2024年1月27日

第1139回

【ニュース・ヘッドライン】

  • キイトルーダの尿路上皮腫術後療法試験の成績 
  • テセントリク・カボメティクス併用試験が遂に成功 
  • デルゴシチニブが手湿疹第3相でアリトレチノインに勝つ 
  • Ionis、HAE向けアンチセンス薬が第3相も成功 
  • ギリアド、抗TROP-2ADCの肺癌試験がフェール 
  • CHMP、複合セフェムなどの承認を支持 
  • CHMP、プソイドエフェドリンの一部禁忌を支持 
  • FDA、CAR-Tの二次性腫瘍リスクを枠付き警告へ 
  • カービクティの早期使用承認申請は欧米とも委員会に上程へ 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


キイトルーダの尿路上皮腫術後療法試験の成績
(2024年1月26日発表)

MSDは昨年10月にKeytruda(pembrolizumab)の第3相AMBASSADOR/KEYNOTE-123試験で主評価項目の一つを中間解析で達成したと発表したが、詳細がASCO GU(全国臨床腫瘍学会泌尿生殖器癌)で公表された。局在性MIUC(筋層浸潤尿路上皮腫瘍)または局所進行性尿路上皮腫瘍の切除術を受けた患者約700人を組入れて、200mgを3週毎に最大18回投与する効果を検討したところ、DFS(無病生存期間)がメジアン29.0ヶ月と経過観察群の14.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.69、p=0.001だった。

意外だったのはもう一つの主評価項目である全生存期間。10月のプレスリリースでは未成熟であるため継続観察するとだけ記されていたが、目標(320人)の8割に相当する257人死亡時の中間解析でメジアン生存期間が50.9ヶ月と観察群の55.8ヶ月を下回り、ハザードレシオでも0.98と大差なかった。観察群のうち、再発後にKeytrudaによる治療を受けた患者は22%とそれほど多くない(他の抗PD-1抗体を使ったかもしれないが)。

類薬ではBMSのOpdivo(nivolumab)が21年に米国で、22年にはPD-L1陽性に限定だがEUでも、筋層浸潤尿路上皮癌の術後アジュバント療法として承認された。エビデンスはDFSで、全生存期間の延長効果は未だ確認されていない。

リンク: MSDのプレスリリース


テセントリク・カボメティクス併用試験が遂に成功
(2024年1月25日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)はロシュと提携してVEGF受容体拮抗剤Cabometyx(cabozantinib)と抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)の併用第3相試験を複数の癌で実施し、転移非小細胞性肺癌のCONTACT-01試験は22年にフェールしたが、転移去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)を組入れたCONTACT-02試験の共同主評価項目の一つが23年8月に成功、今回、詳細がASCO GU(全国臨床腫瘍学会泌尿生殖器癌)シンポジウムで発表された。骨盤外軟部組織疾患を併発するmCRPCで最近のホルモン療法薬(NHT:abiraterone、apalutamide、darolutamide、enzalutamide)の一つによる治療歴を持つ患者約500人を組入れて、CabometyxとTecentriqを併用する群と、別のNHT(abirateroneとprednisone併用またはenzalutamide)にスイッチする群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)と全生存期間を比較したもの。DFSのハザードレシオは成功認定時の解析(最初の400人が対象)では0.65、メジアン値は6.3ヶ月対4.2ヶ月。Intent-to-treat(ITT)ベース507人でも各0.64、6.3ヶ月、4.2ヶ月とほぼ同じ結果になった。

サブグループ分析では肝臓や骨に転移した患者にも好ましい成績を上げている。

もう一つの主評価項目である全生存期間はITTベースの中間解析でハザードレシオ0.79(95%信頼区間0.58-1.07)、メジアン16.7ヶ月対14.6ヶ月と、好ましい方向を示しているが死亡者数が目標の半分弱と未成熟であるため優越性認定基準に到達していない。

G3/4治療時発現有害事象の発生率は各群48%と23%、G5は8%と12%だが、両群とも治療関連とは判定されなかった。

FDAはPFSに基づく承認に後ろ向きな姿勢を示す事例が散見されるが、Exelixisも、次の全生存期間中間解析結果が年内にまとまるまで適応拡大申請を待つ考えのようだ。

リンク: Exelixisのプレスリリース


デルゴシチニブが手湿疹第3相でアリトレチノインに勝つ
(2024年1月24日発表)

デンマークのレオ ファーマはdelgocitinibのクリーム製剤を中重度手湿疹治療薬として開発しているが、alitretinoinカプセルと直接比較した第3相DELTA FORCE試験がポジティブな結果になったと発表した。第12週のHECSI(Hand Eczema Severity Index)の改善が有意に上回った。既に第3相偽薬対照試験が二本、成功しており、昨年8月にはEUが販売承認申請を受理した旨のプレスリリースがBusiness Wireで公開された(何故かレオのホームページには掲載されていない)。

日本たばこの中重度アトピー性皮膚炎治療薬、コレクチム軟膏のクリーム製剤版で、レオは皮膚外用薬を日本以外で開発販売する権利を14年に取得している。

リンク: レオのプレスリリース


Ionis、HAE向けアンチセンス薬が第3相も成功
(2024年1月22日発表)

Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)はIONIS-PKK-LRx(donidalorsen)の第3相遺伝性血管浮腫(HAE)試験で主評価項目を達成したと発表した。米国で承認申請する予定。EUでも提携先の大塚製薬が申請準備中。

donidalorsenはHAEの原因と目されるカリクレインの前駆体、Prekallikrein(PKK)のRNAを沈黙させるライガンド結合アンチセンス薬。今回のOASIS-HAE試験では12歳以上のHAE患者91人を組入れて、80mgを8週毎または4週毎に皮下注する効果を偽薬と比較した。主評価項目は第1~25週HAE発作頻度。リスク削減率は公表されていないが、偽薬比p値は8週毎投与群が0.004、4週毎投与群は0.001未満だった。

参考までに、20人の成人患者に80mgを4週毎皮下注した第2相では、第1~17週のHAE発作頻度が偽薬群より80%少なかった。

HAEはカリクレインなどを標的とする様々な新薬が続々と承認されており、donidalorsenが存在価値を示すには効果と安全性が上回ることを立証する必要がありそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ギリアド、抗TROP-2ADCの肺癌試験がフェール
(2024年1月22日発表)

ギリアド・サイエンシズはTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の第3相EVOKE-01試験で主目的を達成できなかったことを明らかにした。第一三共がアストラゼネカと共同開発している類似薬も似たような試験が手放しで喜べるような結果にならなかった。Trodelvyはある種の乳癌や尿路上皮腫に承認されているが、肺癌は容易な標的ではなさそうだ。

EGP1(別名TROP-2)を標的とする抗体とirinotecanの活性代謝物を結合した抗体医薬複合体。20年に米国で、21年にはEUでも、切除不能局所進行/転移トリプル・ネガティブ乳癌の3次治療薬として承認され、23年にはホルモン受容体陽性her2陰性サブタイプに適応拡大した。米国では21年に局所進行/転移尿路上皮腫の3次治療にも加速承認されている。

今回の試験は化学療法と抗PD-1/PD-L1抗体による治療歴を持つ転移/進行非小細胞性肺癌603人をTrodelvy群とdocetaxel群に無作為化割付けして全生存期間を比較した。抗PD-1/PD-L1抗体による最終治療に不応だったサブグループにおいてはメジアン生存期間が対照群を3ヶ月上回ったが、応答サブグループではこのような差は見られなかった模様。前者のサブグループ分析はプロトコルで事前に設定した、被験者の6割超を対象とするものなのである程度の意味があるが、アルファの修正はなされていないとわざわざ記されているので、仮に修正したとすると統計的に有意にならない程度なのではないか。

第一三共/アストラゼネカのDS-1062(datopotamab deruxtecan)は第3相TROPION-Lung01試験で主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン4.4ヶ月とdocetacel群の3.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.75、統計的に有意だったが、プレスリリースには「臨床的にも意味のある」という最近よく聞くキラー・ワードは付されていなかった。もう一つ残念だったのは全生存期間の中間解析がメジアン12.4ヶ月対11.0ヶ月と小さな差しかなく、ハザードレシオは0.90と一般的な期待水準に達していないことだ。但し、未成熟な解析なので、今後、改善する可能性も残っている。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、複合セフェムなどの承認を支持
(2024年1月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

Exblife(cefepime、enmetazobactam)は第4世代セファロスポリンと、ESBL(基質特異性拡張型ベータ・ラクタマーゼ)産生菌にも有効な新開発のベータ・ラクタマーゼ阻害剤の合剤。成人の複雑性尿路感染症(腎盂腎炎を含む)、院内感染肺炎(人工呼吸器関連肺炎を含む)、そしてこれらの感染症に伴う菌血症に用いることが支持された。グラム陰性菌による複雑性尿路感染症/急性腎盂腎炎の患者を組入れた第3相でpiperacillinとtazobactamを併用した群と奏効率が非劣性だった。優越性解析も成功した。肺炎におけるエビデンスは上皮被覆液浸透試験のようだ。

英国のAdvanz PharmaがフランスのAllecra Therapeuticsから欧州における開発商業化権を取得して承認申請したもの。米国でも昨年6月に承認申請されたので、来月頃に審査結果が出るのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース

Evive BiotechのRyzneuta(efbemalenograstim alfa)はrhG-CSFとhIgG2の固定領域を融合した長期作用性G-CSF。骨髄以外の癌の化学療法を受ける成人の、化学療法誘導性好中球減少症の罹患期間や熱性好中球減少症のリスクを抑制する。既存の長期作用性G-CSFと異なりポリエチレングリコールにアレルギーを持つ患者にも使いやすい。

米国はAurobindo Pharmaの子会社であるAcrotech Biopharmaが商業化権を取得した。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、Minoryx TherapeuticsのNezglyal(leriglitazone)は否定的意見となった。CHMPは、主要なエビデンスである第2/3相ADVANCE試験は成人の副腎脊髄ニューロパチー(AMN)患者が対象であり、予定適応症である2歳以上の脳副腎白質ジストロフィー(cALD)とは異なることを理由に挙げている。申請時の会社側プレスリリースではこの二つを含む上位概念であるX染色体関連副腎白質ジストロフィー(X-ALD)用薬と記されていたので意外だ。

経口PPARガンマ阻害剤。ADVANCE試験で主目的の6分歩行テストがフェールしたが、同社はサブグループ分析に注目し承認申請を断行した。米国ではcALDの第3相試験を開始、死亡したり、寝たきり/永続的呼吸補助になるリスクを削減する効果を検討している。cALDはAMNと比べてかなり深刻で余命は3~4年と推定されており、同社は26年ごろに最終解析を予想している。

リンク: EMAのプレスリリース

Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)のSyfovre (pegcetacoplan)も否定的意見となった。米国では23年にAMD(加齢性黄斑変性)の合併症である地図状萎縮の治療薬として承認されたが、CHMPは、網膜病変の拡大が偽薬より小さいだけでは足りず、臨床的に意味のある便益が必要と判断した。他の種類のAMDや炎症を発症するリスクも懸念した。

Syfovreは米国で承認後に網膜血管炎などの有害事象が報告され、学会が警告した。一部の19ゲージ フィルター・ニードルに内部構造ムラがあった模様で、18ゲージを用いるよう呼びかけられたが、網膜血管炎との関連性は明らかではない。

リンク: EMAのプレスリリース

PTC Therapeutics(NASDAQ: PTCT)のTranslarna(ataluren)は14年にEUでデュシェンヌ型・ベッカー型筋ジストロフィー用薬として条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため、昨年9月にCHMPが条件付き承認を更新しないよう勧告した。会社側は再審を請求したが、今回、非更新勧告を維持した。臨床試験で歩行能力改善採用が見られず、ジストロフィンを増やす作用も見られなかった。会社側は使用した患者と使用していない患者のレジストリー・データの比較分析も提出したが、CHMPは病因や治療方法が異なるため比較できないと判定した。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大が支持されたのは、

・BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel):3クラスによる2次以上の治療歴を持ち最終治療抵抗性の成人の再発/難治多発骨髄腫(3クラス3次以上から変更)
・Swedish Orphan BiovitrumのAspaveli(pegcetacoplan):発作性夜間ヘモグロビン尿症(C5阻害剤歴を持つ患者という限定を解除)
・イーライリリーのRetsevmo(selpercatinib):進行RET融合陽性甲状腺癌(VEGF受容体阻害剤歴のある成人という限定を解除、放射性ヨードが適応になる患者は放射性ヨード難治、という条件を追加)
・ファイザーのPrevnar 20:小児適応追加(6週から17歳、肺炎球菌による侵襲性疾患と中耳炎の予防)

【医薬品の安全性】


CHMP、プソイドエフェドリンの一部禁忌を支持
(2024年月日発表)

既報の通り、EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品安全性監視・リスク評価委員会、PRACは、昨年12月、Pseudoephedrine配合剤のレーベル変更を勧告した。風邪や鼻炎による鼻詰まりの治療薬として市販薬を含めて広く普及しているが、PRES(可逆性後頭葉白質脳症)やPCVS(可逆性脳血管攣縮症候群)の副作用例が報告されていることから、疑われる症状が現れたら即座に服用を止めて受診するよう処方時に指示する。重度/管理不良の高血圧症や急性/慢性の腎臓疾患/腎不全の患者に投与すべきでない。

今回、CHMPはPRACの勧告に同意し、欧州委員会に禁忌追加などを勧告すると発表した。

リンク: EMAのプレスリリース


FDA、CAR-Tの二次性腫瘍リスクを枠付き警告へ
(2024年1月19日付)

FDAはCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)製品のメーカーにレーベル改訂を要請した。入院/致死例を含む深刻な二次性T細胞腫瘍を枠付き警告するよう求めている。当該製品を含む、BCMAあるいはCD19を標的とする遺伝子組み換え自家T細胞免疫療法による治療後に、T細胞腫瘍が発生した症例がある旨、記載する。

FDAの生物学的製剤を対象とする安全性や入手可能性に関する情報サイトに安全性レーベル変更通知書簡がアップロードされ、判明した。対象製品は、BMSのAbecma(idecabtagene vicleucel)とBreyanzi(lisocabtagene maraleucel)、Legend Biotech/ジョンソン・エンド・ジョンソンのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)、ノバルティスのKymriah(tisagenlecleucel)、ギリアド・サイエンシズのYescarta(axicabtagene ciloleucel)とTecartus(brexucabtagene autoleucel)。

Tecartusはひと悶着あった模様で、筆者が当該サイトにアクセスした時点ではTecartusだけ見当たらなかったが、翌日、再びアクセスしたところ、1月23日付の書簡が載っていた。各種報道によると、Tecartusは投与後のT細胞腫瘍症例が報告されていないことを踏まえて、最初に公開された書簡では、Tecartusなどの製品で起こり得ると記されていたが、他の製品では既に報告されていることに配慮したのか、修正された書簡では、他の製品のレーベルと同様に、このクラスの薬で症例がある旨の文言に変わった。


CAR-Tと二次性T細胞腫瘍の因果関係は明確ではない。CAR-T投与の下準備として免疫細胞を枯渇させる目的で投与する別の抗癌剤も二次性腫瘍のリスクを伴う。一方で、二次性T細胞腫瘍の遺伝子からCAR-Tの導入遺伝子が検出された症例も数例あるようだ。

発生頻度は低く、FDAは、少なくとも承認されている用途用法に関しては、便益が危険を上回ると判定している。

リンク: FDAの生物学的製剤安全性/入手可能性情報サイト


カービクティの早期使用承認申請は欧米とも委員会に上程へ
(2024年1月23日公表)

Legend Biotech(Nasdaq:LEGN)がJanssen Biotechと共同開発販売しているCAR-T療法、Carvykti(ciltacabtagene autoleucel)は、多発骨髄腫の二次以降の治療薬として欧米で適応拡大申請されているが、どちらも専門家委員会に上程されることが判明した。Legend社がSEC(米国証券取引委員会)にform 6-Kを提出して開示した。米国はODAC(腫瘍学諮問委員会)、EUはSAG-O(科学的諮問グループ:腫瘍学)が検討する見込み。日程は未定。

議題は不明だが、おそらく、上記の二次性T細胞腫瘍リスクと推測される。現状、CAR-Tは最後の手段としての位置づけなので、治療をあきらめるのとどちらが良いか、判断することになるが、二次治療となると、他の複数の薬との比較になる。エビデンスとなるCARTITUDE-4試験では、有害事象による死亡が208人中10人と、PVdまたはDPdレジメンを用いた対照群の211人中5人を上回った。癌の進行などによるものなどを含む全死亡は39人対46人で若干下回っているので、便益が危険を上回っているようにも感じられるが、入院なども含む全体像は明らかではない。

Carvyktiと同様にBCMAを標的とする多発骨髄腫用CAR-Tでは、ブリストル マイヤーズ スクイブが申請したAbecma(idecabtagene vicleucel)の三次治療適応拡大申請も、日本では12月に承認されたが、米国は諮問委員会上程が決まり審査期限(昨年12月16日)を超過した。Carvyktiと一緒に諮問されるのではないか。上記の通り、CHMPが支持したのは好材料。

CAR-Tの早期使用申請では、BMSの慢性リンパ性白血病用薬Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)も適応拡大申請中で、審査期限は3月14日となっており、諮問委員会上程となるか、注目される。

尚、FDAは医薬品の諮問委員会招集を見直しているのか、昨年11月17日の肺・アレルギー薬諮問委員会を最後に招集しておらず、今後の日程も一件も発表されていない。

リンク: Legend Biotechのフォーム6-K

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)
24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)




今週は以上です。

2024年1月21日

第1138回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ASCO GI:MSI-H/dMMR結腸直腸癌にチェックポイント阻害剤併用が大変良い成績 
  • ASCO GI:ルタテラの一次治療試験が成功 
  • ASCO GI:イミフィンジのTACE併用試験が成功したが... 
  • ASCO GI:ロシュ、抗PD-L1と抗TIGHTの併用試験が成功したが... 
  • ASCO GI:キノコ成分が第2相膵癌試験で良績 
  • FDA、JNJの汎FGFR阻害剤を本承認 
  • CRISPER/Cas9薬がベータサラセミアにも承認 
  • 武田の皮下注用免疫グロブリンが適応拡大 
  • FDA、プラリアの低カルシウム血症リスクを枠付き警告 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


ASCO GI:MSI-H/dMMR結腸直腸癌にチェックポイント阻害剤併用が大変良い成績
(2024年1月20日発表)

ブリストル・マイヤーズ・スクイブはASCO GI(米国臨床腫瘍学会胃腸癌シンポジウム)で第3相CheckMate-8HW試験の主目的の一つを達成したと発表した。同社は抗PD-1抗体Opdivo(nivolumab)と抗CTLA4抗体Yervoy(ipilimumab)の併用レジメンを様々な腫瘍にテストしているが、対照試験の成績としてはこれまでにない程の良績を上げた。

抗PD-1抗体は、MSI-H(マイクロサテライト不安定性高)やdMMR(ミスマッチ修復不全)型の、変な蛋白が多く生成され免疫機構の注目を惹きやすい腫瘍に良い成績を挙げている。今回のオープン・レーベル試験はMSI-H/dMMR陽性結腸直腸癌において、異なった免疫チェックポイントに作用するYervoyを併用する便益を検討した。対照群は医師がmFOLFOX-6またはFOLFIRIベースの化学療法から選んで施行した。また、Opdivoだけの群も設定された。

一次治療を受ける患者においてOpdivo・Yervoy併用と化学療法を比較した主評価項目は中間解析で成功。PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はハザード・レシオ0.21(95%信頼区間0.14-0.32)、メジアン値はOY併用群は未達(38.4ヶ月-評価不能)、対照群は5.9ヶ月(4.4-7.8ヶ月)だった。G3/4治療関連有害事象発生率は各群23%と48%だった。

二次治療以降の患者も含めてOY併用群とOpdivo単剤群を比較するもう一つの主評価項目は継続追跡中。

Opdivoだけより良いのか、という疑問が残っているが、MSDのKeytruda(pembrolizumab)の類似試験であるKeyNote-177試験では、単剤投与群のメジアンPFS(盲検独立中央評価)が16.5ヶ月(5.4-32.4ヶ月)、mFOLFOX-6/FOLFIRIベース化学療法を施行した群が8.2ヶ月(6.1-10.2ヶ月)、ハザード・レシオは0.60(0.45-0.80)だった。

ハザードレシオやその信頼区間を見比べるかぎり、OYレジメンのほうがかなり効果が高いのではないかと期待が高まる。

尚、Keytrudaの試験では全生存期間の解析は点推定値は良好もp値が0.07とフェールした。対照群の多くが進行後にKeytrudaを用いたため効果が目立たなくなった模様だ。BMSの試験で顕在化するか注目される。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: 2024 ASCO GI抄録ダウンロード頁


ASCO GI:ルタテラの一次治療試験が成功
(2024年1月19日発表)

ノバルティスはLutathera(lutetium Lu 177 dotatate/USAN)の第3相NETTER-2試験の成績をASCO GIで発表した。グレード2~3の進行ソマトスタチン受容体陽性GEP-NETs(胃腸膵神経内分泌腫瘍)の一次治療において長期作用性octreotideと併用する効果を長期作用性octreotideの高量とオープン・レーベルで比較したところ、メジアンPFSが各群22.8ヶ月と8.5ヶ月、ハザードレシオは0.26と、大きな改善を見た。

Lutatheraはソマトスタチン受容体を通じて細胞内に侵入し局所的に放射線を照射する。欧米日などで承認されていて、米国では今回の用途用法も既に承認されているが、明確なエビデンスが存在していなかったために、一次治療にはそれほど普及していなかった様子だ。

リンク: 同社のプレスリリース


ASCO GI:イミフィンジのTACE併用試験が成功したが...
(2024年1月19日発表)

アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)の第3相EMERALD-1試験の成績をASCO GIで発表した。肝癌の20~30%を占めるTACE(冠動脈化学閉塞療法)適合の切除不能肝細胞腫616人を組入れて、TACEにImfinziを追加する便益を検討したところ、主評価項目(bevacizumabも追加した群と偽薬だけ追加した群のPFS、盲検独立中央評価)のハザード・レシオが0.77、p=0.032、メジアン値は各15ヶ月と8.2ヶ月と、高度に有意ではないが成功した。G3/4有害事象発生率は各45.5%と23.3%。

悩ましいのは副次的評価項目であるImfinziだけ追加した用群の偽薬・TACE併用比が0.94、メジアン値は10ヶ月対8.2ヶ月とフェールしたこと。TACEに血管新生阻害剤を併用する手法は幾つかの試験で効果が示唆されたとNCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインで指摘されている。このため、Imifinzi追加による限界効用はそれほど大きくないのではないか、という疑問がわく。また、過去の進行肝細胞腫の試験でPFSだけでなく全生存期間も改善した3本では、PFSハザードレシオが0.6以下だった。Imfinzi・bevacizumab追加が延命効果に繋がるか、注目される。

リンク: 同社のプレスリリース


ASCO GI:ロシュ、抗PD-L1と抗TIGHTの併用試験が成功したが...
(2024年1月18日発表)

ロシュはASCO胃腸癌シンポジウム(ASCO GI)でSKYSCRAPER-08試験の結果を発表した。同社の抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)と開発品である抗TIGHT抗体RG6058(tiragolumab)の二剤を「標準療法」に追加する効能を検討したところ、PFS(無進行生存期間、独立評価)も全生存期間も有意に上回った。但し、今日では標準療法が抗PD-1抗体も含む三剤併用に変わっているため臨床的な意義は明確でない。

この試験は中国などアジアの施設で切除不能な局所進行性/難治性または転移性の食道扁平上皮腫の一次治療を受ける461人を、paclitaxelとcisplatinの「標準療法」にTecentriq(1200mg)とtiragolumab(600mg)を追加する群と偽薬二剤を追加する群に無作為化割付けした。PFSは各群のメジアン値が6.2ヶ月と5.4ヶ月、ハザードレシオは0.56、全生存期間は各群15.7ヶ月と11.1ヶ月、0.70となった。治療関連有害事象により各群2.6%と0.9%の患者が死亡した。

これらの数値をKeytruda(pembrolizumab)のKeyNote-590試験と見比べると、PFSは「標準療法」にKeytrudaを追加したがメジアン6.3ヶ月、偽薬追加群は5.8ヶ月、ハザードレシオは0.65。メジアン生存期間は各群12.4ヶ月と9.8ヶ月、ハザードレシオは0.73だった。メジアン生存期間は今回のほうが大きく増加したが、ハザードレシオで見ると大差ない。PFSはメジアン値もハザードレシオも大きくは変わらない。このため、抗PD-1/L1抗体だけで足りるのではないかという疑問がわく。尚、KeyNote-590はアジアの施設の組入れは53%と、SKYSCRAPER-08より低い。

リンク: ASCO Post(SKYSCRAPER-08試験について)


ASCO GI:キノコ成分が第2相膵癌試験で良績
(2024年1月18日発表)

台湾のGolden Biotechnology(TPEX 4132)はHOCENA(antroquinonol)の第2相転移膵癌試験の成績をASCO胃腸癌シンポジウムでポスター発表した。抄録には昨年5月に発表した数値が記されているが、プレスリリースに記されている数値は更に改善している。対照試験ではないため第3相で確認することが望まれる。

アントロキノノールは台湾の高山部に生息する固有種、ベニクスノキタケの抽出物。イソプレニル・トランスフェラーゼを阻害しRAS経路に介入する。この第1/2相試験は米韓台の施設で転移膵癌の一次治療を受ける患者を組入れ、nab-paclitaxelとgemcitabineの標準療法に試験薬(一日三回経口投与)を追加する便益を検討した。第2相ポーションでは第1相ポーションで最大耐容量となった300mgを投与した。

結果は、メジアン生存期間が14.1ヶ月だった。nab-paclitaxelとgemcitabineの文献データである8.5ヶ月や、適応が若干異なるがFOLFIRINOXの11.1ヶ月と見比べて良好だ。

抄録には第2相40人のデータが12.6ヶ月と記されているので、直近ではさらに改善したことになるが、冷静に考えれば、症例数が少なく点推定値がブレやすいことの反映かもしれない。ClinicalTrials.govに記載されている米国の治験参加施設は高名ではなく、典型的な米国患者とは背景が異なるかもしれない。十分な検出力を持つ対照試験で再現されることを期待したい。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)

【承認】


FDA、JNJの汎FGFR阻害剤を本承認
(2024年1月19日発表)

FDAはJanssen BiotechのBalversa(erdafitinib)を成人のFGFR3感受性変異を持ち一次以上の全身性治療歴のある局所進行性/転移性尿路上皮腫に用いることを本承認した。19年に加速承認された時の適応と似ているがFGFR2感受性変異が対象外になった。

FGFR1~4を阻害する汎FGFR阻害剤で、8mg(忍容なら9mgに増量)を一日一回、経口投与する。エビデンスとなる第3相THOR試験のコフォート1ではメジアン生存期間は12.1ヶ月と、vinflunineまたはdocetaxelを用いた群の7.8ヶ月を上回り、ハザード・レシオは0.64だった。コフォート2では抗PD-1/L1抗体歴のない患者だけを組入れて全生存期間をKeytruda(pembrolizumab)と比較したが、レーベルによると、メジアン値は10.9ヶ月対11.1ヶ月、ハザード・レシオは1.18となり、優越性仮説がフェールした。このため、抗PD-1/L1抗体が適応になる患者はそちらを先に使うよう推奨されている。

欧州や日本でもFGFR3感受性変異を持つ尿路上皮腫に承認申請中。

08年にジョンソン・エンド・ジョンソンがAstex Therapeutics(後に大塚製薬が買収)からライセンスしたもの。

リンク: FDAのプレスリリース


CRISPER/Cas9薬がベータサラセミアにも承認
(2024年1月16日発表)

CRISPR Therapeutics(Nasdaq:CRSP)とライセンシーのVertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は、夫々に、FDAがCasgevy(exagamglogene autotemcel)を輸血依存ベータ・サラセミアに適応拡大したと発表した。審査期限は3月だったが、難治鎌状赤血球病における初承認の1ヶ月遅れで承認された。患者から採取したCD34陽性細胞の遺伝子をCRISPER/cas9技術で編集し、胎生ヘモグロビンの転写抑制因子を改竄することによって、胎生ヘモグロビンの発現を促し、ベータ鎖に異常のあるヘモグロビンの代わりにする。ベータ・サラセミアの臨床試験では42人中39人が12ヶ月以上、輸血しないで済んだ。残りの3人も7割以上減少した。

リンク: CRISPRのプレスリリース


武田の皮下注用免疫グロブリンが適応拡大
(2024年1月16日発表)

武田薬品はFDAが点滴皮下注用免疫グロブリンHyQviaをCIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)の維持療法に用いることを承認したと発表した。点滴静注用製剤による治療が順調に進み投与量が安定している成人患者がスイッチできる。第3相試験ではHyQvia群(modified intent-to-treat解析対象57人)の再発率が14%と偽薬群(同65人)の32%を下回った(p=0.0314)。血栓症が枠付き警告されている(免疫グロブリン製剤のクラス警告)。

レーベルに記載された上記の再発率は武田薬品が22年7月にトップライン結果を発表した時の数値やClinicalTrials.gov記載値と異なっている(各群9.7%と31.4%、p=0.0045)。理由は不明だが、ClinicalTrials.govによると薬効解析対象は各群62人と70人となっており、レーベル記述から推測すると、無作為割付された138人のうち投与を受けた全132人のデータを集計したもののようだ。

modified intent-to-treat解析結果はClinicalTrials.govに記されていないので、ポスト・ホックなのか、感受性分析なのか、何れにせよ、元々の主評価項目や副次的評価項目ではないのだろう。

リンク: 武田のプレスリリース(英文)

【医薬品の安全性】


FDA、プラリアの低カルシウム血症リスクを枠付き警告
(2024年1月19日発表)

FDAはアムジェンの骨粗鬆症治療薬Prolia(denosumab)のレーベルを改訂し、進行した慢性腎疾患を併発する会社に投与すると深刻な低カルシウム血症のリスクが高まる旨の枠付き警告を追加した。長期安全性確認試験で確認されたため、警告をステップアップした。当該患者に用いる場合はCKD-MBD(慢性腎疾患患者におけるミネラル・骨障害)を熟知する医療従事者が適否を判断し、もし開始する場合は血中カルシウム量の検査やCKD-MBDの兆候症状を評価する必要がある。

需要のうち該当する患者の比率は3%程度である模様。

リンク: FDAの安全性情報

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
24/1/17 MSDのWelireg(belzutifan、腎細胞腫3Lに一変)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)
24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)


今週は以上です。

2024年1月13日

第1137回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • アルコン、新規作用機序のドライアイ治療薬を承認申請へ 
  • バイエルも非エストロゲン系VMS治療薬を承認申請へ 
  • セムブリックスの一次治療試験が成功 
  • 経口エダラボンのALS試験がフェール 
  • ファイザー、TF標的ADCの本承認切替を申請 
  • アステラス、画期的新薬の承認がお預けに 
  • キイトルーダの子宮頸癌CRT併用が承認 
  • EMA:男性がvalproateを服用する場合も要注意 
  • FDA、GLP-1受容体アゴニストの自殺リスクに否定的 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


アルコン、新規作用機序のドライアイ治療薬を承認申請へ
(2024年1月9日発表)

スイスのアルコン(SIX/NYSE:ALC)は、AR-15512の第3相ドライアイ試験二本で主目的を達成したと発表した。年央に米国で承認申請する考え。

ドライアイの治療は人口涙液に加えて、近年はボシュロムのLFA-1阻害剤Xiidra点眼薬(lifitegrast)やOyster Point Pharma(Nasdaq:OYST)のTyrvaya(varenicline)点鼻スプレーなどの画期的新薬が登場してきている。AR-15512はメンソールの誘導体で、瞼や角膜に分布する、蒸発による冷感を感受する冷受容体、TRPM8(transient receptor potential melastatin 8)を作動する。第3相のCOMET-2試験と同3試験は合わせて930人超のドライアイ患者を組入れて0.003%点眼液を一日二回投与し、奏効率(第14日に非麻酔下シルマー検査値が10mm以上改善した患者の比率)を偽薬と比較したところ、p値が0.0001を下回った。オンセットや持続性も良好で、改善は第1日から見られ、第90日でも持続していた。

アルコンが22年に株式価値ベース7.7億ドルで買収したAerie Pharmaceuticalsが、その3年前にスペインのAvizorex Pharmaを買収して入手したもの。

リンク: アルコンのプレスリリース


バイエルも非エストロゲン系VMS治療薬を承認申請へ
(2024年1月8日発表)

バイエルはBAY3427080(elinzanetant)の第3相VMS(血管運動性症状)試験が二本とも成功したと発表した。OASIS-1と2で60mgカプセル2個を一日一回、12週間投与する効果を偽薬と比較したところ、第4週と第12週の中重度ホットフラッシュの頻度と重症度に有意な差があった。QOLなど主要副次的評価項目の解析も成功した。データは今後、発表する。1年安全性確認試験の結果が数ヶ月後に判明するのを待って承認申請に向かう予定。

GSKのニューロキニン受容体パイプラインを引き継いでスピンアウトしたKaNDy Therapeuticsを20年に買収して入手した、NK-1,3受容体のデュアル・アンタゴニスト。類薬ではアステラス製薬のNK-3受容体アンタゴニスト、Veozah(fezolinetant)が23年に欧米で承認されたが、肝障害のリスクがあるため定期的に肝機能検査を行う必要がある。また、有害事象に不眠症がリストアップされている。elinzanetantの肝毒性については今回のバイエルのプレスリリースでは特に言及されていない。一方、睡眠障害は副次的薬効評価項目の一つに設定され、偽薬比有意な改善効果が見られた。別途、閉経期睡眠障害の第2相試験も進行中で、第3相も含めて再現されるならば、デュアル・アンタゴニストの強みとしてVeozahと差別化要因になりうる。

リンク: バイエルのプレスリリース


セムブリックスの一次治療試験が成功
(2024年1月8日発表)

ノバルティスはScemblix(asciminib)の第3相新患フィラデルフィア染色体陽性慢性期慢性骨髄性白血病(Ph+CML-CP)試験で主目的を達成したと発表した。データは公表されていないが、類薬と比べて統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった。忍容性も良好とのこと。適応拡大申請に向かうだろう。

Ph+CMLの代表的な治療薬であるBCR-ABL阻害剤の一つだが、既存薬がATP競合的阻害剤であるのに対して、ABLミリストイル・ポケットを阻害するアロステリック・インヒビターであるため、既存薬に耐性変異を生じた癌にも有効な可能性がある。21~22年に米日欧で承認された。米国では2種類以上の治療歴を持つ、またはT315I変異のある、Ph+CML-CPに加速承認されているが、今回の成功で本承認切替も可能なのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース


経口エダラボンのALS試験がフェール
(2024年1月10日発表)

スペインのFerrer社は欧州の施設で実施したedaravone経口製剤の第3相ALS(筋萎縮性側索硬化症)試験がフェールしたと発表した。100mgを一日一回、48週間投与したが、主評価項目のALSFRS-Rも、主要な副次的評価項目も、偽薬群と大差なかった。

edaravoneは田辺三菱製薬が脳梗塞急性期治療薬ラジカットとして日本で実用化、15~17年には日米でALSに適応拡大、22年には日米で経口液新製剤も承認されたが、欧州では未承認。FerrerのFAB122はオランダのTreeway社からライセンスしたもので、田辺三菱とは異なった製剤の模様だ。日本のALS試験が成功し欧州試験がフェールした理由は明らかではないが、ラジカットも脳梗塞用途でも欧米試験はフェールした模様であり、人種や医療風土の影響もあるのかもしれない。

リンク: Ferrerのプレスリリース

【承認申請】


ファイザー、TF標的ADCの本承認切替を申請
(2024年1月9日発表)

ファイザーはTivdak(tisotumab vedotin-tftv)の本承認切替を申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は24年5月9日。米国外でも承認申請する考えだ。

昨年12月に企業価値430億ドルで買収したSeagenがジェンマブから共同開発販売権を取得したTF(組織因子)を標的とする抗体薬物複合体。21年に第2相試験の反応率データなどに基づき難治/転移子宮頸癌に用いることが加速承認された。第3相innovaTV 301試験で1次治療歴を持つ難治/転移子宮頸癌におけるメジアン生存期間が11.5ヶ月と、医師が選んだ化学療法を用いた群の9.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70だった。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


アステラス、画期的新薬の承認がお預けに
(2024年1月9日発表)

アステラス製薬は23年に日米欧でzolbetuximabを承認申請したが、米国は審査完了通知を受領した。FDAが生産委託先の査察時に、対応すべき事項を発見したため。薬効や安全性に関する懸念は表明されていない由。

承認審査時に査察を行うのは米国だけなので日欧はスルーするかもしれないが、FDAはEUなどとの情報交換を活発化しているため、油断すべきではないだろう。

BioNTechの創業者であるUgur Sahin、Ozlem Tureci夫妻が設立したGanymed Pharmaceuticalsを16年に完全子会社化して入手したキメラ抗体で、胃腸線癌の多くで高発現するclaudin 18.2が標的。claudin 18.2陽性her2陰性の切除不能局所進行性/転移性胃・食道胃接合部腺腫の一次治療にmFOLFOX6またはCAPOXレジメンと併用する用途用法で申請された。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)

【承認】


キイトルーダの子宮頸癌CRT併用が承認
(2024年1月12日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)の適応拡大を承認した。FIGO 2014病期分類でステージIII~IVAと判定された未治療の子宮頸癌に、化学放射線療法と併用で200mgを3週サイクルで5回投与し、その後も400mgを6週毎に最大15回投与する。エビデンスとなるKeyNote-A18試験はステージIB2~IIBでリンパ節転移のある患者も組入れたが、このサブグループには十分な効果が見られなかった。このため、FDAはPFS(無進行生存期間)の偽薬追加群比ハザードレシオが0.59だったステージIII~IVAに限定して承認した。全生存期間の解析は未成熟だが、昨年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると、ステージIB2~IIBも含む解析でハザードレシオ0.73(95%信頼区間0.49-1.07)と好ましい方向を向いている。

リンク: FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMA:男性がvalproateを服用する場合も要注意
(2024年1月12日発表)

EMA(欧州薬品庁)のPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)は抗癲癇薬valproateの警告を強化するよう勧告した。癲癇や双極障害、EUの一部の国では片頭痛にも承認されているが、服用中の女性が出産すると子供の神経発達障害が100人当り30~40人と、高頻度で発生することが知られている。今回、男性服用者の子供もリスクが高まる可能性が浮上した。デンマークなど北欧3国の患者登録データの後顧的研究で、妊娠前3ヶ月間に服用していた男性の子供における発生率が100人当り5人と、lamotrigineまたはlevetiracetam服用例の100人当り3人より高く、ハザードレシオは1.5倍だった。尤も、患者背景や服用期間に偏りがあるため、因果関係が確立したとは言えない。EUはvalproateを処方する医療施設向けにDHPC(直接的医療従事者向け通信)を送付する予定。

英国は先月、もっと厳しい規制を決定した。55歳以下の男女に新規に処方する場合は、二人以上の専門医が、独立して、他に適切な治療法がない、またはリスクが当てはまらないことを確認することを義務付けた。

リンク: EMAのプレスリリース


FDA、GLP-1受容体アゴニストの自殺リスクに否定的
(2024年1月11日発表)

FDAはGLP-1受容体アゴニストの自殺思慮・実行リスクを検討しているが、予備的な分析では明確な関連性は見つからなかったと発表した。FAERS(FDAの有害事象報告システム)に届出された症例を検討したが、多くの場合、情報は限定的で、他の要素にも影響されうる。臨床試験のデータでも関連性は見られなかった。

今後、全てのGLP-1作用剤の臨床試験のメタアナリシスや、Sentinel Systemに登録されている医療保険、薬剤費給付組織、大学病院などの医療記録の分析を行って、結論を出す考え。

この問題はEMAも昨年7月に検討を開始した。semaglutideとliraglutaideの曝露2000万人年超における自傷/自殺思慮可能例が150例報告されていた由。一方、Nature Medicine論文によると、TriNetX Analytics Networkの電子医療記録を用いた後顧的コフォート研究ではsemaglutideを用いた二型糖尿病/肥満症患者の自殺思慮リスクは用いなかった患者より低かった。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
24/1/17 MSDのWelireg(belzutifan、腎細胞腫3Lに一変)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)
24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)




今週は以上です。

2024年1月6日

第1136回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • フロリダ州がカナダから薬を輸入へ 
  • 経口剤のサラセミア治療試験が成功 
  • Anavex社、小児Rett症候群試験は判然としない結果に 
  • アルドース還元酵素阻害剤の糖尿病性心筋症試験がフェール 
  • アルドース還元酵素阻害剤をガラクトース血症に承認申請 
  • COVID-19予防用抗体をEUA申請 
  • ニーマン・ピック病C型に再承認申請 
  • etripamilの承認申請は受理されず 
  • 外来治療できる伝染性軟属腫治療薬が承認 
  • GLP-1作用剤の自殺リスクに関する疫学研究 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


フロリダ州がカナダから薬を輸入へ
(2024年1月5日発表)

FDAはフロリダ州が申請していたカナダから医薬品を輸入するプログラムを認可した。連邦食品医薬品化粧品法の第804節に基づくもので、実際に開始する前に、輸入する薬に関する情報をFDAに提供して認可を得、仕様や基準などがFDAに承認されている薬と同様であることを確認し、添付文書をFDA承認品と一致させなけれなばらない。輸入やコストセーブの進捗、そして、もし発生したら品質面などに関する問題を四半期毎にFDAに報告する。

フロリダ州は、まず、HIVなどの慢性疾患の維持療法薬から開始する予定。年間薬剤費を1.8億ドル抑制する考えだ。

プログラムが順調に進むかどうか不透明だ。現状で輸入を計画しているのはフロリダ州だけだが、ほかの州も追随するようならば、カナダ政府が、米国向け輸出が増加し国内で供給不足にならないようセーフガードを発動するだろう。製薬会社も黙っていないだろう。EUでは一部の国が他の加盟国から安価な薬を併用輸入しようとしたことがあったが、製薬会社が流通在庫管理を徹底することで余剰を輸出できなくした。

FDAの認可は輸入開始から2年間有効。その後も続けるのか不明だが、Ron DeSantisフロリダ州知事は次期大統領選に出馬を表明しており、今回のアクションも政治的プロパガンダの一つと目されているので、2年後に思いを寄せる論者は不在のようだ。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: Ron DeSantisフロリダ州知事のプレスリリース

【新薬開発】


経口剤のサラセミア治療試験が成功
(2024年1月3日発表)

Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)はPyrukynd(mitapivat)の第3相非輸血依存サラセミア試験で主目的を達成した。グロビンのベータ鎖またはアルファ鎖に変異を持つ成人患者194人を2対1割付けして100mgまたは偽薬を一日二回、経口投与したところ、ヘモグロビン応答率(第12週から24週までの平均値が1g/dL以上増加)が各群42.3%と1.6%となり、統計的に有意な差があった。すべてのサブグループ分析や副次的評価項目の疲労評価尺度なども成功した。離脱に繋がる有害事象の発生率は各群3.1%とゼロだった。

Pyrukyndはピルビン酸キナーゼRのアロステリック・アクティベイター。22年に欧米で成人のピルビン酸キナーゼ欠乏症における貧血症治療薬として承認された。輸血依存サラセミアの第3相は年央に開票する見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


Anavex社、小児Rett症候群試験は判然としない結果に
(2024年1月2日発表)

Anavex Life Sciences(Nasdaq:AVXL)はANAVEX2-73(blarcamesine)の第2/3相EXCELLENCE試験のトップラインを公表した。5~17歳のRett症候群92人を30mg群と偽薬群に2対1割付けして12週間治療したもので、プレスリリースの記述が不明瞭なところもあるが、結論は、偽薬群の成績が予想以上で望ましい結果を得られなかったということのようだ。

主評価項目の一つであるRSBQ(Rett Syndrome Behavioural Questionnaire、介護者評価)は改善が示されたが、事前に特定していた事後的なMMRM(mixed-effect model for repeated measure)法による評価は各群12.93点と8.32点低下となり、p=0.063とフェールした。もう一つのCGI-I(Clinical Global Impression-Improvement)はフェールした。安全性に関する新たな問題は見られなかった。

Rett症候群はMECP2などの遺伝子変異による神経系発達障害。blarcamesineはsigma-1受容体のアゴニスト。経口液を一日一回、投与する。英豪のMECP2変異陽性成人Rett患者33人を組入れた第3相AVATAR試験でRSBQレスポンダー率やCGI-Iが偽薬群を有意に上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


アルドース還元酵素阻害剤の糖尿病性心筋症試験がフェール
(2024年1月4日発表)

Applied Therapeutics(Nasdaq:APLT)はAT-001(caficrestat)の第3相二型糖尿病性心筋症治療試験がフェールしたと発表した。SGLT2阻害剤もGLP-1作用剤も用いていないサブグループではp=0.04とそこそこの数値が出た由だが、開発続行よりも開発パートナー探しを優先する考え。

最高酸素摂取量(ピークVO2)が標準値の75%未満で心不全を合併するリスクのある患者675人を偽薬、1g、または1.5gを一日二回経口投与する群に無作為化割付けして15ヶ月間治療し、心肺運動負荷試験でピークVO2の低下を比較したところ、1.5g群はkg/分当り0.01mL、偽薬群は0.31mLで、p=0.21とフェールした。SGLT2阻害剤/GLP-1作用剤非使用サブグループでは同0.08mL改善し、偽薬群は0.54mL低下した。深刻な有害事象の発生率は各群17.3%と14.3%だった。1g群のデータは公表されていない。

アルドース還元酵素阻害剤パイプラインの一つで、もう一つは、前日に、欧米承認申請が公表された(次項)。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


アルドース還元酵素阻害剤をガラクトース血症に承認申請
(2024年1月3日発表)

Applied Therapeutics(Nasdaq:APLT)は12月に米国でAT-007(govorestat)を古典的ガラクトース血症の治療薬として承認申請したと発表した。EUでも承認申請し既に受理された。

ガラクトース血症はガラクトースをグルコースに分解する酵素の欠乏によりガラクチトールなどの毒性代謝物が蓄積する。患者数は米国はGALT欠損型(古典的ガラクトース血症)が3000人、EUではGALK欠損型と合わせて4000人と推定されている。AT-007はガラクトースをガラクチトールに代謝するアルドース還元酵素の阻害剤。2~17歳の古典的ガラクトース血症47人を組入れて、OWLS-2やBASC-3のサブスケールを抜粋して作成した複合評価項目の改善度合いを検討したが、フェールした。但し、発語や聞取りに関するサブスケールを除外した解析ではp=0.0205と、それらしい結果が出た。難しい所だが、超希少疾患であることなどから、規制機関は門前払いすべきでないと考えたのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース


COVID-19予防用抗体をEUA申請
(2024年1月3日発表)

Invivyd(Nasdaq:IVVD)はVYD222を免疫力が低下した青年成人のCOVID-19感染予防薬としてEUA(非常時使用認可)するようFDAに申請した。薬効のエビデンスは薬物動態とin vitroのIC50データで、感染予防効果が確立している類薬、ADG20(adintrevimab)のデータとブリッジングした。

ADG20は免疫力不問の第2/3相試験で曝露前の成人の症候性COVID-19感染症リスクを有意に抑制し、曝露後予防コフォートや軽中等症治療試験も良好な成績を上げたが、その頃に流行の主流となったBA.2系統に対する力価が低いため、EUA申請には至らなかった。

VYD222はADG20よりも更にスペクトラムを拡大した抗SARS-CoV-2抗体で、現在米国で感染例の半分近くを占めるJN.1系統にも高力価を示している。第3相CANOPY試験で免疫力低下300人と高リスク450人の二つのコフォートにおける曝露前予防効果を検討しているが、前者のコフォートにおける中和抗体力価(薬物動態とin vitro試験におけるXBB.1.5系統に対するIC50から推定)とADG20の力価及び症候性感染予防効果をブリッジングしてEUA申請した。プレスリリースによると、VYD222の試験でも感染予防効果の兆候は見られるようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ニーマン・ピック病C型に再承認申請
(2023年12月27日発表)

Zevra Therapeutics(NasdaqGS:ZVRA)はarimoclomolをニーマン・ピック病C型(NPC)用薬として12月22日にFDAに再承認申請したと27日に発表した。希少疾患なので薬効や安全性の要求水準が低くなるが、エビデンスが薄弱で、migulstatをこの用途でも承認しているEUですら、承認しなかったので、見通しは楽観できない。

NPCはライソゾーム疾患の一つ。細胞内コレステロール輸送に関わるNPC遺伝子の変異により、肝臓、脾臓、神経細胞などにスフィンゴミエリン、コレステロール、糖脂質などが蓄積、組織に障害を与える。arimoclomolはヒート・ショック・プロテイン増幅剤。作用機序は明確ではないが、不要蛋白のスクラップを促すファーマシューティカル・シャペロンとして機能すると考えられているようだ。

エビデンスは欧米の2~18歳の患者50人を偽薬と2対1割付けした第2/3相試験。体重に応じた量を一日3回、12ヶ月間投与した。主評価項目の一つであるNPC-CSS(Clinical Severity Scale)のうち五つのドメインを集計したものは0.5点の悪化に留まり、偽薬群の1.9点を下回ったが、p=0.0506と僅かに有意水準を下回った。欧州申請に向けた、miglustat副作用サブグループでは-0.2と1.8でp=0.0071だった。FDAのアドバイスで採用した共同主評価項目であるCGI-Iは58.8%対56.3%だった。有害事象による治験離脱発生率は8.8%とゼロだった。

後に刊行された治験論文では数値が若干変動しp=0.04と閾値をクリアしているが、どちらにせよボーダーライン上であることに変わりはない。一巡目の審査では承認されず、今回、5ドメインNPC-CSSの有効性の裏付けや作用機序に関する追加資料、上記試験の4年延長試験のデータなどを追加提出した。

arimoclomolは元々、ハンガリーで糖尿病治療薬候補として発見された模様だ。米国のCytRXが権利を取得、ライセンスを取得したデンマークのOrphazymeが上記第2/3相試験を実施し欧米で承認申請したが、承認されず、22年に事業資産をZevraに譲渡した。

リンク: Zevraのプレスリリース


etripamilの承認申請は受理されず
(2023年12月26日発表)

カナダのMilestone Pharmaceuticals(Nasdaq:MIST)は10月に米国でetripamil点鼻用スプレーを発作性上室性頻拍(PSVT)の治療薬として承認申請したが、受理されなかった。FDAは第3相試験における有害事象の記録時期を明確化するよう求める一方で、副作用自体に関する懸念は表明していない由。FDAと対処方法を相談して再申請することになる。

etripamilは短期作用性カルシウム・チャネル・ブロッカー。一本目の第3相は洞調律達成期限を5時間とゆるゆるにしたためかメジアン値では25分対50分と大きな差があったがp=0.12だった。そこで二本目のRAPID試験では30分に短縮したところ、洞調律達成率が64%と偽薬群の31%を大きく上回り、ハザードレシオ2.62、統計的に有意だった。様々な症状も改善した。薬物関連深刻有害事象は発生しなかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


外来治療できる伝染性軟属腫治療薬が承認
(2024年1月5日発表)

Ligand Pharmaceuticals(Nasdaq:LGND)はFDAがZelsuvmi(berdazimer)を1歳以上の伝染性軟属腫の治療薬として承認したと発表した。局所性ゲル製剤で、生後6ヶ月以上の患者891人に一日一回、12週間投与したB-SIMPLE4試験で完解率が32.4%と偽薬群の19.7%を上回った。有害事象は塗布箇所反応や紅斑など。深刻有害事象は発生しなかった。

berdazimerは一酸化窒素放出剤。Novan社が開発し承認申請したが、経営破綻によりLigandに資産譲渡した。

リンク: Ligandのプレスリリース

【医薬品の安全性】


GLP-1作用剤の自殺リスクに関する疫学研究
(2024年1月5日発表)

FDAやEMAはGLP-1作用剤の安全性を再検討中だが、その一項目である自殺リスクに関する大規模な疫学研究の論文がNature Medicineで刊行された。日本を含む多くの国の電子医療記録を解析する、TriNetX Analytics Networkのプラットフォームを利用した後顧的コフォート研究で、ノボ ノルディスクのsemaglutide製品の利用者と他のクラスの薬の利用者の自殺思慮リスクを比較したところ、肥満/オーバーウェイトの240,618人ではハザードレシオが0.27とむしろ低かった。後顧的研究は症状兆候を見落とすリスクが前向き研究より高いが、当該リスクが比較的小さいであろう、自殺思慮歴のある患者だけの解析でも0.44と、望ましい結果が出ている。二型糖尿病患者1,589,855人の解析でも同様な結果になった。

この論文だけでは答えは出ないだろうが、取り敢えず、好ましい結果だ。

リンク: Wangらの研究論文要旨(Nature Medicine)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
24/1/12 アステラス製薬のIMAB362(zolbetuximab、Claudin 18.2中強度発現胃腺癌/食道胃接合部腺癌)
24/1/17 MSDのWelireg(belzutifan、腎細胞腫3Lに一変)
24/1/20 MSDのKeytruda(pembrolizumab、新患高リスク子宮頸癌化学放射線療法併用)
24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)
24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)



今週は以上です。