ヘッダーナビゲーション

2025年7月26日

第1127回

【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、光速審査プロジェクトの申込受付を開始 
  • アストラゼネカ、全身性重症筋無力症新薬の第3相が成功 
  • 睡眠時無呼吸用コンビ薬、二本目の第3相も成功 
  • miR-124エンハンサーの潰瘍性大腸炎試験が成功 
  • サン、イルミアの乾癬性関節炎試験が成功 
  • ロシュ、抗ST2抗体のCOPD試験は一勝一敗に 
  • EBVの細胞療法を承認申請 
  • JNJ、経口IL-23Rアンタゴニストを尋常性乾癬に承認申請 
  • BMS、ソーティクツを乾癬性関節炎に適応拡大申請 
  • X-ALD治療用PPARガンマ作動剤を欧州で再申請 
  • Replimuneのウイルス療法は審査完了に 
  • CHMP、NPC治療薬などの承認を支持 
  • EMA、エムポックス治療薬の薬効を再検討 
  • デルゴシチニブが米国でも承認 
  • ブーレンレップが欧州でも承認 
  • Sarepta社、結局、DMD遺伝子療法の販売を一時停止 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【今週の話題】


FDA、光速審査プロジェクトの申込受付を開始
(2025年7月22日発表)

FDAはCommissioner's National Priority Voucher(CNPV:委員長の国家的優先バウチャ)制度の申込受付を開始した。国益に関わる重大な革新的新薬について審査期間を1~2ヶ月に短縮するもの。既存の優先審査バウチャと異なり、譲渡不能。初年度はパイロット・フェーズで最大5件に適用する考えだ。

この制度の狙いは、アメリカの若者の3/4が肥満などの理由で軍務適格性を書くことや、日常的に用いられる薬の原材料等の圧倒的多数が中国由来であることなど、安全保障上の脅威になりかねない現状を是正すること。

具体的には、以下の4項目に該当する薬が制度の対象になる(下記プレスリリースには5項目記されているが申込みサイトでは適用を4項目から選択することになっている)。

  • 米国の医療上の危機に対処する
  • アメリカ人に潜在的に革新的な治療法をもたらす
  • 大きな充足されない医療ニーズに応える
  • 購入可能性を向上する(コストを引き下げる)

  • 下記プレスリリースでは、例として、ユニバーサル・インフルエンザ・ワクチン、希少疾患用薬、多くが罹患する慢性疾患の薬などを挙げている。また、エッセンシャル・メディスン(注射用無菌製剤のジェネリックを例示)の生産を米国にシフトすることや、臨床試験に米国の患者を多く組入れることを挙げている。

    一社につき一品目のみ、CNPV指定を申請することができる。開発段階は問わない。採用されればEメールで連絡が来るが、採用されない場合は何の連絡もない。採否決定は適宜で締め切りがないので、今回駄目でも次回がないとは限らないということなのだろう。

    CNPVに基づき光速審査を受ける開発品は、FDAが指定する場合と、受領者が決める場合があるとのこと。既存の優先審査バウチャとは異なり、上記に該当する重要な開発品自体の承認審査に用いることを想定しているように感じられるが、もし開発がフェールしたら他の薬の審査に適用できるようにしているのではないか。

    審査期間を短縮するために、まず、申請者は書類の最終提出の60日以上前にCMC(化学、製造、管理に関わるもの)とレーベルの草案を提出する。FDAは、Office of the Chief Medical and Scientific Officerの主導で、担当各部署の上席者から組織横断的に組成される審査委員会が審査する。

    FDAの厳格な安全性・薬効標準は維持される。提出内容が不十分だったり、審査が複雑であったりする場合は審査期間が延長されることがある。申請者は照会事項などについて速やかな対応が求められる。

    既存の優先審査制度やファースト・トラック制度などは継続され、複数の制度に指定される可能性もある。

    バウチャの有効期間は2年。薬品が対象で、医療機器や薬品・機器組合せ製品は対象外。

    特許保護期間は限られているので、数ヶ月でも早く発売できれば大きな利益に繋がる可能性がある。不透明な点も多く、また、CNPV指定された品目しか公表されないだろうから事例研究も難しそうだが、See what happens。

    リンク: FDAの発表
    リンク: FDAのFAQs
    リンク: 申し込みサイト

    【新薬開発】


    アストラゼネカ、全身性重症筋無力症新薬の第3相が成功
    (2025年7月24日発表)

    アストラゼネカは、ALXN1720(gefurulimab)の第3相全身性重症筋無力症(gMG)試験で主目的と全ての副次的評価項目を達成したと発表した。数値は未発表。ClinicalTrials.govに登録されている成人向け第3相は一本だけなので、承認申請されるのではないか。

    同社グループのメディミューンは補体C5を標的とする抗体医薬、Soliris(eculizumab)と、その活性成分の長鎖のアミノ酸4個を置換し作用を長期化したUltomiris(ravulizumab-cwvz)をgMGなどの補体調停疾患用薬として販売しているが、ALXN1720はアルブミンに結合する抗体と結合した一本鎖二重特異性抗体。点滴静注ではなく皮下注用で、自己注承認を目指している。

    今回のPREVAIL試験は欧米中国日本などの施設で成人のAChR自己抗体を持つgMG患者260人を組入れて週一回皮下注し、26週間のMG-ADLの変化を偽薬と比較した。臨床的にも有意な差が見られた由。

    リンク: 同社のプレスリリース


    睡眠時無呼吸用コンビ薬、二本目の第3相も成功
    (2025年7月23日発表)

    米国マサチューセッツ州の未上場医薬品開発会社、Apnimedは、AD109の二本目の第3相試験で主目的を達成したと発表した。26年初めに承認申請する考え。

    人には未承認のムスカリン受容体拮抗剤、aroxybutynin(2.5mg)と、ADHD治療薬Stratteraの活性成分でもあるノルエピネフィリン再取込阻害剤atomoxetine(75mg)の固定用量併用法。神経筋に作用して閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)における無呼吸頻度を抑制する。

    今回のLunAIRo試験は標準的治療法であるPAP(持続陽圧呼吸)療法不能または拒否の成人患者680人を米国の施設で偽薬群と試験薬群に無作為化割付けして一日一回、26週間経口投与し、AHI(無呼吸低呼吸指数、回/時間)の変化を比較したところ、ベースライン比で各群6.8%減と46.8%減となり、有意な差があった。51週時点でも有意差が見られた。深刻有害事象は発生しなかった。

    もう一本のSynAIRgyはカナダの施設も参加し、AHIに関する組入れ基準値が若干高めになっているが、概ね似た内容で、試験薬群はAHIが55.6%低下した(偽薬群の数値は未発表)。

    OSA用薬はイーライリリーのGIP/GLP-1作用剤Zepbound(tirzepatide)が24年12月に米国で成人の肥満症患者における中重度OSAに適応拡大した。成人のPAP不能/拒否中重度OSAを組入れた第3相SURMOUNT-OSA試験でAHIが50.7%低下した(偽薬群は3%)。

    リンク: Apnimedのプレスリリース


    miR-124エンハンサーの潰瘍性大腸炎試験が成功
    (2025年7月22日発表)

    フランスのAbivax(Euronext Paris:ABVX)はABX464(obefazimod)が第3相中重度活性期潰瘍性大腸炎インダクション試験二本で主目的などを達成したと発表した。維持療法試験も進行しており、26年第2四半期に予定される解析が良好な結果になったら下期に欧米で承認申請する考え。

    炎症促進的サイトカインやキモカインをダウンレギュレートする体内のマイクロRNA、miR-124を増強する小分子薬。ABTECT-1と同2試験に夫々約640人を組入れて、偽薬、25mg、または50mg群に1:1:2割付けし、一日一回経口投与を8週間反復投与した。FDA基準の主評価項目である臨床的寛解率は、ABTECT-1試験では各群2.5%、23.8%、21.7%、同2試験では各6.3%、11.3%、19.8%となり、25mg群は前者の試験だけ偽薬比有意、50mg群は二本とも有意だった。

    欧州基準の共同主評価項目の一つである内視鏡的改善達成率は、同様に、各群5.7%、37.5%、33.3%と、各群10.1%、22.0%、35.5%となり、両用量とも二本とも有意差があった。もう一つの症候的寛解率は、各群17.7%、42.5%、41.2%と各群22.0%、33.3%、40.3%となり、両用量とも二本とも有意差があった。

    副次的評価項目である臨床的反応率も両用量、二本とも有意差があった。

    治療時発現有害事象による治験離脱や深刻治療時発現有害事象は各群大きく異なってはいないが、二本の試験で区々な結果なのが気にかかる。免疫抑制療法の重大な副作用である腫瘍や重度・深刻感染症、日和見症候群は各群大差なかった。

    結果発表と同時に、上期決算発表を8月11日から9月8日に延期すること、及び、6月末の監査前現金・現金等価物残高が61百万ユーロであることを発表した。どのようなインプリケーションがあるのか、良く分からない。

    リンク: 同社のプレスリリース


    サン、イルミアの乾癬性関節炎試験が成功
    (2025年7月21日発表)

    Sun Pharmaceuticalは、Ilumya(tildrakizumab-asmn)の第3相活性期乾癬性関節炎試験二本で主目的を達成したと発表した。データは未発表。米国で適応拡大申請を検討している様子だ。

    MSDから承継した抗IL-23p19抗体。18~20年に米、EU、日本で中重度尋常性乾癬治療薬として承認された。今回、抗TNF薬歴を持つ患者を組入れたINSPIRE-1試験と、未経験の患者を組入れた、日本も参加したINSPIRE-2試験で、主目的の24週ACR20達成率に偽薬比有意な差があった。用量は100mg12週毎皮下注で、乾癬とは異なり第4週の投与は不要。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ロシュ、抗ST2抗体のCOPD試験は一勝一敗に
    (2025年7月21日発表)

    ロシュはRG6149(astegolimab)の中重度COPD維持療法試験が一勝一敗になったと発表した。僅かな違いで明暗が分かれたように見えるが、いずれにせよ、増悪抑制効果はそれほど高くなさそうだ。好中球増多型ではない患者における成績はどうだったのだろうか?

    IL-33の受容体であるST2に結合する完全ヒト抗体。16年にアムジェンのAMG 282をライセンスした。COPD領域のバイオ薬はGSKの抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab)やRegeneron Pharmaceuticalsの抗IL-4R抗体Dupixent(dupilumab)が好酸球増多型COPDに承認されているが、抗ST2抗体は好酸球が増加していないタイプにも効果が期待されていた。

    二本の試験はどちらも、喫煙/喫煙歴があり、中重度増悪歴を持ち、二剤以上の維持療法薬による治療を受けている患者に追加する便益を検討した。4週毎皮下注と2週毎皮下注の中重度増悪(年率)を偽薬と比較した。1301人を組入れた後期第2相のALIENTO試験は2週毎投与群の増悪が偽薬群を15.4%下回り、有意な差があった。日本も参加した、1375人を組入れた第3相ARNASA試験は2週毎皮下注群が偽薬を14.5%抑制したが有意水準には達しなかった。両試験とも、偽薬群の増悪が想定より少なかった。

    第2相COPD試験は490mgを4週毎皮下注した。結果は明らかではないが、第3相で2週毎を追加したということは、満足のいくものではなかったかもしれない。

    リンク: ロシュのプレスリリース

    【承認申請】


    EBVの細胞療法を再承認申請
    (2025年7月24日発表)

    米国カリフォルニア州の新薬開発企業、Atara Biotherapeutics(Nasdaq:ATRA)は、米国でtabelecleucelを再び承認申請したと発表した。審査期限は26年1月10日。

    ドナー由来のT細胞をエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)で感作したB細胞と会合させた上で培養した、他家細胞療法。2歳以上のEBV陽性移植後リンパ増殖性疾患の二次治療に単剤投与する。小規模なALLELE試験に基づき22年にEUで例外的環境条項に基づく承認を得た。財務的理由により、欧州の販売権を持っていたPierre Fabreが承認を継承するとともに、23年には、米国を含む全世界の開発販売権を取得した。

    米国では24年に承認申請し優先審査を受けたが、第3者における製造問題により、今年1月に審査完了通知を受領していた。

    リンク: Ataraのプレスリリース(Fabre社のリリースと異なりPDUFA日が記載)


    JNJ、経口IL-23Rアンタゴニストを尋常性乾癬に承認申請
    (2025年7月21日発表)

    ジョンソン エンド ジョンソンはJNJ-2113(icotrokinra)を12歳以上の成人小児の尋常性乾癬用薬として米国で承認申請したと発表した。バイオ薬に似ているがペプチド薬で経口投与できる。二本の試験で効果がdeucravacitinib(ブリストル マイヤーズ スクイブの経口TYK2阻害剤Sotyktu)を上回った。

    Protagonist Therapeutics((Nasdaq:PTGX)との共同創薬研究の成果。第3相ICONICシリーズの試験のうち、日本が参加しなかったTOTAL試験では患部が頭部、生殖器、手掌または足裏の患者を組入れて標的部位における奏効率を偽薬と比較した。日本も参加した3本のうちLEAD試験は偽薬と比較、ADVANCE-1と-2は副次的評価項目であるdeucravacitinib群との比較でもIGA奏効率が有意に上回った。

    リンク: JNJのプレスリリース


    BMS、ソーティクツを乾癬性関節炎に適応拡大申請
    (2025年7月21日発表)

    追われる立場になったブリストル マイヤーズ スクイブは、選択的アロステリックTYK2阻害剤Sotyktu(deucravacitinib)を成人の活性期乾癬性関節炎に適応拡大を進めている。6月に日本で一変申請されたが、米国でも申請が受理された。審査期限は26年3月6日。欧州や中国でも申請が受理されたとのこと。

    バイオ薬未経験の患者を組入れた第3相POETYK PsA-1試験と、TNF阻害剤歴のある患者も組み入れた同PsA-2試験でACR20が偽薬群を有意に上回った。後者はapremilast(アムジェンのOtezla)群も設定されたが、安全性を見るための参考群に過ぎないようだ。

    リンク: BMSのプレスリリース


    X-ALD治療用PPARガンマ作動剤を欧州で再申請
    (2025年7月23日発表)

    スペインのMinoryx TherapeuticsとドイツのNeuraxpharm Groupは、Nezglyal(leriglitazone)を小児と成人の男性のX染色体関連副腎白質ジストロフィー(X-ALD)治療薬としてEUに再承認申請し受理されたと発表した。22年の初申請はCHMPにエビデンス不十分と評価された。今回は小児試験のデータも取得できているので前進する可能性もあるが、どうだろうか。米州中心の第3相も進行中で26年に成否判明する見込み。死亡、寝たきり、または永続的呼吸補助という重大なイベントのリスクを評価しているので、こちらのほうが真価を測れそうだ。

    リンク: 両社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    Replimuneのウイルス療法は審査完了に
    (2025年7月22日発表)

    Replimune Group(Nasdaq:REPL)は米国でRP1(vusolimogene oderparepvec)を成人の抗PD-1薬歴を持つ進行黒色腫にnivolumab(BMSのOpdivo)と併用する薬として加速承認を申請していたが、審査完了通知を受領した。同社によると、指摘事項は承認審査中の会議では指摘されなかったとのこと。トランプ政権下のFDAが審査を厳しくしたのか、それとも、新興企業に良くある、相手がNoと言わなければ問題なしというポジティブ・シンキングの転帰なのか、良く分からない。

    15年に米欧で承認されたアムジェンの悪性黒色腫用薬Imlygic(talimogene laherparepvec)は、HSV-1にGM-CSFの遺伝子を組入れて腫瘍に注射した後の免疫刺激性を高めたものだが、RP1は更にGALV-GP R-(テナガザル白血病ウイルスのエンベロープ糖蛋白のR-モジュレータ)の遺伝子を組み込んだもの。抗PD-1薬で8週間以上治療して疾病安定化以上の反応がなかった患者140人を組入れて、RP1を2週毎8回局所投与し、第3週からnivolumabも2週毎29回投与した第2相IGNYTE試験でORR(客観的反応率、modified RECIST 1.1に基づく独立中央評価)が33.6%、メジアン反応持続期間は35ヶ月超だった。G4有害事象は肝臓酵素やビリルビンの上昇、サイトカイン放出症候群、心筋炎、肝サイトーシス、脾臓破裂など。G5は発生しなかった。

    ところが、FDAは、この試験は十分かつ適切に管理された試験とは言えない、被験者が不均質であるために治験成績の適切な解釈が困難、などの点を指摘した。同社は、昨年の投資家向けミーティングで、本試験はFDAの提案を取り入れて多様な患者を組入れたと言及しており、梯子が外されたどころか天地をひっくり返されたように感じているかもしれない。

    確認的試験のデザインに関する提案もあった由。昨年7月に第3相IGNYTE-3実薬対照試験が始まっているはずだが、これではだめなのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース


    CHMP、NPC治療薬などの承認を支持
    (2025年7月26日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: EMAのプレスリリース

    米国テキサス州のIntraBioが申請したAqneursa(levacetylleucine)はアミノ酸の一種であるロイシンの類縁体。希少疾患のニーマン・ピック病のうち、NPC1/2蛋白の異常を伴うC型に、不耐でなければmiglustatと併用する。水などに混ぜて一日3回投与する。

    適応になるのは6歳以上体重20kg以上の小児と成人。24年9月に承認された米国の年齢不問、体重15kg以上と若干異なっている。エビデンスとなる第3相は4歳以上を組入れた。12週の治療で運動失調評価尺度のSARA(ベースライン値は15.8点)が2点低下、偽薬群は0.6点低下で統計学的な有意差があった。

    リンク: EMAのプレスリリース

    カルビスタ ファーマシューティカルズ(Nasdaq:KALV)のEkterly(sebetralstat)は経口血漿カリクレイン阻害剤。12歳以上の遺伝性血管浮腫患者の発作時治療に用いる。米国では今月、承認。日本でも年初に承認申請された。

    リンク: EMAのプレスリリース

    Deciphera Pharmaceuticals(24年に小野薬品が買収)のRomvimza(vimseltinib)はCSF1受容体阻害剤。成人の摘出術不適な症候性TGCT(腱滑膜巨細胞腫)に用いる。30mgを一日二回経口投与した試験でORR(客観的反応率、独立放射線学的評価)が40%だった(偽薬群は0%)。米国では今年2月に承認。

    リンク: EMAのプレスリリース

    Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)のTryngolza(olezarsen)はApoC-IIIの発現を妨げるアンチセンス薬。成人のFCS(家族性カイロミクロン症候群)に、食事療法とともに施行する。米国では昨年12月に承認された。欧州ではSobiが販売する。

    リンク: EMAのプレスリリース

    Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)のVoranigo(vorasidenib)は変異型のIDH1/IDH2を阻害する経口剤。年齢12歳以上体重40kg以上の青年や成人の、IDH1 R132変異またはIDH2 R172変異を伴う、専ら非増強的(non-enhancing)な、グレード2星状細胞腫・乏突起神経膠腫に用いる。摘出術のみを経験し、放射線療法や化学療法が直ぐには必要でない場合に適応になる。40mgを一日一回、経口投与した第3相でPFS(無進行生存期間、盲検独立評価委員会による放射線学的評価)のメジアン値が27.7ヶ月と偽薬群の11.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.39だった。米国では24年8月に承認、同月、日本でも承認申請された。欧日はセルビエが販売する。

    リンク: EMAのプレスリリース

    ギリアド・サイエンシズのYeytu(lenacapavir)は、HIV/AIDS治療薬Sunlencaの活性成分である長期作用性カプシド阻害剤を、HIV感染症の曝露前予防(PrEP)に用いるもの。最初は皮下注用製剤とフィルムコート錠を併用、その後は半年毎皮下注と、投与頻度が少ないことが特徴。感染リスクのある患者を組入れた2本の第3相で100人年当り感染者数がほぼゼロと、この用途でも承認されている一日一回経口投与型合剤、Truvada(tenofovir DFとemtricitabine)の一本では1.69、もう一本では0.93を大きく凌ぐ効果を発揮した。EU域内における審査と並行して、EU-M4all制度に基づいてWHOに加えてウガンダ、ザンビア、ケニア、ナイジェリア、ジンバブエ、南ア、タイ、ベトナムの専門家も参加して域外向け評価も実施され、どちらも肯定的意見となった。

    米国では今年6月にYeztugo名で承認された。

    リンク: EMAのプレスリリース

    バイオジェンのZurzuvae(zuranolone)はSage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)からライセンスしたGABA A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレーター。産後鬱の治療に用いる。米国では23年8月に承認された。米国では大鬱病でも申請されたが審査完了通知を受領した。日本周辺は塩野義製薬がライセンス、昨年9月に大鬱病に承認申請した。

    リンク: EMAのプレスリリース

    イーライリリーのKisunla(donanemab)は抗アミロイド・ベータ抗体。成人の早期アルツハイマー病(症候性軽度認知障害又は軽度アルツハイマー病)で、アポリポタンパクEにエプシロン4変異を持たない、または二組のうち片方だけ変異の患者に用いる。一巡目の審査は否定的意見となったが、二巡目で肯定的意見に転じた。投与スケジュールを見直し禁忌範囲や投与中止条件を拡大するなどの対策を行ったとのこと。おそらく、米国で今月用法変更となった、ARIA(アミロイド関連画像異常)のリスクを緩和する新用量漸増法(350mgバイアルを初回は一本、2回目は2本と一本ずつ増やし4回目以降は4本点滴静注)を採用したのだろう。

    リンク: EMAのKisunla肯定的意見に関するQandA資料

    適応拡大で肯定的意見を得たのは以下の通り(対象年齢拡大は原則として割愛)。

  • ノボ ノルディスクのAlhemo(concizumab):A型/B型血友病のうち、インヒビターを持たない場合でも、凝固因子欠乏がA型の場合は重度、B型は中重度なら、適応とする。日本では24年6月に承認。
  • イーライリリーのTaltz(ixekizumab):年齢6歳以上、体重25kg以上のJIA(若年性特発性関節炎、JPsA(若年性乾癬性関節炎)とERA(付着部炎関連関節炎)) 。
  • BeOne MedicinesのTevimbra(tislelizumab):成人の再発リスクが高い切除可能非小細胞性肺癌。術前は白金薬と併用、術後は単剤を投与する。

  • また、アストラゼネカのCOPD維持療法薬Trixeo Aerosphere(日本名ビレーズトリエアロスフィア、glycopyrronium bromideとformoterol fumarateの吸入用合剤)の新製品が肯定的意見を得た。代替フロンを用いた加圧噴霧式定量吸入器を用いているが、GWP(地球温暖化係数)が99.9%小さい新開発のプロペラントを採用している。

    一方、否定的意見となったのは、ロシュがSarepta Therapeuticsからライセンスしたデュシェンヌ型筋ジストロフィー用遺伝子療法、Elevidys(delandistrogene moxeparvovec)。3~7歳の歩行可能な患者向けに条件付き承認を求めたが、臨床試験で主評価項目が有意水準に達しなかったことや、ジストロフィン量増加と運動能力改善の間に相関関係が確認されていないことなどが理由。アデノ随伴ウイルス74型を用いた遺伝子療法で本剤は2名、開発品で1名が肝臓障害により死亡した件にはCHMPは言及していない。この件により米国では出荷が一時停止。日本では5月に条件付き承認されたが、未発売のようだ。

    リンク: EMAのプレスリリース
    リンク: ロシュのプレスリリース

    更に、カナダのOctane Medical Groupのグループ企業であるTissue Engineering Technologies AGが申請したJelrix(autologous cartilage-derived articular chondrocytes, in-vitro expanded)も否定的意見となった。症候性膝軟骨欠損の治療法で、患者自身から採取した軟骨細胞を培養したもの。100人に施行して5年間追跡した試験で改善が見られたが、CHMPは、対照群が設定されていないことや、手術やリハビリが寄与した可能性もあること、そして、生産管理に関する証跡不足を指摘している。

    リンク: EMAのプレスリリース

    オランダのPrilenia Therapeuticsがハンチントン病治療薬として条件付き承認を求めているNurzigma(pridopidine)も否定的意見となった。第3相試験がフェールしたこと、ドパミンを阻害する薬を服用していない早期の患者には便益が見られたが、CHMPはこのサブグループ分析も含め、エビデンスが不十分と判定した。過去にはアステラス製薬など複数の会社がライセンスしたことがあるsigma-1受容体刺激剤だが、なかなか結果が出ない。

    リンク: EMAのプレスリリース

    好評価されず申請撤回となったのは、まず、スペインのPharmaMarのAplidin(plitidepsin)。難治/再発多発骨髄腫用薬として承認申請され18年に否定的意見を受けたが、審査プロセスで外部委員の利益相反があった模様で、欧州裁判所が申請却下の取消しを命令、今年に入って再審査が始まったところ。

    英国のNorgineがUS WorldMedsからライセンスして小児の高リスク神経芽細胞腫用薬として承認申請したIfinwil(eflornithine)も申請撤回となった。CHMPは対照試験のエビデンスがないことなどを懸念していた模様だ。米国でも諮問委員会で対照試験が可能ならやるべきとの意見もあったが20人中14人が支持、23年にIwilfin名で承認された。Project Orbis制度に基づきFDAの承認審査に参加したオーストラリアやスイスも今年に入って承認した。

    Philogen(BIT:PHIL)は6月にNidlegy(bifikafusp alfaとonfekafusp alfa)の欧州承認申請を撤回したと発表した。全摘可能局所進行性黒色腫に腫瘍内注射した術前療法試験に基づいて申請したが、化学製造管理や臨床成績に関する追加データを求められ期限中の回答が困難であることが理由。EMAによると、薬効面の疑問点もあったようだ。投与したが切除に向かわなかった症例や、投与したが腫瘍が十分に応答しなかった症例が解析対象になっていないのだという。

    腫瘍細胞で発現するfibronectinのExtra Domain Bに結合する抗体、L19を、IL-2やTNFと結合したもの。Sun Pharmaceutical Industriesが欧州などでの販売権等を持っている。


    EMA、エムポックス治療薬の薬効を再検討
    (2025年月日発表)

    EMAは、22年に例外的条項に基づき承認したSIGA Technologies(Nasdaq:SIGA)のオルソポックス・ウイルス疾患治療薬、Tecovirimat SIGAについて、再検討を開始した。順調なら11月に結論が出る予定。米国では18年に、日本でも昨年12月に承認されたところだが、研究者主導の複数のエムポックス治療試験で回復を早める便益が見られなかった。

    米国ではバイオ・テロ懸念を背景に天然痘治療薬として承認されたが、EUや日本ではエムポックスや牛痘も含めた広い適応を持っている。臨床試験で薬効を確認するには感染者の発生が不確実すぎ、偽薬群を設定するのは倫理的な問題があるため、動物試験で薬効を確認した。

    エムポックスが流行し始めたため政府機関や大学が主導してPALM 007試験やSTOMP試験、UNITY試験、PLATINUM試験、PLATINUM-CAN試験などを実施したが、最初の3本では皮膚症状解消(かさぶた形成)までの期間が偽薬群と大差なく、余波でPLATINUM-CAN試験は中止された。PLATINUM試験は患者組入れが少なく中止となっており、主要な試験で未開票なのは欧州のEPOXI試験のみと思われる。

    敗因は明らかではないが、エムポックスは天然痘より症状が軽いことが多く、治療効果が見えにくいのではないか、という意見もあるようだ。重度患者だけの解析データはないのだろうか?

    リンク: EMAのプレスリリース

    【承認】


    デルゴシチニブが米国でも承認
    (2025年7月23日発表)

    レオ ファーマは、FDAがAnzupgo(delgocitinib)を成人の慢性手湿疹の治療薬として承認したと発表した。局所コルチコステロイドに十分応答しないまたは不適な患者に用いる。一日二回、塗布した第3相試験二本で奏効率が一本は19.7%(偽薬群は9.9%)、もう一本は29.1%(同6.9%)だった。

    20年に日本でアトピー性皮膚炎治療薬として承認されたJT/鳥居薬品の局所性JAK阻害剤、コレクチム軟膏の活性成分をクリーム剤として開発したもの。欧州では24年9月に承認された。

    リンク: レオ社のプレスリリース(Businesswire)


    ブーレンレップが欧州でも承認
    (2025年7月24日発表)

    GSKはBlenrep(belantamab mafodotin)がEUで前治療歴のある難治/再発多発骨髄腫用薬として承認されたと発表した。米国では諮問委員会で反対が上回り、審査期限が10月23日に3ヶ月延長されたところだが、日本に続き二番目の主要市場における承認を取得した。

    リンク: GSKのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    Sarepta社、結局、DMD遺伝子療法の販売を一時停止
    (2025年7月21日発表)

    Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は7月22日をもってElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)の出荷を自発的に一時停止した。デュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患した、日欧では適応外の歩行不能な患者から2人の致死的肝障害が発生したことを受け、7月16日に歩行不能者限定で販売・治験停止すると発表していたが、翌日、類似技術を用いた肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)用遺伝子療法の試験でも6月に致死的肝障害が1名で発生していたことが判明。更にその翌日、FDAが歩行可能者向けも含めて自主的出荷停止を要請したが、その時点では、拒否していた。

    方針一転の理由や停止の期間は明確ではない。プレスリリースによると、同社はレーベルに肝障害死2件に関する情報を追加すべく申請しているが、FDAから追加的情報提供を求められ、回答に必要な時間を確保するために出荷停止を決めたとのことだが、LGMDの死亡例に関する詳細情報を収集するのか、遺伝子組換え型ヒトアデノ随伴ウイルス74型をベクターとする遺伝子療法全体の安全性検討や基礎研究が求められたのか、内容によっては停止が長引く可能性もありそうだ。FDAは追加臨床試験を求める方針とも一部で報道されている。

    米国外の開発販売権を持つロシュも、米国承認審査に基づき承認を得た国において、出荷の一時停止を開始した。独自審査を経て承認されたブラジルや日本は対象外で、おそらく現地当局の判断を待つのだろう。EUでは未承認。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/25Apellis PharmaceuticalsのEmpaveli(pegcetacoplan、C3腎症と原発性免疫複合体膜性増殖性糸球体腎炎)
    25/7/29PTC セラピューティクスのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
    25/8推ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
    25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/8/8LENZ TherapeuticsのLNZ100(aceclidine、老視)
    25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
    25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)
    25/8/18Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ)
    25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
    25/8/19Regeneron PharmaceuticalsのEyelea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大)
    25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
    25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
    25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
    25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
    25/9推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、多発骨髄腫ASCT後維持療法
    25/9推バイエルのKerendia(finerenone、心不全追加)
    25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
    25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
    25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
    25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
    25/9/23MSDのKeytruda sc(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
    25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
    25/9/25OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症)
    25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)



    今週は以上です。

    2025年7月19日

    第1126回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • 更年期ホルモン療法が米国で復権? 
    • 武田、ナルコレプシー用薬の第3相が成功 
    • アストラゼネカ、アルドステロン合成酵素阻害剤の最初の第3相が成功 
    • BMS、レブロジルの骨髄線維症試験がフェールも適応拡大申請に向けて協議へ 
    • アストラゼネカ、ALアミロイドーシスの第3相がフェール 
    • Corcept社、relacorilantを卵巣癌でも承認申請 
    • Atara社、移植後リンパ増殖性疾患用薬を再承認申請 
    • バイエル、低量造影剤をEUで承認申請 
    • 髄腔内投与版ゾルゲンスマを承認申請 
    • FDA諮問委員会、レキサルティのPTSD適応拡大を支持せず 
    • FDA諮問委員会、ブーレンレップの用量に疑念 
    • ロシュ、Columviの適応拡大はやっぱり承認されず 
    • シングリックスのプリフィルド・シリンジ版が承認 
    • ケレンディアが心不全に適応拡大 
    • エレビジスの肝毒性問題が波乱の展開 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    更年期ホルモン療法が米国で復権?
    (2025年7月17日発表)

    MedPage Todayの報道によると、Marty Makary FDA長官が招集したパネルが全員一致で閉経期ホルモン療法薬の枠付き警告を削除すべきと結論した。このパネルの性質や影響力がどの程度なのか明らかではなく、同志の集会に過ぎないようにも感じられるが、四半世紀前にWHI(Women's Health Initiative)スタディが途中打ち切りになった時の激震に、揺り返しが起きているようだ。

    WHIスタディは女性医療に関する代表的な大規模観察的試験の一つで、更年期障害の治療におけるエストロゲンやエストロゲン・プロゲスチン併用療法の便益を検討したが、心血管疾患や乳癌が増加する懸念が浮上、途中で打ち切られた。代表的な製品であるワイエス(後にファイザーが合併)のPremarinシリーズの売上高は激減することになった。ところが、その後のサブグループ分析や別研究により、必ずしも全ての患者に有害とは限らない可能性が浮上、様々な揺り戻しが来ている。

    かといって、今回のパネルで結論が出たかというとそうでもなく、各種報道によると、メンバーには利益相反懸念があり、Makary長官自身もWHIスタディに懐疑的な見解を示したことがあるようであり、先入観やバイアスがありそうだ。

    トランプ政権下では、COVID-19ワクチンに接種勧奨範囲についてCDC(疾病管理予防センター)のACIP(ワクチン接種諮問委員会)と学会で意見が対立するなど、国家分裂が医療分野にも広がっている。

    リンク: MedPage Todayの報道

    【新薬開発】


    武田、ナルコレプシー用薬の第3相が成功
    (2025年7月14日発表)

    武田薬品はTAK-861(oveporexton)が第3相ナルコレプシー・タイプ1(NT1)治療試験二本で主目的などを達成したと発表した。26年3月期中に米国などで承認申請する考え。

    NT1は、オレキシン産生ニューロンの著しい減少によるオレキシン欠乏を伴うナルコレプシー。TAK-861はオレキシン2型受容体を作動して代償する。日本も参加したFirstLight試験と、やや小規模なRadiantLight試験薬で、偽薬、低用量、または高用量を一日一回、12週に亘り経口投与したところ、主評価項目である睡眠潜時(暗室で横になったまま覚醒を維持)や副次的評価項目が概ね正常範囲に到達したとのこと。有害事象は不眠、尿意切迫、頻尿など。

    類薬のTAK-994は第2相で肝毒性の早期スクリーニング手法であるHyの法則該当例が発生、開発中止となった。オレキシン受容体は肝細胞や免疫細胞には発現しないためクラス・イフェクトではない可能性があり、投与量が二桁小さいTAK-861は後期第2相で肝毒性や視覚障害事例は認められなかったと当時のプレスリリースに記されていたが、今回はどうだったのだろうか?

    リンク: 武田のプレスリリース


    アストラゼネカ、アルドステロン合成酵素阻害剤の最初の第3相が成功
    (2025年7月14日発表)

    アストラゼネカは、baxdrostatの第3相高血圧症治療試験で主目的と全ての副次的評価項目を達成したと発表した。複数の第3相が進行しているが、どこかの段階で承認申請するのだろう。

    この日本も参加したBaxHTN試験は、管理不良(2種類併用しても治療目標未達)または治療抵抗性(3種類以上併用しても未達)の高血圧症患者796人を組入れて、偽薬、1mg、または2mgを追加する便益を検討した。主目的は12週の座位収縮期血圧。データは未公表だが、両用量とも偽薬比で統計的に有意かつ臨床的に意味のある改善を示した。

    CYP11B2遺伝子がコードするアルドステロン合成酵素を選択的に阻害する経口剤。ロシュのRO6836191をライセンスし開発したCinCor Pharmaを23年に買収して入手した。類薬ではベーリンガー・インゲルハイムのBI 690517やMineralys Therapeutics(Nasdaq:MLYS)のMLS-101(lorundrostat、田辺三菱製薬のMT-4129)も第3相段階。

    リンク: 同社のプレスリリース


    BMS、レブロジルの骨髄線維症試験がフェールも適応拡大申請に向けて協議へ
    (2025年7月18日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブはReblozyl(luspatercept-aamt)が第3相INDEPENDENCE試験で主目的を達成できなかったこと、しかし臨床的に意味のある改善を達成したため欧米当局と承認申請に向けて相談することを明らかにした。第2相試験のデータなど援用可能な支持的エビデンスを持っているのだろうか?

    ActRⅡB(activin receptor type ⅡB)の細胞外領域と免疫グロブリンG1のFC領域の融合蛋白。19~24年に米欧日で骨髄異形成症候群における貧血症治療薬として承認された。欧米ではベータ・サラセミアにおける輸血依存貧血症などにも承認されている。

    今回の試験は成人の輸血が必要な骨髄線維症関連貧血症の治療薬として12週以上輸血なしで済んだ患者の比率を偽薬と比較した。JAK阻害剤と同時使用した。数値は不明だが、治療効果のp値は0.0674とフェールした。但し、主評価項目だけでなく、副次的評価項目の赤血球輸血半減奏効率やヘモグロビン改善奏効率でも、臨床的に意味のある効果が見られたとのこと。

    リンク: BMSのプレスリリース


    アストラゼネカ、ALアミロイドーシスの第3相がフェール
    (2025年7月16日発表)

    アストラゼネカはanselamimabの第3相アミロイド軽鎖(AL)アミロイドーシス試験二本がフェールしたと発表した。臨床的に意味のある改善が見られたサブグループもあった模様であり、承認申請を当局と相談するのではないか。

    この疾患は欠陥形質細胞が産生する折畳み異常のある免疫グロブリン軽鎖が心臓や腎臓などで蓄積し心アミロイドーシスなどを合併する、深刻な希少疾患。推定患者数は世界で74000人。anselamimabは21年に買収したCaelum Biosciencesがテネシー医科大/コロンビア大からライセンスして開発した抗体で、折畳み異常エピトープに結合する。第3相は欧米日本などの施設で一本はMayoステージIIIa、もう一本はIIIbの患者を合わせて406人組み入れて、形質細胞増殖症の標準療法であるCyBorDレジメン(cyclophosphamide、bortezomib、dexamethasone)に追加する便益を検討した。主評価項目は全生存期間だと思っていたが、今回の発表によると、全死亡と心血管入院頻度の傾斜複合評価とのこと。

    類似品を開発しているProthenaはbirtamimabの第3相がフェールした。サブグループ分析で進行患者に良さそうな結果が見られたためMayoステージIVに絞って第3相を実施したが、今年5月にフェールした。GSKのGSK2398852も開発中止になった。但し、anselamimabは軽鎖アミロイド選択性が高く同一視はできないようだ。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    Corcept社、relacorilantを卵巣癌でも承認申請
    (2025年7月14日発表)

    米国カリフォルニア州のCorcept Therapeutics(Nasdaq:CORT)は、CORT-125134(relacorilant)を白金抵抗性卵巣癌用薬としてFDAに承認申請したと発表した。欧州でも第3四半期中に申請する考え。

    経口グルココルチコイド受容体拮抗剤。第3相ROSELLA試験でnab-paclitaxelを投与する前日から3日間、150mgを一日一回投与したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン6.5ヶ月とnab-paclitaxelだけの群の5.5ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70だった。共同主評価項目の全生存期間は中間解析でメジアン16.0ヶ月対11.5ヶ月、ハザードレシオ0.69、p=0.012だった。この試験はどちらが成功すれば成功認定するプロトコル。

    同社は昨年12月に米国で内分泌高コルチゾール血症用薬として承認申請しており、審査期限は25年12月30日。

    コルチゾールは免疫や化学療法を抑制する作用もあり、それ自体が癌を促進する場合もあるようだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Atara社、移植後リンパ増殖性疾患用薬を再承認申請
    (2025年7月14日発表)

    Atara Biotherapeutics(Nasdaq:ATRA)はFDAにEbvallo(tabelecleucel)を再承認申請したと発表した。一巡目はスターティング・マテリアル調達先で発生した製造問題が原因で審査完了通知となったが、解決したのだろうか?

    ドナー由来のT細胞をエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)に感作させたB細胞と会合させて標的性を持たせ、培養したもの。2歳以上のEBV陽性移植後リンパ増殖性疾患の二次治療薬として21年に欧州で承認申請され、22年に承認された。米国はFDAが臨床試験用バッチと商業生産バッチの同等性確認を求めたため遅延、24年5月に承認申請したが、今年1月に審査完了通知を受領していた。

    21年にPierre Fabreが欧州などの販売権を取得、23年に欧州認可を承継、23年に全世界における開発販売権も獲得した。

    リンク: Atara社のプレスリリース


    バイエル、低量造影剤をEUで承認申請
    (2025年7月10日発表)

    バイエルはgadoquatrane(開発コードBAY1747846)をEUで承認申請したと発表した。成人と新生児を含む小児の全身MRI用造影剤。投与量が0.04mmol Gd/kgと標準的なガドリニウム造影剤と比べて60%少なく、承認されればEUで最低になるという。

    リンク: 同社のプレスリリース


    髄腔内投与版ゾルゲンスマを承認申請
    (2025年7月17日発表)

    ノバルティスは、25年上期の決算発表に合わせて、第2四半期にOAV101 IT(onasemnogene abeparvovec)を脊髄性筋萎縮症(SMA)2型用薬として承認申請したことを明らかにした。日本でも下期に承認申請する計画。

    19~20年に米日欧で2歳未満のSMA1型の治療薬として承認されたZolgensmaは60分点滴静注するが、今回の製品は髄腔内投与する。2歳以上の未治療患者を組入れた第3相STEER試験や他剤からスイッチする便益を検討したSTRENGTH試験でHFMSE総スコアがシャム比有意に改善した。

    AAV9をベクターとする遺伝子療法。急性深刻肝障害のリスクが枠付き警告されている。

    尚、SMAは生後6ヶ月未満で発症する1型、6ヶ月以上1年6ヶ月未満で発症する2型、1年6ヶ月以上20歳未満で発症する3型、20代以降で発症する4型に分かれる。

    リンク: ノバルティスのプレスリリース


    【承認審査・委員会】


    FDA諮問委員会、レキサルティのPTSD適応拡大を支持せず
    (2025年7月18日発表)

    FDAは精神薬理学薬諮問委員会を招集し、Rexulti(brexpiprazole)のPTSD(トラウマ後ストレス障害)適応拡大について意見を聞いた。11人中10人が挙証不十分と判定したので、追加試験が求められそうだ。

    大塚製薬とルンドベックが共同開発販売しているD2・5-HT1A部分作動剤で、Abilify(aripiprazole)の類薬。15~18年に統合失調症薬として米日欧で承認され、その後、鬱病のアジャンクト治療にも適応拡大した。

    今回の用法は一次治療として代表的な治療薬の一つであるsertralineと併用するもの。第3相でCAPS-5総スコアの変化をsertraline・偽薬併用と比較したところ、2~3mg/日を滴定投与した試験では-19.2点対-13.6点と有意な差が見られたが、2mg/日群と3mg/日群を設定した固定用量試験は各群-16.5点、-18.3点となりsertraline・偽薬併用群の-17.6点と大差なかった。

    大塚は第2相滴定投与試験と合わせて二勝一敗として承認申請したが、FDAは、第2相は元々、探索的試験であること、そして、薬効を評価するためには多重性を回避する必要があるため大塚はヒエラルキーを付けた事後的解析を行ったが、当初の解析計画の解析順と異なっているため仮説検証的でないこと、などを指摘した(尚、当初解析計画は期中に変更され、ヒエラルキー解析は割愛された由)。

    一次治療薬であるSSRIに十分応答しない患者ではなく、一次治療薬として承認申請したために薬効認定のハードルが上がってしまったという面もあるようだ。

    尚、この承認申請は審査期限が2月8日だったが、1月に諮問委員会上程が決まり、事実上、遅延が決定した。開催が半年後になった理由は不明だが、トランプ政権発足後の一時期、諮問委員会がゼロになったゴタゴタに巻き込まれたのだろう。

    リンク: 両社のプレスリリース


    FDA諮問委員会、ブーレンレップの用量に疑念
    (2025年7月17日発表)

    FDAは腫瘍学薬諮問委員会を招集し、GSKが前治療歴のある難治/再発多発骨髄腫用薬として承認申請した抗BCMA抗体薬物複合体、Blenrep(belantamab mafodotin-blmf)について意見を求めた。bortezomib(Velcade)及びdexamethasoneと併用するBVdレジメンに関しては便益が危険を上回ると判定したのは8人中3人のみ、pomalidomide(Pomalyst)及びdexamethasoneと併用するBPdレジメンに関しては患者代表の一人のみで、承認反対が上回った。便益は明らかであり、8割以上の患者で発生したG3以上の角膜症・視力低下も癌の進行と比べたら深刻ではないのではないかと感じられるが、至適用量をもっと探索すべきというFDA審査担当者の意見に同意する委員が多かったようだ。

    日本では5月に承認され、EUでも同月、CHMPが肯定的意見をまとめたが、米国は審査完了に終わる可能性が出てきた。審査期限は7月23日だが審査期間延長されるだろう。尤も、米国は抗癌剤のオフレーベル使用が盛んであり、NCCNガイドラインなどが推奨を止めない限り、医療には大きな影響はないかもしれない。

    Blenrepは単群試験のORR(客観的反応率)データに基づき難治・再発多発骨髄腫の5次治療に単剤投与する用途・用法で2020年に米欧で加速承認/条件付き承認されたが、3次治療のDREAMM-3試験で単剤投与のPFS(無進行生存期間)がpomalidomide・dexamethasone併用を上回らず、承認取消となった。ところが、承認取消手続きと前後して、二本の二次治療試験が成功、三剤併用のPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)が別の三剤併用を有意に上回った(下表参照)。代表的な二次治療レジメンであるBVdをこれだけ上回ったのは凄い。一方、全生存期間の解析はDREAMM-8試験は成功したが、DREAMM-9試験は、元々、検出力不足であるためか、有意水準には達しなかった。賛成票が少なかったのはこれが原因のようだ。

    図表:Blenrepの第3相試験成績

    DREAMM-7DREAMM-8
    Blenrep用量2.5mg/kg1.9mg/kg(初回は2.5mg/kg)
    投与頻度3週毎4週毎
    PFS メジアン値36.6ヶ月(13.4ヶ月)未到達(12.7ヶ月)
    同 HR0.410.58
    全生存期間 HR0.58(0.43-0.79)0.86(0.60-1.24)
    角膜・視力事象発生率:
    G356%69%
    G421%9%
    注:PFSのカッコ内は対照群の数値、全生存期間ハザードレシオのカッコ内は95%信頼区間
    出所:各種資料から作成

    FDAは加速承認した時から至適用量探索が不十分と考えていて、市販後薬効確認試験で検討するよう求めた。3剤併用する場合の用量決定試験も一群10数人の小規模なもので、第3相で採用された用量の便益や危険が特に優れていたわけでもなかった。第3相の成績を踏まえて、今回、この問題が蒸し返された。回避できる危険は回避する努力をすべき、という訳だ。

    これはBlenrepだけの問題ではないだろう。抗体医薬が結合する生体分子は人と動物で同じではないので、前臨床試験における効果や安全性が小分子薬ほどアテにならない。至適用量は臨床で改めて検討する必要があるが、特に腫瘍学領域では、便益・危険バランスより便益最大化を重視する傾向があることにFDAは予てより疑問を呈してきた。今回、諮問委員会の支持を得たことにより、従来より強い語調で製薬会社に要求するようになりそうだ。

    リンク: GSKのプレスリリース


    ロシュ、Columviの適応拡大はやっぱり承認されず
    (2025年7月18日発表)

    ロシュは抗CD20/CD3二重特異性抗体Columvi(glofitamab-gxbm)を自家造血幹細胞不適な難治/再発びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の二次治療に適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した。欧州では承認されたが、米国は、5月に開催された腫瘍学薬諮問委員会で、エビデンスとなるSTARGLO試験は米国患者の組入れが少なくアジア地区以外の成績が良くないことなどから、患者代表者1名以外の8名が承認を支持しなかった。

    東南アジアや東欧のほうが費用が掛からないため、この数十年でグローバル試験における米国施設の組入れ比率が大きく低下したことにFDAは常々、問題意識を示している。上記試験は1割以下で特に低い(中韓台が過半だった)ことに加えて、アジア地域とそれ以外では成績の偏りが見られ、自家造血幹細胞不適と判定された理由の内容や他の選択肢が異なることが影響した可能性もあるため、米国医療の参考になるとは限らないと見なされた。

    この試験は23年に米国で3次治療薬として加速承認された時の市販後薬効確認試験に指定されていたが、日本も参加する第3相一次治療試験、SKYGLOに変えることも発表された。治験登録によると、27年12月に主解析を行う予定。

    リンク: ロシュのプレスリリース

    【承認】


    シングリックスのプリフィルド・シリンジ版が承認
    (2025年7月17日発表)

    GSKは帯状疱疹ワクチンShingrixのプリフィルド・シリンジ製品が米国で承認されたと発表した。17~18年に米欧日で承認されたオリジナルの製品は、抗原を含有する凍結乾燥製剤をAS01アジュバント含有の懸濁液で溶解してから注射するが、この手間が省ける。欧州などでも承認申請中。

    審査期限は6月20日だったがほぼ1ヶ月遅延した。トランプ政権におけるHHS(米国保健福祉省)やFDAのトップは医療や栄養に関する考え方がコンセンサスとずれており、特にワクチン会社が影響を受けるのではないかと懸念されているので、何があったのか気になるところだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ケレンディアが心不全に適応拡大
    (2025年7月14日発表)

    バイエルはFDAが非ステロイド系ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤Kerendia(finerenone)の適応拡大を承認したと発表した。成人の左心駆出率が軽度低下または保持された(LVEF≧40%)心不全の標準療法に追加する。欧州や日本でも適応拡大申請中。

    日米欧などで7463人を組入れた第3相FINEARTS-HF試験で、eGFR(推定糸球体濾過率)に応じて一日20mgまたは40mgを目標に滴定投与したところ、心不全悪化などの複合評価項目における率比が0.84と偽薬を有意に下回った。心血管死もメジアン32ヶ月間の追跡で発生率8.1%と偽薬群の8.7%を僅かに下回った(但し、ハザード・レシオは0.93、p=0.076)。

    この試験は、実施時期の関係で、いわゆる心不全のファンタスティック4のうちSGLT2阻害剤を服用している患者が14%とあまり多くなかったが、利尿薬やACE阻害剤/ARBは大半の患者が同時使用していた。

    Kerendiaは21~22年に米欧日で二型糖尿病患者の慢性腎疾患の治療薬として承認された。目標最大最大用量は心不全の半分の20mg/日。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    エレビジスの肝毒性問題が波乱の展開

    Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、7月16日に、Elevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)のレーベルを改訂し急性肝障害や急性肝不全の枠付き警告を導入することでFDAと合意したと発表した。死亡例が発生したため。販売中止には至らなかったためか、人員削減や開発品選別などにより年4億ドルのコストダウンを行うことも発表されたためか、下落傾向だった株価が底打ちした。

    ところが、その翌日、Elevidysと同じ遺伝子組換え型ヒト・アデノ随伴ウイルス74型(AAVrh74)をベクターとする別の開発中の遺伝子療法でも6月に死亡例が発生していたことが判明。18日には、FDAが自主的販売停止を要請したがSareptaが断ったとロイターが報道した(7/21追記:FDAプレスリリースで確認された)。同日のIRカンファレンスでは、多くのアナリストが死亡例非公表を難詰したようだ。株価は一転して3割下落した。

    Elevidysはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の遺伝子療法。患者で欠乏するジストロフィンの代わりに分子量が7割小さいマイクロジストロフィンを導入する。23年に米国で、今年5月には日本でも、承認された(米国外ではロシュ/中外が販売)。米国では、審査担当部門の反対を覆して承認を後押しした生物学的製剤部門のヘッド、Peter Marks(M.D., Ph.D.)が、現政権の方針に反対して、先日、退任してしまった。EUは申請から1年経ったが音沙汰ない。難病の貴重な治療手段だが、評価は分かれている。

    枠付き警告は、今年に入って、15歳と16歳の歩行不能なDMD患者が急性肝障害/肝不全で死去したため。この年代の歩行不能患者に承認されているのは米国だけで、Elevidysの投与実績900人超のうち歩行不能は140人のみ。発生率が高いため、同社は対策が確定するまで歩行不能患者に対する投与を臨床試験も含めて停止を決めた。歩行可能幼児向けには引き続き販売する考え。

    リンク: サレプタのプレスリリース(2025年7月16日付)

    今回、死亡例が報告されたのは、SRP-9004。肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)2D/R3型の第1相試験で51歳の男性が肝不全により死亡した。この件でもう一つ、余波がありそうなのは、同社が今年下期に加速承認申請を狙っている、LGMD 2E/R4型用遺伝子療法のSRP-9003だ。LGMDは様々なタイプがあるためタイプが異なれば導入すべき遺伝子も薬効や副作用も異なるのかもしれないが、肝障害の原因がもしAAVrh74ベクターなら、SRP-9003だけ安全とは考え難い。

    何れにせよ、研究調査が進むまで不透明な点が多い。

    リンク: ロイター報道(7/19アクセス) リンク: FDAのプレスリリース(7/19付)


    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/25Apellis PharmaceuticalsのEmpaveli(pegcetacoplan、C3腎症と原発性免疫複合体膜性増殖性糸球体腎炎)
    25/7/29PTC セラピューティクスのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
    25/8推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
    25/8推ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
    25/8推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/8/8LENZ TherapeuticsのLNZ100(aceclidine、老視)
    25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
    25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)
    25/8/18Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ)
    25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
    25/8/19Regeneron PharmaceuticalsのEyelea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大)
    25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
    25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
    25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
    25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
    25/9推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、多発骨髄腫ASCT後維持療法
    25/9推バイエルのKerendia(finerenone、心不全追加)
    25/9/7Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア)
    25/9/22Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症)
    25/9/22バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加)
    25/9/22ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療)
    25/9/23MSDのKeytruda sc(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa)
    25/9/25Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症)
    25/9/25OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症)
    25/9/28サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症)


    今週は以上です。

    2025年7月12日

    第1215回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • EMBARK試験でイクスタンジ追加の延命効果確認 
    • Cogent社、c-KIT阻害剤の承認申請向け試験が成功 
    • 大鵬薬品、InqoviをAMLに適応拡大申請 
    • MSD、日本発の抗HIV-1薬を承認申請 
    • JNJ、Caplytaの統合失調症再燃予防データをsNDA 
    • ハンター症候群用薬を承認申請 
    • ウゴービ高量をEUで承認申請 
    • UltragenyxのMPS IIIA遺伝子療法は審査完了 
    • Capricor社のDMD細胞療法も審査完了 
    • ケサンラの用量漸増法が変更 
    • 経口カリクレイン阻害剤がやっと承認 
    • テビムブラがEUで鼻咽頭癌に適応拡大 
    • 乳児用マラリア治療薬がスイスで承認 
    • PRAC、チクングニア熱ワクチンの高齢者接種停止を解除へ 
    • PRACがクロザピンの検査負担を緩和、バルプロ酸の父性催奇性をさらに検討 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    EMBARK試験でイクスタンジ追加の延命効果確認
    (2025年7月10日発表)

    ファイザーは、アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤Xtandi(enzalutamide)がEMBARK試験で延命効果を示したと発表した。既に欧米では承認されている用法だが、普及に向け追い風になりそうだ。

    この試験は、前立腺癌の根治的全摘/放射線療法を受けた後に、PSA値が9ヶ月で倍増などの生化学的リスク因子が現れたホルモン感受性前立腺癌を対象に、leuprolideと併用する便益などを検討した。5年MFS(無転移生存期間)率が83.5%とleuprolide・偽薬併用群の71.4%を上回り、ハザード・レシオは0.42だった。副次的評価項目のXtandi単剤投与群とleuprolide・偽薬群の解析もハザード・レシオ0.63で成功した。このデータに基づき、米国では23年に、EUでも24年に、単剤・併用共に承認された。

    今回、併用群の全生存期間解析がポジティブな結果になり、単剤投与群も上回るトレンドが示されたようだ。数値は未公表。参考までに、23年に治験成績がAUA(米国泌尿器学会)やNew England Journal of Medicineで発表された時に示された全生存期間の中間解析値は、併用群のハザードレシオが0.59(95%信頼区間0.38-0.91)、p=0.02(中間解析に割り当てられたアルファは0.0001なので有意とは言えない)、単剤群は0.78(同0.52-1.17)、p=0.23だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Cogent社、c-KIT阻害剤の承認申請向け試験が成功
    (2025年7月7日発表)

    Cogent Biosciences(Nasdaq:COGT)は、CGT9486(bezuclastinib)が第2相非進行性全身性肥満細胞症試験で主評価項目と主要副次的評価項目を達成したと発表した。年末に承認申請する考え。

    主目的のTSS(全般的症状尺度)は24週間の治療で24.3点低下、偽薬群の15.4点低下を有意に上回った。先行他社の肥満細胞症試験と異なり、Mastocytosis Symptom Severity Daily Diaryに基づいて評価しているため、効果を見比べることはできない。副次的評価項目のうち血清トリプターゼ(肥満細胞活性化のバイオマーカー)半減奏効率は各群87.4%と0%だった。有害事象は毛髪変色や味覚異常、悪心、ALT/AST上昇など。深刻有害事象の発生率は各群4.2%と5.0%で大差ない。治療関連有害事象による離脱率は5.9%、全てALT/AST上昇によるもので全例解消した。

    第3相GIST(消化管間質腫瘍)試験や承認申請向け進行肥満細胞症試験の結果も年内に判明する見込み。

    KIT D816V変異などエクソン17変異型にも活性を持つc-KIT阻害剤。第一三共の子会社だったPlexxikonからライセンスしたKiq LLCが、20年7月にUnum Therapeutics(Nasdaq:UMRX)の庇を借りて母屋を乗っ取り、10月に現社名に変更した。

    リンク: Cogent社のプレスリリース

    【承認申請】


    大鵬薬品、InqoviをAMLに適応拡大申請
    (2025年7月10日発表)

    大鵬薬品はInqovi(decitabine、cedazuridine)の適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。成人の強化寛解導入療法不適な新患急性骨髄性白血病(AML)にvenetoclax(アッヴィのベネクレクスタ)と併用するもの。本剤はシチジンデアミナーゼ阻害剤と合剤にすることでDNAメチル化阻害剤decitabineの経口投与を可能にしたもので、venetoclaxも経口剤なので利便性がある。審査期限は26年2月25日。

    北米やスペインの施設で実施されたASCERTAIN-V試験の後期第2相ポーションで、101人のうち46.5%が完全寛解を達成した。メジアン生存期間は15.5ヶ月だった。有害事象による治験離脱率は8.9%。60日死亡率は9.9%で、今年のEHA(欧州血液学会)発表に関わる一部報道によると、疾病進行による死亡が3人、有害事象による死亡が7人だった。

    大鵬はエーザイから導入して開発し、20年に米国でMDS(骨髄異形成症候群)とCMML(慢性骨髄探求性白血病)に承認取得した。EUでは承認されなかったが、23年に薬物動態試験に基づき標準的寛解導入療法不適な新患AMLに単剤投与する用途に、Inaqovi名で、承認された。

    リンク: 同社のプレスリリース


    MSD、日本発の抗HIV-1薬を承認申請
    (2025年7月10日発表)

    MSDは米国でMK-8591A(doravirine、islatravir)を承認申請し受理されたと発表した。成人のHIV-1感染症で、抗レトロウイルス療法によりウイルスを抑制できている患者がスイッチするもの。審査期限は26年4月28日。

    18年に欧米で承認された非ヌクレオシド逆転写阻害剤Pifeltroの活性成分と、新開発・新作用機序のヌクレオシド系逆転写酵素トランスロケーション阻害剤islatravirの固定用量合剤。一錠を一日一回経口投与するだけで足りる。Biktarvy(bictegravir/emtricitabine/tenofovir alafenamide)からスイッチする便益を検討した試験でも、様々な併用レジメンからスイッチした試験でも、RNA量が50コピー/mLを上回るようになってしまった患者の比率が治験前と同じレジメンを継続投与した群と非劣性だった。

    islatravirは横浜薬科大の大類洋博士らがヤマサ醤油と満屋裕明国立国際医療研究センター研究所長と共同研究開発したもの。ウイルスのDNA鎖に紛れ込んで伸長を妨げる。半減期が長く、週一回投与も可能となるはずだったが、MK-8507(ulonivirine)と併用した試験でリンパ球数やCD4+T細胞が減少してしまう現象が見られ、FDAが治験停止を命じたことがある。その時点でMK-8591Aの第3相は二本が成功していたが、新たに、islatravirの用量を0.25mgと1/3に減らして追加第3相を実施、上記の成果を上げた。二本とも、総リンパ球数やCD4カウントの変化は対照群と大差なかったようだ。

    リンク: MSDのプレスリリース


    JNJ、Caplytaの統合失調症再燃予防データをsNDA
    (2025年7月8日発表)

    ジョンソン エンド ジョンソンは、Caplyta(lumateperone)の統合失調症継続投与試験、304試験のデータをFDAにsNDA(追加的承認申請)した。19年に統合失調症の急性期治療薬として承認された時に課された市販後試験の一つで、Caplyta投与に応答した患者を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付けして26週間追跡し、症状再燃までの期間を比較したもの。ハザード・レシオは0.37、偽薬群は38.6%が再燃を経験したのに対して、継続投与群は16.4%だけだった。他の統合失調症治療薬と同様に、急性期を脱した後も治療を続ける便益が明らかになった。

    4月に子会社化したIntra-Cellular TherapiesがBMSからライセンスして開発した、選択的5-HT2A受容体アンタゴニスト。米国で双極性障害IまたはIIの鬱症状の治療にも承認されており、昨年12月には、鬱病にも適応拡大申請された。

    リンク: JNJのプレスリリース


    ハンター症候群用薬を承認申請
    (2025年7月7日発表)

    米国カリフォルニア州のDenali Therapeutics(Nasdaq:DNLI)は米国でDNL310(tividenofusp alfa)を承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は26年1月5日。

    ハンター症候群(MPS II)の酵素補充療法。患者で欠乏するIDS(iduronate-2-sulfatase)を、トランスフェリン受容体などの輸送体に結合する装飾Fc領域と細胞融合して、血管脳関門通過性を持たせたもの。日本で21年に承認されたJCRファーマのイズカーゴ(パビナフスプアルファ)と似ている。

    欧州米州の第1/2相試験で47人24週間投与したところ、脳脊髄液中のヘパラン硫酸が90%低下し、全員が正常またはそれに近い水準に低下した。このデータで加速承認を取得し、進行中の第2/3相COMPASS試験(ヘパラン硫酸やVineland Adaptive Behavior Scaleの変化を武田/シャイア/ジェンザイムのElaprase(idursulfase)と比較)で本承認切替を図る。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ウゴービ高量をEUで承認申請
    (2025年7月8日発表)

    ノボ ノルディスクは肥満症治療薬Wegovy(semaglutide)の高量版をEUで承認申請したと発表した。他地域での申請状況は不明。

    GLP-1作用剤Wegovy/Ozempicの最大承認用量は、肥満症/リスク因子を持つオーバー・ウェイトの治療では2.4mg、二型糖尿病では2mg。同社は肥満症のSTEP UP試験と肥満且つ二型糖尿病のSTEP UP T2D試験で7.2mgの体重管理効果を偽薬と72週に亘り比較したところ、共同主評価項目の体重減少率と5%減量奏効率が、trial product estimandベース(試験対象の効果を知るためにプロトコル順守例/順守期間だけを解析)でも、treatment policy estimandベース(実医療における便益を知るために投与中止例なども含めて解析、米国のレーベルにはこちらのデータが収載される)でも、有意に上回った。7.2mg群は2.4mg群と比べても数値が上回った。胃腸有害事象の発生率は2.4mgと大差無さそうだが、T2D試験ではジセステジア(異常感覚)の発生率が7.2mg群は18.9%、2.4mg群は4.9%、偽薬群は0%となった。尚、二型糖尿病の血糖管理に関しては2.4mgと大差無さそうだ。

    図表:セマグルチド高量試験の体重減少率

    7.2mg群2.4mg群偽薬群
    STEP UP試験
    treatment policy estimandベース18.7%15.6%3.9%
    trial product estimandベース20.7%17.5%2.4%
    STEP UP T2D試験
    treatment policy estimandベース13.2%10.4%3.9%
    trial product estimandベース14.1%10.7%3.6%
    出所:各種資料から作成


    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    UltragenyxのMPS IIIA遺伝子療法は審査完了
    (2025年7月11日発表)

    Ultragenyx Pharmaceutical(Nasdaq:RARE)はUX111(rebisufligene etisparvovec)をMPS IIIA(Sanfilippo症候群A型)用薬として加速承認するようFDAに申請していたが、審査完了通知を受領した。CMC(化学、製造、管理)に関わる指摘があった。臨床成績や治験実施施設の査察に関わる指摘事項はなかった由。対処して早期に再承認申請する考え。

    患者で欠乏するSGSH(N-sulfoglucosamine sulfohydrolase)遺伝子をAAV9ベクターを用いて中枢神経組織などに導入し、欠乏によるグリコサミノグリカンの蓄積を防ぐもの。臨床試験で脳脊髄液ヘパラン硫酸を抑制する作用などを示した。Abeona Therapeutics(Nasdaq:ABEO)からライセンスした。

    尚、審査期限は8月18日だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Capricor社のDMD細胞療法も審査完了
    (2025年7月11日発表)

    Capricor TherapeuticsはCAP-1002(deramiocel)をデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。薬効確認不十分と判定されたようだ。CMC(化学、製造、管理)に関わる追加データも提出したが審査が間に合わなかった模様。104人を組入れた第3相試験が進行中で、同社のロサンジェルス施設製造品を用いたコフォートAは既に結果が出た模様だが成否は未公表、サンディエゴ施設品のコフォートBは今四半期中の開票の予定で、成功なら再申請する考え。

    心筋を含む他家心細胞塊由来の細胞医療製品。分泌されるエクソソームが、酸化ストレス・炎症・線維化の低減や筋細胞生成の増加を促し、運動機能や心機能を改善すると考えられている。第2相HOPE-2試験で上腕機能低下を伴う20人を組入れて偽薬または1.5億セルを3ヶ月毎に4回点滴静注したところ、PUL(上腕機能)が偽薬比有意に改善した。自然歴対照試験も実施された。6月に連邦官報の事前公表版で7月30日の諮問委員会に上程されることが明らかになったが、直ぐに取り消された。

    日本新薬が米国や日欧などでの販売権を保有している。

    尚、審査期限は8月31日だった。期限前に承認された事例は少なくないが、1ヶ月以上残して審査完了通知を、しかも2案件連続で、出すのは異例のように感じる。もしかしたら、長官が審査担当センターの評価の妥当性を検討する時間を確保するために、あるいは、承認審査を1~2ヶ月で終わらせる新しい制度の導入を前に、従来より早く審査を進めるよう促しているのだろうか?

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    ケサンラの用量漸増法が変更
    (2025年7月9日発表)

    イーライリリーは、FDAがアルツハイマー性軽度認知障害・軽度認知症の治療薬Kisunla(donanemab-azbt)の投与スケジュール変更を承認したと発表した。ARIA-E(アミロイド関連画像異常-浮腫)の発生率低下が見込まれる。

    24年に米国で承認された時の投与スケジュールは、最初の3回は700mg(350mgバイアル二本)、4回目以降は維持用量の1400mgと二段階漸増だった。新用法は、350mg、700mg、1050mg、そして1400mgと細かく漸増するもの。3種類の投与スケジュールを承認用法と比較した後期第3相TRAILBLAZER-ALZ 6試験で、新用法はARIA-E発生率が16%と承認用法の25%を下回った。高リスク遺伝子型であるApoE4ホモ接合型では各24%と57%だった(但し各群21人とサンプル数が小さい)。ARIA-H(アミロイド関連画像異常-出血)の発生率は25%対28%で有意差なし。ApoE4ホモ接合型では29%対48%だったが有意水準には達していない(レーベル記載値・・・学会/論文発表値とはやや異なる)。

    他の安全性評価項目は大差なかった。薬効指標であるアミロイド・プラク減少量も大差なかった。

    尚、他の漸増法をテストした2群におけるARIA-E発生率は18%台だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    経口カリクレイン阻害剤がやっと承認
    (2025年7月7日発表)

    米国のカルビスタ ファーマシューティカルズ(Nasdaq:KALV)は、FDAがEkterly(sebetralstat)をHAE(遺伝性血管浮腫)の治療薬として承認したと発表した。12歳以上の患者が急性発作を起こした時に600mg(300mg錠2個)を経口投与する。急性期治療用の経口剤は初めて。第3相KONFIDENT試験で症状緩和までの時間が偽薬比有意に短かった。有害事象は頭痛など。禁忌は重度肝障害やCYP3A4の中高度インデューサー/高度インヒビター併用。

    PDUFA(処方薬ユーザー課金法)に基づく審査期限は6月17日だった。一部報道によると、遅延したのは、Marty Makary FDA委員長が理由を明らかにしないまま審査担当部署の意見を覆し審査完了通知を出す方向で圧力をかけたためだという。

    欧州や日本(科研製薬がライセンス)でも承認申請中。

    リンク: 同社のプレスリリース


    テビムブラがEUで鼻咽頭癌に適応拡大
    (2025年7月10日発表)

    BeOne Medicines(Nasdaq:ONC)はEUでTevimbraが鼻咽頭癌に適応拡大したと発表した。成人の、根治切除/放射線療法が適応にならない転移/難治鼻咽頭癌の一次治療に、gemcitabine及びcisplatinと併用する。5月にCHMPを通過していたが、当方が報告し落としてしまった。

    中台タイの施設で実施された第3相無作為化割付け二重盲検試験、RATIONALE-309の中間で、PFS(無進行生存期間)のメジアン値が9.2ヶ月とgemcitabine・cisplatin・偽薬併用群の7.4ヶ月を上回り、ハザード・レシオは0.52、統計的に有意だった。

    FDAは専ら中国で実施された試験の信憑性に懐疑的だが、EUはエビデンスとして受け入れている模様で、Tevimbraは今回の承認で適応対象が5種類の臓器の癌に拡大した。

    リンク: 同社のプレスリリース


    乳児用マラリア治療薬がスイスで承認
    (2025年7月8日発表)

    ノバルティスは、Coartem Baby/Riamet Babyがスイスで承認されたと発表した。Marketing Authorization for Global Health Products制度に基づきアフリカの8ヶ国(Burkina Faso、Côte d'Ivoire、Kenya、Malawi、Mozambique、Nigeria、Uganda、そしてTanzania)やWHOも審査に参加しており、ノバルティスがこれら8ヶ国で申請すれば90日以内の承認が見込まれる。

    Medicines for Malaria Ventureと共同で開発した急性非複雑性マラリア感染症治療薬。2009年に米国で承認され、2016年に日本で、2019年12月にはスイスでも承認された。経口投与できる点が長所。米国では生後2ヶ月以上且つ体重5kg以上が適応。スイスでは体重5kg以上が適応だったが、今回の新製剤の承認で2kg以上5kg未満の患者も治療できるようになった。

    リンク: 同社のプレスリリース
    リンク: Swissmedicのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    PRAC、チクングニア熱ワクチンの高齢者接種停止を解除へ
    (2025年7月11日発表)

    EMA(欧州薬品庁)のファーマコビジランス委員会、PRACは、Valneva(Euronext Paris:VLA)の弱毒化生チクングニア熱ワクチンIxchiqの高齢者接種停止を解除すると発表した。フランスや米国で接種後にチクングニア熱感染症や脳炎を発症した症例が報告されたため、殆どを占めた65歳以上の接種を4月にフランスが停止、5月にはPRACも暫定的な措置として禁止していたが、チクングニア感染時のリスクが高くワクチンの便益が大きいのもこの年齢層であることから、解除を決めた。感染リスクが高い人が便益と危険を十分に検討した上で接種する。免疫低下者は従来通り禁忌。

    米国でも5月にFDAとCDC(疾病管理予防センター)が65歳以上の接種停止を勧奨する考えを示したが、どうなっただろうか?尚、5月時点では深刻有害事象数は17例、うち2人死亡と発表されていたが、今回、28例、3人死亡に増加した。世界の累計接種数は43400回。

    リンク: PRACのプレスリリース


    PRACがクロザピンの検査負担を緩和、バルプロ酸の父性催奇性をさらに検討
    (2025年7月11日発表)

    PRACは向精神薬clozapineに関する規制を一部緩和することを決めた。また、抗癲癇薬valproateに関して、新しい研究結果が出たため検討を継続することを明らかにした。

    clozapineは1960年代に登場し、従来の向精神薬に十分応答しない統合失調症にも有効な非定型向精神薬として重宝されたが、深刻な好中球減少リスクがあるため、定期的にANC(好中球絶対数)検査を行う必要がある。深刻な好中球減少症の発生時期は治療開始後1年、特に最初の18週間がほとんどなので、今回、PRACは、検査頻度を1年経ったら12週毎、2年経過後は年1回に減らすことを決定した。

    発売から30年以上経ち、副作用監視や発生時の対処法が浸透したことなどから、医療従事者や患者の負担を一部緩和する動きが他国でも出ている。米国では今年2月にREMS(リスク評価緩和戦略)が解除され、ANC検査の頻度は治療開始後6ヶ月経ったら2週毎、1年経ったら月一回、に変更された。

    valproateは癲癇や双極障害、国によっては片頭痛にも承認されている。胚胎毒性を持つが、この薬にしか反応しない患者もいるので、完全な妊婦禁忌にはなっていない。今回俎上に上がっているのは、精子を通じて胚胎移行するリスク。EMAはvalproate製剤の承認の条件として市販後に神経発達障害などのリスクを他の抗癲癇薬(lamotrigineまたはlevetiracetam)と比べる後顧的観察的試験を実施するよう求めた。IQVIAが受託してデンマーク、ノルウェー、スエーデンの患者登録データを集計解析したところ、修正ハザード・レシオが1.50(95%信頼区間1.09-2.07)となったため、昨年1月にPRACが予備的注意勧告を行った。

    ところが、Christensenらがデンマークだけのデータを用いて父親がvalproateに曝露したグループとそうでないグループの比較を行ったところ、修正ハザード・レシオは1.10(同0.88-1.37)となった。修正前の数値は1.59(1.28-1.96)だが、父親が精神疾患、などの交絡因子を調整すると有意性が失われた。ということは、valproateのリスクではなく病気自体、あるいは同じ疾病の薬全般のリスクである可能性も否定できないことになる。今年5月に刊行されたlamotrigine・levetiracetam曝露例との比較研究ではハザード・レシオは修正前で0.99、修正後で1.02と大差なかった。

    PRACは検討を継続する考え。

    リンク: PRACのプレスリリース
    リンク: Christensenらの試験論文(JAMA Network Open、2024年)
    リンク: 同(同、2025年)

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
    25/8推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
    25/8推インサイトのZynyz(retifanlimab-dlwr、肛門扁平上皮癌に適応拡大)
    25/8推ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
    25/8/8LENZ TherapeuticsのLNZ100(aceclidine、老視)
    25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
    25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)
    25/8/18Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ)
    25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
    25/8/19Regeneron PharmaceuticalsのEyelea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大)
    25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
    25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
    25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
    25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
    諮問委員会
    25/7/17ODAC:GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/18PPDAC:大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)



    今週は以上です。

    2025年7月5日

    第1214回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • アムジェン、抗FGFR2b抗体の第3相が成功 
    • モデルナ、mRNA型インフルエンザワクチンの予防試験が成功 
    • コセンティクスの巨細胞性動脈炎試験はフェール 
    • MSD、エアウィンのアウトカム試験データを承認申請 
    • JNJ、EUでAkeegaをHRR変異型ホルモン感受性前立腺癌に適応拡大申請 
    • Regeneronの抗BCMAxCD3も承認 
    • 中華EGFR阻害剤が承認 
    • 抗IFN-gamma抗体がスティル病によるHLH/MASに適応拡大 
    • 二種類のADHD治療薬の6歳未満における体重減少リスク 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    アムジェン、抗FGFR2b抗体の第3相が成功
    (2025年6月30日発表)

    アムジェンはbemarituzumabが第3相試験の中間解析で主目的を達成したと発表した。全生存期間が統計的に有意且つ臨床的に意味のある延長を見せた。

    21年にFive Prime Therapeuticsを19億ドルで買収して入手した、FGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)2bに結合する抗体。このFORTITUDE-101試験はFGFR2bが過剰発現しher2は陰性の進行胃・胃食道接合部(G/GEJ)癌で一次治療を受ける患者を組入れて、mFOLFOX6レジメンに追加する便益を偽薬追加群と比較した。FGFR2b過剰発現の定義は、セントラルラボにおけるIHC(免疫組織染色)法検査で腫瘍の10%以上で2+または3+。進行G/GEJ癌の16%程度が該当するとのこと。試験薬はmFOLFOX6の投与スケジュールに合わせて2週毎に15mg/kgを投与した(但し、第1サイクルは第8日にも7.5mg/kgを投与)。

    データは未公表。類似した内容の第2相FIGHT試験では副次的評価項目である全生存期間のハザードレシオが0.58(メジアンは未達対偽薬追加群12.9ヶ月)、上記のFGFR2b過剰発現の定義に該当するサブグループ96人における事後的解析では0.41(25.4ヶ月対11.1ヶ月)だった。

    特徴的な治療時発現有害事象は視力の低下、点状角膜炎、角膜上皮欠損、ドライ・アイなど眼の異常で、発生率だけではなく重症度も偽薬追加群を上回った。貧血、好中球減少症、悪心なども増加した。


    もう一本、mFOLFOX6またはCAPOXにOpdivo(nivolumab)を追加するレジメンに更に追加して全生存期間の延長を図る第3相も進行中。どちらも日本の施設も参加している。

    リンク: 同社のプレスリリース


    モデルナ、mRNA型インフルエンザワクチンの予防試験が成功
    (2025年6月30日発表)

    モデルナは、mRNA-1010が第3相P304試験で主目的を達成したと発表した。先に成功したP303試験と合わせて、承認申請に向けて当局と相談する考え。

    mRNAベースの季節性インフルエンザ・ワクチン。今回の試験は欧米韓台の施設で50歳以上の40805人を組入れて、インフルエンザ様疾患のリスクを既存の標準用量インフルエンザ・ワクチンと比較した。rVE(相対的ワクチン効率)が26.6%(95%信頼区間16.7-35.4%)と有意に上回った。3種類の対応株におけるrVEも各22~29%、65歳以上においては27.4%、などなど、各種サブグループ分析も成功的な結果になった。

    一本目のP303試験では65歳以上を組入れて当時のスタンダードであった4価ワクチンの免疫原性をサノフィのFluzone HD(高量版)と比較した。何れもGMT(幾何平均抗体価)や抗体陽転率が4ウイルス型それぞれに関して有意に上回った。ワクチンに付き物の有害事象は増加した。

    同社はCOVID-19ワクチンとの二種混合ワクチンmRNA-1083を24年に承認申請したが、トランプ政権下のFDAにP303試験だけでは不十分と見なされ、撤回した。臨床的な便益を確認できたので、本命となるべきmRNA-1083の承認にも視野が開けたのではないか。

    リンク: 同社のプレスリリース


    コセンティクスの巨細胞性動脈炎試験はフェール
    (2025年7月3日発表)

    ノバルティスは、抗IL-17A抗体Cosentyx(secukinumab)の第3相GCAptAIN試験で主目的を達成できなかったと発表した。成人の新患または再発性の巨細胞性動脈炎患者を偽薬、150mg、または300mg群に無作為化割付けして、ステロイド・テイパリング(用量漸減)を進めながら52週間投与し、300mg群の持続的寛解率を偽薬群と比較したが、期待は実現しなかった。副次的評価項目のステロイド累積投与量やステロイド関連毒性は数値上、減少した(偽薬群はステロイドを52週かけて漸減し中止を目指したのに対して、試験薬群は26週かけて漸減・中止を目指すプロトコル)。 

    Cosentyxは米国などで乾癬性関節炎、中重度尋常性感染、強直性脊椎炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、化膿性汗腺炎、付着部関連関節炎、若年性脊椎関節炎に承認されている。

    巨細胞性動脈炎は頭部などの動脈で炎症が発生し様々な症状が出る希少疾患。上記と同様なステロイド・テイパリング試験に基づき中外/ロシュの抗IL-6受容体抗体Actemra(tocilizumab)やアッヴィのJAK1阻害剤Rinvoq(upadacitinib)が米欧日で承認されている。

    リンク: ノバルティスのプレスリリース

    【承認申請】


    MSD、エアウィンのアウトカム試験データを承認申請
    (2025年7月2日発表)

    MSDは肺動脈高血圧症(PAH)治療薬Winrevair(sotatercept-csrk)のレーベルにZENITH試験のデータを追加すべくFDAに承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は10月25日。

    21年にAcceleron Pharma(Nasdaq:XLRN)を115億ドルで買収して入手した、ActRIIA(activin receptor type IIa) とIgG1の融合蛋白。24~25年に米、EU、日本で成人の肺動脈高血圧症(WHOグループI)用薬として承認された。適応範囲は若干異なっており、EUはエビデンスとなった第3相STELLAR試験の組み入れ条件に即してWHO機能クラスIIとIIIに限定、日本も同IとIVにおける有効性及び安全性は確立していないと注記したのに対して、FDAは限定しなかった。

    ZENITH試験は標準療法を受けているWHO機能クラスIIIとIVの患者で死亡リスクが高いと推測される患者を組入れて、Winrevairを追加する便益を検討したもの。STELLAR試験の主評価項目が6分歩行距離であるのに対して、全死亡/肺移植/PAHによる24時間以上の入院という臨床的に重大な転帰を評価した。結果は、メジアン10.6ヶ月追跡の中間解析で発生率が17.4%と偽薬群の54.7%を下回り、ハザードレシオ0.24と有意に抑制された。副次的評価項目の全死亡も7人対13人、ハザードレシオ0.42となったが、成功認定の閾値には到達しなかった。

    STELLAR試験でも副次的評価項目である死亡/臨床的悪化のハザードレシオが0.16で有意だった。ZENITHで再現されたことから、機能クラスIIとIIIで進行リスクが中高度の、PAH診断から1年以内の患者を組入れた第3相HYPERION試験も打ち切られた。

    リンク: MSDのプレスリリース


    JNJ、EUでAkeegaをHRR変異型ホルモン感受性前立腺癌に適応拡大申請
    (2025年7月3日発表)

    ジョンソン エンド ジョンソンはEUでAkeega(niraparib、abiraterone acetate)の適応拡大を申請したと発表した。成人のHRR(相同組換え修復)変異型転移性ホルモン感受性前立腺癌にprednisone(同)と併用する適応を追加する。第3相AMPLITUDE試験でrPFS(放射線学的無進行生存期間)がabiraterone acetate・prednisone(同)併用群を有意に上回り、ハザード・レシオは0.63だった。被験者の2~3割を占めたBRCA変異型では0.52と更に大きな差があった。全生存期間のハザード・レシオは各0.79と0.75で正しい方向を指しているが未だ有意差は出ていない。

    転移性ホルモン感受性(去勢感受性)前立腺癌は転移したがホルモン療法に対する応答性は失われていない状態。その25%程度でHRR変異が見られ、更にその半分はBRCA遺伝子の変異。

    abirateroneはCYP17阻害剤。テストステロンの合成を阻害する。同社のZytigaの活性成分。niraparibはPARP1/2阻害剤。MSDから権利を取得して開発しZejula名で発売までに漕ぎ着けた、Tesaro社(後にGSKが買収)から日本以外の市場で前立腺癌における開発販売権を取得し合剤として開発、23年にEUと米国で成人のBRCA有害変異型転移去勢抵抗性前立腺癌にprednisone(またはprednisolone)と併用する用途用法で初承認されている。日本は武田薬品が開発販売権を保有しているが、今回の適応で開発しているかどうかは不明。

    リンク: JNJのプレスリリース

    【承認】


    Regeneronの抗BCMAxCD3も承認
    (2025年7月2日発表)

    FDAはRegeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)のLynozyfic(linvoseltamab-gcpt)を加速承認した。BCMAとCD3に結合する二重特異性抗体で、成人の難治・再発多発骨髄腫で、プロテアソム阻害剤、IMiD(lenalidomideなどの免疫調停薬)、そして抗CD38抗体を含む4次以上の治療歴を持つ患者が適応になる。LINKER-MM1試験で4次以上の治療歴を持つ80人のサブグループにおけるORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)が70%となり、その72%は12ヶ月時点でも反応を維持していた。

    上記試験は3次以上の治療歴を持つ患者を組入れており、intent-to-treatベースのORRは71%と、上記のサブグループ解析と大差ない。EUでは4月に3次以上に条件付き承認された。なぜ米国は3次治療患者を除外したのか、理由は明らかではない。全例などから考えられるのは、組入れ数が僅少だったのかもしれない。

    枠付き警告はサイトカイン放出症候群(G3以上の発生率は1%未満)とICANS(免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群、G3/4の8%)。先行するCAR-T療法や二重特異性抗体はこれらの副作用に関するREMS(リスク評価緩和戦略)が、不要化されたところで、FDAの方針が変わったのかと思われたが、Lynozyficは課せられた。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: (参考)BMSのREMS解除等に関するプレスリリース(6/26付)


    中華EGFR阻害剤が承認
    (2025年7月2日発表)

    FDAはDizal (Jiangsu) Pharmaceutical(SHEX:688192、迪哲医药)の選択的不可逆的EGFR阻害剤Zegfrovy(sunvozertinib)を加速承認した。成人の白金薬ベースの化学療法中または終了後に進行した、EGFR遺伝子にエクソン20挿入変異のある局所進行/転移非小細胞性肺癌に単剤投与する。中国、米国、日本、韓国などの施設が参加した第2相WU-KONG1B試験で200mgを一日一回、食事と共に経口投与した85人におけるcORR(確認客観的反応率、盲検独立中央評価)が46%、メジアン反応持続期間は11.1ヶ月だった。警告注意事項は間質性肺疾患/肺臓炎、胃腸系有害事象、皮膚有害反応、眼毒性、胚胎毒性。コンパニオン診断薬としてLife TechnologiesのOncomine Dx Express Testも承認された。

    第3相WU-KONG28が市販後薬効確認試験を兼ねると推測される。日本は参加していないようだ。

    中国では上記第2相に基づき23年8月に条件付き承認された。

    リンク: FDAのプレスリリース


    抗IFN-gamma抗体がスティル病によるHLH/MASに適応拡大
    (2025年6月28日発表)

    Swedish Orphan Biovitrum(STO:Sobi)は、FDAがGamifant(emapalumab-lzsg)の適応拡大を承認したと発表した。18年に新生児以上の小児・成人における難治性、再発性、進行性、または従来療法不耐の原発性HLH(血球貪食リンパ組織球症)に承認されたガンマ・インターフェロンに対する抗体で、今回、新生児以上の小児・成人のスチル病(疑い例や全身性若年性特発性関節炎を含む)患者におけるコルチコステロイド不十分応答/不耐のHLH/MAS(マクロファージ活性化症候群)あるいは再発性MASに用いることができるようになった。

    欧州では18年に原発性HLH用途で承認申請されたが、症例数が少なく薬効評価も難しいとして、CHMP(医薬品科学的評価委員会)が否定的に評価した。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    二種類のADHD治療薬の6歳未満における体重減少リスク
    (2025年6月30日発表)

    FDAはamphetamineおよびmethylphenidateの延長放出製剤に関してレーベル変更を行うと発表した。ADHD治療薬として承認されているが、6歳未満の患者に投与すると体重減少を齎すリスクがあるため。6歳未満には承認されていないが、医師は自分の判断で処方することが可能なので、Limitation of Useセクションに曝露が高まり有害反応発生率が高まる旨を記載する。既に4製品のレーベルには記載済みだが、他の製品の薬物動態試験でも同様な懸念が確認されたため、全製品のレーベルに追加すべく製薬会社に要請中。

    6歳未満にも承認されている即放性製剤ではこのようなリスクは見られないとのこと。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】



    PDUFA
    25/6推UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症)
    25/6/17KalVista PharmaceuticalsのKVD900(sebetralstat、遺伝性血管性浮腫)・・・遅延
    25/6/20GSKのShingrix(帯状疱疹ワクチンのプレフィルドシリンジ版)
    25/6/30Sentynl TherapeuticsのCUTX-101(copper histidinate、メンケス病)
    25/7推JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫)
    25/7/20ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療)
    25/7/22ReplimuneのRP1(vusolimogene oderparepvec、進行黒色腫)
    25/7/23GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/29PTC TherapeuticsのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症)
    25/7/30Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫)
    25/8推バイエルのBAY3427080(elinzanetant、血管運動神経症状)
    25/8推インサイトのZynyz(retifanlimab-dlwr、肛門扁平上皮癌に適応拡大)
    25/8推ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌)
    25/8/8LENZ TherapeuticsのLNZ100(aceclidine、老視)
    25/8/12InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症)
    25/8/15Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症)
    25/8/18Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ)
    25/8/19PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症)
    25/8/19Regeneron PharmaceuticalsのEyelea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大)
    25/8/21Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫)
    25/8/27PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症)
    25/8/27Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症)
    25/8/29サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症)
    25/8/31エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加)
    25/8/31Capricor TherapeuticsのCAP-1002(deramiocel、DMD)
    諮問委員会
    25/7/17ODAC:GSKのBlenrep(belantamab mafodotin-blmf、多発骨髄腫)
    25/7/18PPDAC:大塚製薬のRexulti(brexpiprazole、PTSD追加)



    今週は以上です。