2018年7月29日

2018年7月29日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • BAN2401の早期AD試験の問題点  
  • 武田のALK阻害剤もザーコリを破る 
  • キイトルーダ、頭頚部癌一次治療試験が成功 
  • トラゼンタ、心血管安全性試験が成功 
  • FDA諮問委員会、ヌーカラ好酸球性COPDに承認することに反対 
  • CHMPがhATTR用薬などの承認を支持 
  • 子宮内膜症薬が10年ぶりに承認 


【新薬開発】


BAN2401の早期AD試験の問題点
(2018年7月26日発表)

エーザイは、アルツハイマー病(AD)領域におけるバイオジェンとの共同開発プロジェクトの対象であるBAN2401の後期第二相早期AD試験の結果をAAIC(アルツハイマー病協会国際会議)で発表した。新開発の治療効果測定スコアを使って経時的な変化を調べたところ、最高用量群の悪化は偽薬比30%小さかった。オーソドックスな評価項目であるCDR-SBスコアでも悪化が26%小さかったが、統計的に有意ではなかった。

尤も、本試験の主評価項目はフェールしたのでこれらの二次的評価項目は仮説生成的とみなすべきであり、厳密にいえば統計学的に有意とは言えない。それでも、BIIB037(aducanumab)がP1bでCDR-Sスコアの悪化を用量依存的に抑制したり、BACE阻害剤E2609(elenbecestat)の最高用量が第二相MCI(軽度認知障害)/軽中等度AD試験で同じく31%抑制したりするなど、アミロイドベータの生成・蓄積を抑制すれば発症・進行を抑制できると考えるアミロイド仮説支持者にとって良いニュースが続いた。

真否は第三相試験の結果待ちだが、その前に、足元のデータを吟味してエビデンスの強固さを確認しておこう。上記のように、所詮第二相なので症例数が少なく、主評価項目はフェールしているので今回の成果も慎重に受け止めるべきであるが、何しろ、この試験は斬新な取り組みがテンコ盛りなので、突っ込みどころ満載だ。

この試験は無作為化二重盲検試験。対象は、画像診断や脳脊髄液検査でアミロイドの蓄積が確認された、アルツハイマー病性軽度認知障害または軽度ADの856人。割付は偽薬群と、試験薬は体重1kg当りで2.5mg二週毎投与、5mg月一回、5mg二週毎、10mg月一回、10mg二週毎の5用量に割付。

割付数はベイズ推定に基づくアダプティブデザインを採用、頻繁に中間解析を行って成功の確率の高そうな用量群の組入れを増やしていった。結果、各群の割付数は247人、52人、51人、92人、253人、161人となった。少なくとも途中経過時点では10mg月一回投与が最も有望と判定されたことになる。

主評価項目は、ADCOMSという新しい指標を採用。早期ADはまだ症状が軽いため既存の病状判定スコアは鋭敏性に欠け有意差が出にくい。そこで、過去の治験データなどを分析してCDR-SB、ADAS-cog、MMSEを構成する評価項目の中から鋭敏性に優れるものを選び出し、再構成したのがADCOMSだ。鋭敏性が高い分、治験の必要症例数を抑制し、期間や費用を節約できるメリットがある。

解析はベイズ確率を用いて、1年間のADCOMSの悪化を25%以上抑制しできる確率が80%以上であった場合、成功とみなす。

結果は、64%となりフェールした。しかし、二次的評価項目である18ヶ月時点のアミロイドベータ量やADCOMS、ADAS-cogの伝統的手法による解析では、最高用量群(10mg/kg二週毎)の偽薬比p値が0.05を下回った。CDR-SBは悪化が26%小さかったがp値は0.05を下回らなかった。ADCOMSの12ヶ月時点の解析でもベイズ推定とは異なりpが0.05を下回った。

良い結果に見えるが、問題は、最高用量群の患者背景が他の群と異なることだ。治験開始後に、ある国の規制機関(FDAではない)の要請を受けて、ApoE4陽性患者のこの群への新規割付や治療6ヶ月未満の患者への投与を打ち切ったことが原因だ。

BAN2401のような抗アミロイドベータ抗体は脳内免疫を刺激するので浮腫や出血の懸念があり、最初に第三相に進んだbapineuzumaは血管原性浮腫が原因で治験中止となった。爾後、ARIA-Eと通称されるMRI画像異常を伴う浮腫を監視するのが通例となっている。BAN2401は過去の抗体と比べて発生率が低く、リスクの高いApoE4型でも、偽薬群の発生率1.2%に対して最高用量群は14.6%に留まった。

その殆どは無症候性だったが、16例中3例は深刻有害事象とみなされた。10mg/kg月一回投与群でも深刻有害事象が1例あった。規制局が介入したのはこれが原因と推測される。早期ADは症状がそれほど重くなく、また、AChE阻害剤と異なり、抗アミロイドベータ薬は症状改善効果はなく悪化のスピードを緩和するだけと考えられている。それだけに、高い安全性が求められるのだ。

さて、このような経緯で、上記の最高用量群の安全性解析の対象となったApoE陽性患者は48人、陰性患者も含めた合計の30%に過ぎなかった。ApoE4は老人性アルツハイマー病の数少ない遺伝子的リスク因子であり、本試験全体、そして偽薬群では7割以上を占めた。ApoE陽性は疾病の進行が陰性より早いという意見があり、もし本当なら、最高用量群と偽薬群を比較するのは妥当でない。

もし本当でなくApoE4陽性も陰性も症状進行スピードは同じだとしても、ApoE4陽性患者の6%に深刻なARIA-Eをもたらす用量が本当に至適なのか、よく考えなければならない。

抗アミロイドベータ抗体の前例では、第三相でApoE4陽性には用量を減らすことが少なくない。BAN2401でも考えうるが、10mg/kg月一回投与の臨床的な効果は明らかに見劣りするのが難点だ。

エーザイはこの試験が成功なら前倒し承認を申請することを考えていた。今でも諦めていない様子だが、主評価項目がフェールしたことや、ADCOMSが薬効評価項目として確立していないこと、血管原性浮腫のリスクなどを考えると、少なくとも一本は第三相を行うよう求められるのではないか。

リンク: エーザイのプレスリリース

武田のALK阻害剤もザーコリを破る
(2018年7月26日発表)

武田薬品は、Alunbrig(brigatinib)のALK遺伝子転座陽性非小細胞性肺癌の一次治療試験が成功し、第三者が査読したPFS(無進行生存期間)がXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)を有意に上回ったことを公表した。データは学会で発表する予定。

17年に54億ドルで買収したAriad PharmaceuticalsのALK阻害剤で、同年4月に米国でXalkori不応不耐のALK遺伝子転座陽性非小細胞性肺癌に承認された。

直接比較試験でALK阻害剤第一号のXalkoriに勝ったALK阻害剤は複数あり、また、PD-1/PD-L1阻害剤も有望なので、Alunbrigのライバルは多い。

リンク: 武田のプレスリリース

キイトルーダ、頭頚部癌一次治療試験が成功
(2018年7月25日発表)

MSDは、Keytruda(pembrolizuma、和名キイトルーダ)の第三相扁平上皮頭頚部癌試験の中間解析で、単剤投与群の全生存期間が標準療法群を有意に上回ったと発表した。Combined Positive Scoreが20以上のPD-L1陽性例を組入れた一次治療試験で、標準療法群はcetuximab、carboplatinまたはcisplatin、そして5-FUを三剤併用した。

承認審査機関に報告する予定。米国で16年に再発転移扁平上皮頭頚部癌に加速承認された時のフェーズIVコミットメントとして、一本以上の試験で延命効果を確認することが求められている。白金薬歴を持つ患者をPD-L1不問で組入れた試験はフェールしたので、今回、成功したことは重要。

今回の試験はPFSが共同主評価項目になっており、また、Keytrudaをcarboplatin/cisplatin、そして5-FUと併用する群も設定されている。MSDはデータ監視委員会の勧告に則り、治験を続行する。

リンク: MSDのプレスリリース

トラゼンタ、心血管安全性試験が成功
(2018年7月19日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、Trajenta(linagliptin、和名トラゼンタ)のCARMELINA試験が成功したと発表した。心血管リスクを持つ二型糖尿病6979人を組入れた心血管アウトカム試験で、Trajentaを追加した群のMACE(主要有害心血管事象:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)は、偽薬追加群と比べて非劣性だった。

経口二型糖尿病の中にはMACE抑制作用を示したものもあるので、MACEだけ見るとTrajentaを始めとするDPP4阻害剤は見劣りするが、全体像で言えば各剤一長一短というべきだろう。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、ヌーカラを好酸球性COPDに承認することに反対
(2018年7月25日発表)

FDAは肺アレルギー薬諮問委員会を招集し、グラクソ・スミスクラインの抗IL-5ヒト化抗体、Nucala(mepolizumab、和名ヌーカラ)を好酸球性COPDの治療に用いる適応拡大申請について意見を聞いた。安全性に関しては19人の委員のうち17人が支持したが、薬効は16対3で反対が上回り、同じく16対3で承認反対が上回った。

GSKは増悪予防試験を二本実施し、一本は成功したがもう一本はフェールした。このため、承認の可能性は低いと考えていたが、意外だったのは、FDAが対象疾患の定義・診断方法に異論を唱えたことだ。元々、確立した疾患ではない模様であり、また、第三相試験に、承認用途である好酸球性喘息症の患者が含まれていた可能性がある模様。

協和発酵キリンがポテリジェント技術を用いて創製してアストラゼネカに導出した抗IL-5受容体アルファ鎖抗体、Fasenra(benralizumab)は好酸球数不問でCOPD試験を二本実施したがフェールした。喘息症とCOPDの境界が曖昧になり治療薬もクロスオーバーしてきた中、IL-5/受容体標的薬に関しては、違いを見せている。

リンク: GSKのプレスリリース

CHMPがhATTR用薬などの承認を支持
(2018年7月27日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、7月の会合で、AlnylamのhATTR用薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。一方で、Opdivoの適応拡大申請はYervoy併用腎細胞腫一次治療が否定的意見、胃癌は申請撤回となった。

リンク: EMAのプレスリリース

新薬の主なものは、まず、Alnylam Pharmaceuticals(Nasdaq:ALNY)のOnpattro(patisiran)はhATTR(遺伝性TTR調停アミロイドーシス)の治療に用いるsiRNA(small interfering RNA)。トランスサイレチン遺伝子変異が原因で臓器に沈着し心臓病や肝臓腎臓障害、多発神経症を合併する病気で、Onpattroはトランスサイレチンの産生を妨げる。

5月のCHMPでIonis Pharmaceuticals(Nasdaq:IONS)のTegsedi(inotersen)が肯定的意見を得ているが、効果や忍容性はOnpattroが上回りそうだ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Alnylamのプレスリリース

アストラゼネカのImfinzi(durvalumab)は抗PD-L1抗体。切除不能局所進行非小細胞性肺癌の根治的化学放射線療法後の維持療法に用いる。意外なことに、CHMP自身による事後的分析に基づき、PD-L1陽性癌に適応が限定された。

日本で6月に承認。米国では17年に局所進行性転移性尿路上皮細胞腫の二次治療で初承認、今回の用途は今年3月に承認。何れもPD-L1発現は不問。

PD-1/PD-L1阻害剤は様々な癌に有効なので、Imfinziも適応拡大が続くだろう。他の製品も含めてエビデンスが積み重なるにつれて応答性予測因子の探求も進展するだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

Tetraphase Pharmaceuticals(Nasdaq:TTPH)のXerava(eravacycline)は全合成フルオロサイクリン抗生剤。複雑腹腔内感染症の治療に用いる。米国でも承認審査中で審査期限は8月28日。

リンク: Tetraphase社のプレスリリース

イーライリリーのVerzenios(abemaciclib、米国名はVerzenio)はCDK4/6阻害剤。経口剤で、ホルモン受容体陽性her2陰性転移性乳癌に用いる。先行二社の製品と比べて好中球減少症のリスクが小さい。

次に、否定的意見を受けたが再審に進んだコンパウンドのうち、二品が再び否定的意見となった。一つはPortola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)の経口Xa阻害剤、Dexxience(betrixaban)。心不全や感染症など急性疾患で入院中の、静脈血栓塞栓リスクが高い患者に用いることが承認申請されたが、出血リスクが高まること、適応となる患者は概して脆弱で出血リスクが高いことがボトルネックになった。

リンク: Portola社のプレスリリース

Radius Health(Nasdaq:RDUS)のabaloparatideは骨粗鬆症治療薬として承認申請されたが、心毒性や治験実施施設のうち二ヶ所でcGCP違反があったことから、今年3月に否定的意見を受けた。抗議の結果、再審が実施されたが、今回も否定的意見。

リンク: Radius社のプレスリリース

適応拡大ではGenmabが創製しジョンソンエンドジョンソンにライセンスしたDarzalex(daratumumab、和名ダラザレックス)を自家造血幹細胞移植不適の多発骨髄腫の初度治療としてVelcade(bortezomib)、melphalan、及びprednisoneと四剤併用することが肯定的意見を受けた。現在は二次治療以降に限定されている。

また、ノバルティスのTafinlar(dabrafenib)とMekinist(trametinib)を併用でステージIIIのBRAF V600変異黒色腫の完全切除後アジュバント療法に用いることも肯定的意見。臨床試験では再発死亡リスクが53%低下した。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

一方、否定的意見を受けたのが、まず、BMSのOpdivo(nivolumab)とYervoy(ipilimumab)を併用で中重度リスク腎細胞腫の一次治療に用いる適応拡大。CheckMate-214試験で全死亡のハザードレシオが実薬(sunitinib)比0.63と高い効果を示し、米国では今年4月に承認され、売上も好調だが、CHMPはYervoyの上乗せ効果の検討が不十分と判定、副作用リスクの増加を正当化できないと考えた。

次に、アムジェンのBlincyto(blinatumomab)をB細胞急性リンパ性白血病の治療後に残ったminimal residual disease(MRD)の治療に用いる適応拡大。臨床試験では、1回目または2回目の寛解に成功したがMRDが残る患者の81%がMRD消失した。こちらも米国では3月に承認されたがCHMPは否定的意見。延命効果が確立していないことが理由。

また、適応拡大申請の撤回が二件、公表された。一つはOpdivoの胃癌適応。小野薬品が主導して日韓台の医療施設で実施した第三相試験でメジアン生存期間が5.32ヶ月と対照群の4.14ヶ月を上回ったが、欧州でのエビデンスが不十分と判定された。日本の胃癌は早期に発見されることが多いせいか、欧米と比べると予後が比較的良い。過去のグローバル試験では、日韓の施設の対照群のデータが良すぎたためにフェールした例もある。

また、ファイザーのSutent(sunitinib)の腎細胞腫摘出術後アジュバントも申請撤回となった。米国では昨年承認されたが、CHMPは2月に否定的意見だった。


【承認】


子宮内膜症薬が10年ぶりに承認
(2018年7月24日発表)

アッヴィは、FDAがOrilissa(elagolix)を子宮内膜症の疼痛緩和薬として承認したと発表した。この用途の新薬は10年以上なかったとのこと。

ゴナドトロピン放出ホルモンアンタゴニストで、経口剤。用量用法は150mg一日一回投与の場合は最長24ヶ月間まで、200mg一日二回は6ヶ月までの治療期間制限がある。非可逆的なこともある骨塩密度低下が見られるため。中度肝機能障害は150mg一日一回を最長6ヶ月間。

子宮筋腫治療試験も成功しており、適応拡大申請に向かうことになりそうだ。

リンク: アッヴィのプレスリリース






今週は以上です。

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