2025年7月19日

第1126回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 更年期ホルモン療法が米国で復権? 
  • 武田、ナルコレプシー用薬の第3相が成功 
  • アストラゼネカ、アルドステロン合成酵素阻害剤の最初の第3相が成功 
  • BMS、レブロジルの骨髄線維症試験がフェールも適応拡大申請に向けて協議へ 
  • アストラゼネカ、ALアミロイドーシスの第3相がフェール 
  • Corcept社、relacorilantを卵巣癌でも承認申請 
  • Atara社、移植後リンパ増殖性疾患用薬を再承認申請 
  • バイエル、低量造影剤をEUで承認申請 
  • 髄腔内投与版ゾルゲンスマを承認申請 
  • FDA諮問委員会、レキサルティのPTSD適応拡大を支持せず 
  • FDA諮問委員会、ブーレンレップの用量に疑念 
  • ロシュ、Columviの適応拡大はやっぱり承認されず 
  • シングリックスのプリフィルド・シリンジ版が承認 
  • ケレンディアが心不全に適応拡大 
  • エレビジスの肝毒性問題が波乱の展開 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


更年期ホルモン療法が米国で復権?
(2025年7月17日発表)

MedPage Todayの報道によると、Marty Makary FDA長官が招集したパネルが全員一致で閉経期ホルモン療法薬の枠付き警告を削除すべきと結論した。このパネルの性質や影響力がどの程度なのか明らかではなく、同志の集会に過ぎないようにも感じられるが、四半世紀前にWHI(Women's Health Initiative)スタディが途中打ち切りになった時の激震に、揺り返しが起きているようだ。

WHIスタディは女性医療に関する代表的な大規模観察的試験の一つで、更年期障害の治療におけるエストロゲンやエストロゲン・プロゲスチン併用療法の便益を検討したが、心血管疾患や乳癌が増加する懸念が浮上、途中で打ち切られた。代表的な製品であるワイエス(後にファイザーが合併)のPremarinシリーズの売上高は激減することになった。ところが、その後のサブグループ分析や別研究により、必ずしも全ての患者に有害とは限らない可能性が浮上、様々な揺り戻しが来ている。

かといって、今回のパネルで結論が出たかというとそうでもなく、各種報道によると、メンバーには利益相反懸念があり、Makary長官自身もWHIスタディに懐疑的な見解を示したことがあるようであり、先入観やバイアスがありそうだ。

トランプ政権下では、COVID-19ワクチンに接種勧奨範囲についてCDC(疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)と学会で意見が対立するなど、国家分裂が医療分野にも広がっている。

リンク: MedPage Todayの報道

【新薬開発】


武田、ナルコレプシー用薬の第3相が成功
(2025年7月14日発表)

武田薬品はTAK-861(oveporexton)が第3相ナルコレプシー・タイプ1(NT1)治療試験二本で主目的などを達成したと発表した。26年3月期中に米国などで承認申請する考え。

NT1は、オレキシン産生ニューロンの著しい減少によるオレキシン欠乏を伴うナルコレプシー。TAK-861はオレキシン2型受容体を作動して代償する。日本も参加したFirstLight試験と、やや小規模なRadiantLight試験薬で、偽薬、低用量、または高用量を一日一回、12週に亘り経口投与したところ、主評価項目である睡眠潜時(暗室で横になったまま覚醒を維持)や副次的評価項目が概ね正常範囲に到達したとのこと。有害事象は不眠、尿意切迫、頻尿など。

類薬のTAK-994は第2相で肝毒性の早期スクリーニング手法であるHyの法則該当例が発生、開発中止となった。オレキシン受容体は肝細胞や免疫細胞には発現しないためクラス・イフェクトではない可能性があり、投与量が二桁小さいTAK-861は後期第2相で肝毒性や視覚障害事例は認められなかったと当時のプレスリリースに記されていたが、今回はどうだったのだろうか?

リンク: 武田のプレスリリース


アストラゼネカ、アルドステロン合成酵素阻害剤の最初の第3相が成功
(2025年7月14日発表)

アストラゼネカは、baxdrostatの第3相高血圧症治療試験で主目的と全ての副次的評価項目を達成したと発表した。複数の第3相が進行しているが、どこかの段階で承認申請するのだろう。

この日本も参加したBaxHTN試験は、管理不良(2種類併用しても治療目標未達)または治療抵抗性(3種類以上併用しても未達)の高血圧症患者796人を組入れて、偽薬、1mg、または2mgを追加する便益を検討した。主目的は12週の座位収縮期血圧。データは未公表だが、両用量とも偽薬比で統計的に有意かつ臨床的に意味のある改善を示した。

CYP11B2遺伝子がコードするアルドステロン合成酵素を選択的に阻害する経口剤。ロシュのRO6836191をライセンスし開発したCinCor Pharmaを23年に買収して入手した。類薬ではベーリンガー・インゲルハイムのBI 690517やMineralys Therapeutics(Nasdaq:MLYS)のMLS-101(lorundrostat、田辺三菱製薬のMT-4129)も第3相段階。

リンク: 同社のプレスリリース


BMS、レブロジルの骨髄線維症試験がフェールも適応拡大申請に向けて協議へ
(2025年7月18日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはReblozyl(luspatercept-aamt)が第3相INDEPENDENCE試験で主目的を達成できなかったこと、しかし臨床的に意味のある改善を達成したため欧米当局と承認申請に向けて相談することを明らかにした。第2相試験のデータなど援用可能な支持的エビデンスを持っているのだろうか?

ActRⅡB(activin receptor type ⅡB)の細胞外領域と免疫グロブリンG1のFC領域の融合蛋白。19~24年に米欧日で骨髄異形成症候群における貧血症治療薬として承認された。欧米ではベータ・サラセミアにおける輸血依存貧血症などにも承認されている。

今回の試験は成人の輸血が必要な骨髄線維症関連貧血症の治療薬として12週以上輸血なしで済んだ患者の比率を偽薬と比較した。JAK阻害剤と同時使用した。数値は不明だが、治療効果のp値は0.0674とフェールした。但し、主評価項目だけでなく、副次的評価項目の赤血球輸血半減奏効率やヘモグロビン改善奏効率でも、臨床的に意味のある効果が見られたとのこと。

リンク: BMSのプレスリリース


アストラゼネカ、ALアミロイドーシスの第3相がフェール
(2025年7月16日発表)

アストラゼネカはanselamimabの第3相アミロイド軽鎖(AL)アミロイドーシス試験二本がフェールしたと発表した。臨床的に意味のある改善が見られたサブグループもあった模様であり、承認申請を当局と相談するのではないか。

この疾患は欠陥形質細胞が産生する折畳み異常のある免疫グロブリン軽鎖が心臓や腎臓などで蓄積し心アミロイドーシスなどを合併する、深刻な希少疾患。推定患者数は世界で74000人。anselamimabは21年に買収したCaelum Biosciencesがテネシー医科大/コロンビア大からライセンスして開発した抗体で、折畳み異常エピトープに結合する。第3相は欧米日本などの施設で一本はMayoステージIIIa、もう一本はIIIbの患者を合わせて406人組み入れて、形質細胞増殖症の標準療法であるCyBorDレジメン(cyclophosphamide、bortezomib、dexamethasone)に追加する便益を検討した。主評価項目は全生存期間だと思っていたが、今回の発表によると、全死亡と心血管入院頻度の傾斜複合評価とのこと。

類似品を開発しているProthenaはbirtamimabの第3相がフェールした。サブグループ分析で進行患者に良さそうな結果が見られたためMayoステージIVに絞って第3相を実施したが、今年5月にフェールした。GSKのGSK2398852も開発中止になった。但し、anselamimabは軽鎖アミロイド選択性が高く同一視はできないようだ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


Corcept社、relacorilantを卵巣癌でも承認申請
(2025年7月14日発表)

米国カリフォルニア州のCorcept Therapeutics(Nasdaq:CORT)は、CORT-125134(relacorilant)を白金抵抗性卵巣癌用薬としてFDAに承認申請したと発表した。欧州でも第3四半期中に申請する考え。

経口グルココルチコイド受容体拮抗剤。第3相ROSELLA試験でnab-paclitaxelを投与する前日から3日間、150mgを一日一回投与したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン6.5ヶ月とnab-paclitaxelだけの群の5.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70だった。共同主評価項目の全生存期間は中間解析でメジアン16.0ヶ月対11.5ヶ月、ハザードレシオ0.69、p=0.012だった。この試験はどちらが成功すれば成功認定するプロトコル。

同社は昨年12月に米国で内分泌高コルチゾール血症用薬として承認申請しており、審査期限は25年12月30日。

コルチゾールは免疫や化学療法を抑制する作用もあり、それ自体が癌を促進する場合もあるようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


Atara社、移植後リンパ増殖性疾患用薬を再承認申請
(2025年7月14日発表)

Atara Biotherapeutics(Nasdaq:ATRA)はFDAにEbvallo(tabelecleucel)を再承認申請したと発表した。一巡目はスターティング・マテリアル調達先で発生した製造問題が原因で審査完了通知となったが、解決したのだろうか?

ドナー由来のT細胞をエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)に感作させたB細胞と会合させて標的性を持たせ、培養したもの。2歳以上のEBV陽性移植後リンパ増殖性疾患の二次治療薬として21年に欧州で承認申請され、22年に承認された。米国はFDAが臨床試験用バッチと商業生産バッチの同等性確認を求めたため遅延、24年5月に承認申請したが、今年1月に審査完了通知を受領していた。

21年にPierre Fabreが欧州などの販売権を取得、23年に欧州認可を承継、23年に全世界における開発販売権も獲得した。

リンク: Atara社のプレスリリース


バイエル、低量造影剤をEUで承認申請
(2025年7月10日発表)

バイエルはgadoquatrane(開発コードBAY1747846)をEUで承認申請したと発表した。成人と新生児を含む小児の全身MRI用造影剤。投与量が0.04mmol Gd/kgと標準的なガドリニウム造影剤と比べて60%少なく、承認されればEUで最低になるという。

リンク: 同社のプレスリリース


髄腔内投与版ゾルゲンスマを承認申請
(2025年7月17日発表)

ノバルティスは、25年上期の決算発表に合わせて、第2四半期にOAV101 IT(onasemnogene abeparvovec)を脊髄性筋萎縮症(SMA)2型用薬として承認申請したことを明らかにした。日本でも下期に承認申請する計画。

19~20年に米日欧で2歳未満のSMA1型の治療薬として承認されたZolgensmaは60分点滴静注するが、今回の製品は髄腔内投与する。2歳以上の未治療患者を組入れた第3相STEER試験や他剤からスイッチする便益を検討したSTRENGTH試験でHFMSE総スコアがシャム比有意に改善した。

AAV9をベクターとする遺伝子療法。急性深刻肝障害のリスクが枠付き警告されている。

尚、SMAは生後6ヶ月未満で発症する1型、6ヶ月以上1年6ヶ月未満で発症する2型、1年6ヶ月以上20歳未満で発症する3型、20代以降で発症する4型に分かれる。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、レキサルティのPTSD適応拡大を支持せず
(2025年7月18日発表)

FDAは精神薬理学薬諮問委員会を招集し、Rexulti(brexpiprazole)のPTSD(トラウマ後ストレス障害)適応拡大について意見を聞いた。11人中10人が挙証不十分と判定したので、追加試験が求められそうだ。

大塚製薬とルンドベックが共同開発販売しているD2・5-HT1A部分作動剤で、Abilify(aripiprazole)の類薬。15~18年に統合失調症薬として米日欧で承認され、その後、鬱病のアジャンクト治療にも適応拡大した。

今回の用法は一次治療として代表的な治療薬の一つであるsertralineと併用するもの。第3相でCAPS-5総スコアの変化をsertraline・偽薬併用と比較したところ、2~3mg/日を滴定投与した試験では-19.2点対-13.6点と有意な差が見られたが、2mg/日群と3mg/日群を設定した固定用量試験は各群-16.5点、-18.3点となりsertraline・偽薬併用群の-17.6点と大差なかった。

大塚は第2相滴定投与試験と合わせて二勝一敗として承認申請したが、FDAは、第2相は元々、探索的試験であること、そして、薬効を評価するためには多重性を回避する必要があるため大塚はヒエラルキーを付けた事後的解析を行ったが、当初の解析計画の解析順と異なっているため仮説検証的でないこと、などを指摘した(尚、当初解析計画は期中に変更され、ヒエラルキー解析は割愛された由)。

一次治療薬であるSSRIに十分応答しない患者ではなく、一次治療薬として承認申請したために薬効認定のハードルが上がってしまったという面もあるようだ。

尚、この承認申請は審査期限が2月8日だったが、1月に諮問委員会上程が決まり、事実上、遅延が決定した。開催が半年後になった理由は不明だが、トランプ政権発足後の一時期、諮問委員会がゼロになったゴタゴタに巻き込まれたのだろう。

リンク: 両社のプレスリリース


FDA諮問委員会、ブーレンレップの用量に疑念
(2025年7月17日発表)

FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、GSKが前治療歴のある難治/再発多発骨髄腫用薬として承認申請した抗BCMA抗体薬物複合体、Blenrep(belantamab mafodotin-blmf)について意見を求めた。bortezomib(Velcade)及びdexamethasoneと併用するBVdレジメンに関しては便益が危険を上回ると判定したのは8人中3人のみ、pomalidomide(Pomalyst)及びdexamethasoneと併用するBPdレジメンに関しては患者代表の一人のみで、承認反対が上回った。便益は明らかであり、8割以上の患者で発生したG3以上の角膜症・視力低下も癌の進行と比べたら深刻ではないのではないかと感じられるが、至適用量をもっと探索すべきというFDA審査担当者の意見に同意する委員が多かったようだ。

日本では5月に承認され、EUでも同月、CHMPが肯定的意見をまとめたが、米国は審査完了に終わる可能性が出てきた。審査期限は7月23日だが審査期間延長されるだろう。尤も、米国は抗癌剤のオフレーベル使用が盛んであり、NCCNガイドラインなどが推奨を止めない限り、医療には大きな影響はないかもしれない。

Blenrepは単群試験のORR(客観的反応率)データに基づき難治・再発多発骨髄腫の5次治療に単剤投与する用途・用法で2020年に米欧で加速承認/条件付き承認されたが、3次治療のDREAMM-3試験で単剤投与のPFS(無進行生存期間)がpomalidomide・dexamethasone併用を上回らず、承認取消となった。ところが、承認取消手続きと前後して、二本の二次治療試験が成功、三剤併用のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が別の三剤併用を有意に上回った(下表参照)。代表的な二次治療レジメンであるBVdをこれだけ上回ったのは凄い。一方、全生存期間の解析はDREAMM-8試験は成功したが、DREAMM-9試験は、元々、検出力不足であるためか、有意水準には達しなかった。賛成票が少なかったのはこれが原因のようだ。

図表:Blenrepの第3相試験成績

DREAMM-7DREAMM-8
Blenrep用量2.5mg/kg1.9mg/kg(初回は2.5mg/kg)
投与頻度3週毎4週毎
PFS メジアン値36.6ヶ月(13.4ヶ月)未到達(12.7ヶ月)
同 HR0.410.58
全生存期間 HR0.58(0.43-0.79)0.86(0.60-1.24)
角膜・視力事象発生率:
G356%69%
G421%9%
注:PFSのカッコ内は対照群の数値、全生存期間ハザードレシオのカッコ内は95%信頼区間
出所:各種資料から作成

FDAは加速承認した時から至適用量探索が不十分と考えていて、市販後薬効確認試験で検討するよう求めた。3剤併用する場合の用量決定試験も一群10数人の小規模なもので、第3相で採用された用量の便益や危険が特に優れていたわけでもなかった。第3相の成績を踏まえて、今回、この問題が蒸し返された。回避できる危険は回避する努力をすべき、という訳だ。

これはBlenrepだけの問題ではないだろう。抗体医薬が結合する生体分子は人と動物で同じではないので、前臨床試験における効果や安全性が小分子薬ほどアテにならない。至適用量は臨床で改めて検討する必要があるが、特に腫瘍学領域では、便益・危険バランスより便益最大化を重視する傾向があることにFDAは予てより疑問を呈してきた。今回、諮問委員会の支持を得たことにより、従来より強い語調で製薬会社に要求するようになりそうだ。

リンク: GSKのプレスリリース


ロシュ、Columviの適応拡大はやっぱり承認されず
(2025年7月18日発表)

ロシュは抗CD20/CD3二重特異性抗体Columvi(glofitamab-gxbm)を自家造血幹細胞不適な難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の二次治療に適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。欧州では承認されたが、米国は、5月に開催された腫瘍学薬諮問委員会で、エビデンスとなるSTARGLO試験は米国患者の組入れが少なくアジア地区以外の成績が良くないことなどから、患者代表者1名以外の8名が承認を支持しなかった。

東南アジアや東欧のほうが費用が掛からないため、この数十年でグローバル試験における米国施設の組入れ比率が大きく低下したことにFDAは常々、問題意識を示している。上記試験は1割以下で特に低い(中韓台が過半だった)ことに加えて、アジア地域とそれ以外では成績の偏りが見られ、自家造血幹細胞不適と判定された理由の内容や他の選択肢が異なることが影響した可能性もあるため、米国医療の参考になるとは限らないと見なされた。

この試験は23年に米国で3次治療薬として加速承認された時の市販後薬効確認試験に指定されていたが、日本も参加する第3相一次治療試験、SKYGLOに変えることも発表された。治験登録によると、27年12月に主解析を行う予定。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認】


シングリックスのプリフィルド・シリンジ版が承認
(2025年7月17日発表)

GSKは帯状疱疹ワクチンShingrixのプリフィルド・シリンジ製品が米国で承認されたと発表した。17~18年に米欧日で承認されたオリジナルの製品は、抗原を含有する凍結乾燥製剤をAS01アジュバント含有の懸濁液で溶解してから注射するが、この手間が省ける。欧州などでも承認申請中。

審査期限は6月20日だったがほぼ1ヶ月遅延した。トランプ政権におけるHHS(米国保健福祉省)やFDAのトップは医療や栄養に関する考え方がコンセンサスとずれており、特にワクチン会社が影響を受けるのではないかと懸念されているので、何があったのか気になるところだ。

リンク: 同社のプレスリリース


ケレンディアが心不全に適応拡大
(2025年7月14日発表)

バイエルはFDAが非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤Kerendia(finerenone)の適応拡大を承認したと発表した。成人の左心駆出率が軽度低下または保持された(LVEF≧40%)心不全の標準療法に追加する。欧州や日本でも適応拡大申請中。

日米欧などで7463人を組入れた第3相FINEARTS-HF試験で、eGFR(推定糸球体濾過率)に応じて一日20mgまたは40mgを目標に滴定投与したところ、心不全悪化などの複合評価項目における率比が0.84と偽薬を有意に下回った。心血管死もメジアン32ヶ月間の追跡で発生率8.1%と偽薬群の8.7%を僅かに下回った(但し、ハザード・レシオは0.93、p=0.076)。

この試験は、実施時期の関係で、いわゆる心不全のファンタスティック4のうちSGLT2阻害剤を服用している患者が14%とあまり多くなかったが、利尿薬やACE阻害剤/ARBは大半の患者が同時使用していた。

Kerendiaは21~22年に米欧日で二型糖尿病患者の慢性腎疾患の治療薬として承認された。目標最大最大用量は心不全の半分の20mg/日。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


エレビジスの肝毒性問題が波乱の展開

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、7月16日に、Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)のレーベルを改訂し急性肝障害や急性肝不全の枠付き警告を導入することでFDAと合意したと発表した。死亡例が発生したため。販売中止には至らなかったためか、人員削減や開発品選別などにより年4億ドルのコストダウンを行うことも発表されたためか、下落傾向だった株価が底打ちした。

ところが、その翌日、Elevidysと同じ遺伝子組換え型ヒト・アデノ随伴ウイルス74型(AAVrh74)をベクターとする別の開発中の遺伝子療法でも6月に死亡例が発生していたことが判明。18日には、FDAが自主的販売停止を要請したがSareptaが断ったとロイターが報道した(7/21追記:FDAプレスリリースで確認された)。同日のIRカンファレンスでは、多くのアナリストが死亡例非公表を難詰したようだ。株価は一転して3割下落した。

Elevidysはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝子療法。患者で欠乏するジストロフィンの代わりに分子量が7割小さいマイクロジストロフィンを導入する。23年に米国で、今年5月には日本でも、承認された(米国外ではロシュ/中外が販売)。米国では、審査担当部門の反対を覆して承認を後押しした生物学的製剤部門のヘッド、Peter Marks(M.D., Ph.D.)が、現政権の方針に反対して、先日、退任してしまった。EUは申請から1年経ったが音沙汰ない。難病の貴重な治療手段だが、評価は分かれている。

枠付き警告は、今年に入って、15歳と16歳の歩行不能なDMD患者が急性肝障害/肝不全で死去したため。この年代の歩行不能患者に承認されているのは米国だけで、Elevidysの投与実績900人超のうち歩行不能は140人のみ。発生率が高いため、同社は対策が確定するまで歩行不能患者に対する投与を臨床試験も含めて停止を決めた。歩行可能幼児向けには引き続き販売する考え。

リンク: サレプタのプレスリリース(2025年7月16日付)

今回、死亡例が報告されたのは、SRP-9004。肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)2D/R3型の第1相試験で51歳の男性が肝不全により死亡した。この件でもう一つ、余波がありそうなのは、同社が今年下期に加速承認申請を狙っている、LGMD 2E/R4型用遺伝子療法のSRP-9003だ。LGMDは様々なタイプがあるためタイプが異なれば導入すべき遺伝子も薬効や副作用も異なるのかもしれないが、肝障害の原因がもしAAVrh74ベクターなら、SRP-9003だけ安全とは考え難い。

何れにせよ、研究調査が進むまで不透明な点が多い。

リンク: ロイター報道(7/19アクセス) リンク: FDAのプレスリリース(7/19付)


【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/7/25Apellis PharmaceuticalsのEmpaveli(pegcetacoplan、C3腎症と原発性免疫複合体膜性増殖性糸球体腎炎)
25/7/29PTC セラピューティクスのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
25/8推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
25/8推ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/8/8LENZ TherapeuticsのLNZ100(aceclidine、老視)
25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)
25/8/18Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ)
25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
25/8/19Regeneron PharmaceuticalsのEyelea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大)
25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
25/9推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、多発骨髄腫ASCT後維持療法
25/9推バイエルのKerendia(finerenone、心不全追加)
25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
25/9/23MSDのKeytruda sc(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
25/9/25OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症)
25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)


今週は以上です。

2025年7月12日

第1215回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • EMBARK試験でイクスタンジ追加の延命効果確認 
  • Cogent社、c-KIT阻害剤の承認申請向け試験が成功 
  • 大鵬薬品、InqoviをAMLに適応拡大申請 
  • MSD、日本発の抗HIV-1薬を承認申請 
  • JNJ、Caplytaの統合失調症再燃予防データをsNDA 
  • ハンター症候群用薬を承認申請 
  • ウゴービ高量をEUで承認申請 
  • UltragenyxのMPS IIIA遺伝子療法は審査完了 
  • Capricor社のDMD細胞療法も審査完了 
  • ケサンラの用量漸増法が変更 
  • 経口カリクレイン阻害剤がやっと承認 
  • テビムブラがEUで鼻咽頭癌に適応拡大 
  • 乳児用マラリア治療薬がスイスで承認 
  • PRAC、チクングニア熱ワクチンの高齢者接種停止を解除へ 
  • PRACがクロザピンの検査負担を緩和、バルプロ酸の父性催奇性をさらに検討 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


EMBARK試験でイクスタンジ追加の延命効果確認
(2025年7月10日発表)

ファイザーは、アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide)がEMBARK試験で延命効果を示したと発表した。既に欧米では承認されている用法だが、普及に向け追い風になりそうだ。

この試験は、前立腺癌の根治的全摘/放射線療法を受けた後に、PSA値が9ヶ月で倍増などの生化学的リスク因子が現れたホルモン感受性前立腺癌を対象に、leuprolideと併用する便益などを検討した。5年MFS(無転移生存期間)率が83.5%とleuprolide・偽薬併用群の71.4%を上回り、ハザード・レシオは0.42だった。副次的評価項目のXtandi単剤投与群とleuprolide・偽薬群の解析もハザード・レシオ0.63で成功した。このデータに基づき、米国では23年に、EUでも24年に、単剤・併用共に承認された。

今回、併用群の全生存期間解析がポジティブな結果になり、単剤投与群も上回るトレンドが示されたようだ。数値は未公表。参考までに、23年に治験成績がAUA(米国泌尿器学会)やNew England Journal of Medicineで発表された時に示された全生存期間の中間解析値は、併用群のハザードレシオが0.59(95%信頼区間0.38-0.91)、p=0.02(中間解析に割り当てられたアルファは0.0001なので有意とは言えない)、単剤群は0.78(同0.52-1.17)、p=0.23だった。

リンク: 同社のプレスリリース


Cogent社、c-KIT阻害剤の承認申請向け試験が成功
(2025年7月7日発表)

Cogent Biosciences(Nasdaq:COGT)は、CGT9486(bezuclastinib)が第2相非進行性全身性肥満細胞症試験で主評価項目と主要副次的評価項目を達成したと発表した。年末に承認申請する考え。

主目的のTSS(全般的症状尺度)は24週間の治療で24.3点低下、偽薬群の15.4点低下を有意に上回った。先行他社の肥満細胞症試験と異なり、Mastocytosis Symptom Severity Daily Diaryに基づいて評価しているため、効果を見比べることはできない。副次的評価項目のうち血清トリプターゼ(肥満細胞活性化のバイオマーカー)半減奏効率は各群87.4%と0%だった。有害事象は毛髪変色や味覚異常、悪心、ALT/AST上昇など。深刻有害事象の発生率は各群4.2%と5.0%で大差ない。治療関連有害事象による離脱率は5.9%、全てALT/AST上昇によるもので全例解消した。

第3相GIST(消化管間質腫瘍)試験や承認申請向け進行肥満細胞症試験の結果も年内に判明する見込み。

KIT D816V変異などエクソン17変異型にも活性を持つc-KIT阻害剤。第一三共の子会社だったPlexxikonからライセンスしたKiq LLCが、20年7月にUnum Therapeutics(Nasdaq:UMRX)の庇を借りて母屋を乗っ取り、10月に現社名に変更した。

リンク: Cogent社のプレスリリース

【承認申請】


大鵬薬品、InqoviをAMLに適応拡大申請
(2025年7月10日発表)

大鵬薬品はInqovi(decitabine、cedazuridine)の適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。成人の強化寛解導入療法不適な新患急性骨髄性白血病(AML)にvenetoclax(アッヴィのベネクレクスタ)と併用するもの。本剤はシチジンデアミナーゼ阻害剤と合剤にすることでDNAメチル化阻害剤decitabineの経口投与を可能にしたもので、venetoclaxも経口剤なので利便性がある。審査期限は26年2月25日。

北米やスペインの施設で実施されたASCERTAIN-V試験の後期第2相ポーションで、101人のうち46.5%が完全寛解を達成した。メジアン生存期間は15.5ヶ月だった。有害事象による治験離脱率は8.9%。60日死亡率は9.9%で、今年のEHA(欧州血液学会)発表に関わる一部報道によると、疾病進行による死亡が3人、有害事象による死亡が7人だった。

大鵬はエーザイから導入して開発し、20年に米国でMDS(骨髄異形成症候群)とCMML(慢性骨髄探求性白血病)に承認取得した。EUでは承認されなかったが、23年に薬物動態試験に基づき標準的寛解導入療法不適な新患AMLに単剤投与する用途に、Inaqovi名で、承認された。

リンク: 同社のプレスリリース


MSD、日本発の抗HIV-1薬を承認申請
(2025年7月10日発表)

MSDは米国でMK-8591A(doravirine、islatravir)を承認申請し受理されたと発表した。成人のHIV-1感染症で、抗レトロウイルス療法によりウイルスを抑制できている患者がスイッチするもの。審査期限は26年4月28日。

18年に欧米で承認された非ヌクレオシド逆転写阻害剤Pifeltroの活性成分と、新開発・新作用機序のヌクレオシド系逆転写酵素トランスロケーション阻害剤islatravirの固定用量合剤。一錠を一日一回経口投与するだけで足りる。Biktarvy(bictegravir/emtricitabine/tenofovir alafenamide)からスイッチする便益を検討した試験でも、様々な併用レジメンからスイッチした試験でも、RNA量が50コピー/mLを上回るようになってしまった患者の比率が治験前と同じレジメンを継続投与した群と非劣性だった。

islatravirは横浜薬科大の大類洋博士らがヤマサ醤油と満屋裕明国立国際医療研究センター研究所長と共同研究開発したもの。ウイルスのDNA鎖に紛れ込んで伸長を妨げる。半減期が長く、週一回投与も可能となるはずだったが、MK-8507(ulonivirine)と併用した試験でリンパ球数やCD4+T細胞が減少してしまう現象が見られ、FDAが治験停止を命じたことがある。その時点でMK-8591Aの第3相は二本が成功していたが、新たに、islatravirの用量を0.25mgと1/3に減らして追加第3相を実施、上記の成果を上げた。二本とも、総リンパ球数やCD4カウントの変化は対照群と大差なかったようだ。

リンク: MSDのプレスリリース


JNJ、Caplytaの統合失調症再燃予防データをsNDA
(2025年7月8日発表)

ジョンソン エンド ジョンソンは、Caplyta(lumateperone)の統合失調症継続投与試験、304試験のデータをFDAにsNDA(追加的承認申請)した。19年に統合失調症の急性期治療薬として承認された時に課された市販後試験の一つで、Caplyta投与に応答した患者を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付けして26週間追跡し、症状再燃までの期間を比較したもの。ハザード・レシオは0.37、偽薬群は38.6%が再燃を経験したのに対して、継続投与群は16.4%だけだった。他の統合失調症治療薬と同様に、急性期を脱した後も治療を続ける便益が明らかになった。

4月に子会社化したIntra-Cellular TherapiesがBMSからライセンスして開発した、選択的5-HT2A受容体アンタゴニスト。米国で双極性障害IまたはIIの鬱症状の治療にも承認されており、昨年12月には、鬱病にも適応拡大申請された。

リンク: JNJのプレスリリース


ハンター症候群用薬を承認申請
(2025年7月7日発表)

米国カリフォルニア州のDenali Therapeutics(Nasdaq:DNLI)は米国でDNL310(tividenofusp alfa)を承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は26年1月5日。

ハンター症候群(MPS II)の酵素補充療法。患者で欠乏するIDS(iduronate-2-sulfatase)を、トランスフェリン受容体などの輸送体に結合する装飾Fc領域と細胞融合して、血管脳関門通過性を持たせたもの。日本で21年に承認されたJCRファーマのイズカーゴ(パビナフスプアルファ)と似ている。

欧州米州の第1/2相試験で47人24週間投与したところ、脳脊髄液中のヘパラン硫酸が90%低下し、全員が正常またはそれに近い水準に低下した。このデータで加速承認を取得し、進行中の第2/3相COMPASS試験(ヘパラン硫酸やVineland Adaptive Behavior Scaleの変化を武田/シャイア/ジェンザイムのElaprase(idursulfase)と比較)で本承認切替を図る。

リンク: 同社のプレスリリース


ウゴービ高量をEUで承認申請
(2025年7月8日発表)

ノボ ノルディスクは肥満症治療薬Wegovy(semaglutide)の高量版をEUで承認申請したと発表した。他地域での申請状況は不明。

GLP-1作用剤Wegovy/Ozempicの最大承認用量は、肥満症/リスク因子を持つオーバー・ウェイトの治療では2.4mg、二型糖尿病では2mg。同社は肥満症のSTEP UP試験と肥満且つ二型糖尿病のSTEP UP T2D試験で7.2mgの体重管理効果を偽薬と72週に亘り比較したところ、共同主評価項目の体重減少率と5%減量奏効率が、trial product estimandベース(試験対象の効果を知るためにプロトコル順守例/順守期間だけを解析)でも、treatment policy estimandベース(実医療における便益を知るために投与中止例なども含めて解析、米国のレーベルにはこちらのデータが収載される)でも、有意に上回った。7.2mg群は2.4mg群と比べても数値が上回った。胃腸有害事象の発生率は2.4mgと大差無さそうだが、T2D試験ではジセステジア(異常感覚)の発生率が7.2mg群は18.9%、2.4mg群は4.9%、偽薬群は0%となった。尚、二型糖尿病の血糖管理に関しては2.4mgと大差無さそうだ。

図表:セマグルチド高量試験の体重減少率

7.2mg群2.4mg群偽薬群
STEP UP試験
treatment policy estimandベース18.7%15.6%3.9%
trial product estimandベース20.7%17.5%2.4%
STEP UP T2D試験
treatment policy estimandベース13.2%10.4%3.9%
trial product estimandベース14.1%10.7%3.6%
出所:各種資料から作成


リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


UltragenyxのMPS IIIA遺伝子療法は審査完了
(2025年7月11日発表)

Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)はUX111(rebisufligene etisparvovec)をMPS IIIA(Sanfilippo症候群A型)用薬として加速承認するようFDAに申請していたが、審査完了通知を受領した。CMC(化学、製造、管理)に関わる指摘があった。臨床成績や治験実施施設の査察に関わる指摘事項はなかった由。対処して早期に再承認申請する考え。

患者で欠乏するSGSH(N-sulfoglucosamine sulfohydrolase)遺伝子をAAV9ベクターを用いて中枢神経組織などに導入し、欠乏によるグリコサミノグリカンの蓄積を防ぐもの。臨床試験で脳脊髄液ヘパラン硫酸を抑制する作用などを示した。Abeona Therapeutics(Nasdaq:ABEO)からライセンスした。

尚、審査期限は8月18日だった。

リンク: 同社のプレスリリース


Capricor社のDMD細胞療法も審査完了
(2025年7月11日発表)

Capricor TherapeuticsはCAP-1002(deramiocel)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。薬効確認不十分と判定されたようだ。CMC(化学、製造、管理)に関わる追加データも提出したが審査が間に合わなかった模様。104人を組入れた第3相試験が進行中で、同社のロサンジェルス施設製造品を用いたコフォートAは既に結果が出た模様だが成否は未公表、サンディエゴ施設品のコフォートBは今四半期中の開票の予定で、成功なら再申請する考え。

心筋を含む他家心細胞塊由来の細胞医療製品。分泌されるエクソソームが、酸化ストレス・炎症・線維化の低減や筋細胞生成の増加を促し、運動機能や心機能を改善すると考えられている。第2相HOPE-2試験で上腕機能低下を伴う20人を組入れて偽薬または1.5億セルを3ヶ月毎に4回点滴静注したところ、PUL(上腕機能)が偽薬比有意に改善した。自然歴対照試験も実施された。6月に連邦官報の事前公表版で7月30日の諮問委員会に上程されることが明らかになったが、直ぐに取り消された。

日本新薬が米国や日欧などでの販売権を保有している。

尚、審査期限は8月31日だった。期限前に承認された事例は少なくないが、1ヶ月以上残して審査完了通知を、しかも2案件連続で、出すのは異例のように感じる。もしかしたら、長官が審査担当センターの評価の妥当性を検討する時間を確保するために、あるいは、承認審査を1~2ヶ月で終わらせる新しい制度の導入を前に、従来より早く審査を進めるよう促しているのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


ケサンラの用量漸増法が変更
(2025年7月9日発表)

イーライリリーは、FDAがアルツハイマー性軽度認知障害・軽度認知症の治療薬Kisunla(donanemab-azbt)の投与スケジュール変更を承認したと発表した。ARIA-E(アミロイド関連画像異常-浮腫)の発生率低下が見込まれる。

24年に米国で承認された時の投与スケジュールは、最初の3回は700mg(350mgバイアル二本)、4回目以降は維持用量の1400mgと二段階漸増だった。新用法は、350mg、700mg、1050mg、そして1400mgと細かく漸増するもの。3種類の投与スケジュールを承認用法と比較した後期第3相TRAILBLAZER-ALZ 6試験で、新用法はARIA-E発生率が16%と承認用法の25%を下回った。高リスク遺伝子型であるApoE4ホモ接合型では各24%と57%だった(但し各群21人とサンプル数が小さい)。ARIA-H(アミロイド関連画像異常-出血)の発生率は25%対28%で有意差なし。ApoE4ホモ接合型では29%対48%だったが有意水準には達していない(レーベル記載値・・・学会/論文発表値とはやや異なる)。

他の安全性評価項目は大差なかった。薬効指標であるアミロイド・プラク減少量も大差なかった。

尚、他の漸増法をテストした2群におけるARIA-E発生率は18%台だった。

リンク: 同社のプレスリリース


経口カリクレイン阻害剤がやっと承認
(2025年7月7日発表)

米国のカルビスタ ファーマシューティカルズ(Nasdaq:KALV)は、FDAがEkterly(sebetralstat)をHAE(遺伝性血管浮腫)の治療薬として承認したと発表した。12歳以上の患者が急性発作を起こした時に600mg(300mg錠2個)を経口投与する。急性期治療用の経口剤は初めて。第3相KONFIDENT試験で症状緩和までの時間が偽薬比有意に短かった。有害事象は頭痛など。禁忌は重度肝障害やCYP3A4の中高度インデューサー/高度インヒビター併用。

PDUFA(処方薬ユーザー課金法)に基づく審査期限は6月17日だった。一部報道によると、遅延したのは、Marty Makary FDA委員長が理由を明らかにしないまま審査担当部署の意見を覆し審査完了通知を出す方向で圧力をかけたためだという。

欧州や日本(科研製薬がライセンス)でも承認申請中。

リンク: 同社のプレスリリース


テビムブラがEUで鼻咽頭癌に適応拡大
(2025年7月10日発表)

BeOne Medicines(Nasdaq:ONC)はEUでTevimbraが鼻咽頭癌に適応拡大したと発表した。成人の、根治切除/放射線療法が適応にならない転移/難治鼻咽頭癌の一次治療に、gemcitabine及びcisplatinと併用する。5月にCHMPを通過していたが、当方が報告し落としてしまった。

中台タイの施設で実施された第3相無作為化割付け二重盲検試験、RATIONALE-309の中間で、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が9.2ヶ月とgemcitabine・cisplatin・偽薬併用群の7.4ヶ月を上回り、ハザード・レシオは0.52、統計的に有意だった。

FDAは専ら中国で実施された試験の信憑性に懐疑的だが、EUはエビデンスとして受け入れている模様で、Tevimbraは今回の承認で適応対象が5種類の臓器の癌に拡大した。

リンク: 同社のプレスリリース


乳児用マラリア治療薬がスイスで承認
(2025年7月8日発表)

ノバルティスは、Coartem Baby/Riamet Babyがスイスで承認されたと発表した。Marketing Authorization for Global Health Products制度に基づきアフリカの8ヶ国(Burkina Faso、Côte d'Ivoire、Kenya、Malawi、Mozambique、Nigeria、Uganda、そしてTanzania)やWHOも審査に参加しており、ノバルティスがこれら8ヶ国で申請すれば90日以内の承認が見込まれる。

Medicines for Malaria Ventureと共同で開発した急性非複雑性マラリア感染症治療薬。2009年に米国で承認され、2016年に日本で、2019年12月にはスイスでも承認された。経口投与できる点が長所。米国では生後2ヶ月以上且つ体重5kg以上が適応。スイスでは体重5kg以上が適応だったが、今回の新製剤の承認で2kg以上5kg未満の患者も治療できるようになった。

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: Swissmedicのプレスリリース

【医薬品の安全性】


PRAC、チクングニア熱ワクチンの高齢者接種停止を解除へ
(2025年7月11日発表)

EMA(欧州薬品庁)のファーマコビジランス委員会、PRACは、Valneva(Euronext Paris:VLA)の弱毒化生チクングニア熱ワクチンIxchiqの高齢者接種停止を解除すると発表した。フランスや米国で接種後にチクングニア熱感染症や脳炎を発症した症例が報告されたため、殆どを占めた65歳以上の接種を4月にフランスが停止、5月にはPRACも暫定的な措置として禁止していたが、チクングニア感染時のリスクが高くワクチンの便益が大きいのもこの年齢層であることから、解除を決めた。感染リスクが高い人が便益と危険を十分に検討した上で接種する。免疫低下者は従来通り禁忌。

米国でも5月にFDAとCDC(疾病管理予防センター)が65歳以上の接種停止を勧奨する考えを示したが、どうなっただろうか?尚、5月時点では深刻有害事象数は17例、うち2人死亡と発表されていたが、今回、28例、3人死亡に増加した。世界の累計接種数は43400回。

リンク: PRACのプレスリリース


PRACがクロザピンの検査負担を緩和、バルプロ酸の父性催奇性をさらに検討
(2025年7月11日発表)

PRACは向精神薬clozapineに関する規制を一部緩和することを決めた。また、抗癲癇薬valproateに関して、新しい研究結果が出たため検討を継続することを明らかにした。

clozapineは1960年代に登場し、従来の向精神薬に十分応答しない統合失調症にも有効な非定型向精神薬として重宝されたが、深刻な好中球減少リスクがあるため、定期的にANC(好中球絶対数)検査を行う必要がある。深刻な好中球減少症の発生時期は治療開始後1年、特に最初の18週間がほとんどなので、今回、PRACは、検査頻度を1年経ったら12週毎、2年経過後は年1回に減らすことを決定した。

発売から30年以上経ち、副作用監視や発生時の対処法が浸透したことなどから、医療従事者や患者の負担を一部緩和する動きが他国でも出ている。米国では今年2月にREMS(リスク評価緩和戦略)が解除され、ANC検査の頻度は治療開始後6ヶ月経ったら2週毎、1年経ったら月一回、に変更された。

valproateは癲癇や双極障害、国によっては片頭痛にも承認されている。胚胎毒性を持つが、この薬にしか反応しない患者もいるので、完全な妊婦禁忌にはなっていない。今回俎上に上がっているのは、精子を通じて胚胎移行するリスク。EMAはvalproate製剤の承認の条件として市販後に神経発達障害などのリスクを他の抗癲癇薬(lamotrigineまたはlevetiracetam)と比べる後顧的観察的試験を実施するよう求めた。IQVIAが受託してデンマーク、ノルウェー、スエーデンの患者登録データを集計解析したところ、修正ハザード・レシオが1.50(95%信頼区間1.09-2.07)となったため、昨年1月にPRACが予備的注意勧告を行った。

ところが、Christensenらがデンマークだけのデータを用いて父親がvalproateに曝露したグループとそうでないグループの比較を行ったところ、修正ハザード・レシオは1.10(同0.88-1.37)となった。修正前の数値は1.59(1.28-1.96)だが、父親が精神疾患、などの交絡因子を調整すると有意性が失われた。ということは、valproateのリスクではなく病気自体、あるいは同じ疾病の薬全般のリスクである可能性も否定できないことになる。今年5月に刊行されたlamotrigine・levetiracetam曝露例との比較研究ではハザード・レシオは修正前で0.99、修正後で1.02と大差なかった。

PRACは検討を継続する考え。

リンク: PRACのプレスリリース
リンク: Christensenらの試験論文(JAMA Network Open、2024年)
リンク: 同(同、2025年)

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
25/8推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
25/8推インサイトのZynyz(retifanlimab-dlwr、肛門扁平上皮癌に適応拡大)
25/8推ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
25/8/8LENZ TherapeuticsのLNZ100(aceclidine、老視)
25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)
25/8/18Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ)
25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
25/8/19Regeneron PharmaceuticalsのEyelea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大)
25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
諮問委員会
25/7/17ODAC:GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/7/18PPDAC:大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)



今週は以上です。

2025年7月5日

第1214回

【ニュース・ヘッドライン】

  • アムジェン、抗FGFR2b抗体の第3相が成功 
  • モデルナ、mRNA型インフルエンザワクチンの予防試験が成功 
  • コセンティクスの巨細胞性動脈炎試験はフェール 
  • MSD、エアウィンのアウトカム試験データを承認申請 
  • JNJ、EUでAkeegaをHRR変異型ホルモン感受性前立腺癌に適応拡大申請 
  • Regeneronの抗BCMAxCD3も承認 
  • 中華EGFR阻害剤が承認 
  • 抗IFN-gamma抗体がスティル病によるHLH/MASに適応拡大 
  • 二種類のADHD治療薬の6歳未満における体重減少リスク 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


アムジェン、抗FGFR2b抗体の第3相が成功
(2025年6月30日発表)

アムジェンはbemarituzumabが第3相試験の中間解析で主目的を達成したと発表した。全生存期間が統計的に有意且つ臨床的に意味のある延長を見せた。

21年にFive Prime Therapeuticsを19億ドルで買収して入手した、FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)2bに結合する抗体。このFORTITUDE-101試験はFGFR2bが過剰発現しher2は陰性の進行胃・胃食道接合部(G/GEJ)癌で一次治療を受ける患者を組入れて、mFOLFOX6レジメンに追加する便益を偽薬追加群と比較した。FGFR2b過剰発現の定義は、セントラルラボにおけるIHC(免疫組織染色)法検査で腫瘍の10%以上で2+または3+。進行G/GEJ癌の16%程度が該当するとのこと。試験薬はmFOLFOX6の投与スケジュールに合わせて2週毎に15mg/kgを投与した(但し、第1サイクルは第8日にも7.5mg/kgを投与)。

データは未公表。類似した内容の第2相FIGHT試験では副次的評価項目である全生存期間のハザードレシオが0.58(メジアンは未達対偽薬追加群12.9ヶ月)、上記のFGFR2b過剰発現の定義に該当するサブグループ96人における事後的解析では0.41(25.4ヶ月対11.1ヶ月)だった。

特徴的な治療時発現有害事象は視力の低下、点状角膜炎、角膜上皮欠損、ドライ・アイなど眼の異常で、発生率だけではなく重症度も偽薬追加群を上回った。貧血、好中球減少症、悪心なども増加した。


もう一本、mFOLFOX6またはCAPOXにOpdivo(nivolumab)を追加するレジメンに更に追加して全生存期間の延長を図る第3相も進行中。どちらも日本の施設も参加している。

リンク: 同社のプレスリリース


モデルナ、mRNA型インフルエンザワクチンの予防試験が成功
(2025年6月30日発表)

モデルナは、mRNA-1010が第3相P304試験で主目的を達成したと発表した。先に成功したP303試験と合わせて、承認申請に向けて当局と相談する考え。

mRNAベースの季節性インフルエンザ・ワクチン。今回の試験は欧米韓台の施設で50歳以上の40805人を組入れて、インフルエンザ様疾患のリスクを既存の標準用量インフルエンザ・ワクチンと比較した。rVE(相対的ワクチン効率)が26.6%(95%信頼区間16.7-35.4%)と有意に上回った。3種類の対応株におけるrVEも各22~29%、65歳以上においては27.4%、などなど、各種サブグループ分析も成功的な結果になった。

一本目のP303試験では65歳以上を組入れて当時のスタンダードであった4価ワクチンの免疫原性をサノフィのFluzone HD(高量版)と比較した。何れもGMT(幾何平均抗体価)や抗体陽転率が4ウイルス型それぞれに関して有意に上回った。ワクチンに付き物の有害事象は増加した。

同社はCOVID-19ワクチンとの二種混合ワクチンmRNA-1083を24年に承認申請したが、トランプ政権下のFDAにP303試験だけでは不十分と見なされ、撤回した。臨床的な便益を確認できたので、本命となるべきmRNA-1083の承認にも視野が開けたのではないか。

リンク: 同社のプレスリリース


コセンティクスの巨細胞性動脈炎試験はフェール
(2025年7月3日発表)

ノバルティスは、抗IL-17A抗体Cosentyx(secukinumab)の第3相GCAptAIN試験で主目的を達成できなかったと発表した。成人の新患または再発性の巨細胞性動脈炎患者を偽薬、150mg、または300mg群に無作為化割付けして、ステロイド・テイパリング(用量漸減)を進めながら52週間投与し、300mg群の持続的寛解率を偽薬群と比較したが、期待は実現しなかった。副次的評価項目のステロイド累積投与量やステロイド関連毒性は数値上、減少した(偽薬群はステロイドを52週かけて漸減し中止を目指したのに対して、試験薬群は26週かけて漸減・中止を目指すプロトコル)。 

Cosentyxは米国などで乾癬性関節炎、中重度尋常性感染、強直性脊椎炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、化膿性汗腺炎、付着部関連関節炎、若年性脊椎関節炎に承認されている。

巨細胞性動脈炎は頭部などの動脈で炎症が発生し様々な症状が出る希少疾患。上記と同様なステロイド・テイパリング試験に基づき中外/ロシュの抗IL-6受容体抗体Actemra(tocilizumab)やアッヴィのJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)が米欧日で承認されている。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【承認申請】


MSD、エアウィンのアウトカム試験データを承認申請
(2025年7月2日発表)

MSDは肺動脈高血圧症(PAH)治療薬Winrevair(sotatercept-csrk)のレーベルにZENITH試験のデータを追加すべくFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は10月25日。

21年にAcceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)を115億ドルで買収して入手した、ActRIIA(activin receptor type IIa) とIgG1の融合蛋白。24~25年に米、EU、日本で成人の肺動脈高血圧症(WHOグループI)用薬として承認された。適応範囲は若干異なっており、EUはエビデンスとなった第3相STELLAR試験の組み入れ条件に即してWHO機能クラスIIとIIIに限定、日本も同IとIVにおける有効性及び安全性は確立していないと注記したのに対して、FDAは限定しなかった。

ZENITH試験は標準療法を受けているWHO機能クラスIIIとIVの患者で死亡リスクが高いと推測される患者を組入れて、Winrevairを追加する便益を検討したもの。STELLAR試験の主評価項目が6分歩行距離であるのに対して、全死亡/肺移植/PAHによる24時間以上の入院という臨床的に重大な転帰を評価した。結果は、メジアン10.6ヶ月追跡の中間解析で発生率が17.4%と偽薬群の54.7%を下回り、ハザードレシオ0.24と有意に抑制された。副次的評価項目の全死亡も7人対13人、ハザードレシオ0.42となったが、成功認定の閾値には到達しなかった。

STELLAR試験でも副次的評価項目である死亡/臨床的悪化のハザードレシオが0.16で有意だった。ZENITHで再現されたことから、機能クラスIIとIIIで進行リスクが中高度の、PAH診断から1年以内の患者を組入れた第3相HYPERION試験も打ち切られた。

リンク: MSDのプレスリリース


JNJ、EUでAkeegaをHRR変異型ホルモン感受性前立腺癌に適応拡大申請
(2025年7月3日発表)

ジョンソン エンド ジョンソンはEUでAkeega(niraparib、abiraterone acetate)の適応拡大を申請したと発表した。成人のHRR(相同組換え修復)変異型転移性ホルモン感受性前立腺癌にprednisone(同)と併用する適応を追加する。第3相AMPLITUDE試験でrPFS(放射線学的無進行生存期間)がabiraterone acetate・prednisone(同)併用群を有意に上回り、ハザード・レシオは0.63だった。被験者の2~3割を占めたBRCA変異型では0.52と更に大きな差があった。全生存期間のハザード・レシオは各0.79と0.75で正しい方向を指しているが未だ有意差は出ていない。

転移性ホルモン感受性(去勢感受性)前立腺癌は転移したがホルモン療法に対する応答性は失われていない状態。その25%程度でHRR変異が見られ、更にその半分はBRCA遺伝子の変異。

abirateroneはCYP17阻害剤。テストステロンの合成を阻害する。同社のZytigaの活性成分。niraparibはPARP1/2阻害剤。MSDから権利を取得して開発しZejula名で発売までに漕ぎ着けた、Tesaro社(後にGSKが買収)から日本以外の市場で前立腺癌における開発販売権を取得し合剤として開発、23年にEUと米国で成人のBRCA有害変異型転移去勢抵抗性前立腺癌にprednisone(またはprednisolone)と併用する用途用法で初承認されている。日本は武田薬品が開発販売権を保有しているが、今回の適応で開発しているかどうかは不明。

リンク: JNJのプレスリリース

【承認】


Regeneronの抗BCMAxCD3も承認
(2025年7月2日発表)

FDAはRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)のLynozyfic(linvoseltamab-gcpt)を加速承認した。BCMAとCD3に結合する二重特異性抗体で、成人の難治・再発多発骨髄腫で、プロテアソム阻害剤、IMiD(lenalidomideなどの免疫調停薬)、そして抗CD38抗体を含む4次以上の治療歴を持つ患者が適応になる。LINKER-MM1試験で4次以上の治療歴を持つ80人のサブグループにおけるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が70%となり、その72%は12ヶ月時点でも反応を維持していた。

上記試験は3次以上の治療歴を持つ患者を組入れており、intent-to-treatベースのORRは71%と、上記のサブグループ解析と大差ない。EUでは4月に3次以上に条件付き承認された。なぜ米国は3次治療患者を除外したのか、理由は明らかではない。全例などから考えられるのは、組入れ数が僅少だったのかもしれない。

枠付き警告はサイトカイン放出症候群(G3以上の発生率は1%未満)とICANS(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群、G3/4の8%)。先行するCAR-T療法や二重特異性抗体はこれらの副作用に関するREMS(リスク評価緩和戦略)が、不要化されたところで、FDAの方針が変わったのかと思われたが、Lynozyficは課せられた。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: (参考)BMSのREMS解除等に関するプレスリリース(6/26付)


中華EGFR阻害剤が承認
(2025年7月2日発表)

FDAはDizal (Jiangsu) Pharmaceutical(SHEX:688192、迪哲医药)の選択的不可逆的EGFR阻害剤Zegfrovy(sunvozertinib)を加速承認した。成人の白金薬ベースの化学療法中または終了後に進行した、EGFR遺伝子にエクソン20挿入変異のある局所進行/転移非小細胞性肺癌に単剤投与する。中国、米国、日本、韓国などの施設が参加した第2相WU-KONG1B試験で200mgを一日一回、食事と共に経口投与した85人におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が46%、メジアン反応持続期間は11.1ヶ月だった。警告注意事項は間質性肺疾患/肺臓炎、胃腸系有害事象、皮膚有害反応、眼毒性、胚胎毒性。コンパニオン診断薬としてLife TechnologiesのOncomine Dx Express Testも承認された。

第3相WU-KONG28が市販後薬効確認試験を兼ねると推測される。日本は参加していないようだ。

中国では上記第2相に基づき23年8月に条件付き承認された。

リンク: FDAのプレスリリース


抗IFN-gamma抗体がスティル病によるHLH/MASに適応拡大
(2025年6月28日発表)

Swedish Orphan Biovitrum(STO:Sobi)は、FDAがGamifant(emapalumab-lzsg)の適応拡大を承認したと発表した。18年に新生児以上の小児・成人における難治性、再発性、進行性、または従来療法不耐の原発性HLH(血球貪食リンパ組織球症)に承認されたガンマ・インターフェロンに対する抗体で、今回、新生児以上の小児・成人のスチル病(疑い例や全身性若年性特発性関節炎を含む)患者におけるコルチコステロイド不十分応答/不耐のHLH/MAS(マクロファージ活性化症候群)あるいは再発性MASに用いることができるようになった。

欧州では18年に原発性HLH用途で承認申請されたが、症例数が少なく薬効評価も難しいとして、CHMP(医薬品科学的評価委員会)が否定的に評価した。

リンク: 同社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


二種類のADHD治療薬の6歳未満における体重減少リスク
(2025年6月30日発表)

FDAはamphetamineおよびmethylphenidateの延長放出製剤に関してレーベル変更を行うと発表した。ADHD治療薬として承認されているが、6歳未満の患者に投与すると体重減少を齎すリスクがあるため。6歳未満には承認されていないが、医師は自分の判断で処方することが可能なので、Limitation of Useセクションに曝露が高まり有害反応発生率が高まる旨を記載する。既に4製品のレーベルには記載済みだが、他の製品の薬物動態試験でも同様な懸念が確認されたため、全製品のレーベルに追加すべく製薬会社に要請中。

6歳未満にも承認されている即放性製剤ではこのようなリスクは見られないとのこと。

リンク: FDAのプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



PDUFA
25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)・・・遅延
25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
25/8推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
25/8推インサイトのZynyz(retifanlimab-dlwr、肛門扁平上皮癌に適応拡大)
25/8推ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
25/8/8LENZ TherapeuticsのLNZ100(aceclidine、老視)
25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)
25/8/18Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ)
25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
25/8/19Regeneron PharmaceuticalsのEyelea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大)
25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
25/8/31Capricor TherapeuticsのCAP-1002(deramiocel、DMD)
諮問委員会
25/7/17ODAC:GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/7/18PPDAC:大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)



今週は以上です。

2025年6月28日

第1213回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • 委員総取っ換え後のACIP、大きな変化はなし 
  • フィンテプラのCDKL5欠損症試験が成功 
  • スピンラザの高量試験が成功 
  • ファイザー、ヒムペブジのインヒビター保有者試験が成功 
  • Nuvalent社、ROS1阻害剤を承認申請へ 
  • シロシビンの鬱病試験はそこそこの結果に 
  • Exelixis、新規VEGFR阻害剤の第3相が成功 
  • 新規禁煙補助薬を承認申請 
  • オゼンピックのEUレーベルにSTRIDE試験のデータが収載へ 
  • Philogen社、欧州で抗癌剤の承認申請を撤回 
  • ダトロウェイがEGFR変異非小細胞性肺癌に承認 
  • FDA、COVID-19 mRNAワクチンの心筋炎警告をアップデート 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


委員総取っ換え後のACIP、大きな変化はなし
(2025年6月25-26日開催)

CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)が開催された。HHS(米国保健福祉省)長官のイニシアティブで直前に委員の総入替えが断行されたため危惧されたが、各種報道を読む限りでは、まあまあ大きな変更はなく終了したようだ。

今月、米国で承認されたMSDのRSV疾患予防用抗体Enflonsia(clesrovimab-cfor)を生後8ヶ月未満の乳幼児に推奨することには7人中5人が賛成した。Vaccines for Childrenプログラム(医療保険未加入の小児に提供する)に採用することには全員が賛成した。

翌日、6ヶ月児以上の小児成人に禁忌でない限りインフルエンザ・ワクチンの接種を勧奨することに6人全員が賛成した。HHS長官の過去の言動などから注目された、一部製品に保存剤としてチメロサールが添加されている件については、18歳以下の青年小児についても、妊婦に関しても、すべての成人に関しても、チメロサール・フリー製品を推奨することに5人が賛成、反対は一人だけだった。

チメロサールはエチル水銀の殺菌作用により雑菌の増殖を抑制する。米国で自閉症の小児が増加したのはワクチンのチメロサールのせいだとする見解は今や少数意見となり、CDCやFDAを含めて無害が多数意見だが、不必要なリスクは取らないのが危機管理の要諦であり、米国では多くのインフルエンザ・ワクチンが、製造過程でも、最終製品でも、チメロサール・フリーに変わった。例外は複数回量バイアル製品で、SeqirusのAfluriaと細胞培養型ワクチンFlucelvax、そしてサノフィのFluzoneが該当する。何れも、一回量のシリンジ版には添加されていない。

コスト上昇につながるという意見もあったようだが、CDCのホームページに記載されている価格を見ると、バイアル製品もシリンジ製品も大差ない。むしろ、予防効果が高いとされるSeqirusのFluad(アジュバント入り)やサノフィのFluzone高量版のほうが3~4倍高い。

チメロサール添加製品の需要が後退しそうだが、米国で用いられているインフルエンザ・ワクチンの9割以上は不添加とのことなので、大きな影響はなさそうだ。

リンク: Biospaceの報道
リンク: インフルエンザ・ワクチンとチメロサール(FDAの情報頁)

【新薬開発】


フィンテプラのCDKL5欠損症試験が成功
(2025年6月27日発表)

UCBは、fenfluramineの第3相CDKL5欠損症試験、GEMZで主評価項目などを達成したと発表した。できるだけ早く承認申請する考え。データは未発表。

CDKL5欠損症はX染色体上のサイクリン依存的キナーゼ様5遺伝子に変異を持ち、女性は重度の発達障害を生じ、男性は出生前に死亡することが多い。新生児数万人に一人の超希少疾患。fenfluramineはセロトニン作動などの作用を持つ。20年以降、米欧日でドラベ症候群やレノックス・ガストー症候群における癲癇発作の予防薬Finteplaとして承認された。米国でアメリカン・ホーム・プロダクツが200億ドル超の損害賠償金を課せられた体重管理薬Pondimin(fenfluramine)/Redux(dexfenfluramine)より用量が二けた小さいが、米国では心臓弁疾患や肺動脈高血圧症のリスクが枠付き警告/REMS(リスク評価緩和戦略)導入を課せられている。

リンク: UCBのプレスリリース


スピンラザの高量試験が成功
(2025年6月27日発表)

バイオジェンは脊髄性筋萎縮症治療薬Spinraza(nusinersen)の高量試験成績を学会発表した。初めて治療を受ける乳児発症型患者75人を組入れたDEVOTE試験のパートBについては昨年9月に公表済みだが、Spinraza治療歴を持つ患者を組入れたパートCも良好な結果になったことが明らかになった。

16~17年に米EU日で初承認された時の用量用法は、12mgを第0、14、28、50日に髄腔内投与し、その後は4ヶ月毎に反復する。高量は50mgを第0、14日に髄腔内投与し、その後は28mgを4ヶ月毎に反復する。パートBでは主評価項目のCHOP-INTEND(Children’s Hospital of Philadelphia Infant Test of Neuromuscular Disorders:運動機能を0~64点で評価)が初承認時のエビデンスであるENDEAR試験の対照群の適合サブグループを有意に上回った。承認用量群との比較でも上回るトレンドが見られた。今回のパートCは承認用量用法による治療をメジアン3.9年受けた4~65歳の脊髄性筋萎縮症患者38人全員に高用量を投与したところ、HFMSE(Hammersmith Functional Motor Scale-Expanded:筋機能を評価)が歩行可能な患者では1.1点、不能な患者では2.5点改善した。RULM(Revised Upper Limb Module)やCGI-Cも改善した。15%で深刻有害事象が発生したが治療関連と見做されたものはゼロだった。

高用量は今年1月に欧米で、3月には日本でも、用法追加申請が受理された。

リンク: 同社のプレスリリース


ファイザー、ヒムペブジのインヒビター保有者試験が成功
(2025年6月26日発表)

ファイザーは、インヒビターを持つA型・B型血友病患者を組入れたHympavzi(marstacimab-hncq)の出血予防試験が成功したと発表した。適応拡大申請に向かうのではないか。

血液凝固カスケードにおいて活性化血液凝固第Xa因子と活性化第VII因子の結合を抑制する役割を持つ、TFPIに対する抗体。24年に米、EU、日本で12歳以上のインヒビターを持たないA型・B型血友病の出血傾向を抑制する薬として承認された。エビデンスとなる第3相BASIS単群試験では、治験参加前に血液凝固製剤の予防的投与を受けていた患者ではABR(年率出血率)がリード・イン期間の7.85から5.08に、出血時治療で対処していた患者では38から3.18に、減少した。

今回は同じBASIS試験のインヒビターを持つ48人の解析。出血時にバイパス止血製剤を静注していた時期と比べてABRが19.78から1.39に減少した。関節出血なども減少した。死亡や血栓塞栓イベントは発生しなかった。用量用法は承認内容と同じで、初回は300mg、二回目以降は150mgを週一回皮下注する。必要に応じて300mgに増量可。

類薬ではノボ ノルディスクの一日一回皮下注用抗TFPI抗体、Alhemo(concizumab-mtci)が23~24年に日米EUでインヒビター保有者に承認、日本では24年に非保有者にも適応拡大した。

リンク: ファイザーのプレスリリース


Nuvalent社、ROS1阻害剤を承認申請へ
(2025年6月24日発表)

米国のNuvalent(Nasdaq:NUVL)は、選択的ROS1阻害剤NVL-520(zidesamtinib)のローリング承認申請を7月に開始する計画を明らかにした。第3四半期の完了を見込む。First-in-Human試験である第1/2相ARROS-1試験で、一種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤歴を持ち化学療法歴は1回以下の局所進行/転移ROS1変異型非小細胞性肺癌117人に100mgを一日一回投与したところ、ORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が44%、12ヶ月反応持続率(当初推定値)は78%だった。G2032Rを持つサブグループでもORRが54%と有効性が示唆された。治療時発現有害事象による用量減量の発生率は10%、治験離脱は2%だった。

NVL-520はcrizotinib以外の既存のROS1阻害剤と同様に血液脳関門通過性を持つ。TRKに対するROS1選択性が高いため忍容性が改善されており、ROS1の薬物耐性変異であるG2032Rにも有効という特徴を持つ。

リンク: 同社のプレスリリース


シロシビンの鬱病試験はそこそこの結果に
(2025年6月23日発表)

英国のCompass Pathways(Nasdaq:CMPS)はCOMP360(psilocybin)の第3相難治鬱病試験で主目的を達成したと発表した。欧州やカナダの施設も参加するもう一本の試験は26年下に結果が判明する見込み。尚、どちらも当初計画ではもっと早く判明するはずだった。

今回のCOMP 005試験は米国の施設で258人を25mg群と偽薬群に2:1割付けして1回投与し、第6週のMADRS(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale)スコアを比較したところ、群間差が3.6、p<0.001と有意な差があった。臨床的に意味のある自殺思慮の不均衡は見られなかった。もう一本のCOMP 006試験では、25mg群、10mg群、1mg群(実質的な偽薬群)に2:1:1割付けし、心理療法の補助薬としてのMADRS改善作用を比較している。

psilocybinは幻覚作用を持っており日米ともに麻薬取締法の対象になっている。セロトニンに類似しており、鬱病やPTSDなどの臨床試験が行われている。精神疾患用薬の臨床試験成績を見比べるのは難しく、小さな違いを云々しても意味はないが、同社の株価は発表後に半減しており、事前の期待かつまた事後の失望の大きさが伺われる。因みに、広い意味で似たような種類の薬であるJNJのSpravato(esketamine)の難治鬱病単剤投与試験では、56mg群の治療効果(第4週MADRSの群間差)が5.1、84mg群は6.8だった、

リンク: Compass社のプレスリリース


Exelixis、新規VEGFR阻害剤の第3相が成功
(2025年6月22日発表)

Exelixis(Nasdaq:EXEL)はXL092(zanzalintinib)が第3相STELLAR-303試験で共同主評価項目の一つを達成したと発表した。標準療法不応、抵抗、または不耐の転移結腸直腸癌(高マイクロサテライト不安定性は除外)を組入れてロシュのTecentriq(atezolizumab)と併用で100mgを一日一回、経口投与し、全生存期間をバイエルのStivarga(regorafenib)と比較したところ、有意に上回った。もう一つの、肝転移の無いサブグループの全生存期間は引き続き追跡する。

良く分からないのは、治験登録を見ても、過去の学会発表でも、この試験の主評価項目は肝転移なしサブグループの全生存期間だけだ。前者ではintent-to-treatベースは副次的評価項目と記されている。最終変更は昨年7月付けなので、その後に変更されたのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース
リンク: 治験登録(ClinicalTrials.gov)

【承認申請】


新規禁煙補助薬を承認申請
(2025年6月26日発表)

Achieve Life Sciences(Nasdaq:ACHV)はcytisiniclineを成人の禁煙補助薬として承認申請した。ニコチン類似構造を持つ植物アルカロイド系アルファ4ベータ2ニコチン・アセチルコリン受容体部分作動剤で3mgを一日3回経口投与する。第3相試験二本で4週連続禁煙達成率を偽薬群と比較したところ、12週連続投与群は一本が32%(偽薬群は7%)、もう一本では30%(同9%)、6週連続投与群は各25%(同4%)と15%(同6%)だった。有害事象は不眠、異常夢、悪心、頭痛など。

活性成分は中・東欧で20年以上、2000万人以上の治療歴を持つ。Achieve社は誘導体や塩、そしてオリジナル製品の1日6回ではなく3回投与に関する特許を保有している。

尚、ファイザーのアルファ4ベータ2ニコチン・アセチルコリン受容体部分作動剤Chantix(varenicline tartrate)はニトロソアミン問題でリコール・出荷停止状態にあるが、再発売に向けて動き出したようだ。

リンク: Achieve社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


オゼンピックのEUレーベルにSTRIDE試験のデータが収載へ
(2025年6月24日発表)

ノボ ノルディスクは、CHMP(医薬品諮問委員会)がOzempic(semaglutide)のEUにおけるレーベルにSTRIDE試験のデータを追加することを支持したと発表した。順調なら2~3ヶ月内に欧州委員会が承認することになる。

この試験は欧米アジアの施設で症候性PAD(末梢動患疾患)を伴う二型糖尿病患者792人を偽薬群と試験薬群(1mg週一回皮下注)に無作為化割付けして52週間投与したところ、トレッドミル検査成績が各群1.08倍と1.21倍となり、有意な差があった。最大歩行距離は各群14メートルと40メートル増加した。

米国でも申請中で第4四半期に結果が出る見込み。

リンク: 同社のプレスリリース


Philogen社、欧州で抗癌剤の承認申請を撤回
(2025年6月24日発表)

イタリアを本社とするPhilogen(BIT:PHIL)はNidlegy(daromun)を悪性黒色腫の術前付随療法としてEUに承認申請していたが、撤回した。CMC(化学、製造、管理)や臨床試験に関する追加データを要求されたが、回答に時間がかかるため。

腫瘍細胞等で発現するfibronectinのExtra Domain Bに結合する抗体、L19を、IL2と結合した薬剤と、TNFと結合した薬剤を手術前に週次で4回、病変内投与するもの。独伊仏ポーランドの施設で全摘可能な局所進行性黒色腫256人を組入れた第3相PIVOTAL試験でRFS(無再発生存期間)がメジアン16.7ヶ月と手術だけの群の6.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.59、log-rank p=0.005だった。G3治療時発現有害事象が12.7%で見られた。

この試験は術後の他剤によるアジュバント療法が認められていた。オープン・レーベル試験なので自分が対照群に割り当てられたら術後アジュバントを希望するかもと想像するが、本試験では試験薬群(40%)のほうが対照群(30%)より施行率が高かった。

daromunはSun Pharmaceutical Industriesが欧州や豪州ニュージーランドの販売権を取得している。

リンク: Philogen社のプレスリリース

【承認】


ダトロウェイがEGFR変異非小細胞性肺癌に承認
(2025年6月23日発表)

FDAは、第一三共がアストラゼネカと共同開発販売している抗TROP2抗体薬物複合体、Datroway(datopotamab deruxtecan-dlnk)をEGFR変異陽性局所進行/転移非小細胞性肺癌に加速承認した。EGFR標的薬と白金ベース化学療法による治療歴を持つ成人が適応になる。

TROPION-Lung05試験や同01試験のEGFR変異サブグループ114人においてORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が45%(完全反応率4.4%)、メジアン反応持続期間は6.5ヶ月だった。05試験では盲検独立中央評価によるORRが45%、治験医評価は34%と大きな違いが見られたが、01試験ではどちらも同程度だった。

Datrowayは札幌医科大学との共同研究の成果である抗TROP2抗体と今やおなじみになったトポイソメラーゼI阻害剤deruxtecanをリンカーで結合した抗体薬物複合体。24~25年に日米欧でホルモン受容体陽性、her2陰性の乳癌の二次治療に承認された。欧米では01試験に基づき非扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療にも承認申請されたが、24年に撤回となり、米国では代わりに今回の適応を申請した。

リンク: FDAのプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、COVID-19 mRNAワクチンの心筋炎警告をアップデート
(2025年6月25日発表)

FDAはCOVID-19予防用mRNAワクチンのレーベルを改訂し、心筋炎や心膜炎のリスク情報をアップデートすることを承認したと発表した。ファイザーのComirnatyとモデルナのSpikevaxが対象。医療保険のデータを基に23/24年シーズン用ワクチンを接種後の7日間における心筋炎且つ又心膜炎の発生頻度を調べたところ、6ヶ月~64歳では百万人当り約8人だった。一番高かったのは12~24歳の男性で同約27人。また、FDAがスポンサーとなって実施した後顧的観察的試験によると、接種後に心筋炎を発症した30歳以下の患者300人超のうち3割は約3ヶ月経っても心臓症状が残っていた。但し、左心室機能低下を伴う患者の比率は17%から4%に、心筋浮腫は41%から4%に低下した。心血管死や心移植例は見られなかった。

リンク: FDAの安全性連絡
リンク: Jainらの後顧的観察的試験論文(eClinicalMedicine、24年10月)


【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)・・・遅延
25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/7/29PTCセラピューティクスのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
25/8推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
25/8推インサイトのZynyz(retifanlimab-dlwr、肛門扁平上皮癌に適応拡大)
25/8推ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
25/8/8LENZ TherapeuticsのLNZ100(aceclidine、老視)
25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠。線維筋痛症)
25/8/18Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ)
25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
25/8/19Regeneron PharmaceuticalsのEyelea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大)
25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
25/8/31Capricor TherapeuticsのCAP-1002(deramiocel、DMD)
諮問委員会
25/7/17ODAC:GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
25/7/18PPDAC:大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)



今週は以上です。

2025年6月21日

第1212回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC、GLP-1作用剤を肥満症の第一選択に 
  • FDA、光速承認プログラムを導入へ 
  • 癌の血液検査 
  • ロシュ、ルンスミオとポライビーの併用試験が成功 
  • 片頭痛予防薬アトゲパントがタイマンでトピラマートに勝つ 
  • JNJ、タービーとテクベイリの併用が治療の難しい多発骨髄腫に良績 
  • アッヴィ、ベネクレクスタのMDS試験がフェール 
  • Aldeyra、ドライ・アイ用薬の3巡目の承認審査を申請 
  • CHMP、遅発性ジスキネジア用薬などの承認を支持 
  • デュピクセントが水疱性類天疱瘡に適応拡大 
  • アルカプトン尿症用薬が承認 
  • インサイトの抗CD19抗体が濾胞性リンパ腫に適応拡大 
  • 年二回投与型HIV感染予防薬が承認 
  • CSL、 アナエブリが米国でも承認 
  • 抗HCV薬が急性期患者に適応拡大 
  • エレビジスの歩行不能DMDに対する治療を中止
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


ACC、GLP-1作用剤を肥満症の第一選択に
(2025年6月10日発表)

ACC(米国心臓学会)は体重管理薬に関するエキスパート・コンセンサス声明を臨床ガイダンスとして発表した。これまでは先ずLSM(食事療法や運動療法による生活習慣改善)を施行して、十分な成果が上がらなかったら薬物療法に進むよう推奨していたが、二種類のGLP-1受容体アゴニスト、ノボ ノルディスク ノルディスクのOzempic/Wegovy(semaglutide)とイーライリリーのZepbound/Mounjaro(tirzepatide)に関しては、LSMと同時に開始して心血管健康管理を最適化するよう推奨した。体重管理薬が長期試験で心血管保護作用を示してもどうしても突破できなかった壁が、遂に取り去られた。管理医療組織も保険還付方針を見直すだろうか?

この二剤は肥満症向けと二型糖尿病向けで米国におけるブランド名が分かれているが、ACCは両方に言及している。体重管理に関するガイダンスだが糖尿病でも同じはず、という示唆だろうか?

リンク: ACCの臨床ガイダンス(JACC DOI: 10.1016/j.jacc.2025.05.024)


FDA、光速承認プログラムを導入へ
(2025年6月17日発表)

FDAは、迅速審査の更に先を行く、CNPV(Commissioner’s National Priority Voucher)プログラムを年内に導入すると発表した。現行の優先審査バウチャ制度や加速承認制度、ローリング承認申請制度と似ているが、大きな違いは、承認審査完了後の目標審査期間が1~2ヶ月と途轍もなく短いことと、バウチャを用いて申請する開発品を企業が選択する場合とFDAが指定する場合があること。前述の各種制度が同時適用されることもある。

以下の何れかを満たすと認められた場合、バウチャが交付される。

・アメリカの公衆衛生上の危機に対応
・より革新的な治療をアメリカ人に提供
・充足されない医療ニーズに対処
・国家安全保障を鑑み国内生産を増強

承認審査期間を短縮するために、製薬会社は臨床成績以外の資料を前倒しで提出し審査を開始できるようにする。CMC(化学、製造、管理)に関する資料とレーベル草案は承認申請完了予定日の60日以上前に提出する。審査期間中はFDAの問い合わせに適切に回答する。FDAは関連部署が同時進行的に審査し、一回だけ開かれる合同会議ですり合わせを行う。

FDAは、データが不十分・不完全であった場合や、試験結果が曖昧である場合、そして、非常に複雑な審査を必要とする場合は、審査期間を延長することができる。

バウチャは2年で失効する。譲渡は認められないが、取得企業が買収されても失効しない。

光速審査の前例としては、COVID-19ワクチンのComirnatyやSpikevaxを承認申請の翌月にEUA(非常時使用認可)した。初年度はa limited number of vouchersを供与すると注記しているので、年に一件、二件のスケール感ではなさそうだ。

リンク: FDAのプレスリリース


癌の血液検査
(2025年6月18日発表)

米国カリフォルニア州のGRAIL(Nasdaq:GRAL)は、Galleri MCED(多種腫瘍早期発見)検査の承認申請用試験、PATHFINDER2が中間解析でポジティブな結果になったと発表した。26年上期にFDAに癌のスクリーニング用血液検査としてPMA(医療機器の市販前承認申請)する計画。

ガイドラインに基づき癌のスクリーニング検査が推奨される、過去3年間に発症していない50歳以上の35,878人を北米の施設で組入れ、マンモグラフィやPSA検査などの標準的な検査と共に施行して、3年間追跡したもの。中間解析は事前計画に基づき最初の25,578人を評価した。PPV(陽性判定の的中度)は43%、特異度(陰性判定の的中度)は99.5%だった。腫瘍発生部位の推定も行ったが、正確性は88%だった。

cfDNA(循環無細胞DNA)のメチル化パターンと癌や発生部位の関係を機械学習させた成果物。先立つPATHFINDER試験では6,621人を検査したところ92人が陽性判定となり、その後の臨床診断で35人が癌と診断された(PPV38%)。うち25人は、ルーチンに実施されるスクリーニング検査が存在しない癌だった。偽陽性は62%と結構高い。特異度は99.1%だった。新しいバージョンを用いて再評価した後顧的試験では、PPVが43%、特異度は99.5%と上向いた。

リンク: 同社のプレスリリース

【新薬開発】


ロシュ、ルンスミオとポライビーの併用試験が成功
(2025年6月20日発表)

ロシュは、抗CD20xCD3二重特異性抗体Lunsumio(mosunetuzumab-axgb)の皮下注用製剤と抗CD79b抗体薬物複合体Polivy(polatuzumab vedotin-piiq)を移植不適な難治/再発大細胞型B細胞リンパ腫の治療に用いた第3相SUNMO試験で主目的を達成したと発表した。PFS(無進行生存期間、独立評価方式)のメジアン値が11.5ヶ月とR-GemOx(rituximab、gemcitabine、oxaliplatinの3剤併用)群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.41、12ヶ月PFS率は各群48.5%と17.8%だった。全生存期間の解析は未成熟だが、メジアン18.7ヶ月対13.6ヶ月、ハザードレシオ0.80とまあまあな水準になっている。有害事象はG3/4もG5(致死的)も両群大差なかった。適応拡大に向かう考え。

承認されているLunsumioは点滴静注用で、皮下注用は濾胞性リンパ腫の3次治療以降に欧米で承認申請中。

Polivyは、先ごろ、EHA(欧州血液学会)で第3相POLARGO試験の結果が発表された。R-GemOxに追加した群のメジアン生存期間は19.5ヶ月とR-GemOx群の12.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.60だった。G5有害事象の発生率は11.7%対4%で上回った。COVID-19流行期だったため感染を経て死亡した患者がR-GemOx群より多かった模様であり、今日にも当てはまるかどうか分からないが、表面上はLuncumio・Polivy併用のほうが効果も副作用も穏やかなように見える。

同社のColumvi(glofitamab-gxbm、抗CD20xCD3二重特異性抗体)もR-GemOxのrituximabに代替する便益を検討した第3相STARGLO試験が成功し、全生存期間のハザードレシオは0.59、メジアン値は未達、R-GemOx群は9ヶ月だった。但し、欧米の施設における成績は今一つで、5月のODAC(FDAの腫瘍学薬諮問委員会)では患者代表者以外の8名が米国患者に対する便益が確認されたとは言えないと反対した。EUは4月に適応拡大を認めており、評価が分かれている。

このように、ロシュだけでも三種類のレジメンが周承認申請期に達しており、医療従事者や患者にとっては、どう使い分けたら良いのか、三本の試験はどの程度比較可能なのか、比較する術はあるのか、悩まなければならない時期になっている。

リンク: ロシュのプレスリリース


片頭痛予防薬アトゲパントがタイマンでトピラマートに勝つ
(2025年6月18日発表)

アッヴィは、反復性/慢性片頭痛におけるatogepantの発作抑制効果をtopiramateと比較した第3相TEMPLE試験が成功したと発表した。欧州、イスラエル、カナダの施設で月4日以上片頭痛を経験する成人患者545人を組入れて、60mgを一日一回、24週間、経口投与したところ、有害事象による投与中止率が12.1%とtopiramateを50~100mg/日投与した群の29.6%を有意に下回った。6種類の副次的評価項目も成功し、平均月間片頭痛半減奏効率は64.1%と39.3%だった。

atogepantはCGRP受容体拮抗剤。MSDが創製、15年に導出した先のAllerganをアッヴィが19年に買収した。反復性/慢性片頭痛の発症抑制薬として21~25年に米国やEUで承認され、日本でも承認申請中。

リンク: アッヴィのプレスリリース


JNJ、タービーとテクベイリの併用が治療の難しい多発骨髄腫に良績
(2025年6月15日発表)

薬にあまり応答しないタイプの多発骨髄腫にジョンソン エンド ジョンソン・グループの二種類の二重特性抗体を併用した第2相RedirecTT-1試験の成績がEHA(欧州血液学会)で発表された。3種類の主要な薬を既に用いてしまった、真性EMD(髄外疾患)を伴う難治/再発骨髄腫の患者90人を組入れて、抗GPRC5DxCD3二重特異性抗体Talvey(talquetamab-tgvs)と抗BCMAxCD3二重特異性抗体Tecvayli(teclistamab-cqyv)を2週毎皮下注したところ、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が78.9%、メジアン反応持続期間は13.8ヶ月だった。54.4%の患者が完全反応。被験者の20%を占めたBCMA標的CAR-T療法歴を持っている患者でもORRは83%と高かった。

忍容性は個々の薬のデータと大きな違いはなかった模様。致死的有害事象の発生率は11.1%で、感染症による5人が薬物関連と判定された。

EMDは骨構造と接触していない軟組織や臓器に形質細胞腫が見られる。この二剤を単剤投与した試験のORRはどちらも4割前後だった由。二剤併用により片方の薬に対するエスケープ回路が生じるのを抑制できたのかもしれない。

Tecvayliは23年に米国で難治再発多発骨髄腫の5次治療に加速承認、EUでは4次治療に条件付き承認、24年には日本でも承認された。Talveyは23年に米国で難治再発多発骨髄腫の5次治療に加速承認、EUで4次治療に条件付き承認、日本は第2部会を通過したところ。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: Kummerらの抄録(EHA 2025、LB4001)


アッヴィ、ベネクレクスタのMDS試験がフェール
(2025年6月16日発表)

アッヴィは、Venclexta(venetoclax)の第3相骨髄異形成症候群(MDS)試験、VERONAで主目的を達成できなかったことを明らかにした。IPSS-R予後推測スコアが3点超などの高リスクな新患約500人を組入れて、azacitidineに追加する便益を偽薬追加群と比べたが、全生存期間のハザードレシオは0.908、p=0.3772となった。

Venclextaは経口bcl-2阻害剤。慢性リンパ性白血病や急性骨髄性白血病に承認されている。米国ではジェネンテックと共同開発販売。

リンク: アッヴィのプレスリリース

【承認申請】


Aldeyra、ドライ・アイ用薬の3巡目合格を目指す
(2025年6月17日発表)

米国の医薬品開発企業、Aldeyra Therapeutics(Nasdaq:ALDX)は、ADX 102(reproxalap)をFDAに修正承認申請したと発表した。3巡目なので、受理後の審査期間は6ヶ月となる。

ADX 102はRASP(反応性アルデヒド種)調節作用を持ち、免疫刺激性を持つ有機アルデヒド遊離体に結合し炎症が促進されるのを妨げる。22年にドライ・アイ治療用点眼剤として承認申請したが、FDAがガイダンス文書で要請している兆候改善試験(目の赤さなどを評価)二本と症状改善試験二本のうち、後者が一本だけであったため、審査完了通知を受領した。追加的チャンバー試験(眼に乾燥した風を当て続けて不快感の変化を偽薬と比較)を実施して24年に修正申請したが、ベースライン値に偏りがあったことなどから、再び審査完了通知を受領した。

今回提出した追加的チャンバー試験はベースライン値に偏りがなく、p値は0.002と前回の0.004より更に向上した。FDA相談を踏まえて、有意差に達しなかった追加フィールド試験のデータは提出していない。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、遅発性ジスキネジア用薬などの承認を支持
(2025年6月20日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

テバのAustedo(deutetrabenazine)は成人の中重度遅発性ジスキネジアの治療薬。二本の試験で12週間の投与によりAIMS(異常不随意運動尺度)が改善した。有害事象は鎮静、下痢、ドライ・マウス、疲労など。活性成分はVMAT-2阻害剤trabenazineの水素基を重水素で置換して忍容性や作用の持続性を改善したもの。米国では17年にオリジナルの一日二回経口投与用製剤がハンチントン舞踏病と遅発性ジスキネジアに承認、23年に一日一回用延長放出製剤Austedo XRが承認された。EUで承認申請されているのは後者。

リンク: EMAのプレスリリース

Partner TherapeuticsのImreplys(sargramostim)は骨髄抑制量の急性放射線曝露によるH-ARS(造血症状型急性放射線症候群)の治療に例外的環境条項に基づいて承認するよう勧告した。7mcg/kgを一日一回、皮下注射する。米国では1991年にLeukine名で血液癌の化学療法・骨髄移植付随療法として承認され、2018年に今回と同様な適応拡大が認められたが、欧州で承認されれば今回が初となる。記憶があやふやなのでこの機会にChatGPT(無償で使える古いバージョン)に尋ねてみたところ、アメリカ以外で承認されていないのは、商業的・臨床的なニーズの低さ、競合薬の存在、安全性・コスト面の問題、および製薬企業の申請戦略の影響が主な要因とのことだった。

米国のレーベルによると、エビデンスはアカゲザルの全身照射後投与試験。一本では60日生存率が78%と偽薬群の42%を上回り、線量を増やしたもう一本でも61%対17%で上回った。用量は骨髄移植付随療法時の用量とほぼ同じとのこと。

sargramosimは2002年にImmunexからバイエルに、09年にバイエルからジェンザイムに、ジェンザイムを子会社化したサノフィが18年にPartner社に、事業譲渡したもの。今回の用途の開発では米国政府の補助金を得ている(トランプ大統領に告げ口する意図で書いているわけではありません)。

リンク: EMAのプレスリリース

SpringWorks Therapeutics(Nasdaq:SWTX)のOgsiveo(nirogacestat)はファイザーからライセンスした選択的ガンマ・セクレターゼ阻害剤。成人の進行性デスモイド腫瘍に用いる。第3相でPFS(無進行生存期間)や疼痛、身体機能などが改善した。米国では23年に承認。

同社は4月にMerck KGaAに買収されることで合意している。

リンク: EMAのプレスリリース

Madrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL)のRezdiffra(resmetirom)は高度選択的肝臓標的甲状腺ホルモン受容体ベータ・アゴニスト。成人の中等度から進行性までの段階の肝線維症を伴う非肝硬変MASH(代謝異常関連脂肪肝炎)の治療に食事療法や運動療法と共に用いることを条件付き承認するよう勧告した。エビデンスは進行中の第3相試験の52週解析で、この試験と支持的エビデンスとなった試験を完了することが本承認切替の要件。米国では24年3月に加速承認された。

第3相では偽薬群、80mg群、100mg群のMASH奏効率(MASH解消且つ線維症が悪化せず)が各10%、26%、30%で2用量とも偽薬を有意に上回った(22年の会社側発表値)。但し、病理学者による個人差があるようで、米国のレーベルでは各群9~13%、26~27%、24~36%とレンジで記載されている。CHMPのリリースは前者の数値が記されているが、共同主評価項目である線維症奏効率(線維症が改善しMASHは悪化せず)を見ると、会社側発表では各群14%、24%、26%、米国のレーベルでは13~15%、23%、24~28%、CHMPの今回のリリースでは17%、27%、29%と三者三様になっている(点推定値の小さな違いに拘ってもしょうがないが、元々の群間差がすごく大きいわけではないので無視もし難い)。

リンク: EMAのプレスリリース

カナダのExCellThera社の子会社であるCordex BiologicsのZemcelpro(allogeneic umbilical cord-derived CD34- cells, non-expanded/dorocubicel)は臍帯血由来の細胞療法。血液癌で骨髄抑制処理を施行し他家幹細胞移植を必要としているが適合ドナーが見つからない場合に条件付き承認するよう勧告した。臍帯血輸血は必要量を確保するのに苦労することがある。本品はCD34陽性細胞だけ抽出してex vivoで培養し、残ったCD34陰性細胞と共に点滴投与する。第2相試験二本のプール分析で25人中21人がメジアン20日以内に好中球生着を達成、血小板も17人でメジアン40日以内に生着した。移植片宿主病の発生率は急性が60%、慢性は13%。この二本の長期追跡と対照試験やレジストリー試験の実施が条件。

同社は北米などでも承認申請を計画している。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ExCellTheraのプレスリリース

適応拡大の支持を得たのは、

  • イプセンのCabometyx(cabozantinib):成人の切除不能/転移性分化膵外/膵神経分泌細胞腫、但し、ソマトスタチン類縁体以外の一種類以上の全身性治療後に進行した場合に用いる。米国ではライセンサーのExelixis(Nasdaq:EXEL)が3月に承認取得(12歳以上の小児も含む)。
  • Janssen-Cilag InternationalのDarzalex(daratumumab、hyaluronidase):多発骨髄腫に進展する可能性が高いくすぶり型多発骨髄腫。日米でも適応拡大申請中。疾病の定義が変動しており厄介。
  • 同、Imbruvica(ibrutinib):成人の自家幹細胞移植が適応になる未治療マントル細胞腫にR-CHOPレジメンと併用。エビデンスは欧州の共同治験グループが主導したTRIANGLE試験で、導入期はR-CHOPレジメンとImbruvicaの併用とR-DHAPレジメンを交互に投与する。
  • バイエルのNubeqa(darolutamide):転移性ホルモン感受性前立腺癌にアンドロゲン枯渇療法と併用。米国では今月、転移性去勢感受性前立腺癌名で承認。
  • サノフィのSarclisa(isatuximab):成人の自家幹細胞移植が適応になる新患多発骨髄腫の導入療法としてbortezomib、lenalidomide、及びdexamethasoneと併用する。

  • イーライリリーが早期アルツハイマー病用薬として承認申請したKisunla(donanemab)は、24年に米日が承認したが、CHMPは今年3月に否定的意見を纏めた。深刻なARIA(アミロイド関連画像異常)の発生率が被験者の1.6%で発生し3名が死亡、ApoE4を持たないサブグループに限定しても0.8%と1名で、便益を比べリスクが大きいと判定したため。会社側請求を受け、再審を開始した。4月に開始決定と発表したが、2ヶ月を何に費やしたのだろうか?

    【承認】


    デュピクセントが水疱性類天疱瘡に適応拡大
    (2025年6月20日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、抗IL-4Rアルファ・サブユニット抗体Dupixent(dupilumab)を成人の水疱性類天疱瘡(BP)に治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。経口コルチコステロイド(OCS)と同時に治療を開始し、OCSの用量を漸減しながら疾病寛解を目指した第3相試験で、持続的疾病完解率が18.3%と偽薬・OCS併用群の6.1%を有意に上回った。急性汎発性発疹性膿疱症が1名で発生した(偽薬群はゼロ、各群53人を割付け)。日本やEUでも適応拡大申請中。

    リンク: 両社のプレスリリース


    アルカプトン尿症用薬が承認
    (2025年6月19日発表)

    英国のCycle PharmaceuticalsはFDAがHarliku(nitisinone)を成人のアルカプトン尿症用薬として承認したと発表した。この希少疾患は、homogentisate 1,2-dioxygenaseの先天的欠乏によりHGA(ホモゲンチジン酸)が結合組織などで蓄積し、骨関節炎や組織黒変症、腎・心疾患を誘導する。nitisinoneは上流の酵素、 4-hydroxyphenylpyruvate dioxygenaseを阻害し、HGAの生成を大きく抑制する。2mg錠を一日一回経口投与する。NIH(米国立衛生研究所)が主導した40人の臨床試験で1年後の尿HGA量が9割減少した。対照観察群は2倍増した。

    活性成分はSwedish Orfanが米国では2002年に遺伝性チロシン血症1型の治療薬Orfadinカプセルとして実用化した。Cycle社は温故知新型の希少疾患用薬会社で、同じ活性成分を含有するNityr錠が17年に米国で遺伝性チロシン血症1型用薬Nityr錠として承認されている。

    リンク: Cycle社のプレスリリース


    インサイトの抗CD19抗体が濾胞性リンパ腫に適応拡大
    (2025年6月18日発表)

    FDAは、インサイト(Nasdaq:INCY)のMonjuvi(tafasitamab-cxix)を成人の難治/再発濾胞性リンパ腫に用いる適応拡大を承認した。lenalidomide及びrituximabと併用して、12mg/kgを28日サイクルで最初の3サイクルは毎週、その後の9サイクルは隔週、点滴静注する。成人の抗CD20抗体歴のある成人のCD19陽性、CD20陽性、難治/再発濾胞性リンパ腫と辺縁帯リンパ腫を組入れた第3相inMIND試験で、主評価項目に設定された濾胞性リンパ腫サブグループのPFS(無進行生存期間、担当医評価)が22.4ヶ月とlenalidomide、rituximab、偽薬を投与した群の13.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.43だった。深刻有害事象の発生率は33%で、深刻感染症(24%)が中心。辺縁帯リンパ腫には効果がなかったのか、レーベルには臨床試験を除き未承認であることが注記されている。

    Monjuviは抗CD19ADCC増強抗体。20~21年に造血幹細胞移植不適な難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に加速/条件付き承認された。

    リンク: FDAのプレスリリース


    年二回投与型HIV感染予防薬が承認
    (2025年6月18日発表)

    ギリアド・サイエンシズは、FDAがYeztugo(lenacapavir)をHIV/AIDSの曝露前予防(PrEP)薬として承認したと発表した。体重35kg以上の青少年と成人が適応になる。初日は463.5mg/1.5mLを二回皮下注するとともに、300mg錠を2個経口投与、第2日は300mg錠2個服用、その後は最終皮下注から26週毎に463.5mg二回皮下注を反復する。

    南アとウガンダの16-25歳のシスジェンダー女性5300人超を組入れた第3相PURPOSE 1試験では一人も発症せず、外部対照群の100人年当り2.41や、Truvada(tenofovir disoproxil fumarate、emtricitabine)群の1.69を有意に下回った。PrEPに承認されている同社のもう一つの医薬品、Descovy(emtricitabine、tenofovir alafenamide fumarate)を投与した群は同2.02で、外部対照群やTruvada群を有意に下回らなかった。米州、南ア、タイのシスジェンダー男性、トランスジェンダー男女、またはノンバイナリー3200人超を組入れた第3相PURPOSE 2試験では同0.10となり、外部対照群の2.37、Truvada群の0.93を有意に下回った。

    活性成分は長期作用性カプシド阻害剤。ウイルスRNAを包む蛋白をライフサイクル上の複数の段階で阻害し、複製を妨げる。22~23年にEU、米国、日本で多剤抵抗性HIV/AIDSの治療薬Sunlencaとして承認された。Yeztugoは投与スケジュールにおける皮下注用と錠剤の使い分けが2種類ではなく1種類で、単剤投与するが、わざわざ製品名を変えたのは、治療に単剤投与する誤用を警戒したのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    CSL、 アナエブリが米国でも承認
    (2025年6月17日発表)

    オーストラリアのCSL(ASX:CSL)は、FDAがAndembry(garadacimab-gxii)を12歳以上の遺伝性血管浮腫(HAE)における発作傾向抑制薬として承認したと発表した。オート・インジェクターで200mgを一回(但し、治療開始時は2回)、皮下注し、1ヶ月毎に反復する。自己注可。一巡目の承認審査は審査完了通知に終わったため、2月に承認されたEUや日本より遅れた。

    HAEの発症プロセスであるカリクレイン・キニン・カスケードをトリガーする、活性化XII因子を標的とするIgG4ラムダ抗体。生来のC1エステラーゼ・インヒビターが欠乏するHAE患者63人を組入れた第3相試験で平均発作頻度が偽薬比80%以上小さかった。61.5%の患者が発作を経験しなかった(偽薬群はゼロ)。活性化XII因子標的薬がHAEリスク抑制薬として承認されたのは初めて。また、CSLの研究所で誕生した遺伝子組換え型抗体医薬がアメリカで承認されたのも初めて。

    競合は、武田薬品の抗血漿カリクレイン抗体、Takhzyro(lanadelumab-flyo)やBioCryst Pharmaceuticals(Nasdaq:BCRX)の経口血漿カリクレイン阻害剤、Orladeyo(berotralstat)。どちらもWAC(問屋調達コスト)ベースで年50万ドル前後の高額医薬だ。

    リンク: CSLのプレスリリース


    抗HCV薬が急性期患者に適応拡大
    (2025年6月11日発表)

    アッヴィは、Mavyret(glecaprevir、pibrentasvir)が米国で3歳以上の急性C型肝炎の治療に適応拡大したと発表した。第3相一次治療試験で、一日一回、8週間経口投与し、完了の12週後にSVR(持続的ウイルス学的反応率)を確認したところ、96%と高水準を達成した。

    後NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤とNS5A阻害剤の合剤で、17年にEU、米国、日本で遺伝子型1~6のC型肝炎ウイルスによる慢性C型肝炎に承認されている。今回の適応拡大で、治療ガイドラインが推奨する急性期の、無症候性の患者にも使えるようになった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    エレビジスの歩行不能DMDに対する治療を中止
    (2025年6月15日発表)

    Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)と米国外における販売権を持つロシュは、 夫々、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)用薬Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)に関するアップデートを発表した。歩行不能な患者に対する治療は即時中止し、臨床試験に関しても、対策を決定してプロトロルに導入するまで、投与を停止する。歩行不能な患者で2人目の急性肝不全による死亡が発生したため。臨床試験は免疫抑制剤の使用などを検討しプロトコルに導入した上で再開する考え。歩行可能な患者では死亡例がなく、投与中止は行わないが、免疫抑制剤併用も視野に入れている模様。

    Elevidysは、DMD患者で欠損するジストロフィンに代えて、短縮化したマイクロジストロフィンの遺伝子を導入する遺伝子療法。23~25年に米日で条件付き承認されたが、EUは24年6月に承認申請が受理された後、音沙汰がない。米日は何れも歩行可能な患者が対象だが、対象年齢は米国が4~5歳、日本は申請内容通り3~7歳と食い違った。その後、24年にFDAが一部変更を認め、4歳以上の歩行可能患者向けに本承認、歩行不能患者向けに加速承認した。このように、歩行不能な患者に承認している主要国は米国だけで、欧日は第3相ENVISION試験(歩行不能または、8~17歳の歩行可能なDMD患者が対象;米国の市販後コミットメント試験)など臨床試験に参加している患者だけである。

    米国のレーベルには警告注意事項として深刻肝不全が記されている。被験者の殆どは歩行可能患者であり、また、肝障害はアデノ随伴ウイルスを用いる遺伝子療法にありがちな副作用なので、歩行不能患者限定のリスクではないだろう。それなのに歩行不能患者だけ中止/停止するのは、確認されている便益の中心がマイクロジストロフィンの発現増加という代理マーカーだけで、運動能力や日常生活機能の改善が未確認であるため、リスクに見合わないという判断だろう。

    尤も、歩行可能な幼児における便益も明確ではない。代理マーカーに基づく23年の加速承認も、24年の対象年齢拡大や歩行不能患者加速承認も、FDAの承認審査担当部署は反対したが、当時のCBER(生物学的製剤評価研究センター)のヘッドであったPeter Marks M.D.が覆したものだ。米日欧における承認やその範囲の食い違いを見ても、評価の難しさが窺われる。

    Elevidysはこれまでに900人超に投与され、うち歩行不能患者は140人。後者だけのリスクだとしたら発生率は1~2%ということになるが、前者に無垢とは考えにくいので、0.1~0.2%と考えるべきなのだろう。

    リンク: Sareptaのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
    25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    25/7/12第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
    諮問委員会
    25/7/17ODAC:GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/18PPDAC:大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)



    今週は以上です。

    2025年6月14日

    第1211回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 薬も塩分控え目が良い 
    • ケネディ長官、ACIPの委員全員を入れ替え 
    • ファビハルタはHb≧10g/dLにも有効 
    • ソーティクツの乾癬性関節炎適応拡大試験が成功 
    • MSD、経口PCSK9阻害剤の第3相が成功 
    • GSK、iBAT阻害剤をPBCに承認申請 
    • Jazz、ポリメラーゼII阻害剤を承認申請 
    • esreboxetineは承認申請が受理されず 
    • ブーレンレップは諮問委員会上程へ 
    • DMD細胞療法の諮問委員会はキャンセル 
    • 経口カリクレイン阻害剤の承認審査が遅延 
    • エムレスビアの適応年齢が拡大 
    • キイトルーダを頭頚部癌の周術期療法として承認 
    • 膀胱内注入用マイトマイシンが膀胱癌に承認 
    • Nuvation社のROS1阻害剤が承認 
    • MSD、RSV予防薬が承認 
    • FDA、胃癌や食道癌における抗PD-1抗体の適応範囲を見直し 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    薬も塩分控え目が良い
    (2025年6月9日発表)

    Jazz Pharmaceuticals(Nasdaq:JAZZ)は特許切れするナルコレプシー治療薬Xyrem(sodium oxybate)の後継として20年に米国でXywav(calcium、magnesium、potassium、sodium oxybates)を発売した。カッコ内が賑やかだが最大の特徴はナトリウムが92%少なく、AHA(米国心臓協会)が推奨するナトリウム摂取目標の2.3g/日(食塩なら5.8g)、心血管疾患高リスクでは1.5g/日(同3.8g)という目標を達成するのに大きな妨げにならないこと。推奨用量である6~9gを服用する場合、Xyremはナトリウムを1.1~1.6g/日摂取することになり、Xywavより1.0~1.5g/日多くなる。

    このカタログ・スペックの差が血圧にどう影響するか、調べたXYLO試験の結果がSLEEP学会で発表された。sodium oxybate服用中のナルコレプシー患者43人をXyrem群とXywav群に無作為化割付けして6週間後の血圧を比較したところ、24時間携帯血圧計では4.1mmHgの差(132.3mmHg対128.2mmHg)、オフィス測定では9.2mmHgの差があった。薬も塩分控えめのほうが健康に良いという分かりやすいデータだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ケネディ長官、ACIPの委員全員を入れ替え
    (2025年6月9日発表)

    米HHS(保健福祉省)は、Robert F. Kennedy長官のイニシアティブで、傘下のCDC(疾病管理予防センター)におけるACIP(ワクチン接種諮問委員会)の常任委員17人を解任したと発表した。後任を選定中で、長官は6月11日にX(SNS)で8人の概要を明らかにした。6月25~27日に開催される次回のACIPまでにどれだけ集まるか、注目される。アジェンダの一つと報じられている、MSDのRSV下部気道疾患予防薬(後記)も注目だ。

    解任の理由は必ずしも明らかではない。長官は傘下組織における利益相反懸念をしばしば指摘しているが、具体的に何が問題なのか、今回のリリースには記されていない。17人中13人はバイデン大統領時代の2024年に選任され任期が長く残っていることに言及しており、政権交代以降に様々な政府組織で断行された、残滓除去行動の一環に過ぎないようにも感じられる。

    AMA(米国医師会)など多くの医療関連団体が解任に抗議の意を表明している。CDCの過去そして現在の役職員からもKennedy長官の退任を求める声が上がっている模様。上記8人には反ワクチンで知られる人もいる模様で、更なる物議を呼んでいる。

    リンク: HHSのプレスリリース

    【新薬開発】


    ファビハルタはHb≧10g/dLにも有効
    (2025年6月12日発表)

    ノバルティスは昨年12月にPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)治療薬Fabhalta(iptacopan)の後期第3相APPULSE-PNH試験がポジティブな結果になったと発表したが、データがEHA(欧州血液学会)会議で発表された。抗C5抗体による治療に応答しヘモグロビン値が10g/dL以上のPNH患者52人を組入れて、全員Fabhaltaにスイッチし24週投与したところ、ヘモグロビン値が平均2.01g/dL上昇し、輸血は発生しなかった。

    この可逆的B因子阻害剤はヘモグロビン値が10g/dL未満で抗C5抗体に応答不十分、または未治療の、患者を組入れた臨床試験に基づき、23~24年に米欧日で承認された。経口投与(一日二回)できる初のPNH用薬だ。米欧では適応が10g/dL未満に限定されていないが、エビデンスができたのは意義がある。日本では抗C5抗体に十分応答しない患者に使用するよう添付文書に注記されているが、限定解除の道が開けるのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    ソーティクツの乾癬性関節炎適応拡大試験が成功
    (2025年6月11日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブは、アロステリックTYK2阻害剤Sotyktu(deucravacitinib)の第3相乾癬性関節炎、POETYK PsA-1の成績をEULAR(欧州リウマチ学会)で発表した。バイオ薬未経験の患者を偽薬群と6mg一日一回経口投与群に無作為化割付けして16週のACR20を比較したところ、各群34.1%と54.2%となり、奏効率に有意な差があった。3月に発表された、TNF阻害剤歴のある患者も組み入れたPOETYK PsA-2試験(39.4%と54.2%)と似たような結果だ。副次的評価項目のうちPASI75は、夫々、7.1%対51.9%と15.4%対40.9%で、今回の方が差が大きい。今回の試験の深刻有害事象発生率は2.4%対1.8%、有害事象治験離脱率は1.8%と2.4%で両群大差なかった。

    22~23年に米日欧で中重度尋常性乾癬治療薬として承認されている。日本法人は6月に乾癬性関節炎の一変申請したと発表しているが、欧米でも申請されたのではないか。

    リンク: BMSのプレスリリース


    MSD、経口PCSK9阻害剤の第3相が成功
    (2025年6月9日発表)

    MSDはMK-0616(enlicitide decanoate)の第3相試験二本で主目的を達成したと発表した。LDL-C受容体を零落させるPCSK9(プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)を標的とするコレステロール治療薬で、アムジェンのRepatha(evolocumab)などの抗体医薬とは異なり、大環状ペプチド薬で経口投与できる。承認申請に向かうのだろうか?

    一本はCORALreef HeFH。アテローム硬化性心血管疾患を合併またはそのリスクがありスタチン治療を受けているHeFH(ヘテロ接合性家族性高脂血症)の患者に20mg錠または偽薬を一日一回投与し、24週LDL-Cを比較した。統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があったとのこと。もう一本はCORALreef AddOn。類似した内容だが、HeFH以外の高脂血症患者を、20mg錠群、ezetimibe群、ATPクエン酸リアーゼ阻害剤bempedoic acid群、ezetimibe・bempedoic acid併用群に無作為化割付けした。対照3群の何れと比べても統計的に有意且つ臨床的に意味のある差があった。有害事象や深刻有害事象は大差なかった。数値は学会などで発表する。

    デカン酸ではなく塩化物を用いた後期第2相では、6、12、18、30mg各群のLDL-Cが偽薬調整後で41~61%低下した。この試験はスタチンを服用していない患者も組入れており、LDL-Cのベースライン平均値が119.5mg/dLと第3相の組入れ基準上限より高かった。第3相では効果がもう少し低く出ているかもしれない。

    米国の製薬会社は、IRA(インフレ抑制法)に基づき、売上高上位の医薬品を値下げしなければならない。製薬業界は新薬開発の妨げになると反対しているが、MSDも、場合によってはアウトカム試験の結果が出るまでMK-0616を発売しないかもしれないと報じられたことがある。その第3相0CORALreef Outcomes試験の結果は29年11月頃に判明する見込みなので、承認申請が遅くなる可能性もありそうだ。尚、ClinicalTrials.govによると日本は上記2試験には参加していないがアウトカム試験には参加している。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    GSK、iBAT阻害剤をPBCに承認申請
    (2025年6月2日発表)

    GSKはGSK2330672(linerixibat)を原発性胆汁性胆管炎(PBC)における胆汁鬱滞性掻痒症の治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は26年3月24日。欧中日でも年内には承認申請されるのではないか。

    iBAT(回腸胆汁酸輸送体)やナトリウム胆汁酸共輸送体の阻害薬。欧米中日の施設で中重度胆汁鬱滞性掻痒症を伴う238人を組入れた第3相標準療法アドオン試験、GLISTENで、第24週の月間掻痒尺度(WI-NRS、レンジは0~10)が2.86点低下し、偽薬群の2.13点低下と有意な差があった。胃腸有害事象による治験離脱率は各群4%と1%未満で、それほど増えなかった。

    iBAT阻害剤はAlbireo Pharma(Nasdaq:ALBO)のBylvay(odevixibat)やMirum PharmaceuticalsのLivmarli(maralixibat)が米国などで承認されているが、適応はアラジール症候群などで異なる。

    リンク: GSKのプレスリリース


    Jazz、ポリメラーゼII阻害剤を承認申請
    (2025年6月10日発表)

    Jazz Pharmaceuticalsは米国でZepzelca(lurbinectedin)の適応拡大を申請し受理されたと発表した。優先審査を受け審査期限は25年10月7日。

    海洋生物から抗癌活性を持つ物質を発掘しているスペインのPharmaMarから米国の権利を得た、ポリメラーゼII阻害剤で、2020年に米国で治療歴のある転移小細胞性肺癌向けに加速承認された。今回の申請は、ロシュがメイン・スポンサーとなりJazzも資金拠出した第3相IMforte試験に基づくもの。進展型小細胞性肺癌でロシュの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)と化学療法の併用一次治療を受け進行しなくなった患者の維持療法としてTecentriqと併用したところ、メジアン生存期間が13.2ヶ月とTecentriqだけの群の10.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73だった。G3/4治療関連有害事象の発生率は25.6%対5.8%で上回った。

    加速承認時のフェーズIVコミットメントであった第3相化学療法併用試験がフェールし前途が危ぶまれたが、代替策として選ばれた二本の一つであるIMforte試験が成功したことで、本承認切替の道も開けただろう。

    リンク: Jazzのプレスリリース


    esreboxetineは承認申請が受理されず
    (2025年6月9日発表)

    米国ニュー・ヨーク州のAxsome Therapeutics(Nasdaq:AXSM)は、esreboxetineを線維筋痛症治療薬として承認申請したが受理されなかったと発表した。エビデンスとして12週間の固定用量試験と8週間の用量変動試験を一本ずつ提出したが、不十分と見做されたため、年内にもう一本、12週固定用量試験を開始する考え。

    ファルマシアが開発したノルエピネフィリン再取込阻害剤reboxetineのS異性体。reboxetineは97年に欧州で抗鬱剤として承認されたが、米国ではフェールした試験もあったため承認されなかった(英語版Wikipediaにはprovisionally approved by FDAと記されているが、FDAから受領したのはapprovable letter、つまり、承認不可より承認のほうに近いが未だ承認しないという通知である。紛らわしい名称であり、私は、承認可能なら承認すれば良いでしょうと皮肉を書いたことがある)。

    ファルマシアを買収したファイザーはesreboxetineの線維筋痛症試験を成功させたが承認申請はせず、2020年にreboxetineと共に権利をAxsomeにライセンスアウトした。Axsomeは22年に承認申請する考えだったが、23年に遅れ、更に24年に遅れ、結局、3年遅れになった。ClnicalTrials.govには一本しか試験登録されておらず、おそらく、Axsome自身は第3相試験を実施していなかったのだろう。

    リンク: Axsome社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    ブーレンレップは諮問委員会上程へ、
    (2025年6月13日公表)

    GSKが承認申請したBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)が7月17日の腫瘍学薬諮問委員会に上程されることが明らかになった。米国連邦政府官報の6月13日付事前縦覧版に掲載されている。PDUFA(処方薬ユーザー・フィー法)に基づく審査期限は7月23日だが、遅延する可能性が高そうだ。

    多発骨髄腫などで高発現するBCMA(B細胞成熟抗原)を標的とするポテリジェント抗体薬物複合体。20年に難治・再発多発骨髄腫のサルベージ療法として米国で加速承認、EUで条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験がフェールしたため、米国は23年に、EUは24年に、承認取消/失効となった。皮肉なことに、前後して第3相試験が二本成功し、今年5月に日本で初承認、EUでCHMP(医薬品科学的評価委員会)が肯定的意見を纏めたところ。米国でも順調に承認されると思っていただけに、このタイミングで諮問委員会が発表されたのは意外だ。

    治験成績を概観すると、加速/条件付き承認のエビデンスは5次治療における単剤投与試験、DREAMM-2。ORRが31%、その73%は6ヶ月以上持続した。フェールした第3相DREAMM-3試験は、3次治療を受ける患者を組入れて、2.5mg/kgを3週毎投与する便益をpomalidomide・低量dexamethasone群と比較した。PFS(無進行生存期間)のメジアン値は各群11.2ヶ月と7ヶ月と上回ったが、ハザードレシオは1.03で有意差なし。22年当時の発表によると、全生存期間の解析は未成熟だが、メジアン値は21.2ヶ月と21.1ヶ月、ハザードレシオ1.14だった。

    成功したのは一次以上の治療歴を持つ多発骨髄腫を組入れた二本の併用試験。第3相DREAMM-7試験はbortezomib及び低量dexamethasoneと併用する第3の薬としての便益をdaratumumabと比較、同DREAMM-8試験はpomalidomide及び低量dexamethasoneと併用する第3の薬としての便益をbortezomibと比較した。前者は中間解析でPFSを達成、メジアン値は36.6ヶ月と13.4ヶ月、ハザードレシオ0.41、全生存期間は後に目標達成、メジアン値は両群未到達だがハザードレシオは0.58、3年生存率は74%と60%だった。後者も中間解析でPFSを達成、メジアン値は未到達、対照群は12.7ヶ月、ハザードレシオは0.52。24年3月の成功発表時点では全生存期間の解析は未成熟だったが、ハザードレシオ0.77(95%信頼区間0.53-1.14)、1年生存率は83%と76%だった。

    リンク: 米国連邦政府官報(6/13事前縦覧版、日本時間6/14アクセス)


    DMD細胞療法の諮問委員会はキャンセル
    (2025年6月11日発表)

    米国の医薬品開発企業、Capricor Therapeutics(Nasdaq:CAPR)は24年12月に他家cardiosphere由来細胞療法のCAP-1002(deramiocel)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬としてFDAに承認申請し、優先審査を受けている。5月にFDAから諮問委員会上程の可能性を通知され、6月11日に7月30日に開催されることを発表したが、直後にキャンセルされた。上記の、米国連邦政府官報の6月13日付事前縦覧版に掲載された。理由は不明だが、前例では、FDAの見解に納得できず申請内容を見直したり追加エビデンスを取得したりといった、好ましくない出来事が起きていることが多いように感じられる。

    申請のエビデンスは10歳以上の上腕機能の中程度以上の低下を伴う患者20人を組入れた第2相偽薬対照試験。3か月毎に4回点滴静注したところ、上腕機能が偽薬比有意に改善した。このデータと自然歴の対照試験も提出した。第3相は同社のロサンジェルス工場製造品を用いるコフォートが24年第4四半期に盲検解除となったが、サン・ディエゴ工場品のコフォートBが未だだったため結果は公表されていない。タイミング的にはデータが出揃っていても不思議はないので、何か影響しているのかもしれない。但し、6月11日付のプレス・リリースを読む限りでは何か問題が生じたようには思われないが。

    CAP-1002は心筋を含む他家心細胞塊由来の細胞医療製品。エクソソーム(細胞外小胞)が分泌され、炎症・線維化の低減や筋細胞生成を通じて、運動機能や心機能を改善するとされる。日本新薬が欧米における独占販売権を保有している。

    リンク: Capricorのプレスリリース(6/11付)


    経口カリクレイン阻害剤の承認審査が遅延
    (2025年6月13日発表)

    カルビスタ ファーマシューティカルズ(Nasdaq:KALV)はKVD900(sebetralstat)を遺伝性血管浮腫の治療薬として開発し、24年6月に米国で12歳以上の患者向けに承認申請、8月にはEUで申請受理され、今年1月には日本(科研製薬が販売予定)でも承認申請した。米国の審査期限は6月17日だが、4日前にFDAから結果連絡が4週ほど遅延する旨の連絡を受けた。FDA側の仕事量が多く、リソース不足で間に合わない由。効果や安全性に関する懸念は指摘されていない模様。

    経口血漿カリクレイン阻害剤。増悪治療試験で症状改善までの時間が300mg群は1.61時間、600mg群は1.79時間となり偽薬群の6.72時間を大きく下回った。

    リンク: 同社のプレスリリース


    【承認】


    エムレスビアの適応年齢が拡大
    (2025年6月12日発表)

    モデルナは、FDAがRSVワクチンmResviaの適応範囲拡大を承認したと発表した。24年に60歳以上向けに承認されたが、18~59歳でRSウイルスに感染すると重症化するリスクが高い患者にも用いることができるようになった。ACIP(疾病管理予防センターのワクチン接種諮問委員会)は、委員全員が解任される前の4月に、50~59歳の高リスクに接種勧奨するよう勧告済み。

    A型RSVやB型RSVに対する中和抗体価算術平均比が60歳以上を対象とした試験のデータと非劣性だった。同社は優先審査バウチャを用いて、シーズン入り前の承認を獲得した。

    リンク: 同社のプレスリリース


    キイトルーダを頭頚部癌の周術期療法として承認
    (2025年6月12日発表)

    FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)を成人のPD-L1陽性(CPS≧1)切除可能局所進行(ステージIII-IVA)の頭頚部扁平上皮腫(HNSCC)に適応拡大した。エビデンスとなる第3相KeyNote-689試験でCPS≧1のサブグループはEFS(無イベント生存期間、盲検独立中央評価)のメジアン値が59.7ヶ月とKeytrudaを用いなかった群の29.6ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.7だった。全生存期間は未成熟だが、悪い傾向は見られていない。

    この試験はPD-L1を発現していない患者も組み入れて、CPS≧10サブグループ、CPS≧1サブグループ、全集団の3カテゴリーにおける便益を検討した。EFSのハザードレシオは、夫々、0.66、0.70、0.73だった。解析順位はCPS≧10が一番のように思えるが、FDAは1を閾値とした。

    治験では200mgを3週サイクルで、切除術前は2サイクル、術後は放射線療法(高リスク患者はcisplatin併用可)とともに3サイクル、その後は単剤を12サイクル、施行した。FDAは400mg6週毎投与も認めた。

    この適応拡大は日本でも3月に申請された。

    リンク: FDAのプレスリリース


    膀胱内注入用マイトマイシンが膀胱癌に承認
    (2025年6月12日発表)

    FDAはUroGen Pharma(Nasdaq:URGN)のZusduri(mitomycin)を成人の再発性LG-IR-NMIBC(低グレード中等度リスク筋層非浸潤膀胱癌)に承認した。75mg/56mLを週次で6回、膀胱内に点滴注入する。注入後15分でゲル化し、数時間に亘り薬剤を放出する。TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)後に再発した患者240人を組入れた単群試験で、第3月完全反応率が78%、その79%は反応が12ヶ月以上持続した。深刻有害事象の発生率は12%だった。

    5月の諮問委員会では、既存のエビデンスだけでは便益が危険を上回るとは言えないと判定した委員が9人中5人と意見が分かれた。TURBT併用試験が資金不足により途中中止され、上記単群試験だけが主エビデンスであることが響いたようだ。

    同社は類薬であるJelmyto(mitomycin)も20年に成人の低グレード上部尿路上皮癌に承認された。腎盂造影で薬剤が満たされるのを確認するまで注入を続ける用法なので、膀胱癌に関しては今回のほうが簡便だ。

    リンク: FDAのプレスリリース


    Nuvation社のROS1阻害剤が承認
    (2025年6月11日発表)

    FDAはNuvation Bio(NYSE:NUVB)のIbtrozi(taletrectinib)を局所進行/転移ROS1陽性非小細胞性肺癌用薬として承認した。空腹時に600mgを一日一回、経口服用する。中国で行われたTRUST-I試験と日韓中米のTRUST-II試験でROS1チロシン・キナーゼ阻害剤未治療の患者におけるORR(客観的反応率、独立中央評価)が各90%と85%となり、夫々、反応者の72%と63%は12ヶ月以上持続した。一剤だけ治療歴のある患者では各52%と62%となり、夫々74%と83%は6ヶ月以上持続した。警告注意事項は肝毒性、間質性肺疾患/肺臓炎、QTc延長など。

    24年に合併したAnHeart Therapeuticsが18年に第一三共からライセンスたもの。中国ではライセンシーのInnovent Biologicsが24年12月に承認を取得した。

    リンク: FDAのプレスリリース


    MSD、RSV予防薬が承認
    (2025年6月9日発表)

    MSDはFDAがEnflonsia(clesrovimab-cfor、開発コードMK-1654)をRSウイルス(RSV)による下部気道感染症の予防薬として承認したと発表した。アストラゼネカが開発しサノフィが販売しているBeyfortus(nirsevimab)と同様な抗RSV-F蛋白抗体だが、結合部位が異なるようだ。適応になるのは最初のRSVシーズンを迎える新生児と乳幼児。105mgを一回、筋注する。第3相試験で投与後150日間の発症リスクが偽薬比60%小さく、RSV関連入院リスクは84%小さかった。

    Beyfortusは2回目のRSVシーズンを迎える幼児でも、早産児や心臓や肺の慢性疾患などを持ちRSV感染時に重症化するリスクがあれば用いることができる。MSDが初年度に絞ったのは、2年目の需要は小さいと考えたのだろうか?

    Enflonsiaは6月25~27日のACIP(米疾病管理予防センターのワクチン接種諮問委員会)に上程される模様。委員が総入れ替えになり、ワクチンに必ずしも前向きでない現政権下で、どのような人選、どのような議論が行われるのか、心配だ。

    リンク: MSDのプレスリリース


    FDA、胃癌や食道癌における抗PD-1抗体の適応範囲を見直し
    (2025年5月22-23日)

    FDAは、ブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)とMSDのKeytruda(pembrolizumab)の胃癌や食道癌における一部の適応範囲を見直し、PD-L1陽性のみに限定した。大盤振る舞い感があったが合理的な線に落ち着いた。

    Opdivoは、まず、21年4月に加速承認された、進行/転移性の胃癌、胃食道接合部癌、食道腺腫における化学療法併用一次治療。エビデンスであるCheckMate-649試験の後顧的解析でPD-L1発現検査の指標の一つであるCPSが1未満のサブグループにおける全生存期間のハザードレシオが0.85となり、統計的に有意ではなかった。1以上のサブグループでは0.77で有意だった。

    この試験は元々、サブグループ分析の閾値を1ではなく5としている。EUは21年10月に適応拡大を認めたが、対象はCPS≧5に限定された。日本はPD-L1限定していないが、添付文書記載のサブグループデータを見ると5未満の患者に有効であるようには感じられない(但し、FDAが用いたデータは若干異なっている)。

    次に、切除不能進行/難治/転移性の食道扁平上皮腫における化学療法またはYervoy(ipilimumab)併用一次治療。PD-L1陽性に限定された。CheckMate-648試験の後顧的解析で化学療法併用群の全生存期間のハザードレシオがCPSが1未満のサブグループでは0.98、1以上では0.69となり、Yervoy併用群対化学療法群の比較でも、各1.0と0.76で対照的だったため。

    EUは22年にPD-L1陽性に限定して承認している。日本は限定していないが添付文書に載っているデータを見れば陰性に有効とは感じられない。

    Keytrudaも概ね同様な適応縮小が行われた。her2陰性の局所進行切除不能/転移性胃・胃食道接合部腺腫における化学療法併用一次治療はPD-L1陽性(CPS≧1)のみに限定。EUは23年にCPS≧1限定で承認。日本は限定していないがサブグループ・データを見れば有望とは思わないだろう。

    転移/局所進行・化学放射線療法不適な食道・胃食道接合部腫瘍における化学療法併用一次治療も陽性(CPS≧1)に限定。EUは21年にCPS≧10に限定して承認、日本は限定しておらず、サブグループ・データが記されていないのでCPS10未満における有効性を知ることができない。エビデンスであるKeyNote-590試験における全被験者の全生存期間ハザードレシオは0.73だが、米国のレーベルによると、CPS≧10のサブグループでは0.62(95%信頼区間0.49-0.78)、10未満の後顧的解析では0.86(同0.68-1.10)と明暗が分かれた。FDAが独自解析したCPS≧1サブグループでは0.71(0.59-0.84)だった。1未満の数値は掲載されていないが、昨年9月の腫瘍学薬諮問委員会でFDAが示したデータは1.00だった。

    FDAがなぜ閾値を1にしたのか明らかではないが、おそらく、Opdivoや、上記諮問委員会で議論され今年3月に承認されたBeone(百済神州)の抗PD-1抗体Tevimbra(tislelizumab-jsgr)と平仄を合わせたのだろう。

    リンク: FDAのBMS宛て変更承認通知(5/23付)
    リンク: 同、MSD宛て変更承認通知(5/22付)

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)
    25/6/19ギリアドのlenacapavir(HIV曝露前予防)
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/20Regeneron社のDupixent(dupilumab、水疱性類天疱瘡を追加)
    25/6/27SOBIのGamifant(emapalumab-lzsg、Still病における血球貪食リンパ組織球症/マクロファージ活性化症候群)
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7推Dizal PharmaceuticalのDZD9008(sunvozertinib、Ex20ins NSCLC)
    25/7/10Regeneron PharmaceuticalsのREGN5458(linvoseltamab、多発骨髄腫)
    25/7/12第一三共のDS-1062(datopotamab deruxtecan、EGFR陽性NSCLC)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
    諮問委員会
    25/7/17ODAC:GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)



    今週は以上です。