2022年6月25日

第1056回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • CHMP、不活化ワクチンの承認とナノ粒子ワクチンの小児適応を支持 
  • その他の領域: 
  • 65歳以上は効果が特に高いインフルエンザ・ワクチンを接種すべし 
  • D型肝炎用薬の奏効率が長期投与で更に上昇 
  • 抗IL-31ra抗体の結節性痒疹試験が成功 
  • ATTR-CMのアンチセンス薬のP3試験が成功 
  • atalurenのDMD薬効確認試験は微妙な結果に 
  • セリアック病の第3相が頓挫 
  • アステラス、NK3受容体拮抗剤を閉経期障害に承認申請 
  • 表皮水疱症の遺伝子療法を承認申請 
  • アッヴィ、経口CGRP受容体拮抗剤を慢性片頭痛にも承認申請 
  • ブレヤンジをEUで二次治療に適応拡大申請 
  • 貧血リスクが小さいJAK阻害剤を承認申請 
  • 二回接種型炭疽ワクチンの承認申請が受理 
  • CHMP、血友病遺伝子療法などの承認を支持 
  • タフィンラーとメキニストが併用でV600E変異固形癌に承認 
  • 15価肺炎球菌ワクチンが幼小児にも承認 


【COVID-19関連】


CHMP、不活化ワクチンの承認とナノ粒子ワクチンの小児適応を支持
(2022年6月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAとその医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、6品目となるCOVID-19ワクチンの承認とヌバキソビッドの小児適応を支持した。

前者はフランスのValneva(Euronext Paris:VLA)のVLA2001。スパイク蛋白を高密度化した弱毒化全ウイルス・パーティクルをベロ細胞で培養した抗原に、アルミとDynavax社のCpG 1018を添加して免疫原性を増強したもの。エビデンスはSARS-CoV-2のオリジナル株に関する免疫原性をアストラゼネカのVaxzevriaと比較した免疫ブリッジング試験。中和抗体の幾何平均比は1.39で優越、抗体陽転率はどちらも95%以上で非劣性だった。EMAは、先に承認した英国と同様に、18~50歳のみに承認を勧告した。

英国政府やEUと供給契約を結んでいたが、期限までに承認されなかったため、英国は履行義務違反により契約終了、EUも破棄するだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

Novavax(Nasdaq:NVAX)のNuvaxovidはEUでは昨年12月に18歳以上を対象に承認された。今回、18歳以上の試験のデータとの免疫ブリッジング試験に基づき、CHMPが12~17歳に広げることを支持した。デルタ株流行期に行われたこの試験ではワクチン効率が80%だった。

リンク: EMAのプレスリリース

【今週の話題】


65歳以上は効果が特に高いインフルエンザ・ワクチンを接種すべし
(2022年6月23日発表)

CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)は、65歳以上の人は8製品あるインフルエンザ・ワクチンのうち3品を優先的に選択して接種するよう勧告した。これまでは製品毎の優劣は付けていなかった。

背景は、近年、インフルエンザ・ワクチンの感染予防効果が低下していること。特に18/19年シーズンは、ワクチン効率29%、入院・死亡リスクが高い65歳以上では12%と低調だった。流行株の不一致やドリフトなどの生産過程での不都合が影響している。

ACIPがサノフィのFluzone高用量とFlublok、CSLのワクチン子会社であるSeqirusのFluadを選択したのは、頑強ではないもののある程度の直接比較データがあるため。Fluzone高用量は4種類の株のヘマグルチニン抗原を60mcgずつと、通常のワクチンの4倍、含んでいる。Fluadは不活化ワクチンに免疫増強剤MF59を添加した。どちらも65歳以上専用のワクチンだ。

私は65歳未満なので切羽詰まってはいないが、日本は他山の石と等閑にしてよいものだろうか?

インフルエンザ・ワクチン効率
シーズン全年齢 65歳以上
19/20年39%39%
18/19年29%12%
17/18年38%17%
16/17年40%20%
出所:CDC

リンク: CDCのプレスリリース

【新薬開発】


D型肝炎用薬の奏効率が長期投与で更に上昇
(2022年6月23日発表)

ギリアド・サイエンシズはHepcludex(bulevirtide)をD型肝炎治療薬として開発、第2相試験に基づき20年にEUで条件付き承認を獲得し、米国でも第3相試験の24週中間解析データに基づき昨年11月に承認申請した。今回、第3相の主目的である48週データが公表され、奏効が24週時点より増加したことが判明した。

ドイツのMyr社を昨年3月に目標達成報酬込み14.5億ユーロで買収して入手したNTCP(ナトリウム・タウロコール酸共輸送体ポリペプチド)阻害剤で、D型やB型の肝炎ウイルスが幹細胞のNTCPに取り付いて内部に侵入するのを妨げる。

第3相試験では2mgまたは10mgを24時間毎に皮注して複合奏効率(ウイルス量が一定以下に減少且つALTが正常化)を検討した。24週時点では夫々36.7%と28%となり、観察群(対照期間終了後に10mgにスイッチする)の0%を有意に上回った。48週時点では、各45%、48%、2%となった。

EUでは2mgが代償性D型肝炎に承認された。D型肝炎はB型など他のウイルスと共感染するが、HBV治療用核酸医薬と同時使用することも認められている。米国でも2mgを申請した。

リンク: 同社のプレスリリース


抗IL-31ra抗体の結節性痒疹試験が成功
(2022年6月22日発表)

スイスの皮膚科専門製薬会社、ガルデルマは、nemolizumabの第3相結節性痒疹試験が成功したと発表した。もう一本実施中で、データが揃ったら承認申請に向かうのではないか。

中外製薬から日台以外の地域でライセンスした抗IL-31受容体A抗体で、日本ではマルホがアトピー性皮膚炎に伴う既存治療不応の掻痒の治療用薬として販売している。

今回のOLYMPIA 2試験は中重度結節性痒疹の成人を組入れて、ステロイドなどは併用せずモノセラピーで効果を検討した。用法用量は、治験登録によると、体重90kg未満の患者には30mgを初回は2回、その後は1回、90kg以上は60mgを2回ずつ、4週毎に皮注し、16週後の成績を偽薬と比較した。た。

共同主評価項目のうち、病変改善奏効率(IGAが0または1に改善)は38%(偽薬群は11%)、ピーク時掻痒緩和奏効率(PP-NRSが4ポイント以上低下)は56%(同21%)と有意な差があった。

同社はアトピー性皮膚炎でも第3相試験中で、年内に成否が判明する見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


ATTR-CMのアンチセンス薬のP3試験が成功
(2022年6月21日発表)

Ionis Pharmcateuticals(Nasdaq:IONS)とライセンス先であるアストラゼネカは、IONIS-TTR-L-RX(eplontersen)の第3相遺伝性トランスサイレチン調停アミロイド・ニューロパチー(ATTRv-PN)試験の中間解析が成功したと発表した。年内に米国で承認申請する考え。

Ionis社のライガンド結合アンチセンス薬技術により開発された4週毎皮注用薬で、トランスサイレチンの生産を抑制する。第3相の主評価項目は35週後の血清トランスサイレチン量とmNIS+7ニューロパチー障害スコア。ClinicalTrials.govによると18年に欧米で承認された同社の週一回皮注用アンチセンス薬、inotersenを投与する群も設定されているが、今回のプレスリリースによると、対照群はinotersenの承認申請用試験の偽薬群のデータを外挿したようだ。inotersen群の成績はどうだったのだろうか?

リンク: 両社のプレスリリース


atalurenのDMD薬効確認試験は微妙な結果に
(2022年6月21日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)はテレカンファレンスを開催して、欧州でデュシェンヌ型筋ジストロフィー向けに条件付き承認されているTranslarna(ataluren)の市販後薬効確認試験の結果を公表した。プレスリリースを出していないのは奇異だが、プレゼン用スライドはSECの適時開示データベースに登録した。

Translarnaは薬効確認試験が成功せず、米国では承認されなかったが、EUでは再審査請求を経て14年に条件付き承認された。市販後薬効確認試験もフェールしたが、現在でも、2歳以上の歩行可能な患者向けに条件付き承認が維持されている。

今回の試験は5歳以上で6分歩行テストの成績が150m以上の359人(平均8歳)を偽薬群と無作為化割付して72週間の低下を比較した。結果は各群64.7mと53.0m低下、副次的評価項目のNorthstar Ambulatory Assessmentスコアも悪化が4.5点と3.7点で、有意な差があったが、どちらもp値は0.02台でボーダーライン上だった。MMRM(Mixed Models for Repeated Measures)ではなくANCOVA(Analyisis of Covariance)を用いた解析ではp値が前者は0.08台、後者は0.06台と更に悪かった。

米国で承認を取るのは難しそうだが、株式市場はEUで承認が取り消されるほどではないと受け止められたようだ。株価が最近のピークである45ドルから先週は25ドル程度まで下げていたが、発表後に34ドル台に上昇した。

リンク: 同社のフォーム8-K(テレカン用スライド、pdfファイル)


セリアック病の第3相が頓挫
(2022年6月21日発表)

米国ノース・カロライナ州の新興企業、9 Meters Biopharma(Nasdaq:NMTR)は、larazotideの第3相セリアック病試験についてアップデートした。検出力を確認する目的で治験計画に則って中間解析を行った独立統計学者が、組入れを大きく増やす必要があると指摘。サブグループ分析やFDAとの相談を経て今後の方針を決定する予定だが、プレスリリースの書きぶりでは開発中止が濃厚だ。

Alba Therapeuticsがシャイアにライセンスしたが権利返還、16年にライセンスしたInnovate Biopharmaceuticalsが20年にイスラエルのRDD Pharmaと合併、9 Meters Biopharmaとなった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


アステラス、NK3受容体拮抗剤を閉経期障害に承認申請
(2022年6月24日発表)

アステラス製薬はfezolinetantを閉経に伴う血管運動神経症状(VMS)の緩和用途でFDAに承認申請した。欧米の第3相で中重度VMS頻度がベースライン値の11.5回/日から4週後に偽薬比2回/日前後減少した。

17年にベルギーのOgeda社を買収して入手したNK3受容体拮抗剤。ゴナドトロピン放出ホルモンなどと異なりエストロゲンやプロゲスチンを大きく抑制しない。

リンク: 同社のプレスリリース(和文)


表皮水疱症の遺伝子療法を承認申請
(2022年6月22日発表)

米国ペンシルバニア州のKrystal Biotech(Nasdaq:KRYS)はB-VEC(beremagene geperpavec)を栄養障害型表皮水疱症の治療薬として米国で承認申請した。欧州でも申請予定。日本での申請も検討中。

栄養障害型表皮水疱症は、真皮と表皮を繋ぐ係留線維の構成成分である7型コラーゲンの遺伝子、COL7A1に機能喪失変異があり、皮膚に水疱や糜爛が生じやすい。米国の患者数は3000人と推定されている。B-VECは増殖・ゲノム統合能をなくしたHSV-1をベクターとしてCOL7A11をケラチノサイトや線維芽細胞の核に送り込む。局所性ゲル製剤を週一回、皮内注射する。

米国の3施設で1~44歳の31人を組入れたGEM-3試験で、半年後の創傷完治率が67%と、偽薬で治療した病変の22%を有意に上回った。試験薬関連の深刻有害事象や有害事象治験離脱は発生しなかった。抗HSV-1抗体や抗COL7抗体の量は大きく変化せず、免疫原性の懸念は浮上しなかった。

リンク: 同社のプレスリリース


新規SERDを承認申請
(2022年6月22日発表)

イタリアのメナリニ・グループと米国のRadius Health(Nasdaq:RDUS)は、米国でelacestrantを承認申請したと発表した。1~2次の内分泌療法歴を持つエストロゲン受容体陽性、her2陰性の進行/転移乳癌の男女477人を組入れて標準療法と比較した第3相試験で、PFS(無進行生存期間)が全集団の解析でも、内分泌療法抵抗性変異と見なされているESR1(エストロゲン受容体1のライガンド結合ドメイン)変異のあるサブグループの解析でも、有意に上回った(前者はハザードレシオ0.70、後者は0.55)。G3以上の治療時発現有害事象は悪心、嘔吐、下痢など。

選択的エストロゲン受容体零落剤で、2006年にRadiusがエーザイから日本国外の権利を、15年に日本の権利も、取得したが、腫瘍学撤退を決め、20年にメナリーニに世界開発商業化権を供与した。

翌23日、プライベート・キャピタル二社の合弁がRadiusを約9億ドルで買収することで合意した旨、発表した。

リンク: 両社のプレスリリース


アッヴィ、経口CGRP受容体拮抗剤を慢性片頭痛にも承認申請
(2022年6月21日発表)

アッヴィはQulipta錠(atogepant)を慢性片頭痛の予防に用いる適応拡大をFDAに申請した。21年に反復性片頭痛の予防薬として承認されており、発作頻度の高い患者にも承認されれば、経口CGRP受容体拮抗剤としては初。

反復性片頭痛の第3相では月平均片頭痛日数が4~14日の910人を偽薬、10mg、30mg、60mgの各群に無作為割付けして12週間治療したところ、各群2.48日、3.69日、3.86日、4.20日減少した。半減奏効率は各群29.0%、55.6%、58.7%、60.8%だった。

一方、慢性片頭痛の第3相は月平均15日以上の発作が1年以上持続と、診断基準以上に長く続く患者778人を偽薬、30mg一日二回、60mg一日一回の群に無作為化割付して12週間治療したところ、各群5.1日、7.5日、6.88日減少した。半減奏効率は26%、42%、41%だった。深刻有害事象の発生率は1.2%、1.6%、2.7%で、治療関連と見なされるものはなかった。

atogepantは20年に630億ドル(エクイティ・バリュー・ベース)で買収したアラガンが15年にMSDから導入した経口CGRP受容体拮抗剤パイプラインの一つ。米国以外の市場でも承認申請する考え。

リンク: アッヴィのプレスリリース


ブレヤンジをEUで二次治療に適応拡大申請
(2022年6月20日発表)

ブリストル マイヤーズ・スクイブは、Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)をびまん性大細胞型リンパ腫(DLBCL)などの二次治療に用いる適応拡大をEUに申請し、受理されたと発表した。日米でも申請したのではないか。

CD19を標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法で、日米欧で再発/難治性のDLBCLや原発性縦隔B細胞リンパ腫、グレード3Bの濾胞性リンパ腫などの3次治療薬として承認されている。今回はこれらの腫瘍のうち、難治/初回治療後12ヶ月内に再発した、造血幹細胞移植の候補になり得る成人が対象。第3相TRANSFORM試験で、死亡、進行、または無作為化割付から9週経っても部分反応以上を達成できないハザードレシオが医師の選んだ治療法と比べて0.349、完全反応率は66%対39%、全生存はデータが未成熟だがハザードレシオは0.509と、良好な数値が出た。

リンク: BMSのプレスリリース


貧血リスクが小さいJAK阻害剤を承認申請
(2022年6月17日発表)

Sierra Oncology(Nasdaq:SRRA)は米国でmomelotinibを骨髄線維症薬として承認申請した。既承認のJAK阻害剤と比較した非劣性試験の成績は今一つだったが、貧血症を伴う患者にも有効であることを差別化要因にできるかもしれない。

オーストラリアのCytopia社を2010年に買収したYM BioSciencesを13年にギリアド・サイエンシズが5億ドルで買収して入手、ruxolitinib対照の一次治療試験とスイッチ試験を行ったが、脾臓反応率や総合症状スコアの成績が今ひとつで、開発を中止した。18年にライセンスしたSierra社は、JAK阻害剤歴を持ち貧血症を併発する症候性骨髄線維症195人を200mg一日一回経口投与群と治療ガイドラインが推奨する貧血発症患者の治療薬、danazol群に2:1割付して、骨髄線維症の総合症状スコア半減達成率を比較したところ、25%対9%で有意に上回った。副次的評価項目の輸血不要達成率は31%対20%で非劣性、脾臓35%減少奏効率は23%対3%で優越だった。

リンク: Sierra社のプレスリリース


二回接種型炭疽ワクチンの承認申請が受理
(2022年6月24日発表)

天然痘や炭疽菌など、バイオテロに悪用されかねない微生物のワクチンなどを開発販売しているEmergent BioSolutions((NYSE:EBS)は、AV7909をFDAに承認申請し受理されたと発表した。審査期限は来年4月とのことなので、優先審査ではないようだ。

同社は1970年に承認されたBiothraxを18~65歳の曝露前/後予防用炭疽ワクチンとして販売しているが、初回免疫は半年間に3回、その後は半年毎に2回、その後は年一回、筋注と回数が多い。AV7909はこのワクチンにCPG 7909アジュバントを添加して初回免疫を2回接種に減らしたものであるようだ。用途は18~65歳の炭そ菌曝露後予防(疑いも含む)で、抗菌剤を併用する。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、血友病遺伝子療法などの承認を支持
(2022年6月24日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、FDAが難色を示したものも含め多くの新薬の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

バイオマリンのRoctavian(valoctocogene roxaparvovec)は重度A型血友病のin vivo遺伝子療法。第8因子インヒビターや5型アデノ随伴ウイルス(AAV5)に対する抗体を持たない成人患者に、AAV5ベクターを用いて、第8因子の遺伝子を導入する。主要エビデンスである134人に投与した試験では、2年間で出血頻度が85%低下した。128人は第8因子が不要になった。ALTが上昇した場合、ステロイドで対処する。

同社は19年に欧米で承認申請したが、効果の持続性や臨床試験品と量産品の互換性などの理由で承認されなかった。EMAは延長追跡データによる再承認申請を認め、今回、条件付き承認が支持されたが、FDAは更に長期追跡するよう求めており、今年9月にも再申請する考え。

遺伝子療法は一回治療するだけで問題解決という先入観があるが、長期追跡データがまとまる前に承認されることが多いため、やってみないと分からない。欧州では、高額になる薬価を5年分割にして、効果がなくなったら支払いを打ち切る制度も導入されている。Roctavianも第1/2相で投与した患者を最大5年間追跡した症例は数例のようであり、出血頻度が経時的に上昇したり第8因子の予防的投与を再開した患者も見られる。

リンク: EMAのプレスリリース

Oncopeptides(Nasdaq Stockholm:ONCO)のPepaxti(melphalan flufenamide)はアルキル化剤melphalanをペプチドと結合して親油性を向上したもの。3次以上の治療歴を持ち3クラスの薬に抵抗性を示し最終治療抵抗性で、且つ、自家幹細胞移植歴がないか、36ヶ月以上経った後に進行した多発骨髄腫にdexaamethasoneと併用する。第2相HORIZON試験で、該当52例のORR(客観的反応率、治験医評価)が28.8%、メジアン反応持続期間は7.6ヶ月だった。

肯定的意見を得たことも、条件付き承認を申請したはずなのに、そして第3相の結果が既に判明しているのに、第2相に基づく本承認が支持されたことも、驚きだ。同薬は昨年2月に米国でPepaxto名で加速承認されたが、第3相実薬対照試験で副次的評価項目の全生存期間が見劣りしたことなどから7月にFDAから治験停止を命じられ、10月に会社側が承認返上を申請した。ところが、前CEOが11月に復任するや180度旋回、今年1月に承認返上申請を取り下げた。

欧米で評価が異なることは決して珍しくないが、今回は適応が若干異なる。米国の加速承認は第2相HORIZON試験の被験者157人中97人を占めた、4次治療歴を持ち3クラス抵抗性の多発骨髄腫。ORRは23.7%、メジアン反応持続期間は4.2ヶ月だった。この97人のうち68人は幹細胞移植を受けていた。今回の症例数は52例で、治療歴が3次だけの患者が加わったが、自家幹細胞移植後36ヶ月以内に進行した患者の除外のほうが多かったのだろう。メジアン生存期間の向上は印象的だ。

FDAは事後的なサブグループ分析に懐疑的だが、CHMPは時々、受け入れることがある。今回もこのパターンだろう。

リンク: EMAのプレスリリース

ギリアドのSunlenca(lenacapavir)はカプシド阻害剤。ウイルスの複製に不可欠なHIVカプシドを複製の様々な段階で阻害する。多剤抵抗HIV-1に感染した成人のサルベージ療法で、最初の3回は経口剤、その後は6ヶ月持続する皮注用製剤を、他の抗HIV-1薬と併用する。

米国でも欧州と同時期に承認申請したが、皮注用製剤のバイアルのホウケイ酸塩が薬剤に反応して不可視ガラス・パーティクルを生じるリスクが浮上し、FDAが昨年12月に治験停止命令、今年3月に審査完了通知を発出した。ギリアドはアルミノケイ酸塩ガラスに変更を決め、5月に治験停止命令が解除されたので、米国でも早晩承認されるのではないか。

リンク: EMAのプレスリリース

イーライリリーのReyvow(lasmiditan)は経口選択的セレトニン5-HT1F受容体アゴニスト。片頭痛の急性期治療に用いる。19年に米国で、今年1月に日本でも、承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

ノバルティスのScemblix(asciminib)は経口ABLミリストイル・ポケット阻害剤。慢性期のフィラデルフィア転座陽性慢性骨髄性白血病で2~3種類のチロシン・キナーゼ阻害剤歴を持つ患者に用いる。21年に米国で加速承認、今年3月に日本でも承認。

リンク: EMAのプレスリリース

オランダのArgenx(Euronext:ARGX)のVyvgart(efgartigimod alfa)は胎児性Fc受容体に対する抗体フラグメント。全身性重症筋無力症(gMG)の治療に通常医療と併用する。米国では昨年12月、日本では今年1月に承認された。

リンク: EMAのプレスリリース

適応拡大は以下が肯定的意見を獲得した。

協和キリンのCrysvita(burosumab):1歳以上の治癒的切除や局所化不能なリン酸塩尿性間葉系腫瘍による腫瘍性骨軟化症に伴うFGF23関連低リン血症。米国では20年に2歳以上に承認。エビデンスは日韓で実施された14人の第2相試験。

第一三共/アストラゼネカのEnhertu(trastuzumab deruxtecan):成人の切除不能/転移her2陽性乳癌の2次治療(これまでは3次治療)。

JNJのImbruvica(ibrutinib):未治療慢性リンパ性白血病にvenetoclaxと併用(新併用法)。

アストラゼネカ/MSDのLynparza(olaparib):成人の生殖細胞系BRCA1/2変異のあるher2陰性の高リスク早期乳癌。切除術前・術後化学療法の後に単剤又は内分泌薬を併用する。

アッヴィのRinvoq(upadacitinib):成人の非放射線学的軸性脊椎関節炎(CRP上昇やMRIで炎症が確認され、NIAIDsに十分に応答しない場合。)

【承認】


タフィンラーとメキニストが併用でV600E変異固形癌に承認
(2022年6月23日発表)

FDAはノバルティスのBRAF阻害剤Tafinlar(dabrafenib)とMEK阻害剤Mekinist(trametinib)を併用で6歳以上のBRAF V600E変異のある切除不能/転移性固形癌のサルベージ療法に用いる適応拡大を加速承認した。成人131人を組入れた臨床試験でORR(客観的反応率)が41%、小児36人の試験では25%だった。

BRAF阻害剤とMEK阻害剤が腫瘍原発部位ではなく遺伝子変異型に基づいて承認されたのは初。臨床試験での部位別ORRは、胆道癌48人では46%、高悪性度神経膠腫48人は33%、低悪性度神経膠腫14人は50%、低悪性度卵巣漿液性腫瘍5人では80%だった。結腸直腸癌はBRAF阻害剤に応答しないため適応外。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: ノバルティスのプレスリリース


15価肺炎球菌ワクチンが幼小児にも承認
(2022年6月22日発表)

MSDはFDAがVaxneuvanceを6週児以上の小児成人に接種する対象年齢拡大を承認したと発表した。昨年、欧米で17歳以上に承認されており、日本でも承認審査中。

15種類の血清型をカバーする肺炎球菌結合型ワクチンで、同日、CDC(米国疾病管理予防センター)のワクチン接種委員会、ACIPがファイザーのPrevnar 13(13価肺炎球菌結合型ワクチン)と並ぶ幼小児の選択肢の一つとして接種勧奨した。

結合型ワクチンは幼小児にも効果があるが血清型のカバレッジでは40年前に承認されたMSDのPneumovaxに及ばない。ファイザーはPrevnar(7価)、Prevnar 13(13価)、そして、17歳以下は未承認だが、Prevnar 20(20価)とほぼ倍々ペースで拡大してきた。MSDはVaxneuvance(15価)を上回るV116(21価)の第3相を開始する予定。

リンク: MSDのプレスリリース




今週は以上です。

2022年6月19日

第1055回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • パキロビッドの標準リスク患者試験がフェール 
  • 6ヶ月児以上の幼小児にもワクチンがEUA 
  • 変異株対応ワクチンのローリング申請を開始 
  • その他の領域: 
  • 早産予防薬の承認取消は秋以降に 
  • 割安な抗PD-L1抗体を申請へ 
  • ヴァンフリタの化学療法併用試験が成功 
  • 小児脳腫瘍用薬を来年にも承認申請の期待 
  • 抗アミロイド・ベータ抗体のアルツハイマー病家系発症予防試験がフェール 
  • FDA諮問委員会、pimavanserinをアルツハイマー性精神症に支持せず 
  • MC4Rアゴニストがバルデー・ビードル症候群に適応拡大 
  • アルナイラムの3ヶ月毎投与型hATTR用薬が承認 
  • オルミエントが円形脱毛症に承認 
  • カナダがAmylyxのALS用薬を条件付き承認 
  • Clovis、PARP阻害剤の卵巣癌3次治療の承認を返上 


【COVID-19関連】


パキロビッドの標準リスク患者試験がフェール
(2022年6月14日発表)

ファイザーはPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)の第2/3相EPIC-SR試験の途中解析結果と新規組入れ中止を発表した。主評価項目の治癒率(症状解消が4日以上続いた患者の比率)がフェールし、副次的評価項目の入院・死亡も数値上は良かったがイベント数が少なく統計的に有意ではなかったこと、そして、入院・罹患率が比較的低いオミクロン株の流行が続いていることなどが理由である模様だ。ファイザーは、今回の試験のデータも援用して、重症化リスク因子を持つ軽中等症COVID-19の治療向けに、ワクチン接種歴を問わず、米国で正式な承認申請を行う予定。

PaxlovidはSARS-CoV-2ウイルスの3CLプロテアーゼ阻害剤とその効果が低下するのを遅らせる3A4阻害剤の同梱製品。軽中等症だが重症化リスクを持つCOVID-19感染者を組入れたEPIC-HR試験が成功、21年12月から22年2月にかけて、日米欧で暫定的に承認された。この試験はワクチン接種済みの患者は対象外だったため、重症化リスク因子を持たない患者やワクチン接種済の患者を組入れた今回の試験の首尾が注目されていた。

今回、入院・死亡リスクに関するデータがアップデートされた。昨年12月までに組入れられた1153人の解析で、偽薬群は569人中10人がヒットしたのに対して、試験薬群は576人中5人に留まり、相対削減率は51%と良好だったが有意水準に達しなかった。このうち、重症化リスク因子を持つがワクチン接種済みの患者では偽薬群が360人中7人、試験薬群は361人中3人、相対リスク削減率は57%でこちらも良好だが有意ではなかった。

EPIC-SR試験のヘッドライン

偽薬(A)試験薬(B)B/A
解析対象者数569576
入院・死亡105
入院・死亡率1.76%0.87%0.49
ワクチン接種高リスク者数360361
入院・死亡73
入院・死亡率1.94%0.83%0.43
それ以外209215
入院・死亡32
入院・死亡率1.44%0.93%0.65
出所:ファイザーのプレスリリースを元に作成(『それ以外』は当方が算出)

EPIC-HR試験では偽薬群の入院・死亡率は6.3%だったが、今回は1.8%と、当然のことではあるが、低かった。もし4%だったらリスク削減率が51%でもギリギリ有意差が出ただろうし、治験を継続してイベントが増えればもっと良いp値が出る楽しみもあっただろう。つまり、今回の試験のフェールの一因はオミクロン株の流行と推測する。尤も、結論に異議はない。重症化リスクの低いウイルスの流行下で元々重症化リスクの小さい人にリスク抑制薬を使う意義は曖昧だ。

リンク: 同社のプレスリリース


6ヶ月児以上の幼小児にもワクチンがEUA
(2022年6月17日発表)

FDAはVRBPAC(ワクチン及び関連生物学的製品諮問委員会)を招集し、モデルナとBioNTech/ファイザーが夫々EUA(非常時使用認可)申請したCOVID-19ワクチンの幼小児適応拡大について意見を聞いた。14日はモデルナのSpikevaxを6-17歳にも認可することに22人全員が賛成、その翌日は同薬とBioNTech/ファイザーのComirnatyの適応年齢下限を6ヶ月児に変更することに21人全員が賛成した。

FDAは17日にEUA、CDC(米国疾病予防管理センター)は18日にACIP(ワクチン接種諮問委員会)を経て接種勧奨を行ない、前米での接種がオープンした。

エビデンスは免疫ブリッジング試験。中和抗体価とワクチン効率に関するデータが揃っている上の年代の中和抗体価データと比べて非劣性だった。『記述的な』ワクチン効率も、Comirnatyのように検出不足で有意差が出なかったものもあるが、数値上は良好だ。下表のように、Spikevaxの効率は年齢層毎にかなり異なるが、年齢ではなく流行株の違いが影響したようだ。12~17歳の試験は当初のD614G株やアルファ株の流行期に実施、6~11歳はデルタ株流行期、6ヶ月~5歳の試験はオミクロン株流行期で、各期における疫学研究のデータの推移と大きな食い違いはないとのことである。Comirnatyのワクチン効率ともかなり違いがあるが、同様な理由で、比較できるものかどうかは不明。

COVID-19ワクチンの年代別用量とワクチン効率
メーカーモデルナBioNTech
/ファイザー
商標名SpikevaxComirnaty
一般名elasomerantozinameran
18歳以上:16歳以上:
 用量100mcg30mcg
 ワクチン効率94.1%91.1%
12~17歳:12~15歳:
 用量100mcg30mcg
 ワクチン効率93.3%100%
6~11歳:5~11歳:
 用量50mcg10mcg
 ワクチン効率76.8%90.7%
2~5歳:2~4歳:
 用量25mcg3mcg
 ワクチン効率36.8%82.4%
6~23ヶ月児:6~23ヶ月児:
 用量25mcg3mcg
 ワクチン効率50.6%75.6%
注:モデルナ品の18歳以上とBioNTech/ファイザー品の5歳以上は既承認/EUA。
出所:FDAの各種資料から作成

尚、モデルナ品の接種スケジュールは第1日と29日の二回筋注で成人と同じ。一方、BioNTech/ファイザー品は6ヶ月児~4歳に関しては三回接種で、二回目は21日後、三回目はその8週間以上後となっており、完了まで3ヶ月弱かかるのが弱点。

一方、モデルナ品は若年層におけるごく稀な有害事象である心筋炎・心膜炎の報告頻度がBioNTech/ファイザー品より高いが、今回の臨床試験では発生しなかった。

リンク: FDAのプレスリリース


変異株対応ワクチンのローリング申請を開始
(2022年6月15日、17日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAは、変異株対応COVID-19ワクチンのローリング承認申請に着手したと発表した。ローリング申請は承認取得に必要な資料を逐次提出して審査してもらう制度。6月15日はBioNTech/ファイザーの、17日はモデルナの、ワクチンの審査を開始した。

内容は若干異なり、プレスリリースによれば、前者の承認申請は抗原についてはまだ流動的で、前倒し審査の対象もCMC(化学、製造、管理)に関わるものだけだ。後者はSpikevaxの抗原にオミクロン対応抗原を加えた二価ワクチンで、CMCと前臨床書類を審査する。

EUはCOVID-19ワクチン・メーカーに納入を秋以降に遅らせるよう要求した。4回目接種が想定ほど進まずワクチンが余ってきたことや、オミクロン株対応ワクチンが秋にも実用化されるなら現行のワクチンを今すぐ打つより好ましいという判断のようだ。日本にはいつ入ってくるのだろうか?

リンク: EMAのプレスリリース(6/15付)
リンク: 同(6/17付)

【今週の話題】


早産予防薬の承認取消は秋以降に
(2022年6月14日発表)

税率の低いスイスに本籍を置くCovis Pharmaは、FDAがMakena(hydroxyprogesterone caproate)に関する諮問委員会を10月17~19日に開催する予定であることを公表した。同社は承認取消を回避すべくあの手この手を使ってきたが、いよいよ正念場を迎えることになる。尤も、3年前の諮問委員会でも委員の意見は分かれたので、結末は予想しがたい。誹謗中傷規制が強化される中、言葉には気を付けなければならないが、一言だけ言わせてもらえば、もう一回臨床試験を行って薬効を確認する考えならば、なぜ、治験フェールから3年経った今になっても開始していないのか?

同社の発売当初の思惑と異なり、承認後に薬局調剤品を禁止できなかったため、価格競争力は弱い。GE薬も承認されている。開発販売会社も変遷した。再試験が始まっても完遂しないうちに事業売却されるかもしれない。Makenaが切迫早産の出産を遅らせたり、新生児の健康を向上したりすることができるのか、分からないままになった場合、どうすべきか、日本を含む世界の婦人科医は検討すべきである。

Makena問題の推移

2003年、New England Journal of Medicine誌がNIH主導試験の論文を刊行、自然単体早産歴のある妊婦の37週未満の出産リスクをhydroxyprogesteroneが抑制したことが各種メディアで報道され、普及
2006年、開発要請にKV Phamaceuticalsが手を挙げてFDAに承認申請
2008年、FDA諮問委員会で21人の委員中12人が35週前の切迫早産の予防効果を認めたが、FDAは非承認可能通知を発出
2011年、市販後薬効確認試験の開始などにより、FDAが加速承認(37週より前の自然単体早産歴を持つ女性の早産予防)。KVが薬局調剤品の100倍の価格で発売したが、政治介入などにより薬局調剤品の販売を禁止できず、半値に引き下げ。それでも需要不振で破産法適用申請
2013年、KVの会社更生が認められ、AMAGがMakina事業など、とPerrigoがそれ以外を分割買収
2019年、市販後薬効確認試験のPROLONGがフェール、35週未満の早産も新生児の有病・死亡率も偽薬群並み。FDA諮問委員会で9人が承認取消を支持、7人がもう一度薬効確認試験を促すことを支持、但し産婦人科医の委員に関しては6人中5人が再試験を支持。
2020年10月、FDAの小分子薬担当部門、CDERが自発的承認返上を推奨
同年11月、CovisがAMAGを買収
2021年8月、Covisが要請し公聴会開催決定
同年6月、諮問委員会の質問事項やブリーフィング資料の内容に関する両者の意見対立に関して、FDAの高官が裁定を下すとともに日程等を決定(但し、Makenaの発癌性に関する文献に言及すべきでないというCovidの主張については後日裁定)
同年7月17日、CovisとFDAが互いにブリーフィング資料のドラフトをこの日までに提出。その後2週間、双方の異議申し立てを受け付ける
同年9月16日、ブリーフィング資料の最終稿の提出期限
2022年10月17~19日、ORUDAC(産科、再生産、泌尿器科用薬諮問委員会)を開催予定。Covidは新たな薬効確認試験のデザイン等についてプレゼンする考え。

リンク: Covisのプレスリリース

【新薬開発】


割安な抗PD-L1抗体を申請へ
(2022年6月16日発表)

米国マサチューセッツ州のCheckpoint Therapeutics(Nasdaq:CKPT)は、CK-301(cosibelimab)のcSCC(皮膚扁平細胞癌)試験が中間解析で良好な成績を挙げたと発表した。年内に米国で承認申請する予定。類薬は多いが、同社は2-3割安価に販売する考え。

IgG1型抗PD-L1抗体で、結合持続性が高く、ADCC活性も強化されている。Fortress Biotech(Nasdaq:FBIO)が2015年にDana-Farber Cancer Instituteからライセンス、プロジェクト・ベース子会社であるCheckpoint社を設立して開発を進めている。リード・インディケーションがcSCCで、1月に転移性患者78人のORR(客観的反応率、独立中央評価)が47.4%、95%下限36.0%、反応持続期間はメジアン未達であることが発表された。今回は治癒的切除/放射線療法が適応にならない局所進行性cSCC31人が解析対象。ORR(同)が54.8%、95%下限は36.0%で閾値の25%を上回った。

非扁平上皮非小細胞性肺癌の第3相一次治療化学療法併用試験も進行中。

リンク: Checkpoint社のプレスリリース


ヴァンフリタの化学療法併用試験が成功
(2022年6月13日発表)

第一三共は昨年11月にVanflyta(quizartinib)の第3相QuANTUM-First試験が成功したと発表しているが、データをEHA(欧州血液学会)で発表した。再発治療は欧米では承認されなかったが、再チャレンジするのではないか。延命効果が確認された一方で有害事象による死亡が増加した模様なので、要注意。

急性骨髄性白血病(AML)でしばしば見られるFLT3遺伝子内縦列重複(FLT3-ITD)変異を標的とするFLT3チロシン・キナーゼ阻害剤で、19年に日本で再発難治性AMLに承認された。欧米でも申請されたが、延命効果が小さく心毒性が見られることや、臨床試験の実施状況などから、承認されなかった。

今回の試験はFLT3-ITD変異を持つ未治療AML539人を組入れて、標準的な化学療法に追加する効果を検討した。主評価項目の全生存はハザードレシオ0.776、メジアン生存期間は31.9ヶ月で化学療法だけの群の15.1ヶ月を大きく上回った。ハザードレシオは単剤をサルベージ化学療法と比較した再発治療試験と大差ないが、メジアン値の差はほぼ10倍だ。

一方で、副次的評価項目の完全寛解率や無イベント生存期間には有意差がなかった。また、治療時発現有害事象による死亡率は11.3%対9.7%で上回った。

リンク: 同社のプレスリリース(和文、pdf)


小児脳腫瘍用薬を来年にも承認申請の期待
(2022年6月12日発表)

米国南サンフランシスコのDay One Biopharmaceuticals(Nasdaq:DAWN)はDAY101(tovorafenib)の第2相FIREFLY-1小児脳腫瘍試験に組入れられた最初の25人の成績を公表した。ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が64%と良好なもので、来年第1四半期に判明するであろう全患者のデータも良好なら承認申請に向かう考え。

Sunesis Pharmaceuticals(当時:昨年、Viracta Therapeutics(Nasdaq:VIRX)に吸収合併された)が2011年に武田薬品の米国子会社にライセンスしたタイプII汎RAFキナーゼ阻害剤で、Day Oneは20年に一部の希少疾患を除く開発販売権を取得した。

今回の試験は生後6ヶ月から25歳までの再発/進行性pLGG(小児低悪性度神経膠腫)に週一回、単剤投与した。薬効解析対象はメジアンで3治療歴を持つ22人。ORRは確認例が13人、未確認1人。19~43%縮小した疾病安定も6例あった。治療関連有害事象はCPK上昇やラッシュ、毛髪変色など。G3以上の治療関連有害事象が25人中9人、36%で発生した。

リンク: 同社のプレスリリース


抗アミロイド・ベータ抗体の家族性アルツハイマー病発症予防試験がフェール
(2022年6月15日発表)

ロシュ・グループのジェネンテックは、RG7412/MABT5102A(crenezumab)のAPI ADADコロンビア試験がフェールしたと発表した。コロンビアの常染色体優性早発性アルツハイマー病が多い家系の未発症者に抗アミロイド・ベータ抗体を3~5年投与して、認知能力や記憶力の変化を偽薬群と比較したが、小さな、有意ではない差しかなかった。データは8月2日のAAIC(アルツハイマー協会国際会議)で発表する予定。

2006年にスイスのAC ImmuneからライセンスしたIgG4型抗体で、16年に前駆・軽度アルツハイマー病の第3相を始めたが、無益中止となった。今回の試験はBanner Alzheimer's InstituteやNIH(米国立医療研究所)と共同でコロンビアで実施した。被験者252人の2/3は、典型的には44歳前後で認知障害が現れる、PSEN1(presenilin 1)のE280A変異を持っていた。

抗アミロイド・ベータ抗体の第3相が続々フェールしたころ、原点に帰ってアミロイド・ベータ蓄積につながる変異を持つ家族性早発性アルツハイマー病の試験を行うべきではないかと書いたが、こちらも行き詰った。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、pimavanserinをアルツハイマー性精神症に支持せず
(2022年6月17日発表)

FDAは精神薬学的薬諮問委員会を招集し、Nuplazid(pimavanserin)をアルツハイマー患者の幻覚妄想症状の治療に用いる適応拡大について意見を聞いた。臨床試験で便益が確立したと答えた委員は3人のみで9人は反対した。審査期限は8月4日。

Nuplazidは5-HT2Aインバース・アゴニスト。ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)が開発、16年に米国でパーキンソン病患者の精神症状の治療薬として承認された。向精神薬を高齢認知症患者に用いると死亡リスクが高まることが枠付警告されている。

同社は第3相試験一本と補助的エビデンスとして第2相試験のデータを提出した。前者は中間解析で成功認定されたが、FDAの分析によると、大きな効果があったのはパーキンソン病患者などで、被験者の2/3を占めるアルツハイマー病では(検出力不足もあり)有意水準に達していない。後者は治験デザインや薬効評価方法、治療効果の臨床的な意義、副次的評価項目はフェールしたことなどに、FDAが疑問を呈していた。

アルツハイマー病性精神症は、FDAの度重なる警告にもかかわらず様々な向精神薬がオフレーベル使用されており、充足されないニーズの大きさが窺われる。Nuplazidが承認されれば良かったが、クラスレーベルである死亡リスクの上昇を正当化できるだけの便益を確立するのは容易ではない。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


スキリージがクローン病に適応拡大
(2022年6月17日発表)

アッヴィはSkyrizi(risankizumab-rzaa)を成人の中重度活性期クローン病の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。抗IL-23p19抗体がこの用途で承認されるのは初。最初の3回は4週おきに600mgを1時間点滴静注し、第12週からは360mgを8週毎に自己皮注する。維持用量は180mgも申請した模様だが、未だ審査中。日欧でも申請中。

寛解導入試験二本と維持試験で内視鏡的奏効率と臨床的寛解率が偽薬を有意に上回った。

リンク: 同社のプレスリリース


MC4Rアゴニストがバルデー・ビードル症候群に適応拡大
(2022年6月16日発表)

FDAはRhythm Pharmaceuticals(Nasdaq:RYTM)のImcivree(setmelanotide)を6歳以上のバルデー・ビードル症候群患者の肥満症に適応拡大した。米国で1500~2500人が罹患する希少疾患で、症状の一つである肥満症は治療が中々成功せず、医薬品が承認されたのは初めて。

44人の患者を組入れて一日一回皮注した偽薬対照試験では、52週後のBMI(ベースライン値は41.8kg/m2)が平均7.9%低下した。14週の偽薬対照期間中の低下は4.6%で偽薬群の0.1%と有意な差があった。

食欲制御に係るメラノコルチン-4受容体のアゴニストで、2020年に米国で、21年にはEUでも、同じく食欲制御に係るPOMC、PCSK1、またはLEPRの欠病症による6歳以上の肥満症用薬として承認された。

尚、バルデー・ビードル症候群とともに臨床試験に組み込まれたアルストレム症候群に関しては、被験者数が少なかったせいか、成績が今一つだったせいか、審査完了通知を受領した。

この薬の注意すべき有害事象は、性感障害や長時間勃起、自殺思慮・鬱病、皮膚色素沈着など。適応外だが新生児や乳児に投与するとベンジルアルコールによる深刻/致死的なGasping症候群のリスクがある。

リンク: FDAのプレスリリース


アルナイラムの3ヶ月毎投与型hATTR用薬が承認
(2022年6月13日発表)

アルナイラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)は、Amvuttra(vutrisiran)がhATTR(家族性トランスサイレチン型家族性アミロイドーシス)患者のポリニューロパチー治療薬としてFDAに承認されたと発表した。122人に25mgを3ヶ月毎に皮注した臨床試験で9ヶ月後のmNIS+7スコアが2.24ポイント低下した。対照群に設定された、同社のOnpattro(patisiran)の試験の偽薬群は14.76ポイント上昇だったため、有意な差があった。

18~19年に米欧日で同じ適応症に承認されたOnpattroと同様なRNA介入薬で、違いは、Onpattroは3週毎点滴静注であること。

リンク: 同社のプレスリリース


オルミエントが円形脱毛症に承認
(2022年6月13日発表)

イーライリリーは、JAK1/2阻害剤のOlumiant(baricitinib)を重度円形脱毛症の治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。2mg一日一回経口投与で開始し、反応が不十分なら4mgに増量を検討、応答したら2mgに減量を検討する。米日などで実施された第3相試験二本で、毛髪が頭皮の80%以上を占めた患者の比率が一本では偽薬群5%、2mg群22%、4mg35%、もう一本では各3%、17%、33%だった。二本のプール分析で、ベースライン時点で占有0~5%のみだった患者では各群1%、10%、21%。6~50%だった患者では8%、33%、48%だった(50%超は治験の対象外)。

すごい効果だが、JAK阻害剤は深刻な有害事象のリスクも持っているので要注意。また、JAK阻害剤の第2相試験では脱毛してから何年も経った患者には十分な効果が見られず、上記試験は8年以上経った患者は除外したが、レーベル上は言及されておらず、このような人にもリスクに見合う効果があるのかどうか、曖昧だ。

リンク: 同社のプレスリリース

カナダがAmylyxのALS用薬を条件付き承認
(2022年6月13日発表)

Amylyx(Nasdaq:AMLX)はAMX0035(sodium phenylbutyrateとtaurursodiolの経口懸濁液用粉末製剤)をALS(筋萎縮性側索硬化症)用薬として開発、欧米などで承認申請したが、昨年6月に最初に申請したカナダで承認されたと発表した。24年に結果が出る見込みの第3相試験で薬効を確認する条件付き。薬価収載を経て数ヶ月後に発売する見込み。

昨年11月に申請した米国は、FDAがエビデンスの頑強性に疑問を持ち、諮問委員会も薬効確立と考える委員が4人、考えない委員が6人と評価が分かれた。審査期限は3ヶ月延長され9月29日になった。EUは今年1月に申請。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: カナダのプロダクト・モノグラフ(pdf)

【医薬品の安全性】


Clovis、PARP阻害剤の卵巣癌3次治療の承認を返上
(2022年6月16日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は、SECに提出した適時開示報告、フォーム8-Kの中で、FAP-2286の第1相試験途中データやPARP阻害剤Rubraca(rucaparib)の卵巣癌二次治療後維持療法試験の全生存期間途中解析結果について報告した後に、RubracaのBRCA有害変異型卵巣癌3次治療に関する米国の承認を返上したことを明らかにした。難治性卵巣癌で白金薬ベースの二次治療に完全/部分反応した患者の維持療法や、BRCA有害変異のある去勢抵抗性前立腺癌でアンドロゲン標的薬歴や化学療法歴を持つ患者の適応は維持している。

この適応は16年に新薬として加速承認された時のもの。卵巣癌二次治療後維持療法偽薬対照試験が成功したため、18年に本承認に切り替わった。ところが、PFS(無進行生存期間)を延ばす効能を確認するBRCA有害変異卵巣癌の3次治療化学療法対照試験(ARIEL4)で、主目的は達成したものの、全生存のハザードレシオが1.55、メジアン生存期間は19.6ヶ月対27.1ヶ月と見劣りした。

上記維持療法試験でも全生存期間の中間解析はハザードレシオが1前後と失望的に推移している。

Rubracaの需要に占める3次治療の割合は低いため、収益影響は小さい模様。

リンク: 同社の8-K(SECのEDGARサイト)







今週は以上です。

2022年6月11日

第1054回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • モデルナ、オミクロン対応二価ワクチンの試験成功 
  • 微小管阻害剤をEUA申請 
  • FDA諮問委員会、ヌバキソビッドのEUAを支持 
  • その他の領域: 
  • GSK、60歳以上のRSVワクチンを承認申請へ 
  • CD25標的ADCを承認申請へ 
  • Aldeyra社、ドライアイ治療試験が今度は成功 
  • 経皮的ピーナツ減感作療法、1-3歳の試験が成功 
  • FGFR異常のある腫瘍の29%が反応 
  • NRG1融合のある腫瘍の34%が反応 
  • エンハーツはher2低発現でも有効 
  • Trodelvyの効果はそれほどでもない 
  • イブランス、またも延命効果が確認されず 
  • Syk阻害剤の自己免疫性溶血性貧血試験がフェール 
  • マイクロバイオーム薬の承認申請に着手 
  • FDA諮問委員会、Bluebirdの遺伝子療法を支持 


【COVID-19関連】


モデルナ、オミクロン対応二価ワクチンの試験成功
(2022年6月8日発表)

モデルナはSpikevax(elasomeran)の抗原とオミクロン株対応抗原の二価COVID-19ワクチン、mRNA1273.214の第2/3相追加免疫試験が成功したと発表した。50mcg筋注の1ヶ月後時点で、オミクロン株に対する抗体価はSpikevax(50mcg)群を有意に上回り、GMR(幾何平均比)は1.75、97.5%信頼区間は1.49-2.04だった。データを承認審査機関に提出する予定。

日本でも4回目接種が始まったが、重症感染例が大きく減少していることや、感染予防効果の持続性が低いことから、オミクロン対応ワクチンが承認されるまで様子見を勧める医師も多い模様だ。従来ワクチン比1.75倍というのは案外な印象だが、当初の水準が少しでも高ければ効果が漸減しても少しは長持ちすることになる。

リンク: 同社のプレスリリース


微小管阻害剤をEUA申請
(2022年6月7日発表)

米国マイアミのVeru(Nasdaq:VERU)はVERU-111(sabizabulin)を中等症・重症COVID-19入院患者の治療薬としてEUA(非常時使用認可)申請したと発表した。米国や中南米などで実施した、急性呼吸窮迫症候群や死亡のリスクが高い患者に9mgを一日一回、経口投与した無作為化割付二重盲検試験の中間解析(n=150)で、60日死亡率が20%と偽薬群の45%を下回り、相対リスク削減率55%、p=0.0029だった。

sabizabulinはアルファ/ベータ・チューブリン阻害剤で、これまでは専ら抗癌剤として開発されてきた。同社は、COVID-19における作用機序に関して、微小管はウイルスの細胞内移動に係るというインフルエンザ・ウイルスに関する論文を指摘している。

リンク: 同社のプレスリリース


FDA諮問委員会、ヌバキソビッドのEUAを支持
(2022年6月7日発表)

FDAのVRBPAC(ウイルス及び関連生物学的製剤諮問委員会)は、Novavax(Nasdaq:NVAX)が18歳以上の成人向けに申請したナノ粒子状COVID-19ワクチン(欧州名Nuvaxovid)を検討し、22人の委員のうち21人が賛成、1人は棄権と、圧倒的多数がEUA(非常時使用認可)を支持した。

スパイク蛋白の遺伝子を導入したバキュロウイルスを昆虫細胞に感染させて産生した、全長融合前スパイク蛋白ナノ粒子にサボニン・ベースのMatrinx-Mアジュバントを添加したワクチンで、50mcgを21日置いて二回筋注する。通常の冷蔵庫で保存できる。米国とメキシコなどで実施した第3相試験では症候性感染を予防するワクチン効率が90%、英国の第3相では89%だった。オミクロン株に関する効果や、持続性は明らかではない。

mRNAワクチンではごく稀に心筋炎/心膜炎が若者中心に報告されている。同社のワクチンでも米国第3相で発生率が0.007%と偽薬群の0.005%より高かった。既に承認されている国では市販後有害事象報告が35件あり、累計接種回数は74万回なので、同じような頻度だ。

諮問委員会ではmRNAワクチンの接種が進んだ段階で4番目のワクチンを認可する必要性について問う声もあった。遺伝子ワクチンを忌避する人はサイエンスに基づいて判断しているわけではないので、従来技術の抗原ワクチンなら受け入れる訳ではないだろう、という洞察だ。尤もな意見だが、たとえ少数でも受け入れる人はいるだろうから、プランBを用意しておくのは重要だ。

Nuvaxovidは英国試験に基づき昨年12月にEUで条件付き承認、WHOもEUL(非常時使用リスト)収載、今年4月には日本でも承認された。生産がボトルネックになっており、米墨第3相試験の完了そしてEUA申請が遅れ、今年2月に2022年の供給計画が下方修正された。

リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)

【新薬開発】


GSK、60歳以上のRSVワクチンを承認申請へ
(2022年6月10日発表)

GSKはGSK3844766Aの第3相試験が成功したと発表した。60歳以上の25000人を17ヶ国の施設で組み入れて、一回筋注する効果を検討したところ、RSウイルス感染を有意に抑制することが中間解析で確認された。RSV A感染とRSV B感染夫々の予防効果や70歳以上における予防効果も確認された。年内に承認申請する考え。

RSウイルスの融合前F糖蛋白を抗原とする遺伝子組換えワクチンで、同社のCervarix子宮頸癌ワクチンなどと同様なAS01アジュバントで抗原性を増強している。RSVワクチンは同社のほかに数社が先陣争い中。

リンク: 同社のプレスリリース


CD25標的ADCを承認申請へ
(2022年6月10日発表)

スイスのADC Therapeutics(NYSE:ADCT)は、ADCT-301(camidanlumab tesirine、通称Cami)の第2相再発難治ホジキン型リンパ腫試験の中間解析結果をEHA(欧州血液学会)で発表するとともに、承認申請に向けてFDAと相談する考えを明らかにした。

Camiは抗CD25抗体とDNA2本の間にクロスリンクを形成し複製を妨げるtesirineを結合した抗体薬物複合体。メジアンで6治療歴を持つ患者117人に投与したところ、ORR(総合的反応率)が70.1%、完全反応率は33.3%だった。ORRのメジアン反応持続期間は13.7ヶ月。G3以上の治療時発現有害事象は各種の骨髄抑制、低リン血症、斑点状丘疹など。ギラン・バレー症候群(GBS)の発生により20年に治験部分停止が命じられたことがあるが、今回の試験でも117人中8人でGBS/多発神経根症が発生した。

リンク: 同社のプレスリリース


Aldeyra社、ドライアイ治療試験が今度は成功
(2022年6月8日発表)

Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)はADX 102(reproxalap)の第3相TRANQUILITY-2ドライアイ治療試験が成功したと発表した。共同主評価項目のSchirmerテストのスコアと改善奏効率が偽薬を有意に上回った。この主評価項目は一本目のTRANQUILITY-1試験でも前者は副次的評価項目として、後者はポスト・ホック解析で、名目p値が0.05を下回っており、エビデンスが二本となったことから1年安全性試験の結果などを待って承認申請する考え。

ADX 102は免疫反応を刺激するRASP(反応性アルデヒド種)を調節する点眼液。第3相は初日に4回点眼した後に、涙の分泌能を調べるSchirmerテストを行った。結果は、4mm程度改善し、ほぼ変わらなかった偽薬群を有意に上回った。奏効率(10mm以上改善した患者の比率)も25%対8%と有意に上回った。

一本目は主評価項目の赤目改善がフェールしたが、奏効率(同上)は31%対15%だった。同社は、この結果を受けて、二本目の主評価項目を赤目とShirmerテストに増やし、どちらかが成功すれば成功認定する解析計画変更を行った。更に、一本目の赤目評価をコンピューターに自動判定されたところ、有意性判定水準を下回る結果が出たため、今年5月に二本目の主評価項目をSchirmerテストだけに変更した。

ポスト・ホック分析を活用したり、主評価項目が紆余曲折したりしているので、承認審査機関が承認申請を首肯するかどうか、様子を見たい。

リンク: 同社のプレスリリース


経皮的ピーナツ減感作療法、1-3歳の試験が成功
(2022年6月7日発表)

フランスのDBV Technologies(Euronext:DBV)はViaskin Peanutの第3相EPITOPE試験が成功したと発表した。1~3歳のピーナツ・アレルギー患者362人を試験薬群と偽薬群に2対1割付して12ヶ月治療して、奏効率(ベースラインでアレルギー誘導量(ED)が10mg以下の患者では300mg以上に、10mg超では1000mg以上に、改善)が各群67.0%と33.5%となり、差の95%下限が22.4%と閾値の15%を上回った。

深刻有害事象の発生率は9%と3%。減感作療法の最大の懸念であるアナフィラキシーが試験薬群の4人(1.6%)で発生したが、いずれも軽中度で、3人はエピネフィリン注射で、1人は自然に、解消した。有害事象治験離脱率は3.3%だった。

ピーナツ蛋白を活性成分とする一日一回貼付用薬。開発歴は順調ではなく、後期第二相試験がフェールしたが、6~11歳に250mcgを投与したグループは反応が良かった。このため、4~11歳に絞って第3相試験を行ったが奏効率が35.3%、偽薬群は13.6%、差の95%下限は12.4%となりフェールした。FDAの反応が良かったようで18年に承認申請したが、パッチの密着性などがネックで承認されなかった。20年にEUで承認申請したが、効果が限定的でアナフィラキシー・リスクを上回らないと否定的な反応だったため、今年1月に撤回した。

リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)


FGFR異常のある腫瘍の29%が反応
(2022年6月7日発表)

JNJグループのJanssen Pharmaceuticalは、ASCO(米国臨床腫瘍学会)で、Balversa(erdafitinib)の第2相RAGNAR試験の中間解析結果を発表した。FGFR異常がある固形癌のサルベージ試験で、解析対象178人におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会判定)は29.2%、メジアン反応持続期間は7.1ヶ月だった。FDAと相談する考え。加速承認申請が認められるのではないか。

Balversaは汎FGFR阻害剤。19年に米国でFGFR3またはFGFR2に特定の遺伝子変異や融合を持つ局所進行/転移尿路上皮癌に用いることが加速承認された。転移尿路上皮癌の1~2割が該当するようだ。エビデンスとなる第2相試験でのORR(盲検独立評価委員会判定)は32%、メジアン反応持続期間は5.4ヶ月だった。

今回の試験は32種類と多くの器官の癌を組入れたが、症例が多い神経膠腫では29人のうち6人、膵癌は13人中4人、唾液腺癌は5人すべてが反応した。

G3以上の有害事象の発生率は45%、薬物関連有害事象による治験離脱は7.3%だった。

08年にAstex Therapeutics(後に大塚薬品が買収)から導入したもの。

リンク: JNJのプレスリリース


NRG1融合のある腫瘍の34%が反応
(2022年6月5日発表)

オランダのMerus N.V. (Nasdaq:MRUS)は、MCLA-128(zenocutuzumab、通称Zeno)のNRG1融合陽性腫瘍におけるORR(客観的反応率、治験医評価)が34%と良好であったことをASCO(米国臨床腫瘍学会)で発表した。年内にも承認申請に向かうのではないか。

NRG1が遺伝子融合により異常活性化すると、受容体であるher3がher2とヘテロダイマーを形成してPI3K/AKT/mTOR経路を活性化するシグナルを発出する。癌化を牽引するドライバー変異だが、該当するのは肺癌や膵癌、乳癌、胆嚢胆管癌、卵巣癌などの0.5%前後と大変稀である模様だ。Zenoはher3に結合する長鎖とher2に結合する長鎖を持つ二重特異性抗体。

今回のデータは第1/2相eNRGy試験の72例とEAP(承認前の医薬品を切羽詰まった患者に提供するプログラム)の11例が対象。日本を含む17ヶ国の64医療施設が参加した。単群試験で、試験薬(750mg)を2~4時間かけて点滴静注し、2週毎に繰り返した。変化がなくても8週毎に検査して反応の程度を評価した。

発生部位毎のORRは、膵管腺腫19人では42%、非小細胞性肺癌46人では35%、乳癌は7人中3人、胆管癌は3人中1人だった。メジアン反応持続期間は9.1ヶ月。

安全性解析の対象は第2相向け推奨用量を投与した208人。G3/4有害事象発生率は36%で下痢や疲労、悪心、貧血、点滴関連反応など。G5は5%。治療時発現有害事象の発生率はG3/4が5%、G5は0.5%で、一名が点滴関連反応で死亡した。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: ASCOプレゼン用スライド(pdf)


エンハーツはher2低発現でも有効
(2022年6月5日発表)

第一三共と共同開発・販売パートナーであるアストラゼネカは、Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)の第3相DESTINY-Breast04試験が成功したと2月に発表したが、データをASCO(米国臨床腫瘍学会)とNew England Journal of Medicine誌で公表した。her2標的薬の中で初めて、her2高発現型だけでなく低発現型の乳癌にも効果が高いことが明らかになり、対象患者が大きく増加した。

EnhertuはHerceptinの活性成分である抗her2抗体、trastuzumabとirinotecan誘導体をリンカーで結合した抗体薬物複合体。her2を過剰発現している切除不能/転移乳癌や局所進行/転移胃・胃食道接合部腺腫でher2標的薬による治療歴を持つ患者に承認されている。

her2検査はIHC法やISH法が一般的。IHC法の判定結果は0(陰性)、1+、2+、3+で示される。her2標的薬の第一号であるロシュのHerceptin(trastuzumab)が98年に承認された頃はIHC法で2+または3+であれば適応と考えられていたが、臨床試験で用いられたアッセイと異なった評価が出ることもある市販アッセイを用いた研究や、ISH法を用いた研究が進んだ今日では、IHC法で2+だった場合はISH法でも検査して陽性なら適応、と判断されるようになった。この結果、Herceptinの対象患者は転移乳癌の3割強から2割強に低下した。ロシュの抗体薬物複合体であるKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)の対象も同じである。

今回の試験は、陽性なのに適応にならない1+と、2+のうちISH陰性を組入れたことが特徴。一次/二次治療歴を持つ患者を5.4mg/kgを投与する群と医師が選んだ化学療法の群に2対1割付して、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を比較した。主評価項目のホルモン受容体陽性サブグループ499人における成績はハザードレシオが0.51で有意、各群のメジアン値は10.1ヶ月と5.4ヶ月だった。同様に、副次的評価項目の全生存期間は0.64(有意)、23.9ヶ月、17.5ヶ月。ホルモン受容体陰性サブグループ58人を含む全ユニバースの解析でもPFSは0.50、9.9ヶ月、5.1ヶ月、全生存期間は0.64(有意)、23.4ヶ月、16.8ヶ月だった。

このような場合、ホルモン受容体陰性だけの成績が気になるが、今回はちゃんとプレスリリースに記載されている。点推定値はPFSも全生存期間も陽性サブグループより若干よく、95%上限は1を下回った。サンプル数が少ないが好意的に受け止めてよいのではないか。

忍容性面では、間質性肺疾患が12%で発生、致死的間質性肺疾患は0.8%だった(対照群は1%未満とゼロ)。

リンク: 両社のプレスリリース


Trodelvyの効果はそれほどでもない
(2022年6月4日発表)

ギリアド・サイエンシズは3月にTrodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)のTROPiCS-02試験の成功を発表したが、ASCOでデータを公開した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の転移性乳癌で内分泌療法薬とCDK4/6阻害剤を含む二次から四次までの化学療法歴を持つ転移性乳癌543人を組入れて、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)を医師が選んだ化学療法を施行する群と比較したところ、ハザードレシオは0.66で統計的に有意だった。メジアン値は5.5ヶ月と4.0ヶ月で差が小さいが、1年経っても死亡も進行もしなかった患者の比率は21%と7%で価値のある差が出ている。

残念なのは全生存期間の中間解析(293人到達時点)がハザードレシオ0.84、メジアン値は13.9ヶ月と12.3ヶ月とそれほど良くないこと。次は350人到達時点、最終は483人到達時点で解析する予定。

Trodelvyは20年にImmunomedicsを210億ドルで買収して入手した、抗TROP-2抗体とirinotecan代謝物の抗体薬物複合体。2~3次の治療歴を持つトリプル・ネガティブ乳癌に承認されている。

リンク: 同社のプレスリリース


イブランス、またも延命効果が確認されず
(2022年6月4日発表)

ファイザーのIbrance(palbociclib)はPALOMA-2試験が成功し、エストロゲン受容体陽性her2陰性局所進行/転移乳癌の一次治療にアロマターゼ阻害剤と併用することが16年にEUで承認され、米国では仮承認が本承認に切り替わった。薬効は進行・死亡の抑制で、letrozoleと併用した群のメジアンPFSは24.8ヶ月、letrozole・偽薬併用群は14.5ヶ月、ハザードレシオは0.580だった。

PFSで10ヶ月も差があれば全生存期間は1年以上の差があっても驚きではないが、ASCOで発表された数値は、メジアン値は53.9ヶ月と51.2ヶ月で2ヶ月余の差しかなく、ハザードレシオは0.956で有意ではなかった。

IbranceはPALOMA-1試験でもPFSの10ヶ月の差が十分な延命効果に繋がらなかった(有意でなかった)。

一次治療薬の延命効果は二次以降の治療内容にも左右されるが、一次治療薬の副作用により二次治療でベストな薬を使えなかった、というようなケースも起こり得るので、話は単純ではない。会社側は追跡不能例に大きな群間差があったことを指摘しているが、行政の記録を確認すれば追跡不能でなくなる筈だ。FDAの要請でデータ収集しアップデートした前例もある。本試験もアップデートして、ただのディスインフォメーション工作ではないこと明らかにすべきである。

リンク: 同社のプレスリリース


Syk阻害剤の自己免疫性溶血性貧血試験がフェール
(2022年6月8日発表)

Rigel Pharmaceuticals(Nasdaq:RIGL)はTavalisse(fostamatinib disodium hexahydrate)の第3相AIHA(温式自己免疫性溶血性貧血)試験がフェールしたと発表した。東欧の施設における偽薬群の成績が異常によかったが、欧米など他の地域では群間差があったため、承認審査機関と相談する考え。

治療歴を持つ患者90人を試験薬群と偽薬群に無作為化割付して24週間治療し、持続的ヘモグロビン反応率を比較したところ、35.6%対26.7%と数値上上回ったが有意水準には達しなかった。ポスト・ホックでブルガリアやチェコなど東欧の施設37人を分析したところ、35%対53%と数値上、偽薬群を下回った。一方、他の地域の53人では36%対11%、名目p=0.03と良さそうな結果が出た。

東欧の患者は診断後間もなかったり、rituximab治療歴が無かったり、全体に偽薬でも反応しそうな患者が多かった由だが、それが原因なら試験薬群の成績ももっと良かったはずだ。サンプルサイズが小さいので群間の偏りがあったかもしれないが、影響度を数値化するのは困難だろう。プロトコル違反やGCP逸脱などが理由なら解析対象から除外することが許容されるだろうから、調査してみてもよいのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


マイクロバイオーム薬の承認申請に着手
(2022年6月7日発表)

Seres Therapeutics(Nasdaq:MCRB)はSER-109のECOSPOR IV試験が良好な結果になり、難治CDI(クロストリディオイデス・ディフィシル感染症)の再燃予防薬として米国でローリング承認申請に着手したと発表した。年央に完了する予定。マイクロバイオームが承認されれば初。

健常者の腸由来のフィルミクテス門細菌胞子を精製、エタノール処理したカプセル剤。抗生剤治療を終えた後に、4個を一日一回、3日間服用する。第3相試験(n=182)では8週内再燃率が12%と偽薬群の40%を下回り、相対リスク削減率32%、統計的に有意だった。治療時発現有害事象の発生率は各群51.1%と52.2%で大差なく、深刻例の発生率は7.8%と16.3%で少なかった。死亡は3人(膠芽腫、血腫、敗血症が各1人)対ゼロだった。

今回の単群試験はFDAの推奨に基づき安全性データベースを充実すべく263人を24週間追跡した。CD感染検査は毒素アッセイだけでなくPCRも許容した。8週間再燃率は8.7%と偽薬対照試験と同じような結果になった。

21年にNestle Health Scienceと北米販売で提携、先方の子会社のAImmune Therapeuticsが商業化を主導し利益は折半する。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、Bluebirdの遺伝子療法を支持
(2022年6月9-10日発表)

FDAはCTGTAC(細胞組織遺伝子治療諮問委員会)を招集し、bluebird bio(Nasdaq:BLUE)が承認申請したSkysona(elivaldogene autotemcel、略称eli-cel)とZynteglo(betibeglogene autotemcel、略称beti-cel)について意見を聞いた。どちらも血液癌のリスクが懸念されるが、適切な治療法のない患者には便益が上回ると全員一致で支持した。

尚、どちらもEUで先に承認されたが、薬価交渉が難航したことなどから同社は欧州事業縮小と承認返上を決めた。

eli-celの予定適応症は18歳未満の早期cALD(脳副腎白質ジストロフィー)で、HLA適合造血幹細胞の同胞ドナーがいない場合。ALDはABCD1遺伝子の欠損によるX染色体性遺伝子疾患。有病率は新生男児21000人に一人。3~4割が進行性かつ不可逆的な神経変性疾患であるcALDを発症する。治療しないと5年生存率は5割程度。兄弟姉妹のHLA適合造血幹細胞移植が有効だが、入手できるとは限らず、できても小児の2割程度はグラフト・フェールなどにより死亡するようだ。

eli-celは患者から採取したCD34+細胞にレンチウイルスベクターを用いてABCD1遺伝子の相補DNAを導入し培養したもの。患者に抗癌剤を投与してプリコンディショニングした後に点滴投与する。

臨床試験では32人中29人、90%が、2年経っても大きな機能障害なしに生存していた。造血幹細胞移植の同様なデータはHLA適合同胞ドナーなら9割だが不適合だと4割程度である模様で、比較可能性に難があるものの、良さそうに見える。有害事象は汎血球減少症など。

FDAは21年8月に治験停止を命じたことがある。MDS(骨髄異形成症候群)が発生したため。殆どの被験者でベクターの遺伝子がMECOM癌原遺伝子に組み入れられるため、薬物関連有害事象の可能性がある。これまでに、67人中3人(4%)がMDSを発症し、うち2人はMECOM挿入が関係した可能性がある。経時的に増加する可能性もある。

深刻なリスクだが、小児MDSは5年生存率が比較的高いこともあり、15人の委員全員がeli-celの便益は危険を上回ると判定した。また、eli-celの承認審査に際して同社が重症鎌状赤血球症向けに開発しているbb1111(lovotibeglogene autotemcel、略称lovo-cel)の安全性データを考慮する必要はないと13人が判定した(一人は反対、一人は棄権)。

eli-celの審査期限は6月16日に設定されたが諮問委員会招集が決まり9月16日に延期された。

リンク: 同社のプレスリリース(6月9日付)

beti-celの予定適応症は輸血依存のベータ・サラセミア。患者から採取したCD34+細胞にレンチウイルスベクターを用いてベータ・グロブリン遺伝子(標識のため一部改変)を導入、培養して患者に戻す。第3相試験では36人中32人が輸血不要になった。深刻有害事象は血小板減少症。beti-celでも血液癌症例が発生し治験部分停止を命じられたことがあるが、遺伝子を調べたところ、オンコジーンとして知られている遺伝子にはベクターの遺伝子が挿入されていないことが明らかになり、解除された。諮問委員会では13人全員が支持した。審査期限は8月20日。

19年にEUで条件付き承認され、同社は価格を157.5万ユーロ(5年分割、但し効果がなくなったら支払い終了)に設定しようとしたが、ドイツが半値を求めるなど薬価交渉が難航、欧州の患者は見捨てることを決めた。一方、米国では、ICER(Institute for Clinical and Economic Review)が210万ドル(5年分割、効果がなくなったら支払い終了)と同社に肯定的な評価を示している。

米国で承認される目途が立ったのは経営面でも大きな前進だ。

レンチウイルスは宿主細胞の遺伝子にゲノムを導入することができる。血球細胞のように活発に分裂する細胞以外にも導入できるので、患者が欠乏する蛋白の遺伝子を長期的に発現することが期待される。一方で、変な場所に導入されるとバグが生じるかもしれない。今回の諮問委員会は、治療しないリスクが深刻な疾患ならリスクが許容されることを示した。

同社はbb1111(lovotibeglogene autotemcel、通称lovo-cel)を鎌状赤血球症治療薬として来年、承認申請する考え。血液癌リスクが具現化し詰まっていたパイプラインが、一気に流れ出しそうだ。

リンク: 同社のプレスリリース(6月10日付)





今週は以上です。

2022年6月4日

第1053回

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • 疫学研究:パキロビッドは65歳以上には免疫の有無を問わず有益 
  • レミケードとオレンシアは中重症SARS-CoV-2に有効 
  • その他の領域: 
  • イムブルビカは未治療MCLのPFSは延ばすことができる 
  • ノボ、週一インスリンの第3相がまた成功 
  • tau凝集阻害剤の第3相が成功(?) 
  • zuranoloneは産後鬱高用量試験も成功 
  • デュピクセントを結節性痒疹に承認申請 
  • BMS、Reblozylの適応拡大申請を撤回 
  • アルギナーゼ1欠乏症用薬の承認申請は受理されず 
  • オプジーボの併用レジメンが未治療食道癌に承認 
  • FDA、Ukoniqの承認を取消 


【COVID-19関連】


疫学研究:パキロビッドは65歳以上には免疫の有無を問わず有益
(2022年6月1日発表)

イスラエルの国民医療制度の一翼を担い人口の過半を会員としている医療サービス機関、Clalit Health Servicesは、ファイザーのPaxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)のオミクロン株感染者に対する効果に関する疫学論文の査読前草稿をResearch Squareで公開した。65歳以上では入院や死亡リスクの低下と関連していたが、40~64歳では有意な差はなかった。65歳以上ではワクチンや感染による免疫歴を持つ人にもリスク低下との関連が見られた。

この研究は今年1~3月にCOVID-19に感染した、Paxlovidが適応になる40歳以上の患者のうち、服用した患者としなかった患者の入院や死亡リスクをCOX回帰分析で比較した。適応となったのは109213人、うち3.6%が一回服用した。階層化因子のうち年齢層(40~64歳と65歳以上)に顕著な交互作用が見られたため、別々に解析することを決めた。

65歳以上(母集団は42819人、服用者は2504人)では服用者の0.6%(14人)がCOVID-19関連で入院した。非服用者は1.9%(762人)で修正ハザードレシオは0.33(95%信頼区間0.19-0.55)となった。副次的評価項目のCOVID-19関連死亡は服用者で2人、非服用者は151人、修正ハザードレシオは0.19(0.05-0.76)。

一方、40~64歳(母集団66394人、服用者1435人)では各群0.6%と0.5%がCOVID-19入院し、修正ハザードレシオは0.78で有意ではなかった。COVID-19関連死亡は各群1人と13人、修正ハザードレシオ1.64で点推定値が逆方向を指した。

65歳以上の42819人のうち、免疫歴のない3306人ではCOVID-19関連入院の修正ハザードレシオが0.14と大きな違いが見られた。尚、40~64歳でも0.21だったが有意ではない。

65歳以上で免疫歴のある患者でも修正ハザードレシオが0.40(95%信頼区間0.23-0.71)と良好な結果になった。40~64歳では1.18と逆向きだ。

Paxlovidの承認の根拠となった臨床試験ではワクチン接種歴は除外条件だった。接種歴のある患者を組入れた試験の結果はまだ公表されていないので、このような患者にも承認・処方するのはエビデンスに基づかない医療である。特定の国の特定の人種における疫学研究が一本出ただけではあるが、ノー・エビデンス・メディスンよりはよい。

それにしても、ワクチン接種が先行したイスラエルでも免疫歴のない人やPaxlovidが適応になるのに処方されなかった人がこんなにいるのは驚きだ。

リンク: R Arbelらの疫学論文草稿(Research Square、pdfファイル)


レミケードとオレンシアは中重症SARS-CoV-2に有効
(2022年6月2日発表)

NIH(米国医療研究所)はACTIV-1 IM試験の成否を発表した。テストした三剤のうち、infliximabとabataceptは、主評価項目のtime to recovery(退院するまでの期間)はトレンドに留まったものの、死亡オッズや症状改善オッズが偽薬群を上回った。後者をOrencia名で販売しているブリストル マイヤーズ・スクイブは承認審査機関と相談する考え。前者をRemicade名で販売しているジョンソン・エンド・ジョンソンも追随するのではないか。

この試験は米国とラテンアメリカの69施設で1971人の中重症COVID-19入院患者を組入れて上記二剤および武田薬品が創製したCCR2/CCR5阻害剤cenicrivirocの症状改善効果を偽薬と比較した。infliximabは5mg/kgを、abataceptは10mg/kg(上限1000mg)を、一回だけ投与した。被験者の90%はremdesivirを、85%はdexamethasoneを同時使用していた。

infliximab群は死亡率が10.0%と偽薬群の14.5%を下回り、修正オッズは40.5%低かった。症状改善オッズは43.8%良かった。abataceptも死亡率が11.0%と偽薬群の15.0%を下回り、修正オッズが37.4低く、症状改善オッズは34.2%良かった。

主評価項目がフェールしたので副次的評価項目は慎重に解釈する必要があり、詳細も明らかではないが、現時点では良好な結果と受け止めてよいだろう。

リンク: NIHのプレスリリース

【新薬開発】


イムブルビカは未治療MCLのPFSは延ばすことができる
(2022年6月3日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのJanssen Pharmaceuticalは、BTK阻害剤Imbruvica(ibrutinib)の第3相高齢マントル細胞腫一次治療試験の結果をASCO(米国臨床腫瘍学会)などで発表した。欧州では適応拡大申請中。米国は未だのようだ。延命効果が見られないことが影響しているのではないか。

このSHINE試験は自家造血幹細胞移植が適応にならない未治療のマントル細胞腫を組入れてBRレジメン(bendamustineとrituximabを併用)に560mg一日一回経口投与を追加する効果を偽薬追加と比較した。主評価項目のPFS(無進行生存期間)のハザードレシオは0.75、メジアン値は各群6.7年と4.4年と、統計学的にも臨床的にも大きな成果が見られた。

ところが、副次的評価項目の全生存期間はハザードレシオが1.07(95%信頼区間0.81-1.40)とフェールした。7年生存率は各群55%と56%でこちらも点推定値が逆方向を向いている。死亡リスクが1.4倍に高まる可能性を十分に否定できない結果になった。

G3/4の有害事象は肺炎の発生率が20%対14%と高まり、BTK阻害剤のクラス・イフェクトと目される心房細胞の治療関連有害事象発生率も14%対7%で上回った。各群10.7%と6.1%の患者が有害事象により死亡した。

試験薬群はPFSが長かった分、二次治療施行率が低く、これも影響した可能性があるが、PFSにおける2年以上の差が延命に繋がらないのは奇妙な話だ。

2種類の薬を併用すべきか、二次治療が必要になった時のために取っておくかは常に難しい選択だが、延命につながらず副作用リスクは高いなら、あえて三剤併用する必要はないのではないか。

リンク: JNJのプレスリリース


ノボ、週一インスリンの第3相がまた成功
(2022年6月3日発表)

ノボ ノルディスクはNN1436(insulin icodec)の第3相試験二本が成功したと発表した。既に一本成功しており、他の試験の結果も逐次開票するだろうから、早晩承認申請されるだろう。

ONWARDS 1試験はインスリン未経験の二型糖尿病患者を試験薬群とinsulin glargine群に無作為化割付して78週間治療した。HbA1c(ベースライン=8.5%)は各群1.55%と1.35%低下し、有意な差があった。重度または臨床的に顕著なヘモグロビン低下の人年当り発生頻度は各群0.30と0.16で大差なかった。

ONWARDS 2試験はミールタイム・インスリンを使っている1型糖尿病患者を上記と同様な群に無作為化割付して52週間治療した。HbA1c(同7.6%)の低下は各群0.47%と0.51%低下し非劣性、重度または臨床的に顕著なヘモグロビン低下の人年当り発生頻度は19.93対10.37で大差なかった。

NN1436はアルブミンに強力にしかし可逆的に結合するよう改変した遺伝子組換え型インスリン。現在の管理放出性インスリンは一日一回皮注であるのに対して週一回皮注で足りることが長所。

リンク: 同社のプレスリリース


tau凝集阻害剤の第3相が成功(?)
(2022年5月31日発表)

英国アバディーン大学発のバイオベンチャー、TauRx Pharmaceuticalsは、第3相アルツハイマー病治療試験の当初データに基づきHMTM(hydromethylthionine mesylate)を承認申請すべく動いていることを明らかにした。いつものことだが、データの内容は明らかではない。ロンドンで開催されるGlobal Conference of Alzheimer's Disease Internationalで6月9日に発表するとのこと。

HMTMはメチレン・ブルーと通称される化合物の高純度製剤。アルツハイマー病患者の脳で見られるtauの凝集を阻害する作用が注目され、第3相に進んだが、数年前に二本ともフェールした。他の薬を併用していない患者では効果の兆しが見られたことなどから用量を1/10以下に減らして実施したのが今回のLUCIDITY試験だ。欧米の施設でアミロイド陽性の軽中度アルツハイマー病と軽度認知障害の患者598人を、偽薬、4mg、または8mgを一日二回、12ヶ月に亘って経口投与する群に無作為化割付して、ADAS-cog11やADCS-ADL23を比較した。

プレスリリースが奇妙なのは、文献データと比べて悪化が小さかったと記述していること。偽薬比については言及していない。アルツハイマー病でバイオジェンの抗アミロイド・ベータ抗体Aduhelm(aducanumab)の第3相試験では悪化の大きかったグループと小さかったグループではかなりの差があった。一群当り症例数が10倍以上大きい試験でもそうなのだから、外部データと比較することにどれほどの意味があるのか、よくわからない。

リンク: 同社のプレスリリース(pdfファイル)


zuranoloneは産後鬱高用量試験も成功
(2022年6月1日発表)

Sage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)とバイオジェンは、SAGE-217(zuranolone)の二本目の第3相産後鬱治療試験、SKYLARKが成功したと発表した。HAMD-17総スコアが26以上の患者200人を偽薬と50mgに無作為化割付して一日一回、2週間経口投与する効果を調べたところ、第15日の同スコアがベースライン比で各11.6と15.6低下し、有意な差があった。治療時発現有害事象は傾眠、眩暈、鎮静、頭痛など。

zuranoloneはGABA-Aの選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレータ。類薬のZulresso(brexanolone)が19年に米国で産後鬱治療薬として承認されたが、60時間連続点滴静注で連続酸素飽和度モニタリングが必要。新生児を抱っこしている時に寝落ちしないよう気を付ける必要もある。zuranoloneは経口剤で本命の用途は鬱病。急性期の短期治療薬として今年下期に、産後鬱は来年に、承認申請予定。。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認申請】


デュピクセントを結節性痒疹に承認申請
(2022年5月31日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズとサノフィは、Dupixent(dupilumab)を成人の結節性痒疹に用いる適応拡大をFDAに申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は9月30日。この病気に承認されている薬はない。

局所ステロイド不応不適の成人160人を組入れた第3相試験では痒み減少奏効率が一本は37%(偽薬群は22%)、もう一本は60%(同18%)だった。副次的評価項目の病変治癒/ほぼ治癒奏効率は各45%(16%)と48%(18%)だった。有害事象ではヘルペス感染症や結膜炎が増加した。

Dupixentは抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体で、IL-4とIL-13をブロックする。アトピー性皮膚炎や特発性蕁麻疹、好酸球性喘息症、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎などに用いることが承認されている。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


BMS、Reblozylの適応拡大申請を撤回
(2022年6月3日発表)

ブリストル マイヤーズ・スクイブはReblozyl(luspatercept-aamt)を輸血依存ではないベータ・サラセミアの治療薬としてFDAに適応拡大申請していたが、撤回した。第2相試験に基づいて申請したところ、FDAが追加情報を要求、直ぐには回答できないため撤回した由。

ReblozylはアクティビンのIIB型受容体の細胞外領域を免疫グロブリンの固定領域と結合した遺伝子組換え型融合蛋白で、骨髄異形成症候群による貧血や輸血依存のベータ・サラセミアの治療薬として欧米で承認されている。血栓症や高血圧のリスクがある。

リンク: 同社のプレスリリース


アルギナーゼ1欠乏症用薬の承認申請は受理されず
(2022年6月2日発表)

米国テキサス州のAeglea BioTherapeutics(Nasdaq:AGLE)はAEB1102(pegzilarginase)をアルギナーゼ1欠乏症(高アルギニン血症)の酵素補充療法としてFDAに承認申請していたが受理されなかった。臨床的便益を確認するよう求められた模様。二本目の試験を行うか、アルギニンの減少が臨床的な便益に繋がることを立証するデータを探す必要がありそうだ。

アルギナーゼ1欠乏症は常染色体性劣性遺伝性疾患で、尿素サイクルの最終段階でL-アルギニンを代謝しアンモニアの分解・排出をもたらすアルギナーゼ1の遺伝子に機能喪失変異を持つ。治療はフェニル酪酸ナトリウムなどが用いられているようだが、正式に承認された薬はない。

AEB1102は遺伝子組換え型ヒト・アルギナーゼ1。2歳以上の患者32人を組入れて24週間治療した第3相PEACE試験で、血漿アルギニンが71%低下と、偽薬の4.9%低下を大きく上回る効果を示した。被験者の90%が正常化を達成した(偽薬群はゼロ)。一方で、副次的評価項目の運動機能はトレンドに留まった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


オプジーボの併用レジメンが未治療食道癌に承認
(2022年5月27日発表)

ブリストル マイヤーズ・スクイブは、FDAがOpdivo(nivolumab)及びYervoy(ipilimumab)を成人の切除不能進行/転移食道扁平上皮腫の一次治療に用いることを承認したと発表した。この二剤、または、Opdivo、白金薬、そしてfluoropyrimidineの三剤を併用する。

CheckMate-648試験の中間解析で、Opdivo・Yervoy併用はメジアン生存期間が12.8ヶ月、白金薬・fluoropyrimidine群は10.7ヶ月でハザードレシオは0.78だった。PD-L1陽性(≧1%)サブグループでは各15.4ヶ月、13.7ヶ月、0.64と特に良い数値が出た。

一方、三剤併用はメジアン生存期間が13.2ヶ月、白金薬・fluoropyrimidine群比ハザードレシオは0.74、PD-L1陽性サブグループでは各15.4ヶ月と0.54で更に良い数値が出た。

このレジメンはEUでも5月に承認されたが、適応はPD-L1陽性だけ。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA、Ukoniqの承認を取消
(2022年6月1日発表)

FDAはTG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)のUkoniq(umbralisib)の承認を取り消すと発表した。辺縁帯リンパ腫や濾胞性リンパ腫のサルベージ薬として21年に加速承認したばかりだが、同社の抗CD20抗体と併用した慢性リンパ性白血病試験でジェネンテックの抗CD20抗体とchlorambucilの併用レジメンより死亡率が高まる懸念が浮上したため。このUNITY-CLL試験は主評価項目のPFS(無進行生存期間、独立評価委員会判定)がハザードレシオ0.55と大変良い数値が出たためTG社が新薬/適応拡大承認申請したが、全生存期間のハザードレシオが1.23と逆方向を向いてしまった(検出力不足なので有意ではない)。直近の解析ではもっと悪化した模様だが、諮問委員会の直前に承認申請撤回・Ukoniqの承認返上となったため、数値は不明なままだ。

UkoniqのようなPI3K阻害剤は各社の製品で安全性懸念が浮上しており、承認や適応の返上が相次いでいる。クラス全体の安全性を検討する上でUNITY-CLL試験も重要なエビデンスになりうるだけに、残念なことだ。

リンク: FDAのプレスリリース





今週は以上です。