【ニュース・ヘッドライン】
- 更年期ホルモン療法が米国で復権?
- 武田、ナルコレプシー用薬の第3相が成功
- アストラゼネカ、アルドステロン合成酵素阻害剤の最初の第3相が成功
- BMS、レブロジルの骨髄線維症試験がフェールも適応拡大申請に向けて協議へ
- アストラゼネカ、ALアミロイドーシスの第3相がフェール
- Corcept社、relacorilantを卵巣癌でも承認申請
- Atara社、移植後リンパ増殖性疾患用薬を再承認申請
- バイエル、低量造影剤をEUで承認申請
- 髄腔内投与版ゾルゲンスマを承認申請
- FDA諮問委員会、レキサルティのPTSD適応拡大を支持せず
- FDA諮問委員会、ブーレンレップの用量に疑念
- ロシュ、Columviの適応拡大はやっぱり承認されず
- シングリックスのプリフィルド・シリンジ版が承認
- ケレンディアが心不全に適応拡大
- エレビジスの肝毒性問題が波乱の展開
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【今週の話題】
更年期ホルモン療法が米国で復権?
(2025年7月17日発表)
MedPage Todayの報道によると、Marty Makary FDA長官が招集したパネルが全員一致で閉経期ホルモン療法薬の枠付き警告を削除すべきと結論した。このパネルの性質や影響力がどの程度なのか明らかではなく、同志の集会に過ぎないようにも感じられるが、四半世紀前にWHI(Women's Health Initiative)スタディが途中打ち切りになった時の激震に、揺り返しが起きているようだ。
WHIスタディは女性医療に関する代表的な大規模観察的試験の一つで、更年期障害の治療におけるエストロゲンやエストロゲン・プロゲスチン併用療法の便益を検討したが、心血管疾患や乳癌が増加する懸念が浮上、途中で打ち切られた。代表的な製品であるワイエス(後にファイザーが合併)のPremarinシリーズの売上高は激減することになった。ところが、その後のサブグループ分析や別研究により、必ずしも全ての患者に有害とは限らない可能性が浮上、様々な揺り戻しが来ている。
かといって、今回のパネルで結論が出たかというとそうでもなく、各種報道によると、メンバーには利益相反懸念があり、Makary長官自身もWHIスタディに懐疑的な見解を示したことがあるようであり、先入観やバイアスがありそうだ。
トランプ政権下では、COVID-19ワクチンに接種勧奨範囲についてCDC(疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)と学会で意見が対立するなど、国家分裂が医療分野にも広がっている。
リンク: MedPage Todayの報道
【新薬開発】
武田、ナルコレプシー用薬の第3相が成功
(2025年7月14日発表)
武田薬品はTAK-861(oveporexton)が第3相ナルコレプシー・タイプ1(NT1)治療試験二本で主目的などを達成したと発表した。26年3月期中に米国などで承認申請する考え。
NT1は、オレキシン産生ニューロンの著しい減少によるオレキシン欠乏を伴うナルコレプシー。TAK-861はオレキシン2型受容体を作動して代償する。日本も参加したFirstLight試験と、やや小規模なRadiantLight試験薬で、偽薬、低用量、または高用量を一日一回、12週に亘り経口投与したところ、主評価項目である睡眠潜時(暗室で横になったまま覚醒を維持)や副次的評価項目が概ね正常範囲に到達したとのこと。有害事象は不眠、尿意切迫、頻尿など。
類薬のTAK-994は第2相で肝毒性の早期スクリーニング手法であるHyの法則該当例が発生、開発中止となった。オレキシン受容体は肝細胞や免疫細胞には発現しないためクラス・イフェクトではない可能性があり、投与量が二桁小さいTAK-861は後期第2相で肝毒性や視覚障害事例は認められなかったと当時のプレスリリースに記されていたが、今回はどうだったのだろうか?
リンク: 武田のプレスリリース
アストラゼネカ、アルドステロン合成酵素阻害剤の最初の第3相が成功
(2025年7月14日発表)
アストラゼネカは、baxdrostatの第3相高血圧症治療試験で主目的と全ての副次的評価項目を達成したと発表した。複数の第3相が進行しているが、どこかの段階で承認申請するのだろう。
この日本も参加したBaxHTN試験は、管理不良(2種類併用しても治療目標未達)または治療抵抗性(3種類以上併用しても未達)の高血圧症患者796人を組入れて、偽薬、1mg、または2mgを追加する便益を検討した。主目的は12週の座位収縮期血圧。データは未公表だが、両用量とも偽薬比で統計的に有意かつ臨床的に意味のある改善を示した。
CYP11B2遺伝子がコードするアルドステロン合成酵素を選択的に阻害する経口剤。ロシュのRO6836191をライセンスし開発したCinCor Pharmaを23年に買収して入手した。類薬ではベーリンガー・インゲルハイムのBI 690517やMineralys Therapeutics(Nasdaq:MLYS)のMLS-101(lorundrostat、田辺三菱製薬のMT-4129)も第3相段階。
リンク: 同社のプレスリリース
BMS、レブロジルの骨髄線維症試験がフェールも適応拡大申請に向けて協議へ
(2025年7月18日発表)
ブリストル マイヤーズ スクイブはReblozyl(luspatercept-aamt)が第3相INDEPENDENCE試験で主目的を達成できなかったこと、しかし臨床的に意味のある改善を達成したため欧米当局と承認申請に向けて相談することを明らかにした。第2相試験のデータなど援用可能な支持的エビデンスを持っているのだろうか?
ActRⅡB(activin receptor type ⅡB)の細胞外領域と免疫グロブリンG1のFC領域の融合蛋白。19~24年に米欧日で骨髄異形成症候群における貧血症治療薬として承認された。欧米ではベータ・サラセミアにおける輸血依存貧血症などにも承認されている。
今回の試験は成人の輸血が必要な骨髄線維症関連貧血症の治療薬として12週以上輸血なしで済んだ患者の比率を偽薬と比較した。JAK阻害剤と同時使用した。数値は不明だが、治療効果のp値は0.0674とフェールした。但し、主評価項目だけでなく、副次的評価項目の赤血球輸血半減奏効率やヘモグロビン改善奏効率でも、臨床的に意味のある効果が見られたとのこと。
リンク: BMSのプレスリリース
アストラゼネカ、ALアミロイドーシスの第3相がフェール
(2025年7月16日発表)
アストラゼネカはanselamimabの第3相アミロイド軽鎖(AL)アミロイドーシス試験二本がフェールしたと発表した。臨床的に意味のある改善が見られたサブグループもあった模様であり、承認申請を当局と相談するのではないか。
この疾患は欠陥形質細胞が産生する折畳み異常のある免疫グロブリン軽鎖が心臓や腎臓などで蓄積し心アミロイドーシスなどを合併する、深刻な希少疾患。推定患者数は世界で74000人。anselamimabは21年に買収したCaelum Biosciencesがテネシー医科大/コロンビア大からライセンスして開発した抗体で、折畳み異常エピトープに結合する。第3相は欧米日本などの施設で一本はMayoステージIIIa、もう一本はIIIbの患者を合わせて406人組み入れて、形質細胞増殖症の標準療法であるCyBorDレジメン(cyclophosphamide、bortezomib、dexamethasone)に追加する便益を検討した。主評価項目は全生存期間だと思っていたが、今回の発表によると、全死亡と心血管入院頻度の傾斜複合評価とのこと。
類似品を開発しているProthenaはbirtamimabの第3相がフェールした。サブグループ分析で進行患者に良さそうな結果が見られたためMayoステージIVに絞って第3相を実施したが、今年5月にフェールした。GSKのGSK2398852も開発中止になった。但し、anselamimabは軽鎖アミロイド選択性が高く同一視はできないようだ。
リンク: 同社のプレスリリース
【承認申請】
Corcept社、relacorilantを卵巣癌でも承認申請
(2025年7月14日発表)
米国カリフォルニア州のCorcept Therapeutics(Nasdaq:CORT)は、CORT-125134(relacorilant)を白金抵抗性卵巣癌用薬としてFDAに承認申請したと発表した。欧州でも第3四半期中に申請する考え。
経口グルココルチコイド受容体拮抗剤。第3相ROSELLA試験でnab-paclitaxelを投与する前日から3日間、150mgを一日一回投与したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン6.5ヶ月とnab-paclitaxelだけの群の5.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70だった。共同主評価項目の全生存期間は中間解析でメジアン16.0ヶ月対11.5ヶ月、ハザードレシオ0.69、p=0.012だった。この試験はどちらが成功すれば成功認定するプロトコル。
同社は昨年12月に米国で内分泌高コルチゾール血症用薬として承認申請しており、審査期限は25年12月30日。
コルチゾールは免疫や化学療法を抑制する作用もあり、それ自体が癌を促進する場合もあるようだ。
リンク: 同社のプレスリリース
Atara社、移植後リンパ増殖性疾患用薬を再承認申請
(2025年7月14日発表)
Atara Biotherapeutics(Nasdaq:ATRA)はFDAにEbvallo(tabelecleucel)を再承認申請したと発表した。一巡目はスターティング・マテリアル調達先で発生した製造問題が原因で審査完了通知となったが、解決したのだろうか?
ドナー由来のT細胞をエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)に感作させたB細胞と会合させて標的性を持たせ、培養したもの。2歳以上のEBV陽性移植後リンパ増殖性疾患の二次治療薬として21年に欧州で承認申請され、22年に承認された。米国はFDAが臨床試験用バッチと商業生産バッチの同等性確認を求めたため遅延、24年5月に承認申請したが、今年1月に審査完了通知を受領していた。
21年にPierre Fabreが欧州などの販売権を取得、23年に欧州認可を承継、23年に全世界における開発販売権も獲得した。
リンク: Atara社のプレスリリース
バイエル、低量造影剤をEUで承認申請
(2025年7月10日発表)
バイエルはgadoquatrane(開発コードBAY1747846)をEUで承認申請したと発表した。成人と新生児を含む小児の全身MRI用造影剤。投与量が0.04mmol Gd/kgと標準的なガドリニウム造影剤と比べて60%少なく、承認されればEUで最低になるという。
リンク: 同社のプレスリリース
髄腔内投与版ゾルゲンスマを承認申請
(2025年7月17日発表)
ノバルティスは、25年上期の決算発表に合わせて、第2四半期にOAV101 IT(onasemnogene abeparvovec)を脊髄性筋萎縮症(SMA)2型用薬として承認申請したことを明らかにした。日本でも下期に承認申請する計画。
19~20年に米日欧で2歳未満のSMA1型の治療薬として承認されたZolgensmaは60分点滴静注するが、今回の製品は髄腔内投与する。2歳以上の未治療患者を組入れた第3相STEER試験や他剤からスイッチする便益を検討したSTRENGTH試験でHFMSE総スコアがシャム比有意に改善した。
AAV9をベクターとする遺伝子療法。急性深刻肝障害のリスクが枠付き警告されている。
尚、SMAは生後6ヶ月未満で発症する1型、6ヶ月以上1年6ヶ月未満で発症する2型、1年6ヶ月以上20歳未満で発症する3型、20代以降で発症する4型に分かれる。
リンク: ノバルティスのプレスリリース
【承認審査・委員会】
FDA諮問委員会、レキサルティのPTSD適応拡大を支持せず
(2025年7月18日発表)
FDAは精神薬理学薬諮問委員会を招集し、Rexulti(brexpiprazole)のPTSD(トラウマ後ストレス障害)適応拡大について意見を聞いた。11人中10人が挙証不十分と判定したので、追加試験が求められそうだ。
大塚製薬とルンドベックが共同開発販売しているD2・5-HT1A部分作動剤で、Abilify(aripiprazole)の類薬。15~18年に統合失調症薬として米日欧で承認され、その後、鬱病のアジャンクト治療にも適応拡大した。
今回の用法は一次治療として代表的な治療薬の一つであるsertralineと併用するもの。第3相でCAPS-5総スコアの変化をsertraline・偽薬併用と比較したところ、2~3mg/日を滴定投与した試験では-19.2点対-13.6点と有意な差が見られたが、2mg/日群と3mg/日群を設定した固定用量試験は各群-16.5点、-18.3点となりsertraline・偽薬併用群の-17.6点と大差なかった。
大塚は第2相滴定投与試験と合わせて二勝一敗として承認申請したが、FDAは、第2相は元々、探索的試験であること、そして、薬効を評価するためには多重性を回避する必要があるため大塚はヒエラルキーを付けた事後的解析を行ったが、当初の解析計画の解析順と異なっているため仮説検証的でないこと、などを指摘した(尚、当初解析計画は期中に変更され、ヒエラルキー解析は割愛された由)。
一次治療薬であるSSRIに十分応答しない患者ではなく、一次治療薬として承認申請したために薬効認定のハードルが上がってしまったという面もあるようだ。
尚、この承認申請は審査期限が2月8日だったが、1月に諮問委員会上程が決まり、事実上、遅延が決定した。開催が半年後になった理由は不明だが、トランプ政権発足後の一時期、諮問委員会がゼロになったゴタゴタに巻き込まれたのだろう。
リンク: 両社のプレスリリース
FDA諮問委員会、ブーレンレップの用量に疑念
(2025年7月17日発表)
FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、GSKが前治療歴のある難治/再発多発骨髄腫用薬として承認申請した抗BCMA抗体薬物複合体、Blenrep(belantamab mafodotin-blmf)について意見を求めた。bortezomib(Velcade)及びdexamethasoneと併用するBVdレジメンに関しては便益が危険を上回ると判定したのは8人中3人のみ、pomalidomide(Pomalyst)及びdexamethasoneと併用するBPdレジメンに関しては患者代表の一人のみで、承認反対が上回った。便益は明らかであり、8割以上の患者で発生したG3以上の角膜症・視力低下も癌の進行と比べたら深刻ではないのではないかと感じられるが、至適用量をもっと探索すべきというFDA審査担当者の意見に同意する委員が多かったようだ。
日本では5月に承認され、EUでも同月、CHMPが肯定的意見をまとめたが、米国は審査完了に終わる可能性が出てきた。審査期限は7月23日だが審査期間延長されるだろう。尤も、米国は抗癌剤のオフレーベル使用が盛んであり、NCCNガイドラインなどが推奨を止めない限り、医療には大きな影響はないかもしれない。
Blenrepは単群試験のORR(客観的反応率)データに基づき難治・再発多発骨髄腫の5次治療に単剤投与する用途・用法で2020年に米欧で加速承認/条件付き承認されたが、3次治療のDREAMM-3試験で単剤投与のPFS(無進行生存期間)がpomalidomide・dexamethasone併用を上回らず、承認取消となった。ところが、承認取消手続きと前後して、二本の二次治療試験が成功、三剤併用のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が別の三剤併用を有意に上回った(下表参照)。代表的な二次治療レジメンであるBVdをこれだけ上回ったのは凄い。一方、全生存期間の解析はDREAMM-8試験は成功したが、DREAMM-9試験は、元々、検出力不足であるためか、有意水準には達しなかった。賛成票が少なかったのはこれが原因のようだ。
図表:Blenrepの第3相試験成績
DREAMM-7 | DREAMM-8 | |
---|---|---|
Blenrep用量 | 2.5mg/kg | 1.9mg/kg(初回は2.5mg/kg) |
投与頻度 | 3週毎 | 4週毎 |
PFS メジアン値 | 36.6ヶ月(13.4ヶ月) | 未到達(12.7ヶ月) |
同 HR | 0.41 | 0.58 |
全生存期間 HR | 0.58(0.43-0.79) | 0.86(0.60-1.24) |
角膜・視力事象発生率: | ||
G3 | 56% | 69% |
G4 | 21% | 9% |
出所:各種資料から作成
FDAは加速承認した時から至適用量探索が不十分と考えていて、市販後薬効確認試験で検討するよう求めた。3剤併用する場合の用量決定試験も一群10数人の小規模なもので、第3相で採用された用量の便益や危険が特に優れていたわけでもなかった。第3相の成績を踏まえて、今回、この問題が蒸し返された。回避できる危険は回避する努力をすべき、という訳だ。
これはBlenrepだけの問題ではないだろう。抗体医薬が結合する生体分子は人と動物で同じではないので、前臨床試験における効果や安全性が小分子薬ほどアテにならない。至適用量は臨床で改めて検討する必要があるが、特に腫瘍学領域では、便益・危険バランスより便益最大化を重視する傾向があることにFDAは予てより疑問を呈してきた。今回、諮問委員会の支持を得たことにより、従来より強い語調で製薬会社に要求するようになりそうだ。
リンク: GSKのプレスリリース
ロシュ、Columviの適応拡大はやっぱり承認されず
(2025年7月18日発表)
ロシュは抗CD20/CD3二重特異性抗体Columvi(glofitamab-gxbm)を自家造血幹細胞不適な難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の二次治療に適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。欧州では承認されたが、米国は、5月に開催された腫瘍学薬諮問委員会で、エビデンスとなるSTARGLO試験は米国患者の組入れが少なくアジア地区以外の成績が良くないことなどから、患者代表者1名以外の8名が承認を支持しなかった。
東南アジアや東欧のほうが費用が掛からないため、この数十年でグローバル試験における米国施設の組入れ比率が大きく低下したことにFDAは常々、問題意識を示している。上記試験は1割以下で特に低い(中韓台が過半だった)ことに加えて、アジア地域とそれ以外では成績の偏りが見られ、自家造血幹細胞不適と判定された理由の内容や他の選択肢が異なることが影響した可能性もあるため、米国医療の参考になるとは限らないと見なされた。
この試験は23年に米国で3次治療薬として加速承認された時の市販後薬効確認試験に指定されていたが、日本も参加する第3相一次治療試験、SKYGLOに変えることも発表された。治験登録によると、27年12月に主解析を行う予定。
リンク: ロシュのプレスリリース
【承認】
シングリックスのプリフィルド・シリンジ版が承認
(2025年7月17日発表)
GSKは帯状疱疹ワクチンShingrixのプリフィルド・シリンジ製品が米国で承認されたと発表した。17~18年に米欧日で承認されたオリジナルの製品は、抗原を含有する凍結乾燥製剤をAS01アジュバント含有の懸濁液で溶解してから注射するが、この手間が省ける。欧州などでも承認申請中。
審査期限は6月20日だったがほぼ1ヶ月遅延した。トランプ政権におけるHHS(米国保健福祉省)やFDAのトップは医療や栄養に関する考え方がコンセンサスとずれており、特にワクチン会社が影響を受けるのではないかと懸念されているので、何があったのか気になるところだ。
リンク: 同社のプレスリリース
ケレンディアが心不全に適応拡大
(2025年7月14日発表)
バイエルはFDAが非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤Kerendia(finerenone)の適応拡大を承認したと発表した。成人の左心駆出率が軽度低下または保持された(LVEF≧40%)心不全の標準療法に追加する。欧州や日本でも適応拡大申請中。
日米欧などで7463人を組入れた第3相FINEARTS-HF試験で、eGFR(推定糸球体濾過率)に応じて一日20mgまたは40mgを目標に滴定投与したところ、心不全悪化などの複合評価項目における率比が0.84と偽薬を有意に下回った。心血管死もメジアン32ヶ月間の追跡で発生率8.1%と偽薬群の8.7%を僅かに下回った(但し、ハザード・レシオは0.93、p=0.076)。
この試験は、実施時期の関係で、いわゆる心不全のファンタスティック4のうちSGLT2阻害剤を服用している患者が14%とあまり多くなかったが、利尿薬やACE阻害剤/ARBは大半の患者が同時使用していた。
Kerendiaは21~22年に米欧日で二型糖尿病患者の慢性腎疾患の治療薬として承認された。目標最大最大用量は心不全の半分の20mg/日。
リンク: 同社のプレスリリース
【医薬品の安全性】
エレビジスの肝毒性問題が波乱の展開
Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、7月16日に、Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)のレーベルを改訂し急性肝障害や急性肝不全の枠付き警告を導入することでFDAと合意したと発表した。死亡例が発生したため。販売中止には至らなかったためか、人員削減や開発品選別などにより年4億ドルのコストダウンを行うことも発表されたためか、下落傾向だった株価が底打ちした。
ところが、その翌日、Elevidysと同じ遺伝子組換え型ヒト・アデノ随伴ウイルス74型(AAVrh74)をベクターとする別の開発中の遺伝子療法でも6月に死亡例が発生していたことが判明。18日には、FDAが自主的販売停止を要請したがSareptaが断ったとロイターが報道した(7/21追記:FDAプレスリリースで確認された)。同日のIRカンファレンスでは、多くのアナリストが死亡例非公表を難詰したようだ。株価は一転して3割下落した。
Elevidysはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝子療法。患者で欠乏するジストロフィンの代わりに分子量が7割小さいマイクロジストロフィンを導入する。23年に米国で、今年5月には日本でも、承認された(米国外ではロシュ/中外が販売)。米国では、審査担当部門の反対を覆して承認を後押しした生物学的製剤部門のヘッド、Peter Marks(M.D., Ph.D.)が、現政権の方針に反対して、先日、退任してしまった。EUは申請から1年経ったが音沙汰ない。難病の貴重な治療手段だが、評価は分かれている。
枠付き警告は、今年に入って、15歳と16歳の歩行不能なDMD患者が急性肝障害/肝不全で死去したため。この年代の歩行不能患者に承認されているのは米国だけで、Elevidysの投与実績900人超のうち歩行不能は140人のみ。発生率が高いため、同社は対策が確定するまで歩行不能患者に対する投与を臨床試験も含めて停止を決めた。歩行可能幼児向けには引き続き販売する考え。
リンク: サレプタのプレスリリース(2025年7月16日付)
今回、死亡例が報告されたのは、SRP-9004。肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)2D/R3型の第1相試験で51歳の男性が肝不全により死亡した。この件でもう一つ、余波がありそうなのは、同社が今年下期に加速承認申請を狙っている、LGMD 2E/R4型用遺伝子療法のSRP-9003だ。LGMDは様々なタイプがあるためタイプが異なれば導入すべき遺伝子も薬効や副作用も異なるのかもしれないが、肝障害の原因がもしAAVrh74ベクターなら、SRP-9003だけ安全とは考え難い。
何れにせよ、研究調査が進むまで不透明な点が多い。
リンク: ロイター報道(7/19アクセス) リンク: FDAのプレスリリース(7/19付)
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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25/7推 | JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫) |
25/7/20 | ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療) |
25/7/22 | ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫) |
25/7/23 | GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫) |
25/7/25 | Apellis PharmaceuticalsのEmpaveli(pegcetacoplan、C3腎症と原発性免疫複合体膜性増殖性糸球体腎炎) |
25/7/29 | PTC セラピューティクスのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症) |
25/7/30 | Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫) |
25/8推 | バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状) |
25/8推 | ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌) |
25/8推 | UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症) |
25/8/8 | LENZ TherapeuticsのLNZ100(aceclidine、老視) |
25/8/12 | InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症) |
25/8/15 | Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症) |
25/8/18 | Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ) |
25/8/19 | PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症) |
25/8/19 | Regeneron PharmaceuticalsのEyelea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大) |
25/8/21 | Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫) |
25/8/27 | PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症) |
25/8/27 | Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症) |
25/8/29 | サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症) |
25/8/31 | エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加) |
25/9推 | JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、多発骨髄腫ASCT後維持療法 |
25/9推 | バイエルのKerendia(finerenone、心不全追加) |
25/9/7 | Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア) |
25/9/22 | Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症) |
25/9/22 | バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加) |
25/9/22 | ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療) |
25/9/23 | MSDのKeytruda sc(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa) |
25/9/25 | Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症) |
25/9/25 | OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症) |
25/9/28 | サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症) |
今週は以上です。