2024年5月18日

第1055回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • イーライリリーの週一回型インスリンも第3相成功 
  • アストラゼネカ、新型コロナ用新型抗体を承認申請へ 
  • ノボ、ヘムライブラ対抗品を承認申請へ 
  • ゾコーバ、グローバル第3相はフェール 
  • MSD、抗TIGHT抗体の第3相がフェール 
  • テセントリク、TNBC試験がまたフェール 
  • 経口ペネムを再び承認申請 
  • Elevarが審査完了通知を受領 
  • Dynavax、B型肝炎ワクチンの適応追加はならず 
  • アセンディス、副甲状腺機能低下症用薬の審査が長期化 
  • アムジェンの抗DLL3xCD3抗体が承認 
  • ブレヤンジが濾胞性リンパ腫の3次治療に承認 
  • EMAの安全性委員会も早産予防薬の販売中止を勧告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


イーライリリーの週一回型インスリンも第3相成功
(2024年5月14日発表)

イーライリリーは週一回皮下注用インスリンLY3209590(insulin efsitora alfa)の二本の第3相二型糖尿病試験が成功したと発表した。残りの3本も年内に開票する見込みで、来年には承認申請に向かうのではないか。ノボ ノルディスクの約2年遅れとなる。

変異型単鎖インスリンと免疫グロブリンG2の固定領域を結合した融合蛋白。二本のうち、日本の施設も参加したQWINT-2試験では、インスリン未経験者を組入れて52週間投与し、insulin degludec一日一回投与と比較した。結果は、HbA1c(ベースライン平均は約8.2%)が各群1.34%と1.26%低下し、非劣性解析が成功した。副次的評価項目である、GLP-1作用剤併用の有無に基づくサブグループ分析も成功した。作用の安定性の指標である、血糖値が一定範囲内に収まっていた時間では試験薬が若干上回った。

もう一本のQWINT-4試験は基礎インスリンと一日二回以上の食前インスリンを用いている患者を組入れて26週間治療し、insulin lispro(食前インスリン)と併用する効果をlispro・degludec併用と比較した。両群ともA1cがベースライン値の約8.2%から1.07%低下し非劣性だった。

(尚、上記の数値はefficacy estimandベースで、患者がスケジュール通りキチンと注射して持続的重度低血糖のレスキュー治療もなかったらこうなるという数値だ。同社はGLP-1/GIP作用剤のプレスリリースでもこのベースで報告しているが米国のレーベルにはtreatment policy estimandベースしか記されていない。前者は新技術の科学的評価に適するが、後者の方が現実の医療で得られる成果に近い。)

インスリンは効かなくて良い時に効きすぎると低血糖を招きかねないのが要注意点だ。重度または臨床的に重要な低血糖イベントの人年当り発生率は前者の試験が各群0.30と0.16、後者が0.19と0.14だった。インスリンに対する慣れの問題なのかナイーブ試験の群間差が比較的大きい。

ノボ ノルディスクの週一回型インスリン、Awiqli(insulin icodec)はEUでは3月にCHMP(医薬品科学的評価委員会)を通過しまもなく承認されるはずだが、米国は審査期間が延長され今月24日紙は諮問委員会に上程される。FDAが何に注目しているのか、リリーの開発品にも当てはまる可能性があるのか、注目される。

リンク: イーライリリーのプレスリリース


アストラゼネカ、新型コロナ用抗体医薬を承認申請へ
(2024年5月16日発表)

アストラゼネカは長期作用性抗SARS-Cov2抗体AZD3152(sipavibart)の第1/3相SUPERNOVA試験で第3相ポーションが成功したと発表した。免疫力低下者の予防薬として今年下期に承認申請する考え。

同社は21~22年に二種類の抗体のカクテルであるEvusheld(tixagevimab、cilgavimab)をCOVID-19感染症の曝露前予防薬として米欧日で発売したが、XBB.1.5などの感受しない株が増加したため、23年以降は殆ど使われなくなった。予防はワクチンが有効だが、免疫が低下する病気や免疫抑制治療を受けている患者は抗体獲得力が低いため、代替的な手段も求められている。該当するのは人口の4%程度だが、COVID-19による入院、ICU入室、死亡例の25%を占めるとのことだ。

sipavibartはオックスフォード大学発のベンチャー企業、RQ BiotechnologyがBA.1感染者の血清から単離した抗体に、作用を長期化したり抗体依存的疾病増強リスクを緩和したりする装飾を付したもの。高度に保存された領域に結合するため、F456L変異を持つ株(EG.5.1やXBB.1.5.10など)以外の変異株に有効性が見込まれる。

第3相ポーションでは主評価項目の180日症候性COVID-19感染症リスクが、全変異株に関しても、F456L変異の無い株だけの解析でも、Evusheldまたは偽薬を投与した群より低かった。前者の治験結果はF456L変異のある株の流行次第で変わるだろうから、後者の解析で十分だろう。

sipavibartは昨年11月に日本免疫不全・自己炎症学会が厚労大臣に早期使用の実現を要望している。

リンク: 同社のプレスリリース


ノボ、ヘムライブラ対抗品を承認申請へ
(2024年5月14日発表)

ノボ ノルディスクはMim8の第3相FRONTIER 2試験が良好な結果になったことを明らかにした。12歳以上のインヒビターを持つあるいは持たないA型血友病254人を予防的投与なし、Mim8を月一回皮下注、または週一回皮下注の3群に無作為化割付けして26週間の出血事象を比較したところ、治験の前に血液凝固因子の予防的投与を受けていなかったサブグループでは、月一回投与群は予防的投与非施行群と比べて99%、週一回群も97%、少なかった。月一回群は95%の患者が、週一回群は86%の患者が、出血事象を経験しなかった(非施行群はゼロ)。一方、治験前に予防的投与を受けていたサブグループでは、出血事象が治験前と比べて各群43%と48%減少した。無出血事象率は65%と66%だった(治験前の数値は不明)。

忍容性は良好で、死亡や血栓・塞栓事象は発生しなかった。1~11歳が対象の第3相FRONTIER 3試験も進行中。24年内にグローバルな承認申請を開始する考え。

Mim8は中外製薬/ロシュのHemlibra(emicizumab)と類似した二重特異性抗体。A型血友病で欠乏する血液凝固第8因子に代わって、活性化第IX因子と第X因子を架橋する。

リンク: ノボのプレスリリース


ゾコーバのグローバル第3相はフェール
(2024年5月13日発表)

塩野義製薬はNIH(米国立衛生研究所)と共に第3相ACTIV-2d/SCORPIO-HR試験を実施し、COVID-19に感染し発症5日以内の非入院患者におけるXocova(ensitrelvir)の有用性を検討したが、フェールした。主評価項目である、15症状全てに関して2日連続で消失するまでの期間が偽薬群より短かったものの有意水準には達しなかった。副次的評価項目の一つであるLong Covid発現率の比較もフェールした。先行類薬の第3相実施時期よりもウイルスの病原性が低下したためか、両群とも29日間の死亡はゼロ、COVID-19関連入院も少なかった。

Xocovaは3CLプロテアーゼ阻害剤。日本でウイルス抑制作用に基づき特例承認され、日本等で実施されたSCORPIO-SR試験に基づき通常承認された。SR試験では発症から72時間未満に割付けられたサブグループにおける5症状全てが消失するまでの期間がメジアン167.9時間と偽薬群の192.2時間を下回ったが、p値は0.0407と、一本の試験で承認を得るには心許ないものだった。

今回の試験でも6症状が1日以上快復するまでの期間に関する前回の試験と類似した感受性分析ではp<0.05だった。尚、本件に関する英語のプレスリリースは日本語のそれと若干異なっており、左記の「1日以上」は英文リリースによる。また、日本語リリースにはこの解析が事前に設定された副次的解析と記されているが、ClinicalTrials.govやNIHサイトにリンクのある治験計画書には列記されていない。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)
リンク: 同(英文)
リンク: ACTIV-2d/SCORPIO-HR試験の22年6月23日時点におけるプロトコルのリンクがあるページ(NIHサイト)


MSD、抗TIGHT抗体の第3相がフェール
(2024年5月13日発表)

MSDはMK-7684A(抗TIGHT抗体vibostolimabと抗PD-1抗体pembrolizumabの合剤)の第3相KEYVIBE-010試験がフェールしたと発表した。ステージIIからIVまでの黒色腫を切除した再発リスクの高い患者を組入れてRFS(無再発生存期間)をKeytruda(pembrolizumab)と比較したが、独立データ監視委員会が中間解析で無益認定したため、打ち切りを決めた。免疫調停性有害事象による治験離脱が多かったことが響いた模様だ。

この併用は転移非小細胞性肺癌の第2相再発治療試験、KeyVibe-002試験でもPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がdocetaxel群より悪く中止、docetaxelと三剤併用した群はPFSも全生存期間もdocetaxel比ハザードレシオが0.77前後と良好だったが有意水準には達しなかった。

第2、第3のPD-1/PD-L1を探す流れの中で有力視されたのが同じ免疫抑制刺激受容体であるLAG-3やTIGHTだ。前者はBMSのOpdualag(抗LAG-3抗体relatlimab-rmbwと抗PD-1抗体nivolumabの合剤)が欧米で悪性黒色腫用薬として承認されたが、他の適応や類薬の開発の足取りは重く、抗TIGHT抗体も今回のように今一つだ。抗CTLA-4抗体と同様に、免疫チェックポイント阻害剤を併用すると免疫関連副作用が高まり過ぎるのだろう。尤も、今回のフェールが目標量を投与できず真価を発揮できなかったのか、副作用で早死にする人が多かったのか、それともドロップアウトが前提より多すぎて検出力が低下したせいなのかは明らかではない。

MSDは小細胞肺癌など他の第3相試験は続行する考え。

リンク: 同社のプレスリリース


テセントリク、TNBC試験がまたフェール
(2024年5月15日発表)

ロシュは抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)を難治急速進行性トリプル・ネガティブ乳癌(TNBC)の治療に用いる第3相Impassion132試験を実施したが、フェールした。早期がんの治癒的治療を受けてから12ヶ月以内に進行してしまった切除不能局所進行/転移性の患者594人を組入れて、化学療法(carboplatinとgemcitabineの併用またはcapecitabine)に追加する便益を検討したが、メジアン生存期間が12.1ヶ月と偽薬追加群の11.2ヶ月と大差なく、ハザードレシオは0.93、統計的に有意ではなかった。

切除不能局所進行/転移後のTNBCの一次治療レジメンにTecentriqを追加した試験はImpassion130でPFS(無進行生存期間)の延長に成功したが全生存期間はPD-L1陽性サブグループにしか効果が見られなかった。米国で19年にこのサブグループ限定で加速承認されたが、Keytruda(pembrolizumab)が同じような患者層に本承認されたことなどから、承認返上に至った。ステージII/IIIのTNBC切除を受けた患者を組入れたIMpassion030試験は23年に無益認定された。一方で、摘出術を予定する早期TNBCのネオアジュバント試験、Impassion031試験は、化学療法に追加した群のpCR(病理学的完全反応率)が57.6%と偽薬追加群の41.1%を有意に上回り、術後アジュバントも含めた便益を検討中。今回の解析はこれらの結果を踏まえてPD-L1陽性サブグループに限定されたが、結局、TNBCの第3相は一勝二敗一不鮮明となった。

リンク: Dentらの治験論文(Annals of Oncology)

【承認申請】


経口ペネムを再び承認申請
(2024年4月29日発表)

ダブリン籍の新興医薬品開発会社Iterum Therapeutics(Nasdaq:ITRM)は米国でsulopenem etzadroxilとprobenecidの二層錠の再承認申請を行った。適応は単純尿路感染症を想定している。sulopenemはペネム系抗生剤で、日本で1400例を超える投与実績がある。sulopenem etzadroxilはプロドラッグでペネム系では初の経口剤。probenecidは痛風治療薬だが有機アニオントランスポーター1阻害作用を持ちsulopenemの作用を長期化させる。

第3相の結果は区々で、単純尿路感染症における治療効果をciprofloxacinと比較したSURE1試験ではキノロン非感受菌感染者には優れた効果を示したが感受菌感染者の非劣性解析はフェールし、前者限定で20年に米国で承認申請したものの審査完了通知を受領、対照薬を変えてもう一本実施するようアドバイスされた。今年1月、FDAの特別プロトコル評価を受けて実施した第3相REASSURE試験が成功。Augmentin(amoxicillin/clavulanate)感受菌感染者922人における第12日のテスト・オブ・キュア評価で全般的奏効率が61.7%とAugmentin群の55.0%比で非劣性だった。群間差の95%下限は0.3となり優越性解析も成功した(際どい所だが)。

2015年にファイザーからライセンスしたもの。

リンク: Iterumのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Elevarが審査完了通知を受領
(2024年5月27日発表)


韓国のHLB社(028300.KQ)の子会社であるElevar TheraoeuticsはVEGFR2阻害剤rivoceranibと抗PD-1抗体camrelizumabの併用を切除不能肝細胞腫用薬として米国で承認申請していたが、報道等によると、審査完了通知を受領した。MD Anderson Cancer Centerなど米中欧亜露ウクライナなど13ヶ国で実施した第3相試験で全生存期間などがsorafenibを有意に上回り、中国では両剤を販売しているJiangsu Hengrui Medicine(江蘇恒瑞医薬、上海:600276)が適応拡大の承認を取得した。しかし、FDAは、camrelizumabの製造体制査察後にも疑問が残ること、ロシアとウクライナの治験施設の査察が米国連邦政府の渡航制限によりできないこと、rivoceranibのエビデンスはcamrelizumab併用が主であるためこちらの薬だけ承認することはできないこと、を指摘した模様だ。

HLBは承認審査完了通知受領をYouTubeで発表した模様だが、ホームページを見てもプレスリリースは英語ページでも韓国語ページでも見当たらない(HTPPSシフトしていないためブラウザの設定次第で警告が出る点に注意)。韓国の証券取引法には違反しないのだろうか?Hengruiは中国語ページでプレスリリースを出している。

rivoceranibはAdvenchen Laboratoriesから05年にHengruiが中国で、07年にはLSK BioPharma(後にElevarに社名変更)がそれ以外の地域で、ライセンスしたもの。中国で14年以降、胃癌や肝細胞腫に承認されている。camrelizumabは中国で承認されているお手頃価格な抗PD-1/PD-L1抗体の一つで、19年以降、鼻咽頭癌や非小細胞性肺癌、食道扁平上皮腫などに承認されている。

リンク: Korea Biomedical Reviewの報道
リンク: Hengrui社のプレスリリース(中国語、pdfファイル)
リンク: HLBの発表ビデオ(YouTube、韓国語なので当方は内容未確認)


Dynavax、B型肝炎ワクチンの適応追加はならず
(2024年5月14日発表)

Dynavax(Nasdaq:DVAX)は欧米でB型肝炎ワクチンとして承認されているHEPLISAV-Bを血液透析を受けている成人に適応拡大すべく承認申請し、EUでは昨年10月に承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。主エビデンスとなる第1相HBV-24試験の原データの過半が治験施設オペレータにより廃棄されてしまったため確認できないことや、そもそも被験者数が119人と少ないことなどから、便益や安全性の挙証が不十分と判定された。承認用法は2回接種だが今回は4回接種であることも警戒感を高めたかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


アセンディス、副甲状腺機能低下症用薬の審査が長期化
(2024年5月14日発表)

デンマークのアセンディス・ファーマはTransCon PTH(palopegteriparatide)を副甲状腺機能低下症の副甲状腺ホルモン補充療法として承認申請し、EUでは昨年11月に承認されたが、米国では遅れている。薬剤含有量の変動を管理する戦略の妥当性に疑問が示され、23年5月に審査完了通知を受領、11月に回答し審査期限は今年5月14日に設定されたが、追加資料提出に伴い、8月14日に延期された。どのような資料を提出したのかは不明。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


アムジェンの抗DLL3xCD3抗体が承認
(2024年5月16日発表)

FDAはアムジェンのImdelltra(tarlatamab-dlle)を難治/再発性進展型小細胞性肺癌用薬として加速承認した。白金薬ベースの化学療法による治療中/後に進行した癌に、初回は1mgを、第2回以降は10mgを第8日と第15日に、そしてその後は2週毎に、点滴静注する。第2相DeLLphi301試験でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が40%、メジアン反応持続期間は9.7ヶ月だった。白金抵抗性癌(最後の投与から90日も経たずに進行)の27人ではORRが52%、それ以外の感受性患者42人では31%だった。

枠付き警告はクラス・ウォーニングであるサイトカイン放出症候群やICANS(免疫イフェクター細胞関連神経毒性症候群)など。G3以上の発現率はそれほど高くない。

小細胞性肺癌の8割で発現し健常細胞には発現しないDLL3(デルタ様リガンド3)とT細胞で発現するCD3に結合する二重特異性抗体。

リンク: FDAのプレスリリース


ブレヤンジが濾胞性リンパ腫の3次治療に適応拡大
(2024年5月15日発表)

FDAはブリストル マイヤーズ スクイブのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel)を難治再発濾胞性リンパ腫の3次治療以降に用いる適応拡大を加速承認した。第2相TRANSCEND FL試験で2次治療歴を持つ94人におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が95.7%、反応持続期間は中央値は未達、95%下限は18ヶ月となっている。有害事象は元々枠付き警告されているサイトカイン放出症候群や神経毒性など。

CD19を標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法で、これまでに難治/再発の大細胞型B細胞リンパ腫や慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫に承認されている。BTK阻害剤歴を持つ難治再発マントル細胞腫にも効能追加申請中。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMAの安全性委員会も早産予防薬の販売中止を勧告
(2024年5月17日発表)

EMA(欧州薬品庁)のPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)は、オーストリアやフランス、イタリアで早産予防などに用いられている17-OHPC(17-hydroxyprogesterone caproate)の承認を停止すべきと勧告した。CMDh(加盟国で相互認証や非中央手続きに基づき承認されている医薬品に関する協議を行うEMAの組織)が最終決定する。このプロゲスチン誘導体は米国でもFDAが23年4月に加速承認を撤回した。

主用途である早産予防では、米国で11年に加速承認を取得した会社が第3相PROLONG試験を実施したが早産リスクを抑制することができなかった。過去2年間に刊行されたメタアナリシス論文も同様な結論だった。一方、安全性に関しては、米国の医療保険組織の60年前の出生前管理記録とその後の癌登録を用いた後顧的疫学研究で17-OHPCに曝露した胎児の出生後の癌リスクが高い可能性が浮上した。但し、イベント数が少なく他のリスク因子が十分に考慮されていないためPRACは不確実な面が残ると判定した。それでも、便益があるようには見えず、危険が高まる疑いがあるので、承認に値しないと結論した。

日本でも使われていたはずだが、今はどうなのだろう?

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Murphyらの疫学研究論文(Am J Obstet Gynecol.、リンク先はPubMed Central)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/5/31BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治マントル細胞腫)
24/6/4Catalyst PharmaceuticalsのFirdapse(amifampridine phosphate、LEMSにおける最大1日量を100mgに引き上げ)
24/6/7GSKのArexvy(重症RSVリスクを持つ50~59歳に拡大)
24/6/10Genfit/イプセンのGFT505(elafibranor、原発性胆汁性胆管炎)
24/6/15BMSのAugtyro(repotrectinib、NTRK融合型固形癌に適応拡大)
24/6/16GeronのGRN163L(imetelstat、輸血依存骨髄異形成症候群)
24/6/17MSDのV116(21価肺炎球菌ワクチン)
24/6/21SareptaのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl、DMD年齢制限解除)
24/6/21BMSのKrazati(adagrasib、KRAS-G12C変異結腸直腸癌)
24/6/21argenxのVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc、慢性炎症性脱髄性多発神経障害を追加)
24/6/21MSDのKeytruda(pembrolizumab、子宮内膜腫一次治療を追加)
24/6/26Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法)
24/6/26第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療)
24/6/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
24/6/28ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加)
24/6/30Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
諮問委員会
24/5/24EMDAC:ノボ ノルディスクのinsulin icodec(週一回皮下注用インスリン)
24/6/4PDAC:Lykos TherapeuticsのMDMAカプセル(midomafetamine、PTSD補助療法)
24/6/5VRBPAC:次シーズンのCOVID-19ワクチンの配合株を検討
24/6/10 PCNSDAC:イーライリリーのLY3002813(donanemab、アルツハイマー病)



今週は以上です。

2024年5月11日

第1054回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、6月の3諮問委員会を発表 
  • アストラゼネカ、COVID-19ワクチンの承認を返上 
  • マイクロバイオーム療法のパイオニアに経営破綻の影 
  • 抗IL-36受容体抗体の汎発性膿疱性乾癬試験、維持療法も成功 
  • otoferlin変異型先天性難聴の遺伝子治療 
  • CG Oncology、膀胱癌ウイルス療法の第3相が好調に推移 
  • BMS、OYCT併用がまたフェール 
  • Keytrudaの内膜腫切除後アジュバント試験がフェール 
  • ファイザーのDMD遺伝子療法の試験で再び死亡例 
  • NRG1陽性肺癌・膵癌の二重特異性抗体を承認申請 
  • Travere社、Filspariの本承認切替を申請 
  • VANZA TRIPLEを承認申請 
  • BMS、オプジーボ皮下注などを承認申請 
  • RSVのmRNAワクチンは承認遅延 
  • FDA、チオプリンの妊婦肝内胆汁鬱血症を警告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


FDA、6月の3諮問委員会を発表
(2024年5月7日発表)

FDAは諮問委員会の在り方を再検討しており、その余波なのか、昨年12月から今年2月まで、殆ど召集されなかった。方向性が固まったのか、6月13日頃に諮問委員会の在り方に関する諮問委員会が招集されると報じられている。軌を一にして新たな召集予定が五月雨式に発表されるようになり、今回、6月の諮問委員会予定が一挙に3件、発表された。

6月4日はPDAC(精神薬理学薬諮問委員会)がLykos TherapeuticsのMDMAカプセル(midomafetamine)を討議する。PTSDの精神療法を施行する時に補助薬として服用させるもの。現在はDEA(麻薬取締局)が依存リスクが高く医療における有用性もない物質として規制が最も厳しいスケジュールIに指定しているが、承認されたら規制緩和されるはずだ。現在、複数のサイケデリック(幻覚を齎す危険のある物質)が医療用途で開発されているが、この物質が第1号になりそうだ。

6月5日はVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製品諮問委員会)が2024/2025シーズンのCOVID-19ワクチンの配合株を検討する。当初は5月16日の予定だったが、最近の流行株を踏まえて、リスケされた。オミクロン株は当初のオミクロン対応ワクチンがカバーしていなかったBA.2系統が様々な亜系統に発展してきたが、今春は米国でKP.2型のシェアが急上昇し、CDC(米国疾病管理予防センター)は4月14日~27日の2週間に25%を占めトップに上がったと推測している。EMA(欧州薬品庁)はJN.1株を抗原とする考えだが、FDAは、その孫系統に当たるKP.2型を選ぶべきか、諮問するものと推測される。

6月10日はPCNSDAC(末梢中枢神経系薬諮問委員会)がイーライリリーが早期症候性アルツハイマー病用薬として承認申請したLY3002813(donanemab)を議論する。22年にリリーが加速承認を申請したが長期投与症例数の不足を指摘され、23年に追加提出したが、審査期限が延長され、更に、諮問委員会の日程が決まるまで2ヶ月か費やされた。論点は、臨床試験でアミロイド関連造影異常の発生率が先に承認されたエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab)より高いことや、タウの水準が高い患者しか組入れていないため低い患者に関するエビデンスが第2相などしかないこと、アミロイド・ベータが除去されたら投与を中止するというユニークな用法の当否などが考えられる。

リンク: FDAのプレスリリース(5/7付)


アストラゼネカ、COVID-19ワクチンの承認を返上
(2024年月日発表)

アストラゼネカが3月にEUでCOVID-19ワクチンVaxzevriaの承認申請を撤回していたことが判明した。EMA(欧州薬品庁)の関連ウェブサイトに記されている。

オックスフォード大学が創製した、チンパンジーに感染するアデノウイルスを不活化しSARS-Cov2のスパイク蛋白の遺伝子を結合した、ウイルスベクター・ワクチン。20年12月に英国で、翌年1月にはEUで、5月には日本で、何れも特例/条件付きで承認された。RNAワクチンと異なり極低温保存が不要で通常の冷蔵庫で半年以上補完できることや、同大学が利潤を上乗せせずに販売する方針を打ち出したこと、そして低中所得国のニーズに応えるためSerum Institute of Indiaに製造販売権を供与したことなどから広く用いられたが、安全性がやや見劣りし、おそらくそれが原因で米国では承認されなかった。ベータ株以降のウイルスの変遷に対応できなかったこともあり、売上高が尻すぼみになった。

この機会に、改めて、人類全体の脅威に立ち向かう武器を開発し利益度外視で提供したオックスフォード大学、アストラゼネカ、Serum Institute of Indiaを称賛したい。

COVID-19ワクチンの売上高(百万ドル)
製品名メーカー2021年2022年2023年
Comirnatyファイザー36,78137,80611,220
Spikevaxモデルナ17,67518,4356,671
Vaxzevriaアストラゼネカ3,9811,79812
Ad26.COV2.SJNJ2,3852,1791,117
Nuvaxovidノババックス-1,555531


リンク: EMAのVaxzevria情報頁


マイクロバイオーム療法のパイオニアに経営破綻の影
(2024年5月1日発表)

Seres Therapeutics(Nasdaq:MCRB)は、SEC(米国証券取引委員会)に提出したフォーム8-K適時開示情報の中で、Oaktree Fundなどの債権者から債務不履行による破産申立ての通知を受領したことを明らかにした。BacThera社に生産目標達成金約2800万ドルを払わなかったため。会社側は反論しているが、1年前に最初の新薬が承認されたばかりなのに、残念な事態だ。

このVowstは健常者の腸由来の精製・エタノール処理されたファーミキューテス門芽胞によるマイクロバイオーム治療薬。難治性クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)で抗菌剤治療済みの患者の再燃リスクを抑制するために、一日一回、3日間経口投与する。臨床試験では第8週の再燃率が12%と偽薬群の40%を大きく下回った。

この細菌は抗生物質治療により他の細菌が減衰すると俄かに勢力を増す。抗生剤多用により感染例が増えており、対策の一つが常在菌を移植して有害菌を制すマイクロバイオーム療法だ。もし経営破綻するようなことになったら、抗微生物薬の開発がいかに困難かを示す新たな逸話になる。

リンク: Seresのフォーム8-K(SECサイト)

【新薬開発】


抗IL-36受容体抗体の汎発性膿疱性乾癬試験、維持療法も成功
(2024年5月9日発表)

AnaptysBio(Nasdaq:ANAB)は抗IL-36受容体抗体ANB019(imsidolimab)の第3相GEMINI-2試験が良好な結果になったことを明らかにした。年内に米国で承認申請する予定。また、年内に導出先も決定する考え。

先に成功したGEMINI-1試験では、汎発性膿疱性乾癬(GPP)患者45人を偽薬群、300mg一回静注群、750mg一回静注群に無作為化割付けして4週時点の奏効率(GPP医師総合評価尺度で寛解またはほぼ寛解)を比較したところ、各群13.3%、53%、53%となり、高用量群は偽薬比p=0.0131と有意な差があった(低量群のpは不明)。試験薬群の奏効者16人を組入れて偽薬または200mgを月一回皮下注したのがGEMINI-2では、偽薬スイッチ群の24週奏効維持率が25%に留まったのに対して継続投与群は100%だった。

リンク: 同社のプレスリリース


otoferlin変異型先天性難聴の遺伝子治療
(2024年5月8日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)はotoferlin変異による先天性難聴の遺伝子治療をテストする第1/2相CHORD試験の進捗をASGCT(米国遺伝子細胞治療学会)で発表した。他にも複数の企業・アカデミアが独自の遺伝子療法の開発を進めており、また、他の遺伝子変異による難聴の遺伝子治療も研究されている。

同社の遺伝子治療薬、DB-OTOは、23年に子会社化したDecibel Therapeuticsの開発品で、非病原性アデノ随伴ウイルス・ベクターを用いてotoferlinを内耳の蝸牛細胞選択的に発現させるもの。最初の症例は、遺伝子治療試験では最も幼い生後11ヶ月で施行したところ、6週後にはABR(聴性脳幹反応)検査やPTA(純音聴力検査)による行動聴力検査の成績が改善し、第24週には後者が正常水準にまで達した。4歳で投与した第2症例も6週時点の聴力が改善した。治療関連有害事象や深刻有害事象は発生していない由。

本試験は22人を組入れる予定で、パートAで片耳に投与して至適用量を決定し、パートBは両耳を治療する。順調なら来年にも承認申請する考えだ。

報道によると、ASGCTではこの分野で先行する中国の臨床成績も発表された。Shanghai Refreshgene TherapeuticsのAAV1-hOTOFで、1月のLancet論文では6人中5人のARBが改善と報告されたが、今回、11人中10人に積み上がった。

先天性難聴のうちotoferlin変異を伴う患者は米国で年20~50人とかなり少ないようだ。遺伝子変異で一番多いと推測されているGJB2変異型に関してはDecibel TherapeuticsがAAV.103を創製、臨床入りに向けて研究を進めている。

リンク: Regeneronのプレスリリース


CG Oncology、膀胱癌ウイルス療法の第3相が好調に推移
(2024年5月3日発表)

米国カリフォルニア州の未上場医薬品開発会社、CG Oncologyは、CG0070(cretostimogene grenadenorepvec)の第3相試験の中間解析結果を再び発表した。主評価項目であるエニータイム完全反応率は75.2%と前回とほぼ同じ。目標症例数にかなり近づいてきた割には承認申請予定が25年下期であることが不思議。そもそも、単群試験とは言え何度も中間解析データを発表したり、数週間後に再検査して反応が持続していることを確認した症例だけをカウントする通常の評価方法とは異なる数値を用いたりするのが妥当なのか、良く分からない。

CG0070は増殖性アデノウイルスにGM-CSFとE2F-1プロモータを結合して免疫刺激性を強化し腫瘍細胞選択発現性を持たせた腫瘍溶解性ウイルス療法。第3相BOND-003試験は、BCGに応答しなかった高リスク非筋層浸潤上皮内膀胱癌(NMICB CIS)の患者を組入れて、週一回のペースで6回投与し、反応なら維持療法に移行、不応の場合は導入療法を繰り返した。昨年12月に発表された66人の中間解析では完全反応率が75.7%、反応から6ヶ月以上経過した患者の74.4%で反応が持続していた。今回、AUA(米国泌尿器学会)で発表された105人の中間解析では完全反応率が75.2%だった。有害事象は膀胱の痙攣、頻尿、排尿障害など。

この試験には、20年に日韓台における独占開発販売権を取得したキッセイ薬品も参加している。

リンク: 同社のプレスリリース


BMS、OYCT併用がまたフェール
(2024年5月10日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の第3相CheckMate-73L試験で主評価項目がフェールしたと発表した。切除不能局所進行ステージIII非小細胞性肺癌の一次治療として、同時化学放射線療法(CCRT)とOpdivoを施行し、維持療法としてOpdivoとYervoyを投与する便益を検討したが、CCRTだけを施行し維持療法はImfinzi(durvalumab)だけの対照群と比べて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を有意に伸ばすことができなかった。

非小細胞性肺癌(NSCLC)の第3相Opdivo・Yervoy・化学療法(OYCT)併用一次治療試験は、転移/難治NSCLCを対象に化学療法を2サイクルに抑えたCheckMate-9LA試験で全生存期間が化学療法4サイクル群を上回ったが、進行非扁平上皮NSCLCを組入れたCheckMate-227試験のパート2は化学療法を数値上上回っただけだった。また、日本臨床腫瘍研究グループが主導した進行・再発NSCLC試験はKeytruda(pembrolizumab)とCTを併用した群より治療との因果関係が否定できない死亡が多く、中止された。

対象患者層が若干異なるものの、これら4本を総合的に考えると、化学療法にOpdivoとYervoyの二剤を追加する手法は上手く行くこともそれほどでもないこともある。化学療法と抗PD-1/PD-L1抗体のレジメンに抗CTLA4抗体を追加する手法はなかなか上手く行かない。

尚、73L試験は維持療法にYervoyを使わない群も設定されているが、数多くの副次的評価項目の一つに過ぎないためか、結果は記されていない。常識的に考えれば大差なかったのだろう。

リンク: BMSのプレスリリース


Keytrudaの内膜腫切除後アジュバント試験がフェール
(2024年5月9日発表)

MSDはKeynote-B21試験のフェールを発表した。新患高リスク内膜腫(子宮体癌)1095人を組入れて、治癒的摘出術後の標準的な化学療法(放射線療法併用も可)にKeytruda(pembrolizumab)を追加することでDFS(無病生存期間)の延長を図ったが、有意な差はなかった。このため、共同主評価項目である全生存期間の正式な解析は見送られた。

Keytrudaは治療歴のある進行内膜腫に、マイクロサテライト不安定性またはミスマッチ修復不全がある場合は単剤、どちらもない場合はエーザイと共同開発販売しているLenvima(lenvatinib)と併用することが承認されている。一次治療化学療法併用試験も成功し適応拡大申請中。

リンク: 同社のプレスリリース


ファイザーのDMD遺伝子療法の試験で再び死亡例
(2024年5月7日発表)

Parent Project Muscular Dystrophyなどの複数のDMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)患者支援団体は、ファイザーのPF-06939926(fordadistrogene movaparvovec)の臨床試験に参加した患者が新たに一名死亡したことを報告した。添付されている同社のコミュニティ・レターによると、米豪の施設で2~3歳のDMD患者10人を組入れた第2相DAYLIGHT試験に参加して13年初めに投与を受けた患者が死亡した。原因は不明。両組織とも、遺族や親しい友人知人に哀悼の意を表明している。

同薬はDMDの殆どで欠損するジストロフィンを補うために、遺伝子組換えアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)をベクターとして短いがある程度機能するミニジストロフィンを導入する。日本を含む11ヶ国で4~7歳のAAV9中和抗体を持たない患者を組入れた第3相CIFFREO試験が進行中で、昨年4月に投与を完了し、1年後の粗大運動機能などを評価しているところだ。この試験の偽薬群の患者は1年後に試験薬群にクロスオーバーする計画だったが、今回の事態を受けて、停止した。

過去には後期第1相試験で補体系の過剰活性化による深刻有害事象が発現したり、深刻な筋力低下が3例発生しジストロフィンの特定のエクソンに変異を持つ患者を対象外とするプロトコル変更が行われたことがある。21年12月には後期第1相の歩行不能者コフォートで1名が死亡しFDAが治験停止命令を出したことがあり、その後、施術後7日間入院・観察するプロトコルが導入された。

DMDの遺伝子療法ではサレプタ・セラピューティックスのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)が23年6月に米国で加速承認された。4~5歳限定で、第3相が成功なら6~7歳も適応になる見込みだったが、副次的評価項目しか成功しなかったので先行き不透明だ。

リンク: Parent Project Muscular Dystrophyのプレスリリース
リンク: ファイザーのコミュニティ・レター(Parent Project Muscular Dystrophyサイトに収載されているもの、pdfファイル)

【承認申請】


NRG1陽性肺癌・膵癌の二重特異性抗体を承認申請
(2024年5月6日発表)

オランダのMerus N.V.(Nasdaq:MRUS)はMCLA-128(zenocutuzumab)を米国でNRG1(neuregulin 1)融合陽性の非小細胞性肺癌と膵管腺腫の治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は不明。

her2とher3の二重特異性抗体で、her3がNRG1の刺激によりher2とヘテロダイマー化するのを妨げる。NRG1融合は稀で、非小細胞性肺癌も膵管腺腫も1%前後を占めるに過ぎない。臨床試験ではRNAシーケンシングで検査した症例が過半を占めた。

便益のエビデンスは、第1/2試験eNRGyと拡大アクセスプログラムに参加した日本も含む17ヶ国64施設の症例。22年のASCO(米国臨床腫瘍学会)での発表によると、非小細胞性肺癌46人におけるORR(客観的反応率、RECISTベース治験医評価)は35%、膵管腺腫19人では42%だった。他のNRG1融合陽性癌を含む79人全体では34%で、メジアン反応持続期間は9.1ヶ月だった。G3/4有害事象発現率は36%、G5は3%でG5治療関連有害事象は0.5%(点滴関連反応による)だった。23年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると、非小細胞性肺癌79人におけるORRは37.2%、メジアン反応持続期間は14.9ヶ月だった。

リンク: 同社のプレスリリース


Travere社、Filspariの本承認切替を申請
(2024年5月6日発表)

米国カリフォルニア州の新興製薬会社、Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)は、昨年2月に米国で原発性IgA腎症の治療薬として加速承認されたFilspari(sparsentan)を本承認に切替えるよう申請した。第3相irbesartan対照試験、PROTECTの36週中間解析における尿蛋白クレアチニン比の改善に基づき加速承認されたが、同試験の110週解析でeGFRの低下が対照薬より小さい傾向が見られた。有意差は出ていないので、FDAの判断や、承認後は医療保険機関の評価が注目される。

FilspariはアンジオテンシンIIタイプ1受容体とエンドテリンA受容体のデュアル・アンタゴニスト。06年にブリストル マイヤーズ スクイブからインライセンスしたPharmacopeia社を08年に買収したLegand Pharmaceuticals(Nasdaq:LGND)から12年にインライセンスしたもの。今年4月にEUでも条件付き承認、日本ではレナリスファーマが第3相試験の治験許可を提出したところだ。

リンク: Travereのプレスリリース


VANZA TRIPLEを承認申請
(2024年5月6日発表)

Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、24年第2四半期決算発表に合わせて、vanza tripleと通称される3剤併用を6歳以上の嚢胞性線維症の治療薬として欧米で承認申請したことを明らかにした。米国では優先審査バウチャを用いて6ヶ月審査を求める。呼吸機能改善作用は同社の既存薬と非劣性に留まるが、一日一回服用で足りるので簡便。同社にとってはロイヤルティ率が下がるメリットもある。

19~20年に米欧で承認されたTrikafta/Kaftrioの配合成分のうち、elexacaftorをvanzacaftorに、ivacaftorをdeutivacaftorに変更してtezacaftorと組み合わせたもの。Trikaftaは朝服用し夕方にivacaftorだけ服用するが、 vanza tripleは朝だけで済む。12歳以上のCFTR遺伝子にヘテロF508欠損と最小機能変異を持つ患者を組入れた試験と、Trukaftaに感受するその他の変異を持つ患者を組入れた試験の二本でppFEV1(1秒量%予測値)がTrikafta比非劣性だった。嚢胞性線維症の診断基準の一つである汗中塩化物の改善は有意に上回った。安全性は同程度。

リンク: 同社のプレスリリース


BMS、オプジーボ皮下注などを承認申請
(2024年5月6日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab)の皮下注用新製剤を米国で、MSI-H(マイクロサテライト高不安定性)/dMMR(ミスマッチ修復不全)陽性の転移結腸直腸癌におけるYervoy(ipilimumab)併用法をEUで、それぞれ承認申請し受理されたと発表した。前者の審査期限は25年2月28日。

皮下注用新製剤はHalozyme社のrHuPH20ヒアルロン酸分解酵素を用いて皮下吸収を向上する技術が用いられている。第3相CheckMate-67T試験で腎細胞腫患者における28日間血中濃度や最低濃度が点滴静注用と非劣性で、副次的評価項目であるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)も非劣性だった。Opdivoに対する抗体の発生率が22.8%と点滴静注群の7%を上回ったが、今回のプレスリリースでは言及されていないので、臨床的な重要性は低いと判定されたのだろう。Opdivoの様々な承認用法のうち、Yervoy併用だけは対象外(Yervoy併用終了後の単剤維持療法期は可)。

MSI-H/dMMR転移結腸直腸癌は米国では17年に主要三剤を既に使い終わった患者限定で加速承認されたが、EUはエビデンス不十分と見なされ申請撤回となった。今回は成人の一次治療に二剤を併用するもので、エビデンスは第3相CheckMate-8HW試験。医師が選んだ化学療法(mFOLFOX-6またはFOLFIRI;bevacizumabまたはcetuximab併用可)と比べてPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.21、メジアン値は未達(95%下限38.4ヶ月)対5.9ヶ月(95%上限7.8ヶ月)だった。

この試験は二次以降の治療を受ける患者も含めた全ユニバースにおける二剤併用とOpdivo単剤の比較も主目的だが、まだ成熟しておらず追跡継続中。第2相CheckMate-142試験では併用の9ヶ月生存率が85%とOpdivo単剤の75%を上回ったが、第3相で再現されれば、MSDのKeytruda(pembrolizumab)と差別化要素になりうる。

リンク: 同社のプレスリリース(オプジーボ皮下注)
リンク: 同(EU二種変更申請)

【承認審査・委員会】


RSVのmRNAワクチンは承認遅延
(2024年5月10日発表)

モデルナはRSV予防用のmRNAワクチン、mRNA-1345を欧米で承認申請しているが、米国は審査完了が3週ほど遅れる見込みになった。優先審査バウチャ(売買相場1億ドル)を用いて早期承認獲得を目指したが、審査期限の5月12日を前に、FDAから、手続き上の制約で遅れること、5月末までの審査完了を見込んでいること、の通知を受領した。詳細は不明だが、薬効や安全性、品質面の言及はないとのこと。CDC(米国疾病管理予防センター)のワクチン諮問委員会、ACIPで検討されるのは6月26~27日の予定で、実際に接種が始まるのは秋ごろなので、この程度の遅延なら大きな影響はないだろう。

日本を含む22ヶ国の60歳以上37000人を組入れた第3相では、二つ以上の症状を伴うRSV性下部気道疾患を83%抑制し、共同主評価項目である三つ以上の症状を伴う症例も82%抑制した。但し、メジアン追跡期間を3.7ヶ月から8.6ヶ月に長期化した解析では効果がどちらも63%に低下した。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA、チオプリンの妊婦肝内胆汁鬱血症を警告
(2024年4月29日発表)

FDAは、azathioprineまたはその活性代謝物である6-mercaptopurineを妊婦に投与する時のICP(肝内胆汁鬱血症)リスクを警告した。市販後有害事象報告に基づくもので、投与を止めると改善するため、発症したら中止するよう勧告した。製薬会社にレーベル改訂を要請している。

azathioprineは自己免疫疾患や血液癌など様々な病気に用いられているが、妊婦ICPは専らIBD(炎症性腸疾患)やSLE(全身性エリテマトーデス)の患者で報告されている。どちらも未承認用途だが、AGA(米国消化器病学会)やACR(米国リウマチ学会)がケースバイケースで妊娠後の継続投与を容認している。

リンク: FDAの警告

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/5/12モデルナのmRNA-1345(RSVワクチン)・・・遅延
24/5/13Dynavax TechnologiesのHEPLISAV-B(血液透析中の成人のB型肝炎予防を追加)
24/5/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
24/5/16Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫)
24/5/23BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治リンパ腫)
24/5/31BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治マントル細胞腫)
24/6/4Catalyst PharmaceuticalsのFirdapse(amifampridine phosphate、LEMSにおける最大1日量を100mgに引き上げ)
24/6/7GSKのArexvy(重症RSVリスクを持つ50~59歳に拡大)
24/6/10Genfit/イプセンのGFT505(elafibranor、原発性胆汁性胆管炎)
24/6/12アムジェンのAMG 757(tarlatamab、小細胞性肺癌3次治療)
24/6/15BMSのAugtyro(repotrectinib、NTRK融合型固形癌に適応拡大)
24/6/16GeronのGRN163L(imetelstat、輸血依存骨髄異形成症候群)
24/6/17MSDのV116(21価肺炎球菌ワクチン)
24/6/21SareptaのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl、DMD年齢制限解除)
24/6/21BMSのKrazati(adagrasib、KRAS-G12C変異結腸直腸癌)
24/6/21argenxのVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc、慢性炎症性脱髄性多発神経障害を追加)
24/6/21MSDのKeytruda(pembrolizumab、子宮内膜腫一次治療を追加)
24/6/26Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法)
24/6/26第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療)
24/6/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
24/6/28ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加)
24/6/30Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
諮問委員会
24/5/24EMDAC:ノボ ノルディスクのinsulin icodec(週一回皮下注用インスリン)
24/6/4PDAC:Lykos TherapeuticsのMDMAカプセル(midomafetamine、PTSD補助療法)
24/6/5VRBPAC:次シーズンのCOVID-19ワクチンの配合株を検討
24/6/10 PCNSDAC:イーライリリーのLY3002813(donanemab、アルツハイマー病)



今週は以上です。

2024年5月3日

第1053回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • カルケンスのMCL一次治療併用試験が主目的達成 
  • エンハーツ、her2低/極低発現のHR+MBC2/3次治療試験が成功 
  • リリーのベージニオ、前立腺癌は二連敗 
  • トレムフィアをEUでクローン病にも承認申請 
  • デュピクセントのCOPD承認が遅延の可能性 
  • CHMP、ロシュのOcrevusの皮下注用新製剤に肯定的意見 
  • ふりかけ用バルベナジンが承認 
  • WHIM症候群用薬が承認 
  • FDA、Tivdakを本承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


カルケンスのMCL一次治療併用試験が主目的達成
(2024年5月2日発表)

アストラゼネカはBTK阻害剤Calquence(acalabrutinib)の第3相マントル細胞腫(MCL)一次治療試験で主目的のPFS(無進行生存期間)を達成したと発表した。全生存期間の解析は未成熟だが好ましい方向を向いているようだ。

Calquenceは米欧日で慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫用薬として承認されているが、米国では最初にMCLの二次治療薬として加速承認された。今回のECHO試験はその当時にコミットメントした市販後薬効確認試験と推測される。65歳以上の未治療MCLにbendamustineとrituximabを併用する標準療法の一つにCalquenceを追加する便益を偽薬追加と比較したところ、PFSに統計的に有意且つ臨床的に重要な差があった。

PFSは全生存期間のサロゲート・マーカーとして認知されているため通常はPFSが有意に上回れば承認に値するが、BTK阻害剤はPFSの向上が必ずしも全生存期間の向上に結び付かない憾みがあり、FDAが慎重な姿勢を見せている。二次治療の本承認切替は認められるだろうが、一次治療追加申請が認められるかどうか、注目される。

奇妙なのは、下記のプレスリリースが末尾で本試験はCOVID-19流行期に行われたこと、そして、血液癌はCOVID-19重症化リスクが高いことに言及していることだ。何か関係があるのだろうか?同社はCalquenceを用いてCOVID-19関連サイトカイン・ストームを治療する第2相試験を実施したことがあり、フェールしたのだが、このことも何か関係あるのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


エンハーツ、her2低/極低発現のHR+MBC2/3次治療試験が成功
(2024年4月29日発表)

進行/転移乳癌の全身性治療は、最初にエストロゲン受容体やプロゲスチン受容体、her2などの発現検査を実施、結果に基づいて治療法を選択する。最初の二つの受容体(合わせてホルモン受容体と呼ぶ)とher2は背反的であることが多く、前者が陽性なら内分泌療法、後者ならher2標的薬を化学療法薬と組み合わせて治療する。だが、第一三共/アストラゼネカの抗her2抗体薬物複合体、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の登場で、境界線がどんどん曖昧になり、とうとう、これまでher2陰性と片付けられてきた乳癌まで有用性が認められた。

1998年にジェネンテックが米国で抗her2抗体Herceptin(trastuzumab)を発売した頃はIHC(免疫組織化学染色)法で2+以上と判定されれば適応になったが、その後、2+でもISH(in situ ハイブリダイゼーション)法で遺伝子増幅が陰性と判定された場合は反応率が低いことが判明、her2標的薬の適応はIHC法で3+、あるいは2+でISH法陽性、と範囲が縮小した。この常識を覆したのが、22年に米国で承認されたEnhertuの適応拡大だ。2+でISH法陰性、あるいは、1+であれば、ホルモン受容体の陽性陰性を問わず、2次/3次治療に使えるようになった。

サプライズが大きいほど、懐疑的な意見も増える。ASCOは、適応拡大の根拠となったDESTINY-Breast04試験の対象がher2低発現だけでIHC法で0となる癌のデータを欠いていることから、敢えてher2低発現癌だけを取り上げることを躊躇する姿勢を示した。筆者のような素人には嫌いだから嫌いと言っているだけにも聞こえるが、何れにせよ、今回、議論に決着を着けることになるかもしれない臨床試験、DESTINY-Breast06が、良好な結果になったことが両社から発表された。

この試験はホルモン受容体陽性進行/転移乳癌で、転移後に2次以上の内分泌療法歴、または内分泌療法とCDK4/6阻害剤の併用一次治療に抵抗性を示し、her2が低発現または極低発現(IHC法で10%以下の腫瘍細胞に不完全で、かすかな/かろうじて膜染色が認められる)の患者866人を組入れて、5.4mg/kgを3週毎投与する便益を標準治療(capecitabine、paclitaxel、またはnab-paclitaxel)と比較した。主評価項目であるher2低発現サブグループ713人におけるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)は統計的に有意な、かつ臨床的に意味のある、延長を見た。副次的評価項目である全集団の解析も有意且つ意味のある延長を示した。探索的な解析である極低サブグループだけでも臨床的に意味のある延長があった(探索的なので統計学的な評価はエラーになる)。全生存期間の解析は未成熟だが、低発現サブグループでも、全集団でも、トレンドが見られた。極低サブグループは言及されていないが症例数が少ないのでどちらにせよあまりあてになりそうにない。

IHC法の従来のアウトプットは3+、2+、1+、0の4種類だが極低は0より大きく1より小さい(>0<1)という新小分類だ。3+や2+ですら医療施設の判定とセントラルラボの判定が食い違うことがあるようなので、0と>0<1を正しく判別することができるのだろうか、という素朴な疑問がある。ASCOも1+と0の識別の信頼性に疑問を呈している。もしこの点に問題がないようなら、そして、her2極低発現サブグループの全生存期間が失望的なものでなければ、her2治療薬の歴史に新しい局面を切り開くことになる。

IHC法に基づくher2判定基準
IHC3+:10%超の腫瘍細胞に強い完全な全周性の膜染色が認められる
IHC2+:10%超の腫瘍細胞に不完全および/または弱/中程度の全周性の膜染色が認められる、または、10%以下の腫瘍細胞に強い完全な全周性の膜染色が認められる
IHC1+:10%超の腫瘍細胞にかすかな/かろうじて部分的な膜染色が認められる
IHC0:染色増が認められない、または、10%以下の腫瘍細胞に不完全で、かすかな/かろうじて膜染色が認められる
出所:HER2検査ガイド乳癌編(乳がんHER2検査病理部会)

リンク: 両社のプレスリリース


リリーのベージニオ、前立腺癌は二連敗
(2024年4月30日発表)

イーライリリーは24年第1四半期決算の発表に合わせてCDK4/6阻害剤Verzenio(abemaciclib)の前立腺癌試験、CYCLONE-3が中間解析で無益認定となったことを明らかにした。転移ホルモン感受前立腺癌を組入れてabirateroneとprednisoneの併用に追加することでPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)の向上を図ったが、偽薬追加と大差なかった。転移去勢抵抗性前立腺癌を組入れたCYCLONE-2試験も2月にフェールしており、前立腺癌の第3相は二本とも打ち切りになった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


トレムフィアをEUでクローン病にも承認申請
(2024年5月1日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen-Cilag Internationalは、EUで抗IL-23p19サブユニット抗体Tremfya(guselkumab)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎と中重度活性期クローン病の治療に適応拡大申請したと発表した。乾癬やリウマチ性関節炎の治療薬として欧米日で承認取得、今年3~4月には米日で潰瘍性大腸炎に追加申請したが、クローン病の申請はEUが初めてではないか。エビデンスはGALAXI 2と3で、後者の成績は今後、発表する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


デュピクセントのCOPD承認が遅延の可能性
(2024年5月2日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を中重度好酸球性COPD(慢性閉塞性肺疾患)用薬として欧米日で適応拡大申請しているが、FDAが第3相二本のサブグループ分析データを提出するよう求めたことが24年第1四半期決算発表に合わせて公表された。今月末の期限より早く提出する考えだが、審査期間中に重要な情報が追加提出された場合、FDAは審査期限(今回の場合、6月27日)を最大3ヶ月、延期することができる。

Dupixentはアトピー性皮膚炎、慢性特発性蕁麻疹、結節性痒疹、好酸球性喘息症、鼻ポリープ、そして好酸球性食道炎と多くの疾患に承認されている。

リンク: 同社の24年第1四半期フォーム10-Q(第52頁に記載)


CHMP、ロシュのOcrevusの皮下注用新製剤に肯定的意見
(2024年4月29日発表)

ロシュは、EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPが抗CD20抗体Ocrevus(ocrelizumab)の皮下注用新製剤の承認に肯定的意見をまとめたと発表した。予想通り、年央に承認されそうだ。米国でも申請中で会社側は9月の承認を見込んでいる。

最近よく見る、ヒト遺伝子組換えヒアルロン酸分解酵素を同時投与することで抗体医薬の皮下吸収を促進するHalozyme Therapeutics社の技術を応用した、開発品。従来の静注用製剤は最初の2回は3.5時間、3回目以降は2時間かけて点滴するが、皮下注用製剤は10分点滴で足りるので、患者の拘束時間が短くなる。長時間占有できるベッドの無い医療施設でも投与することが可能になる。効果や忍容性は静注用と大差ないようだ。

適応は再発性多発性硬化症と一次進行性多発性硬化症で現在と同じ。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認】


ふりかけ用バルベナジンが承認
(2024年4月30日発表)

Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)はIngrezza(valbenazine)の新製剤、Ingrezza SprinkleカプセルがFDAに承認されたと発表した。遅発性ジスキネジアやハンチントン舞踏病を治療するVMAT2(小胞性モノアミントランスポーター2)阻害剤で、従来の経口カプセルと同じ用量・投与頻度だが、中身をテーブルスプーン一杯分の柔らかい食物(ヨーグルトやプディングなど)にふりかけて摂取する。調査によるとハンチントン舞踏病患者の62%、中重度の不随意運動を伴う遅発性ジスキネジア患者の37%が、食物などの嚥下に困難を感じており、ふりかけ製剤のほうが飲みやすいかもしれない。カプセルごと飲み込んでもよいが、ミルクや飲料水にふりかけて飲んではいけない。

日本ではオリジナルの製剤をライセンシーの田辺三菱製薬が遅発性ジスキネジア治療薬ジスパルとして販売している。

リンク: 同社のプレスリリース


WHIM症候群用薬が承認
(2024年4月29日発表)

X4 Pharmaceuticals(Nasdaq:XFOR)はFDAがXolremdi(mavorixafor)を12歳以上のWHIM症候群の治療薬として承認したと発表した。米国の推定患者数は1000人と少なく、年間薬剤費は49.64万ドル(体重50kg以下は37.23万ドル)と高い。希少疾患優先審査バウチャ(転売相場は1億ドル前後)も取得した。

WHIM症候群は常染色体優性遺伝による原発性免疫不全で、CXCR4受容体をコードする遺伝子の機能獲得変異が原因で白血球の移動が抑制され、ヒトパピローマウイルスによる疣贅(W)、低ガンマグロブリン血症(H)、再発性細菌感染症(I)、骨髄性細胞貯留(M)といった症状が発現する。mavorixaforは経口CXCR4阻害剤。100mgカプセル4個(体重50kg以下の場合は3個)を空腹時に一日一回服用する。臨床試験では循環成熟好中球やリンパ球が増加し、感染リスクも低下した。主な有害事象は血小板減少症や粃糠疹など。代謝をCYP2D6に強度依存する薬の併用は禁忌。催奇性やQTc延長リスクがある。

自家造血幹細胞移植に用いる末梢血幹細胞の得率を向上するCXCR4阻害剤Mozobil(plerixafor)を開発したAnorMed社がオリジン。AnorMedはジェンザイムが買収、そのジェンザイムを買収したサノフィから14年に権利を取得して旗揚げしたのがX4社だ。

リンク: X4社のプレスリリース


FDA、Tivdakを本承認
(2024年4月29日発表)

FDAはSeagenのTivdak(tisotumab vedotin-tftv)を本承認に切替えたと発表した。化学療法に進行、または再発した難治転移子宮頸癌の治療に用いる。

シアトル・ジェネティクス(のちにSeagenに改名、その後ファーザーが子会社化)が完全ヒト化抗体の先駆者の一社であるジェンマブと共同開発したTF(組織因子)を標的とする抗体薬物複合体。第2相単群試験のORR(客観的反応率)と持続期間のデータに基づき21年に加速承認され、市販後薬効確認試験である第3相innovaTV 301試験における延命効果で本承認に至った。メジアン生存期間は11.5ヶ月、化学療法群は9.5ヶ月、ハザードレシオは0.70。この試験はある種の結膜疾患/病歴や目のスティーブン・ジョンソン症候群、末梢神経症を除外条件としていたが、結膜疾患や末梢神経症が主要な有害事象だった。

日本はジェンマブが承認申請する考えのようだ。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24/5/12モデルナのmRNA-1345(RSVワクチン)
24/5/13Dynavax TechnologiesのHEPLISAV-B(血液透析中の成人のB型肝炎予防を追加)
24/5/14アセンディス・ファーマのTransCon PTH(palopegteriparatide、副甲状腺ホルモン低下症)
24/5/16Elevar Therapeuticsのcamrelizumabとrivoceranib(肝細胞腫)
24/5/23BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治リンパ腫)
24/5/31BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、再発/難治マントル細胞腫)
24/6/4Catalyst PharmaceuticalsのFirdapse(amifampridine phosphate、LEMSにおける最大1日量を100mgに引き上げ)
24/6/7GSKのArexvy(重症RSVリスクを持つ50~59歳に拡大)
24/6/10Genfit/イプセンのGFT505(elafibranor、原発性胆汁性胆管炎)
24/6/12アムジェンのAMG 757(tarlatamab、小細胞性肺癌3次治療)
24/6/15BMSのAugtyro(repotrectinib、NTRK融合型固形癌に適応拡大)
24/6/16GeronのGRN163L(imetelstat、輸血依存骨髄異形成症候群)
24/6/17MSDのV116(21価肺炎球菌ワクチン)
24/6/21SareptaのElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl、DMD年齢制限解除)
24/6/21BMSのKrazati(adagrasib、KRAS-G12C変異結腸直腸癌)
24/6/21argenxのVyvgart Hytrulo(efgartigimod alfa and hyaluronidase-qvfc、慢性炎症性脱髄性多発神経障害を追加)
24/6/21MSDのKeytruda(pembrolizumab、子宮内膜腫一次治療を追加)
24/6/26Verona PharmaのRPL554(ensifentrine、COPD維持療法)
24/6/26第一三共のpatritumab deruxtecan(EGFR変異非小細胞性肺癌3次治療)
24/6/27リジェネロンのDupixent(dupilumab、好酸球性COPDを追加)
24/6/28ジェンマブ/アッヴィのEpkinly(epcoritamab-byspm濾胞性リンパ腫3次治療を追加)
24/6/30Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
諮問委員会
24/4/25DSRMAC/PDAC:clozapineのREMS緩和
24/5/16VRBPAC:次シーズンのCOVID-19ワクチンの配合株を検討
24/5/24EMDAC:ノボ ノルディスクのinsulin icodec(週一回皮下注用インスリン)



今週は以上です。