2020年8月29日

第961回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:ベクルリーのEUA適応範囲が拡大 
  • COVID-19:FDAが回復期血漿をEUA 
  • COVID-19:RNAワクチンはクリニックで長く保管できない 
  • COVID-19:アボットが抗原検査を5ドルで販売 
  • アリル炭化水素受容体モジュレータの第三相乾癬試験が成功 
  • ノバルティス、難治慢性骨髄性白血病薬の第三相が成功 
  • 第一三共から導入した新規タキサンの第三相が成功 
  • 3年前に承認されたIDH2阻害剤の第三相がフェール 
  • メルク、テプミトコを米国でも承認申請 
  • アッヴィ、リンヴォックを強直性脊椎炎に適応拡大申請 
  • カボメティクスとオプジーボの併用を腎細胞腫に承認申請 
  • CDK4/6阻害剤を白金薬誘発性骨髄抑制の予防薬として承認申請 
  • 代謝性アシドーシス治療薬の承認申請は審査完了に 
  • アンドロゲン受容体阻害剤がニキビ治療薬として承認 
  • FDA、カナグルの下肢切断警告を緩和 


【今週の話題】


COVID-19:ベクルリーのEUA適応範囲が拡大
(2020年8月28日発表)

FDAは、ギリアド・サイエンシズのVeklury(remdesivir、和名ベクルリー)の非常時使用を認可しているが、適応範囲をCOVID-19入院患者全般に広げた。これまでは低酸素飽和度かつまた酸素投与・呼吸補助が必要な重症患者に限定していた。

当初EUAの根拠となったACTT-1試験では軽中等症の患者でも第15日回復率が改善するトレンドが見られたが、サンプル数が少ないこともあって、有意差が見られなかった。その後、ギリアドが主導した中等症患者試験(GS-US-540-5774)の結果が判明。5日間投与した群の第11日症状改善オッズ比がSOC(標準療法)と比べて1.65、p=0.017となった。この二本が限定解除の根拠である。

奇妙なことに、この試験は10日コース群では有意差が出なかった。10日コースと言っても多くは完了前に退院したため実際は6日程度しか投与しなかった。5日投与が有効で6日投与は無効というのは釈然としない。

退院がこんなに早いならインフルエンザ治療薬と同様に罹患期間を比較すべきなのではないかと思うが、罹患期間の解析は5日コースも10日コースもSOCと大差なかった。この点もキツネに摘まれたような気分だ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース
リンク: Spinnerらの5774試験論文(JAMA)

COVID-19:FDAが回復期血漿をEUA
(2020年8月23日発表)

FDAはCOVID-19回復期血漿(CCP)をCOVID-19入院患者の治療に用いることをEUA(非常時使用認可)した。つい先日、FDA高官がストップをかけたと観測報道があったが、結局、国民医療より大統領選のほうが重要と判断したのだろう。下記のプレスリリースにも大統領の名前が記されている。尚、承認申請者はHHS(保健福祉省)の次官補である。

ウイルス感染から回復しつつある患者の血漿は、当該ウイルスを制することのできる抗体が含まれているはずなので、別の患者の治療に有効である可能性がある。これまでに、SARSやMERS、エボラウイルス感染症など深刻な難病の治療に用いられたことがある。SARS-CoV-2についてもFDAのExpanded Access Program(EAP)を通じて7万例以上の投与実績があるようだ。

COVID-19治療薬としてEUAを受けているのはギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のVeklury(remdesivir)に次ぎ2品目だが、Vekluryが無作為化割付偽薬対照二重盲検試験のエビデンスを持っているのに対して、CCPのエビデンスはよくデザイン/実行されたとは言いがたい小規模な臨床試験と、無作為化割付対照試験ではないEAPのデータだけである。EUAは正式な承認ではないのでエビデンスが万全である必要はないのだが、潜在的に多くの国民が感染する可能性があるので、万が一、効果がなく副作用だけをもたらす治療を認めてしまった場合、大きな被害を与えかねない。

回復期血漿の主な有害事象はアレルギー反応や、輸血関連の循環過負荷、肺障害、感染症など。心機能低下や心不全のある患者は輸血量を減らしたり緩徐化する必要がある。

用量は初回は200mLの投与を検討すべきとしているが、推奨しているわけではなく、その後の投与は医師が患者の反応を見ながら決定する・・・丸投げである。

回復期血漿の問題点は、抗体価の個人差が大きく、同じ人でも経時的に低下するので、ユニットごとのムラが大きい可能性があることだ。EAPデータの分析でも高抗体価CCPを投与したサブグループと低抗体価CCPサブグループでは死亡率に有意な差があった。もし低抗体価CCPが偽薬並みの効果しかなかったとしても、偽薬より良い可能性が示唆されたことになる。

しかし、FDAは抗体価による足切りを見送った。Ortho VITROS SARS-CoV-2 IgGテストで閾値を下回った場合、レーベルに低力価と明記する必要があるが、EUAの対象であることに変わりはなく、使うかどうかは医師に委ねられる。高力価ユニットが入手できない事態を想定したのかもしれないが、上記分析では低抗体価ユニットの有効性は確認されていないのだから、言っていることがちぐはぐだ。

COVID-19のような未知の脅威に正しい対応を続けることは極めて困難だ。政治家や学者の意見も人により異なっても不思議はない。だが、今回残念なのは、様々な国で政治家のメディカル・リテラシーの低さが目立つことだ。日本でもポビドン・ヨードの発表はSTAP細胞を思い出した。

米国の場合、幸いなのは、第一に、トランプ大統領のサイエンティフィック・リテラシーの低さは就任前から周知であり、強力な支持者以外は信用していないこと。第二に、官公庁長官のような要職を追われるリスクを覚悟して公然と異議を唱える、骨のある科学者系高官が複数いることだ。

COVID-19治療薬として最初にEUAを受けたのはchloroquine/hydroxychloroquineだ。トランプ大統領が後押ししていたにも拘わらず抵抗した当時のBARDA(生物医学先端研究開発局)長官は別の組織に配転になった。最近では、大統領選前のワクチン実用化に慎重なワクチン開発のヘッドが更迭されるのではないかとの憶測報道も出ている。今回も、FDA長官がCCPを絶賛するのに反対した広報担当者と、データを言い間違えたことを謝罪すべきと進言した広報コンサルタントが、理由は不明だが、解職・契約打ち切りにあった。残念なことだが、国民にとっては、Raise the Flag、私たちの本当の援軍は誰なのか、旗幟が明らかになるメリットもある。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Clinical Memorandum(作成者・宛先は黒塗り)
リンク: 医療従事者向けファクト・シート
リンク: EUA申請書類

COVID-19:RNAワクチンはクリニックで長く保管できない
(2020年8月26日発表)

米国のACIP(予防接種実施諮問委員会)は8月26日の会合でCOVID-19ワクチンの開発状況や接種優先順位などについて討議した。Moderna(Nasdaq:MRNA)とファイザーも夫々のRNAワクチンについてプレゼンを行った。ACIPのウェブサイトにはプレゼン資料がまだアップされていないので確認できないが、極低温で保管する必要があるようだ。

Endpoints Newsによると、ModernaのmRNA-1273(スパイク蛋白の融合前構造を発現するRNAのリピッド・ナノパーティクル製剤)は、備蓄や輸送時には零下20℃、医療施設では通常の冷蔵庫で1週間保管できる。ファイザーがBioNTechからライセンスしたBNT162(スパイク蛋白を発現するヌクレオシド修飾RNAのリピッド・ナノパーティクル製剤)は、長期保管は零下70℃、クリニックの典型的な冷蔵庫では1~2日内に使う必要があるようだ。

なぜ違うのか、分からないが、BNT162は小規模なクリニックや米国でよく見られる薬局で接種するのは難しそうだ。mRNA-1273も設備の有無や接種患者数などによっては対応できないのではないか。インフルエンザワクチンの効果は数ヶ月しか持たないが大流行は冬だけなので年一回、接種すればよい。もしCOVID-19ワクチンも半年未満しか持たなかったら、年二回、大病院なり公共施設で集団接種を行わざるを得なくなるかもしれない。

次回のACIPは10月22日に開催予定とのこと。ファイザーは第三相試験の結果が良好なら10月にもFDAに承認申請する予定なので、もしかしたら、ACIPでデータが公表されるかもしれない。FDAは抗体価のようなサロゲートマーカーに基づく承認には否定的だが、統計的に有意で臨床的に意味があるワクチン効率(感染者数の減少)が確立すれば、承認審査が完了しなくても予備的分析に基づいてEUA(非常時使用認可)を出す可能性がある。大統領選に間に合うかどうかは不明だが、年内の可能性はありそうだ。

実用化が近づくにつれて今回のような実務面の課題が表面化していきそうだ。

リンク: Endpoints Newsの報道

COVID-19:アボットが抗原検査を5ドルで販売
(2020年8月26日発表)

アボットは、 BinaxNOW COVID-19 Ag CardがFDAのEUA(非常時使用認可)を取得したと発表した。クレジットカード型の抗体検査で、鼻咽頭ぬぐい液を注入して15分後にピンク/バイオレットの判定線の有無をチェックする。クリニックでの迅速検査に適している。無償のスマホ用アプリがあり、検査結果はアプリにもメールされる。陰性の場合、一定期間、アプリを陰性証明に使うことができる。

スピードは珍しくないが、驚くべきは価格だ。カードは5ドル、他の検査機器や試薬は不要なので検査料金総額はPCR検査の数百ドルよりかなり安価になるのではないか。日本でもデンカ/大塚製薬がクイックナビ-COVID19 Agを販売しているが、希望価格は10回分が6万円となっている。

精度はどうか?検査は発症後7日以内に行う。RT-PCRで陽性判定の35例については感度97.1%(95%下限85.1%)、陰性判定67例では特異度98.5%(95%下限92.0%)だった。

アボットは10月以降、月5000万テストを出荷する計画。早速、米HHS(保険福祉省)とDOD(国防省)が1億5000万テストを7.6億ドルで発注した(大口割引はないのだろう)。学校などでの利用を想定しているようだ。

リンク: アボットのプレスリリース
リンク: BinaxNOW COVID-19 Ag CardのIFU(FDAのEUA情報サイト)
リンク: HHSのプレスリリース(8/27付)


【新薬開発】


アリル炭化水素受容体モジュレータの第三相乾癬試験が成功
(2020年8月26日発表)

Dermavant SciencesはDMVT-505(tapinarof)の第三相尋常性乾癬試験が二本とも成功したと発表した。21年に承認申請に向かう予定。同社はRoivant Sciencesのグループ会社で大日本住友製薬が株式取得オプションを保有している。また、tapinarofは日本ではJT・鳥居薬品が開発商業化権を持っている。

中国のWelichem Biotechが創製したアリル炭化水素受容体(AhR)モジュレータで、在来療法であるコールタールによる治療にヒントを得たもの。表皮細胞の分化を促進し、皮膚バリアに係る遺伝子の発現も増加する。09年にグラクソ・スミスクラインの子会社となったStiefelが12年に中国周辺以外の地域での開発商業化権を取得、18年にGSKがRoivantに権利譲渡した。

第三相試験では1%局所クリーム製剤を一日一回塗布して12週間の効果や安全性を偽薬クリームと比較した。主評価項目のPSG反応率(PSGスコアが0または1に改善し、且つベースライン比2段階以上改善)が一本では35.4%(偽薬群は6.0%)、もう一本は40.2%(同6.3%)となった。副次的評価項目のPASI75達成率も各36.1%(同10.2%)と47.6%(同6.9%)。何れもp値は0.0001を下回った。

主な有害事象は毛包炎、上咽頭炎、接触性皮膚炎など。

リンク: 同社のプレスリリース

ノバルティス、難治慢性骨髄性白血病薬の第三相が成功
(2020年8月26日発表)

ノバルティスは、ABL001(asciminib)の第三相フィラデルフィア染色体陽性難治慢性骨髄性白血病試験が成功したと発表した。2種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤による治療歴を持ち最終治療に不応不耐の慢性期患者を組入れて、24週MMR(分子遺伝学的大奏効率)を検討したところ、対照実薬のbosutinibを有意に上回った。データは学会発表予定。承認申請に向けて当局と相談する考え。

ABL001は同社が先鞭をつけたBCR-ABL阻害剤の一種だが、ATPポケットではなくABLミリストイル・ポケットに結合するアロステリック阻害剤。既存のチロシン・キナーゼ阻害剤に耐性変異を持つ腫瘍にも効果が期待されている。

リンク: 同社のプレスリリース

第一三共から導入した新規タキサンの第三相が成功
(2020年8月24日発表)

米国カリフォルニア州のOdonate Therapeutics(Nasdaq:ODT)は、tesetaxelの第三相転移乳癌試験が成功したと発表した。21年央に米国で承認申請する考え。

第一製薬由来のタキサン誘導体で、経口投与可能、半減期が180~200時間と著しく長く、P糖タンパクによる細胞外排出を受けにくいという特徴を持つ。好中球減少症によりクリニカル・ホールドとなり、08年にGenta社に導出したが数ヶ月で解除、改めて13年にOdonateに導出した。

今回の第三相は、her2陰性、ホルモン受容体陽性の転移乳癌で、タキサン(ネオアジュバントを含む)、そして、適応なら、内分泌療法薬とCDK4/6阻害剤による治療歴を持つ患者685人をcapecitabine単剤群とtesetaxel併用群に無作為化割付したオープンレーベル試験。併用群はcapecitabineの一日用量を2500mg/m2ではなく1650mg/m2に軽減した。

主評価項目のPFS(無進行生存期間、独立放射線学的評価委員会が判定)のメジアン値は各群6.9ヶ月と9.8ヶ月、ハザードレシオは0.716、p=0.003だった。全生存期間の解析は未成熟で、22年に判明する見込み。

G3以上の治療時発現有害事象は熱性好中球減少症などの骨髄抑制・その合併症、下痢、低カリウム血症、疲労、神経症などが増加。有害事象による治験離脱は各群12%と23%だった。

リンク: Odonateのプレスリリース

3年前に承認されたIDH2阻害剤の第三相がフェール
(2020年8月25日発表)

BMSは、Idhifa(enasidenib)の第三相IDH2変異陽性難治再発AML(急性骨髄性白血病)試験がフェールしたと発表した。承認されている用途とオーバーラップしているが、加速承認ではないので、FDAが自主返上を要請するかどうか、不透明だ。

Idhifaは19年に買収したセルジーンがAgios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)からライセンスしたIDH2(イソクエン酸脱水素酵素2)阻害剤。第二相試験の完全寛解率に基づき17年にIDH2変異陽性難治再発AMLに本承認された。欧州でも承認申請されたが、対照試験の裏付けがないことがネックとなり、19年12月に申請撤回となった。

今回のIDHENTIFY試験は60歳以上で2~3治療歴または難治の患者を組入れて全生存期間を従来療法(最良支持療法のみ、azacitidine、低量cytarabine、中量cytarabineの中から医師が選択)と比較した。データは未発表。

高齢AML試験の対照群は個々の患者の忍容性などを踏まえて医師が薬を選択できるようになっていることが多いが、対照薬ごとのサブグループ分析が区々な結果になることが珍しくない。症例数が小さかったり患者背景に偏りがあったりするので明確な結論は出せないが、釈然としないものが残りがちだ。一方、IDHENTIFYの組入れは300人規模なので、サブグループ分析の説得力もある程度はあるだろう。もし最良支持療法のみの症例と比べても全生存期間が同程度であった場合、効果に疑念が生じる。詳細発表を待ちたい。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認申請】


メルク、テプミトコを米国でも承認申請
(2020年8月25日発表)

ドイツのメルクは、Tepmetko(tepotinib、和名テプミトコ)を米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は不明だが、Real-Time Oncology Reviewの対象なので、年内の承認もあり得るだろう。

c-MET阻害剤で、MET遺伝子にエクソン14がスキップされるような改変のある転移性非小細胞性肺癌に用いる。第二相試験ではORR(客観的反応率、独立評価委員会判定)が46%、メジアン反応持続期間は11.1ヶ月だった。変異はリキッドバイオプシー且つ又組織バイオプシーで判定したが、ORRは前者は48%、後者は50%と大差なかった。G3以上の治療関連有害事象の発現率は28%(うち末梢浮腫7%)、有害事象による永続的離脱は11%だった。

METエクソン14スキッピングは非小細胞性肺癌の3-5%で見られる模様。日本では今年3月に承認されている。類薬ではノバルティスのTabrecta(capmatinib、和名タブレクタ)が米国では今年5月、日本では8月に承認されている。

リンク: メルクのプレスリリース

アッヴィ、リンヴォックを強直性脊椎炎に適応拡大申請
(2020年8月25日発表)

アッヴィは、Rinvoq(upadacitinib、リンヴォック)を既存療法に十分反応しない活性期強直性脊椎炎の治療に用いる適応拡大をFDAに申請した。EUでも審査中とのこと。第2/3相試験で第14週のASAS(Assessment of SpondyloArthritis International Society)40達成率が52%となり、偽薬群の26%を有意に上回った(p<0.001)。

RinvoqはJAK1阻害剤。類薬と比べて副作用リスクが若干小さい。

リンク: アッヴィのプレスリリース

カボメティクスとオプジーボの併用を腎細胞腫に承認申請
(2020年8月24日発表)

Exelixis(Nasdaq: EXEL)は、VEGFR阻害剤Cabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)を抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と併用で腎細胞腫の治療に充てる用法追加申請をFDAに行った。CheckMate-9ER試験に基づくもので、高リスク進行/転移腎細胞腫の一次治療としての効果をSutent(sunitinib)と比較したところ、主評価項目のPFS(無進行生存期間)も、副次的評価項目である全生存期間の中間解析も、有意に上回った。データは9月19~21日に開催されるESMO(欧州臨床腫瘍学会)のバーチャル・ミーティングで発表される予定。

CabometyxはVEGF受容体阻害剤。腎細胞腫の二次治療などで承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース

CDK4/6阻害剤を白金薬誘発性骨髄抑制の予防薬として承認申請
(2020年8月17日発表)

G1 Therapeutics(Nasdaq:GTHX)は、G1T28(trilaciclib)を米国で承認申請し、受理された。優先審査を受け、審査期限は21年2月15日。現時点では諮問委員会を招集する予定はないようだ。

G1T28は細胞周期進行に係るサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6の阻害薬。類薬はホルモン陽性乳癌の内分泌療法のブースターとして承認されているが、白金薬の副作用リスクを緩和する薬として開発されている点が独自。今回の申請は、小細胞性肺癌で白金薬による治療を受ける患者の好中球減少症リスクを削減する適応・効能を求めるもの。第二相試験でG4好中球減少症が有意に減少した。ブレークスルー・セラピー指定されている。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


代謝性アシドーシス治療薬の承認申請は審査完了に
(2020年8月24日発表)

サン・フランシスコの新興医薬品開発会社、Tricida(Nasdaq:TCDA)はTRC101(veverimer)を代謝性アシドーシスの治療薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。血清重炭酸という代理マーカーを主評価項目とする第三相試験に基づいて加速承認を求めたが、効果の多寡と持続性、データの米国患者への適応可能性、そして、代理マーカーに基づいて臨床的便益を十分に予測することができるかが論点となった模様。追加臨床試験は必ずしも必然ではない模様。同社はFDAと会合を持って今後の方針を決定する考え。

TRC101は非吸収性経口ポリマー。消化管の塩酸に結合して糞便と共に排出される。7月に、承認申請に欠陥があるためレーベルや市販後要求の検討に進めない旨の通知を受けたと発表済みなので、承認されなくてもサプライズではない。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


アンドロゲン受容体阻害剤がニキビ治療薬として承認
(2020年8月27日発表)

イタリアの新興皮膚病薬開発会社、Cassiopea(SIX:SKIN)は、Winlevi(clascoterone)クリームが12歳以上の尋常性ざ瘡治療薬としてFDAに承認されたと発表した。皮脂腺や毛包のアンドロゲン受容体をジヒドロテストステロンと競合的に結合・阻害する。新規作用機序の尋常性ざ瘡治療薬が承認されたのはほぼ40年ぶりとのこと。

リンク: 同社のプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、カナグルの下肢切断警告を緩和
(2020年8月26日発表)

FDAはInvokana(canagliflozin)及びcanagliflozin配合剤の下肢切断リスクに関する警告を枠付警告から通常の警告・事前注意に緩和した。心血管アウトカム試験のCANVAS試験でリスクが倍増したため17年にFDAが枠付警告、EUもリスクを通達したが、他のアウトカム試験ではそこまで増えず、兆候に注意し早期発見・対処すればリスクを抑制できる可能性も示唆された。また、これらのアウトカム試験を通じて二型糖尿病患者の心筋梗塞や心不全や糖尿病性腎症のリスクを抑制できることが明らかになった。危険と便益を見直した結果、警告緩和に踏み切った。

Invokanaは田辺製薬が創製、欧米などでの権利をジョンソン・エンド・ジョンソンなどに導出した二型糖尿病薬。尿に移行したグルコースを血液に移送するSGLT2を阻害する。性器感染症リスクなどが懸念され発売後の普及はスローだったが、心不全や腎症のアウトカム試験が成功、評価を高めた。しかし、Invokanaは、下肢切断リスクが高まる懸念から売上が伸び悩んでいた。

心血管アウトカム試験は費用や年数がかかるため、検出力不足によるフェールを回避するため、治療効果が前提より多少小さくても有意差が出るよう、オーバーパワーにすることが多い。必然的に、副作用面でノイズを検出してしまうリスクも高まる。勿論、ノイズではないかもしれないので、糖尿病薬のように数千万人、数億人が服用する薬は、感度が高すぎるくらいの試験のほうが望ましい。

リンク: FDAの安全性通知






今週は以上です。

2020年8月22日

第960回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:BNT162b2の第1相データが公表 
  • COVID-19:簡便安価なRT-PCR検査が米国でEUA 
  • キイトルーダの食道癌一次治療試験が成功 
  • ノバルティス、抗PD-1抗体の第三相がフェール 
  • バイオマリン、軟骨異形成症用薬を承認申請 
  • バイオマリン、A型血友病の遺伝子療法の承認はお預け 
  • ギリアド、JAK1阻害剤は承認審査完了に
  • 米国で多発骨髄腫のKdDレジメンが承認 
  • ノバルティス、抗CD20抗体が多発性硬化症に承認 
  • ロシュ、エンスプリングが米国でも承認 


【今週の話題】


COVID-19:BNT162b2の第1相データが公表
(2020年8月20日発表)

ドイツのBioNTech SE(Nasdaq:BNTX)は、ファイザーなどと共同開発しているCOVID-19ワクチン、BNT162の第1相試験データを発表した。二種類の候補のうち、副反応や高齢者における免疫原性の点で優れていたBNT162b2を用いて7月に第2/3相試験を開始、順調なら10月にも承認申請する考え。日本も21年上期に1.2億回分の供給を受けるべく基本合意している。以下、medRxivで公開された査読前の治験論文に即して、説明する。

BNT162はウイルスのスパイク蛋白のRNAのリピッド・ナノパーティクル製剤。患者の体内で抗原を発現させる。上記のBNT162b2は、全長スパイク蛋白のRNAの一部を改変して細胞融合前の構造の再現を図ったもの。一方、BNT162b1は、スパイク蛋白の一部である受容体結合ドメイン(RBD)と、免疫原性強化を狙ってT4 fibritin foldon domainを、三量体化した。

21日置いて二回、筋注する。b2もb1も一回だけでは十分な効果はなさそうに見えるので、この21日の間に感染しないよう注意すべきだろう。第28日における中和抗体のGMT(幾何平均抗体価)は用量依存的に上昇した。第2/3相で採用された、b2を30mcg、二回接種した群のGMTをCOVID-19に感染し回復期に入った患者38人のサンプルにおけるGMT(入院が必要だった一名は618、症候性35人は90、無症状3人は156)平均値と比較すると、18-55歳のコフォートでは3.8倍、65-85歳のコフォートは1.6倍だった。b1は65-85歳のコフォートでB2より見劣りした。液性免疫だけでなく細胞性免疫の導入もできた模様だが、まだ研究中で別途論文発表される予定。

ワクチンなので発熱、注射箇所痛、疲労、頭痛、筋痛などの副反応を伴う。多くは軽中度だがb2と比べてb1は発現率が高い。免疫原性を高めたことや、RNAの分子量が5倍大きいことが影響したのかもしれない。b2(30mcg二回接種)の軽中度発熱発現率は18-55歳で17%、65-85歳では8%。一方、軽中度注射箇所痛は各8割超と6割超だった。

若くて健康な人は重症化するリスクが小さいので、ワクチンの便益も高齢者や糖尿病などの持病を持つ人より小さくなる。このような人に接種を促すためには、ワクチン副反応の発現率や重篤度が低くなければらないし、費用も公費負担すべきだろう。MMRワクチンや子宮頸がんワクチンの経験を生かすためには、大規模な試験を行って稀だが深刻な有害事象を特定し、公衆に隠さず開示する必要がある。BNT162など欧米で開発されているワクチンは第三相で数万人規模を組入れる予定だが、米国やブラジルと比べると流行していない日本での組入れは決して多くはないだろうから、心許ないところがある。

リンク: BNT162の第1相治験論文原稿(E. Walshら、medRxiv)
リンク: 両社のプレスリリース

COVID-19:簡便安価なRT-PCR検査が米国でEUA
(2020年8月15日発表)

FDAは、イエール大学が開発した簡便安価なリアルタイムPCR検査手法、SalivaDirectをEUA(非常時使用認可)した。無駄を省き費用と所要時間を抑制することができそうだ。

患者が自ら無菌容器に入れた唾液を検査する。通常の検査キットと異なり、保存剤/RNA安定化剤は使わない。medRxivで公開された論文原稿によると、摂氏30度の環境で数日間保存しても安定的で、唾液の中でウイルスが増殖する可能性も考えにくいようだ。核酸抽出プロセスは不要なので、必要な試薬が再び入手困難になっても問題ない。様々なRT-PCR機器や試薬(プロテイナーゼK、RT-qPCRキット、プライマー/プローブなど)で試験したため汎用性がある。検査に必要な時間を1時間程度短縮でき、イエール大の病理学ラボでは検査能力を倍増できるという。

イエール大学はプロトコルをオープンソース化しており、試薬のコストは数ドルに抑えることができることから、ラボの検査料金を10ドル程度に引き下げることが可能と考えている。

精度はどうか?EUAサマリーによると、鼻咽頭スワブをTaqPath RT-PCR COVID-19で検査し陽性と判定された34検体をSalivaDirectで検査したところ、陽性一致率は94%(32/34)だった。陰性33検体の陰性一致率は91%(30/33)だった。

EUAは用途を制限してはいないが、イエール大学側は、感染疑い例の診断ではなく、無症状の集団のスクリーニングを想定しているようだ。6月にはNBA(ナショナル・バスケットボール・アソシエーション)の協力で、選手などの検査に活用を始めた。プロスポーツ・チームは定期的に検査を行うので、オーソドックスな方法と簡便法の異同を調査するのに適している。

一次スクリーニングの感度が100%でないことは甘受するとしても、特異度が100%でないと無実の人に自粛の不便を強いることになり、人権上の問題が生じる。しかし、安価簡便な検査なら読売巨人軍のスタープレイヤーでなくても翌日にもう一度検査して、確認することが可能だろう。

今回のイエール大学の検査は、科学技術の比較的な躍進というよりは、既存技術の引き算を行っただけのように感じられるが、このような、おそらくノーベル賞の対象にはならない、しかし人類にとっては大きな意義のある、プラクティカルな研究を一流の機関が行ったことは称賛に値するだろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: イエール大学のプレスリリース
リンク: EUAサマリー
リンク: Ottらの唾液検体の安定性に関する試験論文原稿(medRxiv論文原稿公開サイト)
リンク: イエール大学のプレスリリース(NBAとの協力について、6/22付)


【新薬開発】


キイトルーダの食道癌一次治療試験が成功
(2020年8月19日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の第三相KeyNote-590試験が成功したと発表した。局所進行/転移食道癌の代表的な一次治療であるcisplatinと5-FUの併用レジメンにKeytrudaを追加する効果を偽薬追加群と比較したところ、intent-to-treatベースの全生存期間とPFS(無進行生存期間、RECIST 1.1ベース、治験医評価)が中間解析で達成された。データは9月のESMO(欧州臨床腫瘍学会)バーチャル・ミーティングで発表される予定。

この試験の主評価項目は7つあり、全生存期間に関しては扁平上皮腫且つ又PD-L1陽性(CPS≧10)のサブグループの解析も行われたはずだ。二次治療試験であるKeyNote-181試験では全生存期間の共同主評価項目のうちCPS≧10サブグループでは有意差があったが、扁平上皮腫やintent-to-treatの解析は、多重性補正によりp値の閾値が低くなっていたことが一因で、フェールした。今回の試験はPD-L1陰性/低発現や腺腫にも効果があったのか、学会発表が注目される。

Keytrudaは米国でCPS≧10の難治局所進行/転移食道扁平上皮腫に単剤投与することが承認されている。ライバルであるBMSのOpdivoも同様だがPD-L1不問なので対象が広い。一方、一次治療は、抗PD-1抗体の第三相が成功したのは今回が初めてだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

ノバルティス、抗PD-1抗体の第三相がフェール
(2020年8月22日発表)

ノバルティスは、PDR001(spartalizumab)の第三相COMBI-i試験がフェールしたと発表した。データは未発表。BRAF V600変異を持つ切除不能/転移皮膚黒色腫の一次治療を受ける患者を組入れて、BRAF阻害剤Tafinlar(dabrafenib)とMEK阻害剤Mekinist(trametinib)の標準療法に追加する効果を検討したが、PFS(無進行生存期間、治験医評価)が偽薬追加群と大差なかった。

PDR001はIgG4型の抗PD-1抗体。今回が最初の第三相だった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


バイオマリン、軟骨異形成症用薬を承認申請
(2020年8月20日発表)

バイオマリン・ファーマシューティカル(Nasdaq:BMRN)は、EUに続いて米国でもBMN 111(vosoritide)を軟骨無形成症用薬として承認申請したと発表した。5-14歳の患者を組入れた第2相試験で、最大量の5mcg/kgを毎朝皮注した群は、6ヶ月間の成長速度がベースライン比で平均50%上昇し、正常値に近づいた。

軟骨異形成症は小人症の一種で、内軟骨性骨化の異常により長管骨の成長が滞る。FGFR3(線維芽細胞増殖因子受容体3)の特発的・遺伝的変異が原因と考えられている。BMN 111はC型ナトリウム利尿ペプチドで、受容体に結合してFGFR3パスウェイの過剰活性化を阻害する細胞内シグナルを送る。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


バイオマリン、A型血友病の遺伝子療法の承認はお預け
(2020年8月19日発表)

バイオマリン・ファーマシューティカル(Nasdaq:BMRN)はBMN 270(valoctocogene roxaparvove)を重度A型血友病の遺伝子療法として欧米で承認申請しているが、米国に関しては審査完了通知を受領した。FDAは進行中の第3相試験の2年データを求めているため、承認は22年頃までお預けになりそうだ。

BMN 270はA型血友病で欠乏する第VIII因子の遺伝子をAAV5ベクターで導入する。第1/2相試験では6x10^13 vg/kgを投与した患者の第VIII因子活性水準が平均で正常値の89%に回復した。3年間の出血事故発生率も96%減少した。バイオマリンはこの試験の3年データと、商業化用プロセスで生産されたバッチを用いた第3相の中間データに基づいて承認申請したが、FDAは、今回初めて、第3相試験の2年間の出血リスクを分析・報告するよう求めた。

遺伝子療法は補充療法と異なり頻繁に投与する必要がないが、承認時点では効果が何年くらい持つのか曖昧だ。第VIII因子活性水準の長期推移を見ると、メジアン値が1年後の60 IU/dLから2年後には26 IU/dLに低下、3年後も20 IU/dLと更に低下している。閾値は必ずしも明確ではないため、FDAは、代理マーカーではなく、治療の目的である出血事故防止効果を主評価項目として効果の持続性を検証するよう求めた。

同社のプレスリリースの行間を読むと、第3相で用いられている市販用バッチと第1/2相試験のバッチの等価性も論点になったように感じられる。

今回のセットバックは、A型血友病の遺伝子療法を開発しているロシュやサンガモ/ファイザーにもインプリケーションがありそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース

ギリアド、JAK1阻害剤は承認審査完了に
(2020年8月18日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)はJyseleca(filgotinib)を中重度活性期リウマチ性関節炎用薬として日米欧で承認申請し、EUでは7月にCHMPの肯定的意見を得たが、米国は審査完了通知を受領した。FDAは依然として200mg(一日一回、経口投与)の精巣安全性に懸念を持っているようなので、精巣安全性確認試験の結果が21年上期に判明するのを待つ必要がありそうだ。全般的なリスク・ベネフィット・バランスにも疑問を持っている模様であり、前途は不透明だ。

filgotinibはベルギーのガラパゴス(Euronext: GLPG)が開発、12年にアボットがインライセンスしたが、自社開発のRinvoq(upadacitinib)で第三相に進むことを決定、返還し、15年にギリアドがインライセンスした経緯がある。

前臨床で精巣毒性が見られたことから、FDAが第2相試験の男の用量を100mgに抑えるよう求めたことがある。リウマチは女性の方が多く、年齢層も概して高いが、JAK1阻害剤は乾癬や炎症性腸疾患など潜在的な用途が広いので、重要な要素だ。類薬が多いため、承認や販売のハードルが高くなりがちである。

第3相では男女とも200mgを投与したが、並行して、精巣安全性確認試験が炎症性腸疾患を組入れる試験とリウマチ性関節炎などを組入れる試験の二本、ロンチされた。精子濃度などのパラメーターが半減した男性は投与を止め、回復するかどうか可逆性を確かめる。半減しなかった男性は投与を続け、長期的な安全性を確認する。

リンク: ギリアドのプレスリリース


【承認】


米国で多発骨髄腫のKdDレジメンが承認
(2020年8月20日発表)

アムジェンのプロテアソーム阻害剤Kyprolis(carfilzomib、和名カイプロリス)とdexamethasone、そしてジョンソン・エンド・ジョンソンの抗CD38抗体Darzalex(daratumumab)を三剤併用するKdDレジメンが多発骨髄腫の2~4次治療法として米国で承認された。CANDOR試験に基づくもので、KdDレジメンのPFS(無進行生存期間)はKyprolisとdexamethasoneのKdレジメンを有意に上回った(ハザードレシオ0.63)。G3以上の有害事象や有害事象による死亡は増加した。

Kyprolisは週二回投与に加えて、70mg/m2(初回は20mg/m2)を週一回投与する用法もEQUULEUS試験に基づいてレーベル収載された。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: アムジェンのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース(8/21付)

ノバルティス、抗CD20抗体が多発性硬化症に承認
(2020年8月20日発表)

ノバルティスは、Kesimpta(ofatumumab)が再発多発性硬化症(RMS)の治療薬としてFDAに承認されたと発表した。FDAの言うRMSは、再発寛解型や活性期二次進行型の多発性硬化症、そしてCIS(Clinically Isolated Syndrome)と呼ばれる疑い例を含んでいる。

Kesimptaはジェンマブ(OMX:GEN)からライセンスして開発し慢性リンパ性白血病用薬として販売しているArzerra(和名アーゼラ)の活性成分を皮注できるようにしたもの。抗CD20抗体の先輩であるロシュもOcrevus(ocrelizumab)が再発多発性硬化症や二次進行型多発性硬化症に承認されているが、Kesimptaはオートインジェクターで自己注できることが、特に現今の環境では、長所。

第三相は20mgを月一回投与する群とサノフィの Aubagio(teriflunomide)を一日一回経口投与する群のARR(年率再発率)を比較したところ、相対リスク削減率が一本は50%、もう一本は58%で統計的に有意だった。

欧州でも承認審査中。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ロシュ、エンスプリングが米国でも承認
(2020年8月17日発表)

ロシュは、FDAがEnspryng(satralizumab-mwge、和名エンスプリング)をアクアポリン4(AQP4)に対する抗体を持つ成人の視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD)用薬として承認したと発表した。近年、治療薬が続々と承認されている疾患だが、自己注可能な薬は初めて。

NMOSDは米国で4000~15000人が罹患と推定されている希少疾患で、主として視神経や脊髄に深刻な損傷を与える。2/3~3/4の患者でAQP4に対する自己抗体が見られ、原因と推測されている。

Enspryngは子会社の中外製薬が創製したIL-6受容体に結合する抗体。Actemra(tocilizumab)のアミノ酸配列を改変し結合部位にpH依存性を持たせることにより、標的に結合乖離を繰り返し長く血中に滞留するようにした。効果や安全性がActemraとどう異なるのかは不明。

第三相試験では抗AQP4抗体陽性サブグループにおける96週間無再発率がモノセラピー試験では76.5%(偽薬群は41.1%)、免疫抑制剤アドオン試験では91.1%(同56.8%)だった。両試験は抗AQP4抗体陰性も組入れられたが、症例数が少ないせいか、便益が確立しなかった。重要な有害事象は、B型肝炎や結核の再燃のような命にかかわることもある感染症や好中球減少症、肝機能検査値異常、過敏反応など。

Enspryngは日本で今年6月に承認、欧州でも審査中。

NMOSD用薬は、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)の抗C5抗体、Soliris(eculizumab、和名ソリリス)が19年に日米欧で適応拡大承認、ビエラ・バイオ(Nasdaq:VIE)の抗CD19afucosylated抗体、Uplizna(inebilizumab-cdon)が今年6月に米国で初承認されている。何れも抗AQP4抗体陽性だけが適応になる。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース








今週は以上です。

2020年8月15日

第959回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • オプジーボの胃癌と食道癌の第三相が成功 
  • CDIのマイクロバイオーム療法試験が成功 
  • ジェネンテック、新規抗体医薬の潰瘍性大腸炎試験が区々な結果に 
  • TG社もPI3Kデルタ阻害剤を承認申請 
  • リジェネロン、もう一つのコレステロール治療薬を承認申請 
  • ギリアド、レムデシビルを米国で承認申請 
  • FDA諮問委員会がテムセルを支持 
  • シスプラチン誘発性聴力障害用薬は承認されず 
  • 日本発の核酸医薬が米国で承認 


【新薬開発】


オプジーボの胃癌と食道癌の第三相が成功
(2020年8月11日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の胃癌と食道癌の第三相試験が二本成功したと発表した。データは学会発表の予定。

CheckMate-649試験はher2陽性ではない進行・転移胃・食道癌の一次治療としてCapeOXレジメンまたはFOLFOXレジメンと併用する効果を併用しない群と比較した。PD-L1陽性(CPS≧5)サブグループを対象とする共同主評価項目のうち、全生存期間は中間解析だったが成功、最終解析のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央判定)も成功した。全生存期間は全被験者の解析も成功した。

この試験はOpdivoとYervoyを併用する群も設定されているが、まだ結果が出ていないようだ。治験登録にはこの併用群に関する主評価項目や副次的評価項目は記されていないので、探索的意味合いなのかもしれない。

CheckMate-577試験は食道や胃食道接合部の腫瘍で化学放射線療法によるネオアジュバント治療を受けpCR(病理学的完全寛解)を達成できなかったが完全切除はできた患者を組入れて、無病生存期間を偽薬群と比較した。全被験者の中間解析が成功した。副次的評価項目である全生存期間が残っているため治験は続行する。

Opdivoは切除不能/再発/転移食道扁平上皮腫の三次治療に米国で承認されている。日本では二次治療や胃がんの再発治療も承認されているが、胃癌は診断・治療方針や標準療法が日韓と欧米で異なっているため、欧米は今回のデータで適応拡大申請することになる。

リンク: BMSのプレスリリース(CheckMate-649試験)
リンク: 同(CheckMate-577試験)

CDIのマイクロバイオーム療法試験が成功
(2020年8月10日発表)

Seres Therapeutics(Nasdaq:MCRB)は、SER-109の第三相難治性クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)再燃予防試験が成功したと発表した。4年前に第二相がフェールした時は株価が暴落したが、再燃試験の成功で期待が再燃した。同社はFDAに承認申請する考えだが、一本で足りるかどうかは不透明だろう。

同社は標的疾患の患者の腸微生物叢を分析して健常者との違いや正常化するために必要な微生物を探索、医薬品として開発している。SER-109はエタノール処理した健常ドナーの腸細菌叢のフィルミクテス門細菌胞子を経口カプセルで供給するもの。抗生剤による治療が終わった後に投与する。医学研究名目で米国で広く行われているFMT(糞便細菌叢移植)と異なり、キチンとIND(治験許可)を取ってcGMP(current Good Manufacturing Practice)設備で生産する。

臨床成績は区々で、後期第一相試験では8週無再発率が87%、臨床的治癒率が97%と単群試験ではあるものの良好そうな結果が出たが、第二相は8週再発率が44%と偽薬群の53%と比べて統計的に有意ではなかった。65歳以上の46人では各45%と80%でかなり良い数字が出たが、未満の43人では43%と27%で悪かった。

今回の第三相では、二点の変更があった。用量を第二相(1x10^8細菌胞子)の10倍に増やしたことと、組入れと再燃時のCDIの診断をPCRではなく細胞毒アッセイで行ったことだ。前者は後期第一相試験の高用量コフォートの成績を参考にしたようだ。後者は、第二相試験後のオープンレーベル延長試験に進んだ患者を改めて検査したところ、PCRで陽性だった31人のうち15人は細胞毒アッセイでは陰性だった。PCRで遺伝子を検出しても、病原性細胞毒を分泌する活性細菌であるとは限らないことを示唆している。

二本の試験が異なった結果になったのはこれらの変更が原因と考えることもできるだろう。感受性分析など詳細分析で裏付けることが可能かどうか、注目される。

同社は第二相がフェールした後にFDAと次の試験のデザインについて相談し、成功ならpivotal試験として承認申請の根拠として用いることが可能になりうるとのフィードバックを得た。しかし、この時点では次の試験は第二相で、症例数は当時も第三相開始時点でも320人だった。このため、成功した試験が一本で足りるかどうかは微妙だ。同社によると、一本で申請する場合は治療効果(再発の相対リスク)の95%信頼区間上限が0.833以下であることをFDAは求めているが、今回の試験は相対リスク0.27、95%上限0.51なので閾値をクリアしている由。

臨床試験は24週間行われるので副次的評価項目である12週や24週の再発率もやがて発表されるだろう。

CDIは抗生物質治療の副作用で、腸の細菌が減少したのに乗じて、血が通らず薬が届かない場所にいるC.ディフィシルが急増、下痢などを起こす。治療はバンコマイシンの経口製剤や静注用の経口投与などがあるが、何度も再燃する症例が多い。米国では年45万人が感染、17万人が再燃、29000人が死亡すると推定されている。

同社はネスレのヘルス・サイエンス子会社にSER-109などのマイクロバイオーム療法の北米以外での商業化権を供与している。

リンク: 同社のプレスリリース

ジェネンテック、新規抗体医薬の潰瘍性大腸炎試験が区々な結果に
(2020年8月10日発表)

ロシュ・グループのジェネンテックは、PRO145223(etrolizumab)の第三相中重度活性期潰瘍性大腸炎(UC)試験4本が区々な結果になったと発表した。データは未発表。追加試験が成功しない限り承認申請できないだろう。

UC試験は寛解導入と寛解維持の奏効率を偽薬または、寛解導入に関しては、活性薬と比較する。etrolizumabの場合、TNF阻害剤歴を持たない患者を対象に寛解導入試験を二本実施し、一本は偽薬比有意に上回ったが、もう一本はフェールした。adalimumabを投与する群も設定されており、もしadalimumabもフェールなら、試験薬ではなく臨床試験がフェールしたと考える余地が生じる。また、成功した試験で奏効率がadalimumabを上回るなら商業的意義が大きい。しかし、プレスリリースには言及されていない。

次に、TNF阻害剤歴を持たない患者を組入れた寛解維持試験はフェールした。更に、TNF阻害剤歴を持つ患者を組入れた試験は、寛解導入奏効率は偽薬を有意に上回ったが、奏効者を試験薬と偽薬に無作為化割付した寛解維持試験はフェールした。単純に成否だけをカウントすると、寛解導入は二勝一敗、寛解維持は二戦全敗となる。もう一本、TNF阻害剤歴を持たない患者を組入れたinfliximab対照寛解導入・維持試験が成功しても寛解維持は一勝二敗でエビデンスが一本足りない。

etrolozumabはヒト・インテグリンのベータ7サブユニットに結合するヒト化抗体で、武田薬品のEntyvio(vedolizumab)のようにアルファ4ベータ7を阻害するだけでなく、アルファEベータ7も阻害するので、免疫細胞が組織に移行するのを妨げる効果が高まると考えられた。

クローン病でも複数の第三相が進行中。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


TG社もPI3Kデルタ阻害剤を承認申請
(2020年8月13日発表)

TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)は、TGR-1202(umbralisib)を辺縁帯リンパ腫や濾胞性リンパ腫の再発治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。

後期第二相試験の辺縁帯リンパ腫コフォートでは抗CD20抗体による治療歴を持つ患者に投与したところ、ORR(客観的反応率、独立委員会評価)が52%、完全反応率は19%だった。G3以上の有害事象は下痢、肝機能検査値異常、好中球減少症など。ギリアド・サイエンシズのZydelig(idelalisib)等より忍容性が良さそうだ。優先審査を受け、審査期限は来年2月15日となった。

二次以上の治療歴を持つ濾胞性リンパ腫を組入れたコフォートでもORRが40~50%という仮説が裏付けられた。審査期限は来年6月15日。

TGR-1202は、スイスのRhizen Pharmaceuticalsからインド以外の国での独占開発販売権を取得した経口PI3Kデルタ・CK-1エプシロン阻害剤。

リンク: TG社のプレスリリース

リジェネロン、もう一つのコレステロール治療薬を承認申請
(2020年8月12日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGN-1500(evinacumab)をホモ接合型家族性高脂血症の治療薬として米国で承認申請し、受理された。優先審査を受け、審査期限は来年2月11日。EUでも承認申請する予定。

ホモ接合型家族性高脂血症はLDL-C受容体などの遺伝子欠損を両親から引き継いでいてLDL-C値が非常に高い。米国で1300人程度の超希少疾患。REGN-1500は、トリグリセライドを分解するリポ蛋白リパーゼや血管内皮リパーゼの天然のインヒビターであるANGPTL3(angiopoietin-like 3)を標的とする抗体医薬。第三相試験に参加した65人は98%がスタチンを服用し81%が同社のPraluent(alirocumab)のような抗PCSK9抗体を用いていたが、ベースライン時点のLDL-C値が255mg/dLと依然として高かった。15mg/kgを4週毎に静注した群は24週で47%低下したが、偽薬群は2%上昇した。有害事象はインフルエンザ様疾患など。

抗PCSK9抗体は価格設定が強気すぎてあまり普及しなかった。今回の適応は超希少疾患なのでもっと高価でも正当化されるかもしれないが、同社は難治性高脂血症などの試験も進めているので、マスマーケットを視野に入れるなら抗PCSK9抗体より安価に設定するのが合理的な経営判断だろう。

リンク: 同社のプレスリリース

ギリアド、レムデシビルを米国で承認申請
(2020年8月10日発表)

ギリアド・サイエンシズはVeklury(remdesivir、和名ベクルリー)をCOVID-19治療薬として米国で承認申請した。5月にEUA(非常時使用認可)を取得しているが、正式な承認ではなく、正式承認は日本が初である。EUAでは呼吸能力が低下した重症入院患者を適応としているが、ACTT-1試験のサブグループ分析では人工呼吸器/ECMO装着患者に対する便益が見られなかったので、FDAが適応を縮小するかどうかが注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がテムセルを支持
(2020年8月14日発表)

オーストラリアのMesoblast(ASX:MSB)は、FDA腫瘍学薬諮問委員会がRyoncil(remestemcel-L、和名テムセル)の小児ステロイド抵抗性急性GvHD(移植片宿主病)試験の成績等を検討し、10人の委員のうち9人が有効性を支持したと発表した。審査期限は9月30日。

Ryoncilは米国のオサイリス・セラピューティクスが開発した健常者間葉系幹細胞由来の細胞性医薬品。急性放射線性疾患やGvHD、心血管疾患、糖尿病性潰瘍など様々な用途で開発されたが、思わしい結果が出なかった。JCRファーマが導入し日本で行なった成人中心のステロイド抵抗性急性GvHD試験が成功し、15年に承認されたり、12年にカナダで小児重度難治急性GvHDに承認されたりしたが、肝腎の米国では承認されず、オサイリスは経営が悪化し13年にremestemcel-L事業をMesoblastに売却せざるを得なくなった。

Mesoblastはフェールした二本の試験で比較的良好な結果が出た小児に絞り込んで米国で55人を組入れて第三相単群試験を実施、18年に成功した。28日反応率は69%、ヒストリカル・コントールの45%と比べてp=0.0003だった。メジアン反応持続期間は54日、100日生存率は74%と良好だった(数値はFDA分析に基づく)。

FDAは、主として三点について委員会の意見を聞いた。第一に、ロット毎の力価の同等性。臨床的効果を測定する手法が確立していないため、同等性を十分に評価できない。第二に、上記ヒストリカル・コントロールの妥当性。近年、様々な薬が承認されたりオフレーベルで用いられているので水準が上昇しているのではないかと指摘した。第三に、成人中心に実施されフェールした試験との整合性。

何れも難問で、FDAのブリーフィング資料が公開された途端にMesoblastの株価が下落した後だけに、諮問委員会の転帰が良好だったことは良かった。

リンク: Mesoblastのプレスリリース

シスプラチン誘発性聴力障害用薬は承認されず
(2020年8月11日発表)

Fennec Pharmaceuticals(Nasdaq:FENC)はPedmark(sodium thiosulfate)を小児固形癌でcisplatinによる治療を受ける患者の聴力障害予防薬として欧米で承認申請しているが、FDAからは審査完了通知を受領した。同社の発表によると、臨床試験における薬効や安全性には問題なく、生産委託先が承認前査察でフォーム483による不備是正通知を受けたことがボトルネックのようだ。同社は委託先を変更する考えはない模様で、FDAとの相談を踏まえて、協議することになりそうだ。

Pedmarkはチオ硫酸ナトリウムの静注用新製剤。Children's Oncology Group(COG)が主導した小児固形癌試験や、International Childhood Liver Tumor Strategy Group(SIOPEL)が主導した肝芽細胞腫試験で、聴力低下リスクを5~7割抑制した。SIOPELの試験では癌の進行や全生存期間に与える影響も調べられたが、数値上は対照群より良好で特に問題はなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


日本発の核酸医薬が米国で承認
(2020年8月12日発表)

FDAは、日本新薬のViltepso(viltolarsen、和名ビルテプソ)をエクソン53スキッピングにより治療可能なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として加速承認した。日本では今年3月に承認。

DMDの多くはジストロフィン遺伝子に欠損があり、筋細胞を動かすのに必要なジストロフィンが欠乏している。遺伝子のうち塩基配列をコードするエクソンでは三つの連続した塩基がアミノ酸の種類を示すが、欠失があるとその後の三塩基の組み合わせがずれてしまい、本来とは異なるアミノ酸配列、蛋白が出来てしまう。

Viltepsoは53番目のエクソンをスキップすることで読み取り枠のずれを修正、完全ではないがある程度機能するジストロフィンが産生できるようにする。上手く行くかどうかは遺伝子欠損の場所や数次第だが、DMDの8%程度が対象と推定されている。臨床試験では、ベースライン時点のジストロフィン量が平均で正常値の0.6%に過ぎなかったが、5.9%に改善した。有害事象は上部気道感染症、注射箇所反応、咳、発熱など。他社の開発品で腎毒性が見られたため、このクラスの薬共通のレーベルとして、腎機能検査が課された。

加速承認なので、別途、臨床試験を行って臨床的な便益を確認する必要がある。同社はTime to Stand(床からの立ち上がり時間)が10秒未満の患者74人を組入れて治療後の所要時間を偽薬と比較する第三相を実施中。

Viltepsoは国立精神・神経医療研究センター神経研究所の研究を礎に共同開発した。エクソン53スキッピング薬としては昨年12月に米国で承認されたサレプタ・セラピューティックス(Nasdaq: SRPT)のVyondys 53(golodirsen)に次ぐ第二号。DMDのアンチセンス核酸医薬としては16年に米国で承認されたサレプタのエクソン51スキッピング薬、Exondys 51(eteplirsen)が第一号で、DMDの13%程度が対象になる。まだ8割近い患者が取り残されているが、両社はエクソン45など様々なエクソンをスキップする薬を開発する考え。

サレプタは遺伝子療法にも注力している。大事なのは薬ではなく患者であることを考えれば、モダリティに拘らず最先端の科学を導入することは、患者指向型研究開発を推進する上でも、社外との交流を深めて社内を活性化する意味でも、日本新薬にとって重要な課題だろう。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: 日本新薬のプレスリリース(8/13付、和文、pdfファイル)





今週は以上です。

2020年8月9日

第958回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • (オプジーボ+ヤーボイ)>(アリムタ+プラチナ)
  • テセントリクのトリプルネガティブ乳癌試験がフェール! 
  • ノバルティス、キムリアの濾胞性リンパ腫試験が成功 
  • バイオジェン/エーザイ、FDAがaducanumabの承認申請を受理 
  • Vanda、MT1/2受容体作動剤をスミス・マギニス症候群に適応拡大申請 
  • ピーナツアレルギーの経皮的減感作療法は審査完了に 
  • ジェネンテックの脊髄筋委縮症治療薬が承認 
  • 静注用オピオイドが承認 
  • GSK、抗BCMA抗体薬物複合体が承認 
  • JNJ、点鼻用抗うつ剤が自殺思慮・行動を示す患者にも承認 
  • MorphoSys、抗CD19抗体がDLBCLの二次治療薬として承認 
  • GW社、カンナビジオールが結節性硬化症に適応拡大 


【新薬開発】


(オプジーボ+ヤーボイ)>(アリムタ+プラチナ)
(2020年8月8日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab)とYervoy(Ipilimumab)のCheckMate-743試験の成功を発表した。悪性胸膜中皮腫の一次治療における延命効果を検討した第三相試験で、メジアン生存期間が18.1ヶ月とAlimta(pemetrexed)とcisplatinまたはcarboplatinを併用する標準療法の14.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.74、96.6%信頼区間は0.60-0.91、p=0.002だった。

類上皮腫ではメジアン18.7ヶ月対16.5ヶ月、ハザードレシオ0.86、95%信頼区間0.69-1.08であったのに対して、非類上皮腫では各18.1ヶ月、8.8ヶ月、0.46、0.31-0.68とより良好な結果が出た。

悪性胸膜中皮腫は治療の選択肢が少なく、久々の朗報だ。データはWorld Conference on Lung Cancerでバーチャル発表された。

リンク: BMSのプレスリリース

テセントリクのトリプルネガティブ乳癌試験がフェール!
(2020年8月6日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)のIMPassion131試験がフェールしたと発表した。副次的評価項目である全生存期間ではネガティブなトレンドも見られたようだ。データは今後発表予定。

この第三相試験は切除不能局所進行/転移TNBC(トリプル・ネガティブ乳癌)の一次治療としてpaclitaxelとTecentriqを併用する効果をpaclitaxel・偽薬併用と比較した。主評価項目はPD-L1発現が1%以上のサブグループにおけるPFS(無進行生存期間、医師評価)。全生存期間の解析は、元々、十分な検出力がなく、今回の解析はもっと弱いだろうから、ノイズの影響を受けても不思議はないだろう。最終解析が注視される。

TecentriqはPD-L1陽性TNBCの一次治療で日米欧で既に承認されている。裏付けとなったIMpassion130試験では、PD-L1陽性サブグループに対してPFS(医師評価)が有意に延長した。全集団の解析がフェールしたため正式な解析ではないものの、PD-L1陽性サブグループの全生存期間もハザードレシオ0.62と好ましい方向を向いていた。

それではなぜ131試験はフェールしたのか?二本の違いは、130試験ではnab-paclitaxel(Abraxane)と併用したことだ。ロシュはTecentriqとpaclitaxelを併用する試験ではアルブミン結合ナノ粒子化製剤を採用することが多い。通常のpaclitaxelは溶剤による重篤なアレルギー反応を回避するためにステロイドなどでプリトリートする必要があり、免疫強化療法の効果が減衰する可能性があるからだ。131試験のフェールは、ロシュの危惧が正しかったことを示唆しているのかもしれない。

もう一つ、もしかしたら、PD-L1陽性の定義が異なるのかもしれない。PD-L1発現検査の対象は腫瘍細胞(TC)であることが多いが、腫瘍浸透免疫細胞(IC)やTCとIC両方の場合もある。130試験はICを調べた。131試験に関しては詳しい情報が記されていないので分からず、定義が異なる可能性も考慮せざるを得ない。尤も、ロシュの今回のプレスリリースでは130試験もPD-L1発現1%以上としか記されていなので、違いはないのかもしれない。TNBCでは専らICがPD-L1を発現しているとのことなので、敢えて定義を変えるとも考えにくい。

類薬では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)の試験成績もTNBCに関しては区々だ。一次治療試験は、医師が選んだ薬(paclitaxel、nab-paclitaxel、またはgemcitabine・carboplatin併用)に追加する試験でCPS(Combined Positive Score:TCとICを評価)が10以上のサブグループのPFS解析が成功した。全生存期間は追跡継続中。モノセラピーによる二次・三次治療化学療法対照試験はフェールしたが、主評価項目とされたCPS≧1や≧10ではなく、≧20のサブグループ分析は目を引くものだった。早期癌の化学療法併用ネオアジュバント・アジュバント試験では術前のpCR(病理学的完全反応)は偽薬を有意に上回った。無再発生存期間はフェールしたがハザードレシオは0.63、95%信頼区間は0.43-0.93なので、おそらく、欲張って複数の主評価項目を設定したために有意性認定のハードルが上がってしまったことが敗因だろう。要するに、薬のフェールではなく試験がフェールしたのではないか。

リンク: ロシュのプレスリリース

ノバルティス、キムリアの濾胞性リンパ腫試験が成功
(2020年8月4日発表)

ノバルティスは、Kymriah(tisagenlecleucel、和名キムリア)の第二相再発難治濾胞性リンパ腫試験が中間解析で主評価項目であるCRR(完全反応率、独立評価委員会)を達成したと発表した。21年に米国、そしてEUなどで適応拡大申請する予定。データは未公表。

Kymriahは患者から採取したT細胞にレンチウイルス・ベクターを使って抗CD19抗体単鎖可変領域や4-1BB、CD3ゼータ鎖などを導入し培養したもので、CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法の一つ。17~19年にかけて日米欧で25歳以下の難治再発前駆B急性リンパ性白血病やびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の成人の三次治療に承認された。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】


バイオジェン/エーザイ、FDAがaducanumabの承認申請を受理
(2020年8月7日発表)

アルツハイマー病領域で広範な協業を行っているバイオジェンとエーザイは、FDAがBIIB037(aducanumab)の新薬承認申請を受理したと発表した。優先審査指定の要請が受け入れられ、審査期限は21年3月7日だが、FDA側は可能なら前倒しで結論を出す意向とのこと。

アルツハイマー病の脳でしばしば見られるアミロイドベータ凝集体を標的とする抗体医薬で、07年にスイスのNeurimmune社からライセンスした。第三相試験はフェールしたが、ApoE4陽性患者に対する用量や投与中断ルールを当初は慎重に設定していたことが敗因である可能性があり、プロトコル変更後に高用量を一定期間以上投与した症例だけの集計は良さそうなものだった。

尤も、この種の事後的サブグループ分析はアテにならないことが多い。改めて薬効確認試験を行うことで失う時間や費用は、成功した後に治療に用いられるであろう期間や収益と比べて限定的なのだから、不確かなエビデンスに基づいて承認する必要はないだろう。

当面の注目は、招集されるであろう諮問委員会でどのような評価が示されるかだ。

リンク: 両社のプレスリリース

Vanda、MT1/2受容体作動剤をスミス・マギニス症候群に適応拡大申請
(2020年月日発表)

Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq:VNDA)は、Hetlioz(tasimelteon)をスミス・マギニス症候群用薬としてFDAに適応拡大申請し受理されたと発表した。新開発の小児用経口剤も申請した。優先審査を受け、審査期限は12月1日。

Hetliozは04年にBMSからライセンスしたMT1/2受容体作動剤で、メラトニンと同様に概日リズムを調停する。14年に米国で、15年にはEUでも、非24時間障害(全盲患者でしばしば見られる睡眠障害)の治療薬として承認された。武田薬品のRozerem(ramelteon)のように不眠症という大市場ではなく、ニッチ市場に専念する戦略なのだろう。18年に米国でジェットラグ障害の治療に適応拡大申請したが、臨床試験のデザインなどがボトルネックとなり、承認されなかった。

スミス・マギニス症候群は17p11.2欠失による特発性遺伝子疾患で、発達障害や癲癇、異常行動、睡眠障害などの症状を伴うことがある。米国の患者数は15000人と推定されている。Hetliozのピボタル試験では、睡眠の質や時間が偽薬比有意に改善した。平均総睡眠時間はベースライン比41分改善と、偽薬(20分改善)を有意に上回った。25人組入れと小規模なせいか、有意と言ってもp値は0.01前後でそれほど低くはない。

リンク: Vanda社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


ピーナツアレルギーの経皮的減感作療法は審査完了に
(2020年8月4日発表)

フランスのDBV Technologies(Euronext:DBV)はDBV712を4~11歳のピーナツアレルギー患者に対する経皮的減感作療法として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。同社は3月にFDAがパッチの密着性に疑問を示した旨、適時開示したが、今回の通知では、パッチの改良と一部の追加試験、ヒューマン・ファクター試験、化学製造管理に関する追加情報を要求した由だ。

DBV712の第三相試験では、4~11歳のピーナツアレルギー患者にピーナツ蛋白250mcg相当を一日一回、経皮投与したところ、奏効率(ベースライン時点での耐容量が10mg以下の患者は300mg以上、10mg超は1000mg以上に耐容)が35.3%となり、偽薬群の13.6%を上回った(p=0.00001)。差の95%信頼区間は12.4~29.8。この試験の仮説は95%下限が15%超、というものだったため、フェールした。

FDAは、効果が期待以下だった一因はパッチの密着性や子供が剥がしてしまうからだと考えている模様で、上記の改良勧告や患者が正しく使うことができるかどうか検証する試験の勧告につながった。

DBV社はFDAとミーティングを持った上で今後の対応を検討する考え。

アレルギーの減感作療法はブタクサなどの花粉やイエダニに対する医薬品がFDAに承認されているが、ピーナツアレルギーでも、今年1月に米国カリフォルニア州のAimmune Therapeutics(Nasdaq:AIMT)がPalforziaの承認を取得した。半固形食品に混ぜて摂取する粉末薬で、アナフィラキシーのリスクがあるため最初の二回はアレルギーに対応できる医療施設で服用する。気付かずにピーナツを食べてしまった時のアレルギー反応を抑制したり、耐容量を向上することで発現確率を引き下げたりすることができるが、食べても平気になるわけではなく、治療にも相応のリスクがあるようだ。

リンク: DBVのプレスリリース


【承認】


ジェネンテックの脊髄筋委縮症治療薬が承認
(2020年8月7日発表)

FDAは、ロシュ・グループのジェネンテックが承認申請したEvrysdi(risdiplam)を2歳以上の脊髄筋委縮症(SMA)の治療薬として承認した。経口液で、年齢に応じて体重1kg当り0.2-0.25mg(上限5mg)を一日一回、食後に服用する。幼児発症型を組入れた試験では、12ヶ月治療後に41%の患者が5秒以上、静坐できた。自然歴ではゼロ。また、23ヶ月後時点で81%が永続的呼吸補助なしで生存した。小児以降に発症した患者を組入れた試験では、運動機能が偽薬比有意に改善した。

主な有害事象は発熱、下痢、ラッシュ、上部気道感染症など。薬物相互作用は、MATEsトランスポータにより腎排出されるmetformin等の薬の暴露が増加するリスクがある。

価格は用量依存だが、上限の5mgの場合、年34万ドル。バイオジェンのSpinraza(初年度75万ドル、2年目以降37.5万ドル)やノバルティスのZolgensma(210万ドル余)と比べて競争的な水準になっている。

SMAはSMN1遺伝子の欠損・不全によりsurvival motor neuron(SMN)が不足、筋萎縮や筋力低下が発現する。SMN2遺伝子もあるが、完全なSMNを作る能力が低い。EvrysdiはこのSMN2のスプライシング(RNAから必要部分以外を除去する過程)に介入して、全長SMNが多く産生されるよう仕向ける。薬効の比較は難しいが、他の二製品との分かりやすい違いは経口投与できること。

PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)がSMA財団との協業により構築したSMA治療薬プログラムをロシュが11年にライセンス、臨床入りさせたもの。欧州でも間もなく承認申請する模様。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ジェネンテックのプレスリリース

静注用オピオイドが承認
(2020年8月7日発表)

FDAは、Trevena(Nasdaq:TRVN)のOlinvyk(oliceridine)を中重度急性疼痛の治療薬として承認した。他の治療法では十分に管理できず静注オピオイドを必要とする成人に短期間投与する。臨床試験では腱膜瘤や腹部の術後疼痛を対象とした。在宅投与は不可。

17年に承認申請、18年に審査完了となった。QT試験や不活性代謝物の前臨床試験などの追加試験と上限用量(27mg/日)の設定を経て承認に至った。

リンク: FDAのプレスリリース

GSK、抗BCMA抗体薬物複合体が承認
(2020年8月6日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Blenrep(belantamab mafodotin-blmf)がFDAに加速承認されたと発表した。免疫調節剤、プロテアソーム阻害剤、抗CD38抗体を含む4種類の前治療歴を持つ難治再発多発骨髄腫に、2.5mg/kgを3週毎に30分点滴静注する。第二相試験でORR(客観的反応率)が31%、その73%は6ヶ月以上持続した。主な副作用は視力の著しい低下を含む角膜症や血小板減少症など。

BioWaの技術を用いて改良した抗BCMA抗体を、シアトル・ジェネティクスからライセンスしたリンカーで細胞毒と結合した抗体薬物複合体。GSK自身で開発した抗癌剤が承認されたのは、05年のArranon(nelarabine)以来、15年ぶりではないか。

専ら多発骨髄腫細胞に発現するBCMAを標的とする医薬品が承認されたのは初。競合は、Bluebird Bio(Nasdaq:BLUE)が患者から採取したT細胞に抗BCMA抗体などを導入するCAR-T、bb2121(idecabtagene vicleucel)を今年7月に米国で再発難治多発骨髄腫に承認申請した。効果はCAR-Tのほうが高そうに見える。

リンク: GSKのプレスリリース

JNJ、点鼻用抗うつ剤が自殺思慮・行動を示す患者にも承認
(2020年8月3日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンのSpravato(esketamine)は19年に欧米で成人の難治性鬱病に追加投与する薬として承認されたが、新たに、米国で、自殺思慮・自殺行動の急性期にある鬱病患者の鬱症状を改善する効能が承認された。二本の試験でMADRSスコアが偽薬比有意に改善した(治療効果は4ポイント弱)。自殺思慮・行動を改善する効果は見られなかった。欧州でも適応拡大申請中。

麻酔薬でパーティドラッグとも呼ばれるケタミンのS異性体で、点鼻投与する。抗鬱剤としてはオンセットが早い。解離効果があるため覚醒剤指定(スケジュールIII)されている。抗鬱剤のクラス・レーベルである、自殺思慮・行動が増えるリスクが依然として警告されており、分かり難い。

リンク: JNJのプレスリリース

MorphoSys、抗CD19抗体がDLBCLの二次治療薬として承認
(2020年8月1日発表)

ドイツのMorphoSys AG(FSE:MOR)と米国のインサイト(Nasdaq:INCY)は、FDAがMonjuvi(tafasitamab-cxix)をびらん性巨細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の二次治療薬として加速承認したと発表した。自家幹細胞移植不適な患者にRevlimid(lenalidomide)と併用する。DLBCLは様々な薬が承認されているが、二次治療薬として正式に承認されたのは初。EUでも承認審査中。

抗CD19抗体で、固定領域を改変しADCC(抗体依存性細胞傷害)を増強してある。第二相試験でベストORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が77人中55%で、完全反応は37%、部分反応は18%だった。メジアン反応持続期間は21.7ヶ月と長い。警告・事前注意事項は点滴箇所反応、骨髄抑制、感染症、胚胎毒性。

MorphoSysが2010年にXencor(Nasdaq:XNCR)からライセンス、今年1月にインサイトと提携し、米国は共同販売・利益折半、海外はインサイトが単独販売する。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Xencorのプレスリリース(7/31付)

GW社、カンナビジオールが結節性硬化症に適応拡大
(2020年7月31日発表)

GW Pharmaceuticals(Nasdaq:GWPH)は、Epidiolex(cannabidiol)経口液を1歳以上の結節性硬化症患者の癲癇治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。

大麻の成分のうち、陶酔作用を持たないカンナビジオールを医薬品化したもので、18~19年に2歳以上のレノックス・ガストー症候群やドラベ症候群による癲癇発作を削減する薬として欧米で承認された。米国では大麻由来の薬やドラベ症候群の薬の承認第一号となった。医薬品として承認されていないカンナビジオールは麻薬取締規制が最も厳しいスケジュールIに指定されているが、Epidiolexは麻薬の中で最も軽いスケジュールVに留まり、今年に入り、麻薬規制解除となった。

深刻な有害事象としては、抗癲癇薬のクラス・レーベルである、自殺思慮・行動が警告されている。

リンク: GW社のプレスリリース







今週は以上です。

2020年8月1日

第957回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:アクテムラの重症COVID-19肺炎試験もフェール 
  • COVID-19:BioNTech/ファイザーのワクチンもP2/3入り 
  • RSV感染症予防用新薬の後期第二相試験論文が刊行 
  • ジャディアンスも駆出率低下心不全のアウトカム試験が成功 
  • アッヴィ、もう一つのCGRP受容体拮抗剤も承認申請へ 
  • アッヴィ、リンヴォックの三本目の第三相アトピー試験も成功 
  • ブルーバードとBMS、BCMA結合CAR-Tを再承認申請 
  • 第二のエボラ治療薬も米国で承認申請 
  • EMA、COVID-19におけるデキサメタゾンの効用を検討開始 
  • CHMP、GSKの抗癌剤などに肯定的意見 
  • ロシュ、テセントリクが分子標的薬併用で悪性黒色腫に承認 
  • ギリアド、マントル細胞腫のCAR-T製品が米国で承認 


【今週の話題】


COVID-19:アクテムラの重症COVID-19肺炎試験もフェール
(2020年7月29日発表)

ロシュは、抗IL-6受容体抗体Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)を重症COVID-19肺炎の入院患者の治療に用いる第三相COVACTA試験がフェールしたと発表した。主評価項目である28日間の臨床状態改善(オッズ比1.19、p=0.36)も、主要副次的評価項目である28日死亡率(Actemra群19.7%、偽薬群19.4%)も、大差なかった。

抗IL-6受容体抗体ではリジェネロン・ファーマシューティカルズ/サノフィのKevzara(sarilumab、和名ケブザラ)も第三相危機的COVID-19肺炎試験がフェールした。ロシュはギリアドのVeklury(remdesivir)に追加する試験も実施しているが、期待し難くなった。

重症COVID-19肺炎でしばしば見られるサイトカイン・ストームを鎮静化することで予後改善を図るアイディアだが、好ましい結果が出ていない。例えば、IL-6量が特に多いサブグループに絞っても効果が見られないのだろうか?

重症COVID-19肺炎の臨床試験をこれから開始する場合は、RECOVERY試験で酸素補給/呼吸補助が必要な患者の死亡リスクを削減する効果を示したdexamethasoneをベースに、試験薬を追加するデザインになるだろう。効果がオーバーラップしそうな抗IL-6受容体抗体やJAK阻害剤はハードルが上がってしまった。

リンク: ロシュのプレスリリース

COVID-19:BioNTech/ファイザーのワクチンもP2/3入り
(2020年7月27日発表)

ドイツのBioNTech(Nasdaq:BNTX)とファイザーは、共同開発中のCOVID-19ワクチンに関して、候補4品目の中からBNT162b2を選択し第2/3相試験を開始したと発表した。世界120施設で18~85歳の最大3万人を組入れて、30マイクログラムを3週置いて二回、筋注する群と偽薬群の感染リスクを比較する。感染歴のない被験者だけの解析と全被験者の解析の両方を主評価項目とする。順調なら10月にもEUA(非常時使用認可)を申請できる見込み。

BNT162b2は至適化された全長スパイク蛋白のヌクレオシド修飾RNAをリピッド・ナノパーティクルで導入するもの。第1相試験で、高齢者における抗体価やT細胞免疫誘導能、忍容性がBNT162b1より良好だった。

FDAガイダンスに即して治験をデザインした。治験登録によると、医療従事者など感染リスクが特に高い人たちはステージ1(第1相ポーション)では除外したが、第2/3相では除外条件ではない模様。この点もFDAガイダンスに準拠している。

第2/3相試験と並行して生産設備のスケールアップを進め、20年末までに最大1億回分、21年末までに年13億回分を供給することを目標としている。これまでに、英国政府と3000万回分、米国政府と1億回分(5億回分を追加可能)、日本政府と1.2億回分の供給で合意している。

米国の場合、ワクチンなどの開発を推進する『ワープ・スピード』作戦の枠組みの中で臨床試験や増産体制構築、生産の費用を一部負担するために19.5億ドルを供与する。ワクチンの臨床試験がフェールした場合、増設投資が無駄になる恐れがあるので、政府がリスクを共に背負う格好だ。米国は国民にワクチンを無償提供する考えだ。日本も見習うべきだろう。流行を鎮静化するためには若くて健康で活動的な人にワクチンを接種してもらう必要があるが、そのような人たちはCOVID-19に感染しても重症化するリスクが比較的小さく、インセンティブが乏しからだ。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: BNT162の治験登録


【新薬開発】


RSV感染症予防用新薬の後期第二相試験論文が刊行
(2020年7月30日発表)

アストラゼネカは、MEDI8897(nirsevimab)の後期第二相試験論文がNew England Journal of Medicine誌で刊行されたと発表した。在胎29~35週で生まれた健康な早産児1447人を偽薬群と50mg群(一回筋注)に無作為化割付して、RSVによる下部気道疾患リスクを150日間観察したもの。結果は、偽薬群が9.5%、試験薬群は2.6%でリスクが70%小さかった。

RSVは冬場に多くの乳幼児が感染するウイルスで、通常は自然軽快するが、早産や呼吸器/心臓疾患を持つ子供は重い下部気道疾患を合併するリスクがある。予防に有効なのがRSVのF蛋白に結合する抗体医薬、Synagis(palivizumab、和名シナジス)で、冬場に月一回、筋注する。

MEDI8897はSynagisを開発し現在はアストラゼネカ傘下のメディミューンの開発品。Synagisとの違いは結合するエピトープと、固定領域のアミノ酸三つの置換により半減期が延長、一回の投与で効果が一冬持つこと。

19年に在胎35週以上の健康な1歳未満の乳幼児3000人を組入れる第三相と、35週以下の早産児と早産に伴う慢性肺疾患や血行動態的に顕著な鬱血性心疾患を持つ1500人を組入れる第2/3相試験が始まった。23年に結果が判明する見込み。日本の施設も参加している。

Synagis改良版の開発は多くの会社が挑戦したが成功しなかった。MEDI8897の後期第二相や進行中の第2/3相試験の対象はSynagisが適応になるのではないかと思われるが実薬対照試験にはなっていないので、おそらく、効果はSyngisと大差ないのだろう。それでも、シナジスを打ってくれる病院に乳幼児を毎月連れて行く負担が減るだけでも、意味がありそうだ。

尚、アストラゼネカはサノフィとMEDI8897の共同開発販売提携を結んでいる。また、Synagisの米国事業をSOBI(Swedish Orphan Biovitrum)に売却した時に、MEDI8897に関するアストラゼネカの米国収益をSOBIと折半することも決めた。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: Griffinらの治験論文(NEJM誌)

ジャディアンスも駆出率低下心不全のアウトカム試験が成功
(2020年7月30日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、Jardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)の第三相EMPEROR-Reduced試験が成功したと発表した。駆出率低下を伴う心不全(HFrEF)患者3730人を組入れて心血管死・心不全入院のリスクを偽薬と比較した試験で、データは8月29日から9月1日にかけてバーチャル開催されるESC(欧州心臓学会)で発表する予定。二型糖尿病を合併していない患者も対象としており、適応拡大・効能追加申請する予定。

二型糖尿病薬として承認されているSGLT2阻害剤で、血糖値を下げるだけでなく、心血管疾患リスクも削減する。グルコースが腎臓で濾しとられた後にSGLT2で血液中に移送されるのを妨げる作用があり、利尿作用も持っていて血圧が若干下がることなどが寄与しているものと推測されている。ということは体液貯留型の心不全にも有効な可能性があり、実際、アストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin、和名フォシーガ)は今回のEMPEROR-Reduced試験と同じような試験が成功、米国で適応拡大・効能追加された。

アストラゼネカはFarxigaの駆出率保持心不全(HFpEF)アウトカム試験、DELIVERが成功した発表した。HFrEFと異なりアウトカム試験が中々成功しない病気なのでデータ発表が注目される。JardianceもEMPEROR-Preserved試験が進行中で21年に開票見込み。

リンク: 両社のプレスリリース

アッヴィ、もう一つのCGRP受容体拮抗剤も承認申請へ
(2020年7月29日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、atogepantの第三相片頭痛予防試験が成功したと発表した。後期第二相/第三相試験と合わせて、米国などで承認申請に向かう予定。

近年、続々と発売されているCGRP(カルシトニン遺伝子関連ぺプチド)受容体の拮抗剤で、今年5月に買収したアラガンがMSDから取得して開発したCGRPパイプラインの一つ。そのリードコンパウンドであるUbrelvy(ubrogepant)は昨年12月に米国で、CGRP受容体を拮抗する初の経口治療薬として承認された。

atogepantは予防薬として開発されており、第三相では平均月間片頭痛日数が4-14日の患者910人を偽薬、10mg、30mg、60mgを一日一回経口投与する群に無作為化割付して12週間観察したところ、偽薬比有意に減少した。少なくとも数値上は用量反応相関しているように見えるが、大きな差ではなさそうだ。便秘や悪心、上部気道感染症が増加したが、深刻な有害事象は大差なかった。

リンク: アッヴィのプレスリリース

アッヴィ、リンヴォックの三本目の第三相アトピー試験も成功
(2020年7月28日発表)

アッヴィは、中重度リウマチ性関節炎の治療薬として日米欧で販売しているJAK1阻害剤、Rinvoq(upadacitinib、和名リンヴォック)の第三相アトピー性皮膚炎局所コルチコイド併用試験が成功したと発表した。単剤投与試験も二本成功しており、適応拡大申請に向かうと予想される。

三本の試験はリウマチ試験と同様に偽薬群、15mg群、30mg群の効果や忍容性を比較した。主評価項目は16週後のEASI(Eczema Area Severity Index)75達成率と、vIGA-AD(validated Investigator's Global Assessment for Atopic Dermatitis)が0または1に軽快した患者の比率。三本とも、二用量どちらも、両方の主評価項目で偽薬比有意な差が出た。

図表:三本の試験の成績

偽薬15mg30mg
AD Up試験:
EASI 7526.0%65.0%77.0%
vIGA-AD 0/111.0%40.0%59.0%
Measure Up 1試験:
EASI 7516.0%70.0%80.0%
vIGA-AD 0/18.0%48.0%62.0%
Measure Up 2試験:
EASI 7513.0%60.0%73.0%
vIGA-AD 0/15.0%39.0%52.0%


今回のAD Up試験では、EASI 75の治療効果(偽薬と局所コルチコイドを併用した群との差)が15mgは39%、30mgは51%と、単剤投与したMeasure Up 1、Mesure Up 2試験よりやや小さくなっているが、アドオン試験に付随する限界効用逓減や、ステロイド減量・中断が影響したのかもしれない。

忍容性は、挫創やヘルペス性湿疹の増加が見られる。深刻感染症が増加するようには見えないが、夫々一群300人程度に16週間投与しただけなので、リスクを評価するには後期第2相試験やリウマチ試験などのデータとプール分析しないと真相はつかめないだろう。

アトピー性皮膚炎の新規治療薬というと、局所性カルシニューリン阻害剤が市販後に血液癌リスクが指摘され需要が急減したことを思い出す。痛みを伴いQOLに大きな影響を及ぼし得る関節リウマチでは許容されたリスクでも、本人にとっては辛いだろうが日常生活ができなくなるほどではないアトピー性皮膚炎では許容されない可能性がある。

Rinvoqの米国のレーベルでは、深刻感染症やリンパ腫などの腫瘍、動脈静脈血栓症の懸念が枠付警告されている。日米欧とも30mgは承認されず15mgが推奨用量となっている。アトピーでは30mgのほうが効果が高そうなので承認される可能性もあるが、常識的に考えれば、15mgだけだろう。

リンク: アッヴィのプレスリリース

【承認申請】


ブルーバードとBMS、BCMA結合CAR-Tを再承認申請
(2020年7月29日発表)

ブルーバード・バイオ(Nasdaq:BLUE)とBMSは、bb2121(idecabtagene vicleucel)を再発且つ難治の多発骨髄腫用薬としてFDAに再承認申請したと発表した。最初の承認申請が受理されなかった主因であるCMC(化学、製造、管理)に関する情報を追加した。

bb2121は患者から採取したT細胞にBCMAに結合する抗体の短鎖可変領域やCD8アルファ、4-1BB、CD3ゼータなどの融合蛋白の遺伝子を導入するもの。これまでのCAR-Tは専らCD19に結合する抗体を用いていた。

欧州でも承認申請中。

リンク: 両社のプレスリリース

第二のエボラ治療薬も米国で承認申請
(2020年7月29日発表)

マイアミの未上場バイオベンチャーであるRidgeback Biotherapeuticsは、mAb114(ansuvimab)をエボラウイルス疾患の治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。

エボラはアフリカで数年おきに大流行している致死率の高いウイルス。18年に勃発したコンゴ民主共和国で行われた4種類の候補薬剤の臨床試験では、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)の抗体カクテル、REGN-EB3が死亡率29%と好成績を上げ中間解析で中止基準を充足したが、mAb114も34%と、ベンチマークとされたLeafBioの抗体カクテル、ZMappの49%を下回った。

サブサハラ地域では医薬品の承認審査機能を持たない国も多いため、リジェネロンは今年4月に米国で承認申請、今回、Ridgebackも追随した。米国の国立アレルギー・感染症研究所がコンゴやスイスの研究組織が感染から回復した患者の血液からスクリーニングした抗体をひな形としている。

尚、上記試験で最も死亡率が高かったのがギリアド・サイエンシズのポリメラーゼ阻害剤、remdesivirだった(53%)。最終解析では28日死亡率が順に33.5%、35.1%、51.3%、49.7%となっている。

リンク: 同社のプレスリリース(BUSINESS WIRE)

EMA、COVID-19におけるデキサメタゾンの効用を検討開始
(2020年7月24日発表)

EMAは、オックスフォード大学などで実施されたRECOVERY試験のdexamethasone群の結果について検討を開始した。COVID-19感染症で入院した患者を組入れた試験で、呼吸機能が悪化し酸素投与あるいは人工呼吸器/ECMO装着が必要な患者の死亡リスクを2~3割削減する効果が見られた。

RECOVERY試験の成果は米国や日本の治療ガイドラインにも採用されているが、EUA(非常時使用認可)を含めて承認審査機関の承認は得ていない。通常はメーカーが承認申請して当局が審査する手順だが、dexamethasoneのようにGE化した薬は、費用や手間のかかる臨床試験を行った上で適応拡大申請するようなことは誰もやりたがらないからだ。

EUの制度が面白いのは、今回のように承認申請がない案件でも欧州委員会などが要請すればEMAが検討することだ。多いのは市販後に安全性懸念が浮上した場合だが、自発的に効能を検討した前例としては、家族性大腸腺腫症(FAP)におけるcelecoxibの危険・便益バランスがある。

ファイザーのCOX-2阻害剤celecoxibは、関節炎などの治療に加えて、FAPによるポリープ形成を抑制するために高量を投与することが一時期、欧米で承認されていた。心血管や胃腸安全性に関する懸念が浮上したことや、承認後薬効確認試験が順調に進まなかったことから、11年にメーカーが適応承認を自主返還したが、関節炎などの用途では販売継続されるため、欧州委員会がオフレーベル使用を懸念。EMAに対して当否の評価を求め、EMAは、便益を示す科学的根拠が乏しく副作用リスクを上回るとは言えないと結論した。

今回は、便益が危険を上回るという結論になる可能性が高いので、次のステップ、即ち、GE薬メーカーに適応拡大・レーベル変更の承認申請を行うよう要請することになるのではないかと思われる。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 家族性大腸腺腫症におけるcelecoxibの評価(EMA、11年5月20日付)


【承認審査・委員会】


CHMP、GSKの抗癌剤などに肯定的意見
(2020年7月24日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、7月の会合で、GSKのBlenrepなどの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのBlenrep(belantamab mafodotin)は、抗BCMA抗体とmcMMAF細胞毒を結合した抗体薬物複合体。再発難治多発骨髄腫で代表的な4種類の医薬品による治療歴を持ち最後の治療に反応しなかった患者のサルベージ療法として用いる。臨床試験では2.5mg/kg群のORR(客観的反応率)が32%、メジアン反応持続期間は11ヶ月だった。条件付き承認なので別途、薬効確認試験を成功させる必要がある。米国でも7月に諮問委員会が全員一致で支持した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

ノバルティスのAdakveo(crizanlizumab)はPセレクチンに結合するヒト化抗体。鎌状赤血球症の血管閉塞性疼痛クリーゼ(激しい痛みなどが起きる)を抑制する。臨床試験では頻度が年率1.63回と偽薬群の2.98回より45%少なかった。ヒドロキシウレア/ヒドロキシカルバミドと併用することも可能。米国では昨年11月に承認された。16年にSelexys Pharmaceuticalsを買収して入手したコンパウンド。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース

インスメッド(Nasdaq:INSM)のArikayceはアミカシンのリポソーム製剤。MAC(マイコバクテリウム・アビウム・コンプレックス)によるNTM(非結核性抗酸菌)肺感染症で、治療オプションが限られていて、嚢胞性線維症のない成人患者に用いる。米国では18年9月に承認、日本でも承認申請中。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: インスメッドのプレスリリース

ブループリント・メディスンズ(Nasdaq:BPMC)のAyvakyt(avapritinib、米名Ayvakit)はKIT/PDGF受容体アルファ変異キナーゼ阻害剤。PDGF受容体アルファの遺伝子にD842V変異を持つ切除不能/転移GIST(消化管間質腫瘍)の成人向けに条件付き承認することが支持された。米国では今年1月に承認。適応になる患者数は決して多くない。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ブループリント社のプレスリリース

アストラゼネカのCalquence(acalabrutinib)は) ブルトン型チロシン・キナーゼ阻害剤。慢性リンパ性白血病の一次治療に単剤またはobinutuzumab併用で、あるいは二次治療に単剤投与することが支持された。米国では17年にマントル細胞リンパ腫二次治療薬として承認、昨年11月に今回の用途に適応拡大した。16年に子会社化したAcerta Pharmaのコンパウンド。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ギリアド・サイエンシズのJyseleca(filgotinib)はJAK1阻害剤。中重度活性期リウマチ性関節炎でDMARDs(疾病修飾的抗リウマチ薬)に十分に反応しないまたは不耐の患者に単剤またはMTXと併用する。日米でも承認審査中。ベルギーのGalapagos(Nasdaq:GLPG)から共同開発販売権を取得した。JAK阻害剤は癌や血栓症のリスクが要チェックポイントになる。同社のプレスリリースによると100mg錠と200mg錠が肯定的意見を受けたようだが、前臨床で200mgに相当する用量で男性生殖器毒性が見られたため、男性患者にも200mgが承認されたのか、注目される。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース

米国サンディエゴのHeron Therapeutics(Nasdaq:HRTX)のZynrelefはbupivacaineと低量meloxicamを配合した72時間持続放出性局所用麻酔液。手術時の中小型創傷に伴う術後疼痛の治療に用いる。米国では今年6月に審査完了通知を受領したが、ボトルネックは前臨床に係る問題だけである模様だ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Heron社のプレスリリース

EMAやFDAは審査能力を持たない国の代わりに承認審査する役割も課されている。今回、CHMPは、dapivirine膣リングの肯定的意見をまとめた。18歳以上の女性で、tenofovirのような経口暴露前予防薬が使えない場合に、HIV/AIDSの暴露後感染リスクを削減する目的で用いる。ベルギーのNGOであるInternational Partnership for Microbicidesが04年にジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのティボテック・バーコから権利を取得して開発・承認申請した非核酸系逆転写阻害剤。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大で主なものは、アストラゼネカの抗PD-L1抗体、Imfinzi(durvalumab)を進展型小細胞性肺癌の一次治療にcisplatinあるいはcarboplatin及びetoposideと三剤併用すること。第三相試験ではメジアン生存期間が13.0ヶ月と偽薬併用群の10.3ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73、p=0.0047だった。米国は3月に承認、日本は7月に第二部会で報告された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

イタリアのレコルダッチのFortacinを処方薬から非処方薬にカテゴリー変更することも肯定的意見となった。lidocaineとprilocaineを配合するスプレー薬で、男性の原発性早漏の治療に用いる。局所作用で全身性副作用が少ないためOTCスイッチしても大丈夫と判断されたようだ。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、Stemline TherapeuticsのElzonris(tagraxofusp)とSwedish Orphan Biovitrum(SSE:SOBI)のGamifant(emapalumab)は否定的評価を受けた。前者はインターロイキン3・ジフテリア毒結合体で、稀だがアグレッシブな急性骨髄性白血病である芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍の治療薬として申請されたが、臨床試験のデザインや症例数に難があり十分に効果を評価できないと判断した。致死的な毛細管漏出症候群のリスクもある。Stemlineはイタリアのメラリーニが今年6月に買収した。

リンク: EMAのプレスリリース

Gamifantはガンマ・インターフェロンに結合する抗体医薬。18歳以上の難治・既存薬不耐HLH(原発性血球貪食リンパ組織球症)用薬として承認申請されたが、症例数が少なく、他の薬の同時使用が認められていて、対照群が設定されていないために、治療効果と自然軽快を区別するのが難しく、忍容性の評価もできないと判定した。SOBIは再審請求する考え。昨年買収したNovimmuneのパイプライン。米国では18年に難治再発進行性または従来療法不耐のHLHの成人と小児に用いることが承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: SOBIのプレスリリース

否定的意見が出る前に承認申請撤回となったのがアラガンのRayoqta(abicipar pegol)と大塚薬品のAbilify MyCite(aripiprazole)。前者はVEGFやPDGFに結合する融合蛋白でチューリッヒ大学のスピンアウトであるMolecular Partners(SIX:MOLN)との創薬提携の成果。新生血管加齢性黄斑変性治療薬としての効果をranibizumabと比較した第三相二本で非劣性解析が成功したが、眼内炎症が対照群より多かった。生産工程における大腸菌除去を強化することにより発現率を8.9%に低下できたが、ranibizumabは1%未満なので多いことに変わりはない。このため、CHMPは否定的に考えていた。FDAも今年6月に審査完了通知を出している。

尚、アラガンは今年5月にアッヴィの子会社となった。

リンク: EMAのプレスリリース

大塚薬品のAbilifyは統合失調症や双極障害I型、鬱病などの治療薬として広く用いられている。MyCiteはカリフォルニア州のプロテウス・デジタルヘルスと共同開発したセンサー内包錠剤で、服用後、胃内で発せられるシグナルを皮膚に張り付けたパッチで受信、服用日時などのデータをアプリに送信する。センサーは消化・吸収されずに排泄される。最先端の医薬品ディバイス複合製品だが、CHMPは、機能の検証が不十分であることやパッチの副作用リスク、ちゃんと機能しなかった時に医師や介護者が服用を促すと過剰投与のリスクが生じることなどから、否定的に考えていた。米国では17年に承認されたが、コンプライアンス(指示通りに服用)が改善することが立証されていないことや、探知が遅れることもあるので服用状況をリアルタイムにトラッキングすることはできないなどの難点が明記された。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


ロシュ、テセントリクが分子標的薬併用で悪性黒色腫に承認
(2020年7月31日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)をMEK阻害剤Cotellic(cobimetinib)及びBRAF阻害剤Zelboraf(vemurafenib、和名ゼルボラフ)と併用でBRAF V600変異を持つ悪性黒色腫に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。第三相の IMspire150試験に基づくもので、PFS(無進行生存期間)がメジアン15.1ヶ月と偽薬・Cotellic・Zelboraf併用群の10.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.78、p=0.025だった。

ZelborafとCotellicの二剤併用レジメンの投与スケジュールは、28日サイクルで前者は960mgを一日二回、経口投与し、後者は60mgを一日一回、21日連続で経口投与して7日間休薬する。三剤併用では、28日サイクルで最初のサイクルではZelborafは最初の21日間は960mgを一日二回、その後の7日間は720mgを一日二回、経口投与し、Cotellicは二剤併用時と同じ。Tecentriqの出番は第2サイクル以降で、840mgを二週毎に60分点滴静注する。Zelborafは720mg一日二回、Cotellicは60mgを21日連続服用、7日休薬を続ける。

BRAF V600変異悪性黒色腫はMEK阻害剤とBRAF阻害剤の併用療法によく反応するが、しばらくすると抵抗性が生じることがある。抗PD-1/PD-L1のような免疫療法は反応率はそれほどでもないがその割には進行抑制・死亡リスク削減効果が高く、有力な選択肢になっている。従って、ロシュが販売している三剤の併用療法のライバルは分子標的薬二剤の併用ではなく、BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)の併用だろう。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: FDAのプレスリリース

ギリアド、マントル細胞腫のCAR-T製品が米国で承認
(2020年7月24日発表)

FDAは、ギリアド・サイエンシズが17年に119億ドルで買収したKite Pharmaの第二のCAR-T製品であるTecartus(brexucabtagene autoleucel)を難治再発マントル細胞腫用薬として承認した。この疾患に用いる細胞性医薬品の承認は初。

17年にある種の非ホジキン型リンパ腫に承認されたYescarta(axicabtagene ciloleucel)と同様に、抗CD19抗体単鎖可変領域フラグメントとCD3ゼータT細胞活性化ドメイン、CD28シグナリング・ドメインの遺伝子を患者から採取したT細胞にex vivoで導入する。違いは、生産過程でT細胞の選別などを行うこと。74人を組入れた第二相試験では、細胞性医薬品の生産成功率が96%、治験離脱を除く68人に投与したところ、完全反応率(独立放射線学的評価)は67%だった。G3以上のサイトカイン放出症候群の発現率は15%、同神経学的イベント発現率は31%だった。

報道によると、価格は37.3万ドルとYescartaと同じに設定された。欧州でも承認審査中。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース






今週は以上です。