2019年12月28日

2019年12月28日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • フィブロジェン、ロキサデュスタットを米国で承認申請 
  • vernakalantは承認されず 
  • 新規向精神薬が米国で承認 
  • FDA、アラガンの経口CGRP受容体拮抗剤を承認 


【承認申請】


フィブロジェン、ロキサデュスタットを米国で承認申請
(2019年12月23日発表)

サンフランシスコの新興新薬開発会社、フィブロジェン(Nasdaq:FGEN)は、FG-4592(roxadustat、和名エベレンゾ)を慢性腎疾患の貧血治療薬として米国で承認申請した。高地のような低酸素環境で活性化され赤血球の新生やエリスロポイエチン受容体の発現を誘導するHIF(低酸素誘導因子)のスクラップに係る、HIF-PH(低酸素誘導因子-プロリン水酸化酵素)を阻害する経口剤。

18年に中国で、19年9月には日本でも透析期患者限定で承認された。FDAが赤血球生成刺激剤の心血管疾患毒性を警戒している関係で開発が長期化したが、主要有害心血管イベントのメタアナリシスで保存期患者約4000人における偽薬比ハザードレシオが1.08(95%上限1.24)、透析期約4000人でもエポエチン比0.96(同1.13)と、概ね良好な結果になっており、FDAのハードルをクリアしたと推測される。

HIFは70以上の遺伝子の転写因子として機能する。転写因子を誘導するPPAR作動剤は糖尿病薬として発売された後に心筋梗塞や心不全、癌など様々な稀だが深刻な副作用が表面化し、水面下では多くの開発品が副作用懸念から開発中止になった。HIF-PH阻害剤はアゴニストではないとはいえ、心血管以外のリスクもプール分析で十分に検討するべきだろう。

リンク: フィブロジェンのプレスリリース


【承認審査・委員会】


vernakalantは承認されず
(2019年12月24日発表)

Correvio Pharma(Nasdaq:CORV)はFDAにvernakalantを心房細動治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。12月10日の諮問委員会で13人の委員中11人が反対したので、予想された結果だ。洞調律奏効率は高いものの、低血圧や不整脈、洞停止といった心血管有害事象が2-3%の患者で発生し、心原性ショックによる死亡も一例あった。FDAは、リスクの小さい患者層を特定して臨床試験を行い、深刻心血管有害事象の発生率が1%を大きく下回ることを確認してから再申請するよう推奨した由。

最初の承認申請から13年経ち、欧州やカナダでは承認されたが、米国では、9年前に発生した上記の致死的有害事象を機にFDAが治験停止を命じ、未だに解除されていない。普通なら、製薬会社側が薬のせいではないこと、あるいは特定の患者層に限定すればリスクを抑制できることを確認し、治験停止の解除を求めるのが最優先だ。しかし、Corrvioは欧州での市販後医薬品安全性監視データを基に、一気に承認取得を目指した。

おそらく、懐具合が厳しいのだろう。同社は、会社や開発資産の売却など代替的経営戦略の検討を行う考えだが、買い手が現れるだろうか。

リンク: Correvio社のプレスリリース(pdf)


【承認】


新規向精神薬が米国で承認
(2019年12月23日発表)

Intra-Cellular Therapies(Nasdaq:ITCI)は、Caplyta(lumateperone)が統合失調症薬としてFDAに承認されたと発表した。20年第1四半期に発売の予定。

05年にBMSから前臨床段階で世界ライセンスを取得した、5-HT2A受容体とドパミンD2受容体の拮抗薬。第三相は一勝一敗だったが、335人を組入れた第二相が成功しているため、二本の独立した仮説検証試験で偽薬比有意な差を示すという承認のハードルはクリアしている。治療効果は4週間でPANSS総合スコア(ベースライン値は86~90程度)の改善が一本では偽薬を5ポイント強上回り、もう一本では4ポイント強上回った。

有害事象は鎮静やドライマウスなど。錐体外路症状や体重、血糖値、コレステロール影響は偽薬並み。CYP3A4の強度誘導薬や中強度阻害薬の併用は禁忌。統合失調症治療薬はアルツハイマー病患者の易刺激性の治療にオフレーベル使用されているが、FDAは死亡リスクが高まることを懸念しており、Caplytaも枠付警告が付された。

承認用量は42mg。臨床試験で用いられたトシル酸塩の60mgに相当する由。

リンク: Intra-Cellular社のプレスリリース

FDA、アラガンの経口CGRP受容体拮抗剤を承認
(2019年12月23日発表)

FDAはアラガン(NYSE:AGN)のUbrelvy(ubrogepant)を急性片頭痛治療薬として承認した。前兆(片頭痛の1/3程度で発生する)の有無は問わない。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗剤で、先行品と異なる点は経口剤であることと、予防の適応はまだないこと。

臨床試験では約20%の患者が2時間以内に軽快した。偽薬群は12~14%に留まった。有害事象は悪心、疲労、ドライマウスなど。CYP3A4強度阻害薬の併用は禁忌。

15年にMSDから導入したコンパウンド。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アラガンのプレスリリース





今週は以上です。

2019年12月23日

2019年12月23日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • デキストロメトルファン合剤の大鬱病試験が成功 
  • アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型の第三相が成功 
  • ノバルティス、DP2受容体の第三相喘息症試験がフェール 
  • 原発性ミトコンドリア筋症の第三相がフェール 
  • ギリアド、JAK1阻害剤を米国でも承認申請 
  • ファイザー、ビラフトビをV600E変異陽性大腸癌に適応拡大申請 
  • BMS、JCAR017を承認申請 
  • GSK、抗BCMA抗体薬物複合体を多発骨髄腫に承認申請 
  • GISTの4次治療用KIT阻害剤が承認申請 
  • 小細胞性肺癌用薬が承認申請 
  • インターセプト社、NASH治療薬を欧州でも承認申請、米国は承認遅延へ 
  • ヴィーヴ、月一回筋注用HIV治療薬は審査完了に 
  • FDA諮問委員会が全員一致で類上皮肉腫用薬の承認を支持 
  • FDA諮問委員会、キイトルーダのNMIBC適応拡大を多数が支持 
  • FDA諮問委員会、リムパーザの膵癌適応拡大を多数が支持 
  • エーザイ、不眠症治療薬が米国で承認 
  • 第一三共、抗her2抗体薬物複合体が米国で承認 
  • MSDのエボラワクチンが米国でも承認 
  • シアトル・ジェネティクス/アステラスのADCが米国で承認 
  • イクスタンジが米国で転移性ホルモン感受性前立腺癌に適応拡大 


【新薬開発】


デキストロメトルファン合剤の大鬱病試験が成功
(2019年12月16日発表)

Axsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、AXS-05の第三相大鬱病治療試験が成功したと発表した。第二相のデータと合わせて来年下期に米国で承認申請する考え。

AXS-05はdextromethorphanとbupropionの調整放出製剤。前者の効果持続時間を後者の2D6阻害作用で長期化するとともに、前者の持つNMDA受容体拮抗、シグマ-1受容体作動、そしてセロトニン及びノルエピネフィリンの輸送体阻害作用を後者のノルエピネフィリン及びドパミン再取込阻害作用とニコチン・アセチルコリン受容体拮抗作用で補完するアイディア。

第三相では米国の中重度大鬱病患者327人を組入れて一日二回(最初の3日は一回)、経口投与したところ、6週間後のMADRS(モンゴメリー/アスベルグ鬱病評価尺度)がベースライン値の33から16.6低下し、偽薬群の11.9低下より有意に大きかった。寛解率(MADRS≦10)も39.5%対17.3%で上回った。有害事象による治験離脱は各6.2%と0.6%だった。

同社は、難治性鬱病やアルツハイマー病の易怒性を治療する第三相も実施中。

リンク: Axsome社のプレスリリース

アルナイラム、原発性高シュウ酸尿症I型の第三相が成功
(2019年12月17日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ALNY)は、ALN-GO1(lumasiran)の第三相試験成功を発表した。原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)で軽中度の腎障害を持つ6歳以上の患者約30人を組入れて、3mg/kgを最初の3回は月一回、その後は3ヶ月毎に皮注したところ、尿シュウ酸塩が偽薬比有意に減少した。二次的評価項目の検定もすべて成功した。重度あるいは深刻な有害事象は発生しなかった。

詳細は来年3月にアムステルダムで開催されるOIC(欧州高シュウ酸尿症コンソーシアムの国際会議)で発表する予定。20年初めに欧米で承認申請する計画。

原発性高シュウ酸尿症I型は常染色体劣性遺伝性疾患で、肝臓のペルオキシソームに存在するアラニン:グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ(alanine:glyoxylate aminotransferase: AGT)の欠損により、グリオキシル酸が蓄積する。尿路結石を繰り返し、腎不全のリスクもある。罹患率は世界で5.88万人に一人とされる。ALN-GO1はグリコール酸酸化酵素の遺伝子、 hydroxyacid oxidase 1を標的とするRNA介入薬。第三相の成績は未発表だが第1b/2相試験では尿シュウ酸塩が63%減少した。

アルナイラムはRNA介入薬のスペシャリスト。研究開発が一斉に開花しており、18年に欧米でTTR調停アミロイドーシス治療薬Onpattro(patisiran、和名オンパットロ)が承認されたのに続いて、今年は急性肝性ポルフィリン症治療薬Givlaari(givosiran)が米国で承認、高脂血症治療薬ALN-PCSsc(inclisiran)を年内に承認申請予定と、新薬輩出している。

リンク: アルナイラムのプレスリリース

ノバルティス、DP2受容体の第三相喘息症試験がフェール
(2019年12月16日発表)

ノバルティスは、QAW039(fevipiprant)の第三相中重度喘息症試験が不満足な結果になったことを明らかにした。吸入ステロイドを含む二剤併用でも発作を十分に管理できない患者に52週間投与して発作頻度を偽薬と比較する試験を二本実施したが、150mcg群も450mcg群も二本のプール分析で偽薬比有意なな予防効果が見られなかった。一秒量を主評価項目とする第三相二本も先にフェールしており、同社は喘息症における開発を中止する考え。

QAW039はDP2受容体(別名CRTh2受容体)のアンタゴニスト。IgEにより活性化された肥満細胞が分泌するプロスタグランディンD2が好中球やTh2型リンパ球のDP2受容体に結合し、活性化・移行を促進するのを妨げる。近年、アレルギー分野でDP2受容体拮抗剤が注目されるようになったが、臨床成績は他社の開発品も含めパッとしない。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

原発性ミトコンドリア筋症の第三相がフェール
(2019年12月20日発表)

Stealth BioTherapeutics(Nasdaq:MITO)は、MTP-131(elamipretide)の第三相原発性ミトコンドリア筋症(PMM)試験がフェールしたと発表した。218人を組入れて32週間治療し、6本歩行テストや疲労症状スコアの変化を偽薬と比較したが、目的を達成できなかった。

MTP-131はミトコンドリア膜の構造を正常化する作用が期待され、これまでにBirth症候群やLHONなどのミトコンドリア疾患の中期後期試験が実施されたが、概して失望的な結果になっている。

10月にアレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)が共同開発オプションを取得したばかり。

リンク: Stealth社のプレスリリース


【承認申請】


ギリアド、JAK1阻害剤を米国でも承認申請
(2019年12月19日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は米国でfilgotinibを中重度リウマチ性関節炎治療薬として承認申請した。競合品が多いせいか、優先審査バウチャを使って早期承認を狙った。EUでは8月に、日本でも10月に申請済み。

JAK1選択的だがFDAは他社のJAK1阻害剤に関してJAK1/2阻害剤と同じクラス警告を付与しており、どの程度差別化できるか不明。また、前臨床で見られた男性生殖機能毒性がヒトにもリスクがあるのか、男性は200mgは避け100mg(一日一回)に限定するのか、などが注目される。

ベルギーのGalapagos(Nasdaq:GLPG)から共同開発販売権を取得したもの。

リンク: ギリアドのプレスリリース

ファイザー、ビラフトビをV600E変異陽性大腸癌に承認申請
(2019年月日発表)

ファイザーは、Braftovi(encorafenib、和名ビラフトビ)をV600E変異陽性転移性結腸直腸癌の二次治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理された。審査期限は来年4月とのこと。第三相試験でcetuximabと併用でcetuximab・irinotecan併用群と比較したところ、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)は20.4%対1.9%、生存期間はメジアン値が8.4ヶ月対5.4ヶ月、ハザードレシオは0.60、p=0.0003と、良好な成績を上げた。尚、この試験ではMEK阻害剤Mektovi(binimetinib)も併用するトリプレットもテストしたが、探索的解析の結果、二剤併用と効果は大差ないという結論になった。

BraftoviとMektoviはファイザーが7月に114億ドルで買収したArray BioPharmaの製品で、18年に欧米で、19年には日本でも、V600変異悪性黒色腫用薬として承認された。V600変異は悪性黒色腫の50%程度に見られるが、結腸直腸癌では10~15%程度。

欧州はPierre Fabreがライセンスしており、今年11月にV600E変異陽性結腸直腸癌に二種変申請した。日本はライセンシーの小野薬品が適応拡大試験中。

リンク: ファイザーのプレスリリース

BMS、JCAR017を承認申請
(2019年12月18日発表)

BMSは、lisocabtagene maraleucel(JCAR017)を再発性難治性大細胞型B細胞リンパ腫の三次治療薬として米国で承認申請した。買収したセルジーンがJuno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)からライセンスしたキメラ抗原-T細胞(CAR-T)で、抗CD19抗体と4-1BBなどを結合したもの。第一相試験では255人のうち総合反応率73%(完全反応53%)、メジアン反応持続期間13.3ヶ月だった。

ノバルティスやギリアドのCAR-Tのデータと比べると、効果は同程度かそれ以上、CAR-Tに特徴的な神経毒性やサイトカイン放出症候群の発生率は低そうだ。

リンク: BMSのプレスリリース

GSK、抗BCMA抗体薬物複合体を多発骨髄腫に承認申請
(2019年12月16日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK2857916(belantamab mafodotin)を再発性難治性多発骨髄腫のサルベージ療法として米国で承認申請した。エビデンスとなるDREAMM-2試験の論文がLancet Oncology誌に刊行されたのと合わせて公表した。

形質細胞のBCMAに結合する、協和キリングループのBioWaの技術を導入して開発した抗体を、シアトル・ジェネティクスの技術でMMAF細胞毒やリンカーと結合したもの。DREAMM-2試験では再発性難治性の多発骨髄腫で免疫調停薬とプロテアソーム阻害剤に難治性、抗CD38抗体に難治/不耐だった患者に30分点滴静注したところ、2.5mg/kg群のORR(総合反応率)が31%、うちVGPR(最良部分反応率)は18%、メジアン反応持続期間は6ヶ月以上だった。G3/4有害事象は角膜症、血小板減少症、貧血症など。

GSKは14年にノバルティスとアセット・スワップを行い、腫瘍学の製品・開発品を譲渡したが、GSK2857916を含む初期のパイプラインは留保していた。

リンク: GSKのプレスリリース

GISTの4次治療用KIT阻害剤が承認申請
(2019年12月16日発表)

Deciphera Pharmaceuticals(Nasdaq:DCPH)は、DCC-2618(ripretinib)を進行消化管間質腫瘍(GIST)の4次治療薬として承認申請した。既存のKIT阻害剤(imatinib、sunitinib、regorafenib)による治療歴を持つ患者に用いる。150mgを一日一回投与した第三相試験では、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央放射線学的評価)がメジアン27.6週と偽薬群の4.1週を上回り、ハザードレシオ0.15、統計的に有意だった。共同主評価項目のORR(客観的反応率)は9.4%対ゼロだったが、p=0.0504で統計学的に有意ではなかった。二次的評価項目の全生存期間はメジアン15.1ヶ月対6.6ヶ月と上回り、ハザードレシオ0.36、p=0.0004となったが、主評価項目の一つがフェールした後なので、統計学的に有意とは言えない。

G3/4の治療時発現有害事象は貧血、腹痛、高血圧など。

ripretinibは広域KIT阻害剤とされ、既存のKIT阻害剤に反応しにくい変異にも作用することが特徴。FDAがリアルタイム・オンコロジー・リビューというパイロット・プログラムの対象に指定したので、早期の承認が期待される。

リンク: Decipheraのプレスリリース

小細胞性肺癌用薬が承認申請
(2019年12月17日発表)

スペインのPharmaMar(MSE:PHM)は、Zepsyre(lurbinectedin)を白金薬歴を持つ小細胞性肺癌用薬として加速承認するようFDAに申請した。第二相バスケット試験でORR(客観的反応率、独立評価委員会ベース)が105人中35%、メジアン反応持続期間は5.3ヶ月だった。

同社が創製しジョンソン・エンド・ジョンソンにライセンスしたYondelis(trabectedin、和名ヨンデリス)の類縁体で、RNAポリメラーゼIIなどを阻害する。日本は中外製薬がライセンスした。

リンク: PharmaMarのプレスリリース

インターセプト社、NASH治療薬を欧州でも承認申請、米国は承認遅延へ
(2019年12月13日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)は、obeticholic acid(OCA)をNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)による肝線維症の治療薬としてEUで承認申請した。同時に、9月に承認申請した米国で、4月22日の諮問委員会に上程されることが決まり、審査期限(3月26日)までには承認されない可能性が高まったことも明らかにした。

OCAはウルソデオキシコール酸の類縁体でファルネソイドX受容体を作動する。原発性胆汁性肝硬変治療薬Ocalivaとして16年に欧米で承認された。NASH肝線維症の臨床試験の中間解析では、原発性胆汁性肝硬変より高量の25mgを一日一回、18ヶ月間投与したところ、病気のステージが1段以上改善し、且つ、NASHが悪化しなかった患者の比率が23.1%と偽薬群の11.9%を有意に上回った。もう一つの主評価項目であるNASHが解消し且つ肝線維症が悪化しなかった患者の比率は11.7%で偽薬群の8%と大差なかった。この試験は組入れが予定より遅かったため、中間解析実施症例数を1400人から750人に減らす一方で、共同主評価項目の何れかで有意差が出れば成功と評価するプロトコル変更がなされている。

報道によると、米国で諮問委員会が審査期限の後になってしまったのは諮問委員のスケジュール調整が付かなったことが理由である模様。NASH治療薬は多くの会社が開発に鎬を削っているが失望的なニュースも多く、トップランナーであるOCAの審査結果が注目されている。

リンク: インターセプト社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


ヴィーヴ、月一回筋注用HIV治療薬は審査完了に
(2019年12月21日発表)

グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーの抗HIV薬合弁、ヴィーヴヘルスケアは、インテグラーゼ阻害剤cabotegravirと非核酸系逆転写阻害剤rilpivirineの筋注用製剤をHIV/AIDSの維持療法薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。CMC(化学、製造、管理)に関する情報が不十分と判定された模様だが、詳細は不明。

この二剤を併用するレジメンで、半減期が長く月一回の注射で済むことが特徴だが、合剤ではない。rilpivirineはジョンソン・エンド・ジョンソンのEdurantの活性成分で、持効化するためにJNJの独自技術を使っている関係でヴィーヴに手の内を明かさなかった。このため、二ヶ所に筋注しなければならないのが難点。

リンク: ヴィーヴのプレスリリース

FDA諮問委員会が全員一致で類上皮肉腫用薬の承認を支持
(2019年12月18日発表)

エピザイム(Nasdaq:EPZM)は、根治不能の転移/局所進行性類上皮肉腫用薬として承認申請したEPZ-6438(tazemetostat)に関してFDA腫瘍学薬諮問委員会が検討し、全員一致で便益が危険を上回ると結論した。FDAの審査担当者はやや慎重なスタンスのようなので不透明感が消えたわけではないが、来年1月23日の審査期限に向けて、展望が好転した。

類上皮肉腫は米国で年120人程度が診断される超希少な肉腫。9割の患者で見られるINI1蛋白の喪失が、遺伝子発現に係るヒストン・メチル基転換酵素の異常亢進、そして腫瘍抑制遺伝子の発現抑制に関与していると推測されている。EPZ-6438はヒストン・メチル基転換酵素を構成する蛋白の一つであるEZH2(enhancer of zeste homolog 2)を阻害する経口剤。INI1喪失型の転移/局所進行性類上皮肉腫62人を組入れた第二相試験で800mgを一日二回投与したところ、ORR(客観的反応率)が13%(全部部分反応)、メジアン反応持続期間は48週を上回った。

EZP-6438の臨床試験では725人中8人で二次性腫瘍が発生したが、類上皮肉腫の試験では観察されていない由。

FDA審査担当者はORRが低く95%信頼期間下限が数パーセントに過ぎないことなどを指摘したが、諮問委員会は、難治性腫瘍で有効な薬がないことを重視した。

エピザイムは、再発難治性濾胞性リンパ腫の三次治療薬として承認申請したことも明らかにした。第二相試験では、EZH2活性化変異型45人におけるORRが69%、野生型54人に対しても35%で、メジアン反応持続期間は各11ヶ月と13ヶ月だった。

エピザイムは遺伝子発現に係るエピジェネティクスに基づく新薬の研究開発に特化した会社。11年にエーザイがEZH2を標的とする薬の研究開発で戦略提携を結んだが、15年に見直され、エーザイの権利は日本の開発販売と、アジアにおける優先交渉権に縮小された。

リンク: エピザイムのプレスリリース

FDA諮問委員会、キイトルーダのNMIBC適応拡大を多数が支持
(2019年12月17日発表)

MSDは抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をBCG不応の高リスクNMIBC(筋層非浸潤膀胱癌)に用いる適応拡大を米国で承認申請しているが、FDA腫瘍学薬諮問委員会で13人の委員中9人が承認に賛成、4人が反対した。審査期限は来年1月。

NMIBCは米国で年8万人診断される膀胱癌の75%を占める。高リスクでBCGに反応しない場合は膀胱の全摘が第一選択となるが、QOL面から嫌う患者も少ないない模様。Keytrudaの第二相試験では、3ヶ月完全反応率(中央評価)が102人中41.2%、メジアン反応持続期間は16ヶ月と良好な成績を上げたが、学会が求める水準(IBCGは12ヶ月完全反応率30%、AUAは18-24ヶ月完全反応率30%)には達していない。また、G3/4の治療時発現有害事象が13%の患者で発生した。

リンク: MSDのプレスリリース

FDA諮問委員会、リムパーザの膵癌適応拡大を多数が支持
(2019年12月17日発表)

アストラゼネカと共同開発販売者のMSDは、Lynparza(olaparib、和名リムパーザ)を転移性gBRCA悪性変異型膵癌の一次治療後維持療法薬として適応拡大申請しているが、FDA腫瘍学諮問委員会で承認賛成7人、反対5人と賛成が若干上回った。審査期限は19年第4四半期とのことなので間もなく承認される可能性があるが、FDA審査担当者は慎重であるように見えることや、反対も多かったことを考えると、不透明感が残る。

LynparzaはDNA修復に係る酵素であるPARPを阻害する薬で、ある種の卵巣癌や乳癌に承認されている。今回の適応・用法は、膵癌の5-7%を占めるBRCA遺伝子に生殖細胞系変異を持つタイプが対象で、白金薬レジメンによる一次治療を受け癌の進行が安定化または縮小した患者に、300mg錠を一日二回、経口投与する。第三相のPOLO試験ではPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン7.4ヶ月と偽薬群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.53、p=0.004だった。しかし、二次的評価項目の全生存期間の解析は点推定値が偽薬群と大差なかった。偽薬群の15%が進行後にPARP阻害剤による治療を受けたとはいえ、物足りない。

FDA審査担当者は、被験者が154人とあまり多くなく、患者背景の一部で群間の偏りが見られることや、通常の臨床試験では偽薬群のORR(客観的反応率)はゼロだが本試験ではLynparza群の20%に対して偽薬群は10%と高いことから、膵癌は進行判定が難しくPFSデータを過信すべきではないとの考えを示した。深刻有害事象の発生率が24%(偽薬群は15%)、G3~5の有害事象の発生率が39%(23%)と危険もあることも指摘した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認】


エーザイ、不眠症治療薬が米国で承認
(2019年12月23日発表)

エーザイは、FDAがDayvigo(lemborexant)を不眠症治療薬として承認したと発表した。14年に承認されたMSDのBelsomra(suvorexant、和名ベルソムラ)と同じオレキシン1/2受容体拮抗剤で、通常の睡眠薬と異なり、眠気を強化するのではなく過度の覚醒状態を緩和する。55歳以上の患者を組入れた第三相試験では、5mg群と10mg群の主観的睡眠潜時(寝入るまでの時間)がベースライン比で各22分と28分、改善し、偽薬群の11分を統計学的有意に上回った。

安全性確認試験では、服用中止後の不眠症状悪化(リバウンド)や離脱症状は見られなかった。服用の翌朝に自動車を運転させた試験では偽薬群と有意差はなかったが、10mg群の数名で運転能力の低下が見られた由。

覚醒剤規制の対象で、麻薬取締局によるスケジュール指定を経て発売の予定。BelsomraはスケジュールIV(zolpidemなどと同じ)。

Dayvigoは日本でも審査中で、11月に第一部会を通過した。

アルツハイマー病に伴う不規則睡眠覚醒リズム障害でも開発されている。Belsomraは一足先に米国でアルツハイマー患者の不眠症に適応拡大申請中。

リンク: エーザイのプレスリリース(和文、pdf)

第一三共、抗her2抗体薬物複合体が米国で承認
(2019年12月20日発表)

FDAは第一三共のENHERTU(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)を加速承認した。her2に結合する抗体と、irinotecan系の抗癌剤をリンカーで結合した抗体薬物複合体で、切除不能/転移性her2陽性乳癌で転移後に二回以上の抗her2薬レジメン歴を持つ患者が適応になる。日米欧の施設で行われた臨床試験では、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が60%(うち完全反応4%)、メジアン反応持続期間は14.8ヶ月だった。G3以上の治療時発現有害事象は57%、有害事象による治験離脱は15%で間質性肺疾患によるものが多かった。

間質性肺疾患の発生率は9%で、被験者の2.6%が間質性肺疾患により死亡した。これと胚胎毒性が枠付警告されている。同じherファミリーの受容体であるEGFRを阻害する薬では欧米人より日本人の間質性肺疾患リスクが高いので、ENHERTUも要注意だろう。

承認申請受理が発表されたのは10月で審査期限は来年4-6月期だったので、かなりの前倒し承認。先に申請された日本より早く承認された。

適応拡大試験も各種進行しており、将来的には、ロシュのKadcyla(ado-trastuzumab emtansine、和名カドサイラ)の有力な競争相手になりそうだ。

尚、ENHERTUとKadcylaはどちらも抗her2抗体のHerceptin(trastuzumab)と細胞毒を結合したもので、一般名の前半はtrastuzumabだが、FDAは取り違い事故を防ぐために接頭語を付けることを提唱・勧告している。ENHERTUの接尾語のnxkiは将来、バイオシミラーが発売された時に、製品を特定するためにFDAが付与しているもの。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 第一三共とアストラゼネカのプレスリリース(12月23日付、和文)

MSDのエボラワクチンが米国でも承認
(2019年12月19日発表)

FDAは、MSDのErveboをザイール種エボラウイルス疾患のワクチンとして承認した。18歳以上が対象。EUでも先月、承認されている。欧米で発症リスクがあるのは流行地域に渡航・滞在する医療関係者やジャーナリスト、旅行者などに限られるだろうが、欧米で承認されれば、現地政府が承認・採用したり、欧米で助成金や寄付を募る上で追い風になろう。

Erveboは弱毒化生ワクチン。一回、接種する。ギニアで14-16年に流行した時に感染者の接触者及びその接触者3537人を組入れた臨床試験では、即時接種群の2108人はその後10日間に誰も発症しなかったが、21日遅れで接種した1429人では10人が発症した。

MSDは熱帯疾患用薬を開発し承認を取得した会社に対するインセンティブである優先審査バウチャーを獲得した。これを使えば承認申請する時に優先審査指定を受けることができる。転売も可能。

リンク: MSDのプレスリリース

シアトル・ジェネティクス/アステラスのADCが米国で承認
(2019年12月18日発表)

FDAは、シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)がアステラス製薬と共同開発したPADCEV(enfortumab vedotin-ejfv)を白金薬及び抗PD-1/PD-L1抗体による治療歴を持つ局所進行性/転移性尿路上皮癌の薬として承認した。

転移性膀胱癌の93%で発現しているネクチン-4に結合する抗体と、細胞毒のMMAE(モノメチルアウリスタチンE)をリンカーで結合した抗体薬物複合体で、第二相試験で4週毎に最大3回投与したところ、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価糖)が44%(完全反応率12%、部分反応率32%)で、メジアン生存期間は7.6ヶ月だった。主なG3以上の有害事象は骨髄抑制や疲労、高血糖、発疹、末梢神経障害、間質性肺疾患など。

シアトル・ジェネティクスは07年にAgensysと抗体薬物複合体の開発で提携し、11年にPADCEVの共同開発販売を決めた。アステラスは同年にAgensysを3.7億ドルで買収した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: シアトル・ジェネティクスのプレスリリース

イクスタンジが米国で転移性ホルモン感受性前立腺癌に適応拡大
(2019年12月16日発表)

FDAは、ファイザーがアステラス製薬と共同開発販売しているXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)の適応拡大を承認した。米国で年38000人程度が診断される転移性ホルモン療法感受性前立腺癌に、アンドロゲン除去療法(ADT)と併用する。ADTと偽薬を併用する群と比較したARCHES試験ではPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)のハザードレシオが0.39、p<0.0001となり、メジアンは未達、対照群は19.4ヶ月だった。G3/4有害事象の発生率は両群同程度だった。また、偽薬ではなく非ステロイド系抗アンドロゲンをADTと併用する群と比較したENZAMET試験ではハザードレシオ0.67、p=0.002となった。日欧でも承認審査中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アステラス製薬のプレスリリース(19日付、和文)





今週は以上です。

2019年12月15日

2019年12月15日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュ、テセントリクとゼルボラフのBRAF-v600変異陽性悪性黒色腫試験が成功 
  • SABCS:DS-8201はカドサイラの次に使う薬として有効 
  • SABCS:マクロジェニクスの抗her2抗体、中間解析で延命効果が見られず 
  • ASH:寒冷凝集素症の第三相が成功 
  • ASH:経口アザシチジンの第三相が成功 
  • ASH:JunoのCAR-Tも承認申請へ 
  • ジェネンテック、ゾレアを鼻ポリープに承認申請 
  • FDA諮問委員会、甲状腺眼症用薬の承認を支持 
  • FDA諮問委員会、心房細動洞調律薬の承認に反対 
  • CHMP、新薬二品の承認などを支持 
  • FDA、アマリンのEPA製剤の適応範囲を拡大 
  • サレプタ、DMDのエクソン53スキップ薬が米国で承認 


【新薬開発】


ロシュ、テセントリクとゼルボラフのBRAF-v600変異陽性悪性黒色腫試験が成功
(2019年12月12日発表)

ロシュは、第三相IMspire150試験が成功したと発表した。braf v600変異を持つ未治療の転移性/切除不能局所進行性黒色腫の欧米における標準的治療レジメンの一つである同社のBRAF阻害剤、Zelboraf(vemurafenib、和名ゼルボラフ)とMEK阻害剤のCotellic(cobimetinib、本邦未承認)に、更に偽薬またはTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を投与してPFS(無進行生存期間、主評価は担当医評価だが副次的評価項目として独立評価委員会の査読を経たデータも解析)を比較したもの。データは学会発表の予定。承認審査機関との相談も計画している。

幾つかの癌種については、癌の増殖を牽引する遺伝子変異をターゲットとする分子標的薬と、抗PD-1/PD-L1抗体から選択することが可能だが、どちらが良いかは簡単には判断できない。反応率は分子標的薬のほうが圧倒的に高いが抵抗性変異を誘導するリスクがあり、反応持続期間は免疫療法のほうが良好だからだ。

そもそも、ロシュやファイザーのように両方の製品を販売している会社には、敢えて直接比較試験を行って雌雄を決する商業的なインセンティブが乏しい。結局、今回のように、ウィンウィンの試験ばかり行われることになる。

BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用がBRAF変異の有無を問わず未治療悪性黒色腫向けに承認されている。braf v600変異型の症例は限られるのだろうが、ロシュのトリプル・セラピーとどちらが効くのか、興味のあるところだ。

リンク: ロシュのプレスリリース

SABCS:DS-8201はカドサイラの次に使う薬として有効
(2019年12月12日発表)

第一三共とアストラゼネカは、両社で共同開発しているDS-8201(trastuzumab deruxtecan)の承認申請用試験、DESTINY-Breast01の結果をSABCS(サン・アントニオ乳癌シンポジウム)で発表した。今年9月に日本で、10月には米国でも行った新薬承認申請の根拠となった試験だ。

her2陽性転移性乳癌でKadcyla(trastuzumab emtansine、和名カドサイラ)による治療歴を持つ、患者を日米欧の施設で組入れて、5.4mg/kgを3週毎に点滴静注してORR(客観的反応率、独立中央査読)を調べた単群試験。Kadcyla以外のher2標的薬歴はHerceptin(trastuzumab)は全員、Perjeta(pertuzumab)とその他のher2標的薬は夫々過半を占めた。

結果は、ORRは61%(184人中112人)。完全反応が6%で部分反応が55%だった。反応持続期間はメジアン14.8ヶ月と良好。

治療時発現有害事象は57%の患者がG3以上を経験。15%の患者が有害事象で治験を離脱した。原因として多かったのが間質性肺疾患で、独立査読を経て一人がG3~4、4人(2.2%)がG5(死亡)と判定された。

DS-8201はHerceptinの活性成分である抗her2抗体とirinotecan類縁体をリンカーで繋いだ抗体薬物複合体。Kadcylaと似ているが、抗体に対する薬物の比率が倍以上高い。

リンク: 第一三共のプレスリリース(和文)

SABCS:マクロジェニクスの抗her2抗体、中間解析で延命効果が見られず
(2019年12月11日発表)

マクロジェニクス(Nasdaq:MGNX)は、MGAH22(margetuximab)の第三相試験の全生存の中間解析結果をSABCSで発表した。2月に発表されたPFS解析のp値があまり低くなかったため注目されたが、メジアン値は2ヶ月足らずの差で有意差は出なかった。

同社は年末までに米国で承認申請する予定。実薬対照であることや一次治療ではなくサルベージ治療であることを考えれば、158F変異型限定で承認される可能性がありそうだ。

この試験は、her2陽性の転移性乳癌でHerceptin(trastuzumab)やPerjeta(pertuzumab)による治療歴を持ち9割はKadcyla(trastuzumab emtansine)歴も持つ536人を、化学療法とmargetuximabを併用する群と化学療法・Herceptin併用群に無作為化割付して、PFS(無進行生存期間、第三者評価)を比較したもの。ハザードレシオは0.76、p=0.033となり、前者は悪くないが、後者は、一本の試験で承認を取るには0.0025未満が欲しいところだ。

全生存期間はメジアン21.6ヶ月と対照群の19.8ヶ月を上回ったがハザードレシオは0.89、p=0.326とどちらも失望的。最終解析は20年後半の見込み。

margetuximabはher2を標的とする抗体で、固定領域を至適化して、抗her2抗体が効きにくいIgG1受容体の158F変異型に対する活性を増強したもの。今回の試験は158F変異型が85%と重点組入れしたが、このサブタイプに対するPFSハザードレシオは0.68、p=0.005と良好な結果が出ている。今回の全生存解析でも、158Vホモ接合型ではHerceptinが上回った。従って、承認されるとしても、158F変異を一つ以上持つ患者に限定されるのではないか。

リンク: マクロジェニクスのプレスリリース

ASH:寒冷凝集素症の第三相が成功
(2019年12月10日発表)

サノフィは、sutimlimabの第三相寒冷凝集素症(CAD)試験の結果をASH(米国血液学会)で発表した。反応率が高く、オンセットも早い。近い将来に米国で承認申請するのを皮切りに、欧州などでも承認申請する計画。欧米だけでなく、日本でも希少疾患用医薬品指定を受けている。

CADは古典的補体経路の異常により免疫が赤血球を攻撃する慢性自己免疫性溶血疾患。有病率は100万人当たり16人程度、日米欧で12000人程度が罹患と推測されている。

sutimlimabはC1セリンプロテアーゼを標的とする抗体医薬。サノフィが18年に116億ドルで買収したBioverativeが、その前年にオリジネイターのTrue North Therapeuticsを4億ドルで買収して入手したコンパウンドだ。

第三相は単群試験で、24人の患者(平均年齢71歳)に体重に応じて6.5gまたは7.5gを点滴静注した。最初の2回は隔週、その後は2週毎に、26週間に亘って投与した。主評価項目である反応率(複合評価)は54%だった。構成項目を見ると、ヘモグロビン回復(ベースライン比2g/dL以上の増加または12g/dL以上に改善)の達成率は62.5%、第5週以降輸血不要は71%だった。

ヘモグロビンの増加や、CADのもう一つの主訴である疲労の評価スコアの改善は第1週から見られた。

治療時発現有害事象は29%で見られたが、担当医は薬と関連するとは判定しなかった。

リンク: サノフィのプレスリリース

ASH:経口アザシチジンの第三相が成功
(2019年12月10日発表)

ブリストル・マイヤーズ スクイブは、CC-486の第三相試験の結果をASHで発表した。急性骨髄性白血病の新患で集中化学療法に完全反応またはCRi(血球回復不十分な以外は完全反応)の患者の地固め療法として、偽薬または300mgを一日一回、14日オン、14日オフのスケジュールで投与したところ、メジアン生存期間が各14.8ヶ月と24.7ヶ月、ハザードレシオは0.69で統計的に有意だった。

有害事象による治験離脱発生率は各4%と13%。G3以上有害事象は骨髄抑制とその合併症である貧血症、感染症など。

20年上期に承認申請する計画。

CC-486は同社の皮注・静注用薬、Vidaza(azacitidine)の活性成分を経口投与できるようにしたもの。アップジョン社がazacitidineを米国で承認申請したのが82年、セルジーンが承認を取得したのは04年なので先代は長い開発市販歴を持っている。Vidazaは地固め療法には承認されていないので、GE薬とCC-486が競合する可能性は低そうだ。

今年11月に740億ドル相当で買収したセルジーンのパイプライン。代価には、開発品3品の全てが所定の地域で所定の日までに承認された場合に支払われる偶発的価値権(CVR)が含まれるが、CC-486はこの3品に含まれていない。

リンク: BMSのプレスリリース

ASH:JunoのCAR-Tも承認申請へ
(2019年12月7日発表)

BMSは、lisocabtagene maraleucelの第一相リンパ腫試験の結果をASHで発表するとともに、年内に米国で承認申請を完了する予定であることを明らかにした。

CAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)の御三家の開発品は、ペンシルバニア大学の開発品がノバルティスのKymriah(tisagenlecleucel)として発売、Kite Pharma品はギリアドによる買収を経てYescarta(axicabtagene ciloleucel)として発売された。最後のJuno TherapeuticsのJCAR017もセルジーンそしてBMSによる買収を経て、実用化に前進することになる。

この第一相試験は再発難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の342人を組入れて、反応率を評価した。十分な量の薬を培養できなかったのが二人、不適合24人、死亡33人を除外して、268人に投与した。薬効評価対象255人の総合反応率は73%、反応持続期間はメジアン13.3ヶ月、完全反応率は53%と、競合薬に匹敵する効果を示した。

CAR-Tはサイトカイン放出症候群や神経毒性が難だが、lisocabtagene maraleucelは発現率が低いように感じられる。治療関連有害事象による死亡は4例だった。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認申請】


Kite、製法改良CAR-Tを米国申請
(2019年12月11日発表)

ギリアド・サイエンシズの子会社であるKite Pharmaは、KTE-X19をFDAに承認申請した。成人の再発難治マントル細胞リンパ腫に用いることを想定している。

KiteはCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)と呼ばれる新しいタイプの細胞療法に強みを持ち、2017年に第一号のYescarta(axicabtagene ciloleucel)が自家幹細胞移植不適の再発難治アグレッシブ非ホジキン型リンパ腫用薬として米国で承認された。

KTE-X19はYescartaの生産工程を変えて、T細胞選択とリンパ球増強を導入した。B細胞のCD19に結合する抗体とCD3ゼータ、CD28などを結合したものであることには変わりない。

今年のASH(米国血液学会)で発表された第二相試験では、BTK阻害剤に加えて平均二種類のレジメンによる治療歴を持つ60人に一回投与したところ、ORR(総合反応率、独立放射線学的評価委員会方式)が93%、完全反応だけでも67%と良好な成果を上げた。CAR-Tの特徴的な副作用であるサイトカイン放出症候群はG3以上のものが15%の患者で発生。神経学的イベントもG3以上が31%で発生した。どちらも致死例はなかった。

EUでも20年初めに承認申請の計画。

リンク: Kiteのプレスリリース

ジェネンテック、ゾレアを鼻ポリープに承認申請
(2019年12月10日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Xolair(omalizuma、和名ゾレア)を鼻ポリープを伴う慢性副鼻腔炎の治療に用いる適応拡大申請を行い、受理されたと発表した。18歳以上の、点鼻ステロイドで十分に改善しない患者に用いる。審査期限は20年第3四半期とのことなので、優先審査にはならなかったわけだ。

Xolairはアレルギー反応に係るIgEに結合する抗体医薬。03年に米国で重度喘息症治療薬として初承認され、その後、難治性特発性蕁麻疹や日本では季節性アレルギー性鼻炎に適応拡大し、昨年、食物アレルギーでFDAにブレークスルー・セラピー指定された。

鼻ポリープによる慢性副鼻腔炎は、鼻の粘膜が成長して鼻の通りが悪くなる。今年6月にDupixent(dupilumab、和名デュピクセント)が米国で、10月にはEUでも、適応拡大し、日本でも承認審査中。

リンク: ジェネンテックのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、甲状腺眼症用薬の承認を支持
(2019年12月13日)

Horizon Therapeutics(Nasdaq:HZNP)は甲状腺眼症治療薬HZN-001(teprotumumab)を7月に米国で承認申請した。FDAは皮膚科眼科薬諮問委員会に上程されたが、全員一致で承認が支持された。優先審査を受けており、審査期限は来年3月8日と余裕があるので、前倒し承認もありそうだ。

teprotumumabはロシュがジェンマブ社と共同開発したIGF-1(インスリン様成長因子1)受容体を標的とする抗体医薬。難治性肉腫で第二相入りしたが、09年に開発中止。導出先を17年にHorizonが買収した。

甲状腺眼症は米国で年15000~20000人が罹患する希少疾患。活性期にはIGF-1受容体が過剰発現する。第三相では83人を組入れて偽薬または20mg/kg(初回は半量)を三週毎に点滴静注したところ、奏効率(眼球突出が改善し、もう片方の目は悪化しない)が83%と偽薬群の10%を大きく上回った。

リンク: Horizonのプレスリリース

FDA諮問委員会、心房細動洞調律薬の承認に反対
(2019年12月10日発表)

FDAは心血管腎臓薬諮問委員会を招集し、カナダのCorrevio Pharma(Nasdaq:CORV)が心房細動の迅速洞調律薬として承認申請しているvernakalant hydrochlorideについて意見を聞いた。賛成2人、反対11人の圧倒的多数が承認に反対した。審査期限は12月24日。諮問委員会から審査期限まで間がない場合は、しばしば、審査期間延長になるが、この薬はアステラス製薬が承認申請してから既に13年経つので、あっさり審査完了になるのではないか。

vernakalantは心房選択的なIKur/INa遮断薬。第三相試験で優れた薬効を示したが、375人中8人で投与後2時間以内に懸念すべき低血圧や不整脈、洞停止が発生と、リスクも高い。9年前に心原性ショックで一人死亡したことを受けてFDAが治験停止を命じた経緯があるが、驚いたことに、今日も解除されていない由だ。

面白いのは、欧州やカナダでは承認されていることだ。今回の申請は海外での市販後医薬品監視データを安全性のエビデンスとする狙いだったが、12年前の諮問委員会では8人中6人が賛成だったのだから、時を経てエビデンスが積み重なるにつれて、懸念が強化されたのだろう。

前述のように、03年に藤沢薬品(現、アステラス製薬)が北米などの権利を取得したが、11年にMSDに譲渡。欧州はMSDが承認を取得したが、現在は提携が切れている。カナダはCipher Pharmaに事業売却した。

臨床試験の実施すら禁止されている薬が承認されるはずもなく、最後の賭けだったのだろう。Correvioは元々はCardiome Pharmaという名前だったが、18年にリストラの一環で株式を13年に子会社化した会社の株式と交換、社名も変わった。諮問委員会を経て、身売りを含む戦略的選択肢の検討を始めた。

リンク: Correvioのプレスリリース(pdfファイル)

CHMP、新薬二品の承認などを支持
(2019年12月13日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、12月の会合で、新薬二品の承認などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

この二品は、まず、ノバルティスのBeovu(brolucizumab)。VEGF-Aを標的とするヒト化抗体の短鎖フラグメントで滲出型加齢黄斑変性の治療に用いる。同社がジェネンテックからライセンスして米国外で販売しているLucentis(ranibizumab)は分子量が48キロダルトン、リジェネロン/バイエルのEylea(aflibercept)は115キロダルトンと通常の抗体(150キロダルトン前後)より小さいが、Beovuはさらに小さい26キロダルトンであることが特徴。

月一回のペースで3回、硝子体注射したあと、反応を見ながら、2~3ヶ月に一回に頻度を減らすことができる。第三相では過半が3ヶ月毎に進むことができた。この辺りが最大のセールストークになりそうだ。

一時期、ノバルティスの子会社だったアルコンが09年にESBA Techを買収して入手したコンパウンド。米国では今年10月に承認された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

次に、MSDのRecarbrio(imipenem、cilastatin、relebactam)。カルバペネム系抗生物質とデヒドロペプチダーゼ分解酵素阻害剤、そして新開発のベータラクタマーゼ阻害剤であるrelebactamの固定用量合剤。好気性グラム陰性微生物による感染症で、治療薬の選択肢が限られている成人に用いる。6時間毎に30分点滴静注する。

米国では7月に承認された。適応は、感受グラム陰性菌による複雑性尿路感染症または複雑性腹腔内感染症で、治療の選択肢が限られている成人に用いる。

EMAのプレスリリースでは感染部位を限定していないので、米国より適応が広くなるのかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大では、まず、Vyndaqel(tafamidis、61mgカプセル)を野生型/変異型のトランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATT-CM)の心血管疾患リスクを抑制する目的で使うことも支持された。現在はトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(TTR-FAP)に承認されている。

尚、日本ではビンダケル(タファミジスメグルミン)が3月に適応拡大承認済み。この当初の規格は20mgを4カプセル、一日一回服用だが、Vyndaqel(tafamidis)は一日一回、一カプセル服用なので、服用やハンドリングがやや楽。

リンク: ファイザーのプレスリリース

残りは抗癌剤。まず、イーライリリーのCyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)。EGFR活性化変異のある転移性非小細胞性肺癌の一次治療にTarceva(erlotinib)と併用することが肯定的意見を得た。第三相では偽薬とTarcevaの併用群と比べてPFSハザードレシオが0.59となり、初期のEGFR阻害剤に抵抗性を持つL858R変異にも有効だった。尤も、近年のEGFR阻害剤と比べてどうなのかは不明だ。

次に、ジョンソン・エンド・ジョンソンがジェンマブからライセンスして開発販売しているDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)。多発骨髄腫はこの二十年ほどに続々と新薬が登場したため併用レジメンも多種多様。今回の用法は、ASCT(自家幹細胞移植)を受ける新患の術前療法としてVelcade(bortezomib)、thalidomide、dexamethasoneと四剤併用するもの。臨床試験では厳格完全反応率が29%と三剤だけの群の20%を有意に上回った。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのErleada(apalutamide、和名アーリーダ)の適応に転移性去勢感受性前立腺癌を追加することも支持された。両側精巣摘出後の患者以外はゴナドトロピン放出ホルモンを併用する。米国は9月に承認、日本でも審査中。


【承認】


FDA、アマリンのEPA製剤の適応範囲を拡大
(2019年12月13日発表)

FDAは、アマリン(Nasdaq:AMRN)のVascepa(icosapent ethyl)の適応範囲を拡大した。7年前の初承認は重度高TG症(トリグリセライド値が500mg/dL以上)だけだったが、150mg/dL以上で心血管疾患の再発・初発リスクを持つ患者に変更した。LDL-C値はスタチンなどでガイドラインに基づく治療法で管理されていることが前提。

アマリンにとっては、7年前、船に引き上げる直前に網から逃げ出した適応を遂に捕獲したことになる。最初にこの背景を説明しておこう。

FDAには特別プロトコル評価(SPA)という制度がある。医薬品の販売承認・承認内容変更を獲得するためには臨床試験で臨床的な効用と安全性を検証しなければならない。だが、FDAの要求を鵜呑みにしていたら予算、人員、時間が膨らむので承認申請者としては最小の努力で最大の利益を得る効率的フロンティアを探る必要がある。そこで、承認申請用試験のプロトコルを検討する段階でFDAと協議し、事前に同意と議事録を取得するのがSPAだ。

このSPAが反故にされた事例がVascepaだ。アマリンはSPAに基づいてTG≧200mg/dLの異脂血症患者のTG値を下げる臨床試験を行い、承認申請したが、諮問委員会が500mg/dL未満の患者に関してはTG値低下が心血管リスク削減につながるというエビデンスは確立していないと断定、FDAがSPAを撤回したのである。

確かに、他のEPA/DHA製剤の心血管アウトカム試験は概ねフェールしており、成功したのはエパデール(EPA製剤)だけ、しかし食生活や肥満度が異なる日本で実施された試験で、初発予防試験であったためか心筋梗塞などの発生率があまり高くなく、そのため、治療効果も相対リスク削減率ならともかくNumber-needed to treatで見るとそれほど大きくなかった。

そこで、アマリンが行ったのが、今回の適応拡大のユニバースを組入れたREDUCE-IT試験だ。結果は、既報の通り、主要有害心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、脳卒中、冠再開通術、不安定狭心症による入院の複合評価項目)のリスクが鉱油入りの偽薬と比べて25%低下とクリーンヒットになった。

正直、成功するとは思わなかったが、それだけに、アマリンが重度TG血治療薬に甘んじずにキチンとした臨床試験を行った臨床的意義は大きい。早ければ来年にもGE薬が発売される可能性があるが、販促体制を強化するとともに、エパデールの持田製薬から新規高純度EPA製剤をライセンスするなど、証文の出し遅れを回避すべく注力している。

Vascepaが承認されているのは米国だけ。EUではEPA/DHA製剤が承認されており、この点をみても、EPAだけの製剤がいかに軽視されていたかがわかる。しかし、心血管アウトカム試験の成功を受けて、今月、EUでも販売承認申請された。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アマリンのプレスリリース

サレプタ、DMDのエクソン53スキップ薬が米国で承認
(2019年12月12日発表)

サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq: SRPT)のVyondys 53(golodirsen)がFDAにデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として加速承認された。DMDはジストロフィンの遺伝子変異が関与する症例が多い。タイプは様々だが、Vyondys 53はエクソン53変異など、エクソン53スキップ薬に応答するタイプに用いる。米国患者の8%程度が該当する模様だ。

同社は3年前にExondys 51(eteplirsen)がエクソン51スキップ薬に応答するタイプのDMDに承認された。こちらは13%程度が該当する由。尚、エクソンxxスキップ薬に応答するタイプが適応というのは回文のようで意味不明だが、サレプタはウェブサイトで応答する遺伝子変異型列挙している。調査が進むにつれて増える可能性もあるので、包括的な表現を使っているのだろう。

どちらも核酸系のアンチセンス薬で、変異のあるエクソンの周辺に結合してスプライシングを狂わせる。毒を以て毒を制すような話だが、うまく嵌ると、野生型とはやや異なるがある程度機能するできあがったジストロフィンが作れる。変異エクソンの塩基配列が減少すると、アミノ酸の暗号は連続した塩基3個で一組となるので、減少が3の倍数でない限り、後ろのエクソンにも影響する。この、上手く嵌るのが、標的部位ではないが応答する遺伝子変異だ。

さて、Vyondys 53の承認はややサプライズだった。同社のExondys 51はFDAの審査チームや領域別組織の上役がジストロフィン量というサロゲートマーカーだけでは臨床的便益を判定できないとして加速承認しないことを勧奨した。他社の類似した作用メカニズムの薬で、ジストロフィンは増えたが臨床的評価項目を採用した第三相がフェールしたことがあるからだ。しかし、小分子薬全体のヘッドが他に適切な治療法のない難病であることを考慮し、鶴の一声でゴーサインを出し、当時のFDA長官の支持を経て加速承認に至った。尚、加速承認の場合は市販後に臨床的効能を検討する第三相を成功させなけらばならない。

Vyondys 53はFDA諮問委員会の意見も二分した。EUのCHMPは承認に否定的意見をまとめた。本当に効くのか分からない、それなのに価格は高い(体重次第だが臨床試験データから推定すると年30万ドル)、それでも使いたい、というジレンマの塊のような薬だ。

承認に反対したFDAスタッフのうち数人は、抗議の意か、直後に民間に転じた。私がVyondysの承認を危ぶんだのは、Exondys 51と同様に、ジストロフィン量に基づく加速承認を求めたからだ。FDAに残った人たちがExondysのトラウマにどう影響されるか分からなかったからだ。案の定、一旦は審査完了通知が出た。

今回、サレプタのプレスリリースで分かったのは、VyondysもFDAの一部が反対したという事実だ。但し、審査チームは承認に賛成した。Exondysの承認審査に際してジストロフィン量を算出するにはウエスタン・ブロット法が最良と判定したが、Vyondysは(日本新薬のNS-065も)同法を採用している。

FDAは今年初めに組織変更を行ったため前回とやや異なるが、主として心血管腎臓薬や血液学薬の承認審査を担当するOffice of Drug Evaluation Iが審査完了通知を決定した。サレプタは調停手続きに進み、Office of New Drugのディレクターが受け入れたため再申請、審査担当チームが承認したという経緯だ。一言でいえば、前回は領域別組織が現場も上役も反対したが、今回は上役だけだった。

なぜ反対したのかはサレプタのリリースには記されていない。審査完了通知受領当時のリリースによれば、静注の点滴ポート関連感染症のリスクや、この薬の臨床試験では発生していないが高量投与した前臨床や同社の他の開発品で見られた腎毒性などが指摘された模様だ。これらの懸念はレーベルにも記されているので、特に変わったわけではないだろう。

EUでは今月のCHMPのアジェンダに挙がっていたが、意見は出ていない。

サレプタは、Exondys 51と同程度の価格で販売する予定。希少小児疾患用薬の開発インセンティブである優先審査バウチャーも取得した。Exondysの時はギリアドに1.5億ドルで売却した。

リンク: サレプタのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2019年12月8日

2019年12月8日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • SUO:筋層非浸潤性膀胱癌の遺伝子療法 
  • CTAD:バイオジェン、aducanumabの追加分析結果 
  • CTAD:Nuplazidの認知症精神症状治療試験が成功 
  • 新カルシニューリン阻害剤のループス腎炎試験が成功 
  • Ardelyx社、IBS-C治療薬を高リン血症に適応拡大申請へ 
  • Sage、経口抗鬱剤の第三相がフェール 
  • Immunomedics、EGP-1標的ADCを再承認申請 
  • ヴィーヴ、アタッチメント阻害剤を承認申請 
  • MSD、キイトルーダを上皮内膀胱癌に適応拡大申請 
  • 大日本住友が子会社化する会社の再生医療製品をFDAが承認せず 
  • テセントリク、NSNSCLC一次治療の新併用レジメンが米でも承認 


【新薬開発】


SUO:筋層非浸潤性膀胱癌の遺伝子療法
(2019年12月5日発表)

スイスのフェリング・ファーマシューティカルズは、nadofaragene firadenovecの第三相試験の結果をSUO(泌尿器腫瘍学会)で発表した。ハイグレードNMIBC(筋層非浸潤膀胱癌)でBCGに反応しなかった151人に膀胱内投与したところ、3ヶ月完全反応率は53%、12ヶ月反応持続率は24%だった。薬物関連有害事象の発生率は1.9%だった。

下記のKeytruda(pembrolizumab)の治験成績と比べてもそん色なく、競争力がありそうだ。問題は、コストだろう。

大学研究者が創製した遺伝子療法で、遺伝子組換え型アデノウイルス5型をベクターとしてインターフェロン・アルファ2bの遺伝子をin vivoで導入する。細胞感染を増強するために界面活性剤様分子Syn3を表面賦形剤として用いている。膀胱内注入で、反応を見ながら3ヶ月毎に、最大4回施行する。

FKD Therapies Oyが米国で承認申請、フェリングはブラックストーンとの合弁を通じて米国で販売するほか、海外で商業化するオプションも持っている。

リンク: FerGeneのプレスリリース(Business Wire)

CTAD:バイオジェン、aducanumabの追加分析結果
(2019年月日発表)

バイオジェンはCTAD(アルツハイマー病臨床試験会議)でエーザイと共同開発している抗アミロイドベータ抗体、BIIB037(aducanumab)の第三相軽度認知障害/軽度アルツハイマー病試験二本の詳細データを発表した。内容的には10月27日号で報告したものと概ね同じだ。

これまでの経緯を要約すると、今年3月にデータ監視委員会が中間評価で無効認定したが、その後の追跡データの盲検分析で、改定されたプロトコル通りに10mg/kgを月一回静注すれば症状の悪化をある程度抑制できる可能性が浮上。FDAとの相談を踏まえて、来年初めに米国で承認申請する予定。日欧でも協議している模様。

治療効果は小さい。

アルツハイマー病の代表的な治療薬であるアセチルコリン還元酵素阻害剤の効果は、イメージ的には、症状が半年前の状態に戻るが、そこからまた悪化しはじめる。aducanumabの効果は、症状は改善せず悪化が続くが偽薬よりは穏やか。前者の試験はADAS-cogのような症状評価スコアの変化を偽薬群と比較して治療効果を悪化の差分で表現するが、aducanumabの試験は比率で表現しているので、分かりにくいところがある。

そこで、高用量群と偽薬群の数値を使ってこの二つのデータを概観しよう。尚、CTADでは更に追跡したフル・データ・セットの解析結果も発表されたが、ここでは、話を単純化するために、内容的に大差ない10月に発表された解析データを使う。

追加解析で良好な結果が出たEMERGE試験では、78週間のCDR-SBスコアの悪化が偽薬比23%小さかった。ベースライン時点の平均値は各群2.5前後で、偽薬群は1.74低下(悪化)したが、高用量群はそれより0.40小さかった(逆算すると、1.3程度低下した)。ENGAGE試験では偽薬群より少し悪かったが有意差はない。ベースライン値の2.4前後から偽薬群は1.55低下、高用量はそれより0.03悪かったので1.58程度低下したことになる。

CDRは軽度認知障害やアルツハイマー病の代表的な症状・兆候夫々について0から3までの点数で評価する。点数の刻みは0.5または1.0で、今回の試験のように早期の患者の場合は、0.5が多いだろう。従って、治療効果が0.4というのは、一つの項目で一段階進むか進まないかの差に過ぎない。まあ、元々の症状が軽いので治療効果が小さいのは当たり前と言えば当たり前なのだが。

改善はしない、治療効果も目に見えるほどではないのは情けないが、如何せん、他に新薬がないのだから贅沢は言えない。昔、でもしか先生という流行語があったが、統計的に有意な差があるなら、でもしか新薬でも受け入れざるを得ない。

尤も、治験成績は一勝一敗なのだから、もっとたくさんの患者に投与した時にEMERGE試験の結果が再現されるかどうかは何とも言えない。本来なら治験をもう一本実施すべきだが、アンメット・メディカル・ニーズなので譲歩せざるを得ない。1mg/kgで開始して漸増で10mg/kgまで持っていくことが重要というバイオジェンの感受性分析がどの程度エビデンスとして受け入れられるかが承認審査のポイントだろう。

新薬開発に携わる企業にとってこの二本の試験の教訓は、階段は一歩ずつ足元を確かめながら上がらなければならない、ということだ。アダプティブ・デザインとか新しい手法には大いに挑戦すべきだが、アルツハイマー病のような、そうでなくても成功率が低く高リスクな分野で、見込み発車のリスクを取るべきではない。

上記試験で高用量群の10mg/kgの暴露が少なかったのは、被験者の2/3を占めるApoE4陽性患者について、ARIA(アミロイド関連画像異常)を懸念して、当初は目標用量を6mg/kgに抑えたからだ。その後、1、3、6、10mg/kgと24週間かけて漸増する手法を検討した試験が良好な結果になったことや、ARIAの臨床的な転帰がそれほど悪くなく投与を再開しても大丈夫と分かったため、治験プロトコルを改定したが、その時点では既に目標症例数の半分程度の組入れを終了していた。

バイオジェンによれば、中間無益性解析で続行しても無益という結果が出てしまったのは、追跡期間が短く10mg/kg未満しか投与しなかった患者・期間が多かったからだ。EMERGEとENGAGEの違いも、ENGAGE試験のほうが組入れスピードが早かったため10mg/kgの暴露が少なかった。この仮説を裏付けるように、一定以上暴露したサブグループの事後的分析は両試験とも類似した結果になっている。

もしこの仮説が正しいとすると、第三相試験の敗因は、漸増試験やARIA症例観察の結果が出るまでに開始したこと、つまり、拙速だったことになる。

新薬開発にリスクは付き物だが、だからこそ、必要以上にリスクを高めず一歩一歩、足元を確かめながら進まなければならない。

リンク: バイオジェンのCTAD関連ページ(プレゼン・ビデオやスライドのリンクあり)

CTAD:Nuplazidの認知症精神症状治療試験が成功
(2019年12月4日発表)

ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)は、Nuplazid(pimavanserin tartrate)の第三相HARMONY試験の結果をCTAD(アルツハイマー病臨床試験会議)で発表した。認知症患者の精神症状を治療する試験で、中間解析で成功認定されたことが9月に発表済み。今回発表されたデータも良さそうな内容で、オフレーベル使用していた医師は一安心だろう。

Nuplazidは5-HT2Aインバース・アゴニスト。16年に米国でパーキンソン病の精神症状治療薬として承認された。HARMONYは幻覚や妄想などの精神症状を示す認知症患者392人を組入れて、まず、全員に12週間に亘って一日一回、34mgを目標に滴定で、経口投与した。次に、反応した患者を組入れて26週間の無作為化割付二重盲検偽薬対照離脱試験を行い、再発までの期間を比較した。

結果は、オープン・レーベル期間の反応率は62%だった。スコアは第8週時点でベースライン(平均24.4)から63%、第12週時点では75%、改善した。次に、偽薬対照期間の再発ハザードレシオは0.353で高度に有意だった。尚、主観的評価項目なので独立裁定委員会が査読した。

ACADIAは来年上期にFDAと適応拡大申請に向けて相談する考え。

非定型向精神薬を認知症に用いた試験では死亡率が高まる傾向が見られ、Nuplazidのレーベルにも警告が記載されている。認知症患者の精神症状は本人だけでなく介護者にとっても深刻な危険なので、もしNuplazidの懸念が払拭されたなら、ニーズは大きいだろう。

リンク: ACADIAのプレスリリース

新カルシニューリン阻害剤のループス腎炎試験が成功
(2019年12月4日発表)

カナダのAurinia Pharmaceuticals(Nasdaq:AUPH)は、voclosporinの第三相ループス腎炎試験が成功したと発表した。標準療法であるMMFと低量ステロイドをベースに偽薬または23.7mgを一日二回、52週間に亘って経口投与したところ、腎反応率(eGFRや尿蛋白クレアチニン・レシオなどに基づいて評価)が各22.5%と40.8%となり、統計的に有意な差があった。二次的評価項目もすべて成功した由。20年上期に米国で承認申請する考え。

voclosporinは、13年に同社と合併したIsotechnikaのパイプラインで、カルシニューリン阻害による免疫抑制作用を持つ。cyclosporinと異なり腎毒性や血圧・脂質影響が小さいことが期待されている。ロシュがライセンスして臓器移植後拒絶反応抑制剤として開発したが08年に権利返還した。開発歴が長いので知財対策や、医療保険説得に向けて、既にGE化したcyclosporinとの差別化も重要な課題になるだろう。

リンク: Auriniaのプレスリリース

Ardelyx社、IBS-C治療薬を高リン血症に適応拡大申請へ
(2019年12月9日発表)

Ardelyx(Nasdaq:ARDX)は、Ibsrela(tenapanor)を透析期慢性腎疾患の高リン血症の治療に用いる第三相PHREEDOM試験が成功したと発表した。全員に26週間投与した後に、12週間の二重盲検偽薬対照離脱試験を行ったもので、血清リン濃度が偽薬比1.4mg/dL低かった。通常の治療試験は既に二本、成功しており、同社は20年央に米国で適応拡大申請する考え。

IbsrelaはNHE3(ナトリウム水素交換輸送体3)阻害剤。ナトリウムが腸で吸収されるのを抑制する。経口剤だが殆ど吸収されず、局所的に作用する。私は見落としていたが、今年9月に米国でIBS-C治療薬として承認された。高リン血症における作用機序は、ナトリウム吸収が減少すると細胞内のプロトン濃度が上昇、細胞間接着が強固になりリンが吸収されにくくなる由。

12年にアストラゼネカがNHE3阻害剤プログラムをライセンスしたが15年に返還。日本は17年に協和発酵が心腎疾患(高リン血症を含む)分野の開発販売権を取得、今年2月に透析期慢性腎疾患高リン血症の第二相に着手した。

リンク: Ardelyxのプレスリリース

Sage、経口抗鬱剤の第三相がフェール
(2019年12月5日発表)

Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)は、SAGE-217(日本などの権利を持つ塩野義製薬の開発コードはS-812217)の第三相鬱病治療試験がフェールしたと発表した。作用機序が斬新で投与開始後数日で効果が出始めるという抗鬱剤には珍しい長所を持っているため注目されていたが、反動で、株価が暴落した。塩野義製薬はこのところ、パッとしない話が続いている。

SAGE-217は、今年3月に米国で出産後鬱病の治療薬として承認されたZulresso(brexanolone)と同様な、GABA受容体の選択的陽性アロステリック調節剤。Zulressoは60時間連続点滴静注だが、SAGE-217は一日一回経口投与であることが長所で、産後鬱と大うつ病の両方に開発されている。産後鬱の第三相は既に成功した。

今回の第三相は偽薬、20mg、または30mgを14日間投与して15日目のHAM-Dスコアを比較したところ、20mgは偽薬並みだった。30mgは12.6ポイント低下したが偽薬の11.2ポイントと有意差はなかった。

同社は様々な二次的評価項目やサブグループ分析のデータを公表、治療効果が否定されたわけではないことを示唆した。中でも、血液検査で薬剤を検出されなかった症例を除けば有意差が出るという発見は興味深い。少数の治験施設で見られた模様であり、もし何らかのプロトコル違反や手違いが原因で試験薬を投与されなかった患者が発生したのならば、当該医療施設の症例全部を除外した解析を行っても良いのではないか。

抗鬱剤の第三相はフェールが珍しくなく、通常は、三本以上実施したり、承認されている薬を投与する参考群を設定して、もし実薬群も有意差が無かったら薬ではなく試験がフェールしたと判定する。しかし、SAGE-217の大うつ病の第三相は一本だけ。それだけ自信があったのだろうが、この用途の承認申請は難しくなった。薬効確認試験は他に二本進行中だが、結果が判明するのは不眠症併発大うつ病の試験が来年下期頃、うつ再発予防試験は21年だろう。

以上、まとめると、効くかどうかは未だ分からないが諦めるのは早い。

出産後鬱病で承認申請するのは可能だろうが、Zulressoとの差別化が課題になるだろう。

尚、両剤とも稀に失神が起きるため、出産後鬱病に使う時は周りに誰もいない時に子供を抱き上げない方が良い。SAGE-217の大うつ病試験では、夜に服用することで転倒リスクの抑制を試みた。20mgをテストしたのも忍容性改善を期待したものだが、薬効がなかった。

リンク: Sageのプレスリリース


【承認申請】


Immunomedics、EGP-1標的ADCを再承認申請
(2019年12月3日発表)

Immunomedics(Nasdaq:IMMU)は、IMMU-132(sacituzumab govitecan)をFDAに再承認申請したと発表した。乳癌などで発現するEGP-1に結合する抗体とSN-38(irinotecanの活性代謝物)をリンカーで結合した抗体薬剤複合体(ADC)で、転移性トリプル・ネガティブ乳癌の三次治療第二相試験でORR(客観的反応率、独立放射線学的評価)が110人中34人、31%となり、メジアン反応持続期間は9.1ヶ月だった。

昨年5月に承認申請し、優先審査指定を受けたが、今年1月に審査完了通知を受領した。FDAは新薬承認審査に際して生産拠点の査察を行うが、昨年8月の査察でCMC(化学、製造、管理)に関する検査データ改ざん等が判明したため。

2月にCEOが退任。その前のCEOはシアトル・ジェネティクスとのライセンス契約に関するゴタゴタを経て退任しており、3年の間に二人が相次いで失脚する事態になった。雨降って地固まる、今度こそ、とは言い難い会社だ。

リンク: Immunomedicsのプレスリリース

ヴィーヴ、アタッチメント阻害剤を承認申請
(2019年12月5日発表)

GSKは、ファイザーや塩野義製薬とのHIV薬合弁会社であるヴィーブヘルスケアがGSK3684934(fostemsavir)を多剤抵抗性HIV感染症のサルベージ療法としてFDAに承認申請したと発表した。欧州でも申請予定。

15年にBMSから取得したHIV/AIDS領域パイプラインの一つで、BMSが得意としていたアタッチメント・インヒビター。体内で活性成分のtemsavirに変換され、HIV-1のエンベロープのgp120に結合し、ウイルスがCD4陽性細胞に結合し侵入するのを妨げる。

標準的な薬に不応不耐な患者を組入れて、他の薬と併用で600mgを一日二回、経口投与した試験では、48週ウイルス抑制成功率(40コピー/mL未満に低下)が54%、CD4カウントが139個/mm3増加と良好な結果になった。深刻有害事象の発生率は35%、有害事象による治験離脱率は7%だった。

リンク: GSKのプレスリリース

MSD、キイトルーダを上皮内膀胱癌に適応拡大申請
(2019年12月2日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をNMIBC(筋層非浸潤膀胱癌)用薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は20年1月。12月17日に腫瘍学薬諮問委員会に上程される予定。

NMIBCのうち、標準療法であるBCGに応答せず、膀胱全摘術が不適、または患者が望まない、ハイリスク上皮内癌を想定している。乳頭腫瘍の有無は不問。第二相KEYNOTE-057試験のコフォートAのデータに基づくもので、今年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると、3ヶ月完全反応率(中央評価)は102人中41.2%、メジアン反応持続期間は13ヶ月、G3/4治療時発現有害事象発現率は13%だった。

諮問委員会のアジェンダは不明だが、例えば、「患者が望まない」という要件をどの程度厳格に設定するか、が考えられる。余命の点でベストなのは全摘だがQOL面の懸念から拒否する患者が少なくない。Keytrudaが使えるようになったら、手術を受ける患者がもっと減るかもしれない。

3ヶ月完全反応率(中央評価)を主評価項目とする単群試験に基づいて承認申請することは、FDAが18年2月に発表した開発ガイダンス資料に即しているので、おそらく論点にはならないだろう。本承認を取れるか、それとも加速承認に留まり改めて対照試験で延命効果を確認する必要があるのかはケースバイケースのようなので、諮問事項に上がるかもしれない。

抗PD-1/PD-L1抗体製品のうち幾つかは進行性尿路上皮腫向けに承認されているが、承認後延命効果確認試験がフェールしたり、PD-L1低発現のサブグループのデータが悪かったり、意外な展開になっている。NMIBCの承認審査が慎重になっても不思議はないかもしれない。

筋層非浸潤膀胱癌ではapaziquoneなどが承認申請されたが、審査完了通知に留まった。現時点でも、KeytrudaのほかにFerringのINSTILADRIN(nadofaragene firadenovec)が承認審査中、Sesen Bio(Nasdaq:SESN)もviciniumのローリング承認申請を今月中に着手する予定と、複数のパイプラインがあり、Keytrudaの諮問委員会はインプリケーションがありそうだ。

リンク: MSDのプレスリリース


【承認審査・委員会】


大日本住友が子会社化する会社の再生医療製品をFDAが承認せず
(2019年12月5日報道)

Roivant SciencesグループのEnzyvant社は、RVT-802を先天性無胸腺症治療薬として米国で承認申請し、今年6月に受理された。RMAT(再生医療先端治療)指定第一号で、ブレークスルー・セラピー指定も受けているため注目されたが、各種報道によると、審査完了通知を受領した。生産プロセスや生産拠点査察時の指摘事項がボトルネックになった模様。

Roivantは今年9月に大日本住友製薬と戦略的提携で基本合意し、大日本がRoivantの株式を10%以上取得するとともに、Enzyvantを含む開発子会社5社を子会社化することを決めた。Enzyvantは、年内に見込まれる子会社化の後に今後の対応策を決める予定。

リンク: ロイターのプレスリリース


【承認】


テセントリク、NSNSCLC一次治療の新併用レジメンが米でも承認
(2019年12月4日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab)の新併用レジメンがFDAに承認されたと発表した。転移性NSNSCLC(非扁平上皮性非小細胞性肺癌)の一次治療にcarboplatinおよびnab-pclitaxelと併用する。EGFRやALKに変異を持ち分子標的薬が適応になる患者は除く。

承認の根拠となったIMpower 130試験では、メジアン生存期間が18.6ヶ月とcarbopatinとnab-paclitaxelだけの群の13.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.80、p=0.0384だった。PFS(無進行生存期間、担当医評価)はメジアン値は各7.2ヶ月と6.5ヶ月で大差ないがハザードレシオは0.75、p=0.0024となっている。オープンレーベル試験なので主観バイアスが生じにくい前者の解析のほうが重要だろう。

処方薬ユーザーフィー法に基づく審査期限は9月だったが、期限超過後に3ヶ月延期された。理由は不詳。欧州では9月に承認されている。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。

2019年11月30日

2019年12月1日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 武田薬品、デング熱ワクチンの第三相が成功 
  • アストラゼネカ、FDAがイミフィンジの適応拡大申請を受理 
  • インサイト、FDAがFGFR阻害剤の承認申請を受理 
  • 伝染性軟属腫治療薬が米国で承認申請受理 
  • 膀胱癌の遺伝子療法が米国で承認申請受理 
  • ロシュの脊髄筋委縮症用経口剤が米国で承認申請受理 
  • FDA、鎌状赤血球症治療薬を承認 


【新薬開発】


武田薬品、デング熱ワクチンの第三相が成功
(2019年11月25日発表)

武田薬品は、デング熱ワクチンとして開発しているTAK-003(別名DENVax)の第三相試験、TIDESの最終解析結果をASTMH(米国熱帯医学会)第68回年次学術集会で発表した。11月にNew England Journal of Medicine誌に掲載された初回解析結果と比べてワクチン効率がやや低下したが、1型と2型のウイルスに感染するリスクに関しては高い効果が再確認された。一方、3型は数値がかなり低下し、特に、ベースライン時点でデングウイルスに対する血清反応が陰性、つまり、デング熱感染経験がないと推定される青少年に関しては、ワクチン効率はマイナスだった。また、最終解析でも4型感染者は少なく、症例不足で有意な結果にならなかった。

ワクチン効率(%)
  ワクチン効率 95%信頼区間
最終解析 73.3 66.5~78.8
(初回解析) 80.2 73.3~85.3
デング熱入院 90.4 82.6~94.7
ウイルス学的に確認された重症例 2.3 -977.5~91.1
サブグループ分析:
デング感染歴あり 76.1 68.5~81.9
なし 66.2 49.1~77.5
ウイルス型別:
1型 69.8 54.8~79.9
2型 95.1 89.9~97.6
3型 48.9 27.2~64.1
(うち、感染歴あり) 61.8 43.0~74.4
(無し) -68.2 -318.9~32.4
4型 51 -69.4~85.8

TAK-003は弱毒化した2型デングウイルスをバックボーンとして1型、3型、4型の構造蛋白を導入したもの。13年にInvitragenを企業買収して入手した。90日おいて2回皮注する。TIDES試験の初回解析は初回接種後15ヶ月間、最終解析は21ヶ月間、追跡したものだが、総計では4年半追跡するので、今後、3型や4型に関する長期追跡データがまとまるかもしれない。

もう一つ重要なテーマである、未感染者がワクチン接種後に感染すると重篤化するリスクがあるのかどうかについても、サンプル数が増えるにつれて結論が出るだろう。

ワクチンを必要とする国は感染経験者が多いので、サノフィのデング熱ワクチンDengvaxiaのように経験者限定でも多くの人に便益をもたらすが、血清検査は手間や費用が掛かり、自己申告に委ねるのは、デングは自覚症状がない場合も多いようなので、誤判定の懸念を伴う。TAK-003が感染未経験者にも安全であることが確認できれば、事前検査不要になるので、武田にも公衆にも大きな意義があるだろう。

しかし、楽観するのは早いのではないか。過去にタイで行われた疫学研究では、二回目のデング感染で重症化した症例は一回目と異なる型の感染が多かった。TAK-003は2型ウイルス・ベースで、予防効果も2型に対するものが最も高く、もし『キプロスの蜂』現象が起きるなら、一回目は2型による感作となる。3型ウイルス感染症が偽ウイルス群より多かったという現象は、3型ウイルスの侵入例が多かったのではなく、医療施設で受診するほどの重さの症状が発生したことを意味する。結局、「一回目と異なる型に感染した重症例」に近い。

人々に役に立つ情報を提供する人たちは、嘘も方便とばかりに、甘い話ばかりをしてしまうことがある。だが、上手く行っているうちは良いが、良かれと思ってやっていたことが、ひとたび、『但し、』以下に言及せざるを得ない事態になった場合、大衆の信頼が不信に変わってしまう。ヒトパピローマウイルスワクチンだって、日本より先に発売された多くの国で稀だが深刻な神経性障害が報告されていた。インフルエンザワクチンで筋注に慣れている国でもそうなのだから、日本も、長所も短所もキチンと説明していれば、ワクチンとの因果性が確認されていない有害事象が表面化しても、過敏反応を誘導しなくてすんだのではないか。

閑話休題。武田は20年後半に承認申請する予定。

リンク: 武田のプレスリリース


【承認申請】


アストラゼネカ、FDAがイミフィンジの適応拡大申請を受理
(2019年11月29日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)を進展型小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。審査期限は20年第1四半期とだけ開示された。

小細胞性肺癌は肺癌の1~2割を占め、その2/3は進展型と診断される。申請の根拠となる第三相CASPIAN試験では、etoposideと白金薬を併用する標準療法に更にImfinziを追加したところ、メジアン生存期間が13.0ヶ月と標準療法だけの群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、統計的に有意だった。有害事象治験離脱率は両群とも9.4%だった。

尚、この試験は盲検ではなく、三剤併用群は標準療法レジメンを最大4サイクル施行、標準療法群は6サイクル施行し予防的頭蓋内照射も行った。また、抗CTLA4抗体tremelimumabと4剤併用する群も設けられた。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

インサイト、FDAがFGFR阻害剤の承認申請を受理
(2019年11月27日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、INCB54828(pemigatinib)をFDAに承認申請し受理されたと発表した。治療歴を持つFGFR2融合・再編成陽性の局所進行性・転移性胆管癌に用いられる見込み。優先審査を受け、審査期限は来年5月30日。

pemigatinibは選択的FGFR(線維芽細胞成長因子受容体)阻害剤。治療歴を持つ局所進行性・転移性胆管癌の第二相試験で13.5mgを一日一回、2週間オン、1週間オフのスケジュールで経口投与したところ、FGFR2融合・再編成を持つ患者を組入れたコフォートのORR(客観的反応率、独立中央放射線学的評価)が107人中36%、メジアン反応持続期間が7.5ヶ月と、比較的良好な結果が出た。

G3以上の治療時発現有害事象は低リン血症(12%)、漿液性網膜剥離(1%)などで、臨床的に深刻なものではなかった模様。尚、軽度のものも含めれば最も多いのはG1、G2の高リン血症だった。

第三相は一次治療におけるPFS(無進行生存期間、独立評価)をgemcitabine・cisplatin併用レジメンと比較する試験を今年6月に開始した。

FGFR阻害剤は、スイスのBasilea Pharmaceutica(SIX: BSLN))がArQule(Nasdaq:ARQL)からライセンスしたderazantinibなど複数のコンパウンドの第二相FGFR2融合・再編成陽性胆管癌試験の結果が今年、発表された。pemigatinibと前後して承認申請されることになりそうだ。

リンク: インサイトのプレスリリース

伝染性軟属腫治療薬が米国で承認申請
(2019年11月27日発表)

Verrica Pharmaceuticals(Nasdaq:VRCA)は、VP-102(cantharidin)局所用溶液を伝染性軟属腫治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は2020年7月13日。

伝染性軟属腫はポックスウイルスの一種に接触感染することで発生する皮膚病で、丘疹が通常は一ヶ所に群発する。治るまで1年、場合によってはそれ以上、かかることがある。米国の推定患者数は600万人で子供が多い。承認されている治療薬はない。

カンタリジンは一部の昆虫が持つ物質で、人が触れると水疱ができることを逆用し、いぼの治療などに用いられることがある。VP-102は特許性局所用溶液で、文献データなど他者のデータに頼らない505(b)(1)条項に基づく承認申請だ。尋常性疣贅などの臨床開発も進行中。

リンク: Verricaのプレスリリース

膀胱癌の遺伝子療法が米国で承認申請
(2019年11月25日発表)

スイスのフェリング・ファーマシューティカルズは、ブラックストーン系のファンドと遺伝子療法の開発販売を担う合弁会社を設立したこと、そして、当該遺伝子療法は既に米国で承認申請し受理されたことを発表した。優先審査指定を受ける。

この遺伝子療法薬は、大学研究者が創製したnadofaragene firadenovec。遺伝子組換え型アデノウイルス5型をベクターとしてインターフェロン・アルファ2bの遺伝子をin vivoで導入する。細胞感染を増強するために界面活性剤様分子Syn3を表面賦形剤として用いている。BCG不応のハイグレード筋層非浸潤性膀胱癌に3ヶ月に一回、膀胱内注入する。第三相試験の結果は12月にSUO(泌尿器腫瘍学会)で発表される予定。

フェリングは、米国承認時にFKD Therapies Oyから世界商業化権を取得するオプションを持っている。今回、米国における販売とグローバルな開発を行う会社としてFerGeneを設立、ブラックストーン・ライフ・サイエンスが4億米ドル、フェリングは最大で1.7億ドルを投資する予定。

リンク: フェリングのプレスリリース

ロシュ、脊髄筋委縮症の経口剤を承認申請
(2019年11月25日発表)

ロシュは、RG7916(risdiplam)を米国で脊髄筋委縮症(SMA)治療薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年5月24日。欧州でも今年中に承認申請されるのではないか。

SMAはSMN1遺伝子の欠損・不全によりSMN蛋白が低下、身体機能障害が発症する。新生児で診断される場合も、成長後の場合もあり、発症が早いほど重症度が高い傾向がある。治療は過去3年間にバイオジェンがSMN2アンチセンス薬Spinraza(nusinersen)を、ノバルティスがSMN1遺伝子療法Zolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)を、相次いで発売。選択肢が増えている。

risdiplamはSMN2スプライシング修飾剤とされる。DNAを転写したRNAから必要な部分を抜き出してメッセンジャーRNAを作成するプロセスに介入して、得率が低いSMN2に基づくSMN生成を改善する。先行二剤と異なり経口液なので使いやすい。新生児発症の1型に加えて、2型、3型にも承認申請した。

元々はPTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)がSMA財団と協力して研究開発したもので、ロシュは11年にPTCのSMAプログラム全体をライセンスした。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認】


FDA、鎌状赤血球症治療薬を承認
(2019年11月25日発表)

FDAは、Global Blood Therapeutics(Nasdaq:GBT)のOxbryta(voxelotor)を12歳以上の鎌状赤血球症の治療薬として加速承認した。審査期限より3ヶ月前倒しだ。

鎌状赤血球症は米国で10万人程度が罹患する希少疾患。アフリカ系が比較的多いとされ、世界では2000万人以上と推測されている。赤血球が鎌状に変形・重合し、毛細血管などを閉塞し疼痛や臓器障害などを合併する。Oxbrytaは前臨床で赤血球の重合・鎌状化を阻害し、変形能や流動性を改善する作用を示した。第三相試験では、一日一回、経口投与したところ、承認用量である1500mgの群では51%の患者でヘモグロビン値が1g/dL以上増加した(偽薬群は6%)。治療関連深刻有害事象の発現率は3%だった(同1%)。

FDAが10日前に承認したノバルティスのAdakveo(crizanlizumab-tmca)は、第三相で鎌状赤血球症の血管閉塞性疼痛クリーゼを抑制する効果が確認済みだが、Oxbrytaは疼痛や臓器障害を抑制する臨床的効用が確立していないため、加速承認となった。フェーズIVコミットメントとして、年内に、2-15歳の患者を組入れてTCD(経頭蓋ドップラー)検査でフロー・ベロシティーの変化を計測する試験に着手する予定。この検査は脳梗塞リスクの評価に使えるとのことだ。

Adakveoのような対症療法よりもOxbrytaのような根源治療のほうが、将来的に根治の夢があるので、印象が良い。しかし、患者にとって重要なのは現在の苦痛や不便さ、将来の合併症の不安を解消することだ。フェーズIVが成功すれば、対象年齢拡大だけでなく薬自体のパーセプションも向上するだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: GBTのプレスリリース





今週は以上です。

2019年11月24日

2019年11月24日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュ、テセントリクとアバスチンの併用は肝細胞腫に有効 
  • レルゴリクスはグローバル前立腺癌試験も成功 
  • AHA:RNA介入薬でLDL-Cが半減 
  • バイエル/MSD、sGC刺激薬の第三相心不全試験が成功 
  • BMS、ヤーボイのオプジーボ併用915試験がフェール 
  • FDA、韓国社の抗癲癇薬を承認 
  • FDA、アストラゼネカのbtk阻害剤をCLLにも承認 
  • FDA、アルナイラムの急性肝性ポルフィリン症治療薬を承認 
  • MSDのキイトルーダ、EUでも頭頚部癌一次治療に承認 

(FDAがSK Biopharmaceuticalsの抗癲癇薬を承認した件を11月25日に追加しました)

【新薬開発】


ロシュ、テセントリクとアバスチンの併用は肝細胞腫に有効
(2019年11月22日発表)

ロシュは、シンガポールで開催中のESMO(欧州臨床腫瘍学会)アジア大会で、Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)とAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)の併用を切除不能肝細胞腫の一次治療に充てた第三相IMbrave150試験の結果を発表した。全生存期間はNexavar(sorafenib)群比ハザードレシオが0.58、p=0.0006、メジアン値は未達(Nexavar群は13.2ヶ月)。PFS(無進行生存期間、独立評価)は0.59、p<0.0001、メジアン値は6.8ヶ月(同4.3ヶ月)と、高価なバイオ薬の二枚使いに相応しい効果を発揮した。

グレード3/4有害事象の発現率は57%(55%)、致死的有害事象は5%(6%)で大差なかった。

試験が成功したこと自体は10月に発表済み。ロシュは欧米や患者数の多い中国などで適応拡大申請する見込み。

VEGFやその受容体を阻害する薬は様々な腫瘍に承認されているが、肝細胞腫は試験結果が区々で、Nexavarは成功した稀有な例だ。ところが、近年、抗PD-1/PD-L1抗体併用で好成績を上げる今回のような事例が増えており、復活しつつある。

リンク: ロシュのプレスリリース

レルゴリクスはグローバル前立腺癌試験も成功
(2019年11月19日発表)

Myovant Sciences(NYSE:MYOV)は、relugolixの第三相前立腺癌試験が成功したと発表した。米国で2020年4月に子宮筋腫治療薬として承認申請の予定だが、前立腺癌でも同年4-6月期に申請する考え。子宮内膜症も来年上期に第三相が開票するので、順調なら3適応症で次々申請となりそうだ。

relugolixは武田薬品が創製したゴナドトロピン放出ホルモン受容体拮抗剤。日本で今年1月に子宮筋腫治療薬レルミナ錠として承認され、婦人科における販売権を持つあすか製薬が販売中。

Myovantはヘッジファンド出身のVivek Ramaswamyが創設したRoivantグループの会社で、アジアの一部を除く世界開発販売権を保有している。

今回の第三相は、アンドロゲン感受性進行前立腺癌を組入れて、初回は360mg、その後は120mgを一日一回、経口投与する効果をleuprolide acetateの3ヶ月毎皮注/筋注用製剤と比較したオープンレーベル試験。主評価項目の第5週から48週までのテストステロン抑制成功率は96.7%、95%下限は94.9%となり、FDAが要求する90%以上をクリアした。対照群は88.8%で、EMAが要求する非劣性解析が成功した。

二次的評価項目では作用のオンセットの速さが示唆された。転移性サブグループを対象に、去勢抵抗性が生じたり死亡したりするリスクの比較を20年7-9月期に行う予定。

有害事象発現率は各群92.9%と93.5%、治療時発現有害事象による離脱は3.5%と2.6%で大差なかった。主要有害心血管イベント(全死亡、心筋梗塞、卒中:査読はなし)の発現率は2.9%対6.2%で、p値は記されていないが少なくとも数値上は小さかった。

リンク: Myovantのプレスリリース

AHA:RNA介入薬でLDL-Cが半減
(2019年11月18日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)はアルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: ALNY)からinclisiranをインライセンスして第三相試験を行っている。三本の第三相LDL-C治療試験が成功し米国では今四半期に、欧州でも来年第1四半期に承認申請する計画。9月のESC(欧州心臓学会)におけるORION-11試験(米国外の1617人のアテローム性心血管疾患患者が対象)の結果発表に続いて、AHA(米国心臓協会)科学部会で、米国の医療施設で1561人のアテローム性心血管疾患を組み入れたORION-10試験と、482人のヘテロ接合性家族性高脂血症を組入れたORION-9試験の結果が発表された。

アルナイラムはsiRNA(短RNA干渉薬)に特化した新薬開発企業で、18年に欧米でOnpattro(patisiran、和名オンパットロ)がトランスサイレチン調停アミロイドーシスの治療薬として承認された実績を持つ。inclosiranもsiRNAで、標的はアムジェンの抗体医薬、Repatha(evolocumab)などと同じPCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)。肝臓のLDL-C受容体の零落・分解を促進するPCSK9の発現を妨げる。Repathaは2週毎または月一回皮注だが、inclisiranは2回目は3ヶ月後、3回目以降は半年毎と作用が長期間持続することが特徴。

第三相試験はスタチンを服用してもLDL-C値が十分に低下していない患者を対象としており、アテローム性心血管疾患試験のベースライン値は米国外試験が107mg/dL、米国試験は105mg/dL、LDL-C受容体の遺伝子などに変異がありLDL-C値が著しく高い家族性高脂血症の試験では151mg/dLだった。三本とも、第510日時点のLDL-Cが50%前後低下し、偽薬比でも同程度の治療効果があった。効果の面ではRepathaなどと遜色ない。

安全性面では肝機能検査値異常や腫瘍の発生率は偽薬群と大差なかった。心血管イベント数は米国試験では数値上少なかったが、心血管死や致死的/非致死的心筋梗塞・卒中は数値上多かった。
家族性高脂血症試験では心血管イベント数が偽薬群並みだった。米国外試験では心筋梗塞や卒中がかなり少なかったので三本合わせれば群間差は縮小するが、FDAにとっては米国外試験より米国試験のシグナルのほうが重要なので、承認審査における論点の一つになりそうだ。

リンク: MDCOのORION-9試験に関するプレスリリース(11/18付)
リンク: MDCOのORION-10試験に関するプレスリリース(11/16付)

バイエル/MSD、sGC刺激薬の第三相心不全試験が成功
(2019年11月18日発表)

バイエルとMSDは、共同開発している可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬、BAY 1021189/MK-1242(vericiguat)の第三相心不全アウトカム試験が成功したと発表した。データは2020年に学会発表の予定。代理マーカーを主評価項目とした後期第二相は二本ともフェールしたのでサプライズの結果だ。

この、VICTORIA試験は、駆出力低下心不全で心不全入院から6ヶ月以内または入院しなくても利尿薬静注を受けた患者5050人を組入れて、心血管死や心不全入院のリスクを偽薬と比較した。vericiguatは2.5mg一日一回経口投与で開始して、5mgそして10mgに滴定した。Canadian VIGOUR CentreやDuke Clinical Research Instituteが二社とコラボして欧米日中42ヶ国の医療施設で実施した、アカデミック色の強い試験だ。

後期第二相試験は駆出力低下と維持の二本を実施、NT-pro BNPの変化を調べたが、有意差には届かなかった。但し、第三相で採用した高用量の群は好ましい傾向が出ていた。

バイエルはsGC刺激薬の開発で先行していて、Adempas(riociguat、和名アデムパス)を肺高血圧症治療薬として実用化した。心不全ではcinaciguatの後期第二相が実施されたが、高用量で低血圧が増加、中止された。vericiguatも第二相で低血圧が見られたので、第三相データのチェックポイントになるだろう。

リンク: バイエルのプレスリリース

BMS、ヤーボイのオプジーボ併用915試験がフェール
(2019年11月20日発表)

BMSは、第三相CheckMate-915試験の主評価項目の一つがフェールしたと発表した。ステージIIIb/c/dまたはステージIVの黒色腫で完全切除を受けた後のアジュバント療法として、Yervoy(ipilimumab)とOpdivo(nivolumab)を併用する便益を偽薬・Opdivo併用と比較したが、PD-L1が1%未満のサブグループのRFS(無再発生存期間)に有意差はなかった。もう一つの主評価項目であるintent-to-treatの解析が残っているため、この治験は盲検のまま進行中。

後者の解析が成功する可能性はどうか?OpdivoはPD-1をブロックしてPD-L1が結合できなくする薬なので、PD-L1陰性の患者のほうがYervoyを追加する効果が大きくなっても不思議はない。逆に言えば、PD-L1陰性に無効なら陽性を含むintent-to-treat解析が成功するとは考えにくい。

尤も、悪性黒色腫ではPD-L1を気にしなくても良いのかもしれない。この二剤は単剤投与が承認されているが、Opdivoの承認はこの二剤を直接比較したCheckMate-238試験に基づくものだ。治験論文によると、12ヶ月無再発生存率はPD-L1発現が5%以上のサブグループでも5%未満のグループでもOpdivoが上回った。

今回の発表で奇妙なのはサブグループ分析のほうが先に結果が出ていることだ。PD-L1陽性の組入れ開始が遅れたとか何か特殊な事情があるのかもしれない。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認】


FDA、韓国社の抗癲癇薬を承認
(2019年11月21日発表)

FDAは、韓国のSK BiopharmaceuticalsのXcopri(cenobamate)を成人癲癇患者の部分発作抑制薬として承認した。韓国企業が自社で発見し米国で導出・提携なしに単独で申請した新薬の承認は初めて。DEA(麻薬取締局)のスケジューリング指定を経て20年第2四半期頃に発売する計画。

作用機序はGABA-A受容体を調節して発作を阻害する電流を増強するとともに、と持続性ナトリウム電流を阻害し興奮性電流を減少する。第二相試験に基づく承認で、部分発作の管理不良患者を組入れて100mg、200mg、400mgの何れかを一日一回経口投与する効果を偽薬と比べたところ、ベースライン(4週間平均で8.5回)比35-55%減少した(偽薬群は24%減少)。発作回数半減成功率は40-64%だった(同25%)。

主な有害事象は傾眠など。深刻なものではDRESSで死亡も1例あった。全身性過敏反応の一種で、他の原因薬剤としてはcarbamazepineやallopurinolなどが知られている。SK社は12.5mgで開始して2週毎に緩徐滴定する新用法の安全性確認試験を1339人を組入れて実施、発生をゼロに抑えることができたが、FDAは注意を呼び掛けた。新用法では12.5mg、25mg、50mg、100mg、150mg、200mgと増量していくため、最初の6週間は治療効果が確認されていない用量しか投与されず、目標維持用量に達するまで10週間以上掛かることになる。

QT間隔が20ミリ秒以上短縮するリスクもある。FDAは抗癲癇薬のクラス警告である自殺思慮も警告した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: SK社のプレスリリース

FDA、アストラゼネカのbtk阻害剤をCLLにも承認
(2019年11月21日発表)

FDAは、アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib)の適応拡大をスピード承認した。17年にマントルセルリンパ腫の再発治療薬として承認されたブルトン型チロシンキナーゼ(btk)阻害剤を、慢性リンパ性白血病(CLL)/小リンパ球性リンパ腫(SLL)の一次/再発治療に用いることを、ELEVATE-TN試験やASCEND試験に基づいて、承認した。

ELEVATE-TN試験は初めて治療を受けるCLL患者をCalquence(100mgを一日二回経口投与)単剤投与群、CalquenceとロシュのGazyva(obinutuzumab)の併用群、そしてchlorambucilとGazyvaを併用する対照群に無作為化割付して、PFS(無進行生存期間、独立委員会が評価)を比較した。結果は12月のASH(米国血液学会)で発表される予定だが、米国のレーベルによると、対照群と比べたハザードレシオが単剤投与群は0.20(リスクを8割抑制)、併用群は0.10で、共に統計的に有意だった。PFSのメジアン値はどちらも未達、対照群は22ヶ月だった。

ASCEND試験は再発難治患者の二次治療試験で、単剤群と対照群(rituximabをidelalisibまたはbendamustineと併用)のPFSを比較した。結果は、ハザードレシオが0.31で統計的に有意。メジアンは未達で、対照群は16ヶ月だった。

カプランマイヤー曲線で特徴的なのは、一次治療試験では1年経った辺りから、再発治療試験では9ヶ月辺りから、対照群の進行・死亡が急に増加し始め、Calquence群との差が見る見る広がっていくこと。Calquenceのレジメンのほうが効果の持続性が高いことを示している。

有害事象は骨髄抑制が中心。投薬中止や治療中の疾病進行以外の死亡は二次性原発腫瘍や感染症によるものが多かった。

btk阻害剤はアッヴィ/ジョンソン・エンド・ジョンソンのImbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)が第一号で、再発CLLは5年前に承認、一次治療は3年前に承認と先行しており、様々な併用法のエビデンスを持っている。キャッチアップするために、Acerta Pharma(アストラゼネカが15年に子会社化した)は多くの臨床試験を実施中。

尚、FDAは今回の適応拡大の申請を優先審査指定し、リアル・タイム・オンコロジー・リビュー制度を適用して、PDUFA法に基づく審査期間を4ヶ月残して前倒し承認した。また、プロジェクト・オービスに則り、オーストラリアやカナダの承認審査機関との同時申請・承認を実現した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

FDA、アルナイラムの急性肝性ポルフィリン症治療薬を承認
(2019年11月20日発表)

FDAは、アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)のGivlaari(givosiran)を急性肝性ポルフィリン症(AHP)の治療薬をとして承認した。審査期限より2ヶ月以上前倒しだ。欧州でも承認審査中。

AHPはヘム合成回路の酵素の一つに機能喪失・低下変異があり、臓器や神経にポルフィリンが蓄積し、発作時には激しい痛みや麻痺、呼吸不全、中枢神経・精神症状が発生、永続的神経学的損傷や死亡の可能性もある。欧米の患者数は3000人と推定されているが、診断が難しく、本当はもっと多いかもしれない。

アルナイラムはRNAを分解する生来のメカニズムに着目してsiRNA(短RNA介入薬)の研究開発に特化している。Givlaariはアミノレブリン酸合成酵素(ALAS1)遺伝子を沈黙させ、ポルフェリンの前駆体で神経毒性の主犯と目されるアミノレブリン酸などの生成を妨げる。siRNAは半減期を伸ばしたり標的に届くようにするのが難しい。Givlaariは GalNAc(N-アセチルガラクトサミン)残基を持つライガンドと共益結合する技術を適用した開発品の承認第一号。

日本を含む18ヶ国の医療施設が参加した承認申請用試験では、ポルフィリン発作(入院、緊急治療、または在宅ヘミン投与)の発生率が偽薬群より70%小さかった。深刻有害事象の発現率は20.8%と偽薬群の8.7%を大きく上回った。重要な有害事象は、注射箇所反応(25%の患者で発生)、腎関連有害事象(15%)、肝機能検査値異常(15%でALTが正常値上限の3倍以上に増加、治療開始の3-5ヶ月後が多い)。FDAはアナフィラキシーと腎機能の監視を推奨するとともに、治療開始前と治療中定期的に肝機能検査を行うよう求めた。

月一回、2.5mg/kgを皮注する。アルナイラムは年間薬剤費をWAC(卸取得価格・・・建値)ベースで平均57.5万ドル、法定値引き後で44.2万ドルと想定している。薬剤費保険組織との価格交渉では成功報酬制(所定の効果が得られなかった患者は無料、など)も提案している模様。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アルナイラムのプレスリリース

MSDのキイトルーダ、EUでも頭頚部癌一次治療に承認
(2019年11月20日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を転移切除不能難治性扁平上皮頭頚部癌の一次治療に用いる適応拡大がEUに承認されたと発表した。PD-L1発現検査でCPS(combined positive score:腫瘍細胞だけでなく腫瘍浸潤免疫細胞におけるPD-L1発現も考慮)が1以上の場合に適応になる。

承認の根拠になったKEYNOTE-048試験では、単剤投与群、白金薬および5-FUと併用投与群、cetuximabと白金薬及び5-FUを併用する対照群の全生存期間をCPS≧20のサブグループ、CPS≧1サブグループ、intent-to-treatについて解析した。FDAは白金薬及び5-FUと併用する場合はPD-L1陰性でも可と判定したが、EUは、モノセラピーと同様に、陽性に限定した。

抗PD-1/PD-L1抗体の頭頚部癌試験の成績はそれほどでもなく、Keytrudaは再発治療の承認後薬効確認試験がフェールした。今回の048試験もPFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)は対照群と大差なかった。PFSにおける進行認定やORRにおける反応認定は、多くの場合、腫瘍のサイズが閾値以上に縮小・拡大するかどうかによって機械的に判断され、症状の増悪や治療の奏功(ニアリーイコール延命)とは必ずしも一致しない。主観に左右される難点もある。だから全生存の解析が一番重要なのだが、それも、実薬対照試験であるせいか、対照群との差はそれほどでもない。

具体的には、CPS≧1におけるモノセラピーの効果は、メジアン生存期間が12.3ヶ月、対照群は10.3ヶ月で、ハザードレシオ0.74(統計的に有意)。PFSは3.2ヶ月対5.0ヶ月、HRは1.13で有意ではない。ORRは19%対35%、有意ではない。メジアン反応持続期間は23.4ヶ月対4.5ヶ月で、サイトカイン系免疫療法と同様に、効く人には長期間、恩恵をもたらす。併用の効果は全生存期間が13.6ヶ月対10.4ヶ月、HR0.65で有意。PFSは5.1ヶ月対5.0ヶ月、HRは0.84でp=0.03697だが解析の多重性を考えればおそらく有意とは言えないだろう。ORRは36%対36%で統計的に有意ではない。メジアン反応持続期間は6.7ヶ月対4.3ヶ月。化学療法の寄与が加わる分、反応持続期間の上乗せが小さくなったのだろう。

単剤投与と併用を見比べると、メジアン生存期間は1ヶ月程度しか違わない。CPS≧20のサブグループ分析ではモノのメジアン生存期間は14.9ヶ月、併用群は14.7ヶ月で更に縮小する。このため、CPS≧20にはモノが至適、それ以下には白金薬・5-FU併用が至適、という意見もあるようだ。

リンク: MSDのプレスリリース






今週は以上です。

2019年11月17日

2019年11月17日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群に適応拡大申請へ 
  • ファイザー、ゼルヤンツのJIA離脱試験成功 
  • Reata、アルポート症候群の第三相試験が成功 
  • アストラゼネカ、SLE用薬の二本目のP3は成功 
  • ロシュ、SMA用薬の承認申請用試験が成功 
  • ASLAN社の汎her阻害剤は胆管癌試験もフェール 
  • アストラゼネカ、MEK1/2阻害剤を神経線維腫I型に承認申請 
  • BMS、オプジーボとヤーボイの併用を肝癌に承認申請 
  • FDA諮問委員会、EPA製剤の心血管転帰改善効果を支持 
  • FDA諮問委員会、ジャディアンスに関しても一型糖尿病には反対 
  • CHMP、クッシング症候群の新薬などに肯定的意見 
  • FDA、ノバルティスの鎌状赤血球症治療薬を承認 
  • FDA、塩野義の画期的抗生剤を承認 
  • FDA、百済神州のBtk阻害剤を承認 
  • MSD、エボラワクチンがEUで条件付き承認 
  • CHMP、ゼルヤンツを65歳以上に用いることなどを警告 


【新薬開発】


GSK、ヌーカラを好酸球増多症候群に適応拡大申請へ
(2019年11月13日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)の好酸球増多症候群(HES)適応拡大試験が成功したと発表した。300mgを4週毎に皮注した群は32週間に症状フレア(悪化、または好酸球数が治療をステップアップすべき水準まで増加)を経験した患者が28%と、偽薬群の56%より少なかった(p=0.002)。二次的評価項目である症状フレア年率発生率も、レイト比が0.34となり、統計的に有意だった。20年に適応拡大申請する予定。

NucalaはIL-5を標的とするヒト化抗体で、重度好酸球性喘息症などの治療薬として日米欧で承認されている。

リンク: GSKのプレスリリース

ファイザー、ゼルヤンツのJIA離脱試験成功
(2019年11月12日発表)

ファーザーは、Xeljanz(tofacitinib citrate、和名ゼルヤンツ)を若年性特発性関節炎(JIA)の治療に用いる第三相試験が成功したと発表した。18週間のランイン期に全員に投与して、所定の改善が見られた患者を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付して26週間、対照試験を行ったところ、再燃に有意な差があった。20年に適応拡大申請する予定。

この種の離脱試験を見る度に当惑するのは、薬が効いた人は継続したほうが良いことは分かった。しかし、薬が効くのかどうかは分からない。ランイン期のデータをもっとちゃんと説明してほしい。

リンク: ファイザーのプレスリリース

Reata、アルポート症候群の第三相試験が成功
(2019年11月11日発表)

Reata Pharmaceuticals(Nasdaq:RETA)は、RTA402(bardoxolone methyl)の第三相アルポート症候群治療試験が成功したと発表した。米国などで加速承認申請する計画。

アルポート症候群は糸球体や内耳などの構成物である4型コラーゲンの遺伝子に変異を持ち、多くがやがて末期腎疾患を合併する。患者数は米国で3-6万人と推定されている。RTA402はNrf2転写因子の発現を増やす作用を持ち、ミトコンドリア機能を改善したり炎症を抑制したりすることが期待されている。

第三相は米欧日豪の医療施設で157人を組入れ、eGFR改善効果を偽薬と比較した。eGFRが改善したからといって腎障害リスクを抑制できるとは限らないので、FDAと相談して、48週間偽薬対照試験を行った後に4週間、両群に偽薬を投与し、更に48週間偽薬対照試験と4週間偽薬投与試験を行う複雑なプロトコルを採用した。偽薬スイッチ後の残存効果を検証することによって、腎臓をこき使うことでeGFRを一時的に改善するがやがて疲弊させて病状を悪化させるという懸念を検証する意図である。

Reataは最初の52週間のデータで承認申請して加速承認を得て、104週間のデータで本承認を得る考え。今回、前者のデータが判明した。主評価項目の48週後eGFR(単位:mL/分/1.73m2)は、試験薬群、偽薬群、治療効果が各+4.72、-4.78、+9.50となった(p<0.0001)。二次的評価項目の52週後eGFR(同)は-0.96、-6.11、+5.14でp=0.0012。偽薬投与期間が4週間の割には両群の低下スピードが速いのに驚かされるが、何れにせよ、RTA402がeGFR悪化を抑制するだけでなく腎機能低下を遅らせる効果が示唆された。

有害事象はアミノトランスフェラーゼ値の上昇。作用に伴うもので、総ビリルビン値の上昇は伴っていない模様なので肝障害のリスクは小さいかもしれない。筋痙攣も見られた模様。有害事象による治験離脱の発現率は各群12%と5%で上回った。治療時発現深刻有害事象は5%と13%でなぜか小さかった。

RTA402は糖尿病性腎症の第三相で心不全による入院や死亡が偽薬群の1.8倍と多く発生し、治験中止になった前歴を持つが、今回の試験はリスク因子を持つ患者を除外したこともあり、水分過負荷や主要心臓有害イベントは発生しなかった由。

提携関係は、9年前にアボットが欧州などでの開発販売権を取得したが、今年10月にアボットのスピンアウトであるアッヴィから権利を取り戻した。代価としてReataが3年分割で合計3.3億ドルを払う。日本と中国などアジアでの権利は協和キリンがライセンス、上記の治験中止事件を受けて開発を一旦、停止したが、先駆け指定を受けて、昨年5月に糖尿病性腎症の第三相試験を開始した。やはりeGFRの短期的な変化だけでは足りず、2~3年間追跡してeGFRが30%以上低下または末期腎疾患に進行するリスクを偽薬群と比較する。

リンク: Reata社のプレスリリース(pdfファイル)

アストラゼネカ、SLE用薬の二本目のP3は成功
(2019年11月11日発表)

アストラゼネカはMEDI-546(anifrolumab)の二本目の第三相中重度全身性エリテマトーデス(SLE)試験が成功したと発表した。一本目のTULIP 1試験は主評価項目に採用したSLI-4応答率が偽薬並みに留まったが、今回のTULIP 2試験は一本目でよい数値が出たBICLA疾病活動スコア応答率に変更したのが奏功したのか、300mgを4週毎に点滴静注した群が47.8%と偽薬群の31.5%を有意に上回った。

TULIP 1試験の300mg群のBICLA応答率は37%、偽薬群は27%なので、水準は異なるものの治療効果(偽薬群との差)は似たようなものであり、再現性がありそうだ。問題は、なぜスコアによって異なる結果が出るのか、どちらが患者にとって重要なのか、ということだ。

この二本の結果はACR米国リウマチ学会で発表されるとともに、TULIP 1の治験論文がLancet Reumatologyに刊行された。論文著者によると、SLI-4は完全解消しないとその評価項目の点数が変わらないのでBICLAのほうが治療効果に敏感である。また、SRI-4は臨床的評価だけでなく血清学的評価も反映するため、ステロイドなど同時服用薬の増減量の影響を受けやすい(この二本の試験は標準療法に追加投与した)。

20年後半に承認申請される予定だが、承認審査ではこの指摘の妥当性がポイントになりそうだ。

MEDI-546はアストラゼネカの子会社であるメディミューンが04年にメダレックス(09年にBMSが買収)からライセンスした、タイプ1インターフェロンのサブユニット1を標的とする完全ヒト化抗体で、アルファ、ベータなど全てのタイプ1インターフェロンを阻害する。

有害事象で特徴的なのはヘルペスの増加。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ロシュ、SMA用薬の承認申請用試験が成功
(2019年11月11日発表)

ロシュは、RG7916(risdiplam)のSUNFISH試験のパート2が成功したと発表した。脊髄性筋委縮症(SMA)2型または3型の180人を組入れて一日一回経口投与したところ、1年後のMSM-32(運動機能のスケール)が偽薬比有意に改善した。データは未発表。

パート2はパート1で決定した用量の治療効果を仮説検証するものだが、パート1では58%の患者でMSM-32が3ポイント以上改善した。2-25歳を組入れたが、2-11歳に限定すれば71%と更に高い効果が見られた。

ロシュはSMA1型のFIREFISH試験も実施中で、仮説検証的パート2の結果は今4四半期に判明する見込み。来年には承認申請に向かうのではないか。

RG7916はPTC TherapeuticsがSMA財団と共同開発したものを11年にライセンスした。SMN2スプライシング調節剤とされており、survival motor neuronを作る能力がSMN1遺伝子より劣るSMN2遺伝子のスプライシングを変えて、多くの全長mRNAが作られるようにする。

SMA治療薬は16年に米国でIonis(Nasdaq:IONS)/バイオジェンのSpinraza(nusinersen)が1型限定なしで承認。19年にはノバルティスのZolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)が1型に承認された。RG7916は作用メカニズム的にはSpinrazaに似ているが経口投与できることが特徴(乳児にはカテーテルで供給する)。

リンク: ロシュのプレスリリース

ASLAN社の汎her阻害剤は胆管癌試験もフェール
(2019年11月11日発表)

シンガポールのASLAN Pharmaceuticals(TPEx:6497、Nasdaq:ASLN)は、ASLAN001(varlitinib)の第2/3相胆管癌二次治療試験がフェールしたと発表した。欧米日の医療施設でcapecitabineに追加する効果を検討したが、メジアンPFS(無進行生存期間)は2.83ヶ月と、偽薬追加群の2.79ヶ月と大差なかった。ORR(客観的反応率)は9.4%対4.8%で若干上回った程度だった。

varlitinibはEGFR、her2、her3、her4を阻害する小分子薬。昨年1月にArray BioPharma(今年7月にファイザーが買収)から世界開発販売権を取得したが、今年1月にはEGFR/her2陽性転移性胃癌の第二相もフェールしており、開発中止の可能性がありそうだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認申請】


アストラゼネカ、MEK1/2阻害剤を神経線維腫I型に承認申請
(2019年11月14日発表)

アストラゼネカとMSDは、AZD6244(selumetinib)を3歳以上の全身性、切除不能叢状神経線維腫I型の治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年4-6月期。

この病気は、ニューロフィブロミンの遺伝子変異によるrasそしてPI3K/AKT経路の異常活性化により神経に良性腫瘍が生じ、疼痛や様々な障害をもたらす。悪性腫瘍化するリスクもある。3000~4000人に一人の希少疾患で、欧米で希少疾患用薬指定を受けている。

AZD6244はアストラゼネカが16年前にArray BioPharma(Nasdaq:ARRY)からインライセンスした経口MEK1/2阻害剤。MSDと共同開発提携を結んでいる。これまでに肺癌などの第三相が実施されたが、フェールした。今回の用途では、NCI(米国立癌研究所)が主導した上記疾患の第2相試験で50人の患者のうち66%で腫瘍が20%以上縮小した。FDAのブレイクスルー・セラピー指定を受け、承認申請に至った。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

BMS、オプジーボとヤーボイの併用を肝癌に承認申請
(2019年11月11日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)をsorafenib歴を持つ肝細胞腫に併用する適応拡大を米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は来年3月10日。

エビデンスはCheckMate-040試験。上記併用を検討した拡大コフォートでは三種類の投与スケジュールを検討した。OpdivoとYervoyを、各1mg/kgと3mg/kgを3週毎に投与する群と、各3mg/kgと1mg/kgを3週毎の群、そしてOpdivoは3mg/kgを2週毎、Yervoyは1mg/kgを6週毎に投与する群に約50人ずつ組入れた。

ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)は各群32%、31%、31%と大差なかったが、G3/4の治療関連有害事象の発現率は53%、29%、31%となっており、この用途でも、OpdivoではなくYervoyの用量をモノセラピー時より減らす方が良さそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、EPA製剤の心血管転帰改善効果を支持
(2019年11月14日発表)

FDAは内分泌学代謝学薬諮問委員会(EMDAC)を招集し、アマリン(Nasdaq:AMRN)のVascepa(icosapent ethyl)の心血管アウトカム試験、REDUCE-ITのデータについて意見を聞いた。16人の委員が全員一致で、適応拡大・効能追加を支持した。

Vascepaは高純度EPA製剤。12年に重度高トリグリセライド血症(TG≧500mg/dL)の治療薬として米国で承認された。一方、499mg/dL以下の患者に関しては、TG値を引き下げれば心血管疾患を減らせるというエビデンスが確立していなかったため、承認されなかった。積み残した課題に挑戦したのがREDUCE-IT試験だ。

心血管疾患歴または高リスクで、LDL-Cはスタチンで管理できているがTGが135~499mg/dLの患者約8200人を偽薬(鉱油入り)群とVascepa群に無作為化割付してメジアン4.9年間追跡したところ、後者の方がMACE(主要有害心臓イベント、冠再貫通術や不安定狭心症入院も含む)が25%少なかった(p<0.001)。

EPA製剤の心血管アウトカム試験は、日本だけで行われたJELIS試験も成功した。一方、EPAのほかにDHAも含有する医薬品の心血管アウトカム試験は何れもフェールしている。額面通りに受け止めれば、少なくとも今回の用途に関してはEPAが重要ということになる。EPA・DHA製剤に含まれるEPAだけでは量が足りないのか、あるいは、DHAが心血管に良くないと考える余地もありそうだ。

アマリンの適応拡大・効能追加申請は優先審査で、当初は9月28日までに結果が出る計画だったが、諮問委員会開催に伴い12月28日に延期された。何か拙いことが発覚したのか心配したが、無事承認にたどり着けそうだ。米国の重度高TG血症の潜在患者数は約400万人、今回の適応拡大は、現時点ではまだ対象(初発予防を含むかなど)が確定していないが、1500万人規模と推測される。Vascepaの18年の売上高は2億ドル足らずだったが、REDUCE-IT試験の学会発表や、複数の学会が治療ガイドラインで推奨したことを受けて、今年は倍増ペースで推移している。

Vascepaは米国で2030年まで特許があるが、特許挑戦を受けており、無効認定された場合は来年にもGE化してしまう。アマリンは危機管理策として持田製薬が開発しているEPA新製剤をインライセンスした。

リンク: アマリンのプレスリリース

FDA諮問委員会、ジャディアンスに関しても一型糖尿病には反対
(2019年11月13日発表)

FDAは内分泌学代謝学薬諮問委員会(EMDAC)を招集し、ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのSGLT2阻害剤、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)を一型糖尿病の治療に用いる適応拡大申請について意見を聞いた。諮問委員会は14対2の圧倒的多数で承認に反対した。

二型糖尿病の血糖治療薬はmetforminやSU剤、DPP4阻害剤、SGLT2阻害剤、GLP-1作用剤と様々な選択肢があるが、一型糖尿病は欠乏するインスリンを補充するくらいしかない。SGLT2阻害剤は血糖を尿と一緒に排出させる単純なメカニズムであるため一型にも有効だが、糖尿病性ケトアシドーシスという深刻な副作用のリスクが高まるため、開発が遅れた。

ついに、アストラゼネカが18年にFarxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)の適応拡大を申請、欧州や日本では承認されたが、米国は審査完了通知を受領した。

Lexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)はSGLT1/2阻害剤Zynquista(sotagliflozin)を一型糖尿病をリード・インディケーションとして新薬承認申請し、EUでは今年4月に承認されたが、米国はEMDACが賛成8人、反対8人と意見が分かれ、審査完了通知を受領する結果になった。

Jardianceは一型糖尿病の用量を2.5mg(一日一回)と、二型糖尿病の承認用量(10mg、25mgまで増量可)より大きく抑えて申請したが、2.5mgの臨床試験は少人数、短期の一本だけであることが響いたのか、A1c低下効果が0.26%と小さいせいか、Zynquistaの時と比べても多くの委員が反対する結末になった。

リンク: 両社のプレスリリース

CHMP、クッシング症候群の新薬などに肯定的意見
(2019年11月15日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、11月の会合で、ノバルティスのIsturisa(osilodrostat)などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Isturisaは副腎皮質におけるコルチゾール合成の最後の過程に係る酵素、11ベータ・ハイドロキシラーゼを阻害する経口剤。クッシング症候群の治療に用いる。ノバルティスが欧米で承認申請した。同社はクッシング症候群ではSignifor(pasireotide)も販売しているが、両剤とも、今年7月にRecordatiに世界権を譲渡した。

リンク: Recordatiのプレスリリース(pdf)

ノバルティスはMayzent(siponimod)も肯定的意見を得た。スフィンゴシン1燐酸受容体の1と5に選択的に作用する経口剤で、活性期二次進行型多発硬化症の治療に用いる。活性期か否かは症状の再発や、炎症痕跡画像に基づいて判定する。米国では今年3月に承認された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

このほかに肯定的意見を得たのは、まず、ロシュのPolivy(polatuzumab vedotin)。再発難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫のP1b/2試験のデータに基づく条件付き承認を勧告した。rituximab及びbendamustineと三剤併用する。CD79bに結合する抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体で、Seattle Genetics(Nasdaq: SGEN)の技術を用いている。米国では今年6月に承認。

Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)のSunosi(solriamfetol)は、選択的ドーパミン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤。閉塞性睡眠障害やナルコレプシーによる日中の過度の眠気を治療する。米国は今年3月に承認。Aerial BioPharma社経由で韓国のSK Biopharmaceuticalsから世界開発販売権を取得したもの。

Rigel Phharmaceuticals(Nasdaq: RIGL)のTavlesse(fostamatinib disodium hexahydrate、米国の商標はTavalisse)は原発性免疫血小板減少症の治療薬。他の薬に反応しなかった患者に用いる。肥満細胞やマクロファージ、B細胞の免疫グロブリンG受容体の細胞内シグナル伝達に係るSykを阻害し、IL-6やMMP-3を削減する経口剤。米国では今年4月に承認。日本はキッセイ薬品が中韓台も含めて開発商業化権を取得した。

適応拡大では、まず、ロシュのKadcyla(trastuzumab emtansine)をher2陽性早期乳癌後の地固め療法に単剤投与することが支持された。タクサンとher2標的療法の併用による術前化学療法を受けた後に乳房やリンパ節に浸潤性腫瘍が残った患者に用いる。米国では今年5月に承認。Kadcylaは抗her2抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体で、her2陽性転移性乳癌の二次治療に承認されている。米国子会社であるジェネンテックがImmunoGen(Nasdaq:IMGN)の技術を用いて創製した。

最後に、セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide)を再発難治濾胞性リンパ腫にrituximabと併用することが支持された。Revlimidは免疫調停薬とされ、多発骨髄腫などに承認されている。


【承認】


FDA、ノバルティスの鎌状赤血球症治療薬を承認
(2019年11月15日発表)

FDAは、ノバルティスのAdakveo(crizanlizumab-tmca)を鎌状赤血球症の血管閉塞性疼痛クリーゼを抑制する薬として承認した。内皮細胞のPセレクチンに結合するヒト化抗体で、鎌状赤血球が内皮細胞に結合して激しい疼痛を引き起こすのを妨げる。第三相試験では頻度が偽薬比45%少なかった。有害事象は悪心、関節痛、背痛、発熱など。

鎌状赤血球症の患者は米国で10万人程度と推測されている。

16年にSelexys Pharmaceuticalsを買収して入手したパイプライン。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

FDA、塩野義の画期的抗生剤を承認
(2019年11月14日発表)

FDAは、塩野義製薬のFetroja(cefiderocol)をグラム陰性菌による複雑性尿路感染症の治療薬として承認した。18歳以上で、他に治療法がない、または限られている場合に用いる。第三相試験で2gを8時間毎に静注したところ、臨床的・細菌学的複合有効率が72.6%となり、imipenemとcilastatinを用いた群の54.6%と比べて、非劣性だけでなく優越性解析も成功した。但し、臨床的有効率は同程度だった。

深刻な有害事象の発現率は4.7%、対照群は8.1%だった。

Fetrojaはセフェム系だがグラム陰性菌に作用し、三種類の重大なカルバペネム耐性菌にもin vitroで活性を示した。ところが、意外なことに、カルバペネム耐性菌による重症感染を治療した臨床試験で、死亡率が対照群(主としてcolistinが用いられた)より高かった。感染症の悪化による死亡率が15.8%と対照群の8.2%より高かった。主として院内感染肺炎や菌血症、敗血症で偏りが見られた。

別途実施された院内感染肺炎meropenem対照第三相試験も非劣性解析が成功したが、治療時発現有害事象による死亡の発現率が26.4%と対照群の23.3%より数値上多かった。重篤な感染症には効果が弱いのかもしれない。

塩野義製薬は、QIPD制度に基づき有償譲渡可能な優先審査バウチャを取得した。

Fetrojaは今月のCHMPのアジェンダに挙がっていたが、結論持ち越しとなったのか、EMAのプレスリリースには載っていなかった。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、百済神州のBtk阻害剤を承認
(2019年11月14日発表)

FDAはBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE;HKEX:6160)のBrukinsa(zanubrutinib)をマントル細胞腫の二次治療薬として加速承認した。高選択性経口Btk阻害剤で、2010年に北京で設立されたバイオベンチャー、BeiGeneにとって初の米国承認を自社創製品で獲得した。

中国で実施された第二相試験とグローバル第1/2相試験に基づくもので、どちらも、ORR(客観的反応率)は84%、メジアン反応持続期間は前者が19.5ヶ月、後者は18.5ヶ月だった。骨髄抑制があり、肺炎や出血の深刻有害事象が見られた。有害事象による治験離脱率は8%だった。妊婦・授乳婦は禁忌。サンスクリーンの使用が推奨されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Beigeneのプレスリリース(米国居住者向けサイト)

MSD、エボラワクチンがEUで条件付き承認
(2019年11月11日発表)

MSDは、EUがErveboをエボラウイルス疾患予防用ワクチンとして条件付き承認したと発表した。水疱性口内炎ウイルス(VSV)の一部の遺伝子をザイール種エボラウイルスの遺伝子の一部と置換した弱毒化生ワクチンで、元々はカナダの公衆衛生庁が開発した。米国のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)がライセンス、14年にMSDに世界独占開発生産販売権を供与した。

接種対象は18歳以上で感染リスクの高い人(感染者の同居人や医療従事者など)。一回、筋注する。

生産プロセスに関する情報の一部が未提出であるため、条件付き承認となった。MSDはドイツの工場で生産に着手し、20年3Qに供給を開始する予定。

リンク: MSDのプレスリリース
リンク: EUのプレスリリース


【医薬品の安全性】


CHMP、ゼルヤンツを65歳以上に用いることなどを警告
(2019年11月15日発表)

CHMPは、11月の会議で、ファイザーのJAK阻害剤、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の規制強化を決定した。発端は、米国で抗リウマチ薬として承認された時のフェーズIVコミットメントとして実施されたA3921133試験で潰瘍性大腸炎にしか承認されていない高用量に安全性懸念が生じたことだが、CHMPは一歩進んで全用量に関して、血栓リスクが高い患者に処方する時は注意を呼び掛けた。特に、潰瘍性大腸炎に10mgを一日二回投与するのは、他に適切な手段が無い場合に限定した。

この試験は中重度リウマチ性関節炎でMTXを服用しているが管理不良、そして心血管リスク因子を持つ4000人以上の患者を組入れて、承認用量である5mg(一日二回)とファイザーが申請したが承認されなかった10mg(同)の心血管・腫瘍安全性を抗TNFアルファ抗体(以下、対照群)と比較したもの。中間解析で10mg群の肺塞栓や全死亡が対照群より多かったため10mgの試験は中止、5mgにスイッチした。

今回の発表によると、肺塞栓発症数と分母となるべき暴露(人年)は、10mg群が17人/3123人年、5mg群は9人/3317人年、対照群は3人/3319人で、10mgのリスクは対照薬の6倍、5mgも3倍だった。全死亡についても、各28人/3140人年、19人/3324人年、9人/3323人年と多かった。何倍かは記されていないので統計的に有意ではなかったのかもしれないが、当方の概算では10mgは有意水準、5mgはわずかに有意でない程度だった。

今回の驚きは、65歳以上のリウマチ性関節炎あるいは潰瘍性大腸炎患者に用いることができるのは他に適切な手段が無い場合に限定されたこと。理由は血栓ではなく、JAK阻害剤の周知のリスクである感染症。65歳以上はそれより若い患者よりも深刻で致死的な感染症のリスクが高まる由。Availabe Dataによればと記されているので、A3921133試験だけでなくプール分析で懸念が浮上したのだろう。Xeljanzは中年若年の患者も多いはずだが、高齢者も使っているだろう。高齢者のほうが感染症に脆弱だろうから、深刻・致死例が多くても不思議はないが、逆に、なぜ今頃このような話が出てきたのだろうか?

リンク: EMAのプレスリリース






今週は以上です。

2019年11月10日

2019年11月10日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • 武田、デング熱ワクチンが第三相で好成績 
  • AVEO、VEGFR阻害剤を20年に米国で承認申請へ 
  • JNJ、イムブルビカの用法追加申請
  • JNJ、エボラ・ワクチンをEUに承認申請 
  • ベータサラセミア治療薬が米国で初めて承認 
  • サノフィ、高齢者用4価インフルエンザワクチンが米国で承認 


【新薬開発】


武田、デング熱ワクチンが第三相で好成績
(2019年11月7日発表)

武田薬品が13年にInviragen社を買収して入手した4価弱毒化生デング熱ワクチン、TAK-003の第三相試験、TIDESの初回解析結果がNew England Journal of Medicine誌に刊行された。ワクチン効率(VE)は80%と高く、1型、2型、3型に有効で、4型は発症者数が少ないため有意にはなっていないが点推定値は63%と悪くない。武田のプレスリリースによると最終解析も成功した模様。2020年から風土病地域で承認申請に向かう予定。

被験者の28%を占めるベースライン時血清反応陰性(デング感染歴がないことを示す)にも効果が見られた(VEは75%、陽性は82%)。但し、陰性者が3型ウイルスに感染するリスクに関しては、VEがマイナス39%と奇妙な点推定値が出た。

TAK-003は2型ウイルスをバックボーンとして1型、3型、4型の抗原を導入したもの。3ヶ月おいて二回、皮注する。TIDES試験はラテンアメリカとアジアのデング熱風土病地域に住む4-16歳の青少年約2万人をTAK-003と偽薬に2対1割付し、デング熱発症リスクを比較した。初回解析は2回接種後15ヶ月間、最終解析は更に6ヶ月間、追跡した。

2回接種者のper-protocolベースの初回解析では、ワクチン群の感染者は61人、偽薬群は149人で、VEは80.2%、95%下限は73.3%だった。うち、1型に対するVEは73%、2型は97%、3型は62%で良好な結果になった。

デングによる入院は95%少なかった。

最終解析は検出力が向上するので、4型に対する有効性や感染歴のない人に関する3型感染予防効果が確立するかどうか、注目される。

もっと重要なチェックポイントは、感染歴のない人が接種した後にデング感染した場合に症状が重症化する、キプロスの蜂現象を誘発しないかどうかだ。Dengvaxiaはフィリピン政府が自己負担ゼロの接種キャンペーンを行うなど積極採用したが、キプロスの蜂効果が発覚、政府とサノフィの関係が悪化した。現在では、感染歴のない人は適応外になっている。

上記のように、TAK-003の試験でも事前に感染歴の有無を検査している。初回解析ではワクチン群の陰性者のうちデング感染したのは20人に過ぎないので重症度を比較しても意味がないかもしれないが、最終解析では検討課題の一つになるだろう。

リンク: 武田のプレスリリース(和文)
リンク: Biswalらの治験論文抄録(NEJM)

AVEO、VEGFR阻害剤を20年に米国で承認申請へ
(2019年11月4日発表)

Aveo Oncology(Nasdaq:AVEO)は、Fotivda(tivozanib hydrochloride)を20年に米国で再発難治腎細胞腫用薬として承認申請する考えを表明した。但し、来年央に予定されている二本目の第三相試験の最終全生存解析が不首尾に終わった場合は申請撤回することでFDAと合意した由。EUでは17年に承認されたが、米国はまだまだ踊り場がありそうだ。

FotivdaはVEGFRの1、2、3とc-kit、PDGFRなどを阻害する経口剤。協和キリンから導入した。VEGFR阻害剤やmTOR阻害剤歴のない腎摘出後の進行腎細胞腫を組入れた最初の第三相試験でPFS(無進行生存期間)がメジアン11.9ヶ月とNexavar(sorafenib)群の9.1ヶ月を上回り、p=0.04とボーダーライン上だが有意差が見られた。しかし、全生存期間のメジアン値は28.8ヶ月対29.3ヶ月と大差なく、ハザードレシオは1.245と悪かった。Aveoは12年に米国で承認申請したが諮問委員会が13対1の圧倒的多数で反対、審査完了となった。

二本目の三次治療試験もメジアンPFSが5.6ヶ月とNexavar群の3.9ヶ月を上回ったが今度もp=0.02とそれほど良くなく、全生存は未成熟だがハザードレシオ1.06と好ましくない方向を向いていた。FDAの要請で打切り例の追跡調査を進めたところ1.12とさらに悪化した。昨年8月時点の中間解析では0.99と、やっと点推定値が1を下回ったが、FDAは、最終解析でまた悪化する可能性を指摘、結果が出るまで承認申請を見送るようアドバイスした。妥協策として、Aveoは、承認申請を断行するが最終解析のハザードレシオが1を上回った場合は申請撤回するでFDAと合意した。

この二本の試験に共通する難点は、二重盲検ではないことだ。PFSは主観の入り込む余地があるので、信憑性が低い。第三者が盲検査読するなどの措置を取っても、進行認定されていない患者は査読の対象にならないので、客観性は担保されない。

PFSは全生存期間より早く答えが出るので開発期間や費用を節約できるが、全生存期間が延びることを後でキッチリ確認することが重要だ。

リンク: AVEOのプレスリリース(Business Wireのサイト)


【承認申請】


JNJ、イムブルビカの用法追加申請
(2019年11月8日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはImbruvica(ibrutinib)を慢性リンパ性白血病/小リンパ球性白血病の初度治療にrituximabと併用する用法追加申請をFDAに行った。 ECOG-ACRIN腫瘍研究グループが主導した70歳以下の患者を対象とするE1912試験の中間解析で、FCRレジメン(fludarabine、cyclophosphamide、rituximab)比ハザードレシオがPFS(無進行生存期間)は0.35、全生存期間は0.17と 大変良い成績を上げた。

ImbrucaはB細胞の生存に係るbtkを阻害する小分子薬。慢性リンパ性白血病用途では再発・難治にモノセラピーやbendamustine及びrituximabと三剤併用、初度治療はモノセラピーやGazyva(obinutuzumab)併用が承認されている。また、非ホジキンリンパ腫の一種であるワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症やマントル細胞腫にも承認されている。

リンク: JNJのプレスリリース(pdfファイル)

JNJ、エボラ・ワクチンをEUに承認申請
(2019年11月7日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、エボラ・ウイルス病ワクチンをEUに承認申請した。米国でもアニマル・ルールに基づく承認申請に向けてFDAと相談中。

エボラ・ウイルス病は1976年にザイール(現在のコンゴ民主共和国<DRC>)とスーダンで発生して以来、数年おきにアフリカの様々な地域で流行している。18年に始まった今回の流行では、DRC中心に3286人が罹患、2190人が死亡した(WHO:19年11月7日時点)。14-16年のギニア、シエラレオネ、リベリアを中心とする大流行に次ぐ被害だ。

前回の流行時には治療薬や予防ワクチンの臨床試験も開始された。流行が収まり被験者が集まらず打ち切りになってしまったが、今回、その成果が出てきた。治療薬では、米国マイアミの未上場企業であるRidgeback Biotherapeuticsが米国NIHからライセンスしたmAb114と、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のREGN-EB3が開発品同士の直接比較試験で勝ち抜き、DRCは、今後、この二剤だけを用いることを決めた。

ワクチンでは、カナダの公衆衛生庁が創製しNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)社を通じてMSDにライセンスしたErveboの承認申請が今年3月にEUで、9月には米国でも、受理された。水疱性口内炎ウイルスの遺伝子の一部をザイール種エボラ・ウイルスのものと置換し、弱毒化した生ワクチンだ。一回筋注する。

JNJのワクチンはプライムとブーストからなるレジメン。プライムは26型アデノウィルスにザイール種エボラウイルスの糖タンパクの遺伝子を導入したAd26.ZEBOV。ブースターは、デンマークのBavarian Nordicが開発した、改変ワクシニア・アンカラにエボラなどのウイルス核蛋白を導入したMVA-BN-Filoで、8週後に接種する。

どちらもDRCで試験的に用いられているが、JNJは今年10月になってDRCなどに対して最大50万回分を寄付すると発表しており、採用が広がっているように見える。

尚、主としてアフリカで使うワクチンを欧米で承認申請するのは、医療従事者やジャーナリストなどが渡航前に接種する需要に応えるため、というよりは、自力で承認審査する体制のない国のためにお墨付きを得る趣旨と思われる。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認】


ベータサラセミア治療薬が米国で初めて承認
(2019年11月8日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)とAcceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)は、Reblozyl(luspatercept-aamt)がFDAに承認されたと発表した。ベータサラセミアによる赤血球輸血依存性貧血の治療に用いる。

ベータサラセミアはグロビン遺伝子の塩基欠失などにより発症する遺伝子疾患で、ホモ接合型は恒常的に輸血が必要になる。Reblozylはactivin receptor type IIBの細胞外領域と免疫グロブリンG1の固定領域を細胞融合したもので、赤血球の成熟を促す。Acceleronがセルジーンと共同開発している。臨床試験では、1mg/kgを開始用量として滴定しながら3週毎に皮注したところ、輸血33%削減成功率が21.4%と偽薬群の4.5%を有意に上回った。深刻な有害事象の発現率は15.2%だった(偽薬群は5.5%)。G3以上の血栓性イベントの発現率は0.9%だった(0.1%)。

報道によると、25mgバイアルのWAC(卸取得価格)は3441ドルとのこと。体重75kgの患者が1mg/kgを使ったとすると、年間では6万ドル弱の計算になる。

Reblozylはもう一つ、骨髄異形成症候群による貧血症の治療にも承認申請されたが、こちらは優先審査指定されず、審査期限は来年4月4日となっている。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース

サノフィ、高齢者用4価インフルエンザワクチンが米国で承認
(2019年11月4日発表)

サノフィは、4価Fluzone高用量版がFDAに承認されたと発表した。65歳以上のインフルエンザ予防に用いる。13年に承認された4価Fluzoneは4種類のウイルス抗原を15mcgずつ含有しているが、高用量版は4倍の60mcgとなっており、免疫力が低下した高齢者に適している。

今回の承認は抗原性試験に基づくものだが、3価インフルエンザワクチンで高用量と通常用量の高齢者におけるワクチン効率を比較した試験では、高用量群のインフルエンザ感染が24%少なかった。ワクチンが効くと予想されるタイプのウイルスによる感染だけを比較すると、51%少なかった。一方、当然のことながら、いわゆる副反応も増加した。

米国では18/19年シーズンに3価Fluzoneの高用量版を1.1億本出荷し、65歳以上の接種者の2/3が用いたとのこと。

翻って、日本は13歳以上は15mcg版相当を1-2回接種となっており、神奈川県のサイトによると一般的には65歳以上は年1回で効果とのことなので、高用量は普及していない。国により考え方が異なる模様で、3価の高用量版が承認されているのは英国、カナダ、オーストラリア、ブラジルなど一部に留まるようだ。

リンク: サノフィのプレスリリース




今週は以上です。

2019年11月3日

2019年11月3日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • アッヴィ、JAK1阻害剤の乾癬性関節炎試験が成功 
  • イミフィンジもNSCLC一次治療化学療法併用試験が成功 
  • ノバルティス、SMA遺伝子療法の髄腔内投与試験が部分停止に 
  • ロシュ、NMOSD用薬を欧米で承認申請 
  • FDA諮問委員会、多数が早産予防薬の承認取消を支持 
  • バイオジェン/Alkermes、テクフィデラ後継薬が米国で承認 


【新薬開発】


アッヴィ、JAK1阻害剤の乾癬性関節炎試験が成功
(2019年10月31日発表)

アッヴィは、Rinvoq(upadacitinib)の第三相乾癬性関節炎試験が成功したと発表した。延長試験で効果の持続性や安全性を検討した上で適応拡大申請に向かうのではないか。

この試験は、バイオ薬が十分に効かなかった活性期感染性関節炎患者を偽薬、15mg、または30mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付して、12週後のACR20奏効率を比較した。結果は、各群24%、57%、64%となり両用量とも偽薬比有意な差があった。二次的評価項目のPASI75奏効率やHAQ-DIも有意に上回った。

安全性(24週間)は深刻な感染症の発現率が各群0.5%、0.5%、2.8%となり、リウマチと同様に、高用量のほうが若干高かった。MACE(主要有害心血管イベント、査読あり)や肺塞栓症は、逆に、15mg群で1例(発現率は0.5%程度だろう)発生しただけだった。稀だが深刻な副作用は通常の第三相試験一本では評価できないので、関節リウマチ試験を含めたメタアナリシスが必要だ。

RinvoqはJAK1阻害剤。今年8月に米国で中重度リウマチ性関節炎治療薬として承認された。日欧でも承認審査中。

JAK阻害剤のアイソフォーム選択性は良く分からないところがあり、第一号であるファイザーのXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)はJAK3選択的だが、JAK1とヘテロダイマーを形成している場合はJAK1を阻害したのと同じようなことになる。RinvoqはJAK1選択的で、安全性面で優れている可能性もあるが、FDAは、他のJAK阻害剤と同様に動脈静脈血栓症を枠付警告した。第三相ではMTX治療歴を持たない患者にもMTXを大きく上回る奏効率を示したが、MTX不応不耐にしか承認されなかったのは、安全性懸念が理由だろう。

JAK阻害剤は乾癬や炎症性腸疾患、アトピー性皮膚炎、そして円形脱毛症など様々な用途に開発されている。tofacitinibは臓器移植後の免疫抑制剤として臨床試験入りしたが、強力すぎて安全性が懸念され、方向転換となった開発歴を持つ。同じく強力な免疫抑制力を持つカルシニューリン阻害剤と併用で、Xeljanzの承認用量の3-6倍を投与した試験の話だが、薬物動態や感受性には個人差があるので、忘れてはいけない過去である。

長期間使用する薬なので、Rinvoqも症例を積み重ねて稀だが深刻な副作用の発現率を評価する必要がある。

リンク: アッヴィのプレスリリース

イミフィンジもNSCLC一次治療化学療法併用試験が成功
(2019年10月28日発表)

アストラゼネカは、抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)のPOSEIDON試験が成功したと発表した。転移性非小細胞性肺癌の一次治療として化学療法に追加する効果を検討した第三相試験で、先行するMSDのKeytruda(pembrolizumab)との差を一歩縮めることになる。データは学会で発表し、承認審査機関にも提示する計画。

この試験は、Keytrudaなどの試験と同様に、EGFR変異やALK変異を持つ患者は分子標的薬があるので対象外とした。扁平上皮癌か否かは問わず、PD-L1陰性も組入れた。欧米日などの施設が参加した。

割付けは三群あり、対照群は5種類の化学療法レジメンの一つを最大6サイクル施行。Imfinzi群はこれら化学療法レジメンを最大4サイクルとImfinzi(1500mg)を最初の4サイクルは3週毎、その後は4週毎に投与した。第三の群は、更に抗CTLA4抗体tremelimumab(75mg)を最初の4サイクルは3週毎、その後は第16週にも投与した(会社側はトリプル・セラピー群と呼んでいる)。

主評価項目はImfinziだけを併用した群と対照群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)と全生存期間で、今回は前者が成功した。後者は2020年に解析予定。また、二次的評価項目だがトリプル・セラピー群と対照群のPFSも目標を達成した。

抗PD-1/PD-L1抗体の非小細胞性肺癌一次治療試験はフェールが珍しくなく、Imfinziも単剤もしくはtremelimumab併用試験のMYSTICやNEPTUNEがフェールした。それだけに、先週号で取り上げたOpdivoと抗CTLA4抗体YervoyのCheckMate-9LA試験に続いて化学療法併用試験が成功したのは朗報だ。

但し、どちらもデータは未発表なので喜ぶのは早い。全生存期間の延長を確認することも重要だ。市場競争力の面では、PD-L1陰性にも十分な効果があったかどうかも注目される。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ノバルティス、SMA遺伝子療法の髄腔内投与試験が部分停止に
(2019年10月30日発表)

ノバルティスは、米国で今年5月に承認されたI型脊髄性筋委縮症の遺伝子療法薬、Zolgensma(onasemnogene abeparvovec-xioi)の髄腔内投与試験に関して、FDAが部分停止を命じたことを明らかにした。解除されるまで新規組入れができない。承認用法である静注は対象外だが、II型を対象とするSTRONG試験の高用量コフォートの組入れが遅れる見込み(低中用量コフォートは既に試験結果が出ている)。

FDAが動いたのは、ノバルティスの子会社でZolgensmaを開発したAveXis社が行った前臨床試験で、神経細胞体の変性・喪失を伴うこともある後根神経節単核細胞の炎症が見られたため。他の前臨床試験や臨床では観察されていない現象である由だが、SMAは希少疾患で投与症例が少ないので、何とも言えないだろう。

一部報道によれば、この前臨床の対象ヒト以外の霊長類。また、この現象が発覚したのは3月とのこと。マウスやラットの試験で毒性が見られたのなら次は長期投与試験とか、もっと高等な動物の試験に進むことになるが、サルならこれ以上の動物試験は行わないかもしれない。また、FDAが部分停止命令を出すほど重要な懸念を発見してから7ヶ月もの間、報告しなかったのだとしたら、ある程度の追加試験や研究を既に終えている可能性もあろう。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、NMOSD用薬を欧米で承認申請
(2019年10月30日発表)

ロシュは、RG6168(satralizumab、中外の開発コードはSA237)をNMOSD(視神経脊髄炎スペクトラム障害)治療薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。Actemra(tocilizumab)を開発した中外製薬が新開発のリサイクリング抗体技術を適用して作用を長期化した、抗IL-6受容体リサイクリング抗体で、ロシュは日韓台湾以外の開発販売権を持っている。

NMOSDは欧米の患者数が2~3万人の希少疾患で、その多くは、抗アクアポリン4抗体(AQP4-IgG)が視神経や脊髄、脳に損傷を与えることが原因と考えられている。第三相は免疫抑制剤による治療を受けている患者に追加する試験とナイーブ患者のモノセラピー試験が行われ、どちらも、AQP4-IgG陽性だけでなく陰性を含む全体の解析でも、再発抑制効果が確認された。

NMOSDと言えばAlexion Pharmaceuticals(Nasdaq:ALXN)のSoliris(eculizumab、和名ソリリス)が欧米でAQP4-IgG陽性型に適応拡大が認められ、日本でも部会通過したところだ。臨床試験のハザードレシオはSolirisのほうがかなり良いが、異なった試験のデータを比較するのは容易ではない。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、多数が早産予防薬の承認取消を支持
(2019年10月29日発表)

FDAはBRUDAC(骨・再生産・泌尿器薬諮問委員会)を招集し、AMAG Pharmaceuticals(Nasdaq:AMAG)の早産再発予防薬、Makena(hydroxyprogesterone caproate)の市販後薬効確認試験がフェールしたことについて意見を聞いた。16人の委員のうち9人が承認取消を支持。再び臨床試験を行わせて結果が出るまで加速承認を維持すべきと回答したのは7人に留まった。AMAG社によれば、産科で医療に携わる6人では5人が再試験支持だった。承認され、広く使われている薬なので拙速を避けたいのだろう。

Makenaの活性成分は60年前に当時のスクイブ社がプロゲスチンが有効な疾患の治療薬としてFDAの承認を取得、発売したが、生産面の問題により2000年に承認返上した。ところが、その3年後に、米国医療研究所が主導した臨床試験で自然単胎早産歴を持つ妊婦の早産リスクを抑制したことが学会・論文発表され、KV Pharmaceuticalsが06年にMakenaとして承認申請、紆余曲折を経て11年に加速承認を獲得した。

加速承認は、臨床的便益は未確認だが代理マーカーの変化に基づいて合理的に推定できる場合に、前倒し承認するもの。米国やEUでは、承認後に薬効確認試験を成功させる必要があり、もしフェールした場合は承認取消しの可能性がある。有名な例では、Avastin(bevacizumab)を転移性乳癌に用いる薬効確認試験がフェールしたためFDA諮問委員会が適応拡大取消を求め、2011年にジェネンテックが承認返上した。

Makenaの場合、求められる便益は胎児・新生児が早産に伴う疾患を発症したり死亡したりするリスクが減ることで、早産の確率が低下するだけでは足りないとみなされ、加速承認となり市販後薬効確認試験が必要になった。

意外なことに、フェーズ4コミットメントとして実施されたPROLONG試験はフェールした。主評価項目である35週未満の出産はMakena群が発生率11%、偽薬群は12%で有意差がなかった。共同主評価項目の新生児疾病・死亡複合指数該当者比率も5.4%対5.2%で差がなかった。一方で、今回は、流産や死産が増加しなかった。

諮問委員会は、Makenaの臨床的便益が確認されなかったという評価で全員一致した。二本の試験を合わせても薬効のエビデンスにはならないと16人中13人が回答した。

なぜ試験結果が分かれたのか?二本の試験を比較すると、組入れ条件は自然単胎早産歴を持つ妊婦で同じ、用量・用法や治療開始時期も同じ。違うのは、一本目は米国の施設で463人を組入れ、うち59%は黒人だった。今回は1710人で、うち36%はロシア、25%はウクライナで米国は23%だけだった。今回のほうが症例数が多く、FDAが関与したので臨床試験のデザインや実行も厳格であっただろう。米国外が中心というのは米国人にとっては好ましくないだろうが、承認されている薬の偽薬対照試験を行うのは難しいので、やむを得ない。信憑性は二本目のほうが高そうだ。

データを見比べると、37週未満出産率は前回は37%対55%で17.8%低かったが、今回は23%対22%で大差なく、米国施設だけの集計は33%対28%でむしろ悪かった。

また、FDAの集計によると、プロゲスチン(主に膣投与)の早産予防効果を検討した治験論文6本の成績は2勝4敗で、文献エビデンスは弱い。

学会は今のところ従来の治療ガイドラインでの推奨を維持している。180度方向転換しなければならないかもしれないので、俄かには決断できないだろう。一方、FDAは、少なくともPROLONG試験のデータのレーベル収載を認めるかどうかに関しては審査期限までにAMAGに回答しなければならない。日本でも行われている、私事だが知人も受けた治療なので、正に他人事ではない。FDAがどのような結論を出すのか、注目される。

捕捉1:PROLONG試験の主評価項目が35週を閾値にしたのは06年の諮問委員会の意見に基づいた。FDAは今日では37週のほうが適切と判断している様子なので、上記ではこのデータを比較した。
捕捉2:ライセンス・ホルダーがKVからAMAGに代わったのは、KVはMakenaの価格を調剤薬局品の百倍に設定したため医師や議員の反発を招き、破産法適用を経てAMAGとペリーゴ社に分割買収されたため。

リンク: AMAGのプレスリリース
リンク: PROLONG試験論文(American Journal of Perinatology誌、オープン・アクセス)


【承認】


バイオジェン/Alkermes、テクフィデラ後継薬が米国で承認
(2019年10月30日発表)

バイオジェン(Nasdaq:BIIB)は06年にスイスのFumapharmを買収してフマル酸誘導体dimethyl fumarateを入手、13年に米国で多発硬化症薬Tecfidera(和名テクフィデラ)として発売した。一日480mgという用量に関する特許が米国では28年まで有効だが、米国特許商標庁がinter partes reviewという再審査手続きを開始した。結果が出るのは20年に入ってからと推測されているが、もし無効認定された場合、同年に用途特許が失効した段階でGE薬が発売される可能性がある。

製薬会社の伝統的な特許切れ対策は、類薬を新規活性成分として開発することだ。バイオジェンはAlkermes(Nasdaq:ALKS)が開発したdiroximel fumarateの世界独占販売権を取得、今回、FDAの承認を得た。

経口投与すると体内で迅速にmonomethyl fumarateに変換され、再発型多発硬化症治療効果を発揮する。エビデンスは2年間の安全性試験とTecfidera対照薬物動態試験だけで、再発予防効果などはTecfideraのデータを参照する。こういう薬のマーケティングは先行品との差別化が重要だ。Alkermesは再発寛解型多発硬化症患者506人を組入れた5週間の直接比較試験を行い、胃腸副作用の発現率や発現日数が有意に少ないことを確認した。有害事象による治験離脱率は1.6%とTecfideraの6.0%より低く、大きな差が出たのは胃腸有害事象による治験離脱率(0.8%対4.8%)だった。

リンク: 両社のプレスリリース





今週は以上です。