2012年3月11日

海外医薬ニュース2012年3月11日号



ニュース・ヘッドライン

  • J&JのZytigaの前立腺癌一次化学療法適応拡大試験が成功
  • 米国でもアレルギー免疫療法剤が承認申請される
  • ミルナシプラン異性体のフェーズⅢ試験が成功
  • 学会発表:ルンドベックのアルコール依存治療薬SelincroのフェーズIII試験結果
  • sPLA2阻害剤のフェーズⅢ試験が中止に
  • Aegerin社がMTP阻害剤を欧米で承認申請
  • FDAがエーザイのペランパネルの承認申請を受理
  • 四価インフルエンザ・ワクチンが米国で承認
  • ドンペリドンと深刻な脈拍異常・突然死の関連性

新薬開発



J&JのZytigaの前立腺癌一次化学療法適応拡大試験が成功

ジョンソン・エンド・ジョンソンのCYP17阻害剤Zytiga(abiraterone acetate)は昨年、末期・転移性去勢抵抗性前立腺癌の二次化学療法薬として承認されたばかりだが、一次化学療法としての効能を調べる適応拡大試験が成功した。


この試験の対象は、去勢・ホルモン療法に反応しなくなったが未だ症状は無い又は軽い患者。ステロイド(prednisone)だけを一日二回経口投与する群と、Zytigaを一日一回経口併用する群の放射線学的無増悪生存期間を比較した。中間解析の結果が良かったため、独立データ監視委員会が盲検を解除してプラセボ群の患者にZytigaの併用を可能にするよう勧告したもの。詳細は後日、学会で発表される見込み。


前立腺癌の治療には切除や放射線療法、ホルモン療法など様々な選択肢がある。反応が失われた後の選択肢は限られていたが、ステロイドやdocetaxelに加えて、Zytigaなどの新薬が続々と登場している。


リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソン社プレスリリース



米国でもアレルギー免疫療法剤が承認申請される

米国のメルク(日本ではMSD)は、アレルギー性鼻結膜炎の経口減感作療法剤のフェーズⅢ試験が成功したと発表した。ブタクサ・アレルギーの患者を対象に、シーズンが始まる16週間前から一日一回投与したところ、ピークであった2週間の症状・服薬治療複合評価項目がプラセボ比有意に改善した。主な有害事象は口、耳、喉の痒みや刺激感。同社は2013年に米国でブタクサと芝アレルギーの薬として承認申請する計画。


フランスなどでは経口剤による減感作療法が普及している模様であり、MSDはデンマークのAlk Abello社が欧州でGrazax名で販売しているものをライセンスした。Alk Abelloの試験では症状スコアがプラセボ比1-2割しか改善しなかったので、特効薬には程遠いが、代替的な治療法の一つになりそうだ。


リンク:MSDのプレスリリース



ミルナシプラン異性体のフェーズⅢ試験が成功

米国のフォレスト・ラボラトリーズ(NYSE: FRX)とフランスのピエール・ファーブルは、levomilnacipranの二本目の鬱病治療試験も成功したと発表した。日本でも承認されているmilnacipranの異性体で、北米の権利を取得したフォレストが共同開発しているもの。抗鬱剤の試験はプラセボ効果が高くなりがちで成功率が低いため、フェーズⅢ試験は三本実施されている。最後の一本(この試験だけ用量調節しない)の結果は今春、明らかになる予定。


大型薬の特許切れ対策としてラセミ体を開発する事例は珍しくないが、欧州と米国では環境が異なる。EUでは規制が強化され、ラセミ体が既に承認されている場合、異性体を新薬として承認申請するハードルが高くなったが、米国にはこのような規制は無く、また、特許も取り易い。levomilnacipranの場合、米国では2023年まで有効な用法特許が存在する。このため、商業化は米国など一部の地域に限定されるのではないだろうか。


リンク:フォレスト社のプレスリリース



学会発表:ルンドベックのアルコール依存治療薬SelincroのフェーズIII試験結果

ルンドベックは、フィンランドのBioTie Therapiesからライセンスしたアルコール依存治療薬、Selincro(nalmefene HCI)のフェーズⅢ試験結果が第20回EPA(European Congress of Psychiatry)で発表されたことを明らかにした。ルンドベックのプレスリリースによると、主評価項目は「大酒を飲んだ日数」と「平均飲酒量」。投与方法は、被験者が必要に応じて、できれば飲みたくなる1-2時間前に、18mg錠を一日一回、経口服用する。フェーズⅢは二本実施され、一本は成功したが、もう一本は「平均飲酒量」がプラセボ比トレンドに留まった。主な有害事象は一時的なめまいや不眠、悪心。


SelincroはEUで2011年12月に販売承認申請が受理されたが、この内容ではスムーズに承認されない可能性がありそうだ。尚、米国の承認申請は計画していない模様。


リンク:ルンドベック社プレスリリース



sPLA2阻害剤のフェーズⅢ試験が中止に

Anthera Pharmaceuticals(Nasdaq: ANTH)は、varespladibのフェーズⅢ急性心筋梗塞を中止すると発表した。中間解析で無益性が判定され、完遂しても成功の見込みがないため。塩野義製薬が創製したsPLA2(分泌型ホスホリパーゼA2)阻害剤でイーライリリーと共同開発していたが断念、Anthera社に導出したもの。


リンク:Anthera社プレスリリース



承認申請・承認



Aegerin社がMTP阻害剤を欧米で承認申請

米国マサチューセッツ州のAegerin Pharmaceuticals(Nasdaq: AEGR)は、lomitapideをホモ接合型家族性高脂血症の治療薬として欧米で承認申請した。ミクロソーム・トリグリセライド転移蛋白(MTP)を阻害する新しい作用機序を持ち、肝臓でVLDL-Cが合成される過程を阻害する。経口剤。治験で血清LDL-Cを大きく引き下げたが、肝臓にトリグリセライドが蓄積して脂肪肝になるリスクがあり、肝機能検査値異常も見られるので、深刻な合併症を招く可能性がないか十分に検討する必要がありそうだ。


ホモ接合型家族性高脂血症はLDL-C受容体などの遺伝子異常が。二組の遺伝子の何れも機能しないホモ接合型は、血清LDL-C値が著しく高く心血管疾患のリスクが高い。定期的にアフェレーシスを施行してコレステロールを除去しなければならない患者もいる。患者数は米国と欧州5ヶ国の合計で約500人と推測されている。


リンク:Aegerin社プレス・リリース



FDAがエーザイのペランパネルの承認申請を受理

エーザイは経口AMPA受容体拮抗剤ペランパネル(perampanel、E2007)を部分てんかんのアジュバント治療薬として新薬承認申請していたが、FDAに受理された。本格的な承認審査プロセスが始まることになる。


エーザイは2011年5月に欧米で承認申請し、欧州では受理されたが、米国はFDAがデータ・フォーマットや解析の修正を求めたため同年12月に改めて申請した。FDAが最初の申請を受理しなかった理由は不明だが、EUと米国ではてんかん治療薬の薬効評価基準が若干異なることが影響しているのかもしれない。フェーズⅢ試験の結果を見ると、EUが重視する奏効率は良い結果だったが、FDAが重視するてんかん発作減少は解析方法(発作頻度集計対象期間)によって区々だった。


部分てんかんは有効な治療薬が数多く存在するが、複数の薬を併用しても発作を十分に防げない患者に追加するアジュバント薬のニーズが満たされていない。ペランパネルは新規作用機序を持つのでこのようなニーズを充足できる可能性がある。


リンク:エーザイの和文プレスリリース


四価インフルエンザ・ワクチンが米国で承認

四種類のインフルエンザ抗原を配合したワクチン、FluMistが米国で承認された。インフルエンザ・ウイルスは種類が多いので、WHOや政府機関が次の冬に流行しそうな株を予測して、A型ウイルスから二種類、B型から一種類を選んでワクチンに入れる。近年はB型の流行予測が難しくなっているようで、来冬の株を決める米国の委員会では意見が分かれたようだ。四価ワクチンはB型を二種類配合できるので、的中率が上がる。インフルエンザ・ワクチンの世界的な大手の一社であるグラクソ・スミスクラインも欧米で承認申請した。


尚、FluMistはメディミューン(アストラゼネカの子会社)が開発した吸入用の生ワクチン。注射嫌いの人には向いているが、生ワクチンなのでウイルスが周りの人に移る可能性がある(肺の近くでは増殖できないので感染しても発症リスクは小さい)。価格が高いことも難点で、欧米で承認されているがそれほど普及していない。


リンク:FDAプレスリリース


リンク:GSKの承認申請プレスリリース



医薬品の安全性


ドンペリドンと深刻な脈拍異常・突然死の関連性

カナダの厚生省であるヘルス・カナダは、テバなどの製薬会社がdomperidone(胃腸薬)の安全性に関するドクターレターを発出したことを発表した。オランダやカナダの疫学的研究で深刻な不整脈や突然死の懸念が浮上したため。ヘルス・カナダは、可能な限り低量で治療を開始すること、服用量が30mg/日以上または60歳以上の服用者はリスクが高い可能性があること、QT延長または顕著な電解質異常のある患者や鬱血性心不全、QT延長リスクのある薬を同時服用している患者に投与する時は注意すべきことを、勧告した。


リンク:Association of domperidone maleate with serious abnormal heart rhythms and sudden death (cardiac arrest)
PubMed:カナダの疫学試験論文


PubMed:オランダの疫学試験論文


今週は以上です。




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