • 2008年、FDA諮問委員会で21人の委員中12人が35週前の切迫早産の予防効果を認めたが、FDAは非承認可能通知を発出
    • 2011年、市販後薬効確認試験が開始されたことを受け、FDAが加速承認(37週より前の自然単体早産歴を持つ女性の早産予防)。KVが薬局調剤品の100倍の価格で発売したが、政治介入などにより薬局調剤品の販売を禁止できず、半値に引き下げても売れず、裁判所に破産法の適用を申請
    • 2013年、KVの会社更生が認められ、AMAG PharmaceuticalsがMakina事業など、Perrigoがそれ以外を分割買収
    • 2019年、市販後薬効確認試験のPROLONGがフェール、35週未満の早産も新生児の有病・死亡率も偽薬群並みだった。FDA諮問委員会で9人が承認取消を支持、7人がもう一度薬効確認試験を促すことを支持(但し産婦人科医の委員に関しては6人中5人が再試験を支持)
    • 2020年10月、FDAの小分子薬担当部門であるCDERが自発的承認返上を推奨
    • 同年11月、Covis PharmaがAMAGを買収
    • 2021年8月、Covisがやっと公聴会の開催を要請
    • 2022年10月17~19日、FDAが公聴会とORUDAC(産科、再生産、泌尿器科用薬諮問委員会)を開催。15人の諮問委員中14人が承認取消を支持。

    リンク: 同社のプレスリリース(GLOBE NEWSWIRE)

    【新薬開発】


    ACC:sotaterceptのPAH試験が成功
    (2023年3月8日発表)

    MSDはMK-7962/ACE-011(sotatercept)が第3相STELLAR試験で主目的を達成したと今年1月に公表したが、具体的な内容をACC(米国心臓学会)とNew England Journal of Medicine誌で発表した。WHOクラスIIまたはIIIの肺動脈高血圧症323人を組入れて、標準療法に加えて0.7mg/kgを3週毎皮下注射する効果を検討したところ、6分歩行テスト値が24週間で34.4m改善した。偽薬追加群は1.0mの改善に留まり、修正治療効果は40.8mと推定された。副次的評価項目の死亡/臨床的悪化までの期間もハザードレシオ0.16で統計的に有意な差があった。承認申請に向かうのではないか。

    sotaterceptはET-1の発現などに係わるactivinのIIa受容体とIgG1の融合蛋白。21年にAcceleron Pharmaを115億ドルで買収して入手した。肺動脈高血圧症の第3相はこのほかに中高リスク新患試験やWHOクラスIIIとIVを組入れる試験が進行中。

    リンク: Hoeperらの治験論文(NEJM)
    リンク: MSDのプレスリリース


    ACC:経口PCSK9阻害剤が第2相で良好な成績
    (2023年3月6日発表)

    MSDはMK-0616の後期第2相試験の結果もACCで発表した。高脂血症でアテローム性心血管疾患のリスクが中重度の患者381人を偽薬、6mg、12mg、18mg、または30mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付けして8週間のLDL-C低下を比較したところ、偽薬比で各群41%、56%、59%、61%低下した。深刻有害事象は発生しなかった。

    PCSK9阻害剤は複数の注射用薬が承認されている。LDL-C低下作用が高く、スタチン服用患者にも大きな上乗せ効果が見られる。MK-0616は大環状ペプチド薬で経口投与できるのが長所。

    リンク: Ballantyneらの治験論文抄録(JACC)
    リンク: MSDのプレスリリース


    ACC:bempedoic acidの心血管リスク抑制効果はそれほどでもない
    (2023年3月4日発表)

    Esperion Therapeutics(Nasdaq:ESPR)は昨年12月にATPクエン酸リアーゼ阻害剤Nexletol(bempedoic acid)の心血管アウトカム試験成功を発表した。具体的な内容がACCとNEJMで発表されたが、LDL-C低下作用と同様に穏やかなものだった。20年に欧米で承認されたが売上高が伸び悩み、翌年には人員を4割削減するリストラを断行した。今回の成功でトレンドが急転するようには感じられない。

    このCLEAR試験はLDL-Cが心血管疾患リスク因子を持ちLDL-Cが100mg/dL以上で2種類以上のスタチンに不耐な患者を組入れて180mgを一日一回、経口投与する効果を偽薬と比較した。主評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的卒中、または冠血行再建術の複合評価項目。メジアン40.6ヶ月間の追跡で発生率が11.7%と偽薬群の13.3%を下回り、ハザードレシオは0.87、p=0.004だった。主観的評価項目である冠血行再建術を除いた3点MACE(主要有害心血管事象)はそれぞれ8.2%、9.5%、0.85、0.006と似たような結果だ。スタチンと同様に効果が見られたのは専ら心筋梗塞と冠血行再建術で、残念なことに、心血管死は両群同程度だった。

    Esperionは今上期に効能追加申請を行う予定。欧米でレーベル収載が認められたら、販売パートナーである第一三共から最大で4.4億ドルの達成報奨金を獲得できる。

    リンク: Steven Nissenらの治験論文抄録(NEJM)
    リンク: Esperionのプレスリリース


    インサイト、PI3K阻害剤の骨髄線維症試験が無益認定
    (2023年3月3日発表)

    Incyte(Nasdaq:INCY)は、INCB050465(parsaclisib)の第3相骨髄線維症試験が中間解析で無益認定されたことを明らかにした。同社が創製しノバルティスにライセンスしたJAK阻害剤、Jakafi(ruxolitinib)に十分応答しない患者に追加投与して脾臓量減少を図ったが、実現しなかった。

    PI3Kデルタ阻害剤で、21年に米国で第2相試験成績に基づいて難治再発濾胞性リンパ腫に承認申請したが、市販後薬効確認試験の実施が困難として、取り下げた。EUでも辺縁帯リンパ腫に申請したがエビデンス不足と評価され取り下げた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ゾスタバのHCT後維持療法試験がフェール
    (2023年3月9日発表)

    アステラス製薬はFLT3阻害剤Xospata(gilteritinib)の第3相MORPHO試験がフェールし中止が決まったことを明らかにした。難治再発FLT3変異陽性AML(急性骨髄性白血病)用薬として18~19年に日米欧で承認され、複数の用法拡大試験が開始されたが、なかなか成功しない。

    AMLの3割前後を占めるFLT3変異型を標的とする経口剤。今回の試験はFLT3の二種類の代表的変異のうちITD(縦列重複)型のAMLで他家造血幹細胞移植を受けた患者の維持療法として2年間投与する効果を偽薬と比較した。主評価項目は無再発生存期間。データは未発表。

    Xospataは集中療法が適応にならないFLT3変異陽性AML患者の一次治療としてazacitabineと併用した試験も20年に独立データ監視委員会が無益性中止勧告を行った。

    他には集中療法が適応になる患者に標準療法と併用するHOVON 156試験が進行中で24年に開票見込み。

    リンク: 同社のプレスリリース(和文)


    可溶性Aβ標的薬はアルツハイマー予防試験もフェール
    (2023年3月4日発表)

    イーライリリーはLY2062430(solanezumab)のA4試験がフェールしたことを明らかにした。試験薬は抗アミロイド・ベータ抗体の一つで凝集体ではなく可溶性モノマーに選択的に結合する。凝集体に結合・攻撃する時に周辺の細胞にも障害を与える、アミロイド関連造影異常を回避できると期待されたが、本試験では肝心のアミロイド・プラク蓄積抑制作用も見られなかったようなので、まあ、様々な第3相がフェールしたのも無理はない。

    本試験は2014年に米加日豪の施設でアミロイド・ベータ蓄積が確認されたがアルツハイマー病症状は無い高リスク患者1150人を組入れて、Preclinical Alzheimer Cognitive Compositeの悪化を抑制する効果を偽薬と比較した。240週追跡したが有意な差はなく、認知症発症率(CDR-GSで評価)も同程度だった。

    アルツハイマー病治療薬という大票田を狙った各社の高リスク高リターン開発プロジェクトの一つ。POC試験で血中アミロイド・ベータが用量依存的に増加したが、凝集プラクが遊離した結果と解釈して第3相に進んだ。しかし、軽中度アルツハイマー病試験は二本ともフェール。アミロイド病因論の出自である早発性アルツハイマー病(特定の優性遺伝子変異を持つ)を組み入れた臨床試験もフェールした。

    A4試験はエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)もテストしている模様なので、結果が出れば、今回のフェールが個別要因なのか、それともクラス・イフェクトなのか、明らかになるだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    IonisもATTRv-PN用薬を承認申請
    (2023年3月7日発表)

    Ionis Pharmaceuticals (Nasdaq: IONS)はIONIS-TTR-L-RX(eplontersen)を遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド多発神経症(ATTRv-PN)用薬として米国で承認申請し受理された。審査期限は12月22日。現時点では諮問委員会の予定はないとのこと。

    トランスサイレチンの生産を抑制するアンチセンス薬。4週毎皮下注する。第3相試験では35週の血清トランスサイレチン濃度がベースライン比81%低下し、共同主評価項目であるmNIS+7臨床評価スコアや副次的評価項目であるNorfolk QoL-DNも有意に改善した。尚、この試験は同社が18年に欧米で発売した類薬、Tegsedi(inotersen)の第3相の偽薬群を外部対照群としている。

    アストラゼネカが共同開発し米国は共同販売、米国外は主としてアストラゼネカが単独販売する。

    リンク: Ionisのプレスリリース


    デュピクセントを蕁麻疹に適応拡大申請
    (2023年3月7日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィはDupixent(dupilumab)を慢性特発性蕁麻疹の治療に用いる適応拡大を米国で承認申請し受理された。12歳以上の青少年と成人でH1ブロッカーに十分反応しない患者に用いる。審査期限は10月22日。

    抗IL-4Rαサブユニット抗体でアトピー性皮膚炎など様々な自己免疫性疾患の治療に用いられている。中重度慢性特発性蕁麻疹の第3相では24週間の治療でISS7(痒みに関する尺度、FDAが推奨)が10.24ポイント(63%)低下し、偽薬群の6.01ポイント(35%)低下を有意に上回った。共同主評価項目であるUAS7(蕁麻疹の活動性尺度、EMAが推奨)は20.53ポイント(65%)低下と12.0ポイント(37%)低下で、統計的に有意。

    一方、ノバルティスの抗IgE抗体Xolair(omalizumab)に応答不十分または不耐の患者を組入れた第3相は中間解析で無効認定された。

    リンク: 両社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、ポライビーを一次治療薬としても支持
    (2023年3月9日発表)

    FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、ジェネンテック/ロシュの抗CD79b抗体薬物複合体、Polivy(polatuzumab vedotin-piiq)を未治療のDLBCL(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫)に適応拡することについて意見を聞いた。FDAは延命効果が確立していないことに懸念を示したが、委員は13人中11人がPFS(無進行生存期間)に基づく承認を支持した。

    Polivyは19~21年に米欧日で難治再発DLBCLの三次治療薬としてbendamustine及びrituximabと併用することが承認された。今回の申請は大細胞型B細胞リンパ腫を組入れた第3相POLARIX試験に基づく。代表的なレジメンであるR-CHOP(rituximab、cyclophosphamide、doxorubicin、prednisone、及びvincristineの5剤併用)と、vincristineの代わりにPolivyを使うレジメンのPFSを比較したところ、ハザードレシオは0.73、統計的に有意だった。重度有害事象発生率は両群大差なかった。一方で、全生存期間は大差なかった。ロシュは欧日で適応拡大申請し昨年5~8月に承認された。

    米国は申請が昨年8月と遅かったが、おそらく、全生存期間の最終解析結果が出るのを待っていたのだろう。結果はハザードレシオ0.94、有意ではなく、被験者の85%を占めたDLBCLサブグループでは1.02と点推定値が1を上回った。2年無進行生存率は70.2%対76.7%で6-7ポイントの上乗せがあったが、2年生存率は両群とも88.7%だった。

    今回のケースでは延命効果につながらなかったのでQOLに好影響を与えたかどうかが重要な判断基準になるが、現実には評価が難しい。PFSは一般的に無増悪生存期間と呼ばれるが、症状ではなく画像や代理マーカーによる客観的指標に基づいて判定されることが多いので、必ずしもQOLの向上と関連しない。QOLアンケートが実施されることもあるが、癌患者は、しばしば、治らない限りQOLが向上したとは思わない。

    実薬対照試験で延命効果も副作用も同程度なら良いじゃないかと思いがちだが、優越性試験のフェールは試験薬が対照薬より劣っている可能性を否定できないことを意味し、非劣性試験の成功は否定できることを意味するので、似て非なるものだ。非劣性検定が成功した事例の多くは、試験薬群のほうが対照群より良好な点推定値を出した。

    とはいえ、私たちは欲しいものをいつでも入手できるわけではないので、妥協も必要だ。FDAは統計学に厳格であるため効能追加に慎重だが、諮問委員の大半がデータを認容したので、米国でも承認されるのではないか。

    リンク: ロシュのプレスリリース

    【承認】


    点鼻用CGRP受容体アンタゴニストが承認
    (2023年3月10日発表)

    ファイザーのZavzpret(zavegepant)が成人の片頭痛治療薬としてFDAに承認された。同社をはじめ多くの製薬会社が販売しているCGRP受容体アンタゴニストの一つだが、点鼻薬は初。悪心嘔吐症状により経口剤を好まない患者に適している。第3相試験では2時間後の疼痛解消奏効率が24%と偽薬の15%を有意に上回った。40%の患者で最も煩わしい主訴が解消した(偽薬群は31%)。主な有害事象は味覚異常/喪失など。

    22年に買収したBiohaven Pharmaceuticalsが16年にブリストル マイヤーズ スクイブから導入して開発したもの。

    リンク: 同社のプレスリリース






    今週は以上です。

    2023年3月4日

    第1092回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 抗XIIa抗体がHAEアタックを89%抑制 
    • テセントリクとカボメティクスの併用がまたフェール 
    • ヤンセンがPARP阻害剤・CYP17阻害剤合剤を承認申請 
    • オプジーボを未転移悪性黒色腫の術後補助療法に申請 
    • キイトルーダをNSCLC術前術後療法に承認申請 
    • FDA諮問委員会が高齢者向けRSVワクチンを支持 
    • 心ミオシン活性化剤は承認されず 
    • リムパーザのキモナイーブCRPC適応拡大は米国では遅延へ 
    • VeruのCOVID-19用薬はEUAされず 
    • フリードライヒ運動失調症用薬が承認 
    • 抗IL-6Rアルファ抗体が多発筋痛症に適応拡大 


    【新薬開発】


    抗XIIa抗体がHAEアタックを89%抑制
    (2023年2月26日発表)

    CSL(ASX:CSL)は昨年8月に抗血液凝固XIIa因子抗体CSL312(garadacimab)の第3相試験成功を明らかにしたが、具体的な内容をAAAAI(米国アレルギー喘息・免疫学会)で発表した。遺伝性血管浮腫(HAE)の患者63人を試験薬群と偽薬群に3対2割付けして6ヶ月間の発作頻度を比較したところ、試験薬群は平均で0.27回/月となり、偽薬群の2.01/月より86.5%少なかった。ベースライン時点の発作頻度の違いを調整後では89.2%減少した。試験薬群は61.5%が発作無しで済んだ(偽薬群はゼロ)。有害事象による投与中止は発生しなかった。年内に承認申請する予定。

    HAE発作を抑制する薬は複数存在するが、CSL312の特徴は、ブラジキニン阻害剤より上流のXIIaを標的としていること。また、投与頻度は月一回皮下注と少ない。直接比較試験は行われていないので効果の多寡は曖昧だが、大きな違いはなさそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    テセントリクとカボメティクスの併用がまたフェール
    (2023年3月2日発表)

    Exelixis(Nasdaq:EXEL)は20年にロシュとVEGFR阻害剤Cabometyx(cabozantinib)とTecentriq(atezolizumab)の併用試験で提携し、三本開始したが、非小細胞性肺癌試験に続いて、腎細胞腫試験もフェールした。どちらも抗PD-1/PD-L1抗体歴を持つ患者が対象で、銘柄と併用薬を変えても上手くいかないということなのだろう。

    今回のCONTACT-03試験は抗PD-1/PD-L1抗体歴のある局所進行/転移腎細胞腫を組入れて、Cabometyxモノセラピー群とCabometyx・Tecentriq併用群のPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価)と全生存期間を比較した。今回、前者の解析がフェールした。

    Cametyxはモノセラピーで一次治療や再発治療に、Opdivo(nivokumab)併用で一次治療に、承認されている。Tecentriqは腎細胞腫の第3相がなかなか成功しない。

    リンク: Exelixisのプレスリリース

    【承認申請】


    ヤンセンがPARP阻害剤・CYP17阻害剤合剤を承認申請
    (2023年2月28日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen PharmaceuticalはAkeega(niraparib、abiraterone acetate)を米国でも承認申請した。成人のBRCA変異のある転移性去勢抵抗性前立腺癌に用いる。EUでは2月にCHMPが肯定的意見をまとめた。

    前者の活性成分はGSKの卵巣癌用薬Zejulaに用いられているPARP阻害剤で、Janssenは16年にTesaro(後にGSKが買収)から前立腺癌などに関する開発販売権を取得した(日本市場は対象外)。Tesaroは12年にMSDからライセンスした。後者はJanssenが前立腺用薬Zytigaとして販売しているCYP17阻害剤。元々は英国のBTGとICRの共同研究の成果である模様だ。

    既に他社のPARP阻害剤がabiraterone acetate併用で承認されており、AkeegaはBRCA変異型専用なので少なくともレーベルの上では適応がやや狭くなる。一方、合剤なのでピルバーデンは半分で済み、販促面ではZytigaで培ったパイプが活用できるだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    オプジーボを未転移悪性黒色腫の術後補助療法に申請
    (2023年2月28日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdivo(nivolumab)をステージIIB/IICの悪性黒色腫の完全切除後アジュバント療法に用いる適応拡大を欧米で申請した。米国の審査期限は10月13日。

    CheckMate-76K試験で1年無再発生存率が89%と偽薬群の79%を上回り、ハザードレシオは0.42、統計的に有意だった。G3/4の治療関連有害事象発生率は各群10%と2%、それによる治験離脱率は15%と3%だった。

    OpdivoはステージIIIb/cとステージIVの悪性黒色腫の完全切除後アジュバント療法が17~18年に米欧で承認されている。

    ライバルのKeytruda(pembrolizumab)はステージIIIが18~19年に、ステージIIは21~22年に、欧米で承認された。ステージIIにおけるハザードレシオはOpdivoのほうが良好だが、直接比較試験ではないので優劣は明確ではない。

    リンク: BMSのプレスリリース


    キイトルーダをNSCLC術前術後療法に承認申請
    (2023年3月1日発表)

    MSDは2月28日にKeytruda(pembrolizumab)の第3相試験二本のフェールを発表したが、翌日には、別の試験の成功を公表した。

    KEYNOTE-671試験は中間解析で共同主評価項目の一つが目的達成認定された。切除可能なステージII、IIIA、またはIIIBの非小細胞性肺癌におけるネオアジュバント(化学療法併用)とアジュバント(モノセラピー)の便益を偽薬(ネオアジュバントは化学療法併用)と比較したところ、EFS(無進行生存期間)が有意に改善した。もう一つの全生存期間は未だ成熟していないようだ。

    開票はもっと前だった模様で、米国で適応拡大申請し受理されたことも公表された。審査期限は10月16日。

    Keytrudaは1月にステージIB、II、IIIAの非小細胞性肺癌の切除後に化学療法によるアジュバント療法を受けた患者に用いることが米国で承認された。今回の成功で対象が広がるとともに、治療タイミングが早くなる。

    類薬ではロシュのTecentriq(atezolizumab)が21年にステージII、IIIAでPD-L1陽性(≧1%)の非小細胞性肺癌を切除し化学療法によるアジュバントを受けた患者向けに米日欧で承認されている。また、ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)は22年にPD-L1不問でステージIIとIIIAに米国で承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース

    フェールしたのはKEYNOTE-641とKEYNOTE-789。前者はキモナイーブmCRPC(転移去勢抵抗性前立腺癌)におけるアンドロゲン枯渇療法とenzalutamideの併用法に追加する便益を検討したが、中間解析の結果、共同主評価項目であるrPFS(放射線学的無進行生存期間)も全生存期間も偽薬追加群と大差なかったことから、独立データ監視委員会が無益性を認定、打ち切りが決まった。Keytrudaは化学療法併用試験や化学療法歴のあるmCRPCを組入れた試験、転移去勢感受性前立腺癌試験も無益認定されており、4連敗。

    KEYNOTE-789はEGFR変異のある非扁平上皮非小細胞性肺癌でEGFR阻害剤歴を持ち適応になる場合はosimertinibも経験済みの患者を組入れて、pemetrexedと白金薬ベース化学療法のレジメンに追加する便益を検討した。どちらも数値上改善したが事前に設定された閾値をクリアできなかった。

    どちらの試験も安全性面の新たな懸念材料は発生しなかったが、深刻有害事象は偽薬比増加した。

    適応拡大プロジェクトは大きな実と低い枝にぶら下がる取り易い実から狩っていくので、特許切れが近づくにつれ、臨床試験のフェールも増えていく。

    リンク: MSDのプレスリリース(2/28付)

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会が高齢者向けRSVワクチンを支持
    (2023年3月1日発表)

    FDAはVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製剤諮問委員会)を招集し、ファイザーとGSKがそれぞれ承認申請した60歳以上を対象とするRSVワクチンについて意見を聞いた。どちらもRSVが細胞内に侵入する時にドッキングさせるF蛋白の融合前構造を抗原とする一回筋注用ワクチンで、ファイザーのAbrysvoはRSV-AとRSV-Bの二価ワクチン、GSKのArexvyはRSV-AベースでAS01-Eアジュバント入りである点が異なっている。

    Abrysvoは2月28日に審議され、7人の委員が便益を支持、4人が不支持、一人は棄権した。安全性に関しても7対4、棄権1で支持が不支持を上回った。Arexvyは3月1日に審議され、薬効は12人が全員支持、安全性は10人が支持、2人が不支持だった。

    通常ならどちらも良好な結果だが、Abrysvoに違和感を感じるのは、ワクチンは健康な、感染するとは限らない一般人口を対象とするので危険を大きく上回る便益が望まれ、票決も支持が不支持を大きく上回るべきだからだ。近年の画期的ワクチンである子宮頸癌ワクチンは06年の諮問委員会で全員一致で支持された。新規ウイルスであるCOVID-19に対する未知の技術であるmRNAベースのワクチン、Comirnaty、17人が賛成、4人反対、1人棄権だった。なぜAbrysvoは反対が1/3も占めたのか、良く分からない。逆に、なぜArexvyの反対がAbrysvoより少なかったのかも良く分からない。ここまでの差があるようには見えないからだ。

    薬効面の留意すべき点は、被験者に占める重症化リスク保有者(COPDなど)の比率がそれほど高くないことや、第3相における偽薬群の重症感染率や入院率があまり高くなかったこと。後者はCOVID-19が流行しRSVが例年ほど流行しなかったことも影響したのだろう。60歳以上の全員にRSVワクチンを接種すべきというのはコンセンサスではないようなので、RSV感染症の怖さが浮き彫りになるようなデータなら違った結果になったかもしれない。

    安全性面の懸念材料は、ワクチンの極稀な副作用の一つであるギラン・バレー症候群(GBS)やその亜型であるミラー フィッシャー症候群がAbrysvoで2例、Arexvyで1例、見られた。FDAは前者はワクチン関連疑い例、後者はワクチン関連と見なしている。経過は、接種の7~9日後に発症、入院し、治癒まで3~6ヶ月かかった。頻度は1~2万人に一人と低く、絶対数が少ないので真の値はもっと少ない可能性も否定できないが、60歳以上の人口全体がGBSを発症するリスク(10万人年当り1.5~3人と推定されている)と比べて一桁高く、7~9日間に発症するリスクと考えると二桁高いことになる。

    GSKの第3相でRSVによる下部気道疾患を罹患し入院したのは両群合わせて2人だった(どちらの群かは不明)。GBSによる試験薬群の入院は1例だったので、入院リスクは打っても打たなくても大差ない、と考えることも不可能ではない。便益を向上するためには、接種対象を感染時の重症化リスクの高い人に絞ったほうが良いのかもしれない。GBSリスクは接種後数日だけだとしたら、便益が2~3年続くことが今後、確認されれば、危険・便益バランスを再考する余地が生まれる。

    Arexvyは、4価インフルエンザ・ワクチンと同時接種する時の安全性を検討した試験で、ADEM(急性播種性脳脊髄炎)が2例発生し、一人は死亡した。発生率は0.5%。FDAはどちらかのワクチンとの関連疑い例と見なしている。RSVワクチンを接種すべき人はインフルエンザ・ワクチンの必要性も高いだろうから、気になるところだ。

    ファイザーは市販後にGBS及び関連疾患のリスクを精査する臨床試験やファーマコビジランス試験を行う考え。GSKもファーマコビジランス試験を行う予定。

    Arexvyの審査期限は5月3日。Abrysvoは5月とだけ発表されている。FDAは便益が危険を上回ると判断している模様なので、承認が見込まれる。CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種委員会)が接種勧奨範囲をどのように判断するかも注目される。

    米国では年17.7万人の高齢者がRSV感染により入院し、14,000人が死亡すると推定されている。予防薬は乳幼児向けの抗体医薬が承認されているが、高齢者向けはない。60年前に不活化ワクチンの臨床試験が実施されたが、接種後に感染すると重症化する抗体依存的感染増強現象が多発し実用化に至らなかった。

    ワクチン効率
    Abrysvo偽薬
    患者数16,30616,308
    RSV LRTD罹患者数(2症状以上)1133
     (1000人年当り)1.23.6
     ワクチン効率(信頼区間)66.7%(28.8-85.8)
    RSV LRTD罹患者数(3症状以上)214
     (1000人年当り)0.21.5
     ワクチン効率(信頼区間)85.7%(32.0-98.7)
    Arexvy偽薬
    患者数12,46612,494
    RSV LRTD罹患者数740
     (1000人年当り)1.05.8
     ワクチン効率(信頼区間)82.6%(57.9-94.1)
    RSV LRTD重症罹患者数117
     (1000人年当り)0.12.5
     ワクチン効率(信頼区間)94.1%(62.4-99.9)
    注:RSV LRTD=RSVによる下部気道疾患。Abrysvoの信頼区間は96.66%、ArexvyはARSV LRTDは96.95%、重症例のみは95%。

    リンク: ファイザーのプレスリリース(2/28付)
    リンク: GSKのプレスリリース(3/1付)


    心ミオシン活性化剤は承認されず
    (2023年2月28日発表)

    Cytokinetics(Nasdaq: CYTK)はCK-1827452(omecamtiv mecarbil)をNYHAクラスII-VIの駆出率低下心不全の治療薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。複合評価項目で偽薬比統計的に有意な差が見られたが、治療効果は小さく、p値が一本の試験だけで承認するには十分低くなく、重要なアウトカムである心血管死抑制作用が確立していないことなどがネックとなった。12月の諮問委員会でも11人中8人が支持しなかった。

    FDAはもう一本実施するよう提案したが、同社はこれ以上の投資は行わない考えだ。昨年4月に米国で承認されたブリストル マイヤーズ スクイブのCamzyos(mavacamten)と同じ心ミオシン阻害剤で、同じ閉塞性肥大性心筋症の第3相の結果が年内に判明しそうなCK-3773274(aficamten)に重点をシフトする。

    リンク: 同社のプレスリリース


    リムパーザのキモナイーブCRPC適応拡大は米国では再遅延へ
    (2023年3月2日発表)

    アストラゼネカと共同開発販売パートナーのMSDは、FDAがPARP阻害剤Lynparza(olaparib)の適応拡大申請に関する諮問委員会を4月28日に招集すると発表した。優先審査指定を受け、審査期限は22年第4四半期に設定されたが、延期された。諮問委員会招集でまた遅れることになる。理由は不明。

    LynparzaはBRCA変異のある転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)でenzalutamide及びabirateroneによる治療後に進行した患者に単剤投与することが20年に欧米日で承認されている。今回のアジェンダは、化学療法未治療のmCRPCを対象にabiraterone及びprednisoneのレジメンに追加する用途用法。第3相PROpel試験で主評価項目のrPFS(放射線学的無進行生存期間)がメジアン24.8ヶ月と偽薬追加群の16.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.66、統計的に有意だった。副次的評価項目の全生存期間は最終解析でメジアン値が各群42.1ヶ月と34.7ヶ月、ハザードレシオは0.81で、統計的に有意ではなかったが点推定値は好ましいものだった。

    悩ましいのは適応範囲だ。この試験は遺伝子修復機構が十分か不全かを問わずに組入れたが、相同組換え修復不全(HRR)サブグループはrPFSハザードレシオが0.50、非HRRサブグループは0.76と差があった。但し、全生存期間のハザードレシオは各0.66と0.69で大差なかった。一方、切り口をBRCA変異に変えると、全生存期間のハザードレシオは変異ありなら0.29だが、なしでは0.91とかなり鮮明な差があった。PARP阻害剤はPFSが延命効果に必ずしも繋がらない。サブグループ分析結果は製品によって区々で、それが実力の差なのか、ノイズなのか、よくわからない。

    EUは臨床的に化学療法が適さないmCRPCの成人に用いることを昨年12月に承認した。FDAは如何?

    リンク: 両社のプレスリリース


    VeruのCOVID-19用薬はEUAされず
    (2023年3月2日発表)

    米国マイアミの新薬開発会社、Veru(Nasdaq:VERU)は、FDAがVERU-111(sabizabulin)のEUA(非常時使用認可)を見送ったことを公表した。臨床試験で大変良い結果を出したが、症例数が少なく、第三の因子が影響した可能性もあるため、もう一本実施するよう求めた。諮問委員会でも反対が多数を占めたので、意外ではない。

    VERU-111は微小管阻害剤。リード・インディケーションは乳癌だったが、インフルエンザウイルスの細胞内移動に微小管が関与するという論文などに触発され、COVID-19用薬としての開発に着手した。米州やブルガリアの施設に入院した中等症/重症COVID-19患者でARDS(急性呼吸窮迫症候群)または死亡リスク因子を持つ患者204人を組み入れて、9mgを一日一回経口投与する群と偽薬群に2対1割付けして60日死亡リスクを比較したところ、150人の中間解析で各群20%と45%、相対リスク削減率55%、p=0.0029という成績を叩き出し、成功認定された。

    最終解析でも各群18.7%と38.6%と有意な差が見られ、サブグループ分析も良好な結果となった。群間の偏りは、65歳以上の比率やdexamethasoneやremdesivirの併用率の点で試験薬群がやや有利だったが、ここまで大きな差を説明できるほどではなかった。一方で、偽薬群の死亡率の高さを説明するのも困難で、試験薬群が良かったのではなく偽薬群が何らかの理由で悪かった可能性も考えざるを得ない。

    作用機序があいまいであることもあり、FDAはエビデンスの頑強性に疑念を示した。昨年11月に開催された肺・アレルギー用薬諮問委員会でも13人の委員のうち8人が便益が確立していないと判定した。

    同社は追加試験の実施を考えている。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    フリードライヒ運動失調症用薬が承認
    (2023年2月28日発表)

    Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)はFDAがSkyclarys(omaveloxolone)を16歳以上の青少年と成人のフリードライヒ運動失調症用薬として承認したと発表した。第3相試験で48週後のmFARS(修正フリードリッヒ運動失調症レーティング・スケール)が偽薬群を有意に上回った(n=82、p=0.014)。有害事象は頭痛、悪心、腹痛、肝機能検査値異常など。報道によると価格は年37万ドル(値引き前)。希少小児疾患用薬を開発した企業に対するご褒美である優先審査バウチャを獲得した。

    フリードライヒ運動失調症は常染色体劣性遺伝性神経変性疾患。遺伝子変異によりミトコンドリア蛋白であるフラタキシンの機能が低下、運動失調症や歩行能力低下を招く。米国の推定患者数は5000人。SkyclarysはNrf2アクティベータ。ミトコンドリア機能不全や酸化ストレスを緩和する。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: FDAのプレスリリース


    抗IL-6Rアルファ抗体が多発筋痛症に適応拡大
    (2023年2月28日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)とサノフィは、FDAがKevzara(sarilumab)を成人のリウマチ性多発筋痛症に用いることを承認したと発表した。コルチコステロイドで治療しても十分に応答しない、または、コルチコステロイドの漸減中/中止後に再燃した患者が適応になる。

    前者が創製した抗IL-6Rアルファ完全ヒト化抗体で、17年に米欧日で中重度リウマチ性関節炎用薬として承認された。類薬は複数あるが、今回の適応を取得したのは初。52週間の第3相SAPHYR試験で持続的寛解率が28.3%と偽薬群の10.3%を上回った(p=0.0193)。深刻有害事象の発現率は20.7%と偽薬群の13.6%を上回った。

    リンク: 両社のプレスリリース





    今週は以上です。