2015年7月5日

2015年7月5日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ロシュ、抗CD20抗体の多発性硬化症試験が成功
  • インターセプト、OCAを承認申請
  • Sareptaも筋ジストロフィー用薬を承認申請
  • ギリアド、第三のTAF配合剤を承認申請
  • ヴァーテックスの嚢胞性線維症用合剤が米国で承認
  • Pandemrixとナルコレプシー


【新薬開発】


ロシュ、抗CD20抗体の多発性硬化症試験が成功
(2015年6月30日発表)

ロシュはRG1594(ocrelizumab)の第三相再発寛解型多発性硬化症実薬対照試験が二本とも成功したと発表した。懸念された感染症リスクは顕在化しなかった模様。2016年に承認申請の予定。

RG1594は抗CD20ヒト化抗体で、抗CD20キメラ抗体であるRituxan(rituximab)、抗CD20フコース欠如ヒト化抗体であるGazyva(obinutuzumab)と類似している。元々はRituxanの後継薬と見做されていたパイプラインで、マウス由来のアミノ酸が少ないため免疫原性や点滴反応リスクの面で優れている可能性があり、用量が少なくて済み、点滴所要時間も短い長所を持つ。

リウマチ性関節炎向けにフェーズIII入りしたが、アジアの医療施設で日和見感染症が増加したため、多発性硬化症以外は2010年に開発中止になった。Rituxanは元々、IDEC社がジェネンテックにライセンスしたもので、IDECと合併したバイオジェンが三剤の共同開発販売権を持っていたが、RG1594に関してはロシュの単独開発に変更された。

再発寛解型多発性硬化症はRituxanも第二相試験が成功したが、ロシュは第三相試験をocrelizumabで行うことを決定。独メルクのRebif(インターフェロン・ベータ1a)対照試験を二本実施した。Rituxanのリウマチ性関節炎治療と同様に、半年に一回、点滴静注する用法。今回の発表ではデータは開示されなかったが、主評価項目の再発リスクや副次的項目の病状進行リスクやMRI病変でも有意に優れていたようだ。

過去の経緯から感染症リスクが懸念されるが、深刻な症例数はRebif群と大差なかった由。感染症リスクが比較的小さいインターフェロン・ベータと同程度なら一安心だ。尤も、この試験は二年間だが患者はもっと長期に亘って治療を続けるので、今後も十分にフォローする必要があるだろう。

多発性硬化症の免疫抑制療法はPML(進行性多病巣性白質脳症)のリスクが見られるものが多く、Rituxanもリンパ腫、リウマチ性関節炎、全身性エリテマトーデスで症例報告が出ているので、RG1594でも早晩、発生しよう。Tysabri(natalizumab)は2年以上の投与歴など、PMLのリスク因子が幾つか発見されており、RG1594でも早期に解明することが望まれる。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: 同、リウマチ性関節炎などの開発を中止した時のプレスリリース(2010年5月19日付)

【承認申請】


インターセプト、OCAを承認申請
(2015年6月29日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)は、OCA(obeticholic acid)を原発性胆汁性肝硬変の治療薬として欧米で承認申請したと発表した。EUでは受理された。米国はローリング承認申請が完了した段階で、FDAが2ヶ月内に諾否を通知するだろう。

原発性胆汁性肝硬変は主として50~60代の女性が罹患する自己免疫疾患。胆管が損傷を受け胆汁が肝臓内に滞留、肝臓障害を合併する。治療はウルソデオキシコール酸(UDCA)が用いられるが、応答率は5割と言われている。OCAはUDCAの誘導体で、核内胆汁酸受容体であるFXRを作動する力価を向上した。適応は、UDCAに十分に応答しない患者に追加投与、または、UDCA不耐患者にモノセラピー。

第三相試験では奏効率が40~50%と、偽薬群の10%を有意に上回った。奏功はアルカリフォスファターゼや総ビリルビンの値に基づいて判定しており、臨床的な効用はまだ確立していない。

非アルコール性脂肪性肝炎でも第三相試験中。日本や中国の権利は大日本住友製薬が11年に取得している。

リンク: インターセプトのプレスリリース

Sareptaも筋ジストロフィー用薬を承認申請
(2015年6月29日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、AVI-4658(eteplirsen)のローリング承認申請を米国で完了したと発表した。デュシェンヌ型筋ジストロフィーの13%程度を占める患者が対象になるエクソン51スキッピング薬。バイオマリン(Nasdaq:BMRN)も同じ適応症で4月にdrisapersenのローリング申請を完了しており、開発競争がフィニッシュに向かっている。

筋ジストロフィーはジストロフィン遺伝子に変異を持つ。様々な変異があるが、エクソン51に翻訳中止暗号(ストップコドン)が生じていてジストロフィンの産生が途中で終わってしまうタイプに適しているのがこの二剤で、翻訳複合体がストップコドンを読み過ごし、短いがある程度の機能を持つジストロフィンを作るようになる。

臨床試験では大きな効果(6分歩行距離の改善)は見られず、また、ジストロフィン産生量の評価も検査方法が十分に確立していない様子で議論の余地があるようだ。おそらく、FDAは諮問委員会に意見を求めるのではないか。

リンク: Sareptaのプレスリリース

ギリアド、第三のTAF配合剤を承認申請
(2015年7月1日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は2001年にヌクレオチド系逆転写阻害剤Viread(tenofovir disoproxil fumarate、略称TDF、和名ビリアッド)を発売して抗HIV/AIDS薬開発販売会社としてデビュー。ヌクレオシド系逆転写阻害剤emtricitabineを製品化しこの二剤の合剤であるTruvada(和名ツルバダ)をラインアップしたのを皮切りに、補完的な作用機序を持つ薬とこれらを配合する合剤を次々に投入し、抗HIV/AIDS薬のトップメーカーに育った。

Vireadは米国で2018年に特許切れを控えている。後継薬として開発されたのが tenofovir alafenamide fumarate(TAF)だ。どちらもプロドラッグだが用量が数十分の一で足りるためコンビ薬を開発しやすい。腎毒性も比較的小さいようだ。

TDFは様々な合剤に用いられているのでTAFもラインアップが豊富。昨年11月に米国で承認申請されたのがインテグラーゼ阻害剤など4剤を配合したStribild(和名スタリビルド配合錠)のTDFをTAFに置き換えたもの。一日一回、一錠服用する簡便なレジメンだ。次がTruvada後継で、今年4月に米国承認申請。

今回米国で承認申請されたのはジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写酵素阻害剤Edurant(rilpivirine)の活性成分を配合するComplera(和名コムプレラ配合錠)の後継品。Knight Therapeuticsから1.25億ドルで購入した優先審査バウチャーを用いたので、優先審査されることになる。

近年は、高い金を出してライセンスしたり企業買収したりして入手した薬は高い値段で売るのが一般的になった。BMSのErbitux(cetuximab)は、開発の早い段階で米国外の権利を取得した独メルクより技術料が高いせいか、抗癌剤の中でも高い価格が付けられた。ギリアドがファーマセットを110億ドルで買収して入手した抗HCV薬、sofosbuvir(和名ソバルディとハーボニー)も大変高額だ。しかし、今回はたった1.25億ドルなので、無体な価格にはならないのではないか。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認】


ヴァーテックスの嚢胞性線維症用合剤が米国で承認
(2015年7月2日発表)

FDAは、ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)のOrkambi(lumacaftorとivacaftorの合剤)を12歳以上のF508欠損ホモ接合型嚢胞性線維症患者の治療薬として承認した。臨床試験では%FEV1の悪化が偽薬比2~4%小さかった。肺症状の増悪リスクを削減する効果も見られた。主な有害事象は息切れ、上部気道感染症、悪心、下痢、ラッシュなど。女性は生理出血異常も見られたようだ。

ヴァーテックスは98年に嚢胞性線維症財団と共同研究を開始、12年に最初の治療薬であるKalydeco(ivacaftor)を発売した。当初の対象はCFTR遺伝子にG551D変異を持つ患者だけだったが今日では合計10種類の変異に有効性が確認されている。それでも、適応になるのは嚢胞性線維症患者の1割足らずだ。Orkambiの適応であるF508欠損ホモ接合型は4割程度を占めるので受益者が多い。

残念ながら、治療効果はG551D変異患者におけるKalydecoの数値より小さい。そのせいか、それとも市場性が大きいせいか、価格はKalydecoの8掛けの水準である模様だ。配合剤の方が安いというのは一見すると変な話だが、費用対効果という意味では妥当なのだろう。安いといっても年31万ドルと26万ドルなので著しく高いことには変わりはないし。

リンク: FDAのリリース
リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

【医薬品の安全性】


Pandemrixとナルコレプシー
(2015年7月1日発表)

2009年に新型インフルエンザが流行した時に、EUはグラクソ・スミスクラインのPandemrixやノバルティスのFocetriaなどを新型ウイルス専用のワクチンとして承認した。ところが、北欧でPandemrixを接種した人の一部がナルコレプシーを発症。頻度は小さいもののリスク倍率は高く、関連性が疑われるようになった。

13年にはスタンフォード大学の研究者が発症メカニズムに関する論文をScience Translational Medicine誌で発表し、疑いが強まったが、その後に論文が撤回され、真相は闇の中に戻った。

今回、同誌に新たな研究論文が掲載された。ノバルティスの研究者らが行った研究で、Pandemrixはナルコレプシーに関連するハイポクレチン受容体に対する抗体を誘導する可能性があるというもの。この受容体とインフルエンザの核蛋白Aは共通のペプチド残渣を持っており、このペプチドに対する抗体がナルコレプシーを齎すのかもしれない。

そこで、ナルコレプシーに関連するHLA-DQB1*0602ハロタイプを持ちPandemrix接種後にナルコレプシーになった人の血清を調べたところ、抗ハイポクレチン受容体抗体保有比率がFocetriaより高かった。また、Focetriaは当該ペプチドの含有率がPandemrixより72.7%低かった。今後、更なる検討が待望される。

感心するのは6年前に一時的に用いられたワクチンの安全性を今でもキチンと検証していることだ。Pandemrix自体はもう広く使われることはないかもしれないが、本当にリスクがあるのか、もしあるなら何が原因かを解明しておかないと、将来、同じことが別のワクチンや薬で起きるかもしれない。

新しいワクチンや薬には新しいリスクが付き物だが、使わない、あるいは接種勧奨を控えるだけでは問題の解決にはならない。何年かかっても原因を解明しリスクのないワクチンを開発する方法、リスクを抑制するための正しい使い方を確立することが重要だ。

そのためには、副反応被害にあった人たちの協力も不可欠だ。稀な副作用は被害者側もリスク因子を持つ可能性がある。そう言うと被害者は責任転嫁と誤解するかもしれないが、例えば薬物代謝酵素の遺伝子多型のように、原因が明らかになればその人自身が将来、薬物療法を受ける時に役立つかもしれない。医学者と患者、製薬会社の協力は不可欠である。

リンク: Syed Sohail Ahmedらのリサーチ・アーティクル抄録(Science Translational Medicine誌)



今週は以上です。

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