【ニュース・ヘッドライン】
- FDA、光速審査プロジェクトの申込受付を開始
- アストラゼネカ、全身性重症筋無力症新薬の第3相が成功
- 睡眠時無呼吸用コンビ薬、二本目の第3相も成功
- miR-124エンハンサーの潰瘍性大腸炎試験が成功
- サン、イルミアの乾癬性関節炎試験が成功
- ロシュ、抗ST2抗体のCOPD試験は一勝一敗に
- EBVの細胞療法を承認申請
- JNJ、経口IL-23Rアンタゴニストを尋常性乾癬に承認申請
- BMS、ソーティクツを乾癬性関節炎に適応拡大申請
- X-ALD治療用PPARガンマ作動剤を欧州で再申請
- Replimuneのウイルス療法は審査完了に
- CHMP、NPC治療薬などの承認を支持
- EMA、エムポックス治療薬の薬効を再検討
- デルゴシチニブが米国でも承認
- ブーレンレップが欧州でも承認
- Sarepta社、結局、DMD遺伝子療法の販売を一時停止
- 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会
【今週の話題】
FDA、光速審査プロジェクトの申込受付を開始
(2025年7月22日発表)
FDAはCommissioner's National Priority Voucher(CNPV:委員長の国家的優先バウチャ)制度の申込受付を開始した。国益に関わる重大な革新的新薬について審査期間を1~2ヶ月に短縮するもの。既存の優先審査バウチャと異なり、譲渡不能。初年度はパイロット・フェーズで最大5件に適用する考えだ。
この制度の狙いは、アメリカの若者の3/4が肥満などの理由で軍務適格性を書くことや、日常的に用いられる薬の原材料等の圧倒的多数が中国由来であることなど、安全保障上の脅威になりかねない現状を是正すること。
具体的には、以下の4項目に該当する薬が制度の対象になる(下記プレスリリースには5項目記されているが申込みサイトでは適用を4項目から選択することになっている)。
下記プレスリリースでは、例として、ユニバーサル・インフルエンザ・ワクチン、希少疾患用薬、多くが罹患する慢性疾患の薬などを挙げている。また、エッセンシャル・メディスン(注射用無菌製剤のジェネリックを例示)の生産を米国にシフトすることや、臨床試験に米国の患者を多く組入れることを挙げている。
一社につき一品目のみ、CNPV指定を申請することができる。開発段階は問わない。採用されればEメールで連絡が来るが、採用されない場合は何の連絡もない。採否決定は適宜で締め切りがないので、今回駄目でも次回がないとは限らないということなのだろう。
CNPVに基づき光速審査を受ける開発品は、FDAが指定する場合と、受領者が決める場合があるとのこと。既存の優先審査バウチャとは異なり、上記に該当する重要な開発品自体の承認審査に用いることを想定しているように感じられるが、もし開発がフェールしたら他の薬の審査に適用できるようにしているのではないか。
審査期間を短縮するために、まず、申請者は書類の最終提出の60日以上前にCMC(化学、製造、管理に関わるもの)とレーベルの草案を提出する。FDAは、Office of the Chief Medical and Scientific Officerの主導で、担当各部署の上席者から組織横断的に組成される審査委員会が審査する。この名称の組織は見当たらないので新設するのだろう。
FDAの厳格な安全性・薬効標準は維持される。提出内容が不十分だったり、審査が複雑であったりする場合は審査期間が延長されることがある。申請者は照会事項などについて速やかな対応が求められる。
既存の優先審査制度やファースト・トラック制度などは継続され、複数の制度に指定される可能性もある。
バウチャの有効期間は2年。薬品が対象で、医療機器や薬品・機器組合せ製品は対象外。
特許保護期間は限られているので、数ヶ月でも早く発売できれば大きな利益に繋がる可能性がある。不透明な点も多く、また、CNPV指定された品目しか公表されないだろうから事例研究も難しそうだが、See what happens。
リンク: FDAの発表
リンク: FDAのFAQs
リンク: 申し込みサイト
【新薬開発】
アストラゼネカ、全身性重症筋無力症新薬の第3相が成功
(2025年7月24日発表)
アストラゼネカは、ALXN1720(gefurulimab)の第3相全身性重症筋無力症(gMG)試験で主目的と全ての副次的評価項目を達成したと発表した。数値は未発表。ClinicalTrials.govに登録されている成人向け第3相は一本だけなので、承認申請されるのではないか。
同社グループのメディミューンは補体C5を標的とする抗体医薬、Soliris(eculizumab)と、その活性成分の長鎖のアミノ酸4個を置換し作用を長期化したUltomiris(ravulizumab-cwvz)をgMGなどの補体調停疾患用薬として販売しているが、ALXN1720はアルブミンに結合する抗体と結合した一本鎖二重特異性抗体。点滴静注ではなく皮下注用で、自己注承認を目指している。
今回のPREVAIL試験は欧米中国日本などの施設で成人のAChR自己抗体を持つgMG患者260人を組入れて週一回皮下注し、26週間のMG-ADLの変化を偽薬と比較した。臨床的にも有意な差が見られた由。
リンク: 同社のプレスリリース
睡眠時無呼吸用コンビ薬、二本目の第3相も成功
(2025年7月23日発表)
米国マサチューセッツ州の未上場医薬品開発会社、Apnimedは、AD109の二本目の第3相試験で主目的を達成したと発表した。26年初めに承認申請する考え。
人には未承認のムスカリン受容体拮抗剤、aroxybutynin(2.5mg)と、ADHD治療薬Stratteraの活性成分でもあるノルエピネフィリン再取込阻害剤atomoxetine(75mg)の固定用量併用法。神経筋に作用して閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)における無呼吸頻度を抑制する。
今回のLunAIRo試験は標準的治療法であるPAP(持続陽圧呼吸)療法不能または拒否の成人患者680人を米国の施設で偽薬群と試験薬群に無作為化割付けして一日一回、26週間経口投与し、AHI(無呼吸低呼吸指数、回/時間)の変化を比較したところ、ベースライン比で各群6.8%減と46.8%減となり、有意な差があった。51週時点でも有意差が見られた。深刻有害事象は発生しなかった。
もう一本のSynAIRgyはカナダの施設も参加し、AHIに関する組入れ基準値が若干高めになっているが、概ね似た内容で、試験薬群はAHIが55.6%低下した(偽薬群の数値は未発表)。
OSA用薬はイーライリリーのGIP/GLP-1作用剤Zepbound(tirzepatide)が24年12月に米国で成人の肥満症患者における中重度OSAに適応拡大した。成人のPAP不能/拒否中重度OSAを組入れた第3相SURMOUNT-OSA試験でAHIが50.7%低下した(偽薬群は3%)。
リンク: Apnimedのプレスリリース
miR-124エンハンサーの潰瘍性大腸炎試験が成功
(2025年7月22日発表)
フランスのAbivax(Euronext Paris:ABVX)はABX464(obefazimod)が第3相中重度活性期潰瘍性大腸炎インダクション試験二本で主目的などを達成したと発表した。維持療法試験も進行しており、26年第2四半期に予定される解析が良好な結果になったら下期に欧米で承認申請する考え。
炎症促進的サイトカインやキモカインをダウンレギュレートする体内のマイクロRNA、miR-124を増強する小分子薬。ABTECT-1と同2試験に夫々約640人を組入れて、偽薬、25mg、または50mg群に1:1:2割付けし、一日一回経口投与を8週間反復投与した。FDA基準の主評価項目である臨床的寛解率は、ABTECT-1試験では各群2.5%、23.8%、21.7%、同2試験では各6.3%、11.3%、19.8%となり、25mg群は前者の試験だけ偽薬比有意、50mg群は二本とも有意だった。
欧州基準の共同主評価項目の一つである内視鏡的改善達成率は、同様に、各群5.7%、37.5%、33.3%と、各群10.1%、22.0%、35.5%となり、両用量とも二本とも有意差があった。もう一つの症候的寛解率は、各群17.7%、42.5%、41.2%と各群22.0%、33.3%、40.3%となり、両用量とも二本とも有意差があった。
副次的評価項目である臨床的反応率も両用量、二本とも有意差があった。
治療時発現有害事象による治験離脱や深刻治療時発現有害事象は各群大きく異なってはいないが、二本の試験で区々な結果なのが気にかかる。免疫抑制療法の重大な副作用である腫瘍や重度・深刻感染症、日和見症候群は各群大差なかった。
結果発表と同時に、上期決算発表を8月11日から9月8日に延期すること、及び、6月末の監査前現金・現金等価物残高が61百万ユーロであることを発表した。どのようなインプリケーションがあるのか、良く分からない。
リンク: 同社のプレスリリース
サン、イルミアの乾癬性関節炎試験が成功
(2025年7月21日発表)
Sun Pharmaceuticalは、Ilumya(tildrakizumab-asmn)の第3相活性期乾癬性関節炎試験二本で主目的を達成したと発表した。データは未発表。米国で適応拡大申請を検討している様子だ。
MSDから承継した抗IL-23p19抗体。18~20年に米、EU、日本で中重度尋常性乾癬治療薬として承認された。今回、抗TNF薬歴を持つ患者を組入れたINSPIRE-1試験と、未経験の患者を組入れた、日本も参加したINSPIRE-2試験で、主目的の24週ACR20達成率に偽薬比有意な差があった。用量は100mg12週毎皮下注で、乾癬とは異なり第4週の投与は不要。
リンク: 同社のプレスリリース
ロシュ、抗ST2抗体のCOPD試験は一勝一敗に
(2025年7月21日発表)
ロシュはRG6149(astegolimab)の中重度COPD維持療法試験が一勝一敗になったと発表した。僅かな違いで明暗が分かれたように見えるが、いずれにせよ、増悪抑制効果はそれほど高くなさそうだ。好中球増多型ではない患者における成績はどうだったのだろうか?
IL-33の受容体であるST2に結合する完全ヒト抗体。16年にアムジェンのAMG 282をライセンスした。COPD領域のバイオ薬はGSKの抗IL-5抗体Nucala(mepolizumab)やRegeneron Pharmaceuticalsの抗IL-4R抗体Dupixent(dupilumab)が好酸球増多型COPDに承認されているが、抗ST2抗体は好酸球が増加していないタイプにも効果が期待されていた。
二本の試験はどちらも、喫煙/喫煙歴があり、中重度増悪歴を持ち、二剤以上の維持療法薬による治療を受けている患者に追加する便益を検討した。4週毎皮下注と2週毎皮下注の中重度増悪(年率)を偽薬と比較した。1301人を組入れた後期第2相のALIENTO試験は2週毎投与群の増悪が偽薬群を15.4%下回り、有意な差があった。日本も参加した、1375人を組入れた第3相ARNASA試験は2週毎皮下注群が偽薬を14.5%抑制したが有意水準には達しなかった。両試験とも、偽薬群の増悪が想定より少なかった。
第2相COPD試験は490mgを4週毎皮下注した。結果は明らかではないが、第3相で2週毎を追加したということは、満足のいくものではなかったかもしれない。
リンク: ロシュのプレスリリース
【承認申請】
EBVの細胞療法を再承認申請
(2025年7月24日発表)
米国カリフォルニア州の新薬開発企業、Atara Biotherapeutics(Nasdaq:ATRA)は、米国でtabelecleucelを再び承認申請したと発表した。審査期限は26年1月10日。
ドナー由来のT細胞をエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)で感作したB細胞と会合させた上で培養した、他家細胞療法。2歳以上のEBV陽性移植後リンパ増殖性疾患の二次治療に単剤投与する。小規模なALLELE試験に基づき22年にEUで例外的環境条項に基づく承認を得た。財務的理由により、欧州の販売権を持っていたPierre Fabreが承認を継承するとともに、23年には、米国を含む全世界の開発販売権を取得した。
米国では24年に承認申請し優先審査を受けたが、第3者における製造問題により、今年1月に審査完了通知を受領していた。
リンク: Ataraのプレスリリース(Fabre社のリリースと異なりPDUFA日が記載)
JNJ、経口IL-23Rアンタゴニストを尋常性乾癬に承認申請
(2025年7月21日発表)
ジョンソン エンド ジョンソンはJNJ-2113(icotrokinra)を12歳以上の成人小児の尋常性乾癬用薬として米国で承認申請したと発表した。バイオ薬に似ているがペプチド薬で経口投与できる。二本の試験で効果がdeucravacitinib(ブリストル マイヤーズ スクイブの経口TYK2阻害剤Sotyktu)を上回った。
Protagonist Therapeutics((Nasdaq:PTGX)との共同創薬研究の成果。第3相ICONICシリーズの試験のうち、日本が参加しなかったTOTAL試験では患部が頭部、生殖器、手掌または足裏の患者を組入れて標的部位における奏効率を偽薬と比較した。日本も参加した3本のうちLEAD試験は偽薬と比較、ADVANCE-1と-2は副次的評価項目であるdeucravacitinib群との比較でもIGA奏効率が有意に上回った。
リンク: JNJのプレスリリース
BMS、ソーティクツを乾癬性関節炎に適応拡大申請
(2025年7月21日発表)
追われる立場になったブリストル マイヤーズ スクイブは、選択的アロステリックTYK2阻害剤Sotyktu(deucravacitinib)を成人の活性期乾癬性関節炎に適応拡大を進めている。6月に日本で一変申請されたが、米国でも申請が受理された。審査期限は26年3月6日。欧州や中国でも申請が受理されたとのこと。
バイオ薬未経験の患者を組入れた第3相POETYK PsA-1試験と、TNF阻害剤歴のある患者も組み入れた同PsA-2試験でACR20が偽薬群を有意に上回った。後者はapremilast(アムジェンのOtezla)群も設定されたが、安全性を見るための参考群に過ぎないようだ。
リンク: BMSのプレスリリース
X-ALD治療用PPARガンマ作動剤を欧州で再申請
(2025年7月23日発表)
スペインのMinoryx TherapeuticsとドイツのNeuraxpharm Groupは、Nezglyal(leriglitazone)を小児と成人の男性のX染色体関連副腎白質ジストロフィー(X-ALD)治療薬としてEUに再承認申請し受理されたと発表した。22年の初申請はCHMPにエビデンス不十分と評価された。今回は小児試験のデータも取得できているので前進する可能性もあるが、どうだろうか。米州中心の第3相も進行中で26年に成否判明する見込み。死亡、寝たきり、または永続的呼吸補助という重大なイベントのリスクを評価しているので、こちらのほうが真価を測れそうだ。
リンク: 両社のプレスリリース
【承認審査・委員会】
Replimuneのウイルス療法は審査完了に
(2025年7月22日発表)
Replimune Group(Nasdaq:REPL)は米国でRP1(vusolimogene oderparepvec)を成人の抗PD-1薬歴を持つ進行黒色腫にnivolumab(BMSのOpdivo)と併用する薬として加速承認を申請していたが、審査完了通知を受領した。同社によると、指摘事項は承認審査中の会議では指摘されなかったとのこと。トランプ政権下のFDAが審査を厳しくしたのか、それとも、新興企業に良くある、相手がNoと言わなければ問題なしというポジティブ・シンキングの転帰なのか、良く分からない。
15年に米欧で承認されたアムジェンの悪性黒色腫用薬Imlygic(talimogene laherparepvec)は、HSV-1にGM-CSFの遺伝子を組入れて腫瘍に注射した後の免疫刺激性を高めたものだが、RP1は更にGALV-GP R-(テナガザル白血病ウイルスのエンベロープ糖蛋白のR-モジュレータ)の遺伝子を組み込んだもの。抗PD-1薬で8週間以上治療して疾病安定化以上の反応がなかった患者140人を組入れて、RP1を2週毎8回局所投与し、第3週からnivolumabも2週毎29回投与した第2相IGNYTE試験でORR(客観的反応率、modified RECIST 1.1に基づく独立中央評価)が33.6%、メジアン反応持続期間は35ヶ月超だった。G4有害事象は肝臓酵素やビリルビンの上昇、サイトカイン放出症候群、心筋炎、肝サイトーシス、脾臓破裂など。G5は発生しなかった。
ところが、FDAは、この試験は十分かつ適切に管理された試験とは言えない、被験者が不均質であるために治験成績の適切な解釈が困難、などの点を指摘した。同社は、昨年の投資家向けミーティングで、本試験はFDAの提案を取り入れて多様な患者を組入れたと言及しており、梯子が外されたどころか天地をひっくり返されたように感じているかもしれない。
確認的試験のデザインに関する提案もあった由。昨年7月に第3相IGNYTE-3実薬対照試験が始まっているはずだが、これではだめなのだろうか?
リンク: 同社のプレスリリース
CHMP、NPC治療薬などの承認を支持
(2025年7月26日発表)
EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。
リンク: EMAのプレスリリース
米国テキサス州のIntraBioが申請したAqneursa(levacetylleucine)はアミノ酸の一種であるロイシンの類縁体。希少疾患のニーマン・ピック病のうち、NPC1/2蛋白の異常を伴うC型に、不耐でなければmiglustatと併用する。水などに混ぜて一日3回投与する。
適応になるのは6歳以上体重20kg以上の小児と成人。24年9月に承認された米国の年齢不問、体重15kg以上と若干異なっている。エビデンスとなる第3相は4歳以上を組入れた。12週の治療で運動失調評価尺度のSARA(ベースライン値は15.8点)が2点低下、偽薬群は0.6点低下で統計学的な有意差があった。
リンク: EMAのプレスリリース
カルビスタ ファーマシューティカルズ(Nasdaq:KALV)のEkterly(sebetralstat)は経口血漿カリクレイン阻害剤。12歳以上の遺伝性血管浮腫患者の発作時治療に用いる。米国では今月、承認。日本でも年初に承認申請された。
リンク: EMAのプレスリリース
Deciphera Pharmaceuticals(24年に小野薬品が買収)のRomvimza(vimseltinib)はCSF1受容体阻害剤。成人の摘出術不適な症候性TGCT(腱滑膜巨細胞腫)に用いる。30mgを一日二回経口投与した試験でORR(客観的反応率、独立放射線学的評価)が40%だった(偽薬群は0%)。米国では今年2月に承認。
リンク: EMAのプレスリリース
Ionis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)のTryngolza(olezarsen)はApoC-IIIの発現を妨げるアンチセンス薬。成人のFCS(家族性カイロミクロン症候群)に、食事療法とともに施行する。米国では昨年12月に承認された。欧州ではSobiが販売する。
リンク: EMAのプレスリリース
Agios Pharmaceuticals(Nasdaq:AGIO)のVoranigo(vorasidenib)は変異型のIDH1/IDH2を阻害する経口剤。年齢12歳以上体重40kg以上の青年や成人の、IDH1 R132変異またはIDH2 R172変異を伴う、専ら非増強的(non-enhancing)な、グレード2星状細胞腫・乏突起神経膠腫に用いる。摘出術のみを経験し、放射線療法や化学療法が直ぐには必要でない場合に適応になる。40mgを一日一回、経口投与した第3相でPFS(無進行生存期間、盲検独立評価委員会による放射線学的評価)のメジアン値が27.7ヶ月と偽薬群の11.1ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.39だった。米国では24年8月に承認、同月、日本でも承認申請された。欧日はセルビエが販売する。
リンク: EMAのプレスリリース
ギリアド・サイエンシズのYeytu(lenacapavir)は、HIV/AIDS治療薬Sunlencaの活性成分である長期作用性カプシド阻害剤を、HIV感染症の曝露前予防(PrEP)に用いるもの。最初は皮下注用製剤とフィルムコート錠を併用、その後は半年毎皮下注と、投与頻度が少ないことが特徴。感染リスクのある患者を組入れた2本の第3相で100人年当り感染者数がほぼゼロと、この用途でも承認されている一日一回経口投与型合剤、Truvada(tenofovir DFとemtricitabine)の一本では1.69、もう一本では0.93を大きく凌ぐ効果を発揮した。EU域内における審査と並行して、EU-M4all制度に基づいてWHOに加えてウガンダ、ザンビア、ケニア、ナイジェリア、ジンバブエ、南ア、タイ、ベトナムの専門家も参加して域外向け評価も実施され、どちらも肯定的意見となった。
米国では今年6月にYeztugo名で承認された。
リンク: EMAのプレスリリース
バイオジェンのZurzuvae(zuranolone)はSage Therapeutics(Nasdaq:SAGE)からライセンスしたGABA A選択的ポジティブ・アロステリック・モジュレーター。産後鬱の治療に用いる。米国では23年8月に承認された。米国では大鬱病でも申請されたが審査完了通知を受領した。日本周辺は塩野義製薬がライセンス、昨年9月に大鬱病に承認申請した。
リンク: EMAのプレスリリース
イーライリリーのKisunla(donanemab)は抗アミロイド・ベータ抗体。成人の早期アルツハイマー病(症候性軽度認知障害又は軽度アルツハイマー病)で、アポリポタンパクEにエプシロン4変異を持たない、または二組のうち片方だけ変異の患者に用いる。一巡目の審査は否定的意見となったが、二巡目で肯定的意見に転じた。投与スケジュールを見直し禁忌範囲や投与中止条件を拡大するなどの対策を行ったとのこと。おそらく、米国で今月用法変更となった、ARIA(アミロイド関連画像異常)のリスクを緩和する新用量漸増法(350mgバイアルを初回は一本、2回目は2本と一本ずつ増やし4回目以降は4本点滴静注)を採用したのだろう。
リンク: EMAのKisunla肯定的意見に関するQandA資料
適応拡大で肯定的意見を得たのは以下の通り(対象年齢拡大は原則として割愛)。
また、アストラゼネカのCOPD維持療法薬Trixeo Aerosphere(日本名ビレーズトリエアロスフィア、glycopyrronium bromideとformoterol fumarateの吸入用合剤)の新製品が肯定的意見を得た。代替フロンを用いた加圧噴霧式定量吸入器を用いているが、GWP(地球温暖化係数)が99.9%小さい新開発のプロペラントを採用している。
一方、否定的意見となったのは、ロシュがSarepta Therapeuticsからライセンスしたデュシェンヌ型筋ジストロフィー用遺伝子療法、Elevidys(delandistrogene moxeparvovec)。3~7歳の歩行可能な患者向けに条件付き承認を求めたが、臨床試験で主評価項目が有意水準に達しなかったことや、ジストロフィン量増加と運動能力改善の間に相関関係が確認されていないことなどが理由。アデノ随伴ウイルス74型を用いた遺伝子療法で本剤は2名、開発品で1名が肝臓障害により死亡した件にはCHMPは言及していない。この件により米国では出荷が一時停止。日本では5月に条件付き承認されたが、未発売のようだ。
リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース
更に、カナダのOctane Medical Groupのグループ企業であるTissue Engineering Technologies AGが申請したJelrix(autologous cartilage-derived articular chondrocytes, in-vitro expanded)も否定的意見となった。症候性膝軟骨欠損の治療法で、患者自身から採取した軟骨細胞を培養したもの。100人に施行して5年間追跡した試験で改善が見られたが、CHMPは、対照群が設定されていないことや、手術やリハビリが寄与した可能性もあること、そして、生産管理に関する証跡不足を指摘している。
リンク: EMAのプレスリリース
オランダのPrilenia Therapeuticsがハンチントン病治療薬として条件付き承認を求めているNurzigma(pridopidine)も否定的意見となった。第3相試験がフェールしたこと、ドパミンを阻害する薬を服用していない早期の患者には便益が見られたが、CHMPはこのサブグループ分析も含め、エビデンスが不十分と判定した。過去にはアステラス製薬など複数の会社がライセンスしたことがあるsigma-1受容体刺激剤だが、なかなか結果が出ない。
リンク: EMAのプレスリリース
好評価されず申請撤回となったのは、まず、スペインのPharmaMarのAplidin(plitidepsin)。難治/再発多発骨髄腫用薬として承認申請され18年に否定的意見を受けたが、審査プロセスで外部委員の利益相反があった模様で、欧州裁判所が申請却下の取消しを命令、今年に入って再審査が始まったところ。
英国のNorgineがUS WorldMedsからライセンスして小児の高リスク神経芽細胞腫用薬として承認申請したIfinwil(eflornithine)も申請撤回となった。CHMPは対照試験のエビデンスがないことなどを懸念していた模様だ。米国でも諮問委員会で対照試験が可能ならやるべきとの意見もあったが20人中14人が支持、23年にIwilfin名で承認された。Project Orbis制度に基づきFDAの承認審査に参加したオーストラリアやスイスも今年に入って承認した。
Philogen(BIT:PHIL)は6月にNidlegy(bifikafusp alfaとonfekafusp alfa)の欧州承認申請を撤回したと発表した。全摘可能局所進行性黒色腫に腫瘍内注射した術前療法試験に基づいて申請したが、化学製造管理や臨床成績に関する追加データを求められ期限中の回答が困難であることが理由。EMAによると、薬効面の疑問点もあったようだ。投与したが切除に向かわなかった症例や、投与したが腫瘍が十分に応答しなかった症例が解析対象になっていないのだという。
腫瘍細胞で発現するfibronectinのExtra Domain Bに結合する抗体、L19を、IL-2やTNFと結合したもの。Sun Pharmaceutical Industriesが欧州などでの販売権等を持っている。
EMA、エムポックス治療薬の薬効を再検討
(2025年月日発表)
EMAは、22年に例外的条項に基づき承認したSIGA Technologies(Nasdaq:SIGA)のオルソポックス・ウイルス疾患治療薬、Tecovirimat SIGAについて、再検討を開始した。順調なら11月に結論が出る予定。米国では18年に、日本でも昨年12月に承認されたところだが、研究者主導の複数のエムポックス治療試験で回復を早める便益が見られなかった。
米国ではバイオ・テロ懸念を背景に天然痘治療薬として承認されたが、EUや日本ではエムポックスや牛痘も含めた広い適応を持っている。臨床試験で薬効を確認するには感染者の発生が不確実すぎ、偽薬群を設定するのは倫理的な問題があるため、動物試験で薬効を確認した。
エムポックスが流行し始めたため政府機関や大学が主導してPALM 007試験やSTOMP試験、UNITY試験、PLATINUM試験、PLATINUM-CAN試験などを実施したが、最初の3本では皮膚症状解消(かさぶた形成)までの期間が偽薬群と大差なく、余波でPLATINUM-CAN試験は中止された。PLATINUM試験は患者組入れが少なく中止となっており、主要な試験で未開票なのは欧州のEPOXI試験のみと思われる。
敗因は明らかではないが、エムポックスは天然痘より症状が軽いことが多く、治療効果が見えにくいのではないか、という意見もあるようだ。重度患者だけの解析データはないのだろうか?
リンク: EMAのプレスリリース
【承認】
デルゴシチニブが米国でも承認
(2025年7月23日発表)
レオ ファーマは、FDAがAnzupgo(delgocitinib)を成人の慢性手湿疹の治療薬として承認したと発表した。局所コルチコステロイドに十分応答しないまたは不適な患者に用いる。一日二回、塗布した第3相試験二本で奏効率が一本は19.7%(偽薬群は9.9%)、もう一本は29.1%(同6.9%)だった。
20年に日本でアトピー性皮膚炎治療薬として承認されたJT/鳥居薬品の局所性JAK阻害剤、コレクチム軟膏の活性成分をクリーム剤として開発したもの。欧州では24年9月に承認された。
リンク: レオ社のプレスリリース(Businesswire)
ブーレンレップが欧州でも承認
(2025年7月24日発表)
GSKはBlenrep(belantamab mafodotin)がEUで前治療歴のある難治/再発多発骨髄腫用薬として承認されたと発表した。米国では諮問委員会で反対が上回り、審査期限が10月23日に3ヶ月延長されたところだが、日本に続き二番目の主要市場における承認を取得した。
リンク: GSKのプレスリリース
【医薬品の安全性】
Sarepta社、結局、DMD遺伝子療法の販売を一時停止
(2025年7月21日発表)
Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は7月22日をもってElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)の出荷を自発的に一時停止した。デュシェンヌ型筋ジストロフィーに罹患した、日欧では適応外の歩行不能な患者から2人の致死的肝障害が発生したことを受け、7月16日に歩行不能者限定で販売・治験停止すると発表していたが、翌日、類似技術を用いた肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)用遺伝子療法の試験でも6月に致死的肝障害が1名で発生していたことが判明。更にその翌日、FDAが歩行可能者向けも含めて自主的出荷停止を要請したが、その時点では、拒否していた。
方針一転の理由や停止の期間は明確ではない。プレスリリースによると、同社はレーベルに肝障害死2件に関する情報を追加すべく申請しているが、FDAから追加的情報提供を求められ、回答に必要な時間を確保するために出荷停止を決めたとのことだが、LGMDの死亡例に関する詳細情報を収集するのか、遺伝子組換え型ヒトアデノ随伴ウイルス74型をベクターとする遺伝子療法全体の安全性検討や基礎研究が求められたのか、内容によっては停止が長引く可能性もありそうだ。FDAは追加臨床試験を求める方針とも一部で報道されている。
米国外の開発販売権を持つロシュも、米国承認審査に基づき承認を得た国において、出荷の一時停止を開始した。独自審査を経て承認されたブラジルや日本は対象外で、おそらく現地当局の判断を待つのだろう。EUでは未承認。
リンク: 同社のプレスリリース
【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】
PDUFA | |
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25/7推 | JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、くすぶり型多発性骨髄腫) |
25/7/20 | ロシュのColumvi(glofitamab-gxbm、DLBCL2次治療) |
25/7/25 | Apellis PharmaceuticalsのEmpaveli(pegcetacoplan、C3腎症と原発性免疫複合体膜性増殖性糸球体腎炎) |
25/7/29 | PTC セラピューティクスのPTC923(sepiapterin、フェニルケトン血症) |
25/7/30 | Regeneron PharmaceuticalsのREGN1979(odronextamab、濾胞性リンパ腫) |
25/8推 | ベーリンガー・インゲルハイムのBI 1810631(zongertinib、her2変異非小細胞性肺癌) |
25/8推 | UCBのdoxecitine・doxribtimine併用(チミジン・キナーゼ2欠乏症) |
25/8/8 | LENZ TherapeuticsのLNZ100(aceclidine、老視) |
25/8/12 | InsmedのINS1007(brensocatib、気管支拡張症) |
25/8/15 | Tonix PharmaceuticalsのTNX-102 SL(cyclobenzaprine舌下錠、線維筋痛症) |
25/8/18 | Chimerix(Nasdaq:CMRX)のONC201(dordaviprone、難治H3-K27M変異びまん性グリオーマ) |
25/8/19 | PTCセラピューティクスのPTC-743(vatiquinone、フリードライヒ運動失調症) |
25/8/19 | Regeneron PharmaceuticalsのEyelea(aflibercept、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫に適応拡大) |
25/8/21 | Ionis Pharmaceuticalsのdonidalorsen(遺伝性血管浮腫) |
25/8/27 | PrecigenのPRGN-2012(zopapogene imadenovec、難治呼吸器乳頭腫症) |
25/8/27 | Saol TherapeuticsのSL-1009(sodium dichloroacetat、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠乏症) |
25/8/29 | サノフィのSAR444671(rilzabrutinib、免疫性血栓性血小板血症) |
25/8/31 | エーザイのLeqembi(lecanemab、早期アルツハイマー病の皮下注用追加) |
25/9推 | JNJのDarzalex Faspro(daratumumab w/hyaluronidase、多発骨髄腫ASCT後維持療法 |
25/9推 | バイエルのKerendia(finerenone、心不全追加) |
25/9/7 | Agios PharmaceuticalsのPyrukynd(mitapivat、サラセミア) |
25/9/22 | Scholar RockのSRK-015(apitegromab、脊髄筋萎縮症) |
25/9/22 | バイオジェンのSpinraza(nusinersen、骨髄筋萎縮症用薬の高用量追加) |
25/9/22 | ロシュのLunsumio(mosunetuzumab皮下注用、濾胞性リンパ腫3次治療) |
25/9/23 | MSDのKeytruda sc(pembrolizumab、berahyaluronidase alfa) |
25/9/25 | Crinetics PharmaceuticalsのCRN00808(paltusotine、先端巨大症) |
25/9/25 | OmerosのOMS721(narsoplimab、HSCT関連血栓性微小血管症) |
25/9/28 | サノフィのSAR442168(tolebrutinib、非再発性二次性多発硬化症) |
今週は以上です。
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