2021年2月27日

第988回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:JNJの一回接種用ワクチンも諮問委員会通過 
  • COVID-19:リジェネロン、抗体カクテルの本承認を申請へ 
  • COVID-19:CD24FcのEUA申請が遅延 
  • COVID-19:変異型対応ワクチンの開発ガイダンス 
  • 抗TSLP抗体が重度喘息症の増悪を半減 
  • ヴィーヴ、抗HIV薬の2ヶ月毎筋注を追加申請 
  • ファイザー、米国でダニ媒介脳炎ワクチンを承認申請 
  • アムジェン、オテズラを軽症乾癬に適応拡大申請 
  • インサイト、ジャカビを慢性GvHDに適応拡大申請 
  • アストラゼネカ、抗PD-L1抗体の膀胱がん適応を返上 
  • CHMP、脊髄筋委縮症治療薬などの承認を支持 
  • サレプタ、第3の筋ジストロフィー治療薬が加速承認 
  • LibtayoもNSCLC一次治療に適応拡大 


【今週の話題】


COVID-19:JNJの一回接種用ワクチンも諮問委員会通過
(2021年2月26日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、FDAのワクチン及び生物学的製剤諮問委員会がヤンセン・バイオテックのCOVID-19ワクチンのEUA(非常時使用認可)を全員一致で支持したと発表した。効果はBioNTech/ファイザーやModernaのmRNAワクチンより劣る可能性があるが、一回筋注のみという用法で第3相試験が行われたことと、零下20℃で2年間安定、2~8℃でも3ヶ月間有効と通常の冷凍冷蔵設備で足りること、そして、パンデミック期間中は利益ゼロで販売することが特徴。

エボラ・ウイルス・ワクチンで採用実績のあるアデノウイルス血清型26をベクターとして、SARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白の遺伝子を接種者の細胞に導入する。アデノウイルスは感染歴を持つ人が少なくないため、抗体に破壊されないように特殊な血清型を用いることが多いが、それでも、通常の型に抗体を持つ患者に対する免疫原性がやや見劣りすることが多い。アストラゼネカのチンパンジー型アデノウイルスを使ったワクチンで、2回目の接種を3ヶ月後に遅らせた方が良いという意見が出た背景も、ヤンセンが二回接種ではなく一回接種を選択したのも、抗アデノウイルス抗体ができるのを警戒したのが一因ではないか?

第3相試験は米国、南アフリカ、中南米の施設で18歳以上の約4万人を組入れて、中重症COVID-19感染症の発生リスクを偽薬と比較した。薬効のメジアン追跡期間は2ヶ月と、この試験も極めて短期間であることが、悠長なことは言っていられない状況とはいえ、残念なことだ。

ワクチンは十分な免疫を獲得するまで時間がかかるので、この試験では接種の14日後以降と28日後以降の二つの期間の中重症感染症リスクを共同主評価項目とした。14日後以降の期間におけるワクチン効率は66.9%だった。1000人年当りで偽薬群の中重症感染者は112人、ワクチン群は37人だったので、リスクや効果が1年間続くとすると、このワクチンを1000人に接種すれば75人を救える勘定になる。視点を変えると、925人は接種してもしなくても結果は同じだが、中重症感染時の損失で加重平均して期待値を求める必要がある。28日後以降のワクチン効率は66.1%で14日後以降と大差なかった。

興味深いのは地域別分析。14日後以降のワクチン効率は米国が74.4%、中南米のブラジルは66%、南アフリカは52.0%と比較的大きな差があった。ブラジルでは配列解析が行われた感染例の69%がP.2系統、南アフリカでは94%がB.1.351系統のウイルスだったことが影響したのだろう。P2系統は受容体結合箇所にK417N変異を、B.1.351系統はK417N、E484K、N501Y変異の三点セットを持っているため、過去に自然感染して抗体を持っているはずの人の再感染例が報告されている。ワクチンの効果が低下しても不思議はない。

但し、今回は朗報もある。重症・危機的感染症だけに絞り込むとどの国でもワクチン効率が8割前後で大差なかった。症例数が少ないので信頼区間が広いものの、ヤンセンのワクチンは嫌だ、ファイザーのワクチンでないと接種しないと我を張る人を宥める材料に使えるだろう。

60歳以上の高齢者におけるワクチン効率が若干見劣りするが、発症数が多くないため信頼区間が広く、真相は分からない。ヤンセンは二回接種の試験も行っているので、結果が出れば全年齢層に関して一回と二回、どちらが良いのか、明らかになるだろう。COVID-19ワクチンの効果は何年も持続しない可能性があり、抵抗性ウイルスの蔓延もありうるので、もし二回接種が至適と分かったならば、次回の接種から変えればよい。

有害事象はワクチンに付き物のものが多く、深刻有害事象の発生率は低い。関節炎や末梢ニューロパチー、蕁麻疹が増える可能性があり、因果関係の有無は不明だが臨床試験では血栓塞栓イベント(15例)や耳鳴り(6例)も発現率は低いものの偽薬群(どちらもゼロ)より多かった。

塩基配列をリピッド・ナノパーティクルで導入するワクチンではアナフィラキシーが稀な有害事象として報告されているが、ヤンセンのワクチンでも第3相とは違う試験に参加した南アフリカの患者が発現したことが明らかにされた。

他のワクチンと比べるために軽症患者も含めたデータを探したが、中重症と比べて数が少なすぎる。被験者/担当医が報告していない症例が相当ありそうだ。無症候感染も数が信じられないほど少なく、その中には数日後に発症した症例も多いようなので、無症候のままの患者の報告漏れが多そうだ。アストラゼネカのワクチンの英国第2/3相試験では週一回、PCR検査を行ったが、JNJの試験は違うのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:リジェネロン、抗体カクテルの本承認切替えを申請へ
(2021年2月25日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGEN-COV(登録商標)の第3相外来治療試験の独立データ監視委員会が成功認定し、偽薬群の組入れを中止するよう勧告したことを明らかにした。データは未だ同社にも伝えられておらず、3月に判明した段階で公表する考え。昨年11月にFDAからEUA(非常時使用認可)を受けたが、ちゃんとした承認を得るべく申請する予定(EUAは承認ではない)。

REGEN-COVはSARS-CoV-2に結合する二種類の抗体、casirivimabとimdevimabのカクテル。EUAの適応は12歳以上且つ体重40kg以上で、COVID-19に感染し軽中等症だが重症化リスクが高く、発症後10日以内の患者。入院・酸素投与が必要な患者に対する便益は確認されておらず、ハイフロー酸素・人工呼吸器が必要な患者には逆効果の可能性がある。

第3相は、入院の必要がない通院患者を組入れた今回の試験に加えて、発症者の家族の発症を予防する試験、そして、オックスフォード大学が主導する入院患者を対象とするRECOVERY試験が進行している。

今回の第3相は、各剤1200mgずつ、2400mgずつ、または偽薬を一回点滴静注して、入院又は死亡するリスクを比較したところ、両用量群とも主目的を達成した。EUAの根拠となった試験ではウイルス量の削減だけでなくCOVID-19関連受診も偽薬より少なったので、成功は意外ではないが、2400mgずつだけでなくEUAの用量である1200mgずつのエビデンスができたのは一歩前進だ。

リジェネロンは自力で抗体を獲得した患者(あるいは、その結果としてウイルス量があまり高くない患者)に対するウイルス抑制作用が小さい可能性を以前、指摘したことがある。同社も類薬のEUAを得たイーライリリーも続報がないが、今回の試験ではどうだったのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:CD24FcのEUA申請が遅延
(2021年2月25日届け出)

MSDは2020年12月期年次報告書(10-K)の中で、MK-7110(通称CD24Fc)のEUA(非常時使用認可)申請や認可後の米国政府への出荷が遅延することを明らかにした。FDAとの事前協議で良好なフィードバックが得られなかったため。

CD24Fcは、傷害を受けた細胞の免疫チェックポイントであるCD24と抗体固定領域を結合した融合蛋白で、TLRとの相互作用を妨げ、炎症性サイトカインの生成を抑制する効果を持っている模様。他家造血幹細胞移植後の移植片宿主病の予防で第3相入りしたが、昨年、第3相重症COVID-19試験の中間解析(n=203)で病状改善や罹患期間、死亡・呼吸不全リスクの半減など複数の評価項目で大変良い成果を上げ、開発会社のOncoImmuneをMSDが11月に買収した。12月にはHHS(米国連邦保健福祉省)などとEUAを前提に21年6月までに6~10万回分を供給する合意をしていた。

フィードバックの内容は明らかではないが、おそらく、臨床試験のデザインや履行における厳格性が十分ではなかったのだろう。日本のアビガンの試験と同様な話ではないか。

リンク: MSDの2020年12月期年次報告書(65頁に当該記載)

COVID-19:変異型対応ワクチンの開発ガイダンス
(2021年2月22日発表)

FDAは、変異型SARS-CoV-2に対するワクチンや医薬品のガイダンスを公表した。英国型(B.1.1.7系統)や南アフリカ型(B.1.351系統)、あるいはブラジル型(B.1.1.248、最初に発見された国に因んで日本型とも呼ばれている模様)など、ワクチンや一部の医薬品にある程度あるいは大きな抵抗性を持つ変異型が様々な国で検出されていることに対応したもので、ワクチンの場合、EUA(非常時使用認可)を取得する上で必要と考えられる要件を記したガイダンス資料のAppendix 2として追加された。

COVID-19ワクチンは武漢での流行から1年程度でワクチンが開発される快挙を遂げた。SARSやMERSが喉元を過ぎても脅威を忘れず、新型感染症に迅速に対処するための開発プラットフォーム作りやシミュレーションを産学官連携で進めてきた成果だ。接種が始まった第一世代のワクチンは南アフリカ型やブラジル型に対する効果が低下する可能性があり、また、将来的にもっと抵抗性の高い変異型が流行する可能性もあるが、もし高抵抗性変異ウイルスが流行し現在のワクチンでは十分に対処できない事態になったならば、今度は、1年も経たずにver 2.0や3.0を投入することができるだろう。

ここで問題になるのが、薬効・安全性確認試験の規模だ。ワクチン効率(予防効果)や安全性における個人差を確認するためには、ファイザーなどが行ったような数万人規模の試験が必要だが、免疫原性試験だけで足りるならスピードや費用の面で好都合だ。

FDAの判断が注目されたが、ガイダンスによると、基本技術やプラットフォーム、製法などが既にEUAされたワクチンと同じであることを前提に、免疫原性試験で中和抗体血清応答率や抗体力価を調べて、既にEUAされたワクチンの、そのワクチンが対象とする型のウイルスに対する数値と非劣性であることを確認すれば足りる。

非劣性マージンの例示は95%下限が-10%と厳しいが、必ずしも拘っている訳ではなさそうだ。ファイザーやModernaのワクチンのワクチン効率は90%超と大変高いが、インフルエンザワクチンなどの相場を考えれば、変異型対応ワクチンのワクチン効率が70%であっても満足すべきなのではないかと思われる。FDAも、必要に応じて非劣性マージンを緩める用意があるのだろう。尤も、どの程度までなら許容できるかは明らかではない。

FDAに続いて、EMAもReflection Paperを公表した。こちらも免疫原性試験で足りる、としている。対照群とすべき、従来型のワクチン(FDAはprototype vaccine、EMAはparent vaccineと呼んでいる)の従来型ウイルスに対するデータについては、過去の試験のデータを流用することも環境次第で可能との認識を示している。

リンク: FDAのガイダンスのダウンロードページ
リンク: EMAのプレスリリースとダウンロードページ(2/25付)


【新薬開発】


抗TSLP抗体が重度喘息症の増悪を半減
(2021年2月26日発表)

アストラゼネカとアムジェンは、共同開発している抗TSLP(胸腺間質リンパ球増殖因子)抗体、MEDI9929/AMG 157(tezepelumab)の第3相NAVIGATOR試験の結果をAAAAI(米国喘息アレルギー免疫学会)バーチャル・ミーティングで発表した。成功したことは昨年11月に公表済みだが、発作頻度を半減する良好な成績を挙げたことが明らかになった。

この試験は中高量吸入コルチコステロイドなど二剤以上(経口ステロイドも可)を併用しても増悪発作を管理できない重度患者の増悪を抑制する効果を52週間に亘って偽薬と比較した。結果は、年率頻度が56%減、p値は0.001を下回った。近年、抗IL-5抗体や抗IL-4受容体抗体が好酸球増多型喘息症に承認されているが、tezepelumabは血中好酸球数が300個/mcL未満のサブグループ(被験者の約半分)でも41%減と有意な効果を示した。300個/mcL以上のサブグループの70%減には見劣りするが、より多くの患者に便益をもたらすことができる。

TSLPはTh2細胞型炎症免疫カスケードの最上位に位置するためアレルギー性炎症のマスタースイッチとも言われているようだ。抗TSLP抗体はIL-4、5、13を抑制するので、抗IL-5抗体や抗IL-4受容体抗体とオーバーラップする部分もありそうだ。アストラゼネカは12年にアムジェンと共同開発提携を結んだ。第3相経口ステロイド離脱試験はフェールしたが、承認申請に向かうのではないか。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


ヴィーヴ、抗HIV薬の2ヶ月毎筋注を追加申請
(2021年2月24日発表)

ヴィーヴ・ヘルスケアは、抗HIV薬Cabenuvaを2ヶ月毎に筋注する用法追加をFDAに申請した。臨床試験では毎月筋注と効果が非劣性だった。

Cabenuvaは同社の筋注用長期作用性インテグラーゼ阻害剤、cabotegravirとジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤rilpivirineの持効性筋注用製剤を同梱した製品。薬物療法によりウイルスの抑制に成功していて、治療失敗歴を持たず、この二剤に抵抗性を持たない患者がスイッチできる。当初の一ヶ月は経口剤を服用する。

欧州では初承認時に両方の投与頻度が承認されたが、米国は申請が3ヶ月ほど早く間に合わなかったのか、月一回投与しか承認されていない。

リンク: JNJのプレスリリース

ファイザー、米国でダニ媒介脳炎ワクチンを承認申請
(2021年2月23日発表)

ファイザーは、米国でダニ媒介脳炎(TBE)ワクチンTicoVacの承認申請を行い受理されたと発表した。優先審査で審査期限は8月。欧州駐留米軍などの需要に対応する考えのようだ。

TBEは主としてダニが媒介するフラビウイルス属ウイルスによる脳炎。欧州やロシア、アジアの35ヶ国以上で風土病となっており、日本でも93年以降、北海道で数例が報告され、4類感染症指定されている。

ワクチンは米国や日本では未承認だが海外では40年以上の市販歴があるようだ。欧州疾病予防管理センターは風土病地域に居住・旅行する人にワクチン接種を勧奨している。ファイザーはバクスターのワクチン事業を買収して入手したが、売上高は小さいようだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

アムジェン、オテズラを軽症乾癬に適応拡大申請
(2021年2月22日発表)

アムジェンは、Otezla(apremilast、オテズラ)の軽中等症プラク乾癬試験のデータをFDAに提出したと発表した。現在は、光学療法や全身性治療の対象となる中重度プラク乾癬や活性期乾癬性関節炎、ベーチェット病患者の口腔潰瘍の治療に承認されているが、プラク乾癬の軽症患者も取り込む狙いだろう。

このADVANCE試験での軽中等症の定義は、BSA(病変体表面積)に占める病巣範囲が2~15%、PASI(乾癬範囲重症度指標)が2~15、sPGA(医師による静的総合評価)が2~3だった。中重度患者を組入れた試験における定義は病巣BSA比率が10%以上、PASIが12以上、sPGAが3以上なので、もしADVANCE試験のレーベル収載が承認されたら、新たにBSA2~10%、PASIが2~11、sPGAが2のゾーンが射程圏内になる。

Otezlaはセルジーンが開発したが、合併したBMSが競合品を開発していたため、反トラスト規制をクリアするためにアムジェンに134億ドルで売却した。その競合品であるBMS-986165(deucravacitinib、選択的TYK2阻害剤)は第3相中重度プラク乾癬試験でOtezlaを有意に上回る効果を示しており、アムジェンとしては適応拡大を進めたいところだ。

リンク: 同社のプレスリリース

インサイト、ジャカビを慢性GvHDに適応拡大申請
(2021年2月22日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、Jakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)をステロイド不応慢性GvHD(移植片宿主病)の治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は6月22日。FDAのProject Orbisの対象で、カナダやオーストラリア、スイス、ブラジル、英国と共に承認審査する。

JakafiはJAK阻害剤で、骨髄線維症やステロイド不応急性GvHDなどに承認されている。適応拡大の根拠となる第3相では、奏効率が49.7%とBAT(最良治療)群の25.6%を上回った。尚、慢性と急性の違いは発症が移植後100日以降か、以内かで判断することが多いようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


アストラゼネカ、抗PD-L1抗体の膀胱がん適応を返上
(2021年2月22日発表)

アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)は米国で17年に尿路上皮腫の二次治療薬として承認され、18年には非小細胞性肺癌の白金薬・放射線療法による一次治療後の維持療法として、20年には進展期小細胞性肺癌の一次治療三剤併用療法の一つとして、適応拡大してきたが、最初の適応を自主的に返上した。

単群試験の反応率と反応持続期間に基づく加速承認だったので、市販後に延命またはそれに準じる便益を確認しなければならなかったが、欧米日などで実施した一次治療のDANUBE試験がフェールし、gemcitabineと白金薬を併用した群の全生存期間を有意に上回ることができなかった。

実薬対照試験であり、実薬にImfinziを追加する効果を検討するNILE試験も進行中であるため、FDAやアストラゼネカの対応が注目されたが、意外にもこの段階で、両者相談の上、承認の自主返上に至った。

尿路上皮腫は抗PD-1/PD-L1抗体の代表的な用途と考えられてきたが、思ったより延命効果が小さく、苦戦している印象だ。ロシュのTecentriq(atezolizumab)は、一次治療で承認された後に、PD-L1低発現例における延命効果が白金薬レジメンに見劣りすることが判明、適応が高発現に限定された。化学療法併用で一次治療に用いる適応拡大をEUに承認申請したが、全生存期間の解析がフェールしたせいか、申請撤回となった。抗PD-1/PD-L1抗体の総大将であるMSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)も化学療法併用一次治療試験がフェールした。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

CHMP、脊髄筋委縮症治療薬などの承認を支持
(2021年2月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、ロシュの脊髄筋委縮症(SMA)治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

ロシュが前臨床段階でPTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)からライセンスして開発したEvrysdi(risdiplam)は、SMAの患者の多くで欠損するSMN1遺伝子に代えて、SMN2遺伝子のスプライシングに介入することによってある程度機能するSMN蛋白を発現させる。臨床的にI型やII型、III型と診断されている、またはSMN2を1~4コピー保有する、2ヶ月児以上の5q SMN患者が適応になる。CHMPはロシュに、SMN2を1~4コピー持つ患者の長期観察的自然歴対照試験を行うよう要請した。

米国では昨年8月に承認、日本では昨年10月に中外製薬が製造販売承認申請した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク:
リンク: ロシュのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのJemperli(dostarlimab)はIgG4型の抗PD-1抗体。適応はdMMR/MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性/DNAミスマッチ修復機能欠損)のある難治/進行子宮内膜腫で白金レジメンによる治療歴を持つ患者。第1/2相試験の反応率に基づいて条件付き承認することが支持された。19年に買収したTesaro社が14年にAnaptysBioからライセンスした一連の抗体医薬パイプラインの一つ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

BioCryst(Nasdaq:BCRX)のOrladeyo(berotralstat)は経口血漿カリクレイン阻害剤。12歳以上の血管浮腫のルーチン予防薬として承認することが支持された。第3相試験で発作頻度が偽薬比44%減少した。米国では昨年12月に、先駆け指定された日本でも今年1月に、承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BioCrystのプレスリリース

適応拡大で肯定的意見を受けたのは、まず、Exelixis(Nasdaq:EXEL)のCabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)とBMSのOpdivo(nivolumab)を進行/転移腎細胞腫の一次治療に用いること。米国では1月に承認、日本でも前者は武田薬品、後者は小野薬品が承認申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

GW Pharmaceuticals(Nasdaq:GWPH)のEpidyolex(cannabidiol)は大麻の成分の一部を医薬品に転用するもので、18~19年に欧米でDravet症候群による癲癇発作予防薬として承認されているが、今回、2歳以上のTSC(結節性硬化症)患者の癲癇発作予防薬として適応拡大することが支持された。米国では昨年7月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

米国コネチカット州のMelinta Therapeutics(Nasdaq:MLNT)が湧永製薬から導入し欧州ではMenariniが開発販売するキノロン系抗菌剤、Quofenix(delafloxacin)は、19年に成人の急性細菌性皮膚皮膚構造感染症で標準的な第一選択薬が適さない患者に用いる薬として承認されたが、今回、成人限定解除と、第一選択薬不適な地域感染肺炎の治療に用いることが支持された。

リンク: EMAのプレスリリース

サノフィのSarclisa(isatuximab、和名サークリサ)は抗CD38抗体。多発骨髄腫用薬として開発されており、欧州では20年に三次治療薬としてpomalidomide及びdexamethasoneと併用する用法で承認されたが、今回、二次治療にcarfilzomib及びdexamethasoneと併用することが支持された。日本などでも申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、否定的意見だったのがグラクソ・スミスクラインのTrelegyと別名であるElebrato、Temybric。コルチコステロイドfluticasone furoateとベータ2作用剤vilanterol、ムスカリン拮抗剤umeclidiniumを一度に吸入できるトリプル・コンビ薬でCOPD治療薬として承認されている。喘息症でも第3相でコルチコステロイドとベータ2作用剤の二剤併用よりFEV1(1秒量)が改善することを証明し、日米で適応拡大が承認されたが、CHMPは喘息発作リスク抑制効果が確立していないことを重視した。上記試験では発作頻度が13%少なかったが統計的に有意ではなかった。

リンク: EMAのプレスリリース

さて、EMAはリジェネロン・ファーマシューティカルズのREGN-COV2(開発名、casirivimabとimdevimabを配合)をCOVID-19治療薬として承認申請に着手しているが、承認前に使いたい国があるようで、食い違いが生じないよう適応に関する推奨を発表した。SARS-CoV-2感染が確認されたCOVID-19で酸素投与が不要だが重症化リスクが高い患者、というもので、米国のEUAと同じような内容だ。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


サレプタ、第3の筋ジストロフィー治療薬が加速承認
(2021年2月25日発表)

サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)は、Amondys 45(casimersen)がFDAに承認されたと発表した。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のうちジストロフィン遺伝子のエクソン45スキッピング治療に応答する患者に用いる。

同社はRNAからmRNAが切り出されるスプライシング工程を利用して一部の邪魔な塩基配列を除去する、エクソン・スキッピングと呼ばれる手法を得意としていて、これまでに、ジストロフィン遺伝子の51番目のエクソンをスキップするExondys 51(eteplirsen)と、53番目をスキップするVyondys 53(golodirsen)をDMD治療薬として発売している。DMDの原因となる遺伝子変異は様々なので未だカバー率は低いが、それでも、3剤合わせればDMD患者の3割程度が適応になる見込み。

承認の根拠は、先行2剤と同様に、ジストロフィン発現量の増加。7~13歳の患者に30mg/kgを週一回、35-60分点滴静注した試験の中間解析で、48週時点のジストロフィン水準(正常値に対する比率、ウエスタン・ブロット法)がベースライン時点の平均0.93から1.74に上昇し、偽薬群(平均0.54から0.76に上昇)を上回った。治療効果は0.59、p=0.004だった。

致死的な糸球体腎炎などの腎毒性が見られるため腎機能検査が必要。

リンク: 同社のプレスリリース

LibtayoもNSCLC一次治療に適応拡大
(2021年2月22日発表)

FDAはリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のLibtayo(cemiplimab-rwlc)を切除不能局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大を承認した。PD-L1高発現(TPS≧50%)でEGFR/ALK/ROS1の遺伝子に有害変異を持たない癌に単剤投与する。臨床試験では全生存期間のメジアン値が22ヶ月と化学療法群の14ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.68、p=0.0022だった。深刻有害事象は肺炎(5%、対照群は6%)や肺臓炎(2%と0%)など。

LibtayoはPD-1を標的とする抗体で、定常領域がIgG4型であることが目を引くが、IgG1型の製品との違いは明確ではない。扁平上皮癌と基底細胞癌に承認されている。今回の承認は対象患者が多くデータもMSDのKeytruda(pembrolizumab)と遜色ないが、適応となる癌種の数があまりにも違うため、医療施設はKeytrudaをストックする方が効率的だろう。

Libtayoの試験は化学療法群の患者の7割が進行後にLibtayoにクロスオーバーした。一次治療に使う方法と二次治療に使う方法を比較したような格好なので、実力が過小評価されている可能性があるが、真の値を得ることは不可能だ。進行後に承認されている他の抗PD-1抗体を使うのは許容せざるを得ず、クロスオーバーも許容することになる。二番手、三番手の薬が甘受せざるを得ない不利である。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: リジェネロンのプレスリリース





今週は以上です。

2021年2月20日

第987回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • アステラス、新作用機序の更年期障害治療薬の第3相が成功 
  • リムパーザの早期乳癌試験が成功 
  • ASCO GU:キイトルーダとレンビマの併用が腎臓がんに良績 
  • ブルーバード、遺伝子療法試験を一時停止 
  • インサイト、JAK1/2阻害剤のクリーム製剤をアトピーに承認申請 
  • 抗Nectin-4抗体薬物複合体の適応範囲拡大を申請 
  • BeiGene、米国でBTK阻害剤の適応拡大申請 
  • ノバルティス、エンレストの適応範囲が拡大 



【新薬開発】


アステラス、新作用機序の更年期障害治療薬の第3相が成功
(2021年2月19日発表)

アステラス製薬は、fezolinetantの第3相更年期血管運動症状(VMS)治療試験が二本とも成功したと発表した。中重度血管運動症状を患う欧米の閉経期女性を偽薬、30mg、45mgの何れかを一日一回経口投与する群に無作為化割付して、第4週時点と第12週時点の中重度VMSの頻度や重症度を比較したところ、全主評価項目で偽薬比有意な差があった。深刻有害事象の発生率は3%未満だった。

当試験は52週間行う予定で、終了後にデータ発表する予定。後期第2相試験では60mgを投与した患者のうち2人で深刻有害事象が発生した(肝臓障害と胆石症)。前者が薬物誘導性であった場合、用量を半分に減らす程度で回避できるとは限らないので、注目される。

fezolinetantは17年にベルギーのOgeda社を買収して入手したNK3受容体拮抗剤。類薬ではMillendo TherapeuticsがアストラゼネカからpavinetantをライセンスしてVMSなどの第2相試験を行ったが一部の被験者で肝機能検査値異常が見られたことなどから17年に開発中止した。一方、バイエルはグラクソ・スミスクラインからスピンアウトした会社のスピンアウトからライセンスしたNK1/3受容体拮抗剤、NT-814/BAY3427080で第3相を開始する予定。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)

リムパーザの早期乳癌試験が成功
(2021年2月17日発表)

アストラゼネカとMSDはLynparza(olaparib、和名リムパーザ)の第3相早期乳癌アジュバント試験の独立データ監視委員会が中間解析で成功認定したと発表した。適応拡大申請に向かう見込み。

Lynparzaは06年にKuDOS社を買収して入手したPARP阻害剤。BRCA変異を持つ卵巣癌や乳癌などに承認されている。BRCAに有害変異を持つ人はゲノム複製ミスの修復が上手く行かず、卵巣癌や乳癌のライフタイム・リスクが高い。PARPは別のメカニズムによる修復プロセスに係る酵素で、BRCA機能低下とPARP阻害が重なると、癌化して活発に複製が行われ必然的にミスも増加する癌細胞の成長・分裂を抑制することが可能になる。

今回のOlympiA試験は、生殖細胞系BRCA有害変異を持つher2陰性の早期乳癌の患者で、摘出術後の再発リスクが高く、術前/術後化学療法を受けた患者を組入れて、150mg錠を二錠ずつ、一日二回、最大12ヶ月間服用する群のiDFS(侵襲性無病生存期間)を偽薬群と比較した。データは未発表。

PARP阻害剤の開発は同社もサノフィらも難航し、アストラゼネカはKuDOS買収時に計上した暖簾の減損を計上したこともあったが、見事に蘇り、今日では前立腺癌など意外な癌にも承認されるようになった。

リンク: 同社のプレスリリース

ASCO GU:キイトルーダとレンビマの併用が腎臓がんに良績
(2021年2月13日発表)

MSDとエーザイは、第3相CLEAR試験(KEYNOTE-581/307試験)の結果をASCO GU(米国臨床腫瘍学会泌尿器がんシンポジウム)で発表した。抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)とVEGFR阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を進行腎細胞腫の一次治療に用いたもので、主評価項目であるPFS(無進行生存期間、第三者評価)も副次的評価項目の全生存期間も、Sutent(sunitinib)群を有意に上回った。どちらも類薬が色々あるが、各種併用法と見比べても良さそうに見える。

PFSのハザードレシオは0.39、メジアン値は各23.9ヶ月と9.2ヶ月。全生存期間は0.66、メジアン値は両群とも未達だった。

この試験では、LenvimaとノバルティスのmTOR阻害剤、Afinitor(everolimus、和名アフィニトール)を併用する群も試験された。PFSはハザードレシオ0.65、メジアン値は14.7ヶ月でSutent群を有意に上回ったが、全生存期間は1.15(95%信頼区間は0.88-1.50)で有意な差はなかった。

VEGFR阻害剤は数多あるが、Lenvimaは癌や併用薬に応じて用量を細かく調整していることが印象的。放射性ヨウ素抵抗性進行性分化甲状腺癌は24mg、腎細胞腫二次治療にeverolimusと併用する時は18mg、肝細胞腫一次治療は体重に応じて8mgまたは12mg、内膜腫二次治療にKeytrudaと併用する時は20mgを、一日一回、服用する。今回の試験ではKeytruda併用は内膜腫と同様に20mg、everolimus併用は腎細胞腫二次治療と同じ18mgを投与した。


進行腎細胞腫一次治療試験

メジアン値(ヶ月)ハザードレシオ
試験薬群sunitinib群
【PFS】
Keytruda+Lenvima23.99.20.39
Lenvima+everolimus14.79.20.65
Keytruda+axitinib15.111.00.69
Opdivo+cabozantinib16.68.30.51
(Opdivo+ipilimumab)11.68.40.82 ns
【全存期間】
Keytruda+Lenvima0.66
Lenvima+everolimus1.15 ns
Keytruda+axitinib0.53
Opdivo+cabozantinib0.60
(Opdivo+ipilimumab)0.63
注:ns(統計的に有意ではない)と記されているもの以外のハザードレシオは統計的に有意。全生存期間のメジアン値はいずれも未達。Opdivoとipilimumabの併用は中重度リスク患者だけに関するもので、低リスク患者も組入れられ全生存期間のハザードレシオが1.45と悪かったが、症例数不足なのか有意ではなかった。

リンク: 両社のプレスリリース

ブルーバード、遺伝子療法試験を一時停止
(2021年2月16日発表)

ブルーバード・バイオ(Nasdaq:BLUE)は、LentiGlobinの重度鎌状赤血球症(SCD)試験二本と、欧州で輸血依存ベータサラセミア(TDT)治療薬Zyntegloとして承認されている製品の販売を一時停止すると発表した。5年以上前に治験に参加したSCD患者が急性骨髄性白血病と診断されたため。

LentiGlobinは患者のCD34陽性細胞にレンチウイルスをベクターとしてベータ・グロブリン遺伝子を導入する、ex vivo遺伝子療法。Zyntegloも同じ手法を用いている。レンチウイルスのRNAは逆転写を経て宿主細胞のゲノムに組み込まれるので持続的なベータ・グロブリン産生が期待できるが、挿入される箇所が不安定で、癌のリスクを慎重に評価する必要があると考えられている。

TDTの臨床試験では血液癌の発現は報告されていないが、SCDでは以前にも多発骨髄腫を発現した症例があった。今回、多発骨髄腫の2例目も明らかにされた。

遺伝子療法との因果関係は明らかではない。LentiGlobinを投与する前に化学療法薬を投与してコンディショニングを行うが、この化学療法薬は数パーセントの患者で多発骨髄腫などの血液癌が生じるリスクがあるからだ。1例目に関してはbusulfanの副作用と考えられているようである。

因果関係を立証するのは常に困難なので、通常は発生率を観察するが、遺伝子療法の対象になる患者は決して多くないため、疫学的な評価はできないだろう。腫瘍細胞のゲノムを調べて挿入箇所を調べ、それが癌原性とどう係るのか検討することが、レンチウイルス・ベクター全般の研究を進めるうえで、重要だろう。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認申請】


インサイト、JAK1/2阻害剤のクリーム製剤をアトピーに承認申請
(2021年2月19日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、ruxolitinibを中重度アトピー性皮膚炎の治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査バウチャを用いたため審査期限は6月21日と早い。

ruxolitinibは錠剤が骨髄線維症などの治療薬Jakafi(和名ジャカビ)として承認されているが、アトピー用にクリーム状の製剤を開発した。局所治療を求める12歳以上の患者を二本合計で1200人超、組入れて0.75%と1.5%製剤を一日二回塗布したところ、第8週時点のIGA奏効率も、EASI75達成率も、偽薬を有意に上回った。治療時発現有害事象は偽薬群より少なく、深刻有害事象発現率は大差なかった。

リンク: インサイトのプレスリリース

抗Nectin-4抗体薬物複合体の適応範囲拡大を申請
(2021年2月19日発表)

Seagen(Nasdaq: SGEN)とアステラス製薬は、米国でPadcev(enfortumab vedotin-ejfv)の追加的生物学的製剤承認申請(sBLA)を行ったと発表した。19年に白金薬およびPD-1/PD-L1阻害剤による治療歴を持つ局所進行性/転移性尿路上皮癌に加速承認されたが、市販後コミットメント試験であるEV-301試験が成功したため、本承認切替を求めた。更に、PD-1/PD-L1阻害剤歴を持ち白金薬不適な患者に用いることも承認申請した。

転移性膀胱癌の9割以上で発現するNectin-4に結合して細胞の中に入り、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)を放出する抗体薬物複合体。EV-301試験ではメジアン生存期間が12.9ヶ月と化学療法群の9.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、統計的に有意だった。白金薬不適でPD-1/PD-L1阻害剤歴を持つ患者を組入れた第2相ではcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価方式)が52%、メジアン反応持続期間は10.9ヶ月だった。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)

BeiGene、米国でBTK阻害剤の適応拡大申請
(2021年2月17日発表)

中国のBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)は、Brukinsa(zanubrutinib)をワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症(WM)の治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。審査期限は10月18日。欧米などでも申請中とのこと。

btk阻害剤で、19年にマントル細胞腫の二次治療薬として米国で加速承認された。WMは濾胞性B細胞リンパ腫の一種で、非ホジキン型リンパ腫の2%未満と稀。今回のエビデンスとなるなるのは第3相ASPEN試験。MYD88変異を伴うWMをBrukinsa群とImbruvica(ibrutinib)実薬対照群に無作為化割付して反応を比較したところ、VGPR(最良部分奏効)率が各28.4%と19.2%となり数値上は上回ったものの、有意水準には届かずフェールした。太宗を占めた難治再発患者だけの解析でも28.9%と19.8%で有意差なし。安全性では心房細動や粗動、出血事故がImbruvicaより少なかった模様。

このデータでも承認が取れるのか、要注目だ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


ノバルティス、エンレストの適応範囲が拡大
(2021年2月16日発表)

ノバルティスは、FDAがEntresto(sacubitril/valsartan、和名エンレスト)の適応範囲拡大を承認したと発表した。NEP阻害剤とアンジオテンシンII受容体拮抗剤を一つの分子にした珍しいタイプの薬で、米国では15年に駆出率低下を伴う慢性心不全(HFrEF)患者の心血管死や心不全入院を抑制する適応・効能で承認された。今回の適応範囲拡大は、文言上は、駆出力低下という限定が解除された。但し、便益が最も明確なのは左心室駆出率が正常値以下である場合、との注記がある。一方で、駆出率は変動するので適否は臨床的に判断すべきとの注記もあり、どうしろって言うの、とため息が出る。

エビデンスとなるPARAGON-HF試験では、駆出率が維持されている慢性心不全(HFpEF)を組入れて心血管死・心不全入院のリスクをvalsartan群と比較したところ、率比は0.87、p=0.059で僅かにフェールした。ところが、FDAは前向きでノバルティスに承認申請を促したようだ。駆出率が低下した患者に対する便益は確立しており、今回の被験者は多少高いだけであることや、担当医評価に基づく率比(ポストホック分析)は0.84、p=0.01で、主評価項目との違いは、第三者委員会が担当医報告を査読する際にデータ不足で却下した症例が少なくなく、検出力が低下したことが原因と考えられるためだ。

但し、大規模とは言え一本の試験でp=0.01というのは十分に低いとは言えない。サブグループ分析を見ると、女性には良い数値が出たが男性の率比は1.02だった。同様に、駆出率が被験者のメジアン値(57%)未満の患者では良い数値が出たが以上の患者では1.00だった。また、アジア人種やアジアの拠点のサブグループ分析は点推定値が大きく1を上回っている。エビデンスが頑強とは言い難い。

そもそも、駆出率の正常値とは何なのか、Entrestoのレーベルには記されていない。米国では52~54%、日欧では50%が下限と考えられているようだが、PARAGON-HF試験のうちこのレンジ以下のサブグループの率比が幾つだったのかも、記されていない。

結局、FDAが言いたいのは、これまでFDAやEMAが行っていたHFrEFとHFpEFの分別は適切ではなく、個々の患者の増悪・死亡リスクを踏まえて処方の是非を判断すべきということなのだろう。その意味では、日本の考え方に一歩近づいた。

尚、ノバルティスのプレスリリースによると、米国の慢性心不全患者600万人以上のうち、従来はHFrEF300万人が対象だったが、今回の承認で500万人程度に広がったとのこと。

リンク: 同社のプレスリリース






今週は以上です。

2021年2月13日

第986回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アクテムラの大規模試験が成功 
  • COVID-19:FDA、イーライリリーの抗体カクテルにEUA 
  • COVID-19:VIPの試験は本当に成功したのか? 
  • COVID-19:南アがアストラゼネカのワクチンの接種を一時停止 
  • maribavirが12年の雌伏を経て第3相成功 
  • ASCO GU:オプジーボの膀胱癌アジュバント試験が成功 
  • アミカス、ポンペ病の酵素補充療法を承認申請へ 
  • ガラパゴス/ギリアド、オートタキシン阻害剤の臨床試験を中止 
  • 抗TF抗体薬物複合体を子宮頸がんに承認申請 
  • FDA諮問委員会、キイトルーダのTNBC術前術後適応はまだ早いと判定 
  • FDA、CDK4/6阻害剤を化学療法誘導性好中球減少症の抑制に承認 
  • FDA、リジェネロンの抗ANGPTL3抗体をHoFH薬として承認 
  • リジェネロン、抗PD-1抗体が基底細胞癌に適応拡大 


【今週の話題】


COVID-19:アクテムラの大規模試験が成功
(2021年2月11日発表)

オックスフォード大学が主導するRECOVERY試験はCOVID-19の治療に有効な薬を発掘するため様々な既存薬や新薬を次から次へとテストしている。医療リソースがひっ迫する中、医療従事者の負担を軽減するため収集する情報量を抑制し、二重盲検ではなくオープンレーベル試験とする一方で、28日間の生存状況という客観的で強固な主評価項目を設定した。これまでにdexamethasoneの有効性、hydroxychloroquineやchloroquine、lopinavir・ritonavir、そして回復期血漿の無効性を明らかにする成果を上げているが、今回、中外製薬が創製しロシュが欧米などで販売している抗IL-6受容体抗体、Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)が酸素投与・人口換気を必要とし炎症が亢進しているCOVID-19患者に有効であることを確認した。治験論文草稿がmedRxivで公開される。

この試験は、他の薬の試験に無作為化割付した患者のうち、酸素飽和度(室温)が92%未満または酸素投与/換気を必要としている、CRPが75 mg/dL以上の患者4116人を、ファクトリアル・デザインでActemra群と標準療法だけの群に再無作為化割付した。Actemraの用量は体重に応じて決定、一回投与して改善しなかったら12~24時間後に再投与可能。被験者の29%が2回超の投与を受けた。被験者のメジアンCRP値は143 mg/dLだった。82%がdexamethasoneなどの全身性ステロイドによる治療を受けた。

結果は、標準療法群の28日死亡率が33%、Actemra群は29%で率比は0.86(95%信頼区間0.77-0.96)、p=0.007だった。通常のフェイスマスク装着だけだったサブグループから人工呼吸器装着ICU入室サブグループまですべてに便益があった。入院から無作為化割付まで2日以内でも2日超でも便益があった。28日生存したまま退院率で見ても47%対54%、率比1.23(95%信頼区間1.12-1.34)、p<0.0001だった。

p値の割には信頼区間が広いのが気にかかるが、点推定値に全集中すると、25人に投与すれば1人を救命できる計算になる。他の24人は投与しなくても結果は同じだが、得るものが命なので価値がある。

あとは、追跡不能例がどの程度あったか、そもそも個々の症例報告がどの程度正確か(こういう状況下なのでミスが多発しても不思議ではない)など、執行面の検証を確認したいところだ。

Actemraなどの抗IL-6受容体抗体のCOVID-19試験は区々な結果になっている。ロシュが主導した試験は一本がフェール、もう一本は成功したものの28日死亡率は、統計的に有意ではないとはいえ、10.4%と対照群の8.6%より高かった。日本で行われたJ-COVACTA試験は単群試験なので自然回復と見分けがつかない。一方、RECOVERY試験と同様に英国で実施され、ICU入室または換気・循環サポートを受けている危機的患者を組入れたREMAP-CAP試験は成功した。この試験では効果とCRP水準の関連性は見られなかったようだ。

RECOVERY試験との整合性が気になるところだが、4000人超という前例とは比べ物にならない規模の試験なので、自ずから、説得力が高い。

リンク: RECOVERY試験のプレスリリース

COVID-19:FDA、イーライリリーの抗体カクテルにEUA
(2021年2月9日発表)

FDAは、イーライリリーの抗体医薬二剤を併用で軽中等症COVID-19感染症の外来治療に用いることをEUA(非常時使用認可)した。一つはカナダのAbCellera Biologicsからライセンスして共同開発したLY-CoV555(bamlanivimab)で、昨年11月に同じ適応でEUAされている。もう一つは中国のJunshi Biosciencesが中国科学院微生物研究所と共同開発しイーライリリーが中国以外でインライセンスしたLY-CoV016(etesevimab)で、SARS-CoV-2のスパイク蛋白の異なったエピトープに結合する。

軽中等症で入院はしていないが重症化するリスクが高い患者1035人(平均で発症後4日と早い)を組入れた第3相試験では、偽薬群の入院・死亡率が7.0%であったのに対してこの二剤を併用した群は2.1%に留まり、相対リスク削減率70%、p=0.0004だった。偽薬群は10人(1.9%)が死亡したが試験薬群はゼロだった。深刻有害事象は各5人と7人で試験薬群のほうが少なかったが、有害事象による死亡は各2人と0人だった。

上記の相対リスク削減率は、bamlanivimabだけを投与した臨床試験とほとんど同じだ。奇妙な話だが、イベント数がそれほど多くないので、どちらも信頼区間が広いのだろう。

尚、この試験では夫々の薬を2800mgずつ点滴静注したが、EUAの用量はbamlanivimabが単剤投与時と同じ700mg、etesevimabは1400mgとなった。臨床的に同等とのことだ。bamlanibimabの点滴時間は60分以上と長かったが、今回、16分以上に短縮された。二剤併用時は一緒に、16分以上かけて点滴静注する。外来治療用なので短時間で済む方が良い。

bamlanivimabの2020年第4四半期の売上高は8.7億ドルに達したが、これは米国政府への売上高で、末端需要はもっと小さい模様だ。ウイルス検査を受けたが症状が重くないため自宅に帰った患者を、診断確定後に医療施設に呼び戻すのはロジスティクス面で簡単ではなく、また、医療施設としてもリソースは重症・深刻患者に割きたいだろう。エビデンスは併用のほうがしっかりしているので今後、普及する可能性もあるが、一方で、米国でも散見される南ア型には効果が低いとも言われており、今回の二剤併用が決定版とは呼べないだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

COVID-19:VIPの試験は本当に成功したのか?
(2021年2月8日発表)

NeuroRxは、RLF-100(aviptadil)の後期第2相/第3相COVID-19呼吸不全治療試験の当初結果を発表した。見出しには退院を早める効果があったと記されているが、プレスリリース本文には明快な記載がなく、信憑性は曖昧だ。同社は9月に集中治療を受けていて既存療法を使い果たした患者を対象とするEUA(非常時使用認可)を申請し、まだ承認されていないが、今回もEUA申請する考え。

RLF-100はヒトVIP(血管作動性腸管ペプチド)を化学合成したもの。VIPの7割は肺の二型肺胞細胞に分布しており、導入元であるスイスのRelief Therapeutics(SIX:RLF)はバイオジェンと提携して肺動脈高血圧症の第2相試験を行ったこともある(その後、提携解消)。

今回の試験は危機的COVID-19感染症で呼吸不全の203人を試験薬群と標準治療のみの群に2対1割付して12時間点滴静注し、転帰を比較した。主評価項目の28日内退院率は各群48%と46%で大差なかった。28日生存率も各群67%と70%で大差なかった。同社は標準治療の進歩が影響した可能性に鑑み、60日生存率を検討すべく追跡調査する予定。

高流量鼻カニュラ酸素(HFNC)療法あるいは人工呼吸器による治療を受けていたサブグループでは、16の副次的評価項目のうち15項目でアドバンテージが見られた。入院期間がメジアン5日間短く(p=0.043)、特にHFNC療法サブグループはメジアン15日と対照群の26日を大きく下回った。

FDAのEUAは正式な承認ではなく、薄弱なエビデンスに基づくEUAも散見される。だから、もし上記サブグループのデータにノイズがなく、忍容性面で脅威がなかったら、EUAを得る可能性もゼロではないだろう。

NeuroRxは不動産開発グループであるビッグ・ロック・パートナーズの企業買収特別目的会社、Big Rock Partners Acquisition Corp.(Nasdaq:BRPAU)と合併で合意している。

リンク: NeuroRxのプレスリリース

COVID-19:南アがアストラゼネカのワクチンの接種を一時停止
(2021年2月7日発表)

南アフリカでは昨年11月以来、B.1.351系統と呼ばれる変異種が流行し、今では太宗を占めるようになった。英国で9月以来流行しているB.1.1.7系統と同様にN501Y変異を持ち細胞感染力が高いことに加えて、自然感染やワクチン接種で獲得される抗体に抵抗性を持つK417N変異とE484K変異を持っているため、英国型変異とは比べ物にならないほど重要な脅威だ。ブラジルの一部地域で流行し日本でも検出されたB.1.1.248系統もN501Y、K417T、E484Kの三点セットを持っている。異なった地域で同じ変異が生じたのだから、他の地域でも三点セットが自然発生することもあるかもしれない。

尤も、ワクチンは液性免疫だけでなく細胞性免疫も誘導するため、偽ウイルス中和試験で解決するほど単純な話ではない。実際に臨床試験で予防効果を確認することが望ましい。

第984回で報告したように、ジョンソン・エンド・ジョンソンが米国でEUA申請したAd26.COV2.Sワクチンは南アの試験でワクチン効率が57%と米国試験の72%より低く、Novavax(Nasdaq:NVAX)の抗原ワクチンも南ア試験は60%と英国試験の89%より低かった。それでも、水準自体はインフルエンザ・ワクチンの疫学データと比べて見劣りするものではなく、一安心と言える。もし必要なら南ア型に対応したワクチンを年内に実用化することも可能だろう。

ところが、Novavaxの試験を主導したウィッツウォーターズランド大学が、オックスフォード大学が創製しアストラゼネカと共同開発販売しているChAdOx1-S(AZD1222)について、臨床試験で軽中等症感染を防ぐ効果がごく小さかったことを発表した。メジアン31歳の低リスク層を組入れたため中重症感染や入院、死亡を防ぐ効果を検討することはできなかった。

査読中の治験論文をプリプリント・サーバーに提出したとのことだが、見当たらないので、おそらくまだ公開されていないのだろう。報道によると、ワクチン効率は22%だったが、南ア型変異の感染に限定すると、ほとんど効果がなかったようだ。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの接種が始まったことも考慮してか、南ア政府はアストラゼネカのワクチンの接種を一時的に停止したという。mRNAワクチンと比べてワクチン効率が低く、高齢者の症例が少なく、二回接種の間隔に4-12週間と幅があり何がベストなのかエビデンスが乏しく、南ア型やブラジル型変異には効果が弱いことを示唆するエビデンスしかないワクチンなのだから、少なくとも南アでは、敢えて使う必要はないと判断したのだろう。政府は他国に転売するオプションも検討しているようだ。インドで生産された低所得向け低価格製品なので、EUや日本に売却する可能性は低いだろう。

リンク: Witsワクチン感染症分析リサーチ・ユニットのプレスリリース


【新薬開発】


maribavirが12年の雌伏を経て第3相成功
(2021年2月12日発表)

武田薬品は昨年12月にTAK-620(maribavir)の第3相移植後サイトメガロウイルス(CMV)感染症/疾患試験の成功を発表したが、具体的な内容がTCT(移植・細胞治療学会議)で発表された。最初の第三相は12年前にフェールしたが、4倍の量を投与した今回の試験は既存のCMV治療薬を上回る成果を挙げた。

maribavirはCMVのUL97プロテインキナーゼを阻害する経口剤。グラクソ・スミスクラインが創製、03年にライセンスしたViroPharmaが他家造血幹細胞移植後のCMV感染を予防する第3相試験を実施したが、6ヶ月間の発症率が4.4%と偽薬群の4.8%と大差なく、肝移植患者を対象とした臨床試験も打ち切った。ViroPharmaを13年に買収したシャイアが第3相治療試験を開始、19年にシャイアを買収した武田薬品が開発を承継した。

今回の第3相は、臓器移植や造血幹細胞移植後にCMV感染症/疾患を発症した難治性の患者(抵抗性も可)を組入れて、200mg錠2錠を一日二回、8週間に亘って経口投与する群のウイルス消失奏効率を実薬(ganciclovirやvalganciclovirなどから医師が選択)と比較した。結果は、各55.7%と23.9%となり、統計的に有意な差があった。臓器移植レシピエント(55.6%対26.1%)にも、造血幹細胞移植レシピエント(55.9%対20.8%)にも、効果があった。

副次的評価項目の、8週間の治療を完了した後さらに8週間経った時点においてウイルス消失を維持するとともに症状管理も良好な患者の比率は18.7%、対照群は10.6%となり、有意な差があった。ウイルス消失率だけの数値は明らかではないが、おそらく、再燃が多かったのだろう、治療直後より低下している。難治性CMVの治療の難しさが窺われる。

有害事象では、ganciclovirやvalganciclovirと比べて好中球減少リスクが小さく、foscarnetと比べて急性腎障害懸念が小さかった。治療時発現有害事象による治験離脱率は13.2%対31.9%と低かった。

今年上期に米国で承認申請する予定。承認されたら初めての難治・抵抗性CMVの治療薬になる。他の地域でも申請予定。

リンク: 武田薬品のプレスリリース(英文)

ASCO GU:オプジーボの膀胱癌アジュバント試験が成功
(2021年2月8日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは昨年9月、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)のCheckMate-274試験の成功を公表したが、具体的な内容をASCO GU(米国臨床腫瘍学会泌尿器癌シンポジウム)で発表した。抗PD-1/PD-L1抗体の膀胱癌試験は成功したりフェールしたりしていて良く分からないところがあるが、この試験に関しては良好な結果になった。

筋層浸潤尿路上皮癌で切除術を受けたが再発リスクの高い患者709人を組入れて、偽薬または240mgを2週毎に最長1年間投与した試験で、中間解析でDFS(無病生存期間)に有意な差が確認された。共同主評価項目のうち、intent-to-treatベースのDFSは、各群のメジアン値が10.9ヶ月と21.0ヶ月、ハザードレシオ0.70(98.31%信頼区間0.54-0.89)、p<0.001となった。もう一つのPD-L1陽性(≧1%)サブグループのDFSは偽薬群のメジアン値が10.8ヶ月、Opdivo群は未達、ハザードレシオ0.53(98.87%信頼区間0.34-0.84)、p<0.001となった。

G3/4有害事象の発生率は17.9%と偽薬群の7.2%を上回った。

全生存期間や疾病関連の死亡リスクを評価するため、臨床試験は盲検のまま続行しているとのこと。

リンク: BMSのプレスリリース

アミカス、ポンペ病の酵素補充療法を承認申請へ
(2021年2月11日発表)

アミカス・セラピューティクス(Nasdaq:FOLD)は、AT-GAAの第3相遅発型ポンペ病実薬対照試験の結果を発表した。優越性解析がフェールしたが、FDAに承認申請する考えだ。

AT-GAAは細胞取込強化を意図して糖鎖最適化処理を行ったアルファ・グルコシダーゼであるATB200(cipaglucosidase alfa)をAT2221(miglustatカプセル)と併用するもの。後者はアクテリオンを買収したジョンソン・エンド・ジョンソンが販売しているゴーシェ病I型治療薬、Zavesca(和名ブレーザベス)の活性成分と同じだが、グルコシルセラミド合成阻害作用ではなく、cipaglucosidase alfaに結合して安定化し活性を増強する作用が期待されているようだ。

第3相のPROPEL試験は歩行可能で人工呼吸器に依存していない123人をAT-GAA群とLumizyme(alglucosidase alfa)群に2対1無作為化割付した。酵素補充用薬はどちらも20mg/kgを点滴静注、miglustatは260mgを経口で、2週毎に52週間投与した。主評価項目の6分歩行テストはベースライン平均値の約355mから試験薬群は21m、実薬群は7m改善し、差は有意水準には達しなかった。副次的評価項目の%努力性肺活量(% pre. FVC)はベースライン平均値の70%から各群0.9ポイントと4.0ポイント低下し、p=0.023だが、主評価項目がフェールしたので統計的に有意とは言えない。

被験者の77%は治験参加までLumizymeによる治療を受けていた。このサブグループを対象とする事前に設定されていた解析では、6分歩行テストの改善が各16.9mと0m、p=0.046、%努力性肺活量は各0.1ポイント改善と4.0ポイント低下、p=0.006となった。数値は良さそうに見えるが、メインの解析がフェールしたことや歩行テストのp値がそれほど低くないので、説得力は十分でない。

治療時発現深刻有害事象の発現率は9.4%でLumizyme群の2.6%より高かった。治験前からLumizymeを使っていた患者はあまり有害事象が出なかっただろうから、差が出るのは当然だが、やや大きいような印象を受ける。

二剤併用しても効果が単剤を大きく上回らず、副作用は若干増えるというのは今一つ。株価下落が頷かれる。

リンク: 同社のプレスリリース

ガラパゴス/ギリアド、オートタキシン阻害剤の臨床試験を中止
(2021年2月10日発表)

ベルギーのガラパゴス(Nasdaq:GLPG)と米国のギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、GLPG1690(ziritaxestat)の臨床試験を中止すると発表した。第3相特発性肺線維症試験、ISABELA試験の独立データ監視委員会が定期的な便益・危険性評価に基づいて中止を勧告したため。詳細は不明だが、全身性硬化症試験も中止を決めたことから想像すると、安全性懸念が浮上したのではないか。

GLPG1690は線維芽細胞の遊走や神経新生、血管新生など様々なメカニズムに係るリゾホスファチジン酸(LPA)の生成に係る酵素、オートタキシンを阻害する小分子薬で、ガラパゴスが発見し、19年にギリアドに欧州以外の地域での開発販売権をライセンスしたもの。

両社はその後、最初に提携したJAK1阻害剤、Jyseleca(filgotinib、和名ジセレカ)を含む包括的な研究開発提携を結び、ギリアドは契約一時金として39.5億ドルを払い、ガラパゴスの株式を11億ドル相当取得した。

しかし、Jyselecaは日本や欧州で抗リウマチ薬として承認されたものの、米国はFDAが精巣安全性確認試験を要求したためリウマチでの開発を断念するセットバックがあった。第二のコンパウンドであるGLPG1690も挫折したのは痛い。

バイオ株の株主は持続的な株価成長を望むが、新薬開発の成果をコンスタントに生むのは容易ではなく、特に、ギリアドのように大きな成功を収めた会社がそれ以上の成功を実現し続けるのは至難である。代替策として、経営者は他社の開発品を提携や企業買収の形で数多く入手する方向に動きがちだ。両社の巨大提携も、BMSに買収する前のセルジーンも、このパターンである。

第三者としては、開発者が誰でも結果が出ればそれでよいのだが、入手するために高額を払った企業は、新薬の価格を高く設定して投資を回収しようとするので、典型的な外部不経済である。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


抗TF抗体薬物複合体を子宮頸がんに承認申請
(2021年2月10日発表)

デンマークのジェンマブ(Nasdaq:GMAB)と共同開発パートナーで米国などでの商業化を担当するSeagen(Nasdaq:SGEN、旧称シアトル・ジェネティクス)は、Humax-TF-ADC(tisotumab vedotin)を再発/転移子宮頸がん用薬として加速承認するようFDAに求めたと発表した。化学療法歴のある患者を想定している。

腫瘍の成長や転移、血管新生などに係るとされ子宮頸がんなどで高発現する、TF(組織因子)を標的とする抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体。承認申請の根拠となる三次治療試験では、cORR(確認客観的反応率、独立中央評価)が24%、メジアン反応持続期間は8.3ヶ月だった。有害事象は脱毛、鼻血、悪心、結膜炎、疲労、ドライアイなど。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、キイトルーダのTNBC術前術後適応はまだ早いと判定
(2021年2月9日報道)

FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)をトリプル・ネガティブ早期乳癌の摘出術前(ネオアジュバント)及び術後(アジュバント)療法に用いる適応拡大に関して、意見を求めた。延命効果が確認されるまで承認を待つべきという審査担当者の考えを10人全員が支持した。

この適応拡大申請は、19年にESMO(欧州臨床腫瘍学会)で結果が発表され20年にはNew England Journal of Medicineに論文刊行された、KeyNote-522試験に基づくもの。ステージII/IIIで初めて治療を受ける患者を組入れて、ネオアジュバントでは化学療法と併用、アジュバントは単剤投与し、偽薬を併用/単剤投与する群と比較した。

主評価項目はネオアジュバントにおけるpCR(病理学的完全奏功)と、イベント・フリー・サバイバル(EFS)。中間解析でKeytruda併用群のpCRが64.8%と偽薬併用群の51.2%を有意に上回り、成功認定された。EFSはハザードレシオが0.63と良好な内容だったものの、目標イベント数に達していないことや中間解析は閾値が厳しく設定されるため、有意水準に達していない。

諮問委員会用資料を読んで驚かされたのは、中間解析後のデータも含めたアップデート値では、pCRの差が7%強に縮小したという。また、Keytruda群の784人中4人が免疫関連有害事象により死亡した。

FDAはpCRが必ずしも延命またはそれに準じる効果とリンクしないことを指摘。EFSのアップデート値はハザードレシオ0.65、p=0.0025となっているが、この段階の解析に割り当てられたアルファは0.0021なので未だ有意とは言えないと判断し、MSDが承認申請する前から否定的にフィードバックしていた。

EFSの第3回中間解析が今年第3四半期にも行われる見込みと報じられているので、承認は早くても半年間お預けになりそうだ。

さて、ネオアジュバントに用いられる薬の多くはこの用途では未承認だ。早期乳癌のネオアジュバント療法薬として米国で最初に承認されたのはロシュのPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)で、13年のことだ。第2相her2陽性早期乳癌試験でHerceptinとdocetaxelのレジメンに併用した群のpCRが39.3%とHerceptin・docetaxelだけの群の21.5%を上回った。この時もFDAはpCRに基づく承認に否定的だったが、転移後一次治療試験が成功し承認されていることや、別途、延命効果確認試験が行われることから、加速承認なら可と判断した。

今回との違いは、第一に、Keytrudaはトリプル・ネガティブ乳癌の転移後一次治療に用いることが承認されているが、対象はPD-L1陽性(CPS≧10)に限定されている。第二に、ロシュはネオアジュバントの承認を先に取ったが、MSDはアジュバントも一緒に申請したこと。アップデートされたpCRが成功認定された時の数値からだいぶ低下していることもマイナス材料ではあるだろう。


【承認】


FDA、CDK4/6阻害剤を化学療法誘導性好中球減少症の抑制に承認
(2021年2月12日発表)

FDAは米国ノースカロライナ州の新興新薬開発企業、G1 Therapeutics(Nasdaq:GTHX)のCosela(trilaciclib)を承認した。進展型小細胞性肺癌で化学療法を受ける患者の骨髄抑制リスクを削減する目的で使う。臨床試験では重度好中球減少症の発生率や罹患期間が減少した。主な有害事象は疲労、カルシウムやカリウム、リンの減少、肝機能検査値異常など。注射箇所反応や間質性肺疾患/肺臓炎、胚胎毒性にも注意するよう呼びかけた。

静注点滴用の短期作用性サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害剤で乳癌や大腸癌でも開発されている。ベーリンガー・インゲルハイムが米国などで3年間、コプロモする。

リンク: FDAのプレスリリース

FDA、リジェネロンの抗ANGPTL3抗体をHoFH薬として承認
(2021年2月11日発表)

FDAは、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のEvkeeza(evinacumab-dgnb)を12歳以上のホモ接合型家族性高脂血症(HoFH)治療薬として承認した。HoFHは両親から受け継いだLDL-C受容体などの遺伝子の両方に機能低下・喪失変異を持ち、血清コレステロール値が著しく高い。Evkeezaはアンギオポエチン様タンパクIII型(ANGPTL3)を標的とする抗体で、スタチンや抗PCSK9抗体がLDL-C受容体やその川下に作用するのに対して、トリグリセライドなどを分解するリパーゼを阻害する。

12歳以上の患者65人を組入れて4週毎投与した第3相試験では、LDL-C(ベースライン値は255mg/dL)から24週後に47%低下した。偽薬群は2%上昇した。主な有害事象は鼻咽頭炎やインフルエンザ様疾患など。1名で深刻な過敏反応が見られた。胎児毒性がある。

用量は体重と相関するため薬剤費も患者毎に違うが、会社側は平均で年45万ドルと予想している。上記試験では被験者の98%がスタチンを、81%がPCSK9阻害剤を併用していたが、抗PCSK9抗体だけでも高いのに更に45万ドルは高いように感じられる。米国で推定1300人が罹患する超希少疾患なので止むを得ないと言えばそうなのだが、おそらく、今後、ヘテロ接合型などに適応拡大していくのだろうから、抗PCSK9抗体などの価格水準と並べても良かったのではないか。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: リジェネロンのプレスリリース

リジェネロン、抗PD-1抗体が基底細胞癌に適応拡大
(2021年2月9日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、Libtayo(cemiplimab-rwlc)を基底細胞癌に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。第一選択薬であるヘッジホッグ・パスウェイ阻害剤に不応または不耐の患者が適応になる。局所進行性の癌に関しては正式な承認、転移性は加速承認で別途、薬効確認が必要。

第2相単群試験に基づく承認で、局所進行性基底細胞癌ではORR(客観的反応率)が29%(完全反応率6%)、反応例の79%は6ヶ月以上持続、転移性ではORR21%(完全反応なし)、反応した6人全員が6ヶ月以上持続した。深刻有害事象の発現率は32%だった。

Libtayoは抗PD-1抗体。18年に米国で、19年にはEUでも、局所進行/転移皮膚扁平上皮癌に単剤投与する用途で承認された。先行類薬が多いためか、ニッチな領域を最初に攻めたが、本丸であるPD-L1高発現局所進行性/転移性非小細胞性肺癌一次治療でも承認審査中で、米国の審査期限は今月末となっている。

リンク: 両社のプレスリリース





今週は以上です。

2021年2月6日

第985回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:ノババックス、欧米でワクチンのローリング審査を申請 
  • COVID-19:JNJが一回接種のみのワクチンを承認申請 
  • AT1・ETA受容体拮抗剤の糸球体硬化症試験が成功 
  • BMS、TYK2阻害剤の二本目の尋常性乾癬試験も成功 
  • ロフルミラスト・クリームの乾癬試験が成功 
  • BMS、S1P受容体調節剤を潰瘍性大腸炎に適応拡大申請 
  • CHMP続報:キイトルーダの適応拡大とテセントリクの撤回 
  • FDA、TG社のリンパ腫用薬を承認 
  • BMS、CAR-Tがやっと承認 
  • テプミトコが米国でも承認 
  • FDA、ゼルヤンツの心血管疾患・癌リスクを通知 


【今週の話題】


COVID-19:ノババックス、欧米でワクチンのローリング審査を申請
(2021年2月4日発表)

米国のNovavax(Nasdaq:NVAX)は、NVX-CoV2373のローリング申請をEU、英国、米国、カナダで開始したと発表した。第3相試験のデータがまとまる前に、前臨床や製造・管理体制に関する資料を提出して前倒しで承認審査してもらう。

全長融合前スパイク蛋白を抗原とするナノパーティクルワクチンで、Matrix-Mアジュバントを採用。21日置いて二回、筋注する。英国で実施された第3相試験では、二回目接種の7日後以降の症候性感染が6例と偽薬群の56例より少なく、ワクチン効率は89%だった。約半分は英国型変異ウイルスの感染だったが、ここでもワクチン効率はも85%と良好だった。

mRNAワクチンのような超低温管理は必要で、レディー・トゥ・ユースであることが特徴。富士フィルムの米国子会社が原薬の生産を受託している。日本は武田薬品が製造販売権を取得。

リンク: ノババックスのプレスリリース

COVID-19:JNJが一回接種のみのワクチンを承認申請
(2021年2月4日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、JNJ-78436735(Ad26.COV2.S)をCOVID-19ワクチンとしてEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請した。2月26日の諮問委員会に上程される予定。EUでも数週内に条件付き承認を申請する予定。

アデノウイルス血清型26をベクターとしてSARS-CoV-2の融合前安定化S蛋白の遺伝子を接種者の細胞に導入し、抗原として発現させる。EUで昨年、承認されたザイール種エボラウイルス疾患ワクチン、ZabdenoもAd26ベクターを採用している。Zebdenoや第3相段階のHIVワクチンはプライム・ブースト法を取ったが、COVID-19では一回だけ接種する。

米州や南アフリカで行われた第3相ENSEMBLE試験では、接種の28日後以降の中重症感染が偽薬比66%少なかった。地域により偏りがあり、米国では72%とやや高かったが、自然感染やワクチン接種を通じて獲得する抗体が効きにくい可能性のある変異種が広がった地域では、南アが57%、ブラジルが含まれる中南米地域が66%と、やや低下した。

COVID-19の遺伝子ワクチンは予想外に効果が高かったため、二回ではなく一回でもインフルエンザワクチンと同程度の予防効果が得られる。アストラゼネカのワクチンは二回接種だが英国の第2/3相では二回目を12週間後に接種した症例もある程度あり、英国では、供給が需要に追い付かない現状を鑑み、当面は二回接種よりも一回接種におさえたほうがよいのではないかという議論が出ている。考えてみればインフルエンザワクチンも、何回接種するかは医学的エビデンスではなく社会保障制度に基づいて決定されているのだから、異国の話ではない。

JNJも、このような『薄くてもより広くに』を重視する考え方から、二回接種より一回接種を先に第3相入りさせたのだろう。しかし、治験成績は二回接種するワクチンのほうが高いように感じられる。COVID-19ワクチンの臨床試験は追跡期間が接種完了後2-3ヶ月と極めて短く、効果の持続性は曖昧だ。上記の数値は半年とか1年とか追跡すればもっと低下するだろうが、出発点が高いほうが着地点も高くなるのではないか。

同社は米国や英国、EUと供給合意している。パンデミックが続く限りは利益なしで販売する考え。ナノパーティクル・ワクチンとは異なり、零下20℃の冷凍庫で2年間安定、2~8℃の通常の冷蔵庫で最大3ヶ月間保存が可能。ファイザー/BioNTechのワクチンは超低温環境で保存する必要があるため、一ヶ所に集めて集団接種せざるを得ないが、アストラゼネカやJNJのワクチンはロジスティックに悩む必要はなさそうだ。

尚、日本の一部メディアは第3相試験の発症観察期間を接種から28日間と報道しているが、接種の28日後(第29日)以降の接種が正しいと思われる。念のためClinicalTrials.govで確認したところ、JNJの1月29日付のプレスリリースとは異なり、28日後以降の発症リスクは主評価項目でないばかりか、18項目に及ぶ副次的評価項目にも上がっていない。おそらく、当局の要請により主評価項目に追加したものの、治験登録の修正を失念したのだろう。

主評価項目として登録されているのは14日後以降の発症リスクで、接種後14日間ではない。こんな短期間予防してもワクチンとしては意味がないし、早すぎて効果が十分に発揮されないだろう。発症者の中には、ベースライン時点の検査で偽陰性だった人もいるかもしれない。このような理由で、ワクチンの予防効果確認試験の主評価項目は、接種完了後1~2週間経ってから後の感染だけをカウントするのである。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: JNJの第3相試験成功に関するプレスリリース(1/29付)
リンク: ENSEMBLE試験登録(ClinicalTrials.gov)


【新薬開発】


AT1・ETA受容体拮抗剤の糸球体硬化症試験が成功
(2021年2月2日発表)

Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)は、RE-021(sparsentan)の第3相FSGS(巣状分節状糸球体硬化症)試験の中間的目的を達成したと発表した。FDAに加速承認を求める考え。

FSGSはネフローゼ症候群と呼ばれる症状を発現し、進行性の腎機能低下を示す。欧米で各4万人が罹患と推測されている。同社は欧米で希少疾患用薬指定を受けている。

sparsentanはアンジオテンシンIIタイプ1受容体とエンドテリンA受容体のデュアル・アンタゴニスト。06年にBMSから権利を取得したPharmacopeiaを08年にライガンド・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:LGND)が買収、12年に権利を取得したRetrophinがMarin Shkreliの退任を経て昨年11月に上記に社名変更、という経緯。

第3相のDUPLEX試験は8歳以上の原発性FSGS患者371人をsparsentan群(800mg/日を目標に用量漸増)とオフレーベル使用されているirbesartan群(300mg/日に漸増)に無作為化割付して代理マーカー改善効果を比較している。中間評価は最初の190人の蛋白尿部分寛解率(36週時点の尿蛋白クレアチニン比が1.5 g/g以下で且つベースライン比で40%以上低下)を比較した。結果は各群42%と26%となり、有意な差があった(p=0.0094)。

最終評価項目である108週間の推定糸球体ろ過率(eGFR)を検討するため、盲検試験を続行中。結果は23年上期の見込みで、成功なら加速承認を本承認に切替える申請を行う考え。

同社はIgA腎症でも第3相試験中で、36週蛋白尿の中間評価は今年第3四半期の見込み。

リンク: 同社のプレスリリース

BMS、TYK2阻害剤の二本目の尋常性乾癬試験も成功
(2021年2月2日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、BMS-986165(deucravacitinib)の二本目の第3相中重度尋常性乾癬試験が成功したと発表した。一本目と同様に、主評価項目であるPASI75(PASIスコアが75%以上改善)とsPGA0/1(医師による静的総合評価が無症状またはごく軽度、に改善)の達成率が偽薬比有意に上回り、副次的評価項目であるOtezla(apremilast)との比較でも有意に上回った。承認申請に向かうのではないか。

ファースト・イン・クラスのTYK2(チロシン・キナーゼ2)阻害剤で、IL-23やIL-12などがトリガーする細胞内シグナル伝達を妨げる。IL-6やIL-2、JAKなどは阻害しない。

Otezlaはセルジーンが尋常性乾癬治療薬として商業化したPDE4阻害剤だが、BMSが買収に際して事業をアムジェンに134億ドルで売却した。同じ経口剤なのでBMS-986165が発売されたら打撃を受けそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース

ロフルミラスト・クリームの乾癬試験が成功
(2021年月日発表)

米国カリフォルニア州の新興医薬品開発企業、Arcutis Biotherapeutics(Nasdaq:ARQT)は、ARQ-151(roflumilast)の第3相尋常性乾癬試験が二本とも成功したと発表した。0.3%局所性製剤を一日一回塗布した群は8週後のIGA奏効率が一本では42.4%(偽クリーム群は6.1%)、もう一本では37.5%(同6.9%)と偽薬比有意に上回った。副次的評価項目のうちPASI-75は、プレゼンテーション資料収載のグラフによると、40%前後で偽クリーム群の5-8%を有意に上回ったが、これは、BMSのOtezla(apremilast、和名オテズラ)が第3相試験で挙げた数値と比べても良好だ。

有害事象は下痢が少し増える程度。治療時発現有害事象による治験離脱は1%前後、治療関連深刻有害事象はなかった。

同社は21年下期に承認申請する考え。下期には脂漏性皮膚炎の第3相も開始する予定。

roflumilastはPDE4阻害剤。経口剤はドイツのアルタナ社がAlvesco(ciclesonide、和名オルベスコ)と同時期に臨床開発を進めたが、化学事業スピンアウト構想が急転直下、薬品事業売却に代わり、06年に事業買収したナイコメッド(11年に武田役員が買収)が10~11年にCOPD治療薬Daxasとして製品化した。しかし、売上高はアルタナ時代に期待されたほどは伸びなかった。

リンク: Arcutisのプレスリリース

アストラゼネカ、イムフィンジの第3相頭頚部癌試験がフェール
(2021年2月5日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相難治・転移頭頚部扁平上皮腫一次治療試験がフェールしたと発表した。単剤またはファイザーからライセンスした抗CTLA4抗体、tremelimumabと併用する延命効果を標準療法である5-FU、cisplatinまたはcarboplatin、そしてcetuximabの併用と比較したが、PD-L1高発現サブグループ(腫瘍の50%以上または腫瘍浸潤免疫細胞の25%以上で発現)でも、それ以外の患者も含むintent-to-treatベースでも、フェールした。

抗PD-1抗体ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)がモノセラピーはCPS(腫瘍と腫瘍浸潤免疫細胞でのPD-L1発現を評価)が1以上のサブグループに関して、標準療法併用群はPD-L1発現不問で、延命効果が標準療法を上回り、欧米で承認された。再発治療ではKeytrudaとOpdivo(nivolumab)がPD-L1発現不問で承認されている。

それだけに、今回のフェールは意外だ。ImfinziおよびImfinzi・tremelimumab併用は白金レジメン歴を持つ患者を組入れた第3相試験でも標準療法を上回ることができなかった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


BMS、S1P受容体調節剤を潰瘍性大腸炎に適応拡大申請
(2021年2月1日発表)

BMSが19年に買収したセルジーンは、その数年前から株主の期待に応えるために様々な企業の開発品を導入・取得した。15年にReceptosを72億ドルで買収して取得したのがS1PR1/5調節剤のZeposia(ozanimod)で、20年に欧米で再発型多発硬化症の治療薬として承認された。

BMSは潰瘍性大腸炎やクローン病にも開発を進め、まず、成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療薬として昨年12月に欧州で適応追加申請したが、今回、米国でも申請し受理されたことを明らかにした。優先審査バウチャを使ったため、審査期限が5月30日に早まっている。

前治療に十分応答しなかった患者を組入れて1mgを一日一回投与した第3相試験で、第10週臨床的寛解率が18.4%と偽薬の6.0%を有意に上回った。第52週寛解維持率は各37.0%と18.5%でこちらも有意に上回った。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


CHMP続報:キイトルーダの適応拡大とテセントリクの撤回
(2021年2月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、1月の会合で新薬だけでなく適応疾患や用法、年齢の変更に関する肯定的意見もまとめたが、作業が間に合わなかったのか、内容についてはリリースが2月1日に遅延した。先週、書けなかった分を追加する。

今回、肯定的意見を得たのは対象年齢拡大に係るものだけだった。但し、MSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)は適応範囲の拡大もあった。成人のASCT(自家造血幹細胞移植)歴を持つ再発・難治古典的ホジキン型リンパ腫に単剤投与することが承認されているが、新たに、3歳以上の小児・青少年に用いることが支持された。更に成人小児のASCT不適患者で二次以上の治療歴を持つ患者に用いることも支持された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

ロシュがTecentriq(atezolizumab)の尿路上皮腫一次治療化学療法併用の適応拡大申請を撤回したことも公表された。再発・難治尿路上皮腫はTecentriqが最初に承認された適応症だが、一次治療における抗PD-L1/PD-1抗体の効果は当初考えられたほどではなく、cisplatin不適に単剤投与することが一旦は承認されたが、その後に全生存期間の解析がフェールしたため、PD-L1陽性に限定されることとなった。

展望が好転したのがTecentriqのIMvigor130試験だ。局所進行性/転移性の患者の一次治療として、cisplatin(またはcarboplatin)とgemcitabineの標準療法に偽薬またはTecentriqを追加してPFS(無進行生存期間、治験医評価)を比較したところ、メジアン値が各6.3ヶ月と8.2ヶ月、ハザードレシオは0.82で統計的に有意な差があった。しかし、共同主評価項目である全生存の解析はフェールし、特にPD-L1陰性・低度陽性(IC0/1)では、最初の数ヶ月間はTecentriq群のほうが死亡率が高い傾向があった。

ロシュは適応拡大を申請したが、CHMPは否定的に考えていた模様だ。理由は、プレスリリースによると、組入れられた患者や用いられた治療レジメンに差異があったため結果を評価するのが困難で、PFSの解析は結論を出せるものではなく、全生存期間の解析は有意差がなかった。

ロシュの申請がPD-L1高発現に限定したものなのかどうかは明らかではない。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


FDA、TG社のリンパ腫用薬を承認
(2021年2月5日発表)

FDAは、TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)のUkoniq(umbralisib)を再発難治リンパ腫用薬として加速承認した。辺縁帯リンパ腫で一種類以上の抗CD20抗体治療歴を持つ成人や、濾胞性リンパ腫で3次以上の全身性治療歴を持つ成人が適応になる。後者は、臨床試験の組入れ条件(2次以上)より狭くなっている。

PI3Kデルタとカゼイン・キナーゼ1エプシロンを阻害する経口剤で、一日一回服用する。臨床試験でのORR(客観的反応率)は辺縁帯リンパ腫ではが49%、濾胞性リンパ腫では43%だった。深刻有害事象の発生率は18%で、主として下痢-大腸炎と感染症。

スイスのRhizen Pharmaceuticalsからインド以外での独占開発販売権を取得したもの。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: TG社のプレスリリース

BMS、CAR-Tがやっと承認
(2021年2月5日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはFDAがBreyanzi(lisocabtagene maraleucel)を大細胞型B細胞リンパ腫用薬として承認したと発表した。再発・難治びまん性大細胞型B細胞リンパ腫や原発性縦隔B細胞リンパ腫などの3次治療に用いる。原発性中枢神経リンパ腫は適応外。先に承認されたCAR-Tと同様に、サイトカイン放出症候群と神経毒性が枠付警告されている。

同社が買収したセルジーンがJuno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)を買収して入手した、ex vivo細胞療法。患者から採取した免疫細胞に抗CD19抗体などのシーケンスを導入し、培養した上で患者に投与する。採取から完成品到着までのリードタイムはメジアン24日と他のCAR-Tよりやや長い。報道によるとWAC(卸取得価格)は41万ドル。

BMSはセルジーンの株主に特定の新薬が期限までに全て承認されたら総額で64億ドル支払う責務を追っていたが、Breyanziの承認が遅延したため、消滅した。

リンク: BMSのプレスリリース

テプミトコが米国でも承認
(2021年2月3日発表)

FDAは、独メルクの米国子会社であるEMD SeronoのTepmetko(tepotinib、和名テプミトコ)をMET(mesenchymal-epithelial transition)遺伝子にエクソン14スキッピングがある転移非小細胞性肺癌の薬として加速承認した。非小細胞性肺癌の3-4%が該当と推測されている。他の変異より年齢が高い傾向があるようだ。

先駆け審査指定を受けた新薬としては珍しく、昨年3月に日本で世界に先駆けて承認された。欧州は昨年11月に承認申請が受理されたところ。

加速承認の根拠となった第2相試験では、未治療患者69人におけるORR(客観的反応率、盲検独立評価委員会方式)が43%、メジアン反応持続期間は10.8ヶ月、一次以上の治療歴を持つ83人では各43%と11.8ヶ月だった。深刻有害事象は胸水、肺臓炎、浮腫、呼吸困難、肺塞栓など。安全性データベース225人のうち、致死的有害事象は肺臓炎、肝不全、体液過剰による呼吸困難で各1人、死亡した。

類薬ではノバルティスがインサイト(Nasdaq:INCY)のライセンスで開発したTabrecta(capmatinib、和名タブレクタ)が米国では昨年5月、日本でも昨年6月に承認された。分かりやすい違いは、Tabrectaが400mg錠を一日二回服用に対して、Tepmetkoは225mg錠を二錠、一日一回、食事と一緒に服用することで、メルクのプレスリリースは一日一回が初で唯一であることを強調している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 独メルクのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、ゼルヤンツの心血管疾患・癌リスクを通知
(2021年2月4日発表)

ファイザーは、先週、Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の安全性確認試験で心血管疾患や癌のリスクがTNF阻害剤より高かったことを公表したが、FDAも同趣旨の安全性通知を発出した。

まだデータ解析・評価は完了していないが、現時点での推奨として、服用中の患者には、疑問や懸念があるならまず医療従事者と相談せよ、勝手に止めてはいけないと釘を刺した。医療従事者には、現状のPI(添付文書)に即して便益と危険を検討した上で、処方を開始/続行するかいなかを検討するよう求めた。

このA3921133試験は、FDAの求めにより、Xeljanzの三適応症のうち中重度リウマチ性関節炎の患者で、一つ以上の心血管疾患リスクを持つ50歳以上を組入れて、リウマチや感染性関節炎の用量である5mg(一日二回服用)と潰瘍性大腸炎の用量である10mg(同)の心血管疾患・癌のリスクをTNF阻害剤(HumiraまたはEnbrel)と比較した。

10mg群は中間解析で肺塞栓やそれによる死亡がTNF阻害剤群より高かったため、途中で5mgに減量した。ファイザーが今回、発表したデータによると、両用量群合計の心血管疾患ハザードレシオは1.33、癌は1.48となり、非劣性検定のハードル(95%上限が1.8未満)をクリアできなかった。

100人年当り発生率の点推定値の差は0.3前後なので、330人に1年間、あるいは100人に3.3年間、投与すると心血管疾患あるいは癌が一人増加する計算になる。

中間解析で浮上した肺塞栓や全死亡については、FDAはまだ最終報告を受けていないとのこと。

リンク: FDAの安全性通知
リンク: ファイザーのプレスリリース(1/27付)






今週は以上です。