2018年7月8日

2018年7月8日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • エーザイのアルツハイマー病薬がP2bで症状悪化抑制に成功 
  • テセントリク、トリプル・ネガティブ乳癌の一次治療併用試験が成功 
  • キイトルーダ、扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療の適応拡大申請が受理 
  • Clovis、欧州でPARP阻害剤の適応拡大申請受理 
  • Alkermes、治療開始時に使うaripiprazole徐放製剤が承認 


【新薬開発】


エーザイのアルツハイマー病薬がP2bで症状悪化抑制に成功
(2018年7月6日発表)

エーザイとバイオジェンは、BAN2401の後期第二相早期アルツハイマー病試験が成功したと発表した。臨床試験が敗北に次ぐ敗北でも敗走ならぬ転戦を繰り返してきたアミロイド仮説支持陣営には大きな成果だ。尤も、今回の試験は斬新な取り組みがテンコ盛りで成功してもフェールでも、薬の寄与なのかデザインが良かったのか、あいまいなところがある。そもそも、現時点ではデータが公表されておらず、十分な治療効果があったのかどうかすら分からない。学会・論文発表が待たれる。

BAN2401は、神経毒性の真犯人はアミロイドベータ自体ではなくモノマーの凝集過程における中間体、可溶性アミロイドベータ・プロトフィブリルであるという仮説の下に開発された、可溶性アミロイドベータ・プロトフィブリルと凝集体を標的とする抗体だ。これまで数多く実施された抗アミロイドベータ抗体やBACE阻害剤などとは一味違うことになる。07年にエーザイがスウェーデンのバイオアークティック社から開発販売権を取得。14年にバイオジェンと結んだアルツハイマー病領域の共同開発提携の対象である。

今回の201試験(NCT01767311)の特徴は、まず、被験者は、PETやCSF検査でアミロイドベータの蓄積が確認された、MCI(軽度認知障害)と軽度アルツハイマー病の856人。最近の流行に乗っている。過去の失敗経験を踏まえて、アミロイドベータを標的とするなら蓄積のある患者に絞り込むべき、しかし蓄積が進んで症状が重くなってから治療しても効果が限定的なのでもっと早い段階で介入したほうがよい、という考え方である。

介入方法と対照群は、BAN2401を60分点滴静注。用量決定試験で、体重1kg当りで2.5mgを二週毎、5mg四週毎、5mg二週毎、10mg四週毎、10mg二週毎の5用量と偽薬二週毎の6群が設定された。

主評価項目は、ClinicalTrials.govの治験登録によると、12ヶ月経過後のADCOMSの変化と安全性。ADCOMSは前向き試験では初めて主評価項目に採用されたアルツハイマー症状複合スコアで、確立した評価スコアであるADAS-cog、CDR-SB、MMSEの構成要素のうち過去の試験で治療に対する感受性が高かった項目とその組み合わせを選抜したもの。有意差を検出するのに必要な組入れ数を2-3割減らすことができる模様である。

解析は、伝統的な手法ではなく、ベイズ確率が採用された。ADCOMSの悪化が偽薬比25%以上小さい可能性が80%以上であった場合に成功と認定する。もう一つの特徴は、各用量群の組入れ数の決定にAdaptive Designが採用されたこと。頻繁に中間解析を行って成功の可能性が高そうな群の組み入れを増やしていく。これらの斬新な取り組みは、開発期間短縮が狙いである。201試験は12年末に開始されたが、最速で15年にも承認申請の可能性があった。

昨年12月に、残念ながら、主評価項目が達成されなかったことが公表された。元々ハードルが高かった模様だが、今更そんなことを言われても、部外者には、PICOのほぼ全てが前例が少ないため、判断がつかずキツネにつまままれるだけである。

今回成功認定されたのは最高用量である10mg/kg二週毎群の18ヶ月間のADCOMSの変化を伝統的な方法で偽薬と比較した解析。統計的に有意な差があったとのことだ。ベイズ解析とは異なり、12ヶ月時点でも有意差があった。アミロイドベータのPETイメージ読影診断でも有意差があった。この二つの評価項目とも、用量依存性が見られた由。

許容性は良好だった模様で、頻度が高かった有害事象は注射反応とARIA-E(抗アミロイドベータ抗体に関連して発生することがある画像上の異常のうち浮腫を伴うもの)。後者は各群10%以下で、最高用量群のAPOE4陽性例(ARIA-E発生リスクが高い)でも15%未満とのことだが、臨床的な転帰が気になるところだ。病気は早い段階で治療したほうが良い結果につながることが多いが、病気に伴う苦痛や不都合が小さい患者が許容できる副作用は重症の患者より小さい。

さて、治療効果の多寡はデータを見なければ分からないが、エビデンスの少ない評価スコアを用いているので、データを見ても例えばdonepezilと比べてどの程度良いのか、イメージを掴むのが困難かもしれない。

治療効果はあまり高くなかったのではないかと疑う背景は三点。第一に、そもそも早期患者は失ったものが少ない分、回復できるものも限られるのではないか?第二に、ベイズ解析の長所は小さな治療効果を合格と判定しないことである。12ヶ月時点の判定がベイズ解析はフェール、標準的解析は成功と食い違ったのは、ベイズ解析の閾値が高すぎたせいかもしれないが、治療効果が小さかったせいかもしれない。

もう一つ、アルファの配分が違う可能性もあるが、常識的に考えれば、標準的解析の12ヶ月時点の解析にはアルファが配布されていなかっただろうから、この議論は無益であろう。第三に、両社のプレスリリースは統計学的に有意と形容しており、どこを見ても臨床的に意味のある効果があったとは記されていない。

上記のように、ベストケースシナリオではこの試験のデータで承認申請される可能性もあったはずだ。エーザイやバイオジェンの株価が高騰したのと裏腹に、投資銀行アナリストの反応はクールで、承認申請できるほどの良い結果ではなく改めて第三相試験で成否が決まる、と考えているのだろう。個人的には、第三相段階だが類薬が数多くフェールしたBACE阻害剤の一つであるE2609(elenbecestat)よりもBAN2401のほうが希望が残っていると思っているのだが、何れにせよ、静かに見守るのが最善だろう。

リンク: 両社のプレスリリース(和文)
リンク: WangらのADCOMS論文(Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry)

テセントリク、トリプル・ネガティブ乳癌の一次治療併用試験が成功
(2018年7月2日発表)

ロシュは、抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab、和名テセントリク)の第三相IMpassion130試験が成功したことを発表した。転移性・切除不能な局所進行性トリプルネガティブ乳癌の一次治療として、nab-paclitaxelと併用する効果をnab-paclitaxelと偽薬の併用と比べたもの。共同主評価項目である担当医評価によるPFS(無進行生存期間)と全生存期間のうち前者が、PD-L1陽性患者だけの解析でもintent-to-treatでも、成功した。

全生存は中間解析段階である模様だが、PD-L1陽性サブグループの解析で「勇気づけられる」数値が出ている模様。

トリプルネガティブ乳癌は、ホルモン療法が適応になるホルモン受容体陽性でもfなく、her2標的薬が適応になるher2陽性でもない乳癌で、予後があまりよくなく、有効な薬も少ない。抗PD-1/PD-L1抗体が第三相試験でトリプルネガティブ乳癌に有効性を示したのは初めて。ロシュは欧米で適応拡大申請する考え。

抗PD-1抗体が開発後期に進んだ頃は免疫療法だから用途はメラノーマとか腎細胞腫とかに限られるだろうと思っていたが、適応はどんどん広がり、免疫抑制副作用を持つ化学療法との併用まで成功するなど、想像以上の進展を見せている。

リンク: ロシュのプレスリリース


【承認申請】


キイトルーダ、扁平上皮非小細胞性肺癌一次治療の適応拡大申請が受理
(2018年7月2日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を転移性扁平上皮性非小細胞性肺癌の一次治療薬としてcarboplatin及びpaclitaxel(またはnab-paxlitaxel)と併用する適応拡大申請をFDAが受理したと発表した。審査期限は10月30日。PD-L1発現に関しては不問としている。

第三相のKEYNOTE-407試験に基づくもので、全生存期間のハザードレシオは0.64、第三者査読によるPFSハザードレシオは0.56でどちらも統計的に有意だった。治療関連有害事象による死亡は10例(発生率3.6%)で偽薬併用群の6人(2.1%)より多かった。

リンク: MSDのプレスリリース

Clovis、欧州でPARP阻害剤の適応拡大申請受理
(2018年7月5日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)は6月に欧州で行ったPARP阻害剤Rubraca(rucaparib)の適応拡大申請が受理されたと発表した。順調なら年内にCHMPの意見が出る見込み。

RubracaはBRCA有害変異型の末期卵巣癌の三次治療薬として5月にEUで初承認されたところ。今回の適応拡大は、白金薬による二次以降の治療に反応した患者の維持療法で、臨床試験ではBRCA有害変異のない患者にもPFS延長効果が見られ、申請が先行した米国ではBRCA限定なしで適応拡大が認められた。

リンク: Clovisのプレスリリース

【承認】


Alkermes、治療開始時に使うaripiprazole徐放製剤が承認
(2018年7月2日発表)

Alkermes(Nasdaq:ALKS)は、FDAがAristada Initio(aripiprazole lauroxil)を承認したと発表した。非定型向精神薬aripiprazole(大塚製薬が創製)の徐放性剤で、Aristadaの弱点であるオンセットの遅さを補う。

Aristadaは月一回または二か月に一回の投与で足りる持効性筋注用製剤で、血中濃度が十分な水準に到達するまで時間がかかるため、治療開始後21日間に亘り、aripiprazoleの経口剤を毎日服用する必要があった。

Aristada Initioは同社のナノクリスタル技術を用いてパーティクルを小型化、放出を速めた。これを使えば、初日に経口剤、Aristada Initio、Aristadaを投与すれば次からは1ヶ月または2ヶ月毎にAristadaを筋注するだけで足りる。

大塚製薬とルンドベックが共同開発販売しているariprazoleの月一回筋注用製剤、Abilify Maintenaは最初の二週間は経口剤を毎日服用する。この承認から4年、Aristada承認から3年経ち、やっと簡便なレジメンが登場した。

リンク: Alkermesのプレスリリース







今週は以上です。

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