【ニュース・ヘッドライン】
- ノバルティス、アーゼラの販売を縮小へ
- アストラゼネカ、COPDトリプルセラピーの第三相成功
- アステラス、CMV予防薬の第三相がフェール
- アクトスのアルツハイマー予防試験がフェール
- CHMPがロシュの血友病薬などの承認を支持
- CHMPはPuma社のneratinibに否定的な傾向
- GEP-NETsの放射線療法薬が米国でも承認
- Synergy社、Trulanceが適応拡大
- EUでアドセトリスの適応拡大承認
【今週の話題】
ノバルティス、アーゼラの販売を縮小へ
(2018年1月22日発表)
ノバルティスは、慢性リンパ性白血病薬Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の米国以外での販売を縮小する。デンマークのジェンマブ(OMX:GEN)が発表した。ノバルティスは、経過的措置として、現在治療中で便益を得ている患者が無償で引き続き使用できるように、CUP(人道的使用プログラム)導入に向けて当局と相談する。最終的には販売を中止するのではないか。
ArzerraはCD20を標的とする抗体医薬で、ロシュのRituxan(rituximab)とは結合するエピトープが異なり、キメラではなく完全ヒト化抗体で、適応も若干異なるものの、まあ似たような薬だ。前臨床試験ではrituximabより高い活性を示したが、臨床的な優越性は確認されなかった。Rituxanはバイオシミラーが登場。ロシュは糖鎖改変型など第二世代品を投入しており、Arzerraが注目を集めるのは難しくなっている。
Arzerraはジェンマブが創製、インライセンスしたグラクソ・スミスクラインが09年に米国で、10年にEUで、13年には日本でも、承認を取得した。ノバルティスは15年にGSKと事業交換を行い、Arzerraなどの腫瘍学製品・パイプラインを入手した。
リンク: ジェンマブのプレスリリース
【新薬開発】
アストラゼネカ、COPDトリプルセラピーの第三相成功
(2018年1月26日発表)
アストラゼネカは、COPD治療用の三剤配合新薬の第三相試験成功を発表した。この、PT010は、budesonide(コルチコステロイド)、glycopyrronium(長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤)、そしてformoterol fumarate(長期作用性ベータ2作用剤)を各320mcg、14.4mcg、9.6mcgずつ配合しており、一日二回、各二回ずつ吸入する。13年に開発販売目標達成報奨金を含めて11.5億ドルで買収したPearl Therapeuticsの開発品で、HFA加圧噴霧式定量吸入器を使っていることが特徴。
今回の試験は中度から超重度のCOPD患者に対するFEV1(一秒量)改善効果をBevespi(glycopyrroniumとformoterol fumarateの合剤)やSymbicort(budesonideとformoterol fumarateの合剤)、PT009(budesonidとformoterol fumarateの別の製剤)と比較したところ、対照薬や観察時点が異なる7種類の評価項目のうち6項目で有意に上回った。
Bevespiとの比較は24週時点のデータがトレンドに留まったものの、24週間のデータや第12~24週のデータは有意に上回った。三剤併用が二剤併用を上回るのは当たり前だが、今回の試験のように百点満点を逃すことは珍しくなく、まあまあな結果だ。
アストラゼネカは日本や中国で今年下期に承認申請する考え。欧米は増悪予防試験の結果が出る19年に申請する予定。
リンク: アストラゼネカのプレスリリース
アステラス、CMV予防薬の第三相がフェール
(2018年1月22日発表)
アステラス製薬は、 Vical社(Nasdaq:VICL)と共同開発しているDNAワクチン、TransVax(ASP0113)の第三相試験がフェールしたと発表した。サイトメガロウイルス(CMV)抗体陽性の造血幹細胞移植患者のCMV感染・死亡リスク削減を狙ったが、主評価項目も、CMV血症だけの解析も、偽薬比有意な差がなかった。
TransVaxはCMVのpp65抗原とgB抗原の遺伝子を組み込んだ二つのプラスミドをポロキサマー・ベースのデリバリーシステムを用いて導入するもの。アステラスは11年に世界開発商業化権を取得した。
16年に腎移植患者を対象とした第二相試験がフェールしたが、造血幹細胞移植後のCMV血症予防は、第二相試験でワクチンでは初めて、良績を残した実績があるので、フェールしたは失望的だ。
リンク: アステラスのプレスリリース
アクトスのアルツハイマー予防試験がフェール
(2018年1月25日発表)
武田薬品とジンファンデル・ファーマシューティカルズは、Actos(pioglitazone、和名アクトス)の第三相アルツハイマー病予防試験、TOMMORROWがフェールしたと発表した。高リスク患者を組入れてMCI(軽度認知障害)の発症を遅らせる効果を検討したが、中間解析で無益性認定された。
糖尿病はアルツハイマー病のリスク要因の一つとも言われており、糖代謝障害が脳細胞ではアルツハイマー病の誘因になっているのかもしれない。pioglitazoneのようなPPARガンマ作動剤は免疫炎症反応にも関与しており、脳細胞に沈着したアミロイドの除去を促進する可能性が指摘されている。しかし、類薬であるrosiglitazoneの第三相アルツハイマー病治療試験はフェールした。
TOMMORROW試験の特徴は、老人性アルツハイマー病と関連するApoEやTOM40(translocase of outer mitochondrial membrane 40)の遺伝子多型と年齢に基づくアルゴリズムでスクリーニングした65歳以上の3500人を組入れて、Actos群と偽薬群のアルツハイマー性MCI発症リスクを比較したこと。進行中の他の予防試験は家族歴やMRI所見も考慮したり、主評価項目がアルツハイマー病発症、あるいは、YES/NOではなく症状評価スケールを用いて感受性を高めたりしている。
もう一つ、印象的なのは、0.8mgの徐放新製剤を用いたこと。二型糖尿病の治療における用量は一日15~45mgなので、だいぶ小さい。心不全のリスクや、一時期、膀胱癌のリスクが疑われたことに配慮したのかもしれないが、本当にこれで足りるのか?治験論文が発表されれば用量選択の根拠が明らかにされるかもしれない。
リンク: 武田のプレスリリース(英文)
【承認審査・委員会】
CHMPがロシュの血友病薬などの承認を支持
(2018年1月26日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの科学的評価委員会、CHMPは、1月の会合で、ロシュの血友病薬などの新薬承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。一方、BMSがOpdivo(nivolumab)の大腸癌適応拡大申請を撤回したことが明らかにされた。
リンク: EMAのプレスリリース
ロシュのHemlibra(emicizumab)はA型血友病で出血リスクが高くルーチン予防的投与が必要だが第VIII因子のインヒビターを持っている患者のための、第IX因子/第X因子ヒト化二重特異性抗体。子会社の中外製薬が創製、昨年11月に米国で承認、日本でも昨年7月に承認申請された。既存薬であるバイパス剤は点滴だが、Hemlibraは皮注、週一回投与なので利便性も高い。
主な有害事象は注射箇所反応、血栓性微小血管症、発熱、下痢、筋骨格痛など。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース
イタリアのChiesi FarmaceuticiのLamzede(velmanase alfa)は、軽中度アルファ-マンノシドーシスの成人・青少年のための酵素補充療法。13年に買収したデンマークの希少疾患用薬会社、Zymenexの開発品。
この疾患はマンノースを代謝できず糖蛋白が蓄積、知的障害や肝膵肥大、筋骨格異常などを齎す。世界で500人程度の超希少疾患。Lamzedeの臨床試験では血清オリゴ糖が正常水準まで減少した。運動能力や肺機能の改善も一部で見られた。脳血管関門を通過しないので神経学的効能は期待できない。
CHMPは、症例数が少なく薬効評価期間も一年と短いことに鑑み、例外的環境条項に基づく承認を勧告するとともに、6歳以下の患者に対する効能確認試験や患者登録制度による長期追跡試験を求めた。
リンク: EMAのプレスリリース
グラクソ・スミスクラインのShingrixは帯状疱疹ワクチン。帯状疱疹とヘルペス感染後神経痛を予防する目的で50歳以上に承認することが支持された。2ヶ月置いて2回接種する。
糖タンパクE抗原をAS01Bアジュバントでパワーアップしたもので、MSDの生ワクチンであるZostavaxより効果が高く、特に70歳以上で大きな差が出ている。対象年齢も60歳以上ではなく50歳以上と幅広い。主な有害事象は注射箇所反応、筋肉痛、疲労、頭痛など。
米国は昨年10月に承認され、政府のワクチン委員会がZostavaxより優先するよう勧奨した。日本は第一三共との合弁が昨年4月に承認申請した。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース
MSDが承認申請したSteglatro(ertugliflozin)は二型糖尿病の高血糖を治療するSGLT2阻害剤。ファイザーのコンパウンドだが開発販売提携パートナーであるMSDが利益の6割を得る取り決めだ。MSDはDPP-4阻害剤で高いシェアを持っており、販促シナジーを狙う意図だろう。Steglatroと同時に、metformin配合剤やsitagliptin配合剤も肯定的意見を得た。
SGLT2阻害剤は尿細管のトランスポーターを阻害してグルコースが尿から血液に戻るのを妨げる。主な有害事象は性器真菌感染など。
リンク: EMAのプレスリリース
アストラゼネカのLokelma(sodium zirconium cyclosilicate)は陽イオン交換剤。高カリウム血症の治療に用いる。昨年2月に肯定的意見を得たが、欧州委員会の審査手続き段階で工場のcGMP違反が表面化したため承認見送りとなった。違反が解消したため、今回、CHMPが改めて肯定的意見を纏めた。15年に27億ドルで買収したZS Pharmaの開発品。
リンク: EMAのプレスリリース
再審査が決定したのがPharmaMarのAplidin(plitidepsin)。再発性難治性多発骨髄腫に承認申請され、先月、否定的意見が出たが、再審査請求が認容された。CHMPの12月のプレスリリースによると、否定的意見の理由は、PFS(無進行生存期間)が偽薬比1ヶ月延びるだけで全生存の延命効果が不透明であること、深刻有害事象が増加すること、試験の実施方法や解析方法に疑念があることなど。
リンク: EMAのプレスリリース
一方、否定的意見となったのが、先月、Allergan(NYSE:AGN)による買収に同意したRepros Therapeutics(Nasdaq:RPRX)が承認申請したEncyzix(enclomifene)。再生産医療に用いられるclomifeneの異性体で抗エストロゲン作用が強い。BMIが25kg/m2以上の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の治療薬として欧米で承認申請されたが、米国と同様に、CHMPもエビデンスが不十分と認定した。
具体的には、テストステロン量は増加したが骨や体重、インポテンツや性欲を改善する効果が検討されていない。副作用面では静脈血栓リスクが見られる。
リンク: EMAのプレスリリース
また、スイスのSanthera Pharmaceuticals(SIX:SANN)のRaxone(idebenone)をデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療に用いる適応拡大申請は再び否定的意見を受けた。%ピークフローの低下を偽薬比有意に抑制したが、筋力や運動機能、QOL指標は改善せず、治験実施・解析方法にも懸念があったため、昨年9月に否定的意見を受けた。再審査が認められたものの、結論は覆らなかった。米国で承認申請するための試験が進行中で19年下期に結果が出る見込みなので、好首尾なら再申請されるだろう。
idebenoneは武田薬品が日本でアバン名で発売したが薬効確認再試験がフェールし販売中止となった。欧州の一部の国ではまだ使われており、EUでは11年にレーバー遺伝性視神経萎縮症治療薬として承認された。
リンク: Santheraのプレスリリース(1/24付け、pdfファイル)
次に、否定的意見が正式にまとまる前の段階で申請撤回となったのがPierre FabreがArray Biopharma(Nasdaq:ARRY)から欧州などの権利を取得して承認申請したBalimek(binimetinib)。MEK阻害剤で、NRASにQ61変異を持つ転移性切除不能黒色腫の治療薬として欧米で承認申請されたが、米国同様に、CHMPも、効果が小さく有害事象が増加するため否定的意見に傾いていた。
BRAF阻害剤のLGX818(encorafenib)併用試験が成功、米国で昨年6月に承認申請されたので、EUも、併用に切り替えるのではないか。
リンク: EMAのプレスリリース
BMSはOpdivo(nivolumab)をdMMR(ミスマッチ修復不十分/マイクロサテライト不安定性高)の結腸直腸癌の四次治療薬として欧米で適応拡大申請を行い、米国では昨年8月に承認されたが、EUは12月に申請撤回していたことが明らかになった。CHMPは、エビデンスとなる試験が対照試験ではないこと、dMMRの判定方法に疑義があることなどから、否定的意見に傾いていた由。
ライバルであるMSDのKeytruda(pembrolizumab)も米国では承認されたがEUは未承認。今週はFDAとCHMPの評価が重なる事例が多かったが、この種の代理マーカーによる評価は米国のほうが積極的になったように感じられる。
リンク: EMAのプレスリリース
CHMPはPuma社のneratinibに否定的な傾向
(2018年1月23日発表)
Puma Biotechnology(Nasdaq:PBYI)は、乳癌の術後延長アジュバント療法として承認申請したNerlynx(neratinib)がCHMPでnegative trend voteを受けたことを明らかにした。エビデンスとなる臨床試験が一本だけであることや、リスク抑制効果が限定的で副作用リスクと釣り合わないことなどが理由のようだ。2月の会合で正式採決するとのことだが、申請撤回の可能性もあるのではないか。
Nerlynxはファイザーが買収したワイスのパイプラインで、Pumaは11年にライセンスした。CEO兼社長兼取締役会会長であるAuerbach氏はCougar Biotechnologyを設立して前立腺癌用薬Zytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)の臨床開発に成功し、会社ごとジョンソンエンドジョンソンに売却した実績を持つ。
承認申請の根拠となったExteNET試験は、her2陽性の早期乳癌を切除しHerceptin(trastuzumab)などによるアジュバント療法を終えた患者を組入れて、Nerlynxの1年コースの再発予防効果を検討した。2年経過後に浸潤性乳癌を再発せずに生存していた患者の比率は93.9%で偽薬群の91.6%を有意に上回ったが、差は2ポイント程度で、感受性分析の結果も頑強ではなかった。それでも、米国では諮問委員会に支持されて昨年7月に承認された。
リンク: Pumaのプレスリリース(1/23付け)
【承認】
GEP-NETsの放射性医薬品が米国でも承認
(2018年1月26日発表)
FDAは、フランスのAdvanced Accelerator Applications(Nasdaq:AAAP)が承認申請したLutathera(lutetium Lu 177 dotatate)をソマトスタチン受容体陽性胃腸膵神経内分泌腫瘍(GEP-NETs)用薬として承認した。
ソマトスタチン類縁体をルテチウム177で標識した放射性医薬品。欧州では昨年9月に承認された。日本は15年に富士フイルムRIファーマが導入。
AAA社はノバルティスに39億ドルで買収される予定。
リンク: FDAのプレスリリース
Synergy社、Trulanceが適応拡大
(2018年1月25日発表)
Synergy Pharmaceuticals(Nasdaq:SGYP)のTrulance(plecanatide)をIBS-C(便秘型過敏性腸症候群)の治療に用いる適応拡大がFDAに承認された。uroguanylinというナトリウム利尿ペプチドの類縁体で、GC-C受容体を作動しCFTRクロライド・チャネルを開口する。昨年、慢性特発性便秘治療薬として初承認された。
3mgを一日一回、経口投与する。6mgも申請されたが承認されなかった。第三相試験の一本では総合反応率が21%と偽薬群の14%を上回り、もう一本も30%対17%で上回った。有害事象は下痢など。
前臨床で若年マウスに脱水が見られたため、6歳未満は禁忌、6~18歳は使用を回避すべきとの枠付き警告が記されている。
リンク: Synergyのプレスリリース
EUでアドセトリスの適応拡大承認
(2018年1月23日発表)
シアトルジェネティクス(Nasdaq:SGEN)が創製し欧州では武田薬品が販売するAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を再発性CD30陽性皮膚T細胞リンパ腫に用いる適応拡大がEUで承認された。米国でも11月に承認されている。
Adcetrisは抗CD30抗体に細胞毒を結合した抗体薬物複合体。ホジキンリンパ腫や全身性異形成大細胞リンパ腫の再発治療薬として承認されている。皮膚T細胞リンパ腫の5割がCD30を発現している。
リンク: 武田のプレスリリース
今週は以上です。
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