2025年8月2日

第1128回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • トランプ大統領、製薬会社17社に値下げ要請 
  • FDAがElevidysの再出荷を認可、CBERヘッドが退任 
  • マンジャロ、心血管アウトカム試験でトルリシティと非劣性 
  • リンヴォックの円形脱毛症試験が成功 
  • JAK1阻害剤ジセレカのaxSpA試験が成功 
  • ジャイパーカのCLL/SLL試験が成功 
  • 汎PI3K・mTORC1/2阻害剤の第3相が成功 
  • GSK、抗TIM-3抗体の第3相がフェール 
  • ベネクレクスタ・カルケンス併用を承認申請 
  • トレムフィアの関節損傷抑制作用を効能追加申請 
  • イミフィンジを胃・GEJ癌に適応拡大申請 
  • 皮下注用ダラザレックスの適応拡大申請が審査完了に 
  • Regeneron社、複数の承認申請が審査完了に 
  • ノボ、アレモが米国でもインビビター保有限定の解除 
  • 新規老視治療薬が承認 
  • PTC社のPKU用薬が承認 
  • エムパベリがC3腎症などに適応拡大 
  • FDA、クラトムを高量含有する商品の麻薬指定を推奨 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


トランプ大統領、製薬会社17社に値下げ要請
(2025年7月31日発表)

米国連邦のトランプ大統領は大手製薬会社17社に書簡を送付し、米国の医薬品価格を主要国で最低水準にするために果たすべき行動を通知した。60日以内に回答するよう求めている。拒否された場合は連邦政府のあらゆる手段を通じて米国家族を守る由。最初にぶち上げて、相手の出方によっては譲歩するという、いつものやり口のようだ。関税交渉のパターンで言えば、双方が譲歩することによって、政府側も、相手側も、成果を国民(株主)にアピールする(アメリカには朝三暮四という言葉がないのだろう)。

米国の薬価は日本やEUと比べて高い。トランプ大統領は第一次政権でも是正を図ったが実現しなかった。第二次政権では、5月に最恵国(MFN)待遇を求める大統領令を発出したが、薬品製造者との協議で十分な進捗が見られなかったため、次の段階に進んだ。要求事項は、

  • 全メディケイド患者にMFN価格を提供する
  • 他の先進国で新薬の価格を米国より割安にしない
  • 患者に直接販売する手段を用意する(MFN価格を上回らないことが条件)
  • 製薬会社が海外で値上げするのを政府が支援する(収入増加を値下げなどの手段で米国に還元することが条件)

  • 書簡送付先は、アッヴィ、アムジェン、アストラゼネカ、ベーリンガー・インゲルハイム、ブリストル マイヤーズ スクイブ、イーライリリー、EMDセラノ、ジェネンテック、ギリアド・サイエンシズ、GSK、ジョンソン エンド ジョンソン、メルク(北米外ではMSD)、ノバルティス、ノボ ノルディスク、ファイザー、Regeneron Pharmaceuticals、サノフィ。

    リンク: ホワイトハウスの関連ファクト・シート


    FDAがElevidysの再出荷を認可、CBERヘッドが退任
    (2025年7月28日発表)

    Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)が開発し米国外ではロシュ/中外製薬が開発販売しているElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)は、FDAが急転直下、出荷再開を認めた。前後してCBER(FDAの生物学的製剤担当部門)のヘッド退任が判明したため、何らかの関係があるのではないかと報じられている。

    Elevidysは、Peter Marks(M.D., Ph.D.)がFDAのCBER(生物学的製剤評価研究センター)のヘッド(director)であった頃に担当部署の評価を覆して23年に加速承認した、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝子療法。24年にはFDAがフェールした市販後薬効確認試験に基づいて本承認し、この試験で対象外とされた8歳以上の患者や歩行不能な患者にも、夫々、本承認、加速承認した。ところが、今年は波乱万丈で、まず、トランプ政権と対立したMarks博士がFDAを去り、Elevidysに批判的な意見を表明していたVinayak Prasad(M.D., M.P.H.)が後任に選ばれた。

    そこに、Elevidys投与患者二人が肝障害により死亡したことが判明した。どちらも、日本では承認されていない8歳以上の歩行不能な患者だった。FDAはSareptaに自発的出荷停止をリクエスト。Sareptaは歩行可能な患者までストップすることに一旦は拒否したが、週明けに停止した。ところが、数日後にFDAが自発的出荷停止を解除するよう推奨した。ブラジルで報告された死亡例はElevidysが原因とは考えられないから、という理由だが、最初の出荷停止要請は米国の2例が発端であるはずなので、話が繋がらない。

    各種報道がこの急転をPrasad博士の退任と関連付けている。5月にCBERのヘッドに選任され6月にはChief Medical and Scientific Officerという新設の役職を兼任と、トランプ政権下のFDAのキー・パーソンだったので、意外な展開だ。理由は明らかではないが、以前から加速承認制度に懐疑的な意見を表明していたことなどに大統領の一部の有力支援者が猛反対していることや、承認可能通知が陸続したことなどが契機と報じられている。

    Martin Makary(M.D., M.P.H.)がFDA長官に就任して以来、位置付けが良く分からないパネル討議が開催されたり、不透明な動きが相次いでいるが、また一つ謎が増えた。

    図表:Elevidysを巡る動き
    22年9月米国で承認申請
    23年5月米国申請後に組織改正で担当移管した部署が諮問委員会を開催、支持8人、反対6人。
    23年6月FDAが加速承認。担当部署の反対をCBERのヘッドが覆す。
    23年10月市販後薬効確認試験で主評価項目(NSAA)がフェール。
    24年6月加速承認を本承認に切替(諮問委員会は招集せず)、第3相の対象ではない8歳以上にも歩行不能者にも加速承認。
    同月欧州で条件付き承認を申請
    24年8月日本で承認申請
    25年3月米国の歩行不能な16歳男子DMD患者が急性肝障害を経て死亡
    25年5月条件付き且つ期限付き承認
    25年6月米国の歩行不能な15歳男子DMD患者が急性肝不全を経て死亡。Sareptaが歩行不能者に対する投与停止を決定。
    25年7月:
    16日SareptaがFDAと枠付き警告で合意と発表
    17日Elevidysと同じAAVrh74ベクターを用いた肢帯型筋ジストロフィー向け開発品の臨床試験で6月に51歳男性が肝不全で死去していたことが判明。
    18日FDAが自発的出荷停止を要求もSareptaが拒否
    21日一転してSareptaが米国で自発的一時的出荷停止。ロシュが米国承認に基づき承認された一部国で出荷停止。
    24日ブラジルの当局が出荷等の一時停止を決定。米国2症例が動機だが、ブラジルでも6月に8歳の歩行可能患者が死亡していたことを公表。但し、報告医は重度インフルエンザ感染症によるunrelatedなものと評価。
    24日CHMPが月例会議でElevidysの承認に否定的意見
    25日FDAがブラジルの死亡例を検討中と発表
    28日FDAが歩行可能なDMDに関する自発的出荷停止の解除を推奨
    出所:各種資料より作成

    リンク: FDAのプレスリリース(出荷停止解除推奨、7/28付)
    リンク: MedPageの記事(Prasad退任、7/30付)

    【新薬開発】


    マンジャロ、心血管アウトカム試験でトルリシティと非劣性
    (2025年7月31日発表)

    イーライリリーはGIP/GLP-1受容体アゴニストMounjaro(tirzepatide)の心血管アウトカム試験、Surpass-CVOTの結果を明らかにした。日本を含むグローバルな施設でアテローム硬化性心血管疾患を合併する二型糖尿病患者13,299人を組入れて、MACE-3(心血管死、非致死的心筋梗塞、または非致死的脳卒中)のリスクを同社のGLP-1作用剤Trulicity(dulaglutide)と比較したところ、非劣性だった(ハザード・レシオは0.90、95.3%信頼区間0.83-1.01、非劣性マージンは1.05)。優越性検定はフェールした。

    副次的評価項目の3年体重減少率(各群12%と5%)やA1c低下(1.7%対0.9%)はアルファ調整前で有意、全死亡はハザード・レシオ0.84、95%信頼区間0.75-0.94)だった。有害事象による離脱率は各群13%と10%。9月のEASD(欧州糖尿病学会)で詳細を発表し、年内にレーベル追加申請を行う考え。

    Trulicityは偽薬対照のREWIND試験で主評価項目のMACE-3の優越性ハザード・レシオが0.88、95%信頼区間0.79-0.99だった。この二本からMounjaroの偽薬比ハザード・レシオを単純計算すると0.88 x 0.90=0.79程度となる。

    競合するノボ ノルディスクのOzempic(semaglutide)がSUSTAIN 6で示した優越性ハザード・レシオ0.74は凌げなかったことになるが、異なった試験のデータを掛け算するのは禁じ手である。

    リンク: イーライ・リリーのプレスリリース


    リンヴォックの円形脱毛症試験が成功
    (2025年7月30日発表)

    アッヴィはJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)を重度円形脱毛症の治療に当てた第3相試験のうち、一本で主目的を達成したと発表した。もう一本は第3四半期に結果判明する見込み。

    この日本も参加したUP-AA試験は12~64歳の重度円形脱毛症患者(二本合わせて1399人)を偽薬群、15mg群、30mg群に無作為化割付けして24週間治療し、SALT(Severity of Alopecia Tool)スコアが20以下(評価対象エリアの80%以上で毛が生えている)になった患者の比率を比較した。SALTのベースライン平均値は83.8。

    結果は、各群3.4%、44.6%、54.3%だった。有害事象は承認用途と同様。本試験では主要心血管有害事象や腫瘍、死亡は発生しなかった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    JAK1阻害剤ジセレカのaxSpA試験が成功
    (2025年7月28日発表)

    イタリアのAlfasigmaは、Jyseleca(filgotinib)が第3相OLINGUITO試験で主目的を達成したと発表した。EUや英国で適応拡大申請する考え。

    日欧などで難治性のリウマチ性関節炎や潰瘍性大腸炎の治療に承認されているJAK1阻害剤。Galapagos(Euronext: GLPG)がアボットや後にはギリアド・サイエンシズと共同開発したが、米国では追加試験を求められ、提携解消を経て、事業をAlfasigmaに譲渡した。JAK阻害剤は心血管疾患や感染症、腫瘍のリスクが高まる可能性があり、禁忌や適応制限、減量などの措置が導入されているが、Jyselecaはラットや犬の試験で臨床用量の数倍の量で精子異常が見られたため、FDAが精巣安全性試験を求めた経緯がある。

    今回の試験は、従来薬または生物学的製剤に十分応答しないaxSpA(体軸性脊椎関節炎)を組入れて偽薬または200mg(承認用途と同じ)を一日一回、経口投与し、16週後のASAS40の変化を比較した。X線で異常が確認できるr-axSpA258人でも、確認されないnr-axSpA237人でも、効果が見られた。

    この試験は、心血管リスクを持たない患者は52週の延長試験を経て100mg群と200mg群に無作為化割付けしてさらに追跡する。65歳以上と心血管リスクを持つ患者は16週経過後に100mgにスイッチして更に追跡する。長期試験で上記リスクを確認する考えだろう。リスクや緩和方法を検討せず漫然と販売し続けるよりよっぽど良心的だ。

    リンク: 同社のプレスリリース(BusinessWire)


    ジャイパーカのCLL/SLL試験が成功
    (2025年7月29日発表)

    イーライリリーは、非共有結合性BTK阻害剤Jaypirca(pirtobrutinib)の第3相BRUIN CLL-314で主目的を達成したと発表した。今年後半に結果が判明する同313試験の結果と合わせて、グローバルに適応拡大申請する考え。

    314試験はBTK阻害剤歴を持たないCLL/SLL(慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫)におけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)をジョンソン エンド ジョンソンのBTK阻害剤Imbruvia(ibrutinib)と比較するもの。BTK阻害剤以外の治療歴を持つサブグループでも、初治療を含むintent-to-treatベースでも、非劣性解析が成功した。優越性の名目p値は0.05を下回った。副次的評価項目のPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)は未成熟だが、特に初治療225人において、好ましい数値が出ているようだ。公式な優越性解析が予定されている。全生存期間が悪化する様子は見られなかった。

    313試験は未治療患者だけを組入れて化学免疫療法と比較するもの。主評価項目はPFS(同)。

    BTK阻害剤はORRやPFSが必ずしも延命効果に繋がるとは限らない。314試験はBTK阻害剤同士の比較なので何とも言えないが、313試験は全生存期間の解析結果が将来の注目点になりそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    汎PI3K・mTORC1/2阻害剤の第3相が成功
    (2025年7月28日発表)

    ミネアポリス(米国)の医薬品開発企業、Celcuity(Nasdaq:CELC)は、gedatolisibの転移乳癌二次治療薬としての便益を検討した第3相VIKTORIA-1試験で主目的を達成したと発表した。今年第4四半期に承認申請する考え。

    ワイス時代からの開発品をファイザーからライセンスした、PAM(PI3K/Akt/mTOR)パスウェイ阻害剤。川上に位置するPI3Kのクラス1アイソフォーム4種類全てを阻害すると共に、川下のmTORC1とmTORC2も阻害してエスケープを抑制する。第3相は欧米アジアの施設で成人のホルモン受容体陽性、her2陰性の局所進行/転移乳癌で、アロマターゼ阻害剤・CDK4/6阻害剤併用治療に不応/再進行した患者を組入れて、PIK3CA遺伝子に変異を持つ変異型コフォートと持たない野生型コフォートのそれぞれにおける効果をオープン・レーベルで検討した。

    今回成功したのは野生型コフォートの解析。fulvestrant群、fulvestrantとgedatolisibの二剤併用群、fulvestrant、palbociclib、そしてgedatolisibの三剤併用群のPFS(無進行生存期間、独立中央評価)がメジアンで2.0ヶ月、7.4ヶ月、9.3ヶ月となり、二剤併用群はfulvestrant比ハザード・レシオ0.33(95%信頼区間0.24-0.48)、三剤併用群は同0.24(同0.17-0.35)と、大変良い結果が出た。

    変異型コフォートはfulvestrant、palbociclib、及びgedatolisibの三剤併用の便益をfulvestrantとノバルティスのPI3Kアルファ阻害剤alpelisibの二剤併用と比較するとともに、組入れがこの二群の1/3なので参考群という位置付けなのだろうがfulvestrant・gedatolisib併用群も設定されている。25年末に結果が判明する見込み。

    リンク: 同社のプレスリリース(GlobeNewswire)



    (2025年8月1日発表)

    ニューヨーク(米国)の未上場医薬品開発会社、Spine BioPharmaは、SB-01が第3相腰椎椎間板変性症(DDD)試験で主目的を達成しなかったことを公表した。一部施設で大きな偽薬効果が見られるため除外して集計すると有意にあと一歩になるため、規制当局と承認申請に向けて相談する考え。

    TGFベータを阻害する、アミノ酸7個の合成ペプチド。09年に韓国Ensol BiosciencesからライセンスしたYuhan CorporationがYH14618として韓国でDDDの第2相試験を実施したが、開発を断念。18年にSpine社が韓国外での開発商業化権をYuhamから取得し、24年には脊椎関連以外の疾患における権利もEnsolから取得している。

    今回のMODEL試験は米国の施設でDDDによる慢性疼痛の417人を1.5mLを椎間板に一回注射する群とシャム群に無作為化割付けして、第6月の複合的奏効率を比較した。奏功の定義は、疼痛のNRS(数値評価尺度)が2点以上改善、且つ、Oswestry Disability Index(ODI:疼痛関連機能障害の尺度)が15点以上改善。試験薬群は67%と意味のある改善を見た、シャム群の数値は未公表。シャム群の複合的奏効率が想定範囲内だった施設だけの解析(n=227)では各群70%と59%でp=0.051だった。

    副次的評価項目であるODIだけの解析は試験薬群が75%、シャム群は非公表、有意ではなかった。上記事後的サブグループ分析では79%対69%、p=0.04だった。安全性は良好だった。

    Yuhanの試験成績はClinicalTrials.govに収載されていない。

    リンク: Spine社のプレスリリース(Business Wire)


    GSK、抗TIM-3抗体の第3相がフェール
    (2025年7月30日発表)

    GSKは、25年第2四半期決算発表に際して、GSK-4069889(cobolimab)の第3相COSTAR試験がフェールしたことを明らかにした。詳細は不明。この試験はPD-(L)1阻害剤と化学療法による治療歴を持つ非小細胞性肺癌を対象に、docetaxelに同社の抗PD-1抗体Jemperli(dostarlimab-gxly)を単独でまたはcobolimabと合わせて追加する便益を検討したもの。主目的の全生存期間延長を達成できなかった。

    免疫イフェクター細胞などで発現する免疫チェック・ポイント、TIM-3(T cell immunoglobulin and mucin domain 3)を阻害する抗体。19年に買収したTesaroが14年にAnaptysBioから導入した。TIM-3阻害は抗PD-(L)1抗体と補完的な免疫増強効果が期待される作用機序の一つだが、最初に第3相入りしたノバルティスのMBG453(sabatolimab)は多発骨髄腫試験がフェールし開発中止となった。

    リンク: GSKのプレスリリース

    【承認申請】


    ベネクレクスタ・カルケンス併用を承認申請
    (2025年7月29日発表)

    アッヴィは、bcl-2阻害剤Venclexta(venetoclax)をアストラゼネカのBTK阻害剤Calquence(acalabrutinib)と併用で未治療慢性リンパ性白血病に用いる適応拡大を米国で申請したと発表した。アストラゼネカのスポンサーで実施された第3相AMPLIFY試験でPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)が標準療法である化学免疫療法群(fludarabine、cyclophosphamide、rituximabのFCRレジメン又はbendamustineとrituximabのBRレジメン)を有意に上回った。

    アストラゼネカは欧州で6月に承認取得。当試験の標準療法群は米国では標準ではないという意見があるため気になっていたが、アッヴィと同日に行われた今期第2決算発表に際して、米国でも適応拡大申請したことが発表された。

    リンク: アッヴィのプレスリリース


    トレムフィアの関節損傷抑制作用を効能追加申請
    (2025年7月29日発表)

    ジョンソン エンド ジョンソンのTremfya(guselkumab)は20年に欧米で成人の活性期乾癬性関節炎に適応拡大しているが、関節損傷抑制試験の成功を受けて、米国で効能追加申請を行った。後期第3相のAPEX試験で8週毎または4週毎皮下注を24週間反復したところ、vdH-S(PsA modified van der Heijde-Sharp・・・骨びらんと関節裂隙の狭小化を評価する尺度)の変化が各群0.54と0.55となり、共に偽薬群の1.35を有意に下回った。抗IL-23抗体で関節損傷抑制作用が確認されたのは初。

    リンク: JNJのプレスリリース


    イミフィンジを胃・GEJ癌に適応拡大申請
    (2025年7月28日発表)

    アストラゼネカは抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab)を米国で切除可能なステージII、III、IVA胃・胃食道接合部癌に適応拡大申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は今年第4四半期。EUや日本などでも申請中。

    第3相MATTERHORN試験に基づくもので、摘出術の前後にFLOT(fluorouracil、leucovorin、oxaliplatin、docetaxelの併用レジメン)を2回ずつ施行する周術期療法にImfinziを術前2回、術後は12回追加したところ、中間解析でEFS(無イベント生存期間)がFLOTだけの群を上回り、ハザード・レシオは0.71だった。全生存期間のハザード・レシオも34%到達時点の中間解析で0.78、p=0.025と、割当てられたアルファ(0.0001)には及ばないものの好ましい方向を指していた。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    皮下注用ダラザレックスの適応拡大申請が審査完了に
    (2025年8月1日発表)

    ジョンソン エンド ジョンソンはDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)を造血幹細胞移植を受けない未治療多発骨髄腫に適応拡大申請し、EUでは4月に造血幹細胞移植限定が解除されたが、米国は審査完了通知を受領した。FDAの工場査察時に何らかの指摘事項があった模様。薬効や安全性に関わるものではなく、承認用途において供給問題は発生していないとのこと。

    この皮下注用抗CD38抗体は、VRdレジメン(bortezomib、lenalidomide、及びdexamethasone)に追加する便益を検討したCEPHEUS試験で、主目的の全般的微小残存病変(MRD)陰転率(感度:10万分の1)が60.9%と、VRd群の39.4%を有意に上回った。PFSのハザードレシオも0.57で統計的に有意だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Regeneron社、複数の承認申請が審査完了に
    (2025年8月1日発表)

    Regeneron PharmaceuticalsもFDA査察絡みで複数の承認申請が審査完了になってしまったことを第2四半期決算発表リリースの中で公表した。何れも、ノボ ノルディスクが子会社化したCatalentの充填施設における問題がボトルネックになった。同じようなことが以前にもあったことが気にかかる。同社は委託先変更も検討しているようだ。

    一つは、硝子体注射用抗VEGF抗体Eylea HDに関わるもので、適応拡大(網膜静脈閉塞症における黄斑浮腫糖尿病性網膜症)、全適応における維持期4週毎投与(頻度引き上げ)、そしてプリフィルド・シリンジの投入(2mg製剤と異なりシリンジしかない)。FDAがCatalent Indianaを査察した時の指摘事項が原因で解消まで承認お預けとなった。22年に一部の適応で維持期の投与頻度に12週毎または16週毎を追加すべく申請した時も、優先審査バウチャを用いて迅速承認を図ったが、Catalentの充填施設における指摘事項が原因で承認が2ヶ月遅れた。

    もう一つは抗CD20xCD3バイスペシフィック抗体REGN1979(odronextamab)。難治再発濾胞性リンパ腫とびらん性大細胞型B細胞リンパ腫の3次治療薬として23年に承認申請したが、一巡目は市販後薬効確認試験の進捗がFDAの期待ほど進捗していなかったため、審査完了通知を受領した。今年2月に再申請が受理されたが、Catalentのせいで、再び審査完了に終わった。尚、EUでは24年8月にOrdspono名で条件付き承認されている。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    ノボ、アレモが米国でもインビビター保有限定の解除
    (2025年7月31日発表)

    ノボ ノルディスクはFDAがAlhemo(concizumab-mtci)を12歳以上のインヒビターを持たないA型/B型血友病の予防的投与に用いることを承認したと発表した。第3相explorer8試験でA型血有病患者が特発的/外傷性出血の治療を受けるリスクが出血時投与群と比べ0.14(86%小さい)、B型患者では0.21だった。日本では昨年6月に承認、欧州では7月にCHMPで肯定的意見を得た(但し、A型は重度、B型は中重度の患者のみ)。

    AlhemoはTFPI(組織因子経路インヒビター)に対する抗体医薬。23~24年に日米欧でインヒビターを持つA型/B型血友病に承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    新規老視治療薬が承認
    (2025年7月31日発表)

    米国カリフォルニア州の眼科薬開発会社、LENZ Therapeutics(Nasdaq:LENZ)は、FDAがVizz(aceclidine 1.44%点眼液)を成人の老視治療薬として承認したと発表した。第3相試験二本で、近見視力を改善し遠見視力を悪化させない作用を示した。第3相は一日一回投与だったが、2分おいて二回投与する用法で承認された。警告注意事項は一時的な霞目、瞳孔縮小剤で稀に報告される網膜裂孔・網膜剥離、虹彩炎。第4四半期に発売する予定。

    活性成分は欧州などで緑内障治療薬として承認されているアセチルコリン受容体アゴニスト。米国では初承認で、老視に承認されたのは世界初。瞳孔収縮作用によりピンホール効果が生まれ老眼が改善する。

    リンク: 同社のプレスリリース


    PTC社のPKU用薬が承認
    (2025年7月26日発表)

    PTCセラピューティクスはFDAがSephience(sepiapterin)を小児・成人のフェニルケトン血症(PKU)用薬として承認したと発表した。EUでは6月に承認、日本でも1月に承認申請されている。

    既存のPKU用薬であるバイオマリンのKuvan(sapropterin)は、患者が欠乏するフェニルアラニン水酸化酵素のコファクター、BH4(テトラヒドロビオプテリン)の類縁体だが、SephienceはBH4の前駆体であるセピアプテリンを合成したもの。どちらも経口剤。

    リンク: PTC社のプレスリリース


    エムパベリがC3腎症などに適応拡大
    (2025年7月28日発表)

    Apellis Pharmaceuticals(Nasdaq:APLS)はFDAがEmpaveli(pegcetacoplan)を12歳以上のC3腎症と原発性IC-MPGN(免疫複合体膜性増殖性糸球体腎炎)に適応拡大したと発表した。C3補体阻害剤で皮下注用製剤が米欧日でPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)などに、硝子体注射用製剤Syfovreが米国で加齢黄斑変性の地図状萎縮に、承認されている。今回の疾患は米国で5000人、欧州で8000人が罹患と推定される希少疾患。臨床試験で蛋白尿が偽薬比68%少なくなった。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    FDA、クラトムを高量含有する商品の麻薬指定を推奨
    (2025年7月29日発表)

    FDAは7-hydroxymitragynine(略称7-OH)を規制物質法に基づく規制の対象とするようDEA(麻薬取締局)に推奨したと発表した。DEAは9年前に最も厳しいスケジュール1指定することを検討したが、世論の反対を経て断念した経緯がある。トランプ政権下の揺り戻しの一つだ。

    7-OHはクラトムという植物の葉に微量含まれる成分。薬としても食品添加物としても承認されていないが、ネットやガソリン・スタンド、たばこ代用品販売店などで高量を含有するグミやアイスクリーム・コーンなどが、適切な表示なしに、販売されているとのこと。FDAによると、薬物依存、離脱症状、不眠、不安、癲癇、致死的呼吸抑制などのリスクがあり、有害事象報告が増加している。FDAは6月に7社に警告状を発出したが、今回、DHCPレター(医療従事者向け通知)を発出して注意を呼び掛けた。

    DHCPレターの中で、Makary FDA長官は、2000年代に依存リスクが高いことに気付かないまま通常の施術にオピオイドを何度も処方していたことを思い出すのは、他の多くの医療従事者と同様に自分にとっても、辛いことと述懐している。意見が分かれる中で今回のアクションを取った背景の一つなのだろう。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/8推ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
    25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
    25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)
    25/8/18Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ)
    25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
    25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
    25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
    25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
    25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
    25/9推バイエルのKerendia(finerenone、心不全追加)
    25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
    25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
    25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
    25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
    25/9/23MSDのKeytruda sc(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
    25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
    25/9/25OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症)
    25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)




    今週は以上です。

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