2022年11月26日

第1078回

【ニュース・ヘッドライン】

  • 日本で第2の3CLプロテアーゼ阻害剤が承認 
  • GSK、抗BCMA抗体薬物複合体の加速承認を返上へ 
  • キイトルーダ、her2陰性胃癌の一次治療試験が成功 
  • Spectrumのher2阻害剤は承認されず 
  • B型血友病の遺伝子療法が承認 
  • 透析期慢性腎疾患におけるプラリアのリスクを再警告 


【今週の話題】


日本で第2の3CLプロテアーゼ阻害剤が承認
(2022年11月22日発表)

塩野義製薬と北海道大学の共同研究から創製された3CLプロテアーゼ阻害剤、ゾコーバ(エンシトレルビル フマル酸)が日本で特例承認された。重症化リスク因子を持たない患者も適応になり、早期回復効果が示唆されている点がファースト・イン・クラスであるファイザーのPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)と比べた長所だが、データは思ったほど良好でなく、妊婦禁忌で若い女性に処方する際には最後の月経後に性交したか、妊娠の可能性があるかを問診しなければならないこと、そして、現今の環境では止むを得ないのだが、重症化リスク抑制効果が確認されていないことが弱点だ。

同社は9月に第3相試験が良好な結果になったことを公表したが、今回、p値が0.0407と臨床試験一本で承認するには心許ないものであったことが判明した。主要5症状が『快復』するまでメジアン167.9時間と、偽薬群の192.2時間より約1日早まったが、ハザードレシオは1.14、95%信頼区間は0.95-1.36と1を跨いでおり、特例承認のハードルはこんなに低いのかと驚かされる。更に、日本の施設におけるメジアン快復期間は各165.8時間と172.1時間、群間差は6時間強と小さく、ハザードレシオは1.04と、失望的。

また、この試験は発症後120時間以内の患者を組入れたが、開鍵の直前に72時間未満のサブグループ(被験者の6割程度)の低用量群と偽薬群の比較だけを主評価項目とする変更が行われた。変更自体は一部で言われるほど大きな問題ではないと思うが、Paxlovidの5日以内と比べて、3日以内の縛りはかなりタイトだ。それ以外のサブグループの成績は明らかではないが、intent-to-treatベースのメジアン快復期間は各189.7時間と200.3時間で10時間強の差、ハザードレシオ1.03と差や比率がかなり縮小しているので、おそらく、3日経った後で投与しても効果がないのだろう。

Paxlovidの第3相が行われた頃とは異なり感染者の重症化リスクが低下しているため、インフルエンザ治療薬と同じような、罹患期間短縮効果を持つ薬のほうが好ましいのではないかと思っていたが、期待過剰だったようだ。

催奇性は、インタビューフォームによると、臨床用量における曝露は妊娠ウサギにおける無毒性量の2倍程度、妊娠ラットでは4倍程度だった。薬物相互作用は、Paxlovidと同様に併用禁忌・注意が多いのが難点。ゾコーバは安全域が狭い抗リウマチ薬メトトレキサートも併用注意だ。

日本感染症学会のガイドライン草案によると、重症化リスクのある軽中等症患者は重症化リスク抑制効果が確立しているPaxlovidやMSDのLagevrio(molnupiravir)を検討すべき。軽症患者は対症療法だけで自然治癒することが多いことを考慮すべきとのことなので、どの程度使用されるか不透明なところがある。

こうしてみると、特例承認はかなりなウルトラCという印象だ。重症化リスクのない患者に使えるので特例承認制度が適用されたものと推測されるが、このような患者にどの程度使われるかは明らかではない。それでも、この薬の実用化を後押しした産学政官複合体のメンツは立った。

リンク: 添付文書(PMDAのウェブサイト)


GSK、抗BCMA抗体薬物複合体の加速承認を返上へ
(2022年11月22日発表)

GSKは米国でBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)の承認返上手続きを開始した。20年8月に米国で難治再発多発骨髄腫の4次治療薬として加速承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため。といっても、3次治療実薬対照試験でメジアンPFS(無進行生存期間)は11.2ヶ月と pomalidomide・低量dexamethasone併用群の7ヶ月を上回り、メジアン生存期間も未成熟とは言え21.2ヶ月前後で大差なかったので、こんなに急に話が進むとは思わなかった。

適応拡大試験は一次治療と二次治療の三剤併用試験の結果が来年上期に出る見込み。FDAがそれまで待ってくれるのではないかと思ったが、PARP阻害剤やCDK阻害剤と同様に、厳しいペナルティを受けた。

尚、現在治療を受けて成果の上がっている患者は、REMS(リスク評価緩和戦略)プログラムに登録して継続入手する道が残されている。

BlenrepはEUでも20年8月に条件付き承認されている(難治再発多発骨髄腫の5次治療)。

リンク: GSKのプレスリリース

【新薬開発】


キイトルーダ、her2陰性胃癌の一次治療試験が成功
(2022年11月22日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の第3相her2陰性局所進行性切除不能/転移性胃・胃食道接合部(G・GEJ)腺腫一次治療化学療法併用試験が中間解析で良好な結果になったと発表した。主評価項目の全生存期間も、PFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)も、偽薬・化学療法併用群を上回った。数値は未発表。Opdivo(nivolumab)の類似試験ではPD-L1発現度が低いサブグループの成績が思わしくなかった。Keytrudaのデータはどうだったのか、注目される。

G・GEJ腺腫の一次治療ではOpdivoの化学療法併用試験、CheckMate-649が成功し21年4月に米国で加速承認された。フェーズIVコミットメントである全生存期間の最終解析も同年11月に提出されたが、まだ本承認に切り替わっていない。理由は不明だが、同試験はher2が陽性ではない患者だけを組入れたのに、そして、CPS<5のサブグループの探索的解析があまり良くなかったのに、her2発現やPD-L1発現の有無を問わずに加速承認されていることが影響しているのかもしれない。尚、EUはher2陰性かつCPS≧5に限定している。

一方、Keytrudaは21年5月にher2陽性の局所進行切除不能/転移G・GEJ腺腫の一次治療trastuzumab・化学療法併用が加速承認された。今回、her2陰性のエビデンスも揃ったことになる。

尚、KeytrudaはCPS≧1のG・GEJ腺腫三次治療に単剤投与することも17年に加速承認されたが、フェーズIVコミットメント試験である二次治療や一次治療の単剤投与試験がフェールしたため、FDAや諮問委員会の見解を踏まえて、今年7月、自主的承認返上に至っている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


Spectrumのher2阻害剤は承認されず
(2022年11月25日発表)

Spectrum Pharmaceuticals(Nasdaq:SPPI)はHM781-36B(poziotinib)をher2遺伝子のエクソン20に挿入変異のある局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の再発治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。これ以上の開発はストップし、事業資金を温存するため研究開発部門の人員の75%を解雇する。

同社は第2相試験の確認ORR(客観的反応率)に基づき加速承認を求めたが、点推定値は27.8%、95%下限は18.9%で閾値の17%を若干上回った程度であり、火急の承認に値するほどではなかった。有害事象による投与の中断・中止も少なくなかった。加速承認を得た会社は市販後薬効確認試験で延命またはそれに準じる便益を確認しなければならないが、同社は未だ開始しておらず、承認申請された16mg一日一回ではなく忍容性向上が見込まれる8mg一日二回投与をテストする予定だった。これらのことから、9月に開催された諮問委員会も承認反対が9人と賛成の4人を上回った。

文化が違うとは言え、経営の失敗が原因で多数の従業員が解雇されるのは釈然としない。アトムのTVドラマのように銀行が融資を株に転換して大株主になったくらいのことで株主総会も経ずに経営陣や従業員を解雇するようなことはありえないが、ツイッターのように全株取得すれば何でもできるというのも、資本主義のダイナミズムで済まして良いのか首を傾げたい。そういえば、最近流行りのSDGsも、他者の価値観を尊重せよとは主張していない。理念を普及する上で他人の信教など構っていられないからだろう。誰かの都合が圧倒的な力を揮う時代だ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


B型血友病の遺伝子療法が承認
(2022年11月22日発表)

FDAはCSL BehringのHemgenix(etranacogene dezaparvovec-drlb)をB型血友病治療薬として承認した。第IX因子による予防的治療を受けている、または、命に係る出血/出血歴や深刻な特発的出血を繰り返している患者が適応になる。

第IX因子のルーチン投与を受けている患者54人に投与した第3相試験で、第IX因子は止めて1年半追跡したところ、第IX因子が定常状態に達する第7月後の52週間における年率出血率が第IX因子投与を受けていたリードイン期間比半減した。有害事象は肝機能検査値異常や頭痛など。

Padua大学の研究者が発見した、活性が野生型比5~8倍高いPadua型第IX因子をアデノ随伴ウイルス5型ベクターで導入し、肝臓特異的に発現させるin vivo遺伝子療法。uniQure(Nasdaq:QURE)から世界開発販売権を取得したもの。報道によると、CSL Behringはリスト・プライスを350万ドルに設定した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: CSLのプレスリリース

【医薬品の安全性】


透析期慢性腎疾患におけるプラリアのリスクを再警告
(2022年11月22日発表)

FDAはアムジェンの骨粗鬆症治療薬Prolia(denosumab)を進行した慢性腎疾患の患者に用いると入院や死亡の可能性もある深刻な低カルシウム血症のリスクが高まるという安全性通知を行った。長期安全性試験の中間解析などでリスクが確認されたとのことだが、レーベルに記載されている既知のリスクなので、承認から11年経った今になって改めて通知したのは違和感がある。データが予想以上に悪かったのかもしれないが、リリースには記されていない。

Proliaは破骨細胞の分化・活性化を促進するRANKライガンドに結合する抗体医薬。日本では第一三共がプラリア名で販売している。また、腫瘍学用途で高用量版がXgeva/ランマーク名で販売されている。

リンク: FDAのプレスリリース




今週は以上です。

2022年11月18日

第1077回

【ニュース・ヘッドライン】

  • 武田、アイクルシグの新患Ph+ALL試験が成功 
  • アステラス、抗CLDN18.2抗体の第3相が成功 
  • 局所性ロフルミラスト、アトピー試験も成功 
  • ロシュの抗アミロイド・ベータ抗体は第3相フェール 
  • ファブリー病用薬を再申請 
  • FDA諮問委員会がテナパノルを支持 
  • PARP阻害剤の適応がまた縮小へ 
  • あらあら、一型糖尿病予防薬が遂に承認 
  • 抗FRアルファ抗体・薬物複合体が承認 


【新薬開発】


武田、アイクルシグの新患Ph+ALL試験が成功
(2022年11月17日発表)

武田薬品は、英語のプレスリリースで、Iclusig(ponatinib)のフィラデルフィア転座陽性急性リンパ芽球性白血病(Ph+ALL)一次治療試験が成功したと発表した。適応拡大申請に向かうかどうかは記されていない。

17年に54億ドルで買収したAriad Pharmaceuticalsの製品の一つで、bcr-ablを阻害する。米国での適応は、2種類以上のキナーゼ阻害剤に抵抗/不耐の慢性期CML(慢性骨髄性白血病)、他のキナーゼ阻害剤が適応にならない急性期/ブラスト期CMLまたはPh+ALL、そして、T315I陽性のCMLまたはPh+ALL。発売後に命に係わることもある心筋梗塞などの動脈閉塞性疾患や心不全、そして静脈血栓塞栓のリスクが予想以上に高いことが判明、他に選択肢がない患者に限定された。

今回のPhALLCON試験は、新患Ph+ALLの未承認ながら標準的な治療法であるimatinibと化学療法の併用レジメンと、imatinibの代わりにIclusigを使うレジメンのMRD-CR(微小残存病変陰性完全奏効)をオープンレーベルで比較した優越性試験。体の一部だけの評価なので、各群の上記リスクに偏りがないかも知りたいところだ。

リンク: 同社のプレスリリース


アステラス、抗CLDN18.2抗体の第3相が成功
(2022年11月17日発表)

アステラス製薬はzolbetuximabの第3相SPOTLIGHT試験の成功を発表した。学会や医学誌でデータを公表する予定。

16年にドイツのGanymed Pharmaceuticalsを完全子会社化して入手した、claudin 18.2に結合する抗体医薬。第3相は、この膜貫通型蛋白を発現しher2は陰性の切除不能局所進行性/転移性の胃・食道胃接合部腺腫の一次治療として、mFOLFOX6レジメンに追加する効果を検討した。主評価項目のPFS(無進行生存期間)も主要副次的評価項目の全生存期間も統計的に有意に延長したとのこと。

リンク: 同社のプレスリリース


局所性ロフルミラスト、アトピー試験も成功
(2022年11月15日発表)

Arcutis Biotherapeutics(Naasdaq:ARQT)はroflumilastの0.15%クリーム製剤を用いた第3相軽中度アトピー性皮膚炎試験の成功を発表した。もう一本の結果が22年末に出る見込みで、成功なら適応拡大申請する考え。

活性成分は2010~11年に欧米でCOPD治療薬Daxas錠として承認されたPDE4阻害剤。元々はドイツのアルタナが開発していたが、医薬品事業譲渡に伴いナイコメッドに移管、その後も変遷して現在はアストラゼネカが権利を持っている。錠剤はGE化したが、Arcutisはアストラゼネカから権利を取得して0.3%クリーム製剤を開発、今年7月に米国で12歳以上の尋常性乾癬の治療薬Zoryveとして承認された。

今回のINTEGUMENT-1試験は6歳以上の軽中度アルツハイマー病患者654人を、一日一回塗布する群とVehicle塗布群に無作為化割付して4週後の転帰を比較した。主評価項目のIGA奏効率は各群32.0%と15.2%となり、統計的に有意な差があった。副次的評価項目のEASI-75達成率も43.2%と22.0%で有意。有害事象による治験離脱は両群1.4%だった。

奏効率は欧米で承認されているファイザーのPDE4阻害剤Eucrisa/Staquis(crisaborole)軟膏と大差ないので、販売力はともかくスペック面では競争力がありそうだ。

Arcutisはroflumilastのフォーム製剤も開発、脂漏性皮膚炎や頭部体部乾癬の第3相が成功しており、まず前者で23年第1四半期に承認申請する考え。アルタナのPOC試験が成功しIRミーティングに参加するため飛行機に飛び乗ってからほぼ四半世紀経ったが、物語はまだ終わっていなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


ロシュの抗アミロイド・ベータ抗体は第3相フェール
(2022年11月14日発表)

ロシュはR1450(gantenerumab)の第3相早期アルツハイマー病試験が二本ともフェールしたと発表した。偽薬群との絶対差はエーザイ/バイオジェンの二品と大差ないが、一番重要な相対削減率が一桁に留まり、有意水準に達しなかった。詳細は月末にCTAD(Clinical Trials on Alzheimer's Disease)で発表される予定。エーザイ/バイオジェンのBAN2401(lecanemab)の第3相成績も発表されるので、敗因がアミロイド・ベータ除去作用の多寡なのか、結合するエピトープなのか、静注ではなく皮注であることが関係しているのか、はたまた患者背景(軽度アルツハイマー病患者の構成比など)なのか、活発な議論が期待される。それはそれとして、昭和の名棋士の至言を思い出す・・・どんな勝ちでも勝ちは勝ち!

この二本はアルツハイマー病性軽度認知障害と軽度アルツハイマー病の患者約1965人を組入れて、過去の試験より多い510mgを目標に漸増しながら2週毎皮下注射する群のCDR-SBを偽薬と比較した。116週後の治療効果(悪化が何パーセント小さかったか)は一本が8%、もう一本は6%しかなかった。絶対差は0.31と0.19。アミロイド・ベータに結合して分解を促進する作用機序だが、脳における減少が予想より少なかったと記しているので、ロシュはこれが主犯と疑っているのかもしれない。

CDR-SBは記憶機能や生活機能などの6項目について夫々0、0.5、1、2、3点の何れかに評価し合計したもの(但しパーソナルケア項目は0.5点がない)。大きいほど悪い。BAN2401は1795人を組入れた似たような第3相試験で18ヶ月のCDR-SBの悪化が偽薬比27%、0.45小さかった。また、バイオジェン/エーザイのAduhelm(aducanumab)の第3相二本のうち、EMERGE試験では、CDR-SBがベースライン時点の2.5から偽薬群は第78週までに1.74悪化したが、米国で加速承認された高用量群は悪化が0.39小さかった。相対削減率は22%。一方、ENGAGE試験ではベースラインの2.40から偽薬群は1.56低下、高用量群は悪化が0.03小さかったが有意ではなかった。相対削減率は2%。

R1450の第3相は絶対差で見ると治療効果は遜色ない。悪化抑制率が小さいのは偽薬群の悪化がAduhelmや過去の早期アルツハイマー病試験と比べて大きかったためである。ベースライン比3~4ポイント悪化した計算になる。観察期間も長いが、Aduhelmの試験の偽薬群の経時的グラフから想像すると、ラインを116週まで延ばしたとしてもおそらく2~3ポイント程度の悪化に留まるのではないか。

Aduhelmの試験ではApoEエプシロン4陽性サブグループや軽度アルツハイマー病サブグループは悪化がやや大きかった。構成比の違いがあるならそれも考慮しなければならない。学会発表が待望される。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: Aduhelmの第3相試験論文(J Prev Alz Dis 2022)

【承認申請】


ファブリー病用薬を再申請
(2022年11月14日発表)

医療用蛋白をニンジンの細胞で量産する技術を持つイスラエルのProtalix BioTherapeutics(TASE:PLX)は、PRX-102(pegunigalsidase alfa)を米国で再承認申請した。EUでは2月に初承認申請しており、おそらく、前後して審査結果が出るのではないか。承認ならChisiが販売する。

PEG化アルファ・ガラクトシダーゼAで、ファブリー病の酵素補充療法に用いる。米国で20年に加速承認を申請したが、審査完了通知を受領した。原因は明確ではないが、COVID-19が流行し米国政府職員の出張規制によりイスラエル工場の査察ができないことや、サノフィのFabrazyme(agalsidase beta)が加速承認から本承認に昇格しunmed medical needsではなくなったため加速承認する必要性が低下したことが影響したのかもしれない。

今回の再申請は何が違うのか明らかではないが、工場査察に関してはやりやすい環境になったかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がテナパノルを支持
(2022年11月16日発表)

FDAの心臓腎臓用薬諮問委員会は、Ardelyx(Nasdaq:ARDX)が高リン血症治療薬として開発したXphozah(tenapanor)を検討し、モノセラピーは13人の委員中9人が、リン結合剤に追加する用法は10人が、便益が危険を上回ると判定した。

FDAは昨年7月に審査完了通知を出したが、Ardelyxが不服を申し立て、諮問委員会の意見を訊くことになった。FDAは諮問委員会後30日以内にArdelyxに回答する。

tenapanorはNHE3(ナトリウム水素交換輸送体3)を阻害する経口剤。便秘型過敏性腸症候群治療薬Ibsrelaとして19年に米国で承認された。透析を受けている慢性腎疾患患者でしばしば発生する高リン血症の治療でも離脱試験などで穏やかな低下作用が示された。副作用は下痢による投与中止や用量減が見られた。

FDAが承認しなかったのは、血清リン濃度の低下が既存薬(リン結合剤など)の半分程度で臨床的な便益に繋がるかどうか曖昧であることが主因。リン濃度というサロゲート・マーカーは心血管疾患のような臨床的に重要なイベントのリスクと関連するが、薬で下げればリスクが低下することを示すエビデンスは確立していない。既存薬ですら確立していないのに、効果の小さい薬まで閾を下げることをFDAは躊躇した模様だ。

一方、諮問委員は、医療の選択肢を増やすことを重視した。リン結合剤は不耐・不快の患者が少なくなく、大きくない錠剤を一日二回服用するだけで済むtenapanorを必要とする患者もいると推測した。

tenapanorは日本では協和キリンが先月、高リン血症治療薬として承認申請したところ。

リンク: Ardelyxのプレスリリース


PARP阻害剤の適応がまた縮小へ
(2022年11月16日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は、Rubraca(rucaparib)の適応を自主的に変更するようFDAから要請された。SECに提出した適時情報開示資料で明らかにされた。会社更生法適用申請のリスクがあることを既に開示済みだが、一歩近づいたと言っても過言ではないだろう。

RubracaはPARP阻害剤。米国では難治卵巣癌で白金薬レジメンに完全/部分反応した患者の維持療法と、BRCA悪性変異を持つ転移去勢抵抗性前立腺癌でアンドロゲン受容体志向薬とタキサン歴を持つ患者に用いることが承認されている。

需要が一番大きい用途である卵巣癌二次治療後維持療法のエビデンスはARIEL3試験でPFS(無進行生存期間)が偽薬比有意に上回ったこと。PARP阻害剤が特に適しているBRCA有害変異型癌だけでなく、他の相同組換え修復不全(HRD)のある癌や、それ以外の癌にも有効だった。

ところが、承認から4年経って全生存期間の最終解析がまとまり、腫瘍BRCA有害変異型におけるハザードレシオは0.83に留まり、BRCA変異もHRDもない癌に至っては1を上回った。Clovisは9月にFDAに報告、今回の要請に至った。

PARP阻害剤ではPFSに基づく加速承認/本承認の見直しが相次いでいる。

リンク: 同社のForm 8-K(SEC EDGARデータベース)

【承認】


あらあら、一型糖尿病予防薬が遂に承認
(2022年11月17日発表)

FDAはProvention Bio(Nasdaq:PRVB)のTzield(teplizumab-mzwv)を一型糖尿病用薬として承認した。8歳以上のステージ2一型糖尿病に、一日一回、14日間に亘って点滴静注する。臨床試験でステージ3に進行するのを遅らせた。有害事象は骨髄抑制やラッシュなど。事前に全血球計算と肝機能検査が必要。サノフィが共同販促する。

Ala-Alaなどのニックネームで呼ばれてきた、CD3エプシロン鎖に結合するヒト化抗体。一型糖尿病は自己抗体がインスリン分泌細胞を攻撃する。Ala-AlaはイフェクターT細胞を抑制し制御的T細胞を刺激して免疫を抑制する。MacroGenics(Nasdaq:MGNX)が05年にTolerance TherapeuticsからIP資産を取得、07年にイーライリリーに導出したが、第3相一型糖尿病治療試験がフェールし10年に返還。Provention Bioは18年にIP資産を取得、NIH(米国立衛生研究所)が主導した第2相TN-10試験をエビデンスとして承認申請したもの。

この試験では、ステージ2の一型糖尿病76人を偽薬と試験薬に無作為化割付してステージ3に進行するまでの期間を比較した。FDAによると、51ヶ月間の追跡で偽薬群は32人中72%が進行したが試験薬群は44人中45%に留まった。各群のミッドレンジ値は25ヶ月と50ヶ月で、2倍の差があった。

尚、Prescribing Informationによると、ステージ2の診断基準は、膵島細胞に対する二種類以上の自己抗体陽性、OGTT(経口糖負荷試験)で高血糖ではないが耐糖能異常、そして、二型糖尿病を示唆する病歴がないこと。ステージ3は、Inselらの論文によると、口渇や排尿の増加、原因不明の体重減、霞目、疲労などの症状が現れる。2種類以上の自己抗体が陽性だが血糖値は正常なステージ1から段階的に進行していくと考えられているようだ。Inselらはステージ2の75%が5年内にステージ3に進行すると推定しているが、TN-10試験の偽薬群も整合的な結果になっている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Inselらの論文(Diabetes Care 2015:PubMed)


抗FRアルファ抗体・薬物複合体が承認
(2022年11月14日発表)

FDAはImmunoGen(Nasdaq:IMGN)のElahere(mirvetuximab soravtansine-gynx)をFR(葉酸受容体)アルファ陽性白金抵抗性卵巣癌用薬として加速承認した。bevacizumabを含む1~3次治療歴を持つ患者が適応になる。修正IBW(理想体重)1kg当り6mgを3週毎点滴静注する。IBWは身長(cm)x0.9-92、修正IBWはIBW+0.4x(体重-IBW)で算出する。

SORAYA試験で104人におけるORR(確認客観的反応率)が31.7%、メジアン反応持続期間は6.9ヶ月だった。FRアルファ発現を評価するコンパニオン診断薬としてVentana Medical SystemsのVENTANA FOLR1 (FOLR-2.1) RxDx Assayも承認された。市販後薬効確認試験としてPFS(無進行生存期間)を医師が選んだ薬を投与する群と比較する第3相MIRASOL試験を実施中。

尚、FRアルファ陽性白金感受卵巣癌の臨床試験は19年にフェールした。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2022年11月12日

第1076回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • anakinraが高リスク患者にEUA 
  • EUでサノフィの昆虫細胞培養型ワクチンが承認 
  • FDA諮問委員会、VERU-111の効果や安全性に懐疑的 
  • その他の領域: 
  • オニバイドの一次治療試験が成功 
  • AHA:ET阻害剤の降圧効果が明らかに 
  • AHA:エパデールの心血管アウトカム試験がフェール 
  • GSK、抗体薬物複合体の市販後薬効確認試験がフェール 
  • ALSの細胞療法を承認申請したが受理されず 
  • FDA諮問委員会、SABA・ICS合剤の成人適応を支持 
  • ゼジューラの適応範囲がまた縮小 
  • CHMP、抗癌剤などの適応拡大を支持 
  • PD-L1・CTLA4阻害レジメンが肺癌に適応拡大 
  • リジェネロンの抗PD-1抗体も肺癌一次治療CT併用が承認 
  • アドセトリスが2歳以上の青少年にも承認 
  • CHMP、JAK阻害剤の適応縮小を了承


【COVID-19関連】


anakinraが高リスク患者にEUA
(2022年11月8日発表)

FDAはSwedish Orphan Biovitrum(Sobi)のKineret(anakinra)を成人のCOVID-19肺炎の治療に用いることをEUA(非常時使用認可)した。酸素投与を受けていて、重度呼吸不全のリスクがあり、血漿可溶性ウロキナーゼ・プラスミノーゲン・アクティベータ受容体が亢進していそうな(likely to have an elevated suPAR)入院患者に、100mgを一日一回、10日間皮下注する(重度腎不全は一日おき5回に減量することを検討する)。

元々はアムジェンが抗リウマチ薬として実用化した遺伝子組換え型ヒト・インターロイキン-1受容体アンタゴニスト。今回のエビデンスはギリシャとイタリアの医療施設で実施された第3相無作為化割付二重盲検偽薬対照試験、SAVE-MORE。第28日のWHO臨床症状評価序数の調整偽薬比オッズ比が0.36、治癒退院オッズ比も0.36、重度呼吸不全/死亡のオッズ比0.46となり、主評価項目でも副次的評価項目でも有意だった。

リンク: FDAのプレスリリース


EUでサノフィの昆虫細胞培養型ワクチンが承認
(2022年11月10日発表)

サノフィがGSKと共同開発したCOVID-19ワクチン、VidPrevtyn BetaがEUで成人の追加免疫用に承認された(条件付き承認ではない)。ベータ株のスパイク蛋白遺伝子をバキュロウイルス・ベクターでヨトウガ由来の細胞に導入し量産した抗原に、GSKのAS03パンデミック・アジュバントを添加したもので、活性成分5mcgを一回筋注する。

免疫ブリッジング試験でオミクロンBA.1株に対する中和抗体量(GMT)がComirnatyの2.5倍、D614G変異株(欧米における野生株)に対しては1.4倍だった。

Comirnatyの二価ワクチンと比べてどうなのかは不明。

リンク: サノフィのプレスリリース
リンク: EUのプレスリリース


FDA諮問委員会、VERU-111の効果や安全性に懐疑的
(2022年11月9日発表)

FDAは肺アレルギー性疾患諮問委員会を招集し、Veru(Nasdaq:VERU)のVERU-111(sabizabulin)について意見を聞いた。5人の委員が便益が危険を上回ると判定したが、8人は否と回答した。FDAは肯定的である模様なので、この程度の差ならEUAされる可能性がありそうだ。

VERU-111は微小管阻害剤で、乳癌などがリード・インディケーションだった。作用機序は明確ではないが、同社は、インフルエンザ・ウイルスに関する試験論文に基づき、微小管はウイルスの細胞内移動にも関与すると主張している。

COVID-19のエビデンスは米州やブルガリアで中等症・重症で入院し急性呼吸逼迫症候群や死亡のリスクが高い204人を組入れた臨床試験。150人の中間解析で、9mgを一日一回、経口投与した群の60日死亡率が20%と、偽薬群の45%を大きく下回った。全てのサブグループ分析で試験薬のほうが良好だった。

否定的に判断した委員は、症例数が少なく、同時使用薬に群間の偏りがあり、安全性のデータベースが充実していないこと、そして作用機序が明確でないことなどを指摘した。

米国外では英国やオーストラリアで承認審査中。EUもドイツの要請に基づき承認申請前審査に着手した。

リンク: Veruのプレスリリース

【新薬開発】


オニバイドの一次治療試験が成功
(2022年11月9日発表)

イプセン(Euronext:IPN)は、Onivyde(irinotecan)の第3相膵癌一次治療試験が成功したと発表した。米国で適応拡大申請する予定。

トポイソメラーゼ阻害剤イリノテカンのPEG化ナノパーティクル・リポソーム製剤で、転移性膵癌の二次治療に5-FU/LVと併用することが米欧日で承認されている。今回のNAPOLI 3試験は未治療の転移膵管腺腫(mPDAC)を5-FU/LV及びoxaliplatinと併用するNalirifoxレジメンと、標準療法であるgemcitabineとnab-paclitaxelの併用レジメンに無作為化割付して全生存期間を比較したところ、臨床的にも意味のある差が見られた。

17年にMerrimack Pharmaceuticals(Nasdaq:MACK)から事業資産を取得したもの。欧州などの権利は14年にBaxter International(後にシャイア、そして武田薬品が買収)がMerrimackから取得したが、その後、どうなったのだろうか?

リンク: イプセンのプレスリリース


AHA:ET阻害剤の降圧効果が明らかに
(2022年11月7日発表)

イドルシアがジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発しているデュアル・エンドテリン受容体アンタゴニスト、aprocitentanの第3相難治高血圧症試験の結果がAHA(米国心臓協会)科学部会とLancet誌で発表された。治療効果が初めて明らかになったが、こんなものかという印象だ。

この試験は、事前に1971人にamlodipine、valsartan、hydrochlorothiazideの3剤合剤を4週間投与して、最大血圧が140 mmHg未満に下がらない抵抗性高血圧患者730人をスクリーニングした。パート1では偽薬、12.5mg、または25mgを4週間、追加投与して、血圧低下を比較した。次に、パート2で全員に25mgを32週間投与。最後に、パート3として、被験者を偽薬と25mgに再無作為化割付して血圧のリバウンド具合を比較した。

パート1では3群の最大血圧低下が11.5mm Hg、15.3mm Hg、15.2mm Hgとなり、2用量とも偽薬比有意な差があった。治療時発現有害事象が各群19%、28%、37%の患者で見られ、有害事象による治験離脱も0.8%、2.5%、2.0%で発生した。特徴的なのは浮腫/体液貯留。

FDAは、血圧というサロゲート・マーカーに基づいて降圧剤を承認する方針を決定する前に、諮問委員会で低下幅の閾値について意見を求めたが、回答は5mm Hgだった。4mm Hg足らずというのはがっかりだが、今回は4剤目の追加なので限界収穫逓減の法則を考慮する必要があるだろう。また、偽薬群がこんなに低下したのはレスキュー・メディスンの影響なのではないかとも思われる。他人ごとでなくなってきたので、知っている人がいたら教えてください。

リンク: JNJのプレスリリース


AHA:エパデールの心血管アウトカム試験がフェール
(2022年11月6日発表)

持田製薬の高純度EPA製剤、エパデール(イコサペント酸エチル)は、日本で実施された高脂血症治療試験、JELISが成功。トリグリセライド値が有意に低下しただけでなく、冠動脈疾患の初発・再発予防にも有効性を示した。しかし、今回、日本で実施された二次予防試験がフェールしたことがAHAで発表された。

多価不飽和脂肪酸は魚に多く含まれるEPAと肉に多く含まれるアラキド酸(AA)があるが、この血中比率が低い(肉と比べて魚の摂取が比較的少ない)人は冠動脈疾患のリスクが高いかもしれない。今回のRESPECT-EPA試験は、スタチンによる治療を受けている冠動脈疾患患者のうちEPA/AA比率0.4未満の2506人をエパデールの標準用量である1800mg/日を投与する群と対照群に無作為化割付してMACE(主要有害心血管事象)リスクを比較した。

6年追跡したところ、各群の発生率は10.9%と14.9%、ハザードレシオは0.785と数値上は良かったが、p=0.0547と有意水準には届かなかった。発生率が解析計画の前提より低かったことなどにより検出力が低下したことが響いたようだ。JELIS試験の二次予防サブグループ群のハザードレシオは0.77なので、点推定値は大差ない。

この試験が残念なのは、まず、偽薬対照試験ではないこと。イベント数や群間差が最も大きかった冠再建術は必ずしも客観的とは言えない指標だ。また、追跡期間が長いせいか、試験薬群の早期中止が解析対象1225人中398人、プロトコル違反が225人と多い。偽薬の制約が無い対照群は各267人と61人でやや少ない。2年追跡時点や4年追跡時点では群間差が殆どなく、4年時点のnumber at riskが各群793人と909人と減少していることと重ね合わせると、残存者バイアスの影響も考えられるのではないか。

リンク: 発表内容概要(ACCによる)


GSK、抗体薬物複合体の市販後薬効確認試験がフェール
(2022年11月7日発表)

GSKは、Blenrep(belantamab mafodotin-blmf)の第3相DREAMM-3試験がフェールしたことを明らかにした。3次以降の治療を受ける難治再発多発骨髄腫をBlenrep群と標準療法であるpomalidomideとdexamethasoneの併用群に無作為化割付してPFS(無進行生存期間)を非盲検下で比較したところ、メジアン値は11.2ヶ月対7ヶ月と上回ったものの、ハザードレシオは1.03で有意に上回らなかった。全生存期間の解析は未だ十分な数の被験者が死亡していないため未成熟だが、各21.2ヶ月、21.1ヶ月、1.14となっている。

Blenrepは協和キリンの子会社であるBioWaが創製した抗BCMA抗体と細胞毒をSeagenからライセンスしたリンカーで結合したもの。20年に欧米で難治再発多発骨髄腫の5次治療薬として承認された。米国は加速承認、EUは条件付き承認なので、今回の試験で薬効を確認する必要があった。

同社は一次治療や二次治療における三剤併用の第3相も実施しており、23年に結果が出る見込みなので、それまで承認の見直しを猶予してもらえる可能性もあるのではないか。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ALSの細胞療法を承認申請したが受理されず
(2022年11月10日発表)

BrainStorm Cell Therapeutics(Nasdaq:BCLI)はNurOwnを全身性側索硬化症(ALS)の治療薬としてFDAに承認申請したが、受理されなかった。事前の会合でエビデンス不足を指摘されていたのでサプライズはない。

骨髄由来間葉系幹細胞を体外で神経栄養因子を多く分泌するよう処理した上で培養した細胞療法。第3相試験ではランイン期間中に急速進行性患者189人をスクリーニングし、偽薬または試験薬を8週毎に3回、髄腔内注射し、その後28週間の病状変化をALSFRS-Rスコアで評価した。主評価項目は奏効率(月平均で1.25点以上改善したら奏効とした)。偽薬群は27.%、試験薬は34.7%で数値上上回ったが仮説ほどの差はなく、p=0.453とフェールした。副次的評価項目であるALSFRS-Rの変化も、各▲5.88と▲5.52で悪化が小さかったが有意ではなかった。

後に、副次的評価項目の解析にプロトコル違反があったことが判明。病状が進行した患者を除外するとp=0.050であることを発表した上で、承認申請を断行した。

一方、FDAは、上記奏効率は偽薬群が27.7%、試験薬群は32.6%で差が小さく、試験薬群は死亡者が若干多いなど懸念すべき点もあるという極めて異例なプレスリリースを3月に出し、会社側の主張が独り歩きしないよう患者や支援団体、医療従事者に注意を促した。

リンク: 同社のプレスリリース


FDA諮問委員会、SABA・ICS合剤の成人適応を支持
(2022年11月9日発表)

FDAは肺アレルギー疾患用薬諮問委員会を招集し、アストラゼネカが喘息症の増悪発作治療薬として承認申請したPT027(albuterol、budesonide)について、意見を聞いた。40~50年前に承認された短期作用性ベータ2作用剤とステロイドの合剤で、新味はないが、第3相中重度喘息試験(MANDALA)で増悪時だけ用いても再増悪リスクを抑制できることを立証したのが画期的。軽中度喘息症のコントローラーとして一日4回吸入する試験も実施されたが、レスキュー用途が主眼のようだ。

諮問委員会の評決は、成人に関しては16対1で圧倒的多数が賛成、12-18歳は8対9で意見が分かれ、4-11歳は1-16で反対が圧倒的だった。MANDALA試験は3132人を180/160mcg群、180/80mcg群、そしてalbuterol 180mcg群の三群に無作為化割付したが、12-17歳の組入れは100人、4-11歳(高量群の割付なし)は83人と少数で、ハザードレシオの点推定値も良好なものではなかったことが影響した模様だ。

リンク: 同社のプレスリリース


ゼジューラの適応範囲がまた縮小
(2022年11月11日発表)

GSKはPARP阻害剤Zejula(niraparib)の米国における適応を変更したと発表した。難治卵巣癌で白金薬レジメンに反応した患者の維持療法に関しては、BRCAの生殖細胞系遺伝子に有害又はその疑いのある変異のある患者に限定する。

この適応が承認されたのはNOVA試験でPFS(無進行生存期間)が偽薬比有意に増加したため。当該変異を持つサブグループのPFSはメジアン21ヶ月対5.5ヶ月、ハザードレシオ0.27と大変良かったが、変異の無いサブグループでも9.3ヶ月対3.9ヶ月、0.45と、十分に良好だった。FDAは優先審査指定し、審査期限の3ヶ月前に承認した。

ところが、同試験の全生存期間の解析では、無変異サブグループのハザードレシオが1.06(95%信頼区間0.81-1.37)と、偽薬並みだった。この解析は検出力不足で、また、偽薬群は進行後にPARP阻害剤を用いることもできるなどノイズが多いが、他社のPARP阻害剤でも似たような懸念が浮上したことから、再検討の余地があった。FDAは11月22日に諮問委員会を招集し承認継続の当否を尋ねる予定だったがGSKが自発的撤回を承諾したためか、キャンセルした。

Zejulaは9月にある種の卵巣癌の4次治療薬としての承認も返上された。白金薬ベースの一次治療に反応した卵巣癌の維持療法は残っている。

12年にMSDからライセンスして開発・承認取得したTesaroを19年に買収して入手したもの。日本は17年に武田薬品が導入、20年に卵巣癌初回化学療法後の維持療法、白金感受性再発卵巣癌における維持療法、白金感受性の相同組換え修復欠損を有する再発卵巣癌に承認された。

リンク: GSKのプレスリリース


CHMP、抗癌剤などの適応拡大を支持
(2022年11月11日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の医薬品の適応拡大に肯定的意見を纏めた。順調なら2ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。尚、新製品はバイオシミラーやGE薬だけだった。

リンク: EMAのプレスリリース

・アストラゼネカのImfinzi(durvalumab):成人の切除不能/転移胆道癌一次治療(gemcitabine及びcisplatinと併用)

・同、Lynparza(olaparib):化学療法が臨床的に不適な成人の転移去勢抵抗性前立腺癌(abiraterone及びprednisone/prednisoloneと併用)

・サノフィのDupixent(dupilumab):全身性治療の対象となる成人の中重度結節性痒疹

・第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan):trastuzumabによる治療歴を持つher2陽性胃癌

・ロシュのXofluza(baloxavir marboxil):1-11歳の単純インフルエンザの治療と曝露後予防

・バイエルのEylea(aflibercept):未熟児網膜症(ゾーンIに留まる場合はステージが1+、2+、3または3+、IIの場合はステージ2+または3+、またはアグレッシブ後部型(AP-ROP)、が適応になる)。レーザー治療対照非劣性試験がフェールしたせいか、米国での適応拡大は遅れている。

・サノフィのPlavix/Iscover(clopidogrel):PCIを受けるST上昇型心筋梗塞(これまでは薬物療法を受けるSTEMIに限定されていた)

一方、承認申請の取り下げは4件あった。

Febseltiq(infigrtnib)はFGFRキナーゼ阻害剤。ノバルティスからライセンスしたBridgeBioPharma(Nasdaq:BBIO)の新薬開発子会社であるQED Therapeuticsが昨年、米国でFGFR2変異胆管癌の再発治療薬Truseltiqとして加速承認を得たが、提携先のHelsinn社は商業上の理由で提携解消を決め、欧州の申請も10月に取り下げてしまった。CHMPは効果や副作用、薬物動態、生産プロセスに関して疑問を持っていた由。

スペインのFerrer InternacionalのOrepaxam(treprostinil diolamine)はUnited Therapeuticsの肺動脈高血圧症治療薬Remodulinの新しい塩で、経口投与できることが特徴。CHMPは未だ審査中だったとのことで、純粋に申請者側の都合による撤回である様子だ。FerrerはRemodulin等の流通で提携しているので、この徐放性錠剤もUnited Therapeuticsの開発品なのかもしれない。

適応拡大申請の撤回は、まず、ロシュがBlueprint Medicines(Nasdaq:BPMC)から導入したGavreto(pralsetinib)。RET融合陽性進行非小細胞性肺癌用薬として昨年、条件付き承認されたが、進行/転移性のRET変異陽性甲状腺髄様腫とRET融合陽性甲状腺癌はCHMPが立証不十分と考えていた。米国では20年に加速承認されている。

ノバルティスのIlaris(canakinumab)は、承認用途であるクリオピリン関連周期性症候群と似たところのある希少疾患、Schnitzler症候群に適応拡大申請されていた模様だが撤回。20人規模の試験で治療後7日間の効果が検討されたとのことだが、CHMPは治験の正確性や有効性に疑問を持っていた由。

【承認】


PD-L1・CTLA4阻害レジメンが肺癌に適応拡大
(2022年11月10日発表)

FDAはアストラゼネカの抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)と抗CTLA4抗体Imjudo(tremelimumab-actl)を成人の転移性非小細胞性肺癌に用いる適応拡大を承認した。白金薬ベースの化学療法と併用する。EGFR阻害剤やALK阻害剤が適応になる癌は対象外。

Imjudoは10月に切除不能肝細胞腫にImfinziと併用することが承認されているが、300mgを一回、60分点滴静注するだけだった。今回は75mg(体重30kg未満の場合は1mg/kg)を3週毎に4回、そして第16週にも一回投与するので、患者一人当たりの使用量が25%多くなる(途中離脱や減量がないならば)。

エビデンスとなるPOSEIDON試験では、二剤を白金薬ベースの化学療法(4サイクル)と併用した群はメジアン生存期間が14.0ヶ月と、化学療法(6サイクル)だけの群の11.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.77だった。G3/4有害事象は肺炎とラッシュが若干増加した。

リンク: FDAのプレスリリース


リジェネロンの抗PD-1抗体も肺癌一次治療CT併用が承認
(2022年11月8日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)はFDAがLibtayo(cemiplimab-rwlc)を成人の進行非小細胞性肺癌の一次治療に白金薬ベース化学療法と併用することを認めたと発表した。他の抗PD-1/PD-L1抗体と同様に、EGFR、ALK、またはROS1を阻害する薬が適応になる患者は対象外。

第3相試験では白金薬化学療法と偽薬を投じた群と比べて、全生存期間のハザードレシオが0.71、メジアン値は22ヶ月と対照群の13ヶ月を大きく上回った。

有害事象の発生率は深刻例が25%、致死的なものは6%だった。

LibtayoはPD-L1強陽性の進行非小細胞性肺癌やある種の進行皮膚扁平上皮種や基底細胞腫に単剤投与することも承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


アドセトリスが2歳以上の青少年にも承認
(2022年11月10日発表)

FDAはSeagen(Nasdaq:SGEN)のAdcetris(brentuximab vedotin)を2~17歳の未治療高リスク古典的ホジキンリンパ腫に用いることを承認した。AVEPCレジメン(doxorubicin、vincristine、etoposide、prednisone、cyclophosphamide)と併用する。臨床試験ではEFS(無イベント生存)のハザードレシオがAVEPC・偽薬併用群比0.41だった。

Adcetrisは成人の古典的ホジキンリンパ腫などに承認されているが、小児適応は今回が初。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


CHMP、JAK阻害剤の適応縮小を了承
(2022年11月11日発表)

EUの薬品承認審査機関EMAの医薬品専門家委員会、CHMPは、市販後監視委員会であるPRACが勧告したJAK阻害剤5品の適応一部変更について了承した。予定通り、添付文書改訂が行われることになる。FDAに追随した格好だが、内容は緩やかになっている。

対象は、ファイザーのXeljanz(tofacitinib)とCibinqo(abrocitinib)、ガラパゴス(Euronext: GLPG)/ギリアド・サイエンシズのJyseleca(filgotinib)、イーライリリーのOlumiant(baricitinib)、そしてアッヴィのRinvoq(upadacitinib)。骨髄線維症などの治療に用いられているノバルティスのJakavi(ruxolitinib)やセルジーンのInrebic(fedratinib)は対象外。また、OlumiantをCOVID-19感染症の治療に一時的投与する場合も対象外。

65歳以上の患者や、心血管疾患や癌のリスク因子を持っている人、あるいは喫煙者/長期喫煙歴のある人は、代替的治療が無い場合に限定される。静脈血栓塞栓リスクのある人に用いる場合は注意が必要。もしこれらの患者に使う場合は用量を減らす(EUの承認用量は日本とほとんど同じ)。

適応制限の動機は、関節リウマチに関するXeljanzの市販後安全性確認試験とOlumiantの市販後観察的試験(B023)でMACE(心筋梗塞など、主要な有害心血管事象)や静脈血栓塞栓のリスクがTNFアルファ阻害剤より高かったため。

CHMPは、JAK阻害剤服用患者に対して、胸痛や締め付け感、息切れ、冷や汗、めまい、手足の脱力、発語不明瞭などを経験したら即座に医師に相談することと、皮膚癌のリスクに備えて定期的にチェックし新規成長部位に気付いたら医師に伝えるよう勧告している。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

2022年11月5日

第1075回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • bebtelovimabはBQ.1やBQ.1.1が苦手 
  • COVID-19薬の売上高推移 
  • その他の領域: 
  • ジャディアンスもCKD試験が成功 
  • 単純性尿路感染症新薬の第3相が成功 
  • 表皮水疱症のex vivo遺伝子療法も第3相が成功 
  • 妊婦接種の新生児RSV予防ワクチン 
  • I-131標識抗CD45抗体のBMT前処置試験成功 
  • NicOx、一酸化窒素供与PGの緑内障試験が成功 
  • ReblozylのMDS貧血一次治療試験が成功 
  • GSK、高齢者向けRSVワクチンを承認申請 
  • 健康な乳児にも有効なRSV予防薬が欧州で承認 


【COVID-19関連】


bebtelovimabはBQ.1やBQ.1.1が苦手
(2022年11月4日発表)

FDAは、イーライリリーのCOVID-19治療薬、bebtelovimabは最近増加しているオミクロンの亜系統、BQ.1やBQ.1.1を中和できそうにないと発表した。抗体医薬ではない抗ウイルス薬、即ちファイザーのPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)やMSDのLagevrio(molnupiravir)、ギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir)は有効とのことなので、適応なら選択肢になる。

同じオミクロン株でもBQ.1は免疫回避能が高く、BQ.1.1は更に高いと言われており、流行の中心になる可能性がある。CDC(米国疾病予防管理センター)の推定によると、米国のCOVID-19感染者に占める亜系統別構成比は、10月30日に始まる週に、オミクロン株BA.5が39.2%、BQ.1.1が18.8%、BQ.1が16.5%、BA.4.6が9.5%、BF.7が9.0%となった。先行指標とも言われる第2地域(NY州やNJ州など)では、BQ.1が28.8%、BA.5が24.9%、BQ.1.1が23.5%と、新興勢力がBA.5に追いつき追い抜く勢いだ。

COVID-19流行の当初は、抗体医薬の長所である開発スピードの速さや選択性の高さがフルに発揮されたが、好ましくない亜系統が顕著に発展するオミクロン株の登場で、表舞台から退場を迫られた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: CDCの変異株流行モニター


COVID-19薬の売上高推移
(2022年11月5日時点)

製薬会社の22年第3四半期決算からCOVID-19ワクチンや治療薬の売上高をまとめた。感染者の減少により前四半期比減少傾向が続いている。年間見通しを公表している会社のうち、ファイザーは従来見通しを維持したが、モデルナはSpikevax(elasomeran等)の見通しを210億ドルから180~190億ドルに下方修正した。但し、実需というよりは生産混乱の影響のようだ。一方、ギリアド・サイエンシズはVeklury(remdesivir)の見通しを25億ドルから34億ドル(前年比39%減)に上方修正した。

COVID-19関連売上高(百万ドル)
製品名メーカー2021年22Q122Q2
ワクチン:
Comirnatyファイザー36,78113,2278,848
Spikevaxモデルナ17,6755,9254,531
Vaxzevriaアストラゼネカ3,9811,089451
JcovdenJNJ2,385457544
抗SARS-CoV2抗体:
Ronapreveリジェネロン5,828--
ロシュ1,78463623
リリーの3製品イーライリリー2,2391,470129
XevudyGSK1,3221,751587
Evusheldアストラゼネカ-469445
治療薬:
Vekluryギリアド5,5651,525445
Actemraロシュ3,898858687
Olumientイーライリリー1,115256186
Paxlovidファイザー761,4708,115
LagevrioMSD9523,2471,177
注:アストラゼネカとノババックスは3Q決算未発表。OlumientとActemraは他の疾患向けの売上高が中心。Ronapreveの売上高は米国のもので、ほぼ無くなった。
出所:各社資料から作成

【新薬開発】


ジャディアンスもCKD試験が成功
(2022年月日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムと共同開発販売パートナーのイーライリリーは、3月に、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin)の慢性腎疾患アウトカム試験が中間解析で主目的を達成したと発表したが、米国腎臓学会腎臓週間とNew England Journal of Medicine誌で詳細が明らかになった。 現在は二型糖尿病と心不全に承認されているが、適応拡大申請されるのではないか。

このEMPA-KIDNEY試験は慢性腎臓疾患の6609人を偽薬またはJardiance(10mg一日一回経口投与)に無作為化割付して、腎臓疾患の悪化(eGFRの悪化、透析/腎移植、腎臓疾患死、または心血管疾患死)のリスクを比較した。メジアン2年間の追跡で、各群のイベント発生率は16.9%と13.1%、ハザードレシオは0.72となり有意な差があった。被験者の54%を占めた糖尿病でない患者にも、糖尿病患者にも、便益があった。入院(理由は不問)も有意に少なかった。死亡(理由不問)は各5.1%と4.5%、心血管死/心不全入院は4.6%と4.0%で、どちらも有意差なし。

SGLT2阻害剤ではアストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin)も同様な試験が成功し、昨年、日米欧で適応拡大した。ハザードレシオはJardianceより良いが、直接比較ではないので良く分からない。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: EMPA-KIDNEY試験論文抄録(NEJM)


単純性尿路感染症新薬の第3相が成功
(2022年11月3日発表)

GSKはGSK2140944(gepotidacin)の第3相単純性尿路感染症試験二本が中間解析で主目的を達成したと発表した。新規組入れを中止し、最終解析を実施した上で23年央に米国で承認申請する考え。

新規構造を持つ抗菌剤で、細菌の複製に係るトポイソメラーゼを阻害する。新規抗菌剤の開発・販売環境は極めて厳しく多くの製薬会社が距離を置く中、GSKは13年に米国政府のBARDA(生物医学先端研究開発機構)やDTRA(防衛脅威削減庁)の支援を得て開発を進めることができた。

今回のEAGLE-2試験とEAGLE-3試験は合わせて3000人超を1500mgを一日二回、5日間経口投与する群と、標準薬であるnitrofurantoin群に無作為化割付して、第10~13日の臨床的かつ細菌学的な奏効率が非劣性試験であることを検証した。尚、抗生物質に関しては、既存薬と大差ないなら値段が高い新薬はいらない、と言ってはいけないようだ。

リンク: GSKのプレスリリース


表皮水疱症のex vivo遺伝子療法も第3相が成功
(2022年11月3日発表)

Abeona Therapeutics(Nasdaq:ABEO)はEB-101の第3相VITAL試験が成功したと発表した。半年以上(平均6年)続く大きな創傷を持つ劣性栄養障害型表皮水疱症(RDEB)患者11人を組入れて、治療する部位としない部位を43組選び、6ヶ月後の奏効率(50%以上治癒)を比較したところ、各81.4%と16.3%となり有意な差があった。共同主評価項目として疼痛緩和効果も評価したところ、評価尺度(レンジは0から10)がベースライン比で各3.07と0.90低下し、有意な差があった。

治療関連深刻有害事象や、死亡、増殖能を持つレトロウイルスの検査の陽性例は、発生しなかった。

23年第2四半期に承認申請する考え。

RDEBは真皮と表皮を繋ぐ係留線維の7型コラーゲンの遺伝子に機能喪失変異があり、水疱やびらんが生じやすい。感染症や扁平上皮腫のリスクがある。EB-101は患者自身のケラチノサイトやその前駆細胞を採取してex vivoで欠乏するCOL7A1遺伝子を導入、患者に戻す。

栄養障害型表皮水疱症ではKrystal Biotech(Nasdaq:KRYS)が6月に米国でKB103(beremagene geperpavec)を承認申請した。HSV-1ベクターでCOL7A1遺伝子を導入するin vivo遺伝子療法で、ゲル製剤を創傷が閉鎖するまで週一回、皮内注射する。31人の臨床試験で6ヶ月後の完全治癒率が67%だった(偽薬部位は22%)。評価基準が違うので両剤の比較は難しい。

リンク: Abeonaのプレスリリース


妊婦接種の新生児RSV予防ワクチン
(2022年11月1日発表)

ファイザーは、PF-06928316(通称RSVpreF)の第3相MATISSE試験が中間解析で成功認定されたと発表した。FDAとの相談も踏まえて組入れは中止し、年内に米国などで承認申請する考え。

RSV(Respiratory syncytial virus)感染予防用ワクチンで、A型とB型の二種類のウイルスの宿主細胞結合部位の融合前糖蛋白抗原に、アルミ・アジュバントを添加している。今回の試験は18~49歳の妊婦約7400人を組入れて、妊娠第2~3期に120mcgを一回接種する効果を偽薬と比較した。主評価項目は、新生児のRSVによるMA-LRTI(医療の必要な下部気道感染症)リスクと、同じく重度MA-LRTIリスク。ClinicalTrials.govによると観察期間は6ヶ月となっているが、プレスリリースによると生後90日間のRSVによる全/重度MA-LRTIも今回の解析の共同主評価項目になっている。

重度MA-LRTIは90日間のワクチン効率(リスク削減率)が81.8%(信頼区間40.6-96.3%)、6ヶ月間も69.4%(44.3-84.1%)で有意性認定ハードルをクリアした。一方、全MA-LRTIは90日間が57.1%(14.7-79.8%)、6ヶ月間も51.3%(29.4-66.8%)で、クリアできなかった。信頼区間が何パーセントのものなのかは明らかではない。有意判定基準も明らかではない。複数評価項目の中間解析なので95%より低いだろう。

妊婦と新生児に安全性懸念は発生しなかった由。

RSV感染症は軽度で済むことも多いが、低出生体重児など重症化リスクのある乳児は、冬の間に月一回、抗RSV-Fサブユニット抗体Synagis(palivizumab)を注射して予防する。冬に多い病気であることを考えれば、予定日が4月の妊婦がRSVpreFを接種する場合、出生の6ヶ月後から12ヶ月後までの感染予防が重要になる。従って6ヶ月間のエビデンスでは足りない。1年フォローアップ・データが待望される。

RSVpreFは60歳以上を組み入れた第3相RENOIR試験も8月に中間解析が成功、二つ以上の症状を伴うRSV関連下部気道疾患のワクチン効率は66.7%(96.66%信頼区間28.8-85.8%)、三つ以上の症状を伴うものでは85.7%(同32.0-98.7%)だった。この年代向けも承認申請する予定。

新生児向けはアストラゼネカがサノフィと共同開発している持効性抗RSV-F蛋白抗体、MEDI8897(nirsevimab)が、生後に冬の前に接種する点で違いはあるものの、年一回接種で、健常児も適応になる点で、競合品になり得る(後述)。

高齢者向けRSVワクチンはGSKもGSK3844766Aを承認申請した(後述)。

リンク: ファイザーのプレスリリース


I-131標識抗CD45抗体のBMT前処置試験成功
(2022年10月31日発表)

米国ニューヨーク州の放射性医薬品開発会社、Actinium Pharmaceuticals(NYSE AMERICAN:ATNM)は、Iomab-B(I-131 apamistamab)の第3相急性骨髄性白血病(AML)試験が成功したと発表した。23年に承認申請する考え。4月に途中経過データが公表されたが、今回の主評価項目はp値が0.0001未満であったこと以外明らかにされていない。

このSIERRA試験は、北米の施設で55歳以上の難治再発AML患者153人を組入れて、他家造血幹細胞移植の骨髄枯渇前処置としてIomab-BとRIC(強度軽減前処置:fludarabine投与と低量全身照射)を併用するプロトコルと、venetoclaxなどを用いる一般的な処置法をオープンレーベルで比較した。主評価項目は、FDAのアドバイスに基づき、6ヶ月以上持続する完全寛解とした。

4月の発表によると、試験薬群は66人の全てが移植に進み定着達成したが、対照群は77人中14人だけだった。この時点で大きな差が出ているので、主評価項目達成はサプライズではない。

Iomab-Bは抗CD45抗体にI-131放射性核種を結合したもの。Fred Hutchinson Cancer Research Centerからライセンスした。AMLの他家造血幹細胞移植数が米国の2倍である欧州などの権利はスエーデンのImmedica ABが保有している。

リンク: 同社のプレスリリース


NicOx、一酸化窒素供与PGの緑内障試験が成功
(2022年10月31日発表)

フランスのNicOx S.A.は、NCX 470の第3相緑内障試験で主目的を達成したと発表した。二本目は24年に結果が判明する見込み。

同社の一酸化窒素供与技術を応用したbimatoprostの誘導体で、0.1%点眼液を一日一回投与する。今回のMont Blanc試験は米国と中国の施設で開放隅角緑内障または高眼圧症の患者691人を組入れて、朝8時と午後4時のIOP(眼圧)を標準療法であるlatanoprostと比較した。主目的の非劣性解析は成功。数値上は効果が上回ったが、副次的評価項目の優越性解析はフェールした

bimatoprostはプロスタグランジン類縁体で、アッヴィが欧州などで緑内障治療薬として販売している。NicOxは、異なったメカニズムで眼圧を抑制する一酸化窒素供与能を持たせる改良を行ったが、非劣性に留まったのは残念。

リンク: 同社のプレスリリース


ReblozylのMDS貧血一次治療試験が成功
(2022年10月31日発表)

ブリストル・マイヤーズ スクイブは、Reblozyl(luspatercept-aamt)の第3相COMMANDS試験が中間解析で成功したと発表した。適応拡大申請に向かうだろう。

Activin受容体IIB型の細胞外領域とIgG1固定領域の融合蛋白で08年にAcceleron Pharmaがセルジーンに共同開発販売権を供与、その後、セルジーンはBMSに買収され、Acceleronは21年にMSDに買収された。19~20年に欧米で多発骨髄腫(MDS)患者の貧血(赤血球生成刺激剤不応の場合)とベータサラセミアによる貧血の治療薬として承認された。

今回は、エリスロポイエチン未治療の輸血依存MDSの成人を組入れて、輸血依存脱却率(12週間に亘り赤血球輸血を受けずヘモグロビン値がベースライン比1.5g/dL超増加)を赤血球生成刺激剤と比較した。データは未発表。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


GSK、高齢者向けRSVワクチンを承認申請
(2022年11月2日発表)

GSKは、GSK3844766Aの承認申請が米国でも受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は23年5月3日。日欧でも10月に受理されている。

高齢者向けのRSV予防用ワクチンで、宿主細胞の細胞膜に結合する部位の融合前F糖蛋白を抗原とし、同社のAS01-Eアジュバントを添加したもの。RSVのワクチンや高齢者向け予防薬の承認申請は初。

60歳以上の25000人を組入れて一回筋注した第3相試験では、RSVによる下部気道感染症のワクチン効率が82.6%(96.95%信頼区間57.9-94.1)だった。偽薬群の感染率は0.3%(12494人中40人)。副次的評価項目である重症感染におけるワクチン効率は94.1%(95%信頼区間62.4–99.9)だった。偽薬群の感染率は0.14%(17人)。

重症化リスクが比較的高い喘息症などの持病を持つ患者や、70~79歳にも効果があった。80歳以上約2000人におけるワクチン効率は33%で、絶対数が少ないこともあり有意水準に届かなかった。

効果の持続性は明らかにされていない。毎年接種するワクチンがまた一つ増えるのだろうか?

RSVは軽症で終わることが多いが重症化することもあり、米国の場合、60歳以上の入院が年17.7万件、死亡は1.4万人に達する由。

リンク: GSKのプレスリリース

【承認】


健康な乳児にも有効なRSV予防薬が欧州で承認
(2022年11月4日発表)

アストラゼネカとサノフィは、Beyfortus(nirsevimab)がEUでRSV(respiratory syncytial virus)による下部気道感染症の予防薬として承認されたと発表した。最初のRSVシーズン(冬)を迎える新生児や乳児が適応になる。アストラゼネカが子会社化したメディミューンのSynagis(palivizumab)の改良薬で、違いは、冬季に毎月ではなく一回筋注するだけで足りることと、適応が低出生体重児や心臓や呼吸器に持病を持つ人などに限定されていないこと。一方、Synagisは必要なら二回目の冬にも投与できるが、Beyfortusは最初の冬に限定された。

第3相試験では、医療が必要なRSV感染性下部気道感染症のリスクを偽薬比74%抑制した。入院治療に限定しても62%少なかったが、イベント数が偽薬群は994人中8人、試験薬群は496人中6人と少ないせいか、有意水準には達しなかった。試験期間中にCOVID-19が大流行した余波でRSV感染症が激減し、計画より早く薬効解析を行った背景がある。

二回目の冬が承認されなかったのも計画を繰上げた影響かもしれない。

アストラゼネカはSynagisの開発販売権をSOBI(スウェディッシュ・オーファン・バイオビトラム)にライセンスしており、Beyfortusも販売はサノフィが主導する。

さて、今後の注目は、公衆衛生機関や学会の推奨範囲。健康な乳児にも承認されているとはいえ、100%普及するとも思えない。ファイザーが開発している妊婦が接種するワクチンも承認されれば代替的な選択肢になりうる。

リンク: アストラゼネカとサノフィのプレスリリース





今週は以上です。