2023年10月29日

第1126回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 大塚、ADHD用薬の第3相が成功 
  • GSK、RSVワクチンを50代にも承認申請へ 
  • ESMO:Dato-DXdは既存薬より一歩前進? 
  • ESMO:EGFRデュアル・キリングの効果 
  • ESMO:Pluvictoの前立腺癌ポストARP阻害剤試験の続報 
  • ESMO:Seagen、二剤のPMS試験が成功 
  • ESMO:カボメティクスが神経内分泌腫瘍に著効 
  • フルミストの自己点鼻を承認申請 
  • ACIP、高リスク・グループに対するMpoxワクチン勧奨を継続 
  • 「解離性」ステロイドがDMDに承認 
  • バビースモがRVOに適応拡大 
  • オンボーが米国でも承認 
  • IDH1阻害剤が骨髄異形成症候群に適応拡大 
  • CHMP、GLP-1作用剤の甲状腺癌問題に関してアップデート 


【新薬開発】


大塚、ADHD用薬の第3相が成功
(2023年10月27日発表)

大塚製薬は、centanafadineの第3相小児ADHD試験二本で統計的に有意な改善作用が示されたと発表した。13~17歳を組み入れた試験も、6~12歳の試験も、二用量群の平均と高用量群のADHD-RS-5評価尺度改善が偽薬群を有意に上回った。低用量群はフェールした模様だ。長期安全性試験などを経て承認申請に向かう予定。

17年にNeurovanceを買収して入手した、ノルエピネフィリンとドパミンの再取込阻害剤で、セロトニンの再取込も阻害する。2020年に成人ADHDの第3相二本がポジティブな結果になったが、小児向けは開発が遅れ、買収時の暖簾の減損を計上したことがある。

ClinicalTrials.govによると、成人試験は100mgまたは200mgを一日二回経口投与した。両試験、両用量ともAIDRS評価尺度が偽薬比有意に改善したが、一本のp値は低量が0.02、高量が0.04でそれほど低くない。一方、今回の小児試験はXRカプセルを一日一回経口投与した。13~17歳の試験は164.4mg群と328.8mg群を設定、もう一本はClinicalTrials.gov上では4~12歳が対象となっており、用量は体重に応じて決定としか記されていない。

暖簾償却が発表された当時、なぜ成人ADHDだけでも承認申請しないのか不思議に思ったが、XRカプセルに切替を狙ったのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


GSK、RSVワクチンを50代にも承認申請へ
(2023年10月25日発表)

GSKは米欧日で60歳以上向けに承認されたRSVワクチン、Arexvyの50~59歳における効果を60歳以上と比較した液性免疫原性非劣性試験がポジティブな結果になったと発表した。対象年齢拡大申請を行う予定。ACIP(ワクチン接種諮問委員会)で発表されたデータによると、RSV A型にもB型も、RSV感染時の下部気道疾患発症リスクが高い人たちにもそうでない人たちにも、免疫原性が見られた。

リンク: GSKのプレスリリース


ESMO:Dato-DXdは既存薬より一歩前進?
(2023年10月24日発表)

先週に続いて、10月23日に閉幕したESMO(欧州臨床腫瘍学会)の発表を振り返る。第一三共は複数のADC(抗体医薬複合体)が臨床段階にあり、開発が進んでいるher2標的ADC、Enhertu(trastuzumab deruxtecan)とTROP標的ADC、DS-1062(datopotamab、略称Dato-DXd)に関するアストラゼネカ提携に続いて、her3標的ADCのU3-1402(patritumab deruxtecan)などを対象とするMSDとの共同開発販売提携も戦術発表された。意外な組み合わせで、MSDは自社ADCプログラムも進めているが、44年前の恩讐は彼方に去ったのかもしれない。

第一三共とアストラゼネカはDato-DXdの第3相試験のうち、肺癌と乳癌の単剤投与実薬対照試験の結果を発表した。24年3月までに承認申請する考え。

TROPION-Lung01試験は、進行/転移非小細胞性肺癌で、白金薬と、分子標的薬適応になる癌は分子標的薬、それ以外は抗PD-1/PD-L1抗体による治療歴を持つ600人を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)と全生存期間をdocetaxelと比較した。ハザードレシオ0.75、メジアン値は各群4.4ヶ月と3.7ヶ月で、統計的に有意な差があった。被験者の3/4を占めた非扁平上皮非小細胞性肺癌ではハザードレシオ0.63、メジアン5.6ヶ月対3.7ヶ月と、統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった由。

共同主評価項目である全生存期間の中間解析は好ましい方向を向いているが未成熟で未だ有意差は出ていない。G3以上の治療関連有害事象発生率は25%対41%、G3以上の間質性肺疾患(ILD)の発生率は3.4%対1.4%で、試験薬群では7人が死亡、但しうち4人は治験医が病気の進行によるものと判定している。

TROPION-Breast01試験は、ホルモン受容体陽性、her2陰性/低発現の手術不能/転移性乳癌で、内分泌療法不応/不適、1~2次の化学療法歴を持つ患者732人を試験薬群と化学療法群(capecitabine、gemcitabine、eribulin mesylate、vinorelbineの中から担当医が選択)に無作為化割付けしてPFS(同上)と全生存期間を比較した。前者はハザードレシオ0.63、メジアン6.9ヶ月対4.9ヶ月となり、統計的にも臨床的にも意味のある差が見られた。後者は未成熟だが、ハザードレシオは中間解析で0.84と少なくとも向きは正しい方向を向いている。G3以上の治療関連有害事象発生率は各群21%と45%、試験薬群の間質性肺疾患の発生率は3%で、一人が死亡した。試験薬群のILD発生率は3%で、一人が死亡した。

実薬対照試験なので一歩でも前進すれば意味があるが、高価な新薬がGE薬と対抗するには価格に見合う効果がほしい所だ。肺癌試験はメジアン値の差が1ヶ月足らずで、Enhertuと同様に重度ILDリスクも見られるので、今回発表程度では印象が薄い。全生存期間のハザードレシオが0.8を下回るか、結果を待ちたい。一方、乳癌試験のほうはPFSも、全生存期間の点推定値も、好ましい結果だ。

リンク: 両社のプレスリリース(肺癌試験、和文、pdfファイル)
リンク: 同(乳癌試験、同)


ESMO:EGFRデュアル・キリングの効果
(2023年10月23日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssenは、抗EGFRxMET二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab)の市販後薬効確認試験の成功(先週記載)に続いて、第3世代EGFRチロシン・キナーゼ阻害剤JNJ-73841937(lazertinib)を併用した第3相実薬対照試験の結果を公表した。前者は21年に欧米でEGFR遺伝子にエクソン20挿入活性化変異を持つ転移非小細胞性肺癌に用いることが承認された。今回の二本はEGFR遺伝子にエクソン19欠損又はL858R置換のある局所進行/転移非小細胞性肺癌が対象で、MARIPOSA試験は一次治療における便益をアストラゼネカのTagrisso(osimertinib)と比較、MARIPOSA-2試験はTagrisso歴を持つ患者約650人を組入れて、carboplatin及びpemetrexedの標準療法に追加する便益を検討した。

一次治療試験はJanssenの二剤を併用した群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のメジアン値が23.7ヶ月、Tagrisso群は16.6ヶ月、ハザードレシオは0.70で統計的に有意だった。参考群であるRybrevantだけを追加する群のPFSはメジアン18.5ヶ月だった。副次的評価項目の全生存期間の解析は未成熟だが、二剤併用群のハザードレシオ0.80、95%信頼区間0.61-1.05と、好ましい方向を向いている。

ポストTagrisso試験はPFS(同上)がメジアン8.3ヶ月と化学療法だけの群の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.44、統計的に有意だった。Rybrevantだけを追加した群はメジアン6.3ヶ月、ハザードレシオ0.48、統計的に有意。良く分からないのは全生存期間の中間解析で、Rybrevant追加群のハザードレシオは0.77(95%信頼区間0.49-1.21)と好ましい方向を指しているが、二剤追加群は0.96(0.67-1.35)と案外だ。前提イベント数に到達する前の中間解析なので今後のフォローアップ待ちだ。

リンク: JNJのプレスリリース(MARIPOSA)

リンク: 同(MARIPOSA-2)


ESMO:Pluvictoの前立腺癌ポストARP阻害剤試験の続報
(2023年10月23日発表)

ノバルティスはPluvicto(lutetium Lu 177 vipivotide tetraxetan)の第3相PSMAfore試験の第2次中間解析結果を報告した。PSMA陽性の転移去勢抵抗性前立腺癌で、enzalutamideなどの第2世代アンドロゲン受容体経路(ARP)阻害剤歴を持ち、化学療法や免疫療法、放射線療法は未だ受けていない、PARP阻害剤が適応にならない患者468人を組入れて、7.4 Gbqを6週毎に6回照射する群と、前治療とは異なる第2世代ARP阻害剤を投与する群のPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)を比較した試験で、第1次中間解析で目的を達成したことが昨年12月に公表されたが、延命効果は明確でなかった。

今回の解析では、PFSのハザードレシオは前回と大差ない0.41、メジアン値は12.0ヶ月と5.6ヶ月、全生存期間のハザードレシオはクロスオーバーの調整前で1.16(95%信頼区間0.83-1.64)、調整後でも0.80(同0.48-1.33)で有意差が出ていない。対照群の84%が進行判定後にPluvictoにクロスオーバーしたことや、最終解析に必要なイベント数の45%しか到達していないことを考えるとやむを得ないが、次回の75%到達時の解析で明確な答えが出るか注目される。FDAが全生存期間を重視している模様で、ノバルティスは23年中の適応拡大申請を見送る。

Pluvictoはドイツの癌研究所DKFZとハイデルベルグ大学病院が共同開発した放射性医薬品で、PSMAに結合し局所的にベータ線照射を行う。18年にEndocyte社を21億ドルで買収して入手した。22年に米欧で成人のPSMA陽性転移去勢抵抗性前立腺癌でARP阻害剤とtaxaneベース化学療法歴を持つ患者にアンドロゲン枯渇療法薬と併用することが承認された。FDAが供給不足医薬品にリストアップしていたがやっと解除された。

リンク: 同社のプレスリリース


ESMO:Seagen、二剤のPMS試験が成功
(2023年10月22日発表)

Seagenは抗ネクチン4抗体薬物複合体Padcev(enfortumab vedotin)とMSDのKeytruda(pembrolizumab)を尿路上皮癌に併用する用法と、子宮頸癌用抗TF抗体薬物複合体Tivdak(tisotumab vedotin)の市販後薬効確認試験が成功したと発表した。米国における承認範囲よりやや広範な患者を組入れており、本承認切替に加えて、一部変更も申請することになりそうだ。

EV-302/KN-A39試験は局所進行/転移尿路上皮腫の一次治療を受ける患者886人を組入れて、Padcev・Keytruda併用群とcisplatinまたはcarboplatinをgemcitabineと併用する群の全生存期間やPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を比較したもので、どちらも中間解析で目的達成した。前者はハザードレシオ0.47、メジアン値は31.5ヶ月対16.1ヶ月と大変良い成績。後者も同様に0.45、12.5ヶ月、6.3ヶ月と好成績。

一つ気になるのは、PD-L1陰性の患者でも陽性患者と同様な差が見られたのだろうか?抗PD-1/PD-L1抗体の尿路上皮腫試験は上手く行ったり行かなかったり区々で、成功してもPD-L1陰性サブグループにおける便益が明確でないケースがしばしば見られるからだ。陰性にはPadcevだけで十分という可能性も無視できないだろう。

リンク: Seagenのプレスリリース

TivdakのinnovaTV 301試験は難治/転移子宮頸癌で難治/転移後の一次治療歴を持つ502人を組入れて医師が選んだ化学療法と比較した。主評価項目の全生存期間はハザードレシオ0.70、メジアン値は各11.5ヶ月と9.5ヶ月で、まあまあな成績だ。G3以上の治療時発現有害事象発生率は各群29.2%と45.2%。

尚、Seagenはファイザーに買収されることで合意しており、反トラスト局の認可待ち状態。

リンク:


ESMO:カボメティクスが神経内分泌腫瘍に著効
(2023年10月22日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)はVEGFR阻害剤Cabometyx(cabozantinib)の第3相神経内分泌腫瘍(NET)試験の詳細を発表した。米国で適応拡大申請する考え。

このCABINET試験は米国立癌センターがExelixisとコラボで資金提供した医師共同試験。治療歴のある進行膵NET93人のコフォートと、胃腸や肺などを原発とする膵外NET197人のコフォートにおけるPFS(無進行生存期間、担当医評価)を偽薬群と比較したところ、中間で目的達成が認定された。膵NETではハザードレシオ0.27、メジアン値は11.4ヶ月と3.0ヶ月、膵外NETでは各0.45、8.3ヶ月、3.2ヶ月だった。

Cabometyxは腎細胞腫などに承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


フルミストの自己点鼻を承認申請
(2023年10月24日発表)

アストラゼネカは点鼻用4価インフルエンザ弱毒化生ワクチンFluMistを自己噴霧する用法追加申請を米国で行い、受理された。18~49歳は本人が、2~17歳は介護者や保護者が投与する。審査期限は来年第1四半期の見込みで、順調なら24/25年シーズンから使用可能になる。

FluMistは子会社のMedImmuneが07年に米国で発売した、注射が嫌な人に適したワクチン。1~64歳向けに承認申請されたが症例不足と判定され、現在でも50歳以上は適応外。米国では皮下注射用の3倍の価格で発売されたことや、15~17年頃にワクチン効率の著減が見られたことなどから、年商は2億ドル前後に留まり、需要の大半は欧州、となっている。日本では第一三共がライセンスし、承認申請から足掛け7年、今年3月に承認された。

CDC(米国疾病管理予防センター)はほぼ全国民にインフルエンザ・ワクチンの接種を勧奨しているが、接種率は5割前後と推定されている。米国では薬局で接種することも可能で、施設別の推定シェアは4年前の6%から16%に上昇しているが、主流は医療スタッフによる投与だ。点鼻薬なら使いやすいだろうから、接種率引き上げに資するかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


ACIP、高リスク・グループに対するMpoxワクチン勧奨を継続
(2023年10月25日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は、22年に、Mpox(旧称サル痘)のアウトブレイクが発生したため、高リスク・グループの人たちにワクチン接種を勧奨したが、今回、アウトブレイクが終わっても勧奨継続を勧告した。弱毒化生ワクチンJynneosを供給しているBavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)は、正式に決定されたら24年上期に上市すると発表した。

高リスク・グループとは、最近、性病を罹患したり、複数のセックス・パートナーを持つなどの、ゲイなどの人々。該当人口は200万人程度で、そのうち既に接種したのは23%と推定されている。一方、患者を治療する可能性のある医療従事者についてはルーチンな接種を勧奨しなかった。

米国は22年にアウトブレイクが発生、これまでに3万人が発症し54人が死亡したが、23年に入り新患が1日1件程度に減少した。現在は中国が多いようだ。

リンク: Bavarian Nordicのプレスリリース

【承認】


「解離性」ステロイドがDMDに承認
(2023年10月27日発表)

スイスのSanthera Pharmaceuticals(SIX:SANN)は、FDAがAgamree(vamorolone)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として承認したと発表した。10月にEUのCHMP(医薬品委員会)が4歳以上を対象に肯定的意見をまとめたが、FDAは適応下限を2歳とした。

DMDの治療にしばしば用いられるコルチコステロイドの一種で、骨代謝や成長には悪影響しないため、解離性コルチコステロイドと呼ばれている。経口懸濁液。欧州の施設で4~6歳の歩行可能な少年121人を組入れたVISION-DMD試験で、6mg/kg/日群の起立テスト成績が偽薬比有意に改善した。治療効果は0.06起立/秒。試験薬群は6秒から4.6秒に改善、偽薬群は0.1秒悪化した。一方、2mg/kg/日はフェールした。6分歩行テストや10メートル走行テストは両用量とも有意差があった。

6mg/kg/日群はprednisoneを0.75mg/kg投与した群とポスト・ホック優越性検定がフェールした。

有害事象は内分泌機能変化、免疫抑制/感染症、心血管/腎機能変化、胃腸穿孔、行動気分障害、骨影響、眼科影響、生/弱毒化ワクチン併用禁忌。

米国メリーランド州のReveraGen Biopharmaからライセンスして開発したもの。米国やカナダ、メキシコではCatalyst Pharmaceuticalsが商業化する。

リンク: Santheraのプレスリリース(pdfファイル)


バビースモがRVOに適応拡大
(2023年10月27日発表)

ロシュはFDAがVabysmo(faricimab-svoa)をRVO(網膜静脈閉塞症)に伴う黄斑浮腫の治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分岐閉塞症の二本の第3相で視力改善がRegeneron/サノフィのEylea(aflibercept)比非劣性だった。

Angiopoietin-2とVEGF-Aに結合する二重特異性抗体で、nAMD(新生血管加齢性黄斑変性)やDME(糖尿病性網膜浮腫)の治療薬としても承認されている。6mgを硝子体注射する。米国で承認されている投与スケジュールは適応により若干異なり、4週毎投与で開始するのは同じだが、nAMDは5回目から検査結果に基づき8週毎、12週毎、16週毎の何れか、DMDは5回目から4週毎もしくは8週毎、または7回目から8週毎、そしてRVOでは4週毎に6ヶ月間治療する。

リンク: 同社のプレスリリース


オンボーが米国でも承認
(2023年10月26日発表)

イーライリリーはFDAがOmvoh(mirikizumab-mrkz)を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎用薬として承認したと発表した。IL-23のp19サブユニットに選択的に結合する薬がこの用途で承認されたのは初。

日本では今年3月、EUでも5月に承認されたが、米国は製造問題が理由で一旦、審査完了通知を受領し、遅延した。

リンク: 同社のプレスリリース


IDH1阻害剤が骨髄異形成症候群に適応拡大
(2023年10月24日発表)

セルビエは、IDH1(イソクエン酸脱水素酵素1)阻害剤Tibsovo(ivosidenib)が米国でIDH1変異陽性難治再発骨髄異形成症候群に適応拡大したと発表した。18人に投与した臨床試験で寛解率が38.9%、客観的反応率は83.3%だった。IDH1変異は癌化の初期段階を駆動する変異で、骨髄異形成症候群の3-4%で見られる。

Tibsovoは18年に米国でIDH1変異難治再発急性骨髄性白血病に承認された。セルビエはAgios Pharmaceuticalsから腫瘍学ポートフォリオを買収して入手した。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


CHMP、GLP-1作用剤の甲状腺癌問題に関してアップデート
(2023年10月27日発表)

EUの医薬品ファーマコビジランス・リスク評価委員会、PRACは、GLP-1作用剤の幾つかの副作用懸念に関して検討を行っているが、甲状腺癌との因果関係を示す新たなエビデンスはないと結論した。製薬会社が引き続き監視し、文献を含め、新たなエビデンスを取得したら定期報告時に報告する。

GLP-1作用剤は齧歯類の癌原性試験で甲状腺C細胞腫瘍の増加が見られた。この腫瘍はヒトで言えば甲状腺髄様腫に該当するとのことだ。EUの処方情報によると、GLP-1受容体が甲状腺C細胞腫瘍を調停するメカニズムに対する感受性が齧歯類は特に高いので、ヒトのリスクにつながる可能性は低いと考えられるが、完全に否定することはできない。米国のレーベルも概ね同じで、但し、甲状腺髄様腫を罹患もしくは家族歴を持つ人、または多発内分泌新生物症候群2型(MEN2)の患者は禁忌としている。今回のPRAC発表は、従来の見解を維持することを意味する。

リンク: PRACのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
23年4QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
23年4Q推イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
23年11月推 武田薬品のTAK-755(先天的血栓性血小板減少性紫斑症)
23/11/17Phathom Pharmaceuticalsのvonoprazan(びらん性胃食道逆流症)
23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
23/11/27BMSのrepotrectinib(ROS1陽性非小細胞性肺癌)
23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
23/11/30Hutchmed/武田のfruquintinib(結腸直腸癌)
23/11末ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)
諮問委員会
23/10/31CTGTAC:Vertex/Crisprのexagamglogene autotemcel
(ベータサラセミアと鎌状赤血球病)
23/11/16ODAC:Acrotech BiopharmaのFolotyn(pralatrexate)とBeleodaq(belinostat)
市販後薬効確認が遅延している件
23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)


今週は以上です。

2023年10月22日

第1125回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19薬のチャンピオン、ご苦労様でした 
  • ESMO:レットヴィモ、実薬対照試験で二冠達成 
  • ESMO:イミフィンジとリムパーザの内膜腫試験 
  • ESMO:イミフィンジだけか、リムパーザも併用するか、判断がキビシイ 
  • ESMO:EGFR・MET二重特異性抗体のPMS成功 
  • ESMO:キイトルーダのデータが続々発表 
  • ESMO:アレセンサのほうが完全切除後の再発死亡を防ぐ 
  • ESMO:オプジーボの2試験の結果を発表 
  • 武田のクローン病細胞療法、二本目の第3相はフェール 
  • 抗MASP-2抗体のIgA腎症試験がフェール 
  • タグリッソを一次治療に承認申請 
  • デュピクセントは蕁麻疹に適応拡大できず 
  • 反応性アルデヒド調節剤の承認が遅れそう 
  • BrainStorm、筋萎縮性側索硬化症用細胞療法の承認申請を取下げ 
  • 初の5価髄膜炎菌ワクチンが承認 
  • 低量ピロカルピンが老眼治療薬として承認 
  • UCB、gMG用薬と乾癬用薬が承認 
  • 抗議が奏功してテナパノルの承認を取得 
  • キイトルーダ、肺癌ペリオペラティブに用法追加 


【今週の話題】


COVID-19薬のチャンピオン、ご苦労様でした
(2023年10月13日発表)

ファイザーは、COVID-19治療薬に関する米国政府との契約の改定と23年の売上高ガイダンスの下方修正を発表した。この機会に、ファイザー、BioNTech、モデルナ、MSD、その他のCOVID-19ワクチン、治療薬メーカーの過去3年間の貢献に改めて感謝したい。

ファイザーは米国政府にPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)を2000万人分供給する契約を結んだが、免疫獲得が進んだことや比較的重症化しにくい株が流行するようになったことなどから未使用在庫が相当数残っていると言われている。5月に正式承認されたことや、政府一括調達から通常の医療施設/薬局毎の調達に変わることを機に、ファイザーは23年末の未使用在庫を引き取ることに合意した。返金はせず、代わりに、政府の医療プログラム(メディケアやメディケイドなど)が24年に処方する分と、保険非加入者や最低限しかカバーされていない加入者が24~28年に処方を受ける分を、無償で提供する。このほかに、政府戦略備蓄に100万人分を供給する。

決算上は通常の返品と同様に売上高から控除し、24年以降に供給したら売上計上する。Paxlovidの世界売上高は22年に189億ドルに達し、23年の期初ガイダンスは80億ドルと半減を見込んでいたが、今回、10億ドルに下方修正された。政府が790万人分、42億ドル相当を返品と前提している。

Covid-19ワクチンComirnatyのファイザーにおける売上高は20年1.5億ドル、21年367億ドル、22年378億ドルと推移し、23年の期初ガイダンスは135億ドルだったが、今回、115億ドルに下方修正された。第3四半期に9億ドルの在庫償却を行うことも公表された。

売上計画未達を補うためコスト削減策を断行する考え。犠牲になる従業員は自分が悪いわけでもファイザーが反社会的な行為をしたわけでもないのに、やりきれないだろう。あらためて感謝を表明するから、何とかならないものか。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


ESMO:レットヴィモ、実薬対照試験で二冠達成
(2023年10月21日発表)

ESMO(欧州臨床腫瘍学会)が始まり、これまで目的達成としか発表されていなかった臨床試験のトップライン・データが続々と公表された。

イーライリリーはRET阻害剤Retevmo(selpercatinib)の第3相実薬対照試験二本の成績をESMOとNew England Journal of Medicine誌で発表した。ニッチ薬だが効果はピカイチという分子標的薬の特徴が良く表れている。既承認の用途用法とオーバーラップしているが、評価を高める上で重要だろう。

LIBRETTO-431試験はRET融合変異のある進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療を受ける261人をRetevmo群と標準療法群(白金薬とpemetrexed、そして約8割の患者がKeytruda(pembrolizumab)も併用)に2対1割付けしてPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)をオープン・レーベルで比較した。主評価項目であるKeytruda併用サブグループのPFSは中間解析で目的達成、メジアン値は24.8ヶ月と11.2ヶ月、ハザード・レシオは0.465だった。シーケンシャルに実施されたintent-to-treatベースの解析もハザード・レシオ0.482で成功。対照群の患者は進行後にRET阻害剤を用いることが許可されているため、8割の患者が追跡打ち切りとなっており、全生存期間の意味のある解析は難しそうだ。

LIBRETTO-531試験はRET変異のある進行/転移甲状腺髄様腫の291人を試験薬群と医師が選んだ薬(VEGFR阻害剤のcabozantinibまたはvandetanib)の群に2:1割付けしPFS(同上)をオープン・レーベルで比較した。中間解析で目的を達成した。ハザード・レシオは0.28、メジアン値は未達と16.8ヶ月。この試験も進行後のクロスオーバーにより対照群は8割以上が全生存期間の追跡打ち切りとなった。

リンク: 同社のプレスリリース


ESMO:イミフィンジだけか、リムパーザも併用するか、判断がキビシイ
(2023年10月21日発表)

医師共同治験グループであるGOGとENGOTが主導しアストラゼネカが補助金を拠出したDUO-E試験は、全体としては良好だがサブグループ分析は良く分からない結果になった。進行/難治内膜腫の新患718人を標準療法群(calboplatinとpaclitaxelを併用)、Imfinzi(durvalumab)追加群(Imfinziは維持療法も施行)、Imfinzi・Lynparza(olaparib)の二剤追加群(Imfinziは維持療法も施行、Lynparzaは維持療法だけ)に無作為化割付けして、PFS(無進行生存期間)を比較した偽薬対照試験。共同主評価項目のうち、Imfinzi追加群と標準療法群の比較はハザード・レシオ0.71、二剤追加群と標準療法群の比較は0.55となり、有意な差があった。

Imfinzi追加群と二剤追加群の比較は行われていないが大いに気になるところだ。二剤追加すべき最適なサブグループを探索することが重要な課題になる。本試験ではPD-L1とMMR(ミスマッチ修復)能という腫瘍シグナチュアに基づくサブグループ分析が行われたが、解釈が難しい。

Imfinziは抗PD-L1抗体なのでPD-L1陽性癌のほうが得意なはずだ。本試験でもPD-L1陽性癌におけるハザード・レシオは良好だったが、陰性癌ではImfinzi追加群は0.89で今一つ、二剤追加群しても0.80で、この程度なのかという印象だ。

LynparzaはDNAの一本鎖修復に関わるPARPを阻害する薬なので、二重連鎖修復に関わるBRCAなどの機能が不十分なdMMR(ミスマッチ修復不全)癌のほうが得意なはずだが、ハザード・レシオは、Imfinzi追加群が0.42、二剤追加群が0.41で、Lynparza追加のメリットが見えない。むしろ、pMMR(ミスマッチ修復能保持)のほうに上乗せ効果が感じられる。

サブグループ分析の点推定値がチグハグな結果になるのは珍しくなく、だから、主評価項目以外はあまり拘らないほうが良いのだが、薬を増やすかどうかは医療従事者にとっては手間暇、患者にとっては副作用、医療保険にとっては費用の面で非常に重要な関心事であるだけに、今後も様々な議論が行われるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Westinらの治験論文抄録(Journal of Clinical Oncology)


ESMO:EGFR・MET二重特異性抗体のPMS成功
(2023年10月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssenは、Rybrevant(amivantamab)の市販後薬効確認試験(PMS)、第3相PAPILLONの結果を発表した。21年に米国で加速承認、EUで条件付き承認されたEGFRとMETに結合する二重特異性抗体で、本試験に基づき、欧米で本承認切替を申請中。

EGFR遺伝子のエクソン20に挿入変異を持つ未治療の進行/転移非小細胞性肺癌308人を組入れて、carboplatinとpemetrexedの標準療法に追加する便益をオープン・レーベルで検討したところ、PFS(盲検独立中央評価)がメジアン11.4ヶ月と標準療法群の6.7ヶ月を上回り、ハザード・レシオは0.395だった。全生存期間の中間解析はハザード・レシオ0.67、p=0.106で。良さそうだが未だ有意差は出ていない。対照群の76%が進行後にクロスオーバーしており、追跡を進めても一次治療における便益が二次治療である程度相殺されてしまう可能性がありそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Zhouらの治験論文抄録(New England Journal of Medicine)


ESMO:キイトルーダのデータが続々発表
(2023年10月20日発表)

MSDのKeytruda(pembrolizumab)の第3相試験成績が数多く発表された。

肺癌ではKeyNote-671試験。切除可能な早期非小細胞性肺癌(ステージII、IIIA、IIIB)の術前化学療法に追加し、術後も単剤投与する効果を偽薬追加と比較した試験で、中間解析におけるEFS(無イベント生存期間)延長効果に基づき今月米国で適応拡大した。今回、第2次中間解析で共同主評価項目である全生存も目的達成したことが学会発表された。ハザード・レシオ0.72(95%信頼区間0.56-0.93)、片側p=0.00517、36ヶ月生存率71.3%(偽薬追加群は64.0%)というもの。

MSDの臨床試験に関するプレスリリースに片側p値が載るのは珍しい。米国のレーベルによると、両側p値は0.0103で、割当てられたアルファは0.0109なので高度に有意とは言えないが点推定値は中々だ。

リンク: 同社のプレスリリース

子宮頸癌では医師共同治験グループであるENGOTやGOGが実施したKeyNote-A18試験。局所進行性子宮頸癌で高リスクの新患患者1060人を組入れて、同時化学放射線療法(外照射放射線療法、cisplatin、小線源治療)に追加する便益を検討したところ、中間解析でPFS(無進行生存期間)を達成した。ハザード・レシオ0.70、24ヶ月無進行生存率67.8%(偽薬追加群は57.3%)だった。共同主評価項目の全生存期間はハザード・レシオ0.73(95%信頼区間0.49-1.07)となっており、良い方向を向いているが未だ成熟していないので有意水準には達しておらず、引き続き追跡する。

米国では適応拡大申請済みで、審査期限は24年1月20日。

6月に目的達成したことだけを発表した時の「統計的に有意且つ臨床的に意味のある」という表現にふさわしい成績だった。この表現を使う企業が増えたのは好ましいことだ。臨床試験を中間解析で終わらせて早く収益に貢献させるべく、検出力を極めて高く設定するのが当たり前になったのと裏腹で、統計的にはギリギリ有利だが全生存期間が1ヶ月延びるだけというような悩ましい事例も散見されるからだ。

リンク: 同上

乳癌ではKeyNote-756試験。エストロゲン受容体陽性、her2陰性の高リスク早期乳癌約1280人を組入れて、術前化学療法に4サイクル分追加し、術後内分泌療法にも9サイクル追加する便益を検討したもので、共同主評価項目のうち、pCR(病理学的完全反応)が成功した。試験薬群の達成率は24.3%、偽薬群は15.6%だった。一方、G3-5の有害事象発現率は各52.5%と46.4%、有害事象によるいずれかの薬の中止が19.1%と10.1%で発生した。一番重要な共同主評価項目であるEFSは継続追跡中。

同社が7月にpCR達成だけを公表したプレスリリースには、統計的に有意としか記されていなかった。癌が衰退しても体も衰退してしまったら困るので、pCRだけでは臨床的に意味があるとは言えないという含意かもしれない。

リンク: 同上

胃癌における抗PD-1/PD-L1抗体の有益性は良く分からないところがあり、Keytrudaも、他の製品も、試験が成功したりしなかったりである。Keytrudaは第2相試験のORR(客観的反応率)に基づき17年に米国でCPS≧1の局所進行性/転移性G/GEJ(胃・胃食道接合部)腺腫に加速承認されたが、薬効確認試験がフェールしたことなどから、21年7月に適応自主返上を決定、1年後にレーベル変更された。前後して、her2陽性局所進行切除不能/転移G/GEJ腺腫の一次治療に化学療法及びtrastuzumabと併用することがKeyNote-811試験の副次的評価項目であるORRに基づいて加速承認された。しかし、主評価項目であるPFS(独立盲検中央評価)と全生存期間も中間解析で達成したものの効果が見られたのは被験者の8割以上を占めたCPS≧1の患者だけだったため、MSDは、適応範囲をCPS≧1に縮小申請する考えを明らかにした。

今回、データが明らかになった。PFSのハザード・レシオは0.72、CPS≧1では0.70、1未満のデータは不明。全生存期間は各0.84と0.81で、どちらも有意ではなかったが、多重性補正の影響もありそうだ。

尚、EUでは今年8月に適応拡大されたが、対象はCPS≧1だけ。FDAのように勇み足をしなかったことが、この件に関しては、正解だった。

リンク: 同上


ESMO:アレセンサのほうが完全切除後の再発死亡を防ぐ
(2023年10月18日発表)

ロシュはAlecensa(alectinib)の第3相ALINAが中間解析で目的を達成したと9月に発表したが、ESMO(欧州臨床腫瘍学会)のPresidential Symposiumでの発表に3日先駆けて、トップラインを公表した。ステージIBからIIIAのALK陽性非小細胞性肺癌の完全切除を終えた257人を組入れて、DFS(無病生存期間)を白金薬ベースの化学療法と比較したもので、学会抄録によると主解析対象はステージIIからIIIAまでの231人。ハザード・レシオは0.24、統計的に有意だった。シーケンシャルに実施された全ユニバースの解析も同じく0.24で成功した。2年DFS率はどちらの解析でも試験薬群が93%、化学療法群が63%だった。全生存期間の解析は未成熟で実施されていない。G3/4の有害事象発生率は各群30%と31%、有害事象による治験離脱率は5.5%と12.5%だった。適応拡大申請の予定。

Alecensaは中外製薬発のALK阻害剤。14~17年に非小細胞性肺癌の2~5%を占めるALK陽性型の二次治療薬として日米欧で承認された。

リンク: ロシュのプレスリリース


ESMO:オプジーボの2試験の結果を発表
(2023年10月17日発表)

ESMOのレート・ブレーカー・アブストラクトの解禁時間違反があったようで、予定より早く一般公開され、ブリストル マイヤーズ スクイブが概要に関するプレスリリースを出した。二本ともOpdivo(nivolumab)の第3相で、非小細胞性肺癌のペリオペラティブ試験が10月21日、尿路上皮腫化学療法併用試験が22日に発表というスケジュールだ。

CheckMate-77T試験はステージIIAからIIIBまでの切除可能非小細胞性肺癌452人を組入れて、術前化学療法にOpdivoを追加し術後にもOpdivoを単剤投与する効果を検討した無作為化割付二重盲検偽薬対照試験。主評価項目はEFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)で、ハザード・レシオは0.58と、上記のKeytrudaの類似した試験と同水準だった。副次的評価項目の全生存期間は未だ成熟していない。

OpdivoはステージIBからIIIAの切除可能非小細胞性肺癌を組入れた術前化学療法併用試験で、EFSのハザード・レシオが0.63だった。今回とそれほど変わらず、術後も続けるメリットがどの程度なのか、良く分からない。PD-L1陰性患者における便益がやや小さかったが、今回はどうなのだろうか?

リンク: BMSのプレスリリース(CheckMate-77T)

CheckMate-901試験は切除不能/転移尿路上皮腫の一次治療試験。1290人をOpdivoとYervoy(ipilimumab)を併用する群と対応する化学療法群、Opdivoと化学療法を併用する群と対応する化学療法群の4群に割付けた。ClinicalTrials.govによると、主評価項目は4種類ある。

その一つであるPD-L1陽性患者におけるOpdivo・Yervoy併用療法の全生存期間の解析はフェールした。cisplatin不耐患者におけるOpdivo・Yervoy併用の全生存期間の解析は、今のところ音沙汰がない。

ESMOで発表されるのは、同社がサブスタディと呼んでいる、Opdivo・化学療法併用の便益に関するもの(解析対象608人)。主評価項目のうち全生存期間はメジアン21.7ヶ月と化学療法・偽薬併用群の18.9ヶ月を2か月強上回り、ハザード・レシオは0.78、p=0.0171だった。共同主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)は各7.9ヶ月、7.6ヶ月、0.72、0.0012だった。

前者のp値の0.0171というのは決して高水準とはいえない。この数値が多重性補正後なのかは明らかではないが、もし未補正なら、猶更、高水準とはいえない。サブスタディではなく、CheckMate-091試験全体の主評価項目の一つと解釈する場合は、全く高水準とは言い難くなる。学会で補足説明がなされるだろうか?

リンク: BMSのプレスリリース(CheckMate-901)


皮下注用オプジーボを承認申請へ
(2023年10月19日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdivo(nivolumab)の皮下注用製剤の第3相、CheckMate-67T試験で主目的を達成したと発表した。Halozyme社のrHuPH20(遺伝子組換えヒト・ヒアルロン酸分解酵素)を配合して皮下における吸収を可能にしたもので、投与時間5分と、現在の点滴静注用製剤の30分から短縮化できる。本試験では全身性治療歴を持つ進行/転移クリア・セル腎細胞腫の495人を組入れて、オープンレーベルで薬物動態などを比較した。共同主評価項目のCavgd28(初回投与後28日目までの平均血清中濃度)とCminss(定常状態における最低血清中濃度)の両方とも、点滴静注群と非劣性だった。副次的評価項目のORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)も非劣性だった。

同社は複数の適応で承認申請すべく規制当局と相談する考え。一部報道によると、他の抗癌剤との併用は申請しない様子だ。

リンク: 同社のプレスリリース


武田のクローン病細胞療法、二本目の第3相はフェール
(2023年10月18日発表)

武田薬品はAlofisel(darvadstrocel)の第3相、ADMIRE-CD-IIで主目的を達成できなかったと発表した。成功なら米国で承認申請するはずだった。

健常者の脂肪細胞由来の幹細胞で、16年にベルギーのTiGenixを買収して入手した。18年にEUで、21年には日本でも、クローン病の合併症である痔瘻の治療薬として承認された。今回の第3相のデザインは欧州承認のエビデンスとなった第3相ADMIRE-CD試験と類似しており、なぜ異なった結果になったのか、良く分からない。尤も、一本目の試験では24週間解率が50%と偽薬群の34%を上回ったが、p値は0.024なので、高度に有意とは言い難い。なぜ米国における承認申請が遅れたのかも明らかではないが、FDAは、通常、一本の試験だけで承認申請する場合はp値が0.05の二乗値である0.0025を下回ることを求める。今回のようなことが起こりうるからだろう。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


抗MASP-2抗体のIgA腎症試験がフェール
(2023年10月16日発表)

Omeros(Nasdaq:OMER)はOMS721(narsoplimab)の第3相ARTEMIS-IGAN試験で中間評価項目を達成できず中止すると発表した。IgA腎症の患者を組入れて第36週のUPE(尿蛋白排泄)を偽薬群と比較したがフェールし、FDA承認申請も断念した。

OMS721は補体系の活性化を齎すレクチン経路に介入する抗MASP-2(マンナン結合レクチン関連セリン・プロテアーゼ2)完全ヒト化抗体。20年に造血幹細胞移植関連血栓性微小血管症(HSCT-TMA)用薬として米国で承認申請したが、治療効果の立証が不十分として、審査完了通知を受領した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


タグリッソを一次治療に承認申請
(2023年10月16日発表)

アストラゼネカは米国でTagrisso(osimertinib)をEGFR変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療に化学療法と併用する用法追加申請を行ない、受理されたことを公表した。優先審査で、審査期限は24年第1四半期とのことなので受理されたのは7~9月なのだろう。

エビデンスとなるFLAURA2試験は、Tagrisso・化学療法併用群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン29.4ヶ月とTagrisso・偽薬併用群の19.9ヶ月を上回り、ハザード・レシオは0.62だった。一方、副次的評価項目の全生存期間はハザード・レシオ0.9と案外だった(但し、未だデータが熟していない)。更に、有害事象による治験離脱率が18.1%(偽薬併用群は13.3%)、G3以上の有害事象発生率が44.8%(同33.7%)と忍容性が見劣りした。骨髄抑制的有害事象により過半の患者が何れかの薬の投与を中止したという。

効果は高そうだが、副作用も増えるので、Tagrisso単剤にすべきか、化学療法を併用すべきか、患者毎に判断することになるのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


デュピクセントは蕁麻疹に適応拡大できず
(2023年10月20日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、抗IL-4受容体アルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を12歳以上の管理不良慢性特発性蕁麻疹に米日で適応拡大申請しているが、米国は審査完了となった。薬効に関して追加データが必要と判定された。「スタディC」の結果が24年後半に判明する見込みなので、再申請はその後になりそうだ。

第3相のLIBERTY-CSU CUPID試験は、抗ヒスタミンに十分応答しない、バイオ薬未経験の6歳以上の中重度患者138人に追加投与した「スタディA」でISS7(痒みの評価尺度)もUAS7(蕁麻疹活動性評価尺度)も偽薬比有意に改善したが、バイオ薬にも応答不十分/不耐の83人を組み入れた「スタディB」はフェールした。その後、スタディAと同様な患者を組入れるスタディCが追加された。通常、薬効のエビデンスとなる試験は二本必要であることを考えると、審査完了通知を受領する可能性も踏まえて申請したのかもしれない。

リンク: 両社のプレスリリース


反応性アルデヒド調節剤の承認が遅れそう
(2023年10月16日発表)

Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)は、米国証券取引委員会にフォーム8-Kを提出し、ADX 102(reproxalap)の承認が遅れる可能性があることを適時開示した。ドライアイの症候症状治療薬として承認申請し、11月23日に審査期限を迎えるが、Late-cycle review meetingで薬効の挙証が不十分と指摘された模様だ。同社は追加情報を提出したので解決できると考えているが、この度受領した議事録が懐疑的な内容のままだった模様で、追加試験の実施を示唆された。

ADX 102はRASP(反応性アルデヒド種)調節剤。アレルゲンとなる有機アルデヒド遊離体に結合し炎症推進作用を妨げる。第3相二本で目の充血を緩和する効果を検討したが、一本目がフェールしたため、良好な結果が出た副次的評価項目のシルマー・テストをもう一本の主評価項目に変更したところ、成功。1年安全性試験を経て昨年11月に承認申請したもの。

リンク: Aldeyraのフォーム8-K(SECのEdgarデータベース)


BrainStorm、筋萎縮性側索硬化症用細胞療法の承認申請を取下げ
(2023年10月18日発表)

BrainStorm Cell Therapeutics(Nasdaq:BCLI)はNurOwnをALS(筋萎縮性側索硬化症)の治療薬として米国で承認申請していたが、取り下げた。第3相の主評価項目はフェール、治療効果自体も小さく、一方、死亡者数が偽薬群の3倍だったため、FDAは申請前相談で前向きな姿勢を示さず、会社側の学会などでの発表内容を否定するプレスリリースすら出していた。承認申請が受理されなかったためfile over protest(抗議に基づく申請)という異例の手段を用いたが、諮問委員会でも18人中一人しか便益を認めなかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


初の5価髄膜炎菌ワクチンが承認
(2023年月日発表)

ファイザーは、FDAが5価髄膜炎菌ワクチンPenbrayaを10~25歳向けに承認したと発表した。10月25日にCDC(疾病予防管理センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)が勧奨の当否や範囲などを討議する予定。

同社の髄膜炎菌ワクチンはNimenrixがA、C、W135、Y群を、TrumenbaはB群を、カバーしているが、5群をカバーする初めての製品がPenbrayaだ。第3相試験では免疫原性が非劣性だった。注射回数が半減するので、B群ワクチンの普及が進まない理由の一つが解消しよう。GSKも5価ワクチンの試験が成功、承認申請の予定。

CDCは4価ワクチンに関して、11~12歳になったら全員が接種し、16歳になったら追加接種することを勧奨している。しかし、B群ワクチンに関しては、勧奨は10歳以上の高リスクのみ、但し、16~23歳の人が医師と相談の上、接種しても可、接種回数は一回以上が良い、と抑え気味である。米国の青少年の感染はB群が最も多いが、B群ワクチンの普及率は3割程度、二回接種はもっと少ない由だ。4価ワクチンも16歳における接種率は5割程度と言われている。5価ワクチンの登場でACIPや医師、国民の認識が変わり普及が進むのか、注目される。

リンク: ファイザーのプレスリリース


低量ピロカルピンが老眼治療薬として承認
(2023年10月18日発表)

米国フロリダ州のOrasis Pharmaceuticalsは、FDAがQlosi(pilocarpine hydrochloride、0.4%点眼液)を老眼治療薬として承認したと発表した。活性成分はドライマウスなどの治療に用いられていて、21年に承認されたアッヴィの老眼治療用点眼液Vuityと同じだが、用量が約1/3。一日二回、2週間点眼投与した二本の第3相試験で、応答率が約40%と偽薬群の20%前後を有意に上回った。尚、奏効率の定義は、第8日の点眼一時間後の近見視力がベースライン値より3行以上改善し、遠見視力は1行以上悪化しないこと。治療関連有害事象は頭痛、点眼箇所痛など。14年に発売する予定。

リンク: 同社のプレスリリース


UCB、gMG用薬と乾癬用薬が承認
(2023年10月17、18日発表)

UCBのgMS(重症筋無力症)用薬と乾癬治療薬が米国で相次いで承認された。

Zilbrysq(zilucoplan)は自己注が可能なC5インヒビター。アミノ酸15個の大環状ペプチド薬で、アセチルコリン受容体(AChR)に対する抗体を持つgMSの成人患者に一日一回皮下注する。日本では9月に承認。

19年にRa Pharmaceuticalsを25億ドルで買収して入手したもの。UCBは6月にRystiggo(rozanolixizumab-noli)も承認された。gMGの8~9割を占めるAChR型はどちらも適応になるが、どうやって使い分けたらいいのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース(10/17付)

Bimzelx(bimekizumab-bkzx)はIL-17AとIL-17Bの二重特異性抗体。成人の全身性治療又は光力学療法が候補となる中重度プラク乾癬に用いる。直接比較試験でジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab )よりPASI90奏効率が高かった(85%対50%)。欧州では21年に、日本でも22年に承認されたが、米国は、COVID-19流行に伴う連邦政府職員の渡航制限や、ベルギー工場の査察で指摘事項があったことなどから遅延した。日欧では強直性脊椎炎やX線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、乾癬性関節炎などに適応拡大申請/承認されているので、米国もキャッチアップしていくだろう。

リンク: 同社のプレスリリース(10/18付)


抗議が奏功してテナパノルの承認を取得
(2023年10月17日発表)

米国のArdelyx(Nasdaq:ARDX)は、FDAがXphozah(tenapanor)を成人の透析期慢性腎疾患の高リン血症治療薬として承認したと発表した。標準的療法であるリン結合剤に十分応答しない、または不耐の患者に、30mg錠を一日二回、経口投与する。

承認申請から承認まで3年4ヶ月かかり、後から申請した日本のほうが先に承認された(協和キリンがライセンシー)。昨年11月に召集された心臓腎臓薬諮問委員会のFDAブリーフィング資料によると、FDAが審査完了通知を発出した主因は効果に関する疑念。ピボタル試験で血清リン量が減少したが、効果はリン結合剤と比べて小さい。そもそも、血清リン量の低下が臨床的便益とリンクするというエビデンスは確立していない。

同社は異議や不服を申立て、諮問委員会で過半の委員の支持を得ることに成功、承認に繋がった。

XphozahはNHE3(ナトリウム水素交換輸送体3)を阻害、細胞と細胞の接着を強化してリンの透過を抑制する。活性成分は米国で便秘型過敏性腸症候群用薬Ibsrelaとしても承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダ、肺癌ペリオペラティブに用法追加
(2023年10月16日発表)

MSDはFDAがKeytruda(pembrolizumab)の用法適応追加を承認したと発表した。4cm以上の大きさの、またはリンパ節転移した切除可能非小細胞性肺癌の術前(ネオアジュバント)・術後(アジュバント)療法に用いるもので、ネオアジュバントは化学療法と併用、アジュバントは単剤投与する。

エビデンスとなるKeyNote-671試験では、全生存期間のハザード・レシオが0.72、p=0.0103(複数設定された主評価項目の中間解析なので成否判定の閾値は0.0109)、EFS(無イベント生存期間、担当医評価)は0.58、p値は0.0001未満だった(閾値は0.0092)。

同日、EUでアジュバント適応拡大が認められたことも発表した。完全切除後に白金薬ベースの治療を受けたが再発リスクの高い非小細胞性肺癌に単剤投与するもので、米国では1月に承認されている。

抗PD-1/PD-L1抗体はネオアジュバントだけ、完全切除後のアジュバントだけ、今回の術前術後(ペリオペラティブ)の三種類の用法があり、効果だけを見ればペリが良いのだろうが、副作用や患者自身の気持ちのありようを考えれば、再発転移リスクの多寡に応じて使い分けるのが理想だろう。そのためにはもっと色々な情報が必要だ。例えば、術前のpCR(組織学的完全反応)の有無と全生存期間は相関するのか?PD-1発現との関連はないのか?ペリ対ネオ対アジュバントの直接比較試験を実施するのは難しいだろうから、せめて、サブグループ・データなどの解析を進めてもらいたいものだ。

リンク: MSDのプレスリリース(米承認)
リンク: MSDのプレスリリース(EU承認)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
23年4QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
23年4Q推イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
23/10/26Santhera Pharmaceuticalsのvamorolone(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
23年11月推 武田薬品のTAK-755(先天的血栓性血小板減少性紫斑症)
23/11/17Phathom Pharmaceuticalsのvonoprazan(びらん性胃食道逆流症)
23/11/23Aldeyra TherapeuticsのADX 102(reproxalap、ドライアイ)
23/11/27BMSのrepotrectinib(ROS1陽性非小細胞性肺癌)
23/11/27SpringWorksのnirogacestat(デスモイド腫瘍)
23/11/30Hutchmed/武田のfruquintinib(結腸直腸癌)
23/11末ValnevaのVLA1553(チクングニア熱ワクチン)
諮問委員会
23/10/31CTGTAC:Vertex/Crisprのexagamglogene autotemcel
(ベータサラセミアと鎌状赤血球病)
23/11/16ODAC:Acrotech BiopharmaのFolotyn(pralatrexate)とBeleodaq(belinostat)
市販後薬効確認が遅延している件
23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)



今週は以上です。

2023年10月14日

第1124回

【ニュース・ヘッドライン】

  • リリー、オンボーのクローン病試験が成功 
  • セマグルチドが糖尿病性腎症の進行を抑制したが 
  • キイトルーダのNSCLC補助療法試験、延命効果も確認 
  • AnaptysBio、抗IL-36R抗体の第3相成功も導出へ 
  • H3受容体拮抗剤の特発性過眠症試験がフェール 
  • サンファーマ、米国で円形脱毛症用薬の承認申請が受理 
  • アルナイラム、パチシランの適応拡大は成らず 
  • CHMP、DMD用薬などの承認を支持 
  • オプジーボが中リスク黒色腫の術後補助に承認 
  • ファイザー、S1P受容体調節剤が潰瘍性大腸炎に承認 
  • BRAF-V600E変異型非小細胞性肺癌の併用用薬が承認 


【新薬開発】


リリー、オンボーのクローン病試験が成功
(2023年10月12日発表)

イーライリリーはOmvoh(mirikizumab)の第3相クローン病試験で共同主評価項目二つを達成したと発表した。承認申請に向かう予定。

抗IL-23p19サブユニット抗体で、3月に日本で、5月にはEUでも、中重度潰瘍性大腸炎の寛解導入と維持用に承認された(米国は製造問題で審査完了)。今回の試験は中重度活性期クローン病患者を偽薬、試験薬、JNJの抗IL-12/23p40サブユニット抗体Stelara(ustekinumab)の3群に無作為化割付けして12週間投与し、応答した患者はそのまま、非応答は盲検のままmirikizumabにスイッチして総計52週間、投与を続けた。応答の定義は大便回数または腹痛が30%以上減少しどちらも悪化しないことで、患者自身が評価した。

主評価項目のうち、12週応答かつ52週臨床的寛解(CDAI総スコアが150未満)は試験薬群では45.4%が達成、偽薬群の19.6%を有意に上回った。12週応答且つ52週内視鏡的応答(Simple Endoscopic Score – Crohn's Disease総スコアが50%以上低下)も38.0%対9.0%で有意。

Stelara比は評価方法が違うようで、52週臨床的寛解率では非劣性解析が成功、内視鏡的応答率は優越性解析がフェールした。

リンク: 同社のプレスリリース


セマグルチドが糖尿病性腎症の進行を抑制したが
(2023年10月11日発表)

ノボ ノルディスクはGLP-1作用剤Ozempic(semaglutide)のアウトカム試験、FLOWを繰上げ完了すると発表した。独立データ監視委員会が中間薬効解析で目標達成を認定したため。慢性腎疾患を合併する二型糖尿病患者3534人を欧米日本などの施設で組入れて、1mgを週一回皮下注する群の転帰を偽薬群と比較したたもので、主評価項目は腎不全、eGFR半減、透析又は腎移植、腎疾患死、心血管疾患死の複合評価項目。データは24年上期に判明する見込み。承認用途ではあるが、血糖治療薬に求められるエビデンスができたことになる。尚、Ozempicは2mgも承認されている。

semaglutideは二型糖尿病を伴わない肥満症/オーバーウェイト患者の心血管アウトカム試験、SELECTでも主要有害心血管イベントを偽薬比20%抑制することに成功した(この適応では2.4mgを週一回皮下注)。また、ノボの最初のGLP-1作用剤であるVictoza(liraglutide)も、心血管疾患または高リスクの二型糖尿病患者を組入れた心血管アウトカム試験、LEADERで、主要有害心血管イベントを偽薬比13%抑制した。比較的新しいクラスであるGLP-1作用剤も様々なサブグループにおけるエビデンスが着々と積み上がっている。

意外だったのが、その翌日、透析サービス大手のDaVitaのJeff Giullian CMOが出した声明だ。この試験の組入れ基準に該当するのは慢性腎疾患の患者の1割足らずであること、複合評価項目を構成する一つだけでも条件を満たせば繰上げ完了になるのでどれが良かったのか現時点では分からないこと、eGFR悪化を抑制したのならSGLT2阻害剤とどちらが良いのか、などと指摘した。臨床試験は選ばれた施設の選ばれた医師が選びに選び抜かれた患者を対象にして実施するのでデータを外挿する際にはどちらにせよ熟慮が必要だ。また、元々糖尿病性腎症の試験なので慢性腎疾患全体を母数とするのは適切ではない。ただ、これらを考えても、1割未満というのは驚きだ。

リンク: ノボのプレスリリース
リンク: DaVitaの声明


キイトルーダのNSCLC補助療法試験、延命効果も確認
(2023年10月10日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)の非小細胞性肺癌術前術後補助療法(ペリアジュバント)試験、KeyNote-671で、共同主評価項目である全生存期間も中間解析で達成した。詳細は10月20日にESMO(欧州臨床腫瘍学会)のProffered Paperセッションで発表される見込み(LBA56)。

この試験は切除可能なステージII、IIIA、IIIBの非小細胞性肺癌を組入れて、術前白金薬ベース化学療法に偽薬またはKeytrudaを追加し、術後に偽薬またはKeytrudaを施行してEFS(無イベント生存期間)と全生存期間を比較した。今年のASCOにおける発表によると、EFSのハザードレシオ0.58、25.2ヶ月追跡してメジアン値は偽薬群が17ヶ月、試験薬群は未達、全生存期間は未成熟でハザードレシオは0.73だが、p=0.02124で成功認定の閾値を満たしていなかった。MSDはこれらのデータに基づきFDAに追加承認申請を行い、審査期限は今月16日となっている。

ライバルのBMSのOpdivo(nivolumab)も類似したデザインのCheckMate-77T試験が中間解析で主目的であるEFSを達成、10月21日にESMOのPresidential 1セッションで発表される予定(LBA1)。

KeytrudaはステージIB、II、IIIAの非小細胞性肺癌で切除術と術後白金薬ベース化学療法を受けた患者に単剤投与することが1月に米国で承認され、EUでもCHMPが肯定的意見をまとめた。効果の面では早期に併用したほうが良いのだろうが、毒性もあるので、どう使い分けすべきなのか知りたいところだ。

リンク: MSDのプレスリリース


AnaptysBio、抗IL-36R抗体の第3相成功も導出へ
(2023年10月9日発表)

米国の新興医薬品開発会社、AnaptysBio(Nasdaq:ANAB)は、ANB019(imsidolimab)の第3相GEMIMI-1試験で主目的を達成したと発表した。GPP(汎発性膿疱性乾癬)患者45人を偽薬、300mg、750mgの3群に無作為化割付けして一回静注し、第4週の奏効率(GPPPGA尺度が0(解消)または1(ほぼ解消))を比較したところ、750mg群は53.3%となり、偽薬群の13.3%を有意に上回った(p=0.0131)。忍容性は大きな問題は発生せず、試験薬群30人中1人で抗imsidolimab抗体が検出されたが、中和抗体ではなかった。

偽薬群15人中10人が、第8日時点で改善が見られなかったらレスキューとして750mgを一回静注できるというプロトコルに従いクロスオーバーした。この人たちと試験薬群はGEMINI-2試験に進み、偽薬または200mgを月一回、皮下注する維持用法フェーズに進んでいる。

同社は24年第3四半期に米国で承認申請する考え。同年中に導出先を決定し、自身はPD-1アゴニスティック抗体などの開発に注力する考えだ。

GPPは広範囲にわたる無菌性膿疱を特徴とする好中球性の炎症性皮膚疾患。大半はIL-36受容体アンタゴニストをコードするIL36RN遺伝子に変異を持つ。imsidolimabはIgG4型抗IL-36抗体。同じ作用機序を持つベーリンガー・インゲルハイムのSpevigo(spesolimab-sbzo)がGPPのフレア治療薬として22年に米日欧で承認されており、こちらは、一週後の改善が不十分ならもう一度投与することが承認されている。一方、imsidolimabは、もし維持療法が承認されれば差別化要因になりうるだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


H3受容体拮抗剤の特発性過眠症試験がフェール
(2023年10月13日発表)

Harmony Biosciences(Nasdaq;HRMY)はWakix(pitolisant)の第3相INTUNE試験がフェールしたと発表した。19年に米国で、麻薬指定されていない初のナルコレプシー治療薬として承認されたH3受容体拮抗剤で、ヒスタミンの合成・放出を増やし覚醒状態を維持するうえで重要なヒスタミン・ニューロンの活性を増強する。今回は米国の推定患者数8万人という特発性過眠症を対象とした無作為化割付け離脱試験。213人に8週間投与して応答した患者を投与継続群と偽薬スイッチ群に無作為化割付けして4週後の症状を比較したが、主評価項目も副次的評価項目もトレンドに留まった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


サンファーマ、米国で円形脱毛症用薬の承認申請が受理
(2023年10月6日発表)

インド本社のSun Pharmaceutical Industriesは、米国でdeuruxolitinibを承認申請し受理されたと発表した。成人の中重度円形脱毛症を適応とする予定。

骨髄線維症などの治療薬として用いられているJAK1/2阻害剤、ruxolitinibを重水素化したもの。3月にConcert Pharmaceuticalsを買収して入手した。臨床試験では8mgまたは12mgを一日二回、経口投与して偽薬と比較したところ、SALTスコア(脱毛範囲を指数化、ベースライン平均値は85~88)が20以下に改善した患者の比率が一本では各群29%と41%、もう一本では33%と38%となり、偽薬群の1%足らずを有意に上回った。

申請用量は8mg。上記試験の延長試験において12mg群で肺塞栓症例が発生しFDAがこの用量だけ治験停止命令を発出したことがある。JAK阻害剤は様々な副作用がありFDAは特に慎重なスタンスを示している。

重水素化技術は水素分子を重水素に置換して薬物代謝酵素に分解されにくくする。テバのハンチントン舞踏病用薬Austedo(deutetrabenazine)はtrabenazineを重水素化して服用頻度を一日二回に削減した。deuruxolitinibの服用頻度はruxolitinibと同じなので、用途が違うとはいえ、重水素化のメリットが良く分からない。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)

【承認審査・委員会】


アルナイラム、パチシランの適応拡大は成らず
(2023年10月9日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズはOnpattro(patisiran)をTTR調停心筋症の治療薬として米国で適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。効果が小さく治療する意義が明確ではないと判定された。

トランスサイレチンのmRNAを標的とするRNA介入薬。トランスサイレチン遺伝子変異によるポリニューロパチーの治療薬として米欧日で承認されている。適応拡大試験のAPOLLO-Bでは、遺伝子変異の有無を問わず36人を組入れて、0.3mg/kgの3週毎静注を12ヶ月間反復する群の12分歩行テスト成績を偽薬群と比較した。偽薬群は平均375メートルから31メートル減少したが、試験薬群は平均361メートルから13メートル減少に留まり、有意な差があった(p=0.0162)。本試験では25%の患者がファイザーのTTR調停心筋症治療薬tafamidisを同時使用していたが、残念なことに、このサブグループにおける治療効果は殆どなかった。更に悩ましいことに、同時使用していないサブグループにおける治療効果は、tafamidisの第3相試験における治療効果に見劣りした。

9月に開催された諮問委員会では、便益は限定的だが危険性はもっと小さいとして9人の委員が適応拡大を支持し、反対は3人に留まったが、FDAは、最近では珍しく、希少疾患用薬の審査に際して諮問委員会より厳しい評価を下した。

同社は3ヶ月毎皮下注のTTR調停ポリニューロパチー用薬Amvuttra(vutrisiran)でもTTR調停心筋症適応拡大試験を実施中。Onpattroの試験の倍の患者を組入れて、6分歩行テストよりも訴求力がある全死亡/心血管疾患入院/心不全緊急治療というハードな複合評価項目における便益を偽薬と比較していて、24年に結果が出る見込み。このため、同社はこれ以上、Onpattroの適応拡大申請を行わない考え。

リンク: 同社のプレスリリース


CHMP、DMD用薬などの承認を支持
(2023年10月13日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

スイスのSanthera Pharmaceuticals(SIX:SANN)が米国のReveraGen Biopharmaからライセンスして開発したAgamree(vamorolone)はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬。後期第2相試験に基づき4歳以上の患者に承認することが支持された。仰向け→うつ伏せ→起立に要する時間や6メートル歩行テスト成績を改善する。適応は歩行可能な患者に限定されていない様子だ。米国でも審査中で起源は今月26日。ステロイドの類薬だが骨などに与える副作用が小さい。

リンク: EMAのプレスリリース

ファイザーのElrexfio(elranatamab)はBCMAとCD3の二重特異性抗体。成人の代表的な3クラスの治療薬すべてを含む3次以上の治療歴を持ち最終治療抵抗性の難治/再発多発骨髄腫に用いることを条件付き承認するよう勧告した。米国でも8月に加速承認されているが、適応は4次以上の治療歴とやや異なっている。日本でも承認申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

フランスのゲルベ社がイタリアのブラッコ社と提携して開発し別名販売するのが大環状ガドリニウムMRI造影剤、Elucirem(gadopiclenol)とVueway。2歳以上の患者の中枢神経系や臓器などの強調造影が必要な場合に用いる。米国では22年9月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

スウェーデンのImmedica PharmaのLoargys(pegzilarginase)は高アルギニン血症の酵素補充療法。2歳以上の患者に例外的環境条項に基づき承認するよう勧告した。臨床試験で血漿アルギニン量が71%低下した(偽薬群は5%低下)。副次的評価項目である運動機能の改善はトレンドに留まった。

米国のAeglea BioTherapeutics(Nasdaq:AGLE)が開発し22年に米国で承認申請したが、臨床的効用が確立していないとして受理されず、CEOが退任、今年7月に欧州中東のライセンシーだったImmedicaにグローバル権を供与した。

リンク: EMAのプレスリリース

ドイツのMundipharmaのRezzayo(rezafungin)は成人の侵襲性カンジダ症の治療薬。caspofungin対照試験で30日死亡率や全般的治癒率が非劣性だった。Cidara Therapeutics(Nasdaq:CDTX)がSeachaid Pharmaceuticalsから権利を取得して開発し、米日以外の地域における商業化権を同社に供与した。米国はMelinta Therapeutics(Nasdaq:MLNT)がライセンス、今年3月に他の選択肢がない場合のサルベージ用途で承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

アステラス製薬のVeoza(fezolinetant)はNK3受容体拮抗剤。閉経に伴う中重度の血管運動症状の治療に用いる。米国では5月にVeozah名で承認。17年にベルギーのOgeda社を買収して入手したもの。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、ドイツのmedac GmbHがher2陽性局所進行/転移乳癌の3次治療薬として申請していた抗体医薬複合体、Jivadco(trastuzumab duocarmazine)は、申請取下げとなった。第3相実薬対照試験でPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.64と良好な成績を上げたが、CHMPは、投与中止例の評価や追跡状況、あるいは治験施設査察時の所見などから、大きな懸念を抱いていた。

オランダのByondisから欧州における商業化権を取得したもの。米国でも申請されたが今年5月に審査完了通知を受領した。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大も支持された。

  • BeiGene(百済神州)のBrukinsa(zanubrutinib):難治/再発濾胞性リンパ腫の3次治療にobinutuzumabと併用。米国でも審査中。
  • アストラゼネカのImfinzi(durvalumab):成人の未治療進行性/切除不能肝細胞腫に単剤投与。日本で昨年12月に承認。
  • GSKのJemperli(dostarlimab):成人のdMMR/MSI-H原発性進行/難治内膜腫にcarboplatin及びpaclitaxelと併用。米国では8月に承認。
  • MSDのKeytruda(pembrolizumab):成人のPD-1陽性(CPS≧1)の局所進行切除不能/転移胃・胃食道接合部腺腫でher2陰性の場合(陽性は一足先に承認)。
  • MSDのPrevymis(letermovir);CMV感染腎臓を非感染者に移植した後のCMV感染予防。米国では6月に承認。
  • Pharmaand GmbHのRubraca(rucaparib):成人の進行ハイグレード卵巣癌で白金薬ベース化学療法による一次治療に完全/部分反応した患者の維持療法。ファイザーからライセンスして実用化にこぎつけたClovis Oncologyがチャプター11申請し、同社が事業買収している。
  • 武田薬品のBaxalta社のVeyvondi:フォン・ヴィレブランド病の出血治療/予防薬。A型血友病を不可とする制限を解除する。

  • 一方、ロシュはRoActemra(tocilizumab)の全身性硬化症適応拡大申請を撤回した。米国では21年に全身性硬化症関連間質性肺疾患の治療薬として承認されたが、CHMPは、主評価項目の皮膚厚改善が二本の臨床試験ともフェールしたことや、副次的評価項目の肺機能低下抑制効果ははっきりしないと判断していた。

    CHMPは9月に以下の薬の条件付き承認を更新しないよう勧告したが、異議申し立て手続きに則り、再審査を決めた。

  • PTC TherapeuticsのDMD用薬Translarna(ataluren)
  • GSKの多発骨髄腫用薬Blenrep(belantamab mafodotin)

  • 16年に条件付き承認した原発性胆汁性肝硬変治療薬Ocaliva(obeticholic acid)について再検討することも決定した。臨床的便益を確認するCOBALT試験で死亡/合併症リスクが偽薬並みで、副作用は多かったため。早ければ24年1月にCHMPの評価をまとめる予定。尚、承認を取ったのはIntercept Pharmaceuticals(Nasdaq:ICPT)だったが、経営不振によりイタリアのAlfasigmaが事業買収した。

    【承認】


    オプジーボが中リスク黒色腫の術後補助に承認
    (2023年10月13日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブはFDAがOpdivo(nivolumab)をステージIIBやIICの悪性黒色腫の切除後アジュバント療法として承認したと発表した。IIIB、IIIC、IVには17年に承認されているが、対象が拡大した。EUでは8月に承認済み。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ファイザー、S1P受容体調節剤が潰瘍性大腸炎に承認
    (2023年10月13日発表)

    ファイザーはFDAがVelsipity(etrasimod)を中重度潰瘍性大腸炎用薬として承認したと発表した。2mgを一日一回、経口投与する。22年にArena Pharmaceuticalsを買収して入手した開発品の一つ。治療開始前に心臓、肝機能、眼底、使用薬などとチェックする。心筋梗塞などを発症してから半年以内などの患者は禁忌。

    S1P受容体調節剤はBMSのZeposia(ozanimod)が21年に中重度潰瘍性大腸炎に適応拡大した。2年遅れだが、用量漸増/滴定しなくて良い点が長所。心毒性などはクラス・イフェクト。

    リンク: 同社のプレスリリース


    BRAF-V600E変異型非小細胞性肺癌の併用用薬が承認
    (2023年10月11日発表)

    FDAは、ファイザーが19年に企業価値ベース1114億ドルで買収したArray BioPharmaのMektovi(binimetinib)とBraftovi(encorafenib) をBRAFにV600E変異を持つ非小細胞性肺癌に併用する適応拡大を承認した。エビデンスは欧韓米で実施された100人足らずの第2相試験のORR(客観的反応率、独立評価委員会査読)。前者は45mgを一日2回、後者は450mgを一日1回、経口投与したところ、未治療患者では75%、反応持続期間はメジアン未達、既治療患者では46%と16.7ヶ月だった。有害事象は疲労、悪心嘔吐、下痢なと。FoundationOne CDx/Liquid CDxもコンパニオン診断薬として承認された。後者の血液検査で陰性の場合、前者の組織学的検査を施行する。

    Mektoviは名前の通り、MEK阻害剤、Braftoviも名前の通り、BRAF阻害剤。BRAF-V600E変異型の黒色腫などに用いることが米欧や日本(小野薬品がライセンス)などで承認されている。

    類薬ではノバルティスのMEK阻害剤Mekinist(trametinib)とBRAF阻害剤Tafinlar(dabrafenib) の併用が同用途で17~18年に欧米日で適応拡大している。

    リンク: FDAのプレスリリース



    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
    23年4QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
    23年4Q推イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
    23年10月ファイザーのMenABCWY(5価髄膜炎菌ワクチン)
    23年10月推ArdelyxのXphozah(tenapanor、高リン血症)
    23/10/16MSDのKeytruda(pembrolizumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法に一変)
    23/10/17ArdelyxのXphozah(tenapanor、透析期CKDの高リン血症)
    23/10/22Orasis PharmaceuticalsのCSF-1(pilocarpine、老眼)
    23/10/22Regeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab、慢性特発性蕁麻疹に一変)
    23/10/26Santhera Pharmaceuticalsのvamorolone(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
    諮問委員会
    23/10/31CTGTAC:Vertex/Crisprのexagamglogene autotemcel(ベータサラセミアと鎌状赤血球病)
    23/11/16ODAC:Acrotech BiopharmaのPTCL用薬二剤、Folotyn(pralatrexate)とBeleodaq(belinostat)の市販後薬効確認が遅延している件
    23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)

    今週は以上です。

    2023年10月6日

    第1123回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • FDA、早産児にプロバイオティクスを与える危険を警告 
    • キイトルーダの尿路腫瘍後補助療法試験が成功 
    • 成人に続き小児の先天性副腎過形成治療試験も成功 
    • ノバルティス、iptacopanはIgA腎症試験も成功 
    • KMT2再編成型急性白血病試験が成功 
    • 白血球接着不全症の遺伝子療法を承認申請 
    • 劣性栄養障害型表皮水疱症の遺伝子療法を承認申請 
    • FDA諮問委員会、ルマケラスの薬効確認試験にダウト 
    • FDA諮問委員会、DFMOの外部対照試験によるエビデンスを受け入れ 
    • イーライリリーの抗IL-13抗体は承認されず 
    • 武田、Exkivityの加速承認を自主返上へ 
    • ノボの高シュウ酸尿症用siRNAも承認 
    • ノババックスもXB.1.5型COVID-19ワクチンが米国で承認 


    【今週の話題】


    FDA、早産児にプロバイオティクスを与える危険を警告
    (2023年9月29日発表)

    FDAはDHCPレター(医療提供者向け通知)を発出し、入院中の早産児にプロバイオティクス(生きた細菌や酵素)を与えると、その細菌や真菌による、侵襲性で致死的になりうる疾患を引き起こすリスクがあると警告した。医学誌に症例報告が寄せられているほか、Evivo with MCT Oilというビフィズス菌系のプロバイオティクスを与えられた早産児がビフィドバクテリウム・ロングム(ビフィズス系細菌)による敗血症で死亡したことを明らかにした。

    メーカー側も認識しているようで、同製品のホームページには正規産児に用いることを意図していると記されている。また、AAP(米国小児科アカデミー)も、早産児、特に体重が1000g未満の場合は、ルーチンにプロバイオティクスを与えないよう勧告している。理由の一つは、FDAの承認を受けている乳幼児用プロバイオティクス製品は存在しないことだ。

    リンク: FDAの安全性情報

    【新薬開発】


    キイトルーダの尿路腫瘍後補助療法試験が成功
    (2023年10月5日発表)

    MSDは、NCI(米国立癌センター)の補助金などを受けて実施されているKeytruda(pembrolizumab)の第3相研究者主導試験、AMBASSADOR/KEYNOTE-123で、共同主評価項目の一つを達成したと発表した。局在性MIUC(筋層浸潤尿路腫瘍)と局所進行性尿路腫瘍の摘出術を受けた702人を組入れて、200mgを3週毎に最大18サイクル投与する群のDFS(無病生存期間)と全生存期間を観察群と比較するもので、前者の中間解析で統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善が見られた。後者は引き続き追跡する。

    類薬であるBMSのOpdivo(nivolumab)は類似した試験が成功、21年に欧米でDFSデータに基づき適応拡大が認められた。

    リンク: 同社のプレスリリース


    成人に続き小児の先天性副腎過形成治療試験も成功
    (2023年10月5日発表)

    米国カリフォルニア州のNeurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)は、NBI-74788(crinecerfont)の第3相小児CAHtalyst pediatric試験の成功を発表した。21-OHD(水酸化酵素)欠乏による古典的CAH(先天性副腎過形成)の青少年に4週間投与したところ、血清アンドロステンジオン量が偽薬比有意に減少した。成人を組入れた試験も成功しており、長期追跡データを取得して24年に欧米で承認申請する考え。

    古典的CAHの9割超は常染色体性劣性遺伝により21-OHDが産生されずコルチゾールが欠乏する。アルドステロンの欠乏も多く見られる。コルチコイドが有効だが、副腎皮質刺激ホルモンなどの過剰分泌を防ぐために多量投与する必要がある。

    NBI-74788はCRF1(コルチコトルピン放出因子受容体1)の経口アンタゴニストで、コルチコイドの使用量を減らせる長所がある。本試験は、30%の患者がアンドロゲンが管理不良にならずにコルチコイドを減量することに成功した(偽薬群はゼロ)。成人試験ではこの奏効率が主評価項目で、63%対18%、有意な差があった。副次的評価項目のアンドロステンジオン減少率も有意に高かった。

    有害事象は頭痛、発熱、嘔吐などで、忍容性はそれほど悪くなさそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ノバルティス、iptacopanはIgA腎症試験も成功
    (2023年10月2日発表)

    ノバルティスはLNP023(iptacopan)の第3相原発性IgA腎症試験、APPLAUSE-IgANの中間解析で主目的を達成したと発表した。もう一つの主評価項目の成否を待たずに加速承認申請する方向で規制機関と相談する考え。

    IgA腎症は免疫グロブリンAが腎臓に蓄積して傷害を与え、血液や蛋白が尿に漏出する。LNP023は補体系のB因子を拮抗する経口剤で、抗C5抗体に十分応答しない、あるいは未経験のPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)の輸血ニーズを抑制する薬として第2四半期に欧米で承認申請された。

    今回の試験は470人の患者を200mg一日二回投与群と偽薬群に無作為化割付けして、9ヶ月後のUPCR(尿タンパク・クレアチニン比)と、24ヶ月間のeGFR(推算糸球体濾過量)を比較するもの。今回、前者で臨床的に意味のある且つ統計的に高度に有意な改善が見られた。後者の結果が出るのは25年の見込み。

    IgA腎症は近年、コルチコステロイドの遅放性新製剤やAT2/ETAアンタゴニストなど新薬承認が相次いでいるが、この二剤とも同じ試験の中間UPCRデータに基づき加速承認、最終eGFRデータに基づき本承認という、LNP023と同じ道を歩んでいる。

    リンク: 同社のプレスリリース


    KMT2再編成型急性白血病試験が成功
    (2023年10月2日発表)

    米国マサチューセッツ州の新薬開発企業、Syndax Pharmaceuticals(Nasdaq:SNDX)は、SNDX-5613(revumenib)のピボタルP1/2試験でKMT2再編成型の患者を組入れた2コフォートのプール分析が目的達成したと発表した。年末までに米国で承認申請する考え。同社の株価は1月以降、下落傾向にあり、今回の発表後も流れが変わらなかった。これが株式市場の受け止めなのだろう。

    SNDX-5613はmenin阻害剤。急性骨髄性白血病(AML)や急性リンパ性白血病(ALL)の5~10%で見られるメチル化酵素KMT2の遺伝子再編成や、AMLの30%で見られるNPM1の変異を標的としている。上記試験の第2相ポーションではKMT2再編成AML、同じくALL、そしてNPM1変異AMLの三つのコフォートが設定されているが、FDAとの相談を踏まえて、KMT2再編成2コフォートのプール分析を行うプロトコル変更が期中に実施された。今回、組入れ94人のうち評価可能な57人を対象に解析したところ、完全寛解/部分的完全寛解率が23%(95%下限12.7%)、メジアン反応持続期間6.4ヶ月となった。目的達成判定基準(おそらく95%下限の閾値)は明らかではない。

    用量決定が行われた第1相ポーションの数値は各30%と9.1ヶ月だったので、やや失望的なデータだ。また、G3以上の分化症候群の発生率が16%、G3のQTc延長発生率が14%と、忍容性はそれほど良くない。尤も、第1相ポーションのメジアン生存期間は7ヶ月という深刻な疾患なので、多少の副作用は受け入れざるを得ないのだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    白血球接着不全症の遺伝子療法を承認申請
    (2023年10月2日発表)

    米国ニュージャージー州の遺伝子療法開発会社、Rocket Pharmaceuticals(Nasdaq:RCKT)は、RP-L201(marnetegragene autotemcel)を重度LAD-1(白血球接着不全症1型)用薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年3月31日。

    LAD-1は常染色体性劣性遺伝性疾患。白血球が血管に接着し血管外遊出するのに必要なベータ2インテグリンのCD18部位をエンコードするITGB2遺伝子に変異があり、命に係わる感染症を頻発する。重症患者は過半が2歳までに死去する。欧米の推定患者数は800~1000人。RP-L201は患者から採取した造血幹細胞にレンチ・ウイルスを使ってITGB2遺伝子を導入し、培養した上で患者に戻す。スペインのCIEMAT(エネルギー環境技術研究センター)などからライセンスした。第1/2相試験で生後5ヶ月から9歳の患者9人に投与したところ、カプラン・マイヤー推定で1年生存率が100%だった。重度感染症や全理由入院が治療前と比べて大きく減少した。

    リンク: 同社のプレスリリース


    劣性栄養障害型表皮水疱症の遺伝子療法を承認申請
    (2023年9月26日発表)

    米国オハイオ州の新興遺伝子療法開発会社、Abeona Therapeutics(Nasdaq:ABEO)は、EB-101を劣性栄養障害型表皮水疱症(RDEB)の治療薬としてFDAに承認申請したと発表した。優先審査を求めている。

    RDEBは真皮と表皮を繋ぐ7型コラーゲンの遺伝子、COL7A1に優性/劣性遺伝による機能喪失変異を持ち、皮膚に水疱や糜爛が生じやすく、感染症や扁平上皮腫のリスクがある。米国の患者数は3000人と推定されている。EB-101は患者から採取したケラチノサイトやその前駆細胞にレトロウイルス・ベクターを用いて上記遺伝子を導入し、患者に戻す。第3相VIITAL試験で11人に施行したところ、6ヶ月後の奏効率(病変が半分以上治癒)が81%と、治療しなかった病変部位における16%を大きく上回った。病変関連疼痛も有意に緩和した。治療関連深刻有害事象や死亡、増殖能を持つレトロウイルス検出例も発生しなかった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、ルマケラスの薬効確認試験にダウト
    (2023年10月5日発表)

    FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、アムジェンのKRAS-G12C阻害剤、Lumakras(sotorasib)の市販後薬効確認試験、CodeBreaK 200について意見を聞いた。12人の委員のうち10人が、承認審査担当者と同様に、データに信頼性に疑問を呈した。薬の問題というよりは臨床試験のデザインや実施状況の瑕疵と思われ、FDA側も直ぐに加速承認を取消す考えはないようだ。

    Lumakrasは21年に米国でKRAS-G12C変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌の二次治療薬として加速承認され、翌年、欧日でも条件付き承認/承認された。加速承認のエビデンスは非対照試験のORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)なので、市販後に対照試験で延命またはそれに準じる効果を確認する必要がある。アムジェンがコミットしたのが今回のCodeBreaK 200だ。この薬が適応となる患者345人を組入れてPFS(無進行生存期間)をdocetaxelと比較したオープン・レーベル試験で、ハザードレシオは0.66と良好だったがメジアン値は5.6ヶ月対4.5ヶ月と大差ない。無症状でも癌が進行していることがあるので定期的に画像診断する必要があるが、本試験では6ヶ月毎となっており、結局、過半の患者はそれ以前に任意の画像診断や症状に基づき進行判定されたことになる。つまり、医師のバイアスが働いた可能性がある。

    この疑いを強めさせるのが全生存期間の解析だ。検出力不足とは言え、ハザード・レシオ1.01、メジアン値は10.6ヶ月と11.3ヶ月と大差ない。優越性解析のフェールは非劣性解析の成功とは異なるので、結局、延命効果は確立していないことになる。

    本試験ではdocetaxel群のドロップアウトや患者同意書撤回が多く、盲検試験ではないことを考えると、バイアスが影響した可能性もありうる。そもそも、PFSの1ヶ月程度の差は決して大きくない。

    加速承認を本承認に切り替える申請の審査期限は12月24日。別途、薬効確認試験を実施するよう求められる可能性が高そうだ。

    リンク: Fierce Pharmaの報道


    FDA諮問委員会、DFMOの外部対照試験によるエビデンスを受け入れ
    (2023年10月4日発表)

    FDAはODAC(腫瘍学諮問委員会)を招集し、US WorldMedsが小児高リスク神経芽細胞腫の維持療法薬として承認申請したeflornithine(通称DFMO)について、意見を聞いた。

    本件の特異性は、薬効や安全性のエビデンスが通常の無作為化割付け対照試験ではなく、プロペンシティ・マッチによる外部対照試験であること。FDAは前者を推奨したが、メーカー側は小児希少疾患であることなどから実施は困難と主張。FDAは試験データを元に様々な検証的解析を実施し、便益を認めた上で、諮問委員会に挙証十分と判断するか、尋ねた。委員はこの試験だけでなく総合的な判断に基づいて、と前提した上で、14人が薬効を認め、6人は認めなかった。

    反対意見は、そもそも無作為化割付け試験が可能だろうと主張した。また、賛成者も含めて、これが前例になるのは好ましくないと主張した。

    外部対照試験のデータ自体は好ましいものだ。手術や放射線療法、化学療法など標準医療により完解した患者105人に、体表面積に応じた量を一日二回、2年間、投与したところ、2年間のEFS(無イベント生存)ハザードレシオが0.48(95%上限0.85)、全生存期間のそれは0.32(同0.70)だった。但し、無作為化割付け試験ではないので、補正されていない因子の影響を受けている可能性がある。

    eflornithineはアフリカ・トリパノソーマ症の静注用薬や脱毛クリームの活性成分として米国で承認されている。神経芽細胞腫では、予後予測因子の一つとされるornithine decarboxylase(ODC)を阻害する作用が期待されているようだ。

    リンク: MedPage Todayの報道


    イーライリリーの抗IL-13抗体は承認されず
    (2023年10月2日発表)

    イーライリリーは米国で抗IL-13抗体lebrikizumabを中重度アトピー性皮膚炎用薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。EUでは権利を持つAlmirallが申請し9月にCHMPの肯定的意見を受領したので油断していたが、FDAがCMOの査察時に問題点を発見した模様だ。

    ジェネンテックが喘息症で第3相を実施したが十分な効果が見られず、17年にDermiraに導出。Dermiraは欧州の権利をAlmirallに導出した翌年の20年に、イーライリリーに11億ドルで買収された。

    リンク: リリーのプレスリリース


    武田、Exkivityの加速承認を自主返上へ
    (2023年10月3日発表)

    武田薬品はExkivity(mobocertinib)の米国などにおける承認を自主返上する考えを明らかにした。21年に米国で、22年に英国で、23年には中国でも加速承認/条件付き承認/暫定承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしてしまった。FDAは、近年、このような事例に厳しい態度を示すことが増えている。適応がオーバーラップするジョンソン・エンド・ジョンソンのRybrevant(amivantamab-vmjw)の市販後薬効確認試験が成功したことも影響したかもしれない。

    ExkivityはEGFRやher2のエクソン20挿入変異に活性を持つ小分子薬。17年にAriad Pharmaceuticalsを買収した時に入手した。米国における適応は、白金薬ベースの化学療法を施行中または実施後に病状が進行した、EGFRエクソン20挿入変異を伴う局所進行/転移非小細胞性肺癌。4ヶ月早く加速承認されたRybrevantと需要を二分していた。40mgカプセルを一度に4個、一日一回、経口投与する。薬効のエビデンスは第1/2相試験の反応率と反応持続期間。

    市販後コミットメント試験は第3相Exclaim-2。EGFRエクソン20挿入変異を持つ新患318人を組入れて、PFS(無進行生存期間)を白金薬ベースの化学療法と比較した。データは今後、発表されるだろう。

    武田はEUでも条件付き承認を申請していたが、反応率が低いことや対照試験の結果がまだ出ていないことからCHMPの評価が思わしくなく、申請撤回となった。今回はCHMPが正しかったことになる。

    リンク: 同社のプレスリリース(和文)

    【承認】


    ノボの高シュウ酸尿症用siRNAも承認
    (2023年10月3日発表)

    ノボ ノルディスクはFDAがRivfloza(nedosiran)を9歳以上の原発性高シュウ酸尿症1型の治療薬として承認したと発表した。腎機能が比較的保持されている(eGFR≧30ml/分/1.73m2など)患者が適応になる。年齢や体重に応じた所定量を月一回、皮下注する。米日欧の施設で6歳以上の35人を組入れたピボタル試験では、1型患者の尿シュウ酸量が偽薬比56%低下した。尚、2型患者では効果が見られなかったが症例数が少ないので判然としない。

    GalNAcを結合して標的結合性を向上した二重連鎖siRNA(小型介入的RNA)薬。このカテゴリーではアルナイラム・ファーマシューティカルズのOxlumo(lumasiran)が20年11月に欧米で原発性高シュウ酸尿症1型用薬として承認されている。どちらもシュウ酸の生成を抑制するが攪乱すべき標的が異なり、Oxlumoはグリコール酸オキシダーゼの発現を邪魔してグリオキシル酸の生成を阻害、Rivflozaはグリオキシル酸をシュウ酸に代謝する乳酸脱水素酵素の発現を阻害する。特許紛争を経てアルナイラムとクロスライセンス契約を結んだが、アルナイラムが払うべきロイヤルティ率の方が高くなっている。

    ノボは21年にDicerna Pharmaceuticalsを33億ドルで買収して入手した。

    リンク: ノボのプレスリリース


    ノババックスもXB.1.5型COVID-19ワクチンが米国で承認
    (2023年10月3日発表)

    ノババックス(Nasdaq:NVAX)はXB.1.5対応COVID-19ワクチンがFDAにEUA(非常時使用認可)されたと発表した。12歳以上が対象。CDC(米国疾病予防管理センター)も接種勧奨した。ファイザー/BioNTechやモデルナに次ぐ、第3のXB.1.5対応ワクチンで、mRNAではなくスパイク蛋白を抗原としていることが特徴。卵黄培養ではなく、バキュロウイルスをベクターとして昆虫由来の細胞に感染させて培養した。

    mRNAワクチンは開発や製造期間を短縮できることが取り柄で、COVID-19ワクチンは20年12月に米国承認と、ノババックスより1年以上早く実用化された。しかし、XB.1.5対応ワクチンの承認は1ヶ月遅れただけだった。

    mRNAワクチンと言えば、カタリン・カリコ博士は研究補助金をカットされてハンガリーからアメリカに脱出し、ペンシルバニア大学を首になったがノーベル賞を受賞した。元々は腫瘍学における応用を優先課題としていたようだが、COVID-19の流行が天恵となった。不遇を託つ研究者たちの心に明かりを灯すエピソードになったらいいな。

    リンク: ノババックスのプレスリリース


    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    23年4QファイザーのBraftoviとMektovi(BRAF-V600E変異型非小細胞性肺癌に併用)
    23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
    23年4QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
    23年4Q推イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
    23年10月ファイザーのMenABCWY(5価髄膜炎菌ワクチン)
    23年10月推ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
    23年10月推ArdelyxのXphozah(tenapanor、高リン血症)
    23/10/8 Alnylam PharmaceuticalsのOnpattro(patisiran、TTR調停アミロイドーシスによる心筋症)
    23/10/13BMSのOpdivo(nivolumab、悪性黒色腫アジュバント一変)
    23/10/16MSDのKeytruda(pembrolizumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法に一変)
    23/10/17ArdelyxのXphozah(tenapanor、透析期CKDの高リン血症)
    23/10/22Orasis PharmaceuticalsのCSF-1(pilocarpine、老眼)
    23/10/22Regeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab、慢性特発性蕁麻疹に一変)
    23/10/26Santhera Pharmaceuticalsのvamorolone(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
    諮問委員会
    23/10/31CTGTAC:Vertex/Crisprのexagamglogene autotemcel(ベータサラセミアと鎌状赤血球病)
    23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)


    今週は以上です。

    2023年10月1日

    第1122回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • ベネクレクスタ、適応拡大試験がフェールも承認申請を協議へ 
    • JNJ、二剤併用が単剤に勝つ 
    • カイロミクロン血症の第3相が成功 
    • ルタテラのGEP-NETs一次治療試験が成功 
    • 抗CD47抗体にまたまた悲報 
    • REGN、新規リンパ腫用薬を承認申請 
    • 統合失調症の新規合剤を承認申請 
    • Akebia、バダデュスタットを米国で再承認申請 
    • FDA諮問委員会もALSの細胞療法を支持せず 
    • 難治ポンペ病用併用療法が承認 
    • 画期的抗鬱剤が30年を経て遂に承認 
    • 武田、皮下注用エンタイビオが米国でも承認 
    • 眼検査後瞳孔散大治療薬が承認 


    【新薬開発】


    ベネクレクスタ、適応拡大試験がフェールも承認申請を協議へ
    (2023年9月29日発表)

    アッヴィはVenclexta(venetoclax)の第3相Canova試験のヘッドラインを公表した。多発骨髄腫では最も多く見られる第11染色体と第14染色体の転座を持つ患者を対象とした試験で、主評価項目は有意ではなかったが点推定値はあと一歩、延命効果のトレンドも見られたため、承認申請に向けて規制機関と相談する考え。

    Venclextaは癌細胞のアポトーシスを妨げるbcl-2に結合し阻害する作用を持ち、慢性リンパ性白血病や急性骨髄性白血病の治療に用いられている。米国ではジェネンテックが共同販売している。

    Canova試験は成人の二次以上の治療歴を持つt(11;14)陽性難治再発多発骨髄腫263人を組入れて、dexamethasoneの併用薬としてVenclextaを使う群とBMSのPomalyst(pomalidomide)を使う群のPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)を比較した。結果は、PFSのハザードレシオは0.823、p=0.237、メジアン値は各群9.9ヶ月と5.8ヶ月となり、点推定値はあと一歩、但しp値はあと百歩。主評価項目がフェールしたので副次的評価項目の解析は探索的なものになってしまうが、ORRの名目pは0.001未満、全生存のハザードレシオは0.697、名目p0.067、メジアン32.4ヶ月対24.5ヶ月と、好ましい方向を向いている。

    尚、Venclextaは19年にFDAが臨床試験部分停止命令を出したことがあるが、治療プロトコルの見直しや無益性判定基準の見直し、そしてリスク管理策の導入などを経て、3ヶ月後に解除された。部分停止命令の発端は、Velcade(bortezomib)及びdexamethasoneのレジメンに追加した第3相P3BELLINI試験で、PFSのハザードレシオが0.63と大変良い結果が出たものの死亡率が21%対11%と非常に多かったため。ClinicalTrials.govによるとBELLINI試験の全生存期間ハザードレシオは1.191、p=0.385とのことなので、フェールはフェールだが倍増するわけではなかった。それにしても、PFSを妄信すべきでないことを示す一例だ。

    PFSは全生存期間より早く有意差を検出できるので主評価項目に採用されることが多いが、この二本の試験はあべこべの結果になってしまった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    JNJ、二剤併用が単剤に勝つ
    (2023年9月28日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceutical Companiesは、EGFRとMETの二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab-vmjw)と第3世代EGFRチロシン・キナーゼ阻害剤JNJ-73841937(lazertinib)の併用第3相試験、MARIPOSAで主評価項目を達成したと発表した。EGFRにエクソン19欠損などの抵抗性変異を持つ局所進行性/転移性非小細胞性肺癌のフロントライン試験で、1074人の患者を併用群とアストラゼネカのEGFR阻害剤Tagrisso(osimertinib)群に無作為化割付けして非盲検下でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を比較したところ、統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった。副次的評価項目の全生存期間も中間解析で好ましい傾向が現れているとのこと。データは学会で発表する予定。

    Rybrevantは21年に欧米でEGFRにエクソン20挿入型活性化変異を持つ非小細胞性肺癌に用いることが承認された。lazertinibは韓国のYuhanがOscotecの米国子会社からライセンスしてJanssenに韓国外の権利を導出したもの。T790M変異やL858変異に高い活性を持ち、血管脳関門を通過し、野生型EGFRには作用しない。

    この併用法は第3相MARIPOSA-2試験も先日、成功が発表された。EGFRにエクソン19欠損やL858R置換のある局所進行性/転移性非小細胞性肺癌でTagrisso歴を持つ患者を組入れて、carboplatin及びpemetrexedの標準療法にこの二剤またはRybrevantだけを追加する便益を検討したところ、PFS(同)が統計的有意且つ臨床的に意味のある延長を見た。

    アストラゼネカも黙って見ていない。類似した患者層を対象にTagrissoとpemetrexed及び白金薬を併用する便益を検討した第3相FLAURA2試験の成功が5月に発表された。但し、全生存期間の中間解析は未成熟とは言えハザードレシオ0.9とそれほどでもなく、G3以上の有害事象がTagrissoだけの群よりかなり多かった。

    ヤンセンの二剤併用も全生存の解析がどうなるか、忍容性はどの程度損なわれるのか、など、今後の発表が注目される。

    リンク: JNJのプレスリリース


    カイロミクロン血症の第3相が成功
    (2023年9月26日発表)

    Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、olezarsenの第3相家族性カイロミクロン血症候群(FCS)試験で主目的を達成したと発表した。24年の早期に欧米で承認申請する考え。承認されれば初めての治療薬になる。同社にとっては自社販売薬第一号にもなる。

    FCSはリポプロテイン・リパーゼの産生不良や機能低下によりカイロミクロンの分解が進まず、トリグリセライドが高値に推移する。100万人当り1~2人の超希少疾患。olezarsenはトリグリセライドの代謝を制御するapoC-IIIのmRNAを阻害するアンチセンス・オリゴヌクレオチド。19年にEUでは条件付き承認されたWaylivra(volanesorsen)と同じ核酸配列を持つが、N-acetyl-galactosamine(GalNAc)を結合して力価や忍容性を向上した。

    今回の第3相Balance試験は18歳以上の患者66人を組入れて低脂肪食とスタチンなどの標準療法を施行するとともに、偽薬、50mgまたは80mgを4週毎に皮下注し、6ヶ月後のトリグリセライド値を比較したところ、80mg群は偽薬比有意な差があった(尚、Waylivraの承認用法は300mg週一回皮下注)。FCSの主要な合併症である急性膵炎はゼロだった(偽薬群は11件)。

    急性膵炎はゼロ。肝腎毒性は見られず、血小板数の臨床的に意味のある現象は見られなかった。一名死亡したが薬物関連とは見られていない。

    Waylivraは血小板減少や出血事故のリスクが見られ、FDAが18年に審査完了通知を発出したのはこれが主因と推測される。今回の試験でも血小板減少が全く見られなかった訳ではなさそうであり、また、超希少疾患の試験なのでリスクを厳密に査定することはできないが、重大事故が発生しなかったことは取り敢えず一安心だ。GalNAc技術は他の開発品にも関わる重要なイノベーションであることからも注目できる。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ルタテラのGEP-NETs一次治療試験が成功
    (2023年9月25日発表)

    ノバルティスはLutathera(lutetium Lu 177 dotatate)の第3相NETTER-2試験が成功したと発表した。米国では適応内と思われるがエビデンスが充実した。EUなどでは既存治療進行性の限定を解除する一部変更申請に向かうのではないか。

    17年にAdvanced Accelerator Applicationsを39億ドルで買収して入手した、放射線核種標識ソマトスタチン類縁体。18年に米国でソマトスタチン受容体陽性の膵・消化管神経内分泌腫(GEP-NETs)用薬として承認された。30年以上の市販歴を持つソマトスタチン類縁体、octreotideの低量と併用する。この時のエビデンスは、進行性高分化進行/転移中腸カルチノイド腫瘍を組入れてPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)を標準用量octreotideと比較したNETTER-1試験と、前腸や後腸のNETsも組入れた単一施設expanded accessプログラムにおけるORR(客観的反応率)だった。

    NETTER-2試験は未治療の胃腸または膵臓のNEPs222人を組入れて併用療法と標準用量octreotideのみのPFSを比較したところ、統計的に有意な、また、臨床的に意味のある改善を見た。5年前に積み残した虫食い箇所を埋めたことになる。数値は未公表。

    リンク: 同社のプレスリリース


    抗CD47抗体にまたまた悲報
    (2023年9月26日発表)

    ギリアド・サイエンシズはGS-4721(magrolimab)の二本目の第3相試験、ENHANCE-2を無益中止したことを明らかにした。TP53に変異のある急性骨髄性白血病におけるazacitidine併用時の延命効果をvenetoclax・azacitidine併用または強化化学療法と比較する試験で、当初の予定にはなかった中間解析を行ったところ、独立データ監視委員会が無益認定した。安全性は両群同程度であった由。

    スタンフォード大学の研究者が15年に設立したForty Seven社を20年に49億ドルで買収して入手した抗CD47抗体。22年にFDAが治験の部分停止命令を出したが、第3相試験三本は既に中間解析に必要な症例数を組入れ済みだったため、結果が注目されていた。しかし、高リスク骨髄異形成症候群の一次治療azacitidine併用試験、ENHANCE-1が、当初から計画されていた中間解析で全生存期間がazacitidine単剤を上回る可能性は著しく低いと無益認定された。今回は3ヶ月間に二回目のネガティブ・ニュースだ。残るはENHANCE-3試験。強化化学療法に適さない急性骨髄性白血病の一次治療において、venetoclaxとazacitidineの併用レジメンに追加する便益を検討している。

    CD47は血液癌や乳癌などで高発現する膜貫通型表面分子。マクロファージなどのSIRPアルファ受容体に結合し、この細胞を貪食するなというシグナルを送る。magrolimabの後期第1相ではazacitidine併用でTPS53変異型の急性骨髄性白血病に特に良さそうな完全寛解率を挙げた。

    最近は抗CD47抗体を巡るネガティブなニュースが陸続している。ALX Oncologyは急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群の臨床試験を中止した。アッヴィはI-Mabからライセンスした抗47抗体を返品した。

    リンク: 同社の声明
    (フェールした試験に関する発表はプレスリリースではなく声明として発出する方針のようだ)

    【承認申請】


    REGN、新規リンパ腫用薬を承認申請
    (2023年9月29日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は、8月のEUに続いて、米国でもREGN1979(odronextamab)を非ホジキン型リンパ腫用薬として承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は24年3月31日。成人の二種類以上の全身性治療歴を持つ難治性/再発性の濾胞性リンパ腫(FL)とびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に用いる。

    CD20とCD3を標的とする二重特異性抗体。昨年のASH(米国血液学会)における発表によると、FL121人における完全反応率は75%、CAR-T治療歴のないDLBCL130人では31%、ある31人では32%だった。治療関連死亡者が3人いた(肺炎、進行性多巣性白質脳症、全身性真菌症)。期中にFDAの部分停止命令に応じてプロトコル変更を実施したためサイトカイン放出症候群の発生率大きく改善したとのことだが、変更後の全体的な成績はどうだったのか、知りたいところだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    統合失調症の新規合剤を承認申請
    (2023年9月28日発表)

    米国ボストンのKaruna Therapeutics(Nasdaq:KRTX)はKarXT(xanomeline、trospium)を米国で統合失調症治療薬として承認申請した。前者は新規ムスカリンM1・M4受容体アゴニスト、後者は他社が過活動膀胱治療薬として実用化した末梢性ムスカリン受容体アンタゴニストで、併用することにより前者の好ましくない作用をオフセットして望ましい作用だけを発揮させるアイディアだ。急性期治療試験二本では5週後にPANSSが20ポイント程度低下し、偽薬群の10~12ポイント低下を有意に上回った。治療関連深刻有害事象や治療関連有害事象による離脱は少し増える程度だった。

    前者はイーライリリーがアルツハイマー病薬として開発したが失神など有害事象の発生率が高かった。しかし、Karunaの第3相試験では失神は発生せず、心拍数の上昇が見られたが治療を継続するうちに改善した由。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Akebia、バダデュスタットを米国で再承認申請
    (2023年9月28日発表)

    米国ケンブリッジのAkebia Therapeutics(Nasdaq:AKBA)は米国でvadadustatを透析期慢性腎疾患の成人患者の貧血治療薬として再承認申請した。日本など35ヶ国で承認されているが、FDAはHIF-PH(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害剤などの貧血症治療薬の心血管有害事象に懸念を持っており、vadadustatは心血管安全性試験でリスクがエポエチン製剤と比べて非劣性ではなかったことや、薬物誘導性肝障害が散見されたことなどから、22年3月に審査完了通知を出した。同社はFDR(公式紛争解決)を請求し、追加試験をオミットして再申請する道筋が示唆されたため、今回の再申請に至った。日本での数万人分の市販後調査(薬物誘導性肝障害はゼロ)も提出した様子だ。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会もALSの細胞療法を支持せず
    (2023年9月27日発表)

    FDAはCTGTAC(細胞、組織、遺伝子療法諮問委員会)を招集し、BrainStorm Cell Therapeutics(Nasdaq:BCLI)が軽中度ALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として承認申請したNurOwnについて意見を聞いた。18人の委員のうち17人が不支持と圧倒的多数が便益を認めなかった。審査期限は12月8日。同社の株価は20年に4ドル台から急騰し10月には17ドル台に乗せたが、翌月、第3相がフェールするや下落に転じ、今年9月はとうとう1ドル割れし、風前の灯火状態だ。

    NurOwnは骨髄由来の間葉系幹細胞を採取し神経栄養因子を多く分泌するよう分化・増殖させたもの。第3相では急速進行性の患者189人を組入れて偽薬または試験薬を8週毎に3回、髄腔内投与して、ALSFRS-Rスコアの改善が閾値を超える奏効率を比較したところ、数値上は上回ったもののp=0.453とフェールした。数値自体の平均改善幅は両群大差なかった。会社側は、既に進行してしまった患者を除外したサブグループ分析でp=0.05だったことなどに基づき承認申請したが、品質管理面の欠陥などから、受理されなかった。異議申立ても受け入れられず、file over protestという最後の手段に進み、諮問委員会の直前には適応を軽中度患者に限定するなどの手管も使ったが、不首尾に終わりそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: FDAの声明(21年3月2日付)

    【承認】


    難治ポンペ病用併用療法が承認
    (2023年9月28日発表)

    アミカス・セラピューティクス(Nasdaq: FOLD)はFDAがPombiliti(cipaglucosidase alfa-atga)とOpfolda(miglustat)を遅発性ポンペ病の治療薬として承認したと発表した。体重が40kg以上で、酵素補充療法に十分応答しない患者が適応になる。Opfoldaカプセルを経口投与し、1時間後にPombilitiを4時間点滴静注する。2週毎に繰り返す。

    Pombilitiはポンペ病患者で欠乏しているGAAの遺伝子組換え型酵素補充療法。細胞内取込みを向上する糖鎖最適化が行われている。Opfoldaの活性成分はゴーシェ病やニーマンピック病の治療に用いられているが、今回の併用法ではPombilitiに結合、安定化して活性を高める。

    アミカスのExecutive ChairmanであるJohn Crowleyが娘のために開発し事業をジェンザイムに売却したalglucosidase alfaと比較した第3相優越性確認試験では、主評価項目である52週後の6分歩行テストが対照群と大差なくフェールした。副次的評価項目の%努力肺活量は低下が小さく、名目的p値は0.023だった。治験開始までalglucosidase alfaによる治療を受けていた患者ではどちらも良好な数値が出た一方で、少数の未経験者における数値は良くなかったため、FDAはこのサブグループに限定して承認した。

    欧州でもPombilitiは今年3月に、Opfoldaは6月に、承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    画期的抗鬱剤が30年を経て遂に承認
    (2023年9月28日発表)

    米国テキサス州のFabre-Kramer Pharmaceuticals(以下、FK社)は、FDAがEXXUA(gepirone)を成人の大鬱病の治療薬として承認したと発表した。5HT1A受容体アゴニストで、これだけを作動する抗鬱剤は初。代表的な抗鬱剤と比べて性的不全や体重増加副作用が見られないことが特徴。抗鬱剤のクラス・レーベルである自殺思慮・行動が枠付き警告された。禁忌は一定以上のQT延長や重度肝障害、3A4強阻害薬との併用、モノアミン酸化酵素を阻害する薬を服用中または中止後14日以内。

    同社は93年にブリストル マイヤーズ スクイブから権利を取得した。開発権を供与したオルガノン(後にシェリング・プラウ、そしてMSDが子会社化)が第3相試験を実施したが一勝一敗で、99年に承認申請を断行したものの受理されず、01年には申請が受理されたが02年に非承認可能通知を受領、03年に修正申請も04年に再び非承認可能通知を受領し、FK社に権利返還した。

    FK社は追加試験を二本実施したがやはり一勝一敗となり、07年に修正承認申請したが三度目の非承認可能通知を受領した。15年に紛争調停手続きの要請が受け入れられたが、諮問委員会は13人中9人が承認に反対した。その後、QT延長試験などのデータを追加して22年に再承認申請したところ、今回、承認に至った。何故承認されたのかは明らかではない。レーベルに載っている臨床試験の薬効データは上記二本の成功した試験のもので、12本実施して成功は2本だけという成績には変わりがないようだ。

    30年の努力が実ったといえば聞こえがいいが、この薬を必要としている患者にとっては、30年も待たされたことになる。何とかならなかったのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    武田、皮下注用エンタイビオが米国でも承認
    (2023年9月28日発表)

    武田薬品はEntyvio(vedolizumab)の皮下注用プリフィルド・ペンが米国で中重度活性期潰瘍性大腸炎の維持療法として承認されたと発表した。寛解導入期は静注用製剤を30分点滴するが、3回目からの維持療法期は108mgを二週毎皮下注で足りる。

    抗アルファ4ベータ7インテグリン抗体で、静注用はクローン病にも承認されているが皮下注用は未だ承認審査中。EUでは20年に承認。日本でも今年、両方の適応で相次いで承認されている。

    リンク: 同社のプレスリリース(和文)


    眼検査後瞳孔散大治療薬が承認
    (2023年9月27日発表)

    ヴィアトリス(Nasdaq:VTRS)とOcuphire Pharma(Nasdaq:OCUP)は、Ryzumvi 0.75%点眼液(phentolamine)が瞳孔散大薬の解毒剤としてFDAに承認されたと発表した。24年上期に発売予定。

    米国ではアドレナリン作用剤や副交感神経遮断剤による瞳孔散大措置を伴う眼検査が年1億回施行されている。検査が終了しても最大24時間、霞目などの副作用が残る。そこで、措置の1時間後に点眼して瞳孔径を元に戻す。有害事象は刺痛、灼熱感、結膜充血、味覚異常など。

    アルファ1と2のアドレナリン・アンタゴニストを点眼薬にしたもので、Ocuphireが開発、米欧日印中などの三用途における開発商業化権を取得したFamyGen Life Sciencesが同時にヴィアトリスに商業化権を供与した。

    リンク: 両社のプレスリリース


    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    23年4QファイザーのBraftoviとMektovi(BRAF-V600E変異型非小細胞性肺癌に併用)
    23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
    23年4QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
    23年4Q推イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
    23年10月ファイザーのMenABCWY(5価髄膜炎菌ワクチン)
    23年10月推ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
    23年10月推ArdelyxのXphozah(tenapanor、高リン血症)
    23/10/8 Alnylam PharmaceuticalsのOnpattro(patisiran、TTR調停アミロイドーシスによる心筋症)
    23/10/13BMSのOpdivo(nivolumab、悪性黒色腫アジュバント一変)
    23/10/16MSDのKeytruda(pembrolizumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法に一変)
    23/10/17ArdelyxのXphozah(tenapanor、透析期CKDの高リン血症)
    23/10/22Orasis PharmaceuticalsのCSF-1(pilocarpine、老眼)
    23/10/22Regeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab、慢性特発性蕁麻疹に一変)
    23/10/26Santhera Pharmaceuticalsのvamorolone(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
    諮問委員会
    23/10/4 ODAC:US WorldMedsのeflornithine(小児神経芽細胞腫)
    23/10/5 ODAC:アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS-G12C変異NSCLCの本承認切替)
    23/10/31CTGTAC:Vertex/Crisprのexagamglogene autotemcel(ベータサラセミアと鎌状赤血球病)
    23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)

    今週は以上です。