2018年5月27日

2018年5月27日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、SNSCLCでもキイトルーダの一次治療CT併用試験が成功 
  • アッヴィ、イムブルビカのCLL一次治療ガザイバ併用試験が成功 
  • バイオマリン、フェニルケトン尿症治療薬が承認 
  • 山之内が起源のスロンボポイエチン受容体アゴニストが遂に承認 
  • EUもJulucaを承認 
  • FDA、歯生期のむずかりにOTCベンゾカインを用いないよう警告 


【新薬開発】


MSD、SNSCLCでもキイトルーダの一次治療CT併用試験が成功
(2018年5月23日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の第三相、KEYNOTE-407試験の独立データ監視委員会が中間解析で成功認定したと発表した。扁平上皮性非小細胞性肺癌(SNSCLC)の標準一次治療薬であるcarboplatinとpaclitaxel(またはnab-paclitaxel)の併用レジメンに更にKeytrudaを追加する効果を検討したところ、PFS(無進行生存期間)もOSも有意に延長した。データは来週始まるASCO米国臨床腫瘍学会で発表される予定。

扁平上皮以外の非小細胞性肺癌についてはcarboplatin及びpemetrexedと併用した一次治療試験が成功、米国で承認されている。

リンク: MSDのプレスリリース

アッヴィ、イムブルビカのCLL一次治療ガザイバ併用試験が成功
(2018年5月24日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、Imbruvica(ibrutinib)の第三相、iLLUMINATE試験が成功したと発表した。CLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性白血病)の治療を初めて受ける、65歳以上などの強化化学療法に適さない患者を組入れて、ロシュの糖鎖改変型抗CD20抗体であるGazyva(obinutuzumab、和名ガザイバ)と併用するレジメンのPFS(独立評価委員会が判定)をchlorambucil・Gazyva併用群と比較したところ、統計的かつ臨床的に有意な差があった。

データは今後、発表される予定。

ImbruvicaはPharmacyclicsがジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発したBTK阻害剤。米国外はJNJが販売している。アッヴィはPharmacyclicsを210億ドルで子会社化した。

リンク: アッヴィのプレスリリース


【承認】


バイオマリン、フェニルケトン尿症治療薬が承認
(2018年5月24日発表)

FDAはバイオマリン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:BMRN)のPalynziq(pegvaliase-pqpz)をフェニルケトン尿症の治療薬として承認した。既存治療で血中フェニルアラニンが十分に減らない患者に用いる。欧州では3月に承認申請が受理されたところ。

バイオマリンは希少疾患用薬開発会社で、フェニルケトン尿症治療薬としては、サントリーが開発したビオブテンの日本以外の権利をライセンスしてKuvan(sapropterin dihydrochloride)として07年に米国で、08年には欧州でも、発売した。

Palynziqは酵素コファクターではなく酵素補充療法で、一日一回皮注する。免疫原性が原因なのか、臨床試験では応答性が悪かったり、アナフィラキシーを起こしたりする患者がいた。このため、位置づけは第二選択薬となり、アナフィラキシーの枠付き警告やREMS(リスク評価・緩和戦略)が導入され、また、アナフィラキシーに備えてエピネフリン・オートインジェクターを同時に処方する必要がある。

フェニルケトン尿症は先天性疾患で、様々な食料・飲料に含まれるフェニルアラニンを分解することができない。第一選択は含有飲食料を避けること。バイオマリンが展開する地域の患者数は33000人と推定されているが、Kuvan利用者は2000人程度と推定されており、Palynziqも普及は限定的か。価格は年19万ドルとKuvanより3割近く高い。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: バイオマリンのプレスリリース

山之内が起源のスロンボポイエチン受容体アゴニストが遂に承認
(2018年5月21日発表)

FDAは、Dova Pharmaceuticals(Nasdaq:DOVA)が承認申請したDoptelet(avatrombopag)を承認した。重度血小板減少症を合併する慢性肝疾患の成人が手術を受ける前に5日間服用する。術前・術後の血小板輸血やそれに伴う感染症リスクを抑制することができる。ニッチな用途だが、類薬が承認されている慢性ITP(免疫性血小板減少性紫斑症)でも今年下期に承認申請される見込み。

起源は山之内製薬で、藤沢薬品と合併した時に山之内アメリカからスピンアウトしたAkaRxが世界権を取得。その後、07年にMGIがAkaRxを子会社化、08年にはそのMGIをエーザイが子会社化、そして16年にエーザイがavatrombopagに係る権利・知的財産をDova社に譲渡という経緯だ。経由した会社が多いため開発コードもYM477、AKR-501、E5501と変遷した。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Dova社のプレスリリース

EUもJulucaを承認
(2018年5月11日発表)

グラクソ・スミスクラインは、EUがJulucaの販売を承認したと発表した。ヴィーブヘルスケアのインテグラーゼ阻害剤、Tivicayの活性成分であるdolutegravirと、ジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤、Edurantの活性成分のrilpivirineの合剤で、多剤併用療法が成功してウイルス抑制が6か月以上持続している、非核酸系逆転写阻害剤やインテグラーゼ阻害剤に抵抗性を持たない患者がスイッチできる。

通常のHIV/AIDS治療は三種類以上の薬を併用するが、Julucaは二剤で足りることが画期的。米国では昨年11月に承認された。

リンク: GSKのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、歯生期のむずかりにOTCベンゾカインを用いないよう警告
(2018年5月23日発表)

FDAは、ベンゾカインを含有するOTCティーシング(歯生期むずかり)製品が幼小児に深刻なリスクをもたらすと消費者に警告するとともに、メーカーに対してこの用途で販売するのを止めるよう依頼した。もしメーカーが応じなかった場合、市場から除去するための法的手続きを開始する考え。他の経口ベンゾカイン製品についても警告を記載するよう要求中。

09年から17年のFAERS(有害事象報告システム)や文献を調べたところ、119例のベンゾカイン関連メトヘモグロビン血症が見つかった。年齢情報がある症例のうち22例が18歳以下、うち11例が2歳以下。致死は4例で、のうち一人は2歳以下だった。ベンゾカイン使用目的として多かったのは経食道心エコー検査(53例)で、そのほかに内視鏡検査や挿管などが多かった。剤型では局所スプレーが75例、経口ゲルが20例だった。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: FDAの安全性情報








今週は以上です。

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2018年5月20日

2018年5月20日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • バーモント州、カナダからの医薬品輸入を合法化 
  • テセントリクの肺癌四剤併用試験、全生存の解析も成功 
  • 吸入用アミカシンが承認申請 
  • アストラゼネカ、高カリウム血症治療薬が米国でやっと承認 
  • アムジェンの抗CGRP抗体が片頭痛予防薬として承認 
  • オピオイド乱用者の治療を補助する薬が承認 
  • Cabometyx、腎細胞腫一次治療に承認 
  • FDA、キイトルーダとテセントリクに関して安全性警告 
  • 抗HIV薬テビケイに催奇性の疑い 


【今週の話題】


バーモント州、カナダからの医薬品輸入を合法化
(2018年5月16日発表)

CNNなどの報道によると、米国バーモント州で、カナダから安価な医薬品を輸入する道を開く法案が成立した。長年のアジェンダだが、法制化されたのは初めて。

但し、実際に輸入が始まる可能性は低そうだ。具体策や予算手当はこれからであり、また、輸入する医薬品がFDAの薬効・安全性基準を満たしていることを条件にしているからだ。

カナダの一部の州では、薬局が米国人の注文を電話やメールで受け付けている。処方箋がない場合は地元の医師から入手するサービスもあるようだ。しかし、FDAが過去に行った調査では、送られてきた医薬品が古かったり、パッケージやラベルが途上国のものだったりすることがあった。数年前には、カナダで医薬品の輸入が認められていない国からの輸入が大きく伸びていて、他国に転売されている可能性があると報じられた。

HHS(保健福祉省)のAzar長官は、これらの過去の長官が行った調査を踏まえて、今回の法案成立をギミックと呼んでいる。

トランプ大統領は、先日、医薬品の価格を抑制するための施策を発表したが、過激なものはなく、株式市場で医薬品株の価格が回復した。製薬会社に圧力をかける目的で輸入合法化というカードをチラ見させる可能性はあるが、実際に切ることはないだろう、というのが一般的な見方である。

リンク: CNNの報道


【新薬開発】


テセントリクの肺癌四剤併用試験、全生存の解析も成功
(2018年5月17日発表)

ロシュは、IMpower150試験が全生存期間の解析も成功したと発表した。PFS(無進行生存期間)の解析が成功したことはすでに発表され、適応拡大申請中だが、PFSでいう進行は腫瘍の大きさが一定以上増加という、必ずしも症状の増悪とは相関せず、また、閾値のすぐ下と上で評価がガラッと変わるという理不尽さを持っているので、全生存期間のほうがエビデンスとして頑強だ。

IMpower150試験は、非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療第三相試験。標準療法の一つであるcarboplatin、paclitaxel、Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)のレジメンと、更にTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)を追加する四剤併用レジメンの効果を比較した。

メジアン生存期間は四剤併用群が19.2ヶ月、三剤併用は14.7ヶ月、ハザードレシオは0.78(95%信頼区間0.64-0.96)となった。PFS解析結果が学会発表された時の全生存期間解析と、点推定値が殆ど同じだ。PD-L1やTeff遺伝子署名などのバイオマーカーに基づくサブグループ分析も各種実施されたが、結果的に、ほとんど全てのタイプの患者で四剤併用レジメンのほうが延命効果が高かった。

Avastinの代わりにTecentriqを使う三剤併用もテストされたが、これまでの中間解析では有意差が出ていない。次回は最終解析とのことなので、結論が出ることになる。

この試験の標準療法群は、今日では主流でなくなった模様であり、MSDのような、Alimta(pemetrexed)と白金薬のレジメンに追加する併用法のほうが医師にアピールするようだ。四剤併用は金銭的なコストだけでなく深刻な副作用というコストも増えるので、承認されても、どの程度普及するかは不透明だろう。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


吸入用アミカシンが承認申請
(2018年5月16日発表)

Insmed(Nasdaq:INSM)は、ALIS(amikacinのリポソーム吸入用懸濁液)を米国で承認申請しFDAに受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は9月28日。

適応は、成人のMAC(非定型抗酸菌複合体)による難治性NTM(非結核性抗酸菌症)性肺疾患。ガイドラインに基づく治療(GBT)で治癒しなかった難治性患者を組入れた第三相試験では、6ヶ月内にMACが陰転した患者の比率が29%とGBT継続群の9%を上回った。一方、深刻な治療時発現有害事象の発生率も20.2%対17.9%で上回った。

アミカシンは注射用が実用化されているが、難聴などの副作用を伴う。ALISはPARI Pharma社のeFlowネブライザを用いる吸入用薬で局所的に作用する。承認されれば、米国では年1~1.5万人程度が治療対象となる見込み。

リンク: Insmedのプレスリリース


【承認】


アストラゼネカ、高カリウム血症治療薬が米国でやっと承認
(2018年5月19日発表)

アストラゼネカのLokelma(sodium zirconium cyclosilicate)が成人の高カリウム血症治療薬として米国で承認された。申請は3年前だったが、工場査察で課題が浮上、承認が遅延した。欧州は今年3月に承認されたが、CHMPが肯定的意見を出したのは一年前なので、やはり遅延したことになる。

カチオン交換剤で、胃腸のカリウムイオンに結合しそのまま排出される。15年に27億ドルで買収したZS Pharmaの開発品。

アムジェンの抗CGRP抗体が片頭痛予防薬として承認
(2018年5月17日発表)

アムジェンは、FDAがAimovig(erenumab-aooe)を成人の片頭痛予防薬として承認したと発表した。臨床試験では、月間の片頭痛発生日数が偽薬群より1~2日少なくなった。主な有害事象は注射箇所反応や便秘。

CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)受容体を標的とする完全ヒト化抗体で、月一回、オートインジェクターで皮注する。一回分が575ドルとのことなので、バイオ薬の割には価格がそれほど高くない。尤も、標準価格が低くても値引きも小さいのかもしれない。

CGRPやその受容体を標的とする抗体は多くの会社が開発を競っているが、Aimovigが承認第一号になった。アムジェンはノバルティスと片頭痛やアルツハイマー病領域で共同開発販売提携を行っており、Aimovigはノバルティスが米国で共同販売、日米以外の国では単独で販売する。

リンク: アムジェンのプレスリリース

オピオイド乱用者の治療を補助する薬が承認
(2018年5月16日発表)

FDAは、US WorldMeds LLCが承認申請したLucemyra(lofexidine hydrochloride)を承認した。アルファ2アドレナリン受容体選択的に作動する経口剤で、OUD(オピオイド使用障害)患者がオピオイドを止める治療を受ける時の離脱症状緩和に用いる。治療期間は14日以内に限定された。主な有害事象は低血圧、徐脈、傾眠、眩暈など。臨床試験では失神も数例発生した模様だ。

リンク: FDAのプレスリリース

Cabometyx、腎細胞腫一次治療に承認
(2018年5月17日発表)

イプセンは、Cabometyx(cabozantinib)錠を中高リスク腎細胞腫の一次治療に用いる適応拡大がEUで承認されたと発表した。臨床試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が8.2ヶ月と標準療法であるSutent(sunitinib)の5.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69だった。

Exelixis(Nasdaq: EXEL)から北米や日本以外の権利を取得したもので、米国では昨年12月に承認されている。他の適応は、腎細胞腫の二次治療と、Cometriqカプセル名で甲状腺髄様癌に承認されている。また、今年3月には肝細胞腫の二次治療薬として欧米で承認申請された。

リンク: イプセンのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、キイトルーダとテセントリクに関して安全性警告
(2018年5月18日発表)

FDAは、MSDのKeytruda (pembrolizumab)やロシュのTecentriq (atezolizumab)を尿路上皮癌に用いる時の安全性警告を発出した。PD-L1低発現患者の一次治療にモノセラピーを施行すると、生存期間が白金薬ベースの治療より短くなるというもの。KeytrudaのKEYNOTE-361試験、及び、TecentriqのIMVIGOR-130試験のデータ監視委員会が中間解析で発見した。尚、これらの試験は白金薬併用もテストしている。

この両剤は何れも尿路上皮癌に承認されているが、白金薬後の二次治療、または白金薬に適さない患者の一次治療に限定されている。今回の情報を踏まえると、白金薬を使えるなら使ったほうが良いことになる。それでは、使える患者と使えない患者の境界線はどこにあるのか?

FDAは、レーベルの臨床試験セクションをよく読んで治療対象を選択すべしと言っている。承認のエビデンスとなった試験における白金薬不適の判定方法が記されているからだ。

リンク: FDAの安全性情報



抗HIV薬テビケイに催奇性の疑い
(2018年5月18日発表)

FDAは、塩野義製薬が創製しGSKやファイザーとの合弁会社で販売している抗HIV/AIDS薬、Tivacay(dolutegravir、和名テビケイ)に催奇性の疑いが浮上し検討中であることをMedWatchで発表した。ボツワナで行われた観察的研究で、受胎前後や妊娠初期に服用した患者の新生児の中から脳や脊椎、脊髄の神経管欠損が見られたことがきっかけ。FDAは、医療従事者に対して、妊娠年齢の女性に用いる時はこの可能性について伝えるよう求めている。

リンク: MedWatch






今週は以上です。

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2018年5月13日

2018年5月13日


【ニュース・ヘッドライン】

  • テセントリク、大腸癌の第三相がフェール 
  • ファセンラ、COPDの第三相がフェール 
  • ロシュ、テセントリクの肺癌一次治療併用をBLA 
  • FDA諮問委員会、FCS治療薬の承認を過半の委員が支持 
  • ダラザレックス、多発骨髄腫一次治療で承認 


【新薬開発】


テセントリク、大腸癌の第三相がフェール
(2018年5月10日発表)

ロシュは、結腸直腸癌の三次治療におけるTecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)とCotellic(cobimetinib、MEK阻害剤)の併用効果を検討した第三相試験がフェールしたと発表した。Tecentriqは膀胱癌や非小細胞性肺癌に承認されている抗PD-L1ヒト化抗体。抗PD-1抗体と同様に、結腸直腸癌に関しては一部のタイプに限定する必要があるのかもしれない。

この、IMblaze370試験は、局所進行性・転移性結腸直腸癌で二種類以上の全身性化学療法レジメンの治療歴を持つまたは不耐の患者を両剤併用群、Tecentriqモノセラピー群、または標準療法であるStivarga(regorafenib、和名スチバーガ、VEGF受容体阻害剤)群に2:1:1で無作為化割付して、オープンレーベルで延命効果を比較したもの。

開発が先行する抗PD-1抗体は、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)もOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)も結腸直腸癌のサブタイプに限定して承認されている。MSI-H(マイクロサテライト不安定性-高)/dMMR(ミスマッチ修復不十分)と呼ばれるタイプで、細胞分裂時に発生する遺伝子の複製ミスを十分に修復できない。該当するのは転移性結腸直腸癌の5%程度とのこと。

IMblaze試験はMSH/dMMRに基づくスクリーニングを行っていないため、被験者の95%がマイクロサテライト安定であった由なので、モノセラピーがフェールしたのは意外ではないことになる。割付数から推測すると、MEK阻害剤で免疫細胞を賦活して抗PD-L1抗体を援護射撃する併用群が本命だったのだろうが、プレスリリースは狙いや敗因について言及していない。

この二剤の併用は、第二相転移性結腸直腸癌一次治療後維持療法試験で4人が死亡し組入れ中断となったことが今年4月に公表されている。

リンク: ロシュのプレスリリース

ファセンラ、COPDの第三相がフェール
(2018年5月11日発表)

アストラゼネカのFasenra(benralizumab、和名ファセンラ)は、重度好酸球型喘息症治療薬として日米欧で承認されている。COPD(慢性閉塞性肺疾患)でも第三相試験中だが、一本目はフェールしたことが発表された。

二種類以上の薬を吸入しても十分に増悪を防げない中等度から極高度のCOPD患者を組入れて、52週間治療して期中の増悪頻度を追跡したが、偽薬群と有意差がなかった。アストラゼネカは、もう一本の結果が今四半期中に判明するのを待って、今後の開発方針を決する考え。

FasenraはIL-5受容体のアルファ鎖を標的とするPOTELLIGENT抗体。協和発酵キリンのBioWAからライセンスした。類薬ではグラクソ・スミスクラインが抗IL-5抗体のNucala(mepolizumab)を重度好酸球型喘息症治療薬として販売しており、COPDでも第三相試験が成功、昨年11月に適応拡大申請した。第三相の全集団の解析はフェールしており、好酸球増多サブタイプだけが適応になる。

翻って、Fanseraの試験は好酸球の多寡は不問だったようだ。Tecentriqと同様に、投げ網を広げすぎたのかもしれない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


ロシュ、テセントリクの肺癌一次治療併用をBLA
(2018年5月7日発表)

ロシュは、Tecentriq(atezolizumab)を非小細胞性肺癌の一次治療レジメンに併用する適応拡大をFDAに申請し、受理されたことを公表した。優先審査を受ける。

転移性の非扁平上皮性非小細胞性肺癌で初めて薬物療法を受ける患者に、Avastin(bevacizumab)、paclitaxel、carboplatinと四剤併用する。IMpower150試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン8.3ヶ月とTecentriqを併用しない標準療法群の6.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.617で統計的に有意だった。全生存の解析も成功したことが今年3月に発表されている。

Avastin、paclitaxel、carboplatinの三剤併用試験が成功した頃はAvastinが日の出の勢いであったため大きな喝采を浴びたが、今日ではAlimta(pemetrexed)とcarboplatinのレジメンのほうが人気があるようだ。今回の四剤併用レジメンの延命効果や忍容性は、Keytruda、Alimta、carboplatinの三剤併用レジメンと比べてどうなのだろうか?

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、FCS治療薬の承認を過半の委員が支持
(2018年5月10日発表)

FDAの代謝内分泌学製品諮問委員会は、Akcea Therapeutics(Nasdaq:AKCA)が家族性カイロミクロン血症候群(FCS)治療薬として承認申請したWaylivra(volanesorsen)を検討し、12人の委員が承認を支持したものの、8人は反対した。

肝臓で発現し血中トリグリセライドの除去を制御する、ApoC-IIIの発現を妨げるアンチセンス薬。AkceaをスピンアウトしたIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)が開発した。 週一回、皮注する。FCSはリポ蛋白リパーゼの欠乏によりカイロミクロン代謝機能が低下、トリグリセライドが増加し、膵炎を合併するリスクが高まる。世界で5000人程度の超希少疾患だ。

委員会の意見が分かれたのは、治療しないリスクと、治療に伴う血小板減少症のリスクのどちらを重視するかという点であったようだ。臨床試験ではグレード3、4の血小板減少症・深刻出血が8例発生した。投与実績は80例程度である模様なので、発生頻度は1割程度となる。FDAは、REMS(リスクを周知徹底し早期発見を促す施策)が必要と考えている。

審査期限は8月30日。FDAの諮問委員会は特定の事項について専門家や患者組織代表などの意見を聞くもので、承認を支持する委員が過半を占めたとしても、承認されるとは限らない。過去には、守秘義務の関係で諮問委員会では言及されなかった事項が原因で承認を見送ったことも少なくない。今回も票決が12対8程度では承認されるとは限らないだろう。

リンク: Akceaのプレスリリース


【承認】


ダラザレックス、多発骨髄腫一次治療で承認
(2018年5月7日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンは、Darzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)を多発骨髄腫の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。自家造血幹細胞移植が適応にならない患者に、標準療法の一つであるVMPレジメン(VELCADE(bortezomib)、melphalan、prednisoneの三剤併用)と併用する。VMPレジメンとPFSを比較した臨床試験ではハザードレシオが0.50(95%信頼区間0.38-0.65)だった。深刻有害事象の発生率は42%対33%で上回った。

リンク: JNJのプレスリリース(pdfファイル)






今週は以上です。

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2018年5月6日

2018年5月6日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • オプジーボ・ヤーボイ併用をNSCLC1Lに承認申請 
  • キイトルーダの肺癌一次治療三剤併用を承認申請 
  • アクテリオン、オプスミットの適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会、天然痘治療薬の承認を支持 
  • FDA諮問委員会、アミノグリコシド系新薬を一部用途で支持 
  • CHMP、SareptaのDMD治療薬に否定的な傾向投票 
  • Portola、Xa阻害剤の解毒剤が承認 
  • ノバルティス、CAR-Tの適応が拡大 
  • ノバルティス、braf阻害剤とMEK阻害剤の黒色腫摘出術後アジュバント療法が承認 
  • ラピアクタ、EUで承認 


【承認申請】


オプジーボ・ヤーボイ併用をNSCLC1Lに承認申請
(2018年5月3日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)の併用レジメンをTMBが10 mut/Mb以上の転移性非小細胞性肺癌の一次治療に用いる二種変更をEMA(欧州薬品庁)に申請し、受理されたと発表した。

TMBはTumor Mutation Burdenの略。患者の癌細胞と正常細胞の遺伝子を比較して、変異の多寡をメガベース当りの変異数(mut/Mb)として定量化したもの。腫瘍関連遺伝子には、正常な細胞が癌化する上で決定的な影響を及ぼすもの(例:EGFR)がある一方で、関連性があまり強くないものもある。複数の遺伝子の変異が重なることがトリガーになる可能性もあるので、簡便なスクリーニング方法として、変異頻度に注目する。

閾値を10としたのは過去の試験の事後的分析によるもの。企業や研究者、主評価項目によって異なっており、手探りという印象だ。

今回の申請はCheckMate-227試験に基づくもので、上記の併用レジメンを白金薬ベースの二剤併用と比較したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.58となった。全生存期間のハザードレシオは0.79(95%信頼区間0.56-1.10)だったが、データが未成熟である可能性もあり、そもそも、主評価項目ではない。

リンク: BMSのプレスリリース

キイトルーダの肺癌一次治療三剤併用を承認申請
(2018年4月30日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)の適応拡大を米国で申請し受理された。非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に、pemetrexed及び白金薬と併用する。優先審査で、審査期限は9月23日。欧州や日本でも申請された。

KEYNOTE-189試験に基づくもので、三剤併用群のPFS(無進行生存期間)や全生存期間をpemetrexedとcarboplatinだけの標準療法群と比較したところ、PFSのハザードレシオは0.52、全生存期間は0.49となった。1年生存率は69%と標準療法群の49%を上回った。偽薬群は癌の進行が認定された後にKeytrudaのような抗PD-1抗体を使った患者が多く、三剤療法の副作用リスクを気にしてKeytrudaを二次治療に取って置くのは適切な方針ではない可能性を示唆している。

尚、Keytrudaの非小細胞性肺癌における現在の適応は、再発治療(モノセラピー)はTPS(PD-L1発現スコア)が1%以上、一次治療(同)は50%以上に限定されているが、今回はTPS不問。

リンク: MSDのプレスリリース

アクテリオン、オプスミットの適応拡大申請
(2018年4月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのアクテリオンは、Opsumit(macitentan、和名オプスミット)をCTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)の治療に用いる適応拡大を米国で承認申請した。患者の4割程度を占める、手術不能例が適応になる見込み。臨床試験では肺血管抵抗(PVR)や6分歩行テストが偽薬より改善した。

OpsumitはエンドテリンのA、B、両受容体を拮抗する経口剤。13年に欧米で、15年には日本でも、肺動脈高血圧症治療薬として承認された。

リンク: アクテリオンのプレスリリース(pdfファイル)


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、天然痘治療薬の承認を支持
(2018年5月1日発表)

FDAの抗菌薬諮問委員会は、SIGA Technologies(Nasdaq:SIGA)が天然痘治療薬として承認申請したTPOXX(tecovirimat)を検討し、17人全員が便益が危険を上回る(承認に値する)と判定した。審査期限は8月8日。

天然痘は全世界的なワクチン接種キャンペーンが奏功し、1980年代に駆除宣言された。しかし、生物兵器として使われる可能性があるため、米軍がtecovirimatの経口剤の開発を支援するとともに、プロジェクト・バイオシールドの予算で200万コース分、戦略的国家備蓄した。

SIGAは04年にViropharmaから知的所有権などの資産を譲り受けた。

リンク: SIGAのプレスリリース

FDA諮問委員会、アミノグリコシド系新薬を一部の用途で支持
(2018年5月2日発表)

FDAの抗菌薬諮問委員会は、Achaogen(Nasdaq:AKAO)が承認申請したアミノグリコシド系抗生剤、ACHN-490(plazomicin)を検討し、複雑性尿路感染症については15人全員が便益が危険を上回ると判定した。一方、菌血症については11人が反対、賛成は4人に留まった。審査期限は6月25日。

plazomicinはIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)からライセンスしたsisomicin誘導体。アミノグリコシド耐性菌にも活性が見られた。腎毒性や難聴リスクが小さいことも期待されたが、エビデンスは確立していない模様だ。

複雑性尿路感染症の臨床試験では、FDAとEUの各々が重視する評価方法で奏効率がmeropenemと比べて非劣性だった。後者の評価方法では優越性も示唆された。

一方、カルバペネム耐性腸内細菌による菌血症を組入れた試験(meropenemまたはtigecyclineと併用)は、患者登録が進まず目標症例数や主評価項目を変更したこともあり、plazomicinの代わりにcolistinを投与した群と統計的に有意な差はなかった。Achaogenもエビデンスが万全ではないと認識しており、他に適当な治療手段がない患者のサルベージセラピーとして承認を求めている。

リンク: Achaogenのプレスリリース

CHMP、SareptaのDMD治療薬に否定的な傾向投票
(2018年5月3日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPがEXONDYS 51(eteplirsen)の承認に関して傾向投票を行ったところ否定的な結果になったことを、18年第1四半期決算報告の中で公表した。

傾向投票は、肯定的/否定的意見を出すための正式な採決よりも前の段階で、委員会の趨勢を把握するために行うもの。CHMPは、薬効を疑っているというよりは、臨床試験外のデータを対照群の一部に外挿していることなどプロトコルが厳格でなく、条件付き承認の条件を満たしていないことを問題視している模様。

Sareptaは再審請求を行ったり、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)など神経筋疾患のエキスパートによるSAG(科学的諮問グループ)の招集を求めたりする考え。

EXONDYS 51は米国で16年に承認されたが、審査担当者などの反対をCDER(小分子薬などの審査を行う組織)のヘッドが鶴の一声で覆した経緯がある。薬効のエビデンスが脆弱なので、承認取得には力業が必要だ。

リンク: Sareptaのプレスリリース


【承認】


Portola、Xa阻害剤の解毒剤が承認
(2018年5月3日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、FDAがAndexXa(andexanet alfa)を承認したと発表した。Xa阻害剤を服用している患者が事故で出血したり緊急手術を受けなければならなくなった時に、その血栓阻害作用を中和するために用いる。

対象となるXa阻害剤はバイエル/JNJのXarelto(rivaroxaban)とBMS/ファイザーのEliquis(apixaban)に限定され、第一三共のSavaysa(edoxaban、和名リクシアナ)や低分子量ヘパリンは承認されなかった。

血栓塞栓症や虚血、心停止、突然死のリスクが枠付き警告された。

Portolaは量産プロセスの承認申請を行う予定。年末ごろに承認された後に本格発売する考え。EUではCHMPの傾向投票が肯定的な結果になったが、量産プロセスなどの情報を求められたため、承認は来年にずれ込む見込みとのこと。

リンク: Portolaのプレスリリース

ノバルティス、CAR-Tの適応が拡大
(2018年5月1日発表)

ノバルティスは、Kymriah(tisagenlecleucel)をB細胞リンパ腫の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。再発性・難治性の、びらん性大細胞型B細胞リンパ腫、ハイグレードB細胞リンパ腫、または濾胞性リンパ腫によるびらん性大細胞型B細胞リンパ腫の三次以降の治療に用いる。

CAR-Tと呼ばれるテイラーメイド療法で、B細胞に特異的に発現するCD19に対する抗体フラグメントなどの遺伝子を患者から採取したT細胞に導入したもの。患者の体内に戻すと抗原提示なしでB細胞を攻撃する。ノバルティスはペンシルバニア大学からライセンスした。

昨年、米国で再発性・難治性のB細胞性急性リンパ性白血病用薬として初承認された。今回の承認は第二相試験に基づくもので、ORR(客観的反応率)が50%(完全反応率は32%)だった。重度以上の有害事象の発生率は、サイトカイン放出症候群が23%、神経学的有害事象が18%、脳症が11%だった。骨髄抑制や感染症も増加した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ノバルティス、braf阻害剤とMEK阻害剤の黒色腫摘出術後アジュバント療法が承認
(2018年4月30日発表)

ノバルティスは、braf阻害剤Tafinlar(dabrafenib)とMEK1/2阻害剤Mekinist(trametinib)の併用レジメンの適応拡大がFDAに承認されたと発表した。ステージIIIの、braf V600E/K変異を持つ黒色腫を完全切除した後のアジュバント(再発予防)療法で、偽薬と比較した臨床試験では、無再発生存のハザードレシオが0.47と有意に優れていた。

この併用レジメンは、切除不能なbraf V600変異を持つ悪性黒色腫や非小細胞性肺癌にも承認されている。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ラピアクタ、EUで承認
(2018年5月1日発表)

BioCryst Pharmaceuticals(Nasdaq:BCRX)のAlpivab(peramivir、和名ラピアクタ、米国名はRapiab)がEUで承認された。日本に8年遅れ、米国と比べても4年遅れ。2歳以上の非複雑インフルエンザに用いる。一回の点滴で足りるので、薬を飲めない状態の患者に適しているが、日本における塩野義製薬の売上を見る限りでは、出番が少なそうだ。

リンク: BioCrystのプレスリリース







今週は以上です。

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