2025年5月31日

第1209回

【ニュース・ヘッドライン】

  • 米連邦政府、トリ・インフルエンザ・ワクチンの開発助成を終了 
  • ASCO:ビラフトビの結腸直腸癌試験が成功 
  • 抗IL-33抗体のCOPD試験は一勝一敗に 
  • 抗PD-1xVEGF二重特異性抗体の第3相は判然としない結果に 
  • 塩違いオラペネムのcUTI試験が成功 
  • モデルナ、LP.8.1対応ワクチンを承認申請 
  • 第一三共、延命効果が確認できずher3標的ADCの承認申請を取下げ 
  • バース症候群用薬は承認されず 
  • 自己免疫性肺胞蛋白症用薬の承認申請が受理されず 
  • 新規作用機序のドライ・アイ治療薬が承認 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


米連邦政府、トリ・インフルエンザ・ワクチンの開発助成を終了
(2025年5月28日発表)

モデルナはmRNA-1018(H5トリ・インフルエンザ・ワクチン)の開発に当たって米国連邦政府から24年7月に1.76億ドルの助成金を獲得し、今年1月には更に最大5.9億ドルの助成金で合意したばかりだが、後期開発助成金とプリパンデミック・インフルエンザ・ワクチン購入権を終了するとの通知を受けた。

この開発品は第1/2相免疫原性試験で良好な抗体誘導能や安全性を示した由であり、同社は代替的な開発手段を検討する考え。実用化しても流行しなければ需要が発生しないし、流行したとしてもウイルス型がプロトタイプで採用したRNAと適合するか分からない高リスクプロジェクトなので、米国が駄目なら他の国や機関と交渉することになるのではないか。

HHS(米国連邦保健福祉省)長官のRobert F. Kennedy Jr.は予てより、一部のワクチンの安全性に懸念を表明しており、COVID-19大流行期には同社のmRNAワクチンを始めとするCOVID-19ワクチンにも否定的な見解を示していた。トリ・インフルエンザは鳥では散発的な集団感染が見られるがヒト感染例は限られていることなども考慮したのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


ASCO:ビラフトビの結腸直腸癌試験が成功
(2025年5月30日発表)

ファイザーはASCO(米国臨床腫瘍学会)でBraftovi(encorafenib)の第3相BREAKWATER試験の生存期間解析結果を発表した。米国では本試験の反応率データに基づき24年12月に加速承認されているが、本承認切替や、他地域での適応拡大申請が進められるだろう。

BraftoviはBRAF阻害剤。MEK阻害剤Mektovi(binimetinib)併用でBRAF-V600E/K置換のある切除不能/転移性黒色腫などに米欧日で承認されている。

今回の試験は、BRAF-V600E置換のある転移結腸直腸癌の一次治療を受ける患者を組入れて、300mg一日一回経口投与をcetuximab及びmFOLFOX6と併用するレジメンを標準的化学療法と比較した。今年2月に統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善が見られた旨だけ公表済み。主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はハザードレシオが0.53、メジアン値は12.8ヶ月と標準療法群の7.1ヶ月を上回った。副次的評価項目の全生存期間も中間解析のハザードレシオが0.49で有意、メジアン値は各30.3ヶ月と15.1ヶ月だった。

リンク: ファイザーのプレスリリース
リンク: Elezらの治験論文抄録(NEJM)


抗IL-33抗体のCOPD試験は一勝一敗に
(2025年5月30日発表)

Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、REGN3500/SAR440340(itepekimab)の第3相COPD試験が一本は成功、もう一本はフェールしたことを明らかにした。当局と今後を相談する考え。

この試験は10箱年以上の喫煙歴を持つが禁煙して6ヶ月以上経つ、2~3剤併用治療を受けている中重度COPD患者を偽薬群、試験薬4週毎皮下注群、2週毎皮下注群に無作為化割付けして52週間投与し、COPDの中重度急性増悪の頻度を比較した。AERIFY-1試験では4週毎皮下注群のリスク削減率が21%、2週毎群は27%となりどちらも有意だったが、AERIFY-2試験は各群12%と2%に留まった。有害事象の発生率はどちらも各群70%前後で大きな差はなかった。

敗因は明らかではない。この試験はCOVID-19のパンデミック期と重なっており、そのせいか増悪発生率が前提より低く検出力が低下した由。治験登録を見るとこの二本の試験は米国以外の参加国の顔ぶれが異なっており、例えば中国はAERIFY-1に参加したが日本は2だった。

ClinicalTrials.govによると、第2相試験では600mgを2週毎に投与したところ、COPDの中重度急性増悪が年率1.30と偽薬群の1.61を下回り、リスク比は0.808、p=0.1296だった。こちらは喫煙者と禁煙者をほぼ半々で組入れており、禁煙者サブグループのデータは記されていない。第2相成績が良好なら第3相が一勝一敗でも希望が残るが、承認取得は難しいのではないか。

リンク: 両社のプレスリリース


抗PD-1xVEGF二重特異性抗体の第3相は判然としない結果に
(2025年5月30日発表)

米国マイアミの医薬品開発会社、Summit Therapeutics(Nasdaq:SMMT)は、ivonescimabが第3相HARMONi試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を達成したが共同主評価項目である全生存期間の中間解析はトレンドに留まったと発表した。当局と相談する考えだが、FDAは全生存期間の有意な改善を求めている由であり、データが熟すのを待つ必要があるのではないか。

中国のAkeso(康方生物、HKEX:9926.HK)からライセンスしたPD-1とVEGFに結合するアームを二つずつ持つ二重特異性抗体で、両方が存在する環境では親和性が増強される。中国だけで実施された類似したデザインのHARMONi-A試験に基づき、昨年5月に中国で承認された。Summitは欧米日本などの権利を保有している。

HARMONi試験は欧米アジアなどの施設で第3世代EGFRチロシン・キナーゼ阻害剤による治療後に進行したEGFR変異局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌を組入れて、pemetrexedとcarboplatinの併用レジメンに加えて偽薬または試験薬を3週毎点滴静注し、転帰を比較した。PFSのハザードレシオは0.52、p<0.00001と大変良好な結果になり、アジア地域でも、被験者の38%を占める非アジア地域でも、臨床的に意味のある改善が見られた。

全生存期間も点推定値は0.79と良好だがp=0.057だった。アジア地域でも北米でも改善のトレンドが見られた。西側地域の患者のメジアン追跡期間はメジアン生存期間より短い。ということは、今後、死亡者が増加するにつれて、有意水準に達する可能性もある。

G3以上の治療時発現有害事象は56.9%(偽薬追加群は50.0%)、致死的なものは1.8%(同2.8%)で発生した。

リンク: Summit社のプレスリリース


塩違いオラペネムのcUTI試験が成功
(2025年5月28日発表)

GSKとSpero Therapeutics(Nasdaq:SPRO)は、SPR994(tebipenem pivoxil hydrobromide)の第3相PIVOT-PO試験を繰上げ完了し今下期に承認申請すると発表した。複雑性尿路感染症(cUTI、腎盂腎炎を含む)で入院した成人患者1690人を組入れて、600mg6時間毎経口投与を7~10日間施行する群の総合複合反応率(治療完了の数週後において臨床的治癒且つ細菌学的駆除)をimipenem-cilastatin6時間毎静注レジメンと比較した非劣性検定試験で、iDMC(独立データ監視委員会)が中間解析で目標達成を認定し完了するよう勧告した。

Meiji Seikaファルマの経口カルバペネム系抗菌剤、オラペネムの活性成分の異なった塩。Speroが欧米などの開発商業化権をライセンスした。uCTIの第3相ertapenem対照試験で総合複合反応率の非劣性を確認、21年に承認申請したが、エビデンス不十分として22年に審査完了通知を受領した。同社は人員削減を断行する一方でGSKと提携、再試験に進んだもの。承認されれば初の経口カルバペネムになる。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


モデルナ、LP.8.1対応ワクチンを承認申請
(2025年5月23日発表)

モデルナはCOVID-19ワクチンSpikevaxのLP.8.1対応版をFDAに承認申請した。トランプ政権のこれまでの動きを考えれば、新製品の承認審査を受けるよりも、24/25年シーズンと同じKP.2対応製品を販売したほうが無難なのではないかと思うが、どうだろうか。

LP.8.1は現時点で米国の感染例の大半を占める大流行株。免疫原性試験成績を見ると、LP.8.1対応ワクチンのほうがKP.2対応ワクチンより中和抗体力価が高い。一方で、シェアが徐々に上がってきている他の変異株に対してはKP.2対応ワクチンのほうが良さそうに見える。勿論、これらの株が主流になるとは限らないが。中国などアジアで流行し始めたNB.1.8.1株にはどうなのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


第一三共、延命効果が確認できずher3標的ADCの承認申請を取下げ
(2025年5月29日発表)

第一三共と開発販売パートナーのMSDは、patritumab deruxtecanの米国における承認申請を取下げた。

Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)と同じトポイソメラーゼI阻害剤をher2ではなくher3に結合する抗体とリンカーで繋げた抗体薬物複合体(ADC)。第2相試験のORR(客観的反応率)データに基づきEGFR変異を有する局所進行/転移非小細胞性肺癌の3次治療以降に加速承認申請したが、第3者製造施設における製造問題などがネックとなり、昨年6月に審査完了通知を受領していた。

取下げを余儀なくされたのは、延命またはそれに準じる便益を立証すべき第3相HERTHENA-Lung02試験で、第3世代EGFR阻害剤による治療歴を持つEGFRエクソン19欠損又はL858R置換型局所進行/転移非小細胞性肺癌の進行を遅らせる作用が白金薬ベース化学療法より有意に高かったものの、副次的評価項目の全生存期間がフェールしたため。

昨年9月に成功発表された段階では数値は公表されなかったが、ASCO(米国臨床腫瘍学会)年次総会の抄録によれば、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオは0.77と合格圏だが、p値は0.011とそれほど低くなく、メジアン値は5.8ヶ月対5.4ヶ月で僅差だった。PFSは担当医の主観を排すため第3者が査読するのが通例になったが、担当医による一次評価で進行と認定されなかった患者は査読対象外なので過信はできない。ルーチン診断のタイミングは4~8週おきに設定されることが多いので、1ヶ月くらいの差は誤差のうちだ。

なぜ全生存期間の解析がフェールしたのかは明らかではない。単に有意水準に達しなかっただけなのか、それともG3以上の血小板減少症や間質性肺疾患などのリスクが患者の余命や進行後の治療法の選択に影を落としたのだろうか?

昨年9月のプレスリリースには『統計的に有意な』改善があったと記されているが、近年のバズワードである『かつ、臨床的に意味のある』は付記されなかった。数値未公表の場合は重要な手掛かりになることを示すエピソードがまた一つ増えた。

リンク: 両社のプレスリリース
リンク: T. Mokらの抄録(ASCO 2025 #8506)

【承認審査・委員会】


バース症候群用薬は承認されず
(2025年5月29日発表)

米国マサチューセッツ州のStealth BioTherapeuticsはelamipretideをバース症候群用薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。プレス・リリースを読む限りでは前途を悲観する必要はなさそうだが、少なくともこれまでの推移は、同社が期待するようなものではなかったので、慎重に受け止めた方がよいかもしれない。

バース症候群はX染色体上の遺伝子変異によりミトコンドリアの機能が低下、心臓疾患や敗血症などのリスクが高まる。死亡率は生後4年間が最も高い。超希少疾患で米国の患者数は150人弱、世界でも250人弱とされる。elamipretideはミトコンドリア標的ペプチド(MTP)とされ、ミトコンドリアのcardiolipinに結合し内側ミトコンドリア膜の構造を正常化することによってミトコンドリア機能を改善するとのこと。

12歳以上の12人を組入れた第2/3相TAZPOWER試験で試験薬群(平均年齢23歳)の6分歩行テスト値がベースライン値の400mから12週後に443mに改善したが、偽薬群(同16歳)も413mから444mに改善したため有意差はなく、共同主評価項目のBTHS-SA(バース症候群症状評価、ベースライン値は7.7)も6.3対6.2と大差なかった。FDAは追加試験を推奨したが、患者数が少なく深刻な疾患でもあることから、同社は患者登録データとの自然歴対照試験を実施、Barth Syndrome Foundationも4200人超の署名を集めて援護射撃し、再申請を断行した。24年10月の諮問委員会では10対6で薬効を認める委員が若干上回ったが、FDA審査担当者が依然として懐疑的であることも明らかになった。

当案件は波乱万丈で、21年8月の最初の承認申請は受理されなかった。二度目は受理されたが優先審査指定されず、受理の2ヶ月後に異議が認められ指定されたがPDUFA(処方薬ユーザー課金法)に基づく審査期限は変更されなかった。諮問委員会後に審査期限が3ヶ月延期され、それも締め切り落ちし、審査完了通知を受領したのは申請の16ヶ月後だった。

審査完了通知には主因が記されているはずだが同社は公表していない。FDAは、TAZPOWER試験の副次的評価項目である膝伸筋力改善作用に基づく加速承認申請を認めた模様だが、もし同社が指摘するように6分歩行テストの改善と関連するならば、なぜ上記試験では相関しなかったのか?もし既存のデータで再承認申請できるならば何故審査完了通知となったのか?

訂正とお詫び:過去3年間、同社に関する記事に株式ティッカー・シンボル(Nasdaq:MITO)を付記してきましたが、22年に上場廃止していました。お詫びして訂正します。

リンク: 同社のプレスリリース


自己免疫性肺胞蛋白症用薬の承認申請が受理されず
(2025年5月27日発表)

米国フィラデルフィア州のSavara(Nasdaq:SVRA)は、Molbreevi(molgramostim)を自己免疫性肺胞蛋白症(aPAP)の治療薬としてFDAに承認申請したが、受理されなかった。薬効や安全性の懸念ではなく、CMC(化学、製造、管理)面の瑕疵が原因のようだ。

遺伝子組換え型ヒト顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(rhGM-CSF)。PARI Pharma GmbHのeFlowネブライザで吸入する。aPAPはGM-CSFに対する自己抗体が生じ顆粒球マクロファージが十分に分泌されず、肺胞におけるサーファクタントの分解・除去が進まず、呼吸不全などを合併する。日本では24年にノーベルファーマのrhGM-CSF、サルグマリン(サルグラモスチム吸入用)が承認された。

Molbreeviは北米日韓豪欧などで実施された第3相IMPALA-2試験で24週肺拡散能が偽薬比有意に改善した。副次的評価項目の一つであるトレッドミル検査はトレンドに留まった。2019年にはIMPALA試験の成功も発表されている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


新規作用機序のドライ・アイ治療薬が承認
(2025年5月28日発表)

スイスのAlcon(SIX/NYSE:ALC)はFDAがTryptyr(acoltremon)をドライ・アイ疾患の治療薬として承認したと発表した。一日二回、点眼する。第3相試験二本で奏効率(第14日のシルマー試験でベースライン比10mm以上増加した患者の比率)が一本は42.6%(対照群は8.2%)、もう一本は53.2%(同14.4%)だった。

2022年に企業価値ベース7.7億ドルで買収したAerie Pharmaceuticalsが2019年にスペインのAvizorex Pharmaを買収して入手したTRPM8アゴニスト。目の乾燥を探知し涙の分泌を促す受容体、TRPM8を作動する新規作用機序を持つ。

リンク: 同社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
25/7推アッヴィのRinvoq(upadacitinib、巨細胞動脈炎追加)
25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
25/7推バイオジェンのSpinraza(nusinersen、用量等追加)
25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
25/7/12第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC)
25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)



今週は以上です。

2025年5月25日

第1208回

【ニュース・ヘッドライン】

  • トランプ政権、製薬会社に最恵国薬価を要求 
  • FDA、COVID-19ワクチンで方針変更 
  • FDA諮問委員会、COVID-19ワクチン株選定に意見分かれる 
  • ASCO:大鵬ら、ex20ins変異キラーのデータ発表 
  • ApoC-IIIアンチセンス薬の中度高TG血症試験が成功 
  • 二剤併用による睡眠時無呼吸試験が成功 
  • BI、肺線維症新薬の成績発表 
  • 喘息症増悪治療用合剤の追加第3相が成功 
  • モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの申請を撤回 
  • CHMP、新規CAR-Tなどの承認を支持 
  • Susvimoが糖尿病性網膜症に適応拡大 
  • ヌーカラが好酸球性COPDに適応拡大
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


トランプ政権、製薬会社に最恵国薬価を要求
(2025年5月20日発表)

トランプ米国大統領は米国の医薬品が著しく高い状態を是正するために製薬会社に薬価を引き下げを求める大統領令に署名した。30日以内に目標水準を公表する。製薬会社が応じない場合は立法化に動く。貿易赤字是正のための巨大関税と同様な、最初に口先だけでぶち上げて譲歩を迫る戦略だろう。

対象はあらゆる医薬品。目標となる最恵国薬価は、OECD加盟国のうち一人当たりGDPが米国の6割以上の国(スペインやエストニア辺りまでか)の中で最低の価格。

内外格差の解消は米国外の薬価を上げるという方法もあるが、実現するにしても時間がかかるので、この抜け道は塞がれたと考えてもいいだろう。外国政府と異なり米国の製薬会社や子会社は司法に救済を求めることが可能なので、メディケアで課せられた特定品目の薬価引き下げと同様に、裁判で争うことになりそうだ。

このほかに、カナダで米国より低い価格で販売されている薬の輸入販売を州政府が容認するプログラムにFDAが協力することなどを改めて発表した。

リンク: HHS(米保険福祉省)のプレスリリース
リンク: 大統領令(5月12日付)


FDA、COVID-19ワクチンで方針変更
(2025年5月20日発表)

FDAでワクチンなど生物学的製剤を担当するCBERのヘッドに就任したV. Prasadディレクターが、MakaryFDA長官と連名で、COVID-19ワクチンの承認基準を見直す考えをNew England Journal of Medicine誌で明らかにした。まず、適応は65歳以上、または、64歳未満でも感染すると重症化リスクのある人とする。メーカーは市販後に50~64歳の重症化リスクを持たない人たちを組入れて偽薬対照試験を行う。6ヶ月児から49歳までの重症化リスクを持たない人たちを組入れてもよい。

前日にはNovavax(Nasdaq:NVAX)のNuvaxovidがFDAに本承認された。21~22年にEU、日本、米国などで条件付き/特例/非常時使用承認された、全長融合前スパイク蛋白を抗原とするアジュバント・ワクチンで、審査期限は7週前だった。上記の通り、適応は65歳以上と12~64歳で重症化リスク因子を持つ人に限定され、リスク因子を持たない50~64歳を対象とする偽薬対照試験の実施を求められた。

適応外になってしまう人たちの接種は今日ではそれほど多くないだろうから、需要面では大きな影響はないと推測される。Prasadらが指摘しているように、欧州などでは既に接種勧奨が高齢者または高リスクに限定されており、公衆衛生政策の大きな後退とは言えないだろう。

流行株が大きく変遷する度に変異株対応ワクチンが開発・承認されてきたが、重症化リスク抑制効果や安全性を検討する大規模な臨床試験ではなく、免疫原性試験やあまり大規模ではない安全性確認試験しか行わないのが一般的になった。FDAが改めて偽薬対照試験を求めるのではないか、という懸念が浮上していたが、少なくとも現時点では、需要を削ぎ取るような方針転換は考えていない様子だ。

トランプ政権はCDC(米疾病管理予防センター)の管轄縮小を考えているようだが、今回の方針転換はCDCの機能を吸収したような側面もある。本来、FDAの相手方は製薬会社で、特定の条件下での販売を許可する。CDCの相手方は米国民で、特定の条件を持つ国民に接種を勧奨する。適応/勧奨対象は同様であることもあれば、CDCのほうが少ないことも珍しくない。上記寄稿には、諸外国の事例として、米国で言えばFDAが決定する適応範囲ではなく、CDCの勧奨を掲載しており、FDA高官の問題意識がCDCの機能にまで及んでいることを示唆している。

リンク: Prasadらの論文(NEJM, Sounding Board)
リンク: Novavaxのプレスリリース(5/19付)


FDA諮問委員会、COVID-19ワクチン株選定に意見分かれる
(2025年5月22日発表)

FDAはVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製品諮問委員会)を招集し、25/26シーズンCOVID-19ワクチンを一価JN.1系統ワクチンとする当否について意見を聞いた。9人全員が賛成したが、どのJN.1系統株とすべきかは意見が分かれた。

米国ではLP.8.1株が席巻していて欧州でも流行株におけるシェアがトップに躍り出た。LP.8.1はJN.1の子株であるKP.1の派生で、WHOが2月にVUM(監視中の変異株)に指定した。東大医科学研究所の研究によると、感染やワクチンで取得した中和抗体に対してJN.1株より高い逃避能を有している。先般、EMA(欧州薬品庁)は25/26シーズン・ワクチンにLP.8.1ベースの抗原/mRNAを配合するよう呼びかけた。

一方、WHOは24/25シーズンと同じJN.1またはKP.2株対応のワクチンで良しとした。代替的にLP.8.1対応ワクチンでも良い。EMAも、LP.8.1対応ワクチンが実用化されるまではJN.1/KP.2ワクチンの使用を容認している。

誰も一点勝負しないのは、第一に、24/25シーズンのワクチンはLP.8.1にもある程度有効だからだ。モデルナが実施したマウスの免疫原性試験ではLP.8.1ワクチンより若干下回った。一方、Novavaxが実施したヒト免疫原性試験ではLP.8.1株に対する中和抗体価がJN.1やKP.2に対する数値の半分以下だった。

面白いことに、上記とは裏腹に、ファイザーやモデルナはLP.8.1対応品の開発に、Novavaxは(抗原ワクチンで製造に時間がかかるせいか)従来のJN.1/KP.2対応品に、傾いていると報じられている。メーカーにとっても判断が難しいようだ。

第二に、過去と同様に新株が登場しLP.8.1を凌駕するかもしれない。この数週間、米国ではLP.8.1.1とLF.7(JN.1.16から派生)の組換え体であるXFC株のシェアが急上昇していて、LP.8.1とは大差だが2位に浮上した。Novavaxが実施したマウス免疫原性試験ではLP.8.1対応ワクチンはKP.2に対する中和抗体価がJN.1ワクチンより大きく劣っていた。スペクトラムが狭い可能性があるのかもしれない。

昨シーズンにおいても、EUが当初はJN.1ワクチンを選定したが後にKP.2ワクチンも容認するなど、二股が見られた。今年も、秋に向けて、揺り動くかもしれない。そもそも、一部の諮問委員が主張するように、COVID-19の季節性は明確ではないので、もっと早く選定・生産開始したほうが良いのかもしれない。

注目されるのは、ファイザーやモデルナの対応だ。折しも25/26年シーズンの配合株が検討される時期だが、もしFDAがEMAと同様にLP.8.1株を選定した場合、承認申請が必要になるため適応が従来より縮小されたり市販後試験の実施を求められたりするだろう。現行のKP.2株ベースのワクチンでも取り敢えずは支障がないのだから、LP.8.1株対応ワクチンの開発を後回しにする可能性がないとは言えないだろう。

リンク: モデルナのプレゼン資料(25/5/22VRBPAC)
リンク: Novavaxのプレゼン資料(同)

【新薬開発】


ASCO:大鵬ら、ex20ins変異キラーのデータ発表
(2025年5月22日発表)

Cullinan Therapeutics(Nasdaq:CGEM)と大鵬薬品は、今年1月、CLN-081/TAS6417(zipalertinib)が第1/2相試験の後期第2相ポーションで良好な成績を上げ25年下期に加速承認申請する考えであることを明らかにしたが、ASCO(米国臨床腫瘍学会)でデータを発表する。

EGFRのex20挿入変異を標的とするチロシン・キナーゼ阻害剤。野生EGFRは阻害しない。今回のREZILIENT1試験後期第2相ポーションは、当該変異を持ち治療歴のある非小細胞性肺癌を組入れて、100mgを一日二回経口投与した。メジアンで2前治療歴を持つ176人におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)は35%、メジアン反応持続期間は8.8ヶ月だった。このうち、白金薬歴のみの125人では各40%、8.8ヶ月、脳転移歴のある68人では31%、8.3ヶ月だった。治療関連有害事象は爪囲炎やラッシュなど。

両社は米国で共同開発、米中以外は大鵬が販売する。中国はZai Labがライセンスした。

リンク: 両社のプレスリリース


ApoC-IIIアンチセンス薬の中度高TG血症試験が成功
(2025年5月19日発表)

アンチセンス薬の雄、Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)は、olezarsenが第3相中等度高TG(トリグリセライド)血症試験、Essence/TIMI 73b試験で主目的を達成したと発表した。次四半期に第3相重度TG症試験二本の結果が出るのを待って適応拡大申請する考えだが、Essence試験のデータも支持的エビデンスとして提出する予定。

トリグリセライドの代謝を制御するapoC-IIIの発現を妨げるGalNAc結合アンチセンス・オリゴヌクレオチド。24年12月に米国でFCS(家族性カイロミクロン血症候群)用薬Tryngolzaとして承認された。今回の試験は欧米の施設でTG値が150mg/dL以上500mg/dL未満且つアテローム性心血管疾患を合併または高リスクの成人患者を偽薬、50mg、70mg群に各369人、276人、832人、無作為化割付けして月一回皮下注し、6ヶ月後のTG値の変化を比較した。メインの80mg群は偽薬修正後で61%低下、50mg群も同58%低下し、有意な低下作用が確認された。

第3相FCS試験でも50mgと80mgをテストしたが50mg群はフェールした。一方、高TG血症では、約150人を組入れたBridge-TIMI 73a試験でも、用量間の大きな違いは見られなかった。重度高TG血症試験では一つの用量しかテストしていないようなので、至適用量が分かり難い。

リンク: 同社のプレスリリース


二剤併用による睡眠時無呼吸試験が成功
(2025年5月19日発表)

米国マサチューセッツ州の未上場医薬品開発会社、Apnimedは、AD109(aroxybutynin、atomoxetine)の第3相SynAIRgy試験で主目的を達成したと発表した。成人のOSA(閉塞性睡眠時無呼吸)患者640人を組入れて、一日一回、26週間経口投与したところ、AHI(無呼吸低呼吸指数)が55.6%低下、偽薬群と有意な差があった。症状なども改善した。第3四半期にはPAP(持続陽圧呼吸)療法に不耐/拒否のOSA患者640人を組入れた第3相LunAIRo試験の結果も出る見込みで、26年初めの承認申請を予想している。

新開発のムスカリン受容体拮抗剤aroxybutynin(2.5mg)とADHD治療薬として承認されているノルエピネフィリン再取込阻害剤atomoxetine(75mg)を含有する固定用量合剤。未治療またはCPAP不耐のOSA患者211人を組入れた後期第2相用量変動試験、MARIPOSAでもこの用量群はAHIが47%低下し偽薬群の19%低下と有意差があった。但し、aroxybutyninの用量を5mgに増やした群は43%低下に留まり、atomoxetineだけの群も39%低下したので、aroxybutyninを追加する意義やその用量反応相関はあまり感じられなかった。

aroxybutynin 2.5mg併用群は不眠症や排尿困難の有害事象発生率が偽薬群より増加したものの、atomoxetine単剤投与群比では10ポイント以上低く、もしかしたらatomoxetineの副作用を緩和する作用があるのかもしれない。

リンク: 同社のプレスリリース


BI、肺線維症新薬の成績発表
(2025年月日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、優先的PDE4B阻害剤BI 1015550(nerandomilast)の第3相肺線維症試験二本の結果をATC(米国胸部学会)やNew England Journal of Medicine誌で発表するとともに、米欧中で承認申請済みであることを明らかにした。

二本のうち、FIBRONEER-IPF試験は特発性肺線維症の患者1177人を偽薬、9mg、または18mgを一日2回経口投与する群に無作為化割付けして52週後のFVC(努力性肺活量)の変化を比較したところ、各群183.5mL、138.6mL、114.7mL低下となり、両用量群とも偽薬比有意に悪化を抑制した。有害事象では下痢が各群16%、31%、41%で発生した。深刻有害事象は各群大差なかった。

被験者の45%は同社のOfev(nintedanib)を、32%はロシュ/ジェネンテックのEsbriet(pirfenidone)を同時使用していたが、後者のサブグループは9mg群のFVCが偽薬と大差なく、一方、下痢はそれほど増えていない。薬物相互作用があるのかもしれない。

もう一本のFIBRONEER-ILD試験はPPF(進行性肺線維症)患者1176人を偽薬、9mg、または18mg群に無作為化割付けして52週後のFVCを比較した。各群165.8mL、84.6mL、98.6mL低下し、偽薬比有意な悪化抑制作用が見られた。有害事象は下痢が被験者の25%、30%、37%で発生した。深刻有害事象は各群同程度だった。本試験では43%がnintedanibを同時使用していた。

承認されている2剤の第3相成績では100mL以上の治療効果が見られたが、今回は既にこれらの薬で治療を受けている患者が多かったためか、限界効用逓減の法則が当て嵌まっている。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: RicheldiらのFIBRONEER-IPF試験論文抄録(NEJM)
リンク: MaherらのFIBRONEER-ILD試験論文(NEJM)


喘息症増悪治療用合剤の追加第3相が成功
(2025年5月19日発表)

アストラゼネカはAirsupra(albuterol、budesonide)の後期第3相試験、BATURAの結果をATS/NEJM誌で発表した。低量吸入用ステロイドまたはロイコトリエン受容体拮抗剤による維持療法を受けていて増悪時はalbuterolなどの短期作用性ベータ2作用剤によるas-needed治療を受けてきた12歳以上の患者を組入れて、増悪時にこのベータ2作用剤と吸入ステロイドの合剤を併用する便益をalbuterolだけの群と比較したもので、昨年10月に中間解析で成功認定されている。主評価項目の重度増悪(全身性ステロイドによる治療、緊急治療室入室、入院、または死亡をカウント、time to event分析)のハザードレシオは0.53、各群の発生率は5.1%と9.1%となり、有意な差があった。重度増悪の発生率年率は各群0.15と0.32、率比は0.47だった。

Airsupraは23年に米国で18歳以上の喘息症の気管支収縮の治療と予防、そして増悪リスク抑制という適応・効能で承認された。エビデンスとなる臨床試験は4~17歳も組入れたが、症例数が少ないためか、成人限定だった。今回の試験も未成年は12~17歳が70人程度組入れられただけだった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がDarzalexの適応拡大を支持、他3剤は不支持/区々
(2025年5月20~21日開催)

FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、4社の4品目に関して意見を聞いた。結果は以下の通り。

  • ジョンソン・エンド・ジョンソン/ヤンセンのDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)をくすぶり型多発骨髄腫に適応拡大:賛成6人、反対2人。
  • ロシュ/ジェネンテックのColumvi(glofitamab-gxbm)をある種のリンパ腫の二次治療に適応拡大:賛成1人、反対8人。
  • UroGen社のUGN-102(mitomycin)膀胱内注入薬をある種の膀胱癌に承認:賛成4人、反対5人。
  • ファイザーのTalzenna(talazoparib)をHRR変異の無い転移去勢抵抗性前立腺癌に適応拡大:賛成ゼロ、反対8人。

  • Darzalex Fasproは皮下注用抗CD38抗体。くすぶり型多発骨髄腫はM蛋白や単クローン形質細胞が増加しているが症状はない。日本も参加した第3相AQUILA試験で高リスク患者の5年PFS(無進行生存)率が63.1%と積極的監視療法群の40.8%を上回り、5年生存率も93.0%対86.9%、ハザードレシオ0.52とこちらは有意水準には届かなかったものの良い成績を上げた。FDAは、上記試験で採用された分類方法が古く、今日の定義では過半が多発骨髄腫と分類され今日の基準に該当する患者だけの解析では十分な効果が見られなかったことや、進行例は殆どが赤血球の減少など検査値の悪化で臨床的な便益が曖昧であることに懸念を示しており、全生存解析の成熟を待つことも考えていたようだ。

    上記試験では試験薬群のG3/4治療時発現有害事象の発生率が40%と対照群の30%を上回り、死に至った症例も2%対1%で上回った。危険に見合う便益が求められる所以である。諮問委員の多数が支持したことにより承認の可能性が高まったが、過剰治療を警戒する意見もあったので、適応範囲の決定が難問として残りそうだ。

    この適応拡大は日欧でも申請中。

    リンク: JNJのプレスリリース(5/20付)

    Columviは抗CD20/CD3二重特異性抗体。一次治療歴を持つ自家幹細胞移植(ASCT)不適な難治/再発びらん性大細胞型B型リンパ腫にgemcitabineおよびoxaliplatinと併用する適応用法追加が申請された。エビデンスとなる第3相STARGLO試験(日本は不参加)でColumviに代えて抗CD20抗体rituximabを併用する群と全生存期間を比較したところ、ハザードレシオが0.62と良い数値が出た。

    問題は、5割を占めたアジアの施設では0.39となった一方で、他の地域では1.06、北米の施設だけだと2.62と大きな違いが見られたこと。カプラン・マイヤー・カーブを見るとアジア地域では早い段階で二群の曲線が分かれるが、他の地域では長期間、大差ない状態が続いた。再発後の治療が地域により異なる可能性があるが、PFSやORR(客観的反応率)で見ても同様な差異が見られる。アジアはASCT不適の理由が患者拒否である症例が欧米より多く、そのせいか平均年齢が若く進行リスクがそれほど高くない患者が多いなど、患者背景に大きな違いあるので、その影響かもしれない。

    実薬対照試験なのでサブグループで有意に上回らなくても同程度なら大目に見る余地があり、北米の組入れは少ないためノイズの可能性も十分ある。しかし、2.62となると大目には見れないということなのだろう。薬品業界はで臨床試験の費用負担を緩和する目的でアジアや東欧の施設での組入れを増やす傾向が見られるが、米国患者をもっと組入れよという警鐘の意味もあるのかもしれない。

    審査期限は7月20日。この適応拡大はEUでは4月に承認された。

    リンク: ロシュのプレスリリース(5/20付)

    UroGen Pharma(Nasdaq:URGN)のUGN-102(mitomycin)はアルキル化剤のハイドロゲル製剤。カテーテルで膀胱内に点滴注入するとゲル化し数時間に亘り薬剤を放出する。再発性LG-IR-NMIBC(低グレード中等度リスク筋層非浸潤膀胱癌)を組入れた第3相ENVISION単群試験で約240人に75mg(56mL)を週一回、6回投与したところ、第3月時点の完全反応率が78%となり、このうち第15月時点で79%が完全反応を維持していた。FDAは、完全反応率のデータは評価したが、対象患者の予後は区々なので反応持続期間が薬の効果なのか、それとも元々進行し難いものなのか、分からないので対照試験で確認すべきと考えているようだ。

    TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)後にUGN-102でアジュバント療法を施行したATLAS対照試験でDFS(無病生存期間)がアジュバントを施行しなかった群を有意に上回ったが、財務上の理由で途中で打ち切ったために検出力不足となっていることや、TURBT後に化学療法膀胱内注入によるアジュバント療法を施行する標準療法と比較していないことから、意義があいまいと見做している(同社もTURBT後アジュバント療法では承認申請していない)。

    リンク: Urogen社のプレスリリース(5/21付)

    ファイザーのTalzenna(talazoparib)はPARP1/2阻害剤。第3相TALAPRO-2試験でmPRPC(転移去勢抵抗性前立腺癌)に同社のXtandi(enzalutamide)と併用したところ、全被験者、及び、HRRm(相同組換え修復不全)サブグループにおけるrPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)がXtandi・偽薬併用群を有意に上回り、EUでは24年に化学療法不適患者向けに承認されたが、米国は前年にHRRm向けにしか承認しなかった。同社は延命効果を確認した上でHRRm限定を解除するよう申請したが、諮問委員会は支持しなかった。

    FDAは、上記試験で全被験者やHRRmにおける全生存期間のハザードレシオが夫々0.8と0.55であったのに対して、HRRmではない、または不明の患者だけのサブグループは0.88とあまり良好でないこと、進行後の治療に偏りが見られること、類薬はolaparibもniraparibも非HRRmには便益が見られなかったこと、そもそもHRRmではない患者のほうが多いのに十分な検出力を持たせなかったのは適切でなかったことなどから、限定解除に慎重な姿勢を示していた。

    同社は5月に日本で遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌に一変申請を行ったが、HRR変異の有無は不問としている。

    リンク: MedPageTodayの記事


    モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの申請を撤回
    (2025年5月21日発表)

    モデルナはmRNA-1083を米国で承認申請していたが、一旦、撤回した。SARS-CoV-2の受容体結合ドメインとN端末ドメインをエンコードしたmRNA-1010と新開発のmRNA型インフルエンザ・ワクチンmRNA-1283を配合する混合ワクチンで、前者は単独でも承認申請され、審査期限は今月31日。後者は第3相後に改めて改良製剤の第3相IGNITE P301試験を実施、A/H3N2など4株に対する免疫原性や有害事象発生率がFluzon HD(サノフィの高用量ワクチン)を上回ったが、インフルエンザ感染症を予防する効果は確立していなかった。

    同社は50歳以上を組入れたP304試験の中間解析で予防効果を確認した上で年内に再承認申請する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース


    CHMP、新規CAR-Tなどの承認を支持
    (2025年5月23日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: EMAのプレスリリース

    英国のAutolus Therapeutics(Nasdaq:AUTL)が申請したAucatzyl(obecabtagene autoleucel)は難治/再発前駆B細胞性急性リンパ性白血病に用いるCD19型CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法。113人中49%が完全反応となった第2相試験に基づき条件付き承認が支持された。米国では24年11月に成人患者向けに承認されたが、CHMPは26歳以上に絞り込んだ。

    リンク: EMAのプレスリリース

    GSKのBlenrep(belantamab mafodotin)は2種類の併用レジメンで前治療歴のある難治/再発多発骨髄腫に用いることが支持された。日本では今月承認、米国の審査期限は7月23日。抗BCMA抗体と細胞毒をリンカーで結合したもので、20年に米欧で加速/条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため、承認取消となっていた。

    リンク: EMAのプレスリリース

    SpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)のEzmekly(mirdametinib)は2歳以上の神経線維腫症1型(NF1)における症候性かつ切除不能な叢状神経線維腫の治療に用いる。NF1はMEKなどが関わるMAPK経路のサプレッサーとなるべき蛋白の遺伝子変異を伴う常染色体性優性遺伝性疾患。本薬はアロステリックMEK1/2阻害剤。米国では2月に承認された。同社はファイザーのスピンアウトで、4月にドイツのメルクが企業価値ベース34億ドルで買収合意した。

    リンク: EMAのプレスリリース

    ロシュのItovebi(inavolisib)は変異型PI3Kアルファ阻害剤。成人の、PIK3CA変異、ER陽性、her2陰性の、局所進行/転移乳癌で、アジュバント内分泌療法実施中または完了後12ヶ月以内に再発した患者に、palbociclib及びfulvestrantと3剤併用する。米国では昨年10月に承認された。第3相で全生存期間がメジアン34ヶ月と偽薬・palbociclib・fulvestrant併用群の27ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.67となったことが今月、発表された。

    リンク: EMAのプレスリリース

    レコルダティ・レア・ディジーズのMaaplivは、分枝鎖アミノ酸を含まない各種アミノ酸の点滴用液。経口/経腸投与用製剤に不適なMSUD(メープルシロップ尿症)患者の急性非代償性増悪時に点滴投与する用途用法で、例外的環境下承認するもの。この疾患はロイシンなどの分岐鎖アミノ酸の代謝不全により様々な症状をきたす先天性代謝異常症。尿の匂いに基づいて命名された。エビデンスは5本の文献。

    リンク: EMAのプレスリリース
    リンク: メープルシロップ尿症(難病情報センターの解説)

    スペインのNeuraxpharm PharmaceuticalsのRiulvy(tegomil fumarate)はエビデンスの一部を既存薬のそれに依存するハイブリッド承認が支持された。13歳以上の再発寛解多発性硬化症に用いる。バイオジェンの多発性硬化症用薬Tecfidera(dimethyl fumarate)と同様に、monomethyl fumarateのプロドラッグ。

    リンク: EMAのプレスリリース

    一方、否定的意見となったのは、まず、ドイツの4SC(FSE:VSC)のヒストン・ジアセターゼ阻害剤Kinselby(resminostat)。全身性治療や電子線療法により安定化した進行皮膚T細胞リンパ腫の維持療法として承認申請されたが、薬効が十分に示されていないと判定された。同社は開発を中止する考え。

    リンク: 4SCのプレスリリース

    次に、FGK Representative Service GmbHが近視治療薬として申請したS01X(atropine sulfate)。初めて聞く会社で誰の依頼かも知らないが、CHMPによると臨床試験はフェールした。

    リンク: EMAのプレスリリース

    申請撤回となったのはノバルティス・グループのAdvanced Accelerator Applicationsが申請した、Lutathera(lutetium Lu 177 dotatate)の一次治療適応。17~21年に欧米日でソマトスタチン受容体陽性胃腸膵神経内分泌腫瘍用薬として承認された放射性医薬品で、オン・レーベルだがエビデンスは確立していない新患患者を対象とした第3相NETTER-2試験でPFS(無進行生存期間)がoctreotideを有意に上回った。しかし、CHMPは、延命効果がまだ確立していないため否定的な方向で考えていた。

    リンク: EMAのプレスリリース

    適応拡大で肯定的意見を得たのは以下の通り。

  • アストラゼネカのImfinzi(durvalumab):成人の筋層浸潤膀胱癌の術前・術後付随療法。米国は3月に承認、日本も申請中。
  • BeiGeneのTizveni(tislelizumab):成人のher2陰性PD-L1陽性、局所進行切除不能/転移性の胃/胃食道接合部腺腫一次治療。PD-L1陽性の定義はTAP(腫瘍域陽性)スコアで5%以上となっており、昨年12月に承認された米国におけるCPS1以上よりやや限定的。

  • 申請者側の請求により再審査が決定したのは、まず、4月に否定的意見となったCassiopea社のWinlevi(clascoterone)。 12歳以上の尋常性座瘡を治療するアンドロゲン受容体拮抗剤のクリーム製剤で、CHMPは未成年に悪影響する懸念が払拭されていないと判定していた。

    もう一件はPharmaMar(MSE:PHM)のAplidin(plitidepsin)。2016年に難治/再発多発骨髄腫用薬として承認申請されたが、メジアンPFSがdexamethasone比で1ヶ月延びるだけで延命効果は不透明であることから、2018年3月にCHMPが否定的意見をまとめた。欧州裁判所における行政訴訟や上訴審を経て、24年に欧州委員会が審査に関与した専門家の利益相反を認め、EMAに再審査を求めた。PharmaMarの再審請求手続きが完了し、今回、再審査が決定した。

    【承認】


    Susvimoが糖尿病性網膜症に適応拡大
    (2025年5月22日発表)

    ロシュはFDAがSusvimo(ranibizumab)を糖尿病性網膜症に適応拡大したと発表した。2種類以上の抗VEGF薬に応答した患者に用いる。抗VEGF抗体フラグメントLucentisのインプラント版で、数週毎にリフィルする。今回の用途では9ヶ月毎のリフィルで足りる。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ヌーカラが好酸球性COPDに適応拡大
    (2025年5月22日発表)

    GSKはFDAが抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab)を成人の管理不良な好酸球性COPD(慢性閉塞性肺疾患)に適応拡大したと発表した。好酸球数の閾値が150個/mcLと低く、標準療法である三剤併用治療を受けても増悪する患者の多くに追加投与が可能になる。

    同社は17年に適応拡大申請したが、第3相試験に喘息症患者が紛れ込んだ可能性などから、諮問委員会でも19人中16人が反対し、審査完了通知を受領した。この時の申請は好中球数150mcg/L以上のサブグループ分析に依拠していたが、GSKは300個/mcL以上を対象に追加試験のMATINEEを実施、中重度増悪を偽薬比21%(率比)抑制することを確認した。COPD増悪によるER入室/入院も35%(同)少なかったが、先行解析がフェールしたため統計的に有意とは言えない。

    先例ではRegeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab)が18年に好酸球性喘息症に適応拡大したが、閾値は300個/mcLだった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
    25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
    25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
    25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
    25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    25/7推アッヴィのRinvoq(upadacitinib、巨細胞動脈炎追加)
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
    25/7推バイオジェンのSpinraza(nusinersen、用量等追加)
    25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    25/7/12第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)



    今週は以上です。

    2025年5月17日

    第1207回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • EMA、今冬のCOVID-19ワクチンにLP.8.1株を推奨 
    • キイトルーダの卵巣癌試験が成功 
    • 心ミオシン阻害剤の実薬対照試験が成功 
    • ノボ、週一回皮下注用成長ホルモンを3疾患に適応拡大申請 
    • Tavere社、FilspariをFSGSに適応拡大申請 
    • インサイトの抗PD-1抗体が肛門管癌に適応拡大 
    • アッヴィのADCが承認 
    • MSDのHIF-2アルファ阻害剤がPPGLに適応拡大 
    • FDAがcetirizineの稀だが深刻な離脱症状を警告 
    • 米国も高齢者のIxchiq接種を停止へ 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    EMA、今冬のCOVID-19ワクチンにLP.8.1株を推奨
    (2025年5月16日発表)

    EMAのETF(非常事態タスク・フォース)は25/26年シーズンのCOVID-19ワクチンにLP.8.1株抗原を配合するようメーカーに求めるよう推奨した。現行のJN.1株またはKP.2株ベースのワクチンで良しとするWHOと見解が分かれた。

    LP.8.1株はオミクロンJN.1系統の変異株で、受容体結合親和性が高く、感染やワクチン接種による免疫から逃避する能力も高い。MC.10などの新規変異株と比べても増殖有意性を持つ。米国では4月27日の週の感染例の7割を占めた(CDC推定)。欧州でも増加している。

    対応ワクチンが導入されるまでは現在承認されているワクチンの使用を容認する。

    米国政府は新規変異株対応COVID-19ワクチンの承認に際して大規模な偽薬対照試験を求める可能性が浮上してきている模様だが、ETFは現行の試験で十分と評価している。

    リンク: EMAのプレスリリース
    リンク: EMAの説明資料

    【新薬開発】


    キイトルーダの卵巣癌試験が成功
    (2025年5月15日発表)

    MSDはKeytruda(pembrolizumab)が第3相白金抵抗性卵巣癌試験の中間解析で主目的を達成したと発表した。データは未発表。卵巣癌領域で初めて適応拡大申請に向かうのではないか。

    この日本の施設も参加したKyeNote-B96/ENGOT-ov65試験は、paclitaxel(bevacizumab追加可)をベースにKeytruda 400mgの3週毎最大18回点滴静注を追加する群と偽薬を追加する群のPFS(無進行生存期間、独立データ監視委員会査読)を比較した。PD-L1陽性(CPS≧1)サブグループと全被験者の二つの解析とも成功した。副次的評価項目の全生存期間はCPS≧1サブグループの解析が成功、全体の解析は継続追跡する。

    尚、同社がClinicalTrials.govに届け出た治験登録では本試験の主評価項目は治験医評価に基づくPFSのみとなっており、最近になって変更した、あるいは、適応拡大申請に際して審査機関と別途握ったものと推測される。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: 治験登録(ClinicalTrials.gov)


    心ミオシン阻害剤の実薬対照試験が成功
    (2025年5月13日発表)

    Cytokinetics(Nasdaq: CYTK)は、CK-3773274(aficamten)が第3相MAPLE-HCM試験で主目的を達成したと発表した。データは未発表。

    この心ミオシン阻害剤は左心室流出閉塞を伴う症候性肥大型心筋症用薬として欧米で承認申請中。米国の審査期限は9月26日だったが、4ヶ月も前に3ヶ月延期された。承認申請後に要求されたREMS(リスク評価緩和戦略)を追加提出したことが申請内容の主要な変更と見なされたため。通常の審査期間延長事例は、期限の1~2ヶ月前に追加提出した場合が多く、変な感じだ。

    今回の試験も承認申請時のSEQUOIA-HCM試験と同様に、対象は閉塞性症候性肥大型心筋症、主目的はCPET(心肺運動テスト)に基づくpVO2(最高酸素摂取量)改善作用だが、対照群が偽薬ではなくベータ・ブロッカーのmetoprolol。便益だけでなく忍容性も上回った模様だ。metoprololの運動機能改善作用は確立していないようなので、意義は良く分からない。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    ノボ、週一回皮下注用成長ホルモンを3疾患に適応拡大申請
    (2025年5月12日発表)

    ノボ ノルディスクはSogroya(somapacitan)の第3相REAL8バスケット試験のデータを学会発表すると共に、4月に欧米で適応拡大申請していたことを明らかにした。SGA(低出生体重児)、ISS(特発性低身長症)、NS(ヌーナン症候群)の3疾患の思春期前患者で身長ベロシティがsomatropin一日一回皮下注群と同等又はそれ以上だった。

    どちらも遺伝子組換え型成長ホルモン製剤。SGAサブグループでは身長ベロシティ年率が11.0cmとなりsomatropin高量群の11.1cmと非劣性、低量群の9.4cm比優越性だった。ISSでは両群10.5cmで非劣性、NSでは10.4cm対9.2cmで優越性が示された。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: ヌーナン症候群の解説(難病情報センター)


    Tavere社、FilspariをFSGSに適応拡大申請
    (2025年5月13日発表)

    Tavere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)は、Filspari(sparsentan)をFSGS(巣状分節状糸球体硬化症)の治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。審査期限は26年1月13日。FDAは諮問委員会上程を計画している。

    23年に米国で、24年にはEUでもIgA腎症治療薬として承認された、アンジオテンシンIIタイプ1受容体とエンドテリンA受容体のアンタゴニスト。ブリストル マイヤーズ スクイブのBMS-346567を、変遷を経て、Ligand Pharmaceuticalsからライセンスした。

    主エビデンスは8歳以上の原発性FSGS患者371人を組入れた第3相DUPLEX試験。主評価項目であるeGFR(推算糸球体濾過量)は対照薬のirbesartanを有意に上回らなかった。副次的評価項目の蛋白尿は減少率が有意に上回ったが、FDAはそれだけでは不十分との見解を示していたので、申請が受理されたのは取り敢えず朗報。一方、優先審査指定されなかったのは当方に載っては失望的。諮問委員会招集は、少なくともFDA上の位置づけは審査担当者が専門家とかけ離れた評価をしないよう牽制するためのものなので、良くもあり悪くもある。

    FSGSは腎臓の糸球体硬化により腎機能が進行性に低下する。欧米の患者数は各4万人。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    インサイトの抗PD-1抗体が肛門管癌に適応拡大
    (2025年5月15日発表)

    FDAはインサイト(Nasdaq:INCY)のZynyz(retifanlimab-dlwr)を成人の切除不能局所再発/転移肛門管扁平上皮腫に適応拡大した。一次治療にはcarboplatin及びpaclitaxelと併用し、白金薬ベース化学療法に進行した、または、不耐の患者には単剤投与する。前者はPODIUM-303/InterAACT 2試験(308人)でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が9.3ヶ月とZynyzの代わりに偽薬を併用した対照群の7.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.63だった。全生存期間の中間解析は所定の閾値に達していないが、ハザードレシオ0.70、メジアン値は29.2ヶ月対23.0ヶ月と好ましい方向を指しており、偽薬群の45%が進行後にZynyzにクロスオーバーしたことも考えれば中々のものだ。

    後者のエビデンスは21年に新薬承認申請した時と同じ第2相POD1UM-202試験。cORR(確認客観的反応率、独立評価委員会方式)が14%、メジアン反応持続期間は9.5ヶ月だったが、前回は、FDAも諮問委員会も、それだけでは延命またはそれに準じる便益に繋がるとは限らないとして、挙証不十分と判定した。

    ZynyzはMacroGenicsからライセンスした抗PD-1抗体。23~24年に米欧で転移/難治局所進行性メルケル細胞腫用薬として承認された。

    リンク: FDAのプレスリリース


    アッヴィのADCが承認
    (2025年5月14日発表)

    アッヴィはFDAがEmrelis(telisotuzumab vedotin-tllv)を加速承認したと発表した。成人の治療歴のあるc-MET過剰発現型局所進行/転移非扁平上皮非小細胞性肺癌に1.9mg/kgを2週毎点滴静注する。第2相LUMINOSITY試験(該当症例は84人)でORR(客観的反応率)が35%、メジアン反応持続期間は7.2ヶ月だった。警告・事前注意事項は末梢神経症、間質性肺疾患/肺臓炎、眼表面疾患、点滴関連反応、胚胎毒性。コンパニオン診断薬として承認されたロシュのVENTANA MET (SP44) RxDxアッセイで染色検査して、50%以上の腫瘍細胞で3+(強度)であった場合にc-MET過剰発現と判定される。EGFR変異を持たない非扁平上皮非小細胞性肺癌の25%が該当するようだ。

    非小細胞性肺癌は様々な薬が選択肢になりうるので使い分けや順番に関する情報が重要だ。cMET過剰発現とEGFR変異は多くの場合排他的なようなので、EGFR阻害剤とは棲み分けそうだ。上記試験の被験者の96%は白金薬、82%は抗PD-(L)1抗体の使用歴を持っているので、少なくともエビデンス上は、これらの薬の後に使うことになるだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    MSDのHIF-2アルファ阻害剤がPPGLに適応拡大
    (2025年5月14日発表)

    FDAはMSDのWelireg(belzutifan)を12歳以上の、手術や治癒的治療が適さない局所進行、切除不能、または転移性の、PPGL(褐色細胞腫・傍神経節腫)に適応拡大した。120mg(但し体重40kg未満の小児は80mg)を一日一回、経口投与する。72人を組入れた第2相試験でORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が26%、メジアン反応持続期間は20.4ヶ月だった。有害事象は貧血、疲労、筋骨格痛、リンパ球減少、肝機能検査値異常など。

    21年に米国で、今年2月にはEUでも加速/条件付き承認された経口HIF-2アルファ阻害剤。米国では即時手術が不要なVHL(フォン・ヒッペル・リンドウ)病関連腎細胞腫や中枢神経系血管芽細胞腫、膵神経内分泌腫瘍、そして23年には抗PD-(L)1抗体とVEGFチロシン・キナーゼ阻害剤歴のある進行腎細部腫にも、承認された。日本でもVHL病関連腫瘍に承認申請中。

    今回のPPGLは希少な副腎疾患で、米国では年2000人世界では52800人が発症すると推測されている。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    FDAがcetirizineの稀だが深刻な離脱症状を警告
    (2025年5月16日発表)

    FDAは、抗ヒスタミンcetirizineとその異性体薬levocetirizineを長期服用後に中止して深刻な掻痒を発症した症例があるため、メーカーに添付文書の改訂を求める。アレルギー性鼻炎の代表的な治療薬の一つで、米国では2022年にOTC版が6270万箱販売され、処方薬は930万枚、処方されているため、発生頻度はごく稀と言えるのでないか。

    FDAの有害事象報告システムには離脱後掻痒症例が17~23年に209件、届出された。過半はOTC版を使用していた。多くは数年に亘り毎日服用しており、服用期間が長いほど報告数が増える様子が見られるが、1週間だけの患者もいた。発症は中止の1~5日後。服用開始前には掻痒の経験はなかった。痛みが酷くて寝たきりになるなど深刻例もあった。発症後に服用を再開した79人のうち71人は掻痒が解消した。その後に再び中止した症例では再発リスクが見られ、用量漸減により再発を防げた症例もあった。これらのことから、FDAは、機序は不明だが因果関係があると判定した。

    リンク: FDAの安全性情報


    米国も高齢者のIxchiq接種を停止へ
    (2025年5月12日発表)

    FDAとCDC(疾病管理予防センター)は、フランスのValneva(Euronext Paris:VLA)のチクングニア熱弱毒化生ワクチン、Ixchiqに関して、60歳以上の接種を停止するよう推奨すると発表した。EUでもEMA(欧州薬品庁)が5月5日付で65歳以上に接種しないよう暫定的な勧告を行っている(第1206回で報告)。

    チクングニア熱はネッタイシマカやヒトスジシマカなどのヤブカによって媒介されるチクングニアウイルス感染症。アフリカや南アジア、東南アジアで流行が見られる。死亡率は高くないが、インド洋のフランス領Reunion島では20年前に1年で15万人以上が感染し、237人が死亡したことがある。

    IxchiqはこのRNAウイルスを弱毒化した生ワクチン。23~24年に米欧で承認され、流行地域の居住者や渡航者などに用いられてきた。これまでの出荷は約8万本、接種は約43400回。

    臨床試験でチクングニア様有害反応(筋痛や関節炎など)の発生率が11.7%と偽薬群の0.6%を上回り、重症例だけに絞っても1.6%だったため、FDAは加速承認とし、市販後症例調査を求めた経緯がある。規制強化に踏み切ったのは、神経学的なものや心臓の深刻有害事象が散見されるため。有害事象報告システムに17例が報告され、うち米国は6例、EUは9例(うちReunionで3例)。2人が死亡した。年齢は62~89歳。ワクチンとの関連性は確立していないが、FDAによると、幾つかの症例はチクングニアによる重度感染症と矛盾していない。

    チクングニア熱ワクチンでは、Bavarian Nordic(Nasdaq Copenhagen:BAVA)のアジュバント添加ウイルス様粒子ワクチン、Vimkunyaが今年2月に欧米で承認された。臨床試験のプール分析でチクングニア様有害反応の発生率は0.4%(14人)と、偽薬群の0.3%と大差なかった。殆どの症例は筋痛/関節炎で、G3以上の症例はなかった。Ixchiqと同様に3000人程度の限られた曝露だが、これだけ違うと、Vimkunyaのほうが安心と考えざるを得ない。但し、比較可能かどうか分からないが接種6ヶ月後の抗体陽転率はIxchiqの数値のほうが高い。他の安全性指標の比較も必要だ。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
    25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
    25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
    25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
    25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    諮問委員会
    25/5/20ODAC:ロシュのColumvi(glofitamab、DLBCL 2L追加)とJNJのDarzalex Faspro(daratumumab及びhyaluronidase、くすぶり型多発骨髄腫追加)
    25/5/21ODAC:UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin、胱内注入用、筋層非浸潤膀胱癌)とファイザーのTalzenna(talazoparib、転移性去勢抵抗性前立腺癌<相同組換修復不全型限定解除>)
    25/5/22VRBPAC:25/26COVID-19ワクチンの配合株



    今週は以上です。

    2025年5月10日

    第1206回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • イミフィンジのNMIBCアジュバント試験が成功 
    • GSK、iBAT阻害剤のPBC掻痒治療試験が成功 
    • エンハーツの早期乳癌術前療法試験が成功 
    • Aldeyra社、再々申請用試験が成功 
    • ビレーズトリの喘息症試験が成功 
    • エプキンリの濾胞性リンパ腫試験が成功 
    • Lantheus社、PSMA標的放射性核種の開発を断念 
    • ノボ、経口GLP-1作用剤を肥満症に承認申請 
    • ヌーカラの適応拡大も遅延 
    • 心ミオシン阻害剤の審査期限が延期 
    • 希少卵巣癌の新薬2剤の併用が承認 
    • EMA:5アルファ還元酵素阻害剤に自殺リスク 
    • EMA、チクングニア熱ワクチンを65歳以上に接種しないよう暫定的勧告 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    イミフィンジのNMIBCアジュバント試験が成功
    (2025年5月9日発表)

    アストラゼネカは抗PL-L1抗体Imfinzi(durvalumab)が第3相POTOMAC試験で主目的を達成したと発表した。ファイザーに続いて承認申請となるのではないか。

    この試験は、NMIBC(筋層非浸潤膀胱癌)のTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)を受けた再発進行リスクの高い患者1018人を組入れて、BCGによる標準療法(導入と維持)に追加する便益を検討した。DFS(高リスク疾患の再発または進行なく生存)に統計的有意且つ臨床的に意味のある改善が示された。数値は未公表。全生存の解析は検出力不足だが悪影響は見られなかった。忍容性は二剤の過去の経験と同様だった。尚、BCGを導入療法だけに抑えてImfinziを追加した群のDFSはフェールした。

    ファイザーは4月にAUA(米国泌尿器学会)で抗PD-1抗体PF-06801591(sasanlimab)が第3相CREST試験で主目的を達成したことを明らかにしている。BCG標準療法に追加した群のEFS(高グレード疾患再発、進行、または持続的CISなく生存)が標準療法群比ハザードレシオ0.68だった。全生存期間は中間解析で両群差がなかった。一方、BCGを導入療法だけに抑えてsasanlimabを追加した群はハザードレシオ1.16でPFSに有意差がなかった。ファイザーは当局に報告済みとのことなので、承認申請を視野に入れているのだろう。

    リンク: アストラゼネカのプレスリリース


    GSK、iBAT阻害剤のPBC掻痒治療試験が成功
    (2025年5月8日発表)

    GSKは昨年11月にGSK2330672(linerixibat)が第3相GLISTENで主目的を達成したことを明らかにしたが、EASD(欧州糖尿病学会)でデータを発表した。欧米中日の施設で成人の中重度胆汁鬱滞性掻痒症を伴う原発性胆汁性胆管炎(PBC)患者238人を組入れて、標準療法に追加する便益を検討したところ、第24週におけるWI-NRS(最大掻痒数値評価尺度、月間、レンジは0-10)がベースライン比2.86低下し、偽薬群の2.15低下を有意に上回った。有害事象は下痢の発生率が61%対18%で上回ったが、胃腸有害事象による治験離脱率は4%対1%未満でそれほど増えていない。

    GSKは欧米で25年上期に申請し米国は年内承認を想定している。欧州、中国、日本でも26年の承認を想定。

    この薬はiBAT(回腸胆汁酸輸送体)阻害剤。他社の類薬が進行性家族性肝内胆汁鬱滞症やアラジール症候群の治療薬として承認されている。

    リンク: GSKのプレスリリース


    エンハーツの早期乳癌術前療法試験が成功
    (2025年5月7日発表)

    第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の早期乳癌ネオアジュバント試験におけるpCR(病理学的完全反応)解析が成功したと発表した。臨床的転帰に関わるEFS(無イベント生存率、副次的評価項目)は未成熟だが良好な早期トレンドは見られるとのこと。

    この第3相DESTINY-Breast11試験は、日本も含むグローバルの施設で、her2陽性の局所進行/炎症性早期乳癌の切除術を予定する、高リスク患者927人を組入れて、標準療法であるddAC-THPレジメン(高強度doxorubicin・cyclophosphamideレジメンを4サイクル施行後にpaclitaxel、trastuzumab及びpertuzumabのTHCレジメンを4サイクル施行)のddACレジメンに代えてEnhertuを4サイクル投与する便益を検討した。pCRは主評価項目で、標準療法群と比べて統計的に有意且つ臨床的に意味のある違いがあった。数値は未発表。

    適応拡大申請するかどうかは言及されていない。FDAはpCRだけで承認することに慎重な姿勢を示したことがある。

    リンク: 両社のプレスリリース


    Aldeyra社、再々申請用試験が成功
    (2025年5月5日発表)

    Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)はADX 102(reproxalap)0.25%点眼液の第3相チャンバー試験で主目的を達成したと発表した。申請前会議を経て25年央にドライアイ治療薬として承認申請する考え。

    22年11月に承認申請したが、FDAがドラフト・ガイダンスで兆候試験(目の赤さなどの改善作用を検討)と症状試験(目の不快感の抑制作用を検討)を二本ずつ実施するよう推奨する中、後者は一本だけだったため、審査完了通知を受領した。24年にチャンバー・クロスオーバー試験を実施、試験薬点眼後にチャンバー室で目に風を当て続け、80~100分後の目の不快感を偽薬群と比較したところ、有意に抑制した。10月に再申請したが、ベースライン値に群間の偏りがあったことなどから、再び審査完了通知を受領した。

    今回の試験はベースライン値の偏りはないとのこと。同社は屋外の試験も実施、数値上改善が見られたため、支持的証跡として提出する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ビレーズトリの喘息症試験が成功
    (2025年5月2日発表)

    アストラゼネカは、Breztri Aerosphere(budesonide、glycopyrronium、formoterol fumarate)の第3相喘息症試験二本で主目的を達成したと発表した。二剤合剤比で統計的に有意且つ臨床的に意味のある優越性を示した。データは未公表。適応拡大申請に向かうだろう。

    コルチコステロイド、長期作用性ムスカリン拮抗剤、長期作用性ベータ2作用剤の吸入用固定用量合剤。19~20年に日米欧でCOPD治療薬として承認された。

    今回の試験は成人と青少年の管理不良喘息が対象で、KALOS試験は日本も参加した。各剤320mcg、28.8mcg、9.6mcgずつを一日二回吸入した。対照群はSymbicort(budesonideとformoterol fumarate を一日二回、320mcgと9mcgずつ吸入する合剤)またはPT009(同じ2剤を320mcgと9.6mgずつAerosphereディバイスで吸入する合剤)を用いた。主評価項目は第24週におけるFEV1(一秒量、0-3時の曲線下面積)と12~24週及び24週のトラフFEV1。

    尚、ClinicalTrials.govに登録された主評価項目は、24週FEV1と二本のプール分析による喘息発作頻度で、異なっている。

    この試験は、glycopyrroniumの用量をCOPDと同じ14.4mcgにした群も設定されているが、主題は28.8mcg採用群とのことで、成績は言及されていない。

    承認後はGSKのTrelegy Ellipta(fluticasone furoate、umeclidinium、vilanterol)と喘息症でも争うことになる。Breztriは朝晩二回ずつ吸入するがTrelegyは一回で足りる。

    リンク: アストラゼネカのプレスリリース


    エプキンリの濾胞性リンパ腫試験が成功
    (2025年5月2日発表)

    ジェンマブは、Epkinly(epcoritamab-bysp)が第3相EPCORE FL-1試験の中間解析で主目的のORR(客観的反応率、独立データ監視委員会査読)を達成したと発表した。数値は未公表。年内に米国で適応拡大申請する考え。共同主評価項目であるPFS(無進行生存期間)の成否には言及していない。おそらく未成熟なのだろう。

    アッヴィと共同開発販売している抗CD3/CD20二重特異性抗体。23年に米欧日で難治/再発性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療などに単剤投与することが承認された。難治/再発性濾胞性リンパ腫でも3次治療にlenalidomide及びrituximabと併用で24~25年に米欧日で承認されているが、今回、この3剤併用の2次治療における効果を検討した。

    リンク: ジェンマブのプレスリリース


    Lantheus社、PSMA標的放射性核種の開発を断念
    (2025年5月7日発表)

    Lantheus(Nasdaq:LNTH)はPNT2002の第3相転移去勢抵抗性前立腺癌試験結果についてアップデートすると共に、これ以上の投資や承認申請を行わないと発表した。イーライリリーも少なくともこの用途は断念するのではないか。

    PNT2002はPSMAを標的にlutetium 177でベータ線を照射する放射性医薬品。22年にPOINT Biopharma(23年にイーライリリーに買収された)から世界独占商業化権(アジアの一部を除く)を取得した。今回のSPLASH試験はアンドロゲン受容体パスウェイ阻害剤(ARPI:abirateroneなど)に応答せず化学療法不適/拒否の患者412人を試験薬群と別のARPIにスイッチする群に2対1無作為化割付けして、PFS(放射線学的無進行生存期間)を比較したところ、ハザードレシオが0.71となり有意に上回った。ところが、全生存期間の46%開票時点の解析は1.11、進行後にクロスオーバー(PNT2002による治療を施行)した症例を調整後でも1.14と見劣りしていた。75%開票時点でも、今回の最終解析でも、同じような結果になった模様だ。

    ノバルティスの類薬であるPluvicto(lutetium 177 vipivotide tetraxetan)は22年に同様な試験で主目的のPFSが成功したが、FDAが延命効果に注目していたため解析結果が出るのを待って24年に申請、25年に適応拡大が認められた経緯がある。全生存期間のハザードレシオは0.91で別のARPIにスイッチした群と有意差がなかった。偽薬群の過半が進行後にクロスオーバーしたことも影響したようだ。類似前例では、実薬対照試験でこの程度の点推定値なら有意差がなくても承認を取れたことになる。今回は1.1程度なので0.2ポイント程度の差に過ぎないが、大きな違いとなった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    ノボ、経口GLP-1作用剤を肥満症に承認申請
    (2025年5月2日発表)

    ノボ ノルディスクの米国法人はWegovy(semaglutide)の25mg経口錠を肥満症薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。10~12月期に審査結果が出る見込み。

    GLP-1作用剤semaglutideは米欧日で皮下注用製剤がWegovyやOzempic名で肥満症や二型糖尿病向けに承認され、経口剤も二型糖尿病用薬Rybelsusとして19~20年に米欧日で承認されているが、今回は倍量を一日一回投与する。適応・効能は成人の肥満症や一つ以上の併発疾患を持つオーバーウェイトにおける体重管理と、確立した心血管疾患も伴う患者における主要有害心血管事象の抑制。エビデンスはOASIS 4試験とのことだ。

    リンク: ノボの米国法人のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    ヌーカラの適応拡大も遅延

    第2次トランプ政権発足以降、PDUFA(処方薬申請者課金法)に基づき設定される承認審査期限までにFDAから回答が来ない事例が散見されるようになった。Novavax社のCOVID-19ワクチンNuvaxoid(本承認切替)、Stealth BioTherapeuticsのバース症候群用薬elamipretideに続き、各種報道によると、GSKの抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab)も好酸球性COPDの適応拡大審査が5月7日の期限に至っても音沙汰ないようだ。

    PDUFA法は承認審査にかかわる経費の一部を承認申請者に負担させる一方で、審査期間に縛りを設けた。Nucalaの場合、申請受理から6ヶ月間と推測される。期限は必達ではなく、年度の承認申請件数の90%以上を期限内に審査終了することが、目標になっている。過去には90%を割った年度もあるので、今回が特に異常ということでもないが、FDA首脳陣や上部組織であるHHS(米国保健福祉省)の長官の交代、あるいはFDAの大規模な人員削減と、無関係とは考えにくい。

    そういえば、大塚製薬がPTSD(トラウマ後ストレス障害)に効能追加申請したRexulti(brexpiprazole)も審査期限の2月8日から大幅に超過している。諮問委員会に上程することになったためとのことだったが未だに開催が発表されていない。どうなったのだろうか?


    心ミオシン阻害剤の審査期限が延期
    (2025年5月1日発表)

    米国カリフォルニア州のCytokinetics(Nasdaq: CYTK)は心ミオシン阻害剤CK-3773274(aficamten)を閉塞性閉塞性肥大型心筋症用薬として欧米などで承認申請中だが、米国は審査期限が25年12月26日に3ヶ月延期された。FDAの要請に基づきREMS(リスク評価緩和戦略)を提出したことが申請内容の主要な変更と見なされたため。審査期間延長は珍しくはないが、今回は異例だ。事前会議を踏まえて昨年9月にREMS無しで申請し受理されたのに、今になって要請された。期限まで4ヶ月以上残っているのに延期も珍しい。

    こちらも、第2次トランプ政権がFDA職員の大規模なリストラを実施したことや、これまでの薬効審査や安全性評価の方法に批判的な人たちがHHS(米保険福祉省)やFDAのトップに就任したことが影を落としているのでは二かと思われる。

    REMSの具体的な内容は不明。aficamtenは第3相SEQUOIA-HCM試験でpVO2(最高酸素摂取量)やKCCQ-CSS症状評価尺度などが有意に改善した一方で、3.5%(5人)の患者で左室駆出率(LVEF)が50%未満に低下したり、4.9%(7人)でLVEF低下による用量減が発生したことに関するものかもしれない。

    競合薬となるBMSのCamzyos(mavacamten)もREMS関連の資料を追加提出したことから審査期限の2ヶ月前に延期通告を受け、22年4月に承認された。REMSの内容は心不全リスクで、投与開始前や治療中にLVEFを検査して50%未満なら投与しないというもの。第3相EXPLORER-HCM試験では6%(7人)で50%未満に低下した。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    希少卵巣癌の新薬2剤の併用が承認
    (2025年5月8日発表)

    FDAはVerastem Oncology(Nasdaq:VSTM)のAvmapki・Fakzynjaコ・パック(avutometinib、defactinib)を成人の全身性治療歴のあるKRAS変異陽性難治低グレード漿液性卵巣癌用薬として承認した。この適応を持つ薬は初めて。審査期限より2ヶ月近く早く、すべての薬の審査が長期化しているわけではないことになる。

    avutometinibは中外製薬からライセンスしたRAFとMEKの阻害剤。0.8mgカプセル4個を、週2回経口投与する。defactinibはファイザーからライセンスしたFAK阻害剤。200mg錠を一日二回経口投与する。どちらも4週サイクルで、3週間反復投与し1週間休む。MEKを阻害するとリンFAK経路が代わりに活性化されることがあるため、併用でシナジーを生むアイディアだ。第2相RAMP 201試験でcORR(確認客観的奏効率、盲検独立中央評価、n=57)が44%、反応持続期間のレンジは3.3~31.1ヶ月だった。警告・事前注意事項は視覚異常、深刻皮膚毒性、肝毒性、横紋筋融解症、胚胎毒性。

    低グレード漿液性卵巣癌の患者数は米国で6000~8000人、世界で8万人と推定され、うち3割程度がKRAS変異型と推定されている。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    EMA:5アルファ還元酵素阻害剤に自殺リスク
    (2025年5月8日発表)

    EMA(欧州薬品庁)は、PRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)が自殺思慮を5アルファ還元酵素阻害剤finasterideの副作用として認めたと発表した。便益のほうが上回るため承認は維持するが、レーベルを改訂し、DHPC(直接的医療従事者連絡)を発出する。類薬であるdutasterideのレーベルにも関連情報を記載する。

    finasterideはMSDが1mgを脱毛症治療薬として、5mgを良性前立腺肥大治療薬として実用化し、今では多くのGE品が販売されている。EUの市販後監視システムであるEudraVigilanceには313件の自殺思慮に関する疑い例/可能例が報告された。頻度は不明とのことだが、推定曝露は2.7億人年とのことなので極めて稀だ。自殺思慮や鬱病などの気分変調は従来から警告されているが、自殺思慮症例の多くを占める1mg製剤のレーベルに、発生したら服用を止めること、性欲低下や勃起不全など前兆の可能性がある症状が発生したら医師に相談することなどを記述し患者カードも用意する。尚、皮膚スプレー用の製品は関連性が見られないため対象外。

    dutasterideは0.5mgが良性前立腺肥大治療薬として承認されている。自殺思慮報告は13件と少ない。推定曝露は8200万人年。因果関係は確立していないが作用機序が同じなので、レーベルにfinasterideで散見されるリスクを記載する。

    MSDのPropeciaやGSKのAvodartの米国におけるレーベルには自殺思慮に関する記載はない。

    リンク: EMAのプレスリリース


    EMA、チクングニア熱ワクチンを65歳以上に接種しないよう暫定的勧告
    (2025年5月5日発表)

    EMA(欧州薬品庁)のPRAC(ファーマコビジランス・リスク評価委員会)とETF(エマージェンシー・タスク・フォース)は、フランスのValneva(Euronext Paris:VLA)のチクングニア熱弱毒化生ワクチン、Ixchiqを接種した患者の一部で深刻有害事象が発生した件について検討を開始する共に、暫定的に、65歳以上に接種しないよう勧告した。DHPC(直接的医療従事者連絡)を発出する考え。

    Ixchiqは23年に米国で加速承認され、24年にEUで、25年には英国でも、承認された。18歳以上に一回接種した第3相では28日における防御的中和抗体獲得率が98.5%(95%信頼区間98.5%)だった。重度チクングニア様有害事象の発生率が1.6%と偽ワクチン群の0%を上回り、入院例もあったことから、FDAは市販後に観察的試験等を行うよう求めた。

    今年に入って、2月にCDC(米国疾病予防管理センター)が米国で65歳以上の5人が接種後に心臓/神経学的事象で入院したことを検討すると発表した。4月のACIP(ワクチン接種委員会)では継続調査と接種勧奨の両方が支持された。欧州では4月にHAS(フランスの高等保険機構)が65歳以上の接種停止を決めた。チクングニアが流行しているインド洋のフランス領ReunionとMayotteで接種キャンペーンを行ったところ、前者(約6400人に接種)で深刻有害事象が6例発生し、うち5人が入院、一名は死亡したため(ワクチンとの関連性は確立していない)。

    今回のEMA発表によると、世界で17件の深刻有害事象が報告されている。年齢は62歳から89歳。致死例は接種キャンペーンが進められているフランス領La Réunionの2名。84歳男性が脳炎を発症後に、77歳の男性パーキンソン病が嚥下性肺炎後に、物故した。同島では約6400人、世界では43400人が接種を受けている。

    EMAは、臨床試験症例は専ら65歳未満であるのに対して、深刻有害事象報告は65歳以上が圧倒的多数であるため、暫定的に65歳以上の接種を禁止することを決めた。

    また、SmPC(製品仕様書)に記載されているように病気や治療により免疫力が低下/抑制されている人は禁忌であることもリマインドした。

    尚、米国の症例は全員回復したとのことだ。

    リンク: EMAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
    25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
    25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
    25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
    25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    諮問委員会
    25/5/20ODAC:ロシュのColumvi(glofitamab、DLBCL 2L追加)とJNJのDarzalex Faspro(daratumumab及びhyaluronidase、くすぶり型多発骨髄腫追加)
    25/5/21ODAC:UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin、胱内注入用、筋層非浸潤膀胱癌)とファイザーのTalzenna(talazoparib、転移性去勢抵抗性前立腺癌<相同組換修復不全型限定解除?>)
    25/5/22VRBPAC:25/26COVID-19ワクチンの配合株


    今週は以上です。

    2025年5月2日

    第1205回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • COVID-19ワクチンに朗報、しかし新たな懸念も 
    • ファイザー、抗PD-1抗体の膀胱癌術前術後投与試験が成功 
    • AACR:BIのher2阻害剤の治験成績 
    • AACR:キイトルーダの頭頚部癌付随療法試験が成功 
    • アストラゼネカ、トルカプの第3相通算成績が二勝二敗に 
    • ノバルティス、蕁麻疹用btk阻害剤を承認申請 
    • Telixの脳腫瘍造影剤は承認されず
    • モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの承認が遅延へ 
    • バース症候群用薬の承認がまたまたまた遅延 
    • JNJの筋無力症用薬が承認 
    • 劣性栄養障害型表皮水疱症の遺伝子療法が承認 
    • リンヴォックが巨細胞動脈炎に適応拡大 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    COVID-19ワクチンに朗報、しかし新たな懸念も
    (2025年4月24~30日発表)

    第2次トランプ政権でワクチンなどの安全性に懐疑的な医学者が公衆衛生を担う主要官庁のトップに就任して以来、方針転換の動きが活発化しているか、無事にやり過ごせそうな事例も出始めた。

    Novavax(Nasdaq:NVAX)は、COVID-19ワクチンの本承認切替申請がなかなか認められないが、市販後試験の要請を受け回答したとのこと。承認審査手続きが最終段階に入ったのだろう。

    更に、Vaxart (Nasdaq:VXRT)の経口COVID-19ワクチンも後期第2相試験を再開できそうだ。BARDA(生物医学先端研究開発局)などの政府補助金を得て昨年9月に開始したが、今年2月に事業中止命令(Stop work order)を受領した。撤回/変更されない限り90日以内に終了するはずだったが、このたび、撤回通知を受領した。当初の予定通り、KP.2対応品を用いて1万人規模のmRNAワクチン対照感染予防試験を開始する考え。

    一方で、新たな懸念材料も浮上した。CNNなどの報道によると、ケネディFDA長官のイニシアティブで、新規ワクチンの開発に際して偽薬対照安全性確認試験の実施が求められることになった。近年の画期的ワクチンは数万人規模の偽ワクチン対照試験が実施されたが、開発中のCOVID-19ワクチンのように大規模な偽ワクチン対照試験を実施するのが倫理に反する可能性がある場合は、Vaxartのように既存ワクチン対照試験を行ったり、Novavaxのように配合株を変えただけの場合は免疫原性試験だけしか実施しない場合もある。NovavaxはEUA(非常時使用認可)を既に取っているので深刻な問題ではないが、ファイザーやモデルナを含め、25/26年シーズン用の開発に影響する可能性がありそうだ。

    リンク: Novavaxのプレスリリース
    リンク: Vaxartのform 8-K(4/24付)
    リンク: CNNの報道(4/30付)

    【新薬開発】


    ファイザー、抗PD-1抗体の膀胱癌術前術後投与試験が成功
    (2025年4月26日発表)

    ファイザーは1月に皮下注用抗PD-1抗体PF-06801591(sasanlimab)が第3相CREST試験で主目的を達成したと発表したが、AUA(米国泌尿器学会)で具体的な内容を公表した。欧米中日などの施設で実施された筋層非浸潤性膀胱癌の摘出術付随療法試験で、パートAではBCG歴を持たない患者を組入れて、BCGと同薬を術前術後合わせて25回ずつ投与する併用群のEFS(再発進行などが発生せず生存、担当医評価)をBCGによる標準療法と比較した。

    結果は、ハザードレシオが0.68、両側p=0.019だった。両群ともメジアンには未達、36ヶ月EFS率は82.1%対74.8%で7ポイント程度の差があった。腫瘍が上皮下結合組織まで及ぶT1ステージのサブグループでも、上皮内腫瘍(CIS)サブグループでも、ハザードレシオは0.6前後で95%上限は1を下回っている。但し、副次的評価項目である全生存期間の中間解析では差が見られなかったとのこと。

    尚、パートAではBCGを術前だけに抑えて試験薬の術前術後療法を追加した群も設定されたが、ハザードレシオ1.16で標準療法を上回ることはできなかった。また、この試験ではBCG不応患者に単剤投与するパートBも設定されたが、22年に安全性以外の理由で打ち切られた。2020年に米国でKeytruda(pembrolizumab)が適応拡大した余波かもしれない。

    結果は当局に報告したとのこと。反応が良ければ承認申請する考えのようだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    AACR:BIのher2阻害剤の治験成績
    (2025年4月28日発表)

    ベーリンガー・インゲルハイムは2月に日米などでher2チロシン・キナーゼ阻害剤BI 1810631(zongertinib)を成人の全身性治療歴のあるher2陽性切除不能/転移非小細胞性肺癌向けに承認申請し、米国では優先審査指定されたが、エビデンスとなる後期第1相試験、Beamion LUNG-1の成績をAACR(米国癌学会)とNew England Journal of Medicine誌でアップデートした。her2チロシン・キナーゼ・ドメインに変異のある患者を組入れたコフォートのうち、コフォート1の120mg投与例75人では、cORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が71%、メジアン反応持続期間は14.1ヶ月だった。完全反応率は7%。17%の患者でG3以上の薬物関連有害事象が発生した。一方、抗her2抗体薬物複合体歴のある患者31人のコフォート5ではcORRが48%だった。被験者の3%でG3以上の薬物関連有害事象が発生した。このコフォートは当初、240mgを採用したが、コフォート1で120mgのほうが成績が良かったため、その後の新規患者には120mgを投与した。

    her2チロシン・キナーゼ・ドメイン以外に変異のある患者20人を組入れたコフォート3ではORRが30%(担当医評価ベース)、25%の患者でG3以上の薬物関連有害事象が発生した。

    リンク: BI社のプレスリリース
    リンク: Heymachらの治験論文抄録(NEJM)


    AACR:キイトルーダの頭頚部癌付随療法試験が成功
    (2025年4月27日発表)

    MSDは、昨年10月、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)が第3相Keynote-689試験の第一次中間解析で主目的を達成したと発表したが、データをAACRで公表した。ステージIII/IV切除可能局所進行性HNSCC(頭頚部皮膚扁平上皮腫)の新患714人を組入れて、術後放射線療法(高リスク患者はcisplatinも)を施行する標準療法に、Keytrudaによる術前術後療法(200mgを3週毎に術前は2回、術後は最大15回)を追加する便益を検討したもので、EFS(無イベント生存期間)のハザードレシオがPD-L1高発現(CPS≧10)サブグループでは0.66、PD-L1陽性(CPS≧1)全体では0.70、陰性等を含むintent-to-treatベースでは0.73となり、全てp<0.01だった。尚、メジアン値は最初の二つの解析はどちらも59.7ヶ月対標準療法群29.6ヶ月、ITTでは51.8ヶ月対30.4ヶ月。

    副次的評価項目である全生存期間は、順位が最上位のCPS≧10サブグループのデータが中間解析の閾値に達しなかった。但し、報道によるとハザードレシオ0.72、95%上限0.98とのことなので、好ましい方向を指している。ITTベースも含め、最終解析が楽しみだ。

    G3以上の治療関連有害事象の発生率は44.6%対42.9%でそれほど変わらない。致死的な治療関連有害事象発生率は1.1%対0.3%だった。

    同社は日米などで適応拡大申請中。

    リンク: MSDのプレスリリース


    アストラゼネカ、トルカプの第3相通算成績が二勝二敗に
    (2025年4月29日発表)

    アストラゼネカは、Truqap(capivasertib)の第3相CAPItello-280試験を中止すると発表した。中間解析で無益認定されたため。転移去勢抵抗性前立腺癌にアンドロゲン枯渇剤やdocetaxelと併用する便益を検討したが、果たせなかった。

    この汎AKT阻害剤は23~24年に米日欧で成人のホルモン受容体陽性、her2陰性の局所進行/転移乳癌で、PIK3CAなどに変異があり、転移後治療歴またはアジュバント療法完了後1年以内に再発した患者向けに承認された。適応拡大ではトリプル・ネガティブ乳癌の一次治療試験が実施されたが24年にフェール。一方、前立腺癌のCAPItello-281試験では診断当初からPTEN欠乏性の転移ホルモン感受性前立腺癌に併用でPFS(無進行生存期間、放射線学的評価)を有意に伸ばすことができたことが昨年11月に発表された。朗報と失望的な発表が代わりばんこになっている。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    ノバルティス、蕁麻疹用btk阻害剤を承認申請
    (2025年4月29日発表)

    ノバルティスは、25年第1四半期決算の発表に合わせて、米欧中国で選択的btk阻害剤LOU-064(remibrutinib)をCSU(慢性特発性蕁麻疹)用薬として承認申請したことを明らかにした。米国は優先審査バウチャを用いたため今年下半期に審査結果が判明する見込み。日本でも第3相試験中。CSUのほかに多発性硬化症でも第3相段階。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    Telixの脳腫瘍造影剤は承認されず
    (2025年4月28日発表)

    オーストラリアのTelix Pharmaceuticals(ASX:TLX)は米国でTLX101-CDx(floretyrosine F18)を神経膠芽腫のPET造影剤として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。追加的な薬効確認試験の実施を求められた。詳細は不明。

    リンク: 同社のプレスリリース


    モデルナ、COVID-19・インフルエンザ混合ワクチンの承認が遅延へ
    (2025年5月1日発表)

    モデルナは、2025年第1四半期決算発表に合わせて、米国で24年に承認申請したmRNA-1083(次世代COVID-19ワクチンmRNA-1283と新規季節性インフルエンザワクチンmRNA-1010の混合mRNAワクチン)について、承認が26年にずれ込む見込みであることを明らかにした。優先審査バウチャを用いて25/26年シーズン前のロンチを図ったが、インフルエンザ・ワクチンの第3相で予防効果を確認するよう求められた。

    mRNA-110は第3相免疫原性試験が成功したが、同社は混合ワクチンの承認申請を優先していた。一方、mRNA-1283は、第3相免疫原性試験で既承認のCOVID-19ワクチン、mRNA-1273を有意に上回り、順調なら5月31日までに承認される見込みだが、上記のように、FDAが偽薬対照安全性確認試験を求める可能性がある点がリスク要因だ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    バース症候群用薬の承認がまたまたまた遅延
    (2025年4月29日発表)

    米国マサチューセッツ州のStealth BioTherapeuticsはMTP-131(elamipretide)をバース症候群の治療薬として米国で承認申請しているが、可否回答が遅れる旨の通知を受けた。元々at risk申請であり、FDA上層部の交代もあったので、審査が順調に進まなくてもやむを得ない。

    バース症候群はX染色体上のTAZ遺伝子の変異によりミトコンドリアにおけるエネルギー生成が低下、心臓疾患や白血球減少症、運動障害などを合併する。米国で150人程度、世界では250人程度が罹患と推定されている。MTP-131はミトコンドリアを標的とするペプチド(MTP)。cardiolipinに結合しミトコンドリア膜の構造を正常化するとされる。

    12歳以上の患者12人を組入れて40mgを一日一回、12週間皮下注射した第2/3相TAZPOWER試験で、試験薬群の6分歩行テスト成績がベースライン値の400mから443mに改善したが、偽薬群も412mから443mに改善したため、有意差が見られなかった。BTHS-SA(バース症候群症状評価)総合疲労スコアも大差なかった。

    会社側はこの試験とオープン・レーベル延長試験のデータを自然歴(n=19)と比較するSPIBA-001試験で6分歩行テスト改善効果を確認し、FDAが推奨した再試験実施は困難であることから、患者支援組織が集めた署名とともに、21年8月に承認申請を断行した。受理されなかったが、FDAが他の超希少疾患用薬に関して承認申請のハードルを引き下げたことに意を強くしたか、24年1月に改めて承認申請すると今度は受理された。当初は標準審査、後に優先審査指定されたが審査期限は変更されなかった。

    24年10月の諮問委員会では16人の委員中10人が薬効を支持した。いよいよと思われたが審査期限が4月29日に延期、今回、更に遅延することになった。

    2019年にAmerican Society of Human Geneticsの年次総会でTAZPOWER試験の非盲検延長試験における左室一回拍出量スタディの結果が発表されていたようだ。おそらく、TAZPOWER試験自体はその時点ではフェールが判明していただろう。もし再試験を行っていたら、22年位には成否が判明し成功なら承認申請を経て23~24年には承認されていただろう。資金力の弱いバイオ企業ではしばしば見られる現象だが、もし開発主体がビッグファーマだったら、この薬の、そして患者の、命運は変わっていただろう。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    JNJの筋無力症用薬が承認
    (2025年4月30日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Imaavy(nipocalimab-aahu)が12歳以上のgMG(全身性筋無力症)の治療薬としてFDAに承認されたと発表した。AChR(アセチルコリン受容体)やMuSK(筋特異的チロシン・キナーゼ)に対する抗体を持つ患者が適応になる。欧日でも承認申請中。湿式自己免疫性溶血性貧血症やHDFN(胎児・新生児溶血性疾患)、シェーグレン症候群、そして慢性炎症性脱髄性多発神経炎でも第3相や第2/3相試験中。

    20年にMomenta Pharmaceuticalsを65億ドルで買収して入手した、胎児性Fc受容体に結合する糖鎖除去・イフェクターレスIgG1型抗体。第3相試験で15mg/kg(但し初回は倍量)を24週に亘り2週毎点滴静注したところ、主評価項目(AChR、MuSK、そしてLRP4に対する自己抗体を持つサブグループにおけるMG-ADL(筋無力症日常生活機能評価)の改善)が4.70点と偽薬群の3.25点を有意に上回った。2~17歳の患者を組入れた第2/3相単群試験では免疫グロブリン量が大きく減少した。尚、上記のように承認範囲はこれらの試験よりやや小さくなっている。

    gMGは新薬が輩出しており、胎児性Fc受容体標的薬ではargenxのVyvgart(efgartigimod alfa-fcab)とUCBのRystiggo(rozanolixizumab-noli)が、UCBはC5インヒビターのZilbrysq(zilucoplan)も、日米欧で承認されている。

    リンク: JNJのプレスリリース


    劣性栄養障害型表皮水疱症の遺伝子療法が承認
    (2025年4月29日発表)

    米国オハイオ州クリーブランドのAbeona Therapeutics(Nasdaq:ABEO)は、Zevaskyn(prademagene zamikeracel)が成人・小児の劣性栄養障害型表皮水疱症(RDEB)の治療薬としてFDAに承認されたと発表した。患者のケラチノサイトやその前駆細胞にex vivoでCOL7A1遺伝子を導入してシート化した製品を、焼灼した創傷床に分解性縫合糸で固定するもの。第3四半期にロンチする予定。希少小児疾患優先審査バウチャを取得、売却する考え。

    栄養障害型表皮水疱症は真皮と表皮をつなぐ係留線維の構成物である7型コラーゲンのCOL7A1遺伝子に機能喪失変異をもち、皮膚に水疱や糜爛が生じやすい。米国の推定患者数は3000人。

    第3相VIITAL試験で11人の患者の複数の病変をZevaskynで治療したところ、奏効率(6ヶ月後に当該部位の病変が50%以上改善)が81.4%と、同一患者の治療しなかった病変の16.3%を有意に上回った。病変部位関連疼痛も有意に低下した。有害事象は施術に伴う疼痛やかゆみなど。

    リンク: 同社のプレスリリース


    リンヴォックが巨細胞動脈炎に適応拡大
    (2025年4月29日発表)

    アッヴィはFDAがJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)の適応症に成人の巨細胞動脈炎(GCA)を追加したと発表した。15mgを一日一回、経口投与する。EUでも4月に承認、日本は申請中。

    第3相SELECT-GCA試験で第一選択薬であるコルチコステロイドの用量を段階的に減量・中止しながら投与したところ、持続的寛解率が46%と、試験薬よりゆっくりとコルチコステロイドを漸減した偽薬群の29%を有意に上回った。深刻有害事象の発生率は各群23%と21%。この試験では7.5mgもテストしたがフェールした。

    レーベルには枠付き警告の主要な変更があったと記されているが、何度見比べても変更点が見つからなかった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/5/7GSKのNucala(mepolizumab、好中球性喘息症に適応拡大)
    25/5/26MSDのWelireg(belzutifan、褐色細胞腫・傍神経節腫)
    25/5/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症
    25/5/31モデルナのmRNA-1283.222(COVID-19)
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/10MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防)
    25/6/12モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大)
    25/6/13UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
    25/6/23Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌)
    25/6/23MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群
    25/6/30Verastem OncologyのVS-6766(avutometinib)とVS-6063(defactinib)、卵巣癌
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    諮問委員会
    25/5/5DSRMAC・AADPAC:オピオイドの市販後依存性等試験結果について



    今週は以上です。