【ニュース・ヘッドライン】
- 抗APRIL抗体のIgA試験成績
- TACI-Igが遂に実用化なるか
- ノバルティス、放射性医薬品のmHSPC試験が成功
- ASCO:コセルゴが成人患者試験も成功
- ASCO:タグリッソの摘出術前投与試験が成功
- ASCO:PARP阻害剤・CYP17阻害剤合剤のHRR-mCSPC試験が成功
- ASCO:GSK-3beta阻害剤の第2相データ
- ASCO:バイエルの内分泌療法誘導性VMS試験が成功
- ASCO:オプジーボの頭頚部癌術後アジュバント試験が成功
- ASCO:イムデトラの小細胞肺癌二次治療試験が成功
- ASCO:エンハーツの一次治療試験が成功
- ASCO:テセントリクのdMMR結腸癌術後付随療法試験が成功
- ASCO:アストラゼネカの二剤が試験成功
- KMT2A阻害剤をNPM1変異AMLに承認申請
- リブタヨを皮膚扁平上皮腫の術後アジュバントに適応拡大申請
- バイエル、her2/1阻害剤の承認申請が受理
- 欧州でマイクロバイオーム療法薬を承認申請
- ニュベクオがmHSPCに承認
- PRAC、セマグリチドの眼疾患リスクを認定、水痘ワクチンの検討を開始
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【新薬開発】
抗APRIL抗体のIgA試験成績
(2025年6月6日発表)
18年に大塚製薬の子会社になったVisterra社は、3月に米国でVIS649(sibeprenlimab)を成人のIgA腎症用薬として承認申請したが、第3相試験成績がERS(欧州腎臓学会)で公表された。ACE阻害剤を単剤またはSGLT阻害剤とともに服用している成人患者510人に400mgまたは偽薬を4週毎皮下注したVISIONARY試験の中間解析で、9ヶ月後の24時間UPCR(尿蛋白クレアチニン比)がベースライン値(メジアン1.2g/g)から50.2%低下、2.1%上昇した偽薬群を有意に上回る効果を示した。
治療時発現有害事象はCOVID-19など感染症が増加し、高血圧や末梢浮腫は偽薬群より少なかった。深刻なものの発生率は5.4%で偽薬群の3.9%と比べ増加しなかった。
当試験は24ヶ月のeGFR変化を検証するため続行中。他のIgA腎症用新薬と同様に、UPCRで加速承認を取得しeGFRで本承認に切替える方針なのだろう。
IgA腎症は糖鎖欠損のあるIGA1が産生されるのがきっかけで自己抗体が生成され、腎機能に悪影響を齎す。本薬はIgA、特に糖鎖欠損IGG1の産生に関わるAPRIL(A PRoliferation Inducing Ligand)に結合する抗体医薬。アジアの患者が7割を占めた第2相ENVISION試験では12ヶ月後のUPCRが用量依存的に下した。この時は静注したが、薬物動態的/薬力学的に400mg皮下注と同程度とされる4mg/kg群は59%低下、偽薬群は20%低下だった。今回のデータはだいぶ上向いたことになる。
リンク: 大塚製薬のプレスリリース(和文)
TACI-Igが遂に実用化なるか
(2025年6月2日発表)
米国カリフォルニア州の新興医薬品開発会社、Vera Therapeutics(Nasdaq:VERA)は、ataciceptが第3相ORIGIN 3試験で主目的を達成したと発表した。FDAと相談し25年第4四半期に承認申請する考え。
ataciceptはB細胞のBLySやAPRILの受容体であるTACIのFvドメインとIgG1のFcドメインの融合蛋白。2001年にスイスのセロノがZymoGeneticsから開発権を取得し自己免疫疾患用途で開発したが、前者はメルクに買収され、後者はBMSに買収される変遷を経ても成果が上がらず、2020年にVera社に導出したもの。
同社は後期第2相のORIGIN試験でIgA腎症における蛋白尿改善作用を確認、今回の第3相に進んだ。成人患者431人を偽薬群と150mg週一回自己皮下注群に無作為化割付けして第36週における24時間UPCR(尿蛋白クレアチニン比)の変化を調べたところ、試験薬群は46%低下し、偽薬調整後でも42%低下した。安全性は両群大差なかった。
24ヶ月追跡してeGFR(推算糸球体濾過量)の悪化を抑制する効果を確認する予定。IgA腎症における先行他社と同じで、UPCRに基づき加速承認を取得しeGFRで本承認に切替えることになるだろう。
リンク: 同社のプレスリリース
ノバルティス、放射性医薬品のmHSPC試験が成功
(2025年6月2日発表)
ノバルティスはPluvicto(Lu 177 vipivotide tetraxetan)が第3相PSMAddition試験の中間解析で主目的を達成したと発表した。データは今後、発表する。FDAと相談の上、今期下期に適応拡大申請する考え。
PSMA結合ライガンドとDOTAキレーターのLu 177を結合した放射線医薬品。ドイツの癌研究所DKFZとハイデルベルグ大学病院が共同開発、ノバルティスは18年にEndocyte社を買収して入手した。22年に米欧で、アンドロゲン受容体回路阻害剤(ARPI)及びタクサン・ベース化学療法歴のあるPSMA陽性転移CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)に単剤投与する適応用法で承認された。
今回の試験もPSMA陽性癌が対象だが、転移はしたもののホルモン療法はフェールしていないmHSPCを組入れて、標準療法(ARPIとアンドロゲン枯渇療法の併用)に追加する便益を検討したもの。主目的のrPFS(放射線学的無進行生存期間)の統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を達成した。副次的評価項目の全生存期間はトレンドに留まっている様子だ(偽薬群の被験者は進行後にPSA値が著増していたらPluvictoが適応になるので、クロスオーバーも多かっただろう)。
リンク: 同社のプレスリリース
ASCO:コセルゴが成人患者試験も成功
(2025年6月2日発表)
アストラゼネカのMEK1/2阻害剤Koselugo(selumetinib)を神経線維腫1型(NF1)の成人における症候性切除不能叢状神経線維腫病(PN)の治療に当てた第3相KOMET試験の成績がASCO(米国臨床腫瘍学会)とLancet誌で発表された。
145人を偽薬と試験薬に無作為化割付けしてcORR(確認客観的反応率、独立中央評価)を比較したところ、各群5%と20%となり、p=0.011だった。同社は2月に欧日で適応拡大申請したことを明らかにしている。
NF1は3000~4000人に一人の常染色体性優性遺伝性疾患。ニューロフィブロミンの遺伝子変異によりras~PI3K/AKT経路を抑制できない。小児発症だが患者数は成人が7割と多い。本薬は20~22年に米欧日で2歳以上(欧日では3歳以上)の小児患者向けに承認されている。
リンク: Chenらの治験論文抄録(Lancet)
ASCO:タグリッソの摘出術前投与試験が成功
(2025年6月2日発表)
アストラゼネカのEGFR阻害剤Tagrisso(osimertinib)が第3相NeoADAURA試験で主目的を達成したことがASCOとJournal of Clinical Oncology誌で発表された。EGFR変異陽性の早期非小細胞性肺癌用途では治癒的完全切除後のアジュバント療法として20~21年に米欧で適応拡大が認められたが、術前投与も有効であることがある程度明らかになった。
ステージII/IIIBの切除可能な、EGFR遺伝子にex19欠損/ex21L858R置換のある、非扁平上皮非小細胞性肺癌358人を80mg単剤投与群、pemetrexedとcarboplatin/cisplatinによる標準療法に追加する群、標準療法に偽薬追加群に無作為化割付けして、MPR(主要病理学的反応、盲検独立中央評価)を比較したもの。単剤群は25%、併用群は26%が達成し、標準療法群の2%を有意に上回った。オーソドックスな指標であるpCR(病理学的完全反応率)は各群9%、4%、0%となった模様だ。
一番重要な延命またはそれに準じる便益は確立していないが、目標の15%しか到達していない段階の1年EFS(無イベント生存率)は各群93%、95%、83%と、良さそうな方向を指している。多くの患者が術後に服用した(承認されているので)模様であり、術前投与の便益が表面化し難くなる面もありそうだ。
リンク: Heらの治験論文抄録(Journal of Clinical Oncology, Just Accepted)
ASCO:PARP阻害剤・CYP17阻害剤合剤のHRR-mCSPC試験が成功
(2025年6月3日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ASCOで第3相AMPLITUDE試験の結果を発表した。転移去勢感受性前立腺癌の25%程度を占める、HRR(相同組換え修復)不全の患者696人を組入れて、同社のAkeegaと同じ活性成分(CYP17阻害剤abiraterone acetateとPARP1/2阻害剤niraparib)を含有する合剤をprednisone及びアンドロゲン枯渇療法と併用する便益を、niraparibを偽薬に代えたレジメンと比較したもので、rPFS(放射線学的無進行生存期間)が統計的に有意且つ臨床的に意味のある改善を見た。
ハザードレシオは0.63(95%信頼区間0.49-0.80)、特にBRCA変異を持つ191人では0.52(同0.37-0.72)だった。一部報道によると、BRCA以外のHRR不全では0.8程度だったようだ。類薬であるLynparza(olaparib)の似たような試験ではPALB2に対しても高いORR(客観的反応率)を示したが、本試験ではあまり効果が見られなかった模様。
全生存期間は中間解析で未成熟だが、HRR不全全体では0.79(同0.59-1.04)、BRCA変異サブグループでは0.75(同0.51-1.11)だった。G3/4有害事象の発生率は試験薬群が75%、対照群は59%、有害事象治験離脱率は14.7%と10.3%だった。
Akeegaは23年に欧米で成人のBRCAに有害変異を持つ/疑われる転移去勢抵抗性前立腺癌に承認された。今回の用法が適応拡大申請され承認されれば、化学的去勢療法に応答しているが転移が見られる患者に、BRCA以外のHRR不全も含めて、用いることができるようになる。
niraparibaは2012年にTesaroがMSDから導入、16年にヤンセン・バイオテックに前立腺癌領域における日本以外の全世界における開発商業化権を供与した。Tesaroは17年に米欧で卵巣癌用薬Zejulaとして承認を取得、19年にGSKに買収された。Zejulaは日本でも20年に承認されているが、Akeegaの開発はどうなっているのだろうか?
リンク: 同社のプレスリリース
ASCO:GSK-3beta阻害剤の第2相データ
(2025年6月2日発表)
Actuate Therapeutics(Nasdaq:ACTU)はASCOで第2相Actuate-1801試験パート3Bの成績を発表すると共に、FDAと承認申請に向けた道筋を相談する考え。
未治療の転移膵管腺腫286人を、gemcitabine、nab-paclitaxel、そしてNF-k betaやDNA Damage Responseに関わるグルカゴン合成キナーゼ3ベータ(GSK-3beta)を阻害する9-ING-41(elraglusib)を投与する群とgemcitabine・nablitaxelだけの群に2対1割付けして12ヶ月生存率を比較したところ、各群44.1%と22.3%となり、メジアン生存期間は10.1ヶ月対7.2ヶ月、ハザードレシオ0.63、p=0.01だった。ORR(客観的反応率)は29%対21.8%で有意差なし、PFS(無進行生存期間)も5.6ヶ月対5.1ヶ月で有意差なし。G3以上の治療時発現有害事象は好中球減少症の発生率が52%対30%と増加したが、熱性のものや敗血症は両群大差なかった模様だ。
膵癌は抗癌剤の墓場みたいになっているので注目したいが、ORRやPFSが今一つだ。
リンク: 同社のプレスリリース
ASCO:バイエルの内分泌療法誘導性VMS試験が成功
(2025年6月2日発表)
バイエルはBAY3427080(elinzanetant)の第3相OASIS 4試験の結果をASCOで発表した。米国は参加していない模様だが、欧州などの施設で、乳癌の摘出術後内分泌療法を受け中重度VMS(血管運動神経症状)を罹患した患者474人を組入れて120mgを一日一回、経口投与した、頻度や症状などの緩和を図ったもので、第4週における頻度(ベースライン値は11)が6.5低下、偽薬群は3.0低下に留まった。第12週も各群7.8低下と4.2低下で何れに時点でも有意差があった。深刻有害事象の発生率は2.5%対0.6%。試験薬群は52週安全性追跡期間中の深刻有害事象の発生率が7.1%だった。
GSKからスピンアウトした会社から更にスピンアウトした企業を20年に買収して入手したNK-1,3受容体拮抗剤。閉経期中重度VMS治療薬として昨年8月に米国で承認申請された。
リンク: バイエルのプレスリリース
リンク: Cardosoらの抄録(2025 ASCO #508)
ASCO:オプジーボの頭頚部癌術後アジュバント試験が成功
フランスの頭頚部放射線腫瘍学共同治験グループ、GORTECは、NIVOPOSTOP/GORTEC 2018-01試験の結果をASCOで発表した。フランスの施設で局所進行頭頚部扁平上皮腫の切除術を受けた高リスク患者680人を組入れて、放射線療法とcisplatinによるアジュバント療法に抗PD-1抗体nivolumabを追加する便益を検討したオープン・レーベル試験で、3年DFS(無病生存期間)が63.1%と追加しなかった群の52.5%を上回り、ハザードレシオは0.76、p=0.034だった。PD-L1発現を問わず便益が見られた。
p値がそれほどでもないので全生存期間が注目される。3年生存率は74.2%対67.8%で良さそうだが未成熟。
BMSのOpdivoの試験とみられるが同社からはプレスリリースが出ていない。ClinicalTrials.govにはGORTECがFDAが規制する薬品の試験ではないと登録しているので、シミラーの試験なのかもしれない。
類似した試験ではMSDのKeytruda(pembrolizumab)がKeyNote-689試験の中間解析でEFS(無イベント生存期間)を達成、日本では3月に適応拡大申請されたので欧米でも申請済みだろう。
リンク: Bourhisらの抄録(2025 ASCO LBA#2)
ASCO:イムデトラの小細胞肺癌二次治療試験が成功
(2025年6月2日発表)
アムジェンはDLL3とCD3に結合するBiTE抗体、Imdelltra(tarlatamab-dll)の第3相DeLLphi-304試験の結果をASCOで発表した。白金薬による一次治療中またはその後に進行した小細胞性肺癌を対象に、全生存期間を標準療法(日本はamrubicin、他の地域はtopotecanなど)と比較したもので、中間解析で成功したことが4月に公表済み。
ハザードレシオは0.60、メジアン生存期間は13.6ヶ月対8.3ヶ月。抗PD-(L)1薬による治療歴の有無は影響が見られなかった。G3以上の治療関連有害事象が各群27%と62%の患者で発生した。二重特性抗体のボトルネックであるG3CRS(サイトカイン放出症候群)の発生率は1%、ICANS(免疫イフェクター細胞関連神経毒性症候群)はG3/4はゼロだがG5が1例(0.4%)で発生した。
Imdelltraは今回と似たような適応で24年に米国(加速承認)と日本で承認された。米国は今回の成功で本承認切替の道筋が立つ。米国のレーベルによるとは1回目と2回目の投与時は1時間点滴後に21~23時間モニターする必要があり、患者には、適切な医療施設に47時間滞在することを推奨している。今回の試験では、CRSのリスクや重症度は48時間モニターした209人でも、6-8時間のみの43人でも、大差なかったとのことなので、負担緩和申請する考えなのかもしれない。
リンク: 同社のプレスリリース
ASCO:エンハーツの一次治療試験が成功
(2025年6月2日発表)
第一三共と開発販売パートナーのアストラゼネカは、4月に第3相DESTINY-Breast09試験の成功を公表したが、データをASCOで発表した。her2陽性(IHC3+またはISH+)の進行/転移乳癌の一次治療における抗her2抗体薬物複合体Enhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)単剤、そしてEnhertu・pertuzumab(ロシュの抗2C4抗体Perjeta)併用の便益を、taxane、trastuzumab、pertuzumabの三剤併用群と比較したもので、中間解析でEnhertu・pertuzumab併用群のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン40.7ヶ月と対照群の26.9ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.56だった。
全生存期間の解析は進捗16%と未成熟だが、ハザードレシオ0.84(95%信頼区間0.59-1.19)と、PFSと比べて物足りない水準にある。Enhertuのボトルネックである間質性肺疾患や肺臓炎はG3やG4はなかったが、2人(0.5%)が死去した。
Emhertu単剤投与群の解析は未だ成熟しておらず、継続追跡される。併用群の次の全生存期間解析も見てみたいものだ。
リンク: 両社のプレスリリース
ASCO:テセントリクのdMMR結腸癌術後付随療法試験が成功
(2025年6月1日発表)
北米の癌共同治験グループ、Alliance for Clinical Trials in Oncologは、ASCOで、第3相ATOMIC試験が中間解析で主目的を達成したと発表した。
この試験は、dMMR(ミスマッチ修復不全)のあるステージIIIの結腸腺腫を切除した712人を組入れて、切除後アジュバント療法であるmFOLFOX6(oxaliplatin、leucovorin、fluorouracilの併用レジメン、12サイクル)に抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、25サイクル)を追加する便益を検討した。主目的のDFS(無病生存期間)は3年DFS率が86.4%とmFOLFOX6だけの群の76.6%を上回り、ハザードレシオは0.50、p<0.0001(アルファの割当は0.009)だった。サブグループ分析も一貫的な結果になった。G3以上の有害事象発生率は各群71.7%と62.1%だった。
NIH(米国立衛生研究所)のスポンサード(トランプ政権で存続の危機にある)で行われたものだが、同じく資金援助したジェネンテック側からは特にリリースは出ていないようだ。何か瑕疵があるのだろうか?
リンク: Alliance for Clinical Trials in Oncologyのプレスリリース(EurekAlert!)
リンク: Sinicropeらの抄録(ASCO 2025 LBA1)
ASCO:アストラゼネカの二剤が試験成功
(2025年6月1日発表)
アストラゼネカは、ASCOで抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)とAZD9833(camizestrant)の日本も参加した第3相試験の成功を発表した。Imfinziは適応拡大申請されるのではないか。
Imfinziの第3相MATTERHORN試験は、ステージII/III/IVAの胃・胃食道接合部癌患者948人を組入れて、切除術前術後化学療法であるFLOT(fluorouracil、leucovorin、oxaliplatin、docetaxelの併用、術前と術後に2サイクルずつ施行)にImfinzi(術前2回、術後12回投与)を追加する便益を検討した。3月に中間解析で主評価項目のEFS(無イベント生存率、盲検独立中央評価)が偽薬を追加した群と比べて有意かつ臨床的に意味のある改善を示したことだけ公表されている。
ハザードレシオは0.71、p<0.001(アルファの割り当ては0.0239)、メジアン値は未達(偽薬追加群は32.8ヶ月)。サブグループ分析も一貫した結果になった由。副次的評価項目の全生存期間は未だ目標の34%にしか到達していないが、ハザードレシオは0.78(95%信頼区間0.62~0.97)、p=0.025(アルファの割当ては0.0001)と、良さそうな数値になっている。最終解析に向けて継続追跡する。
G3/4有害事象の発生率は71.6%で偽薬追加群の71.2%と大差なかった。
リンク: 同社のプレスリリース(MATTERHORN試験)
AZD9833は新開発の次世代経口選択的エストロゲン零落剤(SERD)。複数の第3相試験が進行中だが、SERENA-6試験が最初に開票した。ホルモン受容体陽性、her2陰性の転移乳癌で、アロマターゼ阻害剤とCKD4-6阻害剤による一次治療を受け進行が抑制されているが、定期的ctDNA検査(血液中に含まれる腫瘍関連DNAを測定)でESR1変異が検出された315人を組入れて、アロマターゼ阻害剤からAZD9833にスイッチする便益をしない群と比較した。2月に統計的有意かつ臨床的に意味のある差があったことだけ公表されている。
主目的であるPFS(無進行生存期間、治験医評価)はハザードレシオが0.44、メジアン値は各群16.0ヶ月と9.2ヶ月だった。副次的評価項目の全生存期間は未成熟。G3以上の有害事象の発生率は各群60%と46%で、白血球減少症やリンパ球減少症などが増加した。
プレスリリースは承認申請予定の有無には触れていない。全生存期間の解析を待たずに申請するなら盲検独立中央評価も行うのではないかと思われるが、どうだろうか。
それはそれとして、腫瘍標本を採る必要がないctDNA検査で進行再発のリスクをいち早く察知する手法は面白い。
同薬は、一次治療にCDK4/6阻害剤palbociclibと併用する第3相SERENA-4試験も来年後半に開票する見込み。
リンク: 同(SERENA-6試験)
【承認申請】
KMT2A阻害剤をNPM1変異AMLに承認申請
(2025年6月2日発表)
米国のKura Oncology(Nasdaq:KURA)と開発販売パートナーの協和キリンは、2月に目的達成を公表したKO-539(ziftomenib)のKOMET-001試験の成績をASCOで発表すると共に、その前日、FDAが承認申請を受理し、優先審査し、審査期限は11月30日に決まったことを明らかにした。
ziftomenibは選択的経口menin KMT2A阻害剤。成人の治療歴のある難治/再発NPM1変異急性骨髄性白血病細胞92人を組入れて単剤投与したコフォートで、21人(23%)がCR(完全寛解)/CRh(血球数の回復以外は完全寛解)となった。メジアン完解持続期間は3.7ヶ月と血液癌なので短い。骨髄抑制の発生率はそれほど高くなく、QTc延長は見られなかった。
リンク: 両社のプレスリリース
リブタヨを皮膚扁平上皮腫の術後アジュバントに適応拡大申請
(2025年5月31日発表)
Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は抗PD-1抗体Libtayo(cemiplimab-rwlc)の第3相C-POST試験の成績をASCOで発表すると共に、欧米で適応拡大申請したことを明らかにした。CSCC(皮膚扁平上皮腫)の摘出術と放射線療法を終えた高リスク患者415人を組入れてDFS(無病生存期間)を偽薬と比較したもので、中間解析でハザードレシオが0.32、メジアン値は未到達(偽薬群は49ヶ月)、2年DFS率は87%(同64%)だった。PD-L1発現が1%以上(309人)ではハザードレシオ0.28、1%未満(85人)では0.32(95%上限0.86)で、どちらにも便益が見られた。G3以上の有害事象発生率は24%(同14%)、有害事象による離脱は10%(同1.5%)だった。
副次的評価項目の全生存期間はハザードレシオ0.78(95%信頼区間0.39-1.56)で継続追跡する。
Libtayoは日本ではある種の子宮癌に、欧米では更にある種の皮膚がんや肺癌にも、承認されている。
リンク: 同社のプレスリリース
バイエル、her2/1阻害剤の承認申請が受理
(2025年5月28日発表)
バイエルはBAY 2927088(sevabertinib)を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。目標適応は、成人の全身性治療歴のあるher2活性化変異陽性進行非小細胞性肺癌。第1/2相SOHO-01試験で20mgを一日2回投与したところ、her2標的薬未治療の44人におけるORR(客観的反応率、治験医評価)が70.5%、メジアン反応持続期間は8.7ヶ月、抗her2抗体薬物複合体歴のある34人では各35.3%と9.5ヶ月だった。用量制限的治療関連有害事象は下痢。昨年8月に、日本も参加して、第3相SOHO-02試験が始まった。
非小細胞性肺癌の2~4%でher2遺伝子にex20挿入などの変異が見られる由。
リンク: 同社のプレスリリース
欧州でマイクロバイオーム療法薬を承認申請
(2025年6月2日発表)
フランスのMaaT Pharma(Euronext:MAAT)は、Xervyteg(開発コードMaaT013)をEMA(欧州薬品庁)に胃腸症状のある急性移植片対宿主病の3次治療薬として承認申請したと発表した。承認されれば初めてのマイクロバイオーム(微生物叢)療法になる。
独仏など欧州50施設で実施された第3相ARES試験でステロイドにもruxolitinibにも応答しなかった66人における28日胃腸総合応答率(独立評価委員会評価)が62%、うち完全反応が38%だった。全臓器応答率も54%だった。深刻な疾患だが、推定12ヶ月生存率は54%で応答者では67%、不応者では28%のみだった。感染症のリスクは高まらなかった。
健常者由来の多様な微生物を含有する浣腸用薬。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認】
ニュベクオがmHSPCに承認
(2025年6月3日発表)
FDAはバイエルのNubeqa(darolutamide)を転移去勢感受性前立腺癌(mHSPC)に用いることを承認した。第3相ARANOTE試験でADT(アンドロゲン枯渇療法)に追加する便益を検討したところ、rPFS(放射線学的無進行生存期間)のハザードレシオが0.54、メジアン値は未到達(偽薬追加群は25ヶ月)だった。全生存期間は最終解析でも有意差が出なかったが、ハザードレシオ0.78(95%信頼区間0.58-1.05)だった。治療時発現有害事象による投与打切りが9%(偽薬追加群は6.1%)で発生した。
Nubeqaは14年にOrion(OMX:ORNAV)からライセンスした非ステロイド系アンドロゲン受容体アンタゴニスト。19~20年に米日欧で非転移性去勢抵抗性前立腺癌に承認された。
リンク: バイエルのプレスリリース
【医薬品の安全性】
PRAC、セマグリチドの眼疾患リスクを認定、水痘ワクチンの検討を開始
(2025年6月6日発表)
EMA(欧州薬品庁)のファーマコビジランス委員会、PRACは、GLP-1作用剤semaglutideの副作用にNAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)を追加するよう勧告した。CHMPの支持を得た上で、欧州委員会に添付文書改訂を勧告することになる。
疫学研究で1万人当り一人の超過リスク(semaglutideを用いていない患者群と比べた増分)が認められた。臨床試験でも若干の増加が見られた由。治療中に突然、視力喪失や低下を経験したら速やかに医療従事者に相談する。
GLP-1作用剤ではハーバード大学の疫学試験でもNAIONの超過リスクが見られた。更に、JAMA Ophthalmology誌に、新生血管加齢性黄斑変性のリスク倍増を示唆するカナダの疫学研究も刊行された。
PRACは、水痘ワクチンの安全性を検討していることも発表した。GSKのVARILRIXとMSDのVARILRIXの二つの弱毒化生ワクチンは脳炎のリスクが知られているが、ポーランドで接種後に発症した小児が数日後に死亡し、政府が暫定的に流通を止めたとのこと。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Shorらの疫学論文抄録(JAMA Ophthalmology)
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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25/6推 | UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症) |
25/6/10 | MSDのMK-1654(clesrovimab、0歳児のRSV予防) |
25/6/12 | モデルナのmResvia(RSVワクチン、18-59歳の高リスクに適応拡大) |
25/6/13 | UroGen PharmaのUGN-102(mitomycin膀胱内注入、筋層非浸潤膀胱癌) |
25/6/17 | KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫) |
25/6/19 | ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防) |
25/6/20 | GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版) |
25/6/20 | Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加) |
25/6/23 | Nuvation Bioのtaletrectinib(ROS1+非小細胞性肺癌) |
25/6/23 | MSDのKeytruda(pembrolizumab、頭頚部癌周術期付随と維持療法) |
25/6/27 | SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群) |
25/6/30 | Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病) |
25/7推 | JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫) |
25/7推 | Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC) |
25/7/10 | Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫) |
25/7/12 | 第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC) |
25/7/20 | ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療) |
25/7/22 | ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫) |
25/7/23 | GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫) |
25/7/29 | PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症) |
25/7/30 | Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫) |
今週は以上です。