2019年5月5日

2019年5月5日号

【ニュース・ヘッドライン】

  • GSKのテリルジー、レルベアより効果が些か高い 
  • JNJ、アーリーダを転移性去勢感受性前立腺癌にsNDA 
  • 月一回注射のHIV/AIDS治療レジメンが承認申請 
  • 注射用ホスホマイシンは審査完了に 
  • サノフィのデング熱ワクチンが米国でも承認 
  • FDA、ベンゾザイアゼピン系睡眠薬三剤の副作用警告を強化 


【新薬開発】


GSKのテリルジー、レルベアより効果が些か高い
(2019年5月2日発表)

グラクソ・スミスクラインとInnoviva(Nasdaq:INVA)は、Trelegy Ellipta(和名テリルジー エリプタ)の第三相CAPTAIN試験の結果を発表した。Trelegyは吸入コルチコイドfluticasone furoateと長時間作用性ムスカリン受容体拮抗剤umeclidinium、そして長時間作用性ベータ2作用剤vilanterolの固定用量合剤で、17年に欧米で、今年3月には日本でも、COPD治療薬として承認された。

CAPTAIN試験は管理不良喘息症に対する効果を同社のBreo Ellipta(和名レルベア エリプタ、欧州名Relvar Ellipta)と比較した。Breoはfluticasone furoateとvilanterolの合剤で、日米欧でCOPDや喘息症に承認されている。従って、この試験は喘息症における三剤併用の意義を二剤併用と比較するとともに、Trelegyの喘息症における承認取得を企図したものと推測される。

結果は、24週後のFEV1(1秒量)トラフ値が高用量群(各活性成分を200/62.5/25mcg配合)はBreoの高用量(100/25mcg)より92mL大きく、低用量群(100/62.5/25mcg)はBreo低用量(100/25mcg)より110mL大きかった。どちらも統計的に有意。

一方、二次的評価項目である中重度喘息発作(年率、Trelegy二群合計とBreo二群合計の比較)は13%減少に留まり、有意水準に届かなかった。

こうしてみると、三剤併用と二剤併用の効果の差はそれほど大きくなく、特に、高用量における限界効用は小さいように感じられる。

喘息症のステップアップセラピーを行う場合、二剤併用で発作を十分防げないなら三剤併用に進み、発作を十分防げるようになったら二剤併用にステップダウンを検討することになる。三剤併用と二剤併用は出番が違うので比較してもあまり意味がない。Trelegyの本来の出番である、二剤併用では足りない患者を組入れた試験を行わないと真価を知ることはできないが、承認を取るためには、今回のような勝って当たり前の試験をやらざるを得ないのだろう。

リンク: GSKのプレスリリース


【承認申請】


JNJ、アーリーダを転移性去勢感受性前立腺癌にsNDA
(2019年4月29日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセン・ファーマシューティカルは、Erleada(apalutamide、和名アーリーダ)を転移性去勢感受性前立腺癌に用いる適応拡大をFDAに申請した。アンドロゲン枯渇療法と併用する。RTOR(リアル・タイム・オンコロジー・レビュー)プログラムの対象に選ばれているとのことなので、早期の承認が期待される。

Erleadaは、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)の前立腺癌における効用を発見した医学者が、第二世代アンドロゲン伝達阻害剤として開発し、13年にヤンセンに事業売却したもの。同年に第三相入り、18年に米国で、今年は日本や欧州でも、非転移性去勢抵抗性前立腺癌用薬として承認された。アンドロゲン枯渇療法の効果がまだなくなってはいないがPSA値が急上昇して高リスクな患者に追加する。

今回の適応拡大のエビデンスとなるTITAN試験は、今年1月に中間解析で主目的(全生存期間と放射線学的無進行生存期間の有意な延長)を達成した。具体的なデータは5月末にASCO米国臨床腫瘍学会で発表される予定。

Xtandiとの臨床的な差は当初期待されたほど大きくないように見えるので、適応や市販歴のハンデを少しでも減らすことが重要な課題になりそうだ。

リンク: JNJのプレスリリース

月一回注射のHIV/AIDS治療レジメンが承認申請
(2019年4月29日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンと、グラクソ・スミスクラインと塩野義製薬、ファイザーのHIV薬合弁であるヴィーヴ・ヘルスケアは、夫々別々に、前者の非核酸系逆転写阻害剤rilpivirineの長期作用性注射用製剤と、後者のインテグラーゼ阻害剤cabotegravirの経口剤と長期作用性注射用製剤を、二剤で完結する治療レジメンとしてFDAに承認申請したと発表した。欧州などでも承認申請する考え。

HIV/AIDSの成人でウイルス量を抑制できている、どちらの活性成分にも抵抗性を持たない患者がスイッチする用途が想定されている。当初は経口剤を併用するが、その後は月一回、二剤を注射するだけで足りる。臨床試験では、通常の経口剤三剤併用レジメンと効果が非劣性だった。

HIV/AIDSの治療が成功し積極的に活動できる状態の患者は、例えば海外旅行時に税関でHIV/AIDS薬の説明をしたりするのが煩わしい。月一回投与なら薬を持ち運ばなくて済むケースが多いだろうから、このような人たちに歓迎されそうだ。また、感染予防試験が良好な結果になるならば、経口剤より利便性が高そうだ。但し、筋注なので痛いのではないか。

第三相に入った頃は二剤合剤を承認申請と思っていたが、違った。長期作用性を持たせるためのノウハウを相手に知られたくなかったのだろう。JNJはヴィーヴの最大のライバルであるギリアドともrilpivirine合剤の開発販売で提携している。

リンク: JNJのプレスリリース


【承認審査・委員会】


注射用ホスホマイシンは審査完了に
(2019年4月30日発表)

Nabriva Therapeutics(Nasdaq:NBRV)は注射用fosfomycinを複雑性尿路感染症(腎盂腎炎を含む)の治療薬ContepoとしてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。施設査察や生産委託先での体制不備が原因である模様だ。

この委託先は北米以外の市場で販売するためのロットを生産する欧州の工場である模様。何が悪いのか、なぜFDAが問題にしているのか、良くわからない。昨年10月に承認申請、優先審査指定され当初の審査期限は6月だったが、4月30日に2ヶ月前倒しになった。諮問委員会はFDA側が不要と判定した。これまで順調に来ていただけに意外な転帰だ。FDAと協議して、委託先を変えるなり対応を検討することになりそうだ。

リンク: Nabriva社のプレスリリース


【承認】


サノフィのデング熱ワクチンが米国でも承認
(2019年5月1日発表)

FDAは、サノフィのワクチン子会社であるサノフィ・パスツールが申請したデング熱ワクチン、Dengvaxiaを承認した。デングウイルス感染が風土病である地域(米国ではプエルトリコ、グアム、米領バージン諸島、米領サモア)の9-16歳でデング感染歴がラボ検査により確認された人が適応になる。昨年12月に承認されたEUと異なり17-45歳が適応外だが、エビデンスが免疫原性試験だけで臨床的効用が確立していないことや、今年3月の諮問委員会でも16歳までに限定する意見が少なくなかったことを考えれば、サプライズではない。

Dengvaxiaはサノフィが08年に買収したAcambis社がセントルイス大学の技術をライセンスして開発を進めた4価弱毒化生ワクチン。15年にメキシコで承認されるなど、風土病地域を優先して承認取得を進めたが、第三相試験の分析を進めるうちに、デングウイルス未経験者が接種すると実際に感染した時に症状が重篤化する懸念が浮上した。政府が接種キャンペーンを行ったフィリピンでは訴訟沙汰になった。

デング感染は元々、最初の感染は症状が軽いことが多く感染に気付かないこともあるくらい。デング出血熱のような重篤な症例はほとんどが二回目の感染だ。キプロスの蜂パターンである。未感染者がDengvaxiaを接種すると一回目の感染と同じ効果を生んでしまうのかもしれない。本人の記憶は当てにならないので、ラボ検査を行って確認する必要がある。米国ならともかく、感染者の多い東南アジアや中南米で、ラボ検査の手間や費用が普及の妨げにならないか、心配だ。

デング熱ワクチンは武田や米国立医療研究所(NIH)のプロジェクトが第三相段階にある。ウイルスの非構造部分の遺伝子も配合しているため免疫原性が高い可能性があり、また、武田のTAK-003は二回接種、NIHのTV003は一回接種と三回のDengvaxiaより簡便だが、未感染者でも安全に使えるかどうかが普及の点では一番重要なのではないか。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: サノフィの米国法人のプレスリリース


【医薬品の安全性】


FDA、ベンゾザイアゼピン系睡眠薬三剤の副作用警告を強化
(2019年4月30日発表)

FDAは、zolpidem(先発品はサノフィのAmbien)、eszopiclone(同、大日本住友製薬の米国子会社のLunesta)およびzaleplon(同、ファイザーのSonatga)に関する警告強化をメーカーに要請したと発表した。転倒や自傷自殺など様々な有害事象を複雑睡眠行動として包括して枠付警告し、メディケーション・ガイドを提供し、一度発生したら禁忌とした。

92年12月から18年2月までの25年余の間にFDAの有害事象報告システムに62例が登録。更に4例が文献報告されている。66例中20例が致死的。具体的な内容は、転倒による頭蓋内出血や骨折、自傷、自殺や自殺試行など。

zolidemだけでも2018年に米国で510万人が服用しており、副作用報告されるのは氷山の一角であることを考慮しても、複雑睡眠行動の発生率は決して高くない。66例中61例がzolpidemに関するものだが、圧倒的なシェアを持っているので不思議なことではない。

リンク: FDAのプレスリリース






今週は以上です。

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