2021年2月27日

第988回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19:JNJの一回接種用ワクチンも諮問委員会通過 
  • COVID-19:リジェネロン、抗体カクテルの本承認を申請へ 
  • COVID-19:CD24FcのEUA申請が遅延 
  • COVID-19:変異型対応ワクチンの開発ガイダンス 
  • 抗TSLP抗体が重度喘息症の増悪を半減 
  • ヴィーヴ、抗HIV薬の2ヶ月毎筋注を追加申請 
  • ファイザー、米国でダニ媒介脳炎ワクチンを承認申請 
  • アムジェン、オテズラを軽症乾癬に適応拡大申請 
  • インサイト、ジャカビを慢性GvHDに適応拡大申請 
  • アストラゼネカ、抗PD-L1抗体の膀胱がん適応を返上 
  • CHMP、脊髄筋委縮症治療薬などの承認を支持 
  • サレプタ、第3の筋ジストロフィー治療薬が加速承認 
  • LibtayoもNSCLC一次治療に適応拡大 


【今週の話題】


COVID-19:JNJの一回接種用ワクチンも諮問委員会通過
(2021年2月26日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、FDAのワクチン及び生物学的製剤諮問委員会がヤンセン・バイオテックのCOVID-19ワクチンのEUA(非常時使用認可)を全員一致で支持したと発表した。効果はBioNTech/ファイザーやModernaのmRNAワクチンより劣る可能性があるが、一回筋注のみという用法で第3相試験が行われたことと、零下20℃で2年間安定、2~8℃でも3ヶ月間有効と通常の冷凍冷蔵設備で足りること、そして、パンデミック期間中は利益ゼロで販売することが特徴。

エボラ・ウイルス・ワクチンで採用実績のあるアデノウイルス血清型26をベクターとして、SARS-CoV-2ウイルスのスパイク蛋白の遺伝子を接種者の細胞に導入する。アデノウイルスは感染歴を持つ人が少なくないため、抗体に破壊されないように特殊な血清型を用いることが多いが、それでも、通常の型に抗体を持つ患者に対する免疫原性がやや見劣りすることが多い。アストラゼネカのチンパンジー型アデノウイルスを使ったワクチンで、2回目の接種を3ヶ月後に遅らせた方が良いという意見が出た背景も、ヤンセンが二回接種ではなく一回接種を選択したのも、抗アデノウイルス抗体ができるのを警戒したのが一因ではないか?

第3相試験は米国、南アフリカ、中南米の施設で18歳以上の約4万人を組入れて、中重症COVID-19感染症の発生リスクを偽薬と比較した。薬効のメジアン追跡期間は2ヶ月と、この試験も極めて短期間であることが、悠長なことは言っていられない状況とはいえ、残念なことだ。

ワクチンは十分な免疫を獲得するまで時間がかかるので、この試験では接種の14日後以降と28日後以降の二つの期間の中重症感染症リスクを共同主評価項目とした。14日後以降の期間におけるワクチン効率は66.9%だった。1000人年当りで偽薬群の中重症感染者は112人、ワクチン群は37人だったので、リスクや効果が1年間続くとすると、このワクチンを1000人に接種すれば75人を救える勘定になる。視点を変えると、925人は接種してもしなくても結果は同じだが、中重症感染時の損失で加重平均して期待値を求める必要がある。28日後以降のワクチン効率は66.1%で14日後以降と大差なかった。

興味深いのは地域別分析。14日後以降のワクチン効率は米国が74.4%、中南米のブラジルは66%、南アフリカは52.0%と比較的大きな差があった。ブラジルでは配列解析が行われた感染例の69%がP.2系統、南アフリカでは94%がB.1.351系統のウイルスだったことが影響したのだろう。P2系統は受容体結合箇所にK417N変異を、B.1.351系統はK417N、E484K、N501Y変異の三点セットを持っているため、過去に自然感染して抗体を持っているはずの人の再感染例が報告されている。ワクチンの効果が低下しても不思議はない。

但し、今回は朗報もある。重症・危機的感染症だけに絞り込むとどの国でもワクチン効率が8割前後で大差なかった。症例数が少ないので信頼区間が広いものの、ヤンセンのワクチンは嫌だ、ファイザーのワクチンでないと接種しないと我を張る人を宥める材料に使えるだろう。

60歳以上の高齢者におけるワクチン効率が若干見劣りするが、発症数が多くないため信頼区間が広く、真相は分からない。ヤンセンは二回接種の試験も行っているので、結果が出れば全年齢層に関して一回と二回、どちらが良いのか、明らかになるだろう。COVID-19ワクチンの効果は何年も持続しない可能性があり、抵抗性ウイルスの蔓延もありうるので、もし二回接種が至適と分かったならば、次回の接種から変えればよい。

有害事象はワクチンに付き物のものが多く、深刻有害事象の発生率は低い。関節炎や末梢ニューロパチー、蕁麻疹が増える可能性があり、因果関係の有無は不明だが臨床試験では血栓塞栓イベント(15例)や耳鳴り(6例)も発現率は低いものの偽薬群(どちらもゼロ)より多かった。

塩基配列をリピッド・ナノパーティクルで導入するワクチンではアナフィラキシーが稀な有害事象として報告されているが、ヤンセンのワクチンでも第3相とは違う試験に参加した南アフリカの患者が発現したことが明らかにされた。

他のワクチンと比べるために軽症患者も含めたデータを探したが、中重症と比べて数が少なすぎる。被験者/担当医が報告していない症例が相当ありそうだ。無症候感染も数が信じられないほど少なく、その中には数日後に発症した症例も多いようなので、無症候のままの患者の報告漏れが多そうだ。アストラゼネカのワクチンの英国第2/3相試験では週一回、PCR検査を行ったが、JNJの試験は違うのだろう。

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:リジェネロン、抗体カクテルの本承認切替えを申請へ
(2021年2月25日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、REGEN-COV(登録商標)の第3相外来治療試験の独立データ監視委員会が成功認定し、偽薬群の組入れを中止するよう勧告したことを明らかにした。データは未だ同社にも伝えられておらず、3月に判明した段階で公表する考え。昨年11月にFDAからEUA(非常時使用認可)を受けたが、ちゃんとした承認を得るべく申請する予定(EUAは承認ではない)。

REGEN-COVはSARS-CoV-2に結合する二種類の抗体、casirivimabとimdevimabのカクテル。EUAの適応は12歳以上且つ体重40kg以上で、COVID-19に感染し軽中等症だが重症化リスクが高く、発症後10日以内の患者。入院・酸素投与が必要な患者に対する便益は確認されておらず、ハイフロー酸素・人工呼吸器が必要な患者には逆効果の可能性がある。

第3相は、入院の必要がない通院患者を組入れた今回の試験に加えて、発症者の家族の発症を予防する試験、そして、オックスフォード大学が主導する入院患者を対象とするRECOVERY試験が進行している。

今回の第3相は、各剤1200mgずつ、2400mgずつ、または偽薬を一回点滴静注して、入院又は死亡するリスクを比較したところ、両用量群とも主目的を達成した。EUAの根拠となった試験ではウイルス量の削減だけでなくCOVID-19関連受診も偽薬より少なったので、成功は意外ではないが、2400mgずつだけでなくEUAの用量である1200mgずつのエビデンスができたのは一歩前進だ。

リジェネロンは自力で抗体を獲得した患者(あるいは、その結果としてウイルス量があまり高くない患者)に対するウイルス抑制作用が小さい可能性を以前、指摘したことがある。同社も類薬のEUAを得たイーライリリーも続報がないが、今回の試験ではどうだったのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース

COVID-19:CD24FcのEUA申請が遅延
(2021年2月25日届け出)

MSDは2020年12月期年次報告書(10-K)の中で、MK-7110(通称CD24Fc)のEUA(非常時使用認可)申請や認可後の米国政府への出荷が遅延することを明らかにした。FDAとの事前協議で良好なフィードバックが得られなかったため。

CD24Fcは、傷害を受けた細胞の免疫チェックポイントであるCD24と抗体固定領域を結合した融合蛋白で、TLRとの相互作用を妨げ、炎症性サイトカインの生成を抑制する効果を持っている模様。他家造血幹細胞移植後の移植片宿主病の予防で第3相入りしたが、昨年、第3相重症COVID-19試験の中間解析(n=203)で病状改善や罹患期間、死亡・呼吸不全リスクの半減など複数の評価項目で大変良い成果を上げ、開発会社のOncoImmuneをMSDが11月に買収した。12月にはHHS(米国連邦保健福祉省)などとEUAを前提に21年6月までに6~10万回分を供給する合意をしていた。

フィードバックの内容は明らかではないが、おそらく、臨床試験のデザインや履行における厳格性が十分ではなかったのだろう。日本のアビガンの試験と同様な話ではないか。

リンク: MSDの2020年12月期年次報告書(65頁に当該記載)

COVID-19:変異型対応ワクチンの開発ガイダンス
(2021年2月22日発表)

FDAは、変異型SARS-CoV-2に対するワクチンや医薬品のガイダンスを公表した。英国型(B.1.1.7系統)や南アフリカ型(B.1.351系統)、あるいはブラジル型(B.1.1.248、最初に発見された国に因んで日本型とも呼ばれている模様)など、ワクチンや一部の医薬品にある程度あるいは大きな抵抗性を持つ変異型が様々な国で検出されていることに対応したもので、ワクチンの場合、EUA(非常時使用認可)を取得する上で必要と考えられる要件を記したガイダンス資料のAppendix 2として追加された。

COVID-19ワクチンは武漢での流行から1年程度でワクチンが開発される快挙を遂げた。SARSやMERSが喉元を過ぎても脅威を忘れず、新型感染症に迅速に対処するための開発プラットフォーム作りやシミュレーションを産学官連携で進めてきた成果だ。接種が始まった第一世代のワクチンは南アフリカ型やブラジル型に対する効果が低下する可能性があり、また、将来的にもっと抵抗性の高い変異型が流行する可能性もあるが、もし高抵抗性変異ウイルスが流行し現在のワクチンでは十分に対処できない事態になったならば、今度は、1年も経たずにver 2.0や3.0を投入することができるだろう。

ここで問題になるのが、薬効・安全性確認試験の規模だ。ワクチン効率(予防効果)や安全性における個人差を確認するためには、ファイザーなどが行ったような数万人規模の試験が必要だが、免疫原性試験だけで足りるならスピードや費用の面で好都合だ。

FDAの判断が注目されたが、ガイダンスによると、基本技術やプラットフォーム、製法などが既にEUAされたワクチンと同じであることを前提に、免疫原性試験で中和抗体血清応答率や抗体力価を調べて、既にEUAされたワクチンの、そのワクチンが対象とする型のウイルスに対する数値と非劣性であることを確認すれば足りる。

非劣性マージンの例示は95%下限が-10%と厳しいが、必ずしも拘っている訳ではなさそうだ。ファイザーやModernaのワクチンのワクチン効率は90%超と大変高いが、インフルエンザワクチンなどの相場を考えれば、変異型対応ワクチンのワクチン効率が70%であっても満足すべきなのではないかと思われる。FDAも、必要に応じて非劣性マージンを緩める用意があるのだろう。尤も、どの程度までなら許容できるかは明らかではない。

FDAに続いて、EMAもReflection Paperを公表した。こちらも免疫原性試験で足りる、としている。対照群とすべき、従来型のワクチン(FDAはprototype vaccine、EMAはparent vaccineと呼んでいる)の従来型ウイルスに対するデータについては、過去の試験のデータを流用することも環境次第で可能との認識を示している。

リンク: FDAのガイダンスのダウンロードページ
リンク: EMAのプレスリリースとダウンロードページ(2/25付)


【新薬開発】


抗TSLP抗体が重度喘息症の増悪を半減
(2021年2月26日発表)

アストラゼネカとアムジェンは、共同開発している抗TSLP(胸腺間質リンパ球増殖因子)抗体、MEDI9929/AMG 157(tezepelumab)の第3相NAVIGATOR試験の結果をAAAAI(米国喘息アレルギー免疫学会)バーチャル・ミーティングで発表した。成功したことは昨年11月に公表済みだが、発作頻度を半減する良好な成績を挙げたことが明らかになった。

この試験は中高量吸入コルチコステロイドなど二剤以上(経口ステロイドも可)を併用しても増悪発作を管理できない重度患者の増悪を抑制する効果を52週間に亘って偽薬と比較した。結果は、年率頻度が56%減、p値は0.001を下回った。近年、抗IL-5抗体や抗IL-4受容体抗体が好酸球増多型喘息症に承認されているが、tezepelumabは血中好酸球数が300個/mcL未満のサブグループ(被験者の約半分)でも41%減と有意な効果を示した。300個/mcL以上のサブグループの70%減には見劣りするが、より多くの患者に便益をもたらすことができる。

TSLPはTh2細胞型炎症免疫カスケードの最上位に位置するためアレルギー性炎症のマスタースイッチとも言われているようだ。抗TSLP抗体はIL-4、5、13を抑制するので、抗IL-5抗体や抗IL-4受容体抗体とオーバーラップする部分もありそうだ。アストラゼネカは12年にアムジェンと共同開発提携を結んだ。第3相経口ステロイド離脱試験はフェールしたが、承認申請に向かうのではないか。

リンク: 両社のプレスリリース


【承認申請】


ヴィーヴ、抗HIV薬の2ヶ月毎筋注を追加申請
(2021年2月24日発表)

ヴィーヴ・ヘルスケアは、抗HIV薬Cabenuvaを2ヶ月毎に筋注する用法追加をFDAに申請した。臨床試験では毎月筋注と効果が非劣性だった。

Cabenuvaは同社の筋注用長期作用性インテグラーゼ阻害剤、cabotegravirとジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤rilpivirineの持効性筋注用製剤を同梱した製品。薬物療法によりウイルスの抑制に成功していて、治療失敗歴を持たず、この二剤に抵抗性を持たない患者がスイッチできる。当初の一ヶ月は経口剤を服用する。

欧州では初承認時に両方の投与頻度が承認されたが、米国は申請が3ヶ月ほど早く間に合わなかったのか、月一回投与しか承認されていない。

リンク: JNJのプレスリリース

ファイザー、米国でダニ媒介脳炎ワクチンを承認申請
(2021年2月23日発表)

ファイザーは、米国でダニ媒介脳炎(TBE)ワクチンTicoVacの承認申請を行い受理されたと発表した。優先審査で審査期限は8月。欧州駐留米軍などの需要に対応する考えのようだ。

TBEは主としてダニが媒介するフラビウイルス属ウイルスによる脳炎。欧州やロシア、アジアの35ヶ国以上で風土病となっており、日本でも93年以降、北海道で数例が報告され、4類感染症指定されている。

ワクチンは米国や日本では未承認だが海外では40年以上の市販歴があるようだ。欧州疾病予防管理センターは風土病地域に居住・旅行する人にワクチン接種を勧奨している。ファイザーはバクスターのワクチン事業を買収して入手したが、売上高は小さいようだ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

アムジェン、オテズラを軽症乾癬に適応拡大申請
(2021年2月22日発表)

アムジェンは、Otezla(apremilast、オテズラ)の軽中等症プラク乾癬試験のデータをFDAに提出したと発表した。現在は、光学療法や全身性治療の対象となる中重度プラク乾癬や活性期乾癬性関節炎、ベーチェット病患者の口腔潰瘍の治療に承認されているが、プラク乾癬の軽症患者も取り込む狙いだろう。

このADVANCE試験での軽中等症の定義は、BSA(病変体表面積)に占める病巣範囲が2~15%、PASI(乾癬範囲重症度指標)が2~15、sPGA(医師による静的総合評価)が2~3だった。中重度患者を組入れた試験における定義は病巣BSA比率が10%以上、PASIが12以上、sPGAが3以上なので、もしADVANCE試験のレーベル収載が承認されたら、新たにBSA2~10%、PASIが2~11、sPGAが2のゾーンが射程圏内になる。

Otezlaはセルジーンが開発したが、合併したBMSが競合品を開発していたため、反トラスト規制をクリアするためにアムジェンに134億ドルで売却した。その競合品であるBMS-986165(deucravacitinib、選択的TYK2阻害剤)は第3相中重度プラク乾癬試験でOtezlaを有意に上回る効果を示しており、アムジェンとしては適応拡大を進めたいところだ。

リンク: 同社のプレスリリース

インサイト、ジャカビを慢性GvHDに適応拡大申請
(2021年2月22日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、Jakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)をステロイド不応慢性GvHD(移植片宿主病)の治療に用いる適応拡大をFDAに申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は6月22日。FDAのProject Orbisの対象で、カナダやオーストラリア、スイス、ブラジル、英国と共に承認審査する。

JakafiはJAK阻害剤で、骨髄線維症やステロイド不応急性GvHDなどに承認されている。適応拡大の根拠となる第3相では、奏効率が49.7%とBAT(最良治療)群の25.6%を上回った。尚、慢性と急性の違いは発症が移植後100日以降か、以内かで判断することが多いようだ。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認審査・委員会】


アストラゼネカ、抗PD-L1抗体の膀胱がん適応を返上
(2021年2月22日発表)

アストラゼネカのImfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)は米国で17年に尿路上皮腫の二次治療薬として承認され、18年には非小細胞性肺癌の白金薬・放射線療法による一次治療後の維持療法として、20年には進展期小細胞性肺癌の一次治療三剤併用療法の一つとして、適応拡大してきたが、最初の適応を自主的に返上した。

単群試験の反応率と反応持続期間に基づく加速承認だったので、市販後に延命またはそれに準じる便益を確認しなければならなかったが、欧米日などで実施した一次治療のDANUBE試験がフェールし、gemcitabineと白金薬を併用した群の全生存期間を有意に上回ることができなかった。

実薬対照試験であり、実薬にImfinziを追加する効果を検討するNILE試験も進行中であるため、FDAやアストラゼネカの対応が注目されたが、意外にもこの段階で、両者相談の上、承認の自主返上に至った。

尿路上皮腫は抗PD-1/PD-L1抗体の代表的な用途と考えられてきたが、思ったより延命効果が小さく、苦戦している印象だ。ロシュのTecentriq(atezolizumab)は、一次治療で承認された後に、PD-L1低発現例における延命効果が白金薬レジメンに見劣りすることが判明、適応が高発現に限定された。化学療法併用で一次治療に用いる適応拡大をEUに承認申請したが、全生存期間の解析がフェールしたせいか、申請撤回となった。抗PD-1/PD-L1抗体の総大将であるMSDのKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)も化学療法併用一次治療試験がフェールした。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

CHMP、脊髄筋委縮症治療薬などの承認を支持
(2021年2月26日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、ロシュの脊髄筋委縮症(SMA)治療薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

ロシュが前臨床段階でPTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)からライセンスして開発したEvrysdi(risdiplam)は、SMAの患者の多くで欠損するSMN1遺伝子に代えて、SMN2遺伝子のスプライシングに介入することによってある程度機能するSMN蛋白を発現させる。臨床的にI型やII型、III型と診断されている、またはSMN2を1~4コピー保有する、2ヶ月児以上の5q SMN患者が適応になる。CHMPはロシュに、SMN2を1~4コピー持つ患者の長期観察的自然歴対照試験を行うよう要請した。

米国では昨年8月に承認、日本では昨年10月に中外製薬が製造販売承認申請した。

リンク: EMAのプレスリリース
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リンク: ロシュのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのJemperli(dostarlimab)はIgG4型の抗PD-1抗体。適応はdMMR/MSI-H(高頻度マイクロサテライト不安定性/DNAミスマッチ修復機能欠損)のある難治/進行子宮内膜腫で白金レジメンによる治療歴を持つ患者。第1/2相試験の反応率に基づいて条件付き承認することが支持された。19年に買収したTesaro社が14年にAnaptysBioからライセンスした一連の抗体医薬パイプラインの一つ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

BioCryst(Nasdaq:BCRX)のOrladeyo(berotralstat)は経口血漿カリクレイン阻害剤。12歳以上の血管浮腫のルーチン予防薬として承認することが支持された。第3相試験で発作頻度が偽薬比44%減少した。米国では昨年12月に、先駆け指定された日本でも今年1月に、承認された。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BioCrystのプレスリリース

適応拡大で肯定的意見を受けたのは、まず、Exelixis(Nasdaq:EXEL)のCabometyx(cabozantinib、和名カボメティクス)とBMSのOpdivo(nivolumab)を進行/転移腎細胞腫の一次治療に用いること。米国では1月に承認、日本でも前者は武田薬品、後者は小野薬品が承認申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

GW Pharmaceuticals(Nasdaq:GWPH)のEpidyolex(cannabidiol)は大麻の成分の一部を医薬品に転用するもので、18~19年に欧米でDravet症候群による癲癇発作予防薬として承認されているが、今回、2歳以上のTSC(結節性硬化症)患者の癲癇発作予防薬として適応拡大することが支持された。米国では昨年7月に承認。

リンク: EMAのプレスリリース

米国コネチカット州のMelinta Therapeutics(Nasdaq:MLNT)が湧永製薬から導入し欧州ではMenariniが開発販売するキノロン系抗菌剤、Quofenix(delafloxacin)は、19年に成人の急性細菌性皮膚皮膚構造感染症で標準的な第一選択薬が適さない患者に用いる薬として承認されたが、今回、成人限定解除と、第一選択薬不適な地域感染肺炎の治療に用いることが支持された。

リンク: EMAのプレスリリース

サノフィのSarclisa(isatuximab、和名サークリサ)は抗CD38抗体。多発骨髄腫用薬として開発されており、欧州では20年に三次治療薬としてpomalidomide及びdexamethasoneと併用する用法で承認されたが、今回、二次治療にcarfilzomib及びdexamethasoneと併用することが支持された。日本などでも申請中。

リンク: EMAのプレスリリース

一方、否定的意見だったのがグラクソ・スミスクラインのTrelegyと別名であるElebrato、Temybric。コルチコステロイドfluticasone furoateとベータ2作用剤vilanterol、ムスカリン拮抗剤umeclidiniumを一度に吸入できるトリプル・コンビ薬でCOPD治療薬として承認されている。喘息症でも第3相でコルチコステロイドとベータ2作用剤の二剤併用よりFEV1(1秒量)が改善することを証明し、日米で適応拡大が承認されたが、CHMPは喘息発作リスク抑制効果が確立していないことを重視した。上記試験では発作頻度が13%少なかったが統計的に有意ではなかった。

リンク: EMAのプレスリリース

さて、EMAはリジェネロン・ファーマシューティカルズのREGN-COV2(開発名、casirivimabとimdevimabを配合)をCOVID-19治療薬として承認申請に着手しているが、承認前に使いたい国があるようで、食い違いが生じないよう適応に関する推奨を発表した。SARS-CoV-2感染が確認されたCOVID-19で酸素投与が不要だが重症化リスクが高い患者、というもので、米国のEUAと同じような内容だ。

リンク: EMAのプレスリリース


【承認】


サレプタ、第3の筋ジストロフィー治療薬が加速承認
(2021年2月25日発表)

サレプタ・セラピューティックス(Nasdaq:SRPT)は、Amondys 45(casimersen)がFDAに承認されたと発表した。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のうちジストロフィン遺伝子のエクソン45スキッピング治療に応答する患者に用いる。

同社はRNAからmRNAが切り出されるスプライシング工程を利用して一部の邪魔な塩基配列を除去する、エクソン・スキッピングと呼ばれる手法を得意としていて、これまでに、ジストロフィン遺伝子の51番目のエクソンをスキップするExondys 51(eteplirsen)と、53番目をスキップするVyondys 53(golodirsen)をDMD治療薬として発売している。DMDの原因となる遺伝子変異は様々なので未だカバー率は低いが、それでも、3剤合わせればDMD患者の3割程度が適応になる見込み。

承認の根拠は、先行2剤と同様に、ジストロフィン発現量の増加。7~13歳の患者に30mg/kgを週一回、35-60分点滴静注した試験の中間解析で、48週時点のジストロフィン水準(正常値に対する比率、ウエスタン・ブロット法)がベースライン時点の平均0.93から1.74に上昇し、偽薬群(平均0.54から0.76に上昇)を上回った。治療効果は0.59、p=0.004だった。

致死的な糸球体腎炎などの腎毒性が見られるため腎機能検査が必要。

リンク: 同社のプレスリリース

LibtayoもNSCLC一次治療に適応拡大
(2021年2月22日発表)

FDAはリジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)のLibtayo(cemiplimab-rwlc)を切除不能局所進行性/転移性非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大を承認した。PD-L1高発現(TPS≧50%)でEGFR/ALK/ROS1の遺伝子に有害変異を持たない癌に単剤投与する。臨床試験では全生存期間のメジアン値が22ヶ月と化学療法群の14ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.68、p=0.0022だった。深刻有害事象は肺炎(5%、対照群は6%)や肺臓炎(2%と0%)など。

LibtayoはPD-1を標的とする抗体で、定常領域がIgG4型であることが目を引くが、IgG1型の製品との違いは明確ではない。扁平上皮癌と基底細胞癌に承認されている。今回の承認は対象患者が多くデータもMSDのKeytruda(pembrolizumab)と遜色ないが、適応となる癌種の数があまりにも違うため、医療施設はKeytrudaをストックする方が効率的だろう。

Libtayoの試験は化学療法群の患者の7割が進行後にLibtayoにクロスオーバーした。一次治療に使う方法と二次治療に使う方法を比較したような格好なので、実力が過小評価されている可能性があるが、真の値を得ることは不可能だ。進行後に承認されている他の抗PD-1抗体を使うのは許容せざるを得ず、クロスオーバーも許容することになる。二番手、三番手の薬が甘受せざるを得ない不利である。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: リジェネロンのプレスリリース





今週は以上です。

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