2021年5月8日

第998回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • COVID-19関連: 
  • PRAC、COVID-19ワクチンの副作用シグナルについてアップデート 
  • IL-1受容体アンタゴニストの第3相が成功 
  • その他の領域: 
  • イミフィンジと抗CTLA4抗体および化学療法の併用試験が成功 
  • キイトルーダとレンビマの併用レジメンを承認申請 
  • オプジーボをMIUCに適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会、アバコバンの評価が二分 
  • キイトルーダ、her2陽性胃癌の一次治療に加速承認 
  • SGLT2阻害剤が糖尿病以外の慢性腎疾患にも適応拡大


【COVID-19関連】


PRAC、COVID-19ワクチンの副作用シグナルについてアップデート
(2021年5月7日発表)

EMAのファーマコビジランス委員会であるPRACは、COVID-19ワクチンの幾つかの副作用や兆候を検討していることを明らかにした。4製品共に、便益が危険を上回るという評価に変わりはない。

BioNTech/ファイザーのComirnaty(tozinameran、和名コミナティ)は、美容用皮膚充填剤注入歴を持つ人における顔面腫脹を副作用に追加するよう勧告した。EUの副作用報告システムや文献で症例報告されている由。頻度は未公表。

同様な事象はModerna(Nasdaq:MRNA)のワクチンの第3相試験でも2例、報告されている(第984回参照)。頬をふっくらさせる施術を行う医師とは頻繁には話さないだろうし、かかりつけ医は施術歴を知らないだろうから、このリスクは医療従事者に伝達しても無意味だろう。メディアを通じて直接、伝えるべきであり、だから、私も第984回で書いた。

Comirnatyを接種後に心筋炎や心膜炎が報告されていることも公表した。因果関係は不明。EUでCOVID-19ワクチンの条件付き承認を得たものは月次で安全性報告書を提出する義務があるが、PRACは次回の報告で年齢別や性別の分析を行うよう要請した。ということは、結構な数の症例報告があるのだろう。報道によるとイスラエルや米軍施設で夫々10例程度、報告されているようだ。ComirnatyほどではないがModernaのワクチンでも報告されているようで、同社に対しても監視強化や症例分析を求めた。

尚、SARS-CoV-2は心臓にも感染すると報告されている。

アストラゼネカのVaxzevriaに関してギラン・バレー症候群の症例を分析していることも明らかにした。承認審査の過程で有害事象の可能性が浮上し、特定安全性監視項目としていたが、月次安全性報告書でも報告された。次回の月次報告で症例の詳細を報告するよう求めた。

Vaxzevriaだけでなくジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンのワクチンも血小板減少症候群を伴う血栓症が副作用として認められたが、それに関連して、接種後3週間以内に血小板減少症または血栓塞栓症を発症したら、血栓症または血小板減少症を併発している可能性を積極的に検討するよう医療従事者に勧告することも決定した。

尚、ComirnatyとModernaのワクチンも同様なリスクを引き続き監視しているが、これまでに報告されている症例数は極めて少なく、頻度はワクチン接種していない人より低いことも再確認した。

これらの副作用や懸念は何れ頻度が極めて低いが、深刻な疾患もあるため、適切に分析し大衆に情報提供する必要がある。真相不明で終わることも少なくないが、きちっと問題提起し状況を把握しておけば、10年後、50年後、100年後に因果関係や発症経路、リスク因子を特定し対策を取ることが可能になるかもしれない。某国のように、ワクチンで副作用懸念が表面化しても等閑な調査や検討で済ませて接種数が減少していくのを傍観していたら、自力で新しいワクチンを開発する能力も、手を挙げる会社や研究者も、出てこないだろう。それがどれほど重大な過ちであるか、今回、思い知ったはずだ。

私たちの生活を支えるインフラや道具、統治機構、人と人との関係性は、1年、2年で構築されたものではない。何千年もの間に先人や私たちが積み重ねたものだ。知識や技術を継承できることこそが人間が持つ最大の能力であり、だからこそ、知識だけでなく、分からないことも次代に伝えていく必要がある。

リンク: EMAのプレスリリース



IL-1受容体アンタゴニストの第3相が成功
(2021年5月3日発表)

Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)とギリシャのHellenic Institute for the Study of Sepsisはanakinraの第三相中重度COVID-19肺炎試験が成功したと発表した。治癒退院が偽薬群より多く、重度の呼吸不全や死亡は少なかった。EMA(欧州薬品庁)と相談する考え。まだトップライン・データしか公表されていないが、斬新なバイオマーカーを使って便益の大きそうな患者をスクリーニングしたことに注目したい。治験成績が区々な抗IL-6受容体抗体のスクリーニングにも有効なのだろうか?

Kineretは天然のIL-1受容体アンタゴニストを遺伝子組換え法で医薬品化したもの。アムジェンが2001年に米国で中重度活性期リウマチ性関節炎の治療薬Kineretとして発売、今日では重症型クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)である新生児期発症多臓器系炎症性疾患(NOMID)やIL-1受容体アンタゴニスト欠乏症にも承認されている。SOBIは08年に事業を買収した。

今回のSAVE-MORE試験は、中重度COVID-19肺炎で血漿suPAR(可溶性ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ受容体)が6ng/ml以上と増加している入院患者606人を、標準的医療に加えて偽薬またはanakinra(100mg)を一日一回、最大10日間に亘って皮注する群に無作為化割付して、28日間の転帰を二重盲検で比較した。転帰はWHOの臨床症状尺度(CPS。0:ウイルス検出されず感染していない、から10:死亡まで11段階ある)を用いて評価した。アテネ大学の研究者が主導してギリシャとイタリアの40施設で実施した。

結果は、オッズ比0.36、p<0.001と優れた治療効果を示した。序数評価法はもし治癒退院と死亡のどちらも増加した場合、良いのか悪いのか悩ましいが、今回はどちらも良好だったので、素直に評価したい。

似たような作用の薬であるノバルティスの抗IL-1ベータ抗体Ilaris(canakinumab、和名イラリス)の第3相COVID-19肺炎性サイトカイン放出症候群治療試験はフェールしたが、29日人工呼吸器無装着生存率は88.8%対偽薬群85.7%、副次的評価項目のCOVID-19関連死亡率は4.9%対7.2%と、数値自体は悪くはなかった。Ilarisが足りなかったあと一歩を、もしかしたら、suPARによるスクリーニングが後押ししたのかもしれない。

もしIlarisや抗IL-6受容体抗体Actemra(tocilizumab)のCOVID-19試験で事前にsuPARを測定していたならば、サブグループ分析を行っても良いのではないか。

リンク: 両者のプレスリリース


【新薬開発】


イミフィンジと抗CTLA4抗体および化学療法の併用試験が成功
(2021年5月7日発表)

アストラゼネカは19年10月に第3相POSEIDON試験のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)解析が成功したと発表したが、今回、全生存期間の解析は区々だったことを明らかにした。競合薬が多いので効果の多寡が注目だがデータは未公表。

この試験はステージIVの非小細胞性肺癌の一次治療において化学療法に抗PD-L1抗体Imfinzi(durvalumab、和名イミフィンジ)を追加する効果を検討した。PD-L1発現や扁平上皮腫か否かは不問、分子標的薬が適応になるEGFRやALKの変異を持つ癌は対象外。化学療法は5種類のレジメンから医師が選択。化学療法だけの対照群は最大6サイクル施行したが、Imfinzi併用群(以下、便宜的にICTレジメンと呼ぶ)の化学療法は4サイクルに留めた。また、化学療法にImfinziと同社がファイザーからライセンスした抗CTLA4抗体、tremelimumabを追加する群(同、ItCTレジメン)も設定された。

主評価項目はICTレジメンのPFSと全生存期間。前者は成功したが後者はフェールしたことが今回、発表された。副次的評価項目だがItCTレジメンはPFSも、今回の全生存期間の解析も、成功した。

副次的評価項目が成功しても主評価項目がフェールしたら成功とは言えなくなるのが通常だが、今回は、プロトコルでICTレジメンとItCTレジメンのPFSが何れも成功ならItCTレジメンの全生存期間の解析を行うことができると定めていた由。その分、他の解析の閾値を高めてあるのだろう。

統計学的だけでなく、臨床的にも意味のある上乗せ効果があった由。

抗PD-1/PD-L1抗体は各社が激しい開発競争を行っている。非小細胞性肺癌一次治療化学療法併用では、MSDのKeytruda(pembrolizumab)が臨床試験で大変良い成績を上げ、承認された。BMSはOpdivo(nivolumab)だけを追加した試験はフェールしたが、Yervoy(ipilimumab)も併用した試験が成功、承認された。

KeytrudaのデータとOpdivo・Yervoy併用のデータは大差なく、高価なバイオ薬を二種類使うのは割が合わないような感じがする。Imfinziとtremelimabの併用はどうなのか、データ発表が待たれる。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース


【承認申請】


キイトルーダとレンビマの併用レジメンを承認申請
(2021年5月6日発表)

MSDとエーザイは、Keytruda(pembrolizumab)とLenvima(lenvatinib)の併用療法を米国で適応拡大申請し受理されたと発表した。

一つは、治癒を目的とする手術や放射線療法が適応にならず全身性治療歴を持つ進行性内膜腫。優先審査で、審査期限は9月3日。

KEYNOTE-775試験に基づくもので、メジアン生存期間が18.3ヶ月と化学療法群の11.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。この併用は高頻度マイクロサテライト不安定性/ミスマッチ修復機構欠損を持たないサブグループ限定で19年に加速承認されているが、今回の第3相ではこのサブグループにおける全生存期間もメジアン17.4ヶ月対12.0ヶ月、ハザードレシオ0.68と良好な結果が出ているので、限定解除で本承認になるのではないか。

もう一件は進行腎細胞腫の一次治療。優先審査で、審査期限はLenvimaが8月25日、Keytrudaは8月26日と分かれたが、特に問題がなければ一緒に承認されるのではないか。

KEYNOTE-581試験に基づくもので、ファイザーのSutent(sunitinib)と比べた全生存期間ハザードレシオが0.66と有意な延命効果を示した。

尚、この二件は日本でも4月に一部変更申請が行われている(内膜腫は上位分類である子宮体癌に申請)。

リンク: 両社のプレスリリース



オプジーボをMIUCに適応拡大申請
(2021年4月30日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブは、Opdivo(nivolumab)をMIUC(筋層浸潤尿路上皮癌)の切除術後補助療法として米国で適応拡大申請し受理されたと発表した。再発リスクの高い患者に用いることを想定している。優先審査で、審査期限は9月3日。

中間解析で成功認定されたCheckMate-274試験に基づくもので、DFS(無病生存期間)は21.0ヶ月と偽薬群の10.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70(98.31%信頼期間0.54-0.89)、p値は0.001を下回った。共同主評価項目であるPD-L1陽性サブグループではハザードレシオ0.53、p<0.0001。

この試験は全生存期間の解析に向けて続行中。

リンク: BMSのプレスリリース


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、アバコバンの評価が二分
(2021年5月6日発表)

FDAは関節炎諮問委員会を招集し、ChemoCentryx(Nasdaq:CCXI)がANCA(抗好中球細胞質抗体)関連血管炎治療薬として承認申請した選択的補体C5a受容体阻害剤、avacopanについて、薬効や安全性の確認が十分かどうか、意見を求めた。結果は、18人の委員のうち10人が承認を支持、8人が反対と、評価が二分した(賛成10人のうち一人は勘違いしていて本当は反対だったとも一部で報じられている)。薬効に関しては9人対9人で真っ二つに分かれ、安全性は10人支持、8人反対だった。

第3相試験では、rituximabまたはcyclophosphamideによる治療にavacopanを追加する効果をprednisone追加群(用量は漸減していく)と比較し、非劣性検定を行ったが、FDAは治験開始前に非劣性解析では不十分と指摘していた。rituximabまたはcyclophosphamideにprednisoneを追加する効能が確立していないため、非劣性検定が成功してもどちらも効果がない可能性を棄却できないからだ。奏効評価に用いられたBirmingham Vasculitis Activity Scoreの有効性や非劣性マージンの妥当性にも疑問を呈した。安全性に関しては肝毒性などに懸念を示した。

それでも承認を支持する委員が意外に多かったのは、治療が難しく様々なオプションが必要で、ステロイドの代替品も欲しいというニーズの表れだ。但し、患者が欲しているのは新薬ではなく、自分に効いて副作用はそこそこ我慢できる薬だ。効くか効かないかハッキリしないなら、ハッキリさせるのが製薬会社や研究者の患者に対する誠意だろう。

同社の株価はFDAが諮問委員会用ブリーフィング資料の一般公開を受けて前日の48ドル強から26ドル余に急落したが、諮問委員会の翌日には更に下落して11ドルを割れた。

審査期限は7月7日。欧州では昨年7月に、日本(キッセイ薬品がインライセンス)でも今年3月に、承認申請された。

リンク: 同社のプレスリリース


【承認】


キイトルーダ、her2陽性胃癌の一次治療に加速承認
(2021年5月6日発表)

FDAはMSDのKeytruda(pembrolizumab)をher2陽性切除不能局所進行性/転移性の胃/胃食道接合部腺腫の一次治療に用いることを加速承認した。抗her2抗体trastuzumab、fluoropyrimidine系抗癌剤、そして白金薬と併用する。KEYNOTE-811試験の中間解析(n=264)に基づくもので、ORR(客観的反応率、盲検独立評価委員会方式)は74%と偽薬群の52%を有意に上回り、メジアン反応持続期間は10.6ヶ月対9.5ヶ月だった。

同様なセッティングでは4月にBMSのOpdivoが本承認を受けているが、エビデンスとなるCheckMate-649試験はher2陽性癌を除外していたので、オーバーラップしていない。併用薬もmFOLFOX6またはCapeOXで若干異なっている。

今回の承認は二つの点でサプライズだった。第一に、承認申請していたのは初耳だった。第二に、FDAが様々な適応症における加速承認の取消の当否を検討する中、一次治療をORRに基づいて加速承認したこと。抗PD-1/PD-L1抗体は開発販売競争が激しいせいかステルス申請が横行している。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース



SGLT2阻害剤が糖尿病以外の慢性腎疾患にも適応拡大
(2021年4月30日発表)

FDAは、アストラゼネカのFarxiga(dapagliflozin)を成人の進行リスクのある慢性腎疾患に用いる適応拡大を承認した。eGFR半減や腎不全、心血管疾患による死亡、心不全による入院のリスクを抑制する。日本でも昨年12月に一変申請された。

ステージ2~4の慢性腎疾患で尿アルブミン排出が増加している患者を組入れたDAPA-CKD試験で、eGFR半減/末期腎障害/心血管疾患死/腎臓疾患死が偽薬比39%少なかった。絶対リスク削減率もメジアン2.4年間で5.3%と良好。死亡リスクだけでもハザードレシオ0.69、絶対リスク削減率2.1%と好ましい結果になった。

尚、常染色体優性遺伝あるいは劣性遺伝による多嚢胞性腎臓疾患や、腎臓疾患の治療として免疫抑制療法施行歴を持つ患者は上記試験から除外されており、効果が期待されないため投与は推奨されない。

Farxigaはブリストル マイヤーズ スクイブが開発したSGLT2阻害剤。二型糖尿病や、糖尿病の有無を問わず左室駆出率低下を伴う心不全の治療に承認されている。

リンク: FDAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース






今週は以上です。

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