2023年9月24日

第1121回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • オプジーボも肺癌術前術後試験が成功 
  • Dato-DXdは乳癌の第3相も成功 
  • Padcev・Keytruda併用試験が成功 
  • IgA治療薬の市販後薬効確認試験が僅かにフェール 
  • レンビマとキイトルーダの併用試験がまたフェール 
  • 武田、ブデソニド経口懸濁液を結局、再申請 
  • 異染性白質ジストロフィーの遺伝子療法を米国でも承認申請 
  • キイトルーダとHIF阻害剤の適応拡大を申請 
  • FDA諮問委員会、エキセナチドのインプラント製剤を支持せず 
  • ACIP、妊婦接種用新生児RSV予防ワクチンを支持 
  • ジャディアンスもCKDに適応拡大 


【新薬開発】


オプジーボも肺癌術前術後試験が成功
(2023年9月22日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab)の非小細胞性肺癌術前術後補助(ペリアジュバント)療法試験が中間解析で目的達成したと発表した。ステージIIAからIIIBの切除術に際して、術前に化学療法と併用で腫瘍縮小を、術後に単剤投与して再発抑制を、図った試験で、主評価項目はEFS(無イベント生存期間、盲検独立中央評価)。データは未公表。副次的評価項目の全生存期間は未だ成熟していない。

適応拡大申請に進むだろう。このセッティングではMSDもKeytruda(pembrolizumab)をKeyNote-671試験に基づいてステージIIからIIIBを対象に効能追加申請中で、米国の審査期限は10月16日。

リンク: BMSのプレスリリース


Dato-DXdは乳癌の第3相も成功
(2023年9月22日発表)

第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、DS-1062(datopotamab deruxtecan、略称Dato-DXd)の第3相TROPION-Breast01試験の主評価項目の一つであるPFS(無進行生存期間)を達成したと発表した。ホルモン受容体は陽性、her2は低発現又は陰性の、切除不能/転移性乳癌の2次/3次治療を受ける733人を組入れて医師が選んだ薬(選択肢はcapecitabine、gemcitabine、eribulin mesylate、vinorelbine)と比較したもの。

7月に再発性非小細胞性肺癌のTROPION-Lung01試験もPFS解析が成功したが、今回は、統計学的に有意なだけでなく、臨床的にも意味のある改善があったと記されている点が注目されている。共同主評価項目である全生存期間は両試験とも未成熟だが好ましい傾向が出ているとのこと。間質性肺疾患による死亡が散見されるので延命効果の立証が重要だ。

類薬はギリアド・サイエンシズがTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)をトリプル・ネガティブ乳癌用薬として商品化した後、適応拡大を進めているので、やがてバッティングするようになるだろう。

リンク: 両社のプレスリリース


Padcev・Keytruda併用試験が成功
(2023年9月22日発表)

アステラス製薬は、Seagen(Nasdaq:SGEN)と共同開発販売している抗ネクチン4抗体医薬複合体、Padcev(enfortumab vedotin-ejfv)とMSDのKeytruda(pembrolizumab)を膀胱癌の治療に併用した第3相EV-302/KeyNote-A39試験の成功を発表した。局所進行/転移尿路上皮腫の一次治療における効果をcisplatinまたはcarboplatinをgemcitabineと併用するレジメンと比較したところ、共同主評価項目である全生存期間の中間解析とPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が共に成功した。

この併用法は121人のORR(客観的反応率)データに基づきcisplatin不適に限定して米国で加速承認されている。今回の成功で本承認切替と適応拡大、そして米国外での承認申請が見込まれる。抗PD-1/L1抗体は尿路上皮腫一次治療における展開が案外で、複数の製品が承認後に適応範囲が縮小されており、併用法の適応拡大が重要だ。

リンク: アステラス製薬のプレスリリース(和文)


IgA治療薬の市販後薬効確認試験が僅かにフェール
(2023年9月21日発表)

米国カリフォルニア州の新興製薬会社、Travere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)は、Filspari(sparsentan)の第3相PROTECT実薬対照試験の2年eGFR(推定腎糸球体濾過量)解析結果を発表した。FDAが重視するベースラインから第110週までの「総合スロープ」は僅かにフェール、EUが重視する第6週から第110週までの「慢性期スロープ」も高度に有意ではなかった。まあ、既存薬より優れている必要はないが、統計学的には、優越性解析のフェールは同等性を意味しない。加速承認が取消されるリスクもゼロではないだろう。大目に見てもらえたとしても、GE化した薬と大差ないなら販促面で厳しくなる。

Filspariはブリストル マイヤーズ スクイブが創製したアンジオテンシンIIタイプI受容体とエンドテリンA受容体のデュアル・アンタゴニスト。06年にインライセンスしたPharmacopeiaを08年に買収したLigand Pharmaceuticalsが、Martin Shkreli氏が設立したRetrophinに12年に導出した。Retrophinは15年に同氏が証券不正で逮捕されCEOを退任、20年に現社名に改名した。

PROTECT試験は原発性IgA腎症で最大承認用量の50%以上の量のACE阻害剤又はARBを服用してもタンパク尿が十分に改善しない患者404人を組入れて、sparsentan 400mg一日一回、経口投与にスイッチする群と、irbesartan 300mg一日一回経口投与にスイッチする群を比較した。主評価項目は36週時点の尿蛋白クレアチニン比(UPCR)、副次的評価項目は110週時点のeGFRなど。前者は中間解析で各群49.8%と15.1%低下し、有意な差があった。FDAはこのデータに基づき今年2月、成人の急速進行性原発性IgA腎症に加速承認した(レーベルによると、急速進行性は、一般的には、UPCR≧1.5g/gであることを指す)。

加速承認なので別途、臨床的便益を確認する必要があり、それが今回の110週解析だ。eGFRの総合スロープ(単位はmL/分/1.79m2/年)は各群2.9と3.9低下、p=0.058だった。慢性スロープ(同)は2.7と3.8でp=0.037だった。UPCRは各群42%と4%低下。eGFR40%低下、またはESRD、または死亡の複合評価項目は発生率が各群8.9%と12.9%、相対リスクは0.68と良好だが95%信頼区間は1を跨いでいる。

リンク: Travere社のプレスリリース


レンビマとキイトルーダの併用試験がまたフェール
(2023年9月22日発表)

エーザイは18年にVEGFRチロシン・キナーゼ阻害剤Lenvima(lenvatinib)の共同開発・販促でMSDと提携し、多くのKeytruda(pembrolizumab)併用試験を実施してきたが、低い枝に生っている実が少ないこともあり、フェールが目立つ。今回、転移非小細胞性肺癌の一次治療化学療法併用試験、LEAP-006と、2次3次治療試験、LEAP-008のフェールが発表された。前者Keytruda・化学療法併用と、後者はdocetaxelと比較したが、主評価項目の全生存期間も、副次的評価項目のPFSも有意な差がなかった。

この併用は腎細胞腫一次治療試験と進行性内膜腫二次治療試験が成功し米国で承認されたが、第3相の通算成績は2勝8敗となった。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


武田、ブデソニド経口懸濁液を結局、再申請
(2023年9月21日発表)

武田薬品は米国でTAK-721(budesonide)を好酸球性食道炎の短期治療薬として再承認申請し受理された。Verus Pharmaceuticals→Metitage Pharma→ViroPharma→Shire Pharmaceuticals→武田薬品とタスキを繋いだ、コルチコステロイドの経口懸濁液で、第3相試験では2mg/10mLを一日二回、投与して、第16週の治癒奏効率を偽薬と比較した。20年に新薬承認申請が受理されたが、21年に審査完了通知を受領、追加試験の実施を推奨された。翌年、開発中止が発表されたが、当局との相談で、短期治療に絞れば承認される可能性が浮上したのだろう。

第3相は上記試験の延長試験や、数年間追跡する長期試験も実施されたが、ClinicalTrials.govによると、後者は途中で打ち切られた。ステロイドの長期使用は安全性が心配なので、短期間治療して改善したら止めるヒット・アンド・アウェイが一般的だが、好酸球性食道炎でも有効なのかもしれない。最終的には抗IL-5抗体や抗IL-4R抗体の便益や危険との比較も重要な論点になるのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


百済神州、ノバルティスと決別して抗PD-1を米国で承認申請
(2023年9月19日発表)

中国のBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE/HKEX:6160)はtislelizumabに関する三つのアップデートを発表した。EUで承認、米国で承認申請、そして、欧米日などのライセンシーであったノバルティスから権利を取り戻したことだ。

このIgG4型抗PD-1抗体は中国で19年以降、古典的ホジキン型リンパ腫などに用いることが承認されている。欧州でも中国内の試験や中国を中心とするグローバル試験に基づき複数の適応症で承認申請しているが、今回、中国、米国、そして日欧などで実施されたRATIONALE 302試験に基づいて、成人の白金薬ベース化学療法歴を持つ切除不能/局所進行/転移食道扁平上皮腫に用いることが承認された。

この適応は中国でも22年に承認。米国でも21年に承認申請されたが、渡航制限で工場査察ができなかったことなどから、承認が遅れている。

同社は新たに食道扁平上皮腫の一次治療でも米国で承認申請し受理されたことを公表した。中国、米国、日欧などで実施されたRATIONALE 306試験に基づくもので、化学療法と併用した群のメジアン生存期間が17.2ヶ月、化学療法だけの群は10.6ヶ月、ハザードレシオは0.66だった。審査期限は24年下期としか公表されていない。

ノバルティスは、提携解消の理由としてチェックポイント阻害剤市場の変化などを挙げている。他社が中国だけで実施された臨床試験のデータに基づき米国で承認申請したがエビデンスとして認められなかった先行事例も、大きな影響を与えただろう。

リンク: 同社のプレスリリース(EU承認、米承認申請)
リンク: 同(提携解消)


異染性白質ジストロフィーの遺伝子療法を米国でも承認申請
(2023年9月18日発表)

Orchard Therapeutics(Nasdaq: ORTX)はOTL-200(atidarsagene autotemcel)を米国で異染性白質ジストロフィー(MLD)用薬として承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は24年3月18日。

MLDはアリールスルファターゼA(ARSA)の遺伝子欠損による常染色体劣性遺伝病。脳や末梢神経、肝臓、腎臓などにスルファチドが蓄積し、運動障害や知能障害、精神症状などが発現する。

OTL-200はイタリアのSan Raffaele-Telethon Institute for Gene Therapyと共同開発したex vivo遺伝子療法。18年にGSKからADA-SCID(アデノシンデアミナーゼ欠損症による重症複合免疫不全症)の遺伝子治療などと共に譲渡を受けた。レンチウイルス・ベクターを用いて患者から採取したCD34陽性造血幹細胞と前駆細胞にヒトARSA遺伝子を導入し、培養増殖した上で体内に戻す。EUでは20年12月にアリルARSA機能低下変異を持つ、無症状の遅発乳児型、または無症状/発症したばかりで独立歩行が可能、且つ認知低下が始まっていない早期若年型に、承認された。

リンク: 同社のプレスリリース


キイトルーダとHIF阻害剤の適応拡大を申請
(2023年9月19日発表)

MSDはKeytruda(pembrolizumab)とHIF-2アルファ阻害剤Welireg(belzutifan)の適応拡大を米国で申請した。

Keytrudaは新患高リスク子宮頸癌の同時化学放射線療法に併用する用途。審査期限は24年1月20日。KeyNote-A18試験で、cisplatin同時併用下で外照射放射線療法、そしてその後に小線源治療を施行するレジメンに追加したところ、中間解析でPFSが統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を示した。

Weliregは21年8月に米国で成人フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病患者の即時手術不要な腎細胞腫、中枢神経系血管芽細胞腫、または膵神経内分泌腫瘍に用いることが承認されている。今回の適応は抗PD-1/L1抗体とVEGF標的薬による治療歴を持つ進行性腎細胞腫。審査期限は24年1月17日。第3相LITESPARK-005試験の中間解析で、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がeverolimus群を統計的有意且つ臨床的に意味のある改善を見た。

リンク: MSDのプレスリリース(Keytruda、9/20付)
リンク: 同(Welireg、9/19付)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、エキセナチドのインプラント製剤を支持せず
(2023年9月22日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集し、Intarcia Therapeuticsが16年に二型糖尿病薬として承認申請したGLP-1作用剤のインプラント、ITCA 650(exenatide)について意見を聞いた。19人全員が便益が危険を上回るとは言えないと判定した。

FDAは17年と20年に審査完了通知を発出したが、企業側の異議申し立てが認められ、諮問委員会招集に至った。最終判断は調停的立場のFDAチーフ・サイエンティスト、Bumpus博士に委ねられているが、常識的に考えれば、承認されないだろう。

FDAは安全性懸念や薬剤放出の安定性に疑念を示している。クラス・イフェクトである急性腎障害の発生率が1.8%と偽薬/対照薬の1.0%より数値上高かった。深刻有害事象のハザードレシオは1.17で統計的に有意。更に、アウトカム試験で、主要有害心血管イベントのハザードレシオが1を上回り(有意ではない)、既承認のexenatide注射用製剤と比べて見劣りした。全死亡も49人と対照群の40人より数値上多く、他のGLP-1作用剤の試験のメタアナリシス(0.89、統計的に有意)と異なった方向を向いている。

尚、Intarciaは8月にITCA 650を含む主要資産をi2o Therapeuticsに売却した。Intarciaの会長兼社長兼CEOはi2oのエグゼクティブ・チェアマンを兼任していたが、資産売却と合わせて、io2の会長兼社長兼CEOに就任した。換骨奪胎型企業買収は珍しくないが、行き詰った会社の経営者も移行するのは珍しいのではないか。

リンク: MedPage Todayの報道


ACIP、妊婦接種用新生児RSV予防ワクチンを支持
(2023年9月22日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)はACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集し、8月にFDAが承認したファイザーのAbrysvo(二価RSV融合前Fサブユニット・ワクチン)について意見を聞いた。11人の委員が勧奨に賛成し、反対は1名だった。Morbidity and Mortality Weekly Reportに刊行された段階で正式に接種勧奨となる。

RSVによる下部気道感染症を予防するワクチンで、高齢者向けが先に承認され、6月にACIPで議論されたが、意外なことに、結論は積極勧奨ではなくshared decision-making(個々人における便益を医師と検討した上で決める)だった。ギラン・バレー症候群などの炎症性神経学的事象や心房細動が散見されたことが主因のようだ。

乳幼児のRSV疾患は生後半年間が多いので、生後直ぐにも予防できるように、妊娠32~36週時点で母親に接種して胎児の出生後半年間のRSV疾患を防ぐ。臨床試験で早産が偽薬群より多かったが、接種時期を臨床試験の24~36週から狭めることでリスク抑制を図った。上記の安全性懸念は妊婦にも当てはまるのではないかと感じられるが、ACIPはshared decision-makingではなく接種勧奨した。理由は不明。新生児向けRSVワクチンは抗体医薬で代用することもできるので、どれを使うべきなのか良く分からない。ACIPでは、学会がガイドラインを示すべきという意見があったようだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認】


ジャディアンスもCKDに適応拡大
(2023年9月22日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムと開発販売パートナーのイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin)を慢性腎不全の進行抑制に用いることがFDAに承認されたと発表した。糖尿病を併発していない患者が過半を占めたEMPA-KIDNEY試験でeGFR低下/ESKD/腎性死亡/心血管性脂肪のハザードレシオが0.72だった。7月にEUで承認、日本でも一変申請中。

類薬ではアストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin)も21年に米欧日で適応拡大している。

リンク: 両社のプレスリリース


【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
23年4QファイザーのBraftoviとMektovi(BRAF-V600E変異型非小細胞性肺癌に併用)
23年4QアストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
23年4QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
23年4Q推イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
23年10月ファイザーのMenABCWY(5価髄膜炎菌ワクチン)
23年10月推ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
23年10月推ArdelyxのXphozah(tenapanor、高リン血症)
23/10/8 Alnylam PharmaceuticalsのOnpattro(patisiran、TTR調停アミロイドーシスによる心筋症)
23/10/13BMSのOpdivo(nivolumab、悪性黒色腫アジュバント一変)
23/10/16MSDのKeytruda(pembrolizumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法に一変)
23/10/17ArdelyxのXphozah(tenapanor、透析期CKDの高リン血症)
23/10/22Orasis PharmaceuticalsのCSF-1(pilocarpine、老眼)
23/10/22Regeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab、慢性特発性蕁麻疹に一変)
23/10/26Santhera Pharmaceuticalsのvamorolone(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)
諮問委員会
23/9/27 CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS)
23/10/4 ODAC:US WorldMedsのeflornithine(小児神経芽細胞腫)
23/10/5 ODAC:アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS-G12C変異NSCLCの本承認切替)
23/10/31CTGTAC:Vertex/Crisprのexagamglogene autotemcel(ベータサラセミアと鎌状赤血球病)
23/11/17PADAC:MSDのgefapixant(難治慢性咳嗽)


今週は以上です。

2023年9月17日

第1120回

【ニュース・ヘッドライン】

  • MDMAの二本目の第3相PTSD試験が成功 
  • CRF1受容体拮抗剤が副腎過形成の第3相で良績 
  • アストラゼネカ、ファセンラのEGPA適応拡大試験が成功 
  • タグリッソの化学療法併用試験が成功したが... 
  • モデルナ、米国でもRSVワクチンを承認申請 
  • 小児低グレード神経膠腫用薬を承認申請 
  • CRDAC、オンパットロの心筋症適応を支持 
  • 経口鼻腔鬱血除去剤フェニレフリンは無効 
  • CHMP、アトピー用薬などの承認を支持 
  • 骨髄線維症の貧血症状も緩和するJAK阻害剤が承認 
  • 幹細胞動員補助剤が承認 
  • XBB.1.5系統対応COVID-19ワクチンが米国でも承認 


【新薬開発】


MDMAの二本目の第3相PTSD試験が成功
(2023年9月14日発表)

MAPS Public Benefit Corporationは、MDMAカプセルの第3相PTSD(トラウマ後ストレス障害)補助療法試験、MAPP2の成功を公表した。Nature Medicine誌に論文掲載された。一本目も成功しており、年内に米国で承認申請する予定。

MDMA(3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン)は米国のDEA(麻薬取締局)がスケジュールI指定しているサイケデリック。Merckが1912年に合成、既に特許は失効している。PTSDにおける作用機序はトリプル・アミン再取込阻害と考えられている。MAPSは1986年に設立された非営利研究教育機関、Multidisciplinary Association for Psychedelic Studiesが2014年に設立した法人で、サイケデリックやマリファナなどの合法的な使用を目指している。

今回の第3相は、中重度PTSD患者104人を組入れて、サイコセラピー・セッションにおいてMDMAを補助薬として用いる便益を偽薬と比較した、無作為化割付け二重盲検試験。セッションは週次で実施、第1回に80mgそして1.5~2時間後に40mgを経口投与、第5回と9回にも120mgそして60mgを投与した。主評価項目のCAPS-5(Clinician-Administered PTSD Scale for DSM-5)症状評価はベースライン平均の39点から23点低下したが、偽薬群は14点低下に留まり、p<0.001だった。副次的評価項目のSDS(modified Sheehan Disability Scale)機能評価も3.3点低下対2.1点低下でp=0.0271。探索的解析だが、試験薬群は71%の患者がDSM5診断基準に該当しなくなった。偽薬群は47%。深刻有害事象は発生しなかった。

一本目も両評価項目で有意差が出ているが、二本目は重症だけでなく中等症も組み入れ、per protocolではなくmixed models for repeated measuresで解析したので、対象患者層や頑強性が向上した。

被験者の多くは鬱病も併発している。鬱病試験でもしばしば見られるが、この試験でも偽薬効果の高さが気にかかるところだ。

リンク: MAPS社のプレスリリース
リンク: Mitchellらの治験論文(Nature Medicine)


CRF1受容体拮抗剤が副腎過形成の第3相で良績
(2023年9月12日発表)

Neurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)はNBI-74788(crinecerfont)の第3相でポジティブなトップラインを取得したと発表した。延長試験などを経て24年に欧米で承認申請する予定。

このCAHtalyst Adult試験は、21OHD(水酸化酵素)欠乏性古典的先天性副腎過形成(CAH)の成人患者182人を組入れて、一日二回経口投与する効果を偽薬と比較した。主評価項目は24週時点の奏効率で、判定基準は現状で唯一の治療薬であるグルココルチコイドの服用量を顕著に抑制し、且つ、アンドロゲン管理が良好に維持されていること。試験薬群は63%、偽薬群は18%で有意な差があった。副次的評価項目のアンドロステンジオン減少も目的達成。深刻な有害事象は少なく、薬物関連と見做されたものは無かった。

21OHD CAHは常染色体性劣性遺伝性疾患で、21OHDが産生されずコルチゾールが欠乏、多くの患者でアルドステロンも欠乏する。塩喪失や脱水を招き、治療しないと死亡する可能性がある。グルココルチコイドが有効だが、コルチゾール欠乏を補うだけでなくCRF(コルチコトロピン放出因子)やACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を抑制するため高用量が必要なことが難点。crinecerfontはCRF1受容体拮抗剤で、ACTHや、女性患者ではテストステロンも減らすことができる。別途、小児第3相も進行中。

CRF1受容体拮抗剤は同社がGSKやサノフィと提携開発して鬱病などの精神疾患の第2相を行ったが良好な結果が出なかった。本剤もサノフィがSSR-125543として第2相鬱病試験やPTSD試験を行ったが、10年以上後になって、新用途で起死回生した。

リンク: 同社のプレスリリース


アストラゼネカ、ファセンラのEGPA適応拡大試験が成功
(2023年9月11日発表)

アストラゼネカは抗IL-5受容体アルファ鎖ポテリジェント抗体Fasenra(benralizumab)の第3相MANDARA試験で主目的を達成したと発表した。EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症:チャーグ・ストラウス症候群と呼ばれることもある)でステロイド単剤または他の免疫抑制剤を併用しても十分に応答しない患者をFasenra群と既承認の類薬であるGSKのNucala(mepolizumab)群に無作為化割付けして寛解率を比較したところ、非劣性であることが確認された。

なんだ、二番煎じかと思いがちだが、この試験のミソは、同じ一日一回皮下注でもFasenraは30mg/mLを一回注射するだけだが、Nucalaは100mg/mlずつ三回注射と手間が多いこと。自己注できるので患者に選好を尋ねれば、自ずと結果が出るというわけだ。

EGPAは好酸球の過剰などにより肺や皮膚、心臓など様々な臓器に障害を与える。強い倦怠感や体重減、筋痛関節痛や息切れなどを発症し、治療しないと死亡する可能性がある。希少疾患で世界の患者数は118000人と推定されている。

リンク: 同社のプレスリリース


タグリッソの化学療法併用試験が成功したが...
(2023年9月11日発表)

アストラゼネカはTagrisso(osimertinib)が第3相FLAURA2試験で主目的を達成したとWCLC(肺癌世界学会)及びプレスリリースで発表した。副次的評価項目である全生存期間の解析がどのような結果になるか、注目される。

このEGFR阻害剤は第1世代のEGFR阻害剤に抵抗性を示すEGFR T790M変異型やエクソン19欠損型、エクソン21 L858R変異型の非小細胞性肺癌に単剤投与することが米欧日で承認されている。今回の試験はEGFR変異のある局所進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療として、Tagrisso単剤とTagrisso、pemetrexed及び白金薬の併用を比較した。主評価項目のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)はハザードレシオ0.62、メジアン値は各19.9ヶ月と29.4ヶ月で大きな差があった。

一方で、全生存期間は未成熟だがハザードレシオが0.9と、それほどでもない。G3以上の有害事象発生率は各27%と64%とかなり違い、併用群は半分近くの患者が骨髄抑制により何れかの薬を中止した。

忍容性が見劣りするため、エクソン21変異型や血管脳関門透過性が生きたのか特に良い結果が出た脳転移患者など、限定的に使うべきというエキスパート・オピニオンもあるようだ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


モデルナ、米国でもRSVワクチンを承認申請
(2023年9月13日発表)

モデルナ(Nasdaq:MRNA)は、mRNA-1345を60歳以上のRSVによる下部気道疾患(RSV-LRTD)の予防用ワクチンとして米国で承認申請した。既に承認された二社を追いかけるべく、優先審査バウチャを用いたので、審査期限は5月頃に設定されるだろう。

RSウイルスの融合前F糖蛋白をエンコードするmRNAをリキッド・ナノパーティクル化したもの。日本も含む22ヶ国で60歳以上の37000人を組入れて、一回筋注の効果を偽薬と比較したところ、中間解析で共同主評価項目を達成した。二つ以上の症状を伴うRSV-LRTDのワクチン効率は83%(発症者9人、偽薬群は55人)、三以上の症状では82%(同3人対17人)だった。後者の場合、偽薬群でも1000人に一人位しか発症しなかったが、COVID-19対策の副産物でRSV感染も少なかったせいなのだろうか?

G3以上の有害事象発生率は各4%と2.6%だった。

同社は欧州などでも7月に承認申請している。

リンク: 同社のプレスリリース


小児低グレード神経膠腫用薬を承認申請
(2023年9月11日発表)

米国カリフォルニア州のDay One Biopharmaceuticals(Nasdaq:DAWN)は、DAY101(tovorafenib)を再発/進行性小児低グレード神経膠芽腫用薬として米国で承認申請した。第2相のFIREFLY-1試験に基づくもので、23年6月カットオフのデータによると、ORR(客観的反応率)が67%、69人中12人が完全反応、34人が部分反応、メジアン反応持続期間は16.6ヶ月だった。有害事象は毛髪変色、CPK上昇、貧血、疲労、ラッシュなど。

汎RAF阻害剤。2011年に武田薬品のMillennium PharmaceuticalsがSunesis Pharmaceuticals(後にViracta Therapeuticsが吸収合併)からライセンスしMLN2480/TAK-580として開発したが、19年にDay Oneが両社から権利を取得した。

リンク: Day Oneのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CRDAC、オンパットロの心筋症適応を支持
(2023年9月13日発表)

FDAはCRDAC(心血管腎臓薬諮問委員会)を招集し、Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)のOnpattro(patisiran)をTTR調停心筋症に適応拡大する件について意見を聞いた。12人の委員のうち9人が便益が危険を上回ると判定、反対の3人を上回った。FDA担当部署は懐疑的であり、委員会が多数決で決定するわけではなく参考意見に過ぎないので、10月8日の審査期限までに承認されるかどうかは不透明だ。日程もタイトで、審査期限まで1ヶ月もない事例では審査期間延長や承認遅延が多いように感じられる。

OnpattroはRNA干渉薬。18~19年に米欧日でトランスサイレチン(TTR)変異によるアミロイドーシスの治療薬として承認された。TTR変異のもう一つの表現型であるTTR調停心筋症におけるエビデンスは第3相APOLLO-B試験。変異のない患者も含む360人を組入れて0.3mg/kgを3週毎静注したところ、主評価項目である12ヶ月後の6分歩行テストの成績がベースラインの361メートルから13メートル悪化、偽薬群は375メートルから31メートル悪化で、有意な差があった。但し、既承認薬であるファイザーのtafamidisも服用していた患者では4メートルしか差がなかった。また、検出力不足で死亡/心血管イベント抑制効果は確立していない。

深刻な有害事象の発生率は33%で偽薬群の35%と大差なかった。

便益が危険を上回るかという設問に対して、諮問委員は、便益は小さいが危険はそれ以上に小さいので上回ると判断したようだ。臨床的に意味があるか、と尋ねたら違った答えが出たかもしれないが、近年は、米国も、難病用薬の承認基準を引き下げる方向にある。

難しいのは、tafamidis服用患者に追加投与する便益は確立しておらず、服用していない患者にはtafamidisのほうが良いのではないかと感じられることだ。tafamidisの第3相は全死亡/心血管関連入院リスクを抑制した(カプラン・マイヤー・カーブは1年半経つまで大差ないが)。副次的評価項目である6分歩行テストの悪化は30メートル対89メートルで大きな差があった。

Alnylamはもう一つのTTR調停アミロイドーシス用siRNA、Amvuttra(vutrisiran)でも心筋症試験を実施している。組み入れ数はOnpattroの約2倍、投与方法は25mgを3ヶ月毎皮下注、主評価項目は全死亡/心血管疾患入院/心不全緊急受診の複合評価項目となっており、おそらく、少なくともこの適応症では、こちらが本命なのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース


経口鼻腔鬱血除去剤フェニレフリンは無効
(2023年9月11-12日開催)

FDAは非処方薬諮問委員会を招集し、OTC薬に配合されている経口アルファ1アドレナリン受容体作動剤、phenylephrineの有効性について意見を聞いたところ、全員が薬効なしと判定した。FDAの評価が支持されたため、OTC薬として販売することができなくなりそうだ。

鬱血除去剤は風邪薬やアレルギー用薬の成分の一つとして広く用いられているが、あまり良い記憶がない。PPA(phenylpropanolamine)は脳卒中のリスクが高まることが判明、日本では03年にPPAからpseudoephedrineに切り替えが進んだ。同年、米国ではpseudoephedrineの不適切使用が問題になり、処方は不要だが薬剤師の説明を受けた上で所定の数量だけ購入できるbehind-the-counterに鞍替えが進んだ。代わりにover-the-counter薬の主役に立ったのがphenylephrineで、22年の販売量は2.4億箱/ボトルとpseudoephedrineの5倍近くに達している。今日では日本でも多くの市販薬にphenylephrineが配合されるようになった。

ところが、07年以降に実施された季節性アレルギー鼻炎などの症状改善試験が三本ともフェールした。経口投与時の生物学的利用率が従来言われていた38%と全く異なる1%足らずであることが判明し、10~40mgを4時間毎経口投与するだけでは足りないことが原因と考えられている。FDAは用量を増やして再試験する当否も諮問したが、副作用が増える可能性があり、代替品もあることから、全員反対した。

代替品候補は点鼻用薬。phenylephrineも点鼻なら有効と考えられているようだ。総合〇〇薬に配合できないのは不便だが、効かないのでは意味がない。

リンク: FDAの諮問委員会関連情報ページ
リンク: FDAの追加説明(9月14日付)


CHMP、アトピー用薬などの承認を支持
(2023年9月15日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

AlmirallのEbglyss(lebrikizumab)はIgG4型抗IL-13抗体。年齢12歳以上、体重40kg以上の青少年と成人の中重度アトピー性皮膚炎に二週毎に皮下注射する。臨床試験ではEASI75達成率やIGA奏効率が偽薬群を有意に上回った。主な有害事象は結膜炎、注射箇所反応、ドライアイなど。抗IL-13は様々な製品が自己免疫疾患に承認されているが、アトピー向けはLEO PharmaのAdtralza(tralokinumab-ldrm)が21~22年に欧米日で承認されている。

ジェネンテックが喘息症の第3相試験を実施したが二本中一本しか成功せず、17年にDermiraに導出。Dermiraを買収したイーライリリーからAlmiralが19年に欧州における皮膚科での開発販売権などを取得した。

リンク: EMAのプレスリリース

ノバルティスのFinlee(dabrafenib)はBRAF阻害剤。1歳以上の患者のBRAF V600E変異のある低/高グレード神経膠腫に同社のMEK1/2阻害剤trametinibと併用する。米国では胆道癌や卵巣漿液性腫瘍なども含めて22年6月に承認、今年3月に低グレード神経膠腫について下限を1歳以上に拡大した。

尚、dabrafenibは既存の適応症や米国ではTafinlar名で承認されている。また、trametinibはTafinlar併用でBRAF V600E変異腫瘍に承認されているが、今回の適応では肯定的意見を受けていない。何かあったのかもしれない。

リンク: EMAのプレスリリース

第一三共のVanflyta(quizartinib)はFLT3阻害剤。19年に日本で、今年7月には米国でもFLT3-ITD変異を持つ急性骨髄性白血病に承認されたが、EUでもQuANTUM-First試験に基づき未治療患者に標準的導入療法及び地固め療法と併用、かつ、その後の単剤維持療法に用いることが支持された。

リンク: EMAのプレスリリース

デンマークのアセンディス・ファーマ(Nasdaq:ASND)のYorvipath(palopegteriparatide)は成人の慢性副甲状腺機能低下症に用いるホルモン補充療法。体内で分離するポリエチレン・グリコールとリンカーを介して結合する同社の技術を用いて一日一回皮下注を実現した。米国は昨年5月に審査完了通知を受領。

リンク: EMAのプレスリリース

UCBのZilbrysq(zilucoplan)は自己皮下注用C5阻害剤。アセチルコリン受容体に対する自己抗体を持つ全身型重症筋無力症の成人に、既存治療に追加して用いる。臨床試験で日常生活活動の低下が偽薬群より小さかった。8月に日本で第1部会通過、米国でも承認申請中。19年にRa Pharmaceuticalsを25億ドルで買収して入手した。

リンク: EMAのプレスリリース

COVID-19ワクチンはEUでもXBB.1.5対応の承認審査が進んでおり、8月のComirnatyに続いて、今回、Spikevaxも肯定的意見を得た。日米は承認済み。

リンク: EMAのプレスリリース

以下の適応拡大も支持された。

・武田薬品がSeagen(Nasdaq:SGEN)からライセンスして北米外で開発販売しているAdcetris(brentuximab vedotin)・・・未治療CD30陽性ホジキン型リンパ腫に化学療法併用。欧州ではステージIVの患者に限定されていたが、ステージIIIも支持された。

・第一三共のEnhertu(trastuzumab deruxtecan)・・・her2遺伝子に活性化変異のある進行非小細胞性肺癌。白金ベース化学療法歴を持つ患者が適応になる。米日では適応拡大済み。

・MSDのKeytruda(pembrolizumab)・・・非小細胞性肺癌の完全切除と白金薬ベース化学療法を施行したが再発リスクの高い患者にアジュバント投与。

・イーライリリーのOlumiant(baricitinib)・・・2歳以上の青少年と成人の全身性治療が適応になる中重度アトピー性皮膚炎。

・Oncopeptides(Nasdaq Stockholm:ONCO)のPepaxti(melflufen)・・・多発骨髄腫の適応を若干早い段階に拡大(二次治療歴を持ち最終治療とlenalidomideに抵抗性)

・Gedeon RichterのRyeqo(relugolix、estradiol、norethindrone acetate)・・・子宮筋腫用薬として承認されているが、薬物治療・外科的治療歴を持つ内膜腫の女性の症状緩和を追加。武田薬品から欧米などの権利を取得したMyovant SciencesがGedeonに欧州などの商業化権を供与したもの。

米国の加速承認や日本の迅速承認に相当するEUの制度は条件付き承認だ。継続の当否を毎年検討し、市販後薬効確認試験などで便益が確認されなかった場合、取り消されることになる。今回は二品が、更新に否定的評価を受けた。

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)のTranslarna(ataluren)は14年にジストロフィン遺伝子に機能喪失変異を持つ5歳以上の歩行可能なデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として条件付き承認されたが、二本の薬効確認試験がいずれもフェールした。効果が表面化しやすいはずだった、歩行能力低下期のサブグループ185人における6分歩行距離が72週間の治療後に81メートル低下、偽薬群の90メートル低下より小さかったが有意ではなかった。全集団の解析でも53メートル低下と67メートル低下で名目上のp値は0.025だった。

米国は初めから承認しなかった。

リンク: EMAのプレスリリース

GSKの抗BCMA抗体薬物複合体BlenRep(belantamab mafodotin)は20年に難治再発多発骨髄腫のサルベージ・セラピーとして条件付き承認されたが、薬効確認試験であるDREAMM-3三次治療実薬対照試験がフェールした。米国でも20年に加速承認されたが、既に承認返上手続きに着手した。

リンク: EMAのリリース

以下の承認申請が撤回されたことも発表された。

Gedeon RichterのVivjoa(oteseconazole)は難治外陰膣カンジダ症治療薬として承認申請されたが、CHMPは、生産工程におけるazoxy不純物の管理や便益のエビデンス、治療を受けた女性が生殖補助医療を受けないよう注意喚起する手法などに疑問を呈していた。米国ではライセンス元のMycovia Phharmaceuticalsが22年に承認を取得していたので、意外な結果だ。

リンク: EMAのプレスリリース

SK ChemicalsのSKYCovioneはCOVID-19ワクチンとして韓国や英国で承認された実績があるが、CHMPは、条件付き承認適格性が欠如していることや、品質や免疫原性試験の内容に疑問を呈していた。

リンク: EMAのプレスリリース

Incyte(Nasdaq:INCY)のIclusig(ponatinib)はフィラデルフィア染色体陽性の急性骨髄性白血病の一次治療に拡大を図ったが、CHMPは対照試験が実施されていないことなどに疑問を示していた。

リンク: EMAのプレスリリース

【承認】


骨髄線維症の貧血症状も緩和するJAK阻害剤が承認
(2023年9月15日発表)

GSKはFDAがOjjaara(momelotinib)を成人の中程度/高リスク骨髄線維症の貧血症治療薬として承認したと発表した。主エビデンスとなるMOMENTUM試験は他のJAK阻害剤による治療歴を持つ患者を組入れたが、適応は二次治療に限定されていない。骨髄線維症はしばしば貧血症を伴い、既存のJAK阻害剤は貧血症を誘発・増悪するリスクがあるが、OjjaaraはJAK1とJAK2に加えて、鉄のアベイラビリティを抑制する機能のあるACVR1(activin receptor type 1)も阻害するため、貧血症状が改善する。脾臓量や骨髄線維症の症状も改善するが、標準薬であるruxolitinibと比べると特に症状改善奏効率が見劣りするため、主用途は貧血合併患者になりそうだ。

Cytopiaを買収して権利を取得したYM BioSciencesをギリアド・サイエンシズが13年に5億ドルで買収し第3相ruxolitinib対照試験を実施したが、フェール。権利取得したSierra OncologyをGSKが22年に19億ドルで買収した。

リンク: 同社のプレスリリース


幹細胞動員補助剤が承認
(2023年9月11日発表)

イスラエルに本社を持つ新興企業、BioLineRx(Nasdaq:BLRX、TASE:BLRX)は、FDAがAphexda(motixafortide)を自家造血幹細胞移植の補助剤として承認したと発表した。CXCR4キモカイン受容体阻害剤で、アフェレーシス(多発骨髄腫患者の血液からCD34陽性細胞を取得・培養する)の前処理として、標準療法であるG-CSFを投与した後に1.25mg/kgを皮下注射し、10~14時間経ってからアフェレーシスに進む。動員が不十分であった場合はもう一回、反復することができる。

第3相GENESIS試験では奏効率(一回投与後の動員が600万セル/kg以上、かつ施行2回以下)が67.5%とG-CSF・偽薬併用群の9.5%を大きく上回った(この数値は第3相結果発表時の数値と異なっている)。アフェレーシス一回で目標達成した患者の比率も63%と2%で大きな差があった。有害事象は注射箇所反応や掻痒、潮紅/紅潮など。深刻有害事象の発生率は5.4%だった(対照群の数値はレーベルにも記されていない)。

体重70kgの場合、投与量は87.5kgとなるが、一回に投与できる最大量は62mgなので、残りは別の場所にもう一回注射する必要がある。

12年にBiokine Therapeuticsからライセンスしたもの。

リンク: 同社のプレスリリース


XBB.1.5系統対応COVID-19ワクチンが米国でも承認
(2023年9月11日発表)

FDAはファイザー/BioNTechとモデルナのXBB.1.5系統一価COVID-19ワクチンを承認した。米国は正式な承認とEUA(非常時使用認可)を使い分けており、今回の場合、12歳以上は正式承認だが6ヶ月から11歳はEUAのまま。追加免疫だけでなく初回免疫にも使うことがでる。従来の二価ワクチンの承認は取り消された。

CDC(米国疾病予防管理センター)もACIP(ワクチン接種諮問委員会)を招集し、6ヶ月児以上に接種勧奨することに14人中13人が賛成し、可決した。反対者の理由は、小児に関する治験データの欠如。他の委員は、過去の試験の成績を外挿できると判定した。尚、ACIPはNovavaxが12歳以上向けに承認申請した製品についても検討しており、承認され次第追加するだろう。

CDCの推定によると、8月20日~9月2日の期間においてはEG.5型(Eris)がシェア21%でトップ、以下、FL.1.5.1(Fornax)が14%となっており、XBB.1.5から代替わりしている。スパイク蛋白の変異が極めて多いBA.2.86(Pirola)も一部の国で散見されるようになったが、何れもオミクロンBA.2型の派生であることに変わりはなく、今回のワクチンは中和抗体試験である程度の力価を示している。

COVID-19ワクチンの効果はウイルスのドリフトもあり経時的に減衰していく。感染予防効果が低下しても入院予防効果は半年経っても高水準を維持することが疫学研究で示されているが、XBB.1.5感染による入院を防ぐ効果に関しては、従来の二価ワクチンを接種してから半年経つと大きく低下することも明らかになっており、追加免疫の重要性が浮き彫りになっている。

非常事態宣言が取り下げられワクチンや医薬品の政府一括調達・無償接種もフェードアウトしてきている。COVID-19ワクチンは各社120~130ドル程度で販売する計画だが、民間保険やメディケア/メディケイド、各種患者支援制度がカバーするため患者負担はゼロとなるようだ。流石、予防医療先進国だ。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
23年9月 UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
23年第4四半期ファイザーのBraftoviとMektovi(BRAF-V600E変異型非小細胞性肺癌に併用)
23年第4四半期アストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
23年第4四半期イーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
23年第4四半期推イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
23年10月ファイザーのMenABCWY(5価髄膜炎菌ワクチン)
23年10月推ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
23年10月推ArdelyxのXphozah(tenapanor、高リン血症)
23/10/8 Alnylam PharmaceuticalsのOnpattro(patisiran、TTR調停アミロイドーシスによる心筋症)
23/10/13 BMSのOpdivo(nivolumab、悪性黒色腫アジュバント一変)
23/10/16 MSDのKeytruda(pembrolizumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法に一変)
23/10/17 ArdelyxのXphozah(tenapanor、透析期CKDの高リン血症)
23/10/22 Orasis PharmaceuticalsのCSF-1(pilocarpine、老眼)
23/10/22 Regeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab、慢性特発性蕁麻疹に一変)
23/10/26 Santhera Pharmaceuticalsのvamorolone(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)



諮問委員会:
23/9/21EMDAC:Intarcia Therapeuticsの二型糖尿病用exenatideインプラント
23/9/27CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS)
23/10/4ODAC:US WorldMedsのeflornithine(小児神経芽細胞腫)
23/10/5ODAC:アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS-G12C変異NSCLCの本承認切替)




今週は以上です。

2023年9月9日

第1119回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • もう一つのPPARデルタ作動剤もPBC試験が成功 
  • EGFRxMET二重特異性抗体と新規EGFR阻害剤の併用試験成功 
  • 抗TF抗体医薬複合体の本承認切替試験が成功 
  • オプスミットのCTEPH試験もフェール 
  • 中外発の抗C5抗体を米国でも承認申請 
  • WHIM症候群用薬を承認申請 
  • 遅報:多剤抵抗菌にも有効なcUTI治療薬を承認申請 
  • 皮下注用テセントリクの承認が遅れそう 
  • ユルトミリス、NMOSDの米国承認が遅延 
  • イラリスが痛風フレアに適応拡大 


【新薬開発】


もう一つのPPARデルタ作動剤もPBC試験が成功
(2023年9月7日発表)

米国カリフォルニア州のCymaBay Therapeutics(Nasdaq:CBAY)はMBX 8025(seladelpar)の第3相RESPONSE試験が成功したと発表した。UDCA(ursodeoxycholic acid)に十分応答しない又は不耐のPBC(原発性胆管炎)患者193人を10mg群と偽薬群に2対1割付けして一日一回、12ヶ月間、経口投与したところ、奏効率が61.7%と偽薬群の20.0%を大きく上回った。ベースライン時点で中重度掻痒のある患者(被験者の35%程度)では6ヶ月後に偽薬比有意な改善が見られた(副次的評価項目)。有害事象の群間の偏りは見られなかった。欧米などで承認申請する考え。

06年にジョンソン・エンド・ジョンソンからライセンスしたPPARデルタ作動剤。日本市場は1月に科研製薬がライセンスした。

類薬ではフランスのGenfit(Nasdaq:GNFT)がイプセンと共同でPPARアルファとデルタのデュアル・アゴニスト、GFT505(elafibranor)の第3相PBC試験を一足早く成功させた。奏効率は80mg群が51%、偽薬群は4%だった。CymaBayの奏効の定義は血清ALPが1.67xULN未満かつ総ビリルビンが1.0xULN以下になること。Genfitの定義は更にALP値が15%以上低下することも求めており、そのせいか偽薬群の数値も今回の試験より低いが、群間差を見る限りでは、両剤の効果に大きな違いがあるようには見えない。但し、Genfitの試験では掻痒改善作用に有意差が出なかったので、差別化要素に使えるかもしれない。

リンク: CymaBayのプレスリリース


EGFRxMET二重特異性抗体と新規EGFR阻害剤の併用試験成功
(2023年9月6日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、EGFRとMETに結合する二重特異性抗体Rybrevant(amivantamab-vmjw)と第3世代EGFR阻害剤JNJ-73841937(lazertinib)の併用などをテストした第3相MARIPOSA-2試験で主目的を達成したと発表した。データは学会で発表する予定。RybrevantはEGFRエクソン20挿入変異型(アストラゼネカのTagrisso(osimertinib)のような第3世代EGFR阻害剤に抵抗性を持つ)非小細胞性肺癌用薬として21年に欧米で承認された。今回の試験は第3世代EGFR阻害剤が得意とするEGFRエクソン19欠損型やエクソン21 L858R置換型の局所進行/転移非小細胞性肺癌でTagrissoによる治療後/治療中に進行した患者を組入れて、carboplatinとpemetrexedの併用療法にRybrevantを単独またはlazertinibと二剤を追加する便益をオープン・レーベルで検討した。三剤併用群も四剤併用群も二剤併用群比で統計的に有意な、かつ、臨床的に重要な、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)延長作用が見られた。

この併用は同様な変異を持つ患者の第3相一次治療Tagrisso対照試験も進行中で年内に成否判明する見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


抗TF抗体医薬複合体の本承認切替試験が成功
(2023年9月4日発表)

Seagen(Nasdaq:SGEN)とジェンマブ(Nasdaq:GMAB)は、Tivdak(tisotumab vedotin-tftv)の第3相innovaTV 301試験が中間解析で目的達成したと発表した。米国の加速承認を本承認に切替えたり、他の地域で承認申請すべく当局と相談する考え。

組織因子を標的とする抗体に抗癌作用を持つMMAEを結合した抗体医薬複合体で、21年に難治/転移子宮頸癌の二次治療薬として加速承認された。第2相試験でcORR(確認客観的反応率、独立評価委員会方式)が24%、メジアン反応持続期間は8.3ヶ月だった。深刻な視力低下のリスクもある角膜上皮・結膜副作用が枠付き警告されている。

今回の試験は、難治/転移後に1~2次治療歴を持つ502人を組入れて全生存期間を化学療法と比較したもの。

両社の提携は、米国などではSeagenが、日欧などではジェンマブが、商業化を担い、費用や利益を折半する。

リンク: 両社のプレスリリース


オプスミットのCTEPH試験もフェール
(2023年9月6日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、macitentanの第3相慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)試験を無益中止することを明らかにした。Opsumit名で肺動脈高血圧症治療薬として承認されているendothelin A/B受容体拮抗剤の、10mgではなく75mgを一日一回経口投与する効果を偽薬と比較したが、独立データ監視委員会が中間解析で運動機能(6分歩行テスト)改善は見込み薄と判定した。

この適応は、第2相試験で副次的評価項目に設定された6分歩行テストの改善が10mg群において35メートルと偽薬の1メートルを有意に上回り、18年に適応拡大申請されたが、FDAは追加試験を要求、EUでも申請撤回となった。今回の試験では手術不能患者に限定せずに肺動脈内膜摘除術やバルーン肺動脈拡張術を受けた患者も組入れて実施したが、先輩格のendothelin受容体拮抗剤であるTracleer(bosentan)と同様に、結果を出せなかった。

尚、肺動脈高血圧症における75mgの便益や安全性を承認用量である10mgと比較する第3相は続行する予定。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


中外発の抗C5抗体を米国でも承認申請
(2023年9月6日発表)

ロシュはRG6107(crovalimab)を発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)治療薬としてFDAに承認申請し受理されたと発表した。日本では6月に申請済み。今回、EUでも受理されたことを明らかにした。

中外製薬がSKY59名で開発した、補体系C5に結合するリサイクリング抗体で、結合→分離→別の分子に結合を繰り返すため、効果の持続性が高い。第3相COMMODORE 3試験では初日に静注した後、第2日以降は週一回皮下注、7回目以降は4週毎皮下注した。抗C5抗体の先行品であるアストラゼネカのUltomiris(ravulizumab-cwvz)は維持期に入れば8週毎投与で済むので投与頻度の点では見劣りするが、自己注が認められれば長所になりうる。

尚、中外はUltomirisが特許侵害に当たるとしてアストラゼネカのメディミューン子会社を提訴し、和解金獲得に成功している。

リンク: ロシュのプレスリリース


WHIM症候群用薬を承認申請
(2023年9月5日発表)

米国ボストンの新興医薬品開発会社、X4 Pharmaceuticals(Nasdaq:XFOR)は、X4P-001(mavorixafor)をWHIM症候群用薬として米国で承認申請したと発表した。優先審査を求めている。

WHIM症候群は常染色体優性遺伝性の原発性免疫不全で、米国の患者数は1000人超と推定されている。CXCR4をコードする遺伝子の機能獲得変異が原因で白血球の移行が抑制され、W(ヒトパピローマウイルスによる疣贅)、H(低ガンマグロブリン血症)、I(再発性細菌感染症)、M(骨髄性細胞貯留)など様々な症状を発現する。

mavorixaforは、造血幹細胞採取時の補助療法であるCXCR4アンタゴニスト、Mozobil(plerixafor)を開発したAnorMedのもう一つのCXCR4アンタゴニストで、当時はAMD11070と呼ばれていた。AnorMedはミレニアム・ファーマシューティカルズが一旦は買収合意したが、ジェンザイムが逆転に成功、06年に子会社化した。その後、ジェンザイムを子会社化したサノフィからCXCR4アンタゴニスト・パイプラインを取得して14年に設立されたのがX4だ。

第3相は12歳以上の患者31人を組入れて400mgを一日一回、52週間に亘り投与したところ、ANC(好中球絶対数)が臨床的に意味のある水準(500セル/mcL)以上で推移する時間を評価したところ、24時間当り15時間と偽薬群の2時間を大きく上回った。副次的評価項目である感染症予防効果も頻度(年率1回対4.5回)や症状の重さなどの解析が成功した。有害事象は皮膚や胃腸系が中心。

リンク: 同社のプレスリリース


遅報:多剤抵抗菌にも有効なcUTI治療薬を承認申請
(2023年8月15日発表)

米国フィラデルフィア州の新興医薬開発会社、Venatorx Pharmaceuticalsは、第4世代セファロスポリンンのcefepimeと新開発の汎ベータ・ラクタマーゼ阻害剤VNRX-5133(taniborbactam)の併用を複雑尿路感染症の治療薬としてFDAに承認申請し受理された。優先審査を受け、審査期限は24年2月22日。欧米や中国、ロシアなどで実施した第3相CERTAIN-1試験で微生物学的且つ臨床的な奏効率をmeropenemと比較したところ、非劣性解析が成功し、シーケンシャルに実施された優越性検定も70.6%対58%と成功した。Extended Spectrum Beta-lactamase産生菌やcarbapenem抵抗菌にも効果が見られた。

cefepimeと新開発ベータ・ラクタマーゼ阻害剤の併用法は、Allecra TherapeuticsもExblifep(cefepime、enmetazobactam)を米国で6月に承認申請した。

リンク: Venatorxのプレスリリース

【承認審査・委員会】


皮下注用テセントリクの承認が遅れそう
(2023年9月6日発表)

ロシュはHalozyme Therapeutics(Nasdaq:HALO)のrHuPH20技術を用いて抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)の皮下注用新製剤を開発、8月に英国で世界初承認を取得したが、米国における承認は遅れそうだ。HalozymeがSEC(米国証券取引委員会)に提出した適時開示情報の中でロシュから連絡を受けたことを公表した。CMC(化学、製造、管理)プロセスのアップデートが必要になったため、審査期限の今月15日には間に合わず、発売は24年の見込みになったとのこと。

Tecentriqの現行の製剤は30~60分かけて点滴静注するが、皮下注用は3~8分で足りるため、患者や医療従事者の拘束時間が短くて済む。キー・テクノロジーがHalozymeの遺伝子組換え型ヒト・ヒアルロン酸分解酵素、rHuPH20だ。活性成分の吸収の妨げになるヒアルロン酸を局所的に分解するもので、ロシュのRituxan Hycela(rituximab、hyaluronidase human)や武田薬品のHyQvia(immune globulin、human hyaluronidase)など、多くの医薬品に採用されている。

リンク: Halozymeのフォーム8-K(SECウェブサイト)


ユルトミリス、NMOSDの米国承認が遅延
(2023年9月6日発表)

アストラゼネカは持効性抗C5抗体Ultomiris(ravulizumab-cwvz)を抗アクアポリン4自己抗体を持つNMOSD(視神経脊髄炎)の治療薬として適応拡大申請し、5月にEUと日本で承認されたが、米国は審査可能通知を受領した。理由は臨床成績などではなく、REMS(適正使用を担保するための施策)。現行のREMSは、髄膜炎菌性髄膜炎のリスクを緩和するために、ワクチン接種の有無を確認し免疫を付けること、免疫後2週間以内に投与を開始する場合は抗生剤の予防的投与を二週間、施行すること、そして患者向けのパンフレットと携帯用カードを渡してリスクを説明することを求めているが、この確認手続きを強化するよう求められた模様だ。おそらく、類薬についてもREMS見直しを求められたのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


イラリスが痛風フレアに適応拡大
(2023年8月25日付)

FDAのウェブサイトで提供されているDrug@FDAは、承認されている小分子薬やCDER所管の生物学的製剤の現在と過去の処方情報(PI)や承認通知、審査文書などのデータベースで、メーカーのプレスリリースが見つからない場合などの事実確認にも有用だ。今回、ノバルティスの抗IL-1ベータ抗体Ilaris(canakinumab)の適応拡大が承認されたのに企業側は製品ウェブサイトに新しいPIを掲示していない、という報道があったため、アクセスしてみた。

Ilarisは、同社の投資家向けミーティングで、「小さく生んで大きく育てる」戦略の一例として紹介されたことがある。クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)という、希少疾患だが新薬のニーズが高く比較的早く開発でき成功確率が高い疾患をリード・インディケーションとし、雁行的に関節炎や心筋梗塞など開発期間が長くリスクも小さくないが成功すれば売上寄与が大きい用途でも開発するというものだ。結果は案外で、09年に米国でCAPSに承認されるなど希少疾患薬として重要な薬に育ったが、リウマチ性関節炎は開発中止、心筋梗塞はアウトカム試験がギリギリ成功したが欧米とも承認されなかった。

今回の適応は、痛風の急性フレアの治療。11年に欧米で適応拡大申請し、EUでは13年に承認されたが、FDAは症状改善だけで放射線学的改善が見られないことや、感染症など安全性に懸念を示し、諮問委員会も支持せず、審査完了通知を受領した。ノバルティスは三本目となる第3相を実施、昨年10月に再申請し、今回、承認された。NSAIDs及びコルヒチンが禁忌、不耐、または応答不十分でコルチコステロイドによる頻回の治療が不適当な成人の痛風性関節炎患者におけるフレアを治療する目的で、150mgを一回だけ皮下注する。必要な場合は12週以上開けて再投与する。

三本のtriamcinolone acetonide対照試験で72時間後の疼痛VAS(ヴィジュアル・アナログ・スケール)が対照群比有意に低く、12週間の試験中の再燃頻度が半分以下だった。

一回18000ドルの高額医療なので、どの程度普及するかは明らかではない。

尚、日本時間9月6日に同社の製品情報サイトにアクセスした時点では古いPIが掲示されていたが、9日に改めてチェックしたところ、最新版に更新されていた。

リンク: IlarisのPI(最新版)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年9月 UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
  • 23/9/9   BioLineRxのAphexda(motixafortide、多発骨髄腫の自家造血幹細胞移植に伴う得率向上)
  • 23/9/15  ロシュの皮下注用Tecentriq(atezolizumab)→遅延へ(CMC見直し)
  • 23/9/16  GSKのmomelotinib(骨髄線維症
  • 23年第4四半期 ファイザーのBraftoviとMektovi(BRAF-V600E変異型非小細胞性肺癌に併用)
  • 23年第4四半期 アストラゼネカのAZD5363(capivasertib、局所進行性/転移性乳癌)
  • 23年第4四半期 イーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
  • 23年第4四半期推 イーライリリーのtirzepatide(体重管理薬)
  • 23年10月 ファイザーのMenABCWY(5価髄膜炎菌ワクチン)
  • 23年10月推 ファイザーのetrasimod(中重度潰瘍性大腸炎)
  • 23年10月推 ArdelyxのXphozah(tenapanor、高リン血症)
  • 23/10/8  Alnylam PharmaceuticalsのOnpattro(patisiran、TTR調停アミロイドーシスによる心筋症)
  • 23/10/13  BMSのOpdivo(nivolumab、悪性黒色腫アジュバント適応拡大)
  • 23/10/16  MSDのKeytruda(pembrolizumab、非小細胞性肺癌術前術後補助療法に適応拡大)
  • 23/10/17  ArdelyxのXphozah(tenapanor、透析期CKDの高リン血症)
  • 23/10/22  Orasis PharmaceuticalsのCSF-1(pilocarpine、老眼)
  • 23/10/22  Regeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab、慢性特発性蕁麻疹に適応拡大)
  • 23/10/26  Santhera Pharmaceuticalsのvamorolone(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)


諮問委員会:
  • 23/9/11-12 NPDAC:OTC鼻詰まり治療経口剤phenylephrineの有効性について
  • 23/9/13 CRDAC:アルナイラムのOnpattro(patisiran、ATTR心筋症適応拡大)
  • 23/9/21 EMDAC:Intarcia Therapeuticsの二型糖尿病用exenatideインプラント
  • 23/9/27 CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS)
  • 23/10/4 US WorldMedsのeflornithine(小児神経芽細胞腫)
  • 23/10/5 ODAC:アムジェンのLumakras(sotorasib、KRAS-G12C変異NSCLCの本承認切替)



今週は以上です。

2023年9月2日

第1118回

【ニュース・ヘッドライン】

  • アレセンサのアジュバント試験が成功 
  • ESC:新規ATTR-CM用薬が第3相でWIN 
  • 抗CTGF抗体の第3相は三連敗に 
  • COVID-19ワクチンの開発を断念 
  • JNJ、FGFR阻害剤の本承認切替を申請 
  • スキリージを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請
  • Activin受容体阻害剤が骨髄異形成症候群の貧血治療の第一選択に仲間入り 
  • PRCA、トピラマートの妊婦投与を制限へ 


【新薬開発】


アレセンサのアジュバント試験が成功
(2023年9月1日発表)

ロシュはAlecensa(alectinib)の第3相非小細胞性肺癌アジュバント試験、ALINAが中間解析で目的達成したと発表した。ALK阻害剤では初めて。データを学会などで発表するとともに、欧米で適応拡大申請する考え。

Alecensaは子会社の中外製薬が創製したALK阻害剤。癌の一因であるALK変異を標的とする経口剤で、14~17年に日米欧でALK変異陽性局所進行/転移非小細胞性肺癌用薬として承認された。ALINAは早期段階であるステージIBからIIIAのALK陽性非小細胞性肺癌を完全切除した患者を組入れて、RFS(無再発生存期間)を白金薬ベース化学療法と比較した。統計的だけでなく臨床的にも意味のある改善が確認された由。

リンク: 同社のプレスリリース


ESC:新規ATTR-CM用薬が第3相でWIN
(2023年8月27日発表)

米国カリフォルニア州のBridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)はESC(欧州心臓学会)でBBP-265(acoramidis)の第3相ATTRibute-CM試験の結果を発表した。トランスサイレチン型心アミロイドーシスによる心筋症(ATTR心筋症)の臨床的転帰を有意に改善したため、年内に米国で、24年には海外でも、承認申請する予定。日本における独占開発商業化権はアレクシオン ファーマが19年に取得した。

トランスサイレチンの4量体構造に結合して安定化させる経口剤で、800mgを一日二回、投与する。ATTR心筋症はファイザーのVyndaqel/Vyndamax(tafamidis)など複数の製品が承認されているが、本試験はこれらの薬を使用していない、NIHAクラスI~IIIの患者632人を偽薬と2対1割付けした。主評価項目は二種類設定され、6分歩行テストが12ヶ月後に有意に改善したら承認申請する計画だったが、偽薬群の低下が7メートルに留まった(tafamidasの試験の偽薬群は60メートル低下)のに対して試験薬群は9メートル低下と大差なく、フェールした。

しかし、30ヶ月追跡後の複合評価項目の解析が成功した。通常の複合評価項目は、例えば死亡、心筋梗塞、脳卒中の何れかが最初に発生した時期に注目するため、決定的に重要な事象と対処可能な事象がごちゃ混ぜになる。今回は、この問題の対応策として提案されている、Win Ratioに基づく評価で、各群から一例ずつランダムに選び、まず全死亡の時期を比較し、差がなければ心血管疾患関連の入院を比較し、差がなければNT-proBNP値、それも差がないなら6分歩行テスト値と、シーケンシャルに勝ち負けを判定していく。結果は、Win Ratioが1.8、p<0.0001となった。

これはこれで分かり難いので結局、個別のイベントを見ていくことになる。全生存のハザードレシオは0.772、p=0.15で有意差なし。tadamidasのデータと同様に両群のカプラン・マイヤー・カーブが分かれるのは治療開始から1年半以上経ってからと遅い。tadamidasと異なるのは第14~18ヶ月時点では試験薬群のほうが数値上、悪くなっている点が気になるところだ。心血管疾患死亡率は偽薬群21.3%、試験薬群14.9%とかなり違うので、それ以外の主な死因を知りたいものだ。

心血管関連入院は半減しているので、これがWinの主因だろう。NT-proBNP削減奏効率は各群9%と45%、6分歩行テイストの改善奏効率は22%と40%。重大さで劣る前者の差も寄与しているであろうことに留意したい。6分歩行テスト値のカプラン・マイヤー・カーブも最初の1年半は両群大差ない。

致死的な治療時発現有害事象は17%対14%、治療時発現有害事象による入院も60%対50%、他の有害事象を見ても、偽薬群のほうが多かった。

リンク: 同社のプレスリリース


抗CTGF抗体の第3相は三連敗に
(2023年8月29日発表)

米国カリフォルニア州のFibroGen(Nasdaq:FGEN)はFG-019(pamrevlumab)の第3相LELANTOS-2試験のフェールを発表した。ステロイド治療中の6~11歳の歩行可能デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者70人を組入れて、偽薬または35mg/kgを2週毎静注して、1年後のNorth Star Ambulatory Assessment総スコアを比較したが、偽薬群より0.528悪かった。副次的評価項目の解析も全滅だった。

組織のリモデリングや線維化に関わるCTGF(結合組織成長因子)を標的とする抗体医薬。歩行不能な12歳以上の99人を組入れた一本目は6月にフェールした。同月は第3相成功が期待された特発性肺線維症試験のフェールも発表され、株価が16ドルから2~3ドルに暴落していたが、とうとう1ドル割れした。

リード・パイプラインであるHIF-PH阻害剤roxadustatの承認も一部市場を除き難航しており、かなり行き詰ってきた。

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19ワクチンの開発を断念
(2023年8月31日発表)

デンマークのBavarian Nordic(OMX:BAVA)は、COVID-19ワクチンの開発を断念すると発表した。起源株に関する免疫原性をComirnatyと比較した追加接種試験で非劣性を確認したが、XBB.1.5のような最近流行している株に対する効果が見劣りしたことや、承認審査機関が流行株の変遷に応じて毎年、抗原を見直すよう求めていることに対応できないことから、開発を中止した。

コペンハーゲン大学のCVLP(カプシド・ウイルス様パーティクル)技術を実用化すべく創設されたデンマークのAdaptVac社から2020年にライセンスし、臨床開発を進めてきたが、最近流行している株に関する免疫応答率が64%とComirnaty(起源株版)の85%よりかなり低かった。

同社は天然痘/Mpoxワクチンで有名。チクングニア熱ワクチンの開発に成功し承認申請する予定だが、COVID-19ワクチンだけでなく、RSVワクチンも、第3相におけるワクチン効率が今年承認された他社のワクチンより見劣りしたため7月に開発中止を決めた。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


JNJ、FGFR阻害剤の本承認切替を申請
(2023年8月28日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen PharmaceuticalはBalversa(erdafitinib)のFGFR陽性尿路上皮腫における加速承認を正式承認に切り替えるようFDAに申請した。汎FGFR阻害剤で、19年にFGFR2やFGFR3に変異を持ち白金薬治療歴を持つ局所進行/転移尿路上皮腫用薬として加速承認された。今回、第3相THOR試験で2~3次治療に用いたところ、メジアン生存期間が12.1ヶ月と化学療法群の7.8ヶ月を上回ったため本承認切替を求めた。

リンク: 同社のプレスリリース


スキリージを潰瘍性大腸炎に適応拡大申請
(2023年8月28日発表)

アッヴィは欧米で抗IL-23p19抗体Skyrizi(risankizumab-rzaa)を既存療法不耐または応答不十分な潰瘍性大腸炎に適応拡大申請した。1200mgを点滴投与した臨床的寛解導入試験では寛解率20.3%と偽薬群の6.2%を上回り、180mgまたは360mgを皮下注した維持療法試験では臨床的寛解率が夫々40%と38%となり、偽薬群の25%を上回った。

Skyriziはプラク乾癬や乾癬性関節炎、クローン病に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


Activin受容体阻害剤が骨髄異形成症候群の貧血治療の第一選択に仲間入り
(2023年8月28日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、FDAがReblozyl(luspatercept-aamt)の限定解除を承認したと発表した。ActRⅡB(activin receptor type ⅡB)の細胞外領域と免疫グロブリンG1固定領域を細胞融合した皮下注用薬で、19年にベータサラセミアによる貧血症の治療薬として、20年にはvery lowからintermediate-riskの骨髄異形成症候群などにおける赤血球生成刺激剤(ESA)不応貧血症でも、承認された。今回、後者におけるESA不応患者限定が解除され、初度治療に用いることが可能になった。欧州でも一部変更申請中。日本では5月に後者の適応で承認申請された。

リンク: BMSのプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRCA、トピラマートの妊婦投与を制限へ
(2023年9月1日発表)

EUの医薬品ファーマコビジランス・リスク評価委員会、PRACは、topiramateを妊婦に投与する時の条件を限定し、DHPL(直接的医療従事者レター)も発出するよう推奨した。CHMP(医薬品諮問委員会)などを経て正式に決定する。多くの抗癲癇薬が催奇性を持っておりtopiramateも規制が全くなかった訳ではないが、北欧の疫学的試験で自閉症スペクトラム障害や知的障害、ADHDなどの懸念が浮上したことから、妊婦の片頭痛予防や(一部の国で承認されている)体重管理には用いないこと、癲癇治療に用いる場合も他の薬に適さない患者だけに用いることを求めた。

患者登録データに基づく疫学研究三本中、二本で、出生児の神経発達障害リスクが妊娠中に抗癲癇薬を使用しなかった癲癇患者の出産児の2~3倍高かった。PRACの分析によると、出生児欠損が100人当り4~9人と、非服用例の100人当り1~3人より多かった。また、出生児低体重も100人当り18人と、癲癇ではなく抗癲癇薬も服用しなかった症例の5人より多かった。

治療しないリスクも大きいため米国はここまで規制していないが、疫学研究データがレーベルに記載されている。

リンク: EMAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA:
  • 23年9月   UCBのBimzelx(bimekizumab、プラク乾癬)
  • 23/9/9   BioLineRxのAphexda(motixafortide、多発骨髄腫の自家造血幹細胞移植に伴う得率向上)
  • 23/9/15  ロシュの皮下注用Tecentriq(atezolizumab)
  • 23/9/16  GSKのmomelotinib(骨髄線維症)


諮問委員会:
  • 23/9/11-12 NPDAC:OTC鼻詰まり治療経口剤phenylephrineの有効性について
  • 23/9/13 CRDAC:アルナイラムのOnpattro(patisiran、ATTR心筋症適応拡大)
  • 23/9/21 EMDAC:Intarcia Therapeuticsの二型糖尿病用exenatideインプラント
  • 23/9/27 CTGTAC:BrainStorm Cell TherapeuticsのNurOwn(ALS)



今週は以上です。