【ニュース・ヘッドライン】
- コエンザイムQ10は慢性心不全の臨床的転帰を改善する?
- ARBと癌の関連性についてFDA内部で意見が対立
- ASCO:悪性黒色腫の免疫療法が花盛り
- ASCO:ヴォトリエントは上皮卵巣癌の維持療法として有効
- アーゼラの一次治療試験が成功
- 第二のメラトニン受容体作動剤が米国で承認申請
- ノボがトレシーバとビクトーザのプリミックスをEUで承認申請
- CHMPがPEG化G-CSF等の承認を支持
- エフィナコナゾールの発売にFDAとAnacor社が「待った」
- Tecfideraは新規活性成分か?
- GSKの二種類の悪性黒色腫用薬が米国で同時承認
- ギリアッドの4薬合剤がEUでも承認
【今週の話題】
コエンザイムQ10は慢性心不全の臨床的転帰を改善する?
(2013年5月25日発表)
ESC欧州心臓学会の心不全2003学会で発表されたコエンザイムQ10(CoQ10)の慢性心不全試験が話題を呼んでいる。100mgを一日三回、2年間投与したところ、偽薬群と比べてNYHAクラスが改善し臨床的転帰も有意に改善したというのだ。p値自体は決して低くなく、また、発表されるまで時間が掛かったことや組入れ数が予定より少ないことなど不透明な点も多いので、治験論文の刊行や別の試験で再現されるまで慎重に受け止めた方がよさそうだ。
このQ-SYMBIO試験は、NYHAクラスIII/IVの心不全患者をCoQ10群と偽薬群に無作為化割付して二重盲検で臨床的転帰を比較したもの。評価項目は短期と長期の二種類あり、3ヶ月経過時点で症状、機能、バイオマーカー(NT-proBNP)の変化を調べ、2年間追跡して複合評価項目(心不全悪化による入院や死亡、intent-to-treatベース)を検討した。デザインペーパーによると組入れ目標は550人だが420人しか組入れられなかったようだ。2003年から2008年にかけて多施設で実施された。
学会抄録の筆頭著者はデンマークのコペンハーゲン大学病院のMortensen氏で、共同著者はインド、北欧東欧、イタリア、オーストラリアなどの施設に勤務。スポンサーは国際コエンザイムQ10協会と、CoQ10製品を販売している日本のカネカとPharma Nord社。
抄録のデータを見ると、まず、短期的評価項目は3ヶ月後のNT-proBNPが低下するトレンドが見られた。他の評価項目は記されていない。複合評価項目はCoQ10群の発生率が14%、偽薬群は25%、ハザードレシオ2.0、95%信頼区間1.3-3.2、p=0.003。心血管死、心不全入院、全死亡で有意に優れ(p=0.01~0.05)、有害事象は少なかった(p=0.073)。
コエンザイムQ10は1973年に日本で世界に先駆けて心不全治療薬として承認されており、その意味ではサプライズではないが、近年の大規模な試験はフェールしたものが多いため学会の治療ガイドラインでは推奨されていないようだ。そのせいか、米国のメディアには慎重なエキスパート・オピニオンも引用されている。
例えば、Heart.Orgによると、アウトカム試験に一家言を持つSanjay Kaul博士(Cedars-Sinai Medical Center)は査読プロセスを終え論文が刊行されるまで判断を控えたいとコメントした。検出力の低い小さな試験で大きな治療効果が観察されたが、その後の大規模な試験で再現されなかった例は少なくないからだ。
また、Forbes誌の医学コラムによるとJohn Osborneという心臓学者は、被験者が受けた標準療法が今日とは異なる可能性があること、年率9%という死亡率はクラスIII/IVの患者としては低いこと、参加国が多いので一施設当たりの組入れ数が少ないと推測されること(無作為化割付がちゃんとできていない可能性を示唆する)を指摘している。MedPage Todayも、今回の学会発表だけでは医療現場にCoQ10を導入することは推奨できないという意見を紹介している。
ところで、CoQ10はサプリメントとして人気があり、日本で心不全治療薬として承認されていたことがしばしば引き合いに出されるが、承認用量が一日30mgであったのに一部のサプリメントは含有量がもっと多い。このため、厚生労働省がメーカーに購入者の副作用発生状況を調べさせたはずだが、いつまで経っても結果が発表されないのはどうしたことだろう。
リンク:ESC心不全2003の抄録
リンク:ESCのプレスリリース
リンク:Q-SYMBIO試験のデザインペーパー(抄録)
リンク:Q-SYMBIO試験の治験登録
リンク:MedPage Todayの記事
リンク:Heart.Orgの記事
リンク:Forbesの記事
ARBと癌の関連性についてFDA内部で意見が対立
(2013年5月31日発表)
Wall Street Journalによると、ARBと癌の関連性についてFDA内部で意見が対立している。FDAは2011年に関連なしと結論し対外発表したが、肺癌のデータは検討しなかった模様。心血管腎臓薬審査チームのリーダーであるThomas Marciniak博士が分析続行を訴えたところ、上司のUnger博士から他の業務を優先するよう指示されたというのである。
米国では意見の対立が珍しくなくFDA内部でもしばしば発生する。しかし、メールのやり取りの内容まで新聞社にリークされるのは珍しく、販売中止になった二型糖尿病薬ノスカールの事件を彷彿させる。
Marciniak博士は、これまで、様々な新薬の承認にブレーキを掛けてきた。臨床試験の実態に鋭くメスを入れ、疑問点を放置せずに徹底的に解明しようとする傾向がある。今回初めて知ったが、博士は米国立癌研究所で10年の勤務歴があるとのことだ。
ARBと癌の関連性は2010年にLancet Oncologyにメタアナリシス論文が刊行されたことで表面化した。FDAは自らもメタアナリシスを行い無垢と結論したが、博士は試験レベルではなく患者レベルのデータを用いてメタアナリシスを行い、今年3月、ARB群の患者は肺癌のリスクが24%高いという結論に達した(統計学的に有意)。11本の試験のうち10本でARB群の方が肺癌が多かった。
博士は上役に警告強化を訴えたが、Unger博士は同意しなかった。本当は癌ではない症例が含まれている可能性があるからだ。Actosと膀胱癌の関連性が発売後何年も見過ごされてきたように、薬と癌の関連性を発見するのは容易ではない。また、24%という数値も多いのか少ないのか、微妙なところだ。このため、Unger博士は他の業務を優先し、調べるなら終業後に行うよう求めた。
WSJ紙の記事は、おそらくMarciniak博士がリークしたのだろう。ARBと癌の関連性は既に決着したと思っていたが、水面下では未だ続いていることを、私を含む多くの人々に伝えることに成功した。
リンク:Wall Street Journalの記事
リンク:ARBと癌の関連性に関するFDA安全性情報
リンク:ARBと癌の関連性に関するメタアナリシス論文(Lancet Oncology)
リンク:ARB/ACE阻害剤と癌の関連性に関する英国の疫学研究
リンク:ARBと癌(Medicine-Blog)
リンク:ARBと癌:識者の意見(Medicine-Blog)
【新薬開発】
ASCO:悪性黒色腫の免疫療法が花盛り
(2013年6月1日発表)
ASCO米国臨床腫瘍学学会が始まった。プレビューで書いたように、様々な免疫療法が悪性黒色腫に好成績を上げている。今回は、まず、ウイルス療法でもあるアムジェンのOncoVEX(GM-CSF)を取り上げよう。GM-CSFの遺伝子を組入れた遺伝子組換え型一型単純ヘルペスウイルスを腫瘍細胞に直接注射するとウイルスが細胞を破壊し、外に出た後もウイルスが分泌するGM-CSFが免疫を刺激、他の腫瘍細胞を攻撃させるというもの。
第三相試験で持続的反応率(部分反応が半年以上持続した患者の比率)をGM-CSFと比較したところ、16%対2%で有意に優れていた。全生存期間は中間解析でハザードレシオ0.79、95%信頼区間0.61~1.02となっており、最終解析では有意水準に達しそうだ。
アムジェンがウイルス療法とは珍しいが、2011年にBioVex社を達成報奨金含め10億ドルで買収して入手したもの。
リンク:アムジェンのプレスリリース
二本目は、BMSの抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)の効果をGM-CSFでブーストする手法を検討したE1608試験。Dana-Farber Cancer InstituteのHodi医学博士が発表したもので、ステージIIIの転移性黒色腫245人を組入れて、YervoyとLeukine(sargramostim、250mg皮注)を併用する群とYervoyだけの群の全生存期間を比較した。
1年生存率が53%から69%へ、メジアン生存期間は12.7ヶ月から17.5ヶ月へ向上、ハザードレシオは0.64、p=0.014。反応率は同程度だった。
Yervoyの承認用量は3mg/kgだが、この試験は10mg/kgを採用した。Yervoyは同時進行的に様々な試験が行われ、10mg/kgをテストしたものも少なくない。現在、二種類の用量を直接比較する試験が進行中。経緯はともあれ、標準療法の用法が異なる以上、今回の試験はGM-CSF併用のエビデンスというには不十分だろう。
それはそれとして、免疫療法は様々なアプローチがあるので、この試験のように様々な併用を検討する余地がありそうだ。
ASCO:ヴォトリエントは上皮卵巣癌の維持療法として有効
(2013年6月1日発表)
ASCOが6月1日に開催したプレス・ブリーフィングでは、Votrient(pazopanib、和名ヴォトリエント)の上皮卵巣癌一次治療維持療法試験も取り上げられた。なかなか良い内容で、グラクソ・スミスクラインは適応拡大申請する予定。全生存の解析がフェールしない限り、腎細胞腫、軟組織肉腫に次ぐ第三の適応として承認されそうだ。卵巣癌はこれまでに様々なVEGF阻害剤がテストされたが、遂に成果が出た。
卵巣癌の7割は発見された時点で既に末期段階にある。切除と化学療法に反応するが、7割の患者は再発する。今回の試験は、切除と化学療法が奏功し癌が進行しなくなった患者940人を組入れて、Votrient群(800mg一日一回)と偽薬群のPFS(無増悪生存期間)を比較した。結果は、ハザードレシオ0.766、p=0.0021、メジアン値17.9ヶ月対12.3ヶ月と有意に優れていた。
全生存期間は大差ないが、解析に必要な551イベントの2割しか到達していないので何とも言えない。深刻な有害事象の発生率は26%と偽薬群の11%より高く、内容は肝機能検査値異常や発熱、高血圧など既知のものだ。
リンク:GSKのプレスリリース
アーゼラの一次治療試験が成功
(2013年5月29日発表)
今週はグラクソ・スミスクラインの話が多い。第二話は、Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の適応拡大試験が成功した。米国では2009年にB細胞性慢性リンパ性白血病の三次治療薬として承認されたが、今回、chlorambucil併用で一次治療試験が成功。PFSは22.4ヶ月対13.1ヶ月、ハザードレシオ0.57、pは0.001未満だった。GSKは欧米で適応拡大申請する予定。
Arzerraはジェンマブが開発した抗CD20完全ヒト化抗体で、ロシュのRituxan(rituximab、抗CD20キメラ抗体)の類薬。ロシュはASCOで第三世代抗CD20抗体であるobinutuzumabの、ほぼ同じ内容の第三相試験データを発表するが、PFSが23.0ヶ月対10.9で大差ないのにハザードレシオは0.14とかなり異なる。今後、どちらが優れるのか議論になりそうだ。
リンク:GSKのプレスリリース
【承認申請】
第二のメラトニン受容体作動剤が米国で承認申請
(2013年5月31日発表)
Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq:VNDA)はVEC-162(tasimelteon)を全盲患者の非24時間障害の治療薬として米国で承認申請した。武田のロゼレム(ramelteon)と同じメラトニン受容体作動剤で、2004年にBMS-214778をライセンスしたもの。概日リズムのずれを調節する。臨床的奏効率24%とのことだが、奏効の定義が分からないので、臨床的に意味があるのかどうか、私には分からない。
リンク:Vandaのプレスリリース
ノボがトレシーバとビクトーザのプリミックスをEUで承認申請
(2013年5月31日発表)
ノボ ノルディスクは、IDegLira(通称)をEUで承認申請した。持効性インスリンのTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)とGLP-1作用剤Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)の固定用量合剤で、臨床試験ではベースライン比でHbA1cが1.9%低下、体重は2.5kg低下した。短期作用性インスリンの合剤と異なり、滴定期以外は用量を調節する必要がないので、固定用量合剤でも問題ないだろう。
ところで、GLP-1作用剤やDPP-4阻害剤の膵安全性はDiabetes Care誌が取り上げるなど、波紋が広がっている。需要には影響していないように見えるが、今後の成り行きが注目される。
リンク:ノボのプレスリリース
【承認審査・委員会】
CHMPがPEG化G-CSF等の承認を支持
(2013年5月31日発表)
EUの医薬品審査機関であるEMAの医薬品承認審査委員会、CHMPが5月の会議でセルジーンの多発骨髄腫用薬、Aegerion Pharmaceuticalsのコレステロール治療薬、CSLベーリングの血漿分画製剤、Bavarian Nordicの天然痘ワクチン、テバのPEG化G-CSF、バイオパートナーズ社の成長ホルモン等の承認に肯定的意見をまとめた。2~3ヶ月以内に承認されるだろう。
一方、バイオジェン・アイデックのTysabriは、対象患者拡大申請の一部しか支持されなかった。また、アリーナ社が体重管理薬Belviq(lorcaserin)の承認申請を撤回したことも正式に公表された。
また、サノフィの持効性インスリンLantus(insulin glardine)について、癌のリスクは見られないと結論した。
リンク:EMAのプレスリリース
セルジーンのPomalidomide Celgene(pomalidomide)はthalidomideやRevlimid(lenalidomide)と同じ免疫調停薬で、RevlimidやVelcade(bortezomib)による治療を既に受け、最終治療に反応しなかった難治性多発骨髄腫の三次治療薬としてdexamethasone併用で用いる。催奇性があるので注意が必要。
EMAのリリースで気になるのは製品名がGE薬のようであることだ。米国では2月にPomalyst名で承認されている。EUは既承認薬の光学異性体や代謝物を新薬と認めない傾向があるが、pomalidomideも何か問題があるのだろうか、それとも製品名の決定が遅れているのだろうか?
リンク:EMAのプレスリリース
リンク:セルジーンのプレスリリース
AegerionのLojuxta(lomitapide)はミクロソーム・トリグリセライド転移蛋白阻害剤。肝臓でトリグリセライドやコレステロール・エステルがVLDL-C合成箇所に移送されるのを妨げる。メカニズム的に脂肪肝の懸念があるが、適応となるホモ接合性家族性高脂血症は両親の夫々から引き継いだLDL-C受容体遺伝子が機能せず血清LDL-C値が数百、数千mg/dLと極めて高い。スタチンや透析治療を行っても十分に下がらず心血管疾患リスクが高いので、便益がリスクを上回ると判定された。米国では昨年12月に承認。
デンマークのBavarian Nordic(OMX:BAVA)が承認申請した天然痘弱毒化生ワクチン、Imvanexは、米国政府がプロジェクト・バイオシールドに採用、テロに備える国家戦略備蓄として1600万回分を調達した(Imvamune名)。患者が少なく十分な臨床試験を行っていないため、CHMPは例外的環境条項に基づく承認を推奨した。
リンク:Bavarian Nordicのプレスリリース(pdfファイル)
CSLベーリングのVoncentoは血漿由来の第VIII因子とVW因子。von Willebrand病やA型血友病(先天性第VIII因子欠乏症)の止血や出血予防に用いる。VW病はdesmopressinで治療しても不十分な場合、または禁忌である場合に限定。
テバのLonquex(lipegfilgrastim)はアムジェンのNeulasta(pegfilgrastim)と同様なPEG化G-CSFで、化学療法誘導性熱性白血球減少症の治療・予防に用いる。バイオシミラーとは記されていないので、類薬という扱いなのだろう。米国でもEUに一年遅れて昨年12月に承認申請された。
リンク:EMAの肯定的意見要約(pdfファイル)
スイスのバイオパートナーズ社の成長ホルモン、Somatropin Biopartners(somatropin)も成長ホルモン欠乏症の補充療法として支持された。週一回皮注と、既存の一日一回皮注製剤より患者の負担が小さい。
リンク:バイオパートナーズのプレスリリース
適応拡大で幾つか挙げると、まず、ジェネンテックが開発し米国外ではノバルティスが販売するLucentis(ranibizumab)を病的近視の合併症である脈絡叢血管形成による視力障害の治療に用いることが支持された。
また、ファイザーの肺炎球菌ワクチンPrevnar 13を18歳以上の侵襲性肺炎球菌性感染症の予防に用いることも支持された。既に高齢者と生後6週間から17歳までの子供に用いることは承認されているので、ほぼ全ての人が利用できるようになる。
一方、バイオジェン・アイデックの再発寛解型多発性硬化症用薬Tysabri(natalizumab)は、ベータ・インターフェロン不応だけでなく、新たにCopaxone(glatiramer acetate)不応に使うことが支持されたが、JCウイルス抗体検査で陰性なら高疾病活動ではない患者にも使える、という対象患者拡大は支持されず、申請撤回となった。臨床試験を行って多病巣性白質脳症のリスクが小さいことを確認したのだが、検査結果が時を経て変わる可能性があることや、偽陰性も見られることから、高疾病活動患者だけという限定を解除するには不十分とCHMPは判定した。
アリーナ(Nasdaq:ARNA)の体重管理薬Belviq(lorcaserin)も承認申請撤回となった。CHMPは癌や鬱病などの精神疾患、弁変形症などのリスクを懸念し、便益がリスクを上回らないと判定した。米国では6月にもエーザイが発売する予定だが、この分だと期待できないだろう。そもそも、医薬品は広告規制が厳しいため医療機器やサプリメントのような派手な宣伝ができないから、効果がよほど高くない限り、売るのは困難だ。
最後に、サノフィの持効性インスリン、Lantus(insulin glargine)はドイツの疫学試験で癌の懸念が浮上したため、様々な地域で大規模疫学研究が実施されたが、無垢な結果だったようだ。CHMPは、北欧の17.5万人と米国の14万人を対象とした二つのコフォート・スタディと、乳癌を発症したカナダ、英国、フランスの糖尿病患者775人を発症しなかった患者と比較したケース・コントロール・スタディの結果に基づいて、癌との関連性は見られないと結論した。
三試験の刊行が期待される(ADAかEASD学会に合わせて発表されるのではないか)。この研究は他のインスリンとの比較なので、経口剤と比べてどうなのかは明らかではない。
リンク:EMAのプレスリリース(pdfファイル)
エフィナコナゾールの発売にFDAとAnacor社が「待った」
(2013年5月28日発表)
ヴァレアント・ファーマシューティカルズ(NYSE:VRX)はIDP-108(efinaconazole)を爪真菌症治療薬として米国で承認申請したが、FDAから審査完了通知を受領した。爪真菌症治療薬としては珍しい外用薬だが、容器施栓器具に係る情報が不十分と判定された模様。efinaconazoleは同社が09年に買収したダウ・ファーマシューティカルズ・サイエンシーズ社が科研製薬から米州での権利をライセンスしたもので、日本でも科研が2012年に承認申請した。
ヴァレアントのプレスリリースには記されていないが、発売の障壁はもう一つある。Anacor Pharmaceuticals社が契約違反を主張して調停を申し立てていることだ。Anacorはtavaboroleという外用爪真菌症治療薬を開発、第三相試験が成功し承認申請に向かう予定だが、2004年にダウ社に抗真菌薬に関する何らかの業務を委託したことがある模様で、差止救済措置と2億ドル以上の違約金を求めている。今年上期に公聴会が開かれる予定だったが9月に延期された。
ヴァレアントは公聴会までefinaconazoleを発売しないと約束しており、FDAが承認しようがしまいが、9月までは発売できないのである。調停の公聴会はしばしばリスケされるので、更に遅れる可能性も残っている。Anacorの狙いは競合品の発売を遅らせることと目されるので、何とかして公聴会を延期しようとするだろう。
さて、efinaconazoleとtavaboroleはどちらが優れているのだろうか?大差ないように見える。前者の第三相試験二本では、完全治癒率が15~17%と、溶媒対照群の3~5%を上回った。後者の第三相試験二本では完全治癒率が6~9%と溶媒対照群の0.5%前後を上回った。前者の方が若干高いが、一部の患者にしか効かないことに変わりはない。真菌はしぶとい。
リンク:ヴァレアントのプレスリリース
リンク:Anacorのプレスリリース
Tecfideraは新規活性成分か?
(2013年5月30日発表)
バイオジェン・アイデックの経口多発性硬化症薬Tecfidera(dimethyl fumarate)は米国で発売後、凄いペースで処方箋を伸ばしているようだが、EUでは知的所有権面の課題があるようだ。同社のSEC提出資料によると、新薬排他権を獲得すべくEMAと話し合いを進めており、発売は今年下期に遅れる見込みになった。
Tecfideraの類薬はドイツでアトピー性皮膚炎などに長年、販売されている。知財対策として新しい製剤を開発し、更に、一日480mgが至適用量という特許を欧米で取得した。だが、EUは既承認薬の光学異性体や代謝物は原則として新薬として認めず新薬排他権(10年)を与えない。判定が下りるのは販売承認時である模様で、最後までリスク要因として残ることになる。
注射薬ではなく再発防止効果の高い薬がジェネリック薬として安価に使えるような事態になれば、患者は喜ぶだろうが、競合品を販売する企業にとって深刻な脅威になるだろう。
リンク:バイオジェンのフォーム8-K(SEC提出開示資料)
【承認】
GSKの二種類の悪性黒色腫用薬が米国で同時承認
(2013年5月29日発表)
FDAがグラクソ・スミスクラインの二種類の経口剤を切除不能/転移性のV600変異型悪性黒色腫に承認した。一つは2011年に承認されたロシュのZelboraf(vemurafenib)と同じbraf阻害剤、Tafinlar(dabrafenib)でZelborafによる治療を受けたことがない、V600E変異型の患者に用いる。もう一つはファースト・イン・クラスのMEK1/2阻害剤、Mekinist(trametinib)で、V600E変異型だけでなくV600K変異型にも使える。
悪性黒色腫は半分がV600変異型で、うちV600E型は85%、V600K型は10%を占める。両剤とも活性薬対照試験でPFSが有意に優れていた。併用の方が効果が高そうだが、第三相試験の結果が出ていないせいか、米国ではモノセラピーしか承認申請されなかった。Mekinistは2006年にJTからライセンスしたもの。
効果が高い一方で副作用も多彩だ。Tafinlarの深刻な有害事象は新たな原発性悪性黒色腫(治験で2%の患者に発生、活性対象薬群は0%)とbraf変異のない黒色腫の成長を促進する懸念(in vitroで阻害すべきMAPキナーゼ・パスウェイがむしろ活性化した)、そして深刻な熱性反応(発生率3.7%、活性対象薬群0%)。胚・胎児毒性も持つ。何れもZelborafと似ており、メカニズムに基づく現象だろう。
Mekinistの深刻な有害事象は心機能低下(治験の発生率7%、活性対象薬群0%)、間質性肺疾患/肺炎(発生率2.4%)などでやはり胚・胎児毒性がある。
報道によると、Tafinlarの問屋取得コストは一ヶ月分が7600ドル、Zelborafより2割安い。一方、Mekinistは8700ドルで、将来は併用が一般的になるだろうから、かなり高くなる。
ところで、Mekinistは5月初めに承認審査期限が9月3日に延期されたばかりだが、何だったのだろう?
リンク:FDAのプレスリリース
リンク:GSKのプレスリリース
ギリアッドの4薬合剤がEUでも承認
(2013年5月28日発表)
ギリアッド(Nasdaq:GILD)のStribildが昨年の米国、今年3月の日本に続いてEUでも承認された。JTからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤elvitegravirとその半減期を延ばす3A4阻害剤cobicistat、そして核酸系逆転写阻害剤tenofovir DFとemtricitabineを一錠にまとめたもの。インテグラーぜ阻害剤は比較的新しいので耐性ウイルス感染者が少なく、また、他の抗HIV薬と比べて忍容性が比較的良い長所を持つ。
リンク:ギリアッドのプレスリリース
今週は以上です。
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